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鈴木強君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま議題となりました
昭和三十四年度
一般会計予算補正第二号ほか二案に対し、以下申し述べる
意見を付して賛成せんとするものであります。
まず最初に、わが党が賛成の
態度をとったことについて、その理由を明らかにしておきたいと思います。
われわれの賛成は、
自民党さんのように
政府原案を自画自賛するものとは違うのであります。すなわち、わが党はこの
予算補正は、きわめて不満足なものであり、被災者の要望になかなかこたえられないものであるという観点に立ち、衆議院段階の
審議において、千三百四十四億七千八百万円に上る組みかえ案を提案したのでありますが、
自民党の反対によって遺憾ながら否決されてしまったのであります。社会党は、安保条約の改定、ベトナム賠償問題等については、妥協のない戦いを続けて参りますが、この
予算補正はきわめて緊急を要する
災害対策を中心としたものであることの性格にかんがみ、また
審議を通じて
佐藤大蔵大臣が、必要が生ずれば
災害第二次補正についても善処するとの言明をなされておりますので、この言明を信ずるとともに、わが党は
政府原案によっては、とうてい前古末曽有の今次大
災害に対する救済
措置と
改良方式を加えた
復旧工事の完全な進捗は絶対不可能であるということを確認して、今後も執拗に第二次補正を強く要求することとし、わが党組みかえ案が否決されたという現実の上に立って、次善の策として、ここにきわめて不満ではありますが、
政府原案に賛成するという
態度をとった次第であります。従いまして、本
予算補正が成立をし、実施段階に入ってから、幾多の矛盾と問題点をかもし出すことは必至であると存じますので、特に、この際、希望
意見になるとは思いますが、以下順を追って、わが党の見解を申し上げますので、岸総理大臣以下各大臣を初め、
自民党の諸君もよくお聞き取りを願いたいと思うのであります。
さて
意見の第一について申し上げます。
政府原案によりますれば、
予算補正総額は六百十四億円で、その内訳は
災害関係三百四十三億円、
地方交付税増額分八十五億円、義務教育費国庫負担金等義務費増額分九十一億円、
石炭対策費七億円、予備増額分八十億円となっております。これが財源として租税の自然増収分四百九十億円、税外収入四十八億円、既定経費の節約七十五億円をもって充当することになっております。本年度の風水害は御
承知の
通り七月に入っての局地的豪雨に始まり、八月十四日には山梨、長野等に
台風七号が、また九月には愛知、三重、岐阜等に未曽有の
台風十五号が襲来し、
日本全土のほとんどが甚大な
被害をこうむる結果となっておるのであります。
被害の
状況は死者、行方不明者合わせて約六千名、建物の全壊流失約四万五千、半壊十五万、
被害世帯五十万世帯、公共土木施設、農林水産施設の
被害は総額二千億円をこえており、その他民間個人
災害等の
被害額を加えると優に六千億円を突破する額に達しておるのであります。かくのごとく六千名に上る貴い犠牲者と漠大なる
被害を出した
台風災害を単に
天災によるものとして片づけるわけには絶対に参りません。むしろ、そのほとんどの
原因が今日までの歴代保守党内閣の治山治水に対する根本的政策と予防
措置の欠除にあったことは明らかであり、まことに許すことのできない重大
責任問題だといわなければなりません。鍋田干拓の悲劇はなぜ起きたのか、私は岸総理以下各大臣に反省を求めるため一つの実例として申し述べておきたいと思います。鍋田干拓は
昭和二十年十一月、時の幣原内閣が緊急開拓実施要領をきめ、六カ年間に十万ヘクタールを干拓して失業した工員や復員軍人を救済する構想を立てたのでありますが、この中に鍋田干拓も入っておったのであります。最初の計画は
堤防による湖どめ工事は農林省がやることになっていたのでありますが、
昭和二十一年末に着工したときには、いつの間にか
堤防の設計施工は
運輸省の所管に移っていたのであります。その理由を調べてみますと、当時農林省には技術者が少なく、干拓事業をもてあましていたのに対し、
運輸省は港湾事業があまりなく、手が余っていたということにあるようでありますが、すでに今回の悲劇を起こす大きな種が一つそのときにまかれていたのであります。すなわち、荒波の脅威をまともに受ける干拓
堤防と、港海とか河川護岸の
堤防とは全く構造が違うものを、手が余っているとかいないとかいうだけの理由で所管の官庁をとっかえたことが大きな間違いであったといわなければなりません。
伊勢湾台風では潮位が最高五・三メートルに達し、波返しではね上がった荒波が風に吹かれて
堤防の内側に流れ込み、
堤防の裏側や天端がコンクリートで固められていなかったために
堤防を越えた波は
堤防の上をどんどん掘りくずし、盛り土をえぐり取り、ささえを失った石垣を倒してしまったのであります。
昭和二十六年農林省が
運輸省から工事を引き継いだ際、農林省は天端が盛り土だけでやってあるのに不安を感じて
昭和三十年に補修工事を行なっていますが、これも天端と
堤防の裏側を十センチの粘土で固めたにすぎません。このようなその場限りの思いつき的やり方が鍋田干拓全滅の
最大の
原因であったことを知るとき、わが党は大いなる憤激を感ずるとともに
政府の
責任をどこまでもきびしく追及せずにはおられません。七
号台風によって山梨県の武川部落がほとんど流失した
原因も水源より河口に至る一貫した水防工事がなされていなかったのに基因することは明らかであります。甲斐駒は山津波によって随所に山はだを見せ、山腹砂防が何らなされておらなかったことを立証しています。今度の
災害が人災だといわれる理由はここにあると思います。国土の防衛は憲法違反の自衛隊の増強にあらずして、年々歳々必ず来襲する
台風の脅威からいかにして祖国を守るかにあると信じ、そのための予防
対策と、抜本的治山治水の大政策を確立することが焦眉の急務であると思います。今や自衛隊に対する国民の世論は銃持つ手からシャベル持つ手にと国土建設隊への切りかえを強く要求していると信じます。一機五億四百万円もする戦闘機を二百機も購入するようなお金があるならば、根本的な
災害対策に使ってもらいたいというのは全国民の切実な願いであります。東京、大阪初め臨海地域の都市住民が、もし十五
号台風が東京や大阪等に上陸していたらどうなっていただろうか、また来年あのような
台風が襲来したらどうなるだろうかと、やり切れない不安と焦燥と危惧にかられておるのでまして、一日も放置できない重大問題であります。
政府はよろしく過去のあやまちを率直に反省され、全国民が安んじてそれぞれの生業にいそしむことのできるようあらゆる
努力を尽くして
台風の
災害から
わが国を守るよう、確固不抜な
台風防止
対策を打ち立てられんことを、強く強く要求しておきます。
災害地を訪れた岸総理初め各大臣は、金は惜しみなく出す、心配するなと激励をいたされておったのでありますが、それにしては本
補正予算の中の
災害関係費が、
予備費八十億円のうち五十億円を使うとしても、三百九十三億円で、あまりにも少な過ぎると思います。総理の言明を信じていた被災地の人々は、ほんとうにがっかりしています。そして岸総理の言のうこととやることとが違うことがよくわかったと、ぷんぷん怒っているのであります。
第二に申し上げたいことは、罹災者援護についてであります。わが党は、本年度
災害が民間に対してきわめて大きな
被害を与えておりますので、民生の安定に重点を置くべきであると信じ、約五十万世帯に上る罹災者に対して一戸当たり二万円の見舞金、また死者、行方不明者の約六千名に対して二万円ないし三万円の弔慰金を給すること、さらに生活再建資金として、十万円を限度に二カ年間据置、十年返済、無利子貸付を内容とした罹災者援護法案並びに生活保護特別
措置法案を
提出しましたが、
政府はこの点については見るべき
対策を示さず、きわめて遺憾であります。
政府は今後この問題について慎重に対処されるよう、要望しておきます。
第三に、農地農業用施設、公共土木施設等の
復旧工事については、従来三・五・二の比率で
復旧をはかってきたのでありますが、今回の
措置は初年度がこの比率を下回っているのであります。このことは絶対納得ができません。わが党は従来の比率を引き上げて五・三・二の比率とするよう主張して参ったのでありますが、いれられなかったことは残念でなりません。特に、直轄工事の場合の初年度進捗率五五%と、補助工事の進捗率二八・五%とによって生ずる進捗率の差は、工事施行に不都合を生ずるので、十分注意をされ、後に問題を起こさないように配意されたいと思います。
また、わが党は、
災害復旧にあたっては、過去の苦い経験にかんがみ、単なる原形
復旧にとどめることなく、
改良復旧を旨とすることを要求して参りました。この点につきましては、岸総理の施政方針演説の中にも取り上げられており、わが党の主張を認めておられたのでありますが、実際には、
予算審議の中で明らかになりましたように、たとえば仮締め切り工事費の
単価を
建設省が一メートル当たり二十万円を要求したのに対し、大蔵省が一方的に十五万円に押え、
堤防の高さも
建設省が七メートル五十必要だというのを、大蔵省は六メートル七十でよいといい、伊勢湾高潮
対策も九十七億円の要求が五十四億円に、公共土木施設
復旧費百八十六億円が百四十六億円に、砂防工事のうち特に緊急を要すると認められる分十五億円が九億円に、都市
災害四億七千万円が二千万円にと、それぞれ削減されてしまったので、これでは来年の雨季
台風期までに原形
復旧することさえ困難ではないかと案ずるものであります。
また、激甚地の指定の問題でありますが、
政府は、当初激甚地指定を二、三の県に限定して
補正予算の編成を終わり、
国会に提案したようでありますが、わが党の追及にあって、十一月十二日に至り、ついに政令基準は大幅に変更されて、十六府県が激甚地の指定を受けることになり、
予算算定の基礎が大きくくずれて参ったのであります。従って、
補正予算のかなめである激甚地指定が大きく変更を見た以上は、あらためて基準拡大に伴う
予算の増額
措置を行なうべきことはけだし当然であるにもかかわらず、このことは行なわず、わが党要求の政令基準によって、具体的に十六府県の中の幾つの市町村が指定を受け、その結果
予算が幾ら増大するか明きらかにせよという重要問題についても、調査不十分のゆえをもってこれを意識的に行なわず、言を左右にして、
予備費もあり何とかやれるといって逃げを打っていることはまことに卑怯だと思います。
前述の
通り、
改良復旧が大蔵省の一方的査定によって不可能となっていることの事実と、激甚地指定の拡大問題等あわせ
考えるとき、本
補正予算だけではとうていまかない切れないことは明々白々になって参ると存じます。わが党が強く
災害予算の第二次補正を要求するゆえんのものはここにあるのであります。
佐藤大蔵大臣は、あなたの言明をゆめ忘れることなく、特段の善処をなされるよう、重ねて強く要望しておきます。
第四の
意見は、
石炭対策についてであります。国内エネルギーのうち、総体の四七・六%は
石炭によって占められていることは御
承知の
通りであります。エネルギーの乏しい
わが国においては、
石炭が
最大のエネルギー資源となっていることは明らかであります。この重要資源である
石炭鉱業が、今日重大なる危機に当面し、合理化の美名に隠れて首切りのあらしが吹きまくっておりますが、根本的には
石炭鉱業に対する
政府の無為無策が今日の
事態を招来し、その犠牲が労働者の上にしわ寄せされているという矛盾した姿がはっきりと出ているのであります。従って、
政府は、みずからの
責任において今後の
石炭鉱業のあるべき基本方針を直ちに決定して、具体的な解決策を実行に移さなければならないにもかかわらず、このことは来たるべき通常
国会に持ち越し、今回の
予算補正においてはわずかに七億円余の
離職者対策費を計上したにすぎません。これでは、当面大きな社会問題となっている
石炭問題を解決することはできません。
わが党は、
離職者対策については
政府の
予算補正のほかに、転職移動資金、
離職者公営住宅建設資金、
離職者失業特別手当の支給などが緊急に必要であると
考えまして、強く要求したのでありますが、認められなかったことは非常に遺憾にたえません。今後、
政府は、これらのことについても慎重に検討を加え、実施に移されるよう要望しておきます。
第五に、既定経費の節約についてであります。本
予算補正のために、七千五億円の財源を既定経費の節約に求めておりますが、私がその内容を検討してみまするときに、まことに不思議に思われてなりません。すなわち、全額を防衛庁
予算の節減に求めるならば、不要不急の在在である防衛庁費であるだけに国民は納得をすると思うのでありますが、こともあろうに、農林、建設、文部等、当面の緊急実施を必要とする
関係省の経費を節減することは了解に苦しむところであります。特に文教
関係については、公立文教施設備五カ年計画が昨年度より実施に移されておりますが、実際には
予算の裏づけが十分でなく、右に左によろめいていることは周知の事実であります。かくのごとき
実情であるにもかかわらず、今回一億五千万円の文教
予算の節減を行なったことは暴挙であり、国民の絶対納得できるものではありません。この点については、
政府に対し厳重な警告を申し上げておきます。
第六に、
地方財政について申し上げます。
大蔵大臣は、
地方財政が
昭和二十八年当時より好転をしておるという見解をとって、各種の特例法の国庫負担または補助率を二十八年災以下に押えようと努めたらしく、二十八年災より率がよくなったものは、海岸
堤防の国庫負担分を政令地域に限り一律に八割としたくらいのものであります。また、自治庁は、
地方公共団体の起債の特例分として二百億円を要求したのでありますが、結局、大蔵省に百六十億円に押えられ、しかも、特例法のうち国が元利補給するのは農地等の小
災害についての
地方債だけで、あとは結局
地方公共団体の借金として残り、今後
地方財政が
相当に圧迫される要因を作り上げているのであります。この点についての
政府の特段の配意を要求しておきます。
最後に、
財政投融資について申し上げます。
財政投融資による
災害対策費として、年末融資分を含めまして、総額五百一億円の追加を行なっておりますが、もちろん、民間
被害のきわめて甚大なる本年度
災害の特質にかんがみるとき、これではまことに不十分でありまして、中小零細商工業者や農民が立ち上がることはできません。わが党が、一千億円の追加要求をいたしましたのは当然のことでありますから、
政府が今後善処なされるよう希望しておきます。
その他本
予算補正に際し、大蔵省初め各省が故意に各省
被害要求額と査定額の公表を避けた
態度はまことに遺憾であり、
審議に支障があったこと。さらにまた
政府機関
関係予算のうち、特に国鉄、電通等の損害がかなり多かったにもかかわらず、具体的な
予算措置をとらなかったこと等、まだまだ幾多出し上げたいことがございますが、時間の
関係で省略をいたします。
以上申し上げましたように、本
予算の補正には幾多の不満はございますが、罹災以来すでに数カ月、寒空のもとにふるえながら悪戦苦闘を続けておられる被災者の身の上と、壁と屋根だけの家の中で飢えに苦しむ
炭鉱離職者の心情に思いをいたし、この当面する緊急
事態を一まず切り抜けるため、ここに
政府原案に対し賛成の意を表し、私の討論を終わります。(拍手)
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