○大竹平八郎君 第三次
岸内閣成立によりまして、昨日
総理の
所信表明がありましたが、この際、私は無所属クラブを代表いたしまして、
総理を初め
関係閣僚に対し、主として経済問題を中心に、その他若干の
質問をいたしたいと存ずる次第であります。
第三次
岸内閣は、その特徴といたしまして、経済
関係閣僚の強化と官僚出身閣僚増加ということにあるようであります。それだけに、経済
政策に関し詳しい
方針が示されると思ったのでありましたが、表明せられました
所信はその期待を全く裏切るものであります。
まず最初にお尋ねいたしたいのは、
岸内閣はいかなる
方針によって完全雇用の達成を期するかという点であります。先般、人口審議会から発表せられました人口白書によりますと、総人口の増加は鈍ってきましたが、過去における高き出生率のために生産年令の人口は当分激増する傾向にあります。従って、職業につくことを要する労働人口は、
昭和三十五年から四十年の
期間におきまして、毎年平均百万人をこえる増加になり、年率二・二%で、戦前のまさに二倍になっておるのであります。この労働人口の増加はそれだけ生産力を増すことになり、同時に消費力も増すことになって、経済拡大論者にとりましてはきわめて歓迎すべき現象であります。しかし、もしこれを生産力化することができず、失業させるとするならば、著しき生活不安と
社会不安を起すことを銘記すべきであると思うのであります。
今や技術革新、オートメーションの勢いが各方面に浸透いたしまして生産の増加に当り、人力に期待することがますます少くなってきているのであります。しかも、そうしなければ生産性を向上させることができず、国際競争力から脱落をしなければならない。この矛盾をいかにして解決しようとするのか。生産する力と消費する力と、二つの力を持っている労働力人口をいたずらに遊休人といたして放置することなく、経済機構の中にフルに動員して完全雇用を実現し、もって経済の拡大をはかることが望ましいと思いますが、この点につきまして岸
総理の御答弁をわずらわしたいと思うのであります。
次に、農家の二、三男対策についてであります。
日本の過剰人口は俗に農村に停滞しているとまで言われるほど農村人口は多いのであります。農家も最近積極的に過剰人口を排除しようと努めており、そのために人口の都市増加が激しくなっていることは御
承知の
通りであります。しかし都市においてもそれほど就職がなく、農家の二、三男は、いかにして将来の生活設計を立てるかについて心配をいたしております。福田農林大臣は、過剰人口を他産業に吸収させることが先決問題だと言っております。そして、それは流通部門でなく、なるべく第二次産業すなわち工業部門に吸収すべきだと言っております。われわれも、現在流通部門すなわち第三次産業が、
わが国ではいかにも膨張しすぎているのではないかということを心配しているものであります。
現実を見ると、先ほ
ども述べたように、第二次産業では合理化や技術革新が盛んで、人口吸収力は著しく減退し、労働力の多くは第三次産業たる商業やサービス業に吸収せられているのであります。果して
岸内閣は第三次産業から第二次産業へというような
政策が実現できるかどうか、まことに私は疑わしいものと信ずるのであります。稲田農相によれば、農家の過剰人口を
解消することによって農家の経済規模も拡大するというのでありますが、そうなれば当然農業人口は減少するのであります。単に二、三男のみならず積極的に農家人口を減らしていくとすれば、他産業特に第二次産業の人口吸収力はかなり大きくならなければならない。それをいかに実現するか、この点、福田農林大臣並びに
池田通産大臣にお尋ねをいたしたいのであります。
次は首都圏の整備についてでございます。増加いたしまする労働力人口の大部分は御
承知の
通り大都市に集中をいたしております。ことにそれは東京都及びその
周辺に集まっている現状であります。これは
わが国の経済が商工業化することの当然の帰結でありますけれ
ども、東京都の膨張はあ
まりに急激で、都市計画も緑地計画も間に合わす、膨張したあとを追いかけて種種の計画が尻ぬぐいをしている格好であります。従って政治と計画の失敗の歴史と言ってもあえて過言ではないのであります。そうして上水道の欠乏と下水の過剰に悩んでおります。われわれは前
国会において水質汚濁を防止するための二法案を成立いたしましたが、その当時これによって隅田川の水が私
どもは浄化されるだろうとは思っておりません。ところが東京都は東京湾を埋め立てて海にさらに拡張しようとする計画がございます。国土が海面にまで伸びていくことはけっこうなことではありますが、それが依然として汚ない東京都の延長であることは好ましくないのであります。ことに、一九六四年には東京では待望のオリンピックが開催されることは、すでに御
承知の
通りであります。この国際的行事に、東京都が、
日本の都市や町村が恥を
世界にさらすことであっては全くならないのであります。産業の発展に伴って都市の生活環境を整備することはきわめて重要でございます。その具体的対策があるかどうか。この点について建設大臣と通産大臣の御
意見を伺いたいと思うのであります。
次に貿易問題についてでございます。増加して参りまする労働人口に職を与え、生活程度を高めていくことが、現在の
わが国に課せられた経済
政策の最重要の課題であります。その際
わが国のごとく資源の少い国にとりましては、貿易の役割は実に大きいものと言わねばならないのであります。資源の大きさは、あるいはまたその小ささは科学技術の進歩によって
変化するもので、科学技術が進歩をいたしますならば、今まで資源と思われなかったものが新らしく重要な資源になることもあるのであります。その
意味で科学技術の振興はきわめて大切ではありますが、現状では貿易なしに
日本経済の拡大を
考えるということはできないのであります。その貿易の
世界的傾向といたしまして、現在自由化という問題が叫ばれております。皆様御
承知の
通り、輸出輸入をできるだけ自由にし、為替管理や輸入制限などを撤廃していくことは、経済の必要とするように物資の動きを活発にすることであり、
世界全体としての経済的福利を増進することになると思うのでありますが、
わが国のように各種の貿易管理が行われている国にとって、貿易の自由化はすこぶる大きな影響を各方面に及ぼすことを
考えなければならないのであります。その一つは、輸出競争の激化ということであります。
わが国の産業の中には競争力の弱いものが多く、ことに、最近発展しつつある重工業、化学工業には、従来からいたしまして、陸海軍を初めとして国の助成によって現在の地位を築き上げたものが少くないのであります。自由な国際競争にさらされた場合、その地位を保持し得なくなる危険というものが存在いたしておるのであります。
世界的技術革新の波に対処して、よく自由化にたえ得るような体質改善を急速に実現するだけの用意があるかどうか、この点も
池田さんにお伺いをいたしたいのであります。
また、外貨割当のごときは、もともと外貨の不足していた時代に、この外貨をいかに有効に利用するかという点に目標があったのであります。自由化の線に沿うて、漸次これをAA制の拡大の方面に進ませるとともに、製造業者割当から漸次これを商社割当に変更していくべきが当然であると思うのでありますが、これに対するお
考えもお聞きいたしたいのであります。
また、輸出においては、単に外国との競争が激化するのみでなく、
国内業者の競争が激しくなり、そうしてメーカー、商社とも、
日本人同士で血みどろの競争を続け、互いに品質を下げ、価格を安くし、その結果、せっかく拡大した海外市場から締め出されようとしている実例があ
まりに多いのであります。
政府はこれに対処するために、
さきに輸出入取引法、輸出検査法を作って過当競争の弊害防止と品質向上に努めましたが、効果は必ずしも期待ほどではなかったことは、御
承知の
通りであります。そのために、前
国会では、経機械の輸出について前例のないほどきびしい統制立法をあえてしたほどでございます。
政府は、これに対し、やはり今後も各種の統制立法を実施していく
方針であるか。ことに、前
国会で審議未了になりました輸出入取引法の改正案を次の
国会にお出しになる計画であるかどうか、これも伺いたいのであります。
次に、エネルギー対策についてであります。
わが国の商工業化について、エネルギー資源の重要なことは申し上げるまでもございません。
わが国は明治の初めには石炭はむしろ輸出国でありました。その後、水力電気だけは豊富だといわれた時代もあったのであります。しかし、現在のように、
日本が商工業立国をなす時代に入っては、石炭も水力電気も高過ぎるという時代に相なってきております。電力については、水力を主とする時代から、さらに新鋭火力を中心とする時代へ移っております。いわゆる火主水従へと重点が移行しているのであります。石炭について申しまするならば、重油との競合が問題になってからすでに久しいのであります。従来、
政府は、
国内産業の保護、外貨節約、あるいは労務対策等の
見地から、重油ボイラーの規制あるいは石油輸入の抑制等の措置をとり、いわゆる炭主油従
政策、すなわち石炭優遇策をとってきたのであります。これに対し、産業界には、御
承知の
通り、経済採算の観点から、
政府の
方針に批判的の者がかなりあることは、御
承知の
通りであります。もし石炭と石油を自由に競争させるということになりますれば、最近の
世界的傾向からいたしまして、石炭は完全に斜陽産業と化するおそれがあるのであります。特に
わが国の石炭業界は、自然条件には恵まれておりません。しかし、石炭鉱業が
わが国経済に占める重要性を
考えまするときに、これを放置することは許されないのであります。現在不況産業と称せられるもので、石炭産業ほど深刻なものはないのであります。経済審議会のエネルギー部会とか、民間の総合エネルギー対策懇談会等で対策が講じられております。しかし、石炭鉱業については、事の重要性にかんがみまして、
政府は、この際、エネルギー対策について官民合同の一大審議会を設置いたしまして、生産者、消費者あるいは学識経験者をもって原子力時代にふさわしい総合エネルギー対策を考慮すべきであると思うのであります。ことに、その中で石炭がいかなる地位を占むべきかにつきましては、労働者、経営者の
意見をも十分に徴して可能性のある
政策を樹立実行すべきであると思うのでありますが、通産大臣の御所見をこの際承わっておきたいと思います。
次に中小企業の問題についてであります。完全雇用を期するために中小企業に課せられた使命はすこぶる重大なことは申し上げるまでもないのであります。大企業の人口吸収力が伸びず、農業の拡大余力がないといたしまするならば、勢い中小企業において収容するのほかはないのであります。現在の状態はまさにそのように動いているし、また、
政府の経済計画もそれを予想いたしております。そのために、中小企業には、潜在失業ともいうべき、低い所得に甘んじている者が多数従事することになっております。過当競争もいたずらに激化をいたしております。
日本経済は、中小企業の活躍すべき分野が多くあり、また、新しい中小企業の分野も常に開けてきているのであります。中小企業が合理化され、大企業との格差を縮小し、従業員の福利が増進するようになることを、私
どもは心から切望するものであります。中小企業については、ただすべき点があ
まりに多いのでありまするが、ここでは、ただ一点、組織化対策につきましてお尋ねをいたしたいのであります。それは、先年成立をいたしました中小企業団体の組織に関する法律におきまして、商工組合の設立を認めながら、その組合の設立が遅々として進まないということであります。それは、設立の要件として、業界が不況にあることが前提要件になっておりますが、法案審議の際にも問題になったように、組合の設立そのものは簡単に認めてもよいのではないか。組合が設立をせられて、実際に調整事業を行うときには、厳格に審査してその可否を決定すればよいので、組合を設立するだけでは、他の
関係業界や消費者に影響することは少いのであります。そうして、組合を設立することによって業界の
意思も疎通し、業界の改善について相互に
考える場所が与えられるのであります。中小企業は元来規模の小さいものであるから、それが団結することによって初めて他に対等に行動するところの力を持つことができるのであります。経済の民主化の線に沿うことにもまたなるのであります。
政府は、団体法を改正いたしまして、組合結成だけは容易にする
考えはないか、
意見を伺いたいのであります、
次は独禁法の問題についてでございます。中小企業は、組合を作らなければ対等に話し合うことができませんが、大企業は単独でも市場を支配することができるのであります。しかるに、今日はカルテルの横行している時代である。独禁法があって、不況カルテル、合理化カルテルのほかは
禁止されているはずでありますが、実際には各種のカルテルが存在をいたしております。不況のカルテルとして発生をいたした鉄鋼公販制度が現在の鉄鋼価格の回復した際にも存続いたし、公販価格を二千円も四千円も引き上げ、独占的性格を如実に発揮いたしていることは、
関係業者のひとしく認めているところでございます。カルテルには、必ずしも悪い面ばかりでなく、むろんよい点もございます。たとえば、過剰投資をやめて資金効率を高めたり、あるいは価格の暴騰暴落を押えるという効果はあるのでございまするが、しかしながら、カルテルが独占価格の上にあぐらをかいて、合理化を怠り、消費者や
関係業者を苦しめているというに至っては、われわれは見のがすことができないのでございます。
政府はも今後独禁法を果して再び提出するの
意思ありやいなやを、岸
総理大臣に特にお伺いをいたしたいのであります。
さらに
最後に、私は佐藤大蔵大臣に伺っておきたいのでございますが、先年
池田大蔵大臣が就任をせられましたときに、一千億円減税、一千億円施策と称してきわめて大胆な積極
政策を唱え、神武景気に拍車をかけたことは、御
承知の
通りでございます。
国会が終ると、直ちにそれが手直しを要することになり、金融を引き締め、輸入を大幅に削減する等のことがございました。
池田通産大臣は、就任と同時にいろいろ抱負を述べておられました。また、
池田さんの実力から見まして私はその抱負が実現すると思うのでありますが、あなたは今回も依然として慎重論を唱え、急速なる拡大はむろんこれを警戒するとのことでございます。両実力者必ずしも私は対立をしているとは申し上げませんが、われわれの受け取り方は、若干の相違があることは事実であるのでございまして、この際、特にこの点に関しまして大蔵大臣の所見を明らかにしていただきまして、私の
質問を終りたいと思うのであります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇、
拍手〕