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吉國政府委員 現在
割賦販売につきましては、何ら立法上の措置が講ぜられておりませんので、実際問題として、
割賦販売をいたしました場合に、
所有権留保の
規定を置いておるものが、何割かを占めておるわけでありますが、その
所有権留保の
規定を
契約に置きました場合に、それが
法律的にいかなる結果を生ずるかということにつきまして、最近月賦
販売が非常に盛んになって参りましたのに伴いまして、多数の学者がいろいろ学説上の見解を発表しておられるのでございます。その説とするところを先ほど通産省の
企業局長から申し上げたわけでございまして、刑法上と
民法上の取り扱いが違うではないかという
お話でございますが、これは
売買の
形式といたしまして、
売買契約そのものはすでに成立をして、完全に
契約として存立をいたしておる。ただ
所有権の移転が代金完済、あるいは完済まで到らないでも移転する場合がございますかもしれませんが、大体の場合におきましては、代金完済を停止条件として、
所有権が移転するのだという実質を持っておるわけでございます。その関係において、単なる物の賃貸借とも違うし、また単なる
売買とも違うという
性格を持っておるわけであろうと存じます。
まず、刑法上の問題から申し上げますと、横領罪になるという点につきましては、すでに古く昭和九年の七月十九日の大審院の判決にございまして、この場合は、あらゆる場合が横領罪になるということではございませんで、その判決の
内容をまた詳細に申し上げなければいけないかとも存じますけれ
ども、刑法上は
原則としてそのものを第三者に不当に処分することは横領罪になるということが、刑法上の問題として生じて参ります。
それから
民法上の問題としては、これを第三者に
販売した場合におきましては、
民法の百九十二条の
適用がある限りは、第三者たる丁は、当然甲に対して自己の
所有権を主張することができるわけでございまして、甲は丁に対して
所有権に基づく返還請求ができないというのが
考え方でございます。
それから次に、私法上の関係として保管
義務がどういうふうになるかということでございますが、売り主に
所有権を留保するというのは、第三者に対しまする関係で、未払い代金の債権を担保しようというのがこの
所有権留保の主なる目的であるから、実際的には買い主の所有と同様に考えて、保管
費用は買い主たる乙が負担するし、買い主たる乙は自己のものに対すると同一の保管
義務を負うにとどまる、さらに進んでは自分のものとして保険をつけることも妨げないと解すべきであるというのが学者の通説でございます。このようなことは、第七条がなくとも、
所有権留保の
規定を
契約に設けることによりまして、全く同じ効果が生ずる。従いまして、初めに
企業局長から申し上げましたように、かりに第七条がなくとも、
契約ではっきり
規定しさえすれば、その
通りになるというのが大体の
考え方でございますが、ただ先ほ
ども申し上げましたように、多数の学者の議論の中では、これは一片の例文にすぎないというような議論もないではないし、またやや古い判決でございますが、そのような学説と同様な判決もございますので、この際
法律で、この点をはっきりいたしまして、何割かの
所有権留保の
規定を設けていないような場合、これは特にあまり大きな金額でもないとか、あるいは売り主の方がやや経済的に弱い立場にあるというような場合には、
所有権留保のような
規定が設けられない場合もあるように聞いておりますので、そういうような場合も考え合わせて、
法律で第七条の
規定を設けるという方が適当ではないかというのが、立法政策的な
考え方として帰結した結論であります。