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参考人(白石
雅義君) 私が今御指名のありました白石でございます。
私は最初熊本の
家庭裁判所の所長をしまして、それも創設当時でございましたが、その後佐賀と大分に参りまして、佐賀と大分は、地方
裁判所の所長も実は兼務しているわけでございます。しかし、少くとも八年あまり
家庭裁判所の仕事には幾らか
関係したわけでございまして、本日実務家の一人としてお招きいただきまして、私の個人的な見解でございますけれ
ども、申し上げる機会を与えて下さいましたことを、大
へんありがたく存ずる次第でございます。
私に与えられました項目は、
少年犯罪に対する一般問題と、
少年法改正に関する問題、この
二つの項目でございますが、ところで、最近
粗暴犯それから凶悪犯、
性犯罪、こういうふうないろいろな
犯罪がだいぶ多くなってきて、そうしてしかも凶悪化してきておるというような、そういうふうな声がありますために、ちょいちょい
少年法の改正問題が起っておるやに聞いておる次第でございます。ところで、この問題につきまして、私も幾らか関心を持っておりますけれ
ども、ほんとうに深く研究した材料は、実は持ち合わせてないわけでございまして、先ほど来
検察庁、法務省側の
方々の御
意見を拝聴していますと、別にそうひどい改正
意見みたいなことも言われませんし、
裁判所に対しても、かなり御理解のあるようなことを承わっているのでございます。だいぶ私も安堵した次第でございます。
要するに私は結論から言いますと、現行の
少年法を、いろいろ不備な点もあるかもしれませんが、その不備な点を部分的に改正していかれるのは差しつかえありませんけれ
ども、根本であるものは、なお残していただきたいということに帰するわけであります。
それで私、この与えられました項目について、少し時間の
関係もありましたので、メモしたものを持参して参りましたので、それについて申し上げまして、あとで御批判を仰ぎたい、さように存じます。少しかた苦しいようなことを申し上げるかもしれませんけれ
ども、いずれ後ほど御批判を仰ぐときに、またお答えする機会もあるかと思います。
とにかく
少年犯罪、特に
粗暴犯とか凶悪犯とか集団的な
犯罪が多くなったことにつきまして申しますと、とにかくこういう
犯罪が
増加の
傾向にあることは、これは間違いないことでございます。これは
統計の示すところでございまして、しかし、すべての
犯罪が
増加しているわけではなくて、そのうちでも最も大きいのは、道路交通取締法違反、それから傷害、恐喝、暴行、脅迫、こういうような
粗暴犯、それから業務上過失致死傷、それから
性犯罪、これは強姦とかわいせつ罪でございますが、こういうものが総数からいって
増加したおもなものになっているようでございます。他の窃盗とか
殺人とか放火というのは、大体横ばい
状態でございまして、詐欺とか横領、失火というものは、大体減少している
傾向でございます。ただ、
少年犯罪総数
増加の主要な
原因にはなっておりませんけれ
ども、
社会的に影響の大きいいわゆる
殺人、放火、
強盗、強姦、こういうものの総数が幾らか
増加している
関係から、非常にこういうふうなものが大きくクローズ・アップされたような形を呈してきているわけであります。
この
粗暴犯とか、凶悪犯とか、
性犯罪が
増加していることからしまして、一部の
方々に、
少年犯罪は非常に凶悪化してきている。現行の
少年法が二十才というのは少し高い。まだ
年長少年についても
保護優先主義をとっておって、
家庭裁判所の
少年法の運用が、あまり
保護に傾き過ぎて、かえって最近の
少年犯罪の
増加、それから凶悪犯の
増加の
一つの
原因になっている。少くともこれを助長していくんだというようなふうに言って、結局これが
少年法の改正の原動力みたいなことになっているわけであります。それから適用
年令が十八才に引き下げるのがいいのか、あるいは年長
少年犯罪について
検察官に
先議権を与えるか、こういうような方がかなり出ているようでございます。しかし、この
統計上から見ますと、凶悪犯、
粗暴犯というのは、
増加はしておりますけれ
ども、これが必ずしも
少年犯罪が凶悪化していると即断することはできないのじゃないかと思います。実態を見てみますと、とにかく恐喝とか傷害というような
粗暴犯の数の
増加というのは、これはやはり最近の暴力犯取締り、検挙が非常に強化されたということ、それからパトロールなんかが非常に整備されましてまた、
警察官の素質なんかもだいぶ向上しているわけで、いわゆる検挙率が非常に多くなっているのも
一つの
原因だと思います。それから強姦の
増加も、これは非常に従来体面上泣き寝入りになっておったようなものがあったわけでありますが、これがまあ地方の因襲といいますか、
警察ざたにしないでおったのが明るみに出るようになったというのが、
相当あるようなふうでございます。それから強姦では、成人の場合は親告罪で、告訴がなければどうもこうもできなかったのが、
少年の場合には、告訴がなくても審判の対象にされる。特にこの
少年の強姦には、大てい多数でやる輪姦が多いのでありまして、この輪姦は親告罪ではなくなったのでございまして、結局これが非常に
増加したような形をとってきている。それから強姦といいましても、お祭りなんかで浮かれてルーズになってしまって、その結果、相手のまた女子の方もうかうかとついて行ってそしてそこで大ぜいの
少年から輪姦に会うというような、そういうふうな事例もかなりあるようであります。それに似寄ったようなことが非常に多くて必ずしもそうこういう事件が
もとに変って多くなったとは言えない
状態のように私看取いたします。それから
強盗といっても、これはほんの恐喝と紙一重というようなのが多いのでありまして、知り合いの者に対して面と向って、何か貸せ、貸さんと言ったので、貸さんかと言って、そしてそのわずか二、三十円とか、百円ばかりの金を取ったのが、
強盗というようなことでよくやってくるわけであります。それから、とにかく現在
家庭裁判所にきます
統計では、とにかく
警察から送致してきたときの罪名を基準にしているわけでございまして、とにかく刑事事件として
検察庁から
裁判所に送られます場合のように、罪名なんか非常に慎重にしていないわけでございます。それで
警察なんかでは、ちょっとしたけんかでも、けがをちょっとしたならば傷害罪、それから暴行したのでも、何かひどい罪名がついてきます。ちょっとしたけんかをして短刀でちょっと刺したという場合でも、
殺人未遂というような凶悪的な名前が
警察からよくついてくるわけであります。それをそのままずっと最後までいきますと、
統計では非常に凶悪的な
犯罪が多いということになりまして、地方
裁判所にきます成人の場合よりも、よけい凶悪的な印象を非常に持つわけであります。必ずしも
統計にはこだわらぬ場合が多いのでございます。
なお、この傷害とか恐喝のような
粗暴犯につきましても、これもほんの一時的な単純なけんかとか、それからちょっとした出来心によるたかり、それから偶発的な即行的なものがかなり多く取り扱われているようでございます。必ずしも凶悪とはいえない。それから
粗暴犯の中でも、最近不良
少年団の連中の一員となった
少年が、一緒になっていろいろ集団的な暴力を振うとか、それから何か成人を頭目としたぐれん隊のような不良団体の一員となった
少年が、何か尖兵的なそういうふうな役割を演じている、そういうのも目立っております。かような
犯罪は、集団的な
犯罪として、何か非常に凶悪な感じを世間一般には与えますし、また与えがちでありまして、個々の
少年について検討してみますと、必ずしも凶悪とは言えないというようなのが多いのでございます。
特に粗暴化、凶悪犯、
性犯罪、これが
増加しておるのは、これは大体世界的な趨勢じゃないかと思います。根本的には、やはり経済
生活の変化とか、それからたくさんの人に貧困の人が多いとか、あるいは
家庭の人たちの無関心とか、住宅難とか、性道徳の非常な変化とか、それから表現の自由によりまするいわゆるマスコミのいろいろな印刷物とか、映画、ラジオ、テレビ、こういうものの不良なもののはんらんしているということ、いろいろその他たくさんあげると幾らもありますが、そういうふうなものの一般化しているのが、直接間接の
原因になって、そういうものによることが多いのでございまして、
少年が
もともとそういうふうなことをやる凶悪的なものだとは言えないんだと思います。要するに
少年というのは、いわば児童期から青年期への成長過程にある、非常に不安定な過渡期にあるものでございまして、特に
年長少年というのは、ちょうど年ごろが、
終戦後一番人格形成をしなくちゃならぬ時代が、ちょうど非常な
社会の混乱時代で、
少年にしましても成人にしましても、いろいろ、不道徳なことがあった時代に大きくなった人たちでありますので、自然とやはりこういう
犯罪に陥る危険性が多くなっておるわけでございます。これは御存じの
通りであろうと思いますけれ
ども、特に戦後は
家庭とか、それから
社会を含めて、成人の
思想、それから
生活態度が非常に混乱に陥っておりまして、まあ順法
精神というものがだいぶなくなっている
関係もあります。それから先ほど申しますようなマスコミのいわゆる商業主義の宣伝、こういうのが非常に広がっております。結局動揺しやすい
青少年を迷わせて、やはりこういうようなことになったのでないかと思います。結局最近の
犯罪が
増加しておるというのは、やはりここに
原因があるんだと思います。そういうことでありますので、
少年犯罪の
対策としては、私たちはやはり何よりも、まずこういう
社会の風潮を是正する。そして
少年に理解を持って、適切な助力と指導を与えていく。これがまず第一じゃないか。具体的にはいろいろありますけれ
ども、時間の
関係で略します。
なお、
犯罪に陥った場合でも、やはりこれも、一般の人が、
少年がそういうふうな影響を受けてきておるということをよく理解して、そしてやはりこれも十分助力指導を与えていく。そういう適切な措置がまず第一じゃないかと思います。こういう
関係からいたしまして、
家庭裁判所で今やっております
保護主義というのは、私たちも非常にこれは合理的なものであるから維持していかなければならぬということを私痛感する次第であります。
ところで、この
保護機関でありますいわば
家庭裁判所が、どうも
組織とか、機構とか、設備におきまして、また事務の運営におきましても、これを裏づけるに足るだけのものがどうも足りないわけなのです。私、当初申しましたように、
家庭裁判所が発足当時に
家庭裁判所に行ったわけなんでございますけれ
ども、
もとの
少年審判所、それから家事審判所的なものに毛の生えたような
状態で、職員もわずかでありますし、物的
施設といっても、ほんとうのいなかの村役場の事務所みたいな設備でありまして、やっと今、十年たって軌道に乗ってきて、だいぶ現在いいものがございますけれ
ども、事件が多くなった割には、人的、物的な設備というものが非常に少いわけでございますが、一番大事な
調査官などが少い。これが非常にガンになっているわけでございます。いろいろな仕事が自然停滞する、あるいは十分にできないということもあります。これはあとにも申しますけれ
ども、これと並んでいわゆる
裁判所の出しました決定に基く
執行機関が非常に不満足な
状態にある。これはよく御存じかもしれませんけれ
ども、そういうのが、いわゆる
保護主義の完全に発揮できないということも悩みになっているわけでございます。私はとにかく現行の
少年法の改正ということよりも、現行
制度の長所というものをフルに発揮できるような体制を一日も早く充実しておく方が、一番目下の急務ではないかと私痛感する次第であります。
そこで、だんだんと時間もありませんが、
少年犯が
増加したからといいまして、
刑事処分の範囲を拡大するということ、こういうふうなことは私考えるべきじゃないのじゃないかと思います。とにかく事件によっては、
裁判所の方で、逆送と先ほ
ども言われましたが、来た事件を
検察庁の方にまた逆送して、そして
検察庁の方で起訴をして、
刑事処分をしてもらうことになっているので、その点において十分まかなっていけるのじゃないか。ただ、
検察官の
意見と、それから
裁判所の
意見というのがだいぶい違いがあるようでございます。
検察庁から送ってきます事件で起訴
相当というような事件が
相当ありますが、そのうちのほとんど大部分といっていいかもしれませんが、やはり逆送しないのがだいぶ多いのでございます。これはなぜかといいますと、
裁判所にとにかく
調査官がおって、いろいろその素質とか、環境とか、いろいろな事情を詳細に調べるわけでございます。これはあとで申し上げる機会があるかもしれませんけれ
ども、いわゆる
家庭裁判所における
調査というものは、非常に綿密にやっているわけでございます。これもちょっと触れておきますけれ
ども、いわゆる
家庭裁判所における不開始不処分、これは非常に名前が適正でないために、いかにも
裁判所が今度のこんな事件は持ってきて何になるかというようなふうなそういう印象を与える言葉でございますが、不開始不処分というのが、やはり
相当な
調査をし、
相当な手当をしている上の処分でございまして、決して事件が来たのを、そのままもうこれは審判を開始する必要がない、あるいは審判を開始しても、こんな事件はもう処分する必要はないといって簡単にやっているわけではないのでございまして、
相当に手当を経た上のものである。この不開始不処分の実体をよく理解していただきますと、必ずしも
検察庁に逆送する事件が少いことについての御不満は解消するのじゃないかと思います。たまにはいろいろありましょう。いずれにしましても地方
裁判所の刑事事件にしましても、
検察官が有罪であったのを無罪にする場合がありますし、また刑期にしても十年の刑期が二年になって
執行猶予になるということもありましていろいろ具体的な場合においてはまた不満の点もありますので、これについてはまたそのことについての何か救済の規定なり、あるいは法律の改正なりされるのはいいでしょうけれ
ども、必ずしも
意見が違ったからといって、いかにも
裁判所が甘い、野放しにするというようなそんな非難は私は当っていないのじゃないかと思います。この点は今私たちとしましても、不開始不処分という言葉の印象からくるそういうふうな気持を何とかなくする方法はないかどうかと思いまして、いろいろ考えていることもあります。しかしいずれにしましても、この内容はさようなことで決してなおざりにして、不開始不処分にしているのではないということを十分認識していただきたいと思います。
それで、この
少年犯罪の
対策としまして、いわゆる
保護処分優先主義について、そうするとどういうことを考慮したらいいかということでございますが、これには私列挙的に申し上げますと、審判の個別化、これには
少年係り
裁判官の専任制がほしい、これが現在
裁判官が少いのと、いろいろな点からしまして、
少年係りだけの
裁判官というのがないわけであります。刑事事件もやる、また地方
裁判所の民事事件もやるというのもあります。現在私の大分の
裁判所では、
少年係りの専門のは若い人がやっております。実はまだ
裁判官になって一年ばかりしかたっていない人が
少年係りの専任のなにであります。もう一人の人が
少年事件と家事の事件をやっております。私が家事の事件を半分やっております。この方は元検事だったのですが、判事に転換されて、非常に熱心な方でございます。実は私こちらへ出ましてからあと追っかけて書類を、作って送ってきたのですが、それも私加味して申し上げているわけでございます。非常に熱心な方で昨年まで検事だった人が、やはり私と非常に相類似した見解を持って、私はその人の考え方にむしろおんぶしたようなことを申し上げている次第でございまして、
少年係りと家事の事件をやっておられますけれ
ども、とにかく
少年事件について関心を持ってやっておられる人でございます。長い間検事の人ですけれ
ども、そういうことで私非常にうれしく思って一生懸命やってもらっているわけでございますが、そういうことでありまして、大分の方は幾らか
少年係り専任みたような人がおってやっておるものの、一人はそんな若い人でございまして、一人はもうやはり何か兼務的なこともやっているわけでございます。どうも
少年係りだけの専任の
裁判官が私やっぱりおった方がいいと、どうしても頭が、地方
裁判所をやったり、
家庭裁判所をやったりしますと、頭の切りかえがなかなかできない。そういうようなことからして、そういうのを私
ども確立して参りたい。
それから、先ほど申しましたように、
家庭裁判所の
調査官が非常に不足しておりますが、この増員がなかなかできないような
状態でございまして、これは地方へ行きますと、
家庭裁判所調査官というのは、本庁だけが甲号支部には少しおりますけれどほかの乙号支部なんかには全然いない。これもやはりぜひそういう
方面に置く必要があるということが言われておるわけであります。それから科学
調査室とか
少年鑑別所、こういうものももう少しいろいろ科学的
調査機構を充実してもらいたい。それから処遇の個別化ということが言われますけれ
ども、これは
保護処分の種別をもっと多くする。これは今の何では狭いので、これをもう少し広く、これは先ほどの法務省側の方から言われましたので省きます、それから
保護処分にしますと、これを取り消しとか変更ができないようになっておりますが、これも時と場合には取り消し変更をできるようにする。それから環境調整をするについて、もっと強く環境の
調査ができるような機構にするということ。これは簡単に申し上げます。
それからなお
保護観察をした場合に、在宅の場合があるわけでありますが、この在宅の場合にどうも
裁判所の決定と
執行とが非常に截然と分れすぎておりますために、ほんとうの
保護観察のプロベーション的な性格が薄くなっております。元来は
裁判所の
条件を付しておりますが、
条件に従わぬときにはいつでも
裁判所にもどして決定をなされるという約束の
もとに、
家庭とか
社会に本人を置いて処遇するというふうにしたのが、ほんとうのプロベーションでありますが、どうも現在の
保護観察では、本人が
条件に従わぬのでも、それは野放しにされているという例が多いのでございまして、どうも在宅の場合の
保護観察というものが十分にいきわたっていない。これをもう少し十分に徹底させるということが必要じゃないかと思います。それから専門の
保護観察官の増員、保穫観察所に行きますと、ほとんど
保護観察官という
方々は、仕事が忙がしいために、ほんとうの機能が発揮できとないで、もういわば事務をやっているような
保護司との間の連絡
機関みたいなことになってしまって、一向ほんとうの仕事ができていないように私思います。どうしても
保護観察官の増員というものが、私たち
家庭裁判所から見ますと必要じゃないかということを感じます。それから
保護司に対しましても、いろいろな人がありまして大人の成人の
保護司もやっているし、それから
少年の
保護司もやるというようなことになって、どうも
少年専門のやはり
保護司というのが必要じゃないか、こういうものを置いてもらいたい。それから
裁判所から順守すべき事項として参りました、そういうふうなことの順守事項違反の
少年に対する措置をなお一そう考えてもらいたい。それから
保護観察のための開放的な
家庭的な
施設を設置すること、これはイギリスなんかではプロベーション・ホームとかプロベーション・ホステルというような
家庭的な
施設を設けて、そこに
少年を置いて
保護観察が行われているそうであります。そういうものをやはり
日本でも考えたら、どうかということを考える次第でございます。
それから先ほどからも言っておりますが、いわゆる収容
保護の充実、これについてはやはりどうしても
少年院の増設と、それからその設備の
改善ということが言われるわけでございまして、どうも
少年院に行ってみますと、まあ、新しい
少年院は幾らかいいようでございますけれ
ども、何分やはり職員が少かったりなんかしまして、非常に苦心しておられるようでございます。こういう点についてなお考慮の余地がありはしないかということを私は考える次第でございます。
それから、これも先ほど法務省側の方が言われたと思いますが、いわゆる
非行少年の早期発見の
対策、これもやはり考えておくべきことじゃないかと思います。これについてはやはり
少年相談の充実強化、それから
少年警察の充実強化、それから十六才未満の
犯罪少年について
警察から
家庭裁判所へ直送してもらいたい。それから虞犯
少年に対する
警察の
調査とか身柄
保護については、やはり何か法的な根拠を持ってもらいたい。これはただ徳義的に
保護をしているような
関係でありますので、やはりこれにも法的な何か根拠を裏づけしてもらいたい。それから
非行少年に対する科学的な
調査研究
機関の具体的ないろいろな方策をいま少し考えてもらいたい。それから、やはり
少年非行の
原因を徹底的に研究
調査してもらう。これは現在法務省でそういうふうな
機関、研究所ができているようでございまして、こういうところでなおやっていただくことを私非常に好ましいことだと、かように存じます。それにつきましてやはり窃盗犯とか、
粗暴犯とか、
性犯罪とか、集団
犯罪の実体をよく
調査してもらう。それから審判のための
裁判予測表、こういうものを作って
参考にする。それから科学
調査室とか
少年鑑別所の充実強化、これは何度も申しましたが、こういうものが必要じゃないか、こういうことを私考えて箇条的に申し上げた次第でございます。
次に私に与えられました第二項目のいわゆる
少年法の改正問題、これは現在表面に出ているわけではなさそうでございますけれ
ども、非常にいろいろ新聞等で見ますし、また、いろいろな
方面からも耳に入ることがありますので申し上げますが、いわゆる
年令の問題でございます。これを大体において、私たちの聞くところによりますと、とにかく
少年法の
年令を十八才に引き下げるというような、そういうことと、それからうしろを二十三才まで引き上げる、こういうふうな
二つの考え方があるように承わっております。ところが、どうも十八才に引き下げるということは大体において、まあ、多数説じゃないように私は見受けます。ところが、二十三才に引き上げるというふうになりますと、これもまた今のような
施設、人的、物的の
施設におきまして二十三才に引き上げるということについては、私はやはり難色がある。やはり二十才でやっている今のところでよくないか。ただ二十三才に引き上げるということが、ただ十八才から二十三才までのものについては、いわゆる
保護主義にしないで、これをいわゆる
警察主義とか
検察官先議主義に改めようとする、そういう意図でありますならば、これまた私非常に賛成しがたいのでございます。そういうふうなことではないと思います。
それからいわゆる
先議権の問題、これも現在法務省でそういう主張をしておられるわけではありますまいけれ
ども、そういうふうな話もちょいちょい聞きます。そういうふうな疑問もありますので、御
参考に私の考えだけ申し上げておきたいと思います。結論から言いますと、私、
先議権もこれはいけないということなんでございますが、とにかく
保護主義をとります以上は、
保護処分を決定する
機関が、やはり
保護処分か
刑事処分かにふるい分けるというのが、これが
保護処分であります。
保護処分をとりながら
検察官に
先議権を認めるということになりますと、非常に
保護処分というのは有名無実になってしまうんじゃないか。これはまあ
外国のいろんな実例も私
相当調べてきましたけれ
ども、そのことは省くといたしまして、とにかく
検察官の方でも最近
少年の
検察について科学化を唱えられておるようでございます。そして、一部の人にはやはり
先議権を有する方が、
少年事件を科学的に処理することができるというようなことでありますが、これはまあ
検察の科学化というものも私は非常にこれはけっこうなことでありますけれ
ども、
保護処分の権限を持っておらない
検察側において、
家庭裁判所同様の科学的
調査機構というものを設けられるとしますと、やはり
少年とか
関係人に対していろいろな徹底的な人格
調査というものを行うわけでございます。これは先ほど不開始不処分の
関係で申しましたように、いろんな点を
調査するわけなんでございます。これは、そういうことが果して
検察庁の機構においてやられるのがいいのかどうか。一面から言いますと、人権保障の点から見て
一つの問題が出はしないかということも憂えられるわけであります。しかも、
少年保護機構というものを非常に何か複雑化したようなことになりましていわゆる
保護の一貫性というものが欠けてくる、やはり適当でないというようなことを私考えておる次第でございまして、
家庭裁判所としましては、やはり
検察官が非常に
少年事件に関心を払われてきたことに対して私非常に感謝するわけでございますけれ
ども、それがゆえに
家庭裁判所のやったようなことをなさることになった場合口のことを考えますと、そこにいろいろ考えるべき点が出てくるんじゃないかということを考えるわけでございまして、この点一考を要するんじゃないかと思います。
それから、
検察官の
少年審判手続に関与する
制度を設けてはどうかというふうなこともあります。これは先ほど岐阜の検事正の方が言われましたように、何も権利とかなんとか、そういうふうなかた苦しいものでなくてもいいというふうなことを言われましたが、これについてああいうふうな考え方でございますなら、私もちろん賛同してもいいんじゃないかと思います。しかし、岐阜の検事正の言われるようなことばかりでもないようなことを言う人がやはりかなりあるのでございまして、このことについては、やはり私も一言申し上げておきたいと思います。というのは、
少年事件について
保護処分をとります以上は、
検察官に
先議権を認めてはいかぬということは今まで申しましたが、他方、この
検察官が
治安の維持の責任者として公益を代表する地位にあることは、これは無視できないわけでございます。それでありまして、
検察官をどの
程度まで審判手続に関与させたらいいのか、これは非常に問題であります。大体が
少年審判の形が先ほ
ども言われましたように、
裁判かどうかえたいの知れぬものだというふうな、そういうふうなことが言われます。とにかく
少年審判というのが密行主義で、とにかく非形式的なもので、また非刑事性、非対立性と、こういうふうに、すべて普通の刑事
裁判とは違った形を強調しているわけでございまして、結局
検察官は事件を
裁判所に送ってしまったら、あとはもうお手上げというようなことになっているようなこういう形は、
検察側といたしましては、なるほど何とか
裁判所に対してのある何かがなければいかぬと思われるのは、これは無理からぬことだと思います。それは、私が
検察庁の側に立っても、そういうことは考える次第でございまして、この点については、何らかやはり検討する必要があることは、私も認めねばならぬだろうと思います。
まあ、とにかく、そういうふうなことでございまして、いろいろ検討すべき点はありますけれ
ども、いずれにしましても、
家庭裁判所が
保護主義をとっている現在の根本に触れることの改正には、これはよほど慎重に考えていただかぬと、かえって角をためて牛を殺すというような、そういうふうな結果を必ず来たすのじゃないかと思いましてその点、今後、立法上の問題が起りました場合には、十分の御検討を
お願い申し上げて、私の陳述を終ることにいたします。