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宮本参考人 私は、ただいま御紹介にあずかりました
宮本でございます。
地震予知の問題につきまして、本日当
委員会において審議される運びとなりましたことは、私の無上の喜びとするところでございます。
地震学界の定説といたしまして、現段階においては
地震予知は不可能である、そういうふうにされておりますことはよく
承知をしているものであります。しかし、大
地震の場合におきましては、各大学の
専門家によりまして
地電流または
地磁気のような現象におきましては非常に顕著なる
前兆をつかんでいるという例は
相当にあるのであります。換言すれば、
地震等の完全なる解明がなくても、その
前兆を
科学的な
器械で
記録しさえすれば
相当な正確さをもちまして
予知ができる、そういうことは別の
角度から成立するのではないかと思うのであります。ここに陳情して参っておりますところの、
地震予知にきわめて有効であると理論づけ、かつまた立証できる
器械である
高木式無
定位磁力計と申しますものは、
気象庁高木聖技官が
電気関係者のヒントによりましてその
原理を追求し、かつまた改善をし、
組織的観測も過去においてなしたものでありますが、
地震前の異常を一ないし五日くらい前に明確に
記録するものなのであります。私は
地震学会における
高木君の幾つかの
研究発表に興味を持ちまして、約十年くらい前より
地震及び
地震予知の問題につきまして
高木氏と
相当に
意見を交換しておったのであります。実は私は、その当時は
地震の伝わり方の
変化から
地震予知の
研究をしておりまして、
福井地震前後につきましても、私としましては
相当によい例を
学会に発表いたしたのでございますが、残念なことには、
地震計の精度がその問題を論議するにはまだ不十分である、そういうような御批判を
地震学会でいただきまして、私としましては、その点において行き詰まっておったのでございます。かつまた、その
方法は
海上遠くにおいて起こる
地震に対しましては、全然有効でないという事実が実はあったのであります。その当時は、今から約七年前でありまして、そのころに、
高木聖君が私のところへこの問題になっておる
磁力計を持ってこられまして、実は、
設備もされて
観測をしてはどうか、こういうふうな、個人的ではありますが、友人的な範囲で
依頼があったわけであります。私は半ば疑いを持っておりました。このような簡単な
器械で
予知できるはずはないと私は思っておりました。ところが、元
地震課長の
鷺坂清信氏がその
著書「
地震と津波」——これは
目黒書店から出ておると思いますが、その
著書の中に、
南海道地震の前におきましては、
高木君の
器械で、約三週間にわたりましてきわめて顕著なる特別な
変化があった、
原理はわからないが、注目に値するという記事を見まして、実は、それを
一つの私の重要な
根拠といたしまして、これはできるだけ
研究をして、明らかにしたい、そういう意欲がわいたのであります。しかしながら、
場所の
条件がはなはだ悪くて、数年間なし得なかったのであります。しかし、その後幸いにいたしまして、
観測場所のやや適当なところを得ましたので、私は、三年くらい前から、普通の
磁力計とこの
磁力計との
比較研究を続けて参りました。そして、その両者の
特徴の差につきまして大体見当がつきまして、この
磁力計を使いまして
地震前の特別な
変化を
記録し、かつ
研究を続けて参ったのであります。
この図で最近の例を
説明させていただきます。実はことしの八月から現在までの状況をしるしておるのでございますが、少なくとも、大きな
地震でありますと、その数日前、小さい
地震でありますと、わずか一回くらいの小さな異常でございますが、私が最近驚きましたのは、ことしの十月初めより、今までに見られないような大きな
変化が続出したのであります。すなわち、磁石の
振動に直しますと、約一・五度の
振幅を持っているということをテストによって確かめております。しかも、この十月の十一日、十二日におきましては、合計六時間以上に及びまして、かつ、回数も三百回
程度を越えております。そのような顕著な異常がありましたので、私は、この事実と、過去五年間の
高木君
時代の
記録との相関を求めてみまして、これは
相当に大きな
地震が
関東地方またはその周辺に起こることを
予想いたしまして、
気象庁地震課にも連絡をいたしました。
ラジオ東京よりも
依頼がございまして、やや不確実な
予想ではございますが、十五日以後三週間以内にはある
程度の
地震が
関東地方あるいはその近くに起こるのではないかと発表いたしました。実は、その当時、
地震課としては、少なくとも重大な関心は寄せなかったのであります。しかしながら、
現実にはこの
予想は、
予想した期間の二十六日、言いかえれば、発表してから十一日くらい後に、
福島沖海上百七十キロの
地点で、
相当に大きい
地震が生じたのであります。
東京からは三百五十キロも離れておりましたので、
東京ではわずかに震度が一で、
相当注意しないと気がつかないというふうな小さい
地震であったのであります。しかしながら、この
地震の
エネルギーといいますものは、
昭和二十年に死者二千、
負傷者千人、
全壊家屋五千五百日を出したところの
三河地震に
相当に接近をした
エネルギーであるということを実証いたしましたので、私の
予想はほぼ正しかったものであると考えております。言いかえれば、不完全ながらではありますが、これは、
科学的資料で
地震予知をいたしましたところの、実は第一回目のものではないかと私は考えるのであります。今回は、幸いに
震源地が
海上であったからよかったものの、もし陸上であれば
相当の
被害があったのじゃないかと思うのであります。しかし、私のは一カ所の
観測地点しかございませんので、
震源地の
方向が全くわからないのであります。もし、
関東地区で少なくとも十カ所に近い
観測点がございましたならば、大体の
震源地の
予想はできたと思うのであります。今申しました
特徴を別の
角度から申しますと、
海上二百キロ
程度離れておりました
地震でも、大
地震であるならば、また
観測点が多ければ、
相当な確実さにおいて
予想し得るということであります。他の
方法ではとてもこのような期待ができないはずであります。
この一例でもおわかりになりますように、
地震予知にきわめて
実用性の高いものであることを実証したと思うのであります。繰り返しますが、
地震学界では、現在、
地震予知は不可能であるというふうにされておりますけれ
ども、これは一面から見ますと、
伸縮計あるいは
傾斜計などで
土地の伸び縮み、または
傾斜などの異常を
記録いたしまして、それによりまして
予知しようとするからであると私は思うのであります。
その一例といたしまして、
京都大学が逢坂山の
トンネル内部で
観測をいたしておりまする
伸縮計の
記録をお見せいたします。
〔図を掲示する〕
この赤く塗ってある部分が
福井地震の
前兆ではないかと
地震学会で発表されております。しかしながら、この異常は、当然
気温、
湿度、
雨量等、あるいは地殻、潮汐というような各種の
変化がまじってきておりまして、むしろ、それらの方が大きな
影響をする場合が多いのであります。しかし、ごらんになりますように、二つの破線で囲まれた領域といいますものは、過去十年くらいの
データによりまして求められたものでありまして、この幅をはみ出た場合だけが異常である。ということは、設置すれば直ちに
前兆がわかるというものではありません。十年近い
観測データによって初めてこの幅が確認されるわけであります。
それから、もう
一つは、この
器械は、温度の
影響その他を除去するために、
トンネル内または地下百メートル、またはそれ以上であることを必要とする欠点の
一つが考えられるのであります。しかし、この
記録計の場合は、地表のどこに置いてもよろしい。わずかに
鉄道線路から一キロ以上離れればいいというのでありますから、この
制限はほとんどないということが
特徴とされると思います。
また、同じ件でありますが、
気象庁付属の長野県松代にある
地震観測所の
トンネル内に設置されております
伸縮計及び
傾斜計は、約十年に近いところの
観測であるにもかかわらず、
相当に近い、また
相当大きい
地震に関しましても、全くいい例はいまだ発見されておらないということを
関係者から聞き及んでおるのであります。言いかえれば、
地震との
関係が明快でなくとも、
継続観測、言いかえれば、
気象庁といたしまして
業務観測を行なっておるのであります。
伸縮計は、
土地が伸び縮みという意味においてわかっておりましても、
地震との
関係は的確にわかっておらないのであります。ゆえに
原理不明な場合においては、
気象庁がこれを
業務観測できないという
根拠は全くないということを、ここに事実として確認できるものであると思っております。これは
相当に重要な点であると思うのであります。それからまた、現在
気象庁が各地で行なっておりますところの
地電流、
地磁気の
観測も、現在の
器械では
地震以外の原因の
変化量が大きくて、
地震の
前兆は一般的にはほとんど
記録し得ないのであります。そのおもなるものは、一日を
週期とする電離層の
変化が大きく
影響するわけであります。
柿岡地磁気観測所の
相当長年にわたる
データにおきましても、
地震等の的確なる
データはあまりないように聞いておるのであります。かつ、現在使っておる
器械は、
電車線路より少なくとも十数キロ離れなければならないという困難な点もいわれております。しかしながら、この私が問題にしておりますところの
高木式磁力計とも申すべきものは、
市内電車線路より一キロメートル、
郊外電車の
線路の場合ですと、わずかに五百メートル離れれば十分に
観測可能でありまして、私が今行なっておるところは、わずかに百数十メートルの距離であります。言いかえれば、枕木がその
絶縁体となりまして、
郊外電車の場合はきわめてわずかの量しか
地面に
電流が逃げないのであります。また、この
磁力計は
気温、
湿度、
雨量等に左右されることもなく、
土地の
振動とは全く無
関係な
記録を示し、
地震の
前兆はきわめて明確に区別できるわけであります。
伸縮計の場合は、混同して
記録しておる。その点、この
器械は明確に区別できるという点を強調したいと思います。そして、さっき申し上げましたように、
設置場所はほとんど
制限がない。かつ、無
定位磁力計と申しますものは、完璧なものでなくとも、
現実に私が作った不完全なものでも十分にその性能を発揮しておるのであります。
以下、特殊なる
影響によるものを
説明いたします。すなわち、
電車線路より
地面に逃げる少量の
電流の
影響は、この図のごとく
中央の線が下または上に
変化をいたすのであります。
電車の停留所におきまして
電流が異常に急激に流れる、そのような
変化のために
中央の線が
変化いたします。また、これは私の
実験によりましても、完全に再現をすることができるのであります。それから、倍率四十倍の
水平動を
記録する
地震計を、
磁力計より約五メートル離して、
土地の
振動の
記録との
関係も
現実に調べております。
次に、遠い
地震ですが、私はここに
現実に
記録を持ってきております。
千島の
地震の場合、大きく拡大をいたしますと、初めと終わりが徐々に
変化をする。ここにモデル的に書いております
千島の
地震の場合が、大体これに該当いたします。それから、
関東地方の
地震、言いかえれば、五十キロあるいは百キロ前後の近い
地震でありますと、最初数十秒かかりまして
振幅が増大し、そうして減少をしていきます。すなわち、
初期微動継続時間に該当する間におきましては、徐々に
振動は増加をしてきます。私も
実験によって大体これを確かめております。言いかえれば、今まで
地震学者の大半は、
地震計にも
記録し得ないような、かすかな
土地の
振動によってトタン板が
振動し、その
影響ではないかとの疑いを持っておったのであります。かって検討した
石川業六氏も、もしもトタン板がコンクリートで固められていたら
振動によるものではないだろうという観点に立つ、しかし、床に置いたままでは、絶対にそのような保証はできないから、
振動であるかもしれないという疑いがある、ゆえに、私に、ぜひともそういった
実験をやることを勧められた事実もあるのであります。しかしながら、
地震との
関係を調べれば、一目にしてこれは明らかでありまして、
振動による場合は全然違うタイプの
変化をいたすのであります。
今度は、
地震の場合以外の
前兆につきまして簡単に申し上げておきます。
前兆の場合は非常にシャープに、鋭く立ち上がりまして、以後、空気制振器と言い得るアルミ板による空気の抵抗によるために減衰していきますが、大体五、六分が普通であります。もう
一つのタイプは、ゼロ・ポイントといわれておりますが、この
中央線がはずれまして、二十分あるいは三十分
程度保ち、また元へ戻る、こういう二つのタイプをもちまして、
地震の
前兆といたしまして考えておるのであります。ゆえに、区別できるという点において再検討する必要があろうと思います。
地震予知が不可能とされておる現在、この
磁力計がいかに重要な意義を持つものであるかということは、これでおわかりになったのではないかと思います。
次に、
磁力計の構造を簡単に申し上げておきます。この図のごとく、長さ二十五ミリ、直径が二ミリの小さな二本の磁石を上下に二十センチ離しまして、アルミ板にぶっつけてあります。そのアルミ板は幅一センチ、長さ二十五センチ、厚さ一ミリ前後であります。そうしまして約七十センチのタングステンの糸、直径は百分の三ミリ、そのような細いタングステンでつるしまして、その下二センチのところに二メートル四方のトタン板を敷きます。なぜタングステンを利用するかというと、
気温が
変化いたしましても、ほとんど伸び縮みがしません。その範囲内においてありません。その全体を直径八センチ、長さ一メートルのガラス円筒で密封いたしまして、空気の動揺がありましても、全く
影響がないようにしてあるのであります。アルミ板の
中央につけました直径一センチの小さい平面鏡によるところの反射光線を、この図のごとく回転をする円筒に巻きつけた印画紙に連続的に
記録するようになっております。
記録円筒は一時間に一回転をしながら横へ四ミリづつ動きます。かくのごとく、二十四本の線が一日に描かれます。ここからここまでの長さが四十三センチありますが、それが一時間に該当するのであります。ゆえに、一日に一回現像する操作をやっております。しかし、もしも光電管を利用してペン書きするならば、常時
変化を
観測することができるはずであります。また、各地の
変化を
中央の一カ所で
記録するためには、特殊な電波方式をとるならば、完全にその操作ができるわけであります。
次に、
地震前の特殊な
振動はなぜするのであるか、それも簡単に申し上げることができます。すなわち、
地震前のこのような特殊な
振動と申しますのは、私のテストによりますと、一秒から十分の一秒くらいという、非常に時間的に早い磁場
変化を与えるときによってのみ、トタン板が実は弱い磁性を帯びます。そしてその磁性の
影響は、近い磁石に対しては非常に強く、遠い磁石に対しては弱いのであります。もしも、この距離の比が、たとえば一対十という割合でありますと、これに対して千、これに対して一というふうに、距離の三乗に逆比例するのであります。ゆえに、もしもトタン板がなければ、この磁石は全く回転をいたしません。その理由は、同じ回転力が上下の磁石に与えられましても、磁極を逆に張りつけておりますがゆえに、回転
方向が逆でありますので、相殺をするわけであります。これが実は無
定位磁力計の最大の
特徴の
一つであります。
テストといたしまして、この図のごとく、上下に
中央を対称にトタン板を二枚置きまして、同じように短い時間の磁場
変化を与えてみますと、全く
振動いたしません。すなわち、上下に同じような
変化が与えられるからであります。また、一枚だけ置いた場合に、コイルを徐々にトタン板から離していきますと、離せば離すほど
振動は小さくなってくるのであります。ゆえに、トタン板の役割というものは、これで非常にはっきりとしたということが言えるのであります。トタン板がなければ、この
器械の
特徴が失われるということははっきりしております。
次に、コイルに五十八ミリ・アンペアの弱い直流を、今申しましたように一秒から十分の一秒まで各種の短時間だけ流しまして、磁石の
振動が
地震の
前兆と全く同じであることを確認をいたしました。五十サイクルの交流を流しますと、磁石は全く
振動いたしません。この磁石の固有
振動週期は二・四秒であるのが当然であるというふうに、他の専門学者ももちろん同意をしております。
中央線が一定時間だけずれるという
記録は、その時間だけのテストでは、一定の磁場を保てばいいのでありますが、自然現象では、おそらくその間に時間的にゆっくりと磁場
変化があるのではないかと考えられます。
次に、
地震との
関係が考えられるのかという問題について申しますと、以下仮説でありますが、
地震の数日前から
震源地の地下に、すなわち震源に大きい圧力の急激な
変化を生じまして、石英の鉱物内においては電気を生じまして、それが
地電流の異常なる短
週期の
変化となって流れまして、そのために地表にも短い
週期の磁場
変化となって現われるからだと思います。この現象は名古屋大学の熊沢という方の五月における
地震学界の発表でも、圧電気の計算は、私の場合に非常に有利な
条件が実は出ております。大きな圧力であれば五千ボルト以上の電位差が震源には生ずるのではないかということは、数学的に出ております。
トタン板のかわりに銅板を用いた場合は——実は
高木君の
実験でありますが、解釈がいささか違いますので、今回発表させていただきますと、銅板を用いますと、磁石の
振動は全くといっていいほどなくなるのであります。非常に少なくなる。その理由は、ここに明示をしておるのでありますが、結論はトタン板に生ずる感応磁気が主原因であると考えられます。銅板であれば感応磁気が生じないのであります。今、今後の討論の都合にと思いまして、私は右の説を
宮本説というふうにかりに名づけさせていただきたいと思います。
次に、この
磁力計が
地震予知に
関係する
器械として取り上げられている過去の経緯を述べますと、
昭和十八年ごろ、通産省電気試験所の吉塚技手が、この
磁力計で岩石の磁性を
研究中、
地震の一日ないし数日前にその性能が著しく
変化することを発見し、吉塚氏からこの
研究を
依頼された
気象庁の
高木技官が継続的に、また
研究的にこれを追求いたしまして確認をしたのであります。当時の
中央気象台長藤原咲平博士は、この
磁力計の特殊なる性能に重大な関心を寄せまして、全国五カ所、すなわち、
東京、大阪、神戸、鹿児島及び三重県の尾鷲で、十九年より五年間
継続観測をしたものであります。五カ所における測候所の
継続観測の結果、有感覚
地震の一日ないし五日くらい前には必ず異常が現われまして、この
磁力計の
実用性が立証されておったのであります。もし、この異常が高さ二百数十キロメートルの電離層内の磁気あらしの
影響によるものであれば、五カ所同時に異常が現われるはずでありますが、そのような例は一回もなかったのであります。また、私があとで磁気あらしの時期をプロットしまして調べますと、その時期にはほとんど異常は起こっておりません。また、私の最近の
観測結果でも、八月には十六日に磁気あらしが起こっております。それから九月には四日に磁気あらしが起こっておりますが、全くそれに該当する
記録はないのであります。特に
昭和二十一年の南海道大
地震のときには、前にも織り返しましたように、
震源地より約六十五キロ離れました三重県の尾鷲におきまして、この図のごとき大きな異常が生じまして、特に大
地震が起こりました二十一日の前一週間におきましては、数分の休みもなく、二十四時間連続して異常が数日続き、その直前には最大の異常が見られたという事実があるのであります。同
地点は、御
承知のように
電車などの交通
機関がありませんので、平生の場合は完全なる直線を描く
地点なので、
原理は解明せられてなくとも、
地震の
前兆として解釈するのが当然の考え方であると私は思います。
気象庁は、この
磁力計の検討を
昭和二十一年に
気象庁付属の茨城県柿岡の
地磁気観測所で行なったのであります。当時の検討をした
石川業六氏の報告書を私は読みました。また、
石川氏から直接数回にわたりまして聞いたところを総合しますと、残念にも、磁石の
振動を早くとめるために、この図のごとく、直径三センチメートルの金属の円板を油の中につけて、そのために抵抗を作りまして
振動を早くとめるというような目的を持つ部分品をつけたのであります。言いかえれば、感度が
相当悪くなっている。弱い磁場
変化が生じましても、これは
振動できない。かつまた、
実験のときには鉄板を敷いた場合もあるということを報告書から知ったのでありますが、四カ月にわたる
継続観測のときには、一番大事なトタン板を敷かなかったというふうに
石川氏自身から私は聞いたように覚えております。ゆえにこそ、
地震前に何らの異常を示さなかったのは当然のことであると思うのであります。ゆえに、右報告書の最後には、
地震との
関係は全く不明であるという結論が出ているのであります。しかし、大事なことは、第三者は、むしろこの
磁力計の過去の異常も、
地震との
関係はないのではないかというふうに拡大して解釈する傾向を生んだのであります。しかし、右の検討は全く別種の
磁力計でやったことになりますから、少なくとも、過去五年間の
記録もことごとく
地震とは無
関係であろう、そのような拡大解釈は断じて成立しないものであります。
終戦後の人員整理と予算不足も
影響しまして、私の聞いているところによれば、
昭和二十四年よりこの
観測は廃止されてしまいました。これはきわめて遺憾なことであったと私は思います。なぜならば、もし二十一年の当時より全国的に
観測網を作っていたならば、
福井地震も場合によれば
予知し得て、五千人の死者も出ずに済んだかもしれないと思います。神戸における
高木君の
観測によりましても、
相当な異常が出ております。その後、今市
地震、十勝沖
地震、房総沖
地震と相次いで大きな
地震が起こっておりますが、今申しましたように、全国的に
観測網があれば、ことごとくその近い
観測所においては異常を確認し得たであろうということは、火を見るよりも明らかであります。
もう
一つの
根拠を申しますと、この
器械は、他の
磁力計に比べまして非常に値段が安いのでございます。誘導
磁力計は三百万円もいたしますが、このような目的には合致しません。この
磁力計は
相当完全に作りましても、わずかに十数万円でできるのであります。ゆえに、百カ所あるいは数十カ所の
地点の
観測所は、おそらく十分可能であると私は考えます。
私は、過去の資料から考えまして、当然
地震の
前兆を
記録し得るとの確信を持ち、テスト及び
継続観測を行ないまして、
予想のごとくきわめてよい結果を得たのであります。それで、
和達長官に対しまして、
気象庁として再検討及び
継続観測再開をすべきであると何回も強く要望したのでありますが、
長官は、かつて
昭和二十一年に
気象庁として検討したが、
地震との
関係不明との結論を得たので、再び同じような結論に達するかもしれない検討及び
継続観測は不可能であるとの回答を私に与えられました。ゆえに、私は、
気象庁のかつての検討は全く性能の異なるものなるがゆえに、そのような考え方は成立しないと申し上げました。実は、
長官もそれを十分理解なさいまして、再検討の必要をはっきり認識なさったのであります。しかし
長官として、下部組織に直ちにこの再検討の指示をすることは、現段階として不適当であるといたしまして、私に対して次のような提言をされました。
研究者同士の話し合いでどこかの
研究機関で再検討をする、または
協力をすることが最も望ましいのではないかというふうに、私に言われたように記憶しております。
それで、まず私は、
気象庁の
地震研究部に相談をいたしましたが、同部長は、前からこの
磁力計については十分に御認識でありまして、個人的には助言あるいは相談に乗る、しかしながら、
研究部として行なうことは困難である、その理由は、
地震計精度向上の仕事が当面の問題であり、人をさくわけにはいかない、また、
設備もない、というような御回答でありました。ゆえに、私は、かつてこの検討をしたところの
柿岡地磁気観測所の吉松所長に手紙をもって連絡したのでありますが、同所長からの手紙によりますと、
地震に関しては同
地磁気観測所は主体任務ではない、ゆえに
地震課と相談していただきたい、というふうに、結局は拒否されたのであります。私は、もちろん、初めに広野
地震課長に相談をいたしましたが、
地震課も、本来の任務、言いかえれば、
地震計による
観測によった結果の処理に手一ぱいである、また、法規的にも
研究機関ではないから、どうしても、やろうとしてもできない。もちろん私は十分了解をいたしました。広野
課長は、
地震研究部へ相談してはどうかとおっしゃいましたので、私も前記のごとく連絡したのでありますが、残念にも、
現実的な困難から、それは実行できなかったのであります。言いかえると、少なくとも、再検討の必要を認めながらも、
気象庁のいずれの
機関も実行に移し得ないことは、組織上の欠陥に基づくものではないかと思います。すなわち、
地震と電気または磁気の
関係も徹底的に追求できるような
研究機関がぜひ必要ではないか、こういうふうに痛感をしたのであります。そこで私は、
東京大学
地震研究所にも相談をもちかけたのでありますが、所長は、非常に好意的であったのでありますけれ
ども、結局は
協力を得られませんでした。その理由は、相談相手として推薦されましたところの
研究者も、実はその人自身の
研究に非常に忙殺されまして、全くそのような時間及びその他の
条件は整わないというような回答でござました。そういうような状況で、私個人のささやかながらの
研究が継続されて、今日に及んでいるのであります。
次に、簡単に具体案を御紹介申し上げます。
継続観測は全国に四十カ所くらい設ければいいのではないかと思うのであります。数カ所だけでは
関係があるかもしれないし、ないかもしれない、そういうような、あいまいな結果を生む可能性が十分あると思います。
次に、
中央研究機関を設け、次の目的を持つのが適当ではないかと思う。一、各地の
データを集め、
地震との
関係を調べ、
研究的に
地震を
予想する。二、
器械の
原理追求のために各種のテストを行なう。三、この
器械の改良。四、
記録装置の改善。それから、これは大事だと思いますが、五として、
地震前の電気的及び磁気的現象の
研究のために各種の
器械での
研究的
観測。この一般目的を十分に持ってよろしいと思います。
最後に、結びの言葉として、次のことをつけ加えさしていただきます。実は、私がこのような問題を
国会で取り上げていただく理由の
一つとしましては、すでに個人の限界にきているからであります。多数の学者はまだ資料が不足であり、あと数年間やったらどうだとおっしゃるのですが、
現実問題として、断じてそれはできません。私の勤務上また経済的にも——特に経済的には今破壊状態であります。これ以上やれということは、やるなというのと同じことであります。その点を私は強く要望します。そして多数
地点の
観測の必要はわかっていても、個人の力によっては全く不可能なのであります。
原理追求のための各種のテストも、着想はありながらも、費用の
関係から全く不可能の状態にあります。実は、私の今までのテストからでも各種の新しい事実と解釈がわかり、数名の
地磁気の専門学者の完全なる同意を得ているのであります。断じて独断ではないのであります。今後各種のテスト及び
組織的観測を継続することにより、この
磁力計の性能及び
原理をより深く追求することができるのであります。とにかく、最も必要なのは多数
地点での
観測であり、ぜひともこの現状を理解されて、国家の
機関が積極的
対策を強力に実行に移されることを熱望するものであります。
将来の大
地震によって失われるかもしれない多数の人名を十分に救い得る可能性のあるこの
器械を、
原理不明だとか、あるいは学界が支援しないからとか、そのような過去の単なる形式論を振りかざしてこれを無視し、そして放置するようなことの絶対ないように、重ねて切望するものであります。