○
庄司参考人 私は
全国海苔員類漁業協同組合連合会の
庄司でございます。
本
委員会におかれましてただいま御
審議中の
臨海地域開発促進法案は、
臨海地域におきまする
工業用地の
造成、それからそれに関連いたしまして、いろいろな諸
施設が考えられますので、そういった
施設の整備の
実施を促進するための基本
目的を持っておる、かように考えております。
そこで、この
法案の
目的といたしまするところは、
わが国の近代
産業の発展あるいは
人口の
増加、こういうふうな趨勢から見まして、私は必然の要請
であろうと思っております。また、従来
海面の
埋め立てにつきましては、
埋め立ての起業主体が県であり、あるいは市であり、また町村あり、会社あり、あるいは個人があるというふうに、非常にばらばらにやっていらっしゃったわけなんです。
海面を生産の基盤といたしまして生活いたしております漁民の立場から見ますると、今申し上げましたように、ばらばらにやられておっては非常に困るのであります。そういう点から見ましたときに、今度の
法案におきましては、大局からごらんになりまして、そうして総合的に、
計画的に
臨海地域の
開発をしよう、こういうことに相なっておると承知いたしております。つきましては、今申し上げました二点から見まして、
本法案の御
審議に対しましては、深く敬意を表しておる次第でございます。
しかしながら、この
開発の
対象となります
臨海地域――
臨海地域ではないと思うのですが、臨地海域だろうと私は思いますが、この
地域におきましては、零細な漁民がたくさん生活をいたしておりまして、もしこの
計画に基づきまして――われわれがうわさとして聞いております範囲では、相当広大な
計画があるやに伺っております。そこで、もしそういうことに相なりますと、零細な漁民の諸君は非常な打撃を受けるように相なるわけでございます。つきましては、この
計画をかりに推進すると相なりまするならば、零細漁民の犠牲というものは、最小限にとどめるような施策が当然必要であろうと考えております。最近におきましての
わが国の水
産業は非常に発展して参っておりますが、その大半というものは、資本
漁業によるものでございまして、生産面から見ましても、八十数%を資本
漁業の手によって握られておる。そうして自余の一七、八%が零細な業者によって生産されておるような状況でございます。そこで、もしこの
法案が施行されまして、この
計画が
実施されることに相なりますと、ここに生活いたしております業者は非常に困るわけであります。特に私の考えますことは、
漁業生産の最近の傾向を見ますと、漁民層は
増加いたしております。一方、資源はだんだんと枯渇いたしまして、そのアンバランスの中で生活をしておる。
全国の
沿岸漁業の中で、ひとり浅海
漁業だけが一番明るい窓になっております。もしこの
一つの明るい窓を閉ざすということになりますと、ただ浅海養殖業だけではなしに、
全国の
沿岸漁業に大きな影響があるのではないか、こういうことが憂慮されるような次第でございます。
そこで、もう
一つは、この明るい窓を閉ざされることは、今申し上げました
通り、非常につらいのであります。一方、漁民の立ち上がりと申しましょうか、あるいは職業転換と申しますか、そういう方途が講ぜられない現在にありましては、今申し上げましたような線で展開して参りますと、今後重大な社会問題を提起するだろうと思っております。特に私の考えますのは、現在の
沿岸浅海増殖漁民の経営能力あるいは経営の才能、こういう点から見まして、海で働いてこそ一人前の仕事がやれます。ノリもとりますし、あるいは貝の採取もやりますけれども、これが一たび
陸上に上がって参りますと、一人前の仕事ができないだろうと思うのであります。従って、
漁業権に対する財産
補償をしてもらうということがありましても、その金を十分に活用できないだろう。そうしますと、いずれは近い機会にこれは社会から転落していくことになるのではないだろうか。もとより、われわれといたしましてその点について十分配慮もして参らなければならないと思っておりますが、その点が最も懸念されるような次第でございます。現在行なわれております
埋め立てば、公有水面埋立法によりまして漁民の同意のもとに合法的に行なわれておるのでございます。何分にも漁民の諸君が生活に窮しておるというような
関係から、わずかばかりの
補償金にも手を出すのでありまして、そこが非常に困ったことになっておりますが、これは不本意ながら、最後にはわずかばかりの
補償金に目がくらむといいましょうか、同意をいたしまして、その結果というものは、最後に生活の行き詰まりになってくる、こういうのが実情であろうと思っております。そこで、こういうふうな情勢下におきまして、臨海
開発促進法によりましての積極的な
実施の
計画が表面に出て参りますと、さらにそれに拍車をかけまして、漁民の退嬰的な漁場の放棄というような事態になりはしないだろうか、こういうことが懸念されるのでございます。
それから、先ほど申し上げましたような浅海の漁場でございますが、この漁場そのものの生産と申しますか、津海漁場だけの生産は、年間約三百億円といわれ、あるいは五百億円ともい上れておりますが、相当な生産額になって、そしてそこに約二十五万人の従業員がおるわけでございます。この浅海漁場がもし全面的に
埋め立てられるということに相なりますと、先ほども申し上げましたように、全体の
沿岸漁業に影響する。また、かりに一部でありましても、御承知でございましょうが、浅海増殖業は種があるのであります。その種によって増殖をやっております
関係上、種場を押えられますと、それに依存いたします各地の
漁業者が非常に困るわけであります。ノリの種、貝の種、こういうのは全部、たとえば一組合に対して十カ組合から二十カ組合が依存
関係を持っております。そういう点から見まして、われわれとしては非常に憂慮しておる。また、浅海
地帯は御案内の
通りモ場でございます。モ場というのは、稚魚の発生地である。そうすると、この稚魚の発生地を閉ざされるということになりますと、ますます資源の枯渇ということも起こってくるであろう、こういう点が一番心配されるのであります。そこで、私の考えといたしましては、漁民の生活の基盤である優良漁場はもちろん、ノリ、貝類の種場でありますとか、さらには今後期待されますような優良な漁場というものは、あくまでも存置いたしまして、
わが国沿岸漁家層の生活の安定をはかるような社会的、
産業的政策が必要であると存じますので、この点特に申し上げたいと思います。
一方、
工業立地との
調整の問題でございますが、不生産的な漁場もないとはいえませんので、そうした漁場を放棄いたしますことも、やむを得ないとは私は存じます。
以上申し上げましたような理由から、
漁業政策、すなわち、原始
産業と近代
工業との
調整という観点から、何らか別途に浅海増殖業、
沿岸漁業を守るような立法措置をお願いといいましょうか、お考えいただくならば、大へんしあわせではないだろうかと考えております。もちろん、
農林省におかれましても、そういう点はお考えはございましょうし、また、考えておらなければならないと思っております。
そこで、ただいま趣意を申し上げたのでございますが、
法案について申し上げますと、第一条には「
産業基盤の育成強化と民生の安定向上に寄与することを
目的」となっておりますが、
法律の全体を拝見いたしましたときに、やはりこれは
調整的なものを多分に含んでおるのではないかと思うのであります。従いまして、先刻新
澤参考人からもお話がありましたように、この
調整ということをはっきり第一条に明記してもらうのがいいのではないかと思うのであります。
それから第二条におきまして、第一項に「
内閣総理大臣は、
臨海地域開発審議会の
審議を経て、臨海
開発区域を指定することができる。」と書いてありますが、浅海
漁業の立場から申し上げますならば、
臨海地域開発審議会の
審議を経て、優良漁場を除く以外の場所は臨海
開発地域に指定することができる、こういうふうな修正が望ましいと思うのであります。
それからもう
一つは、第三条の第三項でございますが、「
内閣総理大臣は、前項の規定により
基本計画を
臨海地域開発審議会の
審議に付する場合においては、あら
かじめ、
建設大臣を通じて
関係都道府県知事の
意見を聞かなければならない。」と相なっております。そこで
関係都道府県の
知事の
意見を聞きました場合に、おそらく諸先生御案内の
通り、各府県ともといっていいくらいの
工場誘致の
計画を持っていらっしゃるのであります。従いまして、この
意見というものは、結局最終的には、浅海漁場はほとんど
埋め立てられるやはり
工場用地の
造成の
意見を答申するであろうと思うのであります。従いましてこの段階におきましての
調整を考えてもらうという
意味におきまして、先刻第二条で申し上げましたことを御考慮いただきますか、あるいは都道府県
知事が
意見を答申する段階におきまして、何らか漁民の意思が反映するような法的な規定が必要ではないだろうか、こういうふうに考えております。
それから飛びまして、第九条におきましては、
審議会の設置のことが書かれております。この
審議会におきましては、一項から五項までの項目を
審議することに相なっておりますが、むろん、この
審議会におきまして、浅海
漁業等と
利害関係民との
調整のことが
審議されるとは思われます。この
審議会の
委員の顔ぶれを見ましたときに、またこの
法律案の大要を見ましたときに、やはり
臨海地域を
造成促進するということに相なっております限りにおいては、この
審議会においてどこまで浅海
漁業の立場が守られるか、私は疑問であると考えます。そこで、第十
二条におきまして
専門委員の制度がございます。この
専門委員の制度はよろしいのでありますが、さらに、この
専門委員の制度に、たとえば部会制度を設けまして、この
専門部会と
審議会と脈絡のある
組織のもとに、
漁業関係あるいは
工業関係との
調整を
審議してもらうということに相なりますならば、非常にけっこうではないか、かように考えております。
法案につきましての考え方は以上でございますが、なお、この
臨海地域開発促進法案とは別の観点からいたしまして、
沿岸漁業の振興という立場から、重要魚介類の種苗の供給水面、あるいは生産量の高い水面なり、将来において
生産力が増大されるような優良漁場というものを指定いたしまして、その指定水域の総合
開発計画を樹立いたしまして、
漁業者擁護の諸
施設を
実施すべきであろうと思うのであります。繰り返して申し上げますが、先ほど申し上げました臨海
開発法案につきましての修正、並びに今申し上げましたように、この
法律案とは別途に、
沿岸漁業振興というふうな観点から、何らかの法的措置によりまして、優良漁場を確保していくべきではないだろうか、かように考えるわけであります。しかし、ただいま申し上げましたのは私の卑見でございますが、かりに優良漁場に指定したといたしましても、現実に現地の漁民が、いやこの漁場は放棄した方がよろしい、
補償金をもらった方がよろしいというふうな
意見があります限りにおいては、この漁民の意向を尊重いたしまして、浅海優良漁場と指定いたしましても、そのワクの中からはずすのが当然ではないだろうか、こういうふうに考えておるような次第でございます。
それから臨海
開発法案におきまして、
審議会においての
意見調整をやる、また
知事の
意見も徴する、あるいは公有水面埋立法におきましては、市町村
埋め立ての許可申請が出ますと、市町村会の議決を必要とするようなことに相なっております。そこで、市町村会の議決、
知事の
意見等、
審議会におきまして二段にも三段にも
意見調整がなされるかのように考えるのであります。法の形からいえば、これでけっこうでありますが、
調整の手は漁民のところまで届かないような
感じがいたします。その点につきまして特に御配慮をしていただきたいと存じます。
最後に申し上げますが、職業転換と、もう
一つは
補償の問題でございます。生活の基盤である漁場を失います限りにおいては、
社会経済的な均衡を保つという点から、適正な
補償をすることは当然であります。現在のところ、大体電発方式によりましてなされておりますが、力
関係がありまして、なかなか思うにまかせません。そこで、これはどういたしましても、適正な
補償基準というものを
法律でもって作定してもらいたい。それで、漁民が、
埋め立て問題が起こりました場合に同意するときに、適正な
補償が確保されるようにお願いしたい、かように考えております。
それからもう
一つは、職業転換の問題でございますが、これが非常にむずかしいことでありまして、
一つの例を申し上げますと、昭和二十七年に、千葉市の蘇我という
漁業部落が、
東京電力の
火力発電所を
造成いたしますために、
埋め立てをいたしました。そのときに、一戸当たり約百万の
補償金をもらったのであります。もとより、これは職業転換の資金でございますが、京葉
工業促進協会という団体がございます。そちらの発行しておるパンフレットを見ますと、百七十人の組合員の中で、職業転換をした者はおとうふ屋さんたった一人だということが書かれておるのでございますが、これは私の方の
関係ではございません。京葉
工業開発促進協会とかいう団体でございます。そういう点から見ましたときに、漁民はどうしているかというと、残余の狭い漁区べみんな密集いたしまして、そこでわずかばかりの生活の資源を求めておる、こういう形に相なっております。それほど職業鞍換の問題はむずかしいと存じまするので、この点につきまして、この
法案の御
審議にあたりまして特に御考慮下さることが適当ではないか、かように存じます。
大へんつじつまの合わないことを申し上げましたが、御
参考になればしあわせであると存じます。(
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