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公述人(藤田武夫君) 私がここで公述を仰せつかりました課題は、三十四
年度予算と
地方財政の関係の問題であります。従いまして、三十四
年度予算のうちの
地方財政に最も関係の深い費目、それから
地方財政計画、そういった問題について、
意見を申し述べたいと思います。
今度の三十四
年度予算におきまして、その増額の最大のものは、
公共事業費であります。今度の
予算の総額、全体の実に四二%を、
公共事業費の増額四百十一億円というものが占めておるわけであります。その内容は御
承知だと思いますが、道路整備事業の二古九十一億円の増、港湾、漁港
計画の実施の七十六億円の増と、まあこういったものがおもな内容であります。この
公共事業費の激増ということが、
地方財政にどういう影響を与え、また
計画されている
公共事業費が、地方団体との関係で果してうまく今後実施されるかどうか、こういう点に問題をしぼって申し上げたいと思います。まず、
地方財政に対する影響でありますが、
地方財政計画を見ますると、国の
公共事業費の
増加に対応いたしまして三百九十二億円の増額を見せております。そのうち、地方団体の純
負担の増というのが、二百八億円に上っております。こういった
公共事業費の激増によりまして、まあそうでなくても非常に財源の限られております
地方財政計画に、非常に大きな影響を与えているのであります。その一番顕著なものを拾ってみますると、国から補助金を受けないで、府県や市町村が単独にやりますいろいろな建設的な事業、これの
増加が三十四
年度におきましては、前
年度に比べてわずかに七十四億円よりふえておりません。
二十三
年度は、その前
年度に比べて二口二十八億円ふえておったのであります。すなわち、昨年の
増加と比べて三分の一以下の増に押えられているわけであります。しかも、その七十四億円の単独事業費の増の内容を見てみますると、そのうち二十四億円というものが、やはりこの公共事業で一番中心になっております道路整備
計画、これに伴う単独事業に充てられる、それから文教施設の整備に三十億円充てる、こういうことでありまして、こういうものを差し引いてみますると、地方が橋梁、河川あるいは
産業施設、社会施設、そういうことに使いまするための単独事業費というものは、昨年に比べて十四億円減少をすることになっております。また、
地方財政計画の中で、道路、橋梁その他の維持補修をいたしまする維持補修費というのがございますが、その金額も、昨年は前年に比べて百六十二億円ふえておったのですが、ことしは全然
増加されておりません。昨年同様であります。
一体こういう
状態で地方の、そうでなくても最近の
地方財政の赤字によって、土木事業、文教施設あるいは
産業施設、社会保険施設というふうなものが非常に水準が切り下げられている場合に、果して昨年よりも単独事業を十四億円落し、また維持補修費は少しもふえていない、こういう
状態で、地方の事業がうまくやっていけるものであるかどうか、これは非常に大きな問題であろうと思うのであります。私、地方の府県や市町村の財政の実態調査によく出かけるのですが、昨年ある県へ参りましたときに、土木関係の職員からこういう話を聞いたことがあるのですが、その県もかなり財源に乏しい県でありますが、国からいろいろな形で補助金の来る、特に道路整備五ヵ年
計画にのっているような道路に、土木喪の大半が注ぎ込まれている。従って、同じ県内でも、非常にへんぴなところで、その地方の農村の住民が必死になって要求しているような小さな道路というものに金を回すことが全くできない。こういう場合に、一体、府県の職員というものは住民全体の福祉を考えなければならないと言われておっても、どうすればいいのだろうか、こういうことを聞いたのであります。こういう
状態が、今後この
公共事業費あるいは道路整備五ヵ年
計画というふうなものが実施される場合には、ますますひどくなるのではないか。地方団体が独自にその地方の住民の要求にこたえて仕事をやろうという場合に、一体どうすればいいのか、このことを十分一つ慎重に御
審議願いたいと思うわけであります。
さらに、いろいろ
計画されておりますたとえば道路整備五ヵ年
計画というふうなものが、果して
地方財政との関係において、今後五ヵ年間にわたって実施されるものであるかどうかという問題であります。道路整備五ヵ年
計画につきましての建設省の道路局の一価書を見てみますると、御
承知のように、今の
内閣の道路整備五ヵ年
計画は、一兆円という非常に巨額のものを予定されております。ところが、その中には、補助事業と地方からいいますると単独事業とあるわけですが、国から補助金をもらってやるこの道路幅備五ヵ年
計画の事業の中で、補助金といっても一〇〇%くれるわけではないわけでして、その補助事業に伴う地方
負担というものが一千四百七十四億円、五ヵ年の間に予定されております。それからこの五ヵ年
計画を実施するためには、地方の単独事業として一千九百億円というものがやはり見積もられております。
合せて三千三百七十四億円、これだけのものを地方が
負担しなければ、道路整備五ヵ年
計画というものは予定
通り進まないということなのであります。で、まあ単独事業だけをとってみましても、先ほど申しましたように非常に圧縮されており、こういう
状態において三年間に約三千四百億円、これを一カ年に直しますると六百八十億ばかりになるわけでありますが、果してそういうものを
負担するだけの財源が地方団体に与えられるのかどうか、これには非常に大きな疑問を持つわけであります。そうなりますると、
計画はなかなかりっぱなものができても、よく
計画が地についておらないということを申しまするが、地につく前に一体その
計画を実施する手足になるべき足がしっかり与えられているのかどうかということを私は疑うわけであります。従ってまあこういう道路整備五ヵ年
計画というものもけっこうかと思いますが、まあ先ほど木村さんから選挙
対策のにおいがあるというふうなこともあったわけですが、それはとにかくといたしまして、果してその一兆円にも上る道路整備五ヵ年
計画というものが、先ほど申しました地方のいろんな行政、事業にどういう影響を与えるのかと、それを一体そういう圧迫を回避しながらどうすればいいかということを、もっと真剣に地方の実情に立って
審議していただきたい。場合によってはこんなに五ヵ年間に一兆円の
計画をやる必要があるのかどうか、急いでやる必要があるのかどうかということも十分
検討を願わなければならないし、またやるといたしましても、果して国の
負担部分が現在の
通りでいいのかどうかと、まあ今度三十一年から行われております公共事業に関する補助特例を道路については三十七年まで延ばすようですが、それだけの補助率でいいのか、あるいは国の直轄事業の部分をもっとふやさなければならないのではないか、というふうな問題につきまして、この事業自体を進めるについても、また先ほど申しましたように
地方財政の
状態を考えるについても、この点十分慎重に御
審議を願いたいと思います。
それから第二の問題といたしまして、まあ
予算に計上されておりまする民生関係の諸経費、これが
地方財政に一番関係深いわけであります。まあ、そのうちで一番問題になっております文教関係の経費であります。まあ早くから問題にされておりまして、すし詰め教室の解消ということで、文教施設費が今
年度七十七億円計上されております。昨年に比べて十九億ばかりふえております。聞きまするところによると、文部省でこのすし詰め教室解消の
計画として五ヵ年
計画を立てて、初
年度に百二十億円を要求したところが、七十七億円しか計上されなかったということのようでありますが、このすし詰め教室の解消の一番中心の問題は、不正常授業解消の
予算でありますが、これはわずかに十八億円であります。昨年に比較して一億五千万円ばかりふえておりますが、現在全国で五十人以上のそういう基準以上のすし詰め教室が十四万学級あるというふうなことがいわれております。この十四万学級を一挙に解消するわけでもないでしょうが、解消に対して十八億円ということで、果してどこまでそれが解消されるのであろうかということに疑問を持つわけであります。そうして
地方財政計画を見ますると、地方の単独事業といたしまして、文教施設の経費が三十億円、先ほどもちょっと触れましたが、ふえることになっております。すなわち国の方の
負担を、割合いろんな関係で計上されなかったのでしょうが、そのしわ寄せが地方の三十億円ということに影響をしているように思われるのであります。そうしてその三十億円について、地方の財源で十分まかなうことができないであろうということが見通されたのであろうと思うのですが、義務教育施設についての二十五億円の地方債の増が見込まれております。こういう点、文教施設ですし詰め教室の解消ということが、かなり地方の財政に対して、借金をしてもそれをやっていかなければならない、もちろん、中央にも重大な関係はあるわけですが、非常に苦しい
地方財政の上に、かなりの圧迫を加えているのではないかというふうに思うわけであります。
次に、社会保障関係の経費でありますが、これは先ほど木村さんもお話しになりましたので、ごく簡単に触れておきたいと思いますが、
生活保護の人員は昨年に比較いたしまして二万三千人減少ということになっております。三十三
年度は前
年度に比べて五万二千人
増加を見ておったわけであります。私地方へ行って、民生
委員の
人たちに会うこともよくあるのですが、よく民生
委員の
人たちの話しでは、実際に保護を要する人は、現在保護し、救済されている人の数倍に上るのではないかというふうなことを聞くわけでありますが、こういうふうに
経済の好転ということが理由にされおりますが、二万三千人減らしていいのかどうか。また、保護の単価は今回二・五%ふえておりますが、これは厚生省では七%を要求したということも聞いております。現在
生活保護基準というのは、厚生白書によりましても、全国の勤労者の平均家計の約四〇%、あるいはそれを下回わるのじゃないかということを言っております。従ってそういう点から見て、わずか二・五%の
引き上げということは非常にわずかなものであって、この点十分御
審議を願いたいと思います。
それから
失業対策も先ほどお話しがありましたが、
失業対策費が約二億円減少しております。まあ今日七十万、あるいはそれ以上といわれております完全
失業者に対して、昨年と同じ二十五万人という
失業人員で、果して十分であるかどうかという問題が残ると思います。
また、住宅
対策につきましては、約十億円増額されておりますが、公営住宅については、昨年の四万七千戸から、四万九千戸に、約二千戸ふえております。しかしその内容を見ますると、木造八坪の第二種住宅というのが大部分でありまして、きわめて零細な住宅であります。現在住宅の不足数は二百万戸をこえるだろうということがいわれているわけでありますが、この点も十分御
審議を願いたいと思います。
まあ総じて民生関係の行政費は、その他の経費と比べましてあまり十分な手当が行われておらない。そのためにそれが地方団体の方にかなり強くしわ寄せがされるのではないか。しかも、
地方財政が、先ほど申しましたように、非常に公共事業等によって圧迫されることになりますと、結局は民生行政が実質的に内容が低下するという
状態に追い込まれるのではないかというふうに思うわけであります。
第三点といたしまして、
地方財政計画の問題に移りたいと思いますが、先ほど
公共事業費等で歳出の問題に触れましたので、主として歳入の面について申し上げてみたいと思います。
歳出の方は、先ほど申し上げましたように、
公共事業費の非常な大幅な
増加、それによって地方の単独事業が非常に圧迫をされる。また、従来地方団体はもうこの数年間かなり経費の節約を、これは実際上私が地方へ行って見ましても、かなり節約をしているように思われます。なお、それにもかかわらず、旅費、物件費において来
年度三十八億円の減を見ているような
状態で、かなり経費の方は無理があるように思います。
それでは、歳入の方はどうかと申しますると、歳入で地方税が三百四億円の増収を見込まれているわけであります。御
承知のように、地方税は事業税、固定資産税を中心に百一億円の
減税が行われたのであります。その
減税による減収も見込んで三百四億円の増収を見込んでおります。その増収の内容を見てみますると、道府県では、所得課税をいたしまする住民税、それから不動産取得税、遊興飲食税。市町村では、住民税、固定資産税は百九億円も増収を見ておりますが、電気ガス税、たばこ
消費税。そういうものによって三百四億円の増を見ております。
ところで、地方税に対する
経済界の景気の変動の影響は、御
承知のように、大体において一年おくれるわけであります。三十三年の不況というものは三十四
年度に現われてくるわけでありまして、
経済企画庁の
分配国民所得の推計によりましても、三十三年の
国民所得というのは三十二年に比べてごくわずかしかふえていないような
状態であります。さらに、農林水
産業所得などは、三十四
年度には三十三
年度よりも減少をしております。一兆三千二百億円から一兆三千億に減少を見積られている。こういう
状態のもとにおいて、果して百億
減税分を含めて三百四億円の増収が実現されるかどうか、この点に非常に疑問を持つわけであります。また、場合によっては、一部の商
工業の盛んな府県には、たとえそういう増収が現われることがあるといたしましても、先ほど申しましたような、非常な貧乏府県と申しまするか、今度の手業税の影響が農村県においては個、人事業税を半減するというふうな影響が見られるのです。たとえば、群馬県では五六%でしたか、長野県は五二%というふうに、ほかにもたくさんありますが、半分以上減収になる。そういう府県においても、果して増収が期待されるのかどうか。私は、この見積りには相当な疑問を持つわけであります。
もし、
地方財政が経費の方のいろいろな事情によってこうい税収をあげるということになりますると、場合によっては、固定資産の過大な評価が行われたり、あるいは事業所得の見積りを水増しする。これは、私が地方に行ってそういうことを税務吏員からちょっと聞いたこともありますが、これはその県だけのことでもないと思いますが、そういうことが行われる。そうなりますると、せっかくの
減税の効果が削減されるというおそれもあるのであります。また、現在二百五十億円をこえるような税外
負担がありますが、この税外
負担がさらに
増加するという危険も十分認められるわけであります。
こういうふうに、本
年度の
地方財政計画は、国の
公共事業費その他の
予算との関係を考えまして、歳出の面においてかなり無理をして抑制されている。しかも、歳入の面には過大な見積りが行われているではないか。その結果は、
地方財政が、まあ最近新聞等ではかなり好転したように——実質的に好転したかどうかは問題だと思いますが、いわれておりますが、再び地方団体が赤字に追い込まれるのではないか。
地方財政計画は一兆三千三百四十一億円ということでありますが、これは何ですが、一兆サミシイ
予算であるとだれかが言ったのですが、かなり
地方財政はさみしい
予算のように思われるわけであります。で、地方選挙も間近に迫っておって、
保守、
革新を問わず、地方選挙には議員を通じて今後地方団体が活発にいろいろな活動をするようなことを住民に公約されると思いますが、果して
地方財政のこういう
状態のもとにおいて、そういう公約が実現されるかどうか。こういう問題については、実質的な選挙
対策でも十分御考慮をお願いしたいと思うのであります。
第四番目に、国の
財政投融資計画と地方債の問題に触れたいと思います。
昭和三十四
年度の
財政投融資は、御
承知のように、五千百九十八億円、昨年に比べて千二百三億円という異常な激増ぶりを示しております。その激増の内容は、輸出入銀行に対する二百八十億円、開発銀行に対する百二十五億円、電源開発に対する五十六億円、またその他いろいろあるわけでありますが、民間資金への資金供給は昨年に比べて約八百億円
増加するようであります。ところが、住民のための公共事業を行う地方団体に対しては、地方債のワクは昨年に比べてわずか百億円より
増加していないのであります。しかも、その百億円が全部公募債で
増加をしている。
政府資金というものは、昨年と同様に、八百五十億円しか回されていない、こういうことであります。地方債の公募というのは、従来からも地方団体の財政の急迫でなかなか困難な事情にあるのですが、果して一挙に百億円の公募債のワクを広めてうまく消化されるかどうか。
政府資金を民間に八百億円回した関係からいっても、もっと回す必要があるのではないか、こういうふうに思うわけであります。
しかも、この百億円の
増加の内容を見ますると、先ほど申しましたように、義務教育施設に二十五億円、それから
災害復旧に二十五億円、下水道に二十六億円、港湾整備に十一億というふうな
状態で、結局、その他の一般の単独事業の地方債の増はわずかに四億円見積られているにすぎないのであります。先ほど申しましたように、単独事業は非常に押えられておりますが、それをまかなう借金の面でもわずかに四億円しか増が認められていない、こういう
状態なのであります。もちろん、赤字を補てんするために地方団体が借金をするというふうなことは非常にアブノーマルでありますが、地方の事業のうちには住宅とか、公営企業とか、学校とか、屎尿処理とか、いろいろな公債に適する事業もあるわけでありまして、どうか地方団体の実情を御賢察になって、昨年に比べて一千二百億円以上の増額を示した
財政投融資というものについて、地方債との関係を御
審議を願いたいと思います。
この
財政投融資の原資というものを見ますると、それの五六%というものは大蔵省の資金運用部の資金から来ているわけであります。この資金運用部の資金というのは、申し上げるまでもなく、主として郵便貯金の金でありまして、これは地方の主として零細資金が集まっている金であります。
戦前にはこういう地方資金の地方還元というようなことが唱えられ、また実現されたんでありますが、こういう点もよく考え合していただいて、その原資の関係からいっても、地方債の問題を真剣に考える必要があるように思うのであります。
最後に、第五点といたしまして、これは昨年、私、衆議院でも申したことなんですが、国の方で、御
承知のように、二、三年前から
租税特別措置の整理を始めておられます。まだ十分行われたとはいえないでしょうが、部分的に進められております。ところが、地方税の方においても主として固定資産税において、大体特別措置の、国の特別措置と同じような理由でもって、企業
合理化促進法による機械
設備とかその他について、かなりの
減税措置が行われております。二分の一あるいは三分の二というふうな
減税が行われているのですが、これは、今日地方の独立税源が非常に乏しく、また他の
中小企業等の
負担等を考えた場合に、固定資産税その他の地方税の減免措置の整理ということを取り上げるべき
段階であろうというふうに思うわけであります。
以上、国の
公共事業費、それから民生関係費、それから
地方財政計画、
財政投融資と地方債の問題、さらに地方税における減免税措置の整理、この五点についてお話を申し上げましたので、御参考になればけっこうだと思いますが、
最後に、一言ちょっとつけ加えてお願いしておきたいことは、私、自分のことを言って恐縮ですが、毎年衆議院あるいは参議院から
公述人招かれまして、学年末非常に忙しいときなんですが、昨日も衆議院の方へ参ったのですが、私たちのこの学者と申しますか、研究をしております者の仲間の間で、どうも
公聴会で呼ばれて行っても、第一、
出席者が非常に少いし、また、公述をしても、それが
審議の上で十分に反映されていないような場合もある、だから、あまり熱意が持てない、あまり君もそうしばしば行く必要もないのじゃないかというようなことを言われるのですが、私は、これはまあ国会に対する
国民の義務として調べてきているわけですが、そういう点もどうか含めて、今後、これは参議院だけの問題じゃないのですが、十分に一つ御
審議を願えれば望ましいと思います。(拍手)