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1959-07-02 第32回国会 衆議院 予算委員会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    国会召集日昭和三十四年六月二十二日)(午 前零時現在)における本委員は次の通りである。    理事 植木庚子郎君 理事 小川 半次君    理事 重政 誠之君 理事 西村 直己君    理事 野田 卯一君 理事 井手 以誠君    理事 小平  忠君 理事 田中織之進君       井出一太郎君    内田 常雄君       小澤佐重喜君    大平 正芳君       岡本  茂君    川崎 秀二君       上林榮吉君    北澤 直吉君       北村徳太郎君    久野 忠治君       小坂善太郎君    篠田 弘作君       周東 英雄君    田中伊三次君       田村  元君    綱島 正興君       床次 徳二君    橋本 龍伍君       船田  中君    古井 喜實君       保利  茂君    三浦 一雄君       水田三喜男君    八木 一郎君       山口六郎次君    山崎  巖君     早稻田柳右エ門君    阿部 五郎君       淡谷 悠藏君    石村 英雄君       今澄  勇君    岡  良一君       岡田 春夫君    加藤 勘十君       北山 愛郎君    黒田 寿男君       小松  幹君    佐々木良作君       島上善五郎君    楯 兼次郎君       成田 知巳君    西村 榮一君     ――――――――――――― 六月三十日  小川半次君が議院において、委員長補欠選任  された。     ――――――――――――― 昭和三十四年七月二日(木曜日)     午前十時五十二分開議  出席委員    委員長 小川 半次君    理事 上林榮吉君 理事 北澤 直吉君    理事 櫻内 義雄君 理事 西村 直己君    理事 野田 卯一君 理事 井手 以誠君    理事 小平  忠君 理事 田中織之進君       青木  正君    井出一太郎君       岡本  茂君    北村徳太郎君       久野 忠治君    倉石 忠雄君       小坂善太郎君    篠田 弘作君       周東 英雄君    田中伊三次君       田村  元君    床次 徳二君       橋本 龍伍君    古井 喜實君       保利  茂君    八木 一郎君       山口六郎次君    山崎  巖君       阿部 五郎君    淡谷 悠藏君       岡  良一君    加藤 勘十君       北山 愛郎君    黒田 寿男君       小松  幹君    佐々木良作君       島上善五郎君    楯 兼次郎君       成田 知巳君    西村 榮一君       三宅 正一君    森島 守人君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         法 務 大 臣 井野 碩哉君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君         文 部 大 臣 松田竹千代君         厚 生 大 臣 渡邊 良夫君         農 林 大 臣 福田 赳夫君         通商産業大臣  池田 勇人君         運 輸 大 臣 楢橋  渡君         労 働 大 臣 松野 頼三君         建 設 大 臣 村上  勇君         国 務 大 臣 赤城 宗徳君         国 務 大 臣 石原幹市郎君         国 務 大 臣 菅野和太郎君  出席政府委員         内閣官房長官 松本 俊一君         法制局長官   林  修三君         総理府総務長官 福田 篤泰君  委員外出席者         公正取引委員会         委員      高坂 正雄君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君         専  門  員 岡林 清英君     ――――――――――――― 六月二十二日  委員久野忠治辞任につき、その補欠として福  永健司君が議長指名委員選任された。 同日  委員福永健司辞任につき、その補欠として久  野忠治君が議長指名委員選任された。 同月二十三日  委員久野忠治辞任につき、その補欠として増  田甲子七君が議長指名委員選任された。 同日  委員増田甲子七君辞任につき、その補欠として  久野忠治君が議長指名委員選任された。 同月三十日  委員植木庚子郎君、内田常雄君、小澤佐重喜君  及び大平正芳辞任につき、その補欠として青  木正君、山本猛夫君、松浦周太郎君及び西村英  一君が議長指名委員選任された。 七月一日  委員西村英一辞任につき、その補欠として倉  石忠雄君が議長指名委員選任された。     ――――――――――――― 同月二日  委員重政誠之君、石村英雄君及び今澄勇辞任  につき、その補欠として櫻内義雄君、森島守人  君及び三宅正一君が議長指名委員選任さ  れた。 同日  委員三宅正一君及び森島守人辞任につき、そ  の補欠として今澄勇君及び石村英雄君が議長の  指名委員選任された。 同日  理事小川半次君六月三十日委員長就任につき、  その補欠として上林榮吉君が理事に当選した。 同日  理事植木庚子郎君六月三十日委員辞任につき、  その補欠として北澤直吉君が理事に当選した。 同日  理事重政誠之君同日委員辞任につき、その補欠  として櫻内義雄君が理事に当選した。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  理事の互選  国政調査承認要求に関する件  予算実施状況に関する件  閉会中審査に関する件      ――――◇―――――
  2. 小川半次

    小川委員長 これより会議を開きます。  この際一言ごあいさつを申し上げます。  不肖私、このたびはからずも予算委員長選任せられましてその重責をになうことに相なりました。まことにふなれな者でございますが、今後ひとえに各位の御協力と御理解とによりまして委員会の円満なる運営に努め、大過なきを期して参りたいと存じます何とぞよろしくお願い申し上げます(拍手)     ―――――――――――――
  3. 小川半次

    小川委員長 この際お諮りいたします。  委員の異動によります理事欠員二名並びに私の委員長就任に伴う欠員一名、計三名の理事欠員となっておりますので、これより理事補欠選任を行いたいと存じますが、これは先例によりまして委員長において指名するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 小川半次

    小川委員長 御異議なしと認めます。  よって       上林榮吉君    北澤 直吉君       櫻内 義雄君 を理事指名いたします。     ―――――――――――――
  5. 小川半次

    小川委員長 次にお諮りいたします。  予算実施状況に関する件につきまして、議長に対し国政調査承認を求めたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 小川半次

    小川委員長 御異議なければ、委員長において直ちに所要の手続をとることといたします。   暫時休憩いたします。     午前十時五十四分休憩      ――――◇―――――   午前五十五分開議
  7. 小川半次

    小川委員長 休憩前に引き続き、会議を開きます。  予算実施状況につきまして調査を進めます。発言の通告がありますので順次これを許します。加藤勘十君。
  8. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 私は、主として安保条約改定交渉進行情勢等について、政府のこれに関する状況の概要なり、条約の案文の内容なりというものについてお尋ねをいたしたいと思います。  岸総理大臣は、去る六月二十五日の衆参両院の本会議におきまして所信表明をなさいました。その際、岸総理安保条約改定基本方針として、国連憲章との関係を明確にすること、日米両国間の経済上の協力を促進すること、米国の日本防衛の義務を明らかにすること、条約運営におけるわが国の発言権を確立すること、この四つの眼目を中心として交渉を進め、交渉は順調に進行している、こういうことをお述べになっております。また、これに先だつこと一ヵ月、五月二十五日には、藤山外務大臣は、安保条約問題全国懇話会の席上において、経過の模様並びに改定案内容の概略について述べておられます。その後各大新聞には条約の草案らしいものが何回か報道されております。これによって、われわれは条約改定意図並びに内容のあらましについては知ることができましたが、なおたくさんの疑問の点がございますし、衆参両院の本会議の議場においてはわが党の同志から質疑が発せられておりますが、これに対する総理並びに外務大臣の答弁は、われわれにとってはきわめて不満足なものであり、とうてい納得することができないものでございますから、私はあらためて、本会議等では時間の関係等に制約されて突っ込むことのできなかったいろいろな点について、さらに政府所信をただしたいと思います。  この問題は、言うまでもなく、一つ条約によって日本の国の性格が規定されてしまう、また、この条約内容のいかんによりましては、国の運命を左右する重大な内容を持っている条約でございまするから、私は、この国会を通じて全国民が十分に納得するまで論議を尽して、国民をして十分納得せしむるように政府においても慎重に態度を考慮されて、私の質問に対してもそのつもりで答えていただきたいと思います。  現在の日米安保条約が、形式がどのようでありましても、その実際はまるでおとなが赤ん坊の手をねじり上げるように、有無を言わさずほとんど一方的なアメリカの意思だけが押しつけられて結ばれたものであるというような感じを、どうしても受けないわけにはいかなかった。このことが、私は政府をしても今日不平等と思われる、非常な不合理と思われるような現条約改定せしむるという意図を持たするに至ったものであると思うのであります。体裁は、なるほど軍国主義から日本の安全を守るという口実はつけられておりますけれども、われわれから見れば、アメリカ占領軍をどうして日本に駐留せしめるか。本来ならば平和条約効力発生と同時に、九十日間には占領軍を撤退しなければならぬ。そういうことになったのでは、アメリカ世界戦略の一環としての太平洋戦略というものにそごを来たすから、アメリカ太平洋戦略を保持する上からいって日本に軍隊を駐留せしめなければならない。その駐留の口実日米安保条約に求めたものである、われわれはそう理解しておるのであります。従ってこの安保条約締結されたそもそもの初めから、われわれはこのような不自然な不合理な条約は、いつかの日には当然なくされなければならないという考えを持ってきたものでありますが、今回政府はなくするという方向ではなくして、これの内容を改めようという方向に持っていかれたようでありますが、一九五一年の現行安保条約締結された当時と一九五九年の今日と、国際情勢に非常に大きな変化があり、日本主体的条件の上にも著しい変化が見られております今日においては、日本日本安全保障の道、独立権威を保持する道をどこに求むべきかということは、私は全く何ものにもとらわれない白紙の立場において日本独自の判断において国際間の情勢を見合いつつ決定するのが、本来の日本の安全を求むる道でないかと思うのであります。それを政府は現在ある非常に不合理な変則的な安全保障条約そのものを前提として、この上に立って、これを改めることによって日本安全保障の道を求められようとしておるようであります。  ことに岸総理は、先般の所信表明において、この安全保障条約があったればこそ、日本は平和に国の再建をはかることができた、こういうような認識を持たれておるようでありまして、こういう認識はどこから生まれてきたかわれわれには理解することができませんけれども、ほんとうに虚心に日本国際間における立場というものを考えるならば、私はこういう岸総理考え方は生まれてこないと思うのです。これはあるいは認識の相違ということで、岸総理はそれは全然別だということに言われるかもしれませんけれども、しかしながらわれわれとしましては、こういう点に第一の国民的な疑義が存しておると思うわけです。従って岸総理は何を根拠として、この条約のために日本が平和的に経済再建、国の再建がはかられたか、この根拠をまず第一に明らかにしていただきたいと思います。
  9. 岸信介

    岸国務大臣 日本が長年の占領下からようやく政治的の独立を獲得して、いわゆるサンフランシスコ平和条約締結によりまして、日本の政治的な独立が回復され、従って占領という事態に終止符を打ったのでございます。しかし当時もまた現在もそうでありますが、国際情勢はなかなかきびしい状態でございまして、いわゆる東西陣営が対立し、その間においての緊張が、いろいろな努力が続けられておるにかかわらずなお緩和されないという状況であり、一方世界の平和、安全保障を目ざして崇高な精神のもとに国際連合が作られ、だんだんとその機能を拡充して参っておりますけれども、しかしながら現在なおこの国際連合に一切をまかして世界の平和なり安全が確保されるというにはほど遠いというごの現状に即しましていかにして日本の安全を保障していくかという問題は、平和条約締結の当時にも非常な問題であり、また現在もなお依然として同様な私は重要な問題であると考えるのであります。そうしてこの平和条件締結後の日本は御承知通り一切の防衛力というものを持たず、従って日本の安全をどうして保障するかということについてはアメリカの力によって、これに信頼して、そうして日本の安全を保障するほかないという当時の事情から現行安保条約締結されたことは、御承知通りであります。その意図が、今加藤君の御議論にもありましたように、アメリカがただ単に占領下の進駐軍を撤退することを防ぐためにこういうものを一方的に押しつけた、こういうような見方だけで当時の事情を私は説明することはできないと思います。これはやはり日本がそういう防衛の全然空白になる状況を、日本の安全を保障するために、米軍の力によって補って、そうして安全を保障するという体制をとられたものであると私は信じております。しこうして第二次大戦後の世界各地におけるところの情勢というものを見ますると、いわゆる全然空白な、防衛の能力を全然持たない、あるいはそれが非常な薄弱な点に向って、その後いろいろな動乱が起ったことは、すでに加藤君も御承知であろうと思います。あるいは朝鮮動乱の問題を見ましても、あるいはまた東欧におけるところのいろいろな事態を見ましても、そういう全然防衛力を持たぬとか防衛力が非常に薄弱なところへ向って、いろいろな擾乱が起ったという事実を見ましても私は日本におけるところのこうした安全保障体制がとられたことが、われわれ過去十年間を顧みて、われわれが安全に平和のうちに再建を行なってきた一つの大きな力であったという事実は、私はこれは否認することができない。またそういう意味において過去においての安保条約日本の平和に寄与したその寄与は率直に認めておるものであります。ただ加藤君の御質問のうちにもありましたように、あるいは加藤君の御意見にあったようなことを想像せしむるように、あるいはそれを裏づけするがごときこの条約内容、規定その他が非常にアメリカ一方的であることは、その後において日本自衛力を漸増してき、また独立を回復し、自主的な立場日本の安全を考えていくという、この独立国としての当然の欲求からみますと非常に不満であり、また国民としてとうてい納得できないということから、この改定の問題が数年来国民の間にそういう要望があり、またそれに基いて政府アメリカ側と今日まで交渉して参った、こういうことでございます。
  10. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 ただいまの岸総理お答えは、岸総理立場においては理解することができます。一昨年総理アメリカを訪問されまして、アイゼンハワー大統領共同コミュニケを発表されておる。その共同コミュニケの中にもはっきりと現われておることは、国際共産主義が依然として大きな脅威である、こういうことについての意見が一致したということが述べられております。それからそのコミュニケの中には大統領言葉として、日本が生きるためには貿易をしなければならないうことを認めつつも、国際共産主義の拡大により、自由諸国独立を脅かしている諸国に対する戦略物資の輸出を統制する必要が引き続き存在することを強調した。これに対して総理大臣は、他の自由諸国との協力のもとにそのような統制を行う必要があることに同意しつつも、日本はその貿易を増大する必要があることを指摘した、こういう言葉があるのでありまして、今お答えになりました点と、この共同コミュニケ意図するものとをかれこれ総合して考えてみますれば、岸総理胸中にも、またアメリカを代表するアイゼンハワー大統領胸中にも、国際不安の原因国際共産主義脅威にある、こういうように信じ込んでおられることがうかがわれるのであります。しかし、われわれがサンフランシスコ条約締結以後における国際的な動きを見ますときに、なるほど極東においては朝鮮の問題が起り、あるいは南北ベトナムの問題が起り等しまして、それぞれ不安を感ぜしむるものが、ございましたが、しかしながら中近東における、もしくはヨーロッパにおけるそれぞれのそのときどきに起った問題等について見ますれば、いかに共産主義陣営国々といえども、武力に訴える戦・争の脅威をみずから取り除くということにいわゆる自由主義陣営国々といわれておる西欧諸国国々と同様に、平和のために努力しておるかということは、具体的に現われた事実として認めないわけにはいかないと思います。なぜひとり極東において朝鮮の問題が起り、ベトナムの問題が起ったか。これは私は国際共産主義脅威というよりは、その国における本質的なその国固有原因があのような事態を生ましめたものであって、だからというてこれが国際共産主義戦争への脅威である、こういうように見るということは非常な独断的なきらいがあると思うのですけれども、この点に対しては総理はどのようにお考えになっておりますか。
  11. 岸信介

    岸国務大臣 国際共産主義脅威の問題に関しましては、なるほど中近東やあるいは東欧におけるところの問題につきまして、東西西陣営とも、また国際連合そのものが相当な活躍をして平和的にこれを処理し、また最悪の事態を生ぜしめないようにあらゆる努力がせられたことは当然であると思う。しかしそれにもかかわらず、あるいはハンガリ、の問題にいたしましても、当時の世界のいろいろな常識ある人々の関心を引いたことは、当時のソ連のハンガリーに対してとったところの手段や方策というものに対しては相当な批判があったことも御承知通りであります。また今日においてそうした外部的に現実に兵力を用いるとか、あるいは血を流すような事態は、一時的に全世界におきましても今日のところはございませんけれども、しかしながら日本自体のことを考えてみましても、いろいろな点においていわゆる平和的な攻勢と申しますか、冷戦というか、これは相当に行われておるのでありまして、いろいろな国内におけるところの治安問題に関連しての国際的共産主義の背後における動きというものは、物心両方面において政府としては相当な関心を持ってその事態をわれわれは監視し、そうしてその日本自体の安全と、それから日本自体のわれわれが真の民主主義を擁護するために、われわれとしては全力をあげておる、こういうことから見ましても、私は依然としていわゆる国際共産主義脅威という言葉で示しておる動きというものは、決して減殺していない、かように考えておるのであります。
  12. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 今日の世界情勢が、いわゆる自由主義陣営と相対立するソビエト圏すなわち共産主義陣営二つ勢力に分立しておることは争われ、ない事実であります。またこれは人類にとっては非常な不幸なことであると言わなければなりませんが、しかしもし一方が共産主義脅威を説くならば、他の一方が資本主義帝国主義脅威を説くでありましょう。そうすればいつまでたってもこの両者の最終的な、それこそ死闘を決しなければ解決をしない、こういう道以外に残されないことになってしまうと思うのであります。今日の自由主義陣営の諸君は、日ごろいや階級闘争はいけないとか、いろいろ闘争を否定されるようなことをいっておるが、共産主義脅威を説かれることは、共産主義との決戦を意図しておるものでないか。ただそれを武力によって不安定の中に安定を求めようとしておるのではないか。一たび武力の均衡が破れたならば、世界は一大戦禍に見舞われてしまうという論理上の結論になると思うのであります。そういうことであっては、われわれはならないと思います。  今日、なるほど世界はいわゆる自由主義陣営共産主義陣営二つに分れておる。しかも一方の陣営世界総人口の上から言うならば、ほとんど三分の一の勢力を占めておる。一方の完全に資本主義陣営帝国主義陣営に属すると思われるものは、また世界の三分の一くらいである。他の三分の一近くのものは、いずれの陣営にも属さない言ってみれば中立的な態度であって、時の大きな力のために動揺は受けておるにしましても、その国々としては、おそらくはいずれの陣営からも動揺を受けないような、不安を感じせしめられないようなきぜんたる立場をとっていきたいと念願しておる国々だと思うのです。日本戦争末期のあの占領状態から、知らず知らずの間にいわゆる自由主義陣営にみずから身を投じてしまって、当然他の対立する一方の勢力と敵対的な立場に立たなければならぬことになってしまったと思うのでありますが、これは私は日本にとって非常に不幸なことでるり、日本の不安がいつまでたっても解消しないゆえんだと思うのです。今日まで日本をいわゆる自由主義陣営に縛りつけきてたことは日米安保条約の存在が非常に大きな力をなしておると思います。岸総理は、この条約があることによって日本の平和的な国家の再建ができたと言われますけれども、われわれから見るならばこの条約があるために、日本が当然もっと自由に、国際的に働かなければならない、その制約を受けておるということがはっきり言えると思うのであります。こういう点において、われわれはもっとほんとうに掘り下げて、とらわれない立場議論をしてみたい。けれども今は何といっても岸内閣自由主義陣営にとらわれてしまっている。だから当然われわれとは、議論をすればいわゆる二線平行で、合致するところがないかもしれませんけれども、今岸内閣が、今まで日本性格を規定づけてきた、そうして日本運命を終戦以来今日まで支配してきた日米安保条約というものが不合理である、不自然である、非常にへんぱなものであるから、今度はこれを独立国の面目において、独自の考えがこの条約の中に盛り込まれるように改定しなければならぬという考え方に立たれたときこそ、日本ほんとうにもう一ぺん日本の安全について、ただいま申しますように考え直すべきではないか。それならば一ぺん日米安保条約という、日本性格づけておった、日本運命を支配してきたものから脱却して、そしてとらわれない立場日本の安全と、独立権威とを保持する道を考えるべきではないか。こういう点から、私も、社会党としましては、日本の将来の安全保障の道は決してただ単に日米安保条約にたよるというものでなくして、もっと別な道があるということをかたく信ずるものであります。そういう点については後ほどわれわれの見解を述べて、これに対する岸総理並びに外務大臣所信をもお伺いしたいと思いますが、それより先に私はまずこういう点をお尋ねしたいと思います。  今、岸総理も、朝鮮問題であるとかあるいはベトナム問題等について触れられましたが、アメリカ世界戦略として方向づけておるものに、地理的に分けて四つの分野のものがあると思うのです。一つは、言うまでもなくヨーロッパの面であり、一つは中近東の面であり、一つはアジアの面である。アジアは大洋州を中心とする東南アジアの面と、太平洋から北太平洋にかけてのいわゆる極東面と、この二つに分れる。結局四つの世界戦略方向が規定づけられておると思うのです。私はヨーロッパや中近東のことは、今日は議論をするのではありませんから申し上げませんが、少くともアジアにおけるアメリカの戦略体制を見ますときに一まず第一に、一九四八年、バンデンバーグの決議がアメリカ国会におい一てなされましてこの決議の精神にのっとって、さまざまな相互防衛条約が結ばれております。  まず、このバンデンバーグ決議前の問題としましては、いわゆるアンザス条約といわれるアメリカと豪州、ニュージーランド三国間の条約があり、アメリカとフィリピンとの条約があります。この二つ条約内容を見てみますと、明らかに、日本独立をして日本軍国主義が復活して、日本の侵略の脅威を、アメリカとこれらの国々とが共同して守ろうという相互防衛の趣旨によって結ばれた条約であります。従ってこのアンザス条約と米比条約二つと、それから朝鮮事件が起った後に結ばれたいわゆる米韓の条約、あるはいベトナム問題が起った後に結ばれたSEATOといわれる八カ国の条約、これらは明らかに共産主義というものを敵視した、少くとも敵対勢力としてこれからの侵略を食いとめようとい意図によってできたものであることは言うまでもございません。  問題の要点は、今度日本が新しく改定して新条約を結ぼうとされるその内容は、これは言葉には相互防衛という言葉は出ておりません。またバンデンバーグ決議の趣旨もそたほど明確には現われていないでしょう。それは言うまでもなく、日本の憲法九条の規定によってそれができないからやられないのでありますが、たとえば今度の改定条約にしましても、相互防衛という言葉こそ使われていないが、協力という言葉が使われているようであります。そうしてこのことは、むしろ岸総理にしても、藤山外務大臣にしても強調しておられる点であります。そうして案の内容を見ます場合には、明らかに相互防衛内容を備えておる。こういうことで、今申しますような米国と太平洋の諸国との間に結ばれた条約のほとんどが共産主義勢力を敵対勢力と見て、これらの防衛のために結ばれた条約である。そうしてそれがいわゆる相互条約の形をとっておる。これと同じ内容を持った日本の今度の改定条約というものは、これらのSEATOの条約あるいは米韓、米比―米比は別として米台、こういう条約と一体どういうような相違があると思われるのか。あるいはこれをひっくるめて相互防衛条約ときめつけてよいのか。この点についての見解をまず聞かせていただきたいと思います。これは外務大臣から…。
  13. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 御承知のように、今回の改定は、現在ございます日米安全保障条約は、当時の事情から申して、ただいま加藤委員が言われましたように、一方的な条約と見られる点があるようなものが現存しておるわけでございます。従とてそれを改定して、日本発言権と申しますか、あるいは対等の立場で協議をしていく、そうしてこれらの日本安全保障に対する目的を成していくというのが、今度の改定の達趣旨だとわれわれは考えながらやっております。しかもそれは日本の現在の自衛力その他から見ましても、今日国際社会におきまして、それは共産陣営であろうとあるいは自由主義陳営であろうと、一国だけで自分の国の安全をそれぞれ守り得ないのでありますからそういう意味において多角的な安全保障体制が国連においても認められております。従って集団的な安全保障によりまして日本自身の安全を守っていくということが主でなければならぬと思います。従ってそういう意味におきまして私どもは日本の安全を主体としてそうして今日ございます現行安保条約の今申し上げましたような点を軸としてそうして改正の方針をとりながらアメリカ交渉をいたしておるのでございます。
  14. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 外務大臣お答えは一向得心がいかないのですが、私どもも日本が単独で自国の安全を確保しようという方式をとるべきであるか、あるいは集団保障の体制において安全保障の道を求めるべきであるかということについては、いろいろ見解を持っております。われわれは別な形における集団安全保障の方式をとるべきであるという考え方を持っておりまして、一方の陳営に属するということなしに進むべきであるという考えを持って、おります。それはあとから申し上げることにしまして、今度の日本アメリカが新しく結ぼうとする改定案と、それからアジアにおける今申しましたようないろいろな条約内容等について非常に類似点が多い。だからこれをただ単に、日本は集団安全保障の道を求めるということだけでは説明にならないと思うのです。私のお尋ねしておるのは、今私が申しましたようなSEATOの条約であるとか、あるいはアメリカと韓国の条約であるとか、アメリカと台湾政府との条約であるとか、そういうものと、日本の新しく改定されようとする条約との関係、これが類似の内容を非常に持っておるから、同一のものと見るべきであるか、あるいは政府として別なものとして条約を結ぼうとされておるか、この点をはっきりしてもらいたい。
  15. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ただいま申し上げましたように、他の韓国なりあるいはベトナムその他を含むSEATOなりの条約というものについては、おそらく韓国におきます現状、二つに分れております現状、もしくはベトナムを含めてのSEATOというような形においても、そういうようないろいろな過去における体制がございます。しかし日本の場合におきましてはそういうことでなくして、日本の安全を保障し、そして日本の自衛的な力の欠陥を補うという立場からやっておりますので、私は性格として必ずしも同じような状況のもとに同じような対象を目当てにしてやっているとは考えておらぬのであります。むろん今日、総理が先ほどいわれましたように、国際社会のいろいろな紛争といろいろな対立関係がございますから、自衛力が欠乏いたしております場合には、その空白をつかれるというようなことが、いずれの方面からもあり得ないとは申し上げないわけでありまして、そういう意味において自衛力の増強ということ、それは日本だけでできないので、やはり今お話のあったような集団的な形においてやっていくということが適当であろうという基本的な考えのもとに、われわれはこの交渉に臨んでおるわけであります。
  16. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 この点についても外務大臣お答えとわれわれの考え方とちょっと違っておるのです。SEAT ○が結ばれるときに、これはもうすべての人が知っておるがごとく、いわゆるアジアの方面における共産主義脅威に対応するということのためにできたものであることは間違いありませんが、その際に同じく東南アジアに位して国をなしておるインドであるとかビルマであるとか、セイロンであるとか、インドネシアであるとか、これらの国々がこの条約に参加していない。ということは、私どもは非常に味わうべき教えをこの間に受けるのではないかと思うのです。どうしてこれらの国が参加しなかったかと聞けば、それはあなた方はよその国のことであるから自分たちの答える限りではないと答弁されるに相違ないと思いますけれども、われわれが国際情勢の分析をする場合に、なぜこの条約ができるときに、これらの国々が参加しなかったかということは、日本の今後とるべき施策の上に私は非常に暗示するものがあると思うのです。こういうこと、これらの国が参加しなかったということは、今度の改定をされるに当って全然考慮されなかったかどうか、全然そんなものはとんちゃくなくただあるままのSEATO条約というものだけをごらんになってそうして類似なものがあろうとも、あるいは異質なものがあろうとも、とにかく日本日本としての安全保障の道を求めるというだけで進まれたのか、そのどちらですか。
  17. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 もちろん今日極東に位置しております国の中で、お話のようにSEATOに加盟しておるところもございまするし、加盟してないとところもございます。それはそれぞれの―ただいまそういう答弁をするだろうというお話がございましたが、やはりそれぞれの置かれております地位からきておると思っております。われわれとしてやはり考えなければなりまんことは、先ほど申しましたように、日本の安全をどうして保障するか、やはりこの相当激しい国際情勢の中においては、それを考えて参らなければなりませんし、また同時にわれわれとして現行ありますものの訂正をしていく必要があるわけでありまして、そういう立場から今日改正に当っております。むろん条約を作りますことでありますから、世界各国で集団的安全保障のいろいろな取りきめもございますから、そういうものを参考にいたすことは、むろんわれわれとしても条約締結上の問題として考えては参らなければなりませんし、そのあります条約意図というものについては、それぞれの国の置かれておる立場から判断して、自分自身の方向をきめておるのではないか、こう思っております。
  18. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そこでいろいろそういう条約のことについても参考にされたということでありまするし、またある点は日本独自の立場においてということでありましたが、それならば現実の問題として、今報道されておるような内容による安保条約改定を行おうとされるについての現実に対象となる共産主義のアジアにおける脅威、これは一体どういうことをさすのでありますか。常識的には、やはりソビエトがどうしたとか、中国がどうしたとかいうことがいわれますけれども、現実に日本脅威するような共産主義勢力というものがどのように分布されてあるのか。そういうものは、アメリカ日本とが相互防衛の協定をすれば、それで万一の場合は防ぎ得るかどうかということについての見方はどういうようにごらんになっていらっしゃるか、これは一つ総理からお伺いしたい。
  19. 岸信介

    岸国務大臣 われわれのこの安保条約を作ります理由は、必ずしも特定の国を対象として、その侵略を予定して考えるべさものではないことは言うを待たないのであります。しかしながら、先ほど来私が申し上げておる国際共産主義脅威という問題については、これは日本を取り巻いておる極東情勢をごらん下されば、日本の安全を―一国がどういう侵略を受けるとか、どこから受けるという具体的の問題でなしに、日本国民全体がやはり安全感を持ち、われわれは他から侵略されないのだ、そういう確信の上に立って平和な生活が送れるのだというためには、やはり自衛力を持ち、その自衛力の足りない国力及び国情から見て、一国でもって日本の完全な安全というものは保障できないという感じから、これを補う意味の安保条約を作っていくということは、国民が安全感を持ち、国民の現実の生活の平和を維持する責任ある立場からいえば、私は当然考えていかなければならぬ。もちろんわれわれの理想として、将来この国際連合によるところの集団的な安全保障機構が有効に動くという確信ができるような時代になれば、これは私は時代が変でてくると思いますけれども、現状からいえばやはりそういう意味でわれわれは考えなければならない。私はそういう意味において、決して政府として一国やあるいは数カ国を目標にわれわれが軍事同盟をするのだとか、対立関係を作るのだという考え方をすべきものではないと思います。これは世界の大勢がいわゆる両大陣営に分れて、そうしてその間の緊張が非常にあり、平時においてもいわゆる冷戦の形において、あるいは思想の方面から、あるいは各種の運動に際する態度から、これらがいろいろな形をとって他国にも力が及んでおるというこの現実に即して考えるべきものであって、従って、今申しますような意味において、ここにおいてそれじゃ具体的にどういう時代であるかということは、私はこういう何において申し上げることは適当でないと思いますが、過去におきましても、予算委員会においてすでにいろいろな問題について、あるいは公安調査庁やその他の責任ある調査の結果を一部報告したこともございます。しかし、そういう点をここで具体的に申し上げなくとも、今言っよううな意味における安全感を国民が持つために、われわれの力だけで自衛の足りないところを安保条約によって補うということは、これは当然である、かように考えております。
  20. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 いろいろ御説明がございましたが、私のお尋ねしておるのは、先ほども申しましたように、アンザス条約にしても、アメリカとフィリピンの条約にしても、はっきりとこれは日本軍国主義の復活をおそれて、その侵略を防衛するという目的をもってこれらの条約ができておる。さらにアメリカと韓国との条約は、あの不幸な朝鮮事件の後に、三十八度線の停戦協定ができた後に、やはりいわゆる共産主義脅威に対応するために結ばれておる。SEATO条約が南北ベトナネの不幸な内乱、内戦からジュネーブにおける停戦協定が結ばれた後に、やはり同じような脅威を感ずるという点で結ばれておる。ことにこの中には、オーストラリアににてもニュージランドにしましても、一万においてはアンザス条約、すなわち日本を相手とする、日本を対象とする相互防衛条約に加わっておりながら、また今度はアジアにおまる共産主義脅威に応待するためにこの条約の中に加わっておる。こういう相互防衛条約を結んでいる国は、いずれも現実の具体的な情勢の分析判断の上に、それを対象として結ばれているわけでありまして、日本の今度の改定の問題が、今岸総理がおっしゃったように、具体的な対象ではなくして、国際情勢全般の上からただ日本安全保障の道を求めるのだということであるとするならば、それこそほんとうに、むしろわれわれの言うような、いずれの側にもっかない日本独自の立場における安全保障の道を求める方策をとったならばどうかということは、岸総理の答えの中から、われわれの主張ごそが妥当であるということで、理論的に実際に分析したり、解剖したり、突き詰めていくというと、むしろ一そう岸さんなんかでもわれわれの主張に賛成しななければならぬ結論になってしまうと思うのです。私は、この相互防衛性格を持った条約というものは、具体的な対象勢力があってて、それからどうしてその国の安全を保障するかというところに結ばれる意義あると思うのですが、今岸総理がおっしゃるようなことでは国民は納得しないと思うのです。ただ国民の間における長い間の抜け切らない伝統的な考え方があって、その考えが動くならば別でありますけれども、この今の安保改定の問題だけを中心として、ほんとうに岸さんが今おっしゃったような内容で説明して国民が納得するか、むしろそれならば、われわれ社会党の主張することの方が国民をして十分納得せしむることができると私は思うのですが、これも議論になるから、また時間もありませんのでこれ以上突っ込んでとは言いませんが、とにかく、そういう点で、むしろ岸さんの説明では逆に、この必要がないということを立証する結論になってしまうと思うということだけを一言申し添えておきたいと思います。それから、日本の今度の改定案内容を見ますと、今申しました数々の条約との間には具体的に非常な共通点がある、だから、この共通点を持つた改定案というものは、これらの条約とは別なものであるというような藤山外相のお言葉でありましたけれども、われわれはどうしても別なものとは考えられない、あまりにも類似点が多いわけであります。これもあなた方の方が専門家でありますから、当然その内容等については十分お調べになっていらっしゃるのですが、どうしてこれが、これだけの多くの類似点を持っているものを別なものであるということが言い切れるでしょうか、これは一つ外務大臣からお答え願いたい。
  21. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 むろん条約のいろいろな条章の上において他の条約といろいろ類似点があるというようなことは、相互の防衛をいたすという意味から言いましてあり得ることだと存じております。しかしながら、今申し上げましたように、日本が今日安保条約改定しております精神というものは、今まで申し上げたような精神で改定をいたしておりますので、そういう類似点がありましても、全くわれわれ独自の立場でもって安保条約が結ばれるものだ、こう考えておりまして、他の条約と同じものだというようにはわれわれ考えておりません。
  22. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それでは先に進みましょう。今の安保条約が暫定的なものであるということは、これはお認めになりますね。総理大臣から……。
  23. 岸信介

    岸国務大臣 今の安保条約というものは、将来この国連憲章等に基いて十分な安全保障ができるまでのものだという意味において、暫定的なものだ、決して恒久的ということではないと思います。
  24. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 この現行条約が暫定的なものであるということは、別に暫定というような言葉が使われなくたって、ああいう形のものが本格的な条約であるとはだれも認めないのですから、当然暫定的なものであると見なければならぬ。しかも期限がついていない。にもかかわらず、今アメリカ側も納得してこの改定交渉が進められておるということそれ自身が、この条約が暫定的なものであるということを両方で是認しておることと思うのです。これは岸さんの一昨年行かれたときの共同コミュニケの中にもそういう意味のことがうたわれております。だから岸さんが忘れておいでになるかもしれないが、それははっきりしておると思います。  それで現在、この現行安保条約が暫定的なものであることに対して、なるほど内容はもうはしにも棒にもかからぬようなかたわなものでありますけれども、それを改定されようとするについては、こういう暫定的に結ばれた、しかも一方的に結ばれた条約を、そのまま演繹して、その基礎の上に改めるのがよいのか、それとも全然一ぺん白紙に立ち返って、そしてあらためて日本安全保障の問題についてどういう道を選ぶべきかということが考えられる。これは先ほど申しました通りでありますが、この点についてのお答えがないわけであります。この点について岸総理並びに外務大臣は、一体そういうお考えがあるのかないのか、その点を一つはっきり聞かしていただきたいと思います。
  25. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど来御議論もございましたし、答弁申し上げましたように、現行安保条約ができました当時の事情と今日とは非常に変っておるということから、私どもは現在またはこれからの将来を見通して、この基礎の上に日本の安全をいかにして保障するかということを考えていったらいいと思います。こういう意味において、新しい条約の形をとりたいと思います。しかし同時に、従来あるところの安保条約に非常な不合理な点があると同時に、そのものが過去において―これは見解が違うようでありますけれども、私どもは日本の安全と平和に寄与したというこの事実を認めて、そうして現在及び将来のために最も適当な安保条約を作りたい、かように考えております。
  26. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ただいま総理が答弁されたところに尽きておると思いますが、私どもそういう気持でもってやっております。
  27. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それではそういうことにしておきます。  そこでこの改定をされるに当って、今度は現行条約になかったアメリカ日本防衛の義務を明記する、同時に日本の分担すべき義務をも明記する、そして日本に関する限りは日本憲法の範囲内、こういうことが言われております。そこで条約の今報道されておるよな内容についていろいろお尋ねしたいのであります。まず十年ということが伝えられておりますが、この十年ということはもう両方で話し合いの済んだ点でありますか、どうですか。
  28. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 条約交渉につきましては、問題のあります点についてそれぞれ話し合いをいたしております。従って今お話のありました期限の問題についても話し合いをいたしております。最終的にすべての問題が片づいたとはまだ申し上げかねますけれども、期限の問題は十年が適当ではないかというのはわれわれの考え方でありまして、従ってそういう意味において話を進めておりますことも事実でございます。
  29. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると十年というのは、まだ最終決定を見た段階ではないのですね。
  30. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 御承知通り条約の全般にわたりまして、まだ最終的決定をいたしておるわけではございませんし、完全な草案がまだでき上った段階にもなっておらぬことは申すまでもないことでございます。しかしただいま申し上げましたように、問題点につきまして話し合いをしながら一つ一つ固めて参って、そうして最終草案を作ります準備段階を終えるように努力をいたしておるわけでありまして、従って話し合いの線に沿ってきまって参りますものはきまったということで、次の問題点に移っていくというようなことで大体やっておりますが、しかし最終的な決定ということはまだいたしておりません。
  31. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 これは私は重要な点であると思います。今までの交渉段階において双方の意思の合致を見ておる点であるのか、まだ意思の合致を見ないで変更する―今までの交渉にかんがみて今後の交渉の進捗上変更する余地がある問題であるかどうか、この点を一つ聞かせていただきたい。
  32. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 むろんわれわれ今の期限の問題につきましては十年を主張しております。今日までアメリカ側は特に異議を申しておりません。従って最終段階においては十年ということできまり得るものだとは考えておりますが、今申し上げましたように、交渉のことでございますから、最終段階に来なければ確定的なことは申し上げかねますけれども、しかし今申し上げたような状況にあることだけは申し上げることができると思います。
  33. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうしますと、外務大臣のお考えとしては、十年を目標としてそこに話し合いが落ちつくつもりで話を進めておる、自分の考えとしては、十年という期限で話が落ちつくものと見ておる、こういう御意見ですな。
  34. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ただいま申し上げましたように、話し合いの段階で十年という期限について特別の異議がまだ出ておりません。ですから、今お話のように十年と落ちつくものとは見ておりますけれども、何しろ条約交渉でございますから、最終的にどういう意見が出るかはわかりませんが、今日まで特に反対の意見は出ておりません。
  35. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 アメリカ側はどうですか、その十年というのは喜んでおるのでしょうね。
  36. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 今申し上げましたように、今までの話し合いの段階では特に異議は出ておりません。ですから喜んでおるか、あるいはしぶしぶであるかは存じませんけれども、とにかく一応今のところまでは、特に期限について意見は出ておりません。
  37. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 われわれは条約改定は今なさるべきでない、むしろもっと冷静に国際情勢の分析をして、総合的な検討の上に新しい道を選ぶべきであるという考え方を持っておりますが、政府改定を志して進んでおられるのでありますから、それについて御質問をするのですが、期限の十年ということは、私は実に容易ならざることだと思うのです。今日は申し上げるまでもなく。いわゆる原子力の時代といわれまして、時間的にも空間的にも世界は非常に小さくなっております。戦争前の十年と言えば、十年一昔と言われるほどに非常に長いことが考えられますが、今日のように世界が極端に小さく、短かくなっておるときに十年という長期を決定されるということは、ほとんどもう半永久的と見ても差しつかえないと思うほどに長い期間なのです。一つ条約によってこういう長い期間日本性格が規定されたり、日本の進路が定められてしまうというようなことは、国にとって大事な問題だと私は思うのです。先ほど来申しましたさまざまな相五防衛的な性格を待ったアジアにおけるアメリカを軸とした条約は、いずれも期限がついておりません。そしてこれらのものは、一年前に意思表示をすれば、一年後には廃棄することができることになっておるわけです。しかるに同じような相互防衛性格を持った条約が、ひとり日本だけに十年という長い期限をつけられて、十年間金縛りにされてしまうということは、私は日本にとっては身動きのならない手かせ、足かせをかけられたことになってしまうと思うのですが、そういう長い期間ではなく、他の条約と同様に、相互の―相互と言うたところで結局日本ですが、日本がいろいろな国際情勢変化等から、もしこの条約をやめたいと思うならば、少くとも国際信義上一年なら一年の事前通告をもって廃棄し得る、それだけの自由を私は保留するということが、こういう条約を結ぶ上の常識でないかと思いますが、この点については外務大臣はどのようにお考えになっていらっしゃいますが。
  38. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 もちろん期限の問題が重要でありますことは、われわれも十分承知をいたしております。期限につきましては、今お話のありましたような条約もございますが、NATOその他のように相当長期にわたった条約もあるわけでございます。現在私どもといたしましては、むろん国連が安全保障の措置ができますれば、こういう条約は当然やまるべきだと思っておりますので、そういう意味におきましては、この条約交渉中にもそういう点を強調しておるわけであります。しかし日本の現在の自衛力から申しまして、これらのものが財政計画その他と見合いまして、自分自身が自分を守るということが若干でも充足してくるような時期というものは、やはり十年くらいかかるのではないかというふうに、私どもは常識的にも考えられるわけであります。むろん国際情勢の変転の激しいことは、お話のように相当激しくございますけれども、しかし今日まで国連等におきまして軍縮委員会動きを見ておりましても、必ずしも軍縮という問題がなかなか早急に達成せられませんし、あるいは一昨年以来行われております核実験の探知あるいは禁止の問題等につきましても、これらの問題が妥結するのには相当長期にかかっておるというようなわけであります。そういうことを考え合せますと、若干お説と違うかもしれませんが、私どもとしては、まず今日の日本立場から言いまして、そういうことが適当ではないかということを私は信じておる次第でございます。
  39. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると、外務大臣お答えによりますと、日本は自分の力で自衛を全うせしむるためには大体十年くらいの年月を必要とするという点が一つと、国際連合ほんとう安全保障の道についての具体的なものが現われるようになるならば、この条約は従って要らなくなる。こういう二つの点で十年ということを妥当とお考えになったようにお伺いしましたが、一体日本防衛力というものは何を限度とするのですか。これは当然非常に重大な問題になってくると思いますが、今おっしゃるように十年くらいかかる、こう言われる日本防衛力の目標は一体何ですか。何を目標として防衛力の基準を定められるのか。どういう計画で十年という年月を目標とされておるのか、この点を明らかにしていただきたい。
  40. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 もちろん防衛関係におきましては、いろいろな条件があろうと思います。従って今日でも、日本が数年前にきめました国防会議の決定も、まだ十分充足はしておりませんし、従って防衛そのものの内容等につきましては、むろん外務省が判断すべきものではなくして、防衛当局が判断すべきことは当然であることは申すまでもないのでありますけれども、しかしそこいらの経緯を通じまして、私どもとしては条約を作ります以上、適当な時期を選ばなければならぬと思うのでありまして、そういう意味において大体その程度の判断が適当ではないかということを考えておるわけであります。
  41. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 これは非常に私は重要な点だと思います。外務大臣が相互防衛的な性格を持った条約を作るのに十年という期限を付せられる。その十年という期限をつけるについては、日本独自の立場自衛力が大体十年くらいたてばよくなるであろう、それから今言ったように国際連合の云々という二つの点を示されたわけであります。そこで私は今、しからび十年という日本自衛力を満たし得る目標は何であるか、どういう計画によるか、こういうことをお尋ねしたのでありますが、外務大臣は、それは外務大臣の権限外である、こういうことをおっしゃいました。そこで私は、しからば国防会議議長である総理大臣からこの点についての御意見を聞きたい。
  42. 岸信介

    岸国務大臣 国防会議におきまして、自衛力の増強については、基本方針をきめてすでに発表されておることは御承知通りであります。すなわち国力と国情に応じてわれわれは漸増する。しかしそれの内容を、それではたとえば、具体的に飛行機を同機持つか、あるいは海上の防衛力を何トンにするかというような問題につきましては、これは国際的の事情の変遷なり、あるいは各般のことを詳細に検討してきめるべきものであって、これを十年後に自衛隊は何人あればよろしい、飛行機は何機あればよろしいというようなことをあらかじめ言うことはできないと私は思います。従ってそのことは、やはり国防会議において各般の事情を検討して、そうしてわれわれとしてはこれをきめていくということになると思います
  43. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 ただ単に一片の議論をするだけならば、総理大臣の今のお答え議論としては成り立つかと思いますけれども、われわれ今議論をしておるのでなくして、日本運命を決せられようとする安保条約改定に当りましてその重要なる一つの要素である期限という問題についてお尋ねをしておるのでありまして、そのお尋ねに対して外務大臣お答えがありましたし、それで、むしろ国防会議議長としての総理大臣お答えを求めたわけでありまして、私は議論するために答弁を求めておるのでなくして、十年の根拠を明らかにしてもらいたいということのためにお尋ねしておるのですからしてその根拠を、目標をはっきりしていただきたい、こう思います。
  44. 岸信介

    岸国務大臣 安保条約の期限を何年にすることが適当であるかという問題、それから、これにつきましては、各国の、全然同一ではございませんけれども、いろいろな点において、あるいは類似しておるとかいうような条約の実例を見ますると、長いのは二十年、三十年というような事例もございますし、あるいは、今加藤委員の御指摘になったような、一年の予告期間を置いてこれを解消することができるというふうな条項をつけておるものもございます。しかし、私は、こういう日本の置かれておる立場及び日本安保条約締結の必要は、先ほど来申し上げておるように、必ずしもアメリカと韓国との関係であるとか、アメリカと台湾の関係であるとか、あるいはNATOの関係であるとか、SEATOの関係であるとかいうのとは違った日本独自の立場から考えて、日本の安全を保障するために、どういう条約がいいかという見地に立って、これを検討しておるのであります。そういう意味から申しますと、やはり基本的に両国の信頼関係と、そして安定した一つの基本関係が成り立っておることが必要であると思います。それをどういうふうな年限に見るかということにつきましては、それは御議論もございましょうが、私は十年というあたりが適当であるという考えでございます。
  45. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 ただいま総理のお言葉がございましたが、私の質問の焦点がぼかされておると思います。私どもはこの質問をするについては、もちろんNATO条約の条文の端々に至るまで、さらにアジアにおけるもろもろの条約内容について相当こまかく検討してみました。どこにどういう相違があり、どこにどういう一致点があるか、またこれらの条約の目標がどこにあるか、今度の日本改定案の目標がどこにあるかということについても、われわれは真剣に内閣の方針を聞きたいために、決してその党派の立場にとらわれてものを尋ねておるのではないのであります。日本国民の一人として、私はお尋ねをしておるのであります。今お答えになりましたところは、いろいろ言葉は数が非常に多いのでありますけれども、実際その焦点がぼかされておる。これは非常に私は残念だと思います。総理は十年ということについて、ただ適当と思うということに、もろもろの形容詞をあるいは形容句を粉飾されておるだけでありまして、一向十年というものの期限を定められた根拠を明らかにすることはできておりません。非常に残念だと思いますが、時間の関係もありますから、先に移っていきますけれども、とにかくこれらの問題は非常に重要な点であるということだけを明らかにいたしておきたいと思います。  それから次にお尋ねいたしますが、この条約で、伝えられておるところによれば、日本にあるアメリカの基地が第三者から攻撃された場合には、日本日本が攻撃されたものと認めて、これが防衛に当る、こういうことがいわれております。新聞の報ずるところによれば、藤山さんもはっきりこういうことを新聞に語っておられる。これは事実でありますかどうか、まずその点から伺いたいと思います。
  46. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 日本の基地におります米軍が攻撃されますことは、日本の領土、領空を侵さなければ攻撃されないのでありまして、そういう意味からいいましても、日本の侵略と見られるわけでありますから、当然日本自衛力を用いる段階に入ると私どもは考えております。
  47. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 どこかの国が日本に攻めてくるのは、日本を対象として攻めてくるのでしょうか。それともアメリカの軍事基地を目標として攻めてくるのでしょうか。一体その原因はどこにどうしてできるのか。日本国際紛争解決の手段としては武力を用いない、従って軍隊というものは、憲法の正面解釈からいけば持てないはずだ。軍事力というものは何もないはずだ。また日本がどこかから攻撃されるような原因を作るということもあり得ない。とすれば、当然アメリカがどこか日本以外のところでその国との紛争原因を作った。その紛争の原因を解決する手段として、アメリカ武力を用いた。その武力を用いる場合に、日本にある基地から武力を用いたのか、あるいは他の地域にある武力を用いたのかということは別問題といたしまして、とにかく、戦略上その国が日本におけるアメリカの軍事基地を攻撃し、アメリカの攻撃力を死滅せしめなければならぬという点で攻撃してくる、こういうことは容易に考えられることであります。そのときに日本が、今おっしゃるように、日本にあるアメリカの基地を攻撃するためには、日本に入ってこなければ攻撃ができない、こんなべらぼうな、子供みたいなことを言っちゃいけません。アメリカの軍事基地は日本に置かれている。大体われわれはアメリカの軍事基地が日本にあることは反対なんですけれども、それをあなた方はとにかく条約で認められる。そうしてその認められるところを、向うは、この前アメリカやその他の軍隊がやったように、無差別に都市爆撃をやる、そういうやり方でなくて、ここにある目標、すなわちアメリカの軍事基地を目標として来ておる。その途中において何も日本をかれこれするのではない。しかもその軍事基地は日本の政治の及ばないところなのです。純然たるアメリカの軍事根拠地なのです。それを攻撃されたからというて日本日本を攻撃されたものだと認めて共同して防備に当るということになれば、日本国民は、国民的な何らの利害関係のない原因、国として、国の何らの利害関係のない原因で起った国際紛争の巻き添えで、日本にあるアメリカ基地が攻撃されたときに、日本国民の血を流す、生命を儀牲にする、そういうことは日本国家としても日本国民としても、断じてなし得ざることであると思うのですが、それをはっきりこういうように条約に規定される、これをもって対等の、向うに日本を守る義務があれば、しかしこっちにはアメリカの軍隊を守る義務がある、そんなことの形式にとらわれて、このような重大な問題をおきめになるということは、私はほんとうにあなた方の気持がわからない。ほんとうにあなた、日本国家のことを考えてごらんなさい。日本国民はおそらく戦争のために血を流すなんということは永久にいやなのです。それから日本の直接の国の利害がない、日本国民の利害が直接ない第三の地域で、第三国とアメリカとが何か紛争を起した、これはあり得ることでしょう。そういう場合に、日本人が一体なぜその飛ばっちりを受けて血を流したり、生命を犠牲にしなければならぬのか。私はこれは重要に考えてもらわなければ、ただ単に抽象的な理屈ではだめだと思うのです。こういう点から、この安保条約の相互性を持った改定ということが、いかにおそるべき内容を持っておるか。  しかも私はついでだからもう一つ申し上げたいと思います。日本の自衛隊が、かりにあなた方の意図によってその場合出動したとします。その日本自衛隊の指揮権はどこにありますか。国防会議議長としての総理大臣の指揮のもとに日本の自衛隊は行動をすることになっておる。アメリカの軍隊を、アメリカの基地を守るために、アメリカの軍隊と、それぞれ、その地域において、こっちはアメリカの軍隊、こっちは日本の自衛隊、こういうことで個別的にやると言われるでしょうけれども、しかし作戦を彼らがやる場合に、果して日本の作戦を入れさせるような、そういう条件を保留することができるのか。あるいはそのときには統一体の参謀作戦本部というものができて、その作戦本部の作戦命令に従って具体的な行動がとられるのか。もし日本の自衛隊が統一作戦本部の統制のもとに軍事行動をとるということになりますれば、何のことはない、日本はそれこそ文字通りアメリカの軍事的な統制下に置かれるということになってしまうのです。私はこういうことが明瞭に予測し得られるような条件を条約の成文の上に表わしておくということは、形だけ相互防衛、相互義務という形式をとりながら、実際においては日本アメリカの軍事的統制下に置くという言葉に対して、それが事実であるということを裏づけてしまうことになると思いますが、この点に対して総理大臣はどのようにお考えになりますか、お聞かせを願いたいと思います。
  48. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど日本の基地に駐在しておる米軍が攻撃された場合において、これはやはり日本に対する侵略として日本の自衛隊が出動する条件になるということを外務大臣が答弁申し上げましたが、その通りであると思う。ただ現実に侵略がありました場合において直ちに自衛隊が出るか出ないかという問題については、これはもちろん憲法及び自衛隊法の規定に従って国会承認を得なければならぬことであることは当然でありまして、これは日本を直接に相手として侵略してきた場合におきましても、防衛の出動をする場合においては、国会承認を得なければならない事項でありますから、そういうことは当然でありますが、しかし現在の安保条約におきましても、日本に駐留しておるところのアメリカの基地が攻撃されたという場合において、侵略の事実がある以上は、やはり私は日本の国土であり、日本の領土領空を侵略される場合においてこれは当然であると思っております。そうして今いろいろと例をおあげになりましたが、私どもが、日本の安全を保障するために日本の力だけでは安全が保障できないというごの現実の立場において、それを補強するためにアメリカの軍隊の駐留を認めて、そうして日本の安全を保障しよう、こういう立場でございますから、この基地が日本にあり、日本の領土内にあるということにつきましては、これは日本の安全を保障するためにやむを得ない、現在の日本自衛力並びに国際情勢から見ると必要なことであり、従ってそれが現実に攻撃され、日本の領土、領空が侵略されたという場合においては、日本に対する侵略としてこれは当然考えるべきである、かように思っております。
  49. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それは今の総理お答えは全然的はずれだと思います。それからもう一つ重要なことは、今しばしば繰り返されてお話しになりましたように、日本の安全を守る、こういうことを総理外務大臣も繰り返して言われておる。ところが今度の新改定案によりますると、日本ばかりではないこれはもうわれわれが明らかに憲法違反だと称するゆえんですが、極東の平和、日本の平和のほかに極東の、日本以外のところの保障、こういうことが書かれておると伝えられております。この点はどうですか。やはり日本以外の極東の他の地域の安全保障にまで、日本におるアメリカの軍隊がそういうときに出動する、それを事前協議をするということにはなっておるようでありますが、協議だけで、それが私は日本におけるアメリカの軍事基地が攻撃されるという大きな要因になると思うのです。日米相互条約であるからアメリカ勢力精囲にある極東の他の地域に攻撃された場合でも仕方がない、日本を守る義務があると言われるかしれませんが、それは私は日本憲法の許さざるところである。そこで日本の方では憲法の手続、その国の憲法の定めるところによるというような文句がついておるようでありますけれども、極東の他の地域の安全保障のためにも、平和保障のためにも、アメリカ軍隊が日本の軍事基地から出動をする場合に、日本武力はそのときにどういうことになるのか、これも私は重要な点であるから、もう一度一つ総理大臣からこの点についてもお答えを願って、その上で今のお答えに対する私の意見を申し上げたいと思います。
  50. 岸信介

    岸国務大臣 御承知通り、現在の安保条約におきましても、そういう事項が入っております。私は先ほど改定条約におきましても、従来からあった条約が現実に合ったということもやはり頭に置いて考えるということを申しております。従来はこの点についてアメリカ側は何ら日本の意向を事前協議することなく一方的に行動し得たのでございますが、今回の条約改正に当りましては、そういうことを制約して、事前の協議ということについてはわれわれが拒否権を持っておることはこれは当然でございまして、そういう制約を付して考えておる次第でございます。
  51. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 これは私はむしろこの答弁をお聞きすると悲しくなるのです。ほんとうは……。こんな通り一ぺんの答えで一体国民は何と思うだろう。われわれもこういう答弁を聞いて時間に縛られて、さらに突っ込んでとことんまでやり合うことができないというようなことは、非常に私はむしろ悲しい感じがするのです。しかしそんなことを言っとったって仕方がないから、さらに今のお言葉に対しても私はお尋ねするのです。  皆さんどう思われるか知りませんけれども、私は今岸総理お答えになりましたように、現行条約には何らの制約がないからアメリカがやろうと思えば勝手にやれる。そういうことがこの条約改定せしむることになったわけなんですし、われわれはそういうことがあってはならぬという考え方をもって反対してきたわけです。ところが今お話しになりましたように、もし日本におけるアメリカの軍事基地から他の地域に出動する場合には事前協議をする。事前協議を受けて日本はそれがよいとか、あるいはそれはいけないとか、拒否権というものを持っておられるのか、同意権が保証されておるのか。ただ相談を受けた。相談を受けたときにアメリカは自分の戦術上どうしてもそれは行くのだと言われたときに、これを食いとめることができますか。これが食いとめることができなければ、事前協議などということは、アメリカに一個の、日本政府にも通告をして協議をしたのだという、こういう国際的な何といいますか、カムフラージュする一つ口実を与えるのにすぎないことになってしまう。こういうことだけで、日本に私はせめては同意するなら同意する、拒否するなら拒否するというその権限が保留されておるならば、協議ということは意味があると思いますけれども、そういう点が保留されていないならば、協議なんという言葉はあってもなくても同じです。むしろ今アメリカが勝手にやりたいと言って国際的な攻撃を受ける、世会的な攻撃を受ける。そのときにいやそうではない、われわれは日本政府にも協議をしたのだと言って国際的な攻撃の牛をそらされる、カムフラージュする道具に使われるだけにすぎないという、こういうことになっては日本が実にみじめじゃないですか。この点どうお考えになりますか。
  52. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん事前協議ということは同意する場合と、拒否する場合が当然あると思います。それを拒否したにかかわらずやったというような事実がありとかりにするならば、もちろん今事前協議をせずに国際的な非難を受けることは、より一そう、拒否しておるにかかわらずこれをやっておるということにおいて国際的な非難がより以上加わってくるのでありまして、そういうことのカムフラージュというような意味では私は全然ないのでありまして、われわれとしてはあくまでも事前協議ということは同意する場合もあるし、拒否する場合もあるということで、これははっきりしておると思います。
  53. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 日本がカムフラージュするというのじゃないですよ。アメリカ国際的な非難をカムフラージュする一個の道具に、こういう条約に事前協議ということがあるから、日本政府にも協議をしたというだけのことであって、それならば今岸総理がおっしゃるように、はっきり同意するものと、否定するものとがあるということならば、私はその事前協議に対しては賛否の意見を保留する権限を持つ、こういうことが規定されて初めて国民は安心するのでありまして、そういう規定がない限りは、総理大臣がここでおっしゃったところで、今度はアメリカ立場に立てば、アメリカが戦術上どうしても日本におる軍隊を動かさなければならぬというて飛び出したときにはどうすることもできやしない。こういう点あえてそういうことを条約に明記されるかどうか、この点なんです。
  54. 岸信介

    岸国務大臣 この点は外務大臣交渉の経過をお聞き願うことが適当だと思いますが、交渉の経緯を聞いておりますと、アメリカもその協議の意義というものについて十分了解済みでありますので、御心配の点は私はないと思います。
  55. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それでは岸総理のお言葉によって、藤山外相から交渉の経過を知らしていただきたいし、それから、これとは違った場合でありますけれども、拒否権というものが条約の条文の中に規定されておる前例は他の場合に幾つも見受けます。従ってその国の独立性が安全に保たれておるというならば、私は拒否権、同意権というものが当然保留されなければならないと信ずるものでありますが、今日までの交渉の経過はどうなっておるか。新聞に伝えられるところによると、日本はせめては同意するくらいのことを主張したかった、ところがそれさえもつけられないというので、自民党の内部にもその点においては非常に議論があるというようなことが伝えられております。自民党内部のことはよく知りませんけれども、これは日本人としてみれば自民党員であろうが社会党員であろうが、当然考えられる疑義の点だと思います。
  56. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 この問題につきましては、御承知のようにわれわれは現在の安保条約でもって自由にアメリカが出て行くことに対して協議をしていきたいという希望を持っております。  そしてそれについて、協議であるからイエスと言う場合もノーと言う場合もあり、ノーと言った場合には協議がととのわないのでありますから、その意味において私は拒否権があると思っております。かりに、総理が言われましたように、ノーと言った場合にアメリカがそれを侵してやるということがありますれば、やはり国際社会における一つの問題になります。またアメリカがそうした場合に行動をいたすときにも、やはり国連憲章に準拠しなければならぬのでありますから、そういう意味におきましてもアメリカは非難をこうむると思います。でありますから私は協議というものは、日本がノーと言いました場合に必ずアメリカもそれを聞いて達成するものだと確信を持っております。
  57. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると藤山外務大臣は、協議した場合にノーと言い得られるから拒否権があるものと信ずる、こういうただいまの御答弁でありましたが、日本外務大臣はそう信ずるということを日本国民はどこに行ってもそれを言ってかまわぬですね。
  58. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 私がただいま申し上げましたように、協議をいたす場合に、協議がととのう場合と、ととのわない場合があると思います。ととのわない場合と申すのは、日本側がノーと言った場合がこの場合に想定されると思います。協議がととのわないのにアメリカがそれを強行するということはできないと私は考えます。それは国連憲章にもアメリカの行動は準拠しなければならぬわけでありまして、そういう意味から申しましても、ただいま申し上げましたように、かりにやったといたしましても、国際的な信用を失うわけでありますから、そういった意味におきましてアメリカ国際信用を侵してまではやらぬというので、結論的に申し上げるならば、拒否権があると同様の成果だと思っております。
  59. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 アメリカ日本における軍事基地から出動をするという場合は、ただいま申します通りアメリカが戦術的にどうしてもそれをやらなければならぬから、たとえばグアムから出動するか、ホノルルから出動するか、あるいはアメリカ本国から出動するか、それは知りません、けれども日本に軍事基地を持って、日本ばかりではないのです、日本以外の極東の地域における安全も保障しようという考え方を持っておるアメリカとしましては、日本にある基地から出動をせしめようという場合には、その戦術的な必要がそうさせる、そのときに日本がそのことによって不利をこうむる、それが間接の原因となって攻撃を受けるということは耐えられないから、それを避けるためには、日本にある軍事基地は日本以外の場合に使ってもらっては困る、こうはっきりと条約の上に拒否権が明記されておるならば、アメリカは戦術上の変化をして他の基地から出動せしめるであろうと思う。条約にそういう何らの明文がなければ、戦術的に必要なんだから日本の意思いかんにかかわらず出動してしまう。出動してしまった後においては、それが原因となって日本における基地が攻撃される、日本人が命を失う、血を流す、こういうことになってしまうのでありますから、はっきりと拒否権があるということを規定すれば、アメリカはそういう場合にやらないだろうと私は思う。かりに日本外務大臣が拒否権があると信ずると言われるならば、それをはっきり明文の上に表わすということこそ、私は日米両国国民を安心せしめるゆえんだと思います。なぜそれができないのですか。
  60. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 私が今申し上げましたように、むろん協議でありますから、協議がととのわない結果は拒否権があると同じでありまして、その間に実質的な差異があろうとは思っておりません。それでありますから条約に書く上におきましても協議ということで差しつかえないと考えております。
  61. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 せっかく外務大臣がたびたびお答えになりますけれども、協議をして協議がととのわなければ拒否権があると思うというお答えですが、そんなことは国際的に通用しないと思う。それは藤山さんの良心、藤山さんの政治的立場はそれで納得されるかもわからないけれども、国際的にはそういう藤山外相の主観的な考え方というものは通用しないと思います。事実今言う通り戦術的にせっぱ詰まってそれ以外の道はないということから、アメリカ日本基地から出動をやろうとするのです。だから日本がかりに反対したからといってああそうですがと指をくわえて引っ込むか。それならば初めから他の戦略的な立場から戦術的な方策をとる、こういうようになると思うのですが、この条約日本だけに限定されておるならば、あるいは今あなたのおっしゃった通りのことが言われると思う。ところが日本以外の極東の第三地域の事態についても平和を保障する、安全を保障すると規定されておるから、今私の言う非常な不安が起ってくる。これは決して私一人の不安ではなくて、日本国民の不安だと思う。でありますからその点についてそれだけ確信を持っていらっしゃるならば、条約の成文にそういうことをうたってほしい。これについてアメリカもまた今藤山外相が言われるような考え方を持っておるならば、これに明記することむしろ向うから進んでやるべきである。決してこれを拒否する理由はないと思います。その点についてどういう努力をされるか。一つはっきりしておいてもらいたい。
  62. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ただいままで申し上げましたように、協議でありますから当然協議がととのわないという場合がある。日本アメリカ側意見が違うことはあり得るわけであります。なければ協議にならない。その意味におきまして私どもは拒否権を持ち、またそれが事実上の問題としてもアメリカがこれを行使しないということは、私の方で今御説明申し上げました通りで、おわかりいただけると思うのでありまして、そういう意味においてわれわれは交渉をいたしておるわけであります。
  63. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それならば今日までの交渉の過程において日本側からあなたがそういうことをはっきりと相手方にお話しになって、そして相手方がこれに対してどういう意思を表明したか。もう一ぺん繰り返して申しますと、あなたは協議であるから協議がととのわない場合がある、協議がととのわないことは拒否権があると信ずる、こういうことをアメリカ交渉の相手、マッカーサー大使ですか、その相手にそのことをあなたがお伝えになって、それに対してマッカーサー大使は、ああ、それはあなたのおっしゃる通りです、それは拒否権があります、こういうことを言われたのか。あるいは今あなたは私から質問を受けて、おそらくそういうことは交渉の中に出ておらぬと思う。それはとても日本の外交の腰弱がそんなことを言うはずがないと思う。けれどもかりにあなたがここでそういうことを信ずると言われる、これは公けの席だから全部に伝わる。それならばそういうことを交渉の相手方にお伝えになっておるのかおらぬのか。もしおったとするならば、それに対して相手方はどういう意思の表明をしたか、この点をはっきりしてもらいたい。
  64. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 協議の問題につきまして、むろんわれわれは協議でありますから協議がととのわない場合もあり得るし、また協議がととのわないということは日本側なり何なり一方がノーと言った場合になるわけであります。その意味におきましてアメリカ側も私は了解いたしておると思います。
  65. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 藤山さん、あなたもいろいろ苦心して交渉されておるだろう。それはよくわかりますが、私はそういう日本国民が不安を感じておるところのことだけは明確にしておいてもらわぬと、それはせっかく苦心されて、かさ屋の小僧じゃないけれども骨を折ってしかられる、こういうことにならないとは限らない。だからして私はあなたがそれだけはっきりここで信ずると思うという確信のほどを述べられるならば、それは堂々と交渉の相手方にお告げになって、日本国民はこういうような考え方を持っておる、国会でもその一部が現われておる、だからこういう国会を納得せしむるためにも、国民を納得せしむるためにも、当然これらの点についてのあなた方の方の意思を明確にしてもらわなければいけない、こういうことを向うの、相手方の意思をはっきりしたものをお求めになることがぜひなされなければならないことだと思うのです。ただ交渉が協議であるから成り立つこともある、成り立たぬこともある、成り立たぬことは拒否権があると思う。自分ひとりであなたが幾ら大きな胸をかかえてお考えになったところで、それは何も役に立たぬ。私はおそらく自民党の内部においての諸君といえども、この点については私どもと同感じゃないかと思うのです。でありますから、これは決してひとり反対党の立場から言うというのじゃなく、先ほども申しますように、ほんとうに私は国民の一人として不安にたえないから、この点を少しくどいようであるけれども突き詰めてもっともっとはっきりした交渉をされるのか、そういうことについて相手方に伝えられるのか、今まで伝えられたことがあるのか、相手方は何と言ったのか、もし今まで伝えられていなかったならば、今後伝える意思があるのか、これだけのことでもはっきりしておいてもらいたいと思います。
  66. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 むろん交渉に当りまして、われわれが主張して参ってきております問題についていろいろな説明もいたさなければなりません。それはこの議会等の論戦を通じてのこういう問題があるということも説明をしております。またその他世論等に現われておる状況等についても申しておることは、これは交渉の過程において当然われわれがこららの要求しておりますことを通す上においても必要なことでありますし、そういう意味においてわれわれは決して簡単にただ交渉をしておるつもりはないのであります。十分日本考えておることを達成するように努力はいたしておるつもりでございます。
  67. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 努力されておるということで、向うがそれに対してどういう返事をしたかということは交渉の機密に属するからここでは言えない、こういうことですね。努力されておることは努力されておる、しかしその努力の結果は一向何にも現われておらぬ、こういうことになってしまうわけなんですね。  それから事前協議をされる条項は今申しました日本にあるアメリカの基地からの他の地域への出動の場合と、そのほかには日本の国内における軍の装備、配備等についても協議をする、こういうことになっておるようでありますが、それもそうですか。
  68. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 むろん装備、配備の問題につきましては、重要な問題について協議をしていかなければならぬと考えておりますから、協議事項に入れて参りたいと思っております。
  69. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 その軍の装備、配備等の中には核兵器は含まれておりますか、おりませんか。
  70. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 むろんその装備のねらいの一つが核兵器であることは当然であります。
  71. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると核兵器が装備という中には入っておるということが今はっきりしました。  そこで問題は、日本におけるアメリカの飛行機は核兵器を搭載する能力を持っておる。岸総理はこの前の国会で、小型の核兵器は自衛力として持つことができる、こういうことを言っておられます。そうすると一体核兵器の小型とはどういうものか、核兵器に消極的な自衛力としてのものが一体あり得るのかどうか、どこまでを小型と称し、どこまでを大型と称するか、これはあるいは核兵器のメガトンの重量とか、そういうことによって決定されるという機械的なお答えがあるかもしれませんけれども、われわれはそういう点に問題があるのではなくして、アメリカの在日空車が核兵盟を搭載する能力を持っておって、そうしてこれを持ち込む装備、配備等について事前協議を受けるけれども、これまたもし日本が承諾しなかった、承諾しなかったにもかかわらず、アメリカは自分の戦略的な立場から、どうしても日本に核兵器を貯蔵しなければならぬということで強行される、この場合は一々それを日本の軍事力によって監視するということはできないわけです。できぬとしますといつ何どき持ってきたかわからない、日本が承諾しなかったが持ってきた、ああ持ってきてしまったかというようなことでぽかんとしておらなければならぬ、こういうことになってしまう。外部に出勤するときはなるほど兵隊が動くのだから、これはだれの目にもすぐわかりますけれども、こそっとないしょで核兵器を日本に持ち込んできたときは、だれもこれを監視し食いとめる力を持ったものはない、だからこれらの点についても、日本の安全を保障するだけの自衛の手段として使うアメリカ軍であるならば、そのような偉大な破壊力を持った核兵器などを日本に持ってきてもらうことは迷惑だ、というくらいの自信と信念を持って私は折衝に当ってもらわなければならぬと思いますが、それをただ一片の事前協議という事項の中に包括さしてしまうということは、交渉の点においてせっかく苦心しておられる藤山さんを非難するようですけれども、あまりにもたよりないと思う。だからこういう点についてはどういう経過になっており、その核兵器の大小ということは、一体何によって決定するのか。そういうアメリカが持ってこようというのは、いずれは岸さんが言うような、目に入るような小型ではなかろうと思う。これはどうなんですか。
  72. 岸信介

    岸国務大臣 ちょっと、質問の要点は外務大臣でありますが、その前提として、私が何か小型の核兵器ならば自衛隊が持っても差しつかえない、あるいは持ち込ましてもいいのだというような発言をしたように今前提がなっておりますが、絶対にそういう発言をしたことはございませんで、私は一切の核武装は自衛隊にさせない、一切の核兵器は日本に持ち込みを認めないということを国会を通じて申しております。ただ憲法の解釈として、いかなる場合においても、核兵器という名がつけば、持つことが憲法違反であるというふうな憲法の解釈論としては、私はそこには疑問を持っておるし、そう憲法は解釈すべきものではない、核兵器と名がつけば、いかなる核兵器をも憲法が禁止しており、違反である、こういう憲法解釈はとらないということを申し上げたのでございます。しかしながら自衛隊は核武装をしないし、また核兵器を持ち込ませないということは、私がしばしば国会で言明しておる通りでございまして、その点だけは誤解のないように願います。
  73. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 外務大臣お答えの前に、今岸さんからきわめて明確なお話がございまして、よく理解しました岸さんは、日本憲法の解釈論としては核兵器必ずしも自衛力として否定することはないが、自分の政治的立場においては、核兵器は一切持たぬ、こういうことがはっきりされたということだけはよくわかりました。
  74. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 核兵器の協議に当りましては、むろん核兵器のどういう種類ということを区別するわけには参りません。核兵器全般に対して協議事項にすることは当然でございます。
  75. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 ただ単に事前協議というのでなく、今言うように、アメリカ日本と協議をするといいますから協議をするでしょう。協議をしますがそのときに、さっきの議論と同じように、日本はそういうものを持ち込んでもらっては困る、こう言いますね。ところがそのときにアメリカは、やはり太平洋戦略の上からいって、戦術的にどうしてもこれを装備しなければならぬという必要が生まれて、日本に持ってこようとするわけなんですから、そのときに日本がいやだと拒絶した場合に、軍が出動するというような、あるいは飛行機がここを基地として飛び立つというような場合にはすぐわかるわけなんです、世界中の目に見えるわけです。けれども、核兵器を日本にこそっと持ってくるときには、だれも監視していないわけです。また日本の方でアメリカの軍の行動について、そういう平時の場合は一々監視するわけにいかない。そうしますと、アメリカアメリカの戦略的な必要から、ここに置こうということで持ってこようとする。日本から拒絶されたからといってじゃそのまま戦略を変更して核兵器を持ってこないでおくかどうか、そのときに持ってきた場合にどうすることもできないではないか。そうして持ってきてしまった場合に、何かの場合に、万一の場合に、それがどこかへ出動するというようなことがあった場合におそるべき結果を招来するから、そういうときにやはり拒否権があれば、日本だけの自衛のためならば、決してそういう核兵器は必要がない。だからそういうものを持ってきてもらっては困る、極東の他の地域の安全保障のためならば、グアムなりホノルルなり、別なところに持ってさておいてもらいたい。日本に持ってきてもらうことはいけない。はっきりそれこそ条文の上に明記されておかなければ、いつ何どきないしようでこそっと持ってこられるかもわからぬ。そういうことはないかもわからぬが、あり得るかもわからぬ。あり得るであろうという疑念がわくだけでも不安が高まってくるだろうと思う。
  76. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 今回の条約に当りまして、現在ないところの協議事項を入れることなのであります。また協議事項につきましては、先ほど来申し上げておりますように、協議がととのわない場合は、日本がノーという場合があるわけであります。そうすれば当然核兵器は私ども持ち込まないということを考えております。なお大きな政治的な観点から見ましても、日本人のいやがることをやってそうして日本がノーと言ったにかかわらず持ち込むというようなことでは、日米の防衛体制というものは、日本国民がいやがることによってほんとう運営されないことは当然であります。そういう政治的な観点から、再々見ましても私は協議事項というものはそれで十分拒否権を持っているということを、先ほどの問題とあわせて申し上げられると思っております。
  77. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それならば、日本以外のアジアの他の地域のことまで条約に入れる必要はないではないですか。日本の安全のために、日本に駐留するアメリカ軍と、ほんとう日本が攻撃された場合には、日本武力も共同して防衛に当る、こういうことならば話はわかるけれども、日本の場合ではないのです。日本以外の極東のどこかの第三地域の問題なんです。そういうことがふくまれておるから、この疑義が一そう強まってくるわけです。日本だけの問題ならば、それは見解の相違で、私どもとあなた方との違いが起ってくるかもしらぬけれども、日本ばかりの問題ではなく、日本以外の場合が想定され規定されておるから、その場合のことが問題で、アメリカの戦略的な必要から核兵器を日本に置いておかなければならぬ。それは日本に使われるのじゃないのですよ。日本に使われるために持ってくるのでなくて、日本からどこかに出動する場合に必要だから、使うときに、アメリカの本国を基地とするよりは日本の基地を利用した方が戦術的にも有利である。こういう点でアメリカは、ことさらに日本という言葉以外に第三地域を、別に特定の地域でなくて、極東という非常に広い地域を想定しておる。ここに核兵器の問題についての不安が高まってくるわけです。今も岸総理がはっきりと、日本日本の自衛のためには核兵器を持たない、こういうことを言明されておる。それならば、この総理大臣の意思に反して、アメリカの戦術的な利用度から、どうも日本の基地に置いておいた方がよいというような考え方から、しかもはっきりしておることは、核兵器を搭載する能力を持っておる装備を持った飛行機が現実に日本にあるわけなんです。そこえもってきて、戦略的な点からと戦術的な点から核兵器を日本に備える。これは日本のためではないのです。アジアの第三地域のために備えるというのでありますから、それだけなお私は、日本にとっては拒否権を明確に規定すること、これは日本の基地から軍が出動する場合と同様に一番重要な点だと思いますが、どうですか。
  78. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 総理が言われましたように、日本の自衛隊は核武装をしない、同時に総理がかねてから言われておりますように、日本に核兵器を持ち込ませない、また持ち込むことを拒否する、こう言っておられるのでありまして、従ってそのこと自体は、協議に当って、日本国内のために持込むという場合でなく、むろん極東の地域のどこかに使うために持ち込むのだという場合でも、総理考え方から申して、当然これは拒否することになろうと思います。従ってそういう場合に、極東の他の地域に使うからといって日本においておくということは、あり得ないと私ども考えております。
  79. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 明白になりました。それでは、いかなる理由によろうとも核兵器を持たない、またアメリカの核兵器の持ち込みにも反対であるという岸総理のもとにおいての内閣が安保条約改定に当るのでありますから、この総理の意思を明確に相手方に知らしめる意味からいっても、私はただ単にこう思うとか、ああ信ずるというのでなくて、はっきり条文の上に明記しておいてもらいたい。それはもし核兵器の持ち込みが条約の条文の上に表われないで、何か交換公文のような内容において示されるならばそのことは交換公文の上においてでもよいから、はっきり岸総理の意思が表明されるように交渉が進められなければならぬと思いますが、この点について岸さんはどうお考えですか。
  80. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど来いわゆる事前協議というものの意義について、いろいろ御議論があったわけであります。もちろん事前に通告するとかいろいろな方法があると思います。しかしそれを特に事前協議を経なければこういうことをしない、こういうことをするについては事前協議を必ず行う、ということを明瞭にするということは、先ほど来藤山外相が申しましたように、明確に拒否する場合もあるし、あるいは受諾する場合もある。それによってアメリカ条約違反するという前提を持てば別でありますけれども、われわれはこういう条約でございますから、その条約は両国とも誠実にこれを守るという前提に立って考えておるわけでありますから、われわれが拒否したことに対して、アメリカがこっそりそれにもかかわらず持ってくるというようなことを、私どもは想像をいたしておりません。従って事前協議ということを明確にすることは、当然われわれが拒否する場合もありますし、政策上すでに明瞭にしておるような事柄は拒否するということは、アメリカ側においても十分私は了承しておることだと承知いたしております。
  81. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 ただいま総理からお答えがございましたが、そのお答えの趣旨は藤山外相と同じ御趣旨でありまして、少しも私どもは得心することができません。残念ながら岸さんの考えも、やはり何とかしてその場をつくろっていこうという逃げ口上以外には受け取れないのです。これは非常に残念なことです。しかし私どもは協議はあくまでも協議であってことにこの条約や法律の条文等に使われる言葉は、この文字というものが非常に重要な性質を持っておると思うのです。そのときにそれだけ明確な拒否権を表明し得る意思をお持ちならば、私は文字の上にそれを表明されることは当然ではないか、こういうわけであります。これらの点について文字の上に表明することをどうもおきらいになるようですが、おきらいになるということは、日本の外交の腰の弱い点ではないか、こういうことも憂えられます。それからそれだけでは残念ながら国民は納得しないであろう、私はこれが一番重要なことだと思うのです。なるほど国会政府党が多数でありますから、総理大臣の面目や外務大臣の面目や、そういう点からいろいろ工作されれば、国会はあるいは通過するかもしれませんけれども、しかしながら私は、国民ほんとうにこの内容を知ればおそろしさこそ感ずれ、利害関係のない限り決してこれに同調することはなかろうと思います。そういう点で私は、自民党の内部にも慎重論があるということは当然だと思うのです。でありますから、私はそういう点で明確に表明し得られる機会がつかめるならば、それは自民党内部をも納得せしめることができ得ましょうし、あるいは国会を納得せしむることができるかと存じますが、しかしながら今おっしゃるような主観だけでは、私はなかなかむずかしいと思います。そこでどうしても私どもとしては、ただ単に協議という言葉だけでは、法律的な用語としてはきわめて不十分である、法律的には当然はっきりと同意なりあるいは拒否なりということを明示し得る保留がなされなければならぬということをかたく信ずるものであります。これもまた、それは私の意見だということで議論になれば議論になると思いますから、そういう考え方を持っておる、われわれはそういうような見方をしておるということを明確にしておきます。  それからその次には、この締約国は日本の施政下にある領域において、いずれか一方の締約国に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものと認め、自国の憲法上の規定と手続に従って共通の危険に対処するため行動することを約束する、こういうような内容が報道されておりますが、これは大体この通りですか。
  82. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 先ほど申し上げましたように、まだ最終的草案はできておりません。しかしながら話し合いの過程においてそういう意味の話し合いはいたしております。
  83. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうしますと、いろいろな点は別にしまして、この中にある自国の憲法上の規定と手続に従って共通の危険に対処するための行動をとるということでありますから、この場合日本の施政下にあるといえば、もう日本の領土内であることは言うまでもありません。このときに自国の憲法上の手続と規定ということになっておりますが、アメリカの憲法においては大統領が宣戦の布告権を持っておる。日本の憲法においては第九条の反面解釈として自衛権があるということがしばしば論じられております。それから国際連合憲章においても、固有もしくは共有の自衛権というものがあるということが認められておりますけれども、この自衛権を発動せしむる手続とか規定というものは日本憲法にはないのです。言うまでもなく、前の憲法でありますれば、宣戦布告の権限が天皇にあった。今日総理大臣が国防会議議長となられる権限はあるけれども、実際に自衛隊をアメリカ協力して憲法の手続に従って、もしくは憲法の規定に従って行動せしむるということの規定は何にもないのです。そうすると一体どういう規定に従ってこの場合日本武力は行使し得られるのか。なるほど自衛隊法の第三条あるいは防衛庁設置法の第四条等には、平和と独立を守り、国の安全を保つことを目的として、直接もしくは間接の侵略に対してはその秩序の維持に当ることができる、こういうことになっておりますけれども、ここに規定してあるような憲法上の規定、手続というものは何にもない。もし日本でしいてそういう場合のことを見れば、刑法第七十七条の内乱に関する罪、それから八十一条から規定されておる外患に関する罪、こういうものがあって、内乱の実行者であるとか予備であるとかいろいろあります。そういう者を処罰するとか、あるいは外国から攻撃を受けた場合に、それと通謀して軍事的な利益を与えた者をどうこうするという規定はありますけれども、日本の軍隊を実際に憲法の条章に従って発動せしむるということは何にもないのですが、その場合どうされますか。
  84. 林修三

    ○林政府委員 ただいまの点、まだもちろん条約の条文ができ上っておるわけではございませんから、確実な点についてはお答えするわけには参りませんけれども、いわゆる普通のよその国の安全保障条約で申しますと、憲法上の手続に従って云々というようなことが実は書いてございます。これは主としてアメリカでいえば、ただいま加藤委員が仰せられたようなアメリカにおける大統領の権限あるいは上院の権限、こういうことをさしておるものだと思うわけであります。わが国の場合におきましては、御承知通りに憲法上そういう他国から侵略を受けた場合に日本がどういう行動をとるかということの表面からの規定はないわけで、結局憲法第九条の解釈といたしまして、自衛権を否認されておらない、従って不正な攻撃を受けた場合にそれを排除することは憲法の認めるところである、そういうような解釈が出てくるわけであります。そういう憲法の範囲内においての行動のみを日本はやるという含みで、これはおそらくそういう意味が盛り込まれると私たちは考えております。ただいまの自衛隊法の三条あるいは七十何条でございましたか、いわゆる防衛出動に関する規定、こういうものが当然いわゆる憲法の範囲内において具体化されておるわけでございまして、そういうものを含めての日本の手続ということに考えております。
  85. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 憲法の第九条は、私が申し上げますまでもなく、こういう規定になっておるのです。「第二章 戦争の放棄」「第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」第二項は「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」これが第九条の規定であります。とすれば、日本の自衛権云々という問題は、この反面解釈として、自衛のためには云々という解釈論として自衛権というものが認められておるだけでありまして、この法文の解釈上、軍を出動せ上むるというようなことは、どこからも生まれてこないのです。自衛権があるということは規定されております。従って、当然こういう点から、あなた方の方では憲法改正ということが具体的な問題になるのでしょうけれども、しかし少くとも現行憲法のもとにおいては、そういうことは生まれてこないのです。そうすると、実際にこういう条約を作るけれども、現実の事態が発生した場合においての日本の自衛隊の行動というものは、結局防衛庁設置法もしくは自衛隊法の第三条による以外にはない、こういうことになると、これが憲法に優先するということになってしまうのです。これは私は非常にゆゆしい大事だと思います。憲法の条章の定める範囲内においてこそ法律はあり得るのであって、憲法の条章を乗り越えて法律というものが運用されてはならないと思います。この点はどういうようにお考えですか。
  86. 林修三

    ○林政府委員 これは日本条約改定に当る基本方針としては、日本憲法の認める範囲内ということははっきりいたしております。従いまして、わが国といたしましては、日本の負う義務は憲法の認める範囲外のものを負うことはないわけであります。今の憲法の規定に従って云々というところが、かりに入りますれば、それは要するに憲法の認める範囲内において日本は行動する、こういうことでございまして、現在の自衛隊法もしくは防衛庁設置法というものは、まさに憲法の範囲内におけることを規定しておるとわれわれは考えております。従いまして、具体的には、今の防衛庁設置法もしくは自衛隊法というものに従って日本の自衛隊は動く、それ以上の義務を負担することはない、かように考えております。
  87. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そういう点は法制局長官の専門的な御答弁とも受け取れないのですが、非常にお苦しいような御答弁でしたけれども、憲法と法律との関係は、憲法が基本であり、優先することは言うまでもありません。その憲法に反面の裏面解釈として、自衛権を否定していないから自衛権がある、独立国である以上は、個人に権利があると同様に、国にも自衛のための権利がある、こういうことが、政治論として、解釈論として今日までなされてきたのですけれども、いよいよこういうように明確に憲法の条章もしくは憲法の手続に従ってということが明記されるとすれば、私はこの明記に該当するところの憲法上の規定がなければ実際に身動きができぬと思います。私は、法律は法律でこれは全然別なものであって、その点を今長官が、憲法の解釈から従って生まれた自衛隊法なりあるいは防衛庁設置法なりだから、これによって行動することができるとおっしゃいましたけれども、それは主客転倒だと思う。もし憲法の規定があって、その規定から生まれてこういうものが規定されておるならば、その法律に従うことはよいのですけれども、憲法の規定には何にもない、解釈論としてそういうことが言われておるだけであって、規定としては今言う通り何にもないのです。この点はどうですか。
  88. 林修三

    ○林政府委員 先ほどから仰せられました通りに、憲法第九条の解釈といたしまして、第一項は、いわゆる戦争の放棄あるいは武力の行使、武力による威嚇は国際紛争を解決する手段としてはわれわれは放棄するということになっております。その反面解釈といたしましては、日本独立国としての固有の権利である自衛権は放棄しておらない。従って他国から不正な侵略を受けた場合には、これに対処していわゆる自衛行動をすることは憲法の認めるところである、かような解釈で、これは憲法解釈でございます。その憲法解釈に従ってただいまの自衛隊法ができております。従ってこの自衛隊法は、もちろん憲法の範囲内において、憲法のもとにおいて成立している法律でございます。従いまして、この条約によって、日本が外国からやられた場合にどういう行動をとるかということは―憲法の規定に従って行動するということは、ただいま申しましたような憲法の認める範囲内において、日本の国内法が許している範囲内において日本の自衛隊は行動する、こういうことを言っていることだ、かように考えます。いわゆる憲法の手続に従って云々ということは、これは日本の場合には当てはまらないことだと思いますけれども、憲法の規定に従って云々という言葉がもし入るとすれば、それは今の憲法の認める範囲内において日本が行動するのだ、こういう趣旨だと御了解を願いたいと思います。
  89. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 この憲法の規定に従う、もしくは手続に従ってということは、どこの国でも憲法に、元首に交戦権、すなわち宣戦布告の権限を与えておるからこういうことが生まれてくると思うのですが、日本の場合にはそういうものはないのです。戦争を放棄しているのだから、宣戦布告の権利があるわけがない。従ってその宣戦布告の権限がないものがどうやって動き得るか、これなのです。
  90. 林修三

    ○林政府委員 よその国の集団的安全保障条約では、御承知通りに憲法上の手続に従って云々ということしか書いてございません。これはまさにただいま仰せられました通りに、それぞれの国のいわゆる宣戦布告の権限とか、あるいは大統領の自衛権のための行動権とか、そういうことをさして言っているものだと思います。ただわが国の場合においては、それだけではやはり足りないと思うわけでございまして、そこでいわゆる憲法の手続のほかに、規定に従ってと申しますか、範囲内においてと申しますか、そういう字句が当然そこに入ってくるべきだと思うわけであります。規定に従ってという言葉が入ってくれば、それは実体的な問題を意味しているわけでございまして、日本の憲法の許す範囲内において、日本自衛力と申しますか、そういうものが行動する。そういう意味をさして、手続という言葉のほかの言葉を入れるとすれば、そういう意味で入ってくる、さように考えております。
  91. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると、この報道された内容の点については、なお今後、今法制局長官が言われたような関係等は考慮されて、また変えられるのですね。
  92. 林修三

    ○林政府委員 今申しましたように、いわゆる憲法上の手続という言葉ですと、これは諸外国の安全保障条約の規定に従っているところでありましてそれ以外に何かを。プラスするということが考えられるわけでございます。ただいま申しましたように、憲法上の手続及び規定とかりに今お読みになりましたが、そういう言葉で手続のほかの規定というようなことを入れるということが考えられるわけであります。これは御承知のように、昭和二十八年に締結いたしました日米の防衛援助協定、いわゆるMSA協定、あれもそれぞれの国の憲法上の規定に従って実施されるものとする、こういう条文が実は八条に入っております。そういう趣旨は、もちろん憲法の範囲内においてやるという趣旨であれは入っているわけであります。それと同じような考え方のもとにおける条文が入ってくる、かように御了解願いたいと思います。
  93. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 もちろん条約交渉に当りましては、われわれは日本にあります特別の憲法の関係を考慮してアメリカに話をいたしておることは当然であります。ただそれをどういうふうに表現していくか、また今お話のような場合にどういうふうに表現するかというような問題については、法制局と十分相談の上でわれわれはやって参るつもりでおりますので、今後とも法律当局者と十分な話し合いをして参りたい、こう思っております。
  94. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 約束の時間がちょっと過ぎたそうであります。しかしまだ私のお尋ねしたいことはまだたくさんありますし、問題は重大ですから、同僚の諸君もう少し待って下さい。  それでは、これらの点もどうも私ども納得することができない点が多いのですが、この改定案が効力を発生すると同時に、現在の安保条約は失効する、こういうことになっておりますね。これはそうですが。
  95. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 改定案ができましたときに、今の改定案が新しく調印されれば、現在の安保条約はむろん置きかえられることになることは当然でございます。
  96. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 これは調印と言われたが、実際は批准ですね。批准が済んだならば……。そうすると、現在の安保条約を母体として生まれておる行政協定の問題はどうなりますか。現行安保条約の効力がなくなれば、私はそれを母体として生まれた行政協定というものも、当然効力を失うことになると思うのですが、いかがですか。
  97. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 お説の通り効力を失うものと思っておりますので、行政協定の改定もわれわれは同時に考え交渉を進めて参っております。
  98. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうしますと、政府としては新条約が効力を発生し、旧条約が失効すると、旧条約を母体として生まれた行政協定は当然効力を失う。すると行政協定によって現実の駐留米軍に関するさまざまな約束がなされておるわけです。それらのものは一切同時に効力を失するということになってしまうのでありますが、行政協定の内容と新安保条約の批准と、この間この時間的に、瞬間的に同時にこの効力を発生した新安保条約から、再び行政協定が生まれてくるという何らかの規定が置かれれば別ですけれども、そうでない限りは、現在の行政協定というものは効力を失ってしまう。その間の処置はどうされるか。
  99. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ただいま申し上げましたように、旧安保条約による行政協定は、旧安保条約の効力失効と同時に効力を失うことはお説の通りであります。従って新安保条約締結して批准をするのと並行に、あるいは同時に新行政協定を作って参らなければならぬと思っておりまして、今そういうことで進めておるわけであります。
  100. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 ところが現在の行政協定は、安保条約第三条云々ということになって明確に第三条ということが規定されておるわけですね。従ってその第三条がなくなってしまうわけなんですから、今度は新しい安保条約のどこを母体として新し行政協定がなされるのか。その間に当然時間的な若干のズレというものがきっと起らなければならぬわけであります。そうするとその間どうするか、これも非常に問題だと思うのです。
  101. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ズレが起らないようにやっておるわけでありまして、先ほど答弁したことはズレの起らぬようにやっていく、こういうことでございます。
  102. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 今の行政協定の前文を見ますと、こういうことが書いてある。「日本国及びアメリカ合衆国は、千九百五十一年九月八日に、日本国内及びその附近における合衆国の陸軍、空軍及び海軍の配備に関する規定を有する安全保障条約に署名したので、また、同条約第三条は、合衆国の軍隊の日本国内及びその附近における配備を規律する条件は両政府間の行政協定で決定すると述べているので、また、日本国及びアメリカ合衆国は、安全保障条約に基く各自の義務を具体化し、且つ、両民間の相互の利益及び敬意の緊密なきずなを強化する実際的な行政取極を締結することを希望するので、よって、日本政府及びアメリカ合衆国政府は、次に掲げる条項によりこの協定を締結した。」こう明確に第三条から生まれたということになっておるわけです。今言われるように、条約が効力を発生した。たとえば、さようならきょう条約が効力を発生した。ところがそれより前に行政協定の話し合いがついておって、同時に今度は新しい条約の第何条から行政協定が生まれるということが規定されているか、あるいは包括的に新しい安保条約からこういう行政協定が生まれるか、そのいずれかが定められることかとは思います。そうであるとするならば、行政協定の改定交渉安保条約と同時になされなければならぬことになるわけでありますが、これは順序を追うて段階的にいけば、行政協定は無効になると思う。われわれとしては行政協定が無効になることはけっこうなことでありますから、大歓迎ですけれども、政府としてはこういう点においてどうされるか。それからまた今の行政協定を母体として生まれた刑事特別法なり、民事特別法なり、土地等特別措置法なりという法律があるわけです。これらの法律も当然効力を失するということにならなければならぬわけでありますが、これらの問題についてどういうように処置されようとするか、その点についてもお伺いします。
  103. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 むろん新安保条約が批准をされ、批准書寄託によって効力を発生することになろうと思いますが、その際行政協定の方も同時に行われて、そこに時間的ギャップのないようにいたして参りたいと考えているわけであります。従って交渉においても、お話のように安保条約と行政協定とは並行してやって参らなければならぬと思います。並行的にやって参っても、時間的に若干のズレのあることは当然でございますが、両方の改定をいたし、またその間における関係というものはむろんつけて参らなければならぬのでありますから、そういう意味において全体としての交渉をいたして、最終的妥結にいくという方向で進めていることはむろんでございます。
  104. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 この点は、単に法律の形式論的な問題ではないと思うのです。形はなるほど法律的形式論になっておるようでありますけれども、実際には非常に大きな政治的意義を持っている問題だとわれわれは考えているわけです。当然行政協定こそが―今の安保条約はたった五条で、何も具体的なものは規定していないわけです。行政協定がほとんど条約内容を持っているわけですから、本来ならば行政協定そのものも、国際間の協定の一種として当然国会承認を経なければな、らぬものである。この前の行政協定の、ときも、われわれは当然国会承認を経なければならぬものであるという観点から議論をしたのですけれども、そのとき政府は、単なる政府間の行政協定だから、国会承認を経ぬでもよろしいこういうことでとうとうのがれてしまったわけですけれども、これからさらに幾つかの法律が生まれてくるというような重大な母体となべきものを、単に一片の政府間の行政協定だから、国会承認を経なくてもよいというような、三百的な議論はいけないと私は思うのです。今度は当然これは国会承認を経る手続をとられるかどうか。
  105. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 今度は行政協定は国会承認を得るようなことに考えて参っておるわけでありまして、本条約と行政協定とを一括して議会に提出することができるように努力をして参りたい、こう思っております。
  106. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 その点外務大臣がはっきりここで言明されましたから、われわれもそのような期待を持ってそのときを見守っておろうと思います。  それからいろいろまだこまかい点についてはございますけれども、もう時間が過ぎておるそうでありますから、そのような点はやめまして最後に日本安全保障の問題に関する私どもの見解を明らかにして、これに対する岸総理の所見をお伺いしたいと思います。  私どもは、先ほど来私がしばしば申し上げましたように、現在の安保条約日本安全保障を保ち、平和の上に役立ってきた、こういう岸総理の見解でありますけれども、われわれはこれがために日本は非常な不自由な窮屈な立場に置かされてきたということを考えるものでありまして、その考え方、見方はいずれにしましても、この条約が非常に不合理なものである。今日こそ当然一九五一年当時と客観的な国際情勢主体的条件も変ってきておるから、政府においては現在の安保条約を母体としてこれをどういうように改定するかという主として形式的手続の点と、さっき言うような内容変化とを求めて新しい条約を結ぼうとされておる。私どもはこういう不合理な、非条理な、どこから見てもいびつきわまる条約は、当然一度廃棄されて、そして日本日本の自由な立場に立って、独立国としてどうやって安全保障を保っていくかという道について検討、考究すべきである。こういう考え方を持っておるのでありますが、もとより現在の安保条約は、廃棄等については期限が定められていない。従ってこの廃棄をなし得る場合は、両国政府が合意に達して国際連合が十分な機能を果し得られるようになって初めてこの条約が必要でなくなるということ以外にはないわけであります。しかし現在の国際情勢日本主体的条件等を正直にアメリカと話し合って、日本はこの安保条約ではもう日本の安全を保つ道ではない。だから一ぺん今後あらためてアメリカと約束をするか、どういう道をとるかということは日本が裸になって考えてみたい。だから一応この条約については御破算にしようではないか、こういうことを申し出たとしまするならば、アメリカはそのことについて反対するかもしれぬと私は思います。反対しても日本が、一たび一方の政府がそういう意思を表明すれば、私は事実上この条約の効力というものを非常に減退せしめることになると思います。そういうことが考えられますから、急いで現在のいびつな非合理な条約を基礎として改定案考えるのではなくして、これは一応このままにしておいて廃棄する手続についてどういう交渉をするとか、あるいはその後にどういう案がいいのか、あるいはこの条約を基礎としてまたもう一ぺん改定するのがよいのか、そういうことをもう少しく慎重に検討するという上からいって、この条約改定を一応中止すべきではないかというこが一つ。  それから私どもの日本国家の安全をはかる道としては、自民党の方々から言わせればそれは社会党の単なる観念論であるという非難をされておりますけれども、われわれは観念論とは思わない。ほんとうに太平洋の平和を保とうとするならば太平洋に面して国をなす日本アメリカ、中国、ソビエト、これらの国々が手を結んでバンドン会議の十ケ条の平和憲章に基いてあらためて新しい形の不可侵条約を結ぶならば、これが私は一番日本がいずれの陣営にも属さないで、平和を保ち得られる道だと信ずるものであります。ただそのときに現在ソビエトとは平和条約も結ばれていない。北京政府とは台湾政府関係があって、全然国際的にも承認されていない。日本がこれをすぐ条約の相手とするというようなことはできることではない、こういう御意見が生まれてくると思いますが、もちろんわれわれは今の日中関係あるいは日ソ関係をそのままにしておいて、すぐに今言う四ケ国なりあるいはその他のビルマでもセイロンでも、今度新しくできたマラヤあるいはシンガポール、これらの諸国でも、すべてほんとうにそういう集団的な不可侵条約に参加し得られる国々があるならば、参加してもらってもけっこうですが、今の関係においてはそれは事実上できない。われわれもできぬごとをよく知っております。それならばそのできるうに努力をする。たとえばソビエトとの関係におきましては、自民党の鳩山内閣のときに、鳩山さんがあの不自由なからだでソビエトまで行かれて、日ソ国交回復のために努力をされて、平和条約とまではいかなかったけれども、両国の共同宣言によって戦争終結の宣言が発せられ、そこで国交が回復をした。当然私は―鳩山内閣のあとを受けた石橋内閣は中断しましたが、今の岸内閣はその鳩山内閣当時の努力を受けて、日ソの平和条約締結されるような方向努力をされるべきである。北方の領土の問題がかれこれ言われております。よく世間で言うことは、社会党やその他は、沖縄、小笠原のことは問題にするが、北の方の領土の問題は一向問題にしないではないか、こういうことが言われておりますが、現在ソビエトと日本とは、まだ平和条約は結ばれていない。ほとんど鳩山内閣だけで中断されてしまっておる。こんなときにどうして北方の領土の問題が問題として日程に上ってくるか。小笠原や沖縄の問題は具体的に安保条約というものが日程に上っておるから、これらの領土の問題が問題として提起されておるわけであります。もし日ソ平和条約締結のために、岸内閣が積極的な努力をされるというならば、その努力の過程において当然北の方における領土の問題も明確になるであろう。われわれはサンフランシスコ平和条約における領土放棄の条項がそのときにどういうように適用されるか。今沖縄の問題でもほんとうアメリカ国際信義に反しておる。当然アメリカ国際連合に、アメリカを唯一の施政権者として信託統治に付されるべき義務を持っておるわけであります。ところがそれは一向義務として履行されていない。あたかもアメリカの領土のごとくに平気で一切軍事施設が行われておる。これは別問題としまして、とにかくそういうように安保条約が具体的な日程に上っておるから、西南の領土の問題は問題となっておりますが、私は岸内閣が鳩山内閣のあとを受けて、日ソ平和条約締結のために、積極的な努力をされるというその努力の方法と、それから中国の問題でありますが、この中国の問題についても、いろいろ見方はありましょう。意見もありましょう。だが現実の問題としては、せっかく貿易が行われようとしかかってきたときに、一昨年岸さんがアメリカに行ってああいう先ほど読んだような宣言、すなわち共同宣言が発せられて、それでついに貿易までも途絶してしまったということで、今日はほとんど全部が中断の形になってしまっておる。しかも岸さんはしばしば決して中国を敵視するのではない、こう言っておられるが、相手方からは岸内閣が中国を敵視しておる政策をとっておると認められるような態度が見える。こういうことは非常に遺憾なことでありまして、もし岸内閣が日ソ平和条約締結のために積極的な努力をすると同様な努力、日中国交回復のために努力をされて、平和条約をすぐ結ぶことができなければ、あるいは両国の共同宣言によってソビエトの場合と同様に国交回復への道はあるわけであります。そういう努力をされるそのことこそが、太平洋面における集団地域安全保障―今でも日米だけでもこれは集団安全保障ということがいわれるでしょうけれども、そうではなく、一方の陣営に偏することなく、両方の陣営に超然として積極的な中立の立場から、いずれの側にもそうすることが、私は米ソを中心とする国際間の緊張を緩和する上においても、日本は役立つことができると思う。そういう役割を果すことこそが、日本民族に与えられたる一つの大きな使命ではないかと思う。そういう点で、そういう努力をされるならば、私はその努力自身が四カ国の不侵略集団条約を可能にせしむる道であると思うのであります。これは見解の相違ということになってしまえばそれまででありますけれども、少くとも私は、日ソ平和条約締結のために、日中国交回復のために、積極的な努力がなされるということが、社会党の考えておる中立政策というものが単なる観念論でないということを立証するものであると考えるわけであります。この点についての岸さんのお考え方はどうであるか、これをはっきり聞かせてもらいたいと思います。
  107. 岸信介

    岸国務大臣 第一点の安保条約を現状のままに置いておいて、そうして廃棄の努力をしろ、従って安保条約改定交渉はこれをやめたらどうだという御意見でありましたが安保条約そのものが日本の平和と安全に寄与した、この見方につきまして遺憾ながら加藤君のお考えとわれわれの考えは違っておるのであります。私どもはこれは、戦後における国際情勢のもとにおいて、日本の安全と平和を維持する上において貢献をしたものである、こう考えておるのであります。しかもこの点においては加藤委員と私は考えを同じくするのでありますが、現行の安保条約がいかにも独立日本としては不合理であり、またその内容アメリカに一方的であって、今日から見てわれわれとしてはとうてい国民的にも満足できない内容を持っておるということについては、私もそう思うのであります。従ってこれを合理的基礎に置いて、しかも安保条約の本来持っておるところの日本の安全に寄与するこの効果は今後続けていくということが適当である。従ってその不合理な点をできるだけわれわれが是正していく改定努力は、今後も続けていきたい考えでございまして、せっかくの御意見ではありますけれども、これをやめて、現行のままに放置しておくということは、私どもとらないのであります。  第二に、いわゆる積極的中立主義によって、日本安全保障のために米ソ中日のこの四カ国の間における集団安全保障体制をとれ、そのためにまず日ソ平和条約の問題について積極的な努力をしろ、また中国の承認と国交回復の問題についての御意見でございました。私どもはしばしば国会でも申し上げているように、今日の国際的のこの大きな流れというものは、いわゆる東西両陳営に分れて対立しておるその間の緊張というものが世界に不安を与えておる。これを何とかして緩和しなければならぬ。しかもこれは巨頭の話し合い、会談やあるいは責件者が話し合ってこの緊張を緩和すべきものであるという見解のもとに、あるいは外相会談であるとか、あるいは巨頭会談というようなものの成功を心から願っており、また国際連合等における会合等においても、そういう方向においてわれわれが努力しておることは御承知通りであります。しかも最近におけるジュネーブにおける外相会談の結果を見ましても、東西の西ベルリンに対する見解は根本的に違っております。それは同時に両陳営のこの国際的な考え方世界観が違っておるということを明瞭に示しておるものであります。私どもは現在の状態において非常に残念に考えております。こういう情勢のもとに、今の米ソ日中を含めたところの安全保障体制極東においてできるということを考えること自体が、私は国際の現実から離れておると言わざるを得ないと思います。またそれは直ちにできなくとも、その努力として日ソの平和条約締結のために積極的に努力しろというお話でございます。日ソの平和条約というものがなぜできなかったのか。鳩山前首相が病躯を押してモスクワに行って、共同宣言の程度において国交を回復せざるを得なかったということは、領土問題に関する彼我の見解が全然対立し、そうしてその間におけるところの調和ということが不可能であった。われわれは、少くとも国後択捉に対してわれわれが固有の領土権を持っており、これが日本領土であって、いかなる意味においてもソ連に属すべきものではないということは、これは国民的の一致した主張であり信念であると思うのであります。従ってそれをソ連が認めない限りにおいては、これを譲ることは日本としてはとうていできないことであります。その後において両国の間に友好関係を進め、あるいは貿易関係、あるいは漁業の関係、あるいは文化の関係その他において日本国民のこの信念なりこの一致した考えというものをソ連が正当に理解して、その問題に関する従来のソ連の主張を緩和して、日本の主張をいれるということの状態ができることが、日ソの間の平和条約を作り上げる唯一の道であるという考えのもとに、あらゆるそういう方面の努力を重ねてきております。また北洋におけるところの安全操業の問題に関連して、ソ連の日本側への通告等を見ますと、ソ連は従来の領土に関する主張を少しも変えていない。こういう状況のもとにおいて、われわれが正式に領土問題を持ち出すということは、せっかくわれわれが日ソの間に国交を正常化し、友好関係をだんだんと深めていこうという努力に対して、むしろできないことが初めからわかっておることを持ち出すことは、百害があって一利もないことであるということで、その点は今日までそういう領土問題を直接に問題とし、従って平和条約の問題と正面から取り組むことはいたしておりませんけれども、あらゆる意味において友好関係を深めて日本に対するソ連側の理解を深める努力は、われわれは一貫してやってきておるところであります。  また、中国に対する関係につきましては、これまたしばしばこの席上におきましても、その他の席上におきましても私どもはっきり申し上げておるのでありますが、私どもはやはりこの中共との間において、今日政治的な関係を開いて国交を正常化するとか、承認をするとかいう問題については、まだわれわれはその前に処理しなければならない国際的の関係がある。しかしお互いが友好関係を深め、お互いが繁栄していく道をたどっていって、そうして理解を深めていくためには、経済関係についてはこれを進めていきたいという考えのもとに、われわれはあらゆるその機会をつかまえるように、重大な関心を持って、日中間の関係の調整に意を用いておるわけであります。ただ不幸にして今日まで中共側は、やはり政治と経済は不可分であって、われわれの主張するような考え方はこれを受け入れないということを明瞭にしておりますので、いまだ私どもの願いを達するような機会をつかみ得ないということははなはだ残念でございますけれども、そういう考えでおるわけでございます。  しかしそれと、先ほど申しました、この際日米の安保条約にかえるに四カ国の安全保障体制方向を作り上げるというような考え方は、私どもは国際り現実から遺憾ながら賛成できないのであります。そういう意味において、安保条約改定についてはできるだけわが方の主張を通して、合理的な基礎のもとに日本の安全をはかるような条約にいたすように、この上とも努力をしたい、かように考えております。
  108. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 だいぶ時間を長くしし相済みませんでしたが、とにかく一言だけ申し上げておきたいことは、岸総理も中国の政治と経済が不可分であるという意見に対して遺憾の考え方を持っておられるようですが、先ほど申し上げました岸さんとアイゼンハワー大統領との共同宣言の中にも、やはり経済と政治が不可分であるということがうたわれておる。これはどこの国でもやはり政治の基底となるのは経済なんだから、政治と経済がどうしたって不可分的に考えられるということはこれは当然なことだと思います。それはそれでただ議論になってしまうからやめます。  長いこといろいろとお尋ねしましたが、結局われわれの考えることが政府によっては十分理解されないし、政府考えておることも、われわれにとってはとうてい得心がいかない点で、きわめて遺憾でありますけれども、そういう結果になってしまう。これは将来の問題としては、私は今岸さんがこの国会を終ったら外遊されるし、外遊期間にいろいろ国際情勢をごらんになり、また外から日本情勢をごらんになって、どうするかということはおのずから決定されることであると思いますが、われわれはむしろこういう状態のもとにおいては、国民の意思を明らかにしてもらうために適当な措置を講じられることが必要でないかということすら考えております。もちろんこれは政府に権限のあることですから、われわれの方からかれこれ言うことはできませんけれども、おそらく岸総理としてはこういう点についても考えておられることと思います。  それから最後に一つだけ外務大臣にお尋ねしたいのですが、それは南ベトナム賠償の問題です。
  109. 小川半次

    小川委員長 加藤さん、お約束の時間よりも一時間も過ぎているのですが……。
  110. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それはわかったけれども、こういう機会はきょう一日だけだろう、ちょっと待ちなさい。もう二分です。  とにかく南ベトナム賠償協定が成立したと伝えられております。いずれ秋の臨時国会にはその批准が求められるたろうと思いますが、私どもはこの前の国会予算委員会の席上でも申しましたように、南北ベトナムの統一への大きな努力がなされておる。なるほど南の方は統一ということを回避する傾倒でありますが、全体としては統一の機運へ向いてきつつある。それから統一せしめなければならないという考え統一した政府こそがベトナムの全体の政府であるという考えを持っておりますが、政府は南ベトナムだけが正統政府であって、北ベトナムは全然圏外に置いて問題にされていないホー・チミン北ベトナム首席は、もし統一されたベトナム政府ができれば、そのときは日本の賠償の問題を含めて古い日本関係一切は忘れる、こういうように賠償問題に対してきわめて好意的な態度表明しておられるのです。にもかかわらず、今度五千五百六十万ドルという巨額が賠償として―これは経済援助も一緒ですが、それだけのものが出されるということになると、南だけが日本の賠償によってあたたかい思いをするということで、せっかくの統一機運が阻害されるという危険は多分にあると思うのであります。これは先ほど申しましたように、フランス軍と北ベトナム軍との紛争があの問題を引き起し、その結論がジュネーブ会議においてなされたその趣旨からいきましても、日本政府の賠償問題等は一切が統一政府のできたあとに譲られるべきものであって、それを急いで南だけに賠償を供与されるということについては、何かしらそこに一まつの疑念を生ぜしめるものがあることをむしろわれわれは遺憾とするものであります。これらの点について、政府はなぜそれを急がれたかということをこの際はっきりしておいていただきたい。これで私の質問は打ち切ります。
  111. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 御承知のように南ベトナム政府はサンフランシスコ条約の調印国でありまして、日本に対して賠償請求の権能を持っております。この条約が非常に急いで調印されたというお話でありますが、交渉の初めからの過程を顧みてみますと、相当長期にわたっておるのでありまして、約八年くらいかかっているのではないかと考えなければならないかと思っております。従ってその間幾多の経緯がありましたことは事実でありまして決して早急にあわただしくできた問題でないわけであります。今申し上げたような条約上の義務を履行する上からしましても、またこの賠償自体がベトナムの全域に対する賠償に相なり、統一後は引き継がれる見地から見ましても、われわれとしては適当な額において決定いたしますれば、これは当然決定すべきものとして処置いたしたわけであります。
  112. 小川半次

    小川委員長 午後三時より再開することといたしまして、暫時休憩いたします。     午後一時五十八分休憩      ――――◇―――――     午後三時二十八分開議
  113. 小川半次

    小川委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  予算実施状況につきまして調査を進めます。小松幹君。
  114. 小松幹

    小松(幹)委員 私は岸内閣経済政策についてもっぱらお尋ねをしたいと思います。  このたびの岸内閣は、経済問題といえば大蔵大臣に限ったようなことでありましたけれども、池田通産大臣を経済閣僚の中核として迎えて、相当な比重をかけております。そういう意味において経済問題が国民に重要な感じを与えておる。のみならず、岸総理みずからが、参議院の選挙が終ってから経済計画に対する岸構想といいますか、新しい経済十カ年計画の構想を指示いたしております。そういう意味で相当重要な関心を持っておるという立場からお尋ねをしたいのであります。  現在経済計画は昨年昭和三十三年を初年度として昭和三十七年に至る経済計画がいわゆる新経済五カ年計画の名のもとに発足しております。その経済五カ年計画は、いわゆる人口の増大とともに、完全雇用、あるいは産業基盤の強化、ないしは輸出の増進、いわゆる経済上の大きな問題をテーマに織り込んだ経済計画を実施しております。ところが、やっと二年目、まだ二年目もかかった初めに、昨年せっかく岸内閣ができてから作り上げた経済計画を一年たって放擲して、再び新しい経済構想を出した、岸総理のそうした新しい経済の構想の変更というものを私はちょっと意外に感じる。こういう意味において、新経済十カ年計画の構想を岸さんが出したその必然性、どうしてそういう構想を出さなければならなかったか、こういうところをまずお伺いしたいと思います。
  115. 岸信介

    岸国務大臣 日本経済状況は、御承知のように、一昨年私どもが緊急総合対策をとって、一時的に経済の調整時期に入って、参ったのでございますが、大体において、最初の予定しておった調整の段階を昨年秋以来大体終って、日本経済が堅実な基礎の上に上昇過程をとるような方向に来ております。本年度に入りましても、あるいは、本年度の予算を編成するに当りまして、国会における御審議の過程においていろいろと経済問題が論議された際におきましても、大体私どもは将来に対して明るい見通しを立て得るような状態にあるということを、いろいろな経済指数等を根拠に御説明を申し上げてきたのであります。しかし、同時に、この現在私どもが立てておる新経済五カ年計画の線に沿うて自本経済を成長せしめるという見通しについては、われわれは十分な見通しを持ち得るが、さらに日本の労働人口、いわゆる生産人口の急激な増加にもかんがみ、また、最近における科学技術の非常な飛躍的な発展を考え、また、日本経済の将来の海外における日本経済協力というものの強化の道程を考えて参りますと、現在のこの新経済計画をさらに検討して、われわれはできるだけ早い機会に、しかもそれが安定した強固な基盤の上に経済の規模を拡大し、さらに国民の所得もふやしていって、国民生活を向上せしめ、雇用の問題もこれによって解決するという積極的な考えのもとに、経済の長期計画を検討し、樹立し得るような見通しが、最近の経済の推移を見ると十分考えられるじゃないか、そういう際におきまして、私はこれらの新しいいろいろな要素を取り入れて、しかも、総合的にこの経済計画の裏づけとなる財政計画や、あるいはまた、これと表裏をなすところの国際収支の長期の見通しについての計画というようなものを総合して、日本経済の拡大、これによって、私の念願は、国民の所得を倍加するような長期計画を立てたい、こう考えまして、これに対する検討を始めるというのが私の考えでありまして、また、そういうことを可能ならしめるような経済の最近の推移の状況である、かように考えております。
  116. 小松幹

    小松(幹)委員 私は、今の大臣の理由を聞いてみますと、まことに薄弱なる論拠をもって新新経済十カ年計画はアイデアとして出されておると思う。なぜかというと、今聞いてみますと、明るい経済の見通しがついたから新経済計画を立てた。それでは去年立てた経済計画は暗い見通しを持って立てたのかどうか。明るい見通しが立ったから経済計画を立てたんだ、去年のは暗い見通しを立てたからだめなんだ。私は去年のはそういう意味の経済計画ではなかったと思う。だから、そういう論拠は成り立たない。同時にまた、去年は調整の過程で、今度は調整過程が終った。調整というものは、一年々々の積み上げた経済のいわゆるダウンが来たために、それを去年調整したのだ。私は、そうした一年々々のダウンとか、あるいは景気の上り下り、循環というもので経済計画は立てるものじゃないと思う。それは、その年々の計画は立てても、経済の推移によっては変えなければならぬこともある。そういう意味の経済計画の構想ならば、それは経済的にいえば、全く選挙スローガンみたいなもの、あるいは選挙が済んだから何か言わなければならぬ、安保条約だけ言っても悪いから、経済の問題でも言おうかというくらいな程度の論拠しかないと私は考えます。  それで、今所得倍増を出した。けっこうでございます。私どもは所得倍増、三倍でも、五倍でもなることを望みますが、あなたはそういう一つ経済的な論拠として、倍増の一つの論拠を持っているはずである。その論拠を承わりたい。
  117. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどの私の説明に関して、小松君の御理解は大へん私の真意に違うのであります。私は、経済の見通しについての明るい。また、将来の新しい所得倍増を目標としたところの新経済計画を樹立することのできるような経済の基盤が確立し、また、将来の見通しをつけ得る、こういう何らの裏づけなくして、われわれが机の上でただ計画を立てる、これは意味をなさないことであります。その裏づけが、一昨年来、また昨年来、本年に入ってからの経済の推移を見ると、そういう裏づけを持ち得るような日本経済の歩みをしておるということを私は前提として新しい計画を立てたい、こういうことを申し上げた趣旨でございます。  この所得倍増のことは、言うまでもなく、われわれの政治の目標として国民生活の水準を高めていき、また、日本の人口の構成の上から申しますと、雇用の機会を拡大して、雇用問題を解決する意味における経済計画というものを持たなければならない。こういう国民生活の向上ということに主眼を置いて考えますと、私は、日本経済の過去における、戦後における推移、最近の状況をずっと考えますと、相当の長期計画を立てるならば、できるだけ早い機会に国民の所得を倍加し、国民生活の向上を考え、また、雇用問題の解決をするということが、政治の目標としてどうしてもわれわれの考えなければならない重大問題である、かように考えて、今の検討を始めているわけでございます。
  118. 小松幹

    小松(幹)委員 所得倍増に対する計数的な論拠のお答えがなかったようでありますので、重ねてお伺いしますが、現在の新経済五カ年計画は安定的成長率をとって参ります。そして六・五%の成長を見通して、今日まで計数的に上っておるわけであります。その成長率はさらに政策的な成長を盛り込んで参っております。いわゆる積み上げ方式によってこれを作り上げております。だから、その成長の趨勢と変動の要因とを組み合せて参っておるのです。ところが、今あなたが構想としてお考えになっておるところの所得倍増の中の経済成長率を見た場合に、私は、安定的な成長というよりも向上的な成長、これは計数的に見れば七・二%になると思う。あるいは十年で所得二倍ですから、平均一〇%とも考えられますけれども、七・二%の平均成長率を見ている。ところがこれはまことに算術級数的な一つの成長率と私は見たい。しかも極大値をとってある。頭から所得倍、こういう極大値をとってあるところに私はちょっと無理があると思う。しかもこれは非常な有効需要あるいは財政支出というものを計画的に増大するという一つの線が含まれなければ、所得倍増のいわゆる向上的成長率というものを押えることはできない、こういうように考えてまたこれを受けているわけです。総理は今回の成長率を二倍増に指示していることは、日本経済の今日までの常識、あるいは最近の経済の不安定、いつも佐藤大蔵大臣が言うように、安定だ安定だと安定的成長を少くともきょうまで言い続けてきた、その過去の実態から見て、岸さんの出しておるその考え方は、きょうまで大蔵大臣が言うてきた安定安定という概念からちょっと飛躍して、ここに意欲的に積極的なものが出ておるということは、私は疑いない事実だ、こういうように考えるわけです。見方によれば、なるほど今の経済というものは、非常に計数的にも数量景気的な傾向を持っておる。けれども、このいわゆる所得倍増論という、一ぺんに七・二%の向上計数を持ってきたということは、私に言わせれば、ちょっとはったりがあるのじゃないか、この調子で経済の活動が進められ、まして、や通産大臣に池田前大蔵大臣のような積極論者がおり、岸総理がまた積極論の基礎の上に数字を立てていけば、私はある程度、これはインフレというものを導き出す一つの要素を持っておると思う。私はこれによって今すぐきょうから経済が過熱する、そういうようなことは言いませんけれども、十年間の一つの歩みの中に、七・二%の向上計数をもって、しかもそういう意欲的なものを盛り込んでいくとすれば、自然インフレ的な要素があると考えますが、その点に対して岸さんはどういうお考えを持っておるか承わりたい。
  119. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん経済の成長なりあるいは拡大ということは、安定した基礎の上に考えなければならぬし、経済の問題について安定ということが非常に大事なことは言うを待ちません。しかし同時に、日本の労働人口のふえていくことに対して、われわれが完全雇用を目ざして雇用の問題を解決する、また国民生活の向上という政治の目標を達するという見地から申しますと、日本経済が本来持っている力なりあるいは潜在している日本経済、の能力というものを逸脱したような計画を立てましても、これは実際に実現できないだろうし、それを無理に実現しようとするときには、あるいはインフレが起ったり、いろいろな好ましからぬ経済現象が起るわけでありますが、経済の実力があり、また今申したような環境に置かれてのわれわれの政治の理想を達成するという意欲を持っての経済政策を考える上におきまして、われわれはそれが可能であり、また可能ならしめるような各般の計画を総合的に検討し、各方面の意見を聞いて計画を樹立したいというのが私の念願であります。もちろん、私は、経済の問題について、インフレを招来したりあるいは非常な過度の過熱を生ずるようなことにおいて、経済の景気の激変を来たすようなことにつきましては、これは経済政策として十分考えなければならぬ。私の先ほどから申し上げておることは、比較的長期ではございますが、また見ようによっては、割合短かい十年という期間に、あるいはそれよりもできれば短かくなるということも願いたいと思うくらい、この所得を倍増し、雇用問題についてのいろいろな問題を解決するということが、われわれの政治に課せられておる一つの課題であります。しかも日本経済の実力を考えるならば、十分そういうことを裏づけるだけの力があるというふうに私自身は認定をしておる。従ってその実力を適当に発揮し、適当なこれに対する助成なり助長の政策をとるということは、決して御懸念になっているようなインフレを生ずるようなおそれはないというのが私の考えでございます。
  120. 小松幹

    小松(幹)委員 私は岸総理のそうした意欲というものに対して、とやかく言おうとするものではありません。ただ人口が増大するということは、これは今始まったことではない。去年のいわゆる新経済五カ年計画を出すときからちゃんと人口の増大というようなものは一番先にわかる問題なんです。だから人口増大の問題を云々して経済計画を当るということはおかしい。これは去年でも今年でも来年でも、大体数字的にははじかれるわけです。そこで意欲は確かに持ってよろしいが、所得倍増という一つのかっちりしたものを上から与えてきたところに問題があるのではないか。インフレになるかならぬかというのは将来の問題でありますけれども、そうしたものを内蔵しておる日本経済の成長をささえていくのは、私は今日は技術の革新だと思っております。同時に技術革新というものは設備投資につながっておる。この主役をなしておるものだと思う。しかもこれが七・二%の成長率をささえていくとするならば、私は相当輸出の増強をはかり、あるいは有効需要の造成ないしは財政支出を膨張させるということを期待しなければ、私は七・二%のこの向上的成長率は打ち出せないと思う。かように考える。特にあなたが訴えるように、これはあとでお伺いしますが、あなたは六月四日に日本経済新聞に、「国民に誓う」という一文を署名入りで発表して、その署名入りの中には幾たびも私はうそを言わぬのだ、国民に誓ってこの政策をやるのだと打ち出しておるのに、私は今日から社会福祉国家の建設と取り組むのだと言っておる。しかも育英制度の拡充もやるのだ、さらには住宅の建設もあなたたちに困らせるようなことをさせないでやるのだ、たとえて、あなたの言葉を引用すれば、今青年が結婚をするのに家がないから困っているだろうから、こういう問題はほってはおけないんだから、今からやるという、まことにやさしい親心を示したような文章を公けにしておりますが、これがまことであるならば、あなたのいわゆる経済構想の裏の中には、はっきり社会福祉政策、あるいは育英制度、あるいは公共事業に大幅に力を入れるんだということを裏書きして出しておる。そういう裏書きの中に、あるいは先ほどあなたがちょっと触れましたように、いわゆるアジア開発の問題もあるから、そういうケースを盛り込んでいくとすれば、私はこれはただごとならぬと思う。相当な財政支出というものを増大しなければならぬ。もちろんそれは設備投資の拡大によって自然増収も、あるいは大蔵大臣佐藤さんの筆先次第では、やみのいわゆる自然増収が出てくるかもしれないけれども、経済計画に最初から自然増収を当て込むというようなこともおかしいわけです。そうならば、いわゆるコンスタントの収入というものを考えたときには、これはどうしても財政支出というものを増収するか、あるいは財源不足を来たすということは、これは火を見るよりも明らかであります。さらにあなたがまだ言うように、老後に心配がなく、こういうような親心的な一つの福祉国家の建設というような大きな問題にかかってくれば、財政支出というものは相当覚悟しなければならぬ。また有効需要の造出ということも、これはあなたが幾ら否定しても、それは計数的に出てこなければならぬ。しかしこういう問題をあなたはなお克服して、こういう問題は自分も考えておるのだ、これを克服してまでさらに経済成長の倍増を達成してみせる、こういうようなお考えだとするならば、あなたの政策はまことにごりっぱであり、まことに積極意欲的な政策を打ち出したのだ、かように考えますが、その点についての御所見を承わりたい。
  121. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん私は、今おあげになりました一文にも私の考えを率直に述べておりますが、福祉国家の建設ということは、私どもが念願をしておることであり、私は先ほど国民生活の向上という言葉で述べておりますけれども、それを具体的にいえば、あるいは国民年金の整備充実の問題であるとかあるいは育英制度の問題、幾多の問題が入ってくると思います。私はそういうことをやっていく上から申しますと、どうしても財政支出がふえてくることはこれは当然であり、その財政支出をまかなっていくには、やはり日本経済というものが常に安定した基礎の上に成長していき、拡大されていくことがそういうことを可能ならしめる基礎であるという考えに立っております。もちろん今私は詳細な計画を持って、そうしてすべての経済成長率やあるいはそれに伴うところの財政支出がどういうふうになるか、あるいは科学の革新をどういうふうに取り入れて、どういうふうな計画になるかというようなことを一切具体的に持っているわけではございません。それはその目標のもとに検討する。そうして先ほども申し上げましたように、単なる経済計画だけではなしに、それを裏づけるところの財政計画なりあるいはまた国際収支の計画というものを総合的に立てて、これを実現していきたいというのが私の意図でございますから、もちろん私が新聞に発表したような福祉国家の建設についての諸政策は、私が政局を担当しておる限りにおきましては実現していきたい。またいくように努力するということが私の信念でございます。
  122. 小松幹

    小松(幹)委員 それではあなたの経済計画、岸計画の底に流れておるものは、先ほど私が例を引きました「国民に誓う」というあなたの政策の中の福祉国家の建設ということが、この経済計画の大きな柱である、こういうように私はあの文章からとれたわけなんです。そうして二回も三回も私は国民に誓うんだ、そうして私のはっきりした政策はこうだ、そうして福祉国家の建設をうたい文句にして、これがために私は経済計画を打ち出したんだ、こう言っているところを見ると、私は福祉国家の建設が今度の経済計画のもはや大きな柱として打ち出されておるというように感じで受け取っておりますが、これはどうなんですか、その点は間違いないのですか。
  123. 岸信介

    岸国務大臣 今申し上げましたように、そういう福祉国家の建設を可能ならしめるためには経済の成長拡大が必要であり、長期のこれを実現するに必要なもろもろの計画を総合的に立てる、こういうことでございますから、ただ経済計画を立てて、それでもって能事終れりではございませんで、目標はあくまでも福祉国家を建設し、国民生活の向上を期するというところにその主眼があることは当然でございます。
  124. 小松幹

    小松(幹)委員 ちょっとこまかいことをお尋ねしますが、やはり経済倍増論を出したというわけで、あなたに一つの技術的な重みがかかるという意味で御了承を願いたいと思いますが、いわゆる設備投資の伸張が輸入に影響する度合いについてあなたはどういうようなお考えを持っておるか。しかも将来貿易の自由化の進展あるいは経済成長の基礎条件の変化等がある、こういう点から設備投資をやったということが輸入にどういうように影響してくるか、その割り振りというものをお考えになっておるか、なっておらぬか、ちょっとお伺いしたい。
  125. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん設備投資をして、設備を拡大いたすなににつきまして、設備そのものの拡大に必要な輸入もございましょうし、あるいはまた拡大した設備を完全に動かすための原材料の輸入というような問題も必然的に考えなければならぬ。従って設備の拡張ということは、輸入を増大するということに必然的になると思います。
  126. 小松幹

    小松(幹)委員 まあそういう技術的な点は、経済企画庁長官に問うた方がよいかと思いますので、あとに譲りまして、総理にちょっと余談のようなことになると思いますけれども、やはり先ほどの「国民に誓う」という中に出ておることを引用してお尋ねしたいのは、国民年金制度のうちで老齢年金の支給額は今日大体千円でありますが、あなたは、老後に心配がなく、私は国民を安心させたい、こう言っておるのです。一体老後に心配がなくやらせたいというあなたの考えを満足するための―満足というても腹一ぱいではないにしても、一応政治家として、今また国民に誓った言葉を満足させるとするならば、老齢年金は一体幾ら差し上げたら老後に心配がなくを満足させるか、その辺あなたの御意見を承わりたい。
  127. 岸信介

    岸国務大臣 もちろんこれは非常にむずかしい問題でございまして、金額を幾らにすればいいかという点は、この前国民年金法を制定する際におきましても、現在の老齢年金として千円程度のものでは、これは不十分であるというようないろいろな論議が行われ、その際にも少くともこのくらいの額は必要であるという御議論もあったのでございます。結局この問題については、やはり日本の社会制度の問題やあるいはその他の社会保障制度の行き渡る状況等ともにらみ合せていかなければなりませんし、一般の生活水準の問題もございまして、今日これを幾らである、こういうふうに規定することは私は非常に困難であると思います。しかし現在発足いたしました千円程度でもって、私は決して満足するものでない、これは十分ではないということは申し上げることにちゅうちょいたしませんけれども、しかしそれならば幾らにするのだというようなことにつきましては、これは今申し上げましたように、今日その金額を具体的に申し上げることは、私は非常に困難であると思います。
  128. 小松幹

    小松(幹)委員 そういう抽象論やあるいはこういういろいろなことがあるからという前文句を作るならば、何も国民に誓って年寄りの心配をせぬようにさせるぞということを言う必要も何もないと思うのです。国民に誓って、老後は安心させるのだ、こういって、千円を何ぼに上げたらいいかもわからぬ、そういうようなことを―あとまだほかに例がありますが、たとえば結婚のできない適齢期の青年に家をやるのだ。それは一日もほっておけないと言っている。ほっておけなければどういう政策で住宅をやるのか。それを一つお伺いしたい。
  129. 岸信介

    岸国務大臣 住宅の問題は、先年来これに重点を置いて、住宅問題解決のために拡大してやって参っております。私の承知しておるところでは、現在の不足しておる戸数としては大体百八十万前後というふうに一応計算しているようです。しかしそれはそのほかいろいろな災害もございましょうし、腐ったようなものもございましょうし、あるいはまた今の、結婚して新たに家を持つ人が年々ふえていくということもございますから、その数字というものはなお動く点があると思います。しかしこれに対して私は、公営、政府の直接もしくは間接に援助して建てるところの住宅と、民間の自力で建設するところの戸数を頭に置いて、今年度におきましては約五十六万戸の建設が見込まれております。こういうことを考えてみますと、その数字だけからいたしますと三カ年間で今の百八十万戸というものを満足させることになりますけれども、ともかくわれわれが目標としておる三十七年度までに、一応住宅の非常に不足しておる状況はこれを解決していくという考えのもとに、財政計画その他の計画を進めておるというのが現在でございます。
  130. 小松幹

    小松(幹)委員 住宅の計画はいわゆる経済五カ年計画で三百万戸という数字が出て、それを着々進めて大体今軌道に乗っていっておるのです。しかし岸さんはそれになおかかわらず、私が住宅の建設をやってあなたたちに家を建ててやるのだ、だから経済計画をこう変えるのだと出しているから、それじゃよけい家を建ててくれるのだなという気が起るのは当りまえです。それはあなたのおっしゃるのは気持としてはいいでしょう。PTAか何かの親心ならいいでしょうけれども、いやしくも政治家が経済計画を出して、私は住宅をやるのだと言った以上は、そういう子供だましみたようなことで発言したり文章を書いたのではから念仏になる。結局は岸さんという人はまことにいいかげんなことを言ったり書いたりする人だ、こういうことになるわけだ。総理が口だけの美文家であったり、あるいは老後に心配させぬようにするのだと言ってあとに政策が何もなかったり、こういうようなことは私は総理としてあまりいいことじゃないと思う。もちろん私は夢を持たせるということは悪いことじゃないと思うのです。そういう意味では政治家が国民に将来に対する一つの夢を持たせるということはいいことだと思いますけれども、来年のことを言うと鬼が笑うというけれども、あんまり先のことをうまい調子で言って、足元が締っていない。何をやるかと尋ねたら何も言わなんでまあいろいろあるから数字が出せぬというような、足元が締らないで、未来だけの未来図を掲未げて国民をだまして票を集めようとするその心得そのものが、私はどうも気に食わない。あなたはかつての指導者であったが、ほしがりません勝つまではということを子供に合言葉にした。そうして今はしんぼうしなさい―ほしがりません勝つまでは、勝ってみせるから必ずしんぼんしなさいと未来図を描かせたのは少くともあなたである。ところが戦後再びそれを裏返したようにして、そういう言葉は使わないけれども、どうも幻想的な未来図を掲げて、そうして何だか国民にアピールしようとするその心得は、まだまだ戦前のほしがりません勝つまではの気持が抜け切れないのではないか。政治家というものは現実を不言実行、こつこつやりのけて、断じてやるというその信念とその行動が、私は岸さんをして偉大ならしめると思うのです。そういう意味でどうか口だけの岸さんでないで、要領のいい、そつのない岸さんでないで、一つ実行の岸さんになってもらいたいということをつけ加えておきたいと思います。  その次に経済企画庁長官にちょっとお尋ねしますが、あなたは今度は新しく大臣になられたのだから責任がないといえばそれまでですが、今まで経済企画庁の方は大体佐藤大蔵大臣の裏打ちをしたような安定的な慎重論で今日まで計数をはじき出してきた。今日六・五%の安定成長というものの上に立って、きのうかおとといか、七月一日のあれにも「二十年後の日本経済」という題で成長率を四%、五%、六%七%にはじいて、そして将来こういうのだときわめていろいろなケース・バイ・ケースで出してアピールしておりますが、あなたは経済計画において岸総理から所得倍増、とにかく一〇〇%伸ばすのだという宿題をぽんと与えられておるのだが、このいわゆる宿題を与えられた長官経済企画庁の今日までの―あしたからはわかりませんよ、どう変るかわからぬけれども、今日までの慎重論とどういうような調整をする考えですか。
  131. 菅野和太郎

    ○菅野国務大臣 経済企画庁が立てました五カ年計画におきまして、大体経済の成長率を六・五%にいたしておるのでありますが、それによりましても十年たてば一・八八倍になるのであります。しかしながら岸総理は最近における経済事情変化からして国民所得の倍増についてもう少し早くできないかというような意見を持たれておるのでありまして、それについてその根拠になっておりますことは、たとえば昭和三十三年度の予想におきましては、鉱工業生産物におきましては〇・一%の増加を見込んでおったのでありましたが、事実におきましては三・一%の増加に相なっておるのであります。それからまた昨年からことしにかけての鉱工業生産物の増加は約二割というようなことに相なっておるのでありますからして、これは一にその後における海外の経済事情の好転ということと、国内においては予想したほど設備投資が減りもせず、そしてまた国民消費も減らなかったというところからして、経済の復興が非常にすみやかに行われてきたのであります。こういう点からして大体昭和三十四年におきましては五・五%の成長率ということを見込んでおったのでありますが、今日ではまだはっきりしたことは申しかねますが、大体それ以上の増加率、成長率に相なっております。かくのごとき情勢で海外の事情はますますよくなるという見通しもつきましたから、従って国民所得の倍増は、六・五%以上の成長率でいくような見込みは大体できましたから、あるいは十カ年以内で国民所得の倍増ができるのではないかという予想がわれわれもいたしておるのであります。  そこでそういう予想のもとにおいて国民所得を倍増するという計画を今私の方で案をせっかく作りつつありますから、いずれ案ができましたら、また皆さん方の御批判もまた御指導もお願いしたい、こう存じておる次第であります。
  132. 小松幹

    小松(幹)委員 あなたのいわゆる経済の見通し―鉱工業の生産が去年は〇・一の増加を見たけれども、今度は三・二だ。去年の〇・一は修正して下げた。裏打ちが出たから去年は下げて修正した。そうしてそのままいくと思ったら、修正したけれども少し上って三・二%ことしは鉱工業生産が去年の計数で出ておるわけです。だから鉱工業生産のパーセンテージは三・二。そうするとあまりそう大したことはない。去年の修正から立ち上って三・二なんですからね。それほどもてはやす数字でもない。それからあなたが海外の情勢がよくなったからと言われるが、日本の東南アジアの貿易を見て下さい。去年、おととし、一体景気はよくなってきたかのどうか、景気はよくなってきません。貿易なんて全然片寄って落ちてしまって、よくなっているのじゃない。反対に東南アジアの貿易は悪くなっているのですよ。しかも今度は欧州共同市場いわゆるブロック経済というものが出てきた以上は、そこに引きつけられる。相当日本がてこを入れぬ限りは、そう貿易といったって簡単にはいかない。だからあなたが海外の景気がよくなったからと言ったってそういうことはだれも―それは一部アメリカの景気がよくなったとか、あるいはイギリスが持ち直したとかいうようなことはありますよ。ところがアメリカの景気といったって金の流出があるし、国際収支はそういいことはありません。景気は悪いことはない。アメリカの今の潜在勢力からいけば悪いことはない。しかしバランス。シートから見たり金の流出からいえば、アメリカだってそう景気がいいと言っても必ずしも日本にものをくれるような経済じゃない。そうなれば経済企画庁長官が海外の景気の問題で経済がいいから七・二%上げても可能だなんという、そういうことでだまされるようなことではならぬと思うのです。だからやはり海外の景気を参考にしますけれども、主体的にわが国の経済は投資意欲がどうなって、この投資をやれば財政支出がこうなるから輸入がこうなるという点から考えて、六・五を七・二にした方がいいんだ、できるんだという可能性を出すなら、それは納得しますよ。しかし今のあなたの部下である経済企画庁は―大来局長がここに来たら一番よくわかる。大来局長は徹底的に安定慎重論じゃないですか、しかも大蔵省の下村さんと論争しているのを見ても、下村さんは池田さんの子分で積極論を出す、そうすると経済企画庁大の来さんはきわめて消極論なり、あるいは慎重なり、安定論を出している。今日七月一日の見通しを出したのもこれは大来さんがゼスチュアでどんどん出していく、そうしてとにかくつじつまを合わせなければ追いつかぬ、追い越さなければならぬから今盛んに出しているということははっきりしている。そういう意味から考えたときには、七月一日に企画庁から出した数字でも、二十年先でも、なかなかそういう数字が出てこない。しかも七パーセントについても出てこない、こういうように企画庁は言っているんですよ。池田通産大臣は違うかもしれぬが、企画庁がこういう数字を出している以上は、企画庁長官がこれを調整しなければならぬということになるが、あなたに一つ聞いてみよう。さっき岸さんにも聞いたのですが、設備投資の増強と輸入との比率をどのくらい見ておるか、それを聞きたい。
  133. 菅野和太郎

    ○菅野国務大臣 私が先ほど申し上げたのは、すべて数字に基いて申し上げておるのでありまして、輸出の増加などもなるほど東南アジアの方の輸出はそれほど伸びていないかもしれませんが、アメリカに対する輸出は増進いたしておるのであります。日本全体から見れば輸出が増進いたしておりますから、そういう意味で輸出が増進しているということを申し上げたのであります。  今お尋ねの生産設備と輸入との関係でありますが、今日これは年によって違うのでりありましてはっきりしたパーセンテージは今のところはまだ計算中でありまして、出しておりません。ただ私の方で出しておりますのは、われわれの消費に対して輸入がどういうパーセンテージであるかということを出しておるのであります。国民全体の消費に対して、輸入の占めておる割合が大体〇・九であります。それだけは今日われわれの方でははっきりした数字を出しております。今の生産設備との関係は目下計算中でありますから、さよう一つ御了承を願います。
  134. 小松幹

    小松(幹)委員 消費と輸入のパーセンテージは〇・九。私が聞いたのは設備投資と輸入とを聞いたのであって、答えが違うわけです。それは消費を答えてもかまいせぬがやはり今日経済成長の一番要素となっておるのは、設備投資の増大のところが一番問題なのです。それが輸入に影響するパーセンチージというものは企画庁で数字が出ていないのではない。それは抽象的に一定す二は四という絶対の数字ではないが、大体推計の数字というものはあるわけです。大体出ておる。あなたが知らぬだけのことであります。  それではもう一つお伺いしますが、国民総生産の伸びに対する設備投資の対比というものはどういうようになっておるか。これはきょうの対比ではなく、将来斜線を描いて、将来の発展を見てのところを一つお答え願いたいどういうふうに見ておりますか。
  135. 菅野和太郎

    ○菅野国務大臣 国民総生産と設備投資との関係は、すべて並行的に大体いっておりまして、国民総生産が増加すればおのずから設備投資も増加するということになっておりますが、その比率がどうであるかということは、私の方ではまだ調べておりません。大体並行的にいっておる、しかしどちらが先かという問題は、これは学問上いろいろ論争のあるところでありまして、どちらがいいか悪いか、どちらが卵であるか、鶏であるかということについては、まだはっきりした定説がないということだけ一つ御了承願いたい。
  136. 小松幹

    小松(幹)委員 経済学博士の定説を私は聞いておるのではない。とにかく設備投資と国民総生産の伸びは大体似ておるというから、あなたは数字は一で示せばよい。一だということになる。ところが経済企画庁の今まで出しておる数字は、大来局長あたりは一ではないと言っておる。将来国民総生産の方は下ってくる場合もある、こういうように言っておる。そこの将来のとり方によって、経済成長率のいわゆる倍増計画というものは、あるいは、こわれていく場合も考えられるわけです。だからそういうところの数字が、経済企画庁の数字と今の長官の数字とはちょっと違う点もありますから―それはどっちが正しいかわかりませんよ。長官の数字の方が正しいかもしれませんし、企画庁の数字の方が慎重の数字かもしれません。その点は私はどっちか言いませんけれども、そういう問題がやはり経済成長率を定めていく問題であろうと私は考えております。経済企画庁長官については、せっかく七月一日にそういうものを出しましたから、さぞ御苦労であろう、岸さんに合わせて追いつくのは大へんだろうと思って、これで質問を打ち切ります。そこでいよいよ本論の池田通産大臣、佐藤大蔵大臣の両大臣に御質問をいたしたいと思うわけであります。池田通産大臣は、あなたの宏地会から出ておるところの「進路」という中に、いわゆる月給二倍論をさらに敷衍して、あなたの経済論を書いてあるのを、私はありがたく拝見いたしました。ところがその中のあなたの論説の重要部面を出してみますと、あなたはいわゆる、需要と供給のバランスは今は逆転してきた、まず経済の成長を促進させるべきだ、日本経済昭和三十一年境に質的な大きな変化をはかり、設備の過大ではなくいわゆる有効需要の過少となってきたと論じて、設備投資を押える必要はない、どんどんやれということを言っております。そこでこれはいわば国内の有効需要をまだ八千億か九千億くらいは増加してもよいのだ、こういう経済論を展開いたしております。ところが今度は佐藤大蔵大臣が閣議のあとで新聞記者会見に発表したのを見ますと、国民の暮しを豊かにすることもけっこうだが、国民貯蓄を食いつぶしただけでは何もならない。今日の繁栄が数年前の設備投資によってもたらされたことも事実だが、ふくれ上った設備が日本経済に一時に非常な圧迫を加えたのも事実である。経済はなだらかな成長を続けるがよい、今消費を刺激する必要はない、こぶつきの内需刺激論は否定すべきである、こう言っておる。この点について、あなたは内需の刺激はせぬでもいい、こぶつきはやらぬでもいいのだ、池田さんはまだ八千億か九千億はじゃんじゃん設備投資をやってもいいんだぞ こう言っておる。その点のいわゆる両大臣の内需刺激に対する判断、これを両大臣から、池田さん、佐藤さんとお伺いしたい。
  137. 池田勇人

    ○池田国務大臣 お答え申し上げます。日本経済の過去の歩みを考えますと、これは生産の増加と国民消費の増加がその発展のもとをなしたのでございます。今から十一年前でございますが私が初めて大蔵大臣をいたしましたころの国民総生産というものは三兆円程度でございました。しかるに今日は十兆円になっております。しこうしてその総生産せられたもののどれだけの部分がどこで消費せられたかということを考えますと、御承知通り輸出は三十億ドルといたしましても一兆一千億でございます。八兆九千億というものは、九千百万の国民が消費するのであります。これを前に比べますと、日本国民所得の増加は、生産の増強に基くものであるということを私は確信しておるのであります。従いまして、輸出の増加をはかることはもちろんでございます。しかしそればかりでは国民所得の増加を来たし得ない。そこで国際収支の状況を見ながら、そうして経済の安定を確保しつつ生産を増強して、国民生活水準を引き上げるというのが私の経済論でございます。今のように、まだ六千億、七千億の消費をふやすということではございません。所得を倍にしようとすれば、二十兆円になるのであります。ふえた二十兆円はどこにはけ口を見出すかといったら、適正な経済基盤を強化しつつ、国民生活の引き上げに重きを置かなくてはならぬ、こういうことでございます。
  138. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 いろいろ末梢的な言説をとらえて食い違っているというようなお話がございますが、先ほど来総理に対しあるいは企画庁長官に対しお尋ねになりましたように、私どもの経済発展の理想それこそは、安定な基礎に立ちまして、できるだけ高度の経済発展をさす、これが私どもの経済のねらいでございます。安定であるという点から申しまして、これはインフレになったり、あるいは国際収支がアンバランスになったり、そういうことはもちろん避けていかなければならぬ。しかし、安定健全な基礎に立っての経済の成長率は、できるだけ高度のものであってほしいのであります。そういう意味で、国民生活の安定、向上もはかるし、雇用の増大もはかるし、そういうことで、この経済の発展を考えていく。ただ、先ほど来いろいろ御議論がございましたが、新経済五カ年計画の六一五%の成長率だといえば、十一年で国民所得が倍増する計算でございます。この点を考えてみますと、今回の六・五%で十一年で倍増される、これはもっと経済の基盤をゆるがさない、言いかえますならば、インフレやあるいは国際収支をアンバランスにしない健全な方向において、安定、向上をはかつていく。そうすると、先ほど来御議論のありました十年にすれば七・二%、こういうことになるわけでありますが、こういうものを達成することが十年で満足するわけではない。さらにそれを期間を短縮する。しかも経済の基盤をゆるがさない、通貨の価値は安定される、物価の変動もないというような、そういう状況経済計画が立ちますならば、しごくけっこうなことではないか、これが今企画庁においていろいろ検討する、各関係庁の考え方をいたすわけであります。これらの点につきましては、ただいま表現のいろいろの相違について食い違っているではないか、かように仰せられますが、経済発展の基本的な原則的な考え方においてはぴったり一致しておる、かように考えております。
  139. 小松幹

    小松(幹)委員 言葉の上でそういうことを言われても、いわゆる名は体を表わすといって、あなたが言っているそのことで実際は一致するかもしれぬけれども、考え方は相違しておるというならかわいらしいけれども、何もかも一緒にしたということはちょっとおかしいですよあなたが言っていることで、私は内需刺激政策をとらないと言っているのです。だからあなたは今の話をちょっとぼかしたような気もいたします。国内均衡、国際均衡の問題もあると思うのです。お二人並んで鼻突き合せて国際均衡論や国内均衡論を言ったからといって仕方がない、こういうならば設備投資に対してある一つの産業を見る場合に、佐藤大蔵大臣に先に聞きますが、自主調整をやらせるお考えがあるのかないのか。
  140. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 今私どもは自由主義経済で立っておりますので、第一民間の自主調整ということに重点を置いております。  なお、私先ほどの御説明でやや不十分であったと思いますので、つけ加えて見ますが、やはり経済の発展というものは、非常な短期間の様相で批判されることは非常に困る。今日の生産といいますか今日の経済の立ち直りに過去の設備投資が大へん幸いしておる、こういうことになっておると思います。ただ時期的に見ますと、その過大な設備投資が非常に短期間に行われるとすると、それが各方面にいろいろ影響を与える、こういうことも事実であります。しかしながら、経済発展は相当長期にわたってこれを観察してみますと、その点では別に過去において苦しんだことが今日は幸いしておる、こういうようなこともあるのでございますから、どうかそういうような見方をしていただきたい。
  141. 小松幹

    小松(幹)委員 どうもあなたは答弁をずらかしますが、長い目で見てくれ、それはそうでしよう。けれども、政治家は一つの仕事をその場その場でやっていかねばならぬ。長い目で見てくれといって、一体いつまで見ますか。やはり政治家はそのときの言うたことしたことをもって、これはおれはそういうつもりではなかったのだといっても、それは落選すれば落選したのです。はっきりしているのです。だから経済論を打ち出した場合に、そういった過去の設備投資が云々と言っても、きょうはきょう、この設備投資をどうするかという問題の解決が、大臣の御職業柄であろうと思う。そういう意味でそういう長い目で見てくれなんというようなお答えは、私はどうも承知ができないのです。
  142. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 わが党におきまして過去においても五カ年計画あるいは新五カ年計画、こういうものを樹立し、今回またさらに国民所得倍増の経済計画を立てる、これがやはり長期計画でなければいかぬということでございます。当面いたしましては、一つの計画の線に乗って、今日当面しておる経済現象が健全な安定した基盤、その線をたどっておるかどうか、絶えずこれは注意していかなければならぬことであります。そういう意味において、この安定性を確保するという意味のその時期的な全融政策なりあるいは設備投資の計画なりというものを推進していく、こういうことを考えて参るわけでございます。
  143. 小松幹

    小松(幹)委員 そうすれば、あなたはいわゆる安定成長のためにやはり調整をやるのだ、チェック・アンド・バランスというような格好の、いわゆるちょこっと押えてみたり、たがをゆるめてみたりするというような格好の、いわゆる安定をねらっての立場をとっておると私は考えるわけです。それでいいですか。
  144. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 もちろん経済政策といい、金融政策といい、政治全般については内閣が責任を持っておるのでございますから、そういう意味において私ども考え、なすべき事柄は絶えず注意してやるということを申し上げております。
  145. 小松幹

    小松(幹)委員 池田通産大臣にお尋ねします。あなたの設備投資に対するお考えはどういうお考えに立っておるのか。
  146. 池田勇人

    ○池田国務大臣 設備投資の増加は、われわれ望むところでございます、経済基盤の強化になりますから。しかし、その程度は金融の情勢、ことに経済の実態を勘案しつつ伸ばしていかなければならないのであります。
  147. 小松幹

    小松(幹)委員 まことにその通りであります。そうなると池田さんも佐藤さんもそのときの様子で設備投資は考えていくのだ、大きい綱においては違いがあっても、設備投資についてはそういう程度に考える。ところでがお伺いしたいのは、最近アクリル系化学繊維の設備の増設の問題がしのぎを削っておりますが、これは両大臣どういう設備投資の問題でありますか、設備拡大の問題でありますか。どういう御判断をしますか。
  148. 池田勇人

    ○池田国務大臣 繊維関係におきまして、人絹の不振にかわりまして合成繊維の将来は非常に刮目して見るべきものがあるのであります。最近のナイロンの状況等を考えまして、これからのテトロンあるいはアクリル系の増産につきまして、いかにしていくかということにつきましては、われわれ通産当局としては検討いたしておるのであります。ただ問題は、今大体十トン計画のものが四社ほどございますが、これが採算ベースに乗るためには三十トンにしてほしいという強い要求があるのであります。しかしそれを一挙に三十トンにするかあるいは二十トン程度に押えて様子を見るか、または四社全部やるかあるいは区別するかということは、いましばらく検討さしていただきたいと思います。
  149. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 ただいまのは通産省の所管でございますので、通産大臣の御説明で私からは申し上げることはございません。
  150. 小松幹

    小松(幹)委員 所管が通産省だ、それじゃ所管の問題でなくて閣内の経済閣僚として、先般経済閣僚懇談会があったはずなんです。岸内閣経済閣僚としての御意見を伺いたい。
  151. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 繊維関係の全体についての生産能力という点を池田通産大臣十分考慮されてただいま御説明になったと思います。ただいままだ通産省においてもはっきりした結論が出ておらないという現状でございます。
  152. 小松幹

    小松(幹)委員 通産省においてはっきりした結論が出ないものが、どうして経済閣僚懇談会のとき―私の知っているところではこの三月繊維局長のところでははっきりいわゆる調整ができておるはずである。大体アクリル系繊維の問題はカネカロン、エクスラン、カシミロン、三菱ボンネルというのが既設の四社である。それは設備を持っておるからさらに強力にやりたい、ところが東洋レーヨン、帝人、日東紡、東邦レーヨンの四社が新しくこのアクリル繊維に対して非常な熱意を持ってきておる。そこでこれは相当ないわゆる繊維界、特に混紡質の繊維界では重要な問題になる。あるいは羊毛繊維が駆逐されるかというような問題になってきておる。また各社もこれはあとに引かない。八社しのぎを削っているわけです。そこで通産省はこれは自己調整から通産省の官僚調整まで持っていって、すでに通産省は既設のカネカロンや三菱ボンネル等に大体二十トンずつ、額にして八十億円の設備投資を大体決定しておった。ところがどうなんですか。最近は池田さんが通産大臣になったらそんなものはほっておけばいいじゃないか、設備投資の意欲のあるものがどんどん増強するのは当りまえだというので、そのせっかくの繊維局長のまとめた産業調整がこわれて、再びしのぎを削って、もはや新設の東洋レーヨンは日産三トンの設備を九月にかけてやるといって、今どんどん建設をしておる。これは一体どういうことです。そこで経済閣僚懇談会に持ち込まれて、池田さんはこのいわゆるアクリル繊維を認める。もう大体やらせればいいじゃないか、こういうような放任主義の発言もなされた。ところが佐藤さんはその辺がまたちょっと意味深重でぴったりしていない。ぴったりしておったならばそれは経済閣僚懇談会できまったはずなんだ。ぴったりしておらないからきまっておらない。あなたがどういうように言ったか私は内容は知らないけれども、おそらく調整の話を持ち出したか、あるいは自主調整か、あるいは金融調整の話を持ち出して話がつかなかったと思う。内容はよくわかりません。その辺のところが通産大臣の考え方と大蔵大臣の考えがぴったり一致していないからきまっておらない。その辺はどうなんですか。将来どうしようとしているか。
  153. 池田勇人

    ○池田国務大臣 新任早々で過去のことははっきりいたしませんが、この問題を経済閣僚懇談会に付議したことはございません。佐藤君と雑談のときにいろいろな話が出まして、アクリルの問題もあるなというようなわけで、実はテトロンの問題のときに私は閣僚でも何でもなかったのですが、テトロンを十トンにするか、十五トンにするか、あるいは二十トンぐらい、こういうようなことでいろいろな問題がありましたが、半年、一年たたぬうちにもう東洋レーヨン、帝人、おのおの三十トンずつ生産するように相なったのであります。そうして売れ行きも今はちょっと頭打ちしておりますが、非常な伸び方をしております。私はこういう状況を見ておりますから、将来ある合成繊維につきましてあながち一律に押えるのだというふうなことでいくのも考えもので、彼らはもうかる計画でやっているのだから、これを役所の方で一々押えるという立場はいかがなものかと思う。しかしこれは十分検討しなければならぬ問題だ、こういうことを佐藤君と二人で雑談しただけでございます。大蔵省と通産省とは常に緊密な連絡をとっておりますので、事あるごとにいろいろな問題を出して三人で話し合っておる状況でございましてまだ事務当局から四社十トンを二十トンにするということをきめたということも聞いておりません。説明を受けるときに、こういう問題があったということを佐藤君に言っただけで、そうしてテトロンの問題等を私は引き合いに出して、急にふえたものだという話をしたことがある。通産省として、申請があったものはこれは自由にどんどんやらせるという考え方で通産行政をやっているわけじゃございません。やはり設備あるいは過去、将来を見ながら適切な措置をとっていきたいと思います。
  154. 小松幹

    小松(幹)委員 新任早々だから知らぬだったと言えば逃げを打つ手としてもまことにいいと思いますが、この前いただいた、産業合理化審議会でも、設備投資のきまらないのはこのケースが一つ。だから私どものような野党の冷飲を食っている者でも、合理化審議会できまらなかったということは知っておる。大臣がそれを知らないというようなことは逃げ口上だ。それとも事務当局が大臣に教えてないかなんです。この問題はきょう、あす始まったことじゃないのです、相当深刻な争いをしておる問題でありますから、大臣が知らぬはずはない。だから池田さんに私は聞きますが、今の段階においてまだ設備投資も産業合理化審議会でははっきりきまっていない、あなたはこれに対して自主調整でもよい、あるいは通産省のいわゆる繊維局長が調整してもいい、官僚調整でもいい、どちらにしても、調整をするのか、しないのか、それを池田さんにお伺いします。
  155. 池田勇人

    ○池田国務大臣 言葉を返すようでごごいますが、閣僚懇談会でというような話がございましたから、私が就任以前にそういうことがあったかどうかは知らない、こういう意味でございます。そして就任後事務当局につきまして、アクリル系の問題につきまして、ただいま申し上げましたごとく、こういう要求があるのだということは聞いておるのであります。しこうしてその場合において十分検討してくれということを言っておきました。そしてまた御質問の産業合理化審議会の結論と申しますか、資金部における研究の結果につきましては報告を受けております。それは当初八千三百九十一億円というものが七千六百九十一億円、いわゆる八千四百億円が七千七百億円程度でどうだろうかというふうな産業合理化審議会の各委員意見だったということは聞いております。しこうしてそのうちに今のアクリル系のものがどれだけ入っておるかということは、まだ報告を聞いておりません。
  156. 小松幹

    小松(幹)委員 この問題はわれわれがとやかく言う問題ではありません。けれども、いわゆる産業指導あるいは経済指導として自主調整をやらしておるのか、やらしておらぬのか、それは私ははっきりしませんが、私の見るところは、自主調整に持ち込もうとしておる。その方向性は岸内閣方向性だろうと思うのです。あるいは池田さんはそうではないと言うかもしれませんが、それならば、ここに一度大体既設の四社が二十トンで八十億円の設備投資を認めたと一応の線が出たのを、池田さんが大臣になってから、ぽんとこわしてしまったという結果になって、再び八社が盛り返しておる、いわゆるごった返しておるというのが今の情勢であろうと思うのです。そこでやはりこれは佐藤さんも、産業のことだからどうだというけれども、やはりそうはいかない。金融の面から言って、あるいは設備投資に対する一つ発言権もおありですから、この辺は池田さんのいわゆる積極論と佐藤さんの慎重論とはときどき折々に食い違い。あるいは反対な立場が出てくると思うわけでありますが、そこで自主調整の問題に触れたいと思います。   産業の方として一応池田さんにお尋ねしますが、自主調整はどうなのでありましょう。いわゆる官僚調整をやるのか、ほんとうに業者同士の自主調整をやるのか、あるいはやらないのか、その辺をお伺いしたい。
  157. 池田勇人

    ○池田国務大臣 最近新聞に、設備投資の問題から、いわゆる自主調整という言葉がよく見受けられるのであります。これは産業人が集まりまして、そうして設備投資について行き過ぎのないように、またお互いにできるだけ話し合っていこうという機構のように聞いておるのであります。しかも自主調整をやるべきだという経済団体と、またそこまで行かなくてもいいじゃないかという経済団体がございます。しかし通産省といたしましては、財界のエキスパートの人がいろいろ意見を戦わしておるごとにつきましては、その意見を聞くにやぶかではございません。ただわれわれの方といたしましては産業合理化審議会というのがございまして、そこでいろいろの意見を聞いておるのであります。従って、産業人自体が自主調整をやると言ったって、法的根拠もございませんし、またこれを強制するわけにもいかない。いろいろ意見の交換ということで、われわれは参考にこれを聞いておるのであります。
  158. 小松幹

    小松(幹)委員 そういうこともいいでしょうが、あなたは自主調整をやらせるのかやらせぬのかという、あなたの主体的なことを聞いている。合理化審議会にお伺いを立てているような通産大臣でもありませんでしょうから……。
  159. 池田勇人

    ○池田国務大臣 私は自主調整をやりなさいとも申しません、お互いに相談することが悪いとも申しません。おまかせしておるのであります。
  160. 小松幹

    小松(幹)委員 佐藤大蔵大臣にお伺いします。あなたの自主調整のお考えを承わりたい。
  161. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 業界におきましてはいろいろ経済の成長について、それぞれの立場からそれぞれの意見がございます。ただいま池田通産相からお話しているような経済界の実情だと思います。しこうして今の主たる方向は、お互いに十分相談し合っていこう、こういう考え方でございます。いわゆる自主調整の方向に向いておる、私はかように見ております。ごとに競争が非常に幸いする場合もございますが、競争が激化してその弊害が生ずる場合もございますから、産業界にかような空気のありますことはただいま大へんけっこうなことだ、かように考えております。
  162. 小松幹

    小松(幹)委員 産業界のことでなくしても、金融界の自主調整の問題があるわけです。いわゆる協調融資という問題もあるわけです。その点からあなたはそういう調整をやらせるのかやらせぬのかということを承わりたい。池田さんは、私はどっちでも要らない―何と言ったですかね、どちらでもやらぬのだと言ったのですか……。(笑声)そういう逃げた表現であります。佐藤さんはどうですか。
  163. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 金融関係におきましても、預金や貸し出しにつきまして非常な競争激化の様相を来たす、こういうことについては政府自身から警告を発しておる。そういう意味で最近は預金あるいは貸し出し競争等をお互いに慎しんでおるような傾向でございます。またただいま言われますように、協調融資ということはそういう意味では大へんけっこうなことだ、かように考えておりますので、私ども勧めております。
  164. 小松幹

    小松(幹)委員 佐藤大蔵大臣は、協調融資と自主調整はけっこうなことだ、池田さんはそれも言わない。やるなともやれとも言わない。ほおかぶりしている。私は池田さん、そういうことを言うけれども、特にあなたの月給二倍論の中だったら、設備投資がだんだんふくれ上ってきて、設備投資の過大というか、意欲がどんどん起ってくると思うのです。そうした場合にあなたの態度というものをはっきりせねばならぬことになる。今言ったアクリル繊維の問題でもおそし早し、あなたが放任主義で行くこともできなくなると思う。だからそれは今逃げを打っておるだけであって、いっかは自己表現をせねばならぬ。表現の通り行くか行かぬかは別でありますよ。しかし池田さん、と言っても、それはもうどうせ調整のできぬものは勝手にやらしたらいいじゃないかというような表現が出ておるように放任主義というものになる。しかしそれはいわゆる繊維局の事務当局に命じて何とかして調整をしろ、こういう命令なり指示をするかしないかというのは大きな境目になってくる。そういう放任的な無性格的な指導というものは、最後の段階になったら、許されなくなる。その点今は国会答弁はそれでいいと思いますけれども、現在の自主調整というものは、私は言わせれば言う言葉は毎日の新聞を見ていると自主調整は出てきます。けれども、経済同友会あたりはなかなか積極的に言っておるのです。しかし経団連の方は本気になっていない。口じゃ合わせています、けれども、これはまあ結局自主調整というものはできない、こういう考え方に立つ方がいいのじゃないか。その意味において池田さんも言葉じりを慎しんでおるのじゃないかと思うわけなんです。私はこの自主調整という問題は、これは設備増設の問題だからまあそれでいい。ところが経団連の石坂会長あたりは、自主調整が自分でできないということを、いつの間にか独占禁止法の撤回あるいは独占禁止法の改正というものにすりかえて持ってこようとしておるのであります。そういう意味から見れば、私は自主調整は言葉の上のアドバルーンであって、腹は独占禁止法を改める、あるいは廃止するという方向をたどっておると見るわけなんです。この点について池田通産大臣のお考えはいかがでしょうか。
  165. 池田勇人

    ○池田国務大臣 今の設備の自主調整問題が独占禁止法の改正というところまで進もうとは、私はぼやっとしておるのか、考えておりません。そういう問題とは違うと私は確信を持っております。
  166. 小松幹

    小松(幹)委員 違うということは、あなたにしてはおかしいと思う。私は違わないと思う。もちろん説明も足りなかったと思いますが、設備投資のいわゆる自主調整の問題はそれでいいが、自主調整という言葉はいわゆる設備だけではくて、その製品なりあるいは価格なりあるいは販路なり、こういうものの自主調整というようにすりかえられ、発展しつつある。そういう意味で石坂会長の、自主調整などをとやかく言うよりも独占禁止法を改むべきだ、こういうような表現に移り変っておるのだ。この点についてのあなたのお考えを聞きたい。
  167. 池田勇人

    ○池田国務大臣 石坂経団連会長の意向につきましては、私は聞いたことがないのであります。従いまして、設備投資の問題から独占禁止法云々ということは起りますまい。あるいは経済界の変転によりまして、ある特定の産業につきまして独占禁止法の例外規定を設けるなんという問題は、将来において起ることがあるかもしれませんが、そういう問題につきましては、そのときに情勢を見ながら考えていくべきでありまして、今私はこういう産業について特別の措置をとろう、こういう気持は持っていないのであります。
  168. 小松幹

    小松(幹)委員 独占禁止法の緩和をするかしないかという問題を私は聞いておるので、財界が言っておる自主調整は、言葉は同じ言葉を使っておるけれども、やがてはその内容はだんだん違ってくるのだということを申し上げておるのです。  そこで私は通産大臣に一つお伺いしたいのは、五月二十一日に鉄鋼公開販売制度を引き続いて認めていく、これは不況カルテルだったのを好況下におけるカルテルとして存続するということを認めております。これはあなたの大臣のときの責任ではないかもしれませんが、どういう意味で鉄鋼だけの公販制を、しかも不況カルテルではなくて、好況カルテルを存続させる点について、あなたのお考えを承わりたい。
  169. 池田勇人

    ○池田国務大臣 鉄鋼につきましては、昨年五、六月ごろでございましたか、相当値下りいたしましたあの状況考え、通産大臣が個々の業者に最低偏格等を指示したことを聞いております。しかしてみなにそういう指令をいたしましたので、いわゆるお話のように不況カルテルではないかという議論があったことも聞いております。しかるところ本年に入りまして逆に鉄鋼価格は上り坂になって参ったのであります。こういう基幹産業の基本になる鉄鋼があまり下がることはよくない、またあまり上り過ぎることも経済界にとって非常に重大問題下ございますので、各鉄鋼業者の個々につきまして生産数量あるいは価格等を届出さすことにいたすこととしたのであります。そうする方が日本経済の健全な発達に役立っと思ってやっております。しこうしてこれが独占禁止法にかかるか、かからないかという問題がございますが、私の信ずるところでは、公開販売制度につきましては独占禁止法にかからない、しかもまたこの問題につきましては公正取引委員会と相談をしながらやっておると聞いております。
  170. 小松幹

    小松(幹)委員 この鉄鋼の公販制の存続ということは、不況カルテルのときには一時的に認めたけれども、好況下における好況カルテルを認めることは現行の独占禁止法ではできない、これは明らかに独占禁止法違反を通産省はやっておるのだ、こういうふうに私は思います。先般独占禁止法緩和法案が出て流れましたが、その中でも長期の需要安定カルテルは認められていないわけであります。それであるのに救済的な、一時的な不況カルテルというものを今日鉄鋼の好況下において認めておるということは、何としても国民生活を圧迫しておる。しかも鉄鋼は独占をするということを非常に深めておる、こういうように思うのでありますが、公正取引委員会の方が来ておられましたら、どういうわけで公正取引委員会はこのことを認めたのか、現行法に抵触しておりはせぬか、お答えを願いたい。
  171. 高坂正雄

    ○高坂説明員 お答えいたします。独占禁止法は、御承知通り事業者が他の事業者と共同して対価を決定、維持あるいは引き上げる等の行為をいたしまして、相互に事業活動を拘束し、または遂行することによって公共の利益に反して一定の取引分野の競争を実質的に制限する場合に取り締ることをいっておると思いますが、今回通産省で実施されました鉄鋼公販制度は、通産省の権限と責任において実施せられるところでありまして、そういう見地から独占禁止法に抵触しないと考えておるのであります。しかしもしこの制度を鉄鋼事業者が不当に利用することによってカルテル行為が行われるということになりますと、それは独占禁止法に抵触する問題にもなりますので、公正取引委員会といたしましても、この制度の今後の運用につきましては、十分に監視していくつもりでございます。
  172. 小松幹

    小松(幹)委員 公正取引委員会の事務当局の方かもしれませんが、そういう態度でおるからこういう問題が起ってくる。通産省が云々ということでなしに、通産省とは別個に公正取引委員会はちゃんと公正取引をうたい文句にやってあるのだから、こういういわゆる不況カルテルでない好況カルテルについては、厳然たる態度をもって臨むことが当りまえなのです。しかも今あなたが最初に言った、公共の福祉に沿わないようなという問題がありましたが、第一これには建値の値上げを認めているじゃないですか。独占をさせておいて、しかも建値の値上げまでさせておるような、こういう公販制度というものを公正取引委員会がなぜ認めたかという問題にかかってくるわけです。附帯条件に通産省の勧告権を認めた、今あなたが通産省のことを言ったのはそういうことを言ったのかもしれませんが、あるいは第三者の学識経験者を入れるとか言っておりますが、学識経験者と公正取引委員会とは何の関係もないし、また独占禁止法のいわゆる法律に対しては、第三者も何もないわけなんです。法律は法律で、きめられたものはきちっときめられた、拒否されたものはきちっと拒否されたものだと私は考えるのです。その点公正取引委員会考え方は、もう生命を失っておるのか、どうせ独禁法は緩和されるのだから、この辺でお茶を濁しておけという気持かどうか、その辺ちょっとお伺いします。
  173. 高坂正雄

    ○高坂説明員 お答えいたします。繰り返して申し上げるようでございますが、独占禁止法は、事業者と事業者との共同行為によって、価格の決定、つり上げ等が行われを場合を不当な取引制限といたしまして取り締っておるのでございますが、今回の公開販売制度は、先ほど通産大臣からお答えがございましたように、通産省が指導いたしまして、個々の業者から価格の届出をいたさせておるような制度だございまして独占禁止法で申しておる事業者と事業者とが共同して対価を引き上げておるというケースには、直接には抵触をしないのではないかというふうに考えております。
  174. 小松幹

    小松(幹)委員 今の公正取引委員はまことにもぬけのからみたいなことを言っておる。第一建値を、もうこれが通ったら、今度はすぐに二千円から四千円上げたではありませんか。一つ一つ、お前方が上げた、お前方も上げたから、上げてしまったらちょうどみんな上ってしまったんだ、こういうようなことは隠れみのです。結局公販制度を利用して、建値を二千円から四千円引き上げておるわけです。しかもそのケース・バイ・ケースじゃないのです。カルテルを利用していわゆる建値引き上げの場合に、その建値のきめ方はコスト・プラス適正利潤、コストに適正利潤を加えておる。そうしてその値を確保しておる。私企業に対して独占禁止法はまだ厳然とあるわけです。灘尾元文相に言わせると、法があるから私は勤評をやるのだというのと同じで、独占禁止法はまだあるのです。あるのにもかかわらず、コスト・プラス適正利潤を加えた建値を引き上げて、いわゆるカルテルの妙味を発揮しているところに私は問題があると思う。この点、池田通産大臣の意見を承わりたい。
  175. 池田勇人

    ○池田国務大臣 御承知通り、鉄鋼価格が非常に下った場合におきましては、産業の立場から価格を指示いたしましてこの程度でやれるということを指導して参りました。しかし将来相当価格が上って、御承知通り昭和三十一年のごとくに、トン十万円をこえるというようなことが起っては大へんでございますから、われわれといたしましては、そういう不当な販売価格が行われないように、前もって個々の業者に生産並びに販売価格を指示いたしまして、産業界が不当な打撃をこうむらぬようにやっていくことが、通産省として適切な措置であると考えておるのであります。
  176. 小松幹

    小松(幹)委員 一体、鉄鋼会社、言うならば八幡製鉄とか富土製鉄、住友金属、日本鋼管等が赤字の会社ならばいざ知らず、巨大なる資本、黒字を抱いて、株式価格を見ればどんどん株式価格は上っている。それであるのに、それらの製品にコストを保証する、さらにそのコストにプラス適正利潤まで保証しれやって、将来上ったら大へんだからなんというような逃げ口上で、しかもコストを引き上げる。そういう建値の引き上げを認めているということはまことに私はおかしいと思うのです。他の産業界にそんな例はないわけです。いいですか。あの硫安、かつて硫安が問題になりました。そこで硫安は輸出会社をこしらえて、輸出会社に赤字を。プールして、そして海外取引をやっている。これは内情は別として形式的にはそうなっている。鉄鋼は公然と好況カルテルの上にあぐらをかいて、そして建値を二千円から四千円引き上げて今日いわゆる鉄の値をこしらえているというところに、私は、独占禁止法が緩和されたりあるいは廃止になったような場合を考えたら、こうした大資本というものが自己の力をかって跳梁するであろうということを考えるわけであります。適正価格というのは、一体どういうことになるのか、私にはちょっとわからないのですが、私の想像するところによれば、おそらく鉄鋼は昨年相当無理をして輸出したから、赤字になっておるのじゃないかと思うのです。その赤字を埋め合せるために今度好況カルテルのもとに建値の引き上げをして、それを見ておる。だから適正利潤なんというものが出てくる。利潤に適正利潤なんというものが、公然と認められるようにカルテルが形成されるというのは、おそらく私は去年の赤字をカバーしておるのだと考えるのです。これはかつて、先ほども言ったように硫安肥料を台湾や南方に捨て値で売って赤字をせり出した、その赤字を零細なる日本農民にぶっかけたときがある。廣川弘禪氏が農林大臣のときに、いわゆる肥料の赤字を農民にぶっかけるなという問題が起ったが、ケースをかえれば、この鉄鋼の去年のいわゆる値下りあるいは輸出のダンピングというものの赤字を、このカルテルを利用しての建値の引き上げにぶっかけてきている、こういうように思わざるを得ない。これは肥料のように国民一人当り全部が全部どうというわけじゃございませんけれども、おそらく鉄鋼を引き上げられたことによって、学校建築でもいろいろな建築でも全部影響していると思う。こういう点から考えた場合に、私は今度のこの鉄鋼の公販制の存続あるいは建値の引き上げというようなものは、まことに通産省としては出過ぎた容認をしていると思うのです。この点について池田さんの御答弁を承わりたい。
  177. 池田勇人

    ○池田国務大臣 誤解があってはいけませんので少し詳しく申し上げますが、お話のように鉄鋼建値という言葉は、以前に八幡、富士、日本鋼管、この三社の建値がいわゆる鉄鋼の建値として言いふらされておったのでございます。しこうして今はそういう前の三社の建値というものは全然ございません。しこうして今度の公開販売に関係しておるのは、三社のみならず中小の鉄鋼関係三十一社からなっておるのでございます。しこうして通産省の指示いたしました価格というものは、丸棒にいたしましても型鋼にいたしましても、最高値を各会社に指示しておるのであります。指示した最高値までいっておりません。これは最高値として押えておるのであります。かかるがゆえに、われわれは公開販売制度によって鉄鋼の価格を不当につり上げたということはない、最高価格をきめておるのでございますから。現に今の市場価格はそれより下回っておるのでございます。
  178. 小松幹

    小松(幹)委員 時間もないと言いますから、これはいわゆる一つのケースでございますけれども、私は鉄鋼公販制度というような問題は、やはり独占禁止法に触れてくる、また建値の引き上げというような問題は相当公共に影響する。それがやはり好況カルテルを認めたといういわゆる独占禁止法に抵触する行為である、こういうように考えるわけでありますが、今後この通産行政の中にはずいぶんこういうケースが出てくると思うわけでありますから、公正取引委員会も法律がある間は、やはりその番人として働いてもらいたいし、また通産大臣もその点は一つ気をつけていただきたいと思うわけであります。  その次には佐蔵大蔵大臣に金融の問題をお伺いしたいと思います。この前も金融の問題は正常化の問題をどうするか、私はその当時コール・レートを何とかした方がいいのじゃないか、下げよ、こういうようなことを言っていますが、今日までコール・レートはあまり―一般金利は幾分下って参りましたけれども、コール・レートは下っていなかった。しかも最近コールの問題は大蔵省の方、日銀の方でその調整をするようになっていますが、コールの調整はどういうふうにしているか、ちょっとそれをお伺いしたいと思うのです。
  179. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 御指摘のように、日本銀行といろいろ相談しております。ただいまコールが二銭四厘にとまっておりますことはいかにも高い。少しでも安くしたいというので近く、そのうち引き下げを実施するようになろうかと思います。
  180. 小川半次

    小川委員長 小松君、あとに淡谷委員質問もございますので、できるだけ一つ簡潔にお願い申し上げます。
  181. 小松幹

    小松(幹)委員 そこで私は現在の日本経済は、ことに経済成長を飛躍的に向上させようと決意しておるとき、あるいは国際貿易、為替管理の改変等、自由化傾向のあるときに、コールだけではなくして金融の正常化には一本筋が通ってこなければならない、こういうように考えて、金融正常化の具体的なものに早く取り組んでいかなければならぬと思うのですが、最近よくタイミングの問題で佐藤大蔵大臣は金融の問題を措置していこうと考えているので、これは私は金融の正常化にはもちろんタイミングの問題として考えてもいいけれども、これだけで金融正常化はできないと思う。今日のいわゆる金融資本というものが、過当に収益性の上に利潤をむさぼるという上に立っておるということは、私は金融の正常化を一番はばんでおる問題ではないかと思う。いわゆる金融資本の公共性、流動性に奉仕するというよりも、自己の収益に競争に狂奔しておる。たとえばこの三月、四月の預金競争みたいに、預金だから競争でいいけれども、一生懸命わが社の、わが銀行の金融の利潤のために一生懸命狂奔しておるために、問題が多くある。法律をもって、無制限に預金や貯金を吸収させて特権を持たせておるこの銀行に、独占的な収益をいやが上にもあおって、ちょうど銀行が大きな金貸し業のような存在になっておる。今日の金融不正常の根源は私はここにあると思う。いわゆるタイミングで解決できない抜本的な金融資本の問題にかかってくると思うのです。金融独占資本の窓口として銀行が存在上、国民の利益と一公共性を踏みにじって、いたずらに収益に狂奔しておるということ。たとえばこれを言葉でいえば銀行がお行儀が悪いというような言葉を使っています。小笠原流に確かに私は銀行だからいうのだろうと思う。行儀が悪いくらいなことで今日の金融の正常化を進めようなんということはとんでもないことだ。行儀ぐらいなことじゃないのです。政府は、このいわゆる銀行金融が収益第一主義に立ってお行儀が悪いということに対して、一体佐藤大蔵大臣はどういう考えを持っておるか、どういう指導をなさるか、お伺いいたします。
  182. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 金融正常化、そういう観点に立ちまして四つばかり大きな柱を考えておるわけであります。まず一つはオーバー・ローンの解消、最近順次そういう方向に実績も上りつつあるように思います。同時にこのオーバー・ローンのうらはらの問題でもございますが、預貸率の改善と申しますか、そういう事柄も着々進んでおります。またただいま御指摘になりました点は、主として金利並びに金利体系の問題だと思います。これまた低金利政策を堅持いたしておりますし、過去においても公定歩合も三回の引き下げ等によりまして、金利そのものはよほど最近は下っで参っております。あるいはまたその情勢によりまして各種操作による調整をはかっていく、こういう事柄が私どもの金融正常化の骨子をなす点でございます。
  183. 小松幹

    小松(幹)委員 現在日本の金融メカニズムの問題に突っ込んでいかなければ私は適正化はできないと思う。だからそういう意味では、今の預貸率の問題とかオーバー・ローンの解消とかいうような問題は、確かにいい、あるいは銀行の経営収支とか、あるいはから預金、粉飾預金の問題等、これはお行儀の問題になってくると思う。こういう問題はあったとしても、とにかく流動性が低いということが、私は最も銀行の正常化でない。こういうような問題については、総合政策研究会の有澤さんですか、学識経験者の人が金融正常化の提言というようなことをやっておりますが、これについて大蔵大臣として、あるいは大蔵省として、この提言をすなおに受けて何か考えているか、この点をお伺いしたい。
  184. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 本日他の大蔵委員会におきましても、そういう点についての御質問がございました。各方面の意見を十分聞いておりますが、ただいま申し上げるような四つの点を主として私ども金融正常化の方向として推進をいたしておるわけであります。ところで学者の提言の中で、やや私ども今日の情勢で直ちに採用しないものに、預金金利の引き下げという問題がございます。理論的には当然賛成のできる事柄でございますが、まだ実情から見ますと、できるだけ今の預金金利はそのまま据え置きたい、こういうような考え方でございます。
  185. 小松幹

    小松(幹)委員 私はその提言は先ほど私から言ったように、あなたは、常に大蔵省はいつもタイミングとしてそれはいいけれども、今早いからやらないのだ、こういうような調整とかチエックするとか言葉はまことに悪いけれども、そういう意味の金融指導だけを大蔵省は指導として考えているようにしか受け取れないのです。やはりあの有澤さんのいわゆる金融正常化の提言というのは、金融メカニズムに向ってまっしぐらに、もう少し抜本的な問題に取り組んで正常化をしなければ、今の国際的な取引なり、あるいは円為替の導入等の問題には追っつかぬじゃないか、タイミングだけで金融を処理しておる段階ではない、こういうことを流動費から、あるいは預金準備制度から言っておると思うのです。そういう点についてはもう少しすなおにその提言の骨子、基本が何であるかを考えてもらいたい。言葉をかえて言えば、ちょうどふろに入れといったら、いや、私はまだ着物を脱がねばならぬという。ふろに入るには裸になって着物を脱がねばならぬということは当りまえなんです。ふろに入れといったら、はいといってすなおに入ればいいのです。ところが、私はちょっと着物を脱がねばならぬというような表現をよくやっておる。金融正常化をやれといったら、それはいいけれどもまだ時期が早いんだ、まだ環境整理ができておらぬからそれはできないんだ、こういうような言い方を常にしておる。それはふろに入れというのに、まだ着物を脱いでおらぬからという言いわけにしかとれない。私はどうしても、金融正常化というものは本腰にやらなければならぬと考えておりますが、金融の協調融資の問題は一体できるのかできぬのか、やらせようとしておるのか、どうでもいいと考えておるのか、お答え願いたい。
  186. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 先ほど協調融資については私お答えいたしましたように、過当競争、競争のよさもございますが、同時に競争におぼれますと、いろいろ弊害が生じます。そういう意味でできるだけ自主的な調整というか話し合いを勧めております。やはり協調融資などもその一つの方法であります。これなども私ども勧めております。
  187. 小松幹

    小松(幹)委員 協調融資ができるという観点をお持ちでございますか。それはあとでお尋ねしますが、私は、協調融資も、さっき言った産業界の自主調整がこんとんとしてできないと同じように、金融の協調融資はできっこないと見ておる。毎日の新聞に言っているけれども、第一地方銀行の考え方と都市銀行の考えは違う、口でいいことを言っておるが、腹は違う。結局、地方銀行はコールの問題にひっかかるでしょうし、あるいは金融市場の問題にひっかかってくる。こういう問題によって都市銀行と地方の銀行との腹は違うから、協調融資はできないと私は見ておるのですが、あなたはできるという御判断をなさるのか。
  188. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 これは水かけ論になりますが、私はできると考えております。
  189. 小松幹

    小松(幹)委員 できると判断なさっておる佐藤大蔵大臣は大いに協調融資をやっていただきたい。やっていただけばけっこうでございます。やっていただきたいのでありますが、ただやるというだけで一向協調融資もできないのではないか。まあこれから先の金融あるいはいよいよ設備投資をやるという段階になって、協調融資ができるかできぬかというのは、あなたの腕次第ということにかかっておりますから、拝見をいたしておきます。  それから経済問題として最後の問題になりますが、岸内閣の初っぱなから私はいつも言っている東南アジア開発構想の問題に引っかかって参りますので、岸さんに一つお尋ねしたいと思います。藤山外務大臣にもお願いしたいのですが、岸内閣経済協力外交を一枚看板として東南アジア経済協力を過去三年間やってきた。レかし三千億円の賠償金の支払い決定以外には、あまり経済協力の実が実っていないと私は判断する。ただインドに対する百八十億円の円クレジットの供与がめぼしい問題でありますが、資本の投下あるいは資本協力、技術協力、輸入取引等の部門における経済協力の実態を外務省から報告してもらいたい。
  190. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 東南アジア方面に対する経済協力の問題は、御説のように必ずしも活発だとは言えないと思います。しかし、われわれとしては、日本の実情に即し、また東南アジアの要望にできるだけ応じて参るように努力はいたして、その方面についていろいろなこまかい点からの施策をいたしております。現在お話のような民間投資の関係でございますけれども、民間経済協力というのはあまりそう進んではおりません。フィリピン、マラヤ、ゴア、タイ、インド、台湾等に対して、約四十四件、金額にいたしまして約八十五億円程度の民間協力態勢ができておるのが現状だと存じます。その他に、今御指摘のありましたようなインドに対する五千万ドルのクレジットの問題等がございますが、実質的に民間投資が進んでおるということは非常に少いと存じておりますので、なお今後ともその点につきましては関係各省と協調しながら、できるだけの努力をして参らなければならないと存じております。
  191. 小松幹

    小松(幹)委員 そこで東南アジア開発について問題になることは、低開発地における東南アジア等の地盤がいわゆるモノカルチュア経済の構造をなしておる、これをどういうふうに克服していくかということが大きな問題になると思います。その点について、日本は工業生産国でございますから、あるいはプラント輸出等によって今日やってきたが、東南アジアの諸国は、そういう輝かしい工業という問題については、相当進みつつあるが、資本をそっちにとられて、第一次産業というものがおろそかになったために、すべてが行き詰まりになっているという問題に対して、ここにいわゆる開発融資の問題、開発輸入の問題について大きな問題が出てきたと思うんです。外務省はこの問題についてどう考えておるか。今後これは大きな変更を余儀なくされる問題ではないかと思うのです。
  192. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 ただいまお話のございました開発融資の問題というのは、まことにごもっともな点なのでありまして、御承知のように東南アジアの各国は、第一次産業を主体とした経済を維持しております。しかもその各国がそれぞれ類似の第一次産業を持っておるところでありまして、そういうことのために、これらの経済の成長というものが非常におそくなっておりますことも御指摘の通りだと思います。従ってこれらに対しては、日本経済協力をいたして参ります場合に、第一次産業に対する十分な技術的な協力、生産性の増加というものに対してむろん協力はして参らなければなりませんが、同時に、新しいそれらの資源というものを開発して、そして安く日本に持ってくるというようなことによって、日本からの経済協力をさらに盛んにしていくという点もあわせ考えて参らなければならぬと思います。従って第一次産業が成長していく、その他鉱工業におきまする経済協力、特に日本の持っております技術面の協力というものを進めて参りまして、そうして技術による経済産業の確立ができて参りますことによって、さらに提携を深めていく、協力関係を深めていくというところに持って参らなければならぬと思います。今日技術センター等を作りまして、われわれもそういう意味において努力はしつつあるわけでございます。
  193. 小松幹

    小松(幹)委員 今の大臣のそういう程度なお言葉でやれば、これは外務省が東南アジアの開発を引き受けてやっても、何年たっても私はできぬと思う。これは、東南アジアの開発、いわゆる経済協力というのは、早くどこかの省に移した方が、通産省か何かに移した方がよくなりはせぬかと思うくらいです。今一番困っているのは、コマーシャル・ベースでいくか、あるいは政府間ベースでいくかというような具体的な問題、あるいは投資の形態がどういうように変ってくるのか、こういう問題が大きな問題だと思うのです。ただ技術協力をやるのだ、あるいはコロンボ・プランによって受け入れをどうするのだとかいうようなありきたりの東南アジア経済協力の姿であっては、同じことを繰り返すことになる。今日、貿易が去年から非常に下っておるというのは、何もそれが悪かったから下っておるというわけではないが、すべて東南アジアのいわゆる経済協力のタッチの仕方を相当変えなければならぬ。たとえば、これは政府の責任でもありましょうが、ビルマの工場建築の問題があるわけなのですが、それなども四年越しにまだきまっていない。これなどは、何できまっていないのかというと、結局金利の問題、たった一厘の金利の問題で四年越しにきまっていない。たとえば、ビルマにおいて、紡績工場の建設を四年前から伊藤忠や口綿や束綿、六日紡、石川製作所、豊田織機がビルマと交渉しておる。ところが、この工場の建設で、額にしたらごくわずかな一千万ドルぐらいの金なんですけれども、金利一厘がひっかかって四年間解決していない。これは政府の熱意も足りないでしょうが、これを一つのケースとするならば、政府間ベースでやるかコマーシャルべースでやるかという問題は大きな問題だと思う。商業ベースではもはややれないという段階がきておるのではないか、こういうように判断をいたします。ビルマの問題は例でございますが、外務大臣の御判断を承わりたい。同時に、政府間ベースに対する構想があれば、承わりたい。
  194. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 東南アジアの経済協力をやっておりまして、今御指摘のようなことはわれわれも感じております。お話の紡績工場の進出問題等につきましても、輸銀の金利の問題その他につきまして問題があって、なかなかものが進まないという事情にあったことは事実でございます。従いまして日本としてもそういう面に何か新しい構想を加えて参りますことは必要だと思います。ただ過去におきまして、やはり日本の国内金融の関係あるいは対外為替の関係等をにらみ合せまして、今日までの段階では相当無理であったと思うのであります。次第に日本経済が立て直って参りますれば、さらにそうした、今お話のような点についてもわれわれは考慮を加えて、新たな観点から物を考えていく必要があろうと私どもも存じておる次第であります。
  195. 小松幹

    小松(幹)委員 岸総理大臣にお伺いしますが、やはり最後はあなたのところにいくと思いますが、今の東南アジア開発で二つの山にぶっかかっておる。その二つの山というのは、一つは、欧州共同市場の問題それからソ連の経済ブロック、そういう経済ブロックが非常に協調的な歩みをしておる。アメリカ経済もそういう格好になれば、日本を含むアジアの、いわゆる東南アジアを含んだ一つのところが経済的に強い靱帯を示すことができていない。それは、日本の指導力が悪いともいい得ると思いますが、ここにはっきりした経済指導というか、日本流の言葉で言えば経済協力を強化するという言葉になると思いますが、経済協力をお互いに強化する、アジアのいわゆる協力というものを大きく進めていかねばならぬという問題が出てきた。もう一つは、それをするのに、やはり民間商業ベースだけでやることは、不可能とは言わないけれども、相当困難に遭遇する、だからこれを解決するのには、政府の力、いわゆる政府のベースというものがあずかって力があると思います。そこで、大臣にお尋ねしますが、あなたは、かつて五十億の開発基金構想を出されましたが、もはやこの五十億の開発基金構想は、そう言えばあなたはどう思うかわかりませんが、私がたびたび言うように、その所期の目的はあまり意味がなくなったのではないか。そこで、そういう意味のないことを、いつまでも輸出入銀行に五十億を勘定だけそろえておくのでなくして、新しくスタートを変えた経済協力に五十億を使う考えはないのか、あるのかそれが一つでございます。  それと、佐藤大蔵大臣に、最近言葉が出ておる輸出入銀行のベースがどうも違うから、第二輸出入銀行か、そういう問題のテーマが考えられる。いわゆる政府間ベースの問題では佐藤大蔵大臣の方に尋ねた方がいいが、どうすることが一番いいのか、こういう問題について、両大臣にお尋ねします。
  196. 岸信介

    岸国務大臣 東南アジアに対する経済協力の問題につきましては、私内閣を組織して以来、常に重大な関心を持っておるのでございます。今までの経過が、先ほど外務大臣の述べましたように、必ずしも私が願っているような方向にまで進んでおらない。これを強化していかなければならないという点に関しまして、従来やっておりますことだけでもって自然にこれが強化されるというふうになまやさしく考える問題ではなかろうと思います。特に御指摘のありました、ただ単純なるコマーシャル・ベースでもってこの協力が推進できるというふうにだけ考えるわけにはいかない。それは、一つは、これらの地域における政治上、社会上の状態が必ずしもまだ安定しておるという状況にもなっておりませんし、またこれらの地域におけるいわゆる国民生活の水準が十分に向上しておらないというために、購買力の点におきましても、十分な購買力を持っておらないという点もございます。これらの点を考えてみると、やはり将来東南アジア地域における経済協力を強化していく、それは、あくまでもその地における国民の生活水準を引き上げていき、また社会的、政治的、経済的な安定の度を加えていくような諸施策とともにやっていかなければならぬと思うのであります。この意味において、これらの地域における資源の調査、第一次産業としての資源の開発計画等に対しましても、われわれはできるだけこれに協力していくという態度を強力に示す必要があると思います。たとえば、インドにおける鉄鉱石の開発の問題であるとか、あるいはマライ地方におけるやはり同様な鉱物資源の開発の問題、インドネシアにおける石油資源の開発の問題等々、これも考えていかなければならぬと思います。また単純なコマーシャル・ベースだけにたよってこの協力が推進できないとするならば、これにかわる方法としての仕組みを考えなければならぬ。現にアメリカにおきましても、第二世界銀行の構想があり、私がかねて言っております東南アジア開発基金の国際的基金を作るというふうな考え方も、単純なパンキング・システムで金融の措置によってこれらの地域における経済開発というものはなかなかできにくい状況にあるがゆえに、これに対する新しい一つの構想を考える必要があるという点にその根拠があるわけでございます。これらの点を十分に考えて、今後これらの地域に対する経済協力の強化、それに対しては日本もただ従来のように技術の点において協力するのだということではなしに、相当これに資金の上からも日本の国力に応じた協力考えていく必要があるだろう、最初に申しました新しい計画につきましても、そういうことをやはり取り入れて考える必要がある、かように考えておりますので、今直ちにこの五十億の基金を取りくずしてどうするというふうな考えは持っておりません。というのは、あるいは今申しましたように第二世銀の問題であるとか、あるいは国連を中心としての未開発地域における開発基金制度の問題であるとかいろいろな点が国際的にも検討されており、そういうものができる場合においては日本としてもこれに参加していく意味においてこういう基金を今日のところはなお取っておく必要があると私は思います。しかし先ほど来申しておるように、今度の新計画においてもそういうことを取り入れて考えたいと思いますが、東南アジア地域における経済協力の強化については、従来のようなやり方だけでもってこれを推進しただけではいけない状態にあることは、私も小松委員と同様な考えを持っておるわけでありまして、なお検討して参りたい、かように思っております。
  197. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 東南アジア向けの投薬資の総額は、実行したもの、さらに約束したもの等を加えてみますと、千百億から千二百億くらいにすでは上っております。相当多額の金額になっておりますので、経済協力は順調に進んでおるのじゃないか、私はかように考えこおります。具体的に工場進出等の計画もございますが、その一々はお話しすることは省略させていただきます。  そこでただいま第二輸銀というお話がございました。第二輸銀はどういう構想でいらっしゃるのか私にはちょっとわかりかねるのでございますが、輸出入銀行の金利が高いんだ、もっと安くしたらどうか、こういうような意味から言われておる第二世銀と同じようなソフト・ローンの意味で第二輸銀こういうことをお考えになっていらっしゃるのかとも思いますし、また御意見のうちにありました政府間ベースということがどういう意味か私にはちょっとわかりかねます。政府間だから特に援助しろ、しかも向うへ長期にわたって貸せとか、こういうような意味かどうか、ちょっと政府間ベースということもわかりかねますが、結局今扱っております輸出入銀行の金利の問題になるのじゃないかと思います。輸出入銀行は御承知のように輸入、輸出あるいは投資等について融資いたしておりますが、その輸出入銀行の八三%に上る融資額、これは四%、従いまして民間の協力を得ましても大体五%をちょっと上回る程度の準金利でございます。そこで国際金利水といってしばしば申し上げけす世銀の金利は六%であります。六%とこの輸出入銀行の金利と比較してごらんになりますと、非常に低金利のものが今行われておるという実情でありますし、また輸出入銀行自身の資金は財政資金である。その点からおのずから金利引下げにしても限度があるということを御了承いただきたいと思います。ただいま御意見ございましたが、そういう意味から第二輸出入銀行にいう構想を私ども考えておりませんし、またただいまの輸銀の金利をさらに下げるということは困難な実情にあるということを御了承いただきたいと思います。  また第二世銀のお話にも触れられたようでございますが、第二世銀の構想も一部新聞に報道される程度でありまして、内容をまだ詳しく存じておりません。従いましてこの第二世銀の構想が明確になりました後に、私どもの態度をきめたい、かように考えております。
  198. 小松幹

    小松(幹)委員 最後に、東南アジアの開発が壁に打ち当っておるその一つは、米ソの金利の問題にもかかっておるということから、いわゆる低開発地の長期低利という問題が入る。ちようど第二世銀の構想が出てきたのも、おそらくソ連圏が相当長期で、ただでくれてやる式なので、そこに経済ブロックに対抗する措置として当然第二世銀が起ってきたのだと思っておりますが、それと似たようなケースとして、東南アジアの各方面にそうした協調するいわゆる経済協力の隘路というものが相当出てきておるということも考えるわけです。そこでこれは私が第二輸銀を考えておるというわけではありませんし、新聞にそういうふうに出ておるからそういう構想をあなたの方で考えられておるかということを聞いたわけです。とにかくそういう問題について政府としては十分考えてやらなければ東南アジアの経済協力はむずかしい、私はそういうことを申し上げました。  以上多岐にわたりましたけれども、私は岸内閣経済政策の一端をお伺いしました。これで私の質問を終ります。(拍手)
  199. 小川半次

  200. 淡谷悠藏

    淡谷委員 福田農林大臣に時間もだいぶたちましたので、簡潔にお尋ねしたいと思います。一つ御答弁も率直にお願いしたいと思います。  先日来、本年度の米価につきまして、農民団体及び農業団体が農林省の考えております米価では満足ができないというので、この間も大臣に朝の三時までいろいろお目にかかりまして、どうも大へんお疲れさまでした。しかしこれはほとんどここ数年来、毎年のように起っておる現象でございまして、もしも政府考えておるような米価の決定方針が続くならば、おそらくしばらくこのあとはなくならぬと思うのであります。ばかりでなしに、ますますこれが激しくなりまして、最後には消費者と生産者の間、国民の間にも冷たい対立感情が生ずるのではないかということを実は心配しております。この米価につきまして今年は従来のパリティ方式をやめまして生産費及び所得補償方式に踏み切ったということは、政府自体も何らかそうした新しい方向をお考えになっておるのであります。しかし打ち出されました数字につきましては、これは農業団体、農民団体が不満なのももっともでございまして、ほとんどパリティ方式と違わないような数字が打ち出されておる。私は生産費及び所得補償方式の打ち出されたというのは、この米価問題に対して根本的に新しい方向を打ち出すのだという構想があってのことと考えておるのでありますが、福田新農林大臣、その点についてはいかなる高遠な理想をお持ちでございますか。率直に御答弁願いたいと思います。
  201. 福田赳夫

    福田国務大臣 米価の決定は生産者にはもとより重大な問題でございますが、同時に消費者にもこれは重大の関係があり、また同時に経済全体にも非常に大きな地位を占める問題でありますので、もとより政府といたしましては非常に慎重にというので検討いたしてきたわけでございます。  三十年から米価審議会におきまして生産費及び所得補償方式を採用せよ、こういう御意見があった次第でございます、しかしいかなる生産費を補償するか、いかなる所得を補償するかというようなことになりますと、なかなかこれはむずかしい問題でありましたので、なかなかこの解答が出なかったのです。しかし政府におきましても、昨年の米価審議会以来、これを何とか一つ解決したいという決意をいたしまして、一年間総がかりで農林省がこれを調査に当ったわけでございますが、調査の結果、ただいま政府各方面並びに自由民主党と意見を調整するというために、農林省から提出しておる案のようなものができ上ったわけいあります。この案につきましては、これは私から申し上げるまでもございませんけれども、平均生産費を引き出しまして、その平均生産費における家族労賃を都市労銀に置きかえまして、そうしてここで生産費並びに所得を補償するのだという考え方を打ち出しておるわけであります。さらにそれを経済全体から見ました米の需給の状況等を取り入れまして、算式を作りはじき出しましたところ、たまたまこれが昨年と同じような数字になりましたので、あるいはどうも数字を出しまして逆算したのじゃないかというようなおしかりも受けるのであります、が実はさようなことはなくて、誠心誠意検討いたしました結果、そこに至ったというふうに考えておるのでございます。
  202. 淡谷悠藏

    淡谷委員 大へんこれは便利のいいたまたまだろうと思うのでありますが、一年間の御苦労は大へん御苦労でございましたが、一年間かかって出しましたこの方式が、出るとすぐに全国の農民や農業団体からたたかれまして、これはよほど大臣もお考えにならなければならない段階に来ていると思うのであります。その証拠にはすでに開かれていなければならないはずの米価審議会はまだ開かれていない。この間朝まで御苦労願ったあとでいろいろお打ち合せがあったようでありますが、最近この問題につきましてどういう作業が進んでおるか、また米価審議会をいつごろ開く予定なのか、きょうは時間もたっておりますし、米価審議会でこまかい数字についての議論はなされると思いますので、率直に大臣の方針並びに今後の問題点を解明したいと思うのであります。一つ率直に御答弁願います。
  203. 福田赳夫

    福田国務大臣 米価審議会は実は二十五日から二十六日まで開催いたしまして、二十五日、六日に麦の方をやる。それから七、八、九と米の方をお願いする、こういうふうに心組んでおった次第でございます。  その予定に従いまして二十五日、六日、は麦の政府案を御審議願ったわけでございますが、これはおおむね妥当であるという結論でありましたので、去る三十日に政府といたしましては閣議決定をいたしました。  その前後におきまして淡谷委員あたりからもいろいろお話を承わったわけでございますが、農民団体の提出いたしておる資料とまた政府考え方との間に非常に大きな違いがある。こういうことで私も午前三時までかかりまして皆さんのお話を承わったのであります。しかし皆さんのお話を承わってみると、多少私どもといたしましても勉強しなければならぬ点があるということも率直に考えまして、これは米価審議会を二十七日に予定のごとく開くのは適当でない。それよりはさらに検討いたしまして、そうして納得のいく案を得ましてこれを付議することがよかろうというふうに考えた次第であります。  そこでただいまの考えといたしましては、七日、八日、九日、十日と御審議をわずらわしたい。その劈頭に政府原案を提出いたしたい、こういう考えでございます。  問題の要点は、ただいまお話のありました算定方式またそれの基礎になるところの生産費の見方、それから第二の問題点は、予約減税を本年度予算編成の趣旨に従いまして私どもの原案といたしましては廃止する。そのかわり廃止によりまして政府の収入増になりまする金額は、これを全供出農家に均分して加算をする、米価に加算をするという考え方を出したわけでございますが、これにつきましてもいろいろ御意見があります。こういう点も検討いたしたい、かように考えておる次第でございます。
  204. 淡谷悠藏

    淡谷委員 七、八、九、十と米価審議会をお開きになるのでしたら、六日からの予約米の売り渡しの引き受けはどうなさるおつもりですか。六日には開始して一俵ですか一石ですかに対して二千円を払うといったようなうわさも立っておりますが、その点はどうなっております。
  205. 福田赳夫

    福田国務大臣 ただいま申し上げましたような事情で、米価の決定が大へんおくれたわけでございます。そういたしまするともうすでに申し込みをいたす農家も出てくる次第でございますので、この申し込みに対しては政府において米価決定のあった後に申し込みを受けたと同様の扱いをするために二千円の支払いをいたす、かようにいたしたいと思います。
  206. 淡谷悠藏

    淡谷委員 私はそういう考えはまずいと思うのです。一体今米を除いてどこに値段も決定しないうちから売ってしまうといったような商品がありますか、自分みずからが値段がつけられなくて、政府につけてもらう。その値段がまだきまらぬうちに売る約束だけはする。これは全く問答無用で幾らにされても売らざるを得ないという追い詰められた感情を持つと思うのですが、その点はどうなりますか。
  207. 福田赳夫

    福田国務大臣 米価の決定がおくれた点につきまして、御叱責を受けるということになりますると、これはまことに申しわけないというふうに申し上げるほかはないのです。しかしおくれた以上、それに対しまして次善の措置をとらなければならぬということになりますると、どうしても早目に、概算になりますが、支払いを行わなければならぬ、こういうふうに考えまして、六日からその支払いを始めるということにいたしたわけであります。
  208. 淡谷悠藏

    淡谷委員 米価の決定を慎重にされるのはけっこうですけれども、米価のいかんによりましては、予約売り渡しの量が大へん違ってくると思う。これはこういう席で申し上げるのはどうかと思いますけれども、現実の問題として米価いかんにかかわりましては、やみ売りの量がだいぶ変って参ります。  これは大蔵大臣にお伺いしたいのですが、食管特別会計の中に、生産者から消費者にわたる米価の中間経費に、やみ売り取締りの項目があるはずでありますが、これは一体どういう意味なんです。
  209. 石原幹市郎

    石原説明員 数字のことでございますので私からお答え申し上げます。食糧管理特別会計の事務費のうちから支弁をいたしておりまする協力費というものがございますが、これはお尋ねのように、必ずしもやみの取締りということに正確に当るものではございません道府県関係におきましていたしますいろいろな行政上の事務に要しまする経費といたしまして二億二千万円があるわけです。このうちからいろいろな行政関係の費用が支弁をされます。
  210. 淡谷悠藏

    淡谷委員 今のはやみ取り締ではないといっておりますが、やみ米の取締りの費用は入っておりませんか。そっちは使いませんか。数字を調べてあるのですがね、こっちは。
  211. 石原幹市郎

    石原説明員 ただいま申し上げましたのは、道府県に対しまして出まする事務費の、何と申しますか、支弁をいたしておるわけでありますから、そのうちで道府県におきまして食糧管理に関しまする業務をいたします費用のうちで、お尋ねのような部分に該当いたします部分があるかと思いますが、そのいわゆる取締りの部分が幾らであるかということは、ちょっと今手元に資料を持っておりません。
  212. 淡谷悠藏

    淡谷委員 農林大臣、聞いていただきたいのです。二十八年には約四千万円、二十九年には三千六百万円、三十年には三千四百万円、三十一年には三千万円という金が協力費という名前 で、米の配給をベースに乗せるための協力に使われているのです。卒直に申しますと、やみ売りの防止であります。こうなりますと、消費米価と生産 者米価というものの開きの中に、中間経費としていろいろ考えなければならない問題がたくさんある。同時にことしの米価改訂に関しましては、大きく改革をいたしました予約減税廃止の問題があります。予約減税というのは、一面は低米価をカバーするために、米価を増すかわりに減税をしたということが一つです。もう一つは、このやみの方に流れていく米を早く金を払ってやり、いい条件をつけてそのベースに乗らぬようにしようという政策の意味かあったのです。それをことしはすぱっと切ったのですが、この食管特別会計に盛られました協力費も、その点で減額する自信がございますか。
  213. 福田赳夫

    福田国務大臣 農家の売り渡し、これにはどうしても御協力を願わなければならぬわけでありまして、協力費をそう積極的に減らすという考えは持っておりません。それから税の問題につきましては、これは御説の通り、さような趣旨で減税というものが始まったと思います。しかし当時所得税納税農家というものか非常に多いのでございまして、三十年現在におきましては百億円以上の農業所得税というものが納められておったわけであります。今日になりますと、それがわずかに十五億というところまで減ってきておるわでございまして、従ってこの減税措置によりまして売り渡しを奨励するという見地から見ますると、非常にウヱートを減じておるというふうに考える次第でございます。一面税の減税、ことに本年度におきましては扶養控除なんかを中心にいたしまして減税をいたします結果、農家の負担も減ってくるということも考えられますので、この際そういう少数り人に奨励をするという趣旨の減税を廃止して、そのかわりそれによって政府に所得収入増があれば、その増加分だけは売り渡しを行う農家全体にこれを配分するというふうにした方がよかろうというので、実は三十四年度の予算の御審議を願ったわけであります。それがきまっておりますので、その趣旨にのっとって、ただいま私どもは政府各部局、また与党の自由民主党と意見の調整をいたしておるわけでございます。しかしこれは卒直に申し上げますと、この減税廃止措置によりまして、利益をこうむるという人が七八%でございます。残りの二二%というものは、これはこの措置によって、負担の増加を来たすということになるのでございます。また本年度の減税措置というものを考慮いたしまして、三十三年度と比較してみると、三十三年度より農家の税引き実収手取りが減るという農家が一・七%あるわけです。それで考えてみまして、これは私どもがとった措置は、筋といたしましてはこれは一つの筋であるということを確信しておりますが、そういう一面におきまして負担の増加がたくさん出るということも、政治としていかがかとも考えておる次第であります。さようなことから、ただいまどういうふうな調整が可能なものであるかということを検討しておる最中でございます。
  214. 淡谷悠藏

    淡谷委員 少し大臣、その答弁お粗末ですよ。これは協力費を米の受け渡しなんというふうに考えておったら、これは米審でもっと強く突き上げられますよ。この中には政府が自分でやらなければならないやみの方に流れる米の取締りの経費が入っているのです。詳しく調べてごらんなさい。それを政府がやるべき仕事を消費者や生産者に間接にかぶせるということは、私はどうもこの苦しい米価構成上、正しくないと思う。もう一つは予約減税廃止の問題ですが、そのかわりに予約加算を七十五円にするという農林省の原案がございましたが、あれは変っているのではないですか。変っていましたら変っている点を率直に答弁していただきたい。
  215. 福田赳夫

    福田国務大臣 ただいま政府与党各部局に対しまして農林省原案として出しておるものは七十五円であります。変っておりません。
  216. 淡谷悠藏

    淡谷委員 そうしますと、この間の本会議におけるあなたの答弁と少し違ってくる。今度のいわゆる予約減税廃止によりまして損をするのはわずかに一割、得をするのが九割、三割農政といわれたけれども、まさにこれは九割農政であると言ってたんかを切ったわけです。今の御答弁を聞きますと二割六分ですか、これはやはり損をするらしい。つい二、三日の間、あるいは四、五日の間に一割と二割六分ではだいぶ違いますが、その違いはどこからきたのですか。
  217. 福田赳夫

    福田国務大臣 それは先ほども申し上げましたが、三十三年度に比べますと一・七%というものが出るのです。それからこれを三十四年度の裸で見たところでは二二%という数字になるわけであります。そういうようなことを含めまして、本会議の席上でありますから大ざっぱに一割、こういうように申し上げたわけであります。
  218. 淡谷悠藏

    淡谷委員 大ざっぱに半分以下に言うのはひどいですよ。幾ら大ざっぱでも二二%と一〇%ではまるでパーセントが違います。どだい非常に長い間かかって作ったこの資料というものがはなはだずさんなんです。大きな資料は作りました。特に予約減税に対する資料は詳しいものがあります。同じ資料を全国農業協同組合中央会が出しておる。これもずさんなりとばかりは言えないでしょう。この二つの資料を突き合せて考えてみますと、どうもこの資料だけでは満足できないような数字がたくさん出て参ります。けれどもきょうはこれには触れますまい。長くなりますから……。しかし予約減税廃止ということを本質に立ち返って考えた場合に、今度はこれをやめてしまった方がよいと思われる節がある。非常にずさんな計算の上に立っておる。同時にたとえば少数であっても一〇%であっても、あるいは二〇%であっても、この予約減税廃止によって損をこうむる層があるならば、この農家というものはどういう層になりますか。平均どのくらいの反別を作った者が損をしますか。その限界点はどこにありますか。
  219. 福田赳夫

    福田国務大臣 大体供出農家でございますから、ただ米ばかりを作るという農家が該当するのではないかというふうに思います。その中でも特に扶養者の少い農家、こういうものがその中に多数含まれておるというふうに考える次第であります。それからさらに経営規模なんかから申しますと、年所得が五十万円前後のものが多いのじゃないか、こういうふうに思います。
  220. 淡谷悠藏

    淡谷委員 これは大臣、やはり農業の経営を考える場合には、五十万円とか扶養家族とか言わないで、何町歩以上の経営、何ヘクタールでもけっこうですが、やはり経営規模に基礎を置いて答えられた方が将来の話がしやすいと思います。これは俸給生活者ではありませんから。これについてもいろいろこの間農林水産委員会議論があったはずです。扶養家族の数を一体何人に押えておりますか。
  221. 福田赳夫

    福田国務大臣 別に扶養家族をどう押えるということはありません。しかし調査の傾向から見まして二人、三人というのが非常に多いということだけは申し上げられると思います。
  222. 淡谷悠藏

    淡谷委員 三・六人なんです。一ぺんこれを見て下さい。各委員会におけるこの問答、これは三浦農林大臣の時代ですが、やはり受け継いでこの大事な米価算定の基礎を変えるというならば、農林水産委員会でどんな問答が行われているか、一ぺんくらいは忙しくても読んで下さい。三・六人という数字を出しておる。実際には四ないし五の扶養家族を持っている。この見方は大へん違ってくるのです。それから損をする境界線を一町五反歩に置くか一町に置くか、これで大へん違ってくる。これは単に数字が合うとか合わぬとかいう問題じゃなくて、今度の米価算定の基準の変更というものは、日本の米を作る将来に非常に大きな転機を与える機会を作るものだということを考えて、慎重に大臣の御決意を願いたい。  それならば一体予約減税を廃止した場合に、犠牲を受ける農民は将来の日本の生産構造の発展の上にどのような比重を持っている層でしょうか。これは政府の方策によって一時的にもせよ損をこうむらしてもいいという階級でしょうか。
  223. 福田赳夫

    福田国務大臣 ただいま申し上げましたように少数で、場合によりますと富農だなんという人もありますが、私はそういう見方をしておりません。これは五十万円前後の、都市生活者に比べますと非常に低い階層である。しかも農村におきましては、そういう階層が中堅になっておる。農村の中堅分子であるその階層であるというふうに認識をいたしております。
  224. 淡谷悠藏

    淡谷委員 そういたしますと、予約減税廃止によって損害をこうむります層が、農村における中堅階級というふうに認識してかまわないのですか。この階級に損をさせておいて、その下の零細農には若干の利益があるからいいだろうというのが、予約減税廃止の趣旨と考えてよろしいのですか。
  225. 福田赳夫

    福田国務大臣 少数の、農村では高額の所得を持っている方々に不利益があっていいというふうには考えないのです。しかしながら、同じ財政を運用するならば、多数の人がみんな売り渡しに協力してくれるという体制の方がむしろ好ましいのではあるまいかということなんですね。さようなことから七十五円を均分に交付するという着想を得たわけであります。ただ私ただいま申し上げました通り、一部におきましても増税になるという者ができるということは、これは政治の感度としてどうかという感じはいたしております。さようなことから、ただいまその調整をどうするかということについて鋭意検討中であります。
  226. 淡谷悠藏

    淡谷委員 もっと七十五円を上げようというあれがあるんでしょう。同時にどこにラインを引くかという点でもまださまざまな問題があるはずです。精細にこれを調べてみますと変ってくるはずなのです。特に所得税だけじゃなくて地方税を入れて考えた場合、とても農林省の算定では追つかない数字が出て参ります。これなどももう少し慎重に御調査になって、きょうの答弁と違ったってかまいませんから、これははっきりした線を打出していただきたいと思いますし、同時に私今度の生産費及び所得補償方式という行き方は、一つの農政の方向を示していると思いますから、やはりこれをやるためには農業団体が言うようにバルク・ライン八〇%で押えるというのは、かなり内輪に見た考えだと思う。一体バルク・ライン八〇%にラインを引くということに対して、農林省はどうして承諾し得なかったのですか。どこに難点があったのです。
  227. 福田赳夫

    福田国務大臣 バルク・ラインというものを設定するという考え方の問題でございますが、これはバルク・ラインというラインをどこに引いてみましても、そこに固有の農業経営の性格を現わすようなものが出てこないのです。あるいは反別というようなものをとってみましても、七五、八〇というようなものに一定の関係が出て参りません。それでやはり生産費ということを頭に置いて米価を算出するということになると、これは常識的には平均生産費ではあるまいか。そこに生産費を百並べまして、その高い方から数えて八十番目のものをもって、これが生産費であるというふうにすることは、私は理論上の根拠がないのじゃないかと思うわけです。生産者側といたしましてそういう御要望をされることは、米価を高くするという意味におきまして私は理解はできます。理解はできますけれども、私どもがこれを米価審議会に諮って決定するという原案といたしましては、なかなか私どもは合理的に説明もいたしかねるというふうに考えております。
  228. 淡谷悠藏

    淡谷委員 一体バルク・ラインの取り方は高い方がら並べるのですか、安い方から並べるのですか、大臣の認識はどうです。今あなた高い方から並べていましたが、間違っていませんか。
  229. 福田赳夫

    福田国務大臣 ちょっと勘違いしました。低い方です。
  230. 淡谷悠藏

    淡谷委員 そうでしょう。バルク・ラインの並べ方は安い方から並べて八〇%のところで押えるのです。これで生産費が出ないわけではない。ただし平均価格は出てこない。しかしながら日本の米の生産というものは非常に立ちおくれた生産様式なのです。戦争以前からあるいはもっと前から政府がさまざまの保護政策を行なって、特に戦争後は強い統制を加えて、やっと今日まで持ってきたのが米の生産なのであります。これは勢い政府の強制力が作用している産業になります。同時に日本のような立ちおくれた農業の地区ではどうしても農産物は、特に米は、その費用価格を最も土地の悪い最劣等地に基準を置かなければこれは必要量の調達ができない。大臣はもっと増産するつもりなのでしょう。そうしますと生産コストの最も高いところ、すなわち最劣等地の生産費というものを基準にしてやっていかなければ増産しない。そこに単なる自由経営ではなくて、強い保護政策を行わなくてはならないという宿命があるのです。バルク・ラインはその点で八〇%に押えましてもまだ生産費の最高は出て参りません。八〇%で押えていますが。むしろ一〇〇%でも日本の農業の場合はよろしい。それをどうして農林省は簡単に三十一年から三十四年までのあの生産費の平均を出して、そこに基準点を置こうという態度に出るのか。それで果して生産費及び所得の補償方式になるかどうか。もう一ぺん大臣の御答弁が願いたい。
  231. 福田赳夫

    福田国務大臣 私どもの算定いたしておりますのは、過去の三カ年の平均生産費を出して、この生産費の自家用労賃、これを都市の労賃に置きかえまして、それに米の需給状況を織り込んで算出するという方式をとったわけであります。それに対しまして生産団体側はバルク・ラインという、ものをいっておるわけでありますが、それにつきましてはどうもいずれのバルク・ラインをとりましても、そこに一定の合理的な安定性というものを見出しがたい、こういうことで私どもはこれはなかなかむずかしいのではないか、私どもといたしましては、これは農政学者の御意見等も承わっておりますが、ほとんど全部の方がバルク・ラインの考え方はなかなかむずかしいというような見解を示しておるような次第でございます。しかしながら、私はバルク・ラインというものについては引き続いて検討したいと思っております。そうして皆さんの御納得を得るような結論をだんだんと出していくという方向努力はいたしたいと思いますが、ただいまの問題といたしましては、私どもがやっておる方式以外に、他にこれにまさる方式ありというふうに考えておりません。
  232. 淡谷悠藏

    淡谷委員 それは大臣、少し無責任ですよ。あの生産費及び所得補償方式というのは、今までのようなパリティ方式を加味したものじや、完全にこれは補償できないのです。三十一年、三十二年、三十三年ととりましても、この基準米価自体が、農民が満足しなかった米価です。この米価基準の年次が、すでにこれは若干の所得の格差ができている。格差のできておる米価をそのまま持ってきて、多少つけ加えましても、これは格差のスライドです。農民の要求するものが出てごない。バルク・ラインについてあなたも大臣としてこれから勉強しますでは七日に間に合いませんよ。学者の言葉を聞くのはいいけれども、少くとも農林大臣になられるならば、米価算定の基礎くらいはすでに勉強が済んでおってよろしいと思う。これはむずかしいと言えばむずかしいですけれども、あなたにむずかしいものは農民にはもっとむずかしいのです。やはりこの際もっと率直にもっと謙虚に農業及び農民団体の言うところにも耳を傾けて、農林省のやった方式はどこまでも通すという態度はお捨てになったらよろしいと思う。  バルク・ラインで一番問題にしているのは、さっきもあなたも話しておりましたけれども、八〇%のラインで押えますと、平均生産費よりは高くつくのです。高くつきますから米価が高くなる。それが今までの米価とは合わないし、大蔵省の負担が大きくなるから、何とか筋が合うような方式をとったのが米価算定のほんとうの形でしょう。これじゃとうてい満足できないのです。最劣等地の米生産者にも満足して働かして、もっと生産を上げる必要があるというならば、私はこの辺で根本的に大臣の認識を直す必要があると思う。一体今度のバルク・ラインに対する反対の中にそういう線が出てくるとするならば、これは明らかに貧農層を切り捨てる方針なのです。生産費の高い方は切り捨ててしまって、その下の方で押えますと、高い生産費をもって米を生産した階級はどんどんつぶれていくのです。それはそうでしょう。一方予約減税では九割農政を唱えられておる。予約減税廃止では貧農層を持ち上げるような方針をとり、反対にバルク・ラインの方ではむしろ貧農層を切り捨てるような方針をとる、米価を決定する一つの仕事の中にこうした明らかな二つの方法を出しているということは、あなたの農政の矛盾ではありませんか。どうなんです。
  233. 福田赳夫

    福田国務大臣 税の問題につきましては、先ほど申し上げましたような考えで、別にこれを差別なく皆さんに一つ売り渡していただきたいという平等の考えでやっておるわけです。  それから米価の問題につきましても、これは平均生産費でいこう、こういうことでございまして、そこに貧農というか、小農ですね、小農に対しまして何かこれを切り捨てようというような別に積極的な意欲があるとか、さようなことは毛頭ありません。私はどこまでも農家の生産性を強めて、そうしてそのはね返りとしての所得の増加、これに努力を傾けなければならぬ、かように考えております。
  234. 淡谷悠藏

    淡谷委員 どうもそれじゃ安心して農政をまかせられない気がするのです。あなたは毛頭貧農層を犠牲にする気持がないならば、なおさらもう一ぺん米価算定の基準についてお考え直しを願いたい。所得の補償と申しますけれども、はね返りは貧乏になりますよ。米価の平均価格と申しますけれども、この平均をとるとり方が中間層に置いてあるのです。それより以上に生産費のかかる階層は見捨てているのです。それはバルク・ラインに対する反対の基準です。御理解いきませんか。そうすればあなたがこの予約減税を廃止するという一方の方針をとり、一方にバルク・ラインの方式はとらぬとうたっていれば、米価算定の方針自体が現実に矛盾を示しているのです。今の中堅層の農民を助けるようにやるのか、あるいはそれ以下の貧農を助けるようにやるのか、あなたが両方助けるというから私は言いたいのです。どっちに踏み切られるのです。予約減税廃止をあきらめるか、バルク・ラインをとるか、どっちかにしなければ米価算定を通して現われてきた日本の農政の方向が狂います。大臣これはどうですか。
  235. 福田赳夫

    福田国務大臣 平均生産費をとるという考え方に対しまして、バルク・ライン方式をとるということにいたしますことは、これは要するに米価を上げようという考え方からきておる生産団体側の立場としては私は理解ができます。できますけれども、私どもの立場といたしますと、生産費というものを基準にする、それに米の需給というものを加味してきめるというので、まあ理論として私はむしろこちらの方が正しいやり方ではないかという考えを持つのであります。
  236. 淡谷悠藏

    淡谷委員 それは非常に間違っているのですよ。第一、需給を考えて調節をするという、その調節の率自体に私は政治米価の本質が暴露されていると思う。都合の悪いところは全部流通過程における調節によって近づけてきたのです。私はむろん今の米価というものは自由経済の価格では持っていけないことは知っております。あくまでもこれは政策米価、政治米価でけっこうです。従ってその政策米価を出し政治米価を出すために、農政の根本をどこに置くかということは、私はこの算定方式を変える今日、非常に重要な問題だと思う。一体あなたは日本の農政を保護政策でもっていこうというのですか。これはこのまましばらく自由経済で持っていこうというのですか。その根本のあなたの御信念を聞きましょう。
  237. 福田赳夫

    福田国務大臣 私は日本の農家の経済状態というものが、非常に国家援助を要するというふうに考えるわけでございます。ただその援助が救貧的な援助でなくて、農家の生産性を強めていくのだというための援助でなければならない、かような考えを持っております。
  238. 淡谷悠藏

    淡谷委員 その点は私も同感です。保護政策と申しますと、雨が降った、風が吹いた、困った農民を救い上げてやるのが保護政策だと思ってきた。これではもとのもくあみです。何べん保護政策をやりましても元の通りです。災害がなくとも一歩前進するような保護政策をとらなければ、長い間政治の日陰におった農民の生活は立っていきません。今度は真剣なんです。その意味で、この間大蔵大臣の御答弁の中にございましたが、農林予算なども災害予算が減ったら、災害予算を経営費の中に盛り込んで、思い切って保護政策を断行するような御決意はございませんか。このままでは国民の半分を占めております農民は滅びますよ。どうですか、その点大蔵大臣は……。
  239. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 農林関係の総予算の額が減った、こういう御意見がございましたので、内容をよく見ていただきたい。なるほど総額としては災害対策費など、多かったものが減った。災害をこうむらなくて、その支出を必要としなかった。だから総額としては減っておるが、食糧増産の関係あるいは土地改良その他今御指摘になりますような保護政策として推進する面の予算額はふえておるということを御被露いたしたのであります。予算の編成に当りましては各方面のバランスをもちろん考えなければなりませんから、災害関係の費用まで含めて農林予算はこれこれの金額になり、この金額は災害がなければ他の方に回せ、こういう御議論には直ちに賛成いたしかねます。先ほど来御議論がありましたように、保護政策をとって、しかもそれは生産性向上の方向においてお手伝いする、この考え方には変りはございません。
  240. 淡谷悠藏

    淡谷委員 生産性を向上するためにお手伝いするというのは、災害の予算等が少い場合は、せめて予備費くらいは一つ回してくれてもいいというふうに考えますが、大臣どうですか。特に今度の米価につきましては、大蔵大臣の言ったことがだいぶ影響しているといううわさが立っているのです。食管会計も赤字になってくるし、このまま米価が上っていったのでは、消費米価との間に開きが大きくなって、だんだん赤字が大きくなるばかりだからというのでワクがはまったというように聞いておりますが、そういうことはございませんか。
  241. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 さような議論をしたことは毛頭ございません。
  242. 淡谷悠藏

    淡谷委員 食管の赤字会計の御心配もございませんか。
  243. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 もちろん食管会計の赤字というものには心配がございます。しかしただいまそういう心配があるから生産者米価を幾らにきめろ、かような意見は申したことはございません。ただいまのようなお話がございましたから、少し時間をとって恐縮でございますが、ただいまの状況で生産者米価がきまり、同時に消費者米価は消費者の家計安定という意味において低い値段できめておる。その間の格差は相当ございます。この格差を生じておりますゆえんのもの、一般の国民負担においてこの格差を埋めておる、この点を考えていただきますならば、農業に対して基本的に保護政策をとっておる、これは御了承がいただけるだろうと思います。私どもが今工夫をいたしますのは、こういうような格差がある、その格差は政府予算でまかなうと申しましても、結局国民の負担である、さようなことを考えますならば、農政の面におきましての保護政策が、さらに進んで生産性が向上され、そして消費者米価との間に格差が少なくなることを実は念願をいたします。しかしそれは価格決定の上において直ちにさようなことを考えるのではなくて基本的政策で実効が上った上に、さような状態に持っていきたいというのが私どもの考え方であります。
  244. 淡谷悠藏

    淡谷委員 これは福田農林大臣にも、就任早々でございますけれども、はっきり積極的な保護政策を行うという腹をおきめになって、予算の面でもその他の施策の面でも、画期的な歩み出し方をしてもらわなければとうてい立っていきません。今国民のほとんど半分くらいを占めております農民の中で、純粋に専業農家というのは三割を割っている。ほとんど兼業農家です。中には兼業農家でも全く田畑は形式だけで農業労働者に落ちているのがあるその落ちている労働者の一番いい働き口は実は林野庁の仕事なんです。林野庁は国の一つの機関でございますが、その労働に対する考え方が非常に封建的です。近代的な賃金体制をとっておりません。きょうは林野庁の長官にも御出席願っておったのですが、頭が痛いそうで出てこられませんので、はなはだ残念ですが、私は詳しい質問をいたしませんけれども、一体非常にたくさん出てきております農村における労働者の対策をどう立てておるか、これは松野新労働大臣に一つ御答弁を願いたいと思います。
  245. 松野頼三

    ○松野国務大臣 お答えいたします。農村と都市との労働力の流通過程を見ますと、三十年以来だんだん都市労働に吸収される傾向はある程度出ておりますが、農村の潜在失業者の総数がまだ完全に把握できない。同時に吸収の過程にあるという今日の状況では、的確にどれだけがどうだということはなかなかはっきりつかみ得ません。しかし傾向としては都市労働にだんだん進んでいることは流動調査及びすべての総計に現われております。従って私どもはその方向を是正することが、より以上農村人口を軽減させることだと考えております。
  246. 淡谷悠藏

    淡谷委員 そこで現実の問題といたしまして、なかなか松野労政にもかかわらず端的には一挙に都市へ吸収するということにはいかないのです。しかるに同じ政府の一翼をなしております林野庁あたりでは近代的な賃金体制をとらないで、あるいは農閑期の安い労働賃金をねらってみたり、出来高払いを強制してみたりこれに反抗すれば警察を向けたりするような反動的な労政が出てきておる。きょうは長官が来ておられますと、もっと食い下るのでありますけれども、このことを労働大臣にお話し申し上げて、しかるべく対処することをお願いしたい。  次に、そろそろ時間もたちますので農林大臣に簡潔に申し上げたいのですが、さっき私が申しましたバルク・ラインをとらないことと、それから予約減税の廃止、この二つの方針に現われた矛盾を端的にあなたはどういうふうに解決するつもりですか。農政上の矛盾です。米価はおさまるでしょう。しかし農政の中心をどの階層に置くかということに対して明らかに反対の方向をとっておる。この矛盾を一体どういうふうに処理されますか。
  247. 福田赳夫

    福田国務大臣 矛盾を意識してやっておるわけじゃないのです。どこまでも米価の算定は、私どもといたしましては、生産費に対しまして需給状況を考慮した計数、具体的には二割五分ふやすという考え方をやっておるわけでございまして、私どもの方式で再生産というような問題がはっきりと浮び出てくるのではないかというふうに考える次第でございます。税の方で九割というようなことを大蔵大臣が先般申し上げましたが、その考え方とあえて矛盾はしない、こういうふうに考えております。
  248. 淡谷悠藏

    淡谷委員 私はそう考えられることが非常にお粗末だと思うのです。これはもう少し虚心たんかいに農業団体、農民団体から出ております書類を御検討願いたいのです。あるいは委員会におけるいろいろな討議資料を見ていただきたい。おそらくはあなたが考えておる以上のものが出てくると思う。第一生産費に基準を置くと申しますが、今農林省がとろうとしておる生産費は、最近三カ年間の実際の米価の生産費でしよう。この生産費にすでに文句があるのです。それをいかにスライドしましても文句のなくなるはずもなし、所得が補償されるゆえんでもございません。私、生産費及び所得補償方式ということは、米価の面だけではなく、て、生産費が実際に要請されておる額よりも高くなった場合には、これに保護農政を加えて、適正な生産費にこれを育て上げるという一つの農政上の意味があると思いますが、その点はどうお考えですか。ただ米価の問題だけにお考えですか。
  249. 福田赳夫

    福田国務大臣 米価自体は、生産者側の立場もありますし、消費者側の立場もあるし、また国民経済上の立場もあるので、そういうような事情を彼我勘案して決定すべきものである、こういふうに考えるわけでございます。もとより農家の再生産については特に重点を置かなければならぬ、こういうふうに考えております。
  250. 淡谷悠藏

    淡谷委員 どうも私はもう少し納得のいく御答弁がほしいのですが、あなたは農林大臣ですから、いろいろな社会の問題もございましょうけれども、農民の立場も第一に考えていただきたいのです。米価問題の解決というのは、それだけでは農村問題の解決はできはしません。農業の流通過程における一つの問題であって全部じゃない。従ってこの生産費及び所得補償方式というものは、生産費を補償し、所得の補償をして、少くとも総理大臣の言う所得二倍まで農民自体もあずかれるところまで持っていくという気組みがなければとる必要はないのです。そうなりますと生産面に対しましても社会的な米価を保ち、ある場合には国際的な米価を保ってもなお生産費も所得も補償されるという積極的な意欲を持たなければ、この方式の農政に与える意味はないと思いますが、その点はどうですか。
  251. 福田赳夫

    福田国務大臣 私どものただいま考えております方式によりますと、これが一体将来どうなるであろうか、これはいろいろ仮定の条件もありますが、漸次米価はふえていくという傾向を持つわけであります。たとえば反収が二%ふえるというようなケースをとってみますと、来年の米価は他の条件が変らないといたしますと百七、八十円増加するというようなことになるのです。だからこれは固定的な考え方ではなしに、私どもの方式でも発展性のある考え方であるというふうに考えております。ただしかし生産費並びに所得補償方式という方式自体が、考え方の非常にむずかしい問題であります。そこで私どもといたしましては、ことしいかようにきめますか、米価審議会の御意見も伺ってきめたいと思いますが、ことしきまった結論というものは、暫定的なものといたしまして今後なおこの方式をどういう形で具現するのが一番いいかということについて検討を引き続いて重ねていきたい、こういう考えであります。
  252. 淡谷悠藏

    淡谷委員 大臣少しのんきですよ。去年くらいならその答弁でもがまんしましたけれども、ことしは生産費及び所得補償方式をとるという看板がすでにかかっておる。看板は掲げたけれども、なかなかむずかしゅうございまして、これから勉強するじゃ、どうも答弁としては私は受け取れない。第一今度の米価算定の基準なんというものは、絶対に生産費及び所得補償方式にかなうものではございません。パリティ方式の変形なのです。農民に要求されたから看板は掲げたけれども、売っているものは別なものだというのじゃ、これは少しインチキですよ。そんなインチキはやってもらいたくない。少くともこの方式の持っております農政における意義というものをはっきりおつかみになって、大臣、大胆にやってもらいたいと思うのです。第一米価はだんだん上っていくなんて考えるかもしれませんけれども、農民の求めているのは、生産費の増大ではなくて所得の増大なのです。単に生産費を補償するだけではなくて、所得を増していこうというところにこの方式の新しい意義がある。いみじくも総理はこの機会に国民所得の倍増論を打ち出してくれた。聞いてみますと、何だかこの倍増論は、農民だけはそっちのけにしておいて、他のあとの半分あるいは三分の一の国民だけに重さがかかっていって、片方は四倍になり、片方は今まで通りといった工合になりはしないかということを私はおそれるのです。少くとも農民に向う十ヵ年間に所得を倍にさせるためには、一体総理の方針に基いて福田農林大臣はどういう具体的な政策をお持ちですか。
  253. 福田赳夫

    福田国務大臣 私は過去の趨勢を見まして、国民経済力、所得というものが平均において五・六%くらい増進してきた、この趨勢は今後も、あるいはその調子は高くなるかもしれないが、続くだろうというふうに見通しております。所得倍増ということがいわれますが、近い将来において倍増ということが実現されるというふうに確信をいたしております。ただ過去の趨勢を見ましても、農業所得総体といたして見まして全体の所得の半分以下です。これを調整をとるということが必要になってくると思うのでございますが、それにはどうしても農村の生産性を向上するということが主軸になり、それでも救い切れない問題は、先ほども労働大臣のお話がありましたが、これはいわゆる過剰労働力、二、三男という問題を、この伸びゆく経済の中に吸収していくという形の中においてのみ解決される、かように考えております。
  254. 淡谷悠藏

    淡谷委員 生産性の向上なんというのはちょっとごまかされますけれども、私は今の農業というものの生産構造を見ますと、これはまさに前近代的なものです。春から秋まで苗しろでもないのに水の中につきっきりになってしまって―ちょっと小便しても軽犯罪法に触れるのに、あの耕地全体に大便、小便をまき散らして、その中で手で草取りをしているなんていう形態は、これは決して近代産業ではございません。少くとも生産性向上はこの基本的な生産の形態にまで手を入れなければ、同時にまたこれをバツク・アップして予算的措置も思い切って大きなものをとらなければ、あなたの望む生産性向上は伸びない。まして総理のいう所得倍増論は農村において成り立たない。その画期的な所得増進の線をこの米価算定の機会をもって勇敢に踏み出すような抱負はあなたにございますか。大蔵大臣になかったら、大蔵大臣にやってもらいたいと思う。その点はどうですか。
  255. 福田赳夫

    福田国務大臣 ただいま申し上げましたように、大いに日本経済力を伸ばすことに協力したいと思います。その伸びゆく日本経済の中に農村の過剰人口を吸収する、これで一人当りの農家所得の配分を増大していくというほかに道はない、また私はその方向へ大いに努力をしたいと思います。
  256. 淡谷悠藏

    淡谷委員 どうもそんなお題目ばかりじゃよくなりはしません。生産構造を根底的に変えるために、あるいは動力を取り入れる、農業法人化の問題なども、これは生産協同組合の形まで持っていって、近代的な機械なり動力なりその他の科学的な技術を取り入れられるような形態に持っていくために、これは農民にまかしておいたのではできませんよ。政策として打ち出すような御意思があるかないか。今までのように、どうでも働けとか、合理化しろとかいうお説教だけでなくて、そういう農政の線で生産構造を徹底的に変えていこうというような意気込みが新農林大臣にあるかないか、まず聞いておきたい。
  257. 福田赳夫

    福田国務大臣 私もまさにさようなことを考えております。ただいま農業法人というようなお話もありましたが、これはお話のような筋からいいまして非常に魅力のある動向であるというふうに考えまして、これとも取り組んでみたいと思います。しかし、農政全体としまして曲りかどにきたともいわれておるのでございますが、これは今問題になっておる日本経済の発展という中において、農村がいかにおくれをとらずにその生活を向上していくかという問題でございます。そういう問題を基本的に考えたいというので、農業問題基本制度調査会というものを設けておるような次第でございまして、一つ大きな決心をもってこれと取り組んでいきたいというふうにお答えいたしたいと思います。
  258. 淡谷悠藏

    淡谷委員 私は簡潔に御質問申し上げるということでございましたから、もうそろそろ終りますけれども、一体少しのんきですよ。実際貧乏しておる農民の気持になってみますと、農業基本法を作るのに二二年間貧乏をがまんしろなんていうことは誠実じゃありません。総理大臣、所得倍増論を打ち出しました立場上、一つ大蔵大臣にも大いにハッパをかけまして、思い切ってその予算を組んで、非常に立ちおくれた農民の所得を増大するために、新しい農政の方向を打ち出すような物心両面のお覚悟がございますかどうか。もう一つはこれは農林大臣だけじゃまかしておけないような気がしますから、あなたの所得倍増論に基礎を置きまして、農民の所得を倍増するために、もう一ぺん農林省の資料の再検討、さらに生産費の平均額を出すといったようなパリティ方式の変形、それから予約減税廃止、これを一ぺん白紙に返して、委員会の言うことも聞き、同時に米審のいろいろな意見も聞いて、所得確保のために卒直にやり直すような御決意があるかどうか伺っておきたいのです。
  259. 岸信介

    岸国務大臣 私が、午前中にも御質問がありました国民所得を倍増したいという目標のものに経済の長期計画を検討し、重視して、これを推進したいと申しましたのは、もちろんその中におけるところの各種産業の関係において十分なつり合いのとれた経済の発展を考えていかなければならぬことは言うを待たないのであります。最近いろいろな情勢を見ますと、農家の所得と他の産業の所得との間の格差が大きくなってきたということ、またこの傾向は単に日本だけでなしに、諸外国の実例におきましても、そういう傾向が見られる状況でございます。この間において、特に農業もしくは農村というものを考え日本の特殊の産業構造というものを考えるときにおいて、基本的な農業政策というものを根本的に検討して、これに対する抜本的な政策を立てなければならぬという意味からこの基本政策の調査会を作ったわけでございます。今どういう方策をやればこうなるんだという結論を見出すことは、まだ私なかなかむずかしいと存じます。従って、各方面の意見を十分に聞いて、その成案を得て、これを強力に推進する、そのためにそういう適当な方策を見出して、政府としてこれに対して助成をし、保護を加えるべきものは当然財政の全般のことを考えてこれをやっていくということを私も政策の基本に置かなければならぬ、かように考えております。  次に、米価の問題につきましては、これはよほど専門的な計数の問題でございますので、昨年の米価を決定した際の米価審議会の意見も取り入れて、いわゆる生産費・所得補償の方式を取り入れると、どういう形において取り入れることが適当であるか、いろいろな学者その他の意見も聞いて、農林省において一年間研究した結果に基いての案が今日出ておるわけでございます。これに対して先ほど来淡谷君からもいろいろな御議論があり、また農業団体等のいろいろな陳情や意見等につきましても、私もある程度承知いたしておりますが、政府としては今申しましたように一カ年間各方面の意見なり資料を十分検討しての一応の得ておる案というものを、今根本的に白紙にして、直ちに考え直すというふうな考えはもちろん持っておりませんが、なお議論があり、調整をすべき点につきましては、先ほど来農林大臣も申しておるように、検討を加えることについては検討を加えて、米価審議会において最後の御審議を願ってその意見を聞いて、最後の決定をしたい、かように考えております。
  260. 淡谷悠藏

    淡谷委員 農林省のこの一カ年の調査というものが非常にずさんであり、また方向を間違っておるものだと私は考えますが、さっきから福田農林大臣にさまざまお聞きしておるのですが、神田農林大臣自体また自信を持たれないらしい。総理の言うことも聞いていますと、非常にもっともらしいのですが、あとで考えてみますと、あまりもっともではないのです。この間の六月二十六日の本会議で足鹿覺君の演説に答えまして、総理はこんなことを言っているのです。「農村問題の今後の重要課題であることは、御指摘の通りでございます。私どもは、その意味において、農家経営を合理化していき、生産性を上げること、あるいは価格問題、あるいは、いかにして農家の所得をふやすか、あるいは、農村におけるところの過剰人口をどういうふうに他の産業に向けていくかというようなことを総合的に考えることによって、これらの問題を解決していかなければならぬと思います。」これは問題の提起でございますけれども、少しも解決になってない。私どもは少くとも総理国民所得の二倍論を打ち出すならば、農民の所得をいかにして二倍にするかという具体的な施策がほしいのです。確固たるそれに対する決意がほしいのです。問題がございますでは満足ができないのです。いかにもごもっともなような今の御答弁でありますが、帰って考えてみるというと、何もなかったということになりそうですから、果して総理に農民の所得を二倍にする具体的な成案、これをなし遂げる御決意があるかどうか、もう一ぺん念を押しておきたい。
  261. 岸信介

    岸国務大臣 いわゆる国民所得を倍増するという私の目標に対して、それでは各種の産業にどういう方策をとれば、どういうふうに持っていけばできるかという具体的のことは、私はそれぞれの関係の方面に研究を命じておるのでございます。今日まだ、直ちにそういう目標を裏づけるような各種産業についての二倍、各種国民階層についての二倍になることの具体的の説明をしてみろという話があるならば、まだ私はその結論を得ておるわけではありません。ただ農村の問題については、先ほど来申しておるように、農家の所得と他の産業の所得との格差が大きくなっていっているという現状、また普通の方法ではこれが同じになり得ない。これは日本に特殊の事情もございますが、ただ単に日本だけでなしに、世界各国においてもそういう傾向のある問題でございますから、これに対してはできるだけ格差をなくして、農民にも私の目標としておる二倍の所得を与えるためにはどういう方策をとるべきかという点については、今私が触れているような問題に対する解決について、それぞれ専門の方面でも有識者の意見を聞いて具体的な案を得て、そしてこれを実行する。私自身の決意としては、その得た適当な方策を強力に実行する、そうしてこれの目的を達する、こういう考えでおります。
  262. 淡谷悠藏

    淡谷委員 そこで私、総理一つお願いがございますが、やはりこの農村問題を徹底的に解決するためには、今までのようななまはんかな方針ではできないということははっきりしております。従って国費をもってこれを強力にバツクアップする必要がある。その予算は非常に防衛費にとられるのですが、きょうの午前中も加藤勘十さんからいろいろお話がございましたが、安保条約を改正しようというときに当りまして、防衛予算に対する疑惑が強まっていることは御承知通りであります。これは機会がございますときょう聞く必要はないのですが、実は私、決算委員会でやっておりましたグラマン機の問題につきまして非常な疑惑を持ったままに、これは開会せずに参っておりまするが、突如これがロッキードに変更になったという真相に対して国民多大の疑惑を持っておりますし、われわれも疑惑を持っておる。あれだけ強く国防会議議長であった岸総理が推されましたグラマン機を急に変えたということには、われわれが指摘しましたような不正なことがあり、あるいは芳ばしからぬことがあったのか、あるいはその他の理由によるものなのか、大へんおそれ入りますが、一つ御説明願いたいと思うのであります。
  263. 岸信介

    岸国務大臣 FXの機種の決定の問題につきましては、過般の国防会議におきまして、従来グラマン機に内定をしておった、その内定を白紙に還元いたしまして、さらに現地調査等の方法を講じて、その上で機種を決定するということに国防会議で決定いたしたわけであります。グラマン機をロッキードに変えて、これを内定もしくは決定したというのではございません。  その理由は、御承知通りグラマン機を内定した当時におきましては、まだどの機種につきましても、ロッキードにつきましてもグラマンにつきましても、その他の機種につきましても、実は現実にできて、そしてそれがある程度の生産をされ、現実に外国において採用されたというところまでいっておらなかったのであります。そしていろいろな試験機であるとかあるいは理論的に計算した数字等に基いて一応内定し、さらに事情を調べて最後の決定をするということで、グラマン機を一応内定をいたしたのであります。しこうしてこれを決定した当時に、それではなぜそういう実際にまだできないのにきめたのかという御疑問に対しましては、生産していく上から申しますと、なるべく今作っておるところのF86との生産の間にギャップを作らせないようにすることが、防衛生産の上から望ましいということで一応内定をした。しかしながらまだ数字的に申しましても、現物についての調査等が実際できない状況でありましたので、内定をして、そうして各種の数字をもう少し詰めた、現実的な数字に基いて最後の決定をしようというのが昨年四月の内定の事情であったのであります。  その後ロッキードにつきましてはF104Cというものが量産に入り、アメリカ空軍においてこれを要撃機として採用し、またドイツにおきましてもこれを採用したというような事情がございますし、また当時できておらなかった、従って数字的に見まして十分な、理論的な数字だけではなしに実際的な数字としてあげることのできなかったものが幾多あったのでありますが、そういうふうな事情が一年間の間に変ってきておりますので、さらにこれを実際について調査して、そうして最後の決定をしたいというのが過般の国防会議の決定でございまして、今までのようにグラマン機を内定して、そしてグラマン機というものに主力を置いて決定をするということではなしに、一応白紙に返して、すべての問題になるところのものを現物についてもしくはパイロットが現実に乗ってみて、これを数字的に―これも淡谷君御承知でありましょうが、ロッキードの持っておるところのスピードはグラマンより低いのであります。従って問題になるところの五万五千フィートまで上昇するのについて二分以上の時間の差があるわけであります。ただエンジンがとまった場合におけるところの沈下速度といいますが、落ちる速度については、これはロッキードがグラマンのほとんど倍になるような状態であるというような、これは性能の点も違いますし、それからまた生産に入りましてからの時間も短かいというような点もありますし、価格の点も、その後だんだん明確になったところによると、ロッキードの方が安いというような点もございます。しかしいわゆる飛行機の安定度というものに対する重要性というものはもちろん重大な問題でございますから、そういうものについてはパイロットやその他専門家が実際について調査してその結論を得ることが私は適当である、こういう見地に立って、この問題を白紙に返してさに慎重に検対した上で最後の決定をしたい、こういうつもりでおります。
  264. 淡谷悠藏

    淡谷委員 きょうはこれ以上深くお尋ねしないことにいたしますが、ただロッキードに関しましてもさまざまなうわさが飛んでおりますし、特に今大量の飛行機を買うか買わないかということについてもさまざまな問題があるようでございますが、次の機会で率直にまた総理にお話をお聞きしたいと思っております。国民の半分を占めております農民というものは、自分の作った米の価格さえ自由には作れないといったような今のみじめな状態になっている場合に、さまざまな疑惑をはらむ防衛予算については慎重に、しかもその防衛産業の育成助長なんていう意味ばかりではなく、農村の産業の育成助長にも、飛行機に対すると同じようなもっと詳しい知識をもって邁進していただきたいと思うのです。それをどうぞお願いいたします。  これで終ります。(拍手)     ―――――――――――――
  265. 小川半次

    小川委員長 この際お諮りいたします。  予算実施状況に関する件につきまして閉会中審査の申し出を行うこととし、その手続につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  266. 小川半次

    小川委員長 御異議なしと認めます。よってさよう決しました。  なお、閉会中審査に際し、実地調査の必要があります場合には委員を派遣するこことし、その手続等はすべて委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  267. 小川半次

    小川委員長 御異議なしと認めます。よってさよう決しました。  本日はこれにて散会いたします。     午後七時三分散会