○伊藤(よ)議員 私は、日本社会党を代表して、わが党
提出の、
昭和三十四年七月及び八月の
水害又は同年八月及び九月の
風水害により
被害を受けた者の援護に関する
特別措置法案に関しまして、
提案の
理由及び内容のおもな点を御
説明申し上げたいと思います。
申し上げるまでもなく、去る九月に東海地方を襲った第十五号
台風の
被害は、戦後最大のものであり、あらためて
台風による
災害の常襲地帯であるわが国の実情というものを考えさせられたわけでございます。家、田畑など財産を流され、親兄弟、夫や妻に死なれていまだに生活に立ち上がることができず、日々を辛うじて過ごしている人人は、今日なお多きを数えております。
政府の出された資料を見ましても、七号、十四号、十五号の三つの
台風によって受けた
被害状況は、罹災世帯は実に四十万世帯をこえ、家屋の全壊、半壊、流失は十五万棟、床上及び床下浸水に至っては、六十三万棟にも達しておるのでございます。こうした気の毒な人々に対しましては、
災害救助法が発動されまして、とりあえずのたき出しとか、被災者が雨露をしのぐ
程度のことはなされております。また、各地の同胞からあたたかい救援物資が送られて、被災者の一部には配給されております。しかし、
災害救助法の建前を考えますと、これはもともと非常
災害に対しての応急的な救助が目的でありまして、せいぜい、比較的富裕な自治体におきまして、最低限度に必要ななべ、かまや当座の衣類が支給されている
程度でございます。この発動の期間も、十五号
台風のように特に
被害が甚大でかつ
長期的な場合を除きましては、二週間なり三週間
程度の短い期間に限られております。現実に
災害救助法の適用されておる
地域の実情を見ますと、
法律に規定する
程度のたとえば被服、寝具その他生活必需品の給与とか、医療や生業に必要な
資金の給与とか、あるいは
災害にかかった住宅の応急処理等は、ほとんど実施されていないようであります。確かに医療救護班で負傷
程度の手当はしてもらえますが、水に長い時間浸って風邪を引いたとか肺炎を起こしたとかということになれば、近所の医療
機関で手当をしてもらわなければなりません。その
費用はもちろん、被災者
負担でございます。床上浸水で水の引いた後の家は、壁がくずれ落ちて、夜など寒くて寝られません。そこで家の周辺から板切れを拾ってきて、ともかくも破れたところに打ちつけて寒さを防いでいると、もう
災害救助法による住宅補償をやってもらえない、これが実情であります。生業に必要な
資金の給与などというものは、ごく一部の例外を除いてはまずないと言ってよろしいのでございます。
このように一、二の例を見て参りますと、
災害救助法の運用というものが全くその場しのぎの応急
措置にとどまっていることがわかるのでございます。これは法そのものの建前が応急
措置を目的とするものでありますから、やむを得ないと言えばそれまででございますが、なお行政運用上の問題として大いに不備の存するところでございます。
私ども日本社会党といたしましては、こうした不備を是正するために、別途に
災害救助法の
改正を検討しているわけでございますが、ともかく、
災害救助法があくまで応急
措置を目的とするものであり、被災者の立ち上がりのために何らかの
措置をとり得るものでないこと、また現実にそのように運用されていないことは明白でございます。しかし、被災者が現実に今求めているのは、痛ましい被災の跡から生活の再建に立ち上がることであり、そのための跳躍台でございます。すなわち、
風水害によって破壊された生活の基盤を、とりあえず最低限度、正常に戻すための必要な
資金でございます。
災害地におきましては、各種
法律の
特別措置法が設けられまして、特に
事業資金の
融通については、たとえば
被害中小企業に対する
資金の融
通等に関する
特別措置法や、農林
漁業者等に対する
天災融資法などの法的
措置がございます。また、住宅につきましても
特別ワクによる
資金融通が行なわれております。その他、被災に伴う
特別措置は数多くあるわけでございますが、これらの根本である被災者あるいは被災世帯の立ち上がりのための生活
資金は何ら考慮されていないのが
現状でございます。
災害救助法がこのような意味で生活の再建を援護する任務にたえ得ないことは、すでに申し述べた通りでございます。もしかかる事態を放置するならば、被災によって資産を失い、立ち上がる機会を失った人々の中には、ついには生活保護を受けざるを得ない立場に追い込まれる人も多々発生するであろうことは、火を見るよりも明らかでございます。
市町村の窓口では世帯更生
資金などの
貸付ワクもあるわけでございますが、現実にこれら
貸付資金の運用
状況を見ますと、財源そのものが言うに足りないほど乏しい上に、保証人その他の
貸付条件がきびしく、また事務的にめんどうなために、何かと混雑した被災現地におきましてはほとんど用をなしていないのが
現状でございます。罹災証明書を持って役所に行けば、直ちに必要な
資金の
貸付なり何なりの
措置が迅速にとられる、そういう機動的な行政の体制を、今被災者は切実に望んでいるわけでございます。従いまして、
台風の甚大な
被害が一般世論の批判と関心を喚起いたしておりますこの際、被災世帯の立ち上がりのための生活
資金貸付、見舞金の支給、死亡者に対する弔慰金の支給、
災害時の負傷、疾病の治療費についての国庫
補助等を中心とする生活の援護と自立更生のための
特別措置がぜひとも必要であろうと思うのでございます。
これが本
法律案を
提案いたすおもなる
理由でございます。
次に内容の大綱を御
説明申し上げたいと存じます。
第一に本法の目的でございますが、これは右に述べました
趣旨に基づきまして、被災者に対し必要な援護を行ない、かつ、新たな生活に再出発できるよう、その自立更生に資することを目的とすることをはっきり明記いたしました。
第二に、被災者の範囲でございますが、これは
政令で
被災地域を指定いたしまして、その
地域で
風水害の
被害を受けた者といたしました。この中には、本人あるいは当該世帯は直接被災しなくても、たとえば勤務先の会社、工場がつぶれて生活の方途を失ったような場合で、しかも
失業保険制度の適用を受けていない場合も含むことにいたしました。
第三に、生活
資金といたしまして十万円をこえない範囲で、
市町村が被災世帯及び前に述べましたような間接の被災で生活の方途を失った世帯に対し、
貸付をすることができるようにいたしました。この際の
貸付金は、無利子とし、その据置期間を
貸付の日から起算して二年といたしまして、償還期間は据置期間を含みまして十二年以内といたしたのでございます。問題は生活
資金の
貸付を受ける資格でございますが、本
法案の
趣旨といたしましては、被災地の
現状にかんがみ、原則として
市町村の発行する罹災証明書の有無によって資格を定めることにいたしたのでございます。
第四に、この
貸付に要する財源は、当該
市町村において地方債を起こしまして、その地方債を国が
資金運用部
資金または簡易生命保険及び郵便年金
特別会計の積立金をもって全額をまかなうことといたしました。
第五に、国は
政令で基準を定めまして、地方債の毎年度分の利子に相当する額の利子補給金及び
貸付金を貸し付けたことによって受けた損失の十分の九に相当する額の損失補償金を当該
市町村に交付することにいたしました。
第六に、国は
被災地域で
風水害により
被害を受けた世帯の世帯主に対し、
政令で定める基準に従いまして、一律に三万円の見舞金を支給することといたしました。
第七に、国は、
風水害によって死亡した者に対して一万円から三万円までの弔慰金を支給することにいたしました。この際、
風水害によって負傷したり疾病にかかったりして、この
法律の
施行の日から起算して一カ月を経過する日までに死亡した者についても同様の扱いをすることといたしております。
第八に、
風水害によって負傷したり疾病にかかった者が診療、手当、薬剤の支給を受けた場合は、厚生省令で基準を定めまして、患者が現に支払った自己
負担分を国が肩がわりすることができるようにいたしました。ただし、この医療費支給期間は、本
法律施行後六カ月の期間に限定いたしたのでございます。
第九に、見舞金、弔慰金及び医療費につきましては、被災者の最低限度の生活保持と自立更正のための
費用でありますから、所得税の課税
対象から除外したわけでございます。
最後に、生活保護との
関係でございますが、弔慰金につきましては、生活保護における
収入認定から除外し、併給できるような行政
措置を講ずべきでございます。見舞金につきましても、第一条の目的にいう被災者の自立更生に資するための最低限度の
費用でございますから、生活保護法の自立助長の
趣旨に合致いたすわけであり、当然併給とすべき性質のものでございます。従いまして、これも併給できるよう行政
措置を講ずべきでございます。
以上で本
法律案の大綱の
説明を終わりますが、最後に一言だけ申し上げたいことがございます。それは、たといいかなるよい
法律ができましても、その
法律を運用する行政
機関と行政担当者に、ほんとうに被災者の身になって考えるあたたかい心と、それに伴う
予算の裏づけがない限り、せっかくの
法律上の条文が空文に終わることがあるということでございます。現に、私が先ほど例をあげて申し上げましたように、
災害救助法が発動されましても、救助の実態を見ますと、
法律で明記されている水準からなおほど遠いのでございます。また、生活の援護に
関係の深い生活保護法の運用を見ましても、
災害など急迫時の適用条件緩和を規定する第四条三項は、現実の運用の面ではいかようにも幅広く解釈できるのでありまして、この
法律の効果いかんはかかって中央から地方にわたる行政担当者の意思と心にあるのでございます。本
法律案の
提案にあたりまして、特にこの点を御指摘申し上げ、行
政府のあたたかい
措置と御指導をお願い申し上げる次第でございます。
何とぞ、十分なる御
審議の上、すみやかに御可決下さるようお願い申し上げます。(拍手)