○
清澤俊英君 私は
日本社会党を代表して、本案に反対の
意見を述べたいと思います。
本案は、わずか時間にして百時間足らずで、ただ一ヵ条を変更する、表から見ますると、非常にまあ大した問題でないように見えておりますが、本改正案が
通りますれば、
繭糸価格安定法を死文化しまして、実質的に廃案とするのであります。そういう結果が出てくるのであります。
繭糸価格安定法の精神が、上値を二十三万円で抑えて、下値を十九万円で抑え、その値幅の中において糸価を安定せしめていくことを目的とした
法律でありまして、その目的を達するために、下値を割った場合、
政府がある
程度の糸を買い上げて保有し、上値を破って高騰するというおそれが出ました場合に、売り払って高騰を押える仕組みであることは、私が申すまでもありません、皆さんよく御承知のことであります。しかも、支持
価格は
繭糸価格安定審議会に諮問して
政府が定めることになっておるのであります。
本改正案は、本
委員会における審議の過程及び本年一三月三十一日の
繭糸価格安定審議会会議録等において明白のごとく、
政府は十八万円を上値とし、下値十四万円として、理想糸価を十七万円とするために提出された改正
法案であります。このことは、まず
繭糸価格安定法を空文化しまして、実質上廃案とするのであって、重大な内容を持つものであります。私は、かかる重大なる支持
価格を変更する
法案を提出をするものならば、当然
価格安定審議会に諮り、かつ
価格安定審議会において、かりに十八万円、十四万円の線が決定せられたとしまするならば、当然振興審議会にかけてその見を徴すべきが正当であると考えるのであります。ともに十八万円の糸価にては、
政府提出
資料をもっていたしましても、繭価は原価割れとなり、生産農民が重大な破滅に陥るのであります。これらの点に
一つの省みるところもなく、独断的に、何らの手続も踏ます、
政府の
考え方だけで本案を提出するがごときは、全く法の精神を踏みにじる独善的思い上がりもはなはだしいものと思うのであります。
なお、
手持ち糸全部を
放出するがごときは
繭糸価格安定法を全く死文化するのであります。その活用を軽視する暴挙と言わなければなりません。しかも、本文正案が通過後、
繭糸価格安定法にいろいろ改正すべき点があるから、抜本的改正の要があるから、事が済んでから、いろいろ御相談をいたしまして
繭糸価格安定法を新たに変えるというに至りましては、われわれはあぜんたらざるを得ないのであります。
われわれは、かかる不法な手続によって思い上がった
法案には、ます第一番に手続上反対をして参りたいと思うのであります。
第二番目には、私は支持
価格の問題であります。私は上値十八万円、下値十四万円、標準価十七万円という独断支持
価格の不当性については、先にも申し上げました
通り、
生糸の
生産費、
農林省算出によっても繭一貫目当たり千五百五十六円、
指導費三十四円、製糸費四万七千九百十一円といたしまするならば、
生糸一俵当たり二十万一千八百四十一円となっておるのでありまして糸価が十八万円とすれば繭価は千二百円ほどとなり、最低十四万円の場合は千十二円十一銭となり、
養蚕農民にみすみす
生産費に合わない損害を与えるのでありまして、農業経営の破綻を来たし、生活の安定を欠くがごとき無謀な
法案には何としても賛成できないのであります。しかし、繭も
商品でありますから、売れぬ場合は、
幾ら損だから得だからと申しましても、損して売らねばならぬ場合もありましょう。こういう場合どう農民を守り、経営を維持せしめるかか
農林省の役目であるとわれわれは考えておるのであります。農林水産
委員の重要な任務もここにあると思うのであります。市価の債勢をどう見るかということは、これは重大な問題であります。昨年の異常な混乱
相場から
生糸並びに
織物の
需要は世界
景気の立ち直りを裏づけといたしまして、最近におきましては、昨年の
手持ち糸の不足もあり、内外ともに
需要が増大してじわじわと
値段は引き返し、昨今は高値二十万五千円にも達しておるのであります。しかもこの間
政府は十八万円
価格支持をもって
臨時措置法による保有
生糸の約五万六千俵が市場に流されておるのであります。しかも、二月から七月までの間において現われた糸価の動きは、ことに重大な問題であると思うのであります。二月から七月までの間に、
政府は
臨時措置法による現物を約五万七千俵を流されたのでありますが、現物の
景気も、いずれも十八万円以下、十六、七万円台を動いておる際に
放出しておられますが、しかも、その
放出価格は十八万円で売れているということには、これには重大なものがうしろに隠されておると考えなければならぬのであります。こういう状態に対しまして、
政府は最も慎重な態度が必要なのでありますが、しかるに、
政府はあくまで十八万円を固執して、十八万円で
政府手持糸を流そうとしておるのであります。支持
価格については、正当の機関に諮り、十分に議を尽くすべきであったと返す返すも残念に思うのであります。大体十八万円、十四万円の支持
価格は、正当の
価格ではない、異常
価格と申されているのであります。すなわち、この
価格が出て参りましたことは、皆さんが御承知の
通り、昨年三十三
年度におきまして繭が異常に下落をいたしまして、その際に臨時に
政府がとって参りました処置としていわゆる十四万円糸価、二千円繭を決定せられた際に、その手持糸を処理するために異常な
価格の中にきめられたのがこの十八万円並びに十八万円を最高とし、底値十四万円とし、繭価を一千円とする
価格になっているのであります。これは全く異常
価格であって、決して平常な
価格とは申されぬのであります。だから、世間一般にこの
価格を異常
価格と申しているのであります。そこで、その後かかりましたところの蚕糸審議会におきましては、これに対しまして、だから
繭糸価格安定法の精神を生かしまして、二十三万円という最高
価格を一方にきめ、
臨時措置法によりますところの
価格を十八万、同じ
一つの繭
価格に対しまして、二つの
価格を、最高値をもっているのであります。これは少なくとも、たんのうなる業者が考えました、これは非常に考慮のある、深みを持った私は決定であると思うのであります。従いまして、先ほど申しましたような
値段がじりじりと上がって参りますることは、これは当然でありまして、しかもこの趨勢の中から敏感な商人が、敏感な業者が決して異常な何か経済界の
変動でもない限り、私は決して無理な
相場は立ってこないと思うのであります。結局しますならば、ほっておきましても、糸が売れなくなり、あるいは
織物が売れなくなるとしますならば、それは買っていくものがだんだんなくなって、自然に適正な実勢
価格というものが生まれるという目安のもとに二十三万円という線を残して、そうして二つの上値決定をしておいたのだと考えるのであります。それを
政府がただ単に売れるということだけを中心にして十八万円だけで、本
法案のようなものを強行せられるといたしましたならば、これは重大な問題になるのであります。今日いろいろな問題が生じておりますることは、とりもなおさず私は十八万円で出すという、それを中心にした
一つの混乱が出ていると思うのであります。その混乱を簡単に申し上げてみまするならば、少なくとも織屋さんでありますとか、あっるいは
生糸の
輸出商とかいうものが、これは安価であればよく売れるのでありますから、これを支持したいと考えるのであります。あるいは製糸屋さんであるとか、高い繭を買った
生糸屋さんであるとかになりまするならば、これはとうてい売れない
値段でありまするから、従いまして、十八万円には反対している。そしてそういういろいろな利害得失が相錯綜した中に、おのおのの
立場を中心にした思惑が生じてくると思うのであります。その思惑がいろいろな疑惑を今生んで混乱しているのが最近の私は
相場であると考えておるのであります。そうしてしかもそういう混乱の中で出ておりまする
一つの姿を見まするならば、これはいろいろな思惑が講じられている、こういうことを聞くのであります。そのはなはだしいものにおきましては、この十八万円というものを同じ製糸屋さんの中でもこれを支持している一部があるのであります。関西五社を中心にした
製糸家は十八万円で抑えて、そして損のいく
価格を、これを支持しているという話も聞いているのであります。これは結局しまするならば、今日の、後ほ
ども申し上げますが、今日の製糸業に一番障害を来たしておりますることは、製糸の過程におきまして、坐繰り、機械製糸、自動機というようないろいろな機械がありまして、しかもその機械を中心にした経営形体が種々雑多になっておるのであります。従いましてそういう状態が不自然な繭の買付競争等によりまして、経営上の大混乱を来たしておりまするから、従いまして、大製糸はこの年末において糸価の暴落を来たしてそうして手持糸をたくさんかかえこんでいる小さい糸屋さんが困って投げ出すことを待って、
整理をしようというような含みがあるというような評判さへ立っておるのでありますが、この評判がはたしてほんとうであるか、あるいはうそであるかは別といたしまして、大きな関西五社というようなものが十八万円を支持し、その他の残余の
製糸業者がこれに対しまして、絶対反対をしておりますることは、高い繭を買った
製糸家として、先日も安田さんが証明せられた
通り、これは無理からぬことであろうと思います。これは当然起きる
一つの混乱だと思う。そういういろいろの思惑は、これは雑多に今起きていることでありまして決して今ありまするところの市場に現われておる糸価というものは、こういう思惑をいろいろ総合した上に立っているのでありますから、これはわれわれとしては正当な実勢とも考えられない状態であります。だから糸がどこへいくのだか、
値段はどこへいくのだか、何が何だかさっぱりわからないというような現実の状態であります。これはちょうど昨年、三十二
年度の末から三十三
年度にかけまして、糸価がするする暴落して参りましたとき、高い
手持ちの糸を持っております者たちが、非常にあわ食いまして十九万円の最低の
価格で
政府に買い上げてもらおうという運動を強力に進めるために、いろいろな方便をして、そうして十分に買い上げてもらうことを中心にして、みずから
価格を下げた手合いが断じてないとは言われません。そうすることによってその
一つの現われとして出て参りましたことが、いわゆる早引き、早逃げ、そうして
政府に早売り、こうした言葉がはやりました当時、
手持ちの繭をどんどんと
生糸にして、短操をやれというのに短操もへちまもあったものではないということばかりにどんどんそれを糸にしてしまいまして、そうして
政府に売りつけております。そうして繭の損害を、
原料仕入れの損害を
政府に肩がわりしようとした、それを合理化するために誇大な声を上げましたことがみずからの勢いをだんだんと大きくして、
相場を混乱さしたと同じ結果が、今
政府が十八万円で売るのだということを中心にして、大混乱を起こしているのであります。そうしまして、昨年は結局しまするならば、それに馬乗りしまして、
政府はしまいに
夏秋蚕の対策に対しましては十六万円、千二百円繭が正当であるとか、あるいはこれに決定するのであるなどということを新聞な
ども放送して、その後に至りましては十月ごろになりますれば十四万円、千円繭を放送して、そうして最後には十二月に至りまして十四万円最低
価格、千円繭を決定して、そうしてはとんど
夏秋蚕全体を、農民の上には千円で決定さしたという、はなはだもって農民自身に全部をしわ寄せた形で今出ておるのであります。こういう形が出て参りましたことも、私に言わせまするならば、昨年、三十三
年度の繭の混乱に対しまする
政府の定見がなかった、
見通しがなかった、ただその混乱にあわてふためいて、そうしてただ大勢と申しますか、あるいは回りの示唆といいますか、そういうものに追随したということが、とれもなおさず昨年のような大混乱を来たしたので、その際きめられたのが、いわゆる十八万円最高、十四万円最低の異常
価格であります。それをもって全体を今ここで安定
価格としようとするのがこの
法案の骨子でありまするから、従いまして、私はこの十八万円
価格というものは、まだどうしても安定
価格として用うべき線であるかどうかということはわからぬのであります。世間一般ではこれはまだ異常
価格の部類に属すると言っておるのであります。そこで大きな思惑ができて、その思惑が先に申しました
通り、いろいろな私
どもの審議のうちに現われました
通りの、いろいろな今問題を起こしている。あるいは先日来また政治上にも見のがすことのできない忌まわしい声もかかるのであります。結局すれば、十八万円でどうしても
政府がこれを投げ出すことは、自由党の大親分がうしろについていてこれをやっているんであるとか、あるいは——私はそういうことは信じませんよ——やっておるのであるとか何とかいうようなことがありましたり、あるいは横浜取引所と
政府の
局長——蚕糸
局長が結託して、そうして
相場を下げてもうけるんだろうとか何とかいうようなことが、盛んに言われるような混乱状態を来たしておるのが、結局こういう無理をしたからでありまして、こういう
価格を私はきめられますることは
一つは
価格それ自身が私は不当であると同時に、農民から見まするならば、現に
生産費を割るごとき、こういう十八万円というようなものの
価格決定に対しては、社会党は断固反対していかなければならないのであります。これが反対の第二であります。
私は第三番目として申し上げたいことは、この
価格決定をかりにいたしまするとするならば、先ほ
ども申し上げました
通り、すでに
養蚕が
生産費割れをいたしまして、そうして先ほどの
中田君等の質問に答えられている
通り、約七割の農民が現に損をすることがわかっているのであります。そのわかっているにかかわらず、何らそれに対する処置を講じないで、これはどうなるんだと聞きますれば、これからやるんだ、一方において
価格は安定して販売は
伸びていく、こういうことを考えられましても、生産農民から見まするならば殺されるということであります。それに対する何らの処置も講じておられない。そこで私
どもは、本年の予算書をとりまして、蚕糸の予算がどれくらいであるか、こういうことを考えて見ましても、これらに対する考慮は
一つも考えていないのであります。
養蚕農民は消えてなくなれ、こういうことだから、こういうものを放置して参りますれば、先日内林君がここで証言いたしました
通り、農民はしまいにあきれ返って、損してまで繭は作られませんから、
幾ら価格を安定さして、これがだんだん
輸出の振興をはかるなどと言いましても、農民の方からごめんこうむりまして、だんだん作らぬことになるでありましょう。これが続けられますならば、私は常に農民と一結におりますが、農民の心理としては、ほんとうにこの繭が五百円でも、八百円でも、千円でも作らなければならないところに置かれる農民だけが作ることであって、少しでも他に利益のあるような場所の農民は全部やめるでありましょう、こういうことが私は考えられる。その上、ほんとうにこれまでの
価格を統制して、そうして振興をするとしまするならば、先ほ
ども申し上げました
通り、この糸価を決定し、蚕糸を正しくして参りまするには、私は製糸の段階において
政府がもっとしっかりした打つべき手をとらなければならぬと思います。今日の繭の
価格の混乱は、まず製糸段階において、先ほ
ども申しまする
通り、製糸機械である設備を中心にして、大きな設備もあり小さな設備もあり、しかも、その持ちまするところの製糸機械が座繰りであるとか、あるいは機械製糸であるとか、自動機であるとか、こういうようなばらばらな製糸機械が、しかも、繭の
需要を上回った倍くらいの生産能力を余した生産力を持って存在しておるのでありますから、従いまして、そこには大きな繭の買い入れの不当な競争が行なわれたり、いろいろなそこに無理ができて参りまして、それらがまず混乱の第一原因をなしていることは、はっきりわかっているのでありますから、従いまして、
生糸製造設備の整備法をもって、国費を投じてこれの
整理に当たっておられまするが、聞きますところによりますならば、これによって
整理をせられた機械というものは、ほとんどスクラップであって、使われないものがまあ売れた。こういう格好で、たまたま売れたとしまするならば、これは自動機に変わった、かえって生産を増大する、決して
生糸製造設備の整備の目的は達しておらない、これが一般の人が言うておる実情であります。私は
政府でないですから、これは調べておりませんが、これはすべての人が言っている。こういうものも全部放置して、十八方円だけで物を片づけようなどということは、これはとんでもない話だと思う。これはあまりに私はずさんなものの
考え方であり、小さい
製糸家や、あるいは
養蚕家だけを犠牲にして、そうして一方的な
考え方をもって他の物を顧みず、ただ売れればよい、これだけのことできめられたのが、この十八万円の
価格を堅持していこうとする無謀な
法案であると思いますので、右三点を中心にして、われわれ社会党は絶対反対をするのであります。(拍手)