○八木(一男)
委員 厚生
大臣は新潟県の御出身でいらっしゃいまして、新潟県にも部落の差別現象はあるのですけれ
ども、それがほかのところに比べれば非常に薄いので、実感が来ないかもしれません。しかし関西以西においては、非常に大きな現象がまだ現存しておるわけです。今社会共同施設と言われましたけれ
ども、厚生省の担当部門は、社会厚生施設というような、何か共同浴場だとか公民館だとか、そういうものに
関係が深いから、そういうお言葉をお使いになったかもしれませんけれ
ども、ほんとうの
解決はそれだけでは済まないということをぜひ御認識願いたい。
部落問題は、簡単に申しますと、観念的な差別の問題と
考えておられる方が多い。非常に非人間扱いをした略称といいますか、俗称で呼んで差別をしておる問題であるというように
考えておられる方が多いけれ
ども、そういう問題は、水平社運動が起って、それに対する糾弾が起ったので、一応表面的にはなくなった形になっておる。しかし実際には非常にあるわけです。表面には口に出さないけれ
ども、そういうことをこそこそとしゃべっておるという事象もあるし、こそこそしゃべるだけでなしに、人間扱いをしないような事象があるわけです。端的に
一つだけ申しますと、関西以西では、未解放部落の人とそうでない人との間に結婚問題が起ったときに、うまくいった例が非常に少い。ほかの要因が
一つもないのに、それだけで、なま木を裂くように無理やりに引き裂かれて、自殺をしたりとんでもないことが起るという事象が、まだ跡を断たないというような
状態です。そういうような
状態でありますので、事なまやさしい問題ではない。社会施設というようなものを急いで作るだけでは
解決しない。もちろんそれは作らなければならないけれ
ども、淵源からたどると非常に長くなりますので省略をいたしますけれ
ども、とにかくこの問題を
解決するには、部落の差別と貧乏の悪循環を断ち切らなければならぬ。差別から貧乏が起っておる。ところが、今貧乏があるために差別が抜け切らないわけです。前の方の差別のところから申し上げないと十分じゃありませんけれ
ども、同僚の
滝井委員、小林
委員あるいは大原
委員の御
質問が残っておりますから、これは別の機会に十分申し上げることといたしまして、貧乏のところから始めますと、貧乏の
状態が非常に多い。たとえば、貧乏だから、子供さんを高等学校とか上級学校に入れられる人は非常に少い。ほとんどない。それだけでなしに、子供のときから働かせないと食うことができないので、義務教育を休ませる。長欠児童の問題になってくる。あるいは無就学児童の問題になってくる。学校に全然やらないというような問題になってくる。ところが、そういう人たちがそういう
状態にありながら、そこの子供が一生懸命勉強して、中学校をある程度よい成績で出る。非常に困難な条件を冒して出ても、今度就職するときに、大
会社では実際上の差別をやってこれを採用しない。未解放部落民であるという名目のもとに、それを採用しなかったならば大問題が起ります。ですからそういう理由はつけませんけれ
ども、実際には身元引き受け能力が少いというような一般的な理由、それもけしからぬ理由でありますが、そういう理由をつけて大
会社では採用しない。従ってつぶれかけの
会社しか採用してもらえないし、それも採用してもらえないことが多い。そうなると非常に不定定な、たとえばパチンコ屋の従業員であるとか、競輪場の従業員であるとか、そういうところに就職するというような問題が起る。同じ成績——というよりも、成績の下の子、また成績だけではありません、いろいろの工場なり会
会社の適性が、普通に見たら悪いはずの子がいい事業体に就職して、そして非常な努力、苦難のもとから努力した者が、そういうところに就職できない。しかも就職できないことをばかにされるということになれば、その人たちは虚無的にならざるを得ない。虚無的になることから、いろいろのときに少し気の荒いことがあるというような現状がある。気の荒いという現状をつかまえて、そのような気の荒い現状があるから差別をされるんだということになってくる。気の荒くなる原因は何か、貧乏から来ているわけです。だれでも一生懸命努力して、苦難のもとで努力をして、楽な努力をした人より以上の成績をとって、そして
自分の希望の就職が、絶対的にだめなら仕方かありませんけれ
ども、不公平な
事情でだめになって、しかもその
事情を軽べつされるということになったら、そういう人たちは虚無的にならざるを得ない。それは一例であります。そういうようなことから、表面的な差別はなくなっているけれ
ども、実際的な差別が消えるわけではない。そのような虚無的になったのは貧乏から起っている。その貧乏も
解決しないで、虚無的な事象だけを取り上げて、そういうことがあるから差別されるのも仕方がないというような認識に立つ人がある。そういう点は
一つ厚生
大臣よくお心にとめておいていただきたい。そういう点があります。たとえば不衛生だ、衛生観念がないということで差別をする。ところが衛生観念がないといったってしょうがない。たとえば非常に貧乏なために四畳半くらいの部屋に六人くらい暮らしている人がいる。そういうところでは手ぬぐいも少いということでトラホームが伝播する。トラホーム患者が多いから、伝染するといけないというので差別をする。そのもとは貧乏から来ている。また
自分のうちに便所がない家庭がある。朝子供たちが学校に行くときに、大人はがまんしても子供たちは学校の時間に間に合わなければならないし、用便はがまんできない。従って下水道で用便をする。そういうところだけを見て、そのような公衆道徳に反するような事態だから差別をされるのだということを、
自分自身は恵まれていて、そういう人たちに対して無理解な人たちは言う。そういうことで、差別が消えないという現象が起っている。そういう問題は、尋常一様の問題ではない。そういう問題を
解決しなければならないということが提議されて、一昨年の十一月閣議において取り上げられて、岸さんもこれを取り上げ、提唱したのは堀木鎌三氏であります。そういう
方針が内閣でもきめられたはずです。その問題を
解決するには、もちろん公民館を建てる、共同浴場を建てる、あるいはトラホーム対策をする、あるいは就学対策をする、あるいは不良住宅の改築をするというようなことも必要であるけれ
ども、根本的には貧乏の問題を直す、就職ができるようにする、ほんとうの零細農業が成り立つようにする、ほんとうの零細商工業が成り立つようにする。そうして、それができない間は、失業対策事業を十分にしなければならないし、また
生活保護法の方も何とかしなければ生活上の問題が
解決できないというような、すべての問題に
関係しているわけです。そういうすべての問題を
解決するために、内閣に特別な強力な審議会を置いて、あらゆる
関係官庁——
関係官庁はこれだけあります。大蔵省、地方日治庁、農林省、通産省、厚生省、
労働省、建設省、法務省、文部省、それだけの多くの官庁が
関係があるわけであります。そういう
関係がございますので、それでそういうところの政策をまとめてやらなければならないということで、審議会ということが提議をされて、岸さんも取り上げなければならないという返事をされたわけです。ところが、昨年の十月に閣僚懇談会を設けた。その問題ですりかえられては問題
解決ができないので、昨年の十二月に岸さんにまた
質問した。ところが、閣僚懇談会はとにかく間に合せにすぐ作った、しかし、部落問題の
解決のために審議会を作ることを否定したのじゃない、閣僚懇談会はこの部落問題の審議会をどうするかということを審議しますということを
答弁されておるわけです。ところで、岸さんもそういう気持でやってもらわなければなりませんけれ
ども、こういう問題を推進するには、その問題に最も今までに
関係深かった厚生
大臣に非常に熱心に取り組んでもらわなければ、なかなか問題が進まないわけです。特に東日本の人は、渡辺さんもちょっとぴんときておられないようですけれ
ども、事象を目の前に見ておられないので、なかなかぴんとこない人が多い。閣僚がちょいちょいかわる、前の閣僚はそういう気持になっておっても、新しく来た閣僚は無知識だ、そういうことでいつも停頓する。そういうことじゃなしに、渡邊さんにしっかりとこの問題を把握していただいて、堀木さん以上に推進していただかなければならない。この問題について簡単でけっこうですから御
答弁を願いたい。