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戸叶里子君 私は、ただいま
報告されました
日本国と
アメリカ合衆国との間の
安全保障条約改正の
報告に対しまして、
日本社会党を代表して、
首相並びに外相に若干の
質疑を試みんとするものであります。(
拍手)
質問の前に申し上げたいことは、この
条約が
日本国の運命を左右するものであり、また、
国民の多数が
戦争に巻き込まれるおそれがあるものとして反対しているにもかかわらず、ただいまの
中間報告は、何らその核心に触れす、全くおざなりのものであったということは、まことに残念でございます。もっと詳しく
内容を説明し、
問題点はここにあるから一緒に考えてほしいという、まじめな
報告を期待していたのであります。(
拍手)しかし、
報告として出されたものは全く一方的解釈に基づいたもので、はなはだ遺憾でございます、せめて答弁は納得のいくように答えていただきたいことを要望いたします。
まず、最初にお尋ねすることは、なぜ
改定を急ぐかということでございます。
安保改定のための
国内世論も一致せず、与党内においてさえも異論があるのに、
経済再建懇談会からPRのため三億円目標に
寄付金を集めるというような自信のない
改定であるにもかかわらず、一方、今年の末か来年調印のため
首相及び外相が訪米しようとしていると報道されております。この時期はすでに決定されたのでありましょうか。もし決定されようとするならば、今日の
国際情勢にあまりにもうとい
政府として
国民から不信の念を買うのみならず、
アメリカとの間に何らかの約束でもあってそんなに急ぐのであろうかと、痛くもない腹を探られ、かえって
日米間に疑惑の念を抱かせる結果となると思うのであります。(
拍手)
今日の
世界政治のあり方は、
話し合い外交へと変わってきております。数年前までは考えられなかったニクソン副
大統領の訪ソ、アイクとフルシチョフの
相互訪問等が実現され、直ちにその成果は期待されなくとも、少なくとも、
戦争回避と
軍備縮小、あるいは撤廃への道の開けつつあることは、だれでも認めるところであります。(
拍手)このような、前途に希望を感じさせる方向に
世界の
人たちが努力しており、また、一方においては、スエーデン、オーストリア、
アラブ連合、インド、
インドネシア等、
軍事同盟に反対して一つの大きな線を描いてきておりますし、こうした
情勢は、
日米安保条約の結ばれた当時、すなわち、
日本が
アメリカ軍の
占領下で、
米ソの対立も非常に危険な
関係にあった当時、そして
朝鮮戦争の直後という時代とは変わってきているのであります。また、砂川問題の判決にあたって、
米軍駐留は
憲法違反の決定を見ております。しかるに、今、最高裁の最終的な判決がきまっておりません。法を守る国として、法の権威を失墜しないためにも、この結論の出るのを待つべきではないでしょうか。(
拍手)にもかかわらず、
改定を行なって、
軍事同盟的性格を持たさなければならない理由はどこにあるのか、はっきりさせていただきたいのであります。(
拍手)
首相の
予算委員会等の答弁によりますと、このたびの
条約は、
防衛上の
協力のほかに、
政治的、
経済的の
協力を含む広範なもので、
軍事条約という言葉に誤解があると言われております。なるほど、
改正を想定されている二条において
経済協力をうたっております。しかし、
日本がこの
条約によって
経済的に有利になるという根拠を具体的に示していただきたいのであります。(
拍手)なぜならば、
経済的交流の場合には、
通商航海条約とか、ガットとか、その他の個々の
経済関係の
条約によって
話し合いが行なわれるべきであります。今日の
日米間の
経済問題は、繁栄の面も考えられると同時に、
中小企業の圧迫も出現してきていることは、大豆、ミシン、
石炭等の面からも言えることであって、むしろ、
経済関係の
条約の是正によって
経済の
発展をはかるべきであります。
経済条項をうたったのは
軍事条約の
内容をカムフラージュしたのであるという感じ以上に、この
条約によって
軍需産業に寄与し、死の商人を潤すのみではなかろうかとの感を一般に高めるでありましょう。(
拍手)従って、これらの
経済関係の
条約とは別に、ここに
経済提携を挿入したのは、
国民一般の
文化的向上をはかる生産にいかに役立つかを、もっと具体的に説明していただきたいのであります。
次に、私は、
中立の問題でお伺いしたいと思います。私たちが念願するところは、
日本がいかなる
軍事同盟からも離脱して
軍事的中立を確保し、現在アジアに存在する
緊張状態をやわらげ、
日本自身も
戦争の危機から遠のかせることであります。それには、
安保条約のような
軍事同盟によって一方的に拘束される状態をなくし、中国と国交を回復し、ソ連とも
平和条約を結び、あらゆる国に対して
自主独立の立場から
日本の前進をはかるべきであります。(
拍手)これこそ、
中立への前進の姿であります。ところが、
首相は、
予算委員会において、「
中立政策には二つあり、真の
中立と
容共的中立とある」とおっしゃっていられます。この
中立論は、自分の解釈を有利ならしめる
政治論ならばいざ知らず、国際法的に見て、
中立論というものがはたして二つあるかどうかを伺いたいのであります。(
拍手)さらにまた、
首相は、「
戦争直後の
国力が弱かったときならともかく、ここまで
日本の
国力が回復してきた現在、
中立にとどまり得るという見方は甘い」と言われておりますが、これは逆であります。
国力が強い国ほど、
中立を唱えて、どこの国とも戦わず、一方に偏しない態度を表明して引きずっていくところに、初めて
世界の平和への貢献ができるのであります。(
拍手)このときこそ、真の
中立が真の効力を発揮するのであります。
首相は、むしろ、
中立への努力を回避し、一方の陣営にのみ深入りを望んでいるのではないでしょうか。この点の
首相の御見解を承りたいと存じます。(
拍手)
また、これと一連のつながりを持つと思われますのは、先ごろの
国連総会において、
藤山外務大臣は、「
共産陣営の唱える平和とわれわれの求める平和とは異なる性質のものであるかもしれない」と発表している事実であります。これでは
平和共存などあり得べくもなく、
国民は混乱するのみであります。平和とは、イデオロギーを超越したものであり、
人種的差別によるものでもありません。平和への過程は異なるにしても、
最終目的の平和は一つであるべきであります。(
拍手)こんな不自然な
平和論を
国際舞台で振り回されては、私
たち国民こそ迷惑しごくであります。(
拍手)
外務大臣は、この二つの平和を考えた上で
安全保障条約の
改定に臨んでいるのか、明確にお答えを願いたいのでございます。
次に問題になることは、バンデンバーグの決議と
憲法との
関係であります。
政府は、自国の
憲法の規制と
手続に従って
行動を起こすという言葉を挿入することによって、いかなるときにも
憲法に反しない、と答弁しております。ところが、今までの
政府の
憲法に対する態度を見ていると、
日本が
攻撃されたときには、
攻撃してきた基地をたたいても国を守ることは
憲法上許されているとか、防御用の核兵器を持つことは違憲ではないというように、
憲法の解釈の
範囲が次々と拡大され、既成事実を作っては、それを
国民に押しつけてきているのであります。(
拍手)従って、
政府がどんなに
憲法を守るといって説明してみたところで、今日の
政府に対しては信用できないというのが、
国民の声であります。(
拍手)
今回、
政府は、バンデンバーグの決議に従って、限定された条件ではありますが、共同
防衛の
義務を負うことを約束しようとしております。すなわち、
日本の
領土内にいる駐留
アメリカ軍とか基地が
攻撃された場合には、
日本への
攻撃とみなして共同
防衛に立つというのであります。しかし、この場合、
日本の
領土、領海、領空で
米軍が
攻撃されるときには、すでに
日本の
領土が侵されているので、その
攻撃に対しては固有の
自衛権を発揮すると言っております。しかし、
アメリカ軍が駐留するなり基地があるから
日本の
領土主権が侵されるのであって、本来
日本に対する
攻撃がないのに、どうして固有の
自衛権を用いるのでありましょうか。(
拍手)これは明らかに集団
自衛権であります。ところが、
日本にいる
アメリカ軍を守るために
武力を使うことは
憲法上許されません。一方、
条約においては共同
防衛の
義務を約束しながら、一方、集団
自衛権を否定しております。この矛盾を内蔵しながらも、
改定当時は、このごまかしも通用するでありましょう。しかし、これまでの
政府のあり方から見ても、また、
軍事行動には連鎖反応の伴うものである点から考えても、
国民は、
自衛権行使の
範囲から
発展して、将来は集団
防衛の
協力態勢、
武力の行使になることをおそれるものであります。
外務大臣は、いかなる根拠によってこれを否定する自信をお持ちになるのでありましょうか。また、
日本の
領土内の
アメリカ人への
攻撃に対しては集団
自衛権の行使であるが、
憲法違反のおそれがあるため前述のような苦しい答弁をされていると理解してもよいかどうかを、念のため伺っておきたいのであります。(
拍手)
次に、駐留軍の使用
目的については、
日本国の安全と
極東の平和と安全の
維持に寄与することにあるといわれております。この
極東の平和と安全の
維持という言葉は、
現行条約中の言葉を受け継いでおり、これがなかなかの問題であります。
日米安保条約締結当時の責任者であり、当時の
条約局長であった西村氏は、次のように言っております。「
アメリカの軍隊は
極東における国際の平和と安全に寄与するために使用できると
規定している。このことは、
極東の平和と安全のために使用される合衆国軍隊は
極東地域で
行動するであろうが、
条約上は
極東に限定されるものでない。
極東の平和と安全のためならば
極東地域外に出て
行動しても差しつかえないことになるのである」、こう
規定しているのであります。例をあげれば、フィリピンが
極東に入らなくても、これが
極東の安全を脅かすと考えると、そこまで
アメリカが出動しても差しつかえないことになるのであって、こうなると、SEATOにもつながれば、ベトナムの南北の紛争にも
関係を持つことになるのであります。(
拍手)西村氏は、今日は
条約局長ではありません。しかし、当時の責任者であり、しかも、その時と同じ
極東の平和と安全との言葉が今日なお使われているのでありますが、
アメリカ軍の
行動の
範囲は
極東の
地域に限られるのでありましょうか。
極東の安全と平和のためならば
極東外の地にも
軍事行動がとれると解釈するのでありましょうか。
交渉にあたって、
極東とはどの
範囲を言うのか、はっきり承りたいのであります。(
拍手)また、この西村元
条約局長の安保制定当時の考え方と同じ考え方で今回の
改定にも折衝されているのかどうかを、はっきり伺いたいのであります。
日本の安全のためにのみじっとしていられるのであるならばまだしものこと、
日本を足場にして、方々の
戦争、紛争に手を出されては
日本が
戦争に巻き込まれることを最もおそれるものであります。
国民の危惧しているこの点を、いかに御解明になることができるでありましょうか、承りたいのであります。と同時に、自民党の方々も、
極東の安全と平和の言葉をとることを望まれると思うのでありますが、この点の御見解を承りたいのであります。(
拍手)
今回の
改定にあたり、
政府は
交換公文に
事前協議をうたっております。一つは、
在日米軍の
配備及び装備に関する重要な変更が行なわれるとき、もう一つは、
在日米軍が
日本領域内の
施設及び
区域を
日本防衛以外の
目的で作戦
行動に使用しようとするときであります。すなわち、この中に、
米軍の移動とか核兵器の持ち込み等について
事前協議をするということであります。このときに用いられる言葉は、コンサルテーション、
協議であって、
同意を意味するアグリーメントではありません。
政府は、
日本には当然拒否権があると説明しております。しかし、私が八月
アメリカで読んだ新聞の中にも、また、毎日新聞社の特派員の報道した十一月八日の新聞記事を見ましても、
アメリカは近代戦で間髪を入れぬ機動性を最も重視しており、
事前協議に拒否権など認めていないのであります。(
拍手)
政府は、自分だけで勝手に自信を持ってみても、
条約に保証されなくて、どうして効果を上げることができましょうか。(
拍手)ことに、サイドワインダーなど秘密裏に持ち込むような
政府のやり方を見ても、権力に圧せられがちな
政府が、はっきり
同意を必要とすると書かないようでは、
事前協議も名ばかりになってしまうと思うのであります。(
拍手)
日米関係は絶対信頼の置ける間柄であると誇っている
政府に、このくらいの取りつけが、なぜ
話し合いでできないのでありましょうか。(
拍手)
安保条約に関連して、
国民の権利
義務に
関係のあるのは
行政協定であります。ところが、この
行政協定の中には、
日本の
国民の
自主性は認められておりません。にもかかわらず、ただいまの
報告を伺ってみても、根本的問題で、一向に
改定しようとされている態度が見えないのであります。
最も重大な点を二、三点あげてみましょう。基地の提供に関してでありますが、米比の
関係を見ると、基地貸与
協定が別にあり、その中に、別表によって基地を置く場所が指定されているのであります。わが国においては、基地設定に対して地元民が納得がいかず、同じ同胞でありながら流血の惨事を見た砂川問題を初めとして、幾多の問題があります。基地さえなければあんな思いをしなくてもよかったのに、と残念でたまりません。
政府は、今後も、無制限に、しかも、基地を一定のところに指定もせず、今までの形で設置しようとされるのでございましょうか。
安保条約の
改定にのみ夢中になる前に、冷静にこの
行政協定を
改定し、せめて基地を減らし、基地の固定した場所くらいは話し合うべきであると思いますが、これに対する
政府の見解を承りたいのであります。(
拍手)
また、現行の
協定では、
施設及び
区域内または隣接する
地域において出入りの便をはかるのに、
アメリカは必要な権利、権力、権能を有すると
規定しております。基地は合衆国の完全な権力のもとに置かれ、ちょうど、かつての中国の租借地と同じ扱いをされるのであります。他国の国家権力を使われても、なおかつこれを黙認しているとは、あまりにも
自主性なきものといわなくてはなりません。(
拍手)
条約改定が対等を目ざしているとするならば、外国の権力を自由に振り回すことができるというような屈辱的な面から、まず、
改定すべきであります。これに対する
政府の見解を承りたいのであります。(
拍手)
その他、労務
関係、あるいは税金
関係にしても、
日本国内に駐留しながら法律は守られず、一たん獲得した既得権は
アメリカが失いたくないとの観点に立っての
行政協定の
改定であっては、百害あるのみであります。
以上は、
行政協定の一部の問題にすぎません。西ドイツが駐留
米軍との
行政協定を結ぶのに三年もかかったといわれておりますが、それだけ慎重に取り扱って、
国民の権利
義務をそこなわないように努力したことを考え、一方、
安保条約を軍事的
条約に
改定するのを急ぐの余り、
国民に
関係の深い
行政協定をなおざりにしている現
政府の態度に、強く反省を求むるものであります。(
拍手)
私の限られた質問
内容においてさえ、今回の
改定は緊急にやるべき理由は考えられないことと、
安保条約の不必要さが判然したと思うのであります。いな、むしろ、十年間の長きにわたって
軍事同盟を固定化さすことは、あまりにも急ピッチで進んでいく
世界情勢に逆行し、新発足しようとする
世界の歴史に背を向けている態度といわなくてはなりません。(
拍手)
政府は、すみやかにその非を悟り、苦悩を抱きつつもなお
世界の平和へ努力をしている
世界の人々と同じ波に乗って前進されるために、この
改定を打ち切り、解消へ持っていくことを要望する次第であります。(
拍手)もし、どうしても
改定をするというならば、調印を急がず、その
内容を
国民に示し、解散によって民意を問うべきであると思いますが、
政府の所信を最後にお尋ねして、私の質問を終わる次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇〕