○佐藤尚武君 本日の
委員会の冒頭において、
総理が先般の
外遊に関しての
報告をされたのでありますが、このたびの
外遊に関しては、世間でいろいろな批評がありましてかけ足旅行であるとか、実績が上がらなかったとかいうような批判があることは御
承知の
通りであります。しかし私は、これは何も
政府に対して太鼓をたたく
意味で申し上げるのでも何でもありませんけれども、私は、一国の責任者が、いや
日本の責任者が、
機会をとらえて
外国に出かけていって、そして
各国の首脳者と
会談し、意思の疎通をはかるというようなことは、きわめて望ましいことであって、今までそういうことがあまり行なわれなかったということが、むしろ不思議なくらいに感じます。今後も
総理なり
外務大臣なりが、
機会があり、かつまた時間が許せば、ぜひ出かけていかれることを私は
希望するものでありますし、単にこれら両大臣に限らず、特定の問題に関しては閣僚諸君が特定の国に出かけて行かれるということも、これも望ましいことだと思うのであります。ただ、その場合に、閣僚が
外国に行って勝手気ままに国家の
根本方針について論議してくるというようなことは、これは絶対に慎しまなければならぬことだと思うのでありまするが、ややもするというと、そういう気配が見受けられることは、われわれとしては注意しなければならぬことであると思うのであります。私は、口を開けば
国際共産主義の危険について話をするので、本日もまた佐藤が
世界赤化の問題についてしゃべるのだということになって、一部の批判を受けるかと思いまするけれども、これは幾ら口をすくしてしゃべっても足りないと私は思うぐらい、
日本国民はその点に関する理解を欠いておると思うのであります。先般ニクソン副
大統領がソビエトを
訪問され、そしてあれだけの歓待を受け、
米ソ両国とも、その結果については大いに満足を表しておるようでありまするが、そのニクソン副
大統領が発表した最終の声明、つまり、ソビエトを離れるに当っての声明の中にも、はっきり彼は言っておる。ソ連は力をもって
共産主義を押し広げようとするならば、アメリカは絶対にこれを承認することはできないということを言っております。あれだけの歓迎を受けてなおかつニクソンとしてはそれだけのくぎを打っておかなければならないと
考えたところに、私は非常な重要さを見出すのでありまして、決してこれは看過することのできない問題だと思うのであります。きょうは羽生
委員は
中立問題には触れられなかったのでありまするけれども、
安保条約改定反対、あるいは
根本的に解消する、ないしは
日本の
性格としては
中立でなければいけないんだというそういう
考え方、これは
日本を侵すものがないという前提に立って初めてそういう
意見が出てくるのであって、そういう点において安心を得ることができない
国際情勢であるとするならば、私は、
日本が無防備で、かつまた
安保条約を廃止してしまって米軍を撤退せしめて、そしてこの国が安全であるというように確信することは、だれにとってもできない相談だと思うのであります。ソビエトが
戦争の末期において、あるいは戦後において、隣邦
諸国を赤化して回ったということは、これは明らかな事実である。いや、もう
国際共産主義などというものは古いんだ、ああいうやり方はもうソビエトとしてはとらないんだというようなことをちらほら聞きます。しかし、それだけでもってわれわれは安心するということはとうていできない相談であって実績をもって
国際共産主義は放棄したんだと旧いうことを示してもらわなければならない。そういう実績が上がったとするならば、この佐藤、率先してソビエトに対しての
安心感を表明することができるのでありますけれども、
一つも実績は上がっていない。いや、その反対に、かえって
国際共産主義をどこまでも進めていくんだという反対の証拠だけがわれわれの目につくのであります。三年前のハンガリアに対してのあの強圧的な干渉、ハンガリアの青年が、
共産主義の
体制から脱出して自由を回復しようとするあれだけの愛国的な暴動を起した。それに対して、ソビエトは膨大な戦車隊を送って、そして青年たちをみな殺しにしてしまったことは、明らかな事実であります。もし、ほんとうに
国際共産主義なんていうものはもうソビエトはとらないんだ、
戦争中、なるほどハンガリアならハンガリアは赤化してしまったけれども、もし、その国の青年たちがほんとうに自由を回復したいという強い念願があるならば、それはおやりなさい、自分たちは一切干渉しないといって、超然としてハンガリア国内の事件の
発展を待っていたというようなことであるならば、なるほどソビエトの
態度は
根本的に変ったということが実証されたはずのものでありまして、
世界自由国家群は、その瞬間に大きな
安心感を得たでありましょう。そうなってこそ、初めてこの冷戦というものが解消されるのでありまするけれども、実際はそうでなく、やはりハンガリアは赤化されたハンガリアとして残していくんだという、そういうソビエトの心底が、あの一挙でもって明らかにされてしまったのである。一ハンガリアにとどまりません。最近のチベットのできごと、これも同じ
考え方から出ておる。昨今の新聞報道やラジオ放送などを聞いてみまするというと、インドに中共軍が侵入しておる。本日の報道によりますると、クリシュナ・メノン国防相が辞表を提出したということであり、それがネール
首相の内閣の瓦解にもならんとするようなことに聞いております。つまり、クリシュナ・メノンのとった
中立政策—このメノンという人はネールの片腕と称せられており、また、
中立政策の第一の首唱者である模様でありまするが、その
中立政策なるものに大きな破綻を来たしたということ、その問題などを
考えてみまするというと、一連の昔からとってきた流れというものが、自然今日も続いていると見なければならないのである。それはそうでない、
国際共産主義なんというのはもう古くさいもので、ソビエトもそれは放棄したんだというように、ただ実績も見ないで
安心感を持ってしまうということ、これは私は実に危険千万な
考え方であると思うのであります。そういったようなあやふやな
安心感をもとにして
中立政策をとるということに対しましては、私は絶対に賛同することができないと申し上げるほかないのであります。もしそうでないとするならば、
日本の必要に基いて締結した
安全保障条約というものは、
根本的にいいまして、どうしてもこれを存続していかなければならぬということになるのは、当然の話でなければならぬと思うのであります。
安全保障条約の改定ということがいいか悪いかについては、私は内容について論議しようとは思いません。というのは、改定というからには
安全保障条約がなお存続するというのが建前であるからであります。存続するということは、どこまでも
日本に必要があればこそ存続するのであります。であるからして、存続ということが土台になって、そうして不都合な点があってそれを改定するんだということであるならば、私はあえて反対するものではございません。社会党その他の改定反対ということは、改定された
安全保障条約でもこれだけの欠点があるんだ、あるいは危険が伴うということを指摘するのみにとどまっておって、しからば
安全保障条約の存続には賛成かというならば、おそらく社会党はそうでなく、問題の
根本は、
安全保障条約の解消にあると思うのであります。何となれば、
政府が改定の
交渉を引っ込めた——そういうことは実際おやりにならぬだろうと思いますけれども、引っ込めてしまって、そうして昔の
安保条約はそのまま存続していくんだということになったならば、それには社会党は反対しないというわけのものではなくて、社会党の
主張されるところは、
根本的に
安全保障条約をなくしてしまうということであろうと思うのであり、すなわち、それは間違った安全感に基いた処置であると私は言わざるを得ないのであります。かるがゆえに、
政府が現在とっておられる
方針、つまり、
安全保障条約というものをどこまでも続けていくんだというものを
根本的な
方針というものに対して、私は満腔の賛意を表せざるを得ないものであり、また、ぜひそういうふうにやっていただきたいということを申し上げるのであります。私は、ソビエトなり中共なりからする強圧、脅威というものに対して、非常に
日本の
立場から言ってこれを憂慮するものでありますが、たとえば中共のごとき、昨年中共に行った民間の使節団が、
通商協定の草案を、あちらの人たちと相談して帰ってきた。ところが
政府はこれを認めなかった。あるいは長崎の国旗事件に対して
政府は陳謝をすることをがえんじなかったといったようなことがありましたが、それに対して中共はどんな
態度をとったかと申しますならば、徹底的に
日本に対して重圧を加える
態度をとりまして、その一例としては、中共
政府が
日本の民間諸団体と締結しておった民間の
通商契約などを、一方的におかまいもなくこれを破棄してしまった。そうして民間の企業者たちは、何ら中共から賠償をとることも何にもできなくて、泣き寝入りになってしまった。つまり自分の
目的達成のためには手段を選ばない。どんな強圧な手段でもかまわずとるというのが中共のやり方であり、これはまさにソ連圏、ソ連そのもののやり方であると私は言わざるを得ないのであります。
もし
日本がこの
安保条約を解消してしまって、そうして米国側からする
協力、
援助を
廃棄してしまったとするならば、憲法九条に基くまる腰の
日本が残るだけでありまして、ソ連圏ないしは中共側から重圧が加わったときに、どうしてこれを突っ返すことができるか。自分で好んでいわば突っかい棒をはずしてしまうことになるのでございまして、突っかい棒のなくなった
日本というものは、実にみじめな状態に置かれるに相違はございません。いや、そういうことはソビエトなり中共なりはやらないんだ、
日本が
安保条約を解消し、
中立さえ守っていくならば、彼らは
日本に対して強圧を加えることはないんだという、そういったような前提でもって
安保条約を解消するなどというようなことは、これは責任のある内閣、それは岸内閣だけでなくて、保守糸の内閣であるならば、どの内閣でもそういう責任はとることはできないというように私は痛切に感ずるものであります。
現在の中共ないしはソ連においてすでにその
通りである。しかもソ連においては、東部シベリアに非常な力を用いてきているように見えます。私はきわめて貧弱な報道きりしか持っておりませんから、はっきりしたことを申し上げる段取りにはなっておりませんけれども、イルクーツクのわきを流れるアンガラ河をせきとめて、人工的な膨大な湖を作ろうとしている模様であります。すでにその工事はどんどん進められておる。あるいはバイカル湖以上の大きな湖ができるのだとさえも伝えられている。それから出る電力というものは、おそらく何百万キロワット、とても
日本の最大のダムなどというようなものとは比較にならぬほど強大なダムがあそこにできる。その何百万キロワットの電力を利用してそしてあの辺には地下資源が豊富にありまするから、これを
開発していく。いや、そのために
日本に対していろいろな工作機械などの注文が、おそらくそのうちにはくるんじぁなかろうかと思うのでありますが、
日本の業者は、あるいは注文さえ受け取ればいいんだ、こういう気持でもって、ソビエト様々で契約を結んだり何かするかもしれませんけれども、これには
政府としては十分な注意を払われる必要があろうかと思うのであります。というのは、単なるそれが
通商上の私的契約であるならば、それはまず問題はなかろうかと思いますけれども、どんな条件がついてくるかはわからない。業者は注文がほしいがために、その付帯条件などは、ほとんど注意を払わないでもって、易々諾々、これを承諾してしまうというようなことがないとは限らない。そしてあとになってほぞをかむというようなことであっては、私は
日本としては非常な危険な場面に追い込まれるということになるだろうと思うのでありまするがゆえに、十分に
政府としてはそういった注意をされると同時に、その東部シベリア
開発に関しましての適確な情報を集められるということに、私は
政府としてはできるだけの力を注ぐようにしていただきたいということをお願いせざるを得ません。また国会側におきましても、国会図書館にはそれぞれの
調査立法機関もあるようでありまするからしてこれらを活用して、そしてその方面の情報を集めるということも、これは当然われわれの義務としてやらなければならぬことかと思うのでありまするけれども、しかし、何と申しましても、そういうような
情勢を適確に
調査するということは、
政府が率先しておやりにならなければならぬことであろうと思います。
人民公社が果してどれだけの成績をあげるか、われわれとしてはこれはまだ未知数でありまして、もうすでに幾ばくかの破綻が生じつつあるかのような報道もありまするけれども、一たんやり出したことであるとするならば、中共
政府はどこまでもこれを推進していくだろうと思うのであります。
個人個人の犠牲はかまわずに、所期の
目的達成に全力を尽すのではなかろうかと思うのであります、五年もたたないうちに。私は、そういう点からいいますれば、中共というものは、
日本に対しておそろしい国になるということを、非常に憂慮するものであります。軍事力の点においても、これは膨大な常備軍を持つというくらいのことは、中共としてはでき得ないことじゃございません。また
経済力におきましても、
国民は貧乏であっても、
政府の力はうんと伸びていくというようなことが
考えられる。そういう場合に、
日本がもしこの
安保条約などをなくしてしまって、そして赤子のような状態でもってそこに転がっておるとしたならば、どういう重圧を
日本に加えてくるかわからない。そういうことも予見して、そして
政府は適当な
政策をお立てにならなければならぬというように私は痛感させられるのでございます。
先ほど来、
総理はもうすでに
井上委員の質問に対しましてかなり明瞭にお答えになりましたけれども、今私の申し述べました事柄に対しましても、いま一応
政府のお
考えをお聞きすることができれば幸いでございます。
つけ加えてもう一点お尋ねいたしておきたいと思いまするのは、
ガットの問題でございます。いや、先ほどの
欧州の今度新しくできる六カ国の間の特別な協定によりましての、自由市場の問題でありまするが、これは先ほどの御説明では、
欧州の首脳者たちは、
日本に対しても差別待遇を与えるというようなことは
考えていないという証言を取られたという御説明でありました。しかし私は、それは口の上では言えるかもしませんけれども、実際においてはできない相談ではなかろうか。と思うのは、自由市場と言うからには、それに加盟した国の間では
お互いに
貿易は自由であり、そして通関の際の関税は免除される。
日本なら
日本から、その市場、その
国々に対して輸出をするというときには、当然関税がかけられるというのでありますれば、差別待遇をしないということを言うのが、すでに私は根拠のないことを言っているのじゃなかろうか、事実に反することを言っているのじゃなかろうかという危惧を持つのでありますが、ちょうどこの十月の半ばごろから、
日本に
ガットの総会が開催されるということでありまするし、今の
ヨーロッパの自由
通商圏の問題も当然問題とされることであろうかと思うのでありまするし、また、
ガット三十五条の差別待遇の問題、これも先ほどお触れになりましたが、これに対して、今度の総会を機として、できるだけ
日本の
主張を通すように、
日本側としては
努力をされる必要がむろんあるのでありまするし、
政府としてもすでにその準備をされていることと思いまするけれども、これらに関しましての
政府の御所見を伺うことができれば幸いでございます。