○安藤
参考人 御指名によりまして申し上げます。
私は
北海道で
道漁連と
信漁連の
会長をいたしております
関係から、現地の
漁業協同組合経営の体験を基礎にいたしまして申し上げてみたいと思いますが、国会の諸先生方には常に特段の
沿岸漁業振興について御配慮を願って、まことに感謝にたえません。この際厚く御礼申し上げます。実は、先ほど片柳
会長から
漁業協同組合整備促進法案につきまして詳細にわたって
説明がなされましたので、私は逆にその裏の方の仕事を通じましてこの法案の御審議の上に御参考になることを申し上げた方がいいと思いまして、それを申し上げてみます。
申し上げるまでもなく、
沿岸漁業の振興、漁民の生活の向上は
漁業協同組合の基盤の強化にかかっていることは当然であります。しかし、実情は、戦後引揚者の入植などのために人口が倍増した、それから資源は逆に枯渇してきている、しかも漁家の負債は累年増加しまして、一人当たりの収入逓減とともにますます悪循環を激しくしている、これがつまりはね返ってきまして、
組合不振の最大の原因にもなっているようにも存ずるわけであります。従いまして、
組合は逐年負債の累増に悩み、経営基盤の弱化を招いているのでありまして、まことに一日もほうっておけない現状にあるのであります。もとより、その対策は、
沿岸漁業の資源の培養であるとか、漁撈技術の改良普及、あるいは共同加工の拡大振興、さらには過剰人口を収容するための副業の取り入れなど、いろいろな施策の必要でありますことは申すまでもないのであります。しかし、当面の問題は、これら
沿岸漁業振興のにない手でありますところの
漁業協同組合の負債と
欠損金を
整理するということが先決問題であると私は確信するのであります。
北海道としましては、これらの急に応じまする必要上、条例によりまする
漁協の
整備促進をしておる例があるのであります。しかし、これは残念ながら条例でありますから、
法律と違いまして、含み
欠損金なんかがありました場合に、これに対する課税の免除というような恩典に浴するわけにいかない。従いまして、地方財政の非常な窮乏の中から助成しながら、税金に相当食われてしまう、こういう弱みを持っているわけであります。もう一つは、
制度金融における
条件の
緩和ということが、この条例においてはどうお願いをしても弱い。これは非常に残念だと思うのであります。そういうふうに、条例としてはいささか隔靴掻痒の感がある。ここで、たまたま、先生方は御存じの
通り、数年前に
農協は財源がありましたために単協の
整促に出発した。しかし、
漁協はそれ以上困っておるにかかわらず、その恩典に浴し得なかったという
関係もありますので、これは何んとか中央に持ち込んで、はなはだ無理でありましても、ぜひお願いして、当局の国会に対する提案によって制度化していただきたい、さように存じたわけであります。
そこで、一応、
北海道がばかにこれに熱を上げ過ぎた
関係もありまして、
北海道だけの局地問題じゃないかという誤解さえ起きたように私伺っておりますので、そういう
関係から、なぜ
北海道がそのように熱を上げたのだということを、当時の二、三の例を申し上げてみたいと思います。
実は、
北海道としましては、
信漁連の
関係から申し上げますと、特融の二十五億円ばかりを加えまして百二十億くらいの
融資をしておるわけです。実際にこの窮乏の漁村を
対象にして百二十億円の金を回転させるということは、実に難事中の難事なわけですが、そういうことのために、ときにはどうも焦げつきを起こしてくる。しかも、その焦げつきの原因が、先ほど申しましたような漁村の不可避的な悪
条件にあるというならば、ここに何らかの抜本塞源的な手を打つ必要があるというように
考えまして、一応経営の分析をしてみた。これは道庁にも非常な御協力を願いまして、
北海道の官民の総力をあげて分析してみたわけです。そうしますと、
程度に差がありますから、これをまずもってA、B、C、D、E、Fというような六階級に分けてみたわけです。全体で申し上げますと、信用事業をやっておるものだけを
対象にしまして百六十二
組合あるのですが、そのうち、Aクラスの、財務状況が良好で自分でやっていけるという
組合は三十四
組合。その次のBクラスは、財務健全化のためにちょっと努力すれば
指導でやっていけるというもの、これに属するものが二十九
組合。その次のCクラスは、
整備のため特別の
指導助成をする必要があるもの、特別の
指導助成をしなければ当分一人で立てない、つまり呼び水的な利子の補給でもしなければならないもの、要するに一年ないし五年の
整備を要するものが二十六
組合あります。それから、Dクラスになりますと、同様な
整備期間が六年ないし十年を要するもので、これが三十九
組合に達します。それから、Eクラスの
組合になると、十年でもちょっと完成しない、十一年をこえるのじゃないか、これが約二十四
組合。最も気の毒なのがF
組合でありますが、これは資源の枯渇とかいろんな悪
条件が重なっておりますし、これはちょっと別個の方法で手を打つしかないのじゃないかと思われるものが十
組合あります。そうなりますと、百六十二の
組合のうちに、六つの階級が分析されて出てくるわけです。
ここでこれをさらに大きく分けてみますと、自分で何とかやれるものと、援護射撃を必要とするもの、この二つに分けますと、
組合の自力でやれるものが三九%、これはA、Bクラス。それから、特別の
指導助成によってやれるものが五五%、これは、C、D、Eクラスですが、とにかく、こちらで
利子補給したり
指導を加えればある
程度の年限で必ず立ち上がれるというものであります。Fクラスだけは、ここでは残念ながら別な方途によるものとして除いたわけです。
しからば、C、D、E
組合の財務状況はどうなっているのか、どれだけの負債に苦しんでいるのかと申します一と、時間がありませんので簡略に申し上げますが、C、D、Eの三つの段階のものの固定化
債権、損失金等の不良
資産は三十八億七千九百万円で、これは非常な膨大なものになる。これに対しまして、
系統負債の方は二十六億三千八百万円、
系統外負債が三億三千七百万円、その他の負債一億四千八百万円、合わせまして三十一億二千三百万円の多額に達しております。従いまして、信用力の低下から、新規借入
資金の導入に対してはこれが非常なネックになる。これは別個に信用保証協会などの特別なああいう制度があってだいぶ助かっておりますけれ
ども、これがために非常に大きなネックになっている。それから、金利負担に対する経営の不安というものが日に日に累積してくる。そういうようなことで、実際は非常に困っておるという財務
内容がおわかり願えると思うのであります。
そこで、しからば、こちらでどのようにしてC、D、Eを興すのだといいますと、まずもって、負債を
対象として
考えていきます場合に、全部の負債を
対象に
利子補給など、財源上とうてい許せるものじゃない。従いまして、悪質であるとか、あるいは負債の原因が非常に気の毒だと思うようなものを取り上げて、それに対しては
利子補給をしようじゃないか、それは国なり道なりあるいは金融機関のサービスによりまして利子を相当低減していくならば、ここに活力を与えることができるというように
考えたわけです。そこで、とりあえず取り出したものが
災害資金です。この
災害資金というものは、
利子補給を国からいただいておるのだからいいじゃないかとおっしゃいますが、事実はなかなかまずいことがありまして、約四割くらいはいささか補償からはずされるというものが出てくるわけです。これは単協が苦しまぎれに
災害資金を下まで貸さないで、用途を間違っていたということから起きるのです。そういうのは残念ながらこの際別個の負債
整理によって活を入れるしかないじゃないか。そういうのが二億三千九百十五万円あるわけです。それから、
系統プロパー、これは主として
信漁連の方が多いのですが、これは無保証ですから、保証も何も受けずにほとんど無担保で貸したわけですが、これが三億一千五百六十四万円、これをやっていただかなければ、これがむしろ大事な役割を果たしておる。これは回転してすぐ貸すのですから、決して取りっぱなしの金ではない。従って、これはどうしても活を入れるのに必要だ。いわゆるこの
系統プロパーの興し方をしなければならぬということになります。それから、
系統外負債に対しましては、これは手形あたりでいろいろなものを借りまして返さなかった、それが漸次悪質の金になりまして、いじめ道具にされた。それを、かわいそうだから、何とか半分くらいは乗りかえようじゃないか、
系統資金に乗りかえよう、あとの半分は
条件緩和をしようじゃないか。これはこの金額の中に入っていません。一億六千八百五十七万円。ほかの半分は貸し手の方へ一つ金を見せつけて負けてもらおうじゃないか、ある
程度条件を
緩和しようじゃないか、そういうふうに
考えておるわけであります。それから、内部負債、これは七千四百七万円ばかりでありますが、これは大体貯払いの
資金を使い込んでおる。苦しまぎれに
組合員からの貯金を何かの赤字の方に食い込んでおるというのがある。こういうのを入れますと、総体で、
災害資金の悪質のもの、それから
系統プロパーの全くとまったようなもの、それから
系統外負債の半分くらいのもの、それから貯払いの
資金の半分くらいのものというようなものを合わせますと、C、D、Eクラスの最もつらい借金と思われるのは七億九千七百四十四万六千円になるわけです。これに活を入れますと、
債務でどうにもならぬ、すでにあきらめ切ったと思われるような単協が、にわかにふるい立ってくることは明らかだ。私はこれは何とか取り上げなければならぬということを
考えたわけです。そういうことになりますと、しかもそれから受ける利益はしからば
北海道全体の何%に達するか。C、D、Eクラスは漁家数の六割に達するわけです。だから六割の漁家が一応カンフル注射によって立ち上がれるということになりますから、六割の漁家が立ち上がりますと、今度は
系統全体の力がさらに倍加してきて、その他の一切の活動も積極化する。従って、他の四割の漁家に対しても十分なサービスができる時代が来ると私は
考えておるわけです。従いまして、その六側を占める、しかも人口十七万人に対する施策というものは非常に必要だ。この点をわれわれは道庁を通じまして中央にお願いしたわけです。
しかし、当時府県の方ではなかなかここまで持ってこない。けれ
ども、
協同組合運動の推進過程におきまして、運動がどんどん盛んになれば、一応個人の悪質金融というものは
系統に置きかえられるのです。どうしても
系統の方へ振りかえられてくる危険が多分にありますが、むしろ、私は、それはいい傾向じゃないか。
系統がしょってこれを
整理してやらなかったら、漁家負債の
整理というものは永遠にできないじゃないか、さように思います。
北海道の方は百二十億ばかりの信連を通ずる
系統の
融資があるから、個人負債というものは
系統に
系統にと正常金融に上がってきている。その過程におけるちょっとしたつまずきであるが、私は、これは必ずこの過程を経なければほんとうの
系統金融の正常化はできないと思っているわけです。従いまして、今度の
整促、こちらの法案としてお願いして、これが実際にいきました場合、ほんとうの
組合金融というものは成り立ってくるのじゃないか、さように
考えておりまして私はこの点を中央に持ってきたのでありまして、決して
北海道だけの仕事をやったんではないということを御了承願えると思うのであります。
次に、私は、先生方に御参考になる一つの条例施行の状況を申し上げてみたいと思います。これは、今度の法案をいよいよ制度化しました場合、ほとんど同じ結果になりますから、それで、どんなことをしたかということを申し上げてみたい。
整促条例として
北海道庁が作ってくれましたのは、
昭和三十一年の四月でありましたが、その以降、三十一年、三十二年、三十三年、三十四年と、こうなっていますが、私の持ってきました資料は三十三年まででありますから、この三年間の実績を申し上げて御参考に供したいと思います。三年間におきまして道庁が利子を補給されたのが千三百二十二万九千円です。これはまことにありがたい旱天の慈雨であったと思うのです。このためにほんとうに
対象漁家というものがふるい立ったわけですから、そういうことでまことに感謝にたえぬのです。そこで、しからば、それに対する
対象組合は幾らであったかといいますと、三十一年は八
組合、三十二年は十
組合、三十三年は八
組合、都合二十六
組合の
指定があったわけです。二十六
組合の
指定がありましてやっております間に、三つの
組合が脱落した。これはやはり相次いで非常な不漁に襲われましたために、ついについていけなかったのが三つ脱落したということになります。しからば、その
対象とした負債
整理の
内容は何であるかと申しますと、二十六
組合で
欠損金がトータルで三億九千七百八十三万三千円、それから、固定化
債権で九億四千四百九十二万四千円、固定化負債で十億八千五百四十三万六千円、これらが
対象になったわけです。これを
対象にしまして三カ年間負債の
整理をやってきた。そうしますと、その結果は、三十四年度末の計数で申し上げますと、この脱落した三
組合を除いて、事業の利益、つまり
組合の事業利益というものは、
計画では五千九百九万六千円でありましたが、実績は五千七百六十五万三千円、九七%の、実績を見た。これはほかの
組合はとうていここまで来てないのです。
指定された
組合がそれだけふるい立ったということは、この数字によってはっきり申し上げられる。固定化
債権の回収、——
組合が金を借りまして着業
資金や何かで人に貸した内部の固定化
債権がどれだけあったかと申しますと、
整理する
計画は二億四千三百六十八万二千円、これが実績の累計が一億八千三百七十二万九千円で、七五%の
計画の実行ができたわけです。これはほんとうに窮乏の中からよく漁村でやってくれたものだと思いまして私は喜んでおります。それから、
出資の増口はどうしたかと申しますと、
計画では五千十四万四千円でありましたが、実績の累計が三千九百三十二万円、これは三
組合の脱落を除きまして七八%の
出資増強をやった。まことに、食えない中から
再建意欲に燃えて
組合員が
出資したということは、これはほんとうに出した金ですから、ほんとうに血の出るようなとうとい金であると思うのであります。従いまして、負債の
償還はどうであるか、このような成績の中に負債の
整理は幾らであったかと申しますと、
計画では三億二千六百二十九万五千円、実績が二億七千四百四十九万三千円、八四%の
償還の成績をあげたわけです。
計画に対しまして八四%だけ外部賃債を払った。私は、この結果から見まして、これが、先ほど申しました条例でやりましたために、
条件の
緩和が非常に困った、それから、税金の免除もない、そういうことが、今度の中央の法案によりましていよいよ制度化した場合は、そこにさらに補強されることにもなりますし、私は非常にありがたいことだと存じますが、一つこの内応を御参考にしていただきますと、大体似たやり方だと思うのです。
それで、私は、道条例の施行に対してこういうふうに
考えているのです。どうしてここまで来たろうか、そうしますと、金融機関の
条件の
緩和というものがこれでやはりできたわけです。信連は自分のことですから、
法律がなくてもやります。それから、中金さんの方も、やはり
系統ですから、こちらがはっきり誠意を示せばやってくれますというようなことで、そこに対しては金融機関の
条件の
緩和は大体はできたのです。それから、第三者の
債権者の
条件緩和は、これは幾分更生
資金を貸しますが、これは、金を見せますと、その金がほしいから、ここで負けようということが起きてくる。これは利外の利で、案外動き出すとそういうものが
緩和される。これは外に対する効果であったと思います。これは表面には見えない。ところが、内に対しましては、最も大事なことは、道庁、中金、信連、
漁連、
基金協会、一切のもののエキスパートが集まりまして、それが全部
対象組合に行って対症療法をやるのです。立案します場合、もう長
期間の出張をしまして、一切のものを裸にして分析してくる。これは
漁業協同組合育成対策
協議会ということで行くのですが、官民の総力をあげて、全く感情を抜きにやりますから、初めのうちはいやがるが、二、三日過ぎると、非常に安心して、一切がっさい出してくる。そうして、全部さらけ出して自分の診断を受ける。ちょうど医者が患家に行って患者を見るようなやり方なんですが、そういうことで、それが出ますと、この経営の分析の結果を
再建対策に結んでくる。いわゆる
組合員全員にこれを啓蒙する、教える。従来は幹部だけでふたをしておるわけです。それですから、自分だけ借金を払っても、ばかくさいというようなことで、払わない者がだいぶおったのです。それを全体に教えますと、全体が動いた方が自分に得だというような利害に結びます。従って、こういった経営分析の結果を全体に教えてくる。そうしますと、初めは一応下がります。ひどいやつだと人身攻撃をやる者もありますけれ
ども、やはり人身攻撃はいかぬ、ほんとに一緒になって火の玉になっていく以外にないのだという結論になるわけです。そこに育成対策
協議会の使命というものは非常に大きい。これは
利子補給以上のものになってくる。しかし、
利子補給がなくては相手がついてこないのです。
利子補給だけで
整理しようとは思いませんけれ
ども、
利子補給のありがたさがあるために、全体を啓蒙する糸口になる。むしろ育成対策
協議会の分析とか経営合理化の方が非常に大きく私は響くと見ているわけです。これは内に対する効果です。従って、この成果から見ますと、先ほどの、二億何がしかの借金を返したのに、わずかに千三百万円の補給で動いたということは、こうした幾多の
条件が条例の上からにじみ出てきているはずだ。さらにそれが
法律によって強化されました場合、私は非常な成果を期待できると思います。
あと今度の法案に対しまして一々のことを触れますことは、私は全
漁連の副
会長をしておりますから、片柳
会長を通じて常に触れておりますから、同意見でありまして、これは一日も早く先生方の御尽力によりまして制度化しまして、ほんとうに窮乏に泣く漁民のために一つあたたかい手を差し伸べていただければまことに光栄に存じます。よろしくお願いいたします。