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国務大臣(
岸信介君)
日本の産業経済の特質の
一つは、いうまでもなく国際経済界につながっておる度合いが非常に強いことでありまして、われわれは必要な原料源等を輸入しなければならない、食糧あるいは衣料の原料等大事なものを輸入しなければならない。従ってこれとバランスするように輸出をうんと伸ばしていかなければならぬ、というような
立場が非常に強いわけでありまして、従ってこの輸出貿易の伸張ということは、どの
内閣がやりましても
日本の繁栄と国民生活の向上のためにはうんと力を入れなければならない。ところが国際情勢は必ずしもそれが恵まれておる情勢でないということも事実であります。特に貿易の面から見ますると、日米間の貿易は輸入につきましても、輸出につきましても
日本の貿易の全体に占めておる量が最も多いのでありまして、しかもこの輸出入の
関係がアンバランスになっておりまして、
日本にとって不利な状況にあることも御
承知の
通り、従って
アメリカに対する輸出貿易をうんとふやすということは、何といっても
日本にとって現実の問題としては一番大きな問題になってくるわけであります。しかもこの
関係において、
アメリカ側におけるいろいろな
日本品の輸入制限や、あるいは関税障壁を高くするというような問題が、
国会に取り上げられる、ある意味からいえばこれはほとんど年中行事のような、政治時期になるといつもそういうふうなことがありますけれ
ども、そういう政治的な
関係は別として、やはりそういうことが起ってくる原因がどこにあるかということを十分検討して、これに対する対策を考えなければならぬと思うのであります。
アメリカのワシントン
政府は、
日本と
アメリカとの
関係から今いったような
関係を十分理解しておって、
日本に対するそういうような関税の障壁やあるいは輸入制限というようなものが望ましくないという態度で、非常に
日本の
政府に対しては協力的な態度に出ております。あるいは
国会で議決したところの関税の引き上げに対して、大統領がヴィトーの権限を発動しておるというようなことにも見えるわけでありますが、しかし同時に
アメリカの各州の状況、また各産業の実情というようなものは、これは無視できないのでありまして、十分
一つこういう点につきまする
アメリカ側の実状も一応わかっておりますが、業界の人々や政界の人々の十分な了解をとり、できればそういうことを未然に防ぎ、また起っておる問題を合理的に解決するというふうなことが必要である。高碕通産相が近く訪米する使命のうちの重要なるものは、この日米間の貿易問題に対する
調整、並びに
日本の輸出貿易の伸びていくことについての具体的な有効方策を見出そうということであります。さらに私は、
日本は根本においてわれわれがとっておる外交の三原則である国連中心、自由主義国との提携、アジア外交の推進というこの線に沿うて、
日本が自由主義国の
立場を堅持し、そして繁栄していくということを、あらゆる面から非常に強く望んでおる、見方によれば、それは
アメリカの安全の
立場からいって、
日本がそういうふうに繁栄していく自由主義の
立場を堅持しておるならば、いわゆる共産勢力の波及に対する
一つの防波堤にもなり得ると思っていることも事実でありましょう。また共産圏との対立において
日本が持っておる実力からいって、非常にこれを重要視しておることも、これも事実でありましょう。しかし何といっても、われわれは先ほど来申し上げるように、
日本経済の根本の特質から、
日本の繁栄、国民生活の向上ということから、どうしても貿易の点において一段の努力をしなければならぬし、
アメリカ貿易というものを、この意味において非常にこれを改善することが必要である。さらにわれわれが東南アジア外交を推進する意味からいっても、東南アジアやあるいは中近東等に対する貿易もうんと伸ばしていきたい、しかも事実は、現在のところあまり伸びておらない。それにはやはりこの地域についての開発ということが先行する必要があり、これに対して
アメリカが従来やっている援助が、必ずしも有効でないということについて、
アメリカとしても相当自覚していると思います。従ってこれらについて、
日本の繁栄のためにこれらの地域が開発されるということに対して、積極的な意図を示して
アメリカがだんだんきているということも、これは事実でございまして、いずれにしても、われわれとしてはやはり国家間の、これはいろいろな議論がありましょう。しかし決して共産主義を敵視するとかこれらと一切交際しないとか、経済交流しないとかいうようなわれわれは考えを持っているわけではございませんけれ
ども、事実問題、現実問題として、まだまだ自由主義国の
立場をとっておりながら、十分な貿易のできない地域、これらに対して
日本としても一そう努力すべきことだ。また日中間の問題につきましては、いろいろな議論が論議されているように、私
どもも決して消極的な態度をとっているわけではございません。まだ貿易再開に適当な手がかりができておらないというのが現状でございます。いずれにしても、そういう
方針で
日本としても進むわけであります。
アメリカがわれわれの
立場を相当によく理解して、これに対してあらゆる面から協力していることは私は望ましいことである、その間におけるいろいろな利害の衝突というようなことについては、適当な方法で
調整をしていく必要があると、かように考えております。