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1960-02-09 第34回国会 衆議院 本会議 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年二月九日(火曜日)     —————————————  議事日程 第五号   昭和三十五年二月九日     午後一時開議  一 日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び日本国における合衆国軍隊地位に関する協定締結について承認を求めるの件の趣旨説明  二 農地買収者問題調査会設置法案内閣提出)の趣旨説明     ————————————— ○本日の会議に付した案件  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び日本国における合衆国軍隊地位に関する協定締結について承認を求めるの件の趣旨説明及びこれに対する質疑  農地買収者問題調査会設置法案内閣提出)の趣旨説明及びこれに対する質疑     午後一時五十二分開議
  2. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) これより会議を開きます。      ————◇—————  日本国アメリカ合衆国との間の   相互協力及び安全保障条約の締   結について承認を求めるの件、   日本国アメリカ合衆国との間   の相互協力及び安全保障条約第   六条に基づく施設及び区域並び   に日本国における合衆国軍隊の   地位に関する協定締結につい   て承認を求めるの件の趣旨説明
  3. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) 日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び日本国における合衆国軍隊地位に関する協定締結について承認を求めるの件、右趣旨説明を求めます。外務大臣藤山愛一郎君。     〔国務大臣藤山愛一郎登壇
  4. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 去る一月十九日にワシントンにおいて署名いたしました日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約、及び、日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び日本国における合衆国軍隊地位に関する協定締結について御承認を求めるの件に関し、趣旨の御説明をいたします。  安全保障条約改正は、歴代内閣の重要な外交上の懸案でありましたが、昭和三十二年、岸総理アイゼンハワー大統領との会談によりこれが改正の端緒が開かれ、さらに、昭和三十三年九月、私が故ダレス国務長官に対し改正交渉の開始を正式に申し入れ、同十月、これが改正交渉を開始し、自来、交渉を進めました結果、本年初め、完全な妥結に達し、去る一月十九日、ワシントンにおいて調印の運びとなった次第であります。  今、条約の重要な改正点について御説明申し上げれば、次の通りであります。  第一は、日米間の安全保障体制国際連合との関係を明確にしたことであります。すなわち、新条約は、日米両国国連憲章を尊重し、国際連合を強化するため努力すべき旨を規定するとともに、両国憲章目的原則に従って行動すべきことを明らかにしております。従って、新条約に基づく実力措置は、外部よりの侵略のない限り、絶対に発動することはないのでありまして、純粋に防衛的性格を有するものであります。新条約は、国連憲章ワク内においてこれを補完するための取りきめであり、これによって侵略発生を防止し、日本及び極東の安全と平和の維持に寄与することを目的とするものであります。  第二は、米国日本防衛援助義務を明定したことであります。すなわち、この条約は、日本施政下にある領域に対して外部から武力攻撃が加えられた場合には、米国日本とともに共通の危険に対処するよう行動すべき旨を規定しているのであります。  なお、沖縄等現在日本施政下にない領域条約地域より除外されていますが、将来返還を見れば自動的に条約地域に編入されることは申すまでもありません。それまでの間に万一南方諸島に対して武力攻撃が行なわれるような場合には、日本政府として同胞の福祉のためにはできる限りのことをなすべき旨を本条約付属合意議事録で明らかにいたしております。  第三は、条約実施全般日米間の協議基礎の上に置き、特に重要な事項、すなわち、米軍配置及び装備の重要な変更並びに戦闘作戦行動のための施設区域使用については、別に交換公文をもって、事前協議にかからしめることとした点であります。これらの事項につきましては、米国日本政府の意に反した行動を決してとらないことは、今次交渉の過程においても明確に了解されていたところでありますが、条約の署名に際し、アイゼンハワー大統領が重ねて岸首相にその旨を確認しましたことは、過般の日米共同コミュニケに明らかな通りであります。  第四点は、従来日米間に存在した安全保障体制を広範な政治経済上の協力関係基礎の上に置いたことであります。日米両国間には、現在、すでに政治経済上の協力のための強固な基盤が存在するのでありますが、今後ますますこの方面の協力を進めることが日米双方の利益であることは、あらためて申すまでもありません。  最後に、第五点は、条約有効期間について明確な定めをしたことであります。すなわち、まず、この条約は、国際連合自身による安全保障措置ができたと両国政府が認めるときまで効力を有するものとし、次に、条約の発効後十年たてば、いずれの締約国も一年の予告をもって条約を廃棄できることとしたのであります。このように条約に終期を設けるとともに、他面、安全保障における国家間の協力関係というものにはある程度の安定性が必要でありますので、前述のような期間の定め方をした次第であります。  なお、本条約には、さらに二つ交換公文が付属しております。一つは、いわゆる吉田・アチソン交換公文等に関するものであり、他は、相互防衛援助協定に関するものであります。朝鮮動乱に対する国際連合措置は、現在なお継続しておりますので、わが国としては、当然これに対して従来通り協力すべきであり、また、安保条約の切りかえによって相互防衛援助協定が影響されるようなことのないようにする必要がありますので、この二つ公文を取りかわした次第であります。  次に、現行行政協定にかわる日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び日本国における合衆国軍隊地位に関する協定について御説明申し上げます。  新しい協定は、行政協定を母体として、これに従来の運営の経験とNATO協定等の先例を参考としつつ改善を加えたものでありまして、次に、そのおもな改正点につき申し上げたいと思います。  第一に、行政協定においては、従来、米軍は、施設内のみならず、施設外においても一定の権利を有することとなっておりましたが、今回、施設外においては、両政府間の協議により、原則として日本政府関係法令範囲内で必要な措置をとるように改めました。  第二に、米国軍人軍属家族の出入国については、日本政府米軍人軍属の送り出しを要請し、または旧軍人、旧軍属家族退去命令を出したときは、アメリカ側は、これらの者を日本から送り出すことにつき新たに責任を負うこととなりました。  第三に、関税及び税関検査規定につきましては、軍人であっても、部隊として行動していない場合は、税関検査の対象となることとし、また、軍事郵便局の取り扱う郵便物税関検査免除は、これを公用のものに限ることといたしました。  第四に、米軍のための労働に関しては、雇用はすべて日本政府を通ずる間接雇用原則とする建前をとるとともに、いわゆる保安解雇の問題についても妥当な解決の方法を講じました。  第五に、いわゆる特殊契約者については、米軍日本側協議の後初めてこれを指名し得ることとし、また、指名後も、不適格な業者は指名を取り消し得ることといたしました。  第六に、民事請求権に関する規定につきましては、国有財産に対する物的損害に関する請求権相互放棄は、自衛隊用財産に関するもののみに限り、その他の政府財産の場合は補償を受けることとし、また、損害請求の原因となった行為が公務執行中であったかいなかの判定は、日本国民から選定される仲裁人が行なうことに改めました。  最後に、いわゆる防衛分担金条項は、新協定から削除いたしたのであります。  以上を通観いたしますに、新しい協定は相当大幅な改善を含んでおり、駐留軍地位規定する協定としては、外国間の類似の協定に比較し、全体として決して遜色なきものと確信いたします。  第二次大戦後、人類の希望に反して、世界には東西の冷戦を背景とし多くの国際紛争が惹起されました。わが国は、民主主義国家として再生し、自由主義陣営の一員としてこの世界的趨勢の影響を受けつつ現在に至ったのでありますが、わが国が今後も平和のうちに民族の発展をはからんとするには、安全保障上の措置をゆるがせにすることを決して許さないというのが、現実客観情勢であります。現在、国際連合平和維持機構としての力は、遺憾ながら、まだ不十分であるといわざるを得ません。よって、国際連合平和維持機能を補完するため、国連憲章の認める安全保障措置を講ずる要がありますが、わが国共通の信条と目的を持つ米国との間の安全保障措置を継続するのが最も適当と信ずるものであります。  繰り返して申し上げれば、この条約は、国連憲章に従って武力の不行使を定め、かつ、条約地域日本施政下にある領域に限定し、日本が攻撃されない限り決して発動を見ないこととしている点よりして、他のいかなる国をも脅威しない、全く防衛的性格のものであります。そして、また、この条約は、その発動を見るがごとき事態を生ぜず、すべての国と平和のうちに共存することを可能ならしめることをその真の目的としているものであります。  政府といたしましては、新条約による安全保障体制基礎として、後顧の憂いなく国運の進展を期し、この基盤の上に、平和外交の推進に一そうの努力を傾注いたしたい所存であります。  以上が、日米安全保障条約関係案件について御承認を求めるの件についての趣旨でございます。(拍手)      ————◇—————  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び日本国における合衆国軍隊地位に関する協定締結について承認を求めるの件の趣旨説明に対する質疑
  5. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) ただいまの外務大臣趣旨説明に対して質疑の通告がございます。順次これを許します。床次徳二君。     〔床次徳二登壇
  6. 床次徳二

    床次徳二君 ただいま説明のありました日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約等に関し、私は、自由民主党を代表して質疑を行なわんとするものであります。  私は、新安全保障条約の成立は、過去における平和条約締結及び国連加盟とともに、わが国外交史上特記すべき事項でありまして、将来のわが国民の幸福と安全にきわめて重要なる意義を有するものと認めるのであります。(拍手)かかるがゆえに、その審議にあたりましては、十分に委曲を尽くし、その目的内容とするところを明確にし、国民をしてその理解に過誤なきを期することは、国会の重大なる責任と考える次第でありますので、ここに、おもなる事項につきまして、政府見解をたださんとするものであります。  人類の最大の願いは、平和で幸福な生活をしたいということであります。特に、敗戦のみじめさと原爆のおそろしさを体験したわれわれ日本人は、いずこの人々よりも、強く平和を望み、戦争を憎んでおるのであります。この平和を守るために、各国も、第二次大戦後、世界の恒久的平和を確立するため国際連合を結成したのであり、われわれ日本国民がその国際連合に加盟したのも、まさにそのためであります。しかしながら、国連の現在の機能は、残念ながら、まだ十分整備されてはおりません。そのために、世界各国は、いずれも、国連そのものによるほか、さらに安全を確保するため、国連憲章第五十一条の認める数カ国の集団自衛権に基づく集団安全保障措置によらざるを得ないのが現実であります。従って、現行日米安全保障条約も、また新条約も、この国連憲章集団安全保障の観念に基づく、自国の平和と安全を守るための純然たる平和的条約であることはもちろんでありまして、社会党のいうがごとき軍事同盟でないことは明らかであります。従って、新条約は、決して、将来の国際情勢進展に逆行したり、あるいは矛盾するものではないと信ずるものであります。(拍手)また、これによってわが国の安全を確保することが現在では最善であると考えまするが、これに対する政府所見を伺いたいのであります。すなわち、現下の国際情勢は、昨年のフルシチョフの訪米以来、一応、平和の方向に進む様子を見せておりました。われわれも、一日も早く世界に真の雪解けが実現されることを切望するものでありますが、いわゆる世界雪解けは、今や、ようやく、共産主義諸国の強固な体制と、共通な代表を持つ自由主義諸国が、それぞれの団結協力の上において、相互に話し合う段階に入ったことを示すにとどまるものでありまして、この話し合いが成功するためにも、自由諸国は、かたい団結協力とを必要とするものと申さなければならないのであります。  アイゼンハワー米国大統領も、去る一月初め行なった年頭教書において、次のように言っております。「自由世界の精神的、知的、経済的及び防衛的資源の強化を通じて、初めてわれわれは適切なる安全保障という目標に向かって自信を持って前進することができる」と述べておりますのは、その一例であります。われわれは、いたずらに理論に走り現実を忘れた社会党見解に同意することができないのは当然であります。責任あるわれわれといたしましては、この点、大きな見解の相違を持っておるのであります。(拍手)ここに、国際情勢のいわゆる雪解けとはいかなるものであるか、また、新安保条約との関係につきまして、この点、政府意見を伺いたいのであります。  次に、現行安保条約改定の理由に関して伺いたいのであります。  現行条約は、昭和二十六年九月、サンフランシスコ平和条約とともに調印せられたものであります。しかるに、その当時は、日本は完全に武装を解除せられており、その調印の前年には、中共ソ連との間に、わが国仮想敵国とした中ソ友好同盟条約が結ばれ、さらに、その年の六月には朝鮮戦争が勃発して、わが国の安全は大きなる脅威を受けていたのであります。よって、国民の熱望にこたえて、連合国との間に平和条約を結び、独立を回復しましても、何らかの方法によって、わが国の安全を保障する方法を真剣に考えなければならなかったのでありました。そのために、暫定的に日米安保条約が結ばれたのであります。  かくして、今日まで、安保条約は、わが国の平和と発展のために大きな役割を果たしてきたのでありまするが、その締結当時の事情にかんがみまして、その当初から、社会党その他からも、この条約は不平等であるとか、片務的であるとか、各種の批判がなされてきたのであります。たとえば、アメリカ軍には駐留権利を認めておるが、条約の上には、アメリカ軍日本防衛する義務が明記されていない。条約上、日本側義務範囲が明らかでない。条約上、アメリカ軍は、極東の平和と安全のため使用し得ることとなっているが、それは日本に無断でできるから、日本が一方的にアメリカと他国との戦争に巻き込まれる危険がある。アメリカ軍日本における装備については、条約上、日本側協議する必要がないから、一方的に核兵器の持ち込みやアメリカ軍核武装が行なわれる危険がある。アメリカ軍は、日本国における大規模な内乱や騒擾の鎮圧にも当たるから、これはアメリカ内政干渉を導くおそれがある。この条約は暫定的な条約であるが、期限が明記されてないから、これを解消することができず、従って、日本は永久的にアメリカ隷属的状態に置かれる。こういったのが、そのおもなものであったのでありました。従って、今回の安保条約改定は、これらの諸点を改善することがまず急務であったのであります。よって、新条約は、あくまで憲法を尊重しながら、日米平等の立つ場に立って、しかも、防衛的性格を堅持され、さらに、国連憲章との関係を明確にしたり、事前協議の制度を設けたりする等、わが国民の平和的意思を尊重しつつ、戦争発生を防止するという、平和的性格を一そう強化したのでありまするが、今さら社会党の方々が改善された新条約に対して反対せられるということに対しましては、全くわれわれは理解ができないところでありまするが、この内容改善に対して、政府のとられました方針説明せられたいのであります。(拍手)  なお、ソ連は、去る一月二十七日、覚書をもちまして、新条約は、軍事的条約、かつ、国際緊張を激化するものといたしまして、歯舞、色丹の不返還の申し入れをいたして参ったのであります。これは、ソ連が新条約性格内容をことさら歪曲し、事実を無視して、自己の便宜のため、故意に軍事条約なりとしているものと認められますが、政府の所信を明瞭にせられたいのであります。  新条約において、ことに重要なる事項は、条約第四条で、実施に関し随時協議することを規定しておることであります。さらに、交換公文において、合衆国軍隊日本国への配置及び同軍隊装備における重要なる変更並びに日本国から行なわれる戦闘作戦行動のための基地としての日本国内施設及び区域使用は、日本国政府との事前協議の主題とすることとしたことにあると存じます。この事前協議は、当然、相手方の合意を前提とし、従って、日本側は、これに対し、自主的立場からイエスともノーとも言えることは、明らかであると信じます。従って、日本ノーと言った場合でもアメリカ側がこれを押し切ることはないかとの一部の不安に対して、岸総理大臣米国大統領共同声明は、事前協議にかかる事項については、米国政府日本国政府意見に反して行動する意図のないことを保障したとして、このようなことが絶対にないことを明らかにいたしましたことは、それぞれの権限において確実に保障を与えるものでありまして、一部に存在しました疑念を全く払拭したということは、きわめて時宜を得たものと思いまするが、当然、この結果、社会党等の主張する拒否の権利はその中に含まれておるということは明らかになった、かように信ずるのでありまするが、この事前協議の真の意味につきまして、この際、政府より明確なる御説明を承りたいのであります。  従来の安保条約は、もっぱら防衛に関してのみ定めておりましたが、新条約は、さらに進んで、経済的その他各分野における日米両国協力関係を明らかにしておることは、大きな前進であると考えます。わが国の通貨、貿易の自由化対策と、東南アジア等の開発に日米協力すべき分野はすこぶる広いと思うのでありまするが、将来、政府は、この条約に基づいて、いかにして協力の実をあげんとするか、今後の方針を伺いたいのであります。  新条約は、従来の安保条約と異なり、日米対等立場で結ばれ、日本自主性を認めるとともに、共同防衛の構想、いわゆるバンデンバーグ決議趣旨が盛り込まれておりますが、新条約において、その義務は厳に憲法ワク内であることが明らかにされ、また、その区域日本施政下領域に限られているため、わが国の負う義務は現状と何ら異なることはなく、社会党の主張せられるところの再軍備や、あるいは海外派兵ということは、もちろん、絶対にないのであります。これに対する政府見解を伺いたいのであります。  また、条約の第三条によって、一部では、わが国が新しく防衛力を増加する義務アメリカに対して負ったものと言う者もあります。なお、わが国自主性を保つがために、米軍極東への出動について協議を行なう結果、わが国が積極的に共同責任を負うこととなり、かえってこのため極東緊張を増加するとともに、戦争に巻き込まれるおそれを増加したと言う者がありますが、この問題は、従来米軍が無条件に出動する場合に比すれば、わが国の判断によりその出動が限定せられますので、戦争に巻き込まれる危険は全くないと信じます。以上のごとく、社会党の懸念する戦争に巻き込まれる危険というものは、全くこれは杞憂であると考えておるのでありまするが、これに対する政府見解を伺いたいのであります。  次に、沖縄に関して質問いたしたいと思います。  今回の条約第五条においては、いわゆる適用区域わが国施政下にある領域とするとともに、沖縄その他南方諸島に関しては特に合意議事録が作成せられ、潜在主権を有するわが国としては、緊急の場合に協議し、日本政府が住民の福祉のために措置をとることを認めたことは、相当の進歩と考えます。しかしながら、われわれは、同地域早期復帰を強く希望しておるのでありますから、同地域復帰に至りますまで、特に日米の緊密な連絡と協力により、可及的母国と同一生活水準維持するごとく、経済発展福祉の増進をはかるべきであると存じますが、これに関する政府対策はいかがなものでありましょうか、伺いたいのであります。  なお、今回、安保条約改定とともに、いわゆる行政協定が大幅に改正せられ、新たに条約第六条に基づく施設及び区域並び日本国における合衆国軍隊地位に関する協定が成立し、防衛分担金の負担、米軍施設内外米軍権利、権能、権力、その他労務、民事補償通関等において、旧協定において取りきめられたわが国の不利益の地位が根本から改正せられ、西欧並みになったということは、まことに御同慶にたえないのでありまするが、この際、その改正基本方針、並びに、現在米軍使用する演習場飛行場等施設の現況を述べられたいと存じます。  最後に、結論として、総理大臣にお伺いいたしたいと思います。  新条約は、その内容をしさいに見れば、以上のごとく、いずれの点から見ましても改善であり、また、全く平和的、防衛的性格を一そう明らかにしたものであり、しかも、これに十年の期限を付したものでありまするから、いずれの立場をとる者から申しましても、賛成されなければならないものと存ずるのであります。しかるに、社会党、共産党のごとき、また、一部におきましては、ことさらに、これらの改善の事実に目をおおいまして、今回の改定にも反対し、さらに、現行条約そのものの解消をも主張しておる者もあります。しかも、それに対して、中共ソ連等国外勢力がこれに呼応しておることは、まことに遺憾である次第であります。(拍手)これらは、意識するといなとにかかわらず、わが国自由陣営から切り離して共産陣営に引き入れんとするところの謀略の手先となっているとしか解するほかはないのであります。(拍手現行日米安保条約を一方的に廃棄したり、また、一部論者の言うがごとき中立政策のごときは、わが国の置かれている地理的・経済的地位から、とうてい認むべきではないのであります。国家の安全、国民福祉を守るために、この際、徹底的にその誤りを是正すべきものと考えるのであります。  こうした観点からするとき、われわれは、新条約の精神に立脚して初めて平和善隣外交を行ない、この基礎の上に、わが国独立の完成、国家の平和、国民福祉を求めることが、わが国の唯一の進路であると信じますが、これについての総理大臣の御所見を伺いまして、私の質疑を終わる次第であります。(拍手)     〔国務大臣岸信介登壇
  7. 岸信介

    国務大臣岸信介君) お答えをいたします。  新しい条約が、その内容として、平和を守り、防衛的なものであるということは、私が終始国会を通じて申し上げておる通りでありまして、ソ連において最近日本によこされたいわゆるグロムイコ覚書による前提は、全然これを曲解しておるものと思います。私どもは、日本の平和と安全を守るために、みずからの力において、すでに、自衛隊の組織も、漸次、国力と国情に応じて漸増して参っております。しかしながら、世界の情勢は、われわれが希望しておる国連による平和、安全保障体制にわれわれの安全を一切あげてまかすというまでにいっておらない状況から申しますと、それを補完する意味において、また、自分の力だけで十分でない点について、日米協力による安全保障体制をとることは、戦後、われわれが現実にそれをとって参って、そうして日本の平和と繁栄が期せられた、こういうふうに築き上げられたことから見ましても、今後においてもそれは必要な体制であると確信をいたしております。  事前協議の意義に関しましては、すでに、これもしばしば説明いたしておりますが、交換公文におきまして、三つの事項について事前協議の主題とするということを定めております。これについては、交渉の過程において、両国の間において、両方の意思の合致が、協議が成立するためには必要であり、また、その合致しない場合において、日本の意思に反して行動をするものでないということは、両方の了解の上に交渉が進められてきたのであります。従って、事前協議ということの意義は、そういう意味で、われわれとしては、はっきりと了解をしておったのであります。それを、今回の私とアイゼンハワー大統領の会談の際に、その点に関して私からアメリカの意向をさらに確かめたのに対して、アイゼンハワー大統領から、明確に、そのわれわれの交渉過程における両国の了解を裏づける発言があったことが、共同声明に明らかにされております。従って、これらの事項については、協議の過程において、日本が、いろいろな意味から、自主的な意味から、われわれの意見を述べ得る、その場合に、われわれが拒否する意思を表示した場合におきましては、アメリカはその意思に反した行動はしないということが、きわめて明瞭になったわけであります。(拍手)  それから、経済協力の点に関しましては、これは、単に、今度の条約防衛上の協力のみならず、政治経済の広い面にわたる協力を根底といたしておりまして、特に経済協力の点を強調いたしております。言うまでもなく、日米経済の間においては、貿易関係においてもきわめて密接な関係があり、また、外資等の導入につきましても緊密な関係にあることは、御承知の通りであります。これらを、なお円滑ならしめ、また、現在世界経済の拡大のために、いろいろ地域的なブロック経済等の傾向もございますが、これらが世界経済発展に支障になるような制限を付したり、あるいは、お互の国の間において意見の違うようなことのないように調整していくことが条約にも明らかにされております。さらに、低開発地域の開発に協力すべきことも、日米経済協力の重要な項目として、今後取り上げていかなければならぬと思います。  次に、バンデンバーグ決議との関係につきまして御指摘もありましたが、あの条文をごらん下さればわかるように、日本の負うところの義務は、憲法範囲内に限られております。そうして、日本が自主的に日本の自衛力を増強することについては、すでに定まっておる。日本の国力と国情に応じてわれわれが自主的にこれを増強するという基本方針に何らの変更のないことを、ここに明確に申し上げておきます。沖縄の問題、行政協定等につきましては、さらに外務大臣よりお答えをすることにいたしまして、最後に、日本の将来進んでいくべき外交方針の基本といたしましては、日本は、あくまでも自由主義の立場を堅持し、自由主義国の一員として、自由主義の国と緊密な連携と協力のもとに日本の繁栄をはかり、さらに、これを通じて世界の平和に寄与しようというのが、私どもの基本の考え方であります。私どもは、この意味において、いわゆる中立政策であるとか、いわんや、容共的な政策をとる考えは、毛頭持っておらぬことを明確にいたしておきます。(拍手)     〔国務大臣藤山愛一郎登壇
  8. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 行政協定改定ということは、駐留軍地位を定めることでありますので、その意味においては、非常に深く国民生活関係をいたしております。従いまして、政府といたしましても、この協定改定するにあたりましては、十分国民生活に深くつながっていることを念頭に置いて改定をして参らなければならぬのであります。従って、米軍駐留目的という大局的な見地とあわせて、各国締結いたしておりますこれらの地位に関する協定、たとえば、NATOの協定でありますとか、あるいは改正を試みられつつあるボン協定等それらのものを参酌いたしまして、改める点はできるだけ改善を加えまして、今日、対等の立場において、他のNATO諸国との協定と見劣りをしないものができ上った次第でございます。  また、駐留軍の現状につきましては、御承知の通り米軍使用しております施設というものは、平和条約締結当時におきましては約二千八百件でございましたけれども、現在では二百五十件程度に減っておることを、つけ加えて申し上げておきます。  沖縄につきましては、第五条の条約地域に入っておりません。しかしながら、沖縄の島民が日本人であり、われわれは、その福祉と繁栄のために非常な大きな関心を持っておることは、もちろんでございます。従いまして、今回の合意議事録において、何らか事が起こりましたような場合に、攻撃されましたような場合には、島民の福祉と幸福のためにできるだけ寄与し得るように協議をいたすことにいたしております。現在、われわれといたしましては、沖縄経済的な発展あるいは島民の福祉というような問題については、平生も、外交ルートをもちまして、いろいろ話し合いをいたしておるのでありまして、たとえば、経済技術専門家の沖縄派遣でありますとか、あるいは教育指導員の派遣でありますとか、沖縄戸籍の整備でありますとか、さらにまた、最近では、西表島の開発計画に対して協力をしていくというような方法によりまして、島民各位の幸福のために、できるだけの寄与をいたして参っておる次第でございます。(拍手)     —————————————
  9. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) 黒田寿男君。     〔黒田寿男君登壇
  10. 黒田寿男

    ○黒田寿男君 私は、日本社会党を代表いたしまして、新安保条約につき、岸首相に質問をいたします。  きょうの私の質問は、これを通じて、新安保条約に関し、われわれと政府との間に、いかなる点において、いかに大きな見方の隔たりがあるかということを、若干の問題点について指摘することを目的としておるのであります。(拍手)  質問の第一は、新安保条約による米国軍隊日本駐留は非常に長い期間にわたるものでありますが、外国軍隊のこのような長期の駐留は、対日平和条約に違反し、許されないものであるということであります。(拍手)首相が新安保条約において米軍の長期駐留協定されましたことは、平和条約違反であり、このような協定は無効であると私は思う。以下、その理由を述べてみましょう。  外国軍隊でありますところのアメリカ軍隊の常時駐留に、わが国防衛を長期にわたってゆだねますことは、政府がどのように弁解いたしましょうとも、わが国米国への従属関係を固定させることになるものでありまして、わが国国家としての独立性を失わせるものであります。(拍手)このような国際的地位わが国を落とし、それを長期にわたって固定化させることは、平和条約の前文で、「連合国及び日本国関係は、主権を有する対等のものとしての国家間の関係でなければならぬ」としておりますこと、及び、対日平和条約第一条の「連合国は、日本国及びその領水に対する日本国民の完全な主権を承認する」という条項に違反するものであります。(拍手)なるほど、平和条約第六条では、「外国軍隊日本領域における駐留を妨げるものではない」とされております。しかしながら、これは占領状態からようやく解放されたばかりの日本の情勢に応じて定められた規定でありまして、ここでいわれている外国軍隊駐留は一時的、短期的なものであると見るのが、独立回復をわが国保障した平和条約の精神から見まして、正当な解釈だといわなければなりません。(拍手)  しかるに、政府は、現在の安保条約によって、七カ年有余にわたり米国軍隊駐留を許した。ただし、それは、条約上、あくまで暫定措置ということにされていることを注意願いたいと思います。その間に、憲法に違反して、今や戦前以上の装備を持つ自国の軍隊を創設しておきながら、このようなわが国の状況変化にもかかわらず、さらに、事実上——これは十年と申しますけれども、解約予告期間一年を加えますと、事実上は十一年である。十一年間も米国軍隊の常時駐留を新条約によって認めようとしておるのであります。平和条約第六条による外国軍隊駐留は、このような長期の駐留を含まない趣旨であります。長期の駐留は許されないものであります。従って、新安保条約による事実上十一カ年間にわたる米国軍隊駐留は、平和条約前文、第一条及び第六条に違反し、許されざるものであると私は考えます。(拍手国会の多数で承認したとしても無効であるといわなければなりません。(拍手政府見解を聞きたいと思う。  それから、第二の質問。新安保条約は、極東地域出動するために使用される米国軍隊駐留を許しております。日本防衛のために使用されるものではなくて、極東出動のために使用せられる軍隊駐留は、平和条約に違反すると私は思う。(拍手)私どもの考えを少し申し述べてみましょう。  極東出動のために使用される駐留米軍隊は、日本防衛を任務とする軍隊ではないのであります。日本防衛関係のない、極東のどこかの地点の安全に寄与する軍隊にすぎません。平和条約第六条によって日本駐留することを妨げないとされておる軍隊は、日本防衛する目的を持った外国軍隊のみでありまして、それ以外の目的を持った外国軍隊駐留を許されない趣旨と見ることが、平和条約の精神に即した解釈といわなければなりません。(拍手)そうであるとすれば、極東出動使用せられる米国軍隊日本駐留させることは、平和条約第六条によって許されないものであります。  翻って、新安保条約を見ますと、極東出動のために使用する軍隊日本駐留させるということを認めておりますので、これは、以上の理由によりまして、平和条約第六条に違反し、その駐留は許されないものであります。  第三の質問。新安保条約における十カ年の存続期間及び駐留米軍極東出動権は条約の重要な要素をなしておるものでありますから、これらの重要な要素が平和条約違反であるといたしますならば、これらを重要な要素とする新安保条約それ自体も平和条約に違反するものといわなければなりません。しかりとすれば、新安保条約は、承認されたとしても、平和条約違反の無効な条約にすぎないと断じなければならぬと思う。政府は、直ちにこのような条約承認要求を撤回すべきであります。(拍手アメリカに対しては、条約締結交渉について手数をかけたことをわびて、御破算にして、岸首相は、このような日本の主権を害するような平和条約違反の条約締結承認を企てた責任をとって、直ちに辞職すべきが至当であると考えます。(拍手)  第四問。新安保条約締結によって、米台相互防衛条約、米韓相互防衛条約の存在と相待ちまして、ここに事実上のNEATOが実現し、わが国は、台湾政府や韓国政府の政策によって起こされる戦争の中に巻き込まれる危険のもとに置かれることになるのであります。政府は、この不安、この危険を除く方法について考えておられますか。交換公文事前協議条項も、岸・アイク共同声明も、この危険を防ぎ得る保障にはならぬと私は思う。米国軍隊極東出動権利を否認する以外には、日本人の不安と危険を除去する方法はないと私は考える。(拍手政府は、日米安全保障などと言いながら、日本防衛関係のない事柄で駐留米軍極東出動することを何ゆえに認めたのであるか、その根拠を示してもらいたいと思う。(拍手)若干私の説明をつけ加えてみたいと思います。  アメリカは、韓国及び台湾との間に、それぞれ相互防衛条約締結しております。韓国及び台湾政府戦争に入りました場合に、米国は、条約上の義務を果たすために、駐留米軍わが国の基地から出動させると考えなければなりません。そうなれば、わが国も一方の側に基地を提供しておるという関係から、その戦争に巻き込まれることになり、同時に、わが国の自衛隊も、新安保条約によりまして、駐留米軍のために戦闘行為に入らなければなりません。わが国は、戦争の巻き添えを食うというだけではなくて、新安保条約のもとでは、当然に戦争の当事国とならなければならないのであります。(拍手)このような順路を経て、ここに極東における事実上の米日台韓四カ国軍事同盟が作り出されるのであります。わが国民が最もおそれておりましたのは、このような関係発生するということではなかったでありましょうか。新安保条約によって、実にこの危険が実現するのであります。  政府は、安全保障体制を存続させながら、なおかつ、この危険からのがれる道があるとしまして、最初は交換公文事前協議事項をわれわれの前に出してきたのであります。しかしながら、この事前協議が、法的にはわが国の同意権を含まないということが暴露されますと、その次には、アイク・岸共同声明で、わが国民に安心を与えようとした。しかしながら、共同声明には、条約のような拘束力はないのであります。ひたすらアメリカの好意、配慮にすがるのみという、すこぶる心細いものであります。(拍手)  私は、この際、事前協議事項は、軍隊出動、すなわち、戦争に関するものであるということにつきまして、岸総理初め、政府の諸公に注意を喚起したいと思います。戦争の論理は、好意や配慮よりも、もっとリアルなものであります。もっと無慈悲なものであります。もっと苛烈なものであります。事前協議については、今まで、法的な、あるいは政治的な面から検討されて参りましたけれども、それだけでも、事前協議が、米軍極東出動を防ぐ方法として、いかに無力な保障にすぎないかということは、今日すでに明らかにされております。  私はここで、今まであまり論ぜられなかったいま一つの面から事前協議の問題を取り上げてみましょう。それは軍事面からの考察であります。軍事面から考えたらどうであろうか。これからはミサイル戦の時代といわれ、ボタン戦争の時代といわれます。一刻一秒の差が戦いの勝敗を決する苛烈な戦争が今後の戦争の常態であると考えなければなりません。もしアメリカ極東出動する必要を認めましたときに、日本政府に一々協議し、その同意を得るなどというような余裕が、はたしてあるでありましょうか。(拍手)ないと考えなければならぬ場合の方が多いことを、私どもは覚悟しなければならぬのであります。これが近代戦の論理である。事前協議などということは、軍事面から見ますときは、米軍極東出動を防ぐ保障としてはいかに無価値にひとしいものであるかということがわかると思う。要するに、駐留米軍極東出動からくる不安を除くためには、事前協議のような子供だましの交換公文を作って国民を欺瞞することではなく、アイク・岸共同声明などをもってごまかすことではなくて、駐留米軍極東出動権利を否認する以外には方法はないと私は考える。(拍手)  この際、岸総理に質問いたしますが、何ゆえに日米相互防衛条約の中に、日本防衛関係のない米軍極東出動権利を認めたのでありますか。極東出動権利駐留米軍に認めたその根拠を、納得のいくように示してもらいたいと思います。(拍手)  それから、もう一つつけ加えておきたいと思います。極東出動について国民を不安に陥れております問題の一つは、極東範囲という問題であります。この範囲の大小が日本人の重大な関心になっております。しかるに、さきに、藤山外務大臣は、この極東範囲の中に中国の沿岸、沿海州を含むというような説明をされました。それが政府見解であると、総理は二月三日にもそう言われております。それは議事録において明らかである。しかるに、それからわずか六日の後、昨日、極東範囲について、著しくこれを狭めた解釈をなさいまして、中国沿岸、沿海州などは含まない、こういう解釈に変わったのであります。わずか六日の間に、どうしてこのように変わったのであるか、われわれは理解に苦しむのであります。(拍手)その理由を述べてもらいたい。このような解釈の動揺を政府がやることが国民の不安を一そうに高めつつあるものだと私は考える。(拍手)このようなことは国民を愚弄するものであります。私どもは、委員会において、さらにこの問題を徹底的に追及したいと思いますけれども、きょうは警告を発するにとどめておきます。  最後に、私は、新安保条約等の審議に関する私どもの態度を明らかにいたしまして、質問を終わりたいと思います。  新安保条約交換公文及び新安保条約に基づく協定などは、それ自体において、また、各個の条文において、それぞれ重大な問題点を多数に含んでおります。われわれは、新条約、新協定等を、単に国際法あるいは国際連合憲章日本国憲法に照らして厳密に検討し、国連憲章違反、憲法違反の点を明らかにするだけでなく、さらに、国際情勢の分析との関連において、また、国際政局及び国内政治の観点から、また、軍事的、戦略的見地から、また、財政経済問題の立場など、あらゆる角度から、微に入り細をうがって、時間を惜しむようなことは絶対にしないで、徹底的に検討して、この条約がいかに時代逆行の戦争条約であり、おそるべきものであり、不利益であり、有害であり、国の進路を誤るものであるかということを国民の前に明らかにいたしまして、新条約について、直接に国民に信を問う以前に国会承認されることのないように、最善の努力を尽くす方針であります。われわれは、断じて審議権の放棄などはいたしません。徹底的に審議いたします。ただし、前国会において、はなはだ遺憾なことが起こった。ベトナム賠償案の審議にあたって、幾多の重要な問題点が、政府による解明がなされないままで、多数の力で審議の打ち切りが行なわれたのであります。このことは、野党たるわれわれだけでなく、全国民のひとしく憤激おくあたわざるところであった。(拍手)もし、今回の新条約等の審議の過程におきまして、再びこのような事態に立ち至るおそれがありますようなときには、私どもは、最善の努力を尽くしてこれを阻止して、審議の続行のために、審議の万全を期するために戦うのでありましょう。それでも、なおかつ、審議が中途で打ち切られるおそれのあるような最悪の事態に立ち至りました場合は、われわれは、あらゆる方法を用いて抵抗権を行使するだろうということを申し添えておきまして、私の質問を終わりといたします。     〔国務大臣岸信介登壇
  11. 岸信介

    国務大臣岸信介君) お答えをいたします。  新しい条約は、長期の米軍駐留を認めるとか、あるいは日本駐留する米軍極東の平和と安全に寄与するために出動する場合があるというようなことを理由として、これが平和条約違反であるという御意見であります。私は、決して、現在の安保条約平和条約に違反しているとは思いませんし、また、今度の改正も、そういう理由でもって平和条約に違反しているとは思いません。御承知の通り、国際間において条約が結ばれるならば、条約上の義務として、ある種の主権の制約を受けることは、これは国際条約の本質から当然であります。それがゆえに直ちに主権を失うとか、独立を失うというふうな解釈は、私は、国際法上、どこにもそういう議論は成り立たないと思います。現に、外国軍隊駐留も、日本だけではございませんで、西欧諸国にもそういうものが存在いたしておりますが、それが、それらの国の独立を害しておるというような議論は、国際法上どこにもないのでありまして、そういう意味で、違反しておるという議論は成り立たないと思うのであります。また、そういう意味において、平和条約違反であるから調印を取り消して辞職しろというようなお話でありましたが、これは全然私どもそういう考えは持ちません。  次に、NEATOとの関係についての御質問でありましたが、言うまでもなく、米韓、米台、米比等の条約と本条約との間には、何らの関係はございません。ただ、日本駐留しておる米軍が、極東の平和と安全に寄与するために、これらの地域において国連憲章に違反した侵略行為が行なわれた場合に出動する場合がございます。この場合には、いわゆる事前協議の対象となるわけでありますが、それは何も米韓、米台等の条約と直接の関係を持つものではないのであります。  また、事前協議の問題に関して、軍事的な立場から、こういうものは成り立たないという黒田議員のお考えでありました。今度の新しい条約第四条におきまして、日本の安全であるとか、あるいは極東の平和と安全が脅かされるというような場合につきましては常時協議をすることになっております。すなわち、世界の大勢、あるいは極東の情勢については、両方で十分な連絡と意見の交換をしておるのであります。従って、そういう、今お話しのような事態が、全然何らの前提的な情勢もなしに突然起こるものではございませんので、われわれは、事前協議の意味というものは、そういう意味において、軍事的な意味から申しましても十分にあり得る、かように考えております。  極東の安全と平和とに寄与するということと、日本の平和と安全とどういう関係があるのだという御質問であります。言うまでもなく、日本の平和と安全というものを守ることが本条約の主たる目的であることは、条文をごらんになっても、きわめて明瞭でございます。ただ、日本駐留しておる米軍も、この本来の目的である、日本侵略行為が起こらないようにこれを防衛するということが主たる任務でございますが、しかしながら、極東の平和と安全が現実に害されるということは、日本の平和と安全にきわめて緊切な関係を持つものであります。従って、十分事前協議をして、そういう場合、出動する場合には、事前協議によって、日本関係のないものは、われわれは拒否することは当然でありますが、不可分の場合におきまして出動するという場合に、われわれは、これを認めるという場合もあるのであります。こういう意味において、極東の平和と安全と、日本の平和と安全というものは関連性を持つわけであります。  極東範囲につきましては、昨日私が予算委員会で述べました通り、従来外務大臣が答えておりますように、フィリピン以北、日本の周辺ということが、この極東の意義であります。その周辺という意義の中に、中国大陸や沿海州を含むかどうかという御質問に対しましては、われわれは、これを含まないものであると考えております。(発言する者多し)  さらに、最後の、本案の審議に対しての御意見でございましたが……。     〔発言する者多し〕
  12. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) 静粛に願います。
  13. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 本案の審議に対しまして、十分慎重に、あらゆる点から審議が尽くされるべきことは当然でありまして、私は、そういう意味において、審議を十分に尽くして、そうして御承認を得たいということを、しばしば申し上げております。われわれも、あらゆる面において、疑問となり、あるいは明瞭でないように考えられる点につきましては、これを明瞭にいたして参るつもりでおります。しかしながら、同時に、やはり、審議の効率をはかることに対して野党の諸君も御協力を願って、そうして、国民の疑問とするところを国会を通じて十分に解明するように努力していきたいと考えております。(拍手)     —————————————
  14. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) 中崎敏君。     〔中崎敏君登壇
  15. 中崎敏

    ○中崎敏君 私は、民主社会党を代表して、ただいま説明のありました日米安保条約外三つの交換公文につき、反対の立場から、岸首相並びに外務大臣に対し質疑を行なわんとするものであります。(拍手)  日米安保条約は、国民の重大な関心事であり、国の運命を左右する重大な条約であります。国民は、かつて、新官僚の指導者であった岸さんによって敗戦のうき目を見たが、今は、時めく岸総理によって新安保条約は強行せられ、戦争に巻き込まれはしないかと、戦々きょうきょうたるありさまであります。(拍手国際情勢は漸次雪解けの方向にあり、近く十カ国軍縮会議も開かれんとしておるが、その底を流れるものは、科学技術の進歩と、ミサイルなど、究極兵器の発達であります。この結果、外交の基調は、力の外交から話し合いの外交へと転換しつつあります。このときにあたり、日米安保条約調印したことは、世界情勢に逆行するものといわなければなりません。  まず、私は、軍備と国民生活についてお尋ねいたします。  米ソを中心とする大国は膨大な軍事費に悩まされているが、わが国においても、防衛関係費は年々増加の一途をたどり、国民生活を大きく圧迫しております。昭和三十五年度防衛関係費は昨年度より百二十五億円を増額され、国庫債務負担九百七十五億円、継続費五十七億円に上り、昭和四十年度防衛関係費は実に二千九百億円に上ることが明らかとなり、国民のひんしゅくを買っておるわけであります。かく、軍事予算の膨張は、日米安保条約を前提として推し進められておることは否定できない事実であります。今や、世界の情勢が、陸海空軍を漸減して、ボタン一つのミサイル戦に切り変わりつつあります。このときにあたり、岸首相が、陸軍兵力の増加と、時代おくれの飛行機に、やれロッキードだ、やれグラマンだと血道を上げて、いたずらに国民の疑惑を増しておることは、何としても了解に苦しむところであります。岸首相は、たびたび、核武装をしないと言明をしたが、今でもこの信念に変わりはないか、お尋ねいたします。新安保条約締結と、独善による既成事実の積み上げから、核武装必至と考えられるが、岸総理所見いかがでありますか。  岸首相は、かつて、三悪追放を公約し、福祉国家の実現を公約いたしましたが、その結果はいかがであったか。千二百万に上る低額所得者と、四苦八苦の中小企業者と、そして農漁民の大多数は、依然、後進性を脱却せず、低水準の生活にあえいでおります。軍備の拡充が同時に汚職の温床であることにかんがみ、新安保条約発効後においてますます大衆生活を圧迫するであろうことは火を見るよりも明らかでありまするが、この点を率直に認め、最大限の措置を講ずる用意があるかどうかをお尋ねする次第であります。  岸首相は、一昨年夏アメリカを訪問して以来、口ぐせのように、日米新時代来たれりなどと得意満面になっておりますが、国会国民もつんぼさじきに置かれて、内容を知らされないままに一年有半を経過し、ようやくここにその全貌が明らかになりました。岸内閣の独善と多数による横暴は民主主義の敵だといわなければなりません。(拍手)このことは、内閣の権限を定めた憲法第七十三条三号に、条約締結するには「事前に、時宜によっては事後に、国会承認を経ることを必要とする。」と規定してあります。元来、新安保条約のごとき、国の運命を左右し、戦争と不可分の関係を持ち、国論が二つに分かれておるところの性質の条約は、たびたび開かれた国会事前に報告して、国民とともに論議を尽くすべきが憲法の精神であり、政府の当然の責任であるといわなければなりません。(拍手)  この新安保条約締結に伴い、国民の生命を左右する秘密保護法などの法案提出が必至と考えられますが、政府においてはいかなる用意があるかを尋ねるものであります。(拍手)はたしてしからば、この秘密保護法案は、岸内閣がかって国会で強行突破せんとして失敗した警職法案とうらはらをなすものでありまして、憲法保障するところの国民の基本的人権を侵すおそれがあると思いまするが、首相の所見はいかがでありますか。(拍手)  次に、新安保条約内容について質問をいたします。  本条約は、一応、憲法上の規定に従うことを明らかにしておりまするが、それにもかかわらず、憲法違反の疑いは免れません。日本国憲法第九条、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と規定し、憲法前文における「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」この平和宣言に照らし、明らかに憲法違反と断ぜざるを得ないのであります。いわんや、本条約第四条は、日本国の安全のみならず、極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときは、いつでも両国間で協議すると規定し、わが国の安全と直接関係のない極東地域にまでその範囲を広げた軍事同盟締結するものでありまして、ここにも戦争への道が開かれておるといわなければなりません。明らかに憲法違反の疑いを残すものであります。(拍手)  次に、新安保条約の最大の問題点は、事前協議に関するものであります。これに拒否権があるかどうかは、国民の重大なる関心事であります。これを拒否権と呼ぶかどうかはしばらく別といたしまして、いやしくも独立国が戦争をするかいなかを決定する自由を持つのは当然であります。もし、それさえできないとすれば、それは明らかに独立国ではありません。岸首相は、たびたび、新安保条約は平等互恵の精神でいくと言明しておるが、結果論から言うと、肝心なところはほとんど改善されていないと言うも過言ではありません。逆に、悪くなっておるところも多々あるのであります。これでは、不平等条約といわれても弁解の余地はないと思うのであります。(拍手岸総理は、名をとって実を捨てたものらしいが、絵にかいたもちでは、国民にとっては何の役にも立たないのであります。はたしてしかりとすれば、何のために国民を騒がしたのか、了解に苦しむものであります。  一例をあげれば、新安保条約に基づく協定第十八条五項には、米軍行動した場合、日本側民間の施設、海面などに与えた損害は米軍責任を負わないことに改悪されております。これに対して、水産庁では、外務省あて、大要次のような申し入れをしたと伝えられております。この改悪によって、零細な漁業者は泣き寝入りのほかはない。外務省はNATOの場合と異なる日本漁業の実情をアメリカに伝えて、現行通り漁業補償の道を講ずべきで、もし、それが実現不可能ならば、国の補償が行なわれるよう、特別立法を行なうべきだというものであります。これは全く驚くべき政府の失態でありまして、国務怠慢のそしりを免れません。零細漁民の既得権を、所管庁に何らの連絡もなく独断で放棄するがごときは、その罪万死に値するといわなければなりません。(拍手岸首相と藤山外相は、これに対していかなる責任をとるか、また、これに対する対米交渉の結果と、零細漁民に対しいかなる措置を講ぜんとするかを明らかにしてもらいたいのであります。  再び事前協議についてお尋ねしますが、岸首相は、事前協議について、ノーと言えると言っております。しかし、それは、法律上もしくは条約上の権利としてではなく、政治的に、または道徳的に、ノーと言えるにすぎないことは、もう明らかであります。この条約の眼目ともいうべき事前協議に関する事項を、何がゆえに本文に明記しなかったか、いまだに明らかにされていないのであります。岸首相に対して明快なる答弁を促すものであります。  もし、事前協議がととのわず、米国がかまわず行動を起こした結果、日本武力攻撃を受ければ、日本はいやおうなしに戦争に巻き込まれることは、三才の童子といえども知るのであります。その懸念を一掃し、独立国としての当然の権利を確保するには、米華相互防衛条約、米韓相互防衛条約のように、両国協議合意を必要とする旨を本文の中に明記すべきであったと思うのであります。そうでなくては、日本地位は台湾、韓国以下といわなければなりません。もし、米国がそれさえ承知しなかったならば、承知するまで粘るべきであったと思うのであります。それをしも怠って、あとになって、気休め半分に事前協議に関する交換公文でお茶を濁す首相の態度には、国民とともに憤りを感ずるものであります。(拍手)これに対する首相の明快なる答弁を要求いたします。  次に、事前協議の対象についてでありますが、予算委員会における政府側の答弁では、米軍が減少するとき、原水爆の運搬は事前協議の対象にならず、また、米軍の国内移動、米軍の補給行動なども事前協議の対象にならないと言明しました。これはきわめて重大なる発言であります。そのうちのどれ一つとってみても、事態はきわめて重大であります。こうした米軍行動事前協議の対象にならないのでは、事前協議に関する交換公文はその意義を失い、有名無実にひとしくなるといわなければなりません。思うに、きびしい世論に押されて、窮余の一策として、申しわけ的に事前協議交換公文を頼み込んだのが真相ではないかと思うのでありまするが、この点を明らかにしてもらいたいものであります。(拍手)  また、事前協議の対象となっておるところの重大な変更内容については基準があるはずだと思うのでありまするが、もし、基準があるならば、これを明らかにしてもらいたいものであります。こうした重大な事項が、基準がないはずはないのでありまして、この点について、もし、ないとすれば、政府の怠慢といわなければならぬのでありまするが、この点を明らかにしてもらいたいと思うのであります。(拍手)  次に、吉田・アチソン交換公文の存続に関する交換公文について政府見解をただしたいと思うのであります。  現行安保条約締結された一九五一年九月当時は、わが国アメリカ軍に占領されていた関係上、わが国にある国連軍に対して、在日米軍と同様の待遇を与えるという吉田・アチソン交換公文は、一応やむを得なかったと思うのでありまするが、わが国独立し、国連の一員となり、一九五〇年七月、安保理事会の決議で、合衆国のもとに国連統一司令部が設置された経緯と、南北朝鮮問題が解決された今日、政府は、この交換公文の解消に努力し、あらためて、必要に応じ国連協定を結ぶべきであると考えるが、これに対するところの所見いかがでありますか。この点に関し、国連と何の話もせず、この交換公文を再確認したものとすれば、一種のやみ取引であるといわなければなりません。これに対する政府所見をお尋ねしたいのであります。(拍手)この交換公文は、ひいては、在日米軍が、国連軍という隠れみのの中で、極東基地の広範な範囲にわたり行動の自由を許す結果となると思うが、所見いかがでありますか。  新行政協定第二条により、わが国は、国土全般にわたり、無制限に基地を提供することになっておるが、これでは、おせじにも平等互恵の条約とは言えません。フィリピンでは、米比軍事基地協定を結び、一定の地域に限り基地を提供しております。その他の国においても大同小異で、無制限に基地を提供する義務を持っておるのは、ひとりわが国だけであります。岸首相は、この点に関していかなる努力をしたかを、明らかにしてもらいたいものであります。(拍手)  さらに、極東範囲についてお尋ねします。  極東範囲は、極東地域における平和と安全を確保する上に日米両国の関心の深い地域をさし、具体的には、フィリピン以北、日本の周辺の海域ということは明らかとなっておりますが、この点については、先ほど黒田君からも質問がありましたように、はたして米国側と十分の解釈上の協議がされていたかどうかということを重ねてお尋ねしたいのであります。(拍手)すなわち、わずか二、三カ月の間に、前国会における答弁と今回の答弁とに重大な食い違いがあるということは、明らかに政府の独善的解釈だと見なければならぬわけであります。かくのごとき重大なるところの意義を持つものが、政府の一方的解釈によって解決されるものではないのでありまして、この点について、重ねて、国民とともに、総理大臣に対してお尋ねしたいのであります。(拍手)  次に、沿海州、さらに中国本土が除外されておるといたしましても、非常事態の場合において、その戦闘行動の対象となるのかどうなのか、いざという場合に、一体日本軍隊がどういうことになるのかということを、この席をかりて、政府に答弁を要求するものであります。  次に、日中、日ソの問題についてお尋ねしたいのであります。  新安保条約締結によって、ソ連との間のとりやりは別として、これが内政干渉であるかどうかは別として、領土問題についても、漁業問題についても、相当の困難を生じてきたことは事実であります。政府はこれに対していかなる措置をとらんとするかをお尋ねするのであります。日中関係の打開についても、多数国民の要望であるのにかかわらず、新安保条約に災いされまして、今日、日中打開の道はほとんど閉ざされておるという状態であります。岸首相は、将来、日中関係をいかにして打開せんとするのか、お尋ねしたいのであります。(拍手)  わが党は、常時駐留を有事駐留に切りかえ、防衛地域日本防衛に限り、期限を一年予告制に切りかえるという段階的解消論を主張するものであります。われわれは、岸内閣が、犯したあやまちと欠陥に対して謙虚に反省し、反対党の意見を聞き、終始慎重に審議するという態度に出るならば、最後まで審議を尽くすにやぶさかでないわけでありますが、万一、反対党の意見に耳をかさず、多数をもって押し切るようなことがあれば、まっ二つに分かれておるところの世論と良識の許す範囲において、われわれはとるべき手段を講じなければならぬのであります。  安全保障条約は、主権国としてのわが国の存立の基盤にきわめて重大な関係を持つ、高度の政治性を持つものであるということが、昨年十二月の最高裁の判決によって決定されました。あわせて、それがゆえに、「違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、」云々とあります。最後に、「終局的には、主権を有する国民政治的批判に委ねらるべきものである」と述べておりますが、この意味からも明らかな通りに、新安保条約の今後の扱いにつきましては、十分に国会において審議を尽くした上において、これが違憲であるかどうかを国民の手による審判にゆだねるという意味を含めて、国会の解散の用意があるかどうかということをお尋ねして、私の質問を終わりたいと思うのであります。(拍手)     〔国務大臣岸信介登壇
  16. 岸信介

    国務大臣岸信介君) この新しい条約国際情勢の動向に逆行するものじゃないかという御意見でございましたが、これもすでにしばしば申し上げた通り、私どもはそう考えておらないのであります。今日の世界の東西両陣営の間における情勢を見ますと、おあげになりました防衛費のごときも、どの国も防衛費を減額いたしておるような状況には至っておりません。また、いろいろな地域的な安全保障体制も、少しもこれを解消する方向に進んではおらないのであります。こういう場合におきまして、安保体制を持続して日本の平和と安全を守ることは必要であり、これを合理的に改正することは、国民の多年の要望である、こういう考えを持っております。  核武装につきましては、しばしば申し上げた通り日本の自衛隊は核武装をいたしません。また、核兵器の持ち込みはこれを認めない。しこうして、今度の条約改正によりまして、従来申し上げた通りでありますが、こういう問題は、いわゆる事前協議の対象でありまして、日本が拒否する限りにおいては持ち込みが認められないということが明瞭になったわけであります。  こういう重大な条約であるから、条約調印する前に、事前国会承認を得るというふうな態度に出るべきではないか、というお話でございます。憲法上の、いわゆる事前承認、事後の承認ということは、これは、交渉中にこれの承認を受けるというような意味でないことは言うを待たないのでありますが、われわれは、それにもかかわらず、中間報告をいたしましたし、また、おもな事項につきましては、長い間国会を通じて論議を行なってきておるのであります。従って、これを秘密にして云々というような考えは毛頭なかったわけでございます。  事前協議の意味は、協議にかかる事項について、日本が自主的にこれを拒否する場合もある、拒否した場合において、アメリカ側日本の意思に反した行動をとらないということが、いわゆる条約及び交換公文の解釈として、交渉の途上におきまして日米両国の間に了解のいっておったことであります。しかしながら、この問題についていろいろと論議があり、国民の間にも疑惑を持つ点がございましたので、私とアイゼンハワー大統領の会談の際に、その点をさらに再確認したことを明瞭にしたわけでございます。  この事前協議の対象になる問題につきまして、いわゆる米軍日本から撤退するような場合には事前協議にはならない、また、単純な補給の関係はやらないというようなことを申し上げております。しかし、日本駐留する兵力を相当に増強するというような場合におきましては、もちろん事前協議の対象であり、核兵器や、あるいは中距離、長距離の弾道弾であるとか、あるいは核弾頭というようなものを持ち込む場合におきましては、当然、事前協議の対象となるのであります。  それから、この新しい安保条約に関連して、秘密保護法を作るかというお話であります。秘密保護法につきましては、世界のどの国を見ましても、独立国として、国家の最高の機密を保護する法制はございます。しかし、それが、同時に、一般の人権や、あるいは言論の自由というようなものに重大な関係を持っておることでありますから、これは慎重に検討すべき問題であると思います。現在のところにおいて、すぐこれを提案するというような考えは持っておりません。  憲法九条との関係において、憲法違反ではないかというお話でありますが、憲法九条の第一項は自衛権を認めておるものであり、われわれは、国際的紛争を武力によって解決する、あるいは戦争によってこれを解決するというようなことをしないことは当然であります。しかしながら、他から侵略された場合において、実力を行使してこれを排除するということは、憲法の当然認めておるところでありまして、この意味において、日本が他から不当に侵略された場合において、これを排除するための実力として自衛隊を作っておることも、御承知の通りであります。今度の安保条約趣旨も、われわれが他国から平和と安全を脅かされるような侵略を受けないためにこれを作っておるわけでございます。  吉田・アチソン交換公文の問題につきましては、これは、国連の決議によって国連軍が組織されて、朝鮮の動乱の問題に処しておる、そして、アメリカとの間に、国連協力する国々が協定を結んでこれに協力しておるというのが実態でございます。今日、この状態は、休戦の状態ではありますが、国連の決議はなお存続しており、国連軍というものが存在しておる限りにおきましては、同様に、国連のこの決議を支持するために必要な支持を与えることは当然でありますから、これが存続を認めたわけでございます。  極東範囲につきましては、先ほどもお答え申し上げました通り、フィリピン以北、日本の周辺という解釈でございます。別にこれは変わっておりません。きわめて明瞭であります。終始一貫、申し上げておるところであります。  最後に、民主社会党が、有事駐留、あるいは防衛地域といいますか、行動地域日本の領土に限る、あるいは期限を一年にしろというふうなお考えであることを述べられたのでありますが、私どもは、日本の平和と安全、さらに、それと密接な関係のある極東の平和と安全を守り、世界の平和に貢献するためには、われわれのとっておるような内容が適当であるという考えを持っております。期限の点等につきましても、あるいはその他におきましても、非常に長い、国際的に見ると、三十年であるとか、二十年という長いのもありますし、一年というような規定もございます。しかし、両国のほんとうの信頼と理解の上に立って協力をやるというような意味で結ばれているものは、相当の安定期間を持つことは当然でありまして、私どもは十年くらいが適当であるという考えであります。審議を慎重にして、十分論議を尽くすということは、私がしばしば申し上げておるように、われわれも、ぜひそのつもりでこの審議に臨むつもりでございますから、野党の諸君におかれてもこれに協力していただくようにお願いを申し上げておきます。(拍手)  解散の点につきましては、これまた、しばしばお答え申し上げました通り、私は、現在、解散するという意思は持っておりません。(拍手)     〔国務大臣藤山愛一郎登壇
  17. 藤山愛一郎

    国務大臣藤山愛一郎君) 行政協定十八条の、海上損害についてでございますが、この点につきましては、今回の行政協定は、NATOの行政協定を参照いたしまして決定をいたしたものでございます。従いまして、船舶航行等につきましては、これが有利であることは申すまでもございません。ただ、日本の特質として、小漁船もしくは定置網、あるいはノリ等の損害がございます。ノリ等の損害については陸上損害と同じ方法で扱い得るのでありまして、今の海上の方の規定からも扱えますけれども、零細漁民その他の方々のことも考えて、できるだけ簡素な手続でもって漁業ができるように、ただいまアメリカ側とも手続の問題については折衝をいたしております。(拍手
  18. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) これにて質疑並びにこれに対する答弁を終了いたしました。      ————◇—————  農地買収者問題調査会設置法案   (内閣提出)の趣旨説明
  19. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) 内閣提出農地買収者問題調査会設置法案趣旨説明を求めます。総理府総務長官福田篤泰君。     〔政府委員福田篤泰君登壇
  20. 福田篤泰

    政府委員(福田篤泰君) 農地買収者問題調査会設置法案について、その趣旨を御説明申し上げます。  戦後のわが国の農業生産力の発展に対して農地改革の寄与しておりますところはまことに大きいのでありますが、反面、これが非常に大きな社会的変革でありましたために、従来の社会的・経済基盤が大幅に変更され、その際、農地を買収された者に関しても、いろいろな社会的な問題が起こっていると思われます。  言うまでもなく、農地改革は、正当な法律に基づいて正当に行なわれたことでありまして、農地を買収された者に対して、これを是正する意味において補償することは考えられないのでありますが、現行農地法の問題とは別に、この農地改革の副次的結果ともいうべき被買収者に関する社会的な問題につきまして、その実情を明らかにするとともに、要すれば所要の措置を講じて参りたいと存ずる次第であります。  以上申し上げましたような見地から、この際、総理府に、その付属機関として農地被買収者問題調査会を設置し、広く各界の学識経験者の意見を聞き、農地改革により農地を買収された者に関する社会的な諸問題を調査し、何らかの措置を講ずる要があるかいなかを審議することといたした次第であります。  次に、本法律案の概要を御説明申し上げます。  農地被買収者問題調査会の任務は、内閣総理大臣の諮問に応じ、農地改革により農地を買収された者についての社会的な諸問題を調査審議することであります。  調査会は、二十人以内の委員で組織することといたしまして、さらに、十人以内の専門調査員及び十人以内の幹事を設置する考えであります。  調査会の調査審議は、おおむね二カ年を目途にその結論を得たいと考えまして、この法律の有効期限を、この法律の施行後二年といたしております。以上がこの法律案の趣旨でございます。(拍手)      ————◇—————  農地買収者問題調査会設置法案   (内閣提出)の趣旨説明に対する   質疑
  21. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) 御報告申し上げまするが、福田農林大臣は、本日は病気のため登院いたされておりません。ただいまの趣旨説明に対して質疑の通告がございます。これに対しては福田総務長官が御答弁相なると思います。順次これを許します。石田宥全君。     〔石田宥全君登壇
  22. 石田宥全

    ○石田宥全君 私は、日本社会党を代表して、ただいま提案されました農地買収者問題調査会設置法案に対しまして若干の質疑をいたしたいと思うのであります。(拍手)  この法案とほとんど同一内容の法案が去る第三十一国会政府から提案されまして、本院を通過、参議院において審議未了となり、廃案になったことは、御承知の通りであります。しかるにもかかわらず、あつかましくも再度本国会に提案いたしまして、ぜひともこれを成立させようとする魂胆があるのではないかと疑うのであります。まことに遺憾と存ずるのであります。(拍手)この法案は、単に総理府に調査会を設けるという単純なものではありますが、しかし、その内蔵する問題は、党利党略のにおいふんぷんたるものがあり、かつ、歴史的な大成果をあげた農地改革を否定し、かつての封建的地主制度を復活しようとする野望を秘めた保守反動法案であると言わざるを得ないのであります。(拍手)  そこで、私は、本法案はかねてから旧地主諸君の要求する買収農地国家補償に一つの風穴をあける意味を持つことは否定できないという前提に立って、岸総理を初め関係各大臣に対し、若干の問題点をあげて質問をいたす次第であります。  まず第一に、本案は、総理府に調査会を設置し、旧地主の社会的問題を調査審議しようとするものでありますが、なぜ特別に旧地主のために調査審議するのか、そのよってくるゆえんのものを明確にされたいと思うのであります。(拍手)  かって、二十九年ごろから、買収農地国家補償を要求する地主団体が全国各地にその運動を展開し、一部反動地主が集団的暴力に訴え、小作地取り上げを行なう等、大きな社会問題を起こして以来、われわれは、その地主運動に対し深く憂慮し、国会にあって、しばしば政府対策をただして参りましたことは、御承知の通りであります。特に、三十一年には、農林水産委員会は、全会一致をもって、農地改革の成果の保持に関する決議を行なって、地主運動を否定するとともに、彼らに対し重大なる警告を発したのであります。しかるに、一向地主運動は中止されることなく、あまつさえ、深く自民党内に食い入り、自民党においては、農林水産委員会における与野党全会一致の決議を嘲笑するかのごとく、党内には農地対策小委員会を設け、やがてこれを農地問題特別委員会に発展させ、三十三年に入ってから農地問題調査会を設けて、地主団体の意を迎えることにきゅうきゅうといたしているのであります。  三十二年当時、岸総理大臣の答弁は、「国家補償義務はない。しかし、政治問題としては研究する。党の研究は社会問題として当然である」と述べているのであります。また、井出農林大臣は、農地補償は行なわず、地主団体は解散に導くよう行政指導し、党内の補償検討の動きも中止するよう努力すると約束したのであります。にもかかわらず、三十二年暮れ、党内に調査会設置の動きが強まるに及んで、岸総理及び赤城農林大臣の答弁は徐々に調子を変え、その後、三十四年度予算の編成期に、再び内閣に調査会設置の動きが活発化し、ついにこの法案の提出となったのであります。  以上の経過に照らし、政府内に調査会を設置することは不賛成であるとする岸内閣の方針は、一年足らずの間にがらりと変わり、国会における発言は、その場その場をうまく切り抜けさえすればよいといった状況であって、全くの無責任政治を暴露しておるのであります。(拍手)私は、まず、本法案提出までの総理以下各閣僚の発言と、それに対する政治責任関係について、岸総理所見を承りたいのであります。  次に、第二に承りたいことは、本案が成立した後、調査会が設置され、その調査及び審議の結果、農地改革による買収農地について対地主補償を行なうのではないかという国民の抱いている疑惑の点に関し、明快なる答弁をいただきたいのであります。  申し上げるまでもなく、現内閣は、一貫して、農地の改革は、最高裁の判決にある通り、正当なものであるから、事後的な補償は行なわないのだ、旧地主の生活に関する社会問題は検討の必要があると繰り返し述べているのでありますが、過去両三年来の岸内閣のやり方を見て参りますと、結局、補償という名目は使わずとも、交付金なり見舞金といったような救恤的な方法で、形を捨てて実をとる方式で実現させる可能性が多分にあると思うのであります。すなわち、日ごろ旧地主団体のお世話になっておる保守党にとって、彼らの執拗な要求に対し、はっきりノーと言えるほどのバック・ボーンがあるとは、とうてい思えないのであります。かって、岸総理が自民党幹事長当時、大挙して陳情にまかり越した地主団体の代表者に対し、君らの補償は引き受けると約束をしたことが、彼らの遊説においてしばしば述べられていることは、よもや岸総理もお忘れではないでしょう。その当時の岸幹事長、今の川島幹事長の強い支持によって、彼らは百万の味方を得たと言っておるのであります。総理は、この議場において、補償はもちろんのこと、これに類する処置は絶対にとらないと言明できるかどうか、伺っておきたいのであります。(拍手)  さらに、私は総理に伺いたい。この補償問題に関連し、総理は、農地改革の意義をいかに評価せられ、また、農地改革に続く農政のあるべき姿について、いかなる認識を持っておられるか。戦後の、あの事態の中において、農地解放が行なわれなかったならば、おそらく、小作争議は激烈をきわめ、社会的に大混乱を免れなかったでありましょうし、また、それにより農業生産は低下し、国民生活に甚大な影響をもたらしたと私は思うのであります。(拍手)  今日、農村社会が一応の安定を見、しかも、史上まれに見る増産ぶりを示していることは、農地改革に負うところが大きいのでありまして、農地改革による利益は、ひとり自作農になった者のみではなく、国民一般、旧地主階級にすら及んでいるのであります。しかるに、政府は、第一次農地改革をもって能事終われりとなし、新たなる農政の確立の意欲に乏しく、しかも、今日に至り、日米軍事同盟締結といい、本案といい、次々に反動立法に着手するに至っては、もはや岸内閣も血迷っているといわざるを得ないのであります。(拍手岸総理を初めとする自民党政府は、早急に反省して、本法案のごとき、うしろ向きの立法化は直ちに撤回し、農業基本法のごとき前進立法のために全力をあげるよう勧告しておきたいのであります。御所信のほどを承りたい。(拍手)  次にお伺いいたしたいのは、農地転用の規制と、農地補償に関連する転用税創設の動きについてであります。農地改革によって解放を受けた創設自作農が、その後において、住宅建築、道路整備、発電事業の拡大等により、これを転売する事例がかなり出て参り、その価格が時価によるため、旧地主が著しく不利益をこうむっているとして、地主補償の要求の強い原因の一つにあげられているのであります。しかして、これについては、一方的に創設農家の不信行為として非難することは当を得ないと思うのでありまして、耕作農民の生産基盤である農地の手放しは、よほどのことでありまして、政府がこれらに対する何ら確固たる政策がないからであると断ぜざるを得ないのであります。(拍手)  ここ数年の転用の内容を見ましても、毎年一万二千町歩程度の実績がありまして、そのうち、農地法の許可を要するものは一万町歩以下でありますが、その約半数程度が住宅地、それ以外は学校用地、道路等、公共的性格を有するものであり、そのうち、特に問題になる住宅用地については、国の住宅政策の確立されていない点、それが農民にしわ寄せとなり、ここに現われていると思うのであります。しかも、農地の転用は、農地法によって規制を受けているのでありますが、農地価格については、そのまま放置されているのでありますから、この農地補償に限らず、将来の農政上、この際農地価格について再統制をする必要があると思うが、本日は農林大臣欠席でございますから、この点は岸総理に対して御意見を承りたいのであります。(拍手)  また、昨年十月改定せられた農地転用許可基準は、極力転用を防止するという弱いものであるが、これを厳重なものに改める考えはあるのかどうか。  なお、自民党農地問題調査会が、農地補償の財源として、農地転用税の創設を答申しているが、これは、転売した価格から解放時の価格を差し引いた額の二分の一を旧地主に交付し、その残りは土地改良事業等に投入しようとするものでありますが、もしこのような措置がとられるとするならば、やむなく転売する自作農民は、その離作料さえ剥奪される暴挙であり、かつ、わが国税制上から著しい課税の不均衡をもたらす、最もはなはだしい悪税なりとのそしりを免れないと思います。これに対し、総理並びに大蔵大臣の御答弁を承りたい。  第四に、旧地主の団体に対する政府対策を承りたい。  先ほども申し上げたように、史上まれに見るといわれる偉大なる農地改革の成果を否定し、かつての寄生地主の夢を追う、反歴史的なる一部の旧地主の集まりであるこの運動に対し、政府・与党は、これを抑圧するどころか、陰に陽に支援しておる現状は、まさに正気のさたではありません。(拍手)井出元農林大臣は、その良識に従い、われわれと同様の見解に立って、地主団体は解散するよう行政指導すると言明されたのでありますが、この約束は、自民党の中の不健全分子にまさに妨げられて、ついに実現を見なかったことは、返す返すも残念の至りであります。この団体は、かつて分裂に分裂を重ねていたのでありますが、三十二年の暮れ、選挙を控えたところから、自民党幹部があっせんし、現在の全国農地解放者同盟が結成され、自民党の実力者である田中萬逸氏が会長となっていることは、御承知の通りであります。しかも、この団体の顧問には、現自民党代議士のうち百数十名が名を連ね、圧力団体として、しょうけつをきわめているのであります。(拍手)かかる圧力団体をこのまま放置することが、岸総理は好ましいと思われておられるのか、それとも、この際解散するよう指導されるか、御答弁を承りたい。  なお、この地主団体は院内の自民党民情部の中に看板を隠してもぐり込んでいるのであるが、かかる好ましからざる圧力団体に院内の施設を提供し、庇護することは、国会の秩序を乱るものであるので、自民党総裁としての総理はすみやかに追放すべきであると思うが、御所見を伺いたいのであります。(拍手)  次に、第五に、本法案の内容及び予算についてお伺いしたい。  本法案によると、総理府に調査会を設置し、その調査会は、内閣総理大臣の諮問に応じて、旧自創法により、農地政府に買収された者に関する社会的問題を調査審議する、調査会の委員は二十名、そのほか専門調査員及び幹事を置き、その存続期間はおおむね二カ年とする等の内容を持つものでありますが、これらの内容について、まず第一に、旧地主の社会的問題を調査審議するということは、何をしようとするものであるか。特に、旧地主に限って特別の機関を総理府に設置して、彼らのほんの一部の生活困窮者を救済するために設置することは、何としてもわからないのであります。  去る三十一回国会の本院の本会議における、わが党の高田議員の、生活困窮者に限って特別救済措置をとらず、全農民を対象とした徹底した社会保障をとるべきであるとの質問に、坂田厚生大臣は、旧地主と農民とを問わず、すべての生活困窮者を対象とする生活保障政策の推進に努力する、と答弁しており、また、岸総理は、二十九回国会のとき、私の質問に答えて、旧地主の社会問題としては、生活困窮者で子弟の教育に支障を来たしておる者その他について、社会保障的見地から適当な方法を講ずる、としておるのであります。さらに、三十一回国会内閣委員会において、原委員の質問に対し、松野前総務長官は、旧地主の農村における地位を調査し、その上、全農村の一般的社会問題をあわせて調査する、単なる旧地主の難民救済ではこの調査会設置は無意味である、現在の社会保障が問題である、と答弁しておるのであります。  以上の答弁を総合してみて、どこに、旧地主なるがゆえに、特別の調査によって特別に救済する必要があるか、私は、社会的問題と、わけのわからぬようなことをあえて掲げず、現在の社会保障を、わが党の主張のごとく拡充して、特に今直ちに必要であるならば、社会保障制度審議会に付議し、ここから答申を得て措置することが妥当であると思うのでありますが、岸総理並びに厚生大臣の御所見を承りたい。  また、委員の人選にあたり、従来のいきさつから、当然政府は、圧力団体の代表者及びこれに同調する国会議員を入れるのではないかと勘ぐられるのでありますが、いかなる者を選定するか。地主団体に同調する者によって過半数を占めるような人選がなされると思われるが、これについてお答えを願いたい。  以上をもって私の質問を終わるのでありますが、圧力団体の要求に屈服して、かかる反動的立法にきゅうきゅうとしていることは、天下の大政党である自民党のため惜しみて余りあるものがあります。(拍手)今直ちに撤回の動議を自民党は提出され、悪夢を清算されんことを切望して、私の質問を終わります。(拍手)     〔国務大臣岸信介登壇
  23. 岸信介

    国務大臣岸信介君) お答えをいたします。  農地改革が日本経済の復興及びその繁栄に寄与していることは言うを待たないのでありまして、特に、農村におけるいろいろな問題の最近における好況等も、この農地改革にその基本を置いておるものが少なくないと思います。こういう意味において、われわれは、いかなる意味においても、この農地改革の根本を変更するようなことがあってはならないことは、言うを待ちません。今回のこの調査会の問題につきましても、その農地改革を改めて、昔の封建的な地主制度に逆行するのじゃないかというような御質問もありましたが、絶対にそういうことはございません。また、この改革にあたって補償したことも、法律に基づき公正に行なわれたものでありまして、さかのぼってこれに対して再補償するというような性質のものでないことも、言うを待たないのであります。ただ、問題は、御承知の通り、そういう非常な効果のあったことでありますが、これは長年の日本のなにから申しますと、長年にわたっての農村における土地に、いわゆる農地に対する制度を根本的に改革したものでありますから、それが農村におけるいろいろな社会的な問題を引き起こしておることも、これも事実であります。今御指摘になりましたように、旧地主の団体がいろいろな運動をしておるということも、これは事実であります。そういうこと自体が、社会的に政治的に一つの問題を提起しているということ、われわれは、これを無視するわけにはいかないのであります。従って、この農地改革が農村にもたらしたいろいろな社会的の問題を十分に調査して、その実情を把握することが必要である。そうして、この実情に対してどういう措置をとっていったらいいか、また、とる必要があるかどうかというようなことを、あるいは学識経験者その他各方面の意見を聞いて慎重に調査することが、私は、日本の農村における実情から見て必要である、かように考えて、この法案を提出した次第でございます。  それならどういう措置をとるつもりかというようなことは、もちろん、今日、われわれは予定してこういうことをやるのだ——いろいろなことをおあげになりました。見舞金をやるのではないか、いろいろなお話がありましたが、これは調査会が公平な立場から実情を慎重に調査し、これに対して措置が必要かどうか、措置としてはどういう措置が適当であるかというようなことを一切調査するわけでありますから、政府として、あらかじめこれに対してどうするのだという観念を持って臨むことは適当でないと思います。従って、そういうことは考えておりません。  なお、農業基本法の問題についてのお話がございましたが、これは、御承知の通り、この農業や水産業や漁業に対する基本問題の調査会におきまして、二年間の期間においてこういう基本問題を研究しておりまして、この研究に基づいて私どもはこれに処して参りたい。  それから、旧地主の団体を解散せしむべきじゃないかというお話がございました。しかし、これは、今の憲法の上から申しまして、目的が、決して公共の目的に違反してない共同の主張を持ち、いろいろな意見政治に反映せしめようとして、国民が自由に結ぶところの団体は、憲法において保障されておるところのものでありますから、われわれがその主張をとるかとらないかということは別として、団体を解散せしめるとかどうとかいうことは、これは穏当でないと思います。  この農地改革によって農村に生じた、旧地主の人々で非常に生活困窮者がある、こういうものに対して、社会保障によって生活保障をしていくべきじゃないか、私ども、もちろんそういう必要も認めており、現にそういう方面にも手を伸ばしていることは事実であります。しかし、それだけでもって、この農地改革によって生じたところの農村における社会問題の全部を解決するということは、私はあまりに事態を軽視するものであると思います。従って、調査会においてその実情を十分調査して、適当な方策を立てることが望ましい。単なる団体の圧力であるとか、団体の強い要望であるからといって、それを無条件に認めて云々すべき性質のものではなくして、こうした公正な調査会において、各方面の意見を徴してやるべきものである、かように考えます。  また、この委員会の構成につきましては、御意見もございましたが、われわれ、十分公正な各方面の意見を徴せずに、一部の人々の意見だけがこの調査会において支配的になるというようなことのないように構成を考えるべきことは当然であります。  税の問題、転用の問題等につきましては、大蔵大臣、農林政務次官等よりお答えをさせます。     〔国務大臣佐藤榮作君登壇
  24. 佐藤榮作

    国務大臣(佐藤榮作君) 耕地を転用した場合に、高い地価で売られるその所得に対して特別な課税をする、いわゆる農地転用税という名前のもとの課税を考えておるかというお話でございましたが、政府部内では、まださような具体的な考え方は持っておりません。また、自民党の中におきましても、結論を得たようには伺っておりません。ただいま総理からお答えいたしましたように、これから調査会を作るのでございます。従いまして、その処置についての問題は、まだきまっておらない。もちろん、ただいまのような税の問題でございますれば、慎重に、また十分審議して検討さるべきことは当然でございます。(拍手)     〔国務大臣渡邊良夫君登壇
  25. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 旧地主に対しまするところの社会問題につきましては、調査会の答申を待って決定づけられることと存ずるのでございまして、厚生省といたしましては、いわゆる国民年金制度あるいは低所得者対策等の充実に努めまして、農民を合わせましたところの、広く国民を対象とする社会福祉制度の充実を期したい、かように考えておる次第であります。(拍手)     〔政府委員小枝一雄君登壇
  26. 小枝一雄

    政府委員(小枝一雄君) ただいま石田委員から御質問になりました、農林関係農地転用の許可基準がゆるくて、農地の転用が安易に流れておるきらいがあるのではないか、こういう御質問が一点と、もう一つは、農地価格が高騰して、これが旧地主運動を誘発する原因となっているのではないかというような御質問でございましたが、鉱工業の発展、都市の膨張等に伴いまして、農地が鉱工業や住宅の用地等として転用されることは、ある程度やむを得ないところではありますけれども、一方において、農業生産の基盤としての農地が無計画に転用されるということは、どうしても、国土資源の合理的利用という点から見ても、極力避けなければならぬ問題でございます。そこで農林省といたしましては、農地の転用が、農業生産条件及び農家経済へ及ぼす影響を最小限度にとどめますと同時に、土地利用の合理化と国民経済の安定に寄与するよう、十分留意いたしておる次第でございます。農地転用基準につきましては、左のような観点に立って、昭和三十四年の十月から新しい許可基準を策定して、都市計画等、農地転用に関する農業以外の諸土地利用計画について、極力関係省と事前調整をいたしまして、これらの調整を了しない地域についても、農地近傍の市街地化程度及び農業上の必要性の強弱等によりまして、これを区分して、農地の転用は、市街地化の最も進んだ地域に属するものから行なわれるようにするとともに、農業上の必要性の強い農地の転用は、極力これを抑制することとしておるのであります。また、転用目的につきましても、国民経済または国民生活の安定上、不要不急の用途への転用はこれを許可しないとともに、転用規制の厳格な運営をはかっておる次第でございます。  農地価格が高騰して、これが旧地主運動を誘発する原因となっておるではないかということでございますが、政府といたしましては、農地法の規定に基づきまして、農地の所有権を移転する場合には、買収者の資格を制限するとともに、転売を目的とする農地の取得などを禁じ、また、農地の転用のための売買の場合においても、宅地を造成してこれを転売するごとき投機的な目的農地の取得は、原則として、これを許可しないことにしております。取引面の規制を通じて、農地価格の不健全な高騰につきましては、あくまでこれを規制することに考えまして、農地以外の土地価格一般に対する政策と関連もあり、また、農業経営に及ぼす影響も少なからぬ問題でありますので、目下のところ、これを行なうことは考えておらないのであります。(拍手)     —————————————
  27. 清瀬一郎

    議長清瀬一郎君) 中村時雄君。     〔中村時雄君登壇
  28. 中村時雄

    ○中村時雄君 私は、民主社会党を代表いたしまして、ただいま説明されました農地買収者問題調査会設置法案につき、岸総理、福田農相等に対し若干の質疑を試みたいと思うのであります。(拍手)     〔議長退席、副議長着席〕  御承知のごとく政府は、去年の一月九日に、いわゆる農地解放者の救済方法として、調査審議せしめるための調査会を総理府に設置することを閣議決定し、関係法案を提出すると同時に、その経費一千万円を三十四年度予算に計上したのでありますが、これは、全国農地解放者同盟と称する旧地主の中の一部不半分子が集まった圧力団体の威嚇と、これに迎合する自民党農地問題調査会の要求に、岸総理以下、蔵相、農相等が屈服した結果であることを天下に余すところなく示したものであろうと思うのであります。(拍手)  本案に対しましては、世論はあげて反対を唱えたにもかかわらず、政府・与党は強引に衆議院を通過させ、彼らに対し遺憾なく媚態を呈したのでありますが、幸いにも、参議院は完全にその良識を発揮され、本案はついに廃案に帰したことは、御承知の通りであります。(拍手)しかるところ、政府・与党は、先国会における野党の勧告にもかかわらず、また、性こりもなく、安保条約や三十五年度予算案等の重要案件の審議を控えた今国会のどさくさにまぎれ、全く同一内容の法律案と予算を再提出せられるに至ったのであります。その妄執たるや、まさにおそるべきでありますが、一体その原因は那辺に存するのでありましょうか、総理以下関係閣僚の良識を私は疑わざるを得ないのであります。(拍手)  元文部大臣、自民党参議院議員下條康麿氏を会長とする全国解放農地国家補償連合会なるものが、昭和二十九年の終わりごろに、旧地主団体を糾合して作られましたが、これは、参議院選挙と金銭をめぐって内紛を起こし、三十一年に分裂し、翌三十三年の暮れには、自民党のあっせんで、全国農地解放者同盟なるものが再び作られたのであります。その間、香川、石川県等の地主中の一部の急進的不平分子が集団的に小作地取り上げを行ない、一時は流血の惨事を招いて、農村社会の秩序を紊乱したことは、今なお議員諸氏の記憶に残っていることと思います。その際は、幸いにも、衆議院の農林委員会の委員派遣、あるいは農林省、県農業委員会等の適切な処置や世論の批判によりまして、これらの策謀は全く完敗に帰したのであります。しかるに、その後、これらの地主団体は、戦術を転換し、地方的な土地闘争を改め、旧地主層を大きなバックにしている自民党の得票をえさに、政府国会に対する圧力団体として、もっぱら中央の政治工作に全力を集中してきたのであります。かくして、彼らの運動はその功を奏し、その法案と一千万円の予算案を提出することになったのでありますが、この間、これらの団体は、善良な農民をだまし、国家補償ができる、旧地主制度が復活される、小作地取り上げも可能だ等の虚偽の宣伝にこれ努め、資金をかき集めてばらまいたり、みずから着服したりしたのであります。岸総理は、地主運動のこのような醜悪な裏面を承知されておるかどうかは別として、この法案提出の代表者として、かくのごとき指弾すべき運動に加担したという非難を免れることはできないと思うのであります。(拍手)総理は、本問題について、しばしば、旧地主制を復活したり、農地補償を行なうものではない、旧地主の中には生活に困っている者もあって、こういう人たちに対しては社会保障の形で考えるべきである、と答弁されておられるのでありますが、一部の与党議員がその有力なメンバーである限り、有力なこのスポンサーたる旧地主のあの手この手の補償要求を、むげに、はたして退けることができるかどうかを、お尋ねしたい。  また、本案の内容それ自体は調査会を設置するだけのものでありますが、世間では、これを機会に、政府が都合のよい理屈をでっち上げ、次第に既成事実を積み上げて、最後には、買収農地国家補償を実現するのではないかという疑念を持っておるのであります。自民党の再軍備論とその軌を一にするものがありますが、総理は、国民のこのような疑惑に対し、断固として、心配無用と言明ができますかどうか、まず、所信のほどを伺っておきたいのであります。(拍手)  次に、終戦後のインフレ政策によって、弱い立場の一般国民は徹底的な損害を受けましたが、農地改革もまた、革命に比すべき急速な制度の変革をもたらしましたために、多くの摩擦を生じましたことは事実であります。しかしながら、本問題に関しましては、自民党の調査によって見ましても、旧地主七千三百四十六人のうち、生活保護法適用者はわずかに千人中一人、母子福祉年金の適用者すら〇・二%にすぎないと発表しておるのであります。しかも、その原因は、農地改革によるものであるかどうか判然としないといっているのであります。また、農林省が取りまとめましたところの昭和三十年の臨時農業基本調査による旧地主の実態は、耕地面積は広く、農産物販売者や専業農家が多く、また、兼業農家でも、村長、助役、教師等、社会的、経済的に上位にあることが証明されております。さらに、解放規模の大きい農家は、山林経営面積が著しく多く、従って、一般農家と比較してはるかに優位に立っているのみならず、今日、なお山林地主として多くの自作農民を隷属せしめ、農村における封建的な残存勢力を形成しているとともに、階級分化を大きくしている最も大きな原因を作っているのであります。(拍手)しかのみならず、昭和二十八年には、最高裁判所は、農地改革の合憲性について明確な判決を下し、これら地主側の悪あがきに対しまして最後のとどめを刺したはずであります。岸総理は、旧地主の内容が明確に出ているこの自民党の調査、農林省の調査の実態の上に立って国家補償が必要かどうか、また、この裁判所の判決をいかに見るか、御見解を承っておきたい。(拍手)  以上によっても、旧地主に対して特別の扱いをする必要は少しもないのでありまして、全国民を対象とする社会保障制度をますます充実し、その一環として措置することこそが、万人を納得せしめる方策であると思うのであります。旧地主の中の生活困窮者を社会保障の形で救済するという総理の累次の言明がほんとうでありますなれば、現在、政府の諮問機関として、厚生省管轄に社会保障制度審議会という機関があるのでありますから、これに諮問をして旧地主の実態を調査することが何ゆえできないのでありましょうか。(拍手)旧地主のゆえをもって、特別の調査会を設けて、特別に調査をする理由は、一体どこにあるのでありましょうか。また、具体的にはどのような委員を人選し、いかなる事項について調査を実施されるのでありましょうか。また、調査会に数百万円の委託調査費が計上されておりますが、いかなる団体、または、いかなる機関に交付されるつもりでありましょうか。また、生活困窮者の援護対策を調査する機関の設置にかかる本案を、厚生省所管の法律案とせず、総理府所管の法律案とした理由、この措置国家行政組織法違反と思うのでありますが、これらの諸点について、岸総理並びに内閣官房長官、厚生大臣、農林大臣より明確なる御答弁を願いたいのであります。(拍手)  もし、万一、いかなる名目であるかを問わず、国家補償のごときものが実現するなれば、すでに済んだはずの補償をまたまた国民の負担によって追加払いし、貴重な血税をどぶに捨てることになるのは論を待たないのであります。反当たり一万円としても二百億円、地主団体の要求のごとく反当たり十万円とすれば、実に二千億円の巨額に上り、農林省予算の二年分に該当するのであります。わが国のかつての地主制度が、農村の封建的身分制と高率小作料の悪弊の上に立ち、農業生産力発展と農村の民主化を徹底的に妨げてきた事実に顧みて、これは滅ぶべくして滅んだものであるといわざるを得ないのであります。(拍手)新しい農村、前進する農政のためには、農村における反動的勢力を擁護する態度は一擲され、岸総理の言われる社会保障を行なうという建前から、筋を通して、調査会を社会保障制度審議会に設置するか、永久に撤回されることこそ、最も私は賢明なる策だと思うのであります。君子は豹変すると申しますが、あやまちを改めるにはばかることなかれ、総理は、本案を社会保障制度審議会の中に置くか、あるいは、すみやかに撤回される御意思なきやいなやをお伺いしておきたいと思うのであります。  政府・与党は、過般、ベトナム賠償条約承認にあたって、国民の疑惑を十分に晴らそうとはせず、採決を強行いたしましたが、本案に対し、再びこのような理不尽な行動を繰り返すことがあるとすれば、国民の議会に対する信頼は薄れ、政治の威信は全く失墜することは、火を見るよりも明らかであります。総理は、本案の取り扱いにあたっては、あくまでも慎重を期せられ、ベトナム賠償問題のあやまちを再び繰り返さないことを、ここに御確約を願いたいのであります。  次に、私は、最も重要な問題として、大蔵、農林両相にお伺いをしたいのであります。  そもそも、このような地主団体の運動を助長せしめるに役立った売買農地の価格に関する規制措置についてであります。近年、農地改革によって創設されました農地の中のかなりのものが転売され、しかも、その価格は地主の売った価格に比べて相当に高いという事実が旧地主に不平不満の念を起こさしめている原因だということが指摘されているのであります。しこうして、現在、農地の所有権、賃借権等の移転については農地法によって規制されておりますが、農地価格については、政府管掌の農地以外、全く野放し状態であることは、御承知の通りであります。これは、昭和二十五年、シャウプ氏の税制改正案勧告の線に沿って土地台帳法の一部が改正され、土地賃貸価格の法定制度が同年七月三十一日以降廃止されたのであります。これによって、以上の賃貸価格に基礎を置く農地価格の統制規定が事実上無効となってしまったのであります。このことが原因であります。当時、農林省は、その影響の重大性をおもんばかり、地価の統制を織り込んだ農地改革法の改正案を提出したのでありますが、一部の人たちの策動によって審議未了となり、ついに統制廃止となった経緯を思い起こさざるを得ないのであります。今日、自民党の一部の諸君は、旧小作人、今の自作農は不当利得をしてけしからぬと言っておりますが、このように、その種は、ことごとくみずからがまいたものであります。このような事実には全く知らぬ顔をしていることは、言語道断と申さなければなりません。自民党農地問題調査会の意見では、創設農地を転売した場合に取り立てる土地増価税で地主補償の財源をまかなおうとしているようでありますが、自分で農地価格の統制を廃止しながら、万やむを得ず農地を手放す農民については、これを不心得者扱いにいたし、あまつさえ、離職補償的要素を多分に持つ売払代金に対し、懲罰的な税を課すというのは、まさに矛盾撞着もきわまれりというべきであります。(拍手)  今日においては、創設農地に限らず、一般農地の転用・廃用も逐年増大の一途をたどっており、農林省は、過般、農地転用許可基準を新たに改定し、実施しておりますが、土地需要の趨勢は一向に衰える気配はないのであります。農政の転換期といわれる今日この際、不急不要の用途に対する農地の移動に対し厳重な規制を実施するのはもちろんのこと、農地価格そのものの再規制並びに離農者に対する差益補給のごとき措置をとることにより、地主運動に対する口実を封ずると同時に、農業経営の企業としての確立、その近代化を促進する意図はないでありましょうか。農地をして、単なる財産価値としてではなく、農業生産の基本的な手段として、その効用を十分に発揮せしめ得る方策を講ずべきであろうと思うが、総理大臣、大蔵大臣、農林大臣のお考えを、この際はっきりと伺っておきたいのであります。  最後に、資本主義下におけるところの農業は他産業の発達から次第に取り残されるというのが、資本主義経済の悲しむべき論理であります。それゆえに、世界各国は、農業に対しては保護政策をとっておるのであります。言うまでもなく、農業生産は、土地と労働と資本の組み合わせによって成り立っておるのであります。日本における農業経営の実態は、人手があり余るにかかわらず、土地と資本が零細であるのであります。農業によって豊かな生活保障されるならば、何を好んで農地を手放す必要があるでありましょう。その最も大きな原因となるものは政治の貧困そのものにあると申さなければなりません。(拍手)農民が、将来の希望もなく、その結果、農業を放棄して他産業に移らざるを得ない最後の切り札として、農地の売買が行なわれるのであります。それを不心得者ときめつける者みずからが、私は、不心得者であり、農業に対する思いやりのない本質を物語っておるものであろうと思うのであります。(拍手)  農業の生産性と所得の拡大のために、農業生産の面において、農産物価格政策の上において、はたまた農業構造の改革の点において、今後われわれのなすべき仕事は山積しております。政府においても、農林漁業基本問題調査会を設置して、多大な予算と人員を計上し、おそまきながら検討を始めたのであります。最近においては、わが農業にとっても貿易自由化の風が遠慮会釈なく吹きまくろうとしており、一九六〇年は、農政の上においては、まさに戦後における第二のエポツクを画すべき時代に入っているのであります。このような時期において、地主問題のごときは、全く九牛の一毛にも当たらぬ、ささいな問題にすぎず、これをぎょうぎょうしく取り上げる自民党・政府の態度は全く旧時代感覚の見本であるというほかはないのであります。(拍手)  どうか、岸総理以下、この際、再思再省せられ、本法案はこれをいさぎよく撤回せられることが最良の政治であること、しこうして、農業を、全体として他産業との較差をなくし、均衡のとれた産業たらしめるよう政策の確立に努められんことを最後に申し述べ、また、本日は農林大臣は出席をされておられませんが、聞くところによりますと急性肺炎の由、一日も早く御全快を祈り、私の質疑を終わる次第であります。(拍手)     〔国務大臣岸信介登壇
  29. 岸信介

    国務大臣岸信介君) お答えをいたします。  先ほどもお答えを申し上げました通り農地改革は正当に行なわれたものであって、その価格につきましても、最高裁の判決もございますし、私ども、これを再補償する考えは毛頭持っておらないことを、ここに明らかにいたしておきます。  旧地主の実態について一部調査したものがございますが、これは、もちろん、全国にわたって全部の地主の実態を正確に調べたものではございません。私どもは、先ほど来いろいろの御論議もありましたように、農村において、農地を買収された者どもの急激な社会的な変化に基づいてのいろいろの問題が起こっておる事態を、全然無視するわけにはいかないのでありまして、従って、その実態を正確に調査し、これに対して何らかの措置を講ずる必要がありやいなや、ありとすれば、どういう措置を講ずることが適当であるかというようなことを、公正な立場から調査審議するために、この調査会を置くわけであります。非常に旧地主が生活上困っておるとか、あるいは社会上非常に困窮の状態にあるという者に対して、社会保障制度によってこれを救済していくべきであるという考えは、私、終始一貫持っておるのであります。そういう意味において、社会保障制度の拡充により、また、それによって地主の現状、実態を救済することが適当である、あるいは特殊の保障制度を設ける——社会保障制度も、従来のものではいかないので、何らかの社会保障的な意義を持っておる制度を設ける必要があるかどうかという点を、この調査会におきましては実態を調査するとともに、措置として調査研究さるべきものである、かように考えております。  社会保障制度調査会にかけたらいいじゃないか、こういう特別の調査会を作る必要はないじゃないかということでありますが、この社会保障制度調査会は、御承知のように、従来ありますところの、日本の各種の社会保障制度の完備についての意見を聞くための調査会でございますから、そういう従来の社会保障制度の拡充なり、あるいはそれの適用なりによって、地主の社会的変革に応じてとるべき措置が十分であるかどうか、また、それが適当であるかどうかというようなことをこの調査会においては調査すべきものでありまして、そういう意味において、従来の、すでにきまった社会保障制度調査会に審議を頼むということは適当でない、かように考えております。  農業に対して、他の産業と比較して保護政策をとらなければならない、また、資本主義経済のもとにおいて、農村におけるところの所得が他の産業に比して格差がだんだんついておるというのは、日本だけでなしに、世界の大勢でございます。これに対して、それではどうして農村の生産性を高めていくか、あるいは所得を拡大していくか、あるいは、これに関連して、流通部門における改善を加うるべき方策をどうするかというような、幾多の基本問題については、中村君も御承知の基本問題調査会において調査をいたしておりますが、農業、漁業に対しては特別の方策を講ずべき時期に到来しておる。私どもは、その審議会の結論を待って処置して参りたいと思います。  転売価格の点に関しましては、大蔵大臣その他からお答えをすることにいたします。(拍手)     〔国務大臣佐藤榮作君登壇
  30. 佐藤榮作

    国務大臣(佐藤榮作君) お答えいたします。  解放農地の転売についてのいわゆる増価所得に対して特別課税をしてはどうかという御意見については、先ほど石田さんにお答えした通りでございますから、省略さしていただきます。  ところで、最近、農地といわず、いわゆる土地、不動産の値上がりが非常に目に見えて大きいのであります。そういう意味から、土地についての価格を規制したらどうかというような意見が一部にございますが、政府当局といたしましては、具体的にこの問題と取り組んではおりません。また、土地の譲渡その他の売買所得に対しましては、現行の所得税法のもとにおきましても、他の譲渡所得と同様の課税の措置がとられておりますので、今後の問題として、私どもも十分検討はしてみたいと思いますけれども、いずれにいたしましても、まだ結論の出ておらない問題であることをお答えいたしておきます。(拍手)     〔国務大臣渡邊良夫君登壇
  31. 渡邊良夫

    国務大臣(渡邊良夫君) 社会保障制度審議会は、社会保障全般にわたりましての答申を求めておるところの審議会でございまするので、特にこの調査会をやめまして、そうして、この社会保障制度審議会に移行するという考えは、現在持っていないのでございます。御承知の通り、転落農家にいたしましても、あるいは一般の低所得者階層、ボーダー・ライン層にいたしましても、ことしは世帯更生資金の貸付あるいは母子資金の貸付のワクも増大し、あるいは生活基準の第六次改定による三%の料率をも見たような次第でございますので、お答えしておきます。(拍手)     〔政府委員福田篤泰君登壇
  32. 福田篤泰

    政府委員(福田篤泰君) 総理府関係は、総理からほとんど網羅的に御答弁になりましたが、重複しない部分だけお答え申し上げます。  まず第一に、総理府に設置した理由いかんという点でありますが、御承知の通り、この調査事項が大蔵省、農林省、厚生省等にわたっておりますので、総理府に設置することを適当と認めた次第でございます。  なお、調査費の四百万の委託の方法、あるいは事項内容の点でありますが、これは、調査会が設置されましたあとで、調査会できめていただくつもりでございます。  なお、人選につきましては、総理の答えられました通り、公正・厳密に学識経験者より選ぶ方針でございます。     〔政府委員小枝一雄君登壇
  33. 小枝一雄

    政府委員(小枝一雄君) ただいま中村議員の御質問になりました点は、大体、ただいまの総理を初め各閣僚の答弁で重複いたしますので、その点は差し控えたいと思いますが、特に御質問になりました所管の問題でございます。これは、御承知のように、農地問題に関連いたさないので、内閣に所属することが当然と考えております。  次に、農地財産としてだけ考えることでなくして、これは生産の基盤として考えるべきではないか、こういう中村さんの御説に対しては、私も同感であります。これを、ただ単なる財産としてでなく、真に農民がこれによって立つ、これによって生活するという、そういう観点に立って考えなければならぬと考えております。  次に、農林漁業の問題について、いずれの国においても保護政策は実行しておるのであるが、わが国としてもこれを強力にやるべきではないかという御意見も、これも私同感でございまして、従いまして、政府といたしましても、あるいは輸出入の面におきましても、あるいは農林当局といたしましての施策の面におきましても、鋭意これに努力をいたして参っておるのであります。政府といたしましては、御承知のように、農林漁業基本問題調査会を作りまして、その結了を持って基本的な問題を検討することにいたしております。しかし、御承知のように、農業は曲がりかどでありまして、重大なときでありますので、すでに、昭和三十五年度の予算にも、あるいは畜産の関係、あるいは漁業の関係、農業の生産基盤の問題、あらゆる問題につきまして、いろいろ予算を付して、その実行に取りかかる所存でございます。
  34. 中村高一

    ○副議長(中村高一君) これにて質疑は終了いたしました。      ————◇—————
  35. 中村高一

    ○副議長(中村高一君) 本日は、これにて散会いたします。     午後四時三十七分散会      ————◇—————  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君         文 部 大 臣 松田竹千代君         厚 生 大 臣 渡邊 良夫君         通商産業大臣  池田 勇人君         運 輸 大 臣 楢橋  渡君         労 働 大 臣 松野 頼三君         建 設 大 臣 村上  勇君         国 務 大 臣 赤城 宗徳君         国 務 大 臣 石原幹市郎君         国 務 大 臣 中曽根康弘君  出席政府委員         内閣官房長官  椎名悦三郎君         法制局長官   林  修三君         法制局次長   高辻 正巳君         総理府総務長官 福田 篤泰君         総理府総務副長         官       佐藤 朝生君         外務省アメリカ         局長      森  治樹君         外務省条約局長 高橋 通敏君         農林政務次官  小枝 一雄君