○中井(一)
委員 そこでただいま伝えられておる金額の制限一千円説なのでございますが、おそらく企業局としては一応一千円ときめておいて、それであまり大きな打撃が日信販等になければ、さらにこれを上げていっていいのではないかとの御意見がある趣きであります。しかし一たびきめられましたら、これを動かすことはむずかしい、事実上できない。従って一応きめるが、将来これを上げていくなどというようなことは、結局その場のがれでありまして、それではかえって事柄を困難にせしめることとなる。そこでこの問題については通産省としても、また政治家たる通産大臣、政務次官としても、この際割り切って、一体日本の通産行政の中で最もむずかしい
中小企業、ことに困難なる小売商の問題をどう
考えるか。特にこれに対して百貨店、日本信用販売会社との相剋摩擦をどう処置するかということについては、今日政治家としての
立場から
一つの覚悟をされる必要があると思うのです。自由民主党においては、すでにいわゆる社会保障等の問題で社会政策的な施策を思い切って進めたのであります。残された
一つは、この
中小企業の問題なのです。特に有力にして大資本を持つものと、無力にして資本力なきものとの間に利害相反する場合において、一体どちらを擁護するかということは、今や之を決すべき時がきておると思うのであります。そうして常に社会の谷底にある約一千万に及ぶ日本の小売商とその家族を擁護し、これを強力なる大資本家、百貨店等の圧迫から免れしめるということは、まさに政治の要諦だと信ずるのであります。その
意味において政治家たる池田通産大臣または原田政務次官等が思い切った決断をなさるのは今である。今これをおやりにならなければ、小売商人は、自由民主党はわれら小売商人を相手にしない、百貨店のような有力なものでなければ相手にしてくれないのだ、と
考えるおそれがございます。私はそれが残念でたまらならぬのである。政治家として決断すべき時は今である。その
意味において、制限せられる金額千円は安過ぎる、低過ぎます。少くともその最低金額を三千円にすべきである。そこで問題は、そうなれば百貨店はあまり困らぬ、困るのは日信版等のチケット業者であると思われる。私の知るところによると、千円では日信販は一〇%商店が減じ、三千円になれば、三〇%減じ、それ以上では日信販はつぶれるかもしれない。その責任をだれが持つか、というような議論が、通産省をして思い切って、小売商側の悲痛な譲歩の最低線、三千円税までも無視してこれを手円ぐらいに
決定せんとせられるわけではないかと推察をするのであります。それゆえに、本日は私は言いたいことを申しますから、この問題についてあらためて大臣、政務次官は企業局の人たちと御協議を願いたいのであります。
百貨店法ができて間もなく通産省小業局の名をもって出版せられた解説書の序文には、百貨店法は百貨店の急激な進出や行き過ぎた営業に関する
行為が中小商業に悪
影響を与え、その利益を著しく害し、またその事業活動の機会を奪うことのないよう、百貨店業の事業活動に対し必要な調整を加えることを目的としたものである、この
意味において中小商業の保護
立法でふる、とはっきういうておられます。もとよりこれは百貨店法節一条が明定する趣旨なのであります。しからば何ゆえ百尺竿頭一歩を進めて、この割賦販売の問題について百貨店を押えることができないのであろうか。現に百貨店のうちには、割賦販売はやらないでもよろしい、それまでして小売から恨まれたくはない、と言っておる店があるのであります。またこの間の中元の売り出しを見ても、東京二十店、大阪十店、それらの百貨店の売り上げは、実に莫大なる金額であります。それを思えば、百貨店はめんどうな割賦販売などを、小売商が困るというのに、強行する必要がどこにありましょう。百貨店は他の方面においてその利益を確保すればよいのであって、無力な小商人を泣かしてまでその利益をかっぱらっていくようなやり方をすべきではない。その趣旨にそ百貨店法の法意であると信じて疑わぬのです。
また先ほど原田政務次官は割賦販売の制限には
消費者側の利便を
考える必要があると述べられておるが、この点については私は汽車や電車のストライキを見よと申したい、
消費者にあたるものは汽車電車の利用者である。
労働者は賃上げの
要求が聞かれないからといって汽車電車を止める、利用者はその足を奪われても泣寝入りであって、しかもストライキは正当の
権利なりとされている、これは弱者
労働者の生活権を擁護するためには一般国民は辛棒せよとの原理のあらわれに外ならない。しからば日本人口過剰のしわ寄せによる犠牲者である小売商人についても、その生活権を擁護するがために一般
消費者は辛棒すべきであるという社会政策の根本原理が認められるのであるか、私が政府も自民党も覚悟して踏み切れと申すのはここなのである。
また日信販等のチケット業者がつぶれるという問題につきましては、私はつぶれてもいいと
考えておるのであります。なぜとなれば、この問題について悲鳴をあげているものは、日本一千万に近い無力な国民なんです。日本の十軒に足らない大資本家たる日信販その他がその声のためにつぶされるならば、喜んで受けてよい犠牲だと思うのであります。しかも日信販等が気の毒だというならば、その損害は新たに
法律を作り国家が補償してもいいじゃありませんか。現にこの
委員会におきまして、織物業者の窮状を救うために、昨年
決定いたしました過剰織機買上補助金、三十一年度から三十四年度にかけて合計十七億の大金を国家がまかなうておる。これを農林省
関係に見ますと、糸価安定法によりまして、糸価の下落により生糸
関係者が困るというので、生糸を買い上げ、たな上げするための費用を百五十億から出しておる。また最近製塩法の革新により塩田の必要がなくなった。そのため塩田業者
救済のために塩業整備促進法が作られ、これも約五十億の大金を出しておる。こういうことを数えて参りますならば、省
関係において莫大なる国費を投じ、一部の国民の困難を救うために一般国民の税金を注入しておる例は幾らでもあります。しからばわが国一千万に及ぶ小売商の人たちのために、日信販の五社や十社がつぶれたって何が悪いか。つぶれて困るというても、その損害は数億にすぎますまい、国家が補償してやってもいいじゃありませんか。同じような問題が、同じ政府、同じ政党によって処理されておるのに、なぜ一たび小売商の問題になると、その悲痛なる声が取り上げられないのであるか、私はこれを残念に思うのであります。これは私は政治じゃないと思う。自由民主党としても今や踏み切るべき時がきているのだ。あの社会保障を、自由民主党は進んで実行した、しかもその結果は福祉日本建設の基礎となった。それならばこの
中小企業、ことに小売商の問題を解決するのに、何ゆえに三億や五億の金を惜しむのか、わずかの百貨店やチケット業者を相手に、日本多数の小売商の声を政治の上に反映さすことができないのであるか。私は
内閣と自由民主党とは深く反省すべきであると思うのであります。
私は初めに申し上げましたように、本日大臣の御出席のないことを遺憾とする、これには理由がある。池田大臣はかつて、
国会において、貧乏人は麦飯を食え、
中小企業の二人や三人は首をつってもよいと言われたと伝えられたものであります。しかし池田大臣の説明は決してそんな趣旨ではなかった。これは全く、ためにせんとするものが、大臣の真意を曲げて、世間に伝えたものであります。しかうして池田さんは再びこの
内閣に入られて、通産大臣の要職につかれた。今度こそは、その月給二倍論とともに常に心配しておられる
中小企業のために尽さんとする情熱、特に小売商の
救済、育成のための施策について、その温情とその真意とをこの
国会を通じて国民に宣明せらるべきでありますが、欠席をされたのははなはだ残念です。しかし事柄は緊迫している。はっきり言うならば、大資本の百貨店数軒、日信販ほかチケット業数会社の利益の確保が大事か。わが国多数の小売業者の擁護が大事か。私は小売商の言い分によしんば多少の無理があってもいいと思う。それをそのまま取り上げて、小売商のために、政府は、われらの自由民主党は、真剣にこれまでやっているということをあらわすことが、政治だと
考えている。それがためには、日本数軒の大資本家である百貨店が多少困っても――繰り返して言う。日信販等なんかつぶれてもかまわぬ。私はそれが政治というものだと信じているんです。弱者の肉を強者の勝手に食わせることは、断じて政治じゃない。弱い者を強い者から守るということが政治だと私は
考える。自由民主党は、これをやらなければ国民の政党とは申されない。ほかの人々のためには何とかしてでも数億の
救済金を出す政府が、何ゆえに小売商の問題になると仕入のような顔をするのか。大体企業局はややもすると六百貨店の側にあるといわれておる。私もそう思わざるを得ない。それならば、政府は同じ通産省内に中小商工業者のためにする
中小企業庁なんというものを作るのはやめるがいい。
通産省の設置法を見ると、百貨店の所管は
中小企業庁になくて、本省の企業局になっている。百貨店は大資本であって、
中小企業でないからそうされたのであろう。しかし百貨店に関する政治的な問題というものは、中小商業者との
関係においてのみその重要性がある、従って百貨店の所管はむしろ
中小企業庁に移されるのが当然だと思う。そうすれば、おそらくこの割賦販買の問題のごときも、政府に対しもっと小売商の声が通じておったと思うのです。
中小企業庁の方々は、さすがに
中小企業庁設置の趣旨にかなうて、
中小企業のために一生懸命です。しかるに本省の企業局の人々は、とんと
中小企業のために理解も同情もない。そうして百貨店の側の言い分のみがお耳に入るように見える。それだから世間で、企業局は通産局の企業局ではもく、百貨店の企業局だといわれるのも、私は無理ではないと思う。以上の
意味においてこの問題をあまり軽く扱わないことが通産省のためだし、この
内閣のためだし、自由民主党のためだと私は確信して疑わない。
明日は、自由民主党本部におきまして商工部会が開かれますから、わが自由民主党においても、真剣な課題として取りあげ、われわれの態度を
決定せねばならぬと思うのであります。その
意味において、私の尊敬する、ことに
中小企業については御理解と御同情のあるわが
中村委員長は、格別の御尽力をもって御推進をいただきたい。もし本問題を軽くお
考えになって、制限金額を千円くらいの程度でおきめになるならば、何のためかわからぬ。日本全国の小売業者は、自由民主党は頼みにならぬ、池田通産大臣も小売業者を見殺しにする大臣だと言うに相違ない。
今やわが自由民主党とその政府とは、日本の小売商のために真の理解者であり、真の同情者であることを示すためには、この問題をどう解決するかを覚悟せねばならない。
多く申しません。まず物品を指定されるについても、小売商側の意見に従っておきめをいただきたい。金額については、千円は少な過ぎる、最低三千円以上をもっておきめ下さるのが相当であると信じます。
私はこれが最後の言葉です。この
委員会が終りましたならば、間もなく具体的な
決定がなされる。願わくは――私の申し上げたことは、ほんとうに日本の気の毒な小売商の悲痛な叫びの代表であり、自由民主党において小売商の味方として一生懸命に働いておる者が多々あるという
証拠です。どうか通産省において、大臣、政務次官を初めもう一度相談を練り直し、それを実行に現わしていただきたい。
私は同時に自由民主党を動かすことをお誓いして、質疑を終ります。