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仲野参考人 本日は
日本で三百万人といわれる、さらにみずから訴えることができない、こういう者の親にかわりまして、五百万人を代表して私をこの席に呼んでいただいたことを非常に光栄に存ずる次第でございます。
なおこの
機会に、三月の末に精神薄弱者
福祉法と申します、私
どもの子供が全然
法律のそとにありましたのに、初めて法を作っていただきました
皆様方に対して心から御礼を申し上げます。
私が本日申し上げます
意見としては三つあるわけでございまして、その第一は、精神薄弱者は学問的にも身体に
障害あるものの
一つである。従ってぜひこの
法律の保護
適用を何らかの形式で受け得るようにしていただきたいと思うことであります。現在の医学では、精神薄弱は人間にとって一番大切な大脳皮質部が
障害されたものであるといわれているわけであります。従いまして、世界じゅう先進国では、どこでもみな
身体障害者に関する諸
法律において精神薄弱者をも含んでおるのでございます。このたびヒューマニズムの大局的見地から
立法されるこの
法案には、何らかの形式で精神薄弱者をぜひ含んでいただきたいというのでございます。しかしながら、私は精薄者の全部にこの
法律を
適用してくれというのではございません。御存じの通り、精神薄弱には大きく分けて三つございまして、魯鈍といい痴愚といい白痴といいます。ピンからキリまであるわけでございます。私はこの世界共通に教育可能
——日本では文部省が担任しておりますけれ
ども、一応魯鈍と申しますか、これは精薄者の九割を占め、知能指数は大体五〇以上を申すわけでございますが、私はこの教育可能の者だけをこの
法律に
適用していただいてもいいのじゃないか、こういうように割り切って考えております。決して私は御無理を申し上げるつもりではないのでございます。現在非行青少年や売春婦の相当部分を精薄者で占めておりますことは、もう
皆様方御存じの通りでございます。それらはみんな精薄のうちでも知能の高い者でございまして、そしてしかも一般の中学校あるいは特殊教育の中学校、こういうものを卒業したけれ
どもどこにも
就職ができない、家庭や社会ではばか者扱いされる、じゃま者にされる、
劣等感からくる欲求
不満の反逆的精神に燃えて、ほかに何も楽しみがないのだ、気晴らしもないのだというような結果からこれらの問題が、出てくると私は考えております。どうぞ
一つこういう知能
程度の高い、教育の可能の精薄者だけでよろしゅうございまするから、こういう者にこの
法律のあたたかい
恩恵を与えていただくようにしていただきたい。ことに私がこれを強調さしていただきたいと思いますことは、現在産業がオートメーション化されまして、単純反復性の
仕事が非常に多くなりまして、こういうことはむしろ精神薄弱者の方が一般の知能を持った者よりは能率がいいんだという事実でございます。これをよくお含みおき下さいまして、精神薄弱者もぜひこの
法律に含めていただきたいということが第一でございます。
第二は、精神薄弱者の
雇用の現況でございます。昨
年度文部省と教育大の杉田先先が全国の特殊学級の中学の卒業生、昭和二十八年に卒業した者、三十一年に卒業した者、三十三年に卒業した者、こういうように
年度間隔をおきまして、全国五千名の卒業者を
調査されました
資料が私の手元にあります。その五千名のうちで
資料の集まったのが千五百名でございまするが、千五百名の
資料を拝見いたしますと、
就職に成功した者が五百二十七名で五一・七%を占めております。何とかやっている者が百三十六名で三一・二%でございます。不明な者が百十二名の一一%、
就職したけれ
ども失敗した者、これが百二十二名で一二%でございます。そのほかは特別な者、すなわち死んだ、あるいは結婚してしまった、こういう者が二十二名で、二・一%でございまして、全部の卒業生の
調査可能の者の約七割が
就職をされている。そのうちの五割は成功しておる。問題はあるが何とかやっておる者が四分の三というわけでございますので、私はこの
機会におきまして、精神薄弱者もりっぱな労働力があるということがこの事実によって証明されておる、こういうことを申し上げたいのでございます。ここに私が付言さしていただきたいことは、そんなに
雇用率がいいなら何も
法律で精薄者を心配しないでもいいじゃないかという反問が起こりはしないかということであります。これに対しましては、私はその
一つは、この
資料で五千人のうち、未報告の三千五百人がどうなっておるだろうか、また失敗をした百二十二名あるいは不明の百十二名が家庭や世の中に非常に大きな負担をかけ、国もその跡始末に非常に大きなお金を使わせられておるということに対する、ヒューマニズム以外の実質的面における反省が必要ではないかと思うのでございます。
その二は、この
程度の
雇用に持ち込むために、法の保護がありませんでしたので、特殊教育の
先生や私
たち父兄はなみなみならぬ多年にわたる非常な苦労の累積なんでございまして、大体今の
就職率のうちの四九・五%は特殊教育の
先生方のお骨折りによるものでございます。
〔
大石委員長代理退席、
委員長着席〕
三二・九%は保護者の縁故なり、骨折りによるものでございまして、
職安のお世話によってできたのはわずか九・一%でございます。
もう
一つは、今学校では文部省や
地方公共団体からの
補助金に親
たちがお金を出し合いまして、学校工場というようなものを作りまして、そしてここへ
訓練の進んだ者を校外実習生という形で、職親にお願いをいたしまして、ちょうどこの
法律の適応
訓練に相当するものでございますが、そういうことをやりまして、卒業とともになるべくその学校時代に通っておった
職場に雇っていただくというような形式を私
どもはもう多年とってきているのでございます。先ほど九・一%と申しましたけれ
ども、最近は
職安がぼつぼつと
協力的になられまして、ことに東京都におきましては非常によくやっていただけるようになりまして、私
どもは感謝いたしておるのでございます。こういう見地からも、この
法案のうちにぜひ精薄者への
適用を考えていただいて、もう少し
先生や観
たちが苦労しなくて、自然な形で精薄者にも
雇用の道が開けるようにしていただきたい、こう思うのでございます。
三番目には、精薄者についての正しい御理解、特にこういう子供
たちは働く意欲を十分に持っているということでございます。この正しい御理解を願いたいということにつきましては、精薄者はよく精神病者と間違えられておるのでございます。くどいことはやめますが、最近
先進諸国では精神薄弱という言葉を使っておりません。知能遅滞と申しております。簡単に申せばばかと気違い、これは混同していないのだということがその
一つでございます。その二は、よくジャーナリストに言われるのでございますが、精神薄弱者は善人と悪魔が同居しているのだ、こういうことを言われるのであります。だから、いつ悪魔に変わるか心配だ、こら言われるのでございます。しかし私自身精薄の子供を持った体験から見ましても、全国を歩いてみましても、精薄者というものは、もう根っからの善人でございます。ただ家庭においても
劣等感を与えられ、どこに行ってもいじめられる、この反抗心から物をぶちこわしてみる、あるいは火をつけてみるというようなわけなのでございます。女の子は何も楽しみがない、紙袋を張らしても、一日朝から晩までやっても一カ月千円しかかせげない、ところが売春婦に売られれば一晩に何千円になる、
雇用主としてみれば頭が少し足りませんから搾取の対象になる、お客様としてみれば非常にサービスがいいというようなわけで、この精薄者の売春婦は絶対に跡を断たないという心配を私
どもは非常にしているのでございます。
それで私の子供でございますが、当年二十四才でございます。学校を二年おくらせまして普通の小学校を卒業いたしまして、十五才になっても不器用で庭
一つ掃けなかったのでございます。幾ら教えてもラジオ体操もやりません。その子供が、養護学校に入れて特殊教育を受けて二年間、それから
職業指導三年半の後においては、現在りっぱに毎月何千円のお金をかせいで、
皆様方がランを植えても恥ずかしくないよらな植木ばちを毎日作っております。なお、今度練馬にできました学校法人の旭出養護学校では、大
企業の会社から学校工場をここに作っていただきまして、その大
企業の部品をそこの精薄者のみでどんどん作ってまた返すというようなこともやっております。先般私は精神薄弱者あるいは
身体障害者で、
生活保護を受けて一生そこに住まれるようなよぼよぼの方
たちの救護
施設を見に参りました。ちょうど日曜でございましたけれ
ども、翌朝起きて構内を散歩してみると、もう六時前からコンクリート・ブロックを作る工場で一生懸命に働いている。私は非常に不思議に思いました。しかもみなにこにこして働いている。園長に聞きますと、いや実はね
仲野さん、機械が一台しかないので、半日ずつ交代でこの機械を使っているのだ、彼らには金をやってはいけませんから、働いた量によってパン券をやる、券をやる、そうするとそれを持って酒保へ行って、パンを買って食ら、ジュースを飲む、それだけが楽しみで、もう朝五時前から
仕事をさせてくれといってきかないのだ、それで午前が終わると午後の者はもう待っている、こういうわけで、知恵のおくれた人々も非常に働く意欲を持っているわけであります。いや、実はこれが最大の彼らの楽しみなんでございます。やはり彼らといたしましても人間でありまして、
劣等感を除いてもらう、それはうちでごろごろしておっても、うちでも
劣等感は除けません。そのときに何か自分の精神を燃やし、何か働く意欲、このエネルギーを消耗させる
仕事に取っ組んで、しかもそのことが何か世の中のお役に立っているのだということを知りました精神薄弱者は、ほんとうに何事も望みません。決して悪いことはいたさないのでございますから、どうぞ
一つこの
法律で何とか知恵のおくれた者も、どういう形式でも私はよろしいと思います。ぜひ
一つ彼らにも働く喜び、そうした生きる喜びを与えていただいて、しかも社会の一員としてりっぱにおれはお役に立っているのだという自信を与えていただくように、
法律なりあるいは政令で、はっきりその中に精神薄弱者を入れていただきたい。これを全国三百万人の精神薄弱者にかわりまして、また五百万人の親
たちにかわりまして、私の
意見を申し述べると同時に、
一つお願いを申し上げた次第でございます。
ありがとうございました。(
拍手)