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高橋参考人 ただいま
福田委員長から御丁重なごあいさつをいただきまして恐縮いたしております。私
栄典制度につきましては一向研究したこともなく、深い
関心を持ったこともなかったのでございまするが、先年
昭和三十一年の初めにおきまして、
鳩山内閣時代に
内閣に
栄典制度審議会というものが設けられまして、はからずその
委員を仰せつかりました際に少しばかり
考えてもみ、また
委員会におきまして
委員諸君の御
意見などを聞きまして、二月の何日かに
答申をいたしております。私
最初この
委員をお引き受けいたしましたときにはかなり急進的な
意見を持っておりまして、もう今日はすでに爵は廃せられておりまするし、金鵄
勲章というようなものも廃されておるのでありますから、一切の位も
勲章もやめてしまったらいいのではないかというような
考えを持っておったのでありますが、しかしこれもなかなか急激に行うということは、またいろいろそこにおもしろくない事態も起るおそれがありますので、せめて今日のかなりに複雑しておりまするものをでき得る限り
簡素化いたしたい、こういう
考えをもちまして
委員会に臨んだのであります。私
どもは全くのしろうとでございましたが、
委員諸君の中には、たとえば
賞勲局長を十何年勤めたというような、
くろうと中の
くろうととも申すべきで方がおられまして、いろいろ貴重な御
意見を伺うことができたのでありますが、よくそのころ言われましたことは、
政府はしきりに
審議会というものを設けているが、これは
政府のアクセサリーにすぎないものである。その
意見はあまり尊重されないというようなうわさが立っておったのでありますが、われわれも一生懸命になりましてこの問題を
審議いたしまして
答申いたしましたところのものが、果してどれだけ
政府の
栄典法案の中に取り入れられておりまするのか、はなはだ心もとなく
感じたのでございます。
私
どもがまずこの
委員会に臨みまして
最初に気つきましたことは、どうも
勲章というものは
国際関係においてなお今日存置する必要があるということでございました。どうも理想的な
考えなどを実現いたそうとする場合に、これを妨げまする大きなものは国際的な
関係でありまして、むしろ
栄典などということはごく小さな問題かもしれないのでございまするが、この点におきましてもやはり特殊な
勲章を存して置くということが
国際儀礼の上から必要ではないかということに気つきまして、そして
審議会の案といたしましては
菊花章というものを置くというような
考え方、外国の国王であるとかあるいは大統領であるとかいうような
人たちに贈ります場合には、こういうような
勲章をもってするというような案も立てましたのであります。
それからなるべく
簡素化するという
考えの第一の現われといたしましては、いわゆる
爵位勲等や
位階勲等でありまするが、この位の方は廃してしまったらいいではないかという
考えがほとんど圧倒的であったように
考えます。多少これに対して
反対の
意見を唱える人もあったのでございまするが、まず大体において
一致を見たのであります。位の方は
日本は非常に古い
時代から、
推古天皇時代とかいわれておるのでありまするが、階の
制度にならったというようなもので、まず
日本的なものと申してよかろうで。ありまするからして国粋的な
考えから申しますならば、
むしろ位の方を存置して、
勲章の方はこれを廃したらどうかというような
考えもなくはなかったのでありまするが、しかしながら位と申しますると、どうも生まれとか地位とかいうようなものに付随しておるところが多いようでございまして、それでむしろこれは
西洋伝来のものではありまするが、
勲章の方を存置するというふうに
意見が傾いたのではないかと
考えられます。そのとき話に出ましたところでは、明治維新の際に維新の
功臣たちが
いろいろ位だとかいうようなものをほしがるのであるが、位の点になりまするとどうしても
公家にかなわないのであります。
公家の位倒れとか申しまするが、非常に高い位を持っておりまするので、どうもこれにかなわない。そこで新しい
西洋の
制度などを取り入れまして、
勲章というものを設けることになった、こういうような話な
ども出たのでありまして、今日におきましてはむしろそのどちらかを廃すべきものである。ことに先ほど申しましたような点からして、位を廃すということにいたしましたのであります。
それから
勲章でございまするが、これは存置いたしますけれ
ども、でき得る限り
簡素化して参りたい。今はかなり複雑なものになっておるようでございまして、またこれはいろいろ複雑なものになっているだけに、それだけ便宜な点もございますが、しかし大体国に対して
功績のあった者というところから与えられるものでありまするならば、一種にしてしまったならばいいのではなかろうか、こういう
考えが出ましたので、それではどの
勲章にするかということになりますると、はっきり
決定はいたさなかったのでありますが、とにかく一種にしてしまう。そして
等級もなくしてしまおう。
文化勲章のようなものにしてしまおうというような
意見も少しはあったのでございますが、まあこれは漸を追って進むべきもので、やはり五等ぐらいに分けておこう。そしてそれも
数字で現わさないようにしよう。今の勲
一等とか三等とかいうような
数字で現わさないようにして、何かほかの
方法で現
わして、
人間の
等級などはきめないようにしよう。こういうような
意見が出たのであります。まあ妙な例かもしれませんが、私
ども子供の
時分に汽車に乗りますときには、上等、中等、下等という三等に分れておったのでありますが、
上中下はいかにもおもしろくないというので、
一等、二等、三等となり、やがて客車などには
一等、二等というような文字もなくなりまして、
ただ色で分ける。そしてさらに
一等はだんだん少くなり、二等も少くなり、三等
一色になってしまう。つまり
等級がなくなってしまう。むしろこういうふうにすべきものではないだろうか。しかし今までのこともあるのでありますから、まず五等ぐらいに分けておこうというようなことが申されたのであります。
それから一番問題になりましたのは
文化勲章であります。これはまあ今までの
勲章の中では大
へん評判のいいものだといわれておるのでありまして、むしろこれは存置すべきではないか。終戦後におきましても
文化勲章だけは毎年授与せられておるのでありますから、これはやはり存置すべきではないか。ところがこれに対しまして強い
反対論が出まして、
国家に
貢献したとかいうような見地から
勲章を出すものとすれば、学問、
芸術、
文化というような
方面において
貢献するのも、政治、経済において
貢献しますのもあえて区別すべきでないのだから、ただ一本の
勲章の中に入れてしまうべきものである。この
意見が大
へん強く主張されたのであります。ちょうどその最後の
決定を見ます日に、私はこの問題は相当重要なものであるから、ぜひ出席いたしたいと思っておったのでございまするが、ちょうど会に出席しておりまして、開会いたしまする直前に、
参議院の
予算委員会から私に対しまする
質問があるということを聞きまして、どうも
予算委員会は代理では困るというようなことで、
議長席を
金森徳次郎副
会長にお願いいたしまして、
参議院の方に参りました。
質問もきわめて簡単でありまして、およそ一時間ほど
審議会に帰ることができたのでありますが、案外早く片づきまして、もう
文化勲章は
廃止することにきまつたということでございました。しかし後に聞くところによりますと、やはり
廃止反対の
意見も相当あったようでありまするし、それから
廃止反対論者であって欠席せられた方が、はっきりは覚えませんがたしか二人おられる。そこに私の
意見がまだわかってはおらないのでありましたが、私がもし
廃止に
反対ということでありますならば、どういうことになったかわからぬということを聞いたのであります。これはすれすれのところで
廃止に
決定いたしたのであります。
それで
廃止を主張いたします
議論は、先ほど申しましたところに大体尽きていると思うのでありまするが、この存置を主張しますものは、私のところに特に所管の文部省の
社会教育局長などが見えましていろいろ述べられたのでありますが、もしこれを
一色のものにしてしまいますと、
学者、
芸術家というような
人たちのところにはほとんど行かなくなってしまうのではないか。どうも役人そのほかの方に厚くなるのではないかというような
意見であったと記憶いたします。しかしこの点な
どもいろいろ
考えることができるのではないかと存じておったのでありますが、さようなわけでありまして、
廃止となったのであります。その際
少数意見の方では、もしこれを存置するとすれば、今までのような
学者、
芸術家だけに限ることがなく、もっと広い
意味の
文化に
貢献した人というように拡張すべきものだという
意見が出されまして、これには同調される
方々が相当あったと聞いております。
文化勲章の場合においてこれを
学者、
芸術家だけに限るべきものであるかどうかということが、
選考委員会においてもたびたび
議論になったのでありますが、一番問題になりましたのは、
岩波茂雄氏に
勲章を与えたということであります。これはまだ
選考委員会ができる前のことでございましたが、いよいよ
選考委員会ができるようになりまして、ここでの
意見をいろいろ聞いてみますと、その例にならうべきものではないかという
意見に対しまして、あれはむしろ誤まりであった、ああいう人はなるほど
国家に
貢献したのではあるが、むしろ他の
勲章を設けて表彰すべきものであって、
文化勲章を与うべきものでない、こういう
意見が有力に主張されまして、とうとう
学者、
芸術家にほとんど限られてしまいまして、ほとんどと申しますよりも全部限られたといっていいのであります。でありますから
学士院の
会員、
芸術院の
会員の中でほとんど選び出されるということになっておったのであります。ところが四年ほど前からだんだん、やはり選考委っ
員会の中におきましても、もっとこれを拡張すべきものだ、たとえて申しますならば
新聞界の
人たち、これは
学者ともいえない、
芸術家ともいえない
人たち、長年
新聞事業などに尽した人、こういうような
人たちも
候補にあげべきさものではないかという
意見が出まして、
候補者の中に、二人と記憶いたしておりますが、有名な
新聞人などの
名前が出たのでありますが、だんだん
委員会を重ねておりますうちにその
名前も消えてしまいまして、ほとんど
学者、
芸術家だけになってしまったのであります。ところが三年前でありましたか、
大谷竹次郎さん、それから
平沼亮三君、こういう
人たちが
候補に上りまして、これが
選考委員会を通りまして授与せられることになったのであります。こういうふうに拡張されますることがいいか悪いか、これはいろいろ
議論があるところと存じますが、またその後、一昨年からでございますが、また再びこれに対しまする
反対の
意見が出まして、
学者、
芸術家に限った方がいいという
意見が有力なものになりまして、昨年
文化勲章を授与せられました
方々は
学者、
芸術家だけに限られたようであります。
選考委員会も年々違った
人たちによって構成せられておりますので、今後どういうところへ進んで参るかわかりませんが、こういうふうに動揺しておりますこともはなはだおもしろくないと
考えております。それからまたすでに
学士院とか
芸術院とかいうものがありまして、
学者、
芸術家を優遇することになっているのでありますから、その上にさらに
文化勲章を与えなくてもいいのではないか、もし
文化勲章を与えるということになりますと、同じく
学士院の
会員であり
芸術院の
会員である者の中にも、何だか
等級のようなものができる。
勲章を持っている人と持っていない人というようなふうに区別せられるおそれがあるので、むしろこれはやめてしまった方がいいのではないかというような
意見もあるかに聞いております。
それで、とにかくこれは
審議会におきましては
廃止されるということになったのでありますが、この点はその後出ましたところの
政府の
栄典法案におきましては、
審議会の
答申を御採用にならなかったところと思いますが、
審議会自体がかなり
意見が分れておりましたので、こういうようなことになりました点も、あながち
審議会と著しく相違したとも申せないかと存じます。それからこの
審議会の
答申にも、
政府案そのほかにも、
栄典審議会というものを設けるということになっております。これはぜひ必要であると
考えるのでありますが、さてこれがどういう形になるか、どういう
人たちから選ばれるのであるか、どこで選ぶのであるかが問題だと
考えます。私の長い間経験いたしましたのは、先ほ
ども申しました
文化勲章選考委員会だけであります。これは十人からなるものでありますが、人のことはしばらくおくといたしまして、私自身があの
選考委員会に出ておりまして、どうもわからない
方面がはなはだ多いのであります。私は
人文科学と申しますか、
社会科学と申しますか、多少こういう
方面をつついておりますので、その
方面の
学者については幾分通じておるつもりであります。また
芸術院などの
仕事も仰せつかっておりますので、
芸術院につきましても若干の知識があるつもりでおるのでありますが、どうも
自然科学方面になりますと、一体だれが
功績があったのであるか、全く見当がつかないのであります。そういう感を漏らされます
方々が、年々選ばれる
委員諸君の中にはなかなか多かったと記憶しております。たとえば
数学方面においてこういう
功績を上げたというのでありますが、
名前を聞くことがそもそも初めであるし、その
数学上の
功績というようなものを伺いましても、なかなか頭に入らないのであります。ただ
自然科学方面から出ておられる
委員一人あるいは二人の
意見を聞きまして、それに従うほかはないという状態にあったのであります。そういうことがこの広い
栄典審議会におきましても相当あるのではないか。むろん公平無私な
人間を選ぶことが問題で、ぜひやらなければならぬことだと
考えますが、そのほかに、
一般に通じておるという人をあげますことが大
へん困難なことになるのではないか、この点十分
考えなければならぬと
考えます。
これくらいにとどめておきまして、なお申し上げることがございましたら、後刻申し上げたいと思います。(拍手)