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1960-03-22 第34回国会 衆議院 社会労働委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十五年三月二十二日(火曜日)     午前十時四十四分開議  出席委員    委員長 永山 忠則君    理事 大石 武一君 理事 大坪 保雄君    理事 田中 正巳君 理事 八田 貞義君    理事 藤本 捨助君 理事 滝井 義高君    理事 八木 一男君 理事 堤 ツルヨ君       池田 清志君    大橋 武夫君       亀山 孝一君    齋藤 邦吉君       柳谷清三郎君    亘  四郎君       赤松  勇君    伊藤よし子君       大原  亨君    小林  進君       五島 虎雄君    中村 英男君       佐々木良作君    本島百合子君  出席国務大臣         労 働 大 臣 松野 頼三君  出席政府委員         労働基準監督官         (労働基準局         長)      澁谷 直藏君  委員外出席者         労働基準監督官         (労働基準局労         災補償部長)  村上 茂利君         専  門  員 川井 章知君     ――――――――――――― 三月二十二日  委員河上丈太郎君及び木下哲君辞任につき、そ  の補欠として小林進君及び佐々木良作君が議長  の指名で委員に選任された。     ――――――――――――― 三月十九日  けい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護  法の一部改正に関する請願五島虎雄紹介)  (第一二三四号)  日雇労働者健康保険法改善に関する請願(五  島虎雄紹介)(第一二三五号)  同外一件(志賀義雄紹介)(第一三八一号)  同(増田甲子七君紹介)(第一四五二号)  市町村、労働組合等の行う職業訓練に対する経  費負担に関する請願五島虎雄紹介)(第一  二三六号)  同(志賀義雄紹介)(第一三八二号)  同(増田甲子七君紹介)(第一四五〇号)  同(中原健次紹介)(第一四五一号)  生活保護基準引上げ及び失業対策強化等に関  する請願多賀谷真稔紹介)(第一二三七  号)  同(神近市子紹介)(第一三八六号)  医療施設不燃化等建築費助成に関する請願(  植木庚子郎君紹介)(第一二四六号)  同(星島二郎紹介)(第一二四七号)  同(田中伊三次君紹介)(第一三〇三号)  同(細田義安紹介)(第一三八四号)  同(堂森芳夫紹介)(弟一三八五号)  酒害対策費に関する請願賀屋興宣紹介)(  第一二六四号)  同(山下榮二紹介)(第一三八〇号)  酒癖矯正施設設立に関する請願賀屋興宣君紹  介)(第一二六五号)  同(大平正芳紹介)(第一三〇二号)  同(山口シヅエ紹介)(第一三八七号)  同(山下榮二紹介)(第一三八八号)  同(保利茂紹介)(第一三九五号)  同(河上丈太郎紹介)(第一四五四号)  日雇労働者健康保険法の一部改正に関する請願  (河本敏夫紹介)(第一二七九号)  同(中原健次紹介)(第一四五三号)  一般職種別賃金即時廃止に関する請願志賀  義雄紹介)(第一三八三号)  同(中原健次紹介)(第一四五六号)  国民健康保険事業財政措置強化に関する請願  (西尾末廣君紹介)(第一三八九号)  国立病院看護婦給与改善に関する請願(正木  清君紹介)(第一三九〇号)  同(横路節雄紹介)(第一四五八号)  動員学徒犠牲者援護に関する請願外十二件(田  村元君紹介)(第一四四七号)  同外四件(世耕弘一紹介)(第一四四八号)  同外五件(瀬戸山三男紹介)(第一四四九  号)  戦傷病者のための単独法制定に関する請願(福  井順一紹介)(第一四五五号)  けい肺及びせき髄障害者保護に関する請願(  中村英男紹介)(第一四五七号)  秩父市に社会保険出張所設置請願荒舩清十  郎君紹介)(第一四五九号)  旅客自動車従業員組合労働争議規制に関する  請願山口六郎次紹介)(第一四七六号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 三月十八日  けい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護  法の一部改正に関する陳情書  (第四〇四号)  精神衛生対策強化に関する陳情書  (第四〇五号)  保育所予算増額に関する陳情書  (  第四〇六号)  同  (第四〇七号)  戦傷病者治療費全額国庫負担制度確立に関す  る陳情書(第四  〇八号)  せき髄損傷患者自宅療養費支給等に関する陳  情書  (第四  〇九号)  精神薄弱者対策確立に関する陳情書  (第四一〇号)  戦傷病者戦没者遺族等援護法の一部改正に関す  る陳情書  (第四五九号)  未帰還者の調査に関する陳情書  (第四六〇号)  国民健康保険事業財政措置強化に関する陳情  書(第四六一号)  社会福祉施設設置強化に関する陳情書  (第四六二号)  薬事法の一部改正に関する陳情書  (第四六三号)  同(第四六四号)  国民健康保険法の一部改正等に関する陳情書  (第四六五号)  環境衛生施設整備充実に関する陳情書  (第四六六号)  児童委員専任制に関する陳情書  (第四五七号)  じん肺法制定等に関する陳情書  (第四五八号)  非常災害時における救助対策基本法制定に関す  る陳情書  (第四七三号)  国立公園大会北海道開催に関する陳情書  (第五二二号)  都市におけるし尿処理対策確立に関する陳情  書(第五二三号)  国民健康保険事業強化措置等に関する陳情書  (第五二四号)  失業対策事業拡大等に関する陳情書  (第五二五号)  失業対策事業就労者夏期手当及び期末手当支  給の制度化に関する陳情書  (第五二六号)  社会保険医療費概算払制度の実施に関する陳情  書(第五二七号)  清掃施設国庫補助に関する陳情書  (第五二八号)  町村における環境衛生施設整備充実に関する  陳情書  (第五三五号)  国民健康保険法の一部改正等に関する陳情書  (第五四八号)  保健所医師定員確保等に関する陳情書  (第五四九号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案  (内閣提出第三号)  じん肺法案内閣提出第四号)  労働関係基本施策に関する件      ――――◇―――――
  2. 永山忠則

    永山委員長 これより会議を開きます。  内閣提出労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案及びじん肺法案の両案を一括議題とし、審査を進めます。  質疑の通告がありますので、これを許します。伊藤よし子君。
  3. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 じん肺法改正にあたりましては非常に関係方面関心や、患者の間に不安を巻き起こしておりまして、社会問題も含むような重大な法律であると思います。もう三月も半ば過ぎになりまして、今初めてこの法案審議が始まるわけでございますが、このじん肺法につきましては審議会や何かでも労使の意見も完全にまだ一致していないままにこの法案提出されたようでございまして、この短い時間の間には十分な各方面の、大衆意見なんかも反映されないと思うのでございます。たとえば愛知県なんかにおきましても、こういうじん肺の出る関係地方では、各地方議会におきまして議決などをしておりまして、これは一つの例でございますが、陶器の出ます瀬戸市の議会など、こういうような市議会で、これは二月の十六日でございますが、市議会意見をまとめて議決をしたというのが私どものところへ出ております。これははかにも同じようなことが、常滑市やあるいは他の県にもあるようでございますので、参考のため、私はこれを読んでみたいと思います。「じん肺法制定ならびに労働者災害補償保険法改正に関する要望について」愛知瀬戸市の議会でございますが、その「主旨」といたしまして「じん肺法制定ならびに、これに伴う労働者災害保険法改正に当り、つぎの諸点について、ぜひともご考慮たまわりたい。(1)粉じん作業者に対して、年一回を原則とするじん肺健康診断規定し、患者早期発見をはかるほか、予防措置についても、具体的な規定を設けられたいこと。(2)じん療養者に対しては、その期間中、休業補償として賃金の一〇〇パーセントを支給するとともに、賃金スライドが簡単にしかも確実にできるように、措置されたいこと。(3)療養費については、自宅療養の場合にも、全額を支給するようにされたいこと。(4)遺族給付については、療養期間の長短にかかわらず、賃金の一、〇〇〇日分を支給するようにされたいこと。(5)現に、けい肺特別保護法および、同臨時措置法の適用をうけている者の経過措置については、補償条件補償率が引下げにならないよう、適切な取扱いを講じられたいこと。」そういうようなことを議決いたしまして私どものところへ陳情がきているわけでございます。このように各地方に非常に重大な関心が高まり、社会問題化しておる際でございますので、私はわずかな短い時間では十分なる審議が尽くされないと思います。この点につきましてせっかく恒久立法をお作りになるならば、いま少し慎重な審議を尽くしまして、期間をかけましておやりになる意思はないか。暫定的に、いま一年でも暫定法を延ばしておきまして、恒久立法をおやりになるような意思はないか、最初にそれを伺っておきたいと思います。
  4. 松野頼三

    松野国務大臣 今回のじん肺法は、昨年のときに審議会を開いて一年以内に法案を出せというお約束で、政府はその通り実施いたしまして、この提案をいたしましたのは昨年の十二月の二十九日だと記憶します。約九十日の予定をもって急いで成案を得て提案をいたしたわけでありますので、三月三十一日で切れるという重要な時期もございますので、政府としては慎重な態度をとり、しかも迅速に成案を得るようにいたしたわけでございます。これをさらに一年延ばすということは非常に不可能なことである。なお今回は新たにけい肺からじん肺に変わっております。同時に労災保険の方は新しく重要な病気がみな入っております。そうすると一年かりに延ばしたというならば、新しく今回入る他の重症患者は全然入れなくなるという問題も出て参ります。なおけい肺からじん肺に広げておるところもございます。しかも三月三十一日という期限がついておりますので、この三つの点から、政府としては絶対延ばすことは無理だ、その意味提案をしておりますので、なるべく迅速に御審議を願いたいと心からお願いするわけであります。
  5. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 ただいま労働大臣のお言葉の中に、急いでという言葉がございましたが、非常に気の毒なじん肺患者に対して、非常に重大な関心の的でございますし、ただいま申しますような社会問題化する点もございますので、よく関係地方大衆意向ども反映するような機関、たとえば公聴会なんかもお開きになって十分審議を尽くす意味におきまして、なお一年くらいの期間をお待ちになって慎重な審議をお尽くしになる必要があるのじゃないか。わずかな短い時間では十分でないと考えるわけであります。  それにつきましては逐次これから申し述べたいと存じますが、今回政府が御提出になりましたじん肺法案労災法の一部を改正する法案につきまして、これはじん肺法の方で健康管理予防をなさいまして、それから補償の部分を労災法の一部改正という形で長期傷病者に対する補償を行なおうとしておられるのであります。申し上げるまでもなく、じん肺予防が非常に困難な上に、病状が慢性的に重くなる進行性疾病でございますし、また現在医学的にも根治療法がなく、死に至るまで進展するという特殊性を持った職業病でございます。このことは、一九三四年のILOの総会でもすでに放射線障害や、昨年わが国でもようやく問題になって参りましたベンゾール中毒などと同様に、けい肺職業病として取り上げられておりまして、労働者職業病補償に関する条約として採択されていることからでも明らかでございます。今回政府じん肺法案が単にけい肺のみではなく、石綿肺アルミニウム肺等、広くじん肺一般保護対象とされたことについては大へんけっこうと思いますが、しかしじん肺の多く発生いたします鉱山や炭鉱、窯業等産業は、日本の産業経済上また国民生活の面に必要欠くべからざる産業でございまして、このような産業に働く人は今日防塵マスクなどをしまして、一定予防措置を講じましても、なおかつじん肺の発生を防ぐことは非常に困難でございます。完全な予防措置をとれば労働力が著しく阻害されます。ですから予防ということが非常に困難でございます。しかもだれかがこのような粉塵を浴びて、石炭や鉱石を掘り出し、れんがを作ったり茶わんを作らなければなりません。こうした社会必要性から生まれてくるような非惨なじん肺病に対しまして、現行の措置法改正してじん肺法をお出しになるという御趣旨は私も大へんけっこうだと思うのでございますが、せっかく恒久立法として御提出になるとしたら、ほんとうに慎重な審議をされまして、そして関係地方関係労働者意向どもよく取り入れまして、いま一歩進めて総合的、抜本的な職業病全般に対する予防健康管理補償、一括しました単独立法として御提出になるべきではないかと考えますが、いま一度この点について大臣のお考えを伺いたいと思います。
  6. 松野頼三

    松野国務大臣 ただいまのお話もありましたように、けい肺だけが職業病だと限定する時勢はもう過ぎて、産業病的な観点から、産業人保護するという方に前進しませんと、今後においてベンゾール中毒にはベンゾール中毒単独法を作らなければならない、潜水病には潜水病単独立法を作らなければならないということでは、やはり広い意味において安全性がない、また産業に働く者にとっては安定性がないという意味で、こういうものはすべて入れるのだという大きな方針を示すことが、産業人に対する一つの非常に大きな功績じゃなかろうか。今まではけい肺だけで済んだかもしれません。今回はいろいろな病気、いわゆる重度産業災害がみな入るので、もしかりにこの法案が三月三十一日に通りませんと、その方たちは絶対に入れないのだといえば非常に不幸な事態を招くのじゃなかろうか、けい肺だけについて議論するよりも、産業病という広い意味から議論しませんと、けい肺だけは臨時立法があったからいいが、ほかのものにはないから、そうなるとない方が非常にお気の毒な立場をとる、これは将来の産業のために不安定だ。今回のものはアルミニウム肺も入っております。放射線も入っております。総合的な、いわゆる産業的な重度災害を今回は含めたもので、これは労災保険改正の方に入っております。従って今回はけい肺にはじん肺というワクを広げ、労災保険の方にはあらゆる重度産業人補償するという新しいワクを設けております。従ってその意味では、一般労働者については非常に大きな幸福を目の前にもたらす法律であります。従って私たちも慎重にやりまして、しかも時間的には迅速な作業をいたしまして今回出したわけで、政府としては数年以来の議会におきましても議論の多いところでありますので、審議会を作り、その答申を得て、時間的には非常に忙しい中におきましても、四月という目標をきめまして迅速に事務処理をいたしたわけであります。政府としては慎重審議の結果であります。提案はどうしても十二月中にいたさなければ議会に御迷惑をかけますので、十二月中にこの法案だけはほかの法案よりも急いで、迅速に出したのであります。
  7. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 労災法の方では入っているとおっしゃいますけれども、今の大臣のお言葉で、私がしろうとでよくわからないのかもしれませんが、今度のじん肺法の方ではじん肺だけでありまして、放射線ベンゾールその他職業病全体のものが入っていないように考えます。その点と、いま一つ私が考えますのは、元来労災法というものは偶発的な事故中心として作られている点から考えましても、ただいま申しますような、あるいは大臣がおっしゃるような放射線その他ベンゾールども入ったような職業病というもの、産業病とおっしゃいましたか、そういうものとただいま申しますような偶発的な事故による災害も同一な範疇に入れて同一な扱いをするということは、職業病に対する企業主責任と国家の補償という特殊な観念をむしろ弱めることになりはしないかと思うわけでございます。そういう点についていま一度お伺いしたいと思います。
  8. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 ただいま御質問のございました職業病予防対策の問題でございますが、職業病につきましては、確かに従来のけい肺のほかに今回新たにじん肺というふうに対象も拡大した、そのほかに放射線障害とかあるいはベンゾール中毒の問題であるとか、いろいろな職業病があるわけでございます。この職業病につきましては、ただいま先生も御指摘になりましたように、予防をいかに完全にするかということが最も重要なことでございますが、その当該職業病についての予防方法が、その疾病ごとに個別的に内容が異なっているわけでございます。従いまして私ども方針といたしましては、当該の個別々々の職業病特殊性に応じた予防方法を講じて参る、こういう基本的な方針をとっておるわけでございまして、昨年の七月一日から電離放射線障害につきましては、それについての単独予防規則制定いたしまして、これはすでに施行されておるわけでございます。今回またさらにベンゼン中毒につきましては、御承知のように今年の一月からベンゼンのりの製造なり販売を禁止する省令がすでに施行になっておるわけでございます。今回新たにこのけい肺対象をさらに拡大いたしまして、じん肺全般についての予防をいかに講じていくかということについての単独法案を、ただいま提案いたしまして御審議をいただいておるわけでございます。さらに引き続きまして、このベンゼン等有機溶剤による中毒をいかに防止していくかという問題、さらには高気圧作業による障害をいかにして予防していくかという問題につきましても、それぞれ個別の規則を設けるべく、現在中央労働基準審議会に諮問中でございまして、それぞれの専門部会においてただいま御検討を願っておる段階でございます。  以上申し上げましたように、職業病につきましては、それぞれの職業病特殊性に応じた具体的な予防方法を研究して、逐次これを規則にして公布して参りたい、こういう基本的な方針に立っておるわけでございます。
  9. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 そういう職業病全体の対策をお立ていただくと同時に、ただいま私が申し上げましたように、補償の方は労災法で行なわれるわけでございますが、労災法というものは、ただいまも申しましたように偶発的な事故中心として行なわれるものでございますので、職業病に対する一貫した補償を行なうべきだと考えますが、その点についてお伺いしたいと思います。
  10. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 ただいま申しましたように、職業病については、その予防の問題と、すでにその疾病にかかった場合にその補償をどうするかという二つの問題があるわけでございますが、予防につきましては、ただいま申しましたように、それぞれの疾病によってその予防方法が異なってくる。従ってその特殊性に応じた個別的な予防方法を逐次規則あるいは法律によって制定して参りたい、こういうふうにお答え申し上げたのでございますが、補償の問題になりますると、この問題はまた別でございまして、補償については、それぞれの当該疾病によってどうするかという問題は、それほど重要な問題ではないわけでございます。従来も、この労災補償保険法におきましても、職業病あるいは産業災害、いわゆる偶発的事故によって発生する災害も含めて、両者を含めて労災補償保険法によって補償を実施して参ったわけでございます。そこで、今回のじん肺法案あるいは労災補償保険法改正法律案を御審議願いましたけい肺審議会あるいは労災補償審議会中央労働基準審議会等におきましても、この点は一年有半にわたって各方面から慎重な検討を加えたのでございますが、その結論といたしまして、予防につきましてはじん肺法という単独法案でこれを措置する、ただし補償につきましては、先ほど大臣からお答え申し上げましたように、ただにじん肺だけではなしに、あるいは放射線障害であるとか、あるいは頭部障害であるとか、せき損患者あるいはけい肺患者と同様に、非常に治癒の困難な病気がたくさんあるわけでございます。従いまして今回の根本的な改正を考える場合には、従来のけい肺患者あるいはせき損患者に限定することなく、ほとんど同じような非常に治癒が困難で長期療養を必要とする疾病に対しましては、同じような考え方によって長期補償する必要がある、こういう考え方に立って、それは一括して労災補償保険法の中で措置することが適当である、こういう結論が出ましたので、その線に沿って今回の改正法律案提出いたした次第でございます。
  11. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 ただいまのお話の中でも私はまだわからないのでございますが、こういうような不治の傷病の発生する責任の所在でございます。今回の改正によりますと、業務上の傷病に関する使用者責任がどうも不明確で、あいまいでございまして、長期傷病者に対して打ち切り補償を支払ったものとみなされて、解雇制限の義務を解除されておるわけでございますが、この点は大へん重要な点だと思います。長期傷病者の家族は、解雇によって今まで受けておりました社宅から追われましたり、あるいは今まで受けていた各種厚生施設などの利用もできなくなるわけでございまして、この点は一定長期療養期間中は解雇制限すべきものと考えますけれども、その点についてもう一度お尋ねいたします。
  12. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 現在の労働基準法におきましては、第十九条におきまして使用者は、労働者業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間は解雇してはならないという規定が設けられてございまして、そのただし書きにおきまして、ただし使用者が第八十一条の、規定によって打ち切り補償を支払う場合はこの限りでないということで、第十九条第一項の解雇制限規定から除外される、こういう建前をとっておるわけでございます。今回の改正法案におきまして、御承知のように長期傷病者補償、いわゆる年金制度による補償が講ぜられておるわけでありますが、この長期補償は、その実態から見ましても、従来打ち切り補償の場合は、御承知のように分割支給の場合は六年間に限定されておったわけでございますが、けい肺とかあるいはせき損というような長期療養を要するものにつきましては、六年間の補償では十分ではない。従ってこういうような長期療養を要する疾病につきましては、その療養を必要とする期間はすべてこれを補償していこうという考え方が、今回の長期傷病者補償考え方でございます。従って、この長期傷病者補償制度を採用すれば、従来六年間に限定されておった補償よりも、はるかに広範で手厚い補償がなされるわけでございますので、その点におきまして、その実態から見ましても、第十九条のただし書き打ち切り補償以上の補償がなされるわけでございますので、これは打ち切り補償とみなすということで、十分これは考え方としてはつじつまが合う、こういう考え方に立ってこの措置を講じたわけでございます。
  13. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 つじつまは確かに合うか知りませんけれども現実の問題といたしまして、ただいま私が申しましたように、八十一条によって打ち切り補償が行なわれて事業主責任が解除されるわけでございます。そういたしますと、社宅などにおった人も出なければならなくなるわけでございますので、長期療養を見るという観念は大へんけっこうなんでございますが、現実の問題といたしまして、家などを外で探さなければなりませんし、いろいろ受けておりました各種厚生施設ども使えなくなるわけなんで、この点はもう少し解雇制限するように私はすべきだと考えるわけでございまして、こういう点ももっと検討していただきたいと思うのです。  次の問題に移りますが、先ほど、補償の問題はそれほどでもない、予防が第一だというようなことをおっしゃいましたけれども患者にとりましては、やはり一番切実な問題は補償の問題であると私は思うわけでございます。今回の長期給付の基礎になります平均賃金の算定の方法でございますけれども、これは御存じのように、労働基準法に定める休業に至る最終三カ月の平均賃金の二百四十日分というふうになっているようでございます。この場合に、じん肺なんかによりまして休養をしなければならなくなって療養を必要とするような場合には、すでに症状も進行しておりまして、いわゆるよろけなども出ておりまして、労働能力が非常に低くなって、そのころには稼働日数も少なく、従って毎月の収入も少なくなっております。たとえば、場所によっては、今まで採掘夫であった人があるいは小使になるというようなことで、その長期療養になる前の三カ月の平均賃金というのは、最初三万円くらいもらった人が、一万円とか一万二、三千円というような状態になる。職場などを転換いたしましてからその最終の三カ月の平均賃金という算定の仕方は、じん肺の方などには非常に気の毒なことだと考えるわけでございますが、この点は諸外国なんかの例をとってみましても、業務上の災害あるいは長期傷病者に対する補償は、多いところでは一〇〇%になっておるようでございまして、少なくとも八〇%というのが通例でございます。また今回の政府案は、じん肺の方は第一種と第二種とに分けて、入院と自宅療養との給付を差別しておられます。御存じのように、じん肺患者には特別に牛乳とか卵その他の栄養物の補給が、医学的に言っても一般の病気の人より以上に必要とされております点から考えまして、一種、二種の区別なく、最低八〇%くらいの給付はすべきだと考えるのでございますが、この点につきましての政府のお考えを伺いたいと思います。
  14. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 最初に御質問のございました平均賃金の問題でございますが、これにつきましては、確かにじん肺患者のように、ある程度の症状の段階にきまして職場転換が行なわれる、そのためにその受け取りました賃金額が相当低くなった。その事由の発生した前三カ月間の平均賃金で算定した場合に、その労働者にとって補償額が不当に低くなる。こういった問題は確かに予想されるのでございます。そこで私どもは、この法の施行に当たりまして、そういったような具体的な事例が発生しました場合には、この基準法第十二条に平均賃金の定め方に対する特例の規定が設けられてございまして、第一項ないし第六項によって算定し得ない場合の平均賃金は、労働に関する主務大臣の定めるところによる、という規定があるわけでございます。従いまして、私どもは具体的なケースについて、そのような労働者にとって著しく不当な平均賃金結論が出るというようなことが予想される場合につきましては、この第十二条の第八項の規定の運用によってそのような不当なことのないように対処して参りたい、こういうふうに考えておるわけでございます。  なお、第二番の御質問の傷害補償費の問題でございますが、これはただいまも御指摘がございましたように、入院療養の場合と通院療養の場合と、その補償額を分けて考えている、それはどういう考え方に立ってのことであるかというお尋ねのようであります。今度の長期補償の制度におきましては、とにかく療養を必要とする期間は終始これを見ていくという基本的な考え方に立っておるわけでございます。そうして、その実態を見ますと、病院に入院しないで自宅で療養しながら必要に応じて療養を受ける、いわゆる通院療養の場合と、そうではなくて入院を必要とする患者実態との間には相当の隔たりがあるわけでございます。従来の平均的な数字でございますが、これを申し上げてみますと、じん肺せき損その他を含めまして長期療養する場合に、通院療養費としてどの程度年額かかっておるかと申しますと、平均いたしまして三万二千円でございます。これは月平均にいたしますと三千円に満たない非常な少額になっておるわけでございます。これに反しまして、入院の療養を受けている人の入院に要する額はどの程度かと申しますと、これも平均で申し上げますと、年額で二十四万四千円、相当巨額の療養費を必要としておるわけでございます。このように実態が異なっておりますので、その実態の上に立って両者を分けて考えていくことが適当であろうというふうに私どもは考えたわけでございます。従いまして、通院の療養者の場合は医療費が非常に少額でございますので、その大半は生活の保障に重点が置かれているわけでございます。従って、そういう人につきまして平均賃金の二百四十日分を支給する。これに対しまして、入院療養を必要とする方は、ただいま申し上げましたように二十四万四千円というような非常に高い金が必要でございますので、これは全額労災補償保険の方で見るようにいたし、そのほかに生活費的な考え方といたしまして平均賃金の百八十八日分を見る、こういう考え方の方が実態に即した適当な考え方であろうということで、こういう考え方をとったわけでございます。
  15. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 最初の問題についてもそういうような実例がおありになるかどうかという点、それから最後の一種、二種との関係でございますが、私ども政府のそういう算定の基礎はどうもおかしい、実情に沿っていないように思うわけでございますが、その点についてはあとでほかの委員からも御追及があると思いますので、それだけ申し上げて次の問題に移りたいと思います。  次に、厚生年金保険法の傷害年金との関係についてでございますけれども、今回の政府案では、長期補償を受ける労働者が傷害年金または廃疾年金を併給される場合は、国及び使用者の負担による部分として傷害年金の五七・五%、廃疾年金の七〇%に相当する額を減額するということになっておるようでございます。この点について、本来厚生年金保険に加入していたものは、私は当然支払いを受くるべき権利があると思うのでありまして、これを減額するということは、私どもにとってはどうしても納得できません。まして、もし全額支給いたしましても、平均して二千円程度の非常に少額なものでございますので、先ほども申しましたような状態における平均賃金の六〇%にも満たないような長期療養給付者にとりまして、せっかくの厚生年金が減額されるというようなことは、私は忍びがたいところだと思うのでございますが、この点についての政府の御見解をお伺いしたいと思います。
  16. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 御承知のように、厚生年金保険法の規定によります傷害年金につきましては、業務上と業務外と二つを含めてその支給の対象としておるわけでございます。従いまして、その業務上の疾病による傷害年金につきましては、労災補償保険法の面とダブった面があるわけでございます。従いまして、従来もこの第一棟傷害補償費の支給につきましては、厚生年金法との調整の規定が現行法のもとにおいてもあるわけでございます。ただ従来この打ち切り補償費として支給されておりました分につきましては、これは年金とは別個の性質のものでございますので、調整の規定がなくて重複して支給されておったわけでございますが、今回この打ち切り補償費の制度にかえまして、年金制度としての長期傷病者補償制度が設けられることになりましたので、両者同じように年金の性質を持つことになったわけでございます。といたしますと、厚生年金の場合も労災補償保険の場合も、同一の事由によって発生した同一の障害につきまして、同一の使用者あるいは国から二重に補償費が支払われるということになるわけでございます。従いましてこれは完全なる二重給付と申しますか、ダブった支給になりますので、政府使用者が負担した分だけは差し引きまして、労働者の支払った分につきましてはもちろんこれは併給をする、こういう考え方をとったわけでございます。
  17. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 その点の御説明についても、私は法的なことはあまりよくわかりませんが、現実の問題としてただいま申しますように、非常にわずかな給付の中でまた引かれるということになりましたら、手取りはほんとうにわずかになってしまいまして、問題にならなくなるわけでございますので、もう少しこの点も研究して、実際患者にとってみじめな状態がないようにまだまだ私は検討していかなければならぬ問題だと考えておる次第でございます。こういう点についてもまだ問題が非常に残っていると考えるわけでございまして、また同僚の方からも御質問がその点にあると思いますので、一応そう申し上げておくだけにいたしまして次に移りたいと思います。  次に、今回の政府案で一番私どもが不審にたえないのは遺族給付についてでございますが、政府案によりますと、一年から六年までの間に段階をつけて年々遺族給付が逓減することになっております。一家のおもなる働き手がいつ失われましても、遺族にとっての打撃というものは同じことでございまして、むしろ長く病んでおればおるだけに借金なんかもふえたり、家族の生活も現実に苦しくなってきておるはずでございます。政府がこのように遺族給付を逓減されていった根拠がどこにございますか。また遺族の生活の再建のためにはいつ死亡しても——現在の労災法では業務上の理由で死亡した場合には一時金として千日分の遺族補償金を支給するということになっておりますが、そういう点から考えましても、療養期間の長い短いで減額される趣旨のものではないと考えるわけでございます。この遺族給付の逓減されていった根拠がどこにあるのか、その点を伺いたいと思います。
  18. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 今回の長期傷病者補償制度考え方は、従来の打ち切り補償制度との関連において考え出された制度でございます。従来の打ち切り補償制度の考え方は、御承知のように三年間療養をしてもなおらない場合において、使用者は千二百日分の平均官金を支払うことによってそれ以後の療養あるいは休業、遺族補償、そういった全般的な補償責任を免れるという考え方に立っておるわけでございます。従って今回は従来の打ち切り補償にかえて長期の年金による補償制度を考えたわけでございますので、そういった考え方に純粋に立つ限りにおきましては、この遺族補償の問題も生じてこないわけでございます。しかしながら、とにかく打ち切り補償制度の中には、一切の補償の中に遺族補償の分も葬祭料も含んでおるんだ、こういう考え方で従来の打ち切り補償制度があったわけでございますので、それを全部なくしてしまうということはどうであろうかというような観点に立ちまして、従来の打ち切り補償は御承知のように分割支給の場合は六年以内ということにされておったわけでございますので、その六年以内については遺族補償も考えていこう、こういう考え方に立っておるわけでございます。  しからばその遺族補償を各年ごとに逓減したのはどういう考え方かという御質問でございますが、これは御承知のように六年間の分割支給、これは千二百日分の一括支給でございます。従って本人が一年間生活しておればそれだけ千二百日分から使う金の量が滅っていくわけでございますので、一年、二年、三年とその年数が経過するにつれて、その残存の額が減っていくのは、これは当然のわけでございます。従ってそういう考え方の上に立って、この遺族補償につきましては逐年逓減する、こういう考え方をとったわけでございます。
  19. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 ただいまの御説明で、遺族給付という場合に逓減されていくという考え方は私にはどうしても納得できませんが、次に移りたいと思います。  それからもう一つ伺いたいのは、労働基準法または労働者災害補償保険法のみの補償で終わったけい肺せき損患者、その他今回の改正法の保護を受けることのできない、また自営の石屋さんなどが非常に私ども地方、あるいはよそでもあると思いますが、石屋さんの中にもたくさんけい肺の方がございます。こういう人たち政府はどういうふうにして保護措置をとっていくか、そういう点について何かお考えになっている点がございましたら伺っておきたいと思います。
  20. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 従来の労働基準法及び労働者災害補償保険法によって、けい肺患者なりせき損患者というものが補償を受けておったわけでございます。ところが基準法並びに労働者災害補償保険法療養期間をもってしてはとうてい病気治癒しない、さらにもっと長期療養を必要とするという事態が起きてきまして、四年前にこのけい肺せき損に対する特別保護法が制定されたわけでございます。その特別保護法の制定の際に、従来もそのときにすでに基準法なり労働者災害補償保険法の支給を終わりまして、その関係におきましては完全に、俗に言いますと縁が切れた、そういった人々の措置をどうするかという問題が特別保護法の制定の際に非常にやかましく論議されたわけでございますが、法律の一般原則の考え方から申しまして、いわゆるそういった場合に法律が施行されてからの事態に対して適用されるのが一般の原則論であることは言うまでもないわけでございまして、その点は非常に議論のあった点でございますが、結論といたしましては、この法律の施行後の事態に対してこの法律を適用していくという考え方が通りまして、それ以前に縁が切れておった、そういった人たちは、これはまことに遺憾ではございますけれども、こういった特別保護法の適用は受けない。従いましてそういった方々につきましては生活保護なり、あるいは一般の社会保障という面で保障を考えていくべきである、こういう考え方に立って現在まで臨時措置法につきましても同じような考え方が踏襲されてきたわけでございます。今回のこの改正法案は、そのようないきさつで制定、施行されて参りました特別保護法なり、あるいは臨時措置法の適用を受けている人々の療養期間がすでにもう切れてくる、そういう事態に対して根本的な対策を考えるべきであるということから、この改正法案が考え出されたわけでございますので、私どもはその従来の考え方の上に立って、すでに数年前に縁が切れておるというような方々につきましては、今回の改正法案においてもこれを適用外とするという考え方をとっておるわけでございます。
  21. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 ただいまの縁の切れた人という人は、全国に何人くらいございますか。そういうお調べはございませんか。
  22. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 ただいま手元に資料がございませんが、一つ後刻調査いたしまして、ありましたら御報告いたします。
  23. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 それからいま一つお尋ねいたしましたが、自営の石屋さん等に対しまして、けい肺の人がたくさんあると思います。こういう人は、これの法律とは違うわけですけれども、何らかの救済の措置を、今はできないでも、お考えになっておるかどうか。そういう人をどういうようにして救い上げていくかという点につきまして政府はお考えになっておりますか。
  24. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 これは労災補償保険法の一般的な問題でありますが、法律の建前といたしましては雇用されている労働者に対する補償の制度でございますから、そういった一人親方というものは、いわば入りにくい性格を持っておるわけでございますが、いわゆる一人親方というものは一方において使用者であると同時に、他面を見るといわゆる労働者である、こういう二重の性格を持っておりますので、そういったような必要がある場合におきましては、そういう一人親方が集まりまして組合を作りまして、そうしてその組合を使用者という形式にしまして、任意加入の形式によって労災補償保険に入る、こういう形式が現在においても実行されておるわけでございますから、そういった場合は、今後におきましても組合を作って、組合を使用者として労災補償保険に任意加入する、こういうことが可能であるわけでございます。
  25. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 それから年金のスライド制のことでございますが、現在労働基準法の七十六条によりまして、休業補償費の改訂ということで、同一事業場の同種労働者、同一条件のもとにおいてスライド制が設けられているわけでございます。このスライド制の計算の基礎でございますが、毎月の勤労統計によっておられると思いますが、その勤労統計自体の計算の基礎でございます。それをちょっと、私はよくわかりませんので、どういうふうな計算の仕方をしておられるか伺いたいと思います。現在労基法で、二〇%ですか一般の労働者賃金が上がった場合に上げるということになっておりますけれども、それの計算をされるのが毎月の勤労統計によってでございますね。その勤労統計はどういうふうなお調べの仕方で出ておりますか。それからいま一つ、昭和三十年ごろから実際どのように上がってきておりますか、そういう点もちょっとあわせてお伺いしたいと思います。
  26. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 毎月勤労統計につきましては、これは全国のサンプル調査でございます。原則といたしましては三十人以上の労働者を雇用しておる事業場につきまして、全国の各産業別に適当の母集団を作りまして、それについてのサンプリングの調査をいたしまして、その結論でこの全産業労働者当たりの賃金給与といったような重要な労働の指標となるような統計が毎月出されておるわけでございます。これを基礎にいたしまして、全産業労働者一人当たりの平均給与額が二〇%上がったりあるいは下がったという場合に、この平均賃金をスライドする、こういう考え方が採用されておるわけでございます。なおただいま後段御質問のございました三十年以降において実際にどういうようなスライドが行なわれておるかという点につきましては、ただいまお答えいたします。
  27. 村上茂利

    ○村上説明員 ただいまございます毎月勤労統計からの調査によりますと、ちょっとこれはおわかりにくいかと思いますが、三十四年を一〇〇%といたしまして、過去に振り返りましてどうなっておったかという数字を申し上げますと、三十三年は一〇六、三十二年は一〇六・三、三十一年は一一一・三、三十年は一一八・三、二十九年は一二三・二というふうな指数が出ております。これはあまりこまかいのでおわかりにくいかと思いますが、大づかみに申しますと、昭和三十年当時と現在とを比較いたしますと約二五%に近い上昇を見ております。
  28. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 そういたしますと、四年ぐらいかかって二五%は賃金が上がっているわけでございますね。一般の賃金がそういう四年かかって上がりましても平均賃金の六〇%しかもらえなくて、それを四年間なり——今後下がるかどうかわかりませんが、四年間も待っておれないと思うのです。物価がその間も上がっているわけでございますので、こういう二〇%以上上がったら上げるというようなのでは、長期療養者にとっては非常に響いてくると思うのです。せめて私は、一〇%ぐらい上がりましたら上げていくというような方に小刻みこしていただかないと困ると思うのですが、この点について政府の見解をもう一ぺんお伺いしておきたいと思います。
  29. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 スライド制度を採用する場合におきまして、平均賃金の上がり下がりの刻みが二〇%を基準とするか一〇%を基準とするかという、これは技術的な方法の問題でございますが、これはあまりにもその上げ下げの基準を小刻みにいたしますと、そのつどその手続が非常に煩瑣になる。また他面において制度として安定性という点から見てもいろいろ問題があるわけでございます。そのようないろいろな点を考慮した結果、現在の基準法におきましても二〇%程度の刻みが妥当であろうという考え方に立って現行法のスライド制が採用されておるわけでございまして、私どもは今の日本の経済、物価の情勢から見まして、やはり基準法の二〇%を基準としてスライドを考えていくという方がより現実的であろう、制度の安定性という面から見ても妥当であろうという考え方に立っておるわけでございます。
  30. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 制度の安定性という点ではなくして、何もかも全く患者自体に、物価が上がって参りますとずぐ響いて参ることで、特に給与がわずかなんですから、病気をしておる人には大へんこういう点も現実の問題として響いて参りますので、制度の方を、大へんめんどうですけれども、いま少し小刻みにやっていく必要があるのではないかと考えておるわけでございますが、そういう点についてもまだ私はいろんな問題点があると思います。  最後に、御質問と申しますより、要望のようになるわけでございますが、けい肺臨時措置法改正にあたりましては、これが改正されることになりましてから、全国の各地からけい肺患者せき損患者より、私どもには毎日のように非常に深刻な陳情が殺到しております。最初にもちょっと触れましたが、少なくとも、現行の臨時措置法よりも今回の改正によってほんとうに患者が喜ぶような改正が行なわれればけっこうでございますが、長期療養ができるという点におきましては、その観念は大へんけっこうでございますが、現実的に打ち切り補償がなくなりますと、現在病気の人たちは、打ち切り補償がもらえることをあてにして、借金などいろいろしております人がたくさんございます。そういう人たちにとりまして、打ち切り補償がなくなって、生活保護程度のような、平均賃金の六〇%程度の給与でもって死ぬまでいるということは、めんどうを見てもらえるのはありがたいわけなんでございますが、打ち切り補償がなくなるという点で非常に大きな打撃を受けるわけでございましてこの点は、少なくとも現行のけい肺患者に与えられているよりも、よりよい改正になりますように、こういう点でも恒久立法の場合には多くのまだ検討をしなければならない問題があると私は考えるわけでございます。最初申し上げましたように、せっかくの恒久立法としてお出しになるならば、期間がこうだからとか、三月三十一日までに改正しなければならぬことになっているからということじゃなく、現実の問題といたしまして、もう少し慎重な審議をいたしまして、法律のことはよくわかりませんが、現行の措置法でいま一カ年延ばしてでも、もう少しあたたかい現実に即したような立法をやっていく必要があるのじゃないかと思います。この点についてもう一度大臣のお考えを伺いたいと思います。
  31. 松野頼三

    松野国務大臣 もちろん今回のこの法案は、新しい制度としていろいろの問題がございます。しかし要するに、これは非常に水準から申しますと療養者に長期の安定感を与えます。臨時措置法及び特別措置法というものは、御承知のごとく期限付でございまして、不安があった。そのために一つ早く恒久的なものを作れということはこの二、三年来の声でございます。従って一日も早く安定した法律を作ってその方たちを救いたい、そして現在法律から漏れている人たちも早く今回の改正で入れてあげたいという意味が深いものでありましてもしこれが通過しなかったならば、不幸な方々のことも考えなければならぬということで、安定しかも長期、これは大体世界の水準以上の法案だと私は思います。療養者の方に百八十八日の給付をして、そのほかに療養費を全部持つということは、私は世界の水準においても、非常に大きな前進だと思っておるわけであります。もちろんこの中におきましていろいろ御議論と御希望はございましょう。しかしこの法案を通すことは、大きな安定と将来における光明を見出すのだ、けい肺から今回のじん肺に変わり、労災においては非常に重度災害も入るということは大きな問題だと私は思います。ただいたずらにこの法案を急ぐわけじゃございません。そういう方々のことを考えれば、一日も早くこの法案を通して救ってあげたいという方の愛情も私は痛切に感じますので、内閣の問題、私の一身の問題は別として、そういう方を考えて、少なくとも私がやっております以上、私のおる間はぜひ光明を見たいという熱情を持っております。もちろん区々にわたりましては足らないじゃないかという御希望もございましょう。しかしそれよりも今回は基本を作ることが大事ではなかろうか。これはほとんど終身年金であります。こういう制度は日本の中で探すことは非常にむずかしいと私は思います。同時に世界でも誇り得る法律だと思います。従ってある場合には社会保障制度審議会でもいろいろ議論が出ました。このじん肺及び労災ばかりあまり早く、どちらかというと前進し過ぎはせぬかという意見さえも出たのであります。しかしそういうことは別として、いいことですから、これは産業に従事して、しかもそのからだが終身病気になられるという重度の方にとっては、今回のものは非常に安定した年金でありますから、私は非常にいい制度だ、誇り得るものだと思っております。もちろんこれが百パーセントで、間違いないとは申しませんけれども、制度と方向は私は断じて間違ってない、同時にこれを早くやることは、一日も早く国民のために光明を見出すことだと信じております。
  32. 伊藤よし子

    伊藤(よ)委員 ただいまおっしゃったように、方向は大へんけっこうだと思いますが、私は法律上の問題はしろうとでよくわかりません。しかし長期にわたる恒久立法をお作りになるならば、現在国民皆保険や皆年金の時代に入ってきているわけでございまして、先ほど申しましたように厚生年金等の関係とか、いろいろまだ問題点がございますので、暫定的に今の措置法をいま一カ年そのままで延ばしておいて、年金や皆保険の関係等も調整いたしまして、社会保障制度全体の問題なんかも調整して、大臣がただいまおっしゃったようなりっぱな、みんなが喜ぶような方向に向かっての、職業病全体のけい肺じん肺法などをお作りいただいた方が、もっとみんなが喜ぶのじゃないかと考える次第でございます。  またあと問題点を御質問する機会もあるかと思いますが、私の質問は一応この程度で終わりたいと思います。
  33. 大原亨

    ○大原委員 進行上ちょっと御質問いたしたいのですが、この立法は非常に画期的で、非常にたくさんの問題を含んでいて、しかも時間的に非常に切迫して審議しているわけです。伊藤委員の御質問にありましたように、ほんのちょっと質問しただけでもたくさんの論点があるわけです。しかし一部の情報によりますと、政府の局長かどなたか知りません、労働大臣かもしれませんが、労災病院やその他の関係に、社会党あるいは民社党がこの審議を妨害しているがごとき、そういう宣伝をなしておる人があるのです。そういう宣伝が流れておるのです。これは非常に大切な、歴史的な、しかも社会問題を含んだ立法ですから、私どもはよりよい立法をこいねがって審議を進めようと思っているわけです。そういうデマ宣伝が伝わるということはまことに遺憾ですけれども、そういうデマ宣伝を流している事実が労働省内にあるのですか。これは慎重審議する上においては非常に大切な問題ですから、一言だけ私は御質問しておきまして、逐次これから慎重審議をやります。もう三月も終わりごろになって、これは大切な問題です。政府のやるべきことを責任転嫁するような、あるいはよりよいこちらの意図というものを逆宣伝するということは、国会の審議に間接的に圧力を加えることになる、私は許せないと思うのですが、そういう事実があるかないか、一つお聞かせをいただきたい。
  34. 松野頼三

    松野国務大臣 そういうことは絶対にございません。私も、たびたびお会いしておりますその患者の方、あるいはいろいろなこの関係の人に私が申しますことは、政府は一生懸命やるから、与党及び野党の方に一生懸命あなた方も審議促進をお願い下さいと私は申しますけれども、私自身が社会党だとか民社党だとか、あるいは自民党だとか言ったことはございませんし、私の承知している範囲、私の局内、私の省内におきましてそういうことは毛頭ございません。それは非常に逆でございまして、私が自民党及び社会党、民社党すべての方にこの法案の促進をお願いしたいということは、私の気持として当然でございまして、そんなことは毛頭ございません。またそういう事実をもしお疑いならば、私はさらに私の方で調査をいたします。そういうことは毛頭ございません。
  35. 大原亨

    ○大原委員 そのことは、審議が三月末に相当迫っておりますけれども労働大臣あるいは局長の方で、そういうデマ宣伝があったらこれを打ち消すように、そうして関係者に対して十分お伝えいただき、そうしてそういう過程を通じまして、そういう関係者の意見が国会の審議に反映するように、これは当然国会の責任ですから、そういうことを要望しておきます。
  36. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 先ほどから局長ということが出ておりますので、ちょっと私から弁明させていただきます。私の見るところでございますが、私を含めまして、私の局に関する限りそのようなことは絶対にございません。
  37. 永山忠則

  38. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 今お話が出ておりますように、この法案は非常に重要な法案でありますので、私は十分に政府意向を伺いたいと思うわけでありますが、本日はもう大かたお昼になりかけておりますし、今ちょうどこの問題の審議の仕方についてお話が出ておりますので、その関係のことだけちょっと念のために伺いまして、あとに譲りたいと思います。もちろんこの法案の内容につきましては、私いろいろ勉強させてもらいましたけれども、私自身労働関係法案を直接審議しますのは、もうすでに大かた十年くらい遠ざかっておりますので、ずいぶんしろうとくさいお話もしようかと思いますけれども、どうか一つ十分お答えをいただきたいと思います。  今伊藤委員に対する御答弁の中で、最後に松野大臣はだいぶ演説をされましたが、臨時措置法を一年延期して慎重審議できるようにこの法案を考えたらどうかという質問に対しまして、一番最初まともに、非常にきちんとした答弁をされました。第一には、われわれとしてはすでに去年の末に提案をしてある。従って国会においては三カ月の期間があったはずだ、こういうふうに言われた。その言うところの内容は、政府の方は十分な審議の余裕を与えて提案したのだから、責任はないはずだ、従って議会の方に責任があるはずだ、私はこういうふうに受け取ったのでございますが、大臣そういうお考えでございますか。
  39. 松野頼三

    松野国務大臣 それはこの法案審議議会の要望の中に、本年中に審議会を開いて答申を得て、本年中に出せということがあった。本年というのは昨年の十二月三十一日までであります。その答申にこたえて私の方は十二月二十九日に出した、こういう意味を私は申し上げたので、その昨年中というのは、三十四年中に出せという答申の期限がございましたから、それに合わせて十二月二十九日に私の方は提案をいたした、そういう意味で、議会審議の問題を私は言っているわけではございません。
  40. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 従いまして、政府の方としてはすでに三カ月前に出してあるのだが、本日初めてこの衆議院において爼上に上ったような状態である。しかも先ほど来お話がありましたように、これは三月三十一日をもって事実上この保護措置を受けておる患者の直接の利害関係に影響する。私どもがもし慎重審議をしようとするならば、それこそその患者関係者から直接私どもは恨みを買わなければならぬ状態だ。そうでしょう、もしそのために法案が三月三十一日までに上がらなかったとするならば。従いまして今私どもは進退両難に陥っておるわけだ。これはほんとうに審議しなければならず、しようとするならば今言ったような形で、その利益を守ろうとしている人々からわれわれが一番大きな恨みを買う危険性をはっきり感じておる。これはどうも私どもは正直なところ、局長さん部長さんもそこらにおられますが、その辺はなかなか千軍万馬の頭のいいところでございますので、それこそ野党の足元をはっきりと見定めをつけての作戦ではあるまいか、こう思うのであります。そこで、あわせて伺いたいのですけれども、しかし大臣、事実問題としてきょうから始まった、そうして慎重審議をしたい、どうされますか。われわれはまだ二日や三日では質問は終わらぬ。参議院においてもそうだ。この状態になってどう思われますか。大臣ではなしに、それでは国務大臣としてお答えを願います。
  41. 松野頼三

    松野国務大臣 法案の内容は広範囲にわたっております。事の重要性は、やはりその療養にかかわる患者の方々及び今回の改正案によって入られるところの気の毒な方にかかる問題であります。従ってこれは問題も多く、広範囲であるから御審議を願いたい。同時に、患者の方のこともお互い考えて参りますと、なるべく審議を慎重に、しかも迅速に上げていただきたいというのが本心であります。私の方はいかなることでも審議には御協力いたします。こういうものはなかなか踏み切ることは容易じゃありません。しかし踏み切らなければいつまでも前進しないものではなかろうかというので、私もこの提案までには実は非常に苦労しました。しかしどうか一つ、今回はそういう両面で——期間の迫ったことは委員各位にまことに申しわけございません。私も議員の一人として、この状況で、時間的、物理的には非常に無理な状況だと思います。しかしこの法案の中に盛られた方の気持を察せられまして、何とか一つ御協力願いたい。これは国務大臣というよりも、一個人として、私も議席を置いた立場からいって、おっしゃるように時間的には今日から審議をしてもあと十日しかない。非常に無理なことはよくわかっております。しかしこの法案は何とか別格だと思って御審議を願いたいと思います。
  42. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 同じことをくどくど申し上げませんけれども、今同僚の大橋委員は、それは理事会の問題だと言っておられるが、それこそ今ここにお集まりの委員の諸君あるいは国務大臣としての松野さんを含めて、根本的に一つお考えを願いたいことは、委員会並びに本会議の運営については、与野党責任を持ってやろうという立場を本来とっておった。しかし、松野さん十分御承知のように、一昨々年の総選挙の後において、岸総理大臣は直接にこの問題を取り上げて、そうして国会運営の責任は多数党与党にあり、こういう立場を明確にされて、議長、副議長を与党が独占するという方法をとられた。そうでしょう。ところが御承知のような警職法騒動によって、なかなかそうもいかぬわいということができたものだから、とうとう本会議関係においては、仕方がないから与党、野党が議長、副議長を分け合おうというような状態になっておる。しかしながら各委員会におきましては、まだ御承知のように委員長を与党が独占されて、そうしてこの国会運営は与党が責任を持つという態勢をとられておる。従いまして、私は正直なことを言えば十年も前の話でありますから、イロハから勉強をし直していって、大きな本を持って歩いたりしてもう大かた二、三週間行き来しておりますけれども、いつになったら質問させてもらえるのか、いつになったら相談させてもらえるのか、さっぱりわからぬ状態であった。そうして今お話を聞くと、別の法案を四つぐらい上げなければならぬからというので、それに専念されてきたはずだ。そうしておいて、今お話が出たように、役所から直接流そうという、それほど悪らつな人はないと思いますけれども、事実上野党が協力せないがために、この法案審議ができなくて、そうして結果としては野党の非協力が、こういう要保護者に対して非常に大きな不幸をもたらせようとしておるのだという状態を出されつつあるわけです。私はほんとうの質問に入る前に、この国会運営という問題は基本的な問題でありますので、十分一つ労働大臣といいまするよりも、政府の一員として、岸内閣の一閣僚として私はお考え願いたいと思う。同時に、委員長並びに与党の理事の方々に対しましても、私は心から要望するわけであります。今言いましたように、建前としてはあくまでも、岸総裁のもとにおいては、国会の中の運営の責任はわが党が持つとはっきり言っておられるのでありますから、従って、私ども妨害したつもりは何もないのでありますけれども、協力しようにもしようがないというので、今の結果が出ておることをはっきり御承知願いたいと思います。そして、きょうでもそうでしょう。実際に開こうと思っても、成規の通り委員会は開けておりますか。与党が責任を持つどころではなしに、与党自身が全然協力してないじゃないですか。この状態を作っておいて、一週間や十日間で上げようなんてこの委員会に出て言う前に、岸総理に対して、内閣において言われ、同時に自由民主党の総会の中で言われて、こういう結果になっている責任を自民党の中においてはっきりすることの方が先決問題であろうと私は思う。それでなければ野党として協力のしようがないと思う。まず御所見を承りたいと思います。
  43. 松野頼三

    松野国務大臣 この法案の内容はいろいろ広範囲でございますが、先般の予算委員会における佐々木委員の議論を聞いておりますと、なかなか豊富な知識と——私は非常に敬服して聞いたわけでありますが、佐々木さんが真剣に取り組まれれば、私はおそらく相当なお知識もあるのではなかろうかと思います。要するに、社労委員会というのは、今まではとにかくこういう法案について非常に協力をいただいております。先般以来、両方から衝突するような大きな法案というよりも、やはり何か国民の生命及びその生活につながる問題でございますので、実はそう大きな衝突とか意見の反論よりも、ただみな九十じゃ足らぬ、八十八じゃ足らぬという議論はございましたけれども、大体協力はしていただいておるという意味においては、与党も野党もそう大きな隔たりはないのじゃなかろうか。ただ、要するに、最後は法案を順調に上げてもらおうという決心が与党にはございますので、党の方針にお従いになることはございましょうが、委員会としては非常に御協力を得ております。非常な難問もございました。一年四カ月ぶりの法案も実は上げていただいております。従って今回の法案も、出すのは初めてでございますが、このつながりは四年前からずっと、けい肺法ができた当時、私も議員として議員立法の中に加わった一人であります。あの当時から非常によく勉強が進んでおり、けい肺法という法律ができたわけです。それが今回じん肺に変わったので、知識はおそらく皆さんお持ちである。ただ、この新法についてどう踏み切るかだけの問題ではなかろうか、こう考えますので、どうか一つ、すべてのことを御承知の上でございましょうが、何とか御協力を願いたい、こういうことを切に私はお願いいたします。
  44. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 同じことでもう一つ伊藤さんの質問に対する松野さんのお答えについて、この臨時措置法をもう一年延ばして慎重審議したらどうかということのお答えの中に、今度提案の二つの法律に、じん肺法としては従来の対象になっておらなかったものまで含めた、つまり足らなかったものを含めた、含められた部分について、やはりそれは幸福をもたらすものであるから、そこのところを促進してもらいたい、さらにまた三つ目の問題として、労災法改正を出して、この中で類似傷病的なものも今度包含した、これまで措置のなかったものも含めて、新しい広い範囲の労働者に幸福をもたらすものだから、従って、そういうふうに慎重審議してやることはちょっと困るんだというお話がありまして、つまり臨時措置法を一年も延ばすという段階では、これらの人々は新法の恩典に浴しない、従ってやはり臨時措置法の一年延期によるという方法はよくないのだから、新法を通して下さい、こういうお話だったと思うのです。しかし、先ほど来松野さんがお話しになり、それから澁谷基準局長がお話しになっておるのは、われわれは去年の暮れまでに法律を出す義務を法律によって負っている。その義務を課しておるものは、御承知のような臨時措置法の十三条だと思うのです。臨時措置法の十三条は松野さんどう書いてありますか。
  45. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 臨時措置法の十三条には「政府は、けい肺及び外傷性せき髄障害にかかった労働者保護措置について根本的検討を加え、昭和三十四年十二月三十一日までに、特別保護法の改正に関する法律案を国会に提出しなければならない。」
  46. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 今朗読の通りでありまして、この臨時措置法が昨年の暮れまでに法律を出せといって義務づけておりますものは、けい肺並びに外傷性せき損にかかった労働者保護措置について根本的検討を加えた、そして法律を出せといっているのでありまして、今度じん肺により新しく恩典に浴しようとする従来のけい肺以外の類似傷病、このものを保護せよとはちっとも書いてない。それから労災法の類似傷病についても、そんなものを今保護せよとは書いてない。義務づけているものはあくまでもけい肺患者であり、せき損患者である。その特別法である。だから、このことはあとだってどうだってよい。どうですか。
  47. 松野頼三

    松野国務大臣 この規定に従いまして審議会を設けた。その審議会結論の大多数は、この際その範囲をけい肺及びせき損に限らず、産業における同種のものを一緒に含めろ、一番類似なものはアルミニウムじん肺に関するものであります。同時に、重度というせき損を考えるならば、同様に重度患者も一緒に救えというのが今日の審議会の大多数の空気であります。従って、その答申に従って出したわけで、もしもけい肺及びせき損ばかり出しましたならば、この審議会の答申はなかなか難航したであろう。同時に、今日の産業災害というものはそこまで前進したのだ。一番問題は、第一は類似のけい肺及びじん肺であります。二番目には、せき損に関するもので、同様な重度患者も一緒に審議せず、ただそれだけでよいという趣旨のものではなかろうと考えまして、より以上幸福をもたらすならば、この際より以上ワクを広げることが政府の親心として当然であって、けい肺及びせき損法律がありましたからこれに従っての命令でありまして、これ以外に出してはいけないという趣旨はおそらくなかったろうと思います。それは第一に、けい肺法案のときにせき損が加わりました。最初はけい肺の立法であった。それが審議会においてせき損も必要ではなかろうかということで、せき損というものはある程度趣旨が違っているにかかわらず、重度という意味で加わった。そういう意味で、けい肺及びせき損の特別立法及び母法から考えますと、やはり産業的に同種のものを入れることがいいではなかろうか。これは当然なことでなかろうかと思って、あわせて今回出したわけであります。
  48. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 松野さん、議論の焦点を避けてはならない。私はじん肺として従来のけい肺以外のものを加えることに異議を申し立てているのではない。それから、今のけい肺じん肺と類似の傷病あるいは障害に対して同じような保護を加えられようとすることを否定しておるのではない。今言っておりますのは、従来から懸案になっておったところの、けい肺せき損特別保護が義務づけられている法律である。従来の経過に従って、昨年の暮れまでに提案をすることを要請されておったものはこの二つの種類のものである。従って、この二つの種類のものについて十分な保護措置ができているかということを吟味してみると、先ほど伊藤委員が言われたように、いろいろな問題が残っておってまだ十分ではない。私もイロハからンまでやろうと思っておった。みんなろくなものはない。従って、こういうことでは困るから、いっそのことこの問題については臨時措置法を一年間延期して、そうして十分考えてほんとうの結論を出してもいいではないか、こういうふうにあなたに問われた。それに対してあなたは、問われたこととは違ったことを答えた。義務づけられているもののほかに、まだじん肺患者があったり、あるいは労災法によって類似の傷病が救済されたりする、こっちの方に、つまり従来対象になっておらなかったところの者たちに新しい福音をここに与えるものである、従ってこれは一年延期することはできないと言う。一年延期するのは臨時措置法であって、臨時措置法対象になっておるものはじん肺患者である。けい肺患者せき損患者、こっちの方を十分措置ができないから一年相談して十分な研究の結果を出したらいいじゃないかと問うておるのに対して、そのせき損けい肺患者のためでないところのじん肺や類似傷病労働者の福音のために今通してくれ、そういう措置は不可能だ、こういうふうなあなたの答弁になったわけだ。頭のいい松野さんですから、その理屈はわかるでしょう。ですから私はその筋はおかしいと思う。臨時措置法を一年間延期したくないというお感じはわかるけれども、私は今後論議を通じまして、やはりこれは工合が悪い、従って一年でも二年でもいいから臨時措置法を延ばして、そしてここはほんとうのものを考えて出してもらいたいという結論を私は持っておる。持っておりまするが、今お話のような筋になりますと、初めから問題をかわして答えておられることになるので困りますから、もう一度お答えを願いたい。
  49. 松野頼三

    松野国務大臣 頭のいい質問を受けて、問題をかわしたと言われれば、あるいはそういうふうな感じを受けられたかもしれません。ただ私がそういう答弁をしたのは、この法案を早く通したい一心で申し上げたのです。言葉があるいは横道にそれたかもしれませんが、要するにこの法案を早く通したいという一心からで、あるいは答弁が不十分だったかもしれません。実は先ほどの伊藤さんの御質問の中に、御議論しました問題点がほとんど網羅されております。同時に議論の多いところはおそらく伊藤さんの今の質問が全部じゃなかったかというくらい網羅されておると私は思います。一つ一つ私が答弁するよりも、要するに通したい一心で私は申し上げたのであって、おそらく言葉はいろいろありましょうけれども、おっしゃるようにそういうふうに極限されれば、あるいは佐々木さんの意見というものは心臓だけの議論としては正しい議論である。ただし私は心臓病だけれども心臓だけじゃなくて、からだ全部の健康体という意味で、あるいは心臓の病気のくせに胃の話をしたかもしれません。しかしこれは要するに全部を健康にしたいという一心ですから、悪意にとらずにどうぞ一つ審議を願いたいと思います。佐々木さんのおっしゃるように、針のように突いてこられれば私の答弁があるいはずれたかもしれません。とにかく私はからだをなおしたい一心なんですから、どうぞ悪意にとらずに御審議を願いたいと思います。
  50. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 もう昼なので、一点だけで、あとはまた昼からゆっくり始めたいと思います。  そうすると、今のお話によると臨時措置法を一年間延長して、慎重に従来の懸案のけい肺並びにせき損保護対策について考えろという伊藤さんのお話につきましては、今後の審議で明らかになって、そして明らかになった上で考える。しかし今のところは何とか通してもらいたいというふうに私は了解しておきたいと思います。従いまして伊藤さんの質問に対して、つまりじん肺法として新しく拡大されて予防措置を講ぜられる対象になる者並びに労災法の今度拡大されたところの類似傷病者か新しくこの法律によって恩典を浴するこのことと、先ほど言われた臨時措置法を一年延期して慎重審議しろということと全然話が違うのですから、その点を私は確認をしてもらいたいと思います。  それから先ほどの御答弁の中で、けい肺審議会の答申あるいはけい肺審議会の中における論議を十分やってもらって、そこのところを中心にして考えた、こういうふうに今の類似傷病を含めることについて、含めるという内容に補足してお話があったわけでありますが、この膨大な添付の参考書類によって見ますと、私は確かにけい肺審議会にまず問題を投げかけて、けい肺並びにせき損患者特別保護をするのはどうしたらよかろうか、三十四年の暮れまでに法案提出しなければならないがどうしたらよかろうかといって、イロハからまず問題を審議会に投げかけられて、そして害議会検討にゆだねられたらしい形跡を発見するわけであります。しかしながら労働大臣のそのような諮問に対して出てきておりますところのこのけい肺審議会の答申なるものを、初めからしまいまでずっと読んでみますと、私はわからぬから三べんほど読んでみましたが、答申らしいものはない。これは審議会における審議の経過の報告書でありまして、何月何日どういうようなことをやって、どうしてこうしてああした、こういうことで、結局結論が出なかったので、従って公益委員はこういう意見を出した、労働者委員はこういう意見を出し、使用者側はこういう意見を出した、出したからともかくも出したまま御報告する、こういうことになっておると思う。従いましてこの種のものがほんとうに答申として扱われていいかどうか、私は非常に疑問だと思う。その三本の意見の中で、公益委員だけの意見中心として新しく提案されたところの法案がまとめられた式になっておる。これは非常に頭のいい労働省官僚の筋道だろうと思いますが、こういう答申というものの意義について一つ承りたいと思いますが、どういうことでしょうか。
  51. 松野頼三

    松野国務大臣 なお、今回のこの法案けい肺及びせき損法案と関連が違うと言われますが、それは違うとは言えない。十三条は先ほどお読みになった通り、根本的検討——臨時じゃいけないのだ、根本的検討であります。従って根本的検討として今回じん肺及び労災の改正案を出したのであって、ただ先ほどのような極限的なものだけではない、根本的検討というところに私たちは焦点を置いたわけであります。従ってこれはこの法律にこたえ得る満足なものだと私は考えております。  なお答申の問題ですが、三つの御意見をお読みになりますと、大体公益委員意見というのは、労働者側の希望と使用者側の希望と両方を取り入れて公益委員の案というものができております。従ってこの答申は全然別個なものでない、一、二、三と分けるならば、一、二を合わせて二という答申が出ているのが公益側の答申の内容であります。従って全然違うものが三つ出ているのじゃございません。あるいは使用者側の意見労働者側の意見とはお互いに隔たったところもございますが、公益側の意見というものはそういう隔たったところを両方とって出ておりますので、その答申は三つが全部ばらばらだとは考えておりません。ただ完全に一致しなかったという意味で三つの意見が出ておりますが、内容は三つともそう違うものじゃありません。ことに公益側の意見は両者の一番の問題点を取り上げた代表的意見だということを私は考えております。
  52. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 まず問題にしたいのは、形はどうなんですか。これまでいろいろな審議会に諮問をされたと思いますけれども、諮問をされて出てくる答申というものは、ほんとうは一本にまとまって結論が出てこなければならぬものじゃないですか。それで初めて当該審議会の答申と言えるのじゃなかろうかと私は思う。これはけい肺審議会意見としてはまとまっておらぬわけでありますから、これを審議会の答申と言い得るのですか。もちろん私は、審議会の答申がなくても適当な意見を書いて、そして期日が迫っておるのだから労働省として意見をまとめられなければならないという常識的な運営をされることを拒否するものではありません。しかしながら答申というものを、ある場合には役所では非常に形式的に扱うような節がある、そのような立場から見た場合、このけい肺審議会から出ておるところの数十ページの答申というものが、答申の形として値するものかどうか、伺いたいと思います。
  53. 松野頼三

    松野国務大臣 今回のこの答申は、十分形として答申だと思います。答申もいろいろな審議会の答申がありますが、非常に簡単に、政府案は必ずしも満足じゃない、たった一行だけの答申も審議会の中には出ております。それでもやはり答申であります。まあこれはよその省のことですから私はあえて言いませんが、政府案は必ずしも満足じゃないというまことに簡単な答申も、今までの例ではございます。しかしこれだけの慎重な答申ならば、私は十分だと思う。ただ、まとまることがもちろん第一の希望でございますが、少数意見をつけるとか、あるいはいろいろな意見をつけるということはあり得ることである。また今回の問題は、事が問題がありますので、一番公平に三つの意見を出されて答申されたというのでありますから、この三つの意見政府が尊重することが、答申に対する尊重だと私は思います。従って答申は十分果たしていただいたと思います。
  54. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 審議会における大多数の意見をまとめて、しかしながら、われわれは反対であるから少数意見を添付してくれという要望があって添付したならば、また別だろうと思う。しかし私はこれを数回ずっと読んでみたのだけれども、公益側の意見をもって答申に当てろという結論が出ているとは見られないのであります。もし出ているとすれば、どこかにそれが書いてなければならぬと思う。従いまして、それはどういうことがどうなっているのか、もう一ぺん御説明願いたい。
  55. 松野頼三

    松野国務大臣 参考資料に添付しておきましたけい肺審議会の答申の二十ページに出ております。「そこで十一月十四日小委員会において以上の事実を確認し、これをとりまとめ、同日引きつづき総会を開き本答申を労働大臣提出することに決定した次第」でございます。これで明らかなように、この答申の趣旨を総会で決定しております。
  56. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 それはどういうことですか。今のような中身は私はよくわからぬが、それは意見の違ったのを少数意見として添付しろという決定ですか。
  57. 松野頼三

    松野国務大臣 ここに書いてありますから、読んだ方が明確だと思います。「しかし十一月四日までの審議においても公益側の案を中心に三者の意見をとりまとめるに至らなかったので、答申の時間的制約もあり、十一月五日の小委員会において後掲のごとき公益委員案要領及び同要領の趣旨が公益委員から提示された。この公益委員案要領に対し、十一月十二日労働者側及び使用者側からそれぞれ別添第一、第二のとおり意見書が提出された。」従って、労働者側、使用者側の意見を添えて、そして公益側の意見をまとめて出すということが総会できまった、こういうわけであります。
  58. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 私、どうもこれははっきりわかりませんね。そういうことになっていますかな。  それならもう一つ政府はこの答申に基づいて、今度は法律案要綱を作って諮問されました。諮問されたその答申は別添になっておりますか。私の手元にあるのでは、おのおの、使用者意見はこうだ、労働者意見はこうだと書いてあるだけですが。
  59. 村上茂利

    ○村上説明員 当時私傍聴しておりまして、審議会の事情を知っておりますので、申し上げたいと思います。  法案要綱の骨子となるべき内容を御諮問申し上げまして、そして、ただいま大臣から御答弁がございましたような答申が出たわけであります。そこで、公益委員の案を中心にいたしまして法律案を作成いたしました。その法律案要綱につきましては、この資料に載せてございますが、労災保険法の一部を改正する法律案要綱につきましては、けい肺審議会以外に、労災保険審議会そのものにおいて検討を要する事項でございますので、昨年の十二月十日でございますが、労災保険審議会法律案要綱を諮問いたしまして、それに対する御意見をちょうだいしたような次第でございます。
  60. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 私は今、手続が違うからいかぬと言おうとは思っておらないのです。内容をはっきりしてくれと言っているのです。役所の場合、ある場合には、非常に形式的な手続だけを整えておいて、内容が整ったようなものの言い方をされる。ある場合には、内容を整えようとしたが、何ぼ努力してもとうとう内容が整わなかったときに、努力をしたことだけをもって、しかも形式が整ったような様相を呈することがある。そういうことでは、われわれ頭が悪い議員どもはほんろうされますから、従ってその辺をしゃんとしてもらいたい、こういうのが私の注文である。けい肺審議会に対して諮問をされておりますのは、今お話がありましたように、まず一番最初は三十三年六月三十日です。特別保護法の改正についてけい肺審議会へ諮問をされました。そうしてずっと今のお話で寺中が出ておりますが、十一月の十二日ですか、一応答申が出ておりますけれども、かりに今の松野さんのお話を了承するとしても——非常にあやふやな筋道であると思いますけれども、了承するとしても、それは事実上意見が三つに分かれている答申だった。そうしてその内容は、大体公益委員側の意見中心らしくは見えますけれども労働者意見は、正面からほんとうは対立している内容を持っておった。そのままの、そういう意味の答申がされたと、百歩譲ってみましょう。その意味の答申がされて、今度は、はっきりと労働省が責任を持たれたはずた。そうして労働省がその答申らしきものを中心として検討されて、法律案要綱を作られた。この法律案要綱は、今度またどこかの法律で何か手続規定があるに違いないが、けい肺審議会並びに労災審議会その他の審議会みたいなものに諮問を命じて、そうして提案理由の説明にもあったように、各種審議会意見を十分求めて、それを参酌した上で、一番いい案だからこれを提案する、こういう理屈になっている。そうでしょう。ところが、一番中心けい肺審議会に対して、法律案要綱を諮問された後においては、三様の意見がはっきりとここに添付されている。それからもう一つ、今、部長のお話しになりましたところの労災審議会の答申をごらんになって下さい。内容は何がありますか。内容は何もない。個条書きに一、二と書いてあるくらいのものでありまして、実質的な内容は、ほとんどけい肺審議会の公益委員意見中心として書かれているだけでありまして、これまた同じようにこの労災審議会におきましても、労災審議会としての答申はないはずです。労働者側は、われわれは意見を述べる段階ではない、そうしてけい肺審議会において労働者側の言っておるのと同じであるという立場を明確にとっておる。従いまして、私は、形式的におそらく局長さん、部長さんは、何とか理屈をつけられるかもしれませんが、実質的に政府で作られた法律案要綱に対しまして、けい肺審議会としても、ほんとうの意見をまとめて答申することができなかったし、労災審議会においても、意見をまとめて答申することができなかった。しかも労災関係であるから、労災審議会を重点的に一つ考えて審議をしてもらったというふうに部長は言われるけれども、むしろそれであるならば、この大きな書類の中の一番うしろについているところの社会保障制度審議会の答申、これは御承知のように、もう一つ権威ある社会保障制度全般にわたるところの審議会ではありますまいか。この答申は、明確に審議会としての意見を出している。審議会としての意見を、はっきりと松野労働大臣あてに、内容をまとめて答申してあるのは、これだけでしょう。この唯一の審議会結論は、ほとんどこの内容には取り入れられておらない。取り入れられておらないどころか、おそらく局長、部長さんは、ここのこの制度審議会にも諮問をしましたよという手続を作っただけでありまして——これは時間的に見て、何日に諮問して何日に答申が出ておりますと局長から答えてあげなさい、大臣に悪いから。この社会保障制度審議会には、いつ諮問をして、いつ答申が出ておりますと、日にちを調べてあげなさい。
  61. 松野頼三

    松野国務大臣 十二月の十一日で、答申が二十二日であります。約十一日間であります。
  62. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 私は大臣をいじめようとは思わない。手続を尊ばれる役所で十分考えられたいということを言うわけです。この十二月十日の近所に法律案要綱ができたでしょう。今のけい肺審議会の公益委員意見中心としてあなた方はまとめられた。それから形式を整えるために、三つあるいは四つの審議会に対してさっと一斉にその法律案要綱を諮問された。一方にはけい肺審議会に対して、一方には労災関係のものであるからというので労災保険審議会に対して、今村上さんが言われたように諮問をされた。同時にまた、重要な社会保障制度の問題であるからというので、今度は内閣の社会保障制度審議会に諮問をされた。しかも、もう十二月十日近所だから日にちはありはせぬ。ともかく手続上こうだから出せといって出されたに違いない。そういう結果になっているでしょう。しかもそういう結果でありながら、今村上さんが言われたように、その中でいえば、ほんとうは今度の運営を担当しなければならぬからというので、重要な責任を持っておるのは労災保険審議会です。ここで審議をしてもらったとあなたは言われるけれども審議をするひまも何もありはせぬ。実事上このけい肺審議会において審議しておる間に、数回けい肺審議会から労災保険審議会に対して意見を求めておる。そうでしょう。しかしながら、数回意見を求められても、けい肺審議会自身がまとまった意見が出せないような段階だから、労災保険審議会意見はよう出さぬといって、何べんもけい肺審議会から意見を求められたけれども、とうとう意見を出さずじまいに終わったそうしてその後に、とうとう仕方がないから法律案要綱として今度は正式に労働大臣けい肺審議会に諮問をされた。そのときにはもう時間がない。従って実質的にはもう答申の内容を一本にまとめることができないという答申をしておる。そういう状態でありまするから、これは諮問をされたと言いまするけれども、実質的には労災保険審議会ではほんとうの討議はされておらない。これは実質的に意見を調整するひまも全然なかったし、とうとう意見を調整されないままになっておる。もう一つ社会保障制度審議会だけがはっきりとした意見を出しておる、こういう状態になっているわけです。もう一ぺんその内容を確認してみて下さい。そうしたら、普通の良心に基づくならば、ちぐはぐな三様な意見を出しておるところよりも、一つのまとまった意見が出ており、しかも内閣に設置したところの、こういう制度問題についてはより権威ある審議会意見を十分取り入れるべきであったと思う。取り入れようと思っても、ほんとうは十二月の三十一日が臨時措置法によるところの義務づけられた期間であるから、それを取り入れられなかったのが実情ではありませんか。だから、今からでもおそくないというのだ。臨時措置法を一年でも二年でも延ばして、もう少しこの審議会意見を取りまとめられる格好にすればまあいいと思うわけです。その立案の手続として、あるいは経過措置として決して十分な審議がされておらない。政府内部及び各種審議会においては意見が非常にたくさんあったことをここに現わしておるのではないか。御所見を承りましょう。
  63. 松野頼三

    松野国務大臣 いろいろ御意見は十分拝聴しましたが、しかし一応この一番問題の社会保障制度審議会の中にも、労災保険に年金を導入することは適切である、今回非常に画期的なものというのはこの一点であります。これは確かに適切であると書いてある。二の方は「しかし」と書いてあります。「しかし」の方は「しかし」でありますが、第一点は適切であるというので、これは取り入れております。労災審議会の中にもいろいろ議論がありますが、要するに、労使の意見が非常にかけ離れておるようなことで、審議会意見が非常に出しにくかった。従って、三つ出た場合には、やはり政府責任において一番前進する方をとれというのが審議会の趣旨じゃなかろうか。審議会はすべて立法までやるわけじゃございません。審議会一つの方向を示して、それにいろいろな意見を添えるというのが審議会であって、この何条までは審議会はやるべきではなく、政府責任でこれをやるべきだ。従って、各種委員会及び審議会意見を尊重して、立法については政府責任でやるべきだという建前で、その方向と趣旨については私の方として十分取り入れたつもりです。もちろん審議会の中にもいろいろ議論はございます。しかしこれをやらぬでいいというのでなしに、非常に忙しいときであり、また時間を制約されているが、という注釈は確かについております。従って、もっと時間を与えて、何カ月もかけて審議をしていただくことが妥当であるかもしれませんけれども、要するに、これは時間的制約が法律できまっておりましたので、政府も実はその意味において急ぎましたし、審議会においても督促していただきまして、ある場合には両方同じ結論が出ない前に片方の審議会が中間報告をしておるようなこともあるのですが、なるべく運営においてその内容を盛るように十分注意したつもりであります。
  64. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 この問題はこれで留保いたします。ただ、委員長にはっきり申し上げておきたいことは、今度の法案の一番中心的な問題、じん肺法案の中にはほとんど内容がない。じん肺法案の中で大きな期待がかけられておるのはじん肺審議会である。今度の法案の中で一番大きな荷がかけられておるのもまたじん肺審議会である。このじん肺審議会は、今までの経過から見て、この答申一つまとめられなかった審議会である。まとめられなかった場合は、お役所がほとんど勝手に公益側の意見だけでこしらえて、そうしてとうとう法案を出してきてしまったような経過がある。今後私どもが本格的にこのじん肺問題に取り組んでもらおうとするこの審議会の運営について非常に大きな危惧の感を持たざるを得ないわけであります。従いまして、私は、もう昼でありまして同僚諸君に申しわけありませんから、一服休みをいただくことにいたしますが、この経過手続、内容から見て、今度出てくる両法案の内容審議に入ります際に、松野大臣へのお願いは、どうかとらわれずに、われわれと十分意見を戦わしてもらいたい。そうしてそのことは社会保障制度審議会意見の中にもはっきりある。今あなたはいいところだけを読みました。私はそこは賛成だ。賛成だけれども、「しかし」からの方がよほど長いし、そこの方がただし書きとして内容もよほど持っておる。そういう大きな疑問を持っておるわけでありますから、その意味におきまして、十分に問題の焦点をはっきりしながら、先ほど松野大臣が言われましたごとく、せっかく抜本的な措置を講じようとするのでありますから、その立場で審議に応ぜられんことを格別に希望申し上げます。
  65. 永山忠則

    永山委員長 午後二時まで休憩いたします。     午後零時三十九分休憩      ————◇—————     午後二時三十七分開議
  66. 永山忠則

    永山委員長 休憩前に引き続き会議を聞きます。  休憩前の質疑を続けます。佐々木良作君。
  67. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 午前中に引き続きまして質問を継続させていただきたいと思います。  午前中の質問の中におきまして、一つはこの法案の実質上の立案に強く参画されておりましたところのけい肺審議会意見が三つに分かれたままである、少なくとも法律案要綱に対して再諮問が行なわれましたものに対する答申らしきものは意見が三つ羅列してあるだけでありまして、それが審議会としてのまとまった意見ではないのでありますから、これに答申としてのどれだけの価値が付されるかということについての疑問を申し上げたわけでありますし、この疑問を今なお継続しておるわけであります。先ほど申し上げましたように、社会保障制度審議会においては、これははっきりと社会保障制度審議会としての統一した意見が述べられておりまするから、形の上では私は明確な答申だと見ることができると思いますが、しかしながらこのけい肺審議会の答申あるいはまた労災保険審議会の答申というものは、どうもほんとうの答申としての価値かあるかどうかということについては はなはだ疑問を持っておるわけであります。この問題につきましてはまだ結論を留保いたしてありますので、今後いろいろな道程で御意見を承りながら私も考えさせていただきたいと思います。ただ私が午前中の伊藤さんの質問に関連をして、ああいう問題をとらえて一番強く申し上げましたことは、ともかくも三月の末日をもってこの対策対象になっておるものが明確な期限切れになる、しかも本日から審議が始められたのであるから、実質的に本格的な慎重審議が非常に困難であるという一点と、それからこの立案経過にあたってずいぶん民主的な方法がとられたような形で提案説明をされておりまするが、それらの民間の意見を取り入れ、ずいぶん実質的な審議がされたと称せられる委員会の形あるいは審議会の形自身から見ますと、どうも本格的なものでないような気がする。この二点から、私はこの審議の態度についてほんとうは根本的な疑問を持っておるのでありまして、伊藤さんと同様に、私はこの二つの出されておりますところのじん肺法案とそれから労災法改正法案と、やはりこれは政府はもう一ぺん撤回して、そしてもっと民主的な方法でこの立案過程を相談をして練り直して提案をしてもらうことが最も妥当ではないか、その期間を現在の臨時措置法を継続するというところでやればよいのではないかという一つの根拠にもなることでありまするので、御了承をいただきながら同じ立場から——その立場が現在のところ私どもの民主社会党の立場でありまするが、その立場から質問を継続いたしたいと思います。午前中の質問で、お前の質問は少し議運の質問らしいという批判を同僚から受けましたので、今度は法律書生の立場から一つていねいにやらしていただきたいと思いますから、御了承をお願いいたします。  午前中の質問でも触れましたが、まず私は提案されておりますこの二法案提出の根本的な理由、根本的な目的について、もう一度大臣の所見を承りたいと思います。言うまでもなく、大臣提案説明のときにはっきりと、けい肺はその予防が困難であって、一度かかると治癒しがたく、多くの場合基準法、労災法により三年の療養補償を受けた後においてもなお引き続き療養を必要とする。また重度のいわゆるせき損も同様である。こういう立場でありまするから、昭和三十年にけい肺せき損特別保護法が制定されたのだ、こういうように明確に述べられております。そしてこの二年間の特別療養のあとでもなお目的が達せられないので、三十三年に行なわれた臨時措置法をもってこの継続を規定し、同時に政府けい肺及びせき損にかかった労働者保護措置について根本的検討を加えて、三十四年の十二月末までにけい肺特別保護法の改正法案提出しなければならぬ義務を負ったのだ、こういうふうに明確に言っておられるのでありまして、従ってこの立場がこの二法案提出された根本的理由だ、こう思いまするが、あらためましてその立場に相違ないものでありまするか、午前中と似たようなことになりますが一つ明確にお答え願いたいと思います。
  68. 松野頼三

    松野国務大臣 ただいまのお話の通りで、けい肺等の根本的な対策を立てるという要請にこたえまして、今回の法案提出いたしたわけでございます。     〔委員長退席、田中(正)委員長代理   着席〕
  69. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 それではその立場から、この両法案が、四年間継続されあるいは四年間も前から継続されておった問題の、根本的な解決になっておるかどうかという点を吟味すればいいわけでありますから、そういう立場から一つ意見を承りたいと存じます。  この基本的な考え方につきまして、改正法案の作成の作業は、先ほどからお話を承っておりますると、けい肺審議会中心になって行なわれ、そこで意見を戦わせる中で内容がだんだんと盛られてきたようであります。格別に、そのけい肺審議会意見がまとまらない段階になればなるほど、公益委員の立場が重要視されまして、公益側の委員意向がだんだんと実質的に実が結んで、そうして今度の両改正法案になってきたように考えられるわけであります。このけい肺審議会審議の過程におきまして、公益委員が基本的な考え方として、昨年の九月の末日の小委員会提案いたしました、けい肺特別保護制度に関する基本構想というのがあります。この基本構想が大体、そのけい肺等の特別保護措置に対する根本的な考え方だろう、こう見て私は勉強しておったのでありまするが、大臣もさように考えられるわけでありまするか、念のために伺いたいと思います。
  70. 松野頼三

    松野国務大臣 その通りでございます。
  71. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 その基本構想の中に、はっきりとこう書いてありまして、「まず予防、診断、治療、補償を統合した総合的対策を樹立すべきであるという考え方を至当とし、総合的な構想をとっている。」こういうふうにここに書いてあります。この考え方大臣も同様でありますか、承りたいと思います。
  72. 松野頼三

    松野国務大臣 この基本構想の線に沿っておったわけであります。
  73. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 そうしますというと、今のようにまずけい肺中心として考えた場合には、予防から補償に至るまで、一貫をした総合的な対策を立てるということが、一番基本になるのだという考え方を、このけい肺審議会の公益委員の方々はとられて、そしてその内容として、私は原則的に三つあげておると思います。九ページ以降にはっきりと書いてあるところによりますと、その三つとは、第一には予防の徹底をはかることがまず先決条件だ、こういうふうに書いてあります。それから二番目に、しかしながら不幸にしてかかった者に対しては、適切な健康管理によって、その悪化を防ぐことが第二番目として重要な問題だというふうに私は整理をして考えましたし、さらに今度は三番目に、とうとう療養を必要とするような者ができた場合には、その療養を必要とするような者に対しては、職業病として、必要な療養を継続し得るよう、長期の給付を行なうようにする。このことが療養を必要とするに至った者に対する措置として書いてあるわけでありまして、それに格別につけ加えまして、その補償措置としては、必要なる療養にあわせて、その間の生活維持ができるように配慮することが必要だ、こうもつけ加えてあるわけであります。従ってこの三つの原則、けい肺等の特別保護に対しましては、まず何よりも徹底的な予防をはかることに全力を尽くすこと、二番目には悪化を防ぐために、適切な健康管理を十分にやること、三番目には、必要な療養を継続し得るような長期の給付を行なうこと、この三本が原則となって、そしてこれが完全に生きるように、今後ずっと要綱案が作られ、要綱になり、要領とかいうものになって、法律になる、こういうふうになってくる一番のもとはここでありまして、けい肺等の特別保護立法において、最も根本的に考えられなければならぬのはこの三つの原則である、こう私は考えたのでありますが、重ねて大臣の御意見を承りたいと思います。
  74. 松野頼三

    松野国務大臣 予防健康管理長期補償、この三つの問題のほかに、なお障害という問題が含まれておりますが、基本としてはその三つプラス・アルファでございます。
  75. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 そうすると私は今後この三つの問題を基本として、この三つの問題がだんだんと生きてくる程度においてこの法の筋を立てなければならない、これ以外の要素によってこの根本がくつがえされてはならない、こういう立場から問題を見ていきたいと思います。まず形の上から見まして、そういうふうな予防から補償まで総合対策を樹立することが根本だ、こういう観点に立つならば、しろうと目には当然にこれを一本の法制化をすることが一番やりいい、こう考えるのは当然であると思いまするが、これをあえて二つの法律にされた理由を承りたいと思います。
  76. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 ただいまの御質問の点でございますが、この基本構想の考え方は、ただいま先生のおっしゃった通りでございまして、予防、診断、治療、補償を統合した総合的な対策を樹立すべきであるという考え方を至当としておるわけでございますが、その次に書いてございますように、ただその実行にあたっては既存の法体系との関連のもとにでき得る限り効率的な方法によることとしということを特につけ加えておるわけでございます。そういう考え方に立ちまして、けい肺につきましてはその疾病特殊性にかんがみまして、これの予防健康管理は別個の法体系によるべきであるという結論は同時に出されておるわけでございます。ただ補償の面につきましては、これはけい肺に限らないで、そのほかの類似の傷病と同様に労災補償保険法の中で総合的に取り上げる方がより効率的である、こういう結論が同時に出されておるわけでございまして、政府はその線に沿って二法案を作成したわけでございます。
  77. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 その考え方は、けい肺審議会の公益委員考え方ですね。先ほど申し上げましたように、けい肺審議会が最も権威ある意見があるとするならば、私は、けい肺予防あるいは健康管理補償というようなけい肺自身のことに関してのことであろうと思います。なぜこの法律の体系の問題について、けい肺審議会のしかも公益委員の考えをそれほど重要に考えられて、こういう問題については一そう権威があると考えられる社会保障制度審議会意見は全然取り入れられなかったのか、午前中ちょっと触れましたけれども、観点を明確にしたいと思います。法体系並びに制度の問題については、社会保障制度審議会の方が私はより一そう権威のあるものであると思う。けい肺特別保護をするためにどういう予防をしなければならぬか、どういう健康管理をしなければならぬか、どの程度の補償を必要とするのか、こういうけい肺そのものに関しての問題、権威は確かに私はけい肺審議会に置いた方がいいと思いますけれども、法体系ということになるならば、むしろ社会保障制度審議会等の方が権威ある存在ではなかろうかと思います。しかるにこっちの方は一顧だにされずに、けい肺審議会の、しかも公益委員意見だけをなぜそう重要とされるのか伺いたいと思います。
  78. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 午前の質疑中にも出ましたように、社会保障制度審議会の答申の中には、まず第一点としまして、基本的に労災保険法の中に年金制と導入することは適切であるということがいわれておるわけでございますが、同時に、しかしながら次のような問題点があるといたしまして、第一に労働基準法改正しないで、労災保険法の改正のみにより処理することは問題であるということが指摘されておるのでございます。今回の労災保険法の改正案の私ども考え方は、今度は年金制という長期の保障制度を採用しておるわけでございます。従いまして、労働基準法における個別の使用者責任において長期年金制度を実施するということは、零細企業を含んでおる日本の産業の実情からいいまして、長期の保障をはたしてそういった零細な個別の使用者が、その負担にたえ得るかどうか、その責任にたえ得られるかどうかという問題があるわけでございます。そこで労災保険法の保険の方式によりまして、使用者の団体の責任においてやるならば、長期年金制度を実行することは可能でございますので、そういった考え方から、個別の使用者責任でなしに、団体としての使用者責任において年金制を実施しよう、こういう考え方で、労災保険法の改正による年金制を採用いたした次第でございます。  それから社会保障制度審議会におきましては、その次の問題点としまして、高率の国庫負担のもとに年金のスライド制や未加入の適用事業について事故発生後の労災保険法加入などという思い切った方法を講じていることは、社会保障の総合調整上問題があるということが同時に指摘されておるわけでございます。これは確かに社会保障全般の問題と関連がございますので、私どももそこに社会保障全般の総合調整上問題があることは十分に承知いたしておるわけでございますけれども、先生も御承知のように、この法案につきましては昨年の十二月三十一日までに根本的な改正案を国会に提出しなければならない、こういう責任を背負っておったわけでございますので、そういった問題との関連において、ただいま御審議をいただいておるような形式で法律案が出されたわけでございますが、社会保障制度審議会が第二番目に指摘しておりますスライドの問題あるいは厚生年金との調整の問題等につきましては、この改正法案の一番末尾におきまして、これは将来社会保障全般の総合調整との関連において検討しなければならないという調整に関する規定も同時に加えましてこの法律案として提出したような次第でございます。
  79. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 二つ聞きたいと思います。澁谷さん、今あなたはこの社会保障制度審議会の答申案の内容を批判されました。これは労働省においてほんとうに内容の批判を今のような立場でされましたか、まず第一点。
  80. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 批判という言葉は適切であるかどうか問題だと思いますけれども、私としましては、社会保障制度審議会がこういう点を指摘しておりますと、その指摘された事項についてのこの改正法案立案に際しての労働省の考え方を御説明申し上げただけでございます。
  81. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 私は、午前中から繰り返し言っておるのは、結論も出なかったけい肺審議会においては、数カ月という上り一年をこえる長いこといろいろやっておった。それでもなかなか結論の出ぬくらいな重大な問題だった。これを社会保障制度審議会に対しましては事実上十日間の審議日程しかないくらいの状態で出されて、答申は十二月二十二日にされておる。今度はあなたの方がこれを審議して、ほかの関係も十分考えて、法案提出されたのは十二月二十九日であります。十二月二十九日に法案提案するのに、印刷の日数も加えて、今のようなこういう制度審議会の答申を労働省内で十分意見交換をし、この分はあとだ、この分は取り入れられないというような論議がほんとうにされたとわれわれ理解でき得るでしょうか。私は、けさから言っておるように、勝手なときには審議会というものを非常に重大に取り扱い、勝手なときにはただ審議会にかけたという形だけをとられる今の官僚制度に根本的に腹が立っておるのです。今の点もう一ぺんはっきり言ってもらいたい。この法案を労働省において作るその途上において、ほんとうに参考とされたか、その時間的余裕があったか。
  82. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 社会保障制度審議会の答申がありましてからこの法案が国会に提出される間には、きわめて限られた時間的な余裕しかなかったことは御指摘の通りでございます。ただ社会保障制度審議会が指摘しております第一点の、労働基準法改正によらないで労災保険法の改正のみによって処理するという問題点につきましては、けい肺審議会でこの基本的な検討を始めたときから、基本的な一つの事項として終始問題になった項目でございます。そういう基本的な問題点でございますので、そういった問題点につきましては、ただいま私が説明申し上げたような観点で、労働省としては、今の改正法律案の形式を採用したのだということを申し上げるわけでございます。  なお第二番目の、この労災保険改正法律案の最後の附則の第十七条の「新法第三十四条の二及び前二条に規定する事項については、」というのは、ただいま申し上げましたように、このスライドの問題とそれから厚生年金との調整の問題でございますが、この「前二条に規定する事項については、社会保障に関する制度全般の調整の機会において検討するものとし、その結果に基づいて、必要な措置を講ずるものとする。」という規定を加えられたわけでございまして、これは明らかに社会保障制度審議会の答申の意見を尊重いたしましてつけ加えた規定でございます。
  83. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 今局長から述べられた二点に問題があるのではない。この答申案をよく読んでごらんなさい。この二点がいいか悪いかということを言っているんじゃないでしょう。こういう新しい制度を年金というものに取り入れたということが、社会保障制度全般にわたって基本的に考えなければならぬ問題だというならば、役所のなわ張り根性から言うならば、労働省あたりでこんな新しい概念を出してくれては困る。社会保障制度をもっと根本的に考えておるところがあるはずだ、そこと十分な相談をして出すべきものだということが書いてあるので、その一つずつがいいとか悪いとかいうことを書いてあるんじゃないんです。それからこの答申案を通してはっきりと見ればわかるものは、やはり単独法による職業病的なものがいいのだという考え方に立っておるわけでありまして、だから根本的にこれと今出ておる法案とは相いれない。従って大臣は仕方なしに先ほどああいう答弁をされたと思うけれども長期給付というものになったから、その点はいいじゃないかという話があったが、それは大臣の政治答弁としては私はやむを得なかろうと思う。この社会保障制度審議会の答申の内容の中心は、あくまでもそういうような大きな制度変更を行なう場合には、制度変更を行なう総合的な立場から考えろということと、それから今のような基準法をそのままにしておいて、こういうふうに労災法の幅を広げていくということには相当制度上の疑問がある、法体系上の疑問があるということを指摘しておるだけですよ。ですからほんとうはこれの審議はされなかったんだろうと思う。制度審議会からも似たような意見が出るだろうということで、その意見については個々的に言っておられたけれども、とうとう採用できないという立場をとっておられると思う。それならばその立場で仕方ないけれども、この答申案の中の片々たる一語々々、一句々々をとって、だからその意見を十分採用しておるし、答申案の内容を十分尊重したのだというような形式的な答弁は、私はやめてもらいたいと思う。この内容を見てごらんなさい。実際に審議できる期間があったわけじゃないし、内容を見ても、今の新しい事故発生後の労災保険に加入する制度だとか、それから年金のスライド制だとか、しかもそれが高率の国庫補助をとっておるという制度のもとでという原則はついておりますけれども、そのこと自身がいい、悪いということよりも、そういう新制度を採用することはもっと根本的に考えるべきだということが出ておるだけである。私はその答弁の態度をもう少し的確にして、まじめにしてもらいたいと思う。形式論は要りませんから。
  84. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 先ほどもお答えいたしましたように、社会保障制度審議会の答申がありましてから国会に法律案提出しなければならない期限までには、非常に限られた時間しかなかったわけでございまして、その点について十分な検討を加えて、法律案の再検討をするという点で十分な検討をしたかという点につきましては、遺憾ながらそれだけの十分な余裕はなかったということを申し上げなければならないと思います。ただこの社会保障制度審議会の答申の最後にも、以上のような問題を指摘いたしましたあとで、以上のような問題はあるにはあるけれども、本法案は昭和三十四年十二月三十一日までに国会に提出しなければならない時間的制約があるので、政府がその責任で手続を進めざるを得ないであろうが、右の諸点についてできる限り是正するとともに、今日の改正に引き続いて根本的に再検討する必要があるということが言われておるわけでございまして、そういった観点に立って十分な検討を加える余地がなかったことは事実でございますが、ただいま申し上げましたような考え方に立ちまして、第十七条で社会保障全般の調整の機会においてそういった問題をさらに掘り下げて検討をするという規定をつけ加えた次第でございます。
  85. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 その点についても私はほんとうは重大なる問題があると思う。この制度審議会が最後に、今局長の引用されたところの、最後にただし書きとしてつけ加えておるもの、これをもう一ぺん読んでみますと、「ただし、その場合においても、本審議会が指摘した線に沿い、」本審議会というのは社会保障制度審議のことです。社会保障制度審議会が指摘した線に沿って、「でき得る限り不備を是正するとともに、今回の改正に引続き根本的に再検討して、これが恒久化されることのないよう特に万全の処置を講ぜられたい。」こうなっているでしょう。私はもし局長がこれの見合いにして——今度の立法の中に、今後こういう社会保障制度みたいなものを総合的に吟味するという条文がどこかにあったでしょう。
  86. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 一番最後の附則の十七条でございます。
  87. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 その補償保険法の附則でくっつけておるところの、今後総合調整をして考えなければならぬという問題と、それから社会保障制度審議会の答申の最後の今の要望とは一致すると考えておられますか。これは私の方から先に結論を言いましょう。私はそうじゃないと思う。基準法と労災保険法と、この関係を姉妹法としての考え方で制度審議会は見ておる。その労災保険法に新しい概念を加えて、そうして職業病法的なものの補償もこれに加えるということは、制度審議会のあの内容に書いてあるように、いろいろな問題を出してくることになるから、従ってそういう考え方には根本的に反対であるという立場を制度審議会はとっておるのです。だから制度審議会が最後のくだりで、特別な措置を要望し、恒久立法化しないようにといっておるのは、この基準法並びに労災保険法という体系の中にこのまま固定化することに対して異議ありと言っているのですよ。それが提案された本法案の附則でもって補われておるのは、いろいろなその他の関係があるけれども、この労災保険法の中でこれを調整することによって修正しようというふうになっているわけです。根本的に言うならば、今度の法案の中にある附則によって今後補われるものは、これは体系的な基本的な問題ではない。職業病法的な単独立法的な考え方を否定して、その上にこの労災保険で全部まかなおうという思想の上にそれを調整しようというだけの話です。制度審議会の方はそうでなくて、根本的にそれは違うのではあるまいか。だから言うならば、今度の暫定措置として何か答弁をしようというならば、労災保険法の中で包括的に処理してしまうような状態に恒久的にならぬように考えたらどうだろうかと、私はこう解釈するのですけれども違いますか。
  88. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 社会保障制度審議会が、このまま「恒久化されることのないよう万全の処置を講ぜられたい」といっている点は、今度の改正法案の附則第十七条に掲げられた事項に限定した注意ではないことは御指摘の通りでございます。ただ、この社会保障制度審議会の答申の後段におきまして、職業病について、偶発的事故による災害と同一の範疇に入れることについては反対であるというような見解を表明しておるわけでございますが、この点につきましては先ほど来申し上げておりますように、今度の根本的な検討を、けい肺審議会において行ないました際に、最も基本的な問題の一つとして終始議論検討を見た事項でございます。そこでけい肺審議会結論としましては、けい肺につきましては、予防と管理は、これは非常な特殊性を持っておるから、別個の単独法で実施する方が適当である。ただ補償につきましては、このじん肺せき損に限らず、類似の傷病がございますので、そういったものを一括、包括いたしまして、労災補償保険法の制度の中で、これに対する適切な対策を講ずる方がよろしいという結論を、けい肺審議会の公益委員考え方として出しておるわけでございます。従いまして、そういったけい肺審議会の公益委員の思想と、社会保障制度審議会が答申でいっております考え方とが、不幸にして意見が分かれておるということは事実でございます。
  89. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 だから、大体根本的に法体系の考え方が両方分かれているのでしょう。それならそれで私はいいと思う。ただその場合に、ほんとうならば、法体系というような問題でこれだけ分かれているならば、法体系みたいなものの考え方の参考に最も重点的にすべきものは社会保障制度審議会意見の方をより重要視すべきではなかったか。じん肺に対する保護について、じん肺はどういう手跡をすべきか、健康管理をどうすべきか、どう補償するのがいいかというようなじん肺自身の問題については、私はじん肺審議会の方の権威を認めてもいいけれども社会保障制度全般を見ておる審議会の方が、社会保障自身についてはより一そう高度な観点から見ておる、こう見るのが常識である。従って時間的な余裕があって、十分検討される時間があるならば、普通ならば、意見が分かれておった場合には、制度審議会の方をもう少し重点的に考えるべきではあるまいかという意見を持っているわけです。しかし実際には年末に法案を出さなければならぬということでせかれたのだから、やむを得ないという気もしますが、一番最初私が言いましたように、この一年か二年、これまでやってもできなかったといっても、これはまだ先のことで、できぬとも限らぬのでありますから、もう一ぺん根本的なけい肺——せき損を含めてもいいけれどもけい肺並びにせき損保護するための特別な保護制度について考える必要はないのかという観点から、臨時措置法を延ばして。もう一ぺん根本的な検討をしなさい、こういう意見にもなるわけであります。しかし同じことを繰り返しても何でありますから、もう少し先に行ってみたいと思います。いずれにしましても、事務当局のお考え、それから大臣のお考えも確かに承りましたが、けい肺等の保護のためには、やはり先ほど言われたような、総合対策の樹立の必要性は認める。総合対策の樹立をしなければならぬ。しかしながら、それをけい肺審議会がいっておるような立場で法体系を考えるならば、今のこの二つの法案で大体満足すべき法案ができたのではなかろうかと思う、私はこういうお考えだろうと思います。従いまして実際の吟味は、今度のけい肺法及び労災の改正法案の内容が、けい肺せき損特別保護の目的にかなった内容を持っているかどうかということを吟味してみさえすればはっきりわかる、こういうように思うわけであります。しかしながらその前に、今問題になっておりますところの長期療養あるいは長期給付という考え方中心にして、こういう新しい制度を労災法の中に持ち込まれたのでありますから、この法体系というものはもう一ぺんはっきりその立場から吟味してみる必要があると思うのです。だから私の意見も含めまして、提案されている二法案の内容について、従来希望しておったような特別保護措置ができているかどうかという内容に入る前に、こういう長期療養制度という問題を新しい制度として持ち込まれた、しかもそれを労災法に持ち込まれたことについて、従来の法体系と矛盾するところがありはしないかということを、もう少し詳細に問題として取り上げてみたいと思います。一つ大臣意見を承りながら調べてみたいと思います。  まず第一に、先ほど来お話しになっておりますところのけい肺審議会の見解というよりは、だんだんと承っておりますと労働省の事務当局のお考えのようでありますが、それが今度こういう法体系をとったということについて、一つの理由は、じん肺以外のもの、せき損も含めていいのですけれども、類似の傷病あるいは災害に対する保護の均衡を保ちたいというのが一つの大きな理由になっているらしい。もう一つは保険のやり方でありまして、私もあまりよくはわかりませんけれども使用者の負担位の賦課という問題と労災保険料の徴収という問題を中心としての、要するに保険技術の問題ということが一つ大きくあげられているような気がいたします。しかしこの二つの理由についてみますと、第一の保護の均衡という点についてみるならば、それはじん肺せき損というものを職業病として単独立法で扱って、並行的に労災法改正によって類似傷病保護を同じような措置をとって均衡を保ち、ふえるように厚く変えてもちっともかまわないことでありますし、また別に類似傷病を包含するような今の単独職業病法としてもよいのでありまして、従いまして保護均衡という理由が法体系上単独立法を否定するという根拠にはならぬのではないですか。職業病法という単独立法では保護の均衡を失するという理由にはまずなるまい。その単独立法の中に類似傷病を入れてもいいし、それが工合が悪いというならば、その分だけ災害保険法だけの改正か何かやってもいいわけでありますから、従って保護の均衡という点からだけいうならば、職業病法の単独立法を否定する根拠には私はなりがたいと思う。さらにまた第二の保険技術の問題というのも、これは要するに手続が——先ほど小林進君が、手続がうるさくなるからということはおかしいじゃないかというやじを飛ばしておりましたが、まさに同論でありまして、少し複雑になるとかならぬとかということで法体系の基本の問題を律するのは末梢的な手続論過ぎると私は思います。従いまして、ここに書いてありますような意味での労災の問題についての保護の均衡の政策論や、あるいは保険技術の手続論ということは、ここで論ぜらるべき法体系の基本的な問題ではない。むしろここで諭せらるべき法体系の基本的な問題というのは、労働基準法、それから労災保険法、こういう根本的な従来の労働立法があるが、この従来の労働立法の基本理念の中に、国庫負担を含む長期補償という新制度を、矛盾なしに持ち込むことができるであろうかどうか、この新制度をこの法体系の中に持ち込むことが、矛盾が少ないのか、単独立法としての職業病法という法律を作ることが、より一そう従来の補償制度を比べて矛盾が多いのかという、この二つの吟味になるのではないか。従って、法体系の問題としては、今ここに述べられておりますような手続論や政策論ではなしに、基準法、労災法との関係において、単独立法が適切であるかないかという考え方を吟味するのが根本である、こう私は考えるのですが、労働大臣、いかがでございますか。
  90. 松野頼三

    松野国務大臣 これはどちらも私は否定するものではないと存じます。ただ、考え方として、基準法あるいは保険法というものの基本と、けい肺特別保護法というものが、基本的に矛盾するとは私は考えておりません。ただ法体系として、すべての産業に及ぶようにすると、いろいろな病気が出てくるだろう。けい肺の次には潜水病法、何々病法と出てくるということは、法体系として好ましてことにあらず、やはり基本的には基準法、労災保険法の中に含め得られるものは含めるようにすることがより安定だ。ただ、じん肺という問題は、予防とか健康管理不という特殊な立場がありますから、これは別に予防及び健康管理としてのじん肺法というものを出す、基本的には労災においてこれを全都包含するということの方が、私は将来ともに法体系としてはより望ましいことだと考えます。しかし、やはり過渡期におきましては、じん肺病という特殊な産業病であり、今日まで予防健康管理に相当研究も進められておりますから、これにつきましては、じん肺法という法律でその分を受け持つ。しかし基本としては、補償とか長期給付というものは基本法の中に含ませることの方が、より前進的法体系だというので、実はこのかみ合わせをしたわけであります。従って、別々にして悪いと私は否定はいたしません。否定はいたしませんが、好ましくない。それよりも、一つの基本法の中に含め得られるものは含ませることが好ましいという方向を私はとっておるわけであります。     〔田中(正)委員長代理退席、委員   長着席〕
  91. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 従来の基本法の中に含ませることの無理のために、かえって基本的な保護が薄れる結果になることを私はおそれております。しかしその内容は、今言いましたようにあと回しにしましょう。体系だけの問題にしましょう。しかし今の労働大臣お話によりますと、両方にも理屈があるだろうが、なるべくならば、既存の法律改正みたいなことで、その中に入れたいのだ、それの方がより便利らしいから入れたいのだ、こういう常識論のように承りましたので、それならば、少し中に入ってみまして、現在の労働基準法及び労働災害保険法というものの中に、こういう長期給付というような制度を入れてほんとうにおかしくないだろうかという点を、もう少しフランクに吟味してみたいと思います。  これは局長もすでに御承知のことだと思いますが、一番根本的な問題として、現行の労災保険法の基本的な理念は一体何でしょうか。これは試験をするようで悪いのですけれども、常識的に言われていることですから、それをはっきり、基本をきめてかかりたいと思うのです。
  92. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 現在の労災保険法の基本理念は、労働者が、その業務上に基因して災害を受け、あるいは疾病になったという場合、これを使用者責任において、その損害を補償してやるというのが労災保険法の基本理念でございます。
  93. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 私も同感であります。繰り返して言うならば、労災法の基本的な理念は、業務上の事故発生によって労働者災害が起きた場合に言うならば、使用者の無過失責任を明確に規定してその補償措置をきめたものだ、こういうふうに私は了解するわけであります。そうするとこの法理念というものは、使用者の無過失責任を決定したものでありますから、従って補償する義務は当然事業主にあるわけだ。だから現行の保険法によりますと、補償金額は事業主全額負担という建前を当然とってくるものだと私は思います。だから、事業主全額負担という基本的な建前を一方に持っている。しかしながら、無制限に無過失責任をかぶせられたのではどうにも困ることがあるからというので、労働基準法十九条の例外規定の八十一条を援用しまして、ここで三年間の打ち切り補償制度というものを採用して、使用者側の無制限の賠償責任を救済している、こういう建前になっているものだと私は思うわけであります。基準局長、この考え方でよろしゅうございますか。
  94. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 その通りでございます。
  95. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 この基本的な事業主全額負担、そして三年間の打ち切り補償制度、この建前から見て、これに今度新たに加えられたところの制度というものは、まず国庫負担という概念を入れました。補償の内容に国庫負担というものを入れた。それからもう一つは、長期給付という制度を入れた。長期給付という制度を入れ、それから国庫負担という概念を持ち込んだことは、従来の基本理念に対する相当の変更だと思います。これはだんだんと無理が出てくると思いますが、この考え方に対して労働大臣はどう思いますか。
  96. 松野頼三

    松野国務大臣 今回は、特に産業全体の立場に立ったわけであります。無過失賠償責任の限界を越えておりますから、越えた分については、いわゆる産業関連という意味で国庫負担をそれに伴ったわけです。従って、個人々々の無過失賠償責任の域を越えた部分について、今回新たにそういう構想と思想が入ってきたわけであります。といって、これは労災保険法を全面的に否定しておるわけではございません。労災保険法の精神というものは、いわゆる無過失賠償責任の限界においては事業主責任である。同時に労災保険というのは、労働者の福祉と生活と疾病に対する保護規定も、この精神の中に入っております。従って、そちらを越えた部分については、そういう意味で、人道上においてもあるいは産業関連という意味で、全体的な産業の負担という考えから、国庫の負担をあわせたわけであります。
  97. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 現在の基準法の建前、労災法の建前、この建前は、先ほど基準局長が言われた通りの基本理念を持っている。この基本理念に対して、今言われたような新制度は、まさに相矛盾するものである。言うならば、異質の内容を持っているものである。この考え方をどういうふうにくっつけるかという問題は別ですよ。しかし、一つ法律にはおのずから基本法理念というものがあるはずだと思います。この基本法理念に対して、まっこうから対立する異質のものをくっつけるということは、これはまさに木に竹を継いだ格好の法律になるとお考えになりませんか。それの方が法体系をよりおかしくするし、法形式をより一そう不明確にするとはお考えになりませんか。
  98. 松野頼三

    松野国務大臣 基準法と労災法とは、もちろん表裏の法律でございますが、必ずしも基準法と労災法が全部一致でなければいけない、基準法が母法で労災法が子供だという、そういう思想ではございません。労災法の建前も基準法とほとんど表裏ではございますが、労災保険法というものは、必ずしも基準法即労災保険法ではございません。従って今日の場合、限界を越えた部分について新たな制度が継続的に継ぎ足されたというので、全然法体系と矛盾したという考えではございません。今日以上に限界を越えた、はっきり申せば、手厚い保護に踏み切ったという点が新たにつけ加えられたわけで、これは木に竹でなしに、ちょうど木をもう少し伸ばしたという思想で、労災保険法というのは十分そういう精神を持っているものだと思います。ただ労災保険すなわち基準法というならば、おっしゃる通りでありまして、基準法に合わない部分はおかしいじゃないかということになるが、そういう法体系のものじゃなく、労災保険法はあくまで労働者の保険業務あるいはその疾病というものを主体とした法律であります。従ってもちろん関連はございますが、即じゃないという意味において、今回このワク改善をして、そうして産業全体における補償という関連性を持たしたわけでございます。
  99. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 新制度を新たに採用することがいい、悪いの問題はしばらくおきましょう。これは今度の内容の問題に入りますから、産業全体を含めるような形で新制度を採用した方がいいか悪いかという問題はしばらくおきましょう。  現行の基準法と労災法との関係において、松野大臣は、今姉妹法のようなものであり、子供と親のようなものみたいだけれども、必ずしもそうではないというようなお話でありましたが、それは基準局長どうですか、基準法の根本的な考え方、たとえば十九条の解雇制限考え方にしましても、あるいは七十五条の療養補償の問題、七十六条の休業補償の問題、七十七条の障害補償の問題、さらに七十九条の遺族補償の問題、あるいは八十条の葬祭料の問題、これらを見てきました際に、これからこれを受けて立っておるところの労災保険との関係を見た場合に、この基準法と労災法との規定しておるところの、たとえば使用者責任という範疇が、違った範疇に属するものであるか。労働基準法労災法とに一貫しておるところの法理念は、私は先ほど述べられた法理念だと思うが、今話がちょっと道をそれたようでありますけれども、たとえば使用者責任という概念が、違った範疇に属しているものが現行のこの二つの法律の中にあるかどうか。
  100. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 労働基準法労災補償保険法関係でございますが、これは労働者災害補償保険法が、いわゆる労働基準法における使用者責任保険法であるかどうかという問題であるわけでございます。この労災補償保険法が当初占領軍のもとに置かれたわけでございますが、当時日本政府から出されました原案では、実は労働者災害責任保険という、責任という文字をつけまして、あくまでも労働基準法と表と裏の関係の保険であるという建前で、実は立案されたいきさつがございます。それが当時の司令部との折衝の過程におきまして、確かに労災補償保険法は従来のいきさつから言いましても、労働基準法と表と裏の関係にあることは、これはもう何人も否定できないわけでございますが、単なる基準法による使用者責任、それだけに終始するかどうか、それに限定するかという問題が起きてきたわけでございまして、結論を申し上げますると、結論としましては、責任保険に限定しないで、労働基準法による使用者責任以上に広い考え方を含めて、労働者災害補償保険法という法律提案せられ、今日に至っておるわけでございます。現に第一条の目的を見ますると、ここにございまするように、「業務上の事由による労働者の負傷、疾病、廃疾又は死亡に対して迅速且つ公正な保護をするため、災害補償を行い、併せて、労働者の福祉に必要な施設をなすことを目的とする。」こういうふうに、目的自体も単なる責任保険法ではなしに、それ以上に広い幅において、労働者の福祉に必要な施設も同時にやることを目的とするのだというふうに、目的自体がはっきりと規定しておるわけでございます。  そこで第二問の労働基準法による補償と、労災保険法による補償との間に、それをはみ出るものがあるかどうかという御質問でございますが、労災補償保険法の十二条におきましてございまするように、たとえばこの二号におきましては休業補償でございますが、「休業七日以内で負傷又は疾病の治った場合を除く」という工合に、これは基準法による使用者責任がございますが、それは労災保険では取り扱わないというような具体的な事例もあるわけでございます。そのほかに基準法による使用者補償責任以外に、プラスの面といたしまして、たとえば御承知のように、全国に労災病院という施設を作りまして、そこでいろいろな福祉施設もやっておる。最近におきましてはさらに労働能力の回復施設等も労災病院に敷設いたしまして、そういった施設もやっておる。そういったようなことは明らかに労働基準法における使用者責任以上にはみ出る部分でございます。しかしながら、いずれにしましても労災補償保険法の実体と申しますか、本体はあくまでも労働基準法の表と裏の関係にある部分が本体であり、大部分を占めるということは、これは申すまでもないことでございます。
  101. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 私はこの法体系の問題で強く指摘したいのは、今のような、われわれしろうとの法律書生ではちょっとわからないような部分に、知らぬ間に基本的な法理念からはみ出すようなものを加えておいて、こういう例外があるから、従ってもっと大きな基本的な法理念の相違をやっても、これは異質のものではない、こういう援用をされることは困る。法律は何も法律を作った者あるいは立案に当たった役人だけが見るものでなくて、これは普通の常識にゆだねなければならないものです。従いまして今業務上の疾病に対して日本の労働基準法あるいは労災法業務上の疾病責任使用者に限定せずに、国家にもはっきりと責任を持たせておる、こういう法体系になっておると考えてよろしゅうございますか。
  102. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 これは先ほどお答え申しましたように、労働基準法、それとうらはらの関係にある労災補償保険法を通じまして、業務労働者の受けた疾病あるいは災害については使用者責任において災害補償するというのが基本的な理念であります。
  103. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 その基本的な理念を今度の改正法案がくずしつつある、こういうふうに私は考えるわけです。少しぐらいくずしても根本はくずれぬということになるかもしれぬ。今も何とか病院のどうのこうのという話があった。しかしほんとうの質の根本をくずすようなものがある場合は、法体系、法理論としては十分吟味しなければならぬ問題だと私は思う。  もう一つ問題を進めて、今の使用者の三年間の無過失責任の本来の法の建前は、根本的に無過失責任使用者に強要しておるから、それが無制限であってはあまりにかわいそうだというので、私は三年間の打ち切り補償という制度を採用して使用者を救済しておるのだろうと思う。この概念を今度ははっきりとくずして、長期療養による長期補償という建前になった、こう私は考えるのでありますが、確かにこの審議会の答申書を見ますと、その点について使用者は非常に執拗に論駁を加えておる。われわれの責任がふえたのだろうかといって非常に心配しておる。三年間以後にもわれわれの責任を持たなければならぬようになったのだろうかといって心配しておる。労働者の方は逆に、本来使用者がはっきりと責任を持っておってくれたものに何だか訳のわからぬ国の責任みたいなものが入ってきた、そうすると、あいつは逃げるのじゃないかといって心配しておる。私は今度の改正使用者責任という問題について、従来の考え方からプラス・アルファをしてマイナス・ガンマをしたと思う。そうでしょう、使用者責任に対してプラスの何かを加えて、マイナスの何かをとった、こういう関係において、使用者責任というものが従来の法理念の建前から見ると、非常にややっこしくなってきた、こういうふうに思うわけであります。  繰り返してもう一ぺん言いますと、どうでしょうか、今度の労災補償保険法で国の負担をはっきりと何条でしたか、こしらえられましたね。そのことは、労働基準法にまでさかのぼって、業務上の疾病に対しても国は何がしかの責任を持つべきだという考え方に立つものであるかどうか。
  104. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 労働基準法による使用者責任は、先ほど来先生が御指摘なされておる通りでございまして、三年間の療養中はもちろん使用者責任において補償がされるわけでございますが、その三年を経過してもなお、なおらないという場合には、平均賃金の千二百日分の打ち切り補償を支払うことによって、それ以降の補償責任が免責されるという建前をとっておるわけでございます。労災補償保険法におきましてもその労働基準法考え方を受けまして、その点においては両方の間に食い違いは全くないわけでございます。ただ今回長期年金制度を採用するにつきまして、国庫負担がそこに入ってきた、それは、従来の労災補償保険法にとって異質なものではないかという御質問でございますが、従来の基準法による使用者責任及びその範囲というものは、基準法が変更されない限り、この点については変更は何らないわけでございます。ただ一番問題になりましたせき損患者あるいはじん肺患者のように、相当長期の治療を必要とするというものにつきましては、この労働基準法なり現行の労災補償保険法の定めておる補償の程度あるいはその内容では十分ではないということがはっきりしてきましたので、それを補うための措置として御承知特別保護と、さらに引き続いて臨時措置法という法律が特別に制定されて、その足りない分を補っておるわけでございます。しかしながらこの両特別措置は、いずれも二年間という期限付でございまして、それ以降について何らの保障がない。従って、こういう法律の適用を受けておる患者にとりましては、自分の将来について非常な不安を持っておるわけでございます。従って、そういうような不安定な状態に置くことは望ましくないから、より根本的な、ほんとうに安心できるような根本的な対策を考えろというのが臨時措置法の第十三条の政府責任として課せられたわけであります。それで、それに対する措置として考えられましたのが、今日の長期補償制度でございます。ところがこの年金制度を採用するにつきましては、従来の労働基準法による使用者責任の範囲との関係をどのように調整するかという問題が、一つの非常に調整の困難な問題であったわけでございます。そこで今回の改正法律案考え方は、従来の基準法による労働者責任の範囲というものはそのままといたしまして、その八十一条の打ち切り補償を越える部分について、これは従来の基準法による使用者責任を越えるものでございますから、その越える部分については政府が負担をするという考え方をとったわけでございますけれども、その流れております基本的な思想は、あくまでも労働者作業場において働いた結果、その業務に起因してけがをし、あるいは疾病にかかった、しかもそれは長期療養を必要とする、そういった業務上受けた労働能力の損失なり損害というものを補償するという考え方には、基本的には変更はないわけでございます。ただ国庫負担が入ったということは、従来の打ち切り補償制度にかわって、年金制度という非常に手厚い保護考え方が採用されたために、これに要する経費等につきましても非常にその額がふえてきた。その範囲なら、対象が拡大されたのに応じて国庫がその何割かを負担する、こういう考え方をとっただけでありまして、私どもはそういったような意味におきまして、決して従来の労災補償保険法考え方と異質なものだというふうには考えておらないわけでございます。
  105. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 長期給付という形をとられて、そして補償強化されようという考え方に反対しておるのではない。従って、私は今後ほんとうに、言われておるような長期給付によって手厚い補償がされておるような内容になっていくかどうかというのは、私はあとで吟味すると言っておる。私が今ここで言っているのは、法体系の問題である。なぜならば、今基準局長が言われたような理屈で、もっと手厚い補償はしたいんだけれども、ちょっとこの法上の建前があるからと言う。この法上というのは、労働基準法あるいは労働者災害保険法という建前があるからだ。この箱の中だからそうはいかぬのだといって、本格的な保護対策を逃げられる危険性が現実にこの中に出てきておる。だから、私どもは初めから単独職業病法というものを作ってやりさえすればいい。その中なら法概念の矛盾を来たさずに、使用者責任と国家責任というものを加味して、この二つの責任で十分なる法体制ができるような制度を作ろう、こういう建前をとっておるのですから、話をこんがらかせないで下さい。  それではもう一ぺん重ねて聞きます。一つずついきましょう。労働基準法上の建前とは別に、今度は労災法改正によって、いわゆる業務上の傷病に対し事業主以外にも、つまり国にも責任があるという建前に変更したのですか。法概念として……。
  106. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 その点はただいまもお答えいたしましたように、業務上の疾病災害補償につきましての使用者責任というものは、労働基準法によって定められておるわけでございます。ところが今回の年金制度の採用に際しまして、年金制度というものは、従来の基準法による使用者責任の範囲では採用ができないわけでございます。従って、そのはみ出た部分については政府も応分の負担をして、使用者と共同で補償をしていこう、こういう考え方でございます。
  107. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 年金制をとるかとらぬかというのは話が別なんだ。年金制をとった方が補償が手厚くいくというなら、それはまた話が別になると思う。その政策内容に入っておるのではないのです。今あなたはどういうふうに言われましても、ともかく責任のないところに国から費用を出すというのは、私は国会議員として断じてやれません。現在の労災法の建前は、使用者の無過失責任を決定しておる法律である。この法律で国の費用を出すということができますか。これはやはり法概念として、国の責任もあるという建前をとらなければ、使用者がどうあろうと、国から費用を出すわけにはいきません。
  108. 松野頼三

    松野国務大臣 法概念は基本的に基準法を変えておりません。従って、国家の費用を出すという概念を、今回の法律案規定しておるわけではありません。
  109. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 そうすると、今度の改正によって、労働基準法と同じように、また従来と同じように、業務上の傷害に対する責任は、あくまでも使用者オンリーにあるという建前ですか。基準法も今度の改正法案も同じで、あくまでも使用者側にある、こういう建前ですか。
  110. 松野頼三

    松野国務大臣 その通りでございます。ただ今回の改正案は、つけ加えますと、それから先の問題であります。基本的には、基準法というのはいわゆる最低限を規定しておる法律でありますから、それより越えた部分についてが今回の改正であります。従って、基本概念として矛盾しておらない。越えた部分について今回の改正案は提案いたした、基本的には変わっていない、こういうことであります。
  111. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 松野さん、政策としてはわかる、法理念としてはわからぬ、私はこう思います。労働基準法あるいは労働者災害補償保険法という建前は、これはあくまでも業務上の障害があった場合には、使用者責任を持ってこれの補償をせい、まずこうきめてある。ところがあまりたくさん補償せねばならぬらしいから、そのたくさんらしい部分は政府がめんどうを見ろ、こういう概念を、政策上あまり酷だからというのでつけ加えられておる。政策上でつけ加えられても、法理念自身はあくまでも今言ったように使用者の無過失責任を基本的にきめた法律なんです。だから政策がそうであるならば、そういう政策が妥当するような法体系をとられたらどうですか。
  112. 松野頼三

    松野国務大臣 従って無過失賠償責任の限界は、今回の法律によって少しも矛盾も改正もしておりません。それから先は、いわゆる今回の改正案におきましては、産業関連、人道上、政策上の問題であります。従って基本は私たちはくずすものじゃない。というのは、その限界においてはあくまでも今までの限界と理念を通して、それから越えた部分という問題、これはおそらく佐々木さんは、それから先は理念は違うのか、こういう話になりますが、理念は違っておりません。ということは、労災保険法の精神を生かしてやったわけであります。ということは何だというならば、その本人の労働者の福祉、疾病に対する手当というものの限界を厚くしたということであります。従って理論的には何ら抵触もしていなければ基本概念を変えてもいない。では国庫負担がなぜ入ったかというと、それは今までのけい肺及びせき損等におきましても同じような理念であった。すなわちけい肺せき損という産業病になぜ政府補償したかという議論にこれはさかのぼるのではなかろうか。それはその産業病気特殊性に応じて今日でも国庫負担をやっておるので、それもおかしいじゃないか、けい肺であろうが何であろうが無過失賠償責任使用者責任には変わりはない。しかし今日けい地法というものができてやっておる、それに国庫負担も入っておるという理念を今回この基本法に生かしたのであって、特にこれは私は変わっているとは思っておりません。
  113. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 従来のけい肺法の理念をこの法律に生かすところに矛盾があるのではないかと言っているのです。従来の基準法や災害法によって救済できないから特別保護法ができたのです。特別保護法によって初めて今のような国庫負担を含めるような方法を可能にせしめる、そういう道を開いた。そのための特別保護法なんです。その考え方を今度もっと根本的な基準法の中にもう一ぺん戻そうとするところに問題がある、私はこう言っておるわけです。違いませんか。
  114. 松野頼三

    松野国務大臣 おそらくけい肺及びじん肺法ができました当時、根本的に検討するならば今回のような案が出ただろうと存じます。しかしすでに四年前、これも非常に早急の立場でできた法律でありますし、私の記憶では第一回は議員立法だと考えます。そういう時間的制約、現状に追われて今日の立場としてはけい肺及びその法律ができたのでありますから、できた当時から根本的な改正をしろというのはこの法律につき添った一つの理想であったわけで、早く根本的改正をしろというのは毎年起こっておった。これが永遠にいくならば、おそらく年限法なんというものはできなかっただろうと思う。やはりみんなが何か基本的なものを作るまでというので一年延ばしあるいは二年延ばししてきたのがじん肺けい肺法であります。従って抜本的なものを早くしろというのはこの立法当時からの問題であります。これでもしよかったならば期限付の立法ではなかっただろう。私は、法体系は考えられる。従って法体系上はあくまでもけい肺法というのは臨時的なものであって、近い将来において抜本的対策を立てるというのが制定当時からの思想だ。それを今回抜本的対策として入れたのでありますから、佐々木さんの御議論と私の議論はそう違っていない。従って今回その趣旨で、その方向で法体系としてこれが抜本的対策だと私は信じております。
  115. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 抜本的対策の内容は、おそらく長期給付を中心とし、そして補償責任に国の負担も入れるということになるでしょう。今私が言っているのは抜本的対策の内容を盛る法手段のことを言っている。そういう内容を盛るのには職業病法的な単独立法の概念でなければ非常に多くの矛盾があり得る、こういう建前に立っているわけです。ですから今までのような保護法の内容を持っておるから、従ってその内容をそのまま基準法に持ってきていい、労災法に持ってきていいということには断じてなりませんね。
  116. 松野頼三

    松野国務大臣 おそらく職業病的な特殊な立法が将来考えられることは私も否定はいたしません。しかし社会保障制度審議会というものを今日置きまして、総合的な国家の審議機関がやっておられるときに、もしかりに新しい法体系を持っていきましたならば、おそらく社会保障審議会から今回のような円満な答申は出してもらえなかったかもしれません。従って今回はやはり既存法の中において生かし得るというのが最大限であって、将来社会保障制度審議会において大きな改正がありますときには、当然この問題も再検討されるでありましょう。従ってここで新しい恒久立法をするということは、すべての審議会の中においても皆ちゅうちょされておる。その意味で、現行法の中で取り入れられるものは取り入れ、取り入れられないものは、じん肺法という予防衛生管理という面から取り扱った。しかし私は今日の場合これが最大のものだと思う。もし職業病的な根本的なものを立てろといわれますならば、今日の場合間に合うものでもなければ、昨年のこの法案における一年間にやれという趣旨とは非常にかけ離れたことになってしまう。従って満足ではございませんけれども、その趣旨を生かし、各審議会の御審議を経た段階においては、今回はいわゆる既存法の中に生かすということが国民のために一番妥当ではなかろうかと思うのです。
  117. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 松野さん、制度審議会は反対しているのですよ。あなたは勘違いしておられますな。ここに制度審議会の答申ではっきりとそう出ておる。あなたはけい肺審議会の公益委員意見社会保障制度審議会意見と勘違いしている。せっかく名演説だったけれどもそれは工合が悪い。よく見てごらんなさい。
  118. 松野頼三

    松野国務大臣 本審議会業務上の傷病一般について、これはむしろ年金の方が適当であると考えるとある。全然反対をしているわけではありません。(「裏を見ろ」と呼ぶ者あり)労働基準法の定める一時金よりもむしろ年金の方がよろしい。問題は労働基準法に定めるものよりも今回の改正がよろしい。ということは、やはり既存法というものを念頭に置いて、一応これは妥当としている。裏の方はおっしゃるように、いろいろ法体系として新しいものを作ることはよろしくない。新しいものを作るのにはちゅうちょするというのが裏の問題だと思う。それには職業病とかいろいろ新しい立法をするには少し議論があるということであります。最初の方は明らかに今回のこの程度のものはまあよかろうではないかというのが答申の精神であらねばならない、私はこう読んでいるのです。
  119. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 またえらいことになってきて、基準局長が弱っておるですよ、大臣。これではいつまでたったって先へいけやせぬ。あなたが今言われた第一ページの方は、社会保障制度審議会が答申しておるのは、年金制度という考え方がいいと書いてある。それは労働基準法にきめてあるものは大体一時金だ、一時金の範囲を基準法やあるいは労災法はおそらく出られないだろうという観点に立って、そういう一時金制度よりも年金制度がいいと書いてある。これが一ページです。それから裏の方は、もしその年金制度を現在の法体系の中から一番うまく作ろうと思うならば——読んで上げましょうか。「むしろ職業病に対する国庫負担中心特別保護法を単独制定するほうが、適正かつ公平な措置を講ずることができるであろう。この案のように、職業病も、偶発的事故による災害も、同一の範ちゅうに入れることは、多くの点において異質のものを同一扱いしようとするものであって、かくては職業病に対する特殊の保護を弱めるおそれがある。」ですから制度審議会は、今のこの改正労災法改正でやることには全然反対なんです。しまいの方にはちっとはやむを得ぬと書いてあるかしらぬが、これは全然反対なんです。そこをこんがらがってしまったらどうにもならぬ。
  120. 松野頼三

    松野国務大臣 局長から答えさせます。
  121. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 ただいまの点につきましては、社会保障制度審議会では、先ほども申し上げたのでございますがこの業務上の傷病に対して現行の労働基準法の定める一時金よりも今度の改正法案による年金の方が適当であるということははっきりいっておるわけでございますが、後段におきまして、職業病の取り扱い方につきましては、ただいま佐々木先生が読み上げられた通りでございまして、ただ先ほども申し上げましたように、この点につきましてはけい肺審議会あるいは労災補償審議会の公益委員考え方と、社会保障制度審議会考え方が遺憾ながら一致しておらないわけでございます。労働省としましては、一年有半にわたりましてけい肺審議会あるいは労災補償審議会におきまして、この点を抜本的に対策を講ずるためにはどのような措置がいいかということを各方面から検討した結論としまして、公益委員考え方でございますが、それは現行の労災補償保険法の中で一緒に取り扱って、しかもそこに年金の考え方を取り入れる、その方が現状においてはとにかく一番妥当であるという結論が出されておりましたので、その線に沿って改正法案をまとめてきたわけでございますが、その最終の段階におきまして社会保障制度審議会から、年金制度はよろしい、しかしながら職業病偶発的事故も一緒にやることは、職業病に対する保護が薄くなるおそれがあるので、この点はいかがであろうかという別な見解が出されたのでございまして、この点については私が先ほど答弁申し上げた通りでございます。
  122. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 ほかの同僚の委員にまことに申しわけないのだけれども、何べん言ってももとのところに戻ってしまうので、これはがまんをお願いいたしたいと思う。先ほどその話があったから、従ってほんとうならば制度審議会の方をもっと考えられたい、重視された方がよかったのではないかということを振り出しにして、しかしその理屈の内容を吟味しましょうということで、今のじん肺法けい肺審議会の公益委員考え方は、今のような労災保険法の改正でよかろうということだが、そのよかろうの理由は、先ほど言った、他の類似傷病との保護の均衡であるとか、あるいは保険料の徴収やそれに関連するような保険技術士の問題がおもに述べられてある。この二つくらいの理由ならば、基本的に労災保険法によらなければならないということよりも、職業病法という単独法制定を決して否定する理由にはならぬではないか。従ってここで吟味しなければならぬのは、従来の法概念の基本であるところの基準法並びに労災法の建前の中に新しく今特別保護法から出発してきて、松野大臣が入れようとするところの新しい長期給付体制という新制度、しかもそれは国庫がある程度負担をしているという新しい制度をこの災害保険法の改正の中に入れていいのかどうかということをもう一ぺん理論的に検討してみましょうというところから問題が始まっているのです。そしてその中で、こういう概念が入ったのでまず一番最初におかしくなってきたのが、使用者責任の概念だということになっているわけです。基準局長、今の話の続きをしましょう。基準法上の使用者責任の問題を言っておったわけですが、基準法上の建前は、あくまでも今も言いましたような使用者責任ということを明らかにしておる。業務上の事故に対しては使用者責任ありという建前を明確にしておる。今度はその基準法の建前とは全然別に労災法改正によって、新しく国も金を出せという概念を入れてあるが、このことは責任のないところでは命が出せぬのだから、従って今度の改正法によって、労災法上は業務上の疾病に対しても国がある程度責任を持たなければならぬという概念を取り入れられたのか、こう言っているのです。
  123. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 先ほどから申し上げますように、労働基準法上の使用者責任については、今回の改正法案におきまして何ら変更はございません。ただ問題は、労働基準法なり労災補償保険法における使用者責任を越えた部分についてなお療養を必要とするような状態が現実にある。そのような現実必要性に対してどのような対策を講ずるかという問題だと実は思うのでございます。そこでけい肺せき損についての特別保護法なりあるいは臨時措置法というものは使用者責任を越えた以降についての特別の措置でございまして、そういったものにつきましては使用者責任を越えておるわけでございますから、それを全部使用者責任において処理させるということは、どう考えましても、そこに無理があるわけでございます。そこで現在の特別措置におきましても、国がその若干部分を負担しておるという政策を採用しておるわけでございまして、今回の改正法案におきまして、従来の使用者責任を越える部分については、これを全部使用者責任において処理させるということは酷でございますので、そこは政策的に国がその若干部分を負担する、こういう考え方をとっておるわけでございます。
  124. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 それではその裏を言いましょう。今度の改正法によれば、三年間の無過失責任の建前をくずしたでしょう。打ち切り補償という制度をやめたのです。打ち切り補償という制度をやめたことは、三年間の療養が済んだ後においてもなお療養しなければならぬような状態のある患者に対しては、使用者責任があるという建前をとっておるのではないですか、どうですか。
  125. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 その通りでございます。
  126. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 打ち切り補償によって全部責任がなくなるのではない。四年目以降の療養を必要とするものに対しては、なお使用者はそれをなおす責任ありという建前に変更したのですな。それはいいですな。
  127. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 その点、若干私の答弁の食い違いがあったかと思いますが、もう先生も御承知のように現在の基準法の建前におきましては、三年も療養してもなおなおらないというものについては打ち切り補償を支給することによって、その後の一切の補償責任が免除される、こういう建前になっておるわけでございます。今回の改正法案におきましては、その打ち切り補償にかえて長期の年金による補償をやろう、こういうことでございますので、しかも、従来の打ち切り補償に見合う部分については、今回の改正法案におきましても全額使用者責任において補償するという建前をとっておりますので、その点についても従来と何ら変更はないわけでございます。
  128. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 政策を言っておるのではないですよ。法概念を言っておるのですよ。従来のこの法律の建前は、業務上の疾病に対する使用者の無過失責任をきめたものだと、あなたはさっき言われたでしょう。無過失責任をきめたのだから、本来なおるまでは全部責任を持つというのがほんとうの建前です。それは少し気の毒過ぎるからというので解除条件つきで責任をつけてある、現在の法律は。その解除条件というのが三年間の打ち切り補償です。三年間の打ち切り補償をやった場合には、以後免責するという建前になっておるわけです。従ってこれを裏返してみれば、本来は無過失責任を永久的に無制限に持つべきものであるが、三年間の打ち切り補償によって、それを解除条件としての責任というふうに建前を作ってあるのが私は現行法だと思う。ところが今度は三年間が済んでも療養を必要とするものに対しては、なお長期療養をさせなければならぬということになったわけだ。そうすると、従来の解除条件を発生しないのです。従って私は使用者責任は、業務上の疾病を起こした場合には、使用者ははっきりと責任を持つのだという原則に戻ったというふうに解釈するよりほかないと思う。今あなたはそのことを肯定されたのですけれども、そうでしょう。もしそうでないとすれば、先ほど言いましたように、四年目以降じん肺については四分の三政府が持つのだ、その他のものについては二分の一の費用を政府が見る、こう法律に書いてある。それなら逆に四分の一と二分の一とは政府でなくてやはり使用者が持たなければならぬことになるのじゃないか、三年間を越えた部分についても使用者責任があって初めて金を出すという義務がくっつくわけでしょう。だから使用者責任はこの部分においては、はっきりと従来の建前からプラス・アルファしたわけです。
  129. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 基準法の建前におきましては千二百日分の打ち切り補償を支払うことによって、その後の補償責任が免責される。労災補償保険法との関係におきましては、労働基準法第八十四条におきまして、「労働者災害補償保険法によってこの法律災害補償に相当する保険給付を受けるべき場合においては、その価額の限度において、使用者は、補償の責を免れ、」ということになっておるわけでございます。従って現行の労災保険法におきましては、やはり打ち切り補償を支給することによって労働基準法上の使用者補償責任が免責される、こういう建前になっておるわけでございますが、今回は、従来の打ち切り補償——これは分割補償の場合は六年間に限定されておるわけでございますが、その六年間程度の補償では十分でない、必要な療養にこたえられないということで、年金という考え方をとったわけでございます。  そこで問題は、打ち切り補償との関連は一体どうなるのかということでございますが、打ち切り補償は、ただいま申しましたように、分割の場合も六年以内、ところが今回の年金は必要がある限り終身までその補償を労災補償保険という方式において補償を見るわけでございます。従来の打ち切り補償の限度よりははるかに手厚く、それを越える部分がはっきりと出てくるわけでございます。従ってその越える部分については従来の使用者責任以上に出てくることになりますので、その点については国が政策的にその一部分を負担しよう、こういう考え方をとっておるわけでございます。
  130. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 ですから、長期給付をやろう、長期給付が必要だ、そしてそれに十分な費用を出さなければならぬということが本来のじん肺対策の、じん肺審議会結論なんでしょう。療養に対しては長期給付は必要だ、それには必要な金を出せということになっている、その建前を現在のこの災害補償法のワクの中に入れるから、今のような使用者責任の問題がおかしくなってくる。しかし入れた限りにおいては、あなたはそれは法理念としてはっきりしなければ工合が悪い。それでは今話が出ましたから先に行ってみましょうか、打ち切り補償という制度は今度なくなったのですか、まだあるのですか、どっちなんですか。
  131. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 今回は、従来の打ち切り補償にかえて長期傷病者補償というものを支給するわけでありますので、この新しい改正法案第十九条の三におきましてそれをはっきりと規定してございます。すなわち第二項におきまして「労働者長期傷病者補償を受けることとなった場合は、労働基準法第十九条第一項の規定の適用については、当該使用者は、同法第八十一条の規定により打切補償を支払ったものとみなす。」さらに第一項におきましては、この長期傷病者補償は、基準法第八十一条の規定による打ち切り補償に相当する保険給付であり、かつ、それらの価額は、これらの同法の規定による災害補償の価額にひとしいものとみなす、こういうふうに第十九条の三で、その点は法的にも明確に規定しておるわけでございます。
  132. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 基準法の八十一条というのはまだ生きているのですか。あるいはなくなったのですか。
  133. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 基準法の八十一条は当然生きておるわけであります。
  134. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 労災法では打ち切り補償という制度は完全に消えてなくなった、基準法では打ち切り補償制度というものは従来と同じように生きておる、こういうことですか。
  135. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 労働基準法上の打ち切り補償の制度は、これは労災保険法と関係なしに当然生きておるわけでありますが、労災補償保険法上の打ち切り補償の制度につきましては、ただいま申し上げましたように、この長期傷病者補償を受けるに至った場合は、打ち切り補償に相当するものであるというふうに法律規定しておるわけであります。
  136. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 打ち切り補償制度を基準法でどうしてまだ残しておかなければならないのか。打ち切り補償制度を労災法では明確に削除しておいて、そうして基準法でははっきりと残しておかなければならぬ理由。
  137. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 御承知のように、労災保険法の適用の問題でありますが、労働基準法の適用を受ける事業場で労災保険法の適用を受けない任意適用事業があるわけであります。そういう労災保険法の適用を受けない事業場についての使用者責任は、当然労働基準法規定しておるわけでありますので、そういう労災保険に未加入の基準法の適用事業場については第八十一条が必要になってくるわけであります。
  138. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 対象の相違は今のような格好であるならば、建前としてはどういうことになるのか。打ち切り補償制度というものをなくして長期給付にするという建前だと私は思った。そうすると打ち切り補償制度というものが前提になって、まだいろいろな制度なり考え方なりが残っておるということですか、どういう関係になるのですか。
  139. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 労災保険法の適用を受けない事業場については、基準法の第八十一条の必要性がございますし、これは当然生きておる。そうしますと、労災保険に未加入の事業場で長期のいわゆる年金による補償を必要とするような者が出た場合に、この基準法の第八十一条の関連はどうか、こういう御質問かと思いますが、それは確かに大きな問題でございまして、そういう事態に備えるために今回の改正法案におきましては、そういう必要が発生するまでは労災保険には加入しておらなかった、加入しておらなかったのがそういう必要性が起きてきた場合には、そのあとから労災保険に加入すれば年金による長期補償が受けられるという制度を今回の改正法案においては採用しておるわけであります。そういうことによってこの労災保険法による年金制度、それから基準法による打ち切り補償の適用事業場との関係の調整をはかって参りたい、こういう考え方になっておるわけであります。
  140. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 ますますわからなくなってきた。対象がこんがらかるのか、中身がこんがらかるのか、法理念がこんがらかるのか知らないが、これだけ聞いてわからなければ、読んだ者はなおわからない。それならこういう法律は作らない方がいい。一体どういうことなんだ。それならもう一ぺんもとに戻りましょう。使用者責任というものはどの程度なのか、国の責任というものはあるのかないのか。この業務上の疾病あるいは障害というものに対して従来の建前から変わったのか変わらないのか。
  141. 村上茂利

    ○村上説明員 先ほど来局長が御答弁申し上げておる通りでございますが、使用者責任と申します場合に、それが法律上明確な責任であるか、社会的な責任であるか、しかも法律上の責任と申します場合に、共準法上の責任であるのか、保険法上の責任であるのか、そういう問題があると思います。そこで使用者責任と申します場合に、労働基準法上の責任は御承知の通りでございますし、この改正法案によりましても、その基準法上の使用者責任は変わらないわけでございます。  ところで、しからば今度の長期給付制度等の新たなる制度につきましては、法律上の使用者責任があって、その裏づけとしての長期傷病者補償であるか、こういう問題になりますと、現在のけい肺特別保護法が、ある使用者責任というものが法律規定されておって、それを受けた特別保護法として現在の特別保護法が存在していないと同じように、今度の労災保険法の新しい長期傷病者補償につきましては、これは労災保険法上の新たなる措置でございまして、それに見合う使用者責任と申します場合に、従来の基準法上の使用者責任に見合う意味労災保険法の補償費の支給がありまして、そういう意味における使用者責任はない、法律的にはそう申さざるを得ません。ただしからば、根なし草のように全然根拠のないところに長期傷病者補償を行なうのか、こう申されますと、それは言うまでもなく業務上の負傷、疾病によって起こりましたところの事故に対しまして保険するのでございますから、その根本においては使用者責任ありということでございまして、先ほど労働大臣から御答弁ございました通りでございます。  ところで第二の問題として、しからば労災保険で行なう保険給付と打ち切り補償との関連はどうなるかということが第二の問題でございます。現在の労災保険法上の打ち切り補償が支払われますと、それが法律的な意味においても全くイコール基準法上の打ち切り補償というように考えられておりますが、そのよりどころは基準法の八十四条にあるわけでございます。言うならば労災保険法で行なわれました補償労働基準法上の補償と同じように評価されるべきかいなか、どういうふうに評価するかという一つのふるいを通す必要があるわけでございます。先ほど基準局長から御答弁ございましたように、労災保険法はややもすると責任保険法だ、こういうふうに言われる傾向もございましたので、基準法上の補償労災保険法上の補償とが全く同一であるというふうに判断せられる傾向がございましたが、それは実態的にはそうでございましょうが、法律的に判断いたしますと、一応別個のものであり、労災保険法上の補償が基準法上の補償とどのような関係になるか、労災保険で給付を行ないました場合に、それが労働基準法上の補償としてどのように評価すべきかという点は、従来八十四条の規定によってなされておったわけでございます。その点について今後疑義があると困りますので、念のための規定でございますが、先ほど局長から申し上げましたような点を改正法において明確にいたしまして、その評価をどのようにするか、法律的な考え方をどのようにするかということを、改正法の十九条の三におきまして規定しておるような次第でございます。
  142. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 補償内容の問題と、補償責任の所在という問題とは別です。大体親と子とで必ずしもないとは松野さんも言われますけれども、たとえば憲法において責任なり義務なりという概念を規定する、その責任なり義務なりという内容を憲法以下の法律によって裏づけする場合において、その内容がちっとははみ出ているように見えたり、あるいは少ないように見えたりするというのは、そこが必ずしも完全に一致しておらなくてもどうということはないでしょう。しかしながら憲法以外の法律によって憲法で規定しておらないものに義務を課そうとするならば、これは非常に問題になってくる。そう思いませんか。従ってこの基準法と労災保険法との関係において、今問題にしているのは補償の内容の問題ではないのです。補償をだれがどういう場合にすべきかということを決定しておるのは労働基準法です。その基準法による補償責任を、金がなくなって払えぬようになったら困るというように逃げられぬように、なるべく中身通り、中身を持たして補償内容を持たせようというのが保険法でしょう。従って基準法上責任のないものに保険法によって義務を課し、責任を課することはできないと思う。法の建前からいって、どうしても国としての責任がないでしょう。それならばはっきりと基準法を改定して、一定使用者責任に帰せしむべき内容以外のものについては政府責任を負うべしという法理念がはっきりあるならば別ですよ、そんなものはないじゃないですか。だから今度新しく、国にも責任ありという概念を今度の法律によって加えられたのかと聞いているのです。加えられたのならば、それに相応した改正も基準法の力にもされるべきだ。  それからもう一つは、三年間で打ち切り補償をやった場合には免責されると書いてある。従って今のような無過失責任を無制限でやることを救済しているのが、打ち切り補償制度による補償責任の解除になっているわけだ。今度はそれがなくなって、四年でも五年でも六年でも、使用者責任を持って補償しなければならぬことになってきた。だからその面については使用者責任を増加されたのか、逆に言うならば三年間の免責というこの建前をはっきりとくずす、こういう建前をとられたのかと聞いているわけです。だからこの法律によって変えることが必要であるかないかということは別問題なんです。こういう措置が必要であるというならば、その措置をこの法律によってとることが工合が悪ければ、他の法律によってとられればよろしい。今法体系を問題にしておるのであって、その措置が必要であるかないかじゃないのです。その措置を必要とするということは私も変わりはない、もっと必要な措置を私どもは要求している。その措置をとるのに労災法改正という手段がいいかと言っておる。そうしたら、あなた方はいいと言われるから吟味してみると、基準法との関係がちぐはぐになってくる。ちぐはぐになっていいのかと言えば、ちぐはぐになっていいでもない、悪いでもないような返事をされるから、私にはさっぱりわからないのです。
  143. 村上茂利

    ○村上説明員 基準法の災害補償責任と保険法との関係でございますが、この点につきましては、はなはだ恐縮でございますが、外国の立法例などを見ましても、基準法的な使用者責任、そういうものがなければ保険法がないかと申しますと、そういう使用者の裸のままの災害補償責任規定した法律がなくても労働保険なり、あるいは社会保険という制度自体の中に補償を行なうような制度を採用しておるという例は少なくないのであります。そういう基本になる、裏づけになるところの責任がないにかかわらず、業務上の負傷疾病に対して特定の給付をなすという例は、たとえばこれはレア・ケースでございますが、厚生年金保険の障害年金を見ますと、障害年金は業務外のみならず業務上の負傷疾病に対して支給するわけでございます。そこで厚生年金保険における障害年金の裏づけになる使用者責任なり、国の責任というものは何かという問題になりますると、実定法上この保険法以外にそういう使用者責任あるいは国家責任というものを明定した法律はないように思うわけでございます。従いまして今労災保険法におきまして年金制度を導入いたします際に、その裏づけになる使用者責任が実定法上明確になっていないからできないのだという議論は成り立たないのではなかろうか、かように思うわけでございます。これは外国の労災保険法なり労働保険法をごらんいただきますと、そういった裏づけのいわゆる基準法的な使用者責任規定がないにかかわらず保険法で措置しておるというのが幾つもあるわけでございます。  次の問題としまして、しからばそういう長期傷病者補償制度を設けました場合に、基準法の打ち切り補償という制度はくずれてしまって、実質的に使用者責任がその点において変わってくるんじゃなかろうか、こういうことでございます。しかし再三申し上げておりますように、基準法上の使用者責任の範囲なりあり方は現行法通りでございまして、全く変わりません。問題は、今度新たに設けられました長期傷病者補償をどのように評価して、基準法の打ち切り補償とどういうふうな関連を持たすかというふうな問題であろうと思います。その点につきましては、再三申し上げまして恐縮でございますが、改正法の第十九条の三におきまして、その打ち切り補償とのつながりを明確にしておる次第でございます。
  144. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 従来の法律で義務づけておったのは、今のあとの問題ならば、それは保護法によって裏づけておったのでしょう。保護法の建前は、そういうものができる建前の法律だからですよ。今度の災害補償法という法律の本来の建前は、そういう概念を含まない法律であったではないか。だから新たに概念をここでつけ加えられたのか、そういう意味です。  それから今のお話を聞いていると、基準法と労災法は何ぼ概念が違ってもいいんだというお話でありますけれども、それは私は話がおかしいと思う。もとの法律がないものならばいいと思う。もとの法律があるのに、同じ内容のものでない責任やあるいは範囲があるとするならば、これは非常におかしいものだと思いますよ。どうしてそういうことになるのか。そして、ともかくも今の基準法、労災法によれば、今のところ明確に使用者責任というのは三年で打ち切られ得ることになっている。それを今度は新たにその責任をプラスするわけですから、従って従来の建前が変わってきたということになるじゃないですか。変わってこないという建前をとるのは、従来の特別保護法の建前とは変わってこないということなんです。だから、政策なり措置なりということについては変わらないですよ。しかし法の建前、保険法自身の建前はそれで変わってきたじゃないか。違いますか。だんだんこっちも頭がこんがらかってきたけれども……。
  145. 村上茂利

    ○村上説明員 どうも恐縮でございますが、理論的にも非常にむずかしい問題でございますが、要しまするに、現在の労災保険法上の打ち切り補償費というものと、新たに設けます長期傷病者補償というものが全然異質のものでございますれば、また別な問題も起こると思いますが、全く異質のものではなくして、現在の打ち切り補償というものを根底に置いて設けた制度であります。ただ打ち切り補償費を越える部分があるということだけでございます。従いまして、その長期傷病者補償の中に実質的に含まれておりますところの、従来の打ち切り補償費的なものが、基準法の打ち切り補償とどのように関連して取り扱われるか、こういう問題であろうかと思います。使用者責任は変わりはないのでありまして、さらにつけ加えて申し上げますならば、打ち切り補償費というもの、基準法上の打ち切り補償も、労災保険法上の打ち切り補償も同様でございますが、三年たったら必ず出さなければいかぬという制度じゃございません。御承知のように打ち切り補償を行なうことができるという制度でございます。従いまして、たとえば三年たって、さらにあともう一月たてばなおるであろうというような場合には、千二百日分の打ち切り補償費を支払うよりも、一月の療養費を見た方が有利であると使用者が判断いたしますれば、この一月だけの療養費を見まして、打ち切り補償は行なわないということももちろん可能なわけでございます。そういうような関係は、現在の労災保険法の打ち切り補償費においても同様でありまして、あと数カ月たてばなおるという場合には、三年たっても打ち切らずに、なお三カ月間の療養を引き続いてやるという例はあるのでございます。そういう制度でございますから、何と申しますか、使用者の判断、労災保険法におきましては監督署長の決定というものにかかわらしめておる制度でございますので、そういう制度との関連においてお考えいただきますならば、一そう従来の制度というものは変わらない、こういうことがあるいは御理解いただけるかと存ずる次第でございます。
  146. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 ますますわからぬようになってきたが……。そうすると、今度の改正法によって逆に打ち切り補償もできるのか、今度の改正法ができてもなお打ち切り補償という制度があるのか、基準法にあるのだから……。その場合には災害法によるところの保険にはならぬということなのか。だったらえらいこっちゃないか。
  147. 村上茂利

    ○村上説明員 改正労災保険法におきましては、打ち切り補償費という制度を廃止いたしまして、そこで保険法上はなくなります。療養を開始いたしましてから三年たったという場合に、あと一カ月たてばなおるという場合、長期傷病者補償費を支給すべきか、ないしは従来の医療をそのまま継続すべきかという問題がございますが、改正法におきましては、打ち切り補償費という制度は廃止するわけでございます。ところで基準法の場合におきましては、打ち切り補償という制度が残っておりますから、労災保険法の適用事業でない事業におきまして、三年たった場合に、特別加入によってこの制度の適用を受けるか、あるいは従来の打ち切り補償を行なうかという点につきましては、使用者の任意にかかわらしめておる、こういうことでございます。
  148. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 基準法でなくて今度の労災法改正の方にも、文句はそう書いてありましょう。今度の改正法の十二条の六号では、はっきりと打ち切り補償のここのところを削除と書いてありますね。しかし同法の十二条の三を見てごらんなさい。「長期傷病者補償を行なうことができる。」と書いてある。それからまた次の項でそれを受けて、前項の補償を行なうことになった場合には、こう書いてある。そうすると、私はそうでないと読んでおったのだが、そういうふうに形式的物理的に読むというならば、行なうことができるんだから行なわなくていいということにもなるし、それから行なうことになった場合にはと書いてあるから、行なわなかった場合もあり得るということなんでしょう。そうすると、それは労災法上にもなおその制度があるということなんでしょう。今のは基準法じゃないですよ、労災法ですよ。違うのかな……。
  149. 村上茂利

    ○村上説明員 今度の改正によりまして打ち切り補償費は廃止するわけでございます。廃止して従来の療養を継続するか、しからずんば長期傷病者補償に移行するか、いずれかの制度になるわけでございます。でありますからこの規定の書き方は、今先生がお読みになったように、「長期傷病者補償を行なうことができる。」行なう、行なわねばならないという規定ではございませんので、「長期傷病者補償を行なうことができる。」こういう書き方になっております。そしてこれは現行法に、打ち切り補償費を支給することができる、打ち切り補償を行なうことができるという書き方になっております。現行法の制度と同じような書き方をしたわけでございます。取り扱いも同様でございます。
  150. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 その現行法というのは、今言われたのは基準法のことでしょう。今八十一条に残っているのは基準法の方で、それはできると書いてない。行ない、何々すると書いてある。基準法の打ち切り補償の条項を読んでごらんなさい。それから、今私の言うたのは、そういうことかと思ったところが、労災法改正、それの十二条六号では、はっきりと打ち切り補償というのは削除、そうして同法の十二条の三のところには「ことができる。」と書いてある。そうしてその次には「行なうこととなった場合には、」と、こう書いてある。だから労災保険の制度のところからは、明らかに一応は打ち切り補償というものはなくなったということになっておるのだけれども、今のような法律の読み方をすると、あり得る場合もある。どうしてなんですか。基準法と別ですよ。基準法には先ほど残っておると言うたんだが、今度労災法の方にはなくなったと言ったけれども労災法の十二条のところにもありそうなことが書いてある。
  151. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 基準法の第八十一条の打ち切り補償規定も、千二百日分の打ち切り補償を行ない、その後はこの法律規定による補償を行なわなくてもよい、こういうことになっておるわけでございますから、これは義務的な規定の仕方にはなっておらないわけでございます。その点は労災保険法においても全く同様でございますが、今回の改正法案におきましては、この八十一条の打ち切り補償に相当するものは、今回の改正によってなくなるわけでございます。ただなくなったかわりにどうするか。そのかわりに長期傷病者補償の制度が立てられたわけでございまして、しかも従来の打ち切り補償に見合う長期傷病者補償というものを行なう場合においては、やはり従来の立て方と同様に、その療養を受ける労働者実態、必要の度合いに応じてこれを行なうか行なわないかということが選択できることになっておるわけでございます。従いましてここの第十二条の三にございますように、「療養開始後三年を経過しても、当該負傷又は疾病が治らない場合においては、長期傷病者補償を行なうことができる。こういうことになったわけでございますから、ただいま村上部長から説明いたしましたように、三年たった、しかしあと半年やればなおるというような場合は、長期傷病者補償を打ち切ることなしに、従来通りの療養を受ける、こういうこともできるわけでございまして、その点は現行法における打ち切り補償の制度の場合と何ら変りはないわけでございます。
  152. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 大臣も参議院に行かれたようでありますし、これは千日たっても考え方というか、考え方というよりはものの見方の方が違うらしい。従いまして問題はなかなか解決しないと思います。私ほんとうはそのような手続論を今言おうとは思っておらなかったが、だんだん入ってくると、今のように打ち切り補償制度というものがまだ法上は残っておるのか残っておらないのか、わけのわからぬことになったから、そこに今度戻ってきたわけでありますけれども、基本は、私の言うているのは木に竹を継いだような形で、例示として私は使用者責任というものを出したんです。使用者責任というのが、従来の基準法あるいは労災法考え方と今度はずいぶん変ってきた。異質なものを入れてきたことになった。それは法体系としておかしいじゃないか。長期給付をやるということは賛成なんです。政策としても措置としても賛成なんだが、それをこの労災法改正によるというところに無理があるのではないか、こういうことを私は繰り返して指摘しておるわけです。しかし一生懸命になって陳弁これ努められる。どうせ大臣もいなくなりましたから、これはあしたにしたいと思いますけれども、今度はさかさまに戻りまして、この労災法改正という法でやったがために、けい肺審議会で最も強く要請し、求めておるところのけい肺、せきそんに対する特別保護をまったからしめない状態が私は出てきておると思う。こっちの方がほんとうは大事なんです。従って論議をその方向に私は変えていきたいと思いますが、今の法体系の問題というのは、そういう内容に入る前提としまして非常に重要な問題でありますので、政府としても十分考えられたいと思う。今のように固執されると話がこんがらかってどうにもならぬ。私はこういう方法も可能かもしれないけれども、もっと職業病法という単独立法によった方が法体系上よっぽどすっきりする、と同時に、今度は内容を見ていく場合に、こういう労災法改正というやり方でやられるとなかなか入りにくかった内容が、単独立法の場合にはどんどんと入り得る状態になって、昭和三十年以来特別保護法として立法されたその考え方を延長していくことになると思う。その考え方を延長すれば、法体系としては当然に私は単独法による職業病法的なものにならざるを得ないだろうという考え方お話をしておるのでありますから、どうか一つ今の形式論というものが今度の内容にはっきりと入っておりますることを御承知を願いたいと思います。それなら法体系の問題で、今基準法と労災法の問題を言いましたが、私は職業病法に変えらるべきであるという考え方なんですよ。しかし労災法改正という立場をとられるならば、それに見合った基準法の改正も並行的に行なわれなければならぬ、今私の言っているのはそういう考え方なんです。基準法と労災法が車の両輪であるとするならば、あまり振動が強いからというので、これまで鉄の輪であった車をもう少し振動の少ないいいのにしようというのにかかわらず、労災法の方の片一方の輪だけゴム輪にして、片一方の鉄の輪を残して置いたような格好では、どうにもならぬ状態になりはせぬか。こういうことで法体系という問題を出したわけですから、法体系という形から一、二問題を出しまして、きょうは終わらせていただきたいと思います。先ほどからお話が出ておりましたけれども社会保障制度審議会の答申の内容をめぐりまして、今労働省としては非常に自慢の形でこういう長期給付、年金制度をとったというところに非常にみそのあることを言われておるわけです。そのみそには賛成なんです。今言いましたように年金制をとったということは賛成なんです。年金制を労災法に入れることに問題を持っているわけです。今の制度審議会考え方から言うと、年金制というものが、「国民皆保険、皆年金の時代に入ったわが国の社会保障制度が、その総合調整を最も強く要請されておる今日、」と書いてある。社会保障制度全般の建前からいくならば、明らかに今、年金制度というものは総合調整しなければならぬ時代に入ってきておる。総合調整ということは、ばらばらのものをあまりよけい次々に作るよりも、それらをもっとうまくくっつけようということだろうと思う。うまくくっつけて総合調整をしようという、そういう状態のときに、労働省で今労災法というものの改正によって部分的な年金制度をとられるということは、少なくとも、この社会保障制度審議会が考えておるような社会保障制度を調整して、年金制を調整して、総合的に発展させようという考え方からするならば、これは逆行だと私は思う。これはほんとうは労働大臣の答弁を願うべきことだと思います。労働省官吏としてなるべく自分のところの仕事に年金制度を取り入れたいという感じがありましょう。しかし国の制度自身から言うならば、今年金制度というものを総合調整して、一本にまとめて総合性を持たせようという方向をたどろうとしておるときに、全然別な年金を、しかもひょっとしたらしろうとにはわからぬかもしれぬような労災法改正というような、何条の何をどうというようなわけのわからぬことを法律の中へすぱすぱっと入れていくというようなことは、明らかに時代の逆行だと思います。そういう話は出ませんでしたか、ちょっと参考のために聞いておきましょう。
  153. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 わが国の社会保障が全般の総合調整を必要とする段階に来ておることは、私どももその通りだと思います。現に昨年総理大臣から社会保障制度審議会に対しまして、そういった諮問が出されておるわけでございますが、何分この社会保障制度全般の総合調整という問題は、非常に広範な問題でございますので、これの結論が出るまで、こちらの特別措置法あるいは臨時措置法に対する手当をそのまま足踏みしていていいかどうかという問題があるわけでございます。御承知のように特別保護法が二年の時限立法で出されて、その期限が切れたので、さらに二年のこうやく張りと申しますか、臨時措置法が出された。そこでその臨時措置法の中身としまして、こういう状態ではいけないから、こういうものでなしに、長期的な安定した根本的な対策を立てろという注文が条項の中に政府に対してつけ加えられておるわけでございます。そういった内容を受けまして、労働省としましては、法律規定された期間内にとにかくこういった必要性の存する、長期療養を必要とする患者に対しまして、どのような対策を講ずることが一番安定した方策であるかということを検討した結果、現在のような改正法案が出された次第でございまして、私ども社会保障制度全般の総合調整が必要でないというような考え方は全然持っておらないわけでございます。なおこの今回の年金の構想を労災保険法の中でやることは時代逆行でないかという御指摘があったわけでございますが、これは先生も御承知のように、諸外国の立法例を見ますると、アフリカとオーストラリアを除きまして、その他の先進国におきましては、すべて労災保険の中で一本で処理しておるのが大部分の実例でございまして、またILOにおける条約におきましても、やはりこういった考え方労災保険の中の年金という考え方が採択されておる次第でございます。従いまして私どもはそういった国際労働条約あるいは諸外国の立法例等から見ましても、今回私どもが考えたこの考え方というものは時代逆行というようなものではなくて、大体国際的な水準に近づいた考え方だというふうに考えておるわけでございます。
  154. 佐々木良作

    ○佐々木(良)委員 この問題はまた別に言いましょう。しかし今私の言うたのとあなたの答えられたのとは話の筋が違っておる。時代逆行と言ったのは外国の話じゃないのです。日本の話です。日本の社会保障制度審議会の答申を読むと、日本には年金制度というものが次々にできてきて、それを総合調整しなければならぬ状態になってきておる。日本の制度として総合調整しなければならぬ時代になってきておるのに、新しいこういう年金を、しかもしろうとにはわからぬような、従来ある法律の中にすぽっとほうり込むような形でやられるということが時代逆行ではないか、こう言ったのですよ。  それからもう一つは、年金制度それ自身に反対しておるのではないということは先ほどから言っておる通りなのだ。やられるならば、その年金制があくまでも年金制としてやられなければならぬ理由と態勢を整えられてやるべきである。そのために私は職業病法という単独立法を主張しているのです。だから今問題にしているのは、この法制のやり方に問題があるのですから、その内容自身に入ったり、それから外国の方に入ってもらわぬように——外国の方に入るのなら、ILOの条約を引き出されてきたら、労働省の方が悪いのじゃないですか。あんまりいいところだけ引っ張り出されぬ方がいいんじゃないか。そのILOのことならもっと私の方も引っ張り出しますよ。それはやぶへびですよ。それはやめられた方がよかろう。  それからもう一つ先ほどから盛んに話が出て、この答申の中にも出ておりまするのは、他の類似傷病とのバランスということが盛んに問題になっておる。バランスよりも、最初の目的がけい肺患者というところでありまするから、それに焦点を据えられたいと思うのですが、そうあんまりバランス、バランスといわれると、こっちの方からも理屈を言いたくなってくるのであります。そろそろ改正を予定されているそうですが、船員保険法の障害年金はどこから年金になっておりますか。意地悪い質問だからこっちから答えようか。——時間を省きましょう。バランス、バランスとあまり言われるから、あえて私は言うのだが、船員保険法の障害年金は六級までですよ。今度あなたの方で改正法案として出されておる労災法改正によりましても、年金制度でたぶん三級まででしょう。そしてその障害の等級というのは法律によって、お医者さんがいるのだからそんなにひどく変わっておらぬでしょう。私の方の政審会でもあれを一覧表にしてずっと分析して見ておりますよ。一級というのは今どの法律によって何が一級になっておるか、三級は何か、六級は何かと今調べて見ている。そうすると、今度の労災法による三級というものも、それから船員法の三級というものも、労災法の六級も船員保険の六級もお医者さんが等級をつけるのだから、あまり大きな差はないはずです。それであるのにかかわらず、片方は年金の六級まで、それからせっかく今出されようとするあなた方の改正案は三級まで、全然バランスを失しているじゃありませんか。しかしながら船員保険法というのは、これは労働省の方ではない、厚生省の方だと言われるのですか。厚生省の方と労働省の方とならバランスが違ってもいいといわれるなら、役所の方はそれでいいかもしれぬけれども対象は同一の日本国民を対象にしていることを考えてもらいたい。受け入れる者は同じ日本国民ですから、同じ日本国民が労働省所管とそれから厚生省の所管とで今のようなバランスをとることの方がもっとおかしいと思う。従いまして、これは意地の悪いへ理屈のようでありますが、あまり形式的な答弁や形式的な理由が並べられておもしろくないから申し上げたわけであります。考えておいてもらいたいと思います。  それから先ほど話の出ました法体系という形から見ても、伊藤さんからも話が出ましたが、平均賃金考え方というのが私はおかしいと思います。これはまた具体的な問題が出てきますから、具体論のところではっきりと申し上げたいと思います。それから同じように、伊藤さんのときに基準局長は答弁されたようでありますが、法体系という形だけからいうならば、類似傷病を包含して今度の補償のバランスをとられようとしたのでありますから、補償の方のバランスを類似傷病にとられようとするならば、あるいは予防とか健康管理という方にも本来バランスをとらるべきであると思う。従いまして、もし補償の方のバランスをとられるように類似傷病を入れられるならば、健康管理の方は今のところじん肺だけになっておりますけれども、その他の法律でも何でも直して、今度類似傷病等が同じような補償対象にならなければならぬとするならば、こっちの予防だとか健康管理だとかいう方もバランスをとらなければならぬ、こういうふうに私は思うわけです。いずれにいたしましても私はここで申し上げたいと思いますことは、この法体系というむずかしい言葉を使って、そして法体系という言葉の中で、何だかこの改正法案以外には仕方がないようなものの言い方をされておるのに私は不愉快を感ずるわけです。むしろ逆に一番もとに戻って、けい肺病それ自身が基準法や労災法による保護では困難だから、例外的な立法としてけい肺に対する特別保護法を作った。あのときの状態は、はっきりと現行の法制では無理だという立場から例外的な立法措置をとろうとした、そういう立場をはっきりと想起してもらいたい。従いまして、その考え方を発展させてきてせっかく長期給付という考え方に到達しながら、もう一ぺんそれを今の基準法あるいは労災保険というワクの中に押し込めようとするところに大きな矛盾が次々に生まれてくるのではなかろうか。そういう法律的な矛盾が、先ほどから繰り返し言っておりますように、職業病に対する特殊の保護が必要だということを出発点としておりながら、現在ある法体系にとらわれて、実質上の保護対策が結局弱まってくる、こういうことをおそれておるわけであります。あすからでも今度は内容の方の審議に入って、ほんとうにけい肺審議会が答申しておるところの法体系ではなくて、はっきり予防を徹底してくれ、健康管理をちゃんとして、一ぺんかかった者は一そう悪くならないようなかっこうにしてくれろ、あるいはかかったものがはっきりと療養できるまで、完全に治癒するまで、補償して直すようにやってくれろ、こういうけい肺審議会の本論、建前としての、自分の職能としての答申の内容を、法体系みたいなことでかえってさかさま向きに弱めてしまう危険性を私ははっきりと感ずる。従いまして質問はまた明日以後に譲りますけれども、どうか一つ問題の出発点をはっきりと考えられて、あまり役所答弁でないように答弁をされて、内容を深められるようにお願いをいたします。委員長、大へん失礼いたしました。      ————◇—————
  155. 永山忠則

    永山委員長 次に労働関係基本施策に関する件について調査を進めます。  発言の申し出がありますので、これを許します。堤ツルヨ君。
  156. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 ちょうど基準局長がお見えになっておりますから私はできたら、今お答えになれないかもしれませんのでデータ、それから基準局におけるこれらに対する分析、今後の処置について承りたい。二点を伺いますので、かたがたデータをいただけたらけっこうだと思います。  一つは旅館に働くところの女中さんの問題でございます。これは全国にどれくらいおると見ておるか、それからこの人たちがどういう実態のもとに働いておるかということを基準局はどう分析されておられるかということです。私がなぜこういうことを申し上げるかというと、私たち全国津々浦々、一年の半分くらいは旅行いたしまして、各地方におけるところの旅館の女中の重労働というものをつぶさに拝見いたしております。ひどいところになると、修学旅行の子供たちを受ける旅館では、女中さんが夜中の三時に寝て四時に起きておる場合が実際ある。それで、あなた方は昼寝るのでしょうねという質問をいたしますと、なかなかどういたしまして、昼は掃除と洗たくで一ぱいでございます。従ってゆうべは一時間半しか寝ておりません、二時間しか寝ておりませんという女中さんに、私は十人質問いたしますると八人まで出会うわけです。非常に高級旅館で、全国的に名高く、りっぱな設備を持っておるし、さぞやこのうちの女中は待遇がよいだろうと思ってその交代ぶりを聞いてみますると、これもまたひどいものでございましてなかなか一流だからよい、いなかの五流、六流だから悪いというのでなしに、一般に封建的な思想でもって旅館の女中というものを酷使しておる形態が一ぱいあるように思うのです。これは全国に、基準局長が配置いたしておりまするところの各都道府県の基準局を通じて、一体どれくらい監督をしておるのかということの疑問を持たざるを得ないほど、労働時間にいたしましても、賃金にいたしましても私は無視されておるように思う。これは三重県のある町におけるところの女中さんに私が実際質問いたしたところでございますけれども、私たちには最低固定給というものがございません、従ってもらうものは旅館のお客様からもらうポチだけ、心づけだけでございまして、それが入らないひどいときには、二千円のときもあり、五千円のときもありますけれども、最低固定給というものを旅館からきめてもらっておらない。しかもしにせになればなるほど、お客さんから払いました支払いの二割なり一割を女中の心づけとしてとるというところのしきたりがよそでは行なわれておっても、お客によい顔をするために、主人がこれを要求しないということになって参りますと、大へんな低収入だ。しかし子供はかかえておる、私には年寄りがある、従って家の子供を学校にやりながら近くから旅館に通っておるのでございますけれども、ひどいものだ。こういう告白を聞いておりまして、何とかしてもらわなければならぬところのこの女子勤労者の一種類として旅館の女中が考えられる。  それからもう一つ私がお尋ねをいたしたいのは、バスに乗っておるところの女子勤労者でございます。あの人たちがバスの中で声を張り上げてお客様に奉仕しておるだけがあの人たちの勤労時間だと思っておるとすれば大へんな間違いでございまして、前後を通じて大へんな工労働であるということが非常にはっきりいたしております。これは暑いにつけ寒いにつけ車の守をいたしておるのがあの女子であるということが非常にはっきりいたしております。何時間も立ってバスに乗りまして、お客にいい顔をしながら、ときには全国的なバス旅行などの中に乗っておりますあのバス・ガイドなどというものは、八時間労働どころの騒ぎでないので、勤労時間に縛られて、今度おりましたならば、お金の勘定だとか、ひどいところでは身体検査などを受けておる。使っておる側は非常に冷たい使い方をいたしておるのでございます。これは大阪や尼崎において最近問題になりましたので、基準局におきましても、少しは何か手を打っておられるかと思うのでございますけれども、バス・ガイドにいたしましても、労働時間はもっと厳密に申しますれば、八時間の二倍になっておるのではないかというような感じさえいたすのでございます。しかもバス会社だとか観光会社だとか、バスをたくさん持っておる業者は次々に車をふやしていきまして、きれいな車でお客にサービスをいたしておりますけれども、その上に乗っておるバス・ガールには一向賃金の値上げもなければ、重労働の労働時間の短縮もないというような、実に一方的なやり方であるということが、至るところで私たちに告白されるのでございます。こうした面に対して基準局長は、一体どれだけの監督をしていらっしゃるか、また女子の深夜業をどういうふうに考えていらっしゃるか、生理休暇の問題についてはどういうふうになっておるか、こういうことについて労働省がデータを持ち、今後どうあらねばならないかというところの施策を持って、そして女子勤労者をかくかくしかじかの方向において守っていくのだ、現状はいけないというところの反省がこの辺でなされなければ、資本主義下に搾取されるところの弱い女子勤労者の立場というものはどうも浮かばれないのではないか、こういう感じがいたしますので、私は局長にこの際データがありますならば、旅館の女中とバス・ガールについて一つ調査を承り、データを承っておきたいと思うのでございますが、ただいますぐお答えになられますかどうか。
  157. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 資料につきましては、手元に持っておりませんので、後日調製いたしまして提出することにいたしたいと思います。  そこで最初に旅館に働く女中さんの労働条件の問題でございますが、これは確かに御指摘のように、わが国の旅館における女中の労働時間というものは非常に長時間になっておりまするし、またその賃金等についても決して十分なものでないということは私ども承知をいたしております。そこで基準局といたしましては、特にこの女子の深夜業の廃止及び長時間労働の排除ということを——本年度は五つの重点事項というものを掲げてございますが、その中の一つの大きな重点事項に取り上げて、本年度の当初以来指導監督を実施してきておるのでございます。日本の旅館の従来のしきたりと申しますか、慣行と申しますか、使用者側の責任も当然あるわけでございますが、同時にこれを使用するお客の方にも、たとえば十時以降は女中に用事を言いつけないでほしいというような張り紙があるにもかかわらず、酒に酔っぱらって一時ころに女中を起こして用事を言いつける、こういうような実例も相当あるようでございますので、これは両面相待って働く女中の労働条件の向上をはかっていく必要があるというふうに考えるものでございます。  なお基準局におきましては、この旅館に働く人々の一斉週体制というような問題も取り上げて、これを逐次実現するように現在指導をいたしておるような次第でございますが、今後とも、実際に短期間に一挙にこれを改善するということはむずかしい実情のようでございますけれども、御指摘の通り旅館の女中の就業状態というものには相当改善を要するものが多々ございますので、私どもも今後ともこの点については十分注意をして指導あるいは監督をして参りたいと考えております。  なお次のバス・ガイドの問題でございますが、これは最近観光バス等が非常に路線が長くなりますと同時に、他面国民の生活水準が上がって参りましたために、これらの観光バスを利用する者が非常にふえてきた。両面相待ってバス・ガイドの長時間労働、さらには深夜業の面が相当露骨に現われてきたわけでございます。そこで、基準局といたしましては、三十三年からこの面についての監督を相当きつくし、各業者に対しまして警告をし、指導を加えてきております。そこで三十四年一年間を猶余期間といたしまして、その間にバス・ガイドの深夜業を廃止するような措置を講ずるようにということで、これは相当きつい監督をいたしてきております。最近におきましては、これらの業者の団体である日乗協と申しますか、その方面におきましても、私ども意向を体しまして、目下私鉄総連との間にも、どのような具体的な措置を講ずることによってバス・ガイドの深夜業を廃止していったらいいかというような具体的な措置についての話し合いも熱心に行なわれておるような状況でございます。私ども先般もおもだった府県の基準局長を集めまして、それらの状況なり、今後の監督方針についての打ち合わせも行なったような次第でございます。従いまして、私どもはこれらのバス・ガイドの長時間労働、さらには特に深夜業の問題につきましては厳正な態度をもってこれが監督、是正に当たって参りたいと考えております。
  158. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 これは今国会中に、できたら四月中くらいに資料を出していただきたいと思いますが、すぐおできになると思います。全国各都道府県末端市町村に至る、たとえば二人か三人しかおらないところでも、旅館の女中というものが一体何人おられるか、それから年令別にどうか、それが独身であるか、主人持ちであるか、それから未亡人であるか、独身の女性であるか、こういうような数を調べていただきたい。それからできたら平均何時間労働になっておるか。もちろんこれはシーズン・オフになりましたならば、たとえば北海道の旅館の女中などというものは、夏は非常に忙しいけれども、冬はひまであるというような事情も私はよくわかりますが、そういうところを平均いたしまして、常識的にどういうものか。私は一人々々に返答させればできると思います。私がなぜこういうことを申し上げるかと申しますと、観光地へ行ってごらんなさい。どこの旅館へでも行ってごらんなさい。みんな豪華な新築、増築をし、別館をこしらえ、出先をこしらえて金もうけをしているのに、中で働いている女中の待遇というものは一向よくならないのです。出先の婦人少年局長などというものは非常に獅子奮迅の努力をいたしておりまするけれども、女中さんが夜どんなところに寝ておるか、行って見せろといってもなかなか見せないというのが経営者の実態で、私の地元の滋賀の婦人局長なども非常に熱心にやっておりまするけれども、こぼしております。肺病で倒れた、過労で倒れた、かぜを引いてなおらないで物置き小屋のようなところに寝ておる。それが県下の一流旅館というようなこともあるのでございまして、私はまことに遺憾に思うのです。ですから、今局長がお答えになりましたけれども、たとえばお客にサービスしなければならぬ。外人の客と違って、夜中の十時過ぎでも女中をたたき起こして使うというようなことになるといたしますれば、業者も夜中のサービスをしなければ成績を上げていくことができないというならば、朝の四時に起きて働いた女中は昼の十二時に交代をさせる、昼の十二時に交代した女中は八時に交代し、八時過ぎから働く女中は四時間をもって八時間とするというような切りかえをいたしましたならば、これは旅館業者は同じような水揚げをしながら事業を回転していくことができるのでございます。その点は、経営者は欲が深いから、朝四時に起きた者も夜中の十時まで使っておるから、ここに問題があって私は基準局長にこういうことを申し上げておる。ですから、その横におる係官はむずかしい顔をしていらっしゃるけれども、真剣にやっていただきたいと思う。交代をはっきりとやる。あなた方はその人たちの最低賃金を最低賃金法に照らしてはっきりと打ち立てるようにやってもらわぬといけない。私たち基準局の出先で拝見しておりますと、一ぱい酒を飲まされて、あちらの大きな事業所、こちらの旅館でトラになってごまかされ、監督がお留守になっておる。私はこういうことはけしからぬと思うのでございまして、労働省は少したるんでいると思うのでございます。基準局長はもう少しこういう点に観点を置かれて厳重な監督をしていただかなければならぬ。これはバス・ガイドにつきましても同じことでございまして、一つ数、それからアンケート、こういうものをおとりになって、良心的な統計を出していただきたい。どうしても基準監督局でこれが監督できないならば、こういう特定の人たちを守る法律を国会議員が良心を持って作らなければならぬというくらいに考えて私の党では取り組んでおりますので、御覚悟の上、調査御報告をいただきたいと思います。
  159. 澁谷直藏

    澁谷政府委員 ただいま先生から全国の旅館の従業員について非常に詳細な御注文があったのでございますが、そういう非常に詳細にわたった調査となりますと、ちょっと簡単にはまとまりませんので、一応現状におきまして私どもが努力をしてまとまったというところでさしあたり資料を出させていただきたいと思います。  それからただいまのお話の中に、監督官が業者に飲まされて監督をいいかげんにしておるというようなお話がございましたが、そういうことがもしあるとすればきわめて遺憾なことでございまして、私ども監督の任に当たる者はそういうことがあっては断じていけないわけでございますので、そういうことが絶対にないように、それは私の方で厳重に指導いたします。
  160. 永山忠則

    永山委員長 本日はこれにて散会いたします。     午後五時十七分散会