○佐藤尚武君 本日は
戦争開始の時期の問題についてだいぶ議論が白熱して、社会党は退席してしまった。しかし、よしんば議場は白熱しましても、できるだけ
委員諸君は冷静に審議を進めていかなければならないのだと思いまするので、私はそういうような
意味合いからして、きわめて冷静に
総理ないしは
外務大臣の御
意見をお伺いしたいと思うのでございます。できるだけ短い時間に私の
質問は終わりたいと思うのであります。
私は、言うまでもないことでありまするけれども、
日本としましては、自分が署名し、自分が批准した
条約は忠実にこれを守っていかなければならぬということは、そういう
条約は徹底的に尊重していかなければならぬということは、第一の問題であると思うのでございます。そんなことお前が言うに及ばぬことだとおっしゃるかもしれませんけれども、私は最近におきましては、ややもすれば自分が名前を書いた
条約を尊重しない、これにけちをつけたり何かするというような傾向が多分に見受けられまするが故に、あえて私はこの点について念を押すのであります。終戦以来六年を経てようやくサンフランシスコにおいて
平和条約を
締結することができました。六年もかかった
条約でありまするからして、この
平和条約に対してわれわれは全幅的な敬意を払い、かつこれをどこまでも尊重していかなければならぬということは、これは当然な話でなければなりません。
平和条約締結に当たりましては、各国の全権はおのおのその全権委任状を呈示して、そうして全権委任状の審査
会議が開かれて、そこでそれらの全権委任状がおのおの良好妥当なるものと認められて初めてその
平和条約が成立したはずのものでございます。
日本も同じ手続を経て、そして
条約に署名をしたのであります。そういう手続を経て
会議が成り立ち、そして、
平和条約が
締結されたといたしましたならば、
日本はその
平和条約に定められてあるところの権利を享有し、かつまた義務を忠実に履行しなければならぬということもこれは当然な話であります。しかして問題は、議論となるのは、当時やはり全権委任状を呈示し、良好妥当なりと認められて、そうして他の全権
委員と同じ資格でもって
平和条約に入った
わけで、のみならず
平和条約を後日成規の手続を経て批准した国でもある。しからば
平和条約に規定するところの
賠償の義務、これは
ベトナムに対してわれわれは当然負うべき義務であって、それをわれわれは果さんとしておるのである、その
ベトナムの全権
委員の資格があるとかないとかいうようなことは、これは
日本がかれこれ論議すべき問題ではございません。これは
平和条約の当時審査された問題であって、妥当であると信じられたがゆえに全権として
ベトナムの全権が
調印した、こういうことでありまするがゆえに、これは
日本の関する問題ではないとはっきり申し上げなければならないのであります。しかして、その
賠償の条項によりまして、
日本はすみやかに
賠償の
交渉を
開始しなければならぬという義務を負っておるのであればこそ
ベトナムに対しましても
賠償の
交渉を始めた、そうしてこれをまた六年かかってですか、ようやくこの五月に話がまとまって
賠償条約に
調印した、こういうような
いきさつでございます。私は
賠償額の問題につきましても、ここで非常に長い時間をかけて論議がございましたが、私はこれは正確な算定の
基礎によって算出されることのできない問題だと初めから
考えております。一人の損害が、額がこれこれであるからして、それに損害を受けた人数をかけて、それで
賠償額が出るのだというような、そういう簡単な問題ではないはずであります。いや、
日本側には的確な情報がないとか、あるいは算定の
基礎があいまいであるとかというような非難が多々ありましたが、算定の
基礎がはっきり出る
わけがないと私は思う。何となれば、
日本が
ベトナムに
関係を持っておったのは
戦争中のことでありまして、戦後
日本は引き
揚げてしまっておるのであるからして正確な報道などを持っている
わけがないのであります。それゆえにこそ、私は、
外務省側においては
ベトナムの提出した数字を
基礎として、その
基礎の上に
話し合いを進めていったものと、これは
政府側でも説明しておられますし、当然そうでなければならなかったと思うのであります。しかして、
賠償額を
決定するに当たりましては、そういうような
わけでありまするからして、
向こうが要求する額、それに対して
日本が良識的に判断をして自分の支払い能力を常に
考えながら
賠償額を
決定するということにしなければならないのであります。それ以外に
賠償額を
決定する方法は私は断じてあり得ないと思うので、それを
政府がやったと私は信じております。
最初は二十億ドルから出発しておる。それが、長い間の忍耐強い
交渉の間に二億五千万ドルに減額され、最後には、
先方の言い分では一億五千万ドルに下がってきておったもので、また、それに続いてわが全権たちが非常な努力を払い、そうして最後的に三千九百万ドルの
賠償額、それと千六百六十万ドルの
借款ということにようやく落ち着いたのであって、この経緯は、われわれとしてもはっきりこれを認めざるを得ません。そういうような経過を経て、ようやくこの
賠償協定が成り立ったという事実、この事実は、われわれとしてもこれを了承しなければならないというように思うのでありまするが、それらの点について、私はあらためて
政府のお
考えを伺うというようなことはいたしません。これは当然過ぎるほど当然な話であり、かつまた、累次の
政府の説明の中にそれがはっきり出ておりまするから、繰り返して私はその点において念を押す必要を認めません。
ただ、
一つここに
政府の所見を念のために伺っておかなければならぬと思いまする問題は、すでに
政府が説明しておられるがごとく、この
ベトナム賠償は
日本にとっては最後の
賠償である、その点であります。南方諸国に対してはこれまで
賠償協定を結んできておったのでありまするが、唯一残ったのが
ベトナムとの
関係でありまして、それが今回妥結に達したということであります。先日のこの
委員会で、杉原
委員から詳細に説明があり、
意見を発表されたのでありまするが、
日本の
賠償義務が
平和条約署名国に限られるべきであったのであるということであります。これも当然な話であります。
日本は
平和条約において
賠償の義務をしょったのであり、すなわち
平和条約に署名した国に対しての義務であり、また、
平和条約に署名した国々に対してのみ負うべき義務であったということは、これは当然な話であります。しかして、今申し上げた
通りに、それらの国々の中で
ベトナムに対して今
協定を結んだ、この
賠償義務は
日本にとっては最後の
賠償義務であるということ、この点を、私は、
政府におかれましてもいま一度はっきりさせていただきたいと思っております。これ以上、われわれは、
賠償の問題について、今までいろいろ
賠償協定を結んできた以外の国々と
賠償交渉を始めるなどということは、一切
政府としては
考えていない、そういうことはあり得ないということをはっきりさしていただきたいのであります。ほかにいろいろ問題もありましょうけれども、しかし、私は、その点だけ
政府に念を押しまして、そして私の
質問を終わりたいと思います。