○
片山哲君 私は、
日本社会党を代表して、今行われました
岸総理大臣の
所信表明に対して、主として
安保条約改定問題と日中国交
回復問題につきまして
質問をいたしたいのであります。(
拍手)
まず
最初に、ただいま
総理大臣が
所信表明の冒頭において申し述べられましたる、
選挙の結果
国民の大きなる
支持を得たという点と、いま
一つは、その
信頼にこたえるために
内閣の
改造と
党人事の
刷新をはかることとしたという点について、
一つの
警告を発したいのであります。(
拍手)
総理自身も、
選挙応援中、数回にわたり
警告を発せられつつ
各地を回ったということであります。(
拍手)また、
総理自身が
最後に述べられました
通り、
公明にして合理的なる
選挙の実が今回の
選挙では遺憾ながら行われなかったということをみずから言われているわけでありまするから、今回の
選挙の勝利を、かりに自負いたしましても、それは真の
国民の
理解と
支持を得られた結果によるものではないことを反省されなければならぬと思うのであります。(
拍手)また、
内閣改造、
党人事刷新、これらにつきましても、伝えるところによりまするならば、
派閥抗争に終始し、その結果でき上ったものであるといわれているのでありまするが、これは
世間周知の事実であることにかんがみまして、
総理大臣は、よくこれから
世論のおもむくところと
世論の趨勢を
考えて、
国民の声を傾聴し、
政治の衝に当られんことを、まず注意をいたしたいのであります。(
拍手)
これより
本論に入りたいと思いまするが、
本論の
前提といたしまして、まず
質問の趣旨と
立場、どういう
立場で
質問をいたしまするかという点を明らかにいたしておきたいと思うのであります。
戦後、
日本国民は、
戦争にこりごりいたしましたので、今後はいかなる場合においても
戦争の
渦中に巻き込まれることはやりたくないのであります。そのために、一切の
戦争を放棄するという
態度をとったことは、
周知の
通り、
国家の大きなる
方針であったわけであります。この
方針に基いて
外交も動いていかなければならないのは当然のことでありまするが、
政府が最近企図いたしておりまする、先ほど報告されましたる
安保条約改定の
方針は、
国際情勢の
変化にかこつけまして、この
基本線を無視し、
アメリカの側につき、
共同防衛の
条約を結び、
防衛の意味を広げまして、
戦争あえて辞せずとの
態度に飛び込もうといたしているのであります。(
拍手)ここにおいて、私は、かかる
戦争に巻き込まれる危険ある新
安保条約を結ぶことは、平和を念願する
理想的な
立場から申しましても、また、理論の上から申しましても、さらにまた、
現実の問題といたしまして、
日本国民の
生命と幸福を守る
立場から申しましても、新
安保条約を結ぶことはすこぶる不利益であり、
日本国民にとりまして不幸なる結果を招来するものであると信ずるが
ゆえに、この
改定には絶対反対を叫ぶ
立場より
質問をいたしたいのであります。
まず、
最初に
質問いたしたいことは、何
ゆえに、
政府は、本
条約を
締結するに当り、あらかじめ
事前に
国会の
承認を経るの手続をとらないのであるかという点であります。(
拍手)
国民はいまだ
安保条約改定問題なるものを十分に
理解していないのであります。それは、
政府がその
内容を知らさないためにもよるのでありまするが、かなり複雑であり、
国際情勢などとからんで
理解することはすこぶる困難なるためであります。これを
理解せしめる
ただ一つの方法は、
国会を通じて、その審議を経て、その全貌を
国民に知らしめることが一番いいことであることは申すまでもないのであります。(
拍手)にもかかわらず、
政府は、急いで、あわてて、やれワシントンで
調印するの、やれ東京で
調印するのと、その
方式だけを放送し、また、
岸総理大臣の
海外出張前に
調印したいというようなことまで言っているのは、
国会無視もまたはなはだしいものであるといわざるを得ないのであります。(
拍手)
のみならず、それは
憲法七十三条第三
号ただし書きに違反するものと断ぜざるを得ないのであります。この
ただし書きは、申すまでもなく、
締結の
事前に
国会の
承認を経ることを必要とし、「時宜によっては
事後」というふうに書きまして、
事後を認めていることは例外としているのであります。
政府は何
ゆえに
事前に
承認を求むるの
方式をとらないのでありまするか。
政府は、真に
国民の
理解を深めようという点から申しましても、
民主主義による
国民外交の
建前から申しましても、隠れてやるような
方式は許すべからざる
違憲行為であると断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)しこうして、さらに伺いましょう。かりに
事後承認を求むる予定といたしまするならば、その
内容の詳細なる報告及び
調印の時期、いかがでありましょう、その
場所等、詳細な説明を求めるものであります。
私は、次に
中立の問題について
質問をいたしたいのであります。
理想的には
中立が望ましいことであり、
戦争に巻き込まれないことを望むのは、すべての
日本人の願望であることは、十分に皆さんもお
考えになっていることと存ずるのであります。私は、この
中立は、
理想的にいいのみならず、理論的にもよく筋の通るものであると思うのであります。それのみならず、実際的にもすこぶる有利であり、
国民に
安定感を与える、近代的な感覚を持った、時代にふさわしい
政策であることを信ずるのであります。(
拍手)
政府は、
日本は
自由陣営に属し、その
一員としての
立場を守り続けたいということをよく申されます。しかしながら、その
自由陣営の
一員ということは、すこぶる欧米的であります。
欧米中心に
考える
政策でありまして、
日本の将来を
考えますと、今や、そういう今までのあり方の
欧米主義による
自由陣営の
一員であるという、その
考えから脱却すべきときが来ていると思うのであります。すなわち、激変する
世界情勢とにらみ合せまして、
日本国民の
生命と幸福を守るためには、かつ、将来のことを
考えて参りますと、もはや、
自由陣営のみに固まるのではなくして、数歩前進いたしまして、そうして
世界情勢に対処しなければならない時期が来ていると信ずるのであります。(
拍手)
根本的に
考えてみましょう。
日本は、まず
アジアの
一員であることを深く認識することが必要であります。そうして、いずれの国とも、軍事的な結びつきなしに、気軽に
アジアの発達に努力することが、ひいては
日本の繁栄と幸福になると
考えるのであります。言うまでもなく、
日本は、これから、
アジア、アラブ、さらには遠く
アフリカ方面に、
経済、
文化等あらゆる面において伸びていかなければならないのであります。それにもかかわらず、今まで
通りの
考えで、
自由陣営の
一員と称して、
一つの国と軍事的なつながりをつけて、やすきにつくという
考えは、排除すべきものであります。保護されているというような
考えは、これはあまりにもやすきにつく
考えであるといって、われわれは、これを排除しなければならないのであります。しこうして、
一つの国に守られているという
安定感のもとに立つことを
前提として、
政府は近く
安保条約改定をなさんとするのでありますが、かくのごときは、
アジアに伸びんとする
わが国にとっては、
アジア諸国から思わざる不信と疑惑を招き、
予想外の不幸を見るに至ること、まことに明らかであるといわざるを得ないのであります。(
拍手)もっと自由なる
立場におきまして、今申し述べた
アジアはもちろんのこと、広く
東西両
陣営と、幅広く、
経済、
文化の交流はもちろんのこと、
友好親善関係を深めつつ、偏狭なる敵視などは持たざる
政策へと進んでいくべきものであることを私は信ずるものであります。これこそ、われわれの言う新しき積極的な
中立政策の
根幹をなすものであります。(
拍手)今後は、おそらく、
戦争を嫌悪するために、このような
中立政策が要望され、だんだんとその
具体性ができ上って参りますし、現在では、架空な、非
現実的なものと、かりにいわれましても、それは、そのうちに
国民の認識が必ず深まってこなければならないものであると、われわれは信じているのであります。(
拍手)平和を
達成するためのこの
中立政策は、全く身軽にして、何ら他国の圧迫と拘束を受けることはないし、また、軍事的な
ひもつきのない自由なる
立場が得られるわけであります。
ところが、現在においては、
世界情勢の
変化によって、
世界各地に集団的な
防衛体制ができているのであります。わが
日本もその中に巻き込まれようといたしておるのであります。だんだん
日本も
武装化されつつあるのであります。軍事的な
ひもつきの、すこぶる窮屈な
現状となって参っているのであります。しかし、これは戦後の約束と大へん違うわけであります。私
たちは、
自分たちを取り巻く
防衛の網もやめたいし、
世界各国に散在する各種の
集団防衛体制もやめさせたいのであります。そうして、これを
国連一本の
安全保障にと切りかえたいことを
考えているものであります。
しかしながら、
現実はそう簡単に参りませんことは十分承知しておりまするから、まず、われわれは、そういう
方向へと向う
目標をはっきりと示さなければならないのであります。それには、とりあえず地域的な
集団安全保障の網を作ることが必要と思うのであります。この構想から
考えておりまするのが、
太平洋地域の国々による
安全保障条約、すなわち、
アメリカ、ソ連、中国、
日本、これらの四カ国からなるものでありまして、
東西いずれの
陣営にも屈せず、
戦争を避けようとする
中立政策をとるものの当然の
目標でありまして、これを目ざして進んでいくことは、決して、無益でも、また、むだなことでもないと、私は信じているのであります。(
拍手)なさなければならないわれわれの努力であり、また、掲げなければならないわれわれの
目標であり、これに近づいていかなければならないものであると信ずるのであります。
われわれは、戦後の
日本建設のために、
国際紛争を解決するには断じて
武力を行使してはならない、
武力は行使しない、こういうことを約束したのでありまするから、その
基本方針は、
国際情勢の
変化に籍口して決して変更することのできるものではないのであります。(
拍手)すこぶる重大なる
基本路線であります。われわれは、これを変えないで
日本の
外交を進めていかなければならないのであります。これを変えないという
保障こそは、いずれの国とも
軍事条約を結ばないで、
中立政策をとっていくに限るということになって参るのであります。
理想を堅持しつつ、理論的にも筋を通し、実際的にも脅かされる心配のない
中立政策こそ、われわれ
日本のとるべき
外交方針なりと断ずるものであります。(
拍手)
岸総理大臣には、そつがないとよくいわれまするが、あまりにも
理想がなさ過ぎることを、われわれは感ずるものであります。(
拍手)今までの
外交では、
日本の将来の指針とすることはとてもできるものではないのであります。
重ねて申します。
日本は、断じて
戦争をせざるのみならず、他の
戦争の
渦中に巻き込まれざる
政策をとるべきであります。新
安保条約などは断じて許すべきものではないと信ずるのであります。(
拍手)
憲法第九条が厳として存在する限り、他の国と
軍事条約を結び、
自衛の名のもとにその他の国をも
防衛し、
海外派兵も場合によってはなきにしもあらずというがごとき、また、
戦争に
協力せざるを得ないというがごとき
条約の
締結は、明らかに
憲法違反なりと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
戦争放棄、
交戦権はこれを認めずとは、明らかに
中立政策をとるべきことを教えているものであります。
中立政策の源は、その
根幹は、そもそもここにあるものであることを
考え、自信と勇気を持って
中立政策を遂行しなければならないものであることを、
岸総理大臣に
警告するものであります。(
拍手)それでも
安保条約改定へと進みたいというならば、
中立政策と
憲法の指示する
戦争放棄の意義について、
政府の確固たる
方針をこの壇上において示してもらいたいことを、私は、まず
最初に要求するものであります。(
拍手)
次の
質問に移ります。
なるほど、それは
理想であろう。
理想は
理想、
目標は
目標であるにしても、
現実的に
日本はねらわれているではないか、
防衛、
自衛をして、そのねらわれている状態を防がなくてはならないということは、常にいわれておりまする弁明であります。すなわち、直接または
間接の
侵略の危険にさらされているというのであります。思うに、これは、
米軍によって固められているから、ねらわれているものである、ということを
考えなければならないのであります。(
拍手)裸の
日本、一切の
武装を放棄している非
武装の
日本、平和と
中立の
立場に立つことを明白に宣言し、これを明らかにするならば、また、宣言するせぬは別といたしましても、そういう
建前をはっきりするならば、
日本を何人がねらって参るでありましょうか。
侵略するでありましょうか。わが
日本をねらっておりますものは、
日本を
武装する米兵がそこに存在するからであることを
考えなくてはならないのであります。
われわれは、数年前に、いろいろ
考えさせられたことがあります。
サンフランシスコ条約が部分的な
講和でありましても、早く
締結して、
主権の独立、
回復をはかった方がいいという説と、
全面講和でなければならないから、無
期限に
戦勝国に占領され、占拠せられ通しであってもいたし方がないという説と、いろいろと議論があったわけであります。しかしながら、結局
サンフランシスコ条約を結んで
主権回復を得たが、そのかわりに、その代償として、いろいろの
条件がつけられていることは、御承知の
通りであります。たくさんな
軍事基地が設置されましたることは、その重大な
条件であります。
国際情勢の
変化はむろん認めなければならないことでありますが、それに応じて、これら
米軍基地が恒久化し、
拡大強化されるに従い、それに相応呼するがごとき格好で、じりじりと押されて再
軍備論がだんだんと出て参りました。
再
軍備は禁止するところでありますが、
わが国の再
軍備は、
米軍基地の
強化からその端を発し、七万五千の
警察予備隊から、だんだんと、戦力なき
兵隊となり、
自衛のためならば戦力ある
兵隊でもよろしいという
拡大解釈となり、いわゆる事実上の再
軍備、なしくずし再
軍備となっていることは事実であります。その再
軍備は法の禁止するところであるのにもかかわらず、今や、
わが国は、
条約の
関係と、直接
間接の
侵略に対処するためという、この理由にかこつけまして、藉口いたしまして、驚くべき勢力をもって再
軍備されつつあるのが
現状であります。そのそもそもの発端は無
期限の
軍事基地提供の
安保条約そのものからこれを発しているといっても決して過言ではないのであります。(
拍手)
しこうして、さらにこの
安保条約を
改定して、
米軍に対しては
わが国を
防衛するの
義務を負わせ、それと同時に、
日本にいる
米軍に対する
攻撃があった場合には、それは
日本自身に対する
攻撃とみなしていいというふうに切りかえようとしているのであります。その他、
米軍の
日本領域外作戦使用や、あるいは
重要装備は
日米間の
一般的協議外の
特別事前協議事項とし、そのうちには核兵器の持ち込みも含まれているという
改定条項に至っては、
日本を
戦争の中に巻き込むに至ることはきわめて明白であるといわざるを得ないのであります。(
拍手)ねらわれているのは、その
強化され核
武装化されんとする
基地でありまして、決して裸の
日本そのものをねらっているわけでは断じてないと、私は信ずるものであります。かかる
立場から
考えましても、
条約の
関係をもって外から押してくる
わが国の再
軍備をいよいよ本物にしようとするのが、この
安保条約改定であると断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
砂川裁判は、
中立を望み
軍事基地の
撤去を望む
日本国民の声の現われであることを
考えなくてはなりません。
政府は、
軍事基地の
拡大強化から軍事同盟化する今回の
安保条約改定を思いとどまり、さらに、そのもとである
基地撤去と、また、
基地を永久化する
安保条約の
改定に反対し、この
安保条約の解消へと踏み切ることが最も必要であると信ずるのでありますが、
岸総理大臣、いかにこれを
考えられるか、この点を伺いたいのであります。(
拍手)
次の問題に移ります。
政府は、さらに新
条約と
国連憲章との
関係を明らかにしたいと言っておりまするが、さらにつけ加えて、憲章の第五十一条との
関係も明らかにしたいと言っているのであります。
政府が第一段でいいまするように、
国連憲章の尊重、
国連機構の
強化、
国際紛争の平和的解決、これはまことにけっこうであります。
わが国民の願っているところであります。十二分にその崇高なる精神を発揮せしむべく
日本は努力しなければならないのであります。そうすると、自然に
政府の今
考えておられるような地域的
防衛の網を張る必要がなくなってくるわけであります。
新
条約は、実は、憲章第五十一条の
国連活動開始までの間、すなわち、
国連軍がやってくるのが間に合わないので、個別的または集団的
自衛の固有の権利として、どんどん行動を開始しようというこの個条を利用して、
集団防衛体制を
強化しようということになると思うのであります。換言すれば、
政府の言うところでは、
国連を
強化しよう、さらにまた、五十一条の個別的、集団的な
自衛の固有の権利をも
強化しよう、こういうん矛盾した二つの問題をともにやっていこうというのであります。しかしながら、この二つは矛盾しているのであります。双方並べての
強化は無理であります。特に、
各地に割拠いたしておりまするNATO、SEATO、あるいはバグダード
条約、ワルソー
条約、その他
アジア方面における各種の地域的集団
防衛の網は、みな
武力による解決を中心とするものでありまするから、これらはともに
国連機構を弱化するものであります。
国連の精神に反するものといわなくてはなりません。
国連強化をこいねがうならば、これら
防衛の網を全部解消するように努力しなければならないものであります。すなわち、
国連による
安全保障だけということに、一本やりで固めていかなければならないものであります。
この五十一条は、申すまでもなく、
アメリカが特に要求いたしまして、憲章制定のときに、その条文の中に挿入することを求めたものであります。そういうふうにいわれておりまする歴史的な条項であります。なお、そのほかに、
アメリカには御承知のバンデンバーグ決議もあるわけでありまするから、
国連の
強化をうたいながら、
国連来たるまでの間と称して、やたらに動き出そうとする五十一条の活動は、最小限度にこれをとどめるべきものであると私は
考えるのであります。(
拍手)
新
条約は、
国連中心の
外交とか、
国連強化という美名のもとに、実は、それに反し、
自衛の名のもとに固有の権利を活動せしめようとする
国連無視の矛盾撞着の
条約なりといわざるを得ないのであります。五十一条との
関係を明確化せんとする
政府は、一体何を
考えておるのか、その点を明白にしてもらいたいのであります。(
拍手)
次の問題に移りたいと思います。
安保条約改定に反対し、積極的な
中立の
立場をとり、世界の平和に貢献せんとするわれわれは、進んで
アジア平和の糸口となる日中国交
回復のために努力すべきものであることを申し述べ、
政府の反省を促し、所見をただしたいのであります。
すでに
わが国の
世論ともなっておりまする点でありまするが、
中立国たるスイス、オーストリア、スエーデン、これらの国よりも、果して西欧に守られ通しでありまするイタリア、ギリシャの方が
安定感が強いということになりましょうか、こういう点であります。
中立のインドよりも、
アメリカに守られている韓国の方がより
安定感が強いという議論が立ちまするか、こういう点であります。世界の
情勢は、刻刻に
変化し、流転してやみません。その激動のさなかでは、いずれかの国に
武力で守られておりまする小国は、そのために一時は安心するでありましょうけれども、しかし、それは全くの一時的な
安定感でありまして、大ゆれが参りまするならば、常に脅かされがちであることを
考えなくてはならないのであります。(
拍手)
戦争の
渦中に巻き込まれる危険にさらされているものであることを
考えなくてはならないのであります。前にも申しました
通り、どこの国とも軍事的つながりのない、また、どこの国からも敵視されることのない、すなわち、どこの国とも仲よくすることが一番よき
安定感であるといわざるを得ないのであります。(
拍手)
事情が大へん違うわけでありまするけれども、参考になりますので申し上げたいと思います。ソ連の大きなる勢力に対抗するためということで、今まで仲の悪かった西独アデナウアー首相とフランスのド・ゴール大統領とが手を握り、西欧連合へ、あるいは共同市場へと踏み切っていることは、
一つの大きなる
変化といわざるを得ないのでありまするが、われわれも、これを他山の石として、十分注目に値する動きであると
考えなくてはならないのであります。
かかる
情勢の
変化を参照しつつ、まず、手近な
アジアの平和を
考えるとき、われわれは、中国との
関係をこのままに放置することはあまりにも無為無策であり、さらに、これが悪化の一途をたどるものではないかということを憂えざるを得ないのであります。(
拍手)
日中問題解決の
前提は、
日本が
アメリカとの軍事的なつながりを打ち切ることであり、
日本が
中立の
立場を明白にすることであり、さらにまた、
アジアにおける各種の集団
防衛の網を全部引き揚げてしまうということであります。そうして、
アジア・ロカルノ
方式によりまする四カ国の話し合いを始めるということでなくてはならないのであります。それ自体、非
現実、あるいはまた空想であるとするならば、言い出した
日本がみずから
中立の
立場をまず明らかにいたしまして、何はともあれ、日中国交
回復のために乗り出すべき必要に迫られているといわざるを得ないのであります。(
拍手)
しかしながら、中国大陸は、岸
政府の敵視
政策が続く限り、国交
回復はおろかなこと、
経済、
文化の交流もすこぶる困難であると主張しているのであります。岸
政府は、これに対し、いまだかつて新中国に対し敵視
政策をとったことはないと反論し、
政府とは切り離して
経済、
文化の交流を求めるために、いわゆる積み重ね
方式を求め、その時期の来たるまで静観を続けようと声明しているようであります。なるほど岸
政府は、正面切って玄関口から堂々と敵視するという宣言みたいなものを出したことは、あるいはないかもしれません。しかしながら、現に進みつつあるこの安保
改定の新
条約こそは、
アメリカと軍事同盟を結んで、新中国に筒先を向けるものでありまするから、これこそ大きなる敵視
政策であるといわなければならないのであります。(
拍手)
政府は、中国敵視
政策をとらないというならば、
安保条約改定を思い切ってやめるべきではあるまいか。
安保条約改定を強行するならば、敵視
政策はなおなお継続することは当りまえであります。平和共存の
建前におきましても、日中の国交
回復は、そういう
考えであるならば、できるものでないといわざるを得ないのであります。
われわれが積極的な
中立を唱えている
ゆえん、さらに、
アメリカと軍事的に結びつく
安保条約改定に反対し、世界から
戦争をなくするための大きなる役割を演ずるであろう
アジアの平和と日中国交
回復、以上ずっと一連の
関係でありますが、この一連の
関係を十分に見きわめつつ、
中立的な平和
政策をとって進んでいきますることは、
日本国民のなさなければならない大きなる
使命であると、私は感ずるものであります。(
拍手)日中国交
回復が
日本として現下最も重大なる案件であることを
考え、今計画しておりまする
安保条約改定を中止し、
中立の
立場にはっきり立ちまして、日中問題解決のために踏み切るべきことを、私は
政府に
警告をいたしたいのであります。この点に関する
岸総理大臣の所見いかがでありましょうか。
私は、
最後に、説明を省略いたしまして、趣旨だけ申し述べまして、岸総理の所見も聞きたいのであります。
その
一つは、先ほど総理が申し述べられました外遊の目的であります。
安保条約改定ときめて
関係国だけ回ることは、意味のないことと思うのであります。前述の
通り、いずれの国とも軍事的つながりのない自由な
日本として、世界に
日本の新しい
立場を紹介するために回ることが必要であります。すこぶる有意義なる結果を、これによって来たさしめるものであると信ずるものであります。ただ漫然と、ごあいさつ的に外遊するということは意味がないので、われわれはこの外遊に反対し、真に
戦争放棄の崇高なる
日本を世界に紹介するために、
中立日本を世界に示すために、外遊の目的を切りかえるべきことを要求してやまないのであります。(
拍手)
次は、
選挙制度の問題であります。本年の多くの
選挙が
公明かつ合理的でなかったということを
総理大臣自身がお認めになって、
所信表明の中にも、これは変えなければならないものであるということを明らかにされているのであります。その一番大きなる弊害は、金が使いほうだいということであります。金の力で当選しよう、また、それができることになっているところに大きなる欠陥があるわけであります。この際思い切って徹底的なる
選挙公営に踏み切ることが必要であると私は信ずるのであります。(
拍手)
日本の議会
政治を立て直し、
日本の民主
政治を確立するためには、この
選挙制度があまりにも放置せられていると思うのであります。戦前と同じような
選挙制度がそのまま行われておったのでは、とうてい議会
政治の確立をはかることはできるものではないわけでありまするから、この際思い切って、半年にわたりまする
選挙を経験したるわれわれは、進んで
選挙公営の断行に踏み切るべきときがまさに来たっていると信ずるものであります。
こういう意味で、
岸総理大臣に対して
選挙のことを言いまするが、その
選挙は、公営
選挙に踏み切るという点が必要であることを、私は勧告いたしたいのであります。
岸総理大臣は、
選挙の問題に関すると、すぐ区制の問題に頭を突っ込んでくるのであります。これらの問題にかかわることなしに、思い切って
選挙公営に徹底的に進まれることをここに
警告し、私は、これを注文し、
日本議会
政治発展のために、ぜひともそれをやらなければならないものであることを申し上げ、
総理大臣の所見を伺って、私の
質問をこれをもって打ち切りたいと思うのであります。
以上に対して
総理大臣の答弁を求めて降壇をいたします。(
拍手)
[
国務大臣岸信介君
登壇]