○森八三一君 私は緑風会を代表いたしまして、災害対策につきまして若干のお尋ねをしたいと存じます。
一瞬にして数千の非常に尊い生命と巨億の富を奪い去りました伊勢湾台風の被害は、文字
通り空前のものでありました。すでに災害が発生いたしましてから一カ月余を経過いたしておりまする今日、なお水没をいたしておりまする相当広範な地域を存しているのであります。その惨害は言語に絶するものがあります。被災者の窮状は何と申し上げていいか、凄惨と申しましょうか、むざんと申しましょうか、全く表現する
言葉がございません。私はここに心から被災者の皆さまに対しまして御同情とお見舞いを申し上げるものであります。この間、現地の府県や市町村当局を初めといたしまして、各種団体の諸君が、不眠不休、救援に、復旧に、懸命の
努力を払っておられますることに対しまして、衷心感謝を申し上げるものであります。特に学生諸君や、自衛隊や、警察官の各位が、寝食を忘れて、救援に、水防に、あるいは治安に活躍せられておりますことについても、深く感謝を申し上げるものであります。
政府におきましても、去月三十日、愛知県庁内に中部
日本災害対策本部を設置して事態に
対処せられますとともに、
総理を初めとして
関係各大臣が現地を視察調査せられまして、臨機の処置を講ぜられておりますのと、被災者に対して同情と激励の
言葉を送って参られましたことは、私の多とするところであります。しかしながら問題は、現地における同情の
言葉や激励の
言葉、特に
総理が、「伊勢湾台風は実に未曾有の大災害である、
政府はこれが救援復旧に対して過去の例にこだわるようなことなく最大の施策を行なってその万全を期する所存である」という、そのお
言葉だけでは問題は解決されません。その
言葉の精神が具体的な法律となり、予算の上に具現されなければならぬことは申すまでもないと思います。財政上の
関係や、事務能力や、先例などに籍口してお茶をにごすようなことは断じて許されません。のみならず寸刻の遷延もあってはならぬと思うのであります。すでに同僚の皆さまから私がお尋ねいたしたいと
考えておりまする問題について相当の質疑が行なわれておりますので、あるいは重複するような場合もあろうとは存じまするが、以下数点に対しまして
総理並びに
関係大臣の率直な
答弁を求めたいと存じます。
今回の災害は予期せざるものであって、何ともいたし方がない、防止しようがない、全くの天災だなんという
言葉をよく承るのでありまするが、その
言葉は反面何らの反省がないということにもなるのであります。
総理は、全く避けることのできない不可避的なものであって、そこに何らの手落ちはなかったとお
考えでございましょうか。それとも結果論ではありますが、かくかくの点に遺憾の点があったとお
考えでございましょうか。私
どもはまことに残念なことではありますが、年々歳々大なり小なり台風や豪雨、冷害などの災害に侵されております。それらの経験にかんがみまして、いろいろなケースに即応する対策が常に立てられておらなければならぬはずであります。また、復旧の問題にいたしましても、再び災害を繰り返さぬように工事が完全に実施されておらなければならぬはずであります。もし幸いに対策が具体的に立てられており、復旧が完全であったといたしますれば、今般の災害も相当に軽減し得たものと私は確信をいたします。ここに人災と言われるゆえんが存するのだと思うのであります。そこで、すんだことをとやかく申し上げましても、死んだ子供の年を数えることになりますので、もうこれ以上申し上げませんが、将来の心がまえについて確固たる
所信をお伺いいたしたい。
その第一は、災害対策についての具体的な事前の計画を樹立する必要があるという問題であります。たとえば、自衛隊の
出動、避難計画、応急資材の備蓄等々のことであります。昨日も
質問に答えられまして、自衛隊の
出動計画は十分立っているとおっしゃいますが、それは発生した災害に対して立てられているのでありまして、どの地点にどういうような災害が起きたときには、どこの自衛隊をどういうように
出動せしめるかというような、事前の計画が十分に立てられておらんのではないかと思うのであります。避難計画にいたしましても、災害が発生いたしましてから、さてその地方の住民の諸君をどこへ避難せしめるかということで、受け入れ側との折衝をして、初めて避難の実が進められていくというような、後手々々に回っているというような
状況ではなかろうかと思うのであります。どの地点にどういう災害が起きた場合には、どの地点に、どこの場所に避難せしめる、もしその予定地が災害に侵されているというような場合には、第二の避難場所はどこであるというようなことを、具体的に事前に樹立されておりますなれば、災害に際して尊き人命を失うようなことは相当に私は減じ得たと思うのでありまするし、今回の伊勢湾台風の実例に徴しましても、そういうことは明確に申されるかと思うのであります。
さらに、特にこの際強調いたしたいことは、気象観測の充実とその観測の結果に基づく科学的な台風対策であります。すなわち、台風それ自体を解消する、あるいはその力を小さくする、あるいはその
方向を変えさせるというような雄大な対策を持つべきではなかろうかと思うのであります。私の承っているところによりますれば、すでに科学者や気象学者等の間におきましては、ドライアイスとか、油、原子力などの利用あるいは応用によりまして、台風の
方向を変更せしめたり分散せしめたりいたしますことが必ずしも不可能ではないとされているということであります。もちろん、いまだ学説的なものであるかとも存じますが、実用の域に達せしめるような研究がなされ、実験が持たれなければならぬと存ずるのであります。これがためには、もちろんわが国の国力だけや国内だけの地域的なことでは解決はむずかしいと思います。そこで、フィリピンその他南洋諸国や米国等との協調のもとに
国際的な機構を持つべきであると存じますが、御
意見はいかがでございましょうか。これこそがほんとうに平和を希求する近代国家のなさなければならぬことでもございますし、原子力を平和的に利用するというその最も最たるものと申し上げてもよろしいかと思うのであります。この際、年々歳々台風の洗礼に見舞われておりますわが国といたしましては、そういうような
国際的な対策機構確立を提唱し、その実行を迫るべきであると思いまするが、御
意見はいかがでございましょうか。
なお、これと並行いたしまして、国内的にも、気象観測のための船舶、航空機の整備や、今回の災害にも相当に活躍をし、その成果を上げておりますヘリコプターにいたしましても、母船がないというような問題のために、国内のヘリコプターだけではうまく参りません。米国の援助を求めたような事態も
現実に存在をいたしているのでございますから、そういうような事実にかんがみますれば、当然ヘリコプター母船や、あるいはその基地の設置など、きわめて重要な問題が提起をされていると思うのであります。基本的には、科学や技術の活用をはからなければならんと思うのであります。
さらに、これらと、前にも申し述べました自衛隊の
出動計画や退避計画、資材対策等々を総合的に立案、企画、実施する
責任機構としての対策本部とか、対策庁とかというような種類の常設的機関を整備すべきであると存じまするが、あわせてお伺いをいたします。要するに、
国際的な台風に
対処するための機構、国内的な総合的な機構、この
二つの問題に関する御
所見をお伺いをいたします。
その第二は、事後の措置であります。発生した災害の規模や、激甚性にかんがみ、そのつど立法措置や予算措置をいたして参ったのが、今日までの実情であります。もちろん、予備費や行政措置によって、ある程度の応急対策は講ぜられてはおりまするが、きわめて不十分であります。そのために、本格的な救援復旧対策が確立せられ、実施の段階に入りまするまでには、相当の日時を要しておりまするために、せっかく復旧に立ち上がった被災者や市町村当局その他の
関係団体の失望を買ったり、その意欲を喪失せしめている場合がないとは申されません。のみならず、各省庁間の有機的な連絡を欠き、ばらばらで救援や復旧を混乱せしめている場合もないとは申されません。昨日、同僚議員の
質問に対しまして、そういうような事態になりませんように、十分有機的な連絡がつくようにという御
答弁でございましたが、そういうような御
答弁は今までも再三再四繰り返されております。有機的に連絡をするということは、
言葉の上ではきわめてきれいでありまするが、実際問題としてはなかなかその実が上がっておりません。そこで、私は災害対策の基本法とも申すべきものを制定して、迅速果敢に
統一性のある措置を実施し得るようにいたすべきであると思いまするが、そういうような問題についての御構想なり御
所見はいかがでございましょうか。
特にこの際、確かめておきたいことは、すでに災害発生以来三旬を経過いたしました今日、今なお相当の広範な地域が水の中に浸っております。そこに住居をいたしておりまする被災者はきわめて気の毒な状態に置かれております。厳寒を控えまして生命の危険にもさらされているのでありまして、早く水魔から解放しなければなりません。そこで、昨日の
質問に建設大臣お答えになりましたが、
最後の締め切りが十一月末に予定されているということでありまするが、私はあらゆる知能と技術と財貸を総合的に投入いたしまするなれば、なおその
期間は相当に短縮し得るのではないか、あるいは予算に縛られたり、その他の
関係で、十一月末という一応の想定であろうとは思いまするが、被災者の悲惨な
状況を
考えますれば、この際一切の財政的問題を離れまして、全力をここに集中すべきであり、その
期間を相当に短縮するの情熱を傾けなければならぬと思いまするが、いかがでございましょうか、その点をお伺いいたします。
その三は、災害復旧については、従来いわゆる原形復旧ということで処理されて参りましたが、
国会の強い要請もございまして、近時改良復旧を認めるということになりました。今回の災害処理に対しましても、昨日改良復旧を実施するという御方針を明確にお答えに相なっております。ところが、実際には財政上の
関係からでありましょうが、なかなか実行が伴っておらぬというのが実情であろうと思うのであります。私はすでに
昭和二十八年、十二号台風の復旧について具体的な事実を持っております。さような結果は、貴重な国費を乱費するというばかりではございません。災害を繰り返しているのであります。残念この上もないことでございます。私はそこで明確にしておきたい。今回の災害復旧にあたって、改良復旧をやるという方針だけはお示しになりましたが、その改良復旧の改良部分についても、復旧と同様の助成措置あるいは起債措置等を認めてやりませんというと、ただ口先だけで改良復旧を認めると申しておりましても、その実が上がらぬということになると思うのであります。そこで、改良部分についても復旧と同様の措置をするということにいたさなければならぬと存じますが、いかがでございましょうか。
さらに、従来の慣行である三・五・二の年次別割り振りにこだわることなく、この際はできるだけの進捗を講ずべきであろうと思いまするが、予算の面で離日もお答えがございますしたように、二八%五ということが企画されている。そこで同僚の
質問に対して、そういう二八%五という比率にこだわることなく、進むものであればどんどん進めていく。そうして予算が足りなければ追加をするかというようなお尋ねに対して、大蔵大臣はさような措置を講じないというような趣旨のお答えであり、本日曾祢議員の
質問に対し、
総理はそういうような場合には、第二次補正を考慮するというお答えがあり、大蔵大臣は本日の御
答弁で、
総理の答えに同調をせられましたので、そのことは一応解消をみたのではございまするが、私は来年の台風期までに何といたしましても現地が安心していけるような措置は講じなければならぬと存じます。そこで三・五・二の比率ということは一切この際は解消をし、やれるだけのことはやる。足りない予算は第二次補正を出すという決意をすべきであり、その実践をしなければならぬと存じまするので、重ねてこの点に対する確固たる
所信をお伺いをいたします。
第四は、農林漁業者等のごとき零細企業に対する復旧復興資金の問題であります。法律によりますると、自作農資金だとか、天災資金だとか、あるいは住宅資金だとか、いろいろの種類の資金がその用途に従って貸し出しをされるという仕組みになっております。そのことは必ずしもわからぬわけではありませんが、借り受ける農民から見ますれば、その農民の
経済は一本であります。そこで、あちらからもこちらからもという、たくさんのルートがございますると、一つの
経済でありまする農民の
立場から、その手続がきわめて煩瑣になり、あるいは要求される書類を出すそういう手続のために、混迷これ疲れてしまっているというのが、私は現況であろうと思うのであります。のみならず、その貸付をいたしました資金の効率についても、あまり多くの場所から貸し付けるということによって、必ずしも効率を発揮しているというようにも言えない面があろうかと思うのであります。そこで借り入れ手続を簡素化する、あるいは償還についても十分な保証を
考える、各方面から考察をいたしまして、この際、災害資金融通法というようなものを作り、一本の手続で始末がつくようなことを
考えてやるべきであろうと思うのであります。もちろんその
内容には、長期資金もありましょうし、短期資金もありましょうから、一農家に対して五十万ならば五十万という貸付資金の中で、三十万は年賦の長期資金、二十万は短期の資金というように、あるいは金利もその
内容で区別をすればよろしいので、手続としては一本にまとめて簡素化をしてやるということが、被災者に対するあたたかい思いやりのある措置であろうと思うのであります。そういうような災害資金融通法というようなことに対しまする大蔵、農林両大臣の御
所見はいかがでございましょうか。このことは、もちろん中小企業の場合にも当てはまることであろうとも存じます。
次に、農林漁業のようなきわめて零細規模の経営を近代化、合理化せしめて参りますることは、
日本農政の持つきわめて重要な当面の課題であります。私は、今回のこの災害を契機といたしまして、いわゆる禍を転じて福となすというような
意味合いからも、災害の復旧に際しましてこの基本的な農業経営の改善を推進いたしまするために、住宅、畜舎あるいは農機具、運搬具等の施設の共同化を講ずべきであろうと存じます。そこには非常に資金効率を上げていくということも
考えられまするし、あるいは生産の向上を期するというきわめて裨益する面も
考えられまするので、どこまでも新しい
日本農業の経営形態として共同化を推進するためにこの機会をとらえるべきであろうと思う。そのためには、そういうふうなことに積極的な推進の
方向を向けるべきであり、それに順応いたしまする農民に対しましては、あるいはその組織に対しましては積極的な高率補助の助成対策を講ずべきであると思いまするが、いかがでございましょうか。農林大臣の御
所見を伺います。
最後に、今般の災害処理にあたって各種の特別立法が行なわれますることは当然であり、すでに
政府におきましても二十数件の法律案を準備されていると伺うのであります。それらの法律の実施に際しましては、多くの場合に政令にその具体的な措置をゆだねるというようなことになろうと思うのであります。そこで私お伺いをいたしたいのは、私
どもが
提案されました法律案というものを十分審査いたしまして被災者に相対するとともに、復旧の万全を期しまするためには、その具体的な政令の
内容というものを十分承知いたしませんというと、仏作って魂を入れぬというような残念な結果に陥る危険がないとは申されません。そこで、今般の法律案なり予算案と並行して政令案をも審議すべきであろうと思います。そのためには何といたしましても政令案を示されなければならぬのであります。
政府は、政令は
政府にまかされていることだからというような形式論でその提示を拒まれるようなことになっては大へんであります。審議に重大な
関係をいたしまするので、関連する政令案は必ず委員会に
提案をされたい、内示をされたいということを要求するものでありまするが、そういう措置をおとりになる御
意思がございますかどうかお伺いいたします。
以上をもちまして私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇、
拍手〕