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参考人(
加藤俊郎君) 全
炭鉱の
加藤俊郎であります。私
ども全
炭鉱といたしまして、今日までの
石炭政策を振り返りますときに、それからまた、今後の
石炭政策について
考えますときに、数多くの
意見を持っておるのでありますが、本日は
炭鉱離職者の
臨時措置法案に関する問題でございますので、直接これに関連する事柄につきましてお話し申し上げたいと思う次第であります。
私
どもは、
炭鉱の体質改善ということが、これから強力に行なわれなければならないというふうに
考えております。しかし、その体質改善を行なうにあたりまして、非常に重要な柱となるということが今論議されております。この
法案が円滑に運営されるかどうかということに非常に大きくかかるのではないかというように思うものであります。私
どもは、この
法案が意図しておりますところ、また、この趣旨につきましては基本的に賛成であります。従いまして、ただいまからこの
法案が実施されるにあたりまして、その運用がより一そう円滑であり、より大きな
効果が期待できる、そういうことを望みまして幾つかの問題を申し上げてみたいと思います。
本日、ここに
炭鉱離職者に関する若干の実情の調査資料を持参いたしましたので、これを御披露しながら、問題点について申し上げてみたいと思います。私の手元にありますこの資料は、
石炭鉱業整備
事業団が腕づくで買い上げました四つの
炭鉱につきまして、
炭鉱住宅に居住をしております三百四十六人の
離職者を対象に調査したものでございます。これは各人別にアンケートをとりまして、それを集約いたしております。
第一に、そのような
離職者が就職希望の時期を、いつを最も就職希望の時期として望んでおるかということでありますが、直ちに就職をしたい、こういう回答をいたしました者が回答者の中の八六・三%を示しております。残りの回答者は、調査の時期から一ヵ月以上あるいは二ヵ月、三ヵ月というあとの時期に就職をしたいという希望であります。これはそれぞれの
離職者につきまして、就職希望時期に関するいろいろの事情が介在しておるものというふうに
考えられるのでございますが、ともかく今日このような状況におります
炭鉱離職者に対して直ちに職を与えるということがいかに緊急であるかということは、この調査に待つまでもなく明らかであると思います。
第二に、就職の希望地でありますが、これについての調査におきましては、どこでもよい、海外でもいい、あるいは
自分が住まっておるところの県内であればよろしいというような回答をいたしました者が三三・九%でございます。残りの六六・一%が通勤を希望しております。また、新しい職につくにあたりまして、労働者自身、単身で赴任できる、それがどの程度あるかと申しますというと三九・四%でありまして残りの六〇・六%は単身で赴任することが不可能であるということを訴えておるのであります。このことから
考えられますことは、すでに御承知の
通りに、これらの労働者の現住地でありますところの
炭鉱地帯におきましては、ほかに
産業があるわけでもなく、
自分の家から通勤して仕事につきたいと申しましても、これはおよそ不可能な実情に置かれておるわけであります。しかるに多くの
離職者が
自分の住んでおる所で通勤が可能な仕事につきたい、こういうふうに希望をいたしておりますのは、これは一にかかって住宅事情にあることが明らかであろうと思うのであります。住宅の
確保につきましては、本
法案の第二十三条の第一項第四号におきまして、
雇用主に対しまして労働者用の宿舎を貸与すること、こういうことが書かれておるわけでございますが、この点に関しましては、
一つあらゆる可能な方法を講ぜられまして、ただ単に
雇用主に対して労働者用の宿舎を貸与するということだけではなくて、広範な
措置を
お願いしたいわけでございます。
離職者本人に対しましても、これは
離職者みずからが家を借りる、あるいは間借りをする、こういうようなこともあり得るわけでありますから、このような点に対しても援助を行なうことができないか、あるいはまた、住宅
公団を活用する、パィフ・ハウスなどを活用するというようなことを通じまして、もっと広い角度からこの問題の解決に大きな精力を注いでいただかなければ、先ほど申し上げましたたように、六六%の人間が現在の
炭鉱地帯で仕事を求めようとしておる、これはもう解決できない問題でありますので、この数字を減らさなくちゃならぬわけでありますから、どうぞ
一つ住宅問題については熱心にやっていただきたいことを訴えたいのであります。
それに関しまして、なお二、三の実例を申し上げますというと、ここに
炭鉱地帯から東京並びに埼玉県、山梨県などに
炭鉱離職者が参りまして新しい仕事についているのがあるわけでありまするが、そういう
事業所をたずねまして調べて見ますというと、そこにおります労働者のほとんど全部が早く家族を呼びたい、早く家族を呼んでそして東京で暮したいのだ、
自分が今働いている所で家族とともに生活をしたいということを非常に強力に訴えております。また、先ほど申し上げましたように、何とかして部屋借りでもしたいのだ、しかし、都会におきましては、御承知の
通りに高い権利金を取られ、敷金を払わなくちゃならない、そういう金の用意はとてもできないし、そのことを新しい
雇用主に対して要求することもできない状態だ、こういう悩みを訴えておるのであります。また、
雇用主側におきましても、土地を持っているから住宅を建ててやりたい、また、そういう努力をいたしておる、あるいはパイプ住宅をやりたい、一日も早く彼らのために家の問題を解決をしまして家族を呼んでやりたい、その暁には、家族に対して内職をさせることさえも
考えておるのだというような事情を訴えております。また、埼玉県や山梨県等に行っております者の状況につきましては、これは宿舎がないために社長の家に合宿をしておる、あるいは重役の家に合宿をしておるというような例もあるのであります。これは非常に親切な
経営者であると思うのでありますが、このように率先をして、この
炭鉱離職者の再就職について協力しておられる
関係におきまして非常にこの住宅の問題がネックになっておるわけでありますので、この問題に関連してさらに若干の点を申し上げてみたいと思います。
それは二十三条の第一項第四号と第一号の移住資金との
関係でありますが、その第四号におきまして「労働者用の宿舎を貸与する」、これはどの程度解釈上の幅がありますのか私にはわからないのでありますけれ
ども、ただいま申しましたような点からいいまして、この点について必要あるならば、条文の修正等も考慮していただかなければならないのじゃないか。それから移住資金の問題でありますけれ
ども、これは引っ越しの費用という意味でありましょうか、その引っ越しの費用ということの中には、今指摘をいたしましたような家を買いたいとか、部屋を借りたいというような場合の住宅の手当をする費用な
どもこの中に考慮されておられるのかどうか、この第四号で解決できなければ第一号の方で解決すると、そういうような方法を講じていただかなければなりません。それからこの第二十三条の節二項の第四号と第五号でありますが、第四号におきまして「この法律の施行後において新たに安定した職業に就いたことのないこと。」こういう工合に書いてございます。これから申し上げますというと、ただいま私が実例を御紹介を申し上げましたが、すでに職安のお世話などを通じまして
離職者が東京その他の地方に行っておるわけでございますが、こういう
離職者に対して移住資金あるいは住宅の
あっせんというような
関係がこの法律が成立をした後にどのように取り扱われるのか心配になるのであります。これらの諸君は、多数おります
離職者の中で、いわば開拓者として率先をして出て参っておるわけであります。これらの諸君が新しい
雇用主のところにおきまして、しっかり働くことができるかどうかということは、あとに続く多くの
離職者の就業の問題に東大かつ密接な
関係を持つわけでありますから、これらの労働者に対する
処置を忘れてはならないのではないかと
考えるのであります。さらにそこの第五号におきまして、
炭鉱労働者及び
炭鉱離職者が多数居住しておる地域に住所を有すること、こういう工合になっておりまして、そういうものでなければ、たとえば第一号の移住資金はもらうことができない、こういうことになりますというと、これも今申し上げましたように、率先をしまして遠隔の地に出て行き、そして新しい仕事についてがんばっておる、こういう労働者に対する取り扱いというものが、これから移住資金をもらう
離職者との間に非常に不均衡になるのではないかということを心配するのであります。この点に関しまして何か
政府の方においてお
考えがあるかと思いますけれ
ども、どうぞ
一つこういう労働者に対しての
処置を熱心にやっていただきたいことも
お願いをしたいのであります。
次に、
離職者の定義でございますけれ
ども、これに関しては第二条の第二項に「「
炭鉱離職者」とは、」ということで書いてございます。聞くところによりますというと、この「
炭鉱離職者」というのは、いわゆるホワイト・カラーと申しますか、職員層は含まないというようなことであるそうでありますが、私はやはり職員層も、職員であった者も
炭鉱離職者としてこれに含めるということにすべきであろうと思います。職員層の中には、特に
中小炭鉱の職員の中に、学歴もなければ特に技能についても持っておるものもない、そういう階層も非常に多いわけでありまして、今後の
炭鉱の成り行きを
考えます場合に、これらの人たちが整理の対象になりやすいということは容易に予想できることであります。しかもまた、こういう人たちはかえって転職が困難でありまして、これらにはいろいろの事情があるわけでございますけれ
ども、こういう労働者の中で、やはり
自分も今度は肉体労働に従事して働くのだ、職業訓練も受けるのだ、こういう希望があるにかかわらず、職員であったということによってこの法律の対象から除外されるということになるのは、はなはだしく妥当性を欠くのではないか。また、そのように希望をしないいわゆる純粋なホワイト・カラーでありましても、これはこれなりに
対策というものをこの法律の中に盛り込んでいただかなければいけないのではなかろうかという
考えを持っております。
次に、訓練手当の問題でありますが、第二十三条の第一項の第二号に「職業訓練を受ける
炭鉱離職者に対して手当を支給すること。」とこういう工合に出ておるのであります。この職業訓練の手当を私が特に申し上げますのは、今日まで
炭鉱地帯にも職業訓練所が数多くあるわけでございますけれ
ども、それでは一体どれくらいの
炭鉱離職者が職業訓練を受けておるかということになりますと、その数はきわめて少なかったというのが実績であります。大体職業訓練所は新規に学校を卒業した者が入る学校のような形になっておりまして、どこの訓練所に行きましても
失業者が職業訓練を受けておるという事例はわずかしかないのでありますが、
炭鉱地帯におきましてもまさにその
通りであります。先ほど申し上げました宇部地区の
離職者についての調査によりますというと、該当者のうちにわずか二・八%の者しか職業訓練を受けていない実情でございます。職業訓練を受けていない者の中で三七・九%の者が職業訓練の希望を申し述べております。これだけ多くの希望者があるにもかかわらず、実際には二・八%ぐらいしか訓練を受けていないというのは、要するに訓練中の生活維持の問題であります。生活が維持できる状態にしてやって訓練を受けさせるということでなければ、この職業訓練所を
政府におかれまして新たに作ってやられましても、成功は期しがたいのではないか。また、職業訓練を受けさした上で新しい職業につけてやるということでなければ、ほんとうに安定した仕事につくことができないのではないかという
関係でございますので、現在
考えられておりますところの職業訓練手当というものは、ぜひとも
一つ予算を増額せられまして、生活維持ができるような額において支給をせられたい。その場合におきまして、その
離職者の生活の実態に応じまして、家族を持っておる者、あるいは単身者というような実情に応じての訓練手当の額の相違というようなことは、これはいろいろ工夫があろうかと思います。やはりそれぞれ
離職者の実態に応じたこういう点も
措置をやってもらいたい。特に
政府は、失業保険の受給
期間の延長について一ころ考慮されておったようでありますが、今回それが出ていないわけでありまして、それに返るという意味ではありませんが、それに返るということも含めまして、職業訓練手当を増額するということをぜひ
お願いをしたいのであります。
次に、生活指導の問題について申し上げてみたいと思います。これも二十三条の第一項の第八号に、
援護会が行なう業務の
一つとして明記せられております。でありますが、このようなことがあるわけであります。新しい仕事につく、そこで日給五百円、あるいは六百円という金をもらうよりは、生活保護を受けておった方がましだという気分が現在滞留しておる、
離職者の中に相当蔓延をしているということを憂慮するわけであります。そのようなぬるま湯につけてしまいますというと、どのような
対策を講じようといたしましても、それに乗ってこない。たとえば、筑豊地帯の職業安定所におきましては、求人はあるけれ
ども求職がないというようなことがあったりする。これについて職業安定所の方では、応募者が思ったより少ない、特に直方では、
離職者の連盟が、これは今、日自労の
関係らしいのですが、応募を阻害しているらしいというようなことも言っているのであります。いろいろもちろん事情はあるわけでございますが、やはり
離職者に対して、みずからの生活をみずから建て直すんだ、こういう意欲をしっかり植えつけるような生活指導をこの
援護会は強力に行なう必要があるというように私は
考えるのであります。言いかえますならば、これは
援護会が
炭鉱の
離職者に対して行なうところの
一つのPR活動だろうと思うのです。同時に、このPRということに関連をいたしまして、私は
炭鉱離職者を雇っていただくべき全国の
雇用主側に対するPRを
援護会は強力に行なってほしいのであります。これはなぜかと申しますというと、
炭鉱離職者に対する一般の先入感がある。あるいは
炭鉱労働者は使いものにならないとか、日が当たる所では働けないとか、あるいは
組合運動が激しいとか、まあいういろいろだらない先入感がある。こういう
雇用主側の事情に対しまして、ほんとうに
炭鉱労働者がどういう
考え方を持っておるか、どういう状況であるかということを、いいことはいいなりに、悪いことは悪いなりに、
一つPRをしていただく必要があろうと思うのであります。先ほど例に引きました東京
関係の
雇用主側では、
炭鉱離職者を雇ってみた、いいことも言っておりますが、悪いことも言っております。作業についてはひけをとらない。従って、第二回分を追加申し入れをしておる。話し合いをするのに、
最初は全部の人間が固まって来たので驚いたというようなことも言っております。それから、仕事は非常によくやる、しかし、時間が長いのをきらう、あるいは選考を安定所で
責任を持ってやってもらいたい、あるいは人柄、知識等は、従来の労働者よりも上回っている、視野が広い、性格が明るいというようなことを言っておる
雇用主もあります。それからまた、安全帽をよくかぶるので、他の労働者の模範となる。これは当然でありましょうけれ
ども、そういう話も出ておるのであります。従いまして、こういう
雇用主側に対しまして、
炭鉱労働者の今までの生活の実態、
考え方というものについてよく知ってもらう必要があるし、新しい
雇用先の状況がどういうものであるかということにつきましても、今度はまた
離職者側に対して十分のPRが行なわれる必要があろうかと思うのであります。
次に、これだけのこの
離職者を、理想として一人の
失業者もないような状態に持っていくということでなければならぬわけでありますが、これについては、職業安定所の方の
人員や予算は、はたして対応できるように仕組まれておるのかどうかということを
一つ心配をいたします。現状におきましては、聞くところによりますと、
離職者一人に対する職業相談は、一分半から二分くらいのものだというようなことだそうであります。そういうことでは、いかに安定所の方で努力をされましても、これは不可能なことでありますので、この
法案と同時に、安定所に関する予算の
関係、
人員の
関係等につきましても、十分な配慮を
お願いをしなければならぬと思うのであります。特にその点につきましては、すでに安定所におきまして、広域職業紹介を実施しておられますから、それがどの程度実績を上げておられるかというようなことな
どもお調べになるというと、その間の実情な
ども明らかになるのではないかと思います。
なお、この
援護会の運営に関しましては、中央、地方の組織におきまして、われわれ労働
組合を含めて、民間人の活用をはかってもらいたい。さらに、これは
臨時措置法でありますけれ
ども、数年続けるべき法律でありますので、毎年十分な予算をつけていただかなくちゃならぬ、こういうことを
考えるわけであります。
最後に一点申し上げたいと思いますのは、この
法案の六条に関連をいたしますが、鉱業権者は、
炭鉱離職者を優先して雇い入れよ、こういうようなことになっております。この点は、
炭鉱離職者を他の
産業にこれを
お願いをして雇ってもらわなくちゃならぬという
立場にわれわれ
炭鉱人は立つわけでありますから、もっと強力な規定の仕方によりまして、鉱業権者が新しく
炭鉱労働者を雇い入れる場合には、
炭鉱離職者を雇い入れるようにしなくちゃならぬということをやれないものかどうか、御検討をいただきたいのであります。
あわせまして、この裏返しの問題でありますが、大手
炭鉱におきましては、真にやむを得ざる
事態におきまして
離職者を出さざるを得ない場合、その
離職者の中から一人でも
失業者を出すな、こういう覚悟が絶対に必要である。大手
炭鉱におきましては、それなりの資力を持っておるわけでありますし、あるいは系列会社、あるいは
関係の深い会社等も多いわけでありますから、そういう
関係に就職を
あっせんをいたしまして、一人の
失業者も出さない、こういうことを厳重にやらせる必要がある。その点におきまして、この
法案があるために
離職者を出しやすくなったというようなことが絶対にないような運営を考慮していただかなくちゃならぬ。さらに、
中小炭鉱の
離職者の場合は、多くの場合に、山が閉山になっておりまして、どこかに就職をしようとしましても、前歴を証明するものがなかったり、あるいは保証人になってくれる者がなかったり、いろいろ不利益な点があるわけであります。従って、この
援護会が掌握をしました
炭鉱離職者の中におきまして、
中小炭鉱からの
離職者であるがために、大手の
離職者よりはみじめな目にあわなくちゃならぬというようなことのないように配慮をいたしていただかなくちゃならぬと思うのであります。言いかえますならば、
援護会は、ある意味におきましては、このような
中小炭鉱の
離職者のために、親身になって世話をする
機関だということが言えるくらいに活動をしていただきたいということを
お願いするわけでございます。なお、本
法案が一日も早く実際に動き出すことができるように、特別の考慮を払っていただきたい、業務方法書を作り上げたりなんか、いろいろめんどうなことがあるようでありますけれ
ども、
事態は非常に急ぐべきことでありますので、
最大のスピードでころがり出しますように
お願いをいたしまして、私の申し上げることを終わりたいと思います。