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1960-03-25 第34回国会 衆議院 社会労働委員会 第21号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年三月二十五日(金曜日)     午前十時四十三分開議  出席委員    委員長 永山 忠則君    理事 大石 武一君 理事 大坪 保雄君    理事 田中 正巳君 理事 藤本 捨助君    理事 滝井 義高君 理事 八木 一男君    理事 堤 ツルヨ君       池田 清志君    大橋 武夫君       亀山 孝一君    柳谷清三郎君       山下 春江君    亘  四郎君       赤松  勇君    伊藤よし子君       大原  亨君    五島 虎雄君       中村 英男君    佐々木良作君       本島百合子君  出席国務大臣         労 働 大 臣 松野 頼三君  出席政府委員         労働基準監督官         (労働基準局         長)      澁谷 直藏君  委員外出席者         労働基準監督官         (労働基準局労         働衛生課長)  加藤 光徳君         労働基準監督官         (労働基準局労         災補償部長)  村上 茂利君         専  門  員 川井 章知君     ————————————— 本日の会議に付した案件  労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案  (内閣提出第三号)  じん肺法案内閣提出第四号)      ————◇—————
  2. 永山忠則

    永山委員長 これより会議を開きます。  内閣提出労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案及びじん肺法案の両案を一括議題として審査を進めます。  質疑の通告がありますので、これを許します。佐々木良作君。
  3. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 前回に続きまして質問をさせていただきたいと思います。前回委員会におきましては、提案の二法案につきまして、特に法体系の問題を中心にして、基本的な政府のお考え方を伺ったわけでありますが、本日は具体的に提案になっておりますところのじん肺法案労災改正法案と、両方につきまして同じように基本的な考え方中心にしてお伺いをいたしたいと思います。  前回におきまして法体系の問題を中心吟味をいたしました際に、私ども一番心配しておりますのは、今度の改正目的提案目的が、あくまでもけい肺等職業病的なものに対して一そう厚い保護を加えようとする立法趣旨であるという立場であるにもかかわりませず、むしろ法体系を従来の法律のワクの中に押し入れようとする努力が強過ぎたために、実質的にはかえって保護が薄れてしまうという結果になることをおそれまして、その立場から法案内容吟味をいたしているわけであります。従いまして、そういうおそれの一番強いのは補償関係に出てくるわけでありますから、労災法関係中心になるわけでありますけれども、根本的な考え方じん肺法にあるわけでありますから、やはり順序といたしましてじん肺法から質問をさせていただきたいと思います。  まずじん肺法案につきまして、予防措置でありますが、けい肺審議会におきましてはせんだっての委員会に申し述べましたごとく、けい肺等特別保護対策考えるにあたりまして、予防から健康管理、さらに補償と、これらの一貫した問題を総合的な観点に立って、総合対策の樹立を必要とすることを、その基本構想においても強く述べておるわけでありますから、従いましてその一番中心は、まず予防徹底化という言葉でけい肺審議会がいっておりますように、じん肺予防徹底ということが一番本法案中心にもなろうかと思うわけであります。ところがこの条文を見ますと、じん肺法案中に事実上予防をうたってありますのは舞五条、次に教育を義務化しております一カ条がありますが、事実上は第五条の一カ条文だけであるような気がするわけであります。この第五条の一カ条文の中で、特に「粉じん発散抑制保護具使用その他について適切な措置を講ずるように努めなければならない。」こう規定しておるのでありますが、これがほとんど唯一の予防措置規定した法文になっておると思います。これは一体従来の予防措置にかわってどの程度しようということで、具体的にこの条文が示しておる内容は何を新しくねらっておるか、まず承りたいと思います。
  4. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 このけい肺を含むじん肺職業病対策につきましては、これにかからないように予防するということが一番大事な点はただいまの御指摘通りでございます。そこでけい肺審議会医学部会におきましても、臨時措置法制定後の医学進歩等を参酌いたしまして、この点について各方面から慎重な審議がなされたわけでございますが、その結論といたしまして、この第五条に規定いたしましたように、従来の労働基準法及び鉱山保安法規定によりまして、それぞれの予防なり、この粉じん作業に従事する労働者に対する衛生面の諸規定があるわけでございますが、従来の労働基準法及び鉱山保安法規定だけでは十分ではない。その以上に粉じん発散抑制保護具使用その他について、その後のいろいろな衛生工学進歩あるいは医学進歩等に見合って、そういうものを十分尊重した上で、「適切な措置を講ずるように努めなければならない。」こういう規定を設けたわけでございまして、これの具体的な内容につきましてはこの法律によって設置されまするじん肺審議会、そのじん肺審議会の中に、その方面専門部会も設けられることになっておりますので、そういった寺門部会等を通じて、常にその方面研究をして、その成果が上がりました場合には、それを逐次具体化していく、こういう考えのもとに第五条を規定したような次第でございます。
  5. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 この予防について特別な立法をするという問題について、けい肺審議会における使用者側意見をこの書類によって拝見をいたしますと、あえて反対はしないけれども予防に関しては事実上この程度のことなら基準法保安法規定されておって、粉じん発生抑制除去であるとか、保護措置などの行政上の指導についても、現行法制で十分実施されているところだから、事実上は必要なさそうだ。現行法に不備があるならば、現行法を一、二直せば足りるじゃないか。新しくこういうものを出す必要はないではないか、こういう意見答申書に述べられております。私は今承った程度でありまして、科学進歩もしておるから何とか少し考えるというくらいのものでありますならば、むしろこの使用者側意見の方が妥当のような気がするわけであります。ここで義務づけも行なわれておりませんし、特別な新しい内容、特別な新しい決意もこの条文から見えないわけでありまするから、どうも私どもからしますと、この使用者側意見、法の考え方からいうとその程度のような気がいたしますが、格別に使用者側意見に反対して独立法を作られるところの、予防措置としてまだ何か具体的に考えておられるものがあるのでしょうか。
  6. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 具体的な点と申し上げますと、労働基準法または鉱山保安法によって一般的な規制が加えられておるわけでございますが、その理解のためにたとえて申し上げますと、防じんマスクの着用であるとか、あるいは窯業におけるトルネルがまの設置というようなことが考えられるわけでございます。そのほかにこのじん肺予防につきましては、たとえばこのじん肺含有量定期測定の問題であるとか、さらに進んで恕限度一般的な基準を設けるというような重要な問題があるわけでございますが、わが国の現在の産業実態から見まして、定期的な測定を全産業に対して法律によって強制する、あるいはこの全産業に通ずる恕限度を客観的な基準をもって定めてこれを規制していくというようなことに踏み切るには、産業実態さらにはまた医学研究段階がそこまで進んでおらないというような点があるわけでございます。しかしながら、今後の進むべき方向としましては、そういうような点を取り上げまして、逐次産業実態に合うような恕限度等のようなものが、基準が定まって参りますれば、逐次これを産業に適用していくというような方向努力を進めていかなければならないと思うわけでございます。この第五条はそういった点を考えまして、今直ちに法律でもって一律に強制するということは適当でない、しかしながら、今後の方向としてはそういう方向を目ざして進んでいかなければならない、そういうような点を加味いたしまして、この努力義務規定したような次第でございます。
  7. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 ちょうどその辺から具体的には私は承りたいと思っておったわけであります。この法律といいますか、この法律のもとでありますところの特別保護法ができましたのが昭和三十年、私はその前、多分三十七、八年ごろであっただろうと思いますけれども、そのごろのけい肺審議会におきまして、この予防の問題がずいぶんやかましく論議せられたことがあったと思います。そうして今度の答申書を読みましても、この予防部分でやってくれという要望労働者側その他から非常に強く出ておるものがあるわけであります。それらにつきましてほとんど触れられずに、しかも努力義務だけを課せられて別に新しいものが何もないというところに、本来この問題に取り組もうとされる態度について私は疑問を持っておるわけであります。現在の予防について一体何が不足しておって、その不足部分をこの法律によってどう補おうとしておるのか、その具体的なものなしに、いいかげんな予防規定みたいなものを作られましても、それが審議会答申の眼目であるところの予防徹底化にはちっとも進んでこないと思います。従いまして、私はまず承りたいと思いますが、あれほどやかましく粉じん管理について要望が出されており、そうして多分二十八年ごろだったと思いますけれども恕限度部会答申が行なわれておりまして、わが国においても、やろうと思えば、こういう格好でやれるという結論は、はっきり出ておったはずであります。あれから、御承知のように大かた十年近くになってようやくにしてこの法律を作ろうとしておる際に、その内容はほとんど取り入れられてないということであれば意味をなさぬと思う。従って私はまず第一に、粉じん管理のこの必要性について十分な認識を持っておられるかどうかを中心としまして、なぜいわゆる衛生学上の粉じん恕限度設定というところに踏み切れなかったか。さらにまた粉じん測定器を統一的に指定してくれろという話も、これもずいぶんその前からの話であったと思いますが、そのことについても、一切触れられておらない。さらにまた、そういう機械を使って粉じん測定を定期的に実施をせいという、粉じん測定定則的実施についての義務づけというのが第一の予防措置基本になっておったと思います。この三本の恕限度設定し、それをはかるための機械をはっきりと統一的に指定をして、それによって定期的に粉じん予防粉じん測定を行なう、このことが基本的な内容にならなければならぬ、こう私は思うのに、なぜこの問題が法律に全然頭を出しておらないのか、もう一ぺん承りたいと思います。
  8. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 じん肺予防管理につきまして、この恕限度設定と、それから定期的測定機械の統一、さらには粉じん定期的測定実施させるという三つ基本的な最も重要な問題であることは全く同感でございます。従いまして今回の法律の立案にあたりましては、そういった点をでき得れば法律上明らかにしたいという気持を持っておったわけでございますがまず第一に申し上げますると、この測定器具を法制化する前提といたしまして、恕限度設定の問題があるわけでございますが、これにつきましては、私はしろうとでございますが、専門家意見によりますると、学問的には、まだ未解決な点が非常に多い。従って粉じんの種類及び粒度作業強度等に応じた適正な恕限度がいまだ設定されるに至っていない。第二には粉じん作業の態様が千差万別であるために、測定個所測定回数等測定する条件について妥当な基準を定めることが現在の段階としては困難であるということ。さらに第三に、この企業粉じん作業が行なわれておるような作業場事業場全体に対しまして簡便正確な測定器共を備えさせるような、そういった器具がいまだ普及していないというような点がございまして、そこまで法律上踏み切るということが今回の措置としてはできなかったわけでございます。さらに現段階におきまして、直ちに使用者粉じん定期的測定実施させるということガ望ましいわけでございますが、これもただいま申し上げましたような機械が普及しておらないというような事情がございまして、これも今直ちに法制化することは困難であるというような事情でこのような形になったわけでございますが、この三つの点が粉じんの、このじん肺予防管理上最も核心をなす重要なテーマであることは御指摘通りでございますので、じん肺審議会の内部に設けられます専門部会等を通じまして、そういったような研究を進めて、成案を得ましたならば、逐次これを具体化していきたい、こういったところで努力をして参りたいと考えておるわけでございます。
  9. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 今のお話で言うと、恕限度設定は、医学上といいますか、科学技術上まだ不可能に近いというお話でありましたけれども、私はよく知りませんが、こういう問題についての諸外国の例は、この間も基準局長外国の例をとられておったようでありますが、大体アメリカにしてもソ連にしても、そういうところは今の科学知識の範囲内で恕限度というものを設定して、それを予防基準にしておるのではないですか。それが日本だけその意味で不可能だと言われるのかどうか、もう一ぺん承りたいと思います。
  10. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 じん肺予防につきましての外国法制状況を申し上げますると、外国でも、ただいま議論になっております恕限度設定あるいは定期的測定のような問題を全般的に規定している国はまだきわめて少ないわけでございますが、部分的にはこれらの問題を法制化して実施しておる例があるわけでございます。たとえば粉じん測定及び恕限度の問題につきましては、オーストラリアベルギーアメリカの一部の州におきましては、この粉じん恕限度法律によって設定いたしております。さらに粉じんの資料、採掘係数及び分析方法等につきまして法律規定しておる国といたしましては、オーストラリアベルギー南アフリカ等があるわけでございまして、さらに保護具使用につきまして法律規定しております国といたしましてはオースラリア、アメリカ等の一部の州というような外国状況に大体なっておるわけでございます。
  11. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 従って私が伺いたいのは、わが国におきましても、私の記憶に誤りがなければ、多分二十七、八年ごろだったと思いまするが、けい肺審議会の中に恕限度部会なるものがありまして、そしてそれが一つ答申を出しておったような気がするわけであります。そのころからそういう科学的な検討はずいぶん進められておるはずでありまして従って科学的に困難、不困難という問題は、国際的な水準あるいは国際的にも全部でないかもしれませんけれども、その常識的な国がやっておる程度のことは私は可能であると思う。問題はそういう科学的な検討のところにあるのではなくて、日本産業状態でありまするとか、あるいは職場状態であるとか、労使関係であるとか、むしろそういう社会環境にこの恕限度設定等を現在までおくらせておる原因があるのではなかろうか。そのことを私は心配しておるのでありまするが、今言いましたような科学的な根拠オンリーというところにこの原因があるのか、あるいはまた日本流社会環境原因があるのか、もう一度一つ伺いをいたしたいと思います。
  12. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 この恕限度法律による規制に踏み切れない理由としてどういう点があるか、ただいま佐々木委員が二点御指摘されたわけでございますが、確かに御指摘のように純粋に科学的に困難であるという面も一つあるわけでございますが、そのほかに、そういったことがかりに純粋理論上可能だといたしましても、これを直ちに小さな零細企業を含む日本産業の現在の段階におきまして法律によって強制するということは、それを受け入れるような力が日本企業実態としてああるかどうかという面にも非常に大きな障害があることは御指摘通りでございます。
  13. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 私はむしろ従来からの経過から見ますと、ほんとうはそこら最大原因があるのではなかろうか、使用者側意見を瞥見をいたしましても、実際はこういう職業病的なものについて特殊な予防措置使用者の責任において義務化せられることに非常に大きな恐怖を感じておるのではなかろうかと思う。従いまして私はこの間からも言っておりますように、問題はやはりこの際に明確に出さなければならないわけでありますから、わが国科学的な進歩恕限度設定に至らないというような説明ではなしに、恕限度設定を困難ならしめる最大原因が現在日本労使関係にあり、職場環境にある。そしてそこにこそわれわれは今メスを入れて改善をしなければならないのだという焦点をはっきり据えられんことを特に要望する次第であります。従いまして、この法案の中に、予防の一番中心であって、規定しなければならぬ中心でありまするところの粉じん管理についての今の三点を中心とする規定が全然欠けておる点は、私は心から不満であります。従って、こういう点かないのであるとするならば、この法律は一体何を特別の目的にしておるのか、私はわけがわからなくなってきているわけです。このじん肺法の出現によって、けい肺審議会要望しておるような、現在以上に予防徹底をはかろうという措置として何が期待されますか。何も具体的なものはないでしょう。今の粉じん管理のような概念がはっきりと法制化されるならば一歩前進になる。そうでなかったならば、今の結核予防法を入れた三法と何も違いはせぬ。だから使用者の言うように、今のような態勢でいくならばその中の一、二必要なところを修正すればいいじゃないかという考え方が当然出てくると思う。そこに労働省自身考えの混乱があるというか、ずるさがあるというか、私は非常に心配なわけであります。  それならば私はもっと根本的に伺いたい。これはまだ努力を希望しておるだけでありますけれども、新しくじん肺法を作って、従来の基準法鉱山保安法結核予防法規定による以上に、粉じん職場事業主に対して、じん肺予防のための特別の措置を要求しようとするこの法の建前は、どこに根拠を持っておるとお考えでありますか。
  14. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 今回じん肺予防健康管理について特に単独法提案しておるわけでございますが、一般職業病のうちでも特にじん肺はその関係労働者も非常に多うございまするし、従ってそれの罹患率も相当高いのは御承知通りでございます。従ってそういったじん肺特殊性に適応した具体的な指導なり、それに対する粉じん抑制といった具体的な努力目標を掲げて、そういった方向で進まなければならないという考え方で第五条を規定しておるわけでございます。ただこの第五条は、確かに御指摘のように一般的な努力義務を掲げたのみでございますので、一見いたしますと、いかにもこれだけでははなはだ力が弱いという印象を受けますし、その点は避けがたいのでございますけれども、先ほど来お答え申し上げておりますように、私どもといたしましては、日本の現在の状況においては、ただいま問題になりました恕限度設定あるいは定期測定の問題などを今直ちに法律で全般的に規制することは困難である、しかしながら目標はあくまでもそこに置かなければならないので、今後労使等とも十分連絡をしながら労働省としてもそういった方向に大いに努力をして参りたい、こういう考え方が第五条を設けた基本的な考え方でございます。
  15. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 私はこのじん肺法関係については、従来の一般法規定しておるような予防安全措置ではなしに、特別に予防措置を重く講じようという法思想から出ておるのだろうと思う。その理由は、やっぱり、職業病的な考え方であって、この粉じん職場に働らかなかったならば、じん肺病になる心配はない。そしてその粉じん職場に就職するならば、普通の人ならば一〇〇%あるいは八〇%かかるおそれがある。そういう特殊な職業病的なものであるが、それはまだ予防が可能であるから、その点を特別に義務化して予防せしめようというところに私は法の根本の趣旨があると思うのです。従いましてこのじん肺法立法趣旨は、予防と、そして今度ずっと一連の健康管理から補償までの体系を整えて、要するに日本社会からそういうけん肺病的なものを撲滅しようというところに理想があるだろうと思います。それならばやはり従来の法律と違った義務、違った要素がこの法律から出てこなければならぬ。立法趣旨なり、希望方針は今言われたように高く掲げられておるけれども規定されておる内容は、従来とちっとも変わらぬということならば、それこそ羊頭を掲げて狗肉を売るというのは、このことをさす以外にないと私は思う。私は従来の要素と変わらないならば、新しい法律体系を整えられない方がいい、これはごまかしになるから。従って私はせっかくこういうじん肺法という体系を整えられるならば、予防について審議会がもっと強く希望しておられるような徹底化がはかられたい、こう思うわけであります。かりに百歩譲って、これは技術的なことになりますけれども大手中小企業、今のお話で、いい職場もあり小さい職場もある。その大手中小企業、あるいはもっと個人企業みたいな形で、非常に一律にやりにくいというお話でありますけれどもけい肺の今発生しておるのは、大手中小企業やその他の職場の大小にわたって、大体どういう分布になって発生しておるか。そしてまた、たとえば恕限度設定というようなものを、たとえば今のように一ぺんにできないならば、漸進的にでもできないだろうか。大手職場ならば、これは諸外国の非常に進歩したところの職場と似たような労働環境を作り得る状態になっておる。従って大手そこらだけにでも恕限度設定をして、それを順次中小から私企業に及ぼしていく、こういう技術的な方法がとれないかどうか、あわせて伺いたいと思います。
  16. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 確かに御指摘通りでございまして、私どもも先ほどから申し上げておりますように、そういった具体的な恕限度なり、あるいは定期測定基準度のような成案を得ましたならば、受け入れ可能を大きな職場から逐次これを実施いたしまして、これを行政指導によってやがては中くらいの企業、さらにはそれより小さな小企業まで徹底していく、こういったような漸進的なやり方で参りたいと考えておるわけでございます。粉じん発散抑制する方法といたしましては、御承知のように、生産技術あるいは作業行程、さらに原材料等変更または改良しまして、粉じん発生源をまずなくす、粉じんをまず発生させないようにするということが最も理想的であるわけであります。しかし現実の問題としましては、どうしてもある程度粉じん発生ということは避けがたいわけでございますから、やむを得ず発生した粉じんをその場で直ちに捕捉してしまって、不必要に職場にこれを分散させないという措置を請ずることがその次に必要なわけでございます。  それからその次の段階としましては、その発生しました粉じんをすみやかに除去してしまう。作業場から発生した粉じんというものを早く除去してしまう。こういったような措置が最後には必要になってくるわけでございますが、そういったことをするためには、具体的にどのような方法が必要であり、また可能であるかということを、労働省におきましても、いろいろと検討いたしておるわけでございます。そのうちの一部分を例示的に申し上げてみますると、まず第一に技術変更によって、粉じん発散抑制する方法といたしましては——ややこまかくなりますが、よろしゅうございますか。
  17. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 こまかいのはまたあとでよいのですが、要するに漸進的、段階的にでもやる気持が今あるのかないのか。
  18. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 その点ははっきりお答えいたしますが、私どもはそういった方向を目ざしまして、漸進的にとにかく着実にやっていきたい、こういうふうに考え研究を進めておるわけでございます。
  19. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 今の前半の、常識的に大手中小以下とは大体どのくらいの発生度がありますか。
  20. 加藤光徳

    ○加藤説明員 けい肺につきまして調査いたしましたのは、国が行ないます健康診断の三十四万の数字でございますが、それによりまして、産業別には多少のずれがございますが、全体として一一%程度けい肺が発見されておるということでございます。規模の大小につきましては、現在のところ大して変わりが出ておりません。そういう規模別のこまかい調査は出ておりませんが、その点でどの規模からどういうふうな差があるのかということについての成績は出ておりません。
  21. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 先ほどの予防措置、特に恕限度設定中心とする予防措置が、日本においてはなかなか一律にとりがたいという御答弁でありましたので、その理由について、私はそれは恕限度というものが科学的に設定しにくいところに大きな原因があるのか、あるいはまた日本労使関係なりあるいは労働環境なりに特殊なものがあって、そこの方が大きな原因になっているのだろうかということを吟味したわけでありますが、先ほど来お話のありましたように、科学的にはある程度の問題があったとしても、その科学知識といいますか、そこに日本が非常に劣っておるがために恕限度設定が困難になるという点には、私はそれほど大きな理由を発見し得ない。むしろ逆に恕限度設定をされておるような諸外国の例に比べて、わが国設定されておらないとするならば、むしろ日本独特の労働環境なり、立ちおくれの労使関係原因があるというふうに私は考えたわけであります。従いましてそれならば日本産業の中にも大手等においては、諸外国のどこに比べてもひけをとらないような——松野さんも御承知のように、政府はいよいよ自由化に踏み切るくらいでありますから、それほど大きなハンデがついておれば自由化には踏み切れないはずであります。踏み切るまでの状態になっておるから、従って大手等については当然に世界の普通水準における労働環境恕限度設定していいような状態ができておるのではなかろうか、私はこういうふうに思います。その漸進的な設定を確実に考えられたいことを特に希望したわけであります。しかし今のお話によりますと、十分な調査もなさそうでありまして、大手中小以下との発生度について必ずしも的確な御答弁をいただけなかったわけでありますが、どうか一つ基準局において、もし今のような方針で問題を進められるならば、私はあくまでも法の建前としては、今の三点を中心として義務化して、一律に設定することを希望しますけれども、特別な状態で、今のように漸進的に進められるお考えがありまするならば、早急に今の大手関係とそれ以下の中小発生度を実績的に調べられてそうして大きいところから、やり得るところから順次に、早く実施できるような措置をとられたい、特に私は希望をいたしたいと思います。  さらに、これは少しくどいようでありますが、私はこういう問題を出してくれば出してくるほど、せっかくじん肺法あるいはけい肺特別措置といって掲げられておりながら、これが一般の業務上の傷病の措置一般的にすぐに引き戻す危険性を感ずるわけであります。今のような、特別にこの法律を作ってけい肺関係中心とするところの労働環境予防措置を講じようという法の目的をもう一ぺんはっきりさせるために、職業病という概念が今出てきつつあって、その一番典型的なものをけい肺に求められておる。その、前の概念を少し広めて、じん肺という概念が出てきつつある。この職業病という概念を明確にすることによって、従来の業務上の疾病に対する予防あるいは補償措置職業病に対するそれらとの相違が出てくるような気がするわけであります。従って現在この職業病という考え方をどの程度労働省において具体的に考えられておるか、承りたいと思う。
  22. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 職業病につきましては、これは私もしろうとでございますが、専門家意見を徴しますと、現在の医学段階といたしましては、完全に職業病というものはこういうものであるという、明確に定義づけられたものはないように聞いております。しかしながら私どもが取り扱っております労働衛生の場におきましては、一般に一定の作業に継続的に従事することによって発生してくる特殊な疾病である、しかもそれは長時日の間に漸進的に現われてくる慢性の病気、これがいわゆる職業病であるというふうに考えております。
  23. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 現在の日本法制の中に、職業病という言葉を規定したものがありますか。あるいは条文上使っておる言葉はありますか。
  24. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 現在のわが国の法制で、はっきり職業病という言葉を使っておる例はございません。
  25. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 労働関係、厚生関係審議会とか、その他の行政機関の中で、報告書等では職業病々々々という言葉が相当使われておるのを私は発見するわけでありますが、そういうところで使われておる職業病の概念は、今局長の言われた概念を一応何かコンクリートする、そういう前提に立って言われているのですか。それとも普通常識的な言葉で使われているのですか。
  26. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 たとえば労働省に設置されております労働衛生研究所の中には職業病部という部が設けられております。しかしそこで言われております職業病というものは、ただいま私が申し上げましたような意味において、そういったものを職業病という概念でとらえまして、そういったものを対象としての研究を進めておるわけでございます。
  27. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 そうすると、労働、厚生関係におきましては、職業病という概念が、今言われたような意味で大体固まっておる、こう見てよろしゅうございますか。
  28. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 はい。
  29. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 そうすると、たとえばILO条約の職業病補償条約等に出てきておる国際的な職業病という概念と、大体ぴたりと合うものだと考えてよろしゅうございますか。
  30. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 ILO条約の職業病規定しております条約の考え方と、ただいま私が申し上げました考え方とは、これは完全にマッチいたしております。
  31. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 そうしますと根本的には、また法制の考え方のもとに戻ってくるわけでありますが、従来の労働基準法労災法の根本の概念になつておりますところの労働災害、これは大体こういう職業病的なものはむしろ頭に描かずに、一般的には偶発的な事故を中心として私は考えられておったと思います。しかしながらその中にだんだん職業病的なものが入ってくるものでありますから、従ってその概念で混同してくるものだから、従来の偶発的な事故によるところの労働災害の範疇の中に、今のような職業病的なものを入れていくと、予防についても補償についてもいろいろこんがらかるから、だんだんとそれを分離していった形が特別保護法考え方だったと、こう私は思うのであります。従いましてこの労働基準法並びに労災法の根本概念でありますところの、労働者保護をその法益としております、何からこの労働者保護をしようとするのかという、何からというのは、大体常識的に考えられる偶発的な事故原因による労働災害、こういうふうに私は理解しておった。その範疇の中に、だんだん入りがたいものがある。つまり必然的に起き得る可能性が非常に強く、しかも予防が可能であってという、そういう条件が職業病として現われ出てきたものだから、そこから除外せざるを得ない状態が特別保護として生まれた理由だろう、こう思うのですけれども、しつこいようですが、私の考え方が少し違っておりますか、ざっくばらんにお等え願いたいのです。
  32. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 現在の労災保険法において補償しております対象といたしましては、ただいま御指摘通りでございまして偶発的な事故による災害と、それからいわゆる職業病的な災害、この二つを合わせて、含めて補償しておるのが現行の法制の建前でございます。そこでこの考え方は、戦後労災保険法が新たに制定されたときに初めて採用した考えではございませんので、戦前の労働者災害補償責任保険法といったような当時から、職業病的なものと、それから偶発の事故による災害を合わせて補償しておった、その思想をそのまま、その点につきましてはこの労災保険法においても踏襲しておるというのが事実であります。  なお先般も申し上げて、また恐縮でありますが、外国の法制の状況を見ましても、アフリカあるいはオーストラリアを除きまして、その他のアメリカ、イギリス、ドイツといったような各国の法制を見ますと、やはりこの職業病を含めまして、労災補償保険法というようなものに該当する法制の中で、偶発的な事故も一緒に補償としては取り扱っておるというのが、大半の諸外国の法制の状況でございます。
  33. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 基準法考え方基本は、やはり偶発的な事故を中心とするものから出発したのではないのですか。従って基準法考え方からはだんだんと成長するような形でこの職業病的なものは出てきたのではないのですか。
  34. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 労働基準法の第七十五条は療養補償規定しておる規定でありますが、この七十五条を見ますと、「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、」こういう規定をいたしており出して、この負傷というのは、これは言うまでもなく偶発的な事故による場合が大部分でございますが、この疾病という場合に、職業病を含むかどうかという点が問題になるわけであります。この疾病についての範囲は、同条の第二項におきまして、「前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、命令で定める。」という規定になっておりまして、その規定を受けて、労働基準法の施行規則第三十五条におきまして、業務上の疾病として一から三十八号にわたりましていろいろの種類の疾病を掲げております。この内容を見ますと、偶発的な事故による疾病というよりも、むしろ量的にはいわゆるここで問題になっております職業病的な疾病が相当たくさん包含されて規定しておるような次第でございますので、労働基準法の立て方といたしましても、決して偶発的な事故だけを重点として考えておるのではないということが言われるのではないかというふうに考えております。
  35. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 そうすると、偶発的な事故に対する労働災害の保護考え方使用者の責任も含めて、それから職業病的なものに対する保護考え方、並びに使用者の在任というようなものも、大体全部一緒だというふうにお考えですか。
  36. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 偶発的事故による災害の場合も、それからいわゆる職業病として疾病にかかった場合におきましても、それがいずれも業務上に起因して発生した災害であるという点をとらえまして、労働基準法もそういった考え方規定しておりまするし、それを受けまして労災保険法におきましても、これの補償の面を同じ考え方に立って規定しておるわけであります。従いまして現行の法制といたしましては、少なくとも補償の血におきましては両者を同じような考え方で取り扱っておるというのが現行法の建前であるというふうに解釈をいたしております。
  37. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 私は残念でありますけれども、今の局長の考え方と全然意見を異にするものであります。それでは、今審議しておりますところのじん肺法案自身が、職業病をほんとうに予防し、健康を管理する建前になっておるかどうかということを吟味しましょう。それから労災法の今度の改正が、今言われたような職業病からほんとうに労働者保護するような建前に改正されたかどうか、一つ吟味してみましょう。外国の法制におきまして労災保険法の中に入れられておったとしても、その保護職業病を全く保護する態勢になっておるならば問題はないわけです。従来の私どもの解釈によりますと、大体偶発的に発生するところの原因に基づく労働者災害を使用責任任、無過失責任として保護しようという建前になっておるのが基準法であり、労災保険の内容であったと考えております。相当な例外はあるとしても、基本的な考え方はそこにあるというふうに思っていた。従いましてそのワクの中に、同じように今度は特別な保護措置なり予防措置を入れようというところに無理がある。そこに本来特別に保護しようという希望にもかかわらず、事実上特別保護ができがたい状態が今できつつある、こういうふうに私は理解をいたしておるわけであります。従いましてこれから順次内容吟味する過程で、ほんとうに基準局長が言われておるような職業病に対する特別保護が今度の立法の中に入っておるかどうかというところで、一つ勝負をつけようじゃありませんか。  そこで、まずもとに戻りまして、今度のじん肺法によりますと、予防措置は五条だけだ。この五条の原則は、別に従来の独立の三法より以上の要望もしておらないし、より以上の義務も課しておるものではない。従って今一番問題になっておりますところの職業病発生徹底的に予防しようとする措置は、これにはちっとも義務づけられておらぬ。しかもじん肺法の公益委員答申井の基準構想というところを読んでごらんなさい。まず第一に予防徹底化ということをうたっております。従って今度の法案中心は、予防徹底化ということから出発しておらなければならぬ。ところが予防徹底化はできておらぬじゃないですか。なぜできないんですか。従来の考え方があって、その考え方の上に、木に竹をつないだような形でこの法律を作るからできないのではないか、とらわれておるのではないか、そこのところは考え方は違いますか。
  38. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 その点は先ほどもお答えいたしたのでございますが、確かに職業病、特にじん肺につきましてその予防徹底をはかることが最も中心的な問題であることは、全く同感でございます。けい肺審議会答申も、佳木的な構想といたしましてその点を指摘しておるわけでございますが、これを受けまして直ちに法律によってこれを規制するということは、先ほど来繰り返し申し上げておりますような諸事情から言いまして、今直ちにこれを法制化することは困難であったわけでございます。私どもといたしましてはその最も中心的な問題がそこにあるということは十分認識しておりますので、先ほど申し上げたような方向で、漸進的にできるだけすみやかにそういった方向に逐次態勢を整備して、これが監督指導をやって参りたいというふうに考えておるわけでございます。なお今回のじん肺法案の第四章におきまして、政府の援助につきまして特に第一章を起こしておるわけでございますが、その第三十二条におきまして「政府は、使用者に対して、粉じん測定粉じん発散抑制じん肺健康診断その他じん肺に関する予防及び健康管理に関し、必要な技術的援助を行なうように努めなければならない。」ということにいたしまして、政府じん肺予防健康管理に関する援助の義務を課しておるわけでございます。さらに第二項におきまして、「政府は、じん肺予防に関する技術研究及び前項の技術的援助を行なうために必要な施設の整備を図らなければならない。」という義務もあわせて政府に課しておるような次第でございまして、政府といたしましては、先ほどもお答えいたしましたように、労働衛生研究所という施設がございまして、ここには職業病部という職業病に関する特別の部が設置されておるような次第でございますので、こういった研究施設を中心といたしまして、このじん肺予防及び健康管理に関する研究なり技術的な援助というものを進めて参りたい、こういうふうに考えておるわけでございます。さらに第三十三条におきましては、これは新たな制度でございますが、粉じん対策指導委員を都道府県の労働基準局及び鉱山保安監督部に、こういった専門の指導委員を置く規定が新たに設けられたわけでございまして、来年度の予算におきましても、数は少なうございますけれども、とりあえず指導委員としまして十人の人事院による措置が講ぜられておるわけであります。これらの「粉じん対策指導委員は、衛生工学に関し学識経験のある者のうちから、労働大臣又は通商産業大臣が任命する。」となっておりまして、私どもはこういった指導委員制度を通じまして、先ほど申しましたような恕限度設定の問題であるとかあるいは定期的な測定の問題あるいはこれに使用する機械の普及というようなものを、逐次行政指導を通じて普及徹底さして参りたい、こういうふうに考えておる次第でございます。
  39. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 今われわれは画期的な根本立法をしようとしておるのです。法律を作ろうとしておるのです。今までの法律でもって、行政指導でやれることなら別に法律を作る必要はない。今あなたは行政指導でやるということを盛んに言っておられますけれども、それであるならば従来の三つ法律でできるじゃないですか。もっと根本的なことをやろうというところに根本立法基本があるのではないか。だから私は基本的に考え直してもらいたい。あなたは政府の援助が非常にできるようなことを言われましたが、これは順次触れようと思っておりましたが、指導委員十名というもののほかに、ここに広範な規定がしてありますが、この法律施行と同時に実施されるところの予算措置は全部でどのくらいありますか。
  40. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 今回のじん肺関係の予算といたしましては、一般会計と特別会計を通じまして二千万余の予算が計上されておるわけでございます。決してこれは十分な予算でないことは私ども十分承知いたしておりますが、今後ともこの予算の充実にも努力をいたしまして、この法律の適用の万全を期して参りたいと考えておる次第でございます。
  41. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 二千万余ぐらいのものでしょう。人事関係以外に施設のための費用がそのうちどれだけありますか。施設の努力義務政府に相当命じておりますけれども、施設改善なり施設設定のための費用が、そのうちにどれだけ入っておりますか。
  42. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 政府といたしましてはこれと別個に、労働衛生研究所というものの費用はこれに含んでおりません。これと別個に計上されておるわけでございます。ただいま申し上げましたこの法の施行関係の経費といたしまして二千万と申し上げましたうちで、施設関係の経費といたしましては、粉じん測定器具の整備といたしまして四百十三万九千円の予算が入っておるわけでございます。これはチンダロ式塵埃計十台を購入するといったような経費が四百十三万入っている程度でございます。
  43. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 あまり意地悪くなりますからやめておきましょう。ともかくも努力義務を非常に設定されております。しかしながら努力義務ではなかなか信用できないところに、従来の保護行政が充実しなかったところの原因がある。政府がやろうと思ってやれるのならば、別に何もわれわれ心配しておりはせぬ。それができないところに、今度法律によって義務化しようというところの根本的なねらいがあったわけです。しかもそれは政府に対する努力義務を命ぜられておるのに、同時に予防に対しては使用者に対して特別な措置を講ぜられたい旨のこれまた努力義務であります。従いまして私はこの法律の中から新しい今言われたような概念がほとんど出がたいことをおそれるわけであります。従いましてこの法律の中からは、今のような職業病に対する予防措置が十分にできないことを心からおそれるわけであります。  時間がありませんから、もう少し先に進んでみましょう。二番目の健康管理の問題でありますが、これはいずれ滝井さんあたりから十分に話が出ようかと思いますから、私は技術的な話でもありますので、省略をいたしておきたいと思います。ただこの職業病という特別な特性にかんがみるならば、これまでもずいぶん話が出ておりましたように、粉じん作業を転職した者、粉じん職場から去った者についてもやはり一定期間の間は定期的にじん肺健康の診断を実施するという必要があるのじゃないですか。これは医学的には必要があるけれども、ほかの原因によってやれないのか、医学的に必要がないのか、そこのところを一つはっきりしておいてもらいたいと思います。
  44. 加藤光徳

    ○加藤説明員 健康診断につててでございますが、作業から離れました者につきましても、労働者が健康診断の結果についての管理区分の決定についての申請をすることができるようになっております。従いまして、その他の健康診断におきまして身体の変化というものも見ることができますが、実際事業場から離れました者に対しまして健康診断をするといたしまするならば、国か何かがやる以外に方法がなく、だれが責任を持ってそれをやるかという問題が出て参りますので、その点について、これはむしろ労働者自身が健康診断を受けた者についての管理区分の決定について、国がその管理区分の決定をしてやるという、申請の手続だけをやるという方法をとっておるわけであります。
  45. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 何だかわかったようなわからぬようなお話でありますが、要するに、定期的にはまだはっきりとじん肺診断をするという段階になっておらぬらしい、しかもそれはやはり定期的にやった方がいいという考えらしいのですが、定期的にはやったらいいけれども、費用その他の事情でなかなかやれないというところがあるだろうと思います。その場合に、今費用の話が出ましたけれども、私は、やはり費用の話が出れば、そこにまた再び職業病としての特殊性の問題が出てくると思う。職場を離れた後においても定期的にじん肺の健康診断をした方がよいということも職業病特殊性ならば、それに対する費用は一体どこで考えればいいか。私は使用者が持ってもいい、使用者の責任に帰してもいいと思いますが、しかしその分については国家が責任を持っていますから、国家の援助に仰ぐということにした方がいいかもしれません。そしてその概念も、私は職業病的な考え方をするならば許されると思う。これもまた普通の業務上の疾病と同じような対策の中に入れようとするから非常に困難であるのだろう。職業病的な考え方予防から補償まで一貫してとるならば、それを健康管理の中にやることは困難ではあるまい、こういうふうに考え一つであるわけであります。  さらに、この間も話が出ましたけれども作業転換の問題について一つ次に何ってみましょう。この作業転換の規定は二カ条ありまして二十一条と二十二条の二方条でありますが、二十一条の規定からは、作業転換という措置は一体どういう性格のものか私にはわからぬが、これはどういうことですか。作業転換を役所が勧告をして、事業主がその当該労働者に話をするということになっておる。そして移った場合には二十二条によって三十日分かそこらの手当をやることになっておる。このことは基本的にはどういう法思想に基づいておるのか、承りたい。
  46. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 労働者健康管理の問題は、労働者使用しておる使用者の責任の一つでございます。そこで、このじん肺百係の作業場で働いておる労働者が、今回の法案によって健康管理の区分が三になった。健康管理の窯というのは、けい肺の症状としては、相当選んだ段階にあるわけでございますので、これ以上同じような粉じん作業に従事する場合は、さらにその病気が悪化するおそれが多分にある、こういうことが医学的に言われ得るわけでございます。従いましてそういった状況になった労働者については、都道府県の労働基準局長が、使用者に対しまして、それ以上の症状が進行することを防ぐために、その者を粉じん作業以外の作業に従事させるように勧告させる、こういう考え方に立っておるわけでございます。
  47. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 ですから、その考え方は、目的労働者保護ですか、それとも、その職場というのか、その事業場の衛生管理なのですか。
  48. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 これはあくまでもその当該労働者保護考えておる規定でございます。ただいま申し上げましたように、それ以上粉じん作業場で労働を継続する場合はさらにその症状が進行していって、管理四あるいはそれ以上悪化するというおそれがございますので、それ以下の病気の進行を防ぐという労働者保護のための規定でございます。
  49. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 労働者保護のための規定であるとするならば、労働者保護のためにこの法律を生かして使わなければならぬわけです。従いまして、労働者保護労働者が満足して受ける状態を作るのがこの法規定目的でなければならぬと思うのです。現在この勧告措置が事実上どれほどの効果を上げていると思いますか。
  50. 加藤光徳

    ○加藤説明員 現在配置転換をいたしましたのが約二百名でございます。
  51. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 この点に関しては、御承知のように、労働者側意見は非常に強いものがある。また、国際的のやつは私は開きかじりですから、うそかほんとうか知りませんけれども、大体常識的なこの問題に対する取り組み方は、労働者保護であればあるほど、配置転換によって労働者の賃金の減らないこと、それからもう一つは、はっきりとその職場が確保されること、就労の確保、保障、それから賃金待遇の低下しないこと、この二つが原則となって初めて労働者が喜んで自分の健康を管理するためにこの勧告措置に従う条件となると私は思うのです。この二つの条件が今のところ満たされておらないでしょう。そうして法的には労働者保護だといって、事実上は三十日かそこらで、お前どこへ行け——労働者保護ではなしに、その辺にばい菌でもふりまいてもらっては困るから、お前あっちへ行けというくらいの話で、事実上そういう結果になっておるのではないか。御所見を承りたい。
  52. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 繰り返し申し上げますが、この第二十一条の規定趣旨はあくまでも当該労働者保護にあることは明白でございます。ただ、これを受けた使用者は第二十一条の二項によりまして、当該労働者粉じん作業以外の作業に従事させるように努めなければならないという努力義務にいたしておるわけでありますが、ただいま先生の御指摘になりましたように、その職場転換をいたしたために賃金その他の労働条件において非常に重大な影響を持つ事項でございますので、これは当該労働者意見なり、それからその職場の実情等も勘案してやる必要があるということで、画一的な行政事項によることを避けたわけでございますが、これにあわせまして、この法案の第二十四条におきまして、政府は、第二十一条第一項の勧告を受けてもなお当該事業場において粉じん作業以外の作業に常時従事することができない労働者のあることも考えられますので、そういった労働者のためには、職業紹介なり、職業訓練というような適切な措置を講ずるように努めなければならないという義務を課した規定を設けた次第でございます。さらに、第一二十五条におきまして、「政府は、じん肺にかかった労働者であった者の生活の安定を図るため、就労の機会を与えるための施設及び労働能力の回復を図るための施設の整備その他に関し適切な措置を講ずるように努めなければならない。」という義務を課したような次第でございます。
  53. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 私が聞こうと思っておることを次々に言われて、大へん明快であって、感謝しておりますが、今のようなことであるならば、今お話の三十四条並びに三十五条は、これは先ほどお話がありましたが、本年度の予算は何ぼですか。
  54. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 第三十四条に規定いたしております職業紹介及び職業訓練につきましては、先生も御承知のように労働省の職業安定局の所管しております事項でございますが、職業紹介につきましては全国で約四百四十程度の女定所がございまして、そのほかにぼ百三十程度の出張所等も設けて、全国的な組織網をもちまして職業紹介に当たっておるわけでございますから、当然これはこの職業紹介の施設を利用して就職のあっせんをはかっていくということになるわけでございます。なお職業訓練施設につきましても、総合職業訓練所さらには一般の職業訓練所を合わせますると、全国ではやはり三百近い施設があるわけでございますので、そういった施設を利用して職業訓練所を通じての職場転換を促進していく、こういうことになるわけでございます。なお三十五条の就労施設につきましては三百万の予算が計上されておるわけでございます。
  55. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 三百万の予算で家が一軒建ちますか。それから今の三十四条の関係で職業紹介や職業訓練を今一生懸命やっておるという話があった。これまでやっておって、今もやっておるというなら、法律できめなくてもいいのです。先ほどから言っておる通り、抜本的な対策をするために、今度法律を作るのでしょう。だから今度からこのけい肺中心としてこういう措置を講ずるために従来の傾向をより以上に、このためにどれだけ予算をふやしたかということで初めて話が通るわけだ。従来からやっているようなことではごみためみたいなことで、一緒にして職業紹介でやっておるから、一生懸命そこでやってもらいましょうということでは対策にならぬ。だからこれも今話がありましたように「適切な措置を講ずるように努めなければならない。」と書いてあって、今あなたが言われるように適切な措置を講じねばならぬとは書いてない。だから努めたけれども、今努めておる最中だ、こういう話ぐらいにしかならぬ、従来の政府に対するわれわれの信用度から見て……。けい肺患者は政府の今までの、これまでの措置をあまり信用しておらぬから、そこで心配して新しい立法措置を要求しておるのだ。私はあらためてもとに戻って聞くけれども、この作業転換措置というものを今度ほんとうに考えられるならば、なぜこの実効果を上げるための二つの条件、賃金を切り下げないということ、それから職場が確保されるという、この二つの条件を義務としてつけ加えられなかったか。また三十日という手当をつけられたが、その三十日というものの根拠は何か。
  56. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 第二十一条の作業の転換措置でございますが、この転換をする場合に賃金が下がらないということと、それから転換した先の職場確保ということはもとより望ましいことでございます。しかしながらこれは審議会等におきましても、その点につきましては労使の間にいろいろと議論のあった点でございます。前の特別措置法なり臨時措置法の制定の際にもこれは非常に議論のあった点でございますが、現在の日本状況におきましてはそこまで一挙に国の法制によって義務づけるということはなかなか困難な事情がございまして、決して十分ではございませんが、この程度のところで今の現状としてはやむを得ないということで落ちついたわけでございます。  それから第二十二条の転換手当平均賃金の三十日分の根拠はどうかという御質問でございますが、これは別に厳密な根拠というものはございません。ただ従来習熟しておった作業場から新しい作業作業場に転換する、これは労働者にとって当然マイナスの条件になるわけでございますので、一つには転換を促進するための考え方と、もう一つはただいま申し上げましたように職場を転換することによってこうむる労働者の損失をカバーするという意味を含めまして、約一カ月分の賃金を転換手当として支給する、しかもそれは使用者義務であるという建前をとって第二十二条を設けたような次第でございます。
  57. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 大体今、労働協約等でできておって実際に実施されておるのは、大手で三カ月分くらいだそうじゃないですか。中小は二カ月分くらいだというお話でしたが、そういう現在の実績は承知で三十日ときめられたわけですか。
  58. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 確かにこれは大手等におきましては一カ月を上回る転換手当を協約によって定めておる事例はございます。ただ今回の法案は、もちろんそういった大手ばかりでなしに、小さな企業も当然対象として含まってくるわけでございますので、その辺の小さな使用主の負担能力という点も考慮いたしまして、従来通り一カ月分の転換手当を支給するということに規定したのでございます。
  59. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 昼の時間になりましたので、もう一、二点で終わって休みにしたいと思いますが、この作業転換という観念についての問題は、一月分であろうが二月分であろうが、私はそこに問題があるのではないと思います。けい肺審議会答申はあくまでここに根拠を置くわけでありまして、大体松野大臣に一番最初質問をいたしたときに、こういう特別立法をすることの基本は、従来のけい肺中心とする類似傷病を本格的に特別保護するという考え方だと述べられたが、それに対するけい肺審議会基本構想における一番中心的なる考え方三つあった。総合対策をやるという中で、その一つの観点は、徹底的に予防措置を講じろ、一つは不幸にしてかかった者については、その悪化を来たさないように特別な健康管理徹底しろ、そうして三番目には必要な療養を継続させるような措置をとれ、従って私はこの三つがこの法案によって達成されてきつつあるかどうかを吟味しているわけです。そしてほんとうは基本的な法体系中心として考え方を異にし、同時にまた職業病に対する認識を異にしておりますから、従って十分な措置がとれておりそうにないという点を心配して、この審議を進めておるわけであります。先ほど申し上げましたように、第一の予防徹底ということは従来から一歩も出ていない。もし局長が言われるならば、新しいこのじん肺法によって初めてできる措置を列挙してもらいたい。私は新しい措置はちっともないと思う。けい肺審議会予防徹底をはかれ、そのために特別立法をしろということになって特別立法をしたけれども、従来の三法によってできる以外のものを義務づけたところの予防徹底化をはかる措置一つもない。それから、一ぺん病気にかかった者が一そう悪くならぬための健康管理徹底して行なえという二番目の問題は、そのために診断とかなんとかいうことがありますけれども、それは滝井さんにまかせますけれども、この資料等で見られる作業転換という措置、この措置に対する基本的な考え方はちっとも変わっておらぬ、何だかわけがわからぬ。今局長が言われたように、大体違ったところにかえれば労働者は損をするらしいから少し手当をやっておけというくらいの話でありまして、労働者保護規定であるならば、実効果を上げるための労働者の条件は賃金が下がらないことである、そして職場が失われないことである、これは常識的にわかるはずなのです。そこの保障をせずに職場転換の実効果を上げることはほとんど不可能である。そのことについても根本的には従来の法律から一歩も進んでおらない。私はここで健康管理ができようとは思えないわけです。従いまして健康管理に何べん診断が行なわれるようになったか知りません、ちっとはそれがよくなったかもわかりませんけれども基本的な条件は従来と変わっておらないという点を私ははっきりと認識せざるを得ないのです。その点について、今度は第三番目にじん肺審議会というものを作って、それらの問題をいろいろこれから考えていこうという態勢がこの法体制の基本になっておる。そこで一応もとに戻り、じん肺審議会審議する対象の中に「その他に関する重要事項」と書いてありますが、その他に関する重要事項の中に補償問題というものが入るのですか、入らないのですか。
  60. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 じん肺審議会の権限につきましては第二十五条に規定しておるわけでございます。その審議会の調査審議の対象といたしましては、じん肺に関する予防健康管理その他に関する重要事項、こう書いてございまして、これは従来も審議会に関する例文的な書き方でありますが、これはあくまでもじん肺に関する予防健康管理が重点でございまして、その他というのは、これに付随して起こる問題を総括的にその他に関するという表現で規定しておるわけでございます。補償の問題は、もちろんこのじん肺対策としましては非常に重要な一環をなすものでございますが、その補償につきましては、今回の改正案によりまして労災保険法に吸収する、こういう基本的な建前をとっておりますので、補償に関する事項は、当然労災補償保険法の中に設けられておりまする労災補償保険審議会、そちらの審議会の権限になるわけでございます。しかしながらこのじん肺審議会予防健康管理等を中心として審議するわけでございますが、当然これは補償にも関連を持つ事項もございますので、そういった事項につきましては、このじん肺審議会の方から労災保険審議会の方に連絡なりあるいは申請をする、こういうことが行なわれることになるかと思います。
  61. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 けい肺審議会基本的な特別保護に対する考え方は、予防から補償に関する総合的な対策を樹立することにある。もう一ぺん読んでもらいたい。基本構想にちゃんと書いてある。予防から補償に関する基本的な考え方は総合的な政策を樹立することである、こう書いてある。そうしてそれについて特別に労災法という法手段、法体系をとられたのは、法律の効率的運用のためだと書いてあったし、それから局長も言われた。だからそれは手段の問題でしょう。何も別に新しい法律なりあるいは一本の法律を作らなくても、従来ある法律を使って、それを修正しても、その中にほんとうの内容が、つまり一貧したところの総合対策さえあるならば、法の手段はどうでもいいではないか、従来あるのを百パーセント使う態勢にあればいいではないかというのが審議会基本考え方だ。今のお話によりますと、今度のじん肺審議会補償に関することは大体考えないということになっているらしい。対策を樹立するのは総合対策を樹立しなければならぬ。法益を守るための手段は法律によって三つも四つもに分かれてもよろしいというのが従来の考え方だ。そうしてけい肺審議会からは、当然にその総合対策を樹立するためのあらゆることが考えられなければならぬ。その中で最も基本的なものは、従来から見て補償です。それをここに抜いてある。そういうふうに、従来はあなたの説明は形式的に、法体系という問題をめぐっても、従来の法律でもできるからそれでやると言っておられますけれども、明らかに今度のこの補償という問題は従来の保険審議会に譲って、基本的なじん肺審議会でやろうとすることを避けようとしておられるじゃありませんか。総合的対策はそれではできぬではないか。じん肺審議会は、じん肺に関する総合的な政策を樹立し政府の諮問にこたえるための機関ではないのですか。基本的な考え方をもう一ぺん伺いたい。
  62. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 じん肺審議会基本構想は、ただいま佐々木先生が御指摘になった通りでございます。そこで、補償をどういったような形で措置していくかということは、確かに方法論の問題でございまして、その点につきましては、検討の結果といたしまして、現行の労災保険法の中に吸収することが、しかもその保険方式によって措置していくことが最も能率的であり、かつ適切である、こういう結論が出まして法律の二本建の方式を採用したわけでございます。なお、このけい肺審議会の公益委員案の要旨を申し上げますと、これは先生も御承知通りでございますが、まず第一点といたしまして、予防健康管理補償とは事柄の性質が異なり、扱うべき範囲も異なるので、それぞれ別個の法体系において処理することが妥当である。これが第一の結論になっておるわけでございます。それを受けまして、私どもじん肺予防健康管理補償というものを二つに分けまして、予防健康管理については、このじん肺法案という単行法を制定することにいたしたような次第でございまして、補償はこれとは別個に労災保険法の中で措置する、こういう考え方をとったわけでございます。その際に、予防健康管理補償というものは、確かに当該労働者立場から申しますると、これは一貫した切り離すことのできない総合的な問題であるわけでありますから、これは同じ労働省に設置されております機関でもあり、また同じ労働基準局で所管しておる事項でもございますので、その点はこのじん肺審議会、さらには労災補償保険審議会、この両審議会の運営の問題になってくるかと思うわけでございます。私どもといたしましては、この両審議会の間に緊密な連絡をとりまして、その間の対策を立てる場合、予防健康管理補償の問題がばらばらに取り扱われることのないように十分留意して運営して参る所存でございます。
  63. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 意識的にか故意にか私の質問をそらしておられる。私は基本的な考え方を何っておるわけであります。けい肺審議会答申は、明らかに予防から補償まで一貫した総合対策の樹立をはっきりと書いてあるでしょう。基本構想を読んで下さい。基本構想に一番先に書いてある。そのことは一番最初の質問にあたって、私は松野労働大臣との間にはっきりとその内容を確認した上で出発しておるのです。だからどの法律を作るというのは別問題です。ともかく予防から補償にまで至る一貫した総合対策を立てなければならぬというけい肺審議会答申があって、そういう考え方で特別な措置考えたいのだということは私は一貫しておらなければならないと思う。それは違うかどうか、もう一ぺん言っていただきたい。
  64. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 その通りでございます。
  65. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 それから二番目に、そういう総合対策を立てる必要があるが、法体系という形には、今の局長の言われたような話で十分できるから、別な補償法律労災法改正によってやってもいいと思う。こう書いてあるのです。つまり、そのことは手段であって、目的総合対策を立てればいいのだから、法律は手段だから、手段が二つに分かれても、それはかまわない。こう書いてある。だから私は百歩譲っても、それならばその内容吟味しましょうということから始まっておる。それが間違っておるかどうか、もう一度確認しておきたい。
  66. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 その通りでございます。
  67. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 それならば、総合対策を立てる機関を、ほんとうはあのけい肺審議会答申書内容から見ると、けい肺に関する、あるいはじん肺に関する総合的な対策はわしのところが一番よく知っておるし、私のところが中心に立ってやりたいというのがにじみ出ておる。従来からもおれのところがやっておったというのがにじみ出ておる。あるいはにじみ出ておらないとしても、じん肺審議会というものをここでこしらえられるならば、当然じん肺に関する基本的な考え方をここに諮問せられて、そうしてここから考え方を引っぱり出されようという考え方に違いない。そうすると、ここは当然に総合的なけい肺に関する、あるいはじん肺に関する労働省の相談機関である、総合的な対策をここで考えてくれろ、こういう諮問がされるべきものだと私は考える。この中から、このじん肺審議会の権限事項から、一番総合的な対策の中の中心であり得る、あるいは将来はあまり中心になってもらいたくないと思うのだけれども、現在のところは労使関係で一番中心となっておる補償問題はぱっと抜けてしまって、それで総合対策を立てろ、研究しろといっても、これは話が違うのではないか。法律は別ですけれども法律は手段ですから、別の法律でやらしてもいいけれども総合対策を立てろというので、総合対策を立てる機関としてさような審議会をこしらえるならば、当然ここでもって審議をしてもいいはずじゃないですか。これは議論になりますから答弁は無理かもしれぬ。あくまでも私はここに逃げようとする考え方をやめなさいというのです。  もう一つつけ加えて質問しておきましょうか。一番根本的な、総合対策を樹立し、そうしてやらなければならぬところのじん肺審議会は、現在のけい肺審議会と何か異なったことになるのですか。現在のけい肺審議会は特別保護措置政府から諮問を受けても、とうとう一本の意見にまとめることができなかったような、そういう体たらくの審議会である。ここにはまた、今すぐ発足しなければならないところの総合対策とか政策とかいうものを、すべてこの審議会で適当にやってくれるであろうからというふうに逃げられるから、私はここに非常に大きな疑問を持っておるわけです。今度のじん肺審議会は、従来の審議会と違って、人間もかえられ、特別に一本の意見が出せるような審議会にされるつもりですか。
  68. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 今度のじん肺法案におきますじん肺審議会は、ただいま申し上げましたように、予防健康管理に関するじん肺審議会でございますので、その点従来と若干異なりますけれども、大体権限なり、その調査、審議のやり方は従来とほぼ同様でございます。ただ先生が御心配になっております、従来のけい肺審議会がこの重要な問題について統一した見解をまとめることができなかった、そういった審議会と大体同じようなじん肺審議会を設けてそれではたして十分対策を講じ得るかどうかという御懸念でございますが、これは、今回の基本的な措置をめぐっての労使の見解に、これは先生十分御承知通りでございますが、非常な隔たりがあった、それを何とか一木にまとめたいということで、一年半もかかっていろいろと話し合いをしたわけでございますが、ついに最後まで完全に意見の一致を見るに至らなかった、こういうような実情でございますが、今日また新たにじん肺法が制定されまして、陣容も当然これはある程度変わるかと思われますが、じん肺審議会が発足をいたしますれば、ことに問題は、先ほどから先生が非常に心配せられております予防徹底化というような問題でございますので、これは新たに就任される審議会の先生方にも十分その点をお願いいたしまして、権威ある対策が講ぜられるように、私どももともども努力して参る所存でございます。
  69. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 押し問答になりますから、この辺でやめますが、補償問題が対立をして解決できないような審議会であるから、今予防の問題でも健康管理の問題でも同じ対立があるからできないのですよ。予防に、先ほど言いましたような粉じん管理徹底するための恕限度を作る考えにしても、それを中心とするところの粉じん管理徹底し、義務づけようとする考え方ができないのは、技術的な問題ではないと私は思う。そうではなくて、今の補償問題で一本の意見が出せないような労使の関係になっておるからできないと思う。従って原因は同じことです。それから今作業転換を行なうことによって、健康管理をうまくやって、一そうの悪化を防ごうという措置が十分にとれないのも、先ほど言いましたような、労働者側が満足して、あるいは喜んで自分の保護規定に服せられるような基準が、あるいは保護が欠けておるから、その法律の精神に沿い得ないのである、従って効果が上げ得られないのだ、こういうふうに考えてみますと、現在のこの問題というのは、単に補償問題をめぐってそこに意見が分かれておるだけではなしに、基本的な問題がはっきりとここにあるからであります。従ってそういう問題を審議会で何とかしょうと考えられるならば、その前に職業病というものに対する社会の考え方から、政府考え方を明確にせられて、それに対する責任をはっきりと考えられ、その責任の所在を明確にする立場法律によって規定して、そしてそこから出発するのでなければ、根本的な対策はできない、私はこういうふうに考えております。従って、繰り返すようでありますが、これで午前中の審議を私はやめまして昼からは、今度は労災内容に入ってみたいと思いますが、この根本になっておるところのじん肺法自身で何か新しいものができたかというと、何もないでしょう。予防も何も新しいものが出てこない。健康管理も実質的には根本的なものは確立されておらない。それらのことは一つひっくるめて審議会でやってくれという、その審議会自身も前のけい肺審議会と似ている。それで問題が解決されないまままた運営がされるということになる。そしていろいろな問題の結論をつけるために時間が迫ってくるときに、時間が迫ってくると仕方がないというので、その審議会の総意ではなしに、特別に関係のある役所の意見を聞く可能性のある公益委員という名前において適当な結論をつけられてそうしてまとまらない意見をそのままにして、その内容をもって労働省考え方としてまとめられて、そうして審議会で十分に付議したという、そういう民主的方法によったという形だけを作って、それを実質的に押しつけようとする結果になってきておる。私はこの方法に対して非常に遺憾な点があることを考える。松野さんはあまり内容を御存じないのか、あるいは知っておってもわざと知らないふりをしておるのか知らないが、せっかくこういう法律を作って根本対策をやるのだと言われながら、内容は羊頭を掲げて狗肉を売るような形で、ほとんど従来と比べて進んでおらない。従って従来と比べて進んでおらないくらいならば、もう一ぺん考え直したらいい。これはほんとうにできるまで何年かかってもいいですよ。そういう考え方の方が正直ではあるまいか。そういう観点に立って今の吟味をして、私はなおさら私の考え方を深めたわけであります。いろいろいやなことを言いましたが、私も十年前、二十七、八年ごろに起こったころに手がけた問題でありますが、それからちっとも進んでおらない。せっかく保護法を作り臨時措置法によって従来の基準法なり労災法なりの例外的な厚い対策を進めようという考え方をしてここまで伸びてきたのに、むしろさかさま向きにもう一ぺんもとのカン詰の中に押し込められて、そうしてけい肺中心とする特別な考え方が一方的に薄められてしまい、本格的な保護ができないような状態になってくるような気がするので、あえて苦言を呈しておるわけであります。
  70. 滝井義高

    ○滝井委員 ちょっと関連して。どうせあとで質問をしなければならないが、今佐々木さんが重要な点を指摘されましたので、一つだけ政府の見解を聞いておきたい。  それは今のじん肺審議会のことで、二十五条で結局予防健康管理というものがじん肺法の主体になっておるわけです。そうしますとこれは、われわれ専門家から言いますと、病気というものは、予防をし、同時にその予防をしながら、だんだん予防がうまくいかないと病気になってくるのですから、そこで健康管理というものが次の段階に出てくる。そうして健康管理をやってもなおうまくいかないということになると、昔のいわゆる三症度、四症度になって、すぐに治療をしたり職場転換をやらなければならないというような状態になってくる。そこに初めて健康管理の次に治療が出てくる。そうして治療をやって結核というものがある程度なおってきた、そうしますとその本人についてはもとの現場に復帰させるか、あるいはアフター・ケア、後保護をやりながら、そのからだに適応した職場にやる、こういう一貫したものでなければならぬわけです。そうしますとこのじん肺法は、健康理管まではいったわけですが、治療と後保護職場復帰というものは一体どこでやるのかということですね。じん肺審議会というのは、先ほど佐々木さんも指摘されましたが、「その他に関する重要事項について」調査審議をするということになっておるが、「その他」の中には治療や何かは入らないということでしょう。
  71. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 これは予防健康管理という主として医学的な問題を中心として取り扱う機関でありますから、治療の問題は「その他」の事項の中に入ると考えております。
  72. 滝井義高

    ○滝井委員 それならば、治療に関する重要事項をじん肺審議会の中でやったならば、一体その処置というものはどこでやるかということです。
  73. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 その処置という中身がちょっとはっきりしないのですが、それの費用という点になれば、これは当然補償の問題になりますので、労災補償保険の方に移行するわけであります。ただその治療を具体的にどういった医学方法で治療していくかという医学的な技術的な問題につきましては、じん肺審議会の方で当然関連事項として審議していくことになると思います。
  74. 滝井義高

    ○滝井委員 従ってそういう治療、おそらく後保護も入ると思うのですが、そういうじん肺審議会という専門の機関が、予防から健康管理から治療から後保護までのものを、重要な政策をずっと立てて——健康管理まではこの法律でやれますよ。ところがあとの治療というもの、後保護というものはやるところがない。政策は立てたけれども、それはどこでやるのですか。
  75. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 治療に関する審議というものは、このじん肺審議会で当然やり得ると思います。ただ実際にそれをどこでやるかという御質問であるとすれば、それは当然この労災病院その他の医療機関で実際はその治療をやらなければならない。その費用につきましては労災保険法で支払う、こういうことになるわけであります。
  76. 滝井義高

    ○滝井委員 労災保険の立法趣旨というものは、基準法の七十五条から移って労災法の第一条の精神が出てくるわけですよ。これはあくまでもこういう職業病的な予防から、健康管理から、治療から後保護までやるような法体系ではないのです。そう書いてない。これは補償なんでしょう。補償の概念と一貫をして、健康な人間が病気の起こるような職場にいった場合に、その予防から、健康管理から、治療から後保養までいくような一貫をしたものではない。もうさいぜんから佐々木さんが指摘したように木に竹を継いだような形で出てきているのです。だから、健康管理まではこの法律でいっているわけです。ところが、それをすぐに、一番大事なときになって続かなければならぬ——人間の肉体に機能の障害が起こったときに一体一貫をしてどういう形でこれをやるかということになったときには、くるっと金の面に切りかえられてしまったのです。補償というのはお金ですよ。お金に切りかえられて、その人の病気をなおして、その労働力をもとのような姿に返して職場に復帰するという一貫をした体系というものがどこにもないのです。だから、このじん肺審議会というものは、もしあなたの言われるようにそれまで審議するならば、このじん肺法の中に治療と予防を書かなければいかぬですよ。それを書いてないのです。これは当然書かなければならぬ。何も縁もゆかりもない労災法に持ってくる必要はない。これは補償なんですから。だから当然こちらへ書かなければならぬでしょう。それじゃ後保護なんかどうしますか。職場復帰というものはどうするのですか。じん肺がよくなった場合、職場復帰というものは、一体どこで、だれが、どういう工合に処理してくれるのですか。
  77. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 これはじん肺に関する予防健康管理が一番問題の中心でございますので、これを列挙いたしまして、その他これに関連する治療その他の問題は「その他に関する重要事項」ということで包括的に読む、こういう考え方でこういう規定をいたしたわけでございまして、滝井委員指摘になっておりますそういった事項は、当然このじん肺審議会中心としてそういう問題を総合的に検討していく、こういうことになると考えております。
  78. 滝井義高

    ○滝井委員 総合的に検討して結論が出たら、一体それはどこで処置してくれるかということです。結論だけが出たのではだめですよ。処置してくれるものを書かなければならぬ。この法律は、健康管理までは処置ができることになっています。曲がりなりにもこの法律で処置できる。ところが、じん肺審議会審議する治療と後保護の問題は、この法律でなぜ一体処置できないか。なぜ労災に移さなければならないか。労災というのは、お金でものを片づけようという精神でしょう。最近は金が余ったから、労災保険はつけ加わってきたのですけれども、一貫してない。こっちで一貫しなければならぬ。ところが、健康管理まではこっちでやるけれども、それから先は労災だというようなら、労災の中に予防健康管理を入れたらいい。二本にする必要はちっともない。これは二本建にすることがおかしい。今までは、けい肺保護法は一本でいっておった。ところが、今度それをわざわざなぜ二木に分けなければならぬかというのです。健康管理までいけば、これに入れるか、労災に全部入れるか、どっちかにしたらいいでしょうということを言うのです。何も二つに分ける必要はなかった。二つに分けるから、木に竹を継がなければならぬことになった。だから、じん肺法だけにしぼるならば、じん肺法の中に、今言ったような治療の面と後保護の面とを入れてくれたらどうだ、こういうことです。
  79. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 先刻来たびたび申し上げておりますように、健康管理には、当然治療の問題を含むわけでございますが、それは当然このじん肺審議会審議の対象になるということを申し上げておるわけでございます。その意味で具体的な——これは御承知のように、労働大臣その他関係大臣の諮問機関でございますから、その諮問に応じて答申が出されてくるわけでございます。その答申を受けてだれが処置するかということになりますと、当然これは諮問された労働大臣、その他関係大臣の責任において、実際の措置は講じていくわけでございます。これは政府の責任になってくるわけであります。
  80. 滝井義高

    ○滝井委員 どうもピントがはずれた答えをするのですが、健康管理までは、この法律にきちっと書いておるわけですよ。やり方を書いておる。ところが、「その他重要な事項」ということの中に、治療と後保護も入るのだ——後保護ということは、職場復帰の問題も入ってくるわけです。そうしますと、当然治療については、どういうことをやるのです、どの程度の期間を見るのですということは、何も労災法にいわなくても、この法律にお書きになったらいいでしようということです。職場復帰についても、三年してなおらなければ六年までは一つ職場復帰を認めますということをこの法律にお書きになったらいい。何も縁もゆかりもない労災に持っていく必要はない。もとは特別保護法はそれでやっていた。今度は労災というものの力をなぜかりてこなければならぬのかというのです。労災の力をかりてこなくてもいいじゃないか。この特別保護法でいっておったと同じように、じん肺だけでいけるのではないか。なぜならば、じん肺審議会が、今私の言ったようなことを審議すると書いておる。書いておって、健康管理のところまではここでやるけれども、あとの二つは、私の方では審議するだけで、それから先は労働大臣にやらせる——労働大臣がやることは当然だ。やるならば法律に書かなければならぬということを言っておるのです。これはむずかしいから、私の番になってからやりますから、このくらいにしておきます。
  81. 永山忠則

    永山委員長 午後一時半まで休憩いたします。     午後零時二十七分休憩      ————◇—————    午後二時六分閣議
  82. 永山忠則

    永山委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  休憩前の質疑を続けます。佐々木良作君。
  83. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 まだ委員の出席が少ないようでありまするけれども、時間もあまり残されておりませんので、午前に引き続いて質問を継続さしていただきます。  今度は方面を変えまして、労災保険法の改正法案の骨子を中心にして伺いたいと思います。提案説明の中心お話によりましても、またこの要綱の基本になっておる考え方を拝見をいたしましても、この改正法案中心は長期傷病者補償の制度を打ち立てたというところに一番みそがあろうかと思うわけでありまして、けい肺、せき損のほかに、三年間たってもなおなおらないところの似たような傷病、類似傷病も含めまして、提案説明のプリントによりますと、必要の存する期間打ち切り補償費にかえて長期傷病者補償を行なうこととしたということが基本の今度の態度であろうと存じます。なおこの場合に、私はたびたび質問段階お話をしておりますように、一貫しておりまする法案内容にも類似傷病に対する問題がずっと出てはおりますが、この類似傷病に対しての保護の均衡という問題と、問題の一番出発点でありまするところのけい肺に対する特別保護という問題とは、どちらが根であったかを一つ十分考え対策を進められる必要があろうかと思います。従いましてややもするとけい肺に対する特別保護を十分にやらなければならぬという基本的な立場をとりながら、似たような、悲惨度において同じような傷病があるから、それも対象に入れなければならないという考え方でもって、その対象をふやすことによって、従来のけい肺中心とする特別保護制度が薄められる感じを持つわけであります。従いまして私はいつでも質問の最初に述べまするように、今度の二法案基本けい肺の特別保護というところを出発点としておられる、こういう考え方に立ってみるわけでありますので、従ってそのけい肺に対する特別保護がまったからしめられて、なるべくならば他の類似傷病においてもその均衡を保つような格好に、他の類似傷病をそのけい肺特別保護に接近せしめるという考え方で処理しなければならない、こういうふうに私は思っておるわけであります。念のために労働大臣、そのような基本的な考え方労災法改正基本になっておるかどうか、一度承っておきたいと思います。
  84. 松野頼三

    ○松野国務大臣 今回けい肺法の長期給付という方向けい肺法を踏み切ると同時に、午前中の質疑にありましたように、職業病的な感覚もこの際前進して入れていきたいという、どちらかといえばこれは前進的な意味で、職業病と限界して言うにはまだいろいろの問題が出て参りましょうが、将来はそういうものは一つ方向とすべきであるということを考えながら、将来職業病的なものに今日考えられるものも含めて、いわゆる労災趣旨に合わせて長期給付というものを私たちは考えておるわけであります。しかしその骨子は、今日までの特別立法、臨時措置法を考えていけば、けい肺というものが一番多数で中心であるということは、念頭から忘れておりません。しかしただその特別立法、臨時措置法においては、その中に入らなかった職業病的な類似疾病というものも今回合わせることはより前進だという思想を強く持ったわけであります。従って今までのけい肺中心として、将来それに類似する職業病的な長期療養を必要とする者を今回あわせてその対象として、ねらいは御趣旨通りであります。
  85. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 ただいまの御答弁で明らかでありますように、出発点をけい肺の特別保護に置いて、その特別保護内容職業病的なものに敷衍させたい、こういうふうに考えられる。従って職業病的なものの療養の補償の態勢をいわゆる長期給付ということにした。そしてけい肺審議会答申にもありまするように、その意味は、これは繰り返して言いますけれども、必要な療養ができるように、必要な療養を継続させるというところに基本がある、こう思いますが、考え方基本はそのようであるか、もう一度念のために。
  86. 松野頼三

    ○松野国務大臣 けい肺基本はそこにあります。ただよく議論の際に、けい肺特別保護法、臨時立法そのものと、今回の問題を比較対照される例がございます。しかしそれは基本はあくまで臨時立法あるいは短期給付を長期給付という方向に伸ばしたわけであります。それだけ改善をしたわけであります。従っておのずから給付の内容方向基本的に非常な前進的なものにしたという相違がここに出て参ります。従って臨時立法、特別立法即今回の長期給付じゃございません。それに根本的な思想を加えております。もちろんすべての問題がそうでありましょうが、大きな改善になっておるところがたくさんありますが、ただこの比較対照のときに臨時立法、特別立法と直ちに比較されると、そこに差異を感じられる。それは基本において給付の方向が違っておるというところは、私は当然指摘されるのじゃなかろうかと存じます。
  87. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 重ねて念のためにその長期給付の内容、つまり長期給付という制度を打ち立てられたのは、けい肺審議会の公益委員のいわゆる基本構想というところで述べられておるところの、必要な療養を継続させようという根本概念から出発しておる、こう私は見ておるのでありまするが、それに相違ありませんかどうか。
  88. 松野頼三

    ○松野国務大臣 その通りであります。
  89. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 念のために今の基本をもう一ぺん確認したわけでありまして、今後私どもは、労災保険の改正内容となっておりまするところのこれらのけい肺じん肺関係補償がそのような内容になっておるかどうかを、これから二、三吟味をいたしたいと思います。  その前に、せんだって一番最初の日の質問のときに法体系に関連をいたしまして、これは純粋に条文技術的な関係でありまするが、私はどうものみ込みがたかったのでありまするから、問題を投げかけたままになっておりまするので、ちょっとその問題に触れて明確にしておきたいと思います。そうすると大臣の考え方は、基本的には三年たってもなお、なおらないすべての傷病者に対して長期の給付による療養を行なわせたい、こういうふうに私承るのでございますが、今度の改正法案によりますと、これは十二条の三の一項の最後には、この間も引用いたしましたように、政府はこれこれこういう場合に長期傷病者補償を行なうことができる、こうなっております。それから次の二項におきましても、そういう長期傷病者補償を行なうこととなった場合には、こう条文規定をしておるわけでありますが、この条文だけから見ると、三年経過してもなお、なおらない傷病者であって長期給付の対象にならない、つまり政府考え方からいってならない、この逆の場合が存在し得るかどうか。一ぺん価のために、事務当局でけっこうですから……。
  90. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 その点は御質問通りでございます。すなわち従来の打ち切り補償の場合もさようであったわけでございますが、たとえば療養開始後三年たってもまだなおらない、しかし医者の診断によるとあと一カ月か二カ月でなおる見込みが十分立つというような裏づけがある場合は、これは年金とか長期給付の必要はございませんので、その場合は従来も打ち切り補償は支払わないで従来通りの療養を継続する、こういう措置をとっておったのでございまして、今回の打ち切り補償にかわる長期傷病者補償の場合も、その建前は全く同様でございます。
  91. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 基準法における選択といいますか判断をするものは、基準法の八十一条によって使用者であったと思います。今度の場合は保険法の建前になっておりますから、政府がその判断をすることになろうかと思う。そうするとその選択権者が今度は政府になったということになるわけですか。その政府の判断の基準というのは一体どういうことになるのか。
  92. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 個々の労災保険法上の政府というのは、具体的にはそれぞれの当該の都道府県の基準局長がその判断に当たることになっております。その判断の基準と申しますか、判定の基礎になる資料としましては、もちろん事柄が療養という医療専門的な事柄でございますので、じん肺等につきましてはそれぞれ地方にじん肺専門の医者を指定しておりますので、そういった当該傷病の専門の医者の意見を参考にいたしまして、その判定をすることにいたしております。
  93. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 法体系のところでも言ったのでありますが、考え方の店本がどうも少しおかしいのじゃないか。基準法上の考え方は、打ち切り補償によって千二百日分を支払うよりもあと一カ月ほっておきさえすればなおるからというので、その判断を使用者がして、打ち切り補償をせずにやってもいい、こういうことだろうと思う。しかしながら今度は、労災法上は打ち切り補償制度というのは明らかに存在しない。そして三年以上経過した者については当然に傷病者補償を行なうという考え方に切りかわったのだと思うのです。そこへもってきて政府使用者考え方と全然別に、そういう長期療養補償の建前をとらぬということはどういうことになりますか。政府の考単方でもって従来の労使関係を継続させるというならば、その場合は使用者に対して半分命令的にその方向を、従来の労使関係を継続させる、こういうことになりますか。
  94. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 労働基準法上の打ち切り補償を行なうか、それとも従来の療養を継続するかという判断は、当該労働者使用主である使用者が判断する、こういう建前をとっておりますが、労災保険法は御承知のように政府管掌の保険の方式をとっておるわけでございます。従ってこの場合の「政府は、」というのは、いわゆる行政府の主体としての政府ではございませんので、労災保険法という保険の主体としての政府、つまりこの場合は、保険法上使用者にかわる立場にある保険の主体としての政府がそのような判断をする、こういう建前をとっておるわけでございましてその実体においては丸山準法上の建前と何ら変わらないわけでございます。
  95. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 どうもそこのところ、私ははっきりしませんが、それではもう一つ先に進めてみましょう。逆に今度は基準法主は、やはり打ち切り補償制度というのは八十一条で存続しているわけですね。そして、この間の舌によりますと、それは対象は違うのだというふうに承ったのでありますが、基準法労災法も両方適用を受ける場合において、条文をそのまま読むと、まだ打ち切り補償制度は残っておることになる。従って打ち切り補償をやっても、長期補償をやっても、どっちでもいいということになりますか。
  96. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 労働基準法は言うまでもなく、労働条件に関する実体を規定した法律でございますので、この基準法第八十一条による打ち切り補償制度は、今回の改正によっても何らの影響を受けないことになるわけでございますが、ただこの労働基準法第八十一条の適用を受ける使用者が、同時に労災保険に加入している場合、両方の適用を受ける場合はどうなるかという御質問でございますが、この場合はこの労働基準法上の使用者補償責任を保険の方式によってそれを措置していくというのが労災保険法の建前でございますので、実際には労働基準法上の補償責任を労災補償保険法を通じてその責任を果たしていくということになるわけでございます。従って基準法上の打ち切り補償制度は残るわけでございますが、問題は労災補償保険法で基準法上の打ち切り補償に相当する打ち切り補償を従来やっておった、それが今回の改正によって、その保険法上の従来の打ち切り補償にかわって長期傷病者補償という制度が今度設けられることになった、こういうことになるわけでございます。
  97. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 たびたび話が出ておりますが、基準法労災法とは車の両輪のような形でなければならぬと私は主張するけれども、これは別個の独立の法律でありますから、従って必ずしもぴたりと合っておらなくてもいいという考え方をされておる。従ってかりに今全然労災法というものを見ずに、基準法だけを見るとします。そうすると八十一条には、明らかに使用者は平均貸金の千二百日分の打ち切り補償を行なって、その後はこの法律規定による補償は行なわなくてもよい、こう書いてある。だからこの法律をそのまま援用し得るわけじゃないですか。従って制度として、せっかく労働大臣が今相当いい制度ができたのだと言って宣伝されますけれども、その長期補償というものが、三年を継続した以降のすべての病気に必然的に適用されるということには法上はならぬのじゃないですか、違いますか。
  98. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 従来は、基準法の第八十一条の打ち切り補償、さらに労災保険法においてそれに相当する打ち切り補償の制度が打ち立てられておったわけでございます。そこで今回の改正で一体どうしてこの長期傷病者補償という制度を考えたかというその必要性に触れないと、問題の実体が解明されないと思うのでありますが、要するに従来の千二百日分の打ち切り補償ではその療養の必要性に対処することができない。そこで何とかしてこの長期の療養ができるような対策を講ずる必要がある。そういう必要性から、今回の労災保険法の改正によって長期傷病者補償制度を確立しようというのがそのねらいでございます。そこで労働精進法上の使用者補償責任は、これは言うまでもなく個別々々の使用者の責任でございます。ところがこれにかわりまして労災保険法におきましては、個別の使用者の責任ではなかなか十分な補償をやることが困難である。そこで使用者が集まって保険という方式によって、つまり団体としての保険、使用者の責任において基準法上で定められた補償責任を十分に果たしていこうという考え方が、労災補償保険法の基本の建前になっておるわけでございます。そこで年金というような長期給付の制度を考える場合に、非常に零細な使用主も適用の対象になっております基準法の建前からいいますと、つまり二十年あるいは三十年の長きにわたって長期にめんどうを見なければならぬ。そういう必要性に対して、あるいは二年後、三年後につぶれるかもしれないそういう危険性を含んでおる個別の使用主に対して、そこまでの責任を負わせるということはとうてい無理だ、困難である、こういう考え方に立ちまして、そこはこの労災保険法に参りますと、個別々々の使用者の責任ではなしに、団体としての使用者の責任において考えられますから、保険方式ならば長期にわたる補償も可能であるという考え方に立って、労災保険法の改正による長期給付制度を確立することにいたした次第でございます。従いまして、労災保険に加入しておる使用者の場合、これは従来の八十一条の打ち切り補償のかわりに長期傷病者補償を適用することになるわけでございます。
  99. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 どうしてそこが必然的に結びつくのですか。基準法の八十一条は何も拘束されておらないわけでしょう。従って選択権がはっきりと使用者にあるということになるならば、それはそのまま残っておる。これを禁止する法律はどこにもない。
  100. 村上茂利

    ○村上説明員 現行制度の労働基準法の打ち切り補償労災保険法上の打ち切り補償費の支払いの関係を明確にいたしましたならば、おのずからその関係が解明されるのではないかと思うのでございます。一応制度といたしましては、基準法の八十一条によるところの打ち切り補償という制度がございます。これは使用者が行なうところの打ち切り補償でございます。一方労災保険法におきましては、国が管掌する保険という形におきまして、打ち切り補償費の支給が行なわれます。ところで基準法上の打ち切り補償と、労災保険法上の打ち切り補償費の支払いの関係をどうするか、そのつながりはどうかという点につきましては、その法律行為を行なう人格が別でございますから、国が行ないました打ち切り補償費の支給を、どのような法的な評価を行なうかという問題があるわけでございます。その評価をなすのは基準法の八十四条であるわけでございます。基準法の八十四条の規定がありまして「労働者災害補償保険法によってこの法律の災害補償に相当する保険給付を受けるべき場合においては、」云々で使用者補償の責任を免れる。この規定がよりどころになりまして、使用者と異なる別の人格である国が打ち切り補償費を支給いたしました場合に、この八十四条の規定を手がかりといたしまして、使用者が打ち切り補償を行なっておるのと同じ法的な効果を発生する、こういう仕組みになっておるわけでございます。従いまして、今度の長期傷病者補償がどのように評価されるかという問題が出てくるわけでございます。私ども基準法八十四条の規定によりまして従来の打ち切り補償費の支給と同じように扱われ得るものと考えておりますが、念のために新法の十九条の三の規定におきまして、そのつながりの関係を明確にしておるわけでございます。
  101. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 ここから発生してくるところの十九条の問題等の場合につきましてはまた別に触れたいと思います。ただ、私は、何ぼ繰り返して附いてみてもわからぬのでありますが、技術上の問題でありますから、やむを得なければこれは残したままで先へ行ってもいいと思います。ただ、考え方基本に、やはり保険法の支払い手段によって基本的に職業病の給付、療養のあり方を規定しようというところに私は無理があると思う。保険法というのは支払い手段でしょう。だから、言うならば、手足でもって頭の方をこしらえるみたいな格好になっているんだから、どういうふうに言ってみてもつじつまを合わせることが非常にむずかしいと思う。今お話しのように、いろいろありますけれども、八十四条といっても、八十四条はまともに読むとさかさまの場合が規定されていない。だから、さかさまの場合はそのまま法律の穴は残っていることになる。それから、どうしてみても、八十一条から見るならば、使用者の判断によって長期給付をやらないと思えばやらなくてもいいんだ、こういうことになっておる。しかしながら、改正法案の説明によれば、あくまでも三年の打ち切り補償をやめて、長期給付という新制度によって長期療養を行なおうとするのだ、これが必要な療養を継続させるところの制度だと言われる。だから、そこのところはどう説明されても基本的な問題は残る。かりにどうつじつまを合わせてみましても、考え方のもとだけはやつぱり残るという気がしてならぬわけであります。まあ議論になりますから先に進んでみましょう。  その次に、長期給付の傷病者給付の内容について伺いたいと思います。この内容について、基本となっておりますものに平均賃金の問題があります。基準法の平均賃金の考え方をやはり算定の基準にしておられますが、このことについてせんだって社会党の伊藤さんからの質問がありました際に、当局の方からは、施行にあたって実例があれば同法八百項の基準の運営によってやるという御答弁がありましたが、それはその答弁の通りですか。つまり、伊藤さんが言われたように、平均賃金をとる場合には、けい肺患者のような場合には事実上非常に不幸な不利な条件でそろばんをしなければならぬ場合がある、その救済をしてもらいたいということについて、八項を援用して労働大臣が適当に考えるということの中に入れられようということでありますが、それはその通りですか。
  102. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 その通りでございます。第十二条の第一項には、御承知のように、この平均賃金は算定すべき事由の発生した日以前三カ月間の賃金の平均を平均賃金とする、こういう立て方になっておるわけでございます。ところが、今論議になっておりますじん肺の患者等につきましては、つまり職場転換という制度が別に設けられておるわけでございまして、その職場転換を行なった結果、従来の受けておった賃金が非常に条件の悪い賃金になるという場合も考えられるわけでございます。そういう場合が考えられますと、この十二条一項の事由の発生した日以前三カ月という平均賃金をとりますと、その当該労働者にとりましては非常に不利な場合が発生することが考えられるわけでございます。従って、そういう場合は、第十二条の第八百項の規定の運用によって、当該労働者がはなはだしく不当なことにならないように運用面で対処して参りたいということを申し上げたのでございます。
  103. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 しかし、条文をそのまま見るとその解釈は無理ではありませんか。八項にいうところのものは、「第一項乃至第六項によって算定し得ない場合の平均賃金は、」云々と書いてある。伊藤さんが指摘された問題は、そういう一項から六項までのような状態によって算定し得ない場合ではなしに、身体障害が出てくるとだんだんと労働能率が落ちてくる、元気のいいときにはよけいに掘っておったが、力が落ちてかせぎが少なくなってくる、出来高払いのところもあるし、かりに同じ職場で同じ条件でやっても賃金が落ちるような場合もあるということで、今指摘されたようなものは、発病日の起算を中心としてこれまでいろいろな事例が解決されたり残っておったりする問題がある。今私どもがここで長期給付というものをやらなければならぬというときに、平均賃金が基準となるということについて一つの疑問と問題を持ち出しておるのは、一項から六項までのような算定し得ない場合のときではない、私はこう思うのですが、そういう場合にもこの八項を援用し得る法解釈が常識的に成り立つかどうか。
  104. 村上茂利

    ○村上説明員 確かに佐々木委員が御指摘のような理論も文理解釈上は生ずるかと思います。しかしながら、「第一項乃至第六項によって算定し得ない場合の平均賃金」云々という規定の解釈につきましては、労働省といたしましては、物理的に賃金が算定し得ないという場合のみならず、客観的に見て著しく妥当性を欠くという結果になるようなものにつきましては算定し得ない場合に含むものという解釈を従来から明らかにいたしておりまして、これは一貫した態度でございます。そのような従来の方針の上に立って先ほど局長が御答弁したわけでございます。
  105. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 そのような解釈を一応立てられておるとするならば、それはそういう解釈でもして救える部分があったら少しでも救ってもらえるから、その部分については賛成です。しかしながら、条理解釈、文理解釈としては私はほんとうは少しおかしいと思います。従いまして今のような場合を八項に含めることは、常識的な解釈としては私は困難であろうと思います。しかし、措置としては、ないよりあった方がいいから、なおやってもらった方がよかろうと思います。そういう考え方からすると、むしろ、先ほど言いますように、今度の長期給付という考え方に切りかわった際に、平均賃金をこの算定基準とするということ自身に無理があるのではなかろうか。職業病というものはだんだん慢性的に悪くなっていく、そして、いつから病気になっていつから医療を加えなければならぬ状態にあったかつまびらかでないような、そういう特殊の病気であるからして、職業病としての特別の保護が必要なんだろうと思う。従って、そういうふうな入院あるいはその他の医療が必要となるような状態の前には、当然に労働状態が落ちておるのであるから、その当然に落ちておるところの三カ月分を基準にする、そして落ちておらないことを原則とする考え方自身に私は無理があるのではなかろうかと思う。一つ簡単に御所見を承りたい。
  106. 村上茂利

    ○村上説明員 ただいまの佐々木先生の御指摘通りでございますが、この問題は発病日をどういう時点でとらえるかということと関連する問題でございます。労働者の職種によりましては、坑内労働をやっておった場合よりも、坑外に出ましていわゆるホワイト・カラーの仕事をやり、係長、課長の職務をやって賃金が高くなるという例も若干はありますが、大部分の人は坑内労働から坑外労働に転換をいたしますと賃金がダウンするというのが一般でございます。そういうような二つの異なった場合があるわけであります。その場合に発病日の時点をどうとらえるかという問題がございますが、発病日のとらえ方は医学的な所見をもとにいたしまして客観的に画一的にとらえざるを得ない、こういうことになると思います。そこで、今御指摘のように、過去の坑内労働をしておった場合の例で申しますと、坑内労働の場合の賃金を画一的にとりますと、その後実際の発病当時に賃金の上がった方は損をする、不利になるという場合もありまして、なかなか利害が一致しないという場合がございます。そこで、先ほども局長が答弁されましたように、発病目のとらえ方は画一的に行なうといたしまして、著しく賃金がダウンする、客観的に見まして著しく妥当性を欠くというものにつきまして、労働基準法第十二条第八項の規定によりまして措置することが最も現実にマッチしたやり方ではなかろうか、こういうふうな考えをとっておるわけでございます。
  107. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 今のところ仕方ない、そういう考え方で処理されておるならば、その処理の仕方も一つだろうと思います。ただ、私がここで指摘するのは、職業病という特殊な病気を保護するための長期給付制度ができた、その特殊な病気を保護するための長期給付制度の給付の基準を、本来ならば医療を加えなければならぬ直前、そこに基準の労働力を評価する賃金が求められるということ自身に無理があるのではなかろうか、こういうふうに考えるわけでありまして、やはりこれは全然違った概念によってその給付の内容の算定基準がとらるべきではなかろうか。現行の基準賃金を基礎とするという考え方は、先ほど基準局長とは意見が相当違いましたけれども、最も健康な状態で偶発的に傷病が発生する、その状態を前提とするところの十二条の平均賃金ということになっておるのでありますから、従って、そういう考え方とは違った考え方職業病保護基準には必要なのではないかということを私は重ねて指摘しておきたいと思います。  先に入りましょう。今度は給付の内容になりまして、一種、一種の、二百四十日、百八十八日という日にちの給付の内容一算定されておりますが、一口にこの算定基準を承りたい。
  108. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 第十二条の四によりまして、長期傷病者の補償の種類は、傷病給付、障害給付、遺族給付、葬祭給付という四種類に分かれておるわけでございますが、傷病給付、障害給付につきましては、それぞれ第一種、第二種に分かれておるわけでございます。そうしまして、第一種傷病給付といたしましては平均賃金の二百四十日、第二種傷病給付につきましては平均賃金の百八十八日分を支給するということにいたしておりまして、その点は障害給付についても同様でございます。  そこで、その二百四十日と百八十八日分というのはいかなる基礎で考えたかという御質問でございますが、これは、現在障害補償費といたしまして第一級からずっと分かれておるわけでございますが、労働能力を一〇〇%以上喪失いたしまして他人の介護を必要とするというような第一級の従来の障害補償を受けておった人の六年間に分割支給した場合の年額が二百四十日であったわけでございまして、これを第一種傷病給付、第一種障害給付の基礎の算定にいたしたわけでございます。第二種傷病給付、第二種障害給付の百八十八日分につきましては、労働能力を一〇〇%喪失した、そのかわり他人の介護を必要としないという障害補償の第三級に当たる人が六年間分割の場合に支給を受けておったのが年額百八十八日分でございまして、この百八十八日を採用いたした次第でございます。
  109. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 算定の根拠はわかりました。そこで、基本に戻りまして、この長期給付、長期療養の制度を考えられたところの基本は、先ほどからたびたび念を押しておりますように、必要な療養を継続し得る措置をとられたところにあろうかと思います。労働大臣、必要な療養を継続し得る補償がこの給付の内容でなければならぬと思いまするが、これは間違いありませんでしょうな。
  110. 松野頼三

    ○松野国務大臣 その通りであります。
  111. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 現在、法制上、言うなれば基準法がその原則になっておりますが、そういう場合の必要な療養を継続する、必要な療養を行ない得る基準法上のおそらくこれが最低の措置になろうかと思いますが、原則はどういうところになっておりますか。大臣が無理でしたら局長でもけっこうでございます。
  112. 村上茂利

    ○村上説明員 必要な療養を継続するためにはどのような基準によるところの費用が適切であるかという御質問でございますが、その具体的な金額につきましては基準法は定めておらないわけであります。ただ一つ基準としましては、医療費につきましては医療費を全額持つ、それから、療養のため休業いたしますためには休業補償費を支給する、その休業補償費は平均賃金の六〇%という基準を採用しておるということが言えると思います。
  113. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 つまり、基準法上の原則によりますと、業務上の障害が発生をした場合には、七十五条によりまして、その傷病者に対して使用者は医療補償を行なうことになっておると思います。この医療補償の原則は、その費用で必要な療養を行ない、または必要な療養の費用を負担しなければならないということでありまして言うまでもなく全額あるいは実費による弁済主義がこの基本だろうと思います。それから、どうせ療養する間就労することができないのでありますから、その場合の生活保障の手段として最低の基礎が七十六条の休業補償という考え方になっておるのだろうと思います。今部長の言われた通りのこの二つの原則が、こういう場合における基準法上の補償の原則であろうかと思います。そうすると、元に戻りまして、長期給付の場合におきましても、この二つの原則がそのまま入ることが必要な療養を継続し得る補償給付の内容にならなければならぬ、私はこう思いまするが、労働大臣、御所見を承りたい。
  114. 松野頼三

    ○松野国務大臣 御趣旨のような意見がおそらく基準法の精神だと私は考えます。
  115. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 原則は、今言いましたように、療養は実費で療養をさせるということ、そうして病気をなおすということ、その間の生活保障は、これはいろいろ問題がありまして百分の六十では足らぬから百分の八十にしてくれというような問題が起きておるのでありますけれども、少なくとも現在の基準法上の最低補償限度が六〇%になっておるわけであります。ただいま承りましたところの二百四十日分並びに百八十八日分の算定根拠にはこういう考え方は全然入っておらない、むしろ便宜的な算定方法が使われておるというふうに解さざるを得ないのでありますが、なぜ労働兵準法上の今のような考え方から出発されなかったのか、承りたいと思います。
  116. 村上茂利

    ○村上説明員 この問題につきましては、長期傷病者補償という制度が打ち切り補償との見合いにおきまして考えられましたために、けい肺審議会の公益委員案要領によりましても、入院する場合には百十二日、入院しないでいわば通院をする場合には二百十五日の給付金額をもって妥当とするという内容でございましてその点につきましては、いろいろ検討いたしました結果、先ほど局長から答弁がございましたように、入院の場合につきましては、労働能力一〇〇%喪失状態にございますので、障害補償費の第三級の場合の六年分割額の百八十八日を採用するのが妥当であろう、こういう考え方のもとに、公益委員の見解では百十二日でございましたものを、百八十八Hというふうに大幅に引き上げたわけでございますし、また、非入院の場合の二百十五日という打ち切り補償費の六年分割紙をさらに引き上げまして二百四十日というふうに、政府原案におきましては公益委員の示された範囲よりもそれぞれ引き上げたわけでございます。そのような前提に立ちまして、業務上災害の場合の補償ないしは保険制度を考えてみますると、厚生年金の障害年金におきまして業務上の負傷、疾病の場合に年金が支給されるわけでございます。今回の改正案によりますところの調整措置をとりましても、労働者に対しましては四二・五%の上積みがなされるわけでございます。それを平均的に品数に換算いたしますと約四十日になります。従いまして、厚生年金と労災保険法というものをあわせて考えますと、百八十八日という給付額は、厚生年金の障害年金分を加えますと約二百二十八日程度になりまして、平均賃金の約六二%相当のものが支給されることになるわけでございます。従いまして、その状態におきましては、基準法上の休業補償の六〇%を下回るものではない。こういう結論があるわけでございます。ただ、しからば厚生年金保険に入っていない者はどうかという問題がございます。しかし、この問題は、社会会保障制度の充実という問題と関連しておる問題でございまして、しばらく検討を要する点だろうかと思う次第でございます。
  117. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 厚生年金との関係はまたあとで出てきますから、それはいいんです。その考え方基本は、どういう算出をしようと、ともかくも、二百四十日分であろうが、三百日分であろうが、百三十日分であろうが、ここで給付の対象にならなければならぬのは、必要な療養を継続し得る補償ということでしょう。必要な療養を継続し得る補償というものは、これは考え方によっていろいろな算定の基準があるのです。従って、今求めようとするならば、今の日本の法制のもとでは基準法以外にはないじゃありませんか。どこから算出したものであっても、それはおかしい。長期給付は必要な療養を継続し得る給付である。必要な療養を継続し得る給付の内容は、どこから持ってこようが、今の建前として法上の根拠を求めるとするならば、今の基準法上の根本というよりほかにない。従って、これをそのまま持ってくればいい。労働者が怒ろうがどうしようが、ほっといていいと思う。まず病気をなおすことだ。今のところそのための費用は全部使用者が負担するということになっているんだから、その原則を貫けばよろしい。まず病気をなおさなければならぬ。平均の療養費でもって病気はなおりませんよ。だから、二百四十日分が多いとか少ないとかいうことを言うているんじゃない。この二百四十日をきめるのに、病気をなおす費用と生活を保障する費用と、この二つの概念が入っておらなければならぬと言うているんです。それは入っておるという考え方ですか。
  118. 村上茂利

    ○村上説明員 現在の打ち切り補償制度が療養補償、休業補償、遺族補償すべてのものを包含いたしておるわけでございますので、それとの見合いでできました今度の長期傷病者補償におきましても、そういう思想をとっておるわけでございます。障害補償以下のものにつきましては基準法上の障害補償体系とほぼ同じでございますが、療養を要する場合の第一種傷病給付につきましては、療養費と申しましても、ほとんど、病気が経過いたしまして、ときどき病院に参りまして診断ないしは治療を受けるという程度のものでございますし、その療養費はごく軽微でございますので、支払いの面から申しますと、一括して二百四十日の定額によって処理するのが適当であろう、こういうふうに考えたわけであります。
  119. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 軽微であれば軽微であるほど実費主義をとられたらどうですか。定額主義で一括してやる必要はないじゃないか。そんなものはもったいないじゃないですか。軽微であればあるほど実費主義でやられたらどうですか。そうして、片一方で生活保障のための費用というものをはっきりさせた方が理屈がすっきりすると思う。それを、今のような格好で、打ち切り補償のかわりの制度であるからと言われますが、かわりという意味は、打ち切り補償では病気をなおすことができぬから、従って長期療養の制度をとらなければならぬということなんです。打ち切り補償費を六カ年分で割った制度に直そうという意味ではないはずなんです。だから、そこのところをはっきり考えてもらいたい。矛盾があるなら矛盾があるとはっきり指摘されてこられれば、今度はほかの方法でいくより仕方がない。だから、この給付の内容は、あくまでも必要な療養を継続する給付内容でなければならぬ。理屈はそうである。松野大臣も認めておられるところなんだ。従って、この内容はあくまでも病気をなおす費用と生活保障の費用とが入っておらなければならぬ。しかも、病気をなおす方の療養の費用というのは、一定の額に平均やなんかしてはならぬと思う。部長が言われたように、病気というものは軽いのもあるかもしれぬけれども、重いのもある。百八十日入院するという前提に立っておるのもあるし、三年たってもなおかつ平癒しないというものもある。平均してみたら軽いかもしれぬが、本人になってみれば、重かったり軽かったり、いろいろあるのですから、平均賃金みたいな状態の給付では私はいかぬと思う。この考え方についてはどう考えますか。
  120. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 先生が御指摘のように、確かに、その当該労働者の療養を必要とする状態につきましては、これは千差万別でございまして、一人々々の必要の度合いの違うのは当然でございます。ただ、考え方といたしまして一人々々違うその人に対して、その一人々々に違った方法を講じていくという方法がいいか、それとも、統計上——この従来の統計上の数字を見ますと、通院して療養をしておる患者の状態は非常に療養の必要性が軽微になっておりまして、大体、統計の数字を参考のために申し上げますと、平均額におきまして、通院で療養費としましては年間三万二千円程度の療養費になっておるわけでございます。これに対しまして、入院して療養しておる者の療養費というものは年間二十四が四千円という数字が出ておりまして、両者の間には約十倍近い開きがあるわけでございます。このような実態の上に立ちましてこの考え方といたしまして、入院と通院の二つに大別していく方が、事務と申しますか、技術論でございますが、仕事の処理の仕方としてはこの方が適切じゃないかという考え方に立って、この第一種、第二種という分類を採用した次第でございます。
  121. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 役所の方あるいは保険関係者の仕事としては、その方がやはりいいかもしれない。われわれは、保険を受けて、そうして保護される労働者の方の立場に立って問題を展開しているわけです。そうでなければ保護立法意味をなさないからであります。それから、今お話しのように、三万二千円と二十四万四千円という数字は、伊藤さんの話のときにも出ました。私もそろばんをはじいてみました。平均をとってみたらどうかということで平均もとってみました。平均をとってみたが、三万二千円に見合うもので、多分あのときにけい肺患者は七百円程度の平均賃金と言われましたが、それをぽんぽんとかけてみても、休業補償の六〇%をとってその六〇%にその分の実費に見合うところの平均賃金分の療養費の部分を加えてみても、私は、二百六、七十日分には相当しなければならないのではなかろうか、こういうそろばんは一応はしてみた。しかし、そのことは私は一応ナンセンスだと思っているわけです。同様に、また、二十四万かかろうが二十五万かかろうが、そのことと、それから今問題になっておるところの百八十八日分という建前と、保護するという建前からするならば考え方が違うというんだ。保護される身になってみれば、軽い者は軽い補慣費でいい。しかしながら、生活保障というものは、それは平均で抑えるよりしようがないでしょう。だから六〇%でもいいと思う。重い者は弔い療養ができるような措置にしてもらわなければ、必要な療養を継続し得る給付にはならぬでしょう。長期療養制度を作ったもとにならぬと思う。だから、根本のこの考え方は私はおかしいと思う。  今度は、障害補償との関係を見ても、今お話しのように、障害補償費の給付内容は第一級が二百四十日分でしょう。それから、第三級が百八十八日分。第一級というのは、やはり一〇〇%の労働能力喪失でありまするが、これは、原則として、ちっとは補助者も要るかもしらぬけれども、働けぬというだけでしょう。片一方の傷病給付の方の第一種というのは、働けぬ上にもってきて、医療を必要として、通院費用がなければならぬはずだ。それが全然一緒の二百四十日ということになっている。私は、二百四十日分とか、百八十八日分とか端数が出ておりますけれども考え方基本に何にも筋の通ったものがないという気がしてならぬ。だから、もう一ぺんこの考え方を——これは、いろいろやってみてもしようがない、今のところ金がないし、打ち切り補償分をぽんと六くらいで割るか、あるいは従来の障害補償で出ておった分を十二で割ってみたか、そういうことよりしようがなかったんだということなら、その根拠を私は賛成せぬというだけで、ああそうですがと言わざるを得ぬ。しかし、今ここに出されておるようなわけのわからぬ考え方でもって長期給付の内容の基礎にせられるということになると、これはどうしても承服できぬのですが、どうですか。     〔委員長退席、大坪委員長代理元席〕
  122. 村上茂利

    ○村上説明員 医療費以外の休業補償費的な考え方については、いろいろ御議論があると思います。今度の改正法におきましてとった考え方は、一応の理論という点から申し上げますと、労働能力一〇〇%喪失状態の者と、労働能力の一部喪失、言葉をかえて申しますと、労働能力の完全喪失と一部喪失というふうに分けまして、その労働能力の完全喪失のものが一時的である場合と永久的である場合、こういう分類にいたしました。病院に入院しておる場合は、労働能力の完全喪失の一時的なものであります。それに対しまして、両眼失明というような状態の者は、永久完全労働能力喪失というカテゴリーに入るかと思います。諸外国立法例を見ましても、わが国基準法のように療養補償費と休業補償費という立て方をとっておらず、今申しましたような労働能力の喪失程度の区分に応じまして療養費以外の補償費を算定しておる例が少なくないわけであります。そこで、今度の二百四十日、百八十八日という基準をとりましたのは、同じように病気の場合に労働能力を完全喪失いたしております。それは抽象的に申しますと労働能力一〇〇%喪失しておるわけでございますが、それはまさに障害等級第一級から第三級のものに該当する、こういう考え方をとりまして、通院の場合には第一級の二百四十日、それから入院の場合は第三級の百八十八日をとったわけでございます。その場合、第一級と申しますのは、両眼失明の場合のごとく、労働能力一〇〇%喪失の上に、他人の手助け、介護を必要とする、一人歩きできませんから他人の手を借りなくちゃいかぬというように、自分自身の生活以外にそういったプラスの支出があるという点を考慮いたしまして、第三級のものが百八十八日であるにかかわらず、二百四十日というふうに歩増しされておるわけでございます。入院しないで自宅で療養しておる場合のことを考えますと、他人の介護を要するというような状態の場合はほとんど大部分がいまだ入院しておるというふうにわれわれ実例によって判断しておるわけでございますが、そういたしますと、自宅におりまして自用は弁じ得る、こういう状態でございますから、そのままの状態ですと障害等級第三級の百八十八日でよいのでございますが、障害補償の場合には、他人の介護に見合うものとして、通院療養という部分考えまして二百四十日というふうにいたしたわけでございます。  なお、先ほど来生活保障をするかどうかという御議論がございましたが、基準法労災保険法を通じまして、いわゆる生活保障的な、社会保障的な観点からの制度というよりも、災害補償でございまして、労働能力あるいは社会生活能力の損失を填補するという制度に立ちまして、平均貸金に対する一定額を補償しておるわけでございます。従いまして、具体的な例となりますと、平均賃金の著しく低い者につきましては、日数が相当多くなっても実際の受取額は少ない、それに反しまして、平均賃金の高い者は、日数が少なくてもかなり多くの補償実額をもらえる、こういう点があるのでございますが、その点は、災害補償という制度の上に立ちまして一貫して考えておる結果でございます。実額の点から申しますと相当の差が出てきておる、こういうことでございます。
  123. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 外国の話も出ましたが、それなら、ILO条約のこういう場合の最低基準はどういうふうになっていますか。
  124. 村上茂利

    ○村上説明員 五〇%となっております。
  125. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 それから、もう一つ、今の考え方の基礎に、障害に対する、あるいは障害労働力に対する補償という考え方と言われましたが、それは金額の算定にその考え方もあるでしょうが、そういう場合に、たとえば遺族補償を出さなければならぬという規定、休業補償を出さなければならぬという規定、それはやはり生活を保障しなければならぬという思想から出ておるのでしょう。
  126. 村上茂利

    ○村上説明員 遺族補償の場合、御承知のように、平均賃金の千日分でございます。これは、労働能力一〇〇%喪失の障害等級第三級の千五十日、これにほぼ近いものでございます。考え方としては大体見合うものとして考えておりまして、計算上五十日の差は出ておりますけれども、ほぼ見合うものという考え方に立って現行制度はできておるのでございます。
  127. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 議論しておりますと長くなりますから、先を急ぎたいと思います。  ILO条約の五〇%問題にしても、外国の例と比較する場合には実質賃金で比較してもらわなければ話にならぬ。それから、同時に、考え方の基礎にそういうふうにあっちこっち便宜主義で持っていかれては困る。法体系のもとから言うと、先ほど言いましたように、あくまでもこれまでの給付を長期給付にして、そうして病気をなおそうという根本的な考え方に立つ場合には、その根本的な考え方の一番基礎は今のところは基準法によるところの補償措置間でありまするから、そこから出発するのでなければ、どういうふうに持っていっても、それは持っていき方によってどうでもものが言えることになり、少ない多いというそれは両方からの水かけ論で、寄せて二で割るという以外になくなる。しかも、立て方はあくまでもこまかい算術で出しておりながら、結局は寄せて二で割る理論から出ておるのでは、私は基準を作ることは不可能だ、こういうふうに思うわけであります。従いまして、いずれ滝井さんその他からも出るでしょうから、この問題は指摘するだけにとどめておきまするが、実際問題として、二百四十日分や百八十八日分では、帯に短したすきに長しで、療養しようと思ったら生活を切り詰めなければならぬ、生活しようと思ったら病気の方の療養はできぬ、こういう状態が現実に出ることを訴えておることと、それから、私は、そのような状態があるにしても、考え方の基礎がすぱっとしておるならば、またその考え方に私も考慮を加えてもいいと思う。それが現在の法制の基礎になっておるところの基準法考え方から出発しておるのならば、基準法考え方のもとを直せばいいわけであります。たとえば、そのもとが百分の六十という休業補償が低過ぎるという点から基因するような理論的根拠であるならば、今問題になっておりまするように、これを八〇%に直せばいい。それにスライドして長期給付の補償の面を直せばいいということになってくるわけでありますから、ともかく考え方の基礎をどこに置いておるのかわからぬ今のような状態では、私どもは論議のしょうがないということを指摘しておきたいと思います。それから障害給付の場合には、確かに今言われたような損失労働力というものが中心になるでありましょうけれども、病気を今直そうという状態である場合には、直すための費用と、直すために働けないから、その間家族の費用をどうするかということが私はどうしても根本にならざるを得ないだろう、こういうふうに思うわけであります。  同じことで遺族給付は、これこそどういう考え方かわからない。血族給付は伊藤さんの質問通りでありますが、遺族給付の考え方は死亡のときの千日分という考え方を、これは打ち切り補償で払っているからということで、六年以後は払わぬというのか。遺族給付という考え方と今度の内容とは全然質が違うと思うのですけれども、どういう根拠でこれはこういうことになったのですか。
  128. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 今回の改正案によりまする遺族給付の考え方でございますが、従来の遺族打ち切り補償の場合は、傷病給付、障害給付、遺族給付あるいは葬祭料といったようなものを全都ひっくるめて千二百日分の打ち切り補償を支払うことによって、一切の補償責任が免責される、こういう建前をとっておったわけでございます。今回の改正案におきましては、そのような打ち切り補償にかわって、長期傷病補償という制度を確立することになったわけでございますが、その際に従来千二百日分に一括包括されておった遺族給付に相当する部分を、どのような方法で処理するかという問題があるわけでございます。そこで今回の改正案で採用いたしました考え方は、従来の千二百日分は分割支給した場合には六年間で分割支給しておった。従ってそれとの関連で考えました場合には今回の長期補償制度の場合におきましても、従来の制度との関連において、六年以内に死亡した場合はある程度の遺族給付を支給する方が適切であろう、こういう考え方に立ったわけでございます。しからばその六年以内に死亡した場合に支給すべき遺族給付の額はどのように定めたらいいかという問題が次に起こるわけでございますが、これは従来の打ち切り補償の場合は一ぺんに千二百日分支払う、その中に遺族給付から葬祭料も療養給付もみんな入っておる。そうしますと、話が理に落ち過ぎてはなはだ恐縮でございますが、その当該労働者が一年生きておった。そうすると、その生きておる間は食費もかかりますし、それから療養の場合は療養費も支払う。従ってその生存の期間が長引くにつれてその残りの額は逓減していくわけであります。それをそのまま踏襲いたしまして、六年間に限って支給する、しかしながらその支給する額は一年ごとに逓減していく、こういう考え方の上に立って今回の改正案を立案した次第でございます。
  129. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 聞けば聞くほどこれはどうにもしようがない考え方が基礎になっておるようであります。第一に、遺族給付というものの性質は、言うまでもなく本人が死亡した当時の家族の生活を何とか保障しようという建前から、出ておるのであるから、従って死亡の時というものには本来無関係である。その六年とかなんとかいう打ち切り補償という考え方が頭にあるからなんです。打ち切り補償というものは今度はなくなったのでしょう。打ち切り補償というものがないのでありまするから、遺族給付は遺族給付という純粋の考え方に私は戻らなければならぬと思う。遺族給付の純粋な考え方には、いつ死のうと、死んだときというものに関係なしに遺族に対する、あるいはその死亡当時にその給与で生活しておった者に対する一定の生活保障であるという考え方に立たなければならぬから、六年以降支給しないという論拠は全然成り立たぬと思う。二番目に、逓減をするという考え方も、これも全然性質の異なった給付を合わせてプラス・マイナスで適当なところに押しつけようとする観念は、私はあくまでも観念しの考え方の矛盾だ、混同だと思います。種類の違った給付を適当に引いたり寄せたり——ほかのもとの方にやってあるから差し引いたらよかろう、これはまたあとに出てきますけれども、この思想は混乱だと私は思います。従って遺族補償につきましては六年以後支給しないという理論的根拠は私どもは賛同し得ないし、逓減の根拠というものははっきりと見出せない、こう思うわけであります。同様の意味におきまして、葬祭料の支給を六年以内に限ったこともやはり根拠がない。このように考えるわけであります。  この辺で私はもう一ぺん労働大臣の考え方をはっきり明らかにしてもらいたいと思います。要するにこれらの長期給付に関連する四種類の給付について問題を出しましたけれども、この長期給付というものの根本思想を貫いて今の労災法改正案というところに出てきておりますものは、あくまでも経理計算の必要から、そのもとが押えられておって、そのワクの中で何とか長期給付をしたいというところに出ておるわけであります。しかしながら一番最初確認したように、長期給付をしなければならぬというこの考え方のもとは、労働大臣がたびたび承認されたように、必要な療養を継続し得るような補償給付をしなければならぬ、職業病に対する基本的な保護対策はここにあるというところに出てきておるわけであります。従って今ここに出てきておるような従来の打ち切り補償費の分割払い制ではないのでありますから、今のような考え方でありますと、これは明らかに羊頭を掲げて狗肉を売るという批判は受けてもやむを得ぬと思う。従って私は、金がなければほかの措置をとったらよかろうと思う。あくまでも長期給付によって必要な療養を行なおうということでありますならば、それに相応するところの給付を考えらるべきであって、一つ一つ差し引いてみたり、延べ払いで割ってみたり、こういう考え方は、根本的に私はおかしい考え方がもとになっておると思うわけであります。労働大臣の一つ良心的な御答弁を最後に承って、この問題を先にいきたいと思います。
  130. 松野頼三

    ○松野国務大臣 今日の基準法の、御承知のように延長であります。基準法におきましては千日分、これは今回の立法において何ら原則を変えるものじゃございません。ただしこれは三年という期限つき、最終的には千二百日分という打ち切り補償、従って千日分というのは三年以内、職場におる間はもちろん当然基準法上の保護は今まで通りあるわけであります。それ以外に、今日までは解雇されて千二百日分で何ら措置がなかったというところに、今回新しい措置考えようというのでありまして、永遠に雇用関係が続いておるならばこの制度の必要はないわけであります。そこに非常にこの議論の厚い薄いの論拠があるのじゃなかろうか。今日は何もないということで考えますと、今回この新しい制度によって一応安定したものを作りたい、その制度としては労災という制度をもってすべての産業における類似な障害まで及ぼしていきたいというところから発足しておりますので、基本考え方が、三年が永遠に続くのだという議論から言うならば、佐々木委員のおっしゃるように非常に問題点があるかもしれない。今日何もないのだというならば、今度新しく千二百分を基準にして、私たちはより以上、千二百日分を割るだけにあらずして、それ以上の制度を考えようというので百十日という答申を百八十八日に厚くしながら、また二百十日を二百四十日にしながら、そして基準法の中の市つの基準を設けながら今日やってきたのがこの制度の内容であります。従ってもちろん、これが最低であって最高でないことは私どもも了承いたしております。しかし一応こういう制度が発足した後におけるいろいろな問題は、やはり午前中に出ましたように、先ほど滝井委員からも御指摘があったように、今までの中に今回新しく衛生と予防が加わりました。今までの制度プラスです。従って今後またじん肺審議会においていろいろな問題が取り扱われるとは思いますけれども、そのときにおいて給付の問題の議論の出ることは当然であります。しかし一応私たちは今日の基準法労災法の中において安定した、そして職業病的な将来の基礎を築こうという考えから発足しておりますので、いろいろ不満の点はございましょう、もちろんけい肺保護法とか特別保護法とは基本的にある程度——私たちの考え基本はもっと根強く幅を広くというところから発足しております。従って最低額の生活がどうだとかいろいろ議論はございましょう。しかし私は今回のこの方向からいくならば、今の千二百日分の打ち切り補償にかわるより以上の前進の法律だということを私は信じておりますが、ではこれで最高で、もうこれで何にもやらぬでもいいのかと言われれば、今後ますます改善すべき余地は残っておるかもしれません。しかし一応今回は千二百日分の打ち切り補償にかわる制度としては、政府として最大努力を尽してきた。しかしもちろんこれで完全とは私は思いません。しかし療養と給付を合わせて町方をやったというこの制度は私は間違っていない、あとは百八十八日と一百四十日分の基準がどうか、それは政府委員からいろいろ説明しましたように、いろいろな基準のとり方があって、これが手厚くて、これでなければならぬとは思っておりません。しかし一つ基準を設けるならば、今日までの労災の分割払いの基準を持ってくるのも一つ方向であろうというので、分割払いの基準を持ってきたわけであります。従って遺族補償につきましても今までのものを全然無視するのではありません。三年以後の場合、今までは千二百日分の中に包含されてあったともいえるし、なかったともいえるかもしれません。今回これを明示するとこういう形になってきたというわけで、思想そのものを私は混淆しているのではありません。そういう考えからいくと、首尾一貫した法律じゃなかろうかと私は考えております。
  131. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 どうも必ずしも期待したような良心的な御答弁には承れなくて残念であります。しかしながら時間的な制約もありますから、先に進めなければならないと思います。しかし一つ特に、今のお話の中で労働大臣、ほんとうに必要な療養をさせようということだから、医療給付は実費主義というのが従来の建前だから、考え方としてはそれが正しいとはお考えになりませんか。ただ一音、どうです。
  132. 松野頼三

    ○松野国務大臣 これは法律案にあえて関連をしませんが、医療給付というのは実費主義というのが建前です。ただし最近のすべての社会保障制度というのは、必ずしも実費主義是なりという結論は出ておりません。あらゆる保険制度をごらんいただけばわかるように、実費主義ばかりを貫くわけにはいかないというので、ある程度加味されております。基本は、やはり実費主義という基本のもとに、その算定をどうするか、定額にするか、定率にするかという議論が出ていますが、算定の基準は実費主義であるべきだということは、私も良心的にそう考えております。
  133. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 算定の基準が実費主義じゃないのです、私の言うのは……。病気でありますから平均をとられたって困る。私の病気はあまり重くない、あいつの病気は非常に重い、合わせて平均した給付を二つくれたって、こっちは余るのだし、あっちの方は足らない。あくまでも療養であり、病気をなおすということになりますと、私の病気もなおらなければならぬし、あっちの病気もなおらなければならぬ。だから必要な額を必要なほどやればいいというのが基本となると思う。これを、給付を寄せて二つで割れば、私はもらわぬでもいいのをよけいもらったことになるし、こっちの方はせっかくもらったのに病気はなおらぬということになる。ただ補償とか何とかいうことになると、平均賃金ということについてもいろいろ問題はあろうし、不公平は出ようと思いますけれども、必要な療養をさせようという場合のその療養補償費というものは、実費を寄せて平均した額を出して一定給付にするという考え方は、基本的には私は誤りであるような考え方に立つわけであります。まあ議論になりますから、先に行きましょう。滝井さんも待っておられますから急ぎます。  障害補償のところで大体お話ししました。この間ここでちょっと出しましたけれども、局長さんでも部長さんでも、あの船員保険とのバランスはこれの立案のときには考えられたのですか。船員保険は六級までを年金化してやる。せっかく今立案してここで年金化されようとするものは三級までだ、このことは考えられたのか、考えられなかったのか。     〔大坪委員長代理退席、委員長着席〕
  134. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 御承知のように、船員につきましては陸上労働者の場合と法の立て方を基本的に別にしておりまして、労働基準法あるいは健康保険法さらに労災保険法というような陸上労働者に対する法の立て方と別にいたしまして、これらを一括して船員保険法という単独法の中で包括的に規定しているのは御承知通りでございます。従いましてこの労災保険法の適用を受けておる労働者はあわせて厚生年金法の適用も受けておるわけでございますが、船員労働者、船員保険法の適用を受けておる労働者につきましては、厚生年金法の適用も受けないというような点で、法の立て方が基本的に違っておるわけでございますけれども、今回の今問題になっております障害給付というような場合は、船員労働者であろうと陸上労働者であろうと、その労働能力の喪失の度合い、それに対する補償については本来同じようにバランスをとって考えるのが至当であろうと考えております。私どもこの法案を立案し準備しておるころには船員保険法の改正がそこまで煮詰まっておらなかったわけでありますが、私どもとしましては、船員保険法となるたけ歩調を合わせたように努力をいたしたのでございますが、いろいろ制約がございまして、とりあえず第一級から第三級までに限って年金制度にしよう、こういう結論でこの法案が作られたわけでございます。
  135. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 まああまり責めますまい。過失なら過失でいいと思います。今給付の内容がどうのこうのというお話がありましたけれども、そうではない。これは制度の問題で、年金化の制度でしょう。給付の似たようなものであるならば、同じくらいな者が年金をとった方がいいかどうかということは、あなた、海にかって働いておった者であろうと、陸で働いておった者であろうと、それで違うわけはない。給付の内容が少々違うかどうかということでなしに、給付の態様自身を、片一方の今度せっかく立法化されようとするのは三級までを年金化されようとしておる。お医者さんが見たのでありますから、従って同じ三級といったら三級くらいのものだろうと思いますけれども、片一方は六級がすでに年金化しているということでありますから、やはり考えるときにはバランスをとられた方が私はほんとうだと思います。  それから問題は解雇制限の問題、これは基本的な考え方が違うから、ここで繰り返して基本的な考えをどうこうと、私はあらためて追及しようとは思いません。時間もありませんので……。ただここで百歩譲りまして、打ち切り補償制度時代の今の労働省考え方をそのままとるとしても、解雇制限を、制限条項を廃止するとするならば、従来の打ち切り補償制度相当額が支払われた後ということでなければならぬと私は思う。今ここに出されているのは、その最初の支払いの長期給付の開始されたときでしょう。これはどう考えてみても理屈が合いませんね。長期療養給付の開始されたときに一ぺんに解雇制限を撤廃する、これは筋がどうしても合わぬと思いますが、考え方はどうなんですか。
  136. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 現在の労働基準法におきましては、打ち切り補償について分割補償の制度は基準法上は採用いたしておりません。従いまして基準法上の打ち切り補償の場合は、全部一括支給になっておるわけでございます。従いましてこの一括支給すべき打ち切り補償費が全額支払われない限りは、その限度において打ち切り補償が行なわれていないわけでございますから、基準法の第十九条との関連におきましても、解雇制限の除外にはならないわけでございます。ただし労災保険法の解釈上はどうであろうかということになりますと、先ほど読みました基準法の第八十四条におきまして、「補償を受けるべき者が、同一の事由について、労働者災害補償保険法によってこの法律の災害補償に相当する保険給付を受けるべき場合においては、」——受けた場合というふうな書き方はしておらないのでございまして、「受けるべき」場合においては、その価額の限度において、使用者は、補償の責を免れ、」という規定になっておるわけでございます。そうして労災保険法上は、御承知のように打ち切り補償費に相当する補償をする場合に、一括支給するか分側支給をするかは、労働者の選択にまかされておるわけでございます。従いまして、労災保険上は分割支給という場合もあり得るわけでございますが、基準法第十九条との関連において、分前支給にした場合に、その分割支給が完了しないうちはこの十九条の除外の半田になるかならないかという点が一番問題の点でございますが、ただいま読み上げました第八十四条の解釈におきまして、保険給付を受けるべき場合——受けた場合じゃなく、受けるべき場合、従いまして、今度の改正法案の解釈におきましては、長期の年金の給付を受けることに決定されたそのときに打ち切り補償が支払われたという解釈を私どもはとっておるわけでございます。というのは、労災保険法の場合におきましては、その相手が政府、国でございますので、一たん決定した長期給付が使用者——この場合は政府でございますが、政府の何らかの事由によって将来支払われるべき年金が支払われないというようなことは考えられませんので、長期給付の支給が決定したというだけで打ち切り補償が支払われたというふうに、この解雇制限との関連におきましては解釈しても差しつかえないという解釈をとっておるわけでございます。
  137. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 政治論として仕方がないというなら、仕方がないと言いなさいよ。八十四条を援用して、この理屈が通っておるという三百代言のような問題の出し方で理屈を言われるなら、私はもう下がらぬ。そんなばかな話があるかというのです。打ち切り補償というのは、御承知のように、無過失責任を打ち切らせるという立法理由をはっきり持った、使用者を何とか救済しようとするための制度であるわけだ。しかもその立て方は、本来は無制限に無過失責任を持たなければならぬという立場基準法規定しておるけれども、しかしそれではあまり酷だからというので、打ち切り補償制度という制度をこしらえて、必要なものを払ってしまったなら、仕方がない、あとは免責してやろうという救助規定ですよ。従ってあくまでもそれが払われるということが前提になっておる。払わるべき給付が決定したから従ってどうのこうの、八十四条が「べき」であるからというような、そういうへ理屈を援用されてこのことを言われるのは、私は非常に不本意だ。大体そんな考え方で長期給付をしても、今病気になっておる者を少しでもよくしてやろうとか、あるいはまた何とか健康管理をして悪化を防ごうという行政は不可能だと私は思うのです。私はこの問題の中で一番基本的なものはこの解雇制限であると思う。しかし基本考え方については、本来ならば、病気をなおしてもう一ぺん職場に復帰させようというのが、職業病予防的な基本的な考え方だと思う。従って解雇制限を廃止するなんというのはまかりならぬという考え方だ。しかしその考え方があるにしても、こういう改正法上の考え方政府もしておられるのであるから、仕方がなしに、この考え方に沿って、この考え方通りに理屈を展開してみようと思って力一ぱいやっておるわけです。しかしこの中でなおかつ今のような、一時金の打ち切り補償内容のうちのほんの一部だけ払った、従って全部払ったのと同じような格好で首を切ってもいいというような解釈が堂々と成り立つような、そういう法条の解釈がやられると、とてもあぶなくて行政官にまかせられぬ。努力義務をいろいろ政府は議論される。じん肺法についても、努力義務なりあるいは監督をしてなるべくさせるというような道徳規定みたいなものを置かれておる。しかしそういう内容を今のように勝手に解釈されてはとても承服できないので、もう一ぺんお答え願いたい。
  138. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 労災保険法上は、従来の打ち切り補償につきましては、これを一括して受け取るか、あるいは六年間に分割して受け取るかということは、労働者の自由意思にまかせられておるわけでございます。従って分割して支給してもらいたいという方を労働者が希望した場合は、その相手が政府でございますから、その六年間においてそれは確実にその年度分の年金的なものが支給されるということが保障されておりますから、ただいま申し上げたような解釈をとっているわけであります。今回の改正法によりますと、従来の打ち切り補償にかわりましていわゆる年金制度が採用されます。そうなりますと、これは従来も千二百日分で切られておった補償を、必要の存する期間、終身に至るまで国の責任においてめんどうを見ていこう、こういう制度でございますので、これは確実にその必要の存する期間その療養が保障されるわけでございますから、第十九条との関連におきましては解雇制限の規定は、今申し上げたような意味合いにおきまして、この第十九条の適用は除外される、こういうふうに考えておるわけでございます。
  139. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 その長期の療養が保障されておらぬじゃないか。先ほど言ったように、給付の内容はそういうことになっておらぬじゃないか。今の基準法自身が補償している内容さえも持っておらぬじゃないですか。
  140. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 先ほど大臣からお答えいたしましたように、その補償の中身が高いか低いかという議論は、これは立場によりましていろいろ考え方もあるわけでございますが、私どもは従来の打ち切り補償に相当する部分にプラスして今回の年金制度を考えておるわけでございますので、これは従来の制度に比較いたしました場合には、確かに大きな前進になっておるわけでございます。従いまして、そういう意味におきまして私どもは、その内容の点においてさらにその充実を期する必要があるというような議論に対しましては、もとより敬意を表するものでございますが、現在の段階としては、とにかく従来の制度よりははるかな前進であるという意味合いにおきまして、長期にわたって療養が保障された、こういう制度についての考えを持っておるわけでございます。
  141. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 だから私の聞いておるのは、考え方基本がこういう建前に立っておる、しかしながら実情はなかなかそれに合わせられぬからという政治論を展開されておるのか、あくまでも法律論を中心とした考え方を述べられておるのかということです。先ほど法律論を中心にした考え方によって、従って内容は必ずしも十分でないけれども、まあこれはこれとする、別問題とするという考え方は別にまた述べられた。片一方にはそういう政治論を述べられながら、片一方のときにはあくまでも法律論をもって、三百代言みたいな理屈で押しつけようとしておる考え方自身に私は承服できぬ。この一貫しておるものはだれが見たってわかっているじゃないですか。大体打ち切り補償制度に変えるという意味を、ほんとうは制度を変えようとする建前をとるのだけれども、実質上は打ち切り補償費相当額、それに仕方なしにある程度の国家の援助を入れてそれをぽんと六で割ったくらいの程度のことを考えよう。経理計算のもとのワクにあなたは不満を感ぜられたはずです。できるならば経理計算のもとのワクの打ち切り補償費、仕方なければプラス・アルフアした内容をもって長期給付の形を作りたいというところがあるわけです。初めから矛盾です。そういう経理内容の立て方をしておいて、従ってどこのどの規定を見ても、遺族給付の規定を見ても、葬祭料の規定を見ても、これまで払った分であるから今後払う分から差し引くのだというような考え方を全部出しているじゃないか。そうしてこの問題だけについては、理屈の上ではまだ払っておらないのにもかかわらず、もう払ってしまったのと同じ形でもって問題を処理される、こういう考え方です。私は政治論なら納得します。立場があるから仕方がない。しかし理屈でいくならあくまで争う。どっちかにはっきりしてもらわなければ困る。
  142. 松野頼三

    ○松野国務大臣 これは三年間の制限と責任というものを基本に置きまして、その基準をこわさないことにして、そうして療養というふうに、今後の新しい療養給付というものを継ぎ足したわけであります。従って基本のものがずっと先までいくのにあらずして、責任と限界というものが三年で切れるわけであります。それが一番はっきりしているものは、先ほどの遺族、これは三年間は千日分、これは今まで通り、今後が変わって参ります。雇用関係も、三年間というものが一応基準法の限界、これから先は雇用関係というものはなくなって、今度は国も関与して産業全体で補償しようというのであって、ここに雇用関係をずっと延ばすという考え基本的にできません。ただ補償の方を継ぎ足そうというところに基本の理念があるわけであります。いわゆる今後の補償というものを長期化しょうというところに当木の理念がある。同時にこれは六年と限定しておりますが、何もその六年というものがそのすべてじゃなしに、今後相当長期になるのですから、かりに六年をとったらこうなるという六年であって、六年以後は知らないぞという意味じゃない。一つの議論の焦点として六年というものがよく議論されますけれども、これは何も六年以後は知らないというものじゃありません。従ってそういうふうな長期を考えていただくと、また議論の発展も別じゃなかろうか。従って解雇制限というものが三年間でなくなる、その基本はくずしておりません。従ってその後においては長期給付という形で別な意味で継ぎ足されてきている。これを延長する、ずっとつながるのだという議論からいくと、長期か雇用制限かどっちか矛盾じゃないかということになりますが、三年間で切れている先に、新しい意味で継続的、長期的に継ぎ足していくのです。それをもとから直せというのだったら基準法そのものをもとから直さなければなりません。従ってそういう意味じゃありません。三年というものを切って、その上に今後のものを継ぎ足すという考え方、打ち切り補償から長期年金に変えるというのです。全部もとから変えるという意味ではありません。従って私は基本的にそう矛盾はしていないと思うのです。従って六年に解雇制限を延ばすとか、それは基準法そのものに触れることでありますから、そこまでは考えておらないということで、三年ということから先を今度は長期に変えたのです。
  143. 佐々木良作

    佐々木(良)委員 だからおそらく理屈をつけるとするならば、今大臣が言うたように、新しく長期療養制度というものをこしらえて、今後のやつは何とかそれで補償していかれるのだから、従ってここで雇用関係は何とか切りたいという政策論だと私は思う。それを当然のごとくに八十四条を援用してこういうふうな理屈をつけられるということになると私は承知できぬ。先ほどからいろいろ承っておっても、あまりに理屈にこだわって答弁をし過ぎると思う。先ほどの船員保険の問題でも、すらすらっと逃げておりますけれども、もし私が意地悪くいって——今のあなたの答弁は、はっきり言うならば、私どもがこの改正をやっておるときには、それがわからなんだということを言わないための別な答弁がされた。御承知のように、船員保険の障害年金の改正というものは、今改正したものじゃない。ずっと前からあったものだ。だから今度の改正は、あなた方がこの労災保険でやるときは、当然六級から年金になったことを知っておらなければいかぬ。ほんとうは気がつかなかったのでしょう。気がつかなかったら、知らなかったと答えさえすればいい。それを何とかへ理屈を言って逃げられた。しかし私は悪いと思って、それはす通ししょうと思った。そういう過失があったら過失でかまやしない。知らないなら知らないでかまやしない。今度の解雇制限だって、これは理屈の問題じゃない。正直に言って松野大臣が一番困っている。日経連から責められるし、労働組合から責められる。要するにこの問題はそういう意味で、法律解釈の問題ではない。ただ理屈をわれわれが立てるならば、ほかのところではあくまでも打ち切り補償の分割払い的な考え方が進んでいるじゃないか。しかもこれだけについては、どうして打ち切り払いの全額を払わないのにかかわらず払った顔をするのだ。だからこういう理屈を言えるのが当然なんだ。それはそうであろうけれども、給付の内容は足らぬにしても、今のように、建前は今後年金化で何とか考えようと思っておるので雇用関係は切りたいと思っているのだと言えばいいじゃないか。あまりへ理屈を言わないようにしてもらいたい。  厚生年金との併給の問題についても私は述べたいことがあります。二重払いなんて言われるけれども、これもへ理屈であって、それを理屈であると言われれば私も理屈を立てたくなる。厚生年金の完全併給をされなければならぬという建前は——これはあなたの答弁を求めぬ。あまり腹が立つから、私も勝手なことを言ってやめる。あなたの考え方を見ると、保険制度という建前でものを言わなければならぬときに、ある場合には国家で補償しておる制度である、今補償を行なっているという国家補償の理屈をもって、二重払いになるからというものの言い方をされる。従って私に言わせると、その場合には保険制度というものと、それからこういう職業病的なものはある程度国家が補償して何とか変えなければならぬという考え方との明らかな混同なんだ。しかしそれにもかかわらず、あまりよく政府から金が出ないから仕方がないと言われればそれでいいと思う。そう理屈通りのこともできぬ状態にあるから……。それを一つずつあまり理屈を立てられ過ぎておる。これが二重に併給されたら何が悪い、二重払いされたら何が悪い。そうして労働者の出したもの以外に、国からあるいは使用者の出したものを保険給付として受けたら何が悪い。保険というものはあたりまえの話だ。もともと自分が出したもの以上にプラス・アルフアとして戻ってくるというのが保険制度の基本だ。保険の二つ三つ一緒に加入してもかまわぬ、そうして数個の給付が戻ってくるというのが普通の建前だ。それが何が悪い。保険制度からいうなら、ちっとも悪いことじゃない。それをいかにも払ってやるのが悪いような考え方に立っておる。二重払いみたいな考えに立っておられる。二重払いという考え方には、一つでもって完全な給付を行なって、完全な医療補償を行なっておるという建前が立てられているならば、もう一つのやつが二五ということになり得る。考え方としては一応政府が出すみたいなことになっておっても、片一方においては保険制度というものの建前がはっきりある。それを他の理屈は一切いれられぬというような考え方で、あなた方理屈をこしらえてある。その意味で私は非常に不満だ。これから言い出すと腹が立つから、あと滝井さんに譲ってやめますけれども、スライドの問題にしてもしかりだ。私、スライドの問題を、わからぬものだから一生懸命調べてみた。今度の条文というものは、一体何で改正後の改訂ということが書いてないのか。私は当然これは含んでおるものと思っておった。スライドの改正した後の改訂というものが当然含んでおるものだと思った。ところが条文を一生懸命調べてみると、どこに書いてあるかわからぬようなものであったけれども、なるほどこの十六条というところに、この基準法の七十六条の二項と同じ建前のごとくに誓いてあって、しまいの改訂後の額の改訂も準用するという部分だけ抜けておる。私から見ると、虫めがねで見なければわからぬようにこっそり抜いてある。これは悪質だ。そういうものはほんとうに悪いよ。そういうことであるなら、ここだけ違っておりますと、初めのときにはっきり指摘すべきである。私はこの内容、スライドの条文の立て方を見ても、非常に不愉快に思いました。何で基準法と違ってこれだけ、改訂後の額の改訂を初めから抜いてあるのか。この理屈は、おそらくいろいろな理屈が立つだろうと思うけれども、ほんとうは金が困るからやめたんだと言われれば、それでもまたその意味の筋が通ると思う。そういう悪質なことはやめてもらいたい。  それから七十九日分の減額措置の根本についても同じことが僕は言えると思う。七十九日分というのは、これはまたどうですか。今のこの根拠の計算によると、十一年までずっと生きておったとする。それから先はそうすると払い損になるね。この考え方でいくと取られ損になるね。そうなるでしょう。これまで打ち切り補償で支払った分をずっと順繰り順繰り返させたい、その平均寿命が十年くらいだという算定に立っておられる。だから十年でちょうど死ねばとんとんになるでしょう。しかし十二年、十三年、十四年と生きておれば、十二年、十三年、十四年の部分は、引いてもらったら困る分をさっ引かれることになるのじゃないか。それは酷じゃないですか。取られる分だけは厳格にやっておるけれども、それでは算術が合わぬよ。先ほどのように吐き出す分を吐き出せというなら、余った分を返すということにならなければそろばんが合わぬ。従ってこういう考え方に私はもう少し——これは特別保護だ。人間の中で一人前でない者に対する特別な保護の手を差し伸べようとする立法趣旨である。その立法趣旨を生かそうと思うならば、法律では半分くらい禁止ではないけれども遠慮されておるような制限規定でもなるべく甘くなにして、何とかあたたかい手を差し伸べようというのが行政当局の基本的なあり方でなければならぬと私は思う。ところがこの法律の立て方というのは、ほんとうに一文も損しまい、理屈のつくだけ、寄せたり引いたりできぬような別個の給付を完全にプラスマイナスして、これだけは払い過ぎになっているから取りましょうというみたいなことが書いてある。そして今度は逆向きに引き出しになる方は知らぬ顔をしてほおかぶりしようというのが今の経済措置に出てきておる。私は非常に不親切な考え方だと思う。松野大臣はあまりこまかいことをこの辺は聞かせられておらないかもしれないけれども、もう一ぺん考え直してごらんなさい。大臣は基準局長その他からいろいろ説明を受けておられて、これまでよりよほどいい法律ができると思っておられるに違いないが、内容は決してそうではない。一つ一つが今のような、私に言わせると相当悪質な制度、内容さえ加味しておると言わざるを得ない状態になっておる。そういう感じでありますことをこの質疑を通じて一そう深めたことを労働大臣に特別に申し上げまして、本日のところ質問を打ち切りたいと思います。大へんどうも勝手なことをしゃべりました。
  144. 永山忠則

    永山委員長 本日は、これにて散会いたします。     午後三時五十三分散会