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菊池参考人 はからずも、
原子力研究所の
理事長を仰せつかりまして、まだ、
就任後二カ月にやっとなりまして、だんだん様子もわかって参りましたところであります。
就任早々から、たびたび、
抱負を語れとか、いろいろ御
要求が
方々からありましたが、私としましても、
内情を
十分知らずにどうする、こうするということも言えず、まだ、あまり
抱負らしい
抱負というものは発表したことも、ございません。現在、なお
内情を十分によく知るということに努めております。しかし、一般的な
見地から、この
原子力はどういうふうに発展したらいいだろうか、それから、
原子力研究所としてはこういうふうにあるべきだというふうな
見地からは一応
意見もあり、またそういう方向へ進めていきたいというふうに
考えております。
一番の
問題点は、何と申しましても非常に新しい
仕事であるということ、そして、それを始めました
世帯がいろいろな
世帯の
寄り合いである、つまり、これはたびたびいわれることでありますけれ
ども、
大学関係、
会社関係、それから
官庁関係の
人たちが
寄り合いで集まりまして、それぞれがいろいろ異なった習慣でもってものを
考え、事をやろうとするところにいろいろと困難な問題が今日でもなおあるようでございます。それで、何と申しましても、私の
考えでは、
運営と申しましても、事務的な
運営をいかにうまくやっても、
内容となる
研究自体がうまくいかなければ、これは何にもなりませんから、
研究をうまくやって、有効に進めていくということをまず第一と
考えてやっております。
理事長といたしましては、私は、もともと
研究の方の出でありますから、こまかい事務的な
運営の面についてはしろうとにひとしいと思いますので、副
理事長に
森田さんをお願いしまして、そういう方面を十分やっていただくようにお願いいたしまして、私は、できるだけ
東海村の方に参りまして、
研究所員と一緒にあちらで暮らして、
研究所の意気が大いに上がるようにできるだけ
努力していく、そういうことを
考えております。もちろんそうかと申しまして、人的な運用に無関心でいるつもりは少しもございません。あの
研究所につきましては、今までにもいろいろとそういう面から
批判もありますから、そういう面については十分注意しまして、
森田副
理事長とともにすっきりした形に持っていきたいと
考えております。
それで、この
研究をどういうように持っていくかということでありますが、これは非常にむずかしい問題でありまして、あわてたことをしては、決してうまくいかないということをつくづく
考えております。とかく
原子力と申しますと、
方々から、いわゆる
時代のフットライトを浴びまして、いろいろな問題が起こって参ります。たとえば、先日の
放射能がちょっと炉から漏れたというようなことにいたしましても、決してわれわれとしては事故などといえるほどのものではない、ほんのちょっとした毎日の
仕事のうちの
一つのでき
ごとであって
——もちろん、そういうことができるだけ少ないように注意しなければならぬことは当然でありますが、その結果から見ましても、何から見ましても、あんなに世間で騒がれるような問題では少しもないのでありますけれ
ども、それにもかかわらず、ああいうふうに
新聞などに書かれるというようなこと、つまり非常に社会的に注目を浴びている
事業であるということのために、とかく
ほんとうに地についたしっかりした
研究をやっていこうとするときに、それが障害になるような面が多々あると思いますので、なるべくそういうことのないように、できるだけ落ちついて
研究を進めていくということを一番に
考えております。
それで、あそこの
研究所にはいろんな面がございまして、非常に基本的な
研究をする面から、非常に応用的な面までわたっております。それで、基本的な
研究ということと応用的な
研究ということは非常に関連が深いのでありまして、どうしてもこの両方を両立してやっていかなければならないという事柄なのであります。しかし、なかなかその
基本的研究の面はとかくいろいろな面で理解されにくいという点がございまして、予算な
ども出にくいという点があります。しかし、努めてその基本的な面を進めるとともに、それがただ単に基本的なもので終らないで、
応用面へ有効につながっていくという
努力を極力やっていく方針でやっていきたいと思います。
まず、この基本的な面といたしましては、あそこにありますのは、
物理の面と、
物理化学、工学、みなその基本的な面にそれぞれタッチしております。それだけでは
研究所としてはまだ十分とは思えませんので、ここに
方々の部門が共通して
一つの
仕事を開発していくというような場面を作るために、今後非常に大切と思われる
研究題目を選びまして、それを
プロジェクトといたしまして、それに多数の
基本研究をやっている者も、その
研究の一部の基本的な
部分を分担するというような形をとりまして、
プロジェクトを何本かそこに立てて、そして、それを強力に進めるというやり方をとりたいと思っております。
近々に
プロジェクトとして取り上げたいという希望として話に出てきておりますのは、現在、すでに
かなりそういう形をとって進行しつつあります
平均質炉の問題もあります。緩
中性子増殖炉の問題もあります。
平均質炉の方は、すでに
プロジェクトとして決定いたしまして進めつつあります。それから緩
中性子増殖炉に対しましては、緩
中性子の
増殖炉として、今の方法を
プロジェクトとして強力にやることがいいかどうかということの再
検討をいま一度しようということに相なりまして、今その再
検討の
段階にあります。そのほかに、現在候補に上っておりますのは、
国産一
号炉の
燃料を
国産でやるという
プロジェクトがあります。それを
プロジェクトとして決定いたしまして進めることになっております。そのほかには、なお、直接発電の問題、これは蒸気に一度変えないで、すぐに
原子炉から
電気を取り出す
研究、それから将来は
プルトニウムをこの
原子炉として使うことが必ず必要になる、これは
資源経済からいいましても、
ウランの二三八をブリーダのブリーデング・マテリアルとして使う限りはまず必要となりますから、
プルトニウム金属の
研究をやる、そういうようなことが話に出ております。しかし、これはまだ
プロジェクトとして決定する
段階になっておりません。そういうようなことを徐々にやって参りまして、一方に、また現在いろいろな炉も完成いたしまして、その炉を使ってのいろいろな
基本研究はこれからますます進んで参ります。それから、
原研自体の
基本研究を進めると同時に、この炉を
方々の
大学とか、あるいは
会社の
メーカーにも有効に使っていただいて、いわゆる施設の
共同利用という面でも大いに
サービスをする。それからさらにいろいろな問題についての
共同研究、あるいは
委託研究、
受託研究というような制度も置きまして、これも今後大いに進めたいと思っております。
いろいろとそういう
考えを持っておりますが、とにかく、この
原子力については、われわれは十年おくれたと申しますけれ
ども、十年おくれたということは、ただ単にスタートが十年おくれて走っているということだけではなくて、もっと非常に大きな
意味を持っておりまして、こういう
状態から外国の
原子力研究のようなああいう
状態にまでいくことは、なみなみならぬ
努力を必要といたします。決してぼんやりとゆっくりするわけではございませんが、
時代の
原子力々々々と、いわゆるうわついた
意味の波に乗って変なまねをするというようなことは絶対に避けて、あくまでも落ちついて、しかも、それが一番早い有効な道であるということで、この
仕事を進めていきたいと
考えております。
抱負というほどのことでも何でもございませんが、ごくあたりまえのことかと思いますけれ
ども、今後の
原子力の
研究所をそういうふうにやっていきたいと思っております。従って、ここ数年中にはなばなしい業績を期待されるよりも、むしろ今後十年、十五年の後に
ほんとうにわれわれのやったことが
意味があったのだという結果になることを念願してやっていきたい、こういうふうに思っております。
簡単でございますが……。