○
滝井委員 政府提案の
じん肺法案並びに
労働者災害補償保険法の一部を改正する
法律案並びに自由民主党
提出の
労働者災害補償保険法の一部を改正する
法律案の修正案に反対をして、
日本社会党並びに民主社会党
提出の
けい肺並びに
外傷性せき髄障害の
療養等に関する
臨時措置法の一部を改正する
法律案に賛成の意を表するものであります。
以下その理由を申し述べます。まず
じん肺法案についてでございますが、近代の資本主義国家における産業の急激な発達は、多くの
職業病を生む
状態が顕著に生まれつつあります。そういう中で
政府は急遽
じん肺法という、単に肺に
関係のある
一つの
職業病的なものに対して
法律を出しておりますが、これだけでは多くの欠陥があると思います。従って当然将来
政府は
職業病の総合的な
対策樹立のために、
職業病の総合的立法を行なうべきだと思うのですが、そういうこともやらずに当面を糊塗しようとしております。特に
じん肺法の中において
労働者の教育についてはある程度の条文を持っておりますが、
労働者を使用する使用者側の教育等についてはきわめて不明確でございます。また、
じん肺が進行をして、管理一から二、二から三と病状が進行していくと、その場合には職場転換を行ない、わずかに二十日間の転換
手当を支給しますけれ
ども、一たび管理四から三、二と、こう病状が回復していった場合についての職場復帰の問題については、法案は何ら積極的な意図を示しておりません。そればかりでなく、管理三から管理四になろうとする
労働者が職場転換をする場合に、一カ月門の転換
手当だけで、その後における
賃金の格差、職場転換によって下がるであろう
賃金の格差については何らの考慮が払われていないということでございます。こういうように、この法案は一面
じん肺法という
単独法の進歩的な様相を持っておりますけれ
ども、しさいにその内部を検討してみますと、羊頭を掲げて狗肉を売るというようなニュアンスが見えることは非常に遺憾でございます。なお個々の身体検査その他についても、事業主の指定する身体検査以外で、みずから積極的に随意の申請による身体検査やあるいは自分の希望しない医師で身体検査を受けるというようなわずかな身体検査の料金さえも、事業主の負担でなくて
労働者に負担せしめておるという、こういう形態がとられております。こういう点から
考えても、今回の
じん肺法は一面進歩的なものを持っておりますけれ
ども、この
じん肺法というものは当然
法体系としては
予防と
健康管理と
治療と後
保護という四つの柱が一貫をしてこの
法律の中に盛られていなければならないにもかかわらず、根本的に、
予防と
健康管理の面は強調せられておるけれ
ども、
療養の面、
治療の面、後
保護の面についてはわずかに二、三行の条文で片をつけておるというきわめてずさんなものでございます。社会党としては、この
じん肺法の
方向としてのある程度の進歩性は認めるけれ
ども、幾分底抜けの感かあるので、今回はこれに賛成するわけには参りません。
さらに、
労働者災害補償保険法の一部を改正する
法律案については、今与党の方から一部の修正案が出されましたけれ
ども、この修正についてもきわめて不満足でございます。今度の
労働者災害補償保険法の一部を改正する
法律案の
政府提案の根本的な欠陥は、
労働基準法というものはそのままにしておいて、
労働者災害補償保険法だけを手直しをしておるという点でございます。
基準法上の事業主の責任以上のものを
労災法できめることは
法体系としては邪道であるといわなければなりません。
労災法を修正するならば当然
基準法についても
政府は根本的に改正をして出してくべきでございます。ところが昔から
日本では
基準法をいじることはタブーだといわれておりますが、それをそのまま松野労政は今度は踏襲しておるようでございます。若い松野労働大臣としては勇気に欠けるところがあって非常に遺憾と思います。特に
労災法の一部を改正することによって、そこに膨大なわれわれ国民の税金を、事業主の出した保険料以外につぎ込むことになりました。そういうことになると、
労災法の適用のない
労働者は
労災法以下の待遇しか受けないことになって、国民の税金が不当に使われて、
労災法の適用を受けない人との間に大きな差をますます拡大していくことになるのです。これは結局
基準法を当たらなかった根本的な
矛盾がそこに出ております。従って
政府はその
矛盾を何らかの形で糊塗するために
事故の発生の後においても特別加入の制度を認めて、苦肉の策をとっておることがこれ具体的に現わしております。
こういう根本的な
矛盾を、
労災補償保険法の一部を改正する
法律案は含んでおりますが、さらにもっと重大な点は、
労働基準法において
打ち切り補償を受けた場合に、三年で解雇制限というものが撤廃されることになるわけですが、今度のこの法案においてはその千二百日分という
打ち切り補償を
基礎にして
年金の体制を作っております。従って当然これは
基準法にいう
打ち切り補償がもし分割払いにせられた場合には六カ年間というものは解雇してはならないという、
労働省自身が書いておるコメンタールの中にもあるのでございますが、そういう精神が法案の中に出てこなければならぬにもかかわらず、分割払いをしながらも、実際は
打ち切り補償とみなすという形をとってきておるわけでございます。従ってわれわれはこういう画期的な改正をやろうとするならば、
政府としてはこの際非常に
不治の病にかかって悲惨な生活を送る
けい肺の
患者なり
せき損の
患者について、雇用の三年の打ち切りということでなくて、少なくとも六カ年くらいは延長する温情のある政策を出すべきではなかったかと思うのです。これについては資本家側の日経連の圧力が強く与党なり
政府に加わって、その実現ができなかったことは非常に遺憾でございます。
法体系の問題もさることながら、これがまずわれわれか反対をする第二の大きな問題点です。
第三の問題点は、
労働者災害補償保険法における第一種傷病
給付と第二種傷病
給付と
二つの点に分けた点であります。第一種傷病
給付は二百四十日の
年金を与え、第二種傷病
給付は百八十八日の
年金を与えます。今回与党の一片の良心によって百八十八日は二百日に修正をせられておりますけれ
ども、これは二百四十日と百八十八日、あるいは修正による二百四十日と二百日では、どうも論理のつじつまが合わない。
政府の方としては、百八十八日と決定をしたのは、一カ年周の
療養費が入院の場合に二十四万四千円程度要るんだ、通院の場合は年間三万二千円程度であるので、第一種の通院の場合は二百四十日で、入院の場合は百八十八日にしたのだ、こうおっしゃいます。そうしますと二十四万四千円と三万二千円で、この二百四十と百八十八と、つじつまが合わなくなってくるわけです。そういうお金の
計算でいきますと、こういう差よりももっと差が開かなければならぬということになると思うが、こういう腰だめ的な数字で差をつけておる。当然われわれの経験、
患者からの意向を聞いてみますと、むしろ入院の方がよけいに金がかかる、こういう形があるとするならば、入院と通院とを一本にすることの方がより合理的であろうと思う。二百四十と百八十八で通院によけいの金を払うということは、
労災病院からこの悲惨な
けい肺なり
せき損の
患者に出ていけという形を暗黙のうちに
政府がとっておるのではないかという、痛くもない腹を探られるおそれもあるわけでございます。
政府がせっかくあたたかい気持で作ったその
法律というものが、そういう疑いをつけられるだけでも不徳のいたすところにもなりかねないので、こういう点がわれわれの納得かいかない点でございます。これが第三。
第四に納得のいかない点は、
年金との併給の問題でございます。元来
労働者災害補償保険と厚生
年金とは、その発足当初から約束が違っております。厚生
年金は
労働者と事業主とがそれぞれ保険料を半分ずつ納めて、多分千分の三十の保険料を千分の十五ずつ納めて作っておる保険でございます。
労働者災害補償保険は、これは事業主自身が
労働者の負担を持って保険料を払っておる保険で、発足の当初から約束の違った保険であります。その保険がたまたま
障害というその言葉が一致したからといって、形式的には併給しておりますが、これを併給せずに、百分の五十七・五、国家公務員共済組合では百分の七十というのではどうも納得いきません。しかも老齢
年金については併給をして起るという点でございます。
年金は厚生省所管、
労災保険は
労働省所管であるにもかかわらず、こういう独断が行なわれておる。皆
年金制度の樹立にあたって
政府はこういう
矛盾をすみやかに解決すべきだと思います。むしろそれまでは併給の形をとっておって、そのときになって何か調整するというのならばわかりますが、今からこういう差別待遇をするということは、これは将来の
年金制度確立の上からいってもむしろ隘路を形成するものとして賛成いたしかねます。こういう点が根本的な点でございます。
そのほか与党の方でわれわれ民主党なり社会党の主張を入れたものは、わずかに
打ち切り補償を受けた人たちに対して七十九日差し引くというのを四十日の差し引きにしてくれた点でございます。鬼の目にも涙という言葉がありますが、まさに四十日間は鬼の目の涙であったことは非常に悲しい思いがいたす次第でございます。
そのほかスライド等も認めましたけれ
ども、こういう点についてはなお
賃金のとり方等についても問題のある点でございます。これは悲惨な
労働者でございますから、
労働者に最も有利な点をスライドの
賃金の
基礎にしてもらわなければなりません。と申しますのは、今回の改正というものが
職業病とそれから
アクシデントである
脊髄骨折のようなものを全部
一緒にして
労災法の中にほうり込んできておるということです。しかもその人がほうり込まれるときには、その働いておったときの前三カ月間の
賃金が
基礎になるという点です。従って
アクシデントによって
長期の傷病
給付を受けるところの
労働者と、長く
けい肺や
ベンゼンの
中毒で
労働能力が落ちて、そしてこの
法律の恩恵を受ける
労働者との間に、非常に
賃金の算定の
基礎、いわゆる
年金の
基礎に差が出てくるわけです。こういう点についてもわれわれはどうも納得のいかない点かございます。
とにかく一応
方向としては、こういう悲惨な傷病に対して
年金の
方向に向いたいという点については、私は
労働省のその努力には感謝を申し上げますけれ
ども、
労働省というものはもう少し科学的な見地に立って、ほんとうにヒューマニズムを持ってこの法案を作る必要かあると思うのです、もちろんわれわれ社会党にしても、現実の政治というものが力
関係によって決定せられておるということはよくわかっております。しかしある程度ヒューマニズムというものが力を乗り越えるということがないとするならば、政党政治というものは意味をなさなくなります。私は今度の法案の
方向としては、ある程度そのいい
方向を認めますけれ
ども、その根本的な底流を流れるものを見ていきますと、非常に多くの
矛盾点をはらんでおります。
政府はすみやかにそれらの
矛盾点を克服して、りっぱな
法律にしていただくことを要望いたし、悲しいかな
政府提案の
じん肺法並びに
労働者災害補償保険法の一部を改正する
法律案、並びに自由民主党の
提出した
労働者災害補償保険法の一部を改正する
法律案の修正に対しては賛成することができません。従って社会党と民主党の
提出をいたしております
けい肺及び
外傷性せき髄障害の
療養等に関する
臨時措置法の一部を改正する
法律案に賛成をいたしたいと思います。この
法律によって、とりあえず一カ年間延長をいたし、ゆっくり
一つ、根本的な
方向はいいのですから、その
方向をよりよき
方向にきちっと
法体系をまとめて、
基準法、
労災法の
矛盾を服して出していただくことを要望し、私の討論を終わります。