○佐野憲治君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま御説明になりました
自治庁設置法の一部を改正する
法律案に対し、若干の質疑を行なわんとするものであります。(
拍手)
本法案は、現在の自治庁に
国家消防本部を加え、自治省に昇格せしめんとするもので、形式的にこれを見ますれば、きわめて単純な行政機構の一変革にすぎないのであります。しかしながら、
国民の多くは、この法案が意図する
目的は一体どこにあるのかと、深い疑惑を抱いているのであります。(
拍手)真のねらいは、
政府が当面している貿易の自由化、再軍備増強など、重大政策の実現にあたって、これに応ずる行政機能を合理化するため、
政府が地方行財政の運営に対する干渉及び支配を強化し、さらに行政的統制と監督の範囲を拡大せんとするのが、本法案のねらいであり、まさしく自治権を抑圧せんとする法案であるという点に対して不安を抱いておるのであります。(
拍手)私は、これら
国民の不安と疑惑を解明するために、この点に重点を置いて質疑を進めんとするものであります。
まず第一に
お尋ねいたしたい点は、
政府の行政機構改革の具体的な方針と内容についてであります。
行政機構の整備あるいはその簡素化は、かつて鳩山
内閣の三大公約の一つであったわけであります。自来、歴代の
内閣は、常に選挙の機会のあるごとに、行政機構の改革、その決意を
国民に訴えて参っておるのでありますが、現在に至るまで、一度も行政機構改革に対するところの全貌をお示しになっていないのであります。ですから、
岸総理もしばしば
国民に訴えておられますけれども、実際に行政機構を改革する決意を持っておられるのかどうか。単なる選挙のためのキャッチ・フレーズとして、中身は全くからっぽなんだ、と、こういう流言すらも
国民の間に行なわれておる状態なのでありまして、
総理及び行政管理庁
長官は、この機会に、岸
内閣が一体どういう行政機構の改革に対するところの審議を経てきておるか、あるいはまた、その全貌に対して、本議場を通じて明らかにしていただきたいのであります。(
拍手)
政府が今まで行政機構の内容を明らかにされていないのに、今回、突如として、自治庁本来の
目的と性格を変えるおそれのある、しかも、憲法に保障されている地方自治の本旨をゆがめる重大な改正を行なわんといたしておるのはなぜであるか。また、
政府は、全般的な行政機構改革の構想と切り離して、この法案のみを突如として提案いたした、その理由を説明していただきたいのであります。(
拍手)
第二の
質問は、
昭和三十一年四月二十三日、第二十四
国会におきまして、
政府から内政省
設置法案が提案されておるのであります。これに対する関連性について
お尋ねしたいわけでありますが、内政省
設置法案は、自治庁と建設省の全部局を包括するところの法案であったのであります。しかも、その上に警察行政を加えまして、戦前の内務省を復活せんとする意図のあったことは、明らかな事実であります。それゆえにこそ、世論はあげてこの法案に反対を唱え、衆議院もまた、
政府や一部与党幹部の強引な横車を退けまして、二十六、二十七
国会におきましてはそれぞれ継続審議と相なり、ついに二十八
国会におきまして廃案に帰したのであります。しかるに、今回、
自治庁設置法の一部を改正する
法律案として、名称を変えてここに提案になったのでありますが、さきの
国会における世論の動向や野党の勧告をくみとったごとき装いをこらして、慎重な配慮を加え、現在の自治庁を自治省に昇格させ、消防庁を外局として置くことにいたしておりますが、
政府の意図する方向は、内政省
設置の場合と同じものであるのかどうか。
総理及び行政管理庁
長官から、この両法案のそれぞれの
目的並びに
相違点につきまして、率直に述べていただきたいのであります。
第三の
質問は、私は、自治省への昇格より、むしろ、窮迫している地方行財政問題の解決こそ
政府の責任であると思うのであります。(
拍手)地方行財政の現況と問題点について、二、三
お尋ねしたいと思うのであります。
その一つは、地方財政計画についてであります。
政府は、一カ年間における地方公共団体の収入及び支出の見込表を作成いたしまして、地方財政の計画的な運営を確保する手段とし、さらに地方財政については、国が最終的責任を負っていることを明らかにするために、
国会にこれを提案し、一般
国民にもこれを公表いたしておるのであります。しかしながら、ここ数年間におきまして、常に、この地方財政計画とその決算の間に大きな狂いを来たしておるのであります。たとえば、三十二年度では、歳入において二千四十六億円、歳出におきましては一千七百八十五億円の狂いが出ておるのであります。
昭和三十三年度でも、歳入におきまして一千九百五十六億円、歳出におきましては二千二百億円と、計画を大きく上回っているわけであります。もちろん、地方財政計画と決算とが
相違することは、地方財政計画の性格から見ますならば、あるいはやむを得ない面もあるでありましょうけれども、一カ年間における計画と決算が二千億円も違っておる、こういう
原因につきましては、私は、真剣に
考えなければならない問題点を含んでおると思うのであります。自治庁
長官は、この狂いは何によってできて参っておるか、この点につきまして、その見解を述べていただきたいのであります。地方計画がこのような狂いを来たしているといたしますならば、この計画を
国会に
提出する、一般
国民にこれを公表する、地方自治団体が財政の計画的運営を確保するには、何らの役に立たない表となってしまうわけであります。私は、このような
原因につきまして、いろいろな問題はあるでありましょうけれども、真に大きな問題として
考えさせられますことは、朝鮮動乱の勃発、これに伴うアメリカの対日政策の転換並びに
日本政府の国内施策の変転によって、地方行財政政策もまた、これまでひたむきに進んで参りましたところの行政の民主化、地方自治の伸張から、反民主化へ、中央集権化への方向に大きく転換し始めたことが、地方財政の上におきまして、数字をもって明らかに現われて参ったものだと
考えるのでありますが、どのように
長官はお
考えになっておられますか。(
拍手)
その二点は、行政の責任制についてであります。
政府は、地方財政を再建し、地方自治の健全なる発展をはかり、かつ、内政全般の総合的、能率的な運営を期することを、自治庁昇格の理由の一つに、ただいま石原
長官はあげておられるのでありますが、従来から進められておる行政の中央集権化と、地方団体に対する監督権を強化することをねらっているこの法案を、私どもは断じて許すことができ得ないのであります。
今日、地方自治体は、国税・地方税を通ずる総額二兆一千二百七十八億円に達しておるわけでありますが、石原
長官も述べられましたように、この二兆一千億円のうち、六二%が、実は、地方公共団体がこの仕事を実施いたしておるわけであります。いかに中央各省がその仕事を地方団体に押しつけているかということを、この数字は証明いたしておるわけでございます。たとえば、明年度の予算書の中で、中央各省の補助金の種類を調べてみますと、八百八十一の項目に分かれておるわけであります。総額は四千一百億円にも及んでおります。しかしながら、これは項、目だけであります。節に入りまして、細目を見て参りますならば、驚くなかれ、一千四百三十二の種類に分かれておるわけであります。この中には、わずか一府県に五万円以下、一万五千円の補助金を与えて、国の仕事を押しつけておる、こういうのも
政府の資料の中にはっきりと出て参っておるわけであります。しかも、補助金の整理、補助金の効率化を述べておられますけれども、前年度と比較いたしますならば、四十八の種類が逆にふえて参っております。その金額は六百億円にもなっておるのであります。
今日における地方行政の運営の中に、戦争前よりもなおさら強い中央集権化が現われて参っておりますことは、私が今ここで例をあげて説明するまでもなく、現在の東京都におきまして、全国の道府県の事務所が設けられております。幾多の職員がここに常駐しておることを通じて見て参りましても、このことを雄弁に物語っておるものと
考えるのであります。
一面、地方財政計画による歳出の面を見て参りましても、一兆五千三百八十一億円と明年度は見込んでおるわけでありますが、そのうち、
法律上、事実上、どうしても県や市町村役場が使わねばならない経費は、給与費の六千億円、国庫補助の伴う一般行政費一千四百十一億円、直轄地方負担金及び国庫補助の伴うもの三千三百六十二億円、公債費が八百四十一億円、これらを合わせますと一兆一千七百十五億円に相なるわけであります。ですから、これらを引いてしまいますと、残りはわずか二四%にしか達していないのが現状であります。このうち、物件費と消耗品費に一千百四十五億円、これを差し引きますと、わずか八%であります。さらにその上に、町の道路、県の道路であっても、現在国が道路五カ年計画をもって実施しているもの、あるいはまた、文教施設費等の国の施策に基づくものを除きますと、県や町村が行なう公共事業はわずか五%であります。おそらく、閣僚各位のお生まれになった故郷における町役場や村役場は、膨大な予算は持っておりますけれども、わずか五%の経費をもって、子供
たちのことや環境衛生のこと等をやろうとしてでき得ない苦衷を、どのようにお
考えになるでありましょうか。(
拍手)全く地方公共団体の行政権能を無視し、一方的に仕事を押しつけ、これが執行を監督するという工合に、まるで県や市町村を準禁治産者
扱いにして、その機関を下請機関たらしめている、かように申し上げましても過言でなかろうかと
考えるのであります。(
拍手)私がおそれますことは、自治庁が自治省に昇格することによって、さらにこの傾向が強化されると思うが、この点に関しまして、一般の
国民も地方公共団体の諸君も、この法案に対して疑惑と不安と危惧を持っているのであります。ですから、
総理大臣並びに自治庁
長官は、この点に対する明確なる見解を述べていただきたい、かように
考えるのであります。私は、国、地方を通ずるところの事務を再配分する、国は国、県は県、市町村は市町村の受け持つ仕事を明確にするということ、このことこそが、今最も必要な問題だと
考えるのであります。そうすることによって、地方財政の運営に対しまして、地方自治体がみずからの責任を持つようになる、こういうことが目下の急務であると
考えるのでありますが、どうでありましょうか。
その三点といたしまして、税財源についても私述べてみたいと
考えるのであります。
さきに申し上げましたように、あるいはまた石原
長官が述べられましたように、国、地方を通ずる税金は二兆一千億円に達しておるわけであります。しかしながら、この税財源を見て参りますと、国は一兆五千四十八億円で、実に七割一分、七一%を占めているわけであります。ところが、県、市町村はわずか六千二百三十億円、二九%にすぎないわけであります。このために、地方団体は、七百億円に及ぶところの、税金外による、PTAの寄付金、その他の寄付金や負担金に依存いたしておりますし、このほかにも、超過課税、あるいはまた零細なる独立税を設けまして、その上に、現在、地方団体は、もはや、一般会計だけでも六千億円をこえるところの起債を発行いたしておるわけであります。これらによってようやくやりくりをしているというのが、地方自治体の偽らざる現状だと
考えるのであります。(
拍手)
しかも、ここに私は
指摘しておかねばならないと思いますことは、
わが国の地方税は、従来から特に応益
原則が強調されて参っております。地方税負担分任の精神がよく説かれて参っております。この応益
原則からすれば、地方が税金を取るというのは、地租だとか、家屋税、あるいは住民税の人頭割り、これらが適当なものとされておりますし、また、税の負担につきましても、国税におきましては担税能力が問題になって参っております。現在、所得税におきましては三十三万円、事業所得におきましては二十七万円をもって免税点といたしておるわけでありますが、しかしながら、地方の場合におきましては、そういう税金の取り方ではなくて、地方公共団体からサービスを受けておる、これに応じて取るのがよいということが、
日本政府の伝統となって参っておるのであります。この結果、封建制下におけるような古い型の課税が、いつまでも地方税に適した租税とされて、さらに、税負担の逆進性——累進ではなくて逆進性、大衆課税の性格を帯びてくるのは当然視されているのが、今日の大蔵省の
考え方であろうと思うのであります。これは、逆に言えば、地方税における人頭税的な性格、あるいは大衆課税的性格は、国が国税を優先的にこれを取り上げる、その結果としてこれを合理化するために、特に地方税の場合におきましては応益
原則、あるいはまた、分任の精神が説かれているところに、私
たちは問題があると
考えるのでありますが、私は、窮迫した地方財政の問題を解決しようとするならば、何よりも最初に、国と地方の税財源の配分を真剣に
考えなければならないと思うのであります。
総理のこれに対する所見を承りたいのであります。
総理は、昨年から設けられた税制審議会、ここにおいて十分審議を現在願っておる、その答申を待って検討したいと、たしか
お答えになるだろうと思うのであります。しかし、もしそうであるとするならばなおさらのこと、地方自治の健全な発展のために、その答申を待って自治庁の機構やその役割について十分に検討されるのが本筋だと
考えるのでありますが、いかがですか、お伺いいたすわけであります。
第四点といたしましては、後進地域、未開発地域についてであります。
日本の資本主義の戦後における特異なる発展と、
政府の大資本育成政策の結果として、各地域における所得の格差、あるいは職業別所得の格差、各階層別における所得の格差は、毎年、年を追って拡大いたしておるのであります。このことは、私がここに統計や数字を引き合いに出すまでもなく、
政府自身の手によって作られました資料によっても明らかな事実であります。真に、
日本における民主主義の成長と、地方住民の繁栄と幸福を守る愛情と熱意があるといたしますならば、これまでのような、資本家のために奉仕し、その
犠牲を
国民大衆の生活に当てるという今までの政策を大胆に転換して、後進地域の開発と、その住民の生活水準の向上、並びに、特に後進地域における地方自治体の破産状態を解決するための抜本的対策を立てるべきだと思うが、
総理及び
関係閣僚の決意と、その対策をただしたいのであります。(
拍手)
最後に、私は、以上述べましたように、国と地方団体、公共団体相互の連絡調整をはかり、地方自治の伸展をはかる道は、本案が意図するがごとき、自治庁の権限を拡大し、
政府の監督権を拡大し、
政府の監督権を強化するという、戦争前の中央集権的官治方式に戻るべきでないことを強く訴えたいのであります。
わが
日本社会党は、自治庁を、本来地方自治体の行政事業に円滑なる援助と協力をし、自治体の要望を
政府に取り次ぐ窓口であると
考えておるのであります。この見地から、自治体の自主性を尊重し、その行政行動を保障するために、中央に地方審議会を設け、現在の自治庁をその事務局にすべきであると主張いたしておるのであります。私は、
日本の民主化と地方分権を確立するために、この主張は最も正しい道であると確信いたすのであります。
岸総理は、
日本社会党の主張を取り入れ、本法案を撤回する意思がないかどうかを
お尋ねするとともに、さらに、私は、二十二年地方自治法が施行されました年に県議会に席を置いたものといたしまして、自来今日まで地方自治の伸張を願い、その成長に深い愛情を持って見守って参ったのであります。今日における教育と警察行政における混乱を見まして、深い悲しみと憤りを覚えるのであります。現在の教育と警察行政の正常化をはかるために、この二大行政を地方自治体に再び戻す
考えがあるかどうかにつきましても、
総理の見解を
お尋ねいたしまして、私の
質問を終わる次第でございます。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇〕