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1960-02-26 第34回国会 衆議院 日米安全保障条約等特別委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年二月二十六日(金曜日)     午後四時十一分開議  出席委員    委員長 小澤佐重喜君    理事 井出一太郎君 理事 大久保武雄君    理事 櫻内 義雄君 理事 椎熊 三郎君    理事 西村 力弥君 理事 松本 七郎君    理事 竹谷源太郎君       安倍晋太郎君    愛知 揆一君       秋田 大助君    天野 光晴君       池田正之輔君    石坂  繁君       鍛冶 良作君    鴨田 宗一君       小林かなえ君    田中 龍夫君       田中 正巳君    渡海元三郎君       床次 徳二君    野田 武夫君       福家 俊一君    古井 喜實君       保科善四郎君    毛利 松平君       八木 一郎君    山下 春江君       飛鳥田一雄君    石橋 政嗣君       岡田 春夫君    黒田 寿男君       田中 稔男君    戸叶 里子君       森島 守人君    横路 節雄君       大貫 大八君    田中幾三郎君       堤 ツルヨ君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君  出席政府委員         内閣官房長官  椎名悦三郎君         法制局長官   林  修三君         外務大臣官房審         議官      下田 武三君         外務事務官         (アメリカ局         長)      森  治樹君         外務事務官         (欧亜局長)  金山 政英君         外務事務官         (条約局長)  高橋 通敏君  委員外出席者         専  門  員 佐藤 敏人君     ————————————— 二月二十六日  委員中村時雄君辞任につき、その補欠として田  中幾三郎君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び  安全保障条約締結について承認を求めるの件  (条約第一号)  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び  安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び  に日本国における合衆国軍隊地位に関する協  定の締結について承認を求めるの件(条約第二  号)      ————◇—————
  2. 小澤佐重喜

    ○小澤委員長 これより会議を開きます。  この際、念のため申し上げておきます。去る二月二十四日付、私より議院運営委員長あて文書による申し入れの件につきましては、さらに理事会において検討の上、補足して文書申し入れをすることにいたします。  日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約締結について承認を求めるの件、及び、日本国アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並び日本国における合衆国軍隊地位に関する協定締結について承認を求めるの件、右両件を一括議題といたします。  これより質疑に入ります。愛知揆一君
  3. 愛知揆一

    愛知委員 私は、本特別委員会に付託せられました案件につきまして、自由民主党を代表いたしまして、総括的な問題につきまして質問いたしたいと存ずるのであります。主として総理大臣にお答えを願いたい点を、取りまとめて申し上げたいと思います。  私は、この質問に入りますにあたりまして、第一にお伺いいたしたいと思いますのは、いわゆる新安保条約締結に至りますまでの経緯経過について、念のため、まずお伺いいたしたいと思います。  岸総理大臣は、昭和三十二年の六月に渡米せられまして、アイゼンハワー大統領隔意ない懇談をせられたのでありまして、当時、大統領との間に共同声明を出しておられます。その中に、新しい安保条約締結に関する点といたしまして、大よそ三つの点が明らかになっておるわけであります。それは、現行安保条約は暫定的のものである、そのままの形で永久に存続することを意図するものではない、これが一つであります。それから、日米国民の必要と願望とに適合するように現行条約の調整を考慮する、これが第二点であります。そして第三点といたしまして、日本におけるアメリカ軍の配備と使用とに関しては協議をする、これが第三点、この三つの点を中心にした日米共同声明がその当時発表せられました。これが、いわゆる新安保条約に至りますところの一番最初の公の端緒であったと思うのであります。  次いで、昭和三十三年の九月に藤山外相渡米せられまして、なくなりましたダレス長官に対して、日本国民安保条約改定の希望を率直に表明され、米国側がこの要望にこたえて、そこで交渉が開始された。そして、その後、いろいろの交渉経過がございましたが、本年の一月にめでたく調印運びになった。これが交渉経緯である。  私が、なぜこういったようなことを最初に申し上げるかと申しますと、率直に申しまして、社会党あるいはその他の方面におきまして、今回の改定というものは、当時、台湾海峡等における情勢中心にして極東情勢が緊迫化した、それに備えまして、アメリカ側日本アメリカ軍事ブロックの中に入れるために日本に対して要望してきたのである、というようなことを言う者があるわけでございますが、これは全く事実に反するものである。これは、この新安保条約性格やその内容について論議を進めます前に、まず、この事実を明らかにいたしておきたい、こういう配意から、特にこの点を最初にお伺いいたしたいと思います。
  4. 岸信介

    岸国務大臣 現在あります安保条約は、その成立の初めより、日本自主性が認められておらないという点に関しましていろいろと論議が行なわれたのでありまして、その後、国会におきましても、現行安保条約の再検討という問題がしばしば論議の対象となったのであります。私は、今おあげになりましたように、昭和三十二年の六月にアメリカをたずねまして、これらの国民的な要望気持というものを体して、アメリカ側に対して、安保条約を対等な立場で修正改定することの話をいたしたのであります。それに対して、今おあげになりましたアイゼンハワー大統領と私の共同声明において、初めて主要な点に関する——現行安保条約に対する考え方の基本について両方の意見の一致したものを発表いたしたわけであります。これは決してアメリカ側から提案をされ、アメリカ側要望によって改定が行なわれたものではなくして、この現行安保条約最初から国民的な不満の点を、日本国力の充実と日本国際的地位の向上という客観的事実に基づいてアメリカ側にわれわれが主張して、そうしてアメリカ側から、最初におきまして、非公式な会談におきましてこの問題が取り上げられたときにおいても、アメリカ側日本要望に対してはまだ十分耳を傾けるに至っておらなかったのでありますけれども、三十二年のアイゼンハワー大統領と私の会談が、はっきりとその点に関して、日本側考え方を取り入れる点についての足がかりを明らかにしたわけであります。その後、その翌年に、篠山外相がさらにワシントンにおきまして、具体的にわれわれの考えを述べて、そうして日米の間の交渉が初めて始まったわけであります。一部の人が言っておるように、アメリカ軍事体制日本を引き入れるためにこの改定をするというようなことは、沿革から見て事実に反しておるのでございます。
  5. 愛知揆一

    愛知委員 ただいまの総理の御答弁によりまして、私の伺いたかった点がきわめて明確になったわけでありまして、この点は、何人も否定のできない客観的な事実である。この点をはっきりいたしておきたいと思うのであります。われわれ自由民主党立場といたしましても、こうした政府態度に相照応いたしまして、党をあげて本問題に対しましては熱心な検討を続けて参ったわけであります。真剣に、あらゆる角度からこの問題を取り上げまして、世間周知のごとく、昨年の四月には、本件に対する党の大体の考え方を大綱として取りまとめ、次いで十月には、最終的に党議を取りまとめたわけであります。政府は、こういったような党議十分考慮に入れ折衝に努められまして、一月に調印運びになりましたことは、御同慶にたえないわけであります。従って、ここに提案せられました条約案あるいは協定案等は、われわれの考え方がよく盛り込まれておると私は感ずるのであります。しかしながら、この特別委員会において、公の場において、これから本格的な審議が始まるわけでございますから、いろいろの点から見て、われわれの考え方も明らかにいたしながら、政府のお考え、あるいは政府の所見というものをより明確にして、内外に対しまして、この新しい安保条約意味するところを全国民的に、あるいは全世界的に明瞭にしていただきたいと思うのでございます。  まずもって、私は、世界情勢判断について、総理のお考え方を伺いたいと思うのであります。と申しますのは、今年一月の調印に際しまして、岸総理は再びみずから渡米をされました。そうして、再びアイゼンハワー大統領初めアメリカ首脳部隔意ない懇談をせられたと承っております。ところが、たまたま総理渡米される前に、ソ連のフルシチョフ氏が渡米をせられました。いわゆるキャンプ・デービッドにおけるこの米ソ首脳会談というものは、その成り行きや成果について世界的に非常な注目の的になったことは、あらためて申すまでもございません。また、この会談以来、世界はいわゆる雪解けの方向に進み始めたといわれておるわけでございます。こういった時期の直後でもございまするので、すでに総理アイゼンハワー大統領との共同声明も発しておられます。また、国会における施政方針演説におかれても、世界情勢判断についてはもちろん触れておられるわけでありますが、新安保条約審議にあたりまして、それらの声明、あるいは演説に盛り込まれておる以外に、このキャンプ・デービッド会談以降における今後の世界情勢の見方というものについてどういうふうにお考えになっておるか、より詳細に、より具体的に、お考えを伺いたいと思うのでございます。  なお、私個人として考えまする場合には本年初めのアイゼンハワー大統領年頭教書を見ましても、自由世界の精神的、知的、経済的及び防衛的資源の強化を通じて、初めてわれわれは適切な安全保障の目標に向かって自信を持って前進することができるということを強調しております通り自由主義世界共産主義世界が平和の中に共存するための話し合いを進めていくということのためには、まずもって、自由主義陣営諸国間の団結協力が絶対的な必要要件である、私は、かように思うのでございますが、こういった私の意見をもあわせまして、総理の御見解を御披瀝願いたいと思うのであります。
  6. 岸信介

    岸国務大臣 キャンプ・デービッドにおけるところの米ソ首脳会談によりまして、東西両陣営の間に存しておるいろんな未解決の問題、紛争の原因となっておるところの問題の解決を、力によらずして、話し合いによって解決するということが確認をされまして、いわゆる話し合いによって、ドイツの問題を初め両陣営の間で従来意見の違っておる問題を解決しようということに対して真剣な努力が続けられているという情勢が出てきたのでございます。その前に、すでに昨年夏のジュネーブにおける両陣営外相会談におきまして、これらの問題が話し合いをされ、話し合いによって解決しようという非常な努力が続けられたことは、御承知通りであります。こういうふうに、力によらず、話し合いによって問題を解決していこうということが両陣営首脳部の間に認められ、確認され、さらに、それを裏づけるように、巨頭会談とかその他、お互いに訪問し合って隔意のない意見の交換をしていくという風潮は、私どもが世界の平和を願う意味からいってきわめて望ましい状況になってきておると思います。しかしながら、現実に、両陣営の間で従来解決しなかった問題が、直ちに巨頭会談その他によって容易に解決するかと申しますと、前途は容易ならない努力を必要とすると思う。ドイツ問題にいたしましても、軍縮の問題にいたしましても、従来から、長い忍耐強い話し合いが行なわれておって、しかも、まだ一致点を見出すことができないのであります。こういうことから考えてみますと、いわゆる雪解けということは、これからわれわれが将来に向かって努力していくその結果としてほんとうの雪解けが生まれてくるのであって、今日、直ちに一切の国際緊張雪解けで緩和されるような状態にきておる、こう早のみ込みをしてはならない状況が現在の状態である。ただ、この前途考えますときに、軍縮問題にいたしましても、ドイツ問題にしても、今日までの経緯から考えまして、両陣営の間における考え根本的に対立をしておりまして、お互いに一歩も譲ろうという気配を示しておらないという状況から見まして、前途はなかなか容易でなかろうと考えますけれども、しかし、せっかく話し合いによって問題を解決しようという機運が生まれてきたこのきざしを、困難であるという理由のもとに閉じ込めてしまうということがあってはならないのでありまして、今後、忍耐強く話し合いを続けていかなければならぬことは言うを待たないのであります。その途上において、どういう情勢世界にあるかと申しますと、御承知通り共産主義国々における団結というものは、従来、自由主義国々の場合よりもより一そう強固なものが存在しておったのであります。また、その団結は、少しもゆるめられておらない状況でございます。従って、これと話し合いをしていく上から申すならば、どうしても、自由主義国々が、お互いに十分な理解と信頼の上に立って強力な協力関係を作り上げていくことが必要であります。それを基礎に、お互い話し合いをして、幾多の困難な問題を解決するように努力していくのが現在の国際情勢であり、また、今後われわれが対処していかなければならない態度であると考えます。
  7. 愛知揆一

    愛知委員 次に、安全保障というものの必要性について、簡単に伺いたいと思います。  申すまでもございませんが、われわれ日本人といたしましては、有史以来、初めて敗戦の苦難をなめました。また、原爆の惨害をこうむった唯一の民族として、戦争はもはやこりごりであるという気持は、ひとしくみんなの持つところであり、今後、永久の平和というものはだれしもが心からこいねがうところであります。また、最近の科学兵器発達というようなことを考えますと、第三次世界大戦というようなものは容易に起こるまいとは思いますけれども、同時にまた、最近の国際情勢から見ましても、局地的ないろいろのトラブルというものは、なかなか払拭することができないわけであります。そこで主権を持つ独立国立場としては、これはどんな国でありましても、自国の平和を保つためには、何よりも、まず、その前提として、国の安全を保つ必要があるということは、もう申すまでもないところである。わが国が、独立後直ちに国連に参加をする、あるいは自衛隊を持つ、あるいはまた、安全保障条約というものを米国との間に締結したというようなことも、こういった気持から出ておることは当然であると思います。そこで、私はこう思うのでございます。究極のところ、世界の恒久的な平和を確保するためには、どうしても国連というものの機能が完全に充実するということを切望し、かつ、これに対してあらゆる努力を今後とも傾注しなければならないと思うのであります。しかしながら、よくいわれることでありますが、現在の国連組織は、たとえば、大国の拒否権があるとか、あるいは軍備の制限、縮小などについても、まだ十分の力を発揮するには至っていない。そこで、国連憲章にも明らかにされておりまするが、たとえば、第五十一条に規定せられておるように、同じような主義理想を持つ国同士が二国間で、あるいは多数国間で、いわゆる集団安全保障体制を持たなければならないというのが現実の姿であり、今日までの安保条約ももちろんそうであるし、また今回改定されることになりまする新安保条約もこの考え方から出ているものである。これは、政府がいろいろ説明されておるところにもその趣旨がよく表われておるように思いますが、特にこの点につきましても、あわせて御意見を伺いたいと思います。
  8. 岸信介

    岸国務大臣 いかなることがあっても、日本戦争に巻き込まれてはならない、われわれは、いかなる場合においても平和を望み、戦争というものをこの地上からなくしていかなければならぬということは、国民ひとしく念願し、それを求めておるところであると思います。ただ、世界にたくさんの国が存在しておって、その間において、お互い独立した国とし、民族として繁栄していく上において平和を望んでおるけれども、一方、現実は、それでは手放しでその平和がくるかというと、なかなかそういう客観的な情勢ではないと思います。そうして、われわれは理想として、あくまでも国連によってそういう平和維持の機構、安全保障体制ができることを望み、また、それに一切の平和と安全を託すことができるような時代を作り上げるように努力していかなければならないと思います。しかし、現実は、今の御質問の中にありましたように、まだそれから遠い。そこで、それではどうして一国がおのおの平和と安全のうちに繁栄をしていくかというその道を講ずるのには、一方から申せば、みずからの力で、できるだけ他から侵略を受けない、自分たちの平和と安全を乱されないという努力をし、また、そういうことをやっていかなければならぬことは当然でございますけれども、しかし、今日の客観的ないろいろな兵器発達、あるいは軍備状況から見ますると、一国だけで自分の安全と平和を守り、他からの侵略を阻止することができるというようなことを期待することは、なかなかむずかしい状態にある。そこで、いわゆる国連憲章の五十一条にいうような集団的な安全保障体制というものが各地方に起こっておるというのが現実の姿でございます。そこで日本としては、みずからの祖国を守り得る自衛隊組織を持ち、同時に国連に加盟して、国連のそういう機能が一日も早くでき上がるように、国連内において努力するとともに、その間の空隙といいますか、ギャップを埋めるために、日米共同によるところの日本安全保障体制というものが、現在の安保条約体制であると思うのであります。しこうして、今度の新安保体制もまた、根本においては現行安保体制と少しも変わりはないのでございます。そういう観念に基づいて日本の平和と安全、他から侵略されないというこの体制をとることが、日本の平和と安全に資するだけでなくて、それが極東の平和なり、あるいは大きく言えば、世界の平和に通ずる道であるという考え方のもとに、われわれはこういう体制をとっていくという考えでございます。
  9. 愛知揆一

    愛知委員 日本独立をいたしましてから、ここに八年でありますが、その間を振り返って見まして、私は、こういうふうに感ずるのであります。この八年の間を顧みましても、世界は必ずしも平和ではなかった。しかしながら、その間、日本国民といたしましては、日本の領土が侵略されるというような脅威を感じたこともなければ、そういう心配もなく、一路祖国再建に邁進ができた、かように考えるのであります。今日、国力は、経済的な面を見ましても、戦前をはるかに越えるような回復をいたしておるわけでございます。こうやって祖国再建に専念できたことには、いろいろ他の原因もございましょうが、やはり根本に、この安保条約というものがここに厳然として存しておった、そのことが、たとえば国際的に不心得なものがあっても、あるいはまた、日本自身自衛力というものが薄くあったにしても、そういったようなものが不心得の気持を起こし得なかった、あるいは日本防衛力というものが不十分であっても、そういうおそれがなかったということは、そこに大きな原因があると私は思います。そこで、もし八年前のあの状態において、たとえば、あのころ全面平和論と、いう論議が一部にございました。もし、あのとき全面平和という論議が勝っておったとしたならば、そうして、日本が今なお占領にあえいでいたらどうであったろうか、あるいはまた、講和条約ができたにしても、安保条約というものができていなかったならばどうであったであろうか。朝鮮の現状などを顧みましても、りつ然たらざるを得ないと私は思うのであります。この現行安保条約効果、しかも、発動せずして十全の効果を上げておったこの点に、私は、国民的に目を開かなければならないと思うのであります。  同時に、しからば何ゆえにこうした安保条約を改正するのかというのが、今日のこれからの問題でありますが、この点については、政府提案理由説明にも詳しく述べられてありまするように、今日の状態からいえば、いわば独立国国民気持からいって不満の点もある、あるいは不安心の点もないではない、何としても、日本の今日の立場になれば、自主性を確立しなければいかぬ、同時に、しかし、この安全保障条約というものが、基本的には防衛的な性格であるということを、より明確にしなければならない、こういう二つの要請と、それから具体的には、国民の間に心配として、よく論ぜられることでありますが、たとえば、在日米軍日本側に無断で出動できるのではなかろうか、そういう関係から日本が不本意に戦争に巻き込まれるおそれがあるのではなかろうか、あるいはまた、岸総理がしばしば国会を通じ、あるいは他の機会を通じて、核兵器を持ち込まないということを言明され、日米信頼関係からいえば、日本国民の欲せざるような核兵器の持ち込みということはあり得ざることであるとはいっても、条約の上にそういったような保証がない、これを拒絶するような権限はない、こういったような心配もありました。また、アメリカには日本防衛の義務がないということも、よくいわれた点であります。あるいはまた、日本憲法は独特の憲法であって、この憲法によるところの日本立場というものが明確にせられていない、この関係から、あるいは不本意にして海外派兵というような問題が起こるのではなかろうか、あるいはまた、期限については無期限になっておる、あるいはまた、行政協定がNATOその他の国々の例に比べて非常に日本に対して不利ではなかろうか、こういったような点が、今日の新安保条約締結に至りますまでの、先ほど総理がいろいろとお述べになりました基礎になっているところの国民的願望ということは、具体的にいえば、こういうことであると思います。  そこで、私、ここで一つ伺いたいと思いますのは、こういったような考え方総理政府がおられると思うのでございます。ところが、どういう関係からか、一部の論者が、こういったような新しい安保条約現行安保条約改定について、新しく軍事同盟を結ぶものであると解釈し、あるいは、これを故意に宣伝しておる者がありますことは、事実を全く歪曲したものであると思うのでありますが、この点についての総理の御見解を伺いたいと思います。
  10. 岸信介

    岸国務大臣 軍事同盟という言葉自身が、私は、どういう意味を持っているか、きわめてあいまいな内容だと思うのであります。もしも、それが第二次世界戦争前における各国の攻守同盟のごときものを意味するとするならば、これは、今回われわれが作っておるところの条約は全然そういう性格のものではない。あくまでも、防衛に関する実力行使ということは、他から侵略をされない、他から武力攻撃が加えられない限りは絶対にあり得ないところでございまして、そういう意味から申して、純然たる防衛的のものである。もちろん、そういう不当な侵略がもしも——われわれは、もちろん、そういうことがあることは期待はいたしませんけれども、もしも、万一そういうことがあったとする場合において、われわれは、独立国としてこの不当な侵略を排除する。それが日本自衛隊の力だけでは足りない場合において、アメリカの軍隊の力も借りて、共同してこれを排除するということを内容とするものであって、従来にありましたところのいわゆる軍事同盟というものとは、これは全然違っておる。また、戦後におきましても、各国の間に結ばれておる条約を見ますと、ある特殊の国を仮想敵国として、それに対抗する武力を規定しておるというような内容のものを軍事同盟と言うのならば、そういう意味におきましても、このわれわれの安保条約並びに新しい安保条約は、そういう内容すら持っておらないのでございます。いずれの意味からいっても、軍事同盟というあいまいな言葉で、何か非常な戦争の危機であるとか、あるいは危険を蔵しておるような印象を与えることは、私は、この条約の本質をしいて曲げて説明するものではないか、かように考えております。
  11. 愛知揆一

    愛知委員 この点は、少しくどくなるようでありますが、安保条約性格として最も大切なものでありますので、もう一段伺いたいと思うのであります。  現行安保条約も、新しい安保条約も、わが国がもっぱら自国の平和と安全を守り、そうしてまた、極東の平和と安全を保持するために、自由主義国家として、政治的にも経済的にも共通の基盤に立つ、また、最も信頼ができる、また、最も有力なるパートナーとしての米国との間に、国連憲章の原則に従って集団安全保障体制をしくべきである、総理のおっしゃることは、こういうことであると思います。従って、あくまでも極東における戦争を未然に防止して、平和を守り抜こうとするものにほかならないのであります。それは、自由主義陣営間でいいますならば、北大西洋条約機構、すなわちNATOと同様であると思います。また、共産陣営間でいいますならば、一九五五年のワルソー条約機構と同様のものであって、平和的な、防衛的な条約である。この点は、中ソ友好同盟条約の第一条において、日本というものを仮想敵国視するような条約とは、全く選を異にすると思うのであります。  ところが、私がここで非常に不可解に思いますることは、以上申し上げましたような点を前提として考えます場合に、さような中ソ友好同盟条約というようなものを現実に結んでいるところの、その一方であるソ連が、去る一月二十七日に、安保条約締結に関しまして覚書を日本側に提示しておるわけでございます。またあとで申し述べたいと思いまするが、二月二十四日、本日の朝の新聞に報道されておりまするような、さらにこれを繰り返した覚書というものが提示されてきておる。この点は、いろいろの点で不可解な点があるのでございます。というのは、まず第一日に、一月二十七日付のソ連の覚書、これを分解してみますると、大よそ八つぐらいの点がこの中に問題として取り上げられております。たとえば、新安保条約は米軍が日本永久に占領するもつのである、日本の主権と独立は失われるものである、日本アメリカに売り渡すものであるというようなことが第一である。また、沖縄や小笠原というものは永久日本から分離するのだ、また、新しい軍事同盟がここに作られるのであって、日本の再武装、日本憲法違反であると言っておる。ロケット、核兵器日本を武装する、国民の意思にかかわらず、戦争に巻き込まれるおそれがある、雪解けに逆行する、中・ソ・米の新ロカルノ条約というものを提案する、歯舞、色丹は引き渡さない、あたかも社会党の諸君が連日にわたって言っておることと同じような表現でソ連がこういう覚書を提示してきたことは、私には絶対に理解することができないのであります。私は、こうした各項目については、条約の各条ごと、あるいはその他の項について逐次お伺いして駁論をいたしたいと思いますが、この第一の一月二十七日付のソ連のノートにつきまして、三点だけ、とりあえずここでは取り上げて伺いたいと思います。  その第一は、このソ連の第一のノートというものは、条約の違反ではないかという点であります。昭和三十一年に日本とソ連の間に成立した日ソ共同宣言によりまして、ソ連は、平和条約締結された後は歯舞、色丹両島は現実に引き渡すと約束しておるわけであります。この宣言は、両国政府によって調印されており、それぞれの国内手続を経た実質上の条約であります。しかるに、グロムイコ外相から門脇駐ソ大使に伝達されたこの覚書は、新日米安保条約の成立を理由にこれを破って、新たに、この領土は、日本領土から全外国軍隊の撤退を見た上でなければ日本に引き渡さないとしたことは、国際信義を無視した非常な条約違反であると私は思うのでありますが、総理の御所見はいかがでありましょうか。
  12. 岸信介

    岸国務大臣 グロムイコ覚書に対しましては、政府は、公式の見解をソ連政府に対して申し送っております。今、御指摘の点につきましては、私どもも、これは明らかな条約違反であり、国際信義の上からも許しがたいことであるという考えを、すでに明らかにいたしております通りであります。
  13. 愛知揆一

    愛知委員 第一ノートの第二点として伺いたい点は、これは明らかな内政区干渉ではないかという点であります。日ソ共同宣言はここに読み上げるまでもございませんが、両国は国際連合憲章の諸原則を指針とすることと、明らかに書いてあります。また両国は「国際連合憲章第五十一条に掲げる個別的又は集団的自衛の固有の権利を有することを確認する。」と書いてあります。さらにまた、両国は「経済的、政治的又は思想的のいかなる理由であるとを問わず、直接間接に一方の国が他方の国の国内事項に干渉しないことを、相互に、約束する。」ということを明確にして、いわゆる内政不干渉の原則を宣言しておるのであります。しかるに、前回のソ連の覚書は、日本自身の平和と安全を守り、しかも日ソ共同宣言当時に存在した安保条約内容を、先ほども触れられましたように、よりよく改善しようとするわが国の独自の政策を阻止しようとするものでありまして、最も露骨な内政干渉だと私は思うのであります。しかも、その覚書の中にどういうことが書いてあるかというと、こういうことが書いてあります。「現代のロケット、核兵器戦争の条件下において、全日本が、その狭小かつ人日濃密にして、しかも、外国の軍事基地の散在する領土を持ちながら、最初の瞬間に広島、長崎の悲劇的運命を見るおそれのあることは、現在、たれかこれを知らないものがあろうか。」というに至っては、これは、わが国を侮べつし、脅迫する、最も卑劣な内政干渉というほかはないと私は思うのでありますが、これに対する総理の御見解を承りたいと思います。
  14. 岸信介

    岸国務大臣 一国がいかなる外交政策をとるか、あるいは、一国がその憲法をどういうふうに解釈するかということは、言うまでもなく、独立国が自主的に、その国民が決定する問題でありまして、他から干渉を受ける性質のものではないと思います。いわんや、今度の条約は、あくまでも国連憲章の精神にのっとり、また、国連憲章を至るところにおいて引用いたしておりまして、その精神に基づいて結ばれておるところの条約であり、また、将来それに基づいて実行される条約でございます。そうして、この日ソ共同宣言におきましても、その点に関しては、今、御指摘になりましたように、明らかに両国が国連憲章というものを前提として、あらゆる権利義務を持つということを明瞭にいたしておるのであります。その範囲内においてわれわれが独立国として作るところの条約を、他からいろいろと干渉を受けるということは、これは、私は、許しがたいところであり、また、日ソ共同宣言で、お互いに内政不干渉の原則を承認し合っている精神にも反していると思います。お話しのように、その中に用いられているいろいろな言葉なり、あるいは内容等におきましては、きわめて不穏当なものが多々あったのであります。今、おあげになりました点におきましても、一体そういう実力を行使し得る国はどこであるかということを考えますと、われわれは、非常な一つの脅迫的な意味を感ぜざるを得ないのであります。従って、そういう意味において、この覚書は、われわれに対する不当な内政干渉であるということも、またすでに公式にソ連政府に宣明した通りでございます。
  15. 愛知揆一

    愛知委員 次に、第三点として、中立政策の問題にちょっと触れたいと思うのであります。やはり前回の一月のソ連の覚書におきましては、「ソ連邦は従来通り諸他強国と共同して日本の中立に必要な保証を与える用意がある。」こう言って、社会党の言う、いわゆる新ロカルノ方式をあらためて提案してきておるのであります。しかし、日本が中立政策をとるかどうかということは、日本自身の決定するところでありまして、外国の干渉や指導を必要としないことは申すまでもございません。このようなことをソ連が提唱すること自体が、日本に対する重大な内政干渉であるばかりではなく、さきには日ソ不可侵条約を、そうして今回は、日ソ共同宣言を一方的に破棄し、しかも、てんとして恥じないような国を加盟国とするような不可侵条約によって、どうしてわが国の平和と安全を保つことができるでありましょうか。私は、全くナンセンスであるといわざるを得ないのでありますが、総理の御見解を伺いたいと思います。
  16. 岸信介

    岸国務大臣 御指摘のように、その国が中立政策をとるか、あるいは自由主義の政策をとるか、あるいは共産主義政策をとるかということは、先ほども申し上げましたように、その国民自体が決定すべき問題でありまして、他からこれを押しつけたり、あるいはいろいろ指導を受くべき性質のものでないことは、言うを待たないのであります。特に、いわゆる不可侵条約という問題に関しましては、現在の世界情勢を見ますると、一般軍縮問題につきましても、あるいは奇襲防止に関する問題に関しましても、各国間におけるところの話し合いがまだつかないような状態であります。こういう客観的情勢のもとにおいて、ただ不可侵条約という名前のもとに、その国の一番大事な、存立の基礎である平和と安全を託するというようなことは、これは私は、現実の問題としては、現実離れしておるといわざるを得ないと思います。いわんや、今、おあげになりましたように、私は、ソ連との間におきましても友好親善を進めていき、お互いが政治体制は違っておるけれども、それを尊重し合っていく、そうして、内政不干渉という原則に立つところにおいて、お互いの友好親善の関係は進んでいくと思う。しかしながら、先ほど来いろいろおあげになりましたような、また、私がお答えをいたしましたような事態は、むしろ、ソ連みずからが日ソの間の友好関係に非常な支障を与えるというようなことになると思うのであります。また、われわれ自身、国民的の記憶から申しましても、日ソ不可侵条約のなまなましい記憶がある際に、われわれの一番大事な平和と安全というものを、ロカルノ方式でもって、そういう不可侵条約という美名だけでもって、これにまかすというようなことは、とうてい国民が安んじてできるところではない、かように信じております。
  17. 愛知揆一

    愛知委員 次に、これは本日の新聞でありまするが、二月二十四日付で、あらためてソ連政府は、新安保条約に対する覚書というものを提示し、かつ、発表いたしたようであります。この全文について、私は、ここに触れるつもりはございませんし、また、その相当の部分は、第一のノートに記載されてある点と同工異曲の点が多いと思いますから、時間の関係もございますのでこれを省略いたしますが、ただ、新しくここに見のがすことのできない点が二つあると思うのであります。  その一つは、新しい安保条約締結に関しまして、この締結は、日ソ共同宣言に矛盾し、違反しておるという趣旨があることでございます。日ソ共同宣言の中には、周知のように、宣言に従って、双方は、極東における平和及び安全の利益に合致する両国間の理解と協力の発展に役立つ云々という規定があるわけでございまして、これを引用して、こういう考え方が、新安保条約に書いてありますることと抵触をする、矛盾をする、あるいは違反をする、こういう立論の根拠にしておるかのようにこれは読み取れるのでございます。ところが、なるほど、日ソ共同宣言の前文は、ここに引かれておる言葉と大体において一致いたしておりまするが、ここに書かれておる趣旨は、新安保条約の前文と私は全く同趣旨だと思うのであります。というのは、新安保条約の前文にはどう書いてあるかと申しますと、「すべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、」云々とあるわけでございます。ひとしくこれは、世界の平和を念願するという率直な気持をそれぞれ表明しておるものであると思います。こうした新安保条約の前文の文章について、安保条約の書き方が日ソ共同宣言の書き方に対して抵触し、矛盾するものであるということをソ連側が言いますことは、私は筋違いであると思うのでありますが、この点を一つ明確にしていただきたいと思います。
  18. 岸信介

    岸国務大臣 お話しのように、この日ソ共同宣言の前文におきまして、われわれが国際の平和と安全ということを希求し、かつ、それに向かって協力するという精神は、今度の新安保条約における前文にわれわれが述べておることと、その精神においては一つでありまして、その間に径庭はない、かように私は考えております。
  19. 愛知揆一

    愛知委員 そうしますると、くどいようでありますが、このソ連の覚書に言っておりますことは、明らかに矛盾である、その言っておること自体が矛盾撞着であるということになると思いますし、私もそう考えます。  いま一つ見のがすことができないと思います点は、領土の問題に触れておる点でございます。日本政府は、しかるべき国際協定によって、すでにとっくに解決された領土問題に関する根拠のない要求を掲げて、ソ連と日本との平和条約締結を現在に至るまで故意に引き延ばしておる、あるいはまた、ソ連政府は、日本が歯舞、色丹両島だけでなく、他の領土の返還に極力努めるであろうという日本政府の覚書に含まれた声明を、復讐主義への危険な傾向の現われと見なすほかはない、かようにこのソ連の覚書には書いてあると伝えられておるのでございます。この国後、択捉につきましては、ここにあらためて論議するまでもないのでございますが、歴史的に見ても、沿革的に見ましても、日本の固有の領土として、昔からはっきりと明確になっておる点であることは、日ソ共同宣言締結に至りまするときまでのいろいろの調査によっても明瞭でありまするし、また、その後においても、私どもは、それこそ、社会党であろうが、何党であろうが、挙国一致の国民的の願望として固有の領土権を保留しておるわけであり、それゆえにこそ、いわゆる日ソ共同宣言締結に際しては、継続審議といいますか、継続的に、この問題については追って協議をしようということになっておる。この経緯は、今さら申し上げるまでもないと思うのでありますが、この国後、択捉の領土要求を新たに持ち出したことは、報復主義の現われであるということは、われわれは、国民としても黙視することはできないと思うのでありますが、一体政府は、これに対してどういうお考え、御所見をお持ちになるのでありましょうか。
  20. 岸信介

    岸国務大臣 領土問題について、日ソの間における意見が一致を見ることができなかったのは、実は日ソ共同宣言が出ますまでの間、長い間の日ソの交渉におきましても、これを解決することができなかったのであります。そこで、共同声明におきましては、歯舞、色丹については、将来、領土問題が解決し、平和条約の結ばれる際に、日本現実に引き渡す。ところが、われわれは、国後、択捉については、これを固有領土として主張し、ソ連側におきましては、これはすでに平和条約自分のものになったのだという主張をして参っておりまして、一致しない。そこで、この問題はたな上げにして、将来の話し合いにまかして、ついに平和条約を結ぶことができなかった次第です。そうして、国後、択捉に対するわれわれの主張はどこに根拠があるかといえば、言うまでもなく、この国後、択捉につきましては、歴史的に、かつてソ連あるいは帝政ロシヤにこれが属したことは絶対にないのであります。一八五五年の下田条約におきましても、はっきりとその点に関して条章が設けられております。その第二条において「今より後日本国と魯西亜国との境「エトロプ」島と「ウルップ」島との間に在るへし「エトロプ」全島は日本に属し「ウルップ」全島夫より北の方「クリル」諸島は魯西亜に属す」ということが、下田条約においてもはっきりときめられておるように、歴史的に申しまして、これが固有領土であるということは、そうして、かつて他国に属したことがないというこの厳とした事実に基づいて、われわれは国民要望としてこれを主張してきておる問題であります。従って、これに対する主張というものは、従来から少しも日本は変わっておらない。そうして、それは政府のそういう主張だけではなくして、お話がありましたように、政党政派を超越した国民的の要望であり、信念であるというその主張をわれわれがすることは、これは当然であると思います。これが、ソ連の今度の覚書において、復讐主義あるいは報復主義というような名前でもって非難されるということは、私は、全然根拠のない事柄であって、そういう主張こそ、まことに理論的根拠のない、はなはだ不都合な主張である、かように思っております。
  21. 愛知揆一

    愛知委員 ただいまのお話、私ども全く同感でございますが、このソ連のノートについての私の質問を、最後に朝日新聞の社説をここに読ましていただくことによって、一応この問題を終わりたいと思います。というのは、「クナシリ、エトロフなど日本固有の領土の返還をソ連に求めているのは、ただに政府だけでなく、日本国民の全般的ないつわらぬ気持ちであり、」ということをここに強調されております。ところが、さらにこの社説は進んで、「それどころか〃報復主義〃というような考え方がまったくないということが、戦後日本の明らかな特徴だともいえる。」と言うておるのでございます。そうして「いずれかの国が公海上に勝手に一線を引き、この中で、あるいはその付近で、平和に漁業に従事していたわが国民を理不尽に捕えた場合でさえ、その不当を日本はあくまで是正するよう強く求めながらも、〃報復主義〃といわれるような感情は国民の間には寸分もみられず、また政府もそのような措置を一切とらなかった。これは、極めて明白な事実であって今の日本気持ちを最もよく立証するものであろう。」ここに書かれたこの文章が、私の気持にまさにぴったりするものであるということをここに申し上げて、この問題につきましては、この程度にとどめたいと思います。  さて、新安保条約内容に戻りまして、さらに若干の点につきましてお尋ねをいたしたいと思うのでありますが、私は、各条項にわたっておもな点を申し上げまするよりは、国民一般の心配であり、あるいは関心の的である問題も多いようでございますから、まず最初に、二、三、世間の話題になっておる点につきまして、念のため、くどい点は御了承願うといたしまして、若干触れたいと思います。  その一つは、何と今まで総理が言われましても、日本戦争に巻き込まれないかどうかということについては、国民的に非常に、善意での心配をするものもある。これは先ほどもいろいろとお話がございましたように、安全保障条約というものは、もっぱら国際の平和と安全の維持を目的とするところの国連の精神と憲章でがっちりワクが押えられてある。そのワクの中で結ぶものである。また一方、わが国内においては、国の憲法の範囲内であるということを明らかにするものである。そうして、外部からわが国に武力攻撃というものが万々一加えられない限りは、この条約防衛上の実力措置というものは発動されることはないのだ、こういう点。それからまた、外部から——先ほど私は不心得者という言葉を使いましたが、そういうものがあって、日本に対して武力を発動してくるというような万々一の事態が起こっても、ただいまの憲法の範囲内ということで、海外派兵等のことがないというような点で、現行安保条約よりは数段と、こうした国民に対する懸念の点は、完全に私は改善されたと思うのでありますが、この点はよく世間の話題になる点でありますから、かみ分けて、一人残らずの国民の人たちにもよくわかるように御解明を願いたいと思います。
  22. 岸信介

    岸国務大臣 この新安保条約の基本的の考え方として、二つの大きな前提があります。一つは、国連憲章の精神にのっとり、国連憲章のワク内において結ばれておるという前提であります。従って、この条約は、いかなる意味におきましても、世界の平和を維持する機構である国連の精神と、その考えに基づいて、あくまでも平和維持ということが主眼になっておることは当然でございます。第二は、日本国憲法のワク内ですべてのことが律せられるということであります。もちろん、条約がその国の憲法の規定に従わなければならぬことは当然でございますが、特に日本憲法は、世界のどこにもない特殊の性格を持っております。すなわち、日本自身が持っておるいわゆる防衛上の力も、この自衛権の範囲内に限られておるものであることは、御承知通りであります。従って、日本自衛隊は、各国におけるところの軍隊と同様な権利や行動範囲を持つものでない。いかなる場合においても、この領土外に出て実力を行使するということはあり得ないという建前を厳守すべきことは、日本憲法の特質でございます。このことを前提としてこの条約が結ばれておるということも、大前提の一つであります。そして、その内容は、この二つの前提がある以上は当然でございますけれども、さらに、内容をしさいに検討していただくならば明瞭であるように、いかなる場合におきましても、この条約防衛に関するいわゆる実力行使ということが行なわれるためには、国連の憲章に違反しての不当な侵略行為が現実に行なわれた、他から不当に武力が行使されて、われわれの平和と安全が害せられたという事実がない限りにおいては、日本自衛隊の力も、あるいはアメリカ防衛上の実力も、これはやらないというのが建前でございます。ただ、御承知通り日本に基地を持っている米軍が、極東の安全と平和を維持するために必要な場合に出動するということが、現在の安保条約においてもありますが、今回の新安保条約にもあります。しかし、その場合において現行条約と違うことは、現行条約においては、アメリカが一存で、日本の意思にかかわらず、行動ができたのでありますが、そういう場合において、日本の基地を使用して、日本の領域外に出て実力を行使するというような場合におきましては、日本に事前協議をしなければならない、日本の意思に反して行動はできないという取りきめをいたしたことが違うことでございます。そういう意味におきまして、この条約は、あくまでも防衛的なものであり、国連憲章平和維持という精神、日本のいわゆる自衛隊のためわれわれが実力を行使するという限界を厳に守っておるものでありますから、従って、これが不当な戦争を引き起こすとか、あるいはわれわれが意思に反して戦争に巻き込まれるというような事態は、私は、本条約においては絶対に起こらない、こういう確信に立っております。
  23. 愛知揆一

    愛知委員 ただいま総理のお答えに関連いたしますが、もう一つ、この安保条約の問題について大きな話題になりました問題は、いわゆる事前協議の問題でございます。これはただいまもお示しがありましたように、「合衆国軍隊日本国への配置における重要な変更、同軍隊の装備における重要な変更並びに日本国から行なわれる戦闘作戦行動のための基地としての日本国内の施設及び区域の使用は、日本国政府との事前の協議の主題とする。」ということが交換公文に明示されることになったわけであります。これについて、これは事務当局からでもけっこうでございますが、私の調べましたところでは、こういうふうな事前の協議ということが、こうした種類の安全保障条約の上で用いられておる例はきわめて少ない。また、ありましても、今回のこの交換公文において取りきめられたような形においてきめられたものは非常に少ないのではないかと思うのであります。私の調べましたところでは、いわゆる安全保障条約といいますか、集団安全保障条約と申しますか、こういった種類の条約が現在約四十二ほどあるようでございますが、こうした多くの諸外国の結んでおりまする条約と、この事前協議の前例といいますか、実例というものがどういうことになっておりますか、もし、わかりましたら、簡単にお答え願いたいと思います。
  24. 高橋通敏

    ○高橋(通)政府委員 従来、この種の安全保障関係条約が多々ございますが、それには「協議」という言葉は使ってございます。しかし、その前に、特に「事前」を加えて、「事前協議」というような言葉を使ったものは、ほとんど見当たらない次第でございます。最近、フィリピンにおいてやはり同種の言葉を使ったこと、これが唯一の例ではないか、このように考えます。
  25. 愛知揆一

    愛知委員 大体私の調べました範囲でも、そういったようなことだと思うのであります、が、そこに私は、その事前協議についていろいろの話はあるけれども、こういった、先ほど来いろいろとお尋ねをいたしておりますような性格安全保障条約であって、しかも、事前協議ということが明確にうたわれてあるということは、今回の新安保条約の大きな特色であると思うのであります。先ほど、私は、ソ連のノートについて若干の時間を費やしたわけでございますが、その第一のノートの第一項に書いてあるような、主権と独立をこれによって日本は失って、アメリカに国を売り渡すなどということは、この一点からいたしましても、私は、それは全然歪曲の考え方であるということを指摘せざるを得ないのであります。  次に、この事前協議という文字について、あるいはそのやり方等についても、他の本会議委員会等においてすでに論議があったようでありますが、しかし、本特別委員会といたしましては、特に本条約審議を担当するわけでございますから、あえてこの点についても触れたいと思うのであります。  私は、まず、この事前協議ということは、法律上の事前通告ということとは違う、これが第一点だと思います。それから、日本が自主的な立場に立って、これにイエスという同意をすることも、ノーといって拒否することもあるのは当然である。この点をまず明確にいたしたいと思います。
  26. 岸信介

    岸国務大臣 事前協議ということが、事前通告と違うことは当然でございます。従って、協議という性質から申しまして、この協議が成立するためには、両方の意思が合致することが必要であるのであります。協議にあたって、おのおのの当事者が、自主的立場から自分たち意見を言うことは、これは当然でありまして、その場合に、イエスと承諾することもございます。ノーと拒否することもあることは、これは当然であると思います。
  27. 愛知揆一

    愛知委員 その次に、いわゆる拒否権ということについてもお尋ねをいたしたいと思うのであります。私の理解するところでは、いわゆる拒否権という言葉は、日本語ではなじまないといいますか、何と申しますか、概念が不明確である。よく使われる拒否権という言葉は、おそらくはアメリカのヴィトーという言葉と同意語と解されておるのではないかと思うのでありますが、ヴィトーという意味拒否権ということになりますと、それは、たとえばアメリカ大統領が、連邦議会を通過した法律の発効を拒否する場合、このときには、明らかにアメリカ憲法にヴィトーという言葉があるようでございます。また、先ほどもちょっと申しましたが、国連の安保理事会において、全会一致を必要とするような場合に、その中の一つが反対投票することによって決議の成立が阻止できるような場合がございます。この場合は、ヴィトーとか、拒否権とかいう言葉は、国連憲章上、明らかにないようでございますが、これを、通例、やはりヴィトーというふうにいわれておるようでございます。要するに、このアメリカ大統領の場合、あるいは国連安全保障理事会のような場合の拒否権というものは、少数者の意見によって多数者の意思を拒否する場合を意味するのでありますから、日米対等の協議の場合に用いるのは、不適当であると言わんよりは、ナンセンスであると考えるのであります。そういう意味合いにおいて、私は、拒否権というものはない、総理が予算委員会でお答えになりましたのも、その趣旨であると思います。  しかも、さらにその次に、もう一つ伺いたいのは、一方が、たとえば日本がノーと言った場合には、相手国、すなわちアメリカが押し切ってはできない性質のものである、こういうふうに考えますが、いかがでございましょうか。
  28. 岸信介

    岸国務大臣 いわゆる拒否権という言葉は、法律上、今おあげになりましたような、従来用いられている慣用上特殊の場合を意味しておると思うのであります。私は、国会における質疑応答の上におきまして、拒否権という意味のことを避けて申しております。いわゆる拒否権があるかないかというような質問に対しましては、従来、国際法上慣用されておる拒否権というようなことは、この一対一の両当事者の間の話し合いにおいてはあり得ないことだ。しかしながら、この場合においてノーと言い得ることは当然である。イエスと言う場合もあるだろうし、ノーと拒否する場合もある。そうして、そのノーと言った場合に、相手方——日本がノーと言った場合に、アメリカが、そのノーという日本の意思表示に反して、それを無視した行動ができるかというと、それはできないという意味において、これを拒否する権利だという意味において言われるならば、それは常識的には拒否権があると申してもよろしいということを申したのは、その意味でございまして、日本が自主的な立場からイエスと言い、もしくはノーと言うことは自由である。そうして、日本がノーと言った場合において、それを無視してアメリカが勝手な行動はできないということは、この条約交渉の全過程を通じて両当事者の間に了解されておったことでございます。すなわち、事前協議ということの解釈として、そう解釈すべきものであるということについては、両当事者の間に意見が一致しておったことでございます。それをさらに、私がアイゼンハワー大統領と会いました際に、その問題に触れてアイゼンハワー大統領共同声明において再確認した形において、アメリカ政府日本政府の意思に反して行動する意図は持たないということを明らかにしたわけでございます。
  29. 愛知揆一

    愛知委員 事前協議の点は、これによってきわめて明快になりました。  次に、いま一つ、全体の条約文を通じまして問題となります点についてお伺いをいたしたいと思います。それは、いわゆる「極東」という問題でございます。この条約におきまして、前文と第四条と第六条に「極東」という文字が使われております。この「極東」という字につきましては予算委員会等でもいろいろの応答があったわけでございますが、この「極東」という問題について、私は、この機会におきまして政府見解というものを明確にしていただきたいと存じます。(「地図を出せ」と呼ぶ者あり)  まず第一に、地図はあえてお出しいただかなくてもよろしいのでありますが、たとえば、ウェブスターの地理学の辞典であるとか、あるいは世界地名辞血であるとか、いろいろ地図や地理について検討してみましても、「極東」という地理上の概念が、どういう確定的な概念があるかということについても、実は、これはいろいろの見解があるようでございます。たとえば、ビルマとインドを含まないという見解もあるようであります。また、広くいえば、東部シベリアも中国も全部含むという、そういう概念を持っておる地理学者もあるようでございます。要するに、地理上の概念における「極東」という意味には、それ自体にもいろいろの意味があるようでございます。また、たとえば、第一回の日英同盟条約、明治三十五年一月三十日に調印されたその条約には「日本国政府及大不列顛国政府ハ偏二極東二於テ現状及全局ノ平和ヲ維持スルコトヲ希望シ」という文言があります。また、先ほど申しましたが、日ソ共同宣言にも「極東」という文字が使われておるわけでございます。さらにはまた、諸外国の、たとえば外務省の官制とか設置法のようなものを見ますと、極東担当の局というのは、これこれの局であるというようなことについても、いろいろとそれぞれの事情によって極東の範囲というものがきめられておって、そこに必ずしも明確な概念というものはないように思うのでございます。しかし、私は、そういったような地理上の概念であるとか、あるいは外国、あるいは日本における用語例であるとか、あるいはまた、外国の外務省の用語例であるとかいうようなことは、いろいろあろうけれども、それはそれとして、私は、この新安保条約において使われておる「極東」というものについて、それらとは別個の問題として、特に明らかにしていただきたいと思います。  まず、今回の新安保条約によりますると、前文において、「両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、」と、ここに「極東」という字を使ってございます。新しい安保条約は、先ほど来の応答で明らかでございますように、ひとしく自由主義陣営に属する日米両国の協力根本趣旨とするものでありまする以上、おのずからその地域というものにも限界があると思うのであります。一言にして申しますならば、日本防衛と密接な関係があって、そうして、その地域というものの安全に日米両国が重大な関心を持たざるを得ない地域、こういうふうに私は解すべきだと思うのでございますが、この点いかがでございましょうか。
  30. 岸信介

    岸国務大臣 「極東」という言葉は地理的の概念としてはいろいろに使われておりまして、画一した考えはないようであります。いろいろな辞書等を見ましても、それぞれ範囲が一定はいたしておりません。そうして、そういう地理的な概念としてはいろいろな内容を持っておることは、今御意見にもありましたように、私ども調べてみましても、そうであります。また、日本関係をいたしました条約について、従来、「極東」という文字を使ったことがいろいろなところにございます。今おあげになりました日英同盟条約や、あるいは日ソ共同宣言等にもございます。また、現行安保条約にもございますし、今度の新安保条約にもいろいろ使っておるわけでございますが、要は、やはりその条約においての全体の目的なり、あるいは意義から、大体観念をきめていくということが当然であろうと思います。従って、どの条約に使われた場合においてもすべて同じだということは、適当でないと思います。そうして、現行安保条約もそうでありますが、この新安保条約において「極東」という字を各所に使ってあります。前文、それから四条、六条等に使っておりますが、いずれも要するに、日本の平和と安全というものと非常な密接な関係のある極東の平和と安全という意味において使っておるわけでございます。従って、この条約が目的としておる平和維持という目標から考えまして、日本の平和と安全、これときわめて密接な関係にあるところの極東の国際的安全と平和、こういう意味で、日米両国が強い関心を持っておる地域ということになると思います。そういう意味において私どもは解釈をしており、従来、フィリピン以北及び日本の周辺ということを申しておるのは、そういう意味でございます。
  31. 愛知揆一

    愛知委員 日本防衛と密接な関係があって、その地域の安全というものに日米両国が重大な関心を持たざるを得ない地域、大体こういう原則と、今の御答弁は解釈いたします。これをもう少し平たく申しますと、共産主義国の領土というようなもの、あるいはまた、共産主義が継続的に支配しているような地域は、国際の平和及び安全の維持というものが、この条約において関心事である地域には、私は、そういう意味から言うと入らないと思うのでございますが、どうでございましょうか。といいますのは、平たく申しまして、これらの地域の平和なり安全というものが、共産圏の方の責任というか、実力にかかっておるものである、こういうふうになるかと思うのでございますが、その点はいかがでございましょうか。
  32. 岸信介

    岸国務大臣 この条約全体を通じて、われわれがこれを維持し、守っていく、他から不当な侵略行為があれば、やむを得ず実力を行使してこれを排除するというような点におきまして、両国が共通の関心を持つという地域は、今お話しになりましたように、自由主義立場をとっておる国々の支配しておる領域というものがその主眼になるわけでございまして、共産圏において実力をもってこれが平和と安全を維持しておられる地域というものは、われわれの共通の関心を持っておる地域には入らないというのが適当であろうと思います。
  33. 愛知揆一

    愛知委員 総理の今申されたことは私の考え方を是認されたと思うのでございます。繰り返すようでございますが、ここにいわゆる極東地域というのは、地理学上の用語の用い方や、従来の内外の用語例がいかにあろうとも、独自の意味を有するものである。従って、また、今原則的な考え方の御答弁があったわけでございますが、こういったような場合に、地図の上で、緯度が北緯何度であるかとか、経度が東経何度であるかとかいうようなことで限定したり、また、こまかい島嶼や地点を取り立てて論ずるということは、本来はあまり意味のないことであると私は思うのであります。そこで、先ほど総理がお触れになりましたが、政府が統一解釈として、新安保条約の「極東」というのは、大体において比島以北、日本周辺であると言われ、また、今も一言われましたのは、私が今申し上げました意味と理解いたしたいのでございますが、いかがでございますか。
  34. 岸信介

    岸国務大臣 その通りでございます。
  35. 愛知揆一

    愛知委員 私は、この極東地域の問題というのは、それで満足すべきものであると信ずるのであります。しかしながら、すでに予算委員会あるいは本会議その他におきまする論議におきましては、前提をいろいろに仮定してみたり、あるいは言い回しの上で、質問の仕方が非常にややこしかったりしたために、その答弁が、説明において内外に誤解を与えたおそれもないではないようでありますので、この際、もう少しくどくお尋ねをいたしたいと思います。  そこで、その次に、ただいま総理もお触れになりましたが、安保条約の文面に現われております「極東」という字は、今申しました前文のほかに、第二には、第四条にございます。第四条には「日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときは」云々、云々で、「協議する。」と結んであるわけであります。私は、ここにいいます「極東」というのは、ここにおける国際の平和及び安全に対して脅威が生じたときに協議が行なわれることになる場合の、そういった場合の極東と解すべきものであると思うのであります。従って、このことは、とりもなおさず、前文にいっております「極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有する」という意味の「極東」ということと、全く同じ意味である、こういうふうに私は読むべきであると思いますが、それでよろしゅうございましょうか。
  36. 岸信介

    岸国務大臣 第四条に申しております「極東」も、前文にあります「極東」も、私は同一に解すべきものである、かように思います。
  37. 愛知揆一

    愛知委員 そこで、これは同意語と解すべきものであるということに私も同意でございます。  さらに、さっきの点に関連して、もう少し伺いたいのでありますが、従って、こうした場合に用いられている極東の地域というものは、自由主義陣営に属する領域であると解すべきである、この点は、先ほどもお触れになった点であります。それから同時に、従って、共産圏に属する地域は入らない。たとえば、中共が支配しておりまするシナ大陸、ソ連の領土、北朝鮮、北ベトナム、北千島というようなところは、そういう概念構成から申しますと、具体的には「極東」というものに入らないという解釈になると思いますが、いかがでございましょう。
  38. 岸信介

    岸国務大臣 この新安保条約にいう「極東の範囲には、今おあげになったような地域は入らない、かように思います。
  39. 愛知揆一

    愛知委員 次に、先ほどソ連のノートについてお尋ねをいたしましたときに触れた点でございますが、現にソ連が支配しておる地域でありましても、先ほど申しましたように、歯舞、色丹及び南千島はどうなるかということを私考えてみまするのに、そういったような地域は、わが国としては、歯舞、色丹は北海道の一部として、また、南千島につきましては固有の領土として、それぞれ領有権の主張を保留しておるわけです。それからまた、その地域については国民的な熱願を傾注しているところでもあります。また、歯舞、色丹については、現実の引き渡しが日ソ共同宣言で約束されておる。こういう関係から申しまするならば、むしろ、日本に入るのだといったようなことが言えるくらいにすら思うのでありますが、従来の御答弁や御説明で、これらの地域は極東に入るというふうにお話しになっておられまするのは、今、私が申しましたような意味合いでさような御答弁であったかと思うのでございますが、その点をお確かめいたしたいと思います。
  40. 岸信介

    岸国務大臣 歯舞、色丹及び国後、択捉につきましては、今、愛知委員の御意見通りに私ども考えております。
  41. 愛知揆一

    愛知委員 それから、たとえば極東という概念は、この四条について申しますると、今のお話ではっきりして参ったわけでありますが、同時に、この極東の周辺で、たとえばベトナム——地理的には南ということになりましょうが、ベトナムというようなところは、この条約で言う極東という概念に入らないといたしましても、そういったところは極東の周辺地区でありますから、そういうところにおける事態が極東における国際の平和及び安全を脅かす場合は、この第四条におきましては、いわゆる協議の対象になる、こういうことであると思うのでございますが、いかがでごさいましょう。
  42. 岸信介

    岸国務大臣 極東の平和と安全が脅かされるということは、直接に極東の地域内に何らか起こるという場合もございましょうし、あるいは、極東の地域ではないが、その周辺において発生した事態が、ひいて極東の安全と平和に影響を及ぼすという場合もあろうと思います。従って、そういう意味において、四条の協議の対象になることは当然でございます。
  43. 愛知揆一

    愛知委員 次に、さらに進んで第六条についても伺いたいのでありますが、第六条は「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」ここに「極東」という字がいま一度出てくるわけでございますが、この「極東」というのも、ここに、アメリカ合衆国は、その三軍が日本国において施設区域を使用することを許される、いわば目的というような意味の「極東」でございますから、従って、前文や第四条に使われておる「極東」という字と同様に解すべきであると思いますが、いかがでございましょう〇
  44. 岸信介

    岸国務大臣 六条に用いております極東という範囲も、四条や前文にいう範囲と同様に解釈すべきものだと思います。
  45. 愛知揆一

    愛知委員 私は、本日、この「極東」という問題について、くどいようでございますが、いろいろの点から伺ったわけでございますが、以上の応答で、政府の確定的で、明確な態度が示されたものと信じます。  今、質疑応答の形で総理の御意見を伺ったわけでございますが、もし、できますならば、この際、政府の統一的な、確定的な御見解を総括的に明らかにしていただければ、さらに一そう明白になると思うのでありますが、さようなことはいかがでございましょう。
  46. 岸信介

    岸国務大臣 新条約条約区域は「日本国の施政の下にある領域」と、明確に定められております。他方、新条約には「極東における国際の平和及び安全」ということもある次第であります。ところで、その「極東」でありますが、一般的な用語としては、別に地理学上正確に画定されたものではありません。しかし、日米両国が条約で言っております通り、共通の関心を持っているのは、極東における国際の平和及び安全の維持ということであります。この意味で、実際問題として両国共通の関心の的となる極東区域は、この条約に関する限り、在日米軍日本施設及び区域を使用して、武力攻撃に対する防衛に寄与し得る区域ということになるわけであります。こういう区域としては、大体においてフィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域であって、韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれるということであります。  新条約の基本的な考え方はこういうことでありますが、この区域に対して武力攻撃が行なわれ、あるいはこの区域の安全が、周辺地域に起こった事態のため脅威されるような場合、米国がこれに対処するためとる行動の範囲は、その攻撃または脅威の性質いかんにかかる次第でありまして、必ずしも前に述べました区域に局限されるわけではないのであります。  しかしながら、米国の行動というものは、おのずから制約されているのであります。と申しますのは、米国の行動は、常に国際連合憲章の認める個別的または集団的自衛権の行使として、侵略に抵抗するためにのみとられるわけであるからであります。また、このような米国の行動が戦闘行為を伴いますときは、そのために日本施設を使用することについては、当然に日本政府との事前協議が必要となってくるわけでありますが、この事前協議の点につきましては、アイゼンハワー大統領が、総理大臣に対し、米国は事前協議に際し表明された日本国政府の意思に反して行動する意図のないことを保証している次第であります。
  47. 愛知揆一

    愛知委員 私は、「極東」という問題につきましては、ただいまの総理の御答弁によりまして満足いたしました。ただ、この際、私は、念のために、安保条約の本質から見ましての極東あるいはその地域というような問題についての考え方を披露して、御意見がありましたならば、お伺いいたしたいと思うのであります。  私は、安保条約の本質は、先ほども申しましたように、究極において、これが武力発動というようなことはしないことが最大の使命であると思う。いわば予防措置であり、それこそがほんとうの安全保障であると思うのであります。それから、再々お話が出ましたように、あくまで国連憲章の精神のワク内のものである。何らかの勢力か国が、日本または極東武力攻撃を行なう場合にのみ発動するものでありますから、純粋に防御一点張りの問題である。また同時に、そうしたような他の何らかの勢力か国も、基本的に、そういったような事態を起こしてくるというようなことのないことを衷心から望むのであります。  それから次に、万一の場合、在日米軍が出動するというような場合は、ただいまもお話がございましたが、交換公文によって、事前協議を受けるのであることはもちろんでありますが、そもそも、米国自体が国連の有力なる一員である。また、冒頭に掲げましたように、新しい条約締結に至る経緯からいたして見ましても、いわば安保以前の問題として、国連に認められないことを米国がやるはずはない。攻撃的なことはやらないのであります。第二に、かりに米軍が日本基地から、米軍としては、相手側の武力攻撃に対して、国連憲章によって承認され得る程度の防御であるというような認識のもとに出動したいということで日本側に協議をしてきた場合のことを考えてみますのに、日本としてイエスと言えまするのは、日本の自主的判断によるのであります。そして、日本の自主的判断によって、国連憲章によって国連側から承認を受け得る確信のある場合に限るべきは当然であります。しこうして、日本側としてノーと言えば、先ほどお答えのように、米軍は出動できぬわけでありまして、ここに、二重にも三重にも四重にも制約がある。それを、世の中には国連憲章を踏みにじる不心得な侵略者が現われるであろうということを、まず第一に仮定をしてみる、その出方や態様についても憶測をたくましゅうする、さらにはまた、米国国連憲章も顧みずに攻撃戦争を展開するというような妄想を持ってみる、また、万々一の場合に、米国側から日本側に対する事前協議のプロセスがどうなるかというようなことについても勝手な想像をして、そうして今度は、そういう場合に米軍が出動するというような地域はどこどこであろうかなどということは、私は、それをあげつらうこと自体が、この安保条約性格——予防措置のものであり、防御的なものである、そうして真の安全保障であるという本旨からいって、おかしいとさえ思うのでございます。たとえば、そういう場合に他の不心得者が侵略意思を起こさないように、誘発しないようにするということが、この安保条約の基本の精神なのです。その不心得者に侵略の意思を誘発するようなことをあげつらうことが、いかにこの安保条約の本質に対する見方の間違いであるかということを私は指摘し、そういう観点から、日本国民として、この極東という問題につきましても公正な判断を全国民がされんことをひとえに希望する次第であります。これをもちまして、私は極東についての質問を終わります。  委員長、それでは、時間がなにのようでありますから、もう一点だけ質問さしていただきまして、あとは留保させていただきたい。  次に、私は第一条から逐条的にあらためてお伺いいたしたいのでありますが、これは時間の都合から次会に留保いたしまして、本日は、新条約の一つの特色でありますところの、第二条の経済協力等につきまして御質問を申し上げるにとどめたいと思います。  今回の条約改定にあたりましては、米国と対等の立場に立って、日米協力して日本防衛に当たるだけではない。両国が政治的にも経済的にも緊密に提携協力して、平和的で友好的な国際関係の一そうの発展に貢献しようとしている。このことは、新条約の大きな進歩であると私は思うのでございます。そこで、この中の、両国の間の経済的協力を促進するという点については、この条約調印されましてからまだ日も浅い、審議中のことでございますから、具体的に、こうこういうようなことがこういうふうに予想されるということを伺うのにはまだ早いかと思いますけれども、私の考えをもっていたしますと、日米両国の経済関係の改善ということについては、大よそ考えましただけでも、四つぐらいの論点が、大きく分けても、あると思います。たとえば、両方の輸出輸入の貿易上の摩擦を除去するということも、その一つであると思います。また、両国が関税政策の上において相協力し、調整し合うということも、一つであると思います。それからまた、資本の交流、これは率直にいえば、米資の導入ということに、具体的にはなろうかと思います。また、第四には、低開発地域の開発を協力し合うということにもなろうかと思います。こういったような点におきまして、私は、すでに相当の芽が出てきておるように思うのでございます。たとえば、これは外電の報ずるところでありますけれども、第一の、貿易上の摩擦の除去の点についても、先般、アメリカのハーター国務長官がカナダのフレミング蔵相と会談をしております。そうして、特に日本の製品ということは明示しないまでも、日本の製品ということがわかるような、そういったような表現を用いて、世界的にもっとこれのマーケットを開いてやらなければならぬじゃないかということが提案され、これが論議されているというようにも聞いたわけであります。また、安保条約に私は直接の関連があると思うのでありますが、たとえば、余剰農産物の見返り資金が、従来は在日米軍の軍人の宿舎を作るために使われておったというようなものが、在日米軍がどんどん減りまする関係で、たとえば、ここ一年の間で二十三億七千万ドル相当でございますか、こういう金が浮いてくる。それを日本アメリカとの経済協力のために新たに使用がえをしよう、その中には、日本の相当の希望が——日本独自の使用にゆだねられるものも出てくるように伺っておるわけであります。こういったような点に相当私はすでに芽が出てきておると思う。また、低開発地域の開発促進の問題にいたしましても、すでに、欧州共同体を中心にしてでき上がった八カ国の国際会議日本の参加も認められそうな状況にあるというようなことも聞いておるわけでございます。こういったように、この新条約の第二条に規定されておる経済協力というものも、すでにこういう考え方や背景というものが相当具体的に出てきている。私は、ここで一つ総理に一段と勇気と知恵を出していただきまして、この条約の第二条というものが、具体的に、なるほどと思うように着実に効果を上げるように、大いに御検討を願いたいと思うのであります。  これは率直に申し上げるのでありますけれども、たとえば、日本商工会議所の会頭が行かれた。ところが、アメリカのチェンバー・オブ・コマースと日本のそれとは組織が違うから、なかなか話し合いも十分には行なえないというようなことも伺ったわけでありますが、問題はそういうことではない。もっと真剣に、そして、もっと聡明な知恵を働かせて、そうして、ほんとうに日米のコーオーディネーションということを基盤にした上に、私は経済協力の実をあげていただきたいと思うのであります。私はこれは希望を開陳したような格好になりましたが、特に総理にもいろいろお考えがあろうかと思います。そう具体的でなくてもけっこうでございますが、御決心のほどを伺いたいと思います。
  48. 岸信介

    岸国務大臣 今度の新しい条約日米間における相互協力及び安全保障に関する条約というふうに、安全保障の点のみならず、広く政治・経済その他の面におけるところの相互協力を精神として作られたものでありまして、特に具体的に、第二条にいわゆる経済協力に関する規定を設けたわけでございます。この日米間の経済協力という問題は、今おあげになりましたように、幾多の具体的な問題がございます。大きく日米の間の関係、すなわち、日米の間でいかに貿易をスムーズに拡大していくか、あるいは資本の交流、技術の交流をいかになめらかに行なって、そうして日本経済の発展に資するかというふうな問題と、さらに、このごろ問題になっております低開発地域に対して、先進工業国としてわれわれがその開発に協力するという場合において、日米がいかに協力するか、あるいは東南アジア方面における開発に日米協力すべき問題もありましょうし、あるいは、さらにヨーロッパの共同市場との関係において協力していくべきさ問題があると思います。これらの、いわゆる日米協力して、第三国と申しますか、他の方面に経済的な協力をするとか、あるいは経済的発展に、協力してこれに支持を与えるという面において、日米協力を一そう緊密にしていく必要があると思います。こういう点に関して、従来におきましても、すでに日米両国の政府におきましては十分両方の信頼関係協力関係ができておりますから、外交会議を通じていろいろな面において協力をいたしております。たとえば、今おあげになりました、ワシントンで開かれるヨーロッパ共同市場の国々会議に対して日本が参加するというような問題に関しましては、日米の間の外交のチャンネルにおいて、アメリカもこれを支持し、実現するように協力をしておるというような問題もございますし、おあげになりました、日本商品の世界的マーケットの拡大に関してできるだけ便宜を与えるというふうな点において、すでにアメリカ政府が意思表示をしておりますし、日本としても、外交的なチャンネルを通じて緊密な連絡をとっておるわけであります。私は、アイゼンハワー大統領との会談におきまして、特にこうした日米の経済協力については、将来いろいろな問題が起こってくるし、また、その起こってくると予想できるものに対して十分な研究もし、協力関係を具体的に進めていくためには、継続的にこういう問題の協議をすることが望ましいということを申し、アイゼンハワー大統領はこれに同意を表したことが共同声明にも明らかにされております。外交上の政府政府関係においては、外交上のチャンネルを通じての従来の関係を一そう強化していって、継続的にこういう問題を協議するということは当然でありますが、さらに望ましいこととしては、民間のレベルにおいても、いろいろな話し合いをするような場を持つことが望ましいと思います。全権の一人としてワシントンに参りました足立日商会頭は、アメリカのチェンバー・オブ・コマースその他の財界の人々と話をして、すでにアメリカが、カナダとの間に、またメキシコとの間に、そうした民間レベルにおける話し合いの機構ができている、それに関する資料を集めて、従来のその活動等を検討して、日米の間に適したような仕組みを一つ考えようということで研究をしているのでありまして、そういうことが民間のレベルにおいてでき上がることも、私は非常に望ましいことであろうと思う。いずれにしても、従来ありました日米の経済協力というものを、日米間、また、第三国に対する関係において今後一そう具体化するに必要な話し合い、協議を続けていく、それに対してある種の機構が必要ならば、機構も一つ考えていくということによってこれを実現して参りたい、かように考えております。
  49. 愛知揆一

    愛知委員 それでは、残りの質問は留保いたします。
  50. 小澤佐重喜

    ○小澤委員長 本日の質疑はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。     午後六時六分散会