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大島説明員 今回の
ILO総会に
政府代表といたしまして
出席いたしました
大島でございます。先ほど来
瀧田さん、王城さんから
総会の模様についてお話がございましたが、私から重複を避けまして、
総会の一般的な問題について若干補足
説明を申し上げます。かつ、
条約の
適用の問題と
議長問題について、私から事実と私の
見解を申し述べたいと思います。
この
総会のことし特有の
議題といたしましては、第一に漁業
労働条件の問題、第二に職場における衛生サービスの問題、第三に放射線の影響から
労働者をいかに保護するか、第四に
労使団体と
政府との間の協力
関係の問題、第五に、ノン・マニュアル・ワーカーズといっておりますが、非
筋肉労働者、このホワイト・カラーの
労働者の諸問題、こういう五つの
議題がこの
総会の問題であったわけであります。
第一の漁業
労働条件の問題につきましては、その
最低年令、それから健康診断、
雇用契約、この三つの問題について、今年
条約が新しくできたわけであります。これは昨年の
総会以来の引き続きの、今年は第二次
討議で終局的に
条約ができた。
第二の職場における衛生サービスの問題につきましては、これまた昨年予備
討議をやりまして、今年は第二次
討議、そこで職場における衛生サービスの実施方法、組織、機能、人員、設備といった衛生サービスの諸問題についてのあるべき姿を、勧告という形でことしまとめ上げた、すなわち新しい勧告がまた
一つできたわけであります。
それから第三の放射線の影響からの
労働者の保護の問題につきましては、ことし新しく出た問題でありまして、第一次
討議で、来年もう一度やりまして、本格的にでき上るはずであります。この問題につきましては、
条約で規制するか、勧告の形でいくか、これが問題であったのでありますが、結局のところ
条約と勧告の両建でいこう、
条約の方で大綱を定めて、勧告で詳細補足しよう、こういう形で放射線の影響からの
労働者の保護、その実施方法でありますとか、あるいは具体的な保護
措置、教育、
訓練の問題、健康診断の問題、あるいは放射線の最大許容量の問題、こうした問題について大体のとりまとめをやりまして、来年もう一度第二次
討議によって
条約と勧告ができる予定になっております。
それから第四の
労使団体と
政府の間の協力の問題、これは
各国の
経済の繁栄、
労働条件の改善、生活水準の向上、こういったことを目的として、
労使団体と
政府との間の協力
関係はいかにあるべきか、こういう問題を勧告の形でまとめ上げよう、こういうことがきまりまして、来年再び
総会でこの問題が論議されまして、そこで新しい勧告ができ上る予定になっております。
それから第五のノン・マニュアル・ワーカーズ・ホワイト・カラー
労働者の問題につきまして、これはここで何らかの結論を出そうという形ではなしに、ホワイト・カラー
労働者の各種の重要問題の所在を探ろう、こういう
意味で、
一般討議という形で審議が進められまして、ホワイト。カラー
労働者の
職業訓練の問題、
失業の問題、あるいは老齢化の問題、保健衛生の問題、こういった問題について、今後
ILOとしても長期計画でもってこれらの問題について研究を進めていく、こういうことが
決定になったわけであります。
以上五つの問題が今回の
総会の特有の問題であります。そのほかにこれは例年の同じ問題でありますが、来年、すなわち一九六〇年の
ILO予算、総額約九百六十一億の予算が
決定になりました。
そのほかに、先ほどお話の出ました
条約、勧告の
適用委員会の
報告の問題であります。この
条約、勧告
適用委員会、俗にアプリケーション・コミッティといっておりますが、この
委員会におきましては、まず第一に
各国においてすでに
批准されている
条約、これがいかに実施、
適用されているか、それから第二に、ノン・メトロポリタン・テリトリー、非本土地域と訳しておりますが、昔でいえば植民地のことであります。このノン・メトロポリタン・テリトリーにおいて
条約がいかに
適用されているかという問題、これが第二、第三はまだ
批准していない
条約あるいは勧告、これは別に拘束されるものではないが、この未
批准条約と勧告についての
一般討議――この前の、すでに
批准した
条約の
適用状況については、各個のケースについてやるのでありますが、これについては
一般討議、それから第四に、
条約、勧告が新しくできますと、
各国の権限ある
機関に
政府はこれを
提出しなければならないとい義務がある。権限ある
機関と申しますのは、
日本で申しますと
国会で、
国会にこれが履行されているかどうか
提出する義務がある。以上四つの部門に分れて審議が進められるのであります。
この
委員会において、公労法の四条三項と
条約の八十七号、これは結社の自由、団結権の自由、それから
条約九十八号、これは団結権並びに団体交渉権の
条約、この二つの
条約との
関係が若干論議されたのであります。先ほど申しました未
批准条約と勧告についての一般討論の際に、
労働側から、
日本政府は八十七
号条約を
批准すると約束しているけれ
ども、これはどうも疑わしいのではないか、こういうふうな
意見ないし質問が出まして、これに対して私から、先般
総会の本
会議において
倉石労働大臣から、
日本政府は去る二月
閣議において、八十七号
条約批准の基本的な方針を
決定した。この
批准に必要な
国内的
条件は、いずれ近い将来において満たされると思うので、この
条件ができれば
批准の運びになることであろう、こういう趣旨の所信表明があった、この点について私から
説明してそれで終りであります。その間五、六分ないし数分間であったろうと思います。それで八十七号の問題は、そういう応答で終りました。
次に既
批准条約、すでに
批准している
条約と
国内法との
関係、これについては、ことしは
世界各国百十九件の事案がこの
委員会に出ております。その百十九件のうちの一件が
日本のもので、
条約九十八号の二条と公労法四条三項の
関係であります。御
承知の通り、九十八
号条約の第二条と申しますのは、
労使団体が相互に不当干渉しては困るから、これをしないように適当なる保護
措置を講ずべきである、こういう趣旨の規定であります。そこで私は劈頭
日本政府の
見解といたしまして、わが国におきましては、公社ないし公営企業の
労働者の解雇については、解雇事由が
法律で定められておる、従って無制限な解雇は行われ得ない、すなわち違法行為をやったとか、そういう場合は
法律にはっきり書いてありますが、無制限、自由にこれを解雇することはできないということが
一つ。それから第二の点としましては、御
承知の通り公労法で
労働組合法七条が
適用になっておるわけであります。
労働組合法七条は、言うまでもなく不当労働行為の制度であります。従って公社ないし公営企業の
労働者についてもこの不当労働行為の
適用、すなわち組合員であること、あるいは正当な組合活動を事由として解雇したり、あるいは団体交渉を拒否したり、そういうことは禁ぜられており、もしそういうことがありますれば、これに対する特殊の救済
措置が加えられる、こういう二点がありますので、九十八号二条にいう不当干渉に対する適切なる保護
措置というものは、
日本国内においては十分とられておるところである、こういう趣旨の
日本政府の
見解を私から表示いたしたのであります。これに対しまして
労働側から、
労働組合の
代表は
宝樹さんのほか二名だったと思いますが、
全逓の解雇は不当である、これは取り消すべきだ、ないしは四条三項は不当干渉を生ずるおそれがあるから廃止すべきである、こういう
見解が
開陳されております。これに対しまして私から、その質問ないし
意見に対して一一、
日本においては不当労働行為制度の
適用がある、ただし不当労働行為の制度があるからといって、すべての場合に使用者は解雇できない、あるいは団交拒否ができないというものではない、それから、そういう場合解雇された
労働者というものはアピールすればいい、要するに、そういう特殊の救済
措置があるのだから訴え出ればいい、そういう
措置は不当労働行為の制度としてちゃんときめられている、こういうことを
説明いたしまして、最後に結論といたしまして、わが
政府としては九十八号二条に抵触するものではないということを申し述べたのであります。最後に
委員長が、
日本政府も四条三項の条文を廃止したいと言っておるが、それはまことにけっこうなことで、この該当条文が近い将来に削除されることを希望する、こういう旨の発言がありました。私としては、それで
一応両者の言い分が
開陳されて、それがさらに専門
委員会で審議される、こう思っておったのです。ところが東京におきまして、一部この
委員会で四条三項が九十八号二条違反であるという
決定が出たかのごとき誤解があるということを聞きましたので、
委員会の席上私からあらためて
委員長に対しまして、この四条三項が近いうちに削除されることを希望するということは、
委員長としては単に
日本政府が四条三項を近い将来廃止したい、こう言っておるから希望するという、単なる希望表明にすぎないのであって、
委員会としては何らの結論を得ておらず、すなわち、四条三項と九十八号二条との間の
関係については何らの結論を得ておらす、これはエキスパート・コミッティ、すなわちこういう
条約の
適用関係について
各国から
法律の専門家を集めて専門
委員会を常置いたしまして、ここで詳細検討する
委員会でありますが、このエキスパート・コミッテイにおいて、今回
日本政府が
開陳した
意見と、
労働側の
開陳した
意見、この両者を慎重に検討して、
法律的な見地から再検討すべきもの、こういうふうに理解するがどうかということを念を押したのであります。これに対して
委員長から、それはその通りである、この結果はエキスパート・コミッティに送付されるものである、これが通例の手続である、こういう返答がありました。そういううわさが東京であるということを聞いたのでありますが、そもそもこのアプリケーション・コミッティでこういう問題について直ちに結論が出るというようなことは、およそ常識で
考えられない。
世界各国百十九件もありまして、
委員会の開かれたのが第二週から始まって第三週にはもう終っている。非常に忙しい
委員会であります。ここでは両者の
意見が
開陳される、こういうことなんです。従ってこの
委員会から
総会に
提出されましたレポートの中にも、私からその点、念のために明らかにいたしました点は、
日本政府が言っている通り、こういうふうにレポートの中には記載されております、誤解のないようにということ、すなわち、その直前に
政府のステートメントとして、
日本政府は四条三項の問題を検討しているけれ
ども、これはあくまでも九十八
号条約の問題とは全然
別個であるということ、それからこの問題については必要な
国内諸
条件が満たされることが前提であるという点を
日本政府としてのステートメントで記録されております。またそれを受けまして、アズ・プロポーズド・アズ・ア・ガヴァメント、
政府の言う通り、こういうふうに前段のステートメントを受けているわけであります。しかし念には念を入れよということがありますから、そのレポートが
総会に
提出されましたときに、私からあらためて本
会議で同じことを言いまして、何らの結論を得ていない、そういうふうに了解するということを声明いたしまして、もちろん
労働側からも何らの反論もなくそのまま採択された。アプリケーション・コミッティの経過の詳細な事実については以上の通りでありまして、全
会期中
日本の問題が
総会で論議されましたのは、今申しましたように、六月の三日から二十五日まで二十三日間あったのでありますが、この
条約の
関係で論議されましたのはわずかに数分ないし十数分間、こういう状況であったことを御了解願いたいと思うのであります。
なお、提訴問題はもともと
総会とは全然
関係のないことで、これは
ILOの
理事会において処理さるべき問題なんでありまして、この
理事会に結社の自由
委員会というのが付設されておりまして、これが
総会の始まります前、すなわち五月二十六日に開かれまして、この
委員会には同じく二十数件
各国の問題がかかっておりますが、それらと一括して
日本のケースも審議されまして、その結果がレポートとなって五月三十日の
理事会の本
会議に
提出されました。それは先ほど来お話もありましたように、
日本のケースについては十一月の
理事会まで審議を延期する、こういう内容であります。そのレポートが、
総会の終りました二十六日にもう一度
理事会の本
会議が開かれまして、そこでもちろん何らの異議なく採択された。すなわち提訴問題につきましたは、去る二月の
理事会で今回の
理事会まで審議が延期された、さらにこのたび十一月の
理事会まで審議が延期された、こういうことであります。
なお
理事会の
議長問題につきましては、これはかねてから
日本政府から
理事会議長に出てはどうかという各方面の慫慂がありまして、
日本政府としても
理事会の
議長は
ILOとしても事実上の最高
機関の地位でありますので、それはけっこうということで、かねて
立候補いたしておったのであります。ところが労働グルーブの方で提訴問題とからんでなかなか賛成しがたい状況にあったようであります。
日本政府といたしましては、
議長問題と提訴問題というものは全然
別個であるという見地を堅持して参っておったのでありますが、何しろ労働グループの方がなかなか賛成困難な模様でありますので、
日本政府としては
ILOの
理事会の
議長というものはやはり三者構成というのが
ILOの非常な大きな基本になっておりますから、円満なる
見解一致という姿で選ばれるのが妥当である、こういう見地からして、この際
立候補を辞退する、こういう方針が
決定になりまして、訓令が参りまして
河崎公使から直ちに申し入れまして、急遽そのかわりにミシャネックという人が
議長に選出された。その点先ほど来お話がありましたように、
醜態云々というお
言葉がございましたが、
醜態という感じは全然いたさないのであります。むしろ
ILOとしてはやはり三者構成の基本を持っているわけなのですけれ
ども、その点で三者の円満な同意のもとに選出される、これがほんとうの姿であります。しかし幾らいっても賛成しがたい、これはいかんともしがたいのでありまして、その場合はいさぎよくこれを辞退するということでありまして、しごく淡々としたものであります。
大体以上のように
総会が経過いたしました。並びに
理事会につきましても、ただいまお
説明申し上げた通りであります。以上で私の
説明を終ります