○中村時雄君 私は、民主
社会党を代表いたしまして、ただいま
説明されました
農地被
買収者問題調査会設置法案につき、
岸総理、福田農相等に対し若干の
質疑を試みたいと思うのであります。(
拍手)
〔
議長退席、副
議長着席〕
御承知のごとく
政府は、去年の一月九日に、いわゆる
農地解放者の救済
方法として、調査審議せしめるための調査会を総理府に設置することを閣議決定し、
関係法案を提出すると同時に、その経費一千万円を三十四年度予算に計上したのでありますが、これは、全国
農地解放者同盟と称する旧地主の中の一部不半分子が集まった圧力団体の威嚇と、これに迎合する自民党
農地問題調査会の要求に、
岸総理以下、蔵相、農相等が屈服した結果であることを天下に余すところなく示したものであろうと思うのであります。(
拍手)
本案に対しましては、世論はあげて反対を唱えたにもかかわらず、
政府・与党は強引に衆議院を通過させ、彼らに対し遺憾なく媚態を呈したのでありますが、幸いにも、参議院は完全にその良識を発揮され、本案はついに廃案に帰したことは、御承知の
通りであります。(
拍手)しかるところ、
政府・与党は、先
国会における野党の勧告にもかかわらず、また、性こりもなく、
安保条約や三十五年度予算案等の重要
案件の審議を控えた今
国会のどさくさにまぎれ、全く同一
内容の法律案と予算を再提出せられるに至ったのであります。その妄執たるや、まさにおそるべきでありますが、一体その原因は那辺に存するのでありましょうか、総理以下
関係閣僚の良識を私は疑わざるを得ないのであります。(
拍手)
元文部大臣、自民党参議院議員下條康麿氏を会長とする全国解放
農地国家補償連合会なるものが、
昭和二十九年の終わりごろに、旧地主団体を糾合して作られましたが、これは、参議院選挙と金銭をめぐって内紛を起こし、三十一年に分裂し、翌三十三年の暮れには、自民党のあっせんで、全国
農地解放者同盟なるものが再び作られたのであります。その間、香川、石川県等の地主中の一部の急進的不平分子が集団的に小作地取り上げを行ない、一時は流血の惨事を招いて、農村社会の秩序を紊乱したことは、今なお議員諸氏の記憶に残っていることと思います。その際は、幸いにも、衆議院の農林委員会の委員派遣、あるいは農林省、県農業委員会等の適切な処置や世論の批判によりまして、これらの策謀は全く完敗に帰したのであります。しかるに、その後、これらの地主団体は、戦術を転換し、地方的な土地闘争を改め、旧地主層を大きなバックにしている自民党の得票をえさに、
政府、
国会に対する圧力団体として、もっぱら中央の
政治工作に全力を集中してきたのであります。かくして、彼らの運動はその功を奏し、その法案と一千万円の予算案を提出することになったのでありますが、この間、これらの団体は、善良な農民をだまし、
国家補償ができる、旧地主制度が復活される、小作地取り上げも可能だ等の虚偽の宣伝にこれ努め、資金をかき集めてばらまいたり、みずから着服したりしたのであります。
岸総理は、地主運動のこのような醜悪な裏面を承知されておるかどうかは別として、この法案提出の代表者として、かくのごとき指弾すべき運動に加担したという非難を免れることはできないと思うのであります。(
拍手)総理は、本問題について、しばしば、旧地主制を復活したり、
農地補償を行なうものではない、旧地主の中には
生活に困っている者もあって、こういう人たちに対しては社会
保障の形で考えるべきである、と答弁されておられるのでありますが、一部の与党議員がその有力なメンバーである限り、有力なこのスポンサーたる旧地主のあの手この手の
補償要求を、むげに、はたして退けることができるかどうかを、お尋ねしたい。
また、本案の
内容それ自体は調査会を設置するだけのものでありますが、世間では、これを機会に、
政府が都合のよい理屈をでっち上げ、次第に既成事実を積み上げて、
最後には、買収
農地の
国家補償を実現するのではないかという疑念を持っておるのであります。自民党の再軍備論とその軌を一にするものがありますが、総理は、
国民のこのような疑惑に対し、断固として、心配無用と言明ができますかどうか、まず、所信のほどを伺っておきたいのであります。(
拍手)
次に、終戦後のインフレ政策によって、弱い
立場の一般
国民は徹底的な損害を受けましたが、
農地改革もまた、革命に比すべき急速な制度の変革をもたらしましたために、多くの摩擦を生じましたことは事実であります。しかしながら、本問題に関しましては、自民党の調査によって見ましても、旧地主七千三百四十六人のうち、
生活保護法適用者はわずかに千人中一人、母子
福祉年金の適用者すら〇・二%にすぎないと発表しておるのであります。しかも、その原因は、
農地改革によるものであるかどうか判然としないといっているのであります。また、農林省が取りまとめましたところの
昭和三十年の臨時農業基本調査による旧地主の実態は、耕地面積は広く、農産物販売者や専業農家が多く、また、兼業農家でも、村長、助役、教師等、社会的、
経済的に上位にあることが証明されております。さらに、解放規模の大きい農家は、山林経営面積が著しく多く、従って、一般農家と比較してはるかに優位に立っているのみならず、今日、なお山林地主として多くの自作農民を隷属せしめ、農村における封建的な残存勢力を形成しているとともに、階級分化を大きくしている最も大きな原因を作っているのであります。(
拍手)しかのみならず、
昭和二十八年には、最高裁判所は、
農地改革の合憲性について明確な判決を下し、これら地主側の悪あがきに対しまして
最後のとどめを刺したはずであります。
岸総理は、旧地主の
内容が明確に出ているこの自民党の調査、農林省の調査の実態の上に立って
国家補償が必要かどうか、また、この裁判所の判決をいかに見るか、御
見解を承っておきたい。(
拍手)
以上によっても、旧地主に対して特別の扱いをする必要は少しもないのでありまして、全
国民を対象とする社会
保障制度をますます充実し、その一環として
措置することこそが、万人を納得せしめる方策であると思うのであります。旧地主の中の
生活困窮者を社会
保障の形で救済するという総理の累次の言明がほんとうでありますなれば、現在、
政府の諮問機関として、厚生省管轄に社会
保障制度審議会という機関があるのでありますから、これに諮問をして旧地主の実態を調査することが何ゆえできないのでありましょうか。(
拍手)旧地主のゆえをもって、特別の調査会を設けて、特別に調査をする理由は、一体どこにあるのでありましょうか。また、具体的にはどのような委員を人選し、いかなる
事項について調査を
実施されるのでありましょうか。また、調査会に数百万円の委託調査費が計上されておりますが、いかなる団体、または、いかなる機関に交付されるつもりでありましょうか。また、
生活困窮者の援護
対策を調査する機関の設置にかかる本案を、厚生省所管の法律案とせず、総理府所管の法律案とした理由、この
措置は
国家行政組織法違反と思うのでありますが、これらの諸点について、
岸総理並びに内閣官房長官、厚生大臣、農林大臣より明確なる御答弁を願いたいのであります。(
拍手)
もし、万一、いかなる名目であるかを問わず、
国家補償のごときものが実現するなれば、すでに済んだはずの
補償をまたまた
国民の負担によって追加払いし、貴重な血税をどぶに捨てることになるのは論を待たないのであります。反当たり一万円としても二百億円、地主団体の要求のごとく反当たり十万円とすれば、実に二千億円の巨額に上り、農林省予算の二年分に該当するのであります。
わが国のかつての地主制度が、農村の封建的身分制と高率小作料の悪弊の上に立ち、農業生産力
発展と農村の民主化を徹底的に妨げてきた事実に顧みて、これは滅ぶべくして滅んだものであるといわざるを得ないのであります。(
拍手)新しい農村、前進する農政のためには、農村における反動的勢力を擁護する態度は一擲され、
岸総理の言われる社会
保障を行なうという建前から、筋を通して、調査会を社会
保障制度審議会に設置するか、永久に撤回されることこそ、最も私は賢明なる策だと思うのであります。君子は豹変すると申しますが、あやまちを改めるにはばかることなかれ、総理は、本案を社会
保障制度審議会の中に置くか、あるいは、すみやかに撤回される御意思なきやいなやをお伺いしておきたいと思うのであります。
政府・与党は、過般、ベトナム賠償
条約承認にあたって、
国民の疑惑を十分に晴らそうとはせず、採決を強行いたしましたが、本案に対し、再びこのような理不尽な
行動を繰り返すことがあるとすれば、
国民の議会に対する信頼は薄れ、
政治の威信は全く失墜することは、火を見るよりも明らかであります。総理は、本案の取り扱いにあたっては、あくまでも慎重を期せられ、ベトナム賠償問題のあやまちを再び繰り返さないことを、ここに御確約を願いたいのであります。
次に、私は、最も重要な問題として、大蔵、農林両相にお伺いをしたいのであります。
そもそも、このような地主団体の運動を助長せしめるに役立った売買
農地の価格に関する規制
措置についてであります。近年、
農地改革によって創設されました
農地の中のかなりのものが転売され、しかも、その価格は地主の売った価格に比べて相当に高いという事実が旧地主に不平不満の念を起こさしめている原因だということが指摘されているのであります。しこうして、現在、
農地の所有権、賃借権等の移転については
農地法によって規制されておりますが、
農地価格については、
政府管掌の
農地以外、全く野放し状態であることは、御承知の
通りであります。これは、
昭和二十五年、シャウプ氏の税制
改正案勧告の線に沿って土地台帳法の一部が
改正され、土地賃貸価格の法定制度が同年七月三十一日以降廃止されたのであります。これによって、以上の賃貸価格に
基礎を置く
農地価格の統制
規定が事実上無効となってしまったのであります。このことが原因であります。当時、農林省は、その影響の重大性をおもんばかり、地価の統制を織り込んだ
農地改革法の
改正案を提出したのでありますが、一部の人たちの策動によって審議未了となり、ついに統制廃止となった経緯を思い起こさざるを得ないのであります。今日、自民党の一部の諸君は、旧小作人、今の自作農は不当利得をしてけしからぬと言っておりますが、このように、その種は、ことごとくみずからがまいたものであります。このような事実には全く知らぬ顔をしていることは、言語道断と申さなければなりません。自民党
農地問題調査会の
意見では、創設
農地を転売した場合に取り立てる土地増価税で地主
補償の財源をまかなおうとしているようでありますが、自分で
農地価格の統制を廃止しながら、万やむを得ず
農地を手放す農民については、これを不心得者扱いにいたし、あまつさえ、離職
補償的要素を多分に持つ売払代金に対し、懲罰的な税を課すというのは、まさに矛盾撞着もきわまれりというべきであります。(
拍手)
今日においては、創設
農地に限らず、一般
農地の転用・廃用も逐年増大の一途をたどっており、農林省は、過般、
農地転用許可基準を新たに
改定し、
実施しておりますが、土地需要の趨勢は一向に衰える気配はないのであります。農政の転換期といわれる今日この際、不急不要の用途に対する
農地の移動に対し厳重な規制を
実施するのはもちろんのこと、
農地価格そのものの再規制並びに離農者に対する差益補給のごとき
措置をとることにより、地主運動に対する口実を封ずると同時に、農業経営の企業としての確立、その近代化を促進する意図はないでありましょうか。
農地をして、単なる
財産価値としてではなく、農業生産の基本的な手段として、その効用を十分に発揮せしめ得る方策を講ずべきであろうと思うが、
総理大臣、大蔵大臣、農林大臣のお考えを、この際はっきりと伺っておきたいのであります。
最後に、資本主義下におけるところの農業は他産業の発達から次第に取り残されるというのが、資本主義
経済の悲しむべき論理であります。それゆえに、
世界の
各国は、農業に対しては保護政策をとっておるのであります。言うまでもなく、農業生産は、土地と労働と資本の組み合わせによって成り立っておるのであります。
日本における農業経営の実態は、人手があり余るにかかわらず、土地と資本が零細であるのであります。農業によって豊かな
生活が
保障されるならば、何を好んで
農地を手放す必要があるでありましょう。その最も大きな原因となるものは
政治の貧困そのものにあると申さなければなりません。(
拍手)農民が、将来の希望もなく、その結果、農業を放棄して他産業に移らざるを得ない
最後の切り札として、
農地の売買が行なわれるのであります。それを不心得者ときめつける者みずからが、私は、不心得者であり、農業に対する思いやりのない本質を物語っておるものであろうと思うのであります。(
拍手)
農業の生産性と所得の拡大のために、農業生産の面において、農産物価格政策の上において、はたまた農業構造の改革の点において、今後われわれのなすべき仕事は山積しております。
政府においても、農林漁業基本問題調査会を設置して、多大な予算と人員を計上し、おそまきながら検討を始めたのであります。最近においては、わが農業にとっても貿易自由化の風が遠慮会釈なく吹きまくろうとしており、一九六〇年は、農政の上においては、まさに戦後における第二のエポツクを画すべき時代に入っているのであります。このような時期において、地主問題のごときは、全く九牛の一毛にも当たらぬ、ささいな問題にすぎず、これをぎょうぎょうしく取り上げる自民党・
政府の態度は全く旧時代感覚の見本であるというほかはないのであります。(
拍手)
どうか、
岸総理以下、この際、再思再省せられ、本法案はこれをいさぎよく撤回せられることが最良の
政治であること、しこうして、農業を、全体として他産業との較差をなくし、均衡のとれた産業たらしめるよう政策の確立に努められんことを
最後に申し述べ、また、本日は農林大臣は出席をされておられませんが、聞くところによりますと急性肺炎の由、一日も早く御全快を祈り、私の
質疑を終わる次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇〕