○斎藤
参考人 私は
全国石炭鉱業労働
組合の斎藤でございます。
私
たちは今日の
石炭産業がここまでこない前に、
経営者側に常々要請をしておったわけでございます。と申し上げますのは、現在の
石炭産業は、単なる経済の好
不況によって受けた
不況でないわけでありますから、従ってこの
状態を脱却するためには、いかにしても労使がみずから
石炭産業というものを改善しなければならない、こういう点を主張いたしまして、従来やって参ったわけでありますけれ
ども、昨年の末にそれがやっと理解をされまして、労使協議会が設置されまして、今日まで話し合いを持って参りました。先月の二十一日現在まで、約十カ月余にわたる間いろいろ論争して参りました結果、今
政府が言っております
昭和三十八年度までに
石炭産業がほんとうに重油、外炭と対抗でき得る改善をする、あるいは
経営者自身もそういう
一つの計画をしております。これについてはいろいろ異論もあるところでありますけれ
ども、やはりわれわれ
炭鉱に従事する労使を問わず、みずからの手によって
石炭産業というものを建て直していくというその気概と気魂を持たなければならぬと思います。今日いろいろ提出をされております
離職者の
法案あるいはその他
炭鉱に関しますいろいろな
法案が
国会に上程をされようといたしております。もちろんそれらの問題についても、大いに積極的な
石炭産業に対します施策をやっていただかなければならぬと思いますけれ
ども、当面
石炭産業に従事いたします者の立場から、この問題を
根本的に掘り下げて検討しなければならぬ
状態にきておると思います。
〔
委員長退席、大坪
委員長代理着席〕
従って、これは理屈で
反対をするとかしないとかを問わず、結果的にこの問題については労使が話し合いをしなければ解決のしない問題が数多くございます。そういう建前から、私
たちとしては七項目にわたりまして、先月の二十一日に労使協議会の名によって調印をいたしまして、これをそれぞれの地区に持ち帰りまして、現在諮詢の段階に参っております。そういう建前から、私
たちは長い間この
炭鉱の
離職者の問題もその
一つの項目として今日まで主張して参りました。従いまして、今回出されております
法案につきましては、方向としてわれわれ全
炭鉱としては
賛意を表したいと思います。ただしかしながらこの
法案を検討してみた場合に、
法案の
内容に幾多の矛盾あるいは不満足な点が多々あると思います。さらに先ほど
経営者代表の
伊藤さんから言われましたように、今後
石炭産業から
大手が六万余あるいは
中小炭鉱から三万余の
失業者を出さなければならないという
数字をあげられました。私はこの
法案が実施をされるという目的は、今日まで離職しておる者の臨時
措置として救済をするというのが目的であろうと思います。従って今後
炭鉱からそれらの数多くの
離職者が出されるなら、この
法案をそういう面で利用いたしまして、
離職者を出して、それによって
石炭産業の
体質改善を
労働者側にしわ寄せをするというものについては、この
法案の実施にあたっては、厳にそれらの点については監視をしていただきたいというふうに
考えております。そういう建前から、私はこの
法案の
内容について
意見を申し上げたいと
考えておるわけであります。
法案の第二条でありまするが、この中で
炭鉱労働者の定義が書かれてございます。この
法案を見ますると、
炭鉱労働者というものは「
石炭の掘採又はこれに附属する選炭その他の作業に従事する
労働者をいう。」こういうふうに規定をされております。これから私が解釈いたしますときに、
炭鉱の職員というものは度外視をしておるというのがこの第二条の精神だろうと思います。さらに事務職員、こういうものはこの
法案から除外をされておるというふうに解釈をして間違いないと思います。これは非常に大きな問題だと思います。
炭鉱の職員にも二
通りあるわけであります。実際に
労働者から実地を経て職員になる者、あるいは学校を出て職員になる者と、二つのケースがございます。この場合に、実地から上がって職員になった者につきましては、技能、
性格、それから実態からいきましても、当然
炭鉱の
労働者とみなしてこの
法案の救済を受けることが妥当だというふうに
考えております。従ってこの
炭鉱の
労働者という解釈の中には、それらを明確に包含をしていただきたい。さらにホワイト・カラーにつきましては、この
法案と別個な立場に立って救済
措置を講じていただきたい、こういうふうに第二条については
考えておるわけであります。
それから次は第三条でございまするが、この中に
炭鉱離職者の緊急就労対策
事業ということが載せられております。これは
予算の
内容を見ますると、なるほど非常にこの字句から見ましてけっこうなことではございますけれ
ども、実際問題として、この緊急就労対策
事業に従事する者の
生活というものは、単にニコヨンを作るという
性格のものから出ない
状態がくると思います。従ってニコヨンという
性格をここで作っていくのだという
考え方でなくて、これはあくまでも臨時処置として、将来は安定をした
一つの生業につけるというのが目的でなければならぬと思います。従ってこの
内容から見ますると、それらの点が非常に不明確であり、またニコヨン的な
性格で押しつけようという
考え方が出ているように判断をいたしますので、この点につきましては明確に従来のニコヨンの
性格ではなく、あくまでも将来はこれらの者については生業を与えていくということを規定をしていただきたいというふうに
考えておるわけであります。
次は第五条でありまするけれ
ども、第五条の中に
職業訓練のことが言われております。この
職業訓練というものについては、非常にわれわれも
賛意を表したいというふうに
考えております。ただこの中で、労働省が発表しておりまする
炭鉱離職者というものを見た場合に、現在すでに失業保険が切れておって再就職を希望する者が
全国で二万一千七百人と言われております。これを対象にして先ほど申し上げました緊急就労の
事業をやっていく、こういうことを言われております。この
予算が約四億ということで計上をされておるわけであります。ただ、今二万一千七百人の
失業者がおりまするけれ
ども、この
予算上からいきまして、就労いたしまする
人間は一日当たり五千五百人と言われております。これは数の点で、一方は
離職者が二万一千おる、しかしこの緊急就労
事業に吸収するのは一日五千五百人であります。従ってそこに大きな開きがあるわけであります。さらに現在失業保険を受給中の者が失業保険の受給が切れる、あるいは今後
離職者が出る、こういうことを
考えますならば、この数は相当膨大な数になってくるというふうに私は判断をいたして間違いないと思います。さらに二万一千七百人の算出根拠でありますけれ
ども、これはあくまでも
筑豊炭田を実態調査してこれを
全国的に当てはめて
数字を出したにすぎないわけであります。さらにまたこの二万一千七百人という、一応労働省で出しました
数字を、さらに今度は再就職を希望する者を三二%という低率で押えております。この低率で、三二%で押えた中で
予算措置が組まれておる。私はやはり現実的に
炭鉱の
失業者をほんとうに救済するとするならば、この数に見合って、それに
予算というものがつかなければならぬと思います。しかしながら
予算の方はそういうことで削減をされておる。現実的にはやはり
炭鉱の労務者というものは、労働省の発表そのものを申し上げても二万一千七百人おる、あるいは実際には五万五千の
失業者がおるわけであります。従って労働省で発表しておりまする
炭鉱の
離職者というものの二万一千という
数字は、五万五千から見ると約半分、さらにまたその二万一千の中から再就職をさせようとするのはその三二%だというふうに言われております。さらにまた
職業訓練を受ける対象
人員を
予算上千百六十人というふうに組んであります。それから講習会を受ける者の数を三百三十人に限定をいたしております。さらにまた就職をあっせんされて移動する場合の移動資金の交付
人員は四千人というふうに規定をいたしております。そういたしますと、どこからこの
数字を見ましても、労働省で発表しておりまする二万一千という
労働者がほんとうに救済される処置ではないと思います。この
数字の矛盾というものは非常に大きいのではないか。従ってこれは単に、現実にそういうものを
考えないで
予算をきめて、
予算に当てはめていった
数字がこういう
状態だというふうに
考えますので、この第五条の問題は
職業訓練という問題にからみ合わせまして、
予算上の問題と現実的な
炭鉱の
離職者の数、それから救済されるべき
人員というものに非常に大きな誤差があるということを私は指摘いたしたいと思います。この点はやはり明確に御修正を願わなければならないというふうに
考えております。
次は第六条の問題でありまするが、この第六条では
炭鉱の
離職者の優先採用についてうたっております。この中で、
炭鉱の
事業主は
炭鉱労働者の雇い入れについては、
炭鉱離職者を雇い入れるようにしなければならないというふうに
法案はうたってあります。これは単なる訓示規定だと私は思います。こういうような条文では、現実に
炭鉱の
離職者を
炭鉱の
事業主が優先的に採用するということにはならないと思います。これはその場合に、あくまでもわれわれを信頼せぬかということが
経営者の方から言われると思いますけれ
ども、
法案としてこういうことが一応うたわれるとするならば、訓示規定でなくて、やはりあくまでも
炭鉱の
離職者を優先的に採用する保障というものをこの
法案の中にうたってしかるべきではないか。従って、これについては強力な規制を
法案の中にうたう必要があるというふうに私は
考えますので、この点はぜひそういうふうにしていただきたいというふうに
考えております。
次は第二十二条であります。
援護会の業務の
範囲についてであります。この条項の中で、まず最初に第二項に「
職業訓練を受ける
炭鉱離職者に対して手当を支給すること」こういうふうにうたってございます。これは先ほど若干触れましたけれ
ども、この
職業訓練を受ける者の手当というものは二百三十円というふうに私
たちは
予算上から伺っております。そういたしますと、これは現在のニコヨンよりさらに低い手当の支給ということになって参ります。現在のニコヨンの諸君でさえも、現在の経済
情勢からいって
生活ができないということで、
国会に陳情をし、あるいはそれぞれ地方自治体と交渉して、その給与を引き上げることにいろいろ苦心をしておるようであります。その
人たちよりもさらに低い手当によって半年なり一年なりの
職業訓練を受けろといってみても、その受ける側から言えば、当然これは
生活が維持されないということになれば、正常な
職業訓練を受けて、そうして近代
産業に再就職をするということがなかなか困難になってくると思います。従って私は、あくまでも
炭鉱の
離職者というものをほんとうに近代
産業に振り向けるための
職業訓練を施していくのだということであれば、この手当の問題については、もっと考慮する必要があるのではないか、この点が非常に私
たちとしては不満な点でございます。
それから次は、その第四項でございます。この第四項には
労働者用の宿舎の貸与ということがうたわれてあります。これは私は非常にけっこうだと思います。ただしかし、もう少し突っ込んでこの点について
意見を申し上げますならば、
事業整備団等で買い上げて現在持っておりまする住宅というものが相当ございます。それらを優先的に
炭鉱の
労働者に貸与するというようなことも、単にこれは
事業主だけにするということでなくて、
事業団が持っておる、買い上げた住宅の貸与ということも、この中で当然
考えてしかるべきではないか。さらにまた、個人が実際に
自分で家を見つける、あるいは作る、こういう問題を指導することが望ましいのではないか。その場合に重点的に力を入れるべきことは、個人が住宅を
自分で見つける、作るということに重点を置いて、その場合の資金というものは当然この
法案に盛られてあるように支給をされてしかるべきではないか。特に
炭鉱の
労働者というのは、従来からそうでありますけれ
ども、やはり住宅に不自由しておるということであります。従って、現在
全国的に住宅難でありますから、どうしてもこの住宅の問題が一番魅力的になって参りますので、住宅のないところに移転ということはなかなか不可能であります。そういう形の中で、
炭鉱の
労働者というものは
一つの場所に定着をするという今までの実績がございます。特にこの場合には、先ほど申し上げました個人住宅を作る、見つけるという場合には、資金援助の強力な処置をとっていただきたいということを申し上げたいと思います。
その次は第七項であります。これは「生業資金の借入」の問題でありまするが、この
法案を見ますると、あくまでも「生業資金の借入のあっせんを行うこと」ということになっております。これは今日の経済
状態からいきまして、単に金融機関にあっせんをする、こういうことで簡単に金の借り入れということができる
状態ではないというふうに判断をいたしております。あくまでも金融機関は従来のコマーシャル・べースによって行なう以外には方法がないというのが今日の実情ではないかと思います。従って、ほんとうに生業につこうとする者については、やはり資金というものが一番大きな問題になって参ります。従って、ここで単なる「資金の借入のあっせん」でなくて、もっと資金の貸し出し、あるいは資金の融通ということで、生業につこうとする者が資金で困って生業につけないというような
状態のないように、もっとこの点は配慮すべきではないかというふうに
考えております。
それから次は第八項であります。第八項は
生活の指導のことをうたってあります。これは単にここで「
生活の指導を行うこと」というふうになっております。私はやはり
生活の指導というものは強力に指導をしていただかなければならぬと思います。
炭鉱の
離職者が非常に
生活に困窮をしておる、こういう場合には、内職とかあるいは授産場、
一つの例をあげれば、そういうこともあり得るわけであります。そういう形の中で強力な
生活の指導ということが当然必要になってくる。従って、この点ではどの程度まで行なうのか私理解できませんけれ
ども、単にここで「
生活の指導を行うこと」という形でなくて、もっと突っ込んだ
生活の指導体制というものをこの中では確立をしていただきたいというように
考えておるわけであります。
その次は、この
法案の適用を受けて救済を受ける者の資格の問題がうたってございます。まず一番先に「当該離職がその者の責に帰すべき重大な事由又はその者の都合によるものでないこと。」というふうにうたわれております。ここで問題になりますることは、「その者の都合によるものでないこと」というふうにうたわれております。「その者の都合による」というものを
考えた場合に、この中に正当な理由によって個人の都合でやめなければならぬ者があります。たとえばからだが弱い、あるいは家庭の事情でどうしてもやめなければならない、あるいはもう
一つの例をあげて申し上げますならば、福島県の平に山崎
炭鉱というのがあります。ここでは従来まで十何年間
炭鉱に就職しておって、結局退職手当というものがございます。この退職手当を全部御破算にしよう、それで賃金を現在の賃金から三割ダウンしよう、それで
炭鉱を
経営していくというのが
経営者側から提案をされました。その場合に、そこにおりました全
従業員が、これはえらいことだ、退職手当を一銭ももらえないとかいうのでは非常に困るということで、全員離職をいたしました。これは
一つの例であります。そうすると、これから申し上げますと、あくまでもそれは本人の都合による退職でありますから、この
法案の適用は受けないことになるわけであります。私は、そういうものでなくて、正当な理由によって、個人の都合によって離職した者はやはりこの
法案の適用を受けさせるのが当然ではないか、かように
考えておるわけであります。従って、この条項の解釈を明確にしていただきたい。さらにまた「その者の都合による」という字句が二
通りあるということを理解していただきたいというふうに
考えておるわけであります。
次は第三でありますが、「
昭和二十九年九月一日以降において一年以上引き続き
炭鉱労働者として雇用された経歴を有すること。」こういうふうに規定をされております。ここで問題になりますることは、
大手の
炭鉱の場合には、これは別でありますけれ
ども、
中小炭鉱の場合に、
一つの
炭鉱に一年以上就職をしておるということがなかなか困難な事情にあることを御理解願いたいと思います。従って、
一つの
炭鉱に一年以上いなければこの
法案の救済を受ける資格がないという規定の仕方は、これは
中小炭鉱の実情を無視した扱い方であるというように私は
考えます。従って、これは「一年以上引き続き」の「引き続き」という字句を修正願いたい。一年以上
炭鉱に云々というなら、これは理解できます。しかし、この「引き続き」という字句が問題になりますので、この点は十分
法案の審議の中で、
一つ意見を取り上げていただきたいというふうに
考えております。それからもう
一つ関連をして出て参りますことは、「一年以上引き続き」ということにこの場合なっておりますが、現在の失業保険は、どんな作業場でも半年以上
一つの
事業場に就職をし、あるいは
炭鉱に半年以上継続して就職しておれば受給資格があるのでありまして、この点、失業保険の受給資格であるこの半年というものに私はこの
法案の
内容を修正をすべきではないかというように
考えております。
次は、この
法案の
内容から見まして、将来この
法案を
運用する場合に、
協力団体が数多くなければこの
法案の完全な運営はできないと思います。従って、これは中央もそうでありますけれ
ども、特に私は地方の
協力団体がこの
援護会に参加できるような処置をとるべきではないか。そして数多くの
協力団体を網羅をして、この
援護会の運営そのものが誤まりのないように、またそれがスムーズに運営されるようにすべきではないかというふうに
考えておるわけであります。この点は特に地方の
協力団体についての処置をお
考え願いたいと思います。
それから従来もそうでありますけれ
ども、
法案がきまってからそれを実施に移しますのに、半年ないし一年近くもかかっている例が数多くあります。この種の問題は非常に緊急を要する問題でありますので、
法案の
通過と同時に
事業の開始というものの時期を極力早めていただかなければ、この
法案の趣旨というものが半減をするきらいがありますので、どうぞ業務開始の時期等については、
法案が
通過をすると同時にすみやかに実施をしていただきたいということをお願い申し上げます。
時間の
関係上非常に省略をして申し上げましたけれ
ども、以上申し上げたことをこの
法案の中へ十分盛られるならば、われわれといたしましてはこの
法案に賛成すると同時に
協力をすることを申し上げて、私の
意見を終わります。