○河野
参考人 私は
商工会法の問題につきまして、かねて
請願、陳情等を申し上げたいと思っておったのでありますが、幸い本日は各党の諸先生方から
意見を述べるようにという公聴会を開いていただきましたことを、この点から厚く感謝する次第でございます。
初めにこの
商工会法案の提案理由と、それからこの
法案との関連に疑問の点が非常に多いので、その点から触れさしていただきたいと思います。三月四日に政府が国会に提出いたしました
商工会の
組織等に関する
法律案につきましては、同日の本
会議におきましても社会党の小林代議士、民主社会党の北條代議士からも重要な
意見が述べられておりますが、私は戦後間もなく
小規模業者の
商工会を
組織いたしまして、さらにその
全国連合会を作り、その後十四年間にわたって
小規模事業者の経営の改善発展と、生活安定のために運動して参りました者の一人といたしまして、この
商工会法案には重大な利害
関係もございますので、特に
意見を申し述べてみたいと思うのでございます。
この提案理由の
説明書にも示されております通り、一口に
中小企業と申しましても、いわゆる独占的大
企業に対比して言われる
中小企業と、私
どもの属する小
企業とは、その経営格差におきましてはなはだしい違いがあることは、すでによく知られるところであります。現在
日本の産業構造は二重構造であると言われておりますことが定説のようでございますが、本
法案の
参考資料にも示されております通り、製造業において二十人以下、商業サービス業において五人以下の従業員を有する小
企業が、その
事業所の数におきまして全産業の八五%を占めており、またその従業員数は千五百万人に近いと言われております。この
実情から見まして二重構造のもとにさらにもう
一つの膨大な階層が
存在すると言うことができると思うのでございます。しかるにこの
小規模業者の層に対しまして、政府は従来どのような施策を行なって参ったのでございましょうか。この理由書においても必ずしも十分とは言えずと申しておりますが、まことに不十分であったと私
どもは思っておる次第でございます。このことは三年前の
団体法についての論議の中でもいわれたことでございますが、これらの点から見まして、この
商工会法案を提出する以前に、従来の
事業協同組合法または
団体法によっても解決できる多くの問題があったことを指摘したいと思うのでございます。この理由書にももちろん
金融措置、税制措置についても考慮する必要があると、きわめて軽く扱っておられますが、このことこそわれわれ
小規模業者にとっては最大の
要望だったのでございます。これが早期実現を期待していることは、ここ数年来
中小企業者の
全国的諸
団体が繰り返して行なっている決議の中にも、強く示されているところでございます。たとえば
全国商工団体連合会、
日本中小企業団体連盟、
全日本小売商団体連盟、
全国青色申告会
連合会等が、その主要な要求として次のようなことを掲げていることは御存じだと思います。一、税問題について、店主及び家族専従者の給与——自家労賃分を経費とし、これを損金として
認めよ。一、租税特別措置法の改廃、大
企業、大法人専用の措置をやめ、
中小企業の店舗改装、設備改善などの積立金を免税にすること。一、間接税の軽減。一、大衆的遊興飲食税の減免。一、固定資産税の免税点の引き上げと税率の引き下げ。一、個人
事業税の撤廃。一、住民税その他
地方税の軽減、特に所得税におきましては、免税点の引き上げと減税の
実施が、欠くことのできないものであることは言うまでもないと思います。また
金融の対策につきましては、一、財政投融資ワクより
中小企業向け
金融に対する大幅な融資、またその他の方法による国民
金融公庫を初めとする
中小企業向け
金融機関に対する投融資の増額。一、貸し出し条件の緩和並びに貸し出し手続等の簡素化等があげられるわけであります。以上の諸問題が今日全小
商工業者の強い
要望になっているにもかかわらず、ここ数年来の政府の
中小企業対策の中に、それらの解決策を見出すことは困難であります。私
どもが
中小企業者から日常聞いておりますことは、政府には
中小企業問題の根本的解決策がないのではないかということであります。前に述べました諸
要望とともに、最近特にいわれておりますことは、現在小売商業人口は飽和状態以上であります。そして過当競争は激烈をきわめておる現状でございます。しかるに政府は、現在の長期経済計画の中におきましても、毎年五、六万人の小売商人口の増加を見込んでおる状態でございます。また税制上でも、自家労賃の損金算入と所得税の免税点の引き上げのごとき、やむにやまれぬ
業者の
要望に対しましても、本年のごとく膨大な自然増収がある年度においてさえも、もちろん他に重要な理由があったと思いますが、これに対して小額の考慮も払われていないというようなことは、小
企業者の
要望を全く無視されているといっても差しつかえないのではないかと思う次第であります。知られます通り、近年
中小企業関係法令が多数公布されておりますが、その中でも
業者は百貨店法や
団体法に多くの期待を持っていたわけであります。しかし百貨店法はざる法といわれ、百貨店拡張促進法だといわれておる現状であります。また
団体法にいたしましても、商工組合
設立の条件があまりにも過酷で、利用ができない。特に
団体法の中の
事業協同小組合については、その
組織対象がこの
商工会法案の
対象とも関連が深いのでございますが、
中小企業協同組合法第二十三条の三において、「政府は、
事業協同小組合の組合員に対し、税制上、
金融上特別の措置を講じなければならない。」との決定がなされておりますにもかかわりませず、すでに二カ年以上を
経過いたしました今日におきましても、
事業協同小組合に対して税制、
金融上に何ら特別の措置を講じられていないと思いますが、このようなことでは、どれほど
法律を作りましても、
小規模事業者のためにはならないのではないかと思います。この点につきましては、
小規模業者の間に新しい
法律を作る前に、既存の
法律を完全に
実施してほしいという声が、圧倒的であるということを特に申し上げておきたいと思う次第でございます。
以上を
通産大臣の提案理由に対する
意見といたしまして、次に
法案の条文に示された主要な
内容について申し述べたいと思います。
一、提案理由の
説明の中では
小規模事業者に対する施策が強調され、また
法案第一条の目的の項においても「
小規模事業者のための
事業活動を促進するための」云々ということが述べられておりますが、また第二条の2には「「
小規模事業者」とは、常時使用する従
業者の数が二十人(商業又はサービス業を主たる
事業とする
事業者については、五人)以下」という規定がありますが、第三節の
法案第十三条、第十四条の
会員の
資格におきましては、
小規模事業者が明確になっておらないわけであります。これでは
地方町村といえ
ども、最近のごとくオートメーション化されつつある
企業のある現在、従来の
商工会議所と同じように比較的大きな
企業者の支配する
商工会になるのではないかと思います。現在の
商工会においても、一部にはすでにボス的幹部の各種の押しつけについて問題がありますが、これに
通産大臣の大きな権力が加わった場合には、往年の商業報国会、産業報国会のごとく、ボス支配の強化と官僚統制の復活になる危険があるのではないかと思う次第でございます。
次に、第七条の一
地区一
商工会とする、また
商工会議所との
重複を
認めないということであり、しかも第十三条の
資格者が二分の一以上でなければ
設立を
認めないということは、現在の自由主義の理念にも反し、また憲法に示された国民の結社の自由にも反するのではないでしょうか。現在の
小規模事業者の特質、たとえば一小都市においても山手と下町との違い、商業と工業との違い等から見ましても、適正
規模であるならば複数であってもいいのではないでしょうか。むしろ
商工会間の善意の競争によって、よりよい
商工会を発達せしめることが重要であると思うのであります。特にまた
商工会議所のある都市においては、それに
指導権を与えるということは、
商工会議所が事実上多かれ少なかれ大
企業の利益を代弁する
団体となっている現在、かりにこの
法律の必要を
認めたといたしましても、矛盾きわまるものだと思います。
次に、第四節の
設立に示された申請及び認可の件でございます。
商工会の性質からいって、
地方自治とも密接な関連のあるものでありますから、
事業協同組合と同じように
地方自治体の取り扱いにすることが必要であると思います。従って、以下法文中
通産大臣とあるところは、以上の
趣旨からこれを都道府県知事に置きかえるべきであると思うのでございます。
四番目には、第六節の第五十条の立ち入り検査及び第五十一条の警告及び第五章の罰則等はあまりにも苛酷に過ぎはしないでありましょうか。そしてこれらの点に官僚の権力主義が露骨に現わされており、零細な
商工業者に恐怖の念を抱かせることになるのではないかと思います。なおこのような規定は、政府が
団体に
事業を指定し、そのひもつきで
補助金を与えようとするところに端を発していると思いますが、かかるひもつきの
補助金制度では、現実にはあまりその
団体の発展に役立つことは期待できないようであります。たとえば私の見るところでは、
中小企業団体中央会の場合にいたしましても、
補助金による指定
事業が重荷となり、自主的な
事業活動を圧迫しているのではないかと
考えます。
五番目に、附則の第二条において「現に
商工会という名称を用いている者は、この
法律の施行後一年以内に、その名称を変更しなければならない。」ということであるが、これはあまりにもむちゃなことではないでしょうか。官僚統制を好まず、自主的に運営したいという希望を持つ十年、二十年あるいは戦前からの多数の
商工会もありますが、その固有の名称を強制的に取り上げることは、名称変更が不利不便であるばかりでなく、既存の
商工会の建造物及び各種財産に表示された標識の変更撤去等を要することになり、このことは既存の自主的
商工会の受ける有形無形の損害は莫大なものがあると思います。これは明らかに一種の財産権の侵害になると思います。
以上この
法案の提案の理由及び
法案のおもな条文においての
意見を申し述べて参りましたが、従来
商工会を運営してきた
経験から特に申し上げておきたいことは、この
法案の
対象とする
小規模業者の持つ
商工会に対する
要望でございます。単に経営
指導や
金融のあっせんだけではない、その要求は多種多様であります。税務、経理の
指導、土地建物の紛争の解決、金銭の貸借、手形及び債権債務の整理等にまで及んでおります。ある
商工会の実例によりますと、この四年間の集計で、税務、経理以外のこれらの正式受付件数は一カ年百十九件から二百七十件の多数に及んでおります。しかも大体難問題が多く、従って、これら
小規模業者を
対象とする
商工会の
指導員等は、
小規模事業の改善によほどの情熱を持つ者でなければできない
仕事であると思います。聞くところによりますと、すでに各地の
商工会が予定しておりますところの
指導員の六、七〇%は退職官吏等によって占められているとのことでございますが、これがそのまま
実施されるようなことがもしあるといたしますれば、
法律による統制強化とともに、日常の運営においても官僚支配を強め、官庁のごとき
商工会が出現するのではないかと危惧するものでございます。
今まで述べましたところによってもおわかりのことと存じますが、私は
商工業者の協同精神によって自主的に
組織された
商工会に対しまして、政府、国家が援助育成の手を差し伸べることにつきましては、これを望むものでございまするけれ
ども、これに太いひもをつけまして官僚統制化することにつきましては、反対であることを申し上げなければならないと思います。
以上、簡単でございますが
意見にかえさせていただきます。(拍手)