○片岡
文重君 私は
日本社会党を代表いたしまして、
昭和三十四年度
一般会計予算案外二案に対し反対の討論を申し述べたいと存じます。
およそ国民の負託を受けて
政権を担当する者にとりましては、国民に対する深い愛情と誠実なる
政策、公明なる出所とが何よりも大切であり、いやしくも国民の生活を思わず、あるいは羊頭を掲げて国民を欺瞞し、あるいは血税を乱費して私腹を利するがごときことは断じて許すべきではないとかたく信ずるのであります。すでに衆参両院を通じ、二カ月間にわたって続けられました審議の結果、私
どもが知り得ました明年度予算案の
内容は、まことに残念ながら
岸内閣の性格をそのままに、冷酷と欺瞞とそして汚職のにおいきわめて濃厚なるものであったのであります。以下事例をあげまして、本予算案の性格と、わが党の反対する理由とを明確にいたしたいと存じます。
第一は、本予算案の基本的性格と経済見通しについてであります。
政府は三十四年度における財政運営の基本方針について、わが国経済の安定的成長と質的改善をはかり、もって国民生活の向上と雇用の増大に資すると述べておりまするが、このかけ声こそは、まさに雇用と国民生活の犠牲の上に立てられたところの大企業の安定的発展とその体質改善の計画をカムフラージュするための何ものでもなかったと思うのであります。経済
政策はまず経済安定、すなわち通貨価値の維持を目標とすべきか、それとも国民生活の向上と雇用増加のために発展を指向すべきか。これは資本主義経済のメッカ、アメリカにおいても、共和党
政府と民主党とが互いに真剣になって追求しておる基本問題であります。現在の資本主義経済が常に大企業間の投資競争に追われているという事実、かつ価格の決定が常に労働者賃金の水準を上回っておるという事実、これはアメリカも
日本も本質的には同じであります。従って現在の資本主義経済は、構造的に常にインフレ要因を内部に包有しておるのでありますから、このインフレ要因をはらみつつ、まずインフレ抑制を
考えるべきか、あるいは多少のインフレを冒しても、国民経済生活の向上と雇用の増加をはかるべきか、これは保守党
政府としては当然真剣に考慮さるべき眼重要課題でなければなりません。しかるに
岸内閣は、これらの最重要課題について、ほとんど検討らしい検討も行わず、まさに風に吹かるる枯れアシのごとくに、その日その日の波の間に間にアメリカ景気におんぶしておるだけであります。
日本経済の要請する課題には何らの回答も与えておりません。このような基本的構想を全く欠如して編成された予算案について、われわれが賛成し得ないことは当然のことであります。また、このような基本的重要課題の検討を怠った当然の帰結として、
政府の経済見通しは全く見当はずれに終始しておると申しても過言ではございますまい。
すなわち本予算案
提出に際して、
政府が二月初めに提示した明年度経済見通しは、僅々二カ月を出でずして早くも狂ってきた事実を私は指摘せざるを得ないのであります。すなわち
政府の予算編成の土台となった経済見通しがすでに狂っておるということを申し上げるのであります。われわれは明年度経済において財政支出が大企業向け投融資に集中している点、
政府みずから国庫対民間収支が約二千四百億円の支払い超過になると予測しておる点等を指摘いたし、このままでは現在の過剰施設をかかえた上に、さらに設備投資を必要以上に拡大されるおそれがあると警告をいたしたのでありますが、当時
政府は、明年度の設備投資は本年度より下回るのである。経済過熱も起きないし、原材料輸入もそんなにふえないと強弁いたしておったのであります。ところが事実はどうでしょう。御
承知のように、一月には明年度の産業設備投資は本年度より一・一考減少と発表しておきながら、二月二十五日付の通産省の集計によりますれば、大企業二百社の設備投資が本年度より実に一六・三%も上回るということを明らかにいたしております。しかもそのおもなる産業は、鉄鋼、非鉄金属、石油精製、自動車、硫安、紙パルプ、合成繊維等々、いずれもきのうまでの不況産業であり、今日も多くの過剰設備をかかえておる産業であります。これらが目の先に財政投融資のてこ入れを期待しながら、再び設備投資競争を開始せんとしておるのであります。民間投資について、全く民間の自主的調整に待つという、大企業の自主性尊重の方針で
政府がおるのですから、これでは再びいわゆる経済過熱のおそれなしとは断言できないのではないか。しかも景気
回復のめどとしておるアメリカ経済の動向を見ましても、とうていV字型の経済上昇が長く期待できるとは思いません。景気
回復の唯一のかぎは財政支出の増加と見られております。すでに財政インフレの様相を呈し、早急に景気てこ入れの積極
政策がとられる見込みは全くありません。それどころか、自動車販売高は昨年よりも減少必至と見られております。また六月になると、鉄鋼ストが必至でありましょう。これら目前のアメリカ経済の動きがどうなるか、これが世界の注視の的でありますが、わが国の自動車産業、鉄鋼業がさらにこれからよくなるのか、悪くなるのか。本年六、七月ころがおそらく
一つの山でありましょう。
岸内閣のように、ばく然とアメリカ経済の上昇を期待し、これに見合ってわが国経済も好転するであろうというような甘い観測は、とうてい通用しないのではありますまいか。これらの経済予測の基本
条件についてわれわれは今まで何ら納得できる説明を承わることができなかったばかりではありません。
政府の経済
政策の前途について、ますます不安を抱かざるを得ないという結論に相なったのであります。反対を申し上げるのは当然と
考えるのであります。
第二は、本予算案の審議に当って明らかとなりました数多くの欠陥について、二、三申し上げてみたいと存じます。すなわち明年度予算案によりますれば、本年度、すなわち三十三年度の当初予算に比べて、
一般会計予算において千七十一億円、財政投融資計画において千二百三億円と、それぞれ大幅に増額されておるのでありますが、このような大幅増額も、真実、国民大衆、特に低所得層の生活改善等のために行われるものでありまするならば、私
どももその増額に対し何ら反対するものではありません。しかしながら、たとえば一般会計の歳出増加の内訳を見ましてもおわかりいただきまする
通り、大企業の擁護と利権につながる公共事業費四百十一億円、死の商人——軍需産業に奉仕する防衛
関係費七十五億円、汚職のにおいきわめて深い賠償
関係費六十一億円、公共事業費のひもつきとなって地方自治体の自由にならない地方交付金二百四十六億円、以上四項目だけをもって見ましても、増額の八〇%弱に及ぶのであります。金額にして七百九十三億円となっております。財政投融資計画の増額分について見ましても、開発銀行、電源開発会社、輸出入銀行、石油資源開発等の四機関だけを見ましても四百六十三億円、すなわち増額の三五%を集めておるのでありまするが、一方中小企業
関係は、国民金融公庫、中小企業金融公庫、中小企業信用保険公庫、商工中金等、すべてを計算いたしてみましても、金額にしてわずかに二十七億円、すなわち二・二%程度の増額にすぎないのであります。わが国工業統計の示すところによりますれば、従業員千名以上の大企業はわずかに四百五十カ所程度にすぎません。財政投融資が集中される大企業は、このうちのさらに少数企業であることは申し上げるまでもないところでありましょう。一方農林漁業
関係はどうでありましょう。農林漁業金融公庫、愛知用水公団、森林開発公団、農地開発機械公団、さらに開拓者資金、
特定土地改良特別資金、これらまで一切加えて見ましても四百三十二億円、増額の一二%であります。のみならず、農林漁業金融公庫九十億の増額分の中には、回収金三十三億の減少見込みを含んでいるのでありますから、実質的増額はわずかに五十七億円にすぎません。本予算案に示された一般会計歳出総額、御案内の
通りに、一兆四千百九十二億円でありますが、この中に占める農林漁業
関係予算は実に七・四%にすぎません。かつて
昭和二十七年度予算において予算総額に対し一六・五%を占めておりましたこの
関係予算が、自来年々減少の一途をたどりつつありますことは、明らかに自民党
内閣が農林漁業
政策を軽視していることを雄弁に物語って余りあると断じてはばからない次第であります。御
承知の
通りに、農林漁業の振興対策、中小企業の近代化等は、
岸内閣としても、自民党としても、声を大きくして国民に公約した重要
政策の中に加えられておったはずであります。しかるに選挙に当っては一言半句も発表しておらない。大資本のためには惜しみなき大盤ぶるまいを行なって、鳴りもの入りの宣伝をした農林漁業や中小企業のためにはほんの申しわけ的な割当をもってお茶を濁しておる。この欺瞞性を私
どもはこの上もない悪徳として糾弾する次第であります。
次に、
政府は減税と国民年金の実施をもって、明年度予算案の特徴であるがごとくに宣伝いたしておるのでありますが、その減税案なるものは、与党たる自民党によってさんざんにこずき回され、修正をされ、今なお確定されるに至らないものがあるほどにずさんであり、権威のないものであります。金持ち階級の遊興用玩具とも言うべきゴルフ用具、猟銃、書画、骨董などというものについては大幅な減免税を行なっております。
政府並びに自民党の税制がいずれの方向を向いておるかを物語るものとして興味なくもありません。所得税の免税点の引き上げによる恩恵は八十六万人でありますが、所得税免税点以下の低所得者層二千余万人は、かえって逆に、電気、ガス、鉄道運賃、新聞、ラジオ等々、生活必需費用の全面的値上りの被害だけを受ける結果となる。これが救済について
政府は一体どう
考えておるというのでありましょう。ほとんど考慮されておらないというのが実情であります。社会保障
関係について
考えてみましても、
岸内閣は去る一月党内の派閥争いのために、いわゆる反主流派と称せられる五名の閣僚を更迭いたしたのであります。その際厚生行政のベテランとあえて自負される橋本厚生大臣を文部大臣に持っていかれました。文教
政策には、いささか自信があるといわれておる坂田
道太君を厚生大臣に持っていかれました。せっかく、平素研さんを積んでおられる両君を、わざわざそれぞれ全くのしろうと畑に追いやっているのでありますが、このことは、
岸総理が文教並びに厚生行政に対して、いかに無関心であり、自民党の青少年問題や社会保障問題についての宣伝が、いかに根も葉もないこまかしであるかということを、最も端的に、雄弁に物語っておると
考えられます。論より証拠、社会保障
関係費について申し上げまするならば、なるほど明年度は、本年度に比較して二百二十一億円の増加にはなっておりますけれ
ども、なお
一般会計予算総額の一〇・四%に過ぎません。これを西独の三四%、スエーデンの二九%等に比較いたしますれば、文化国家を志向するわが国憲法の建前から申しましても、あまりにもお恥かしい次第といわなければなりません。ましてや二百二十一億円増額の中身を検討いたしまするならば、その五割近い百十億が国民年金費であり、五十八億円が国民健康保険助成費であります。すなわち
政府は、これによって明年度中に被保険者六百万人増加を見込んでおるようでありますが、このような、なまぬるいやり方では、とうてい公約
通りに三十五年度中に、皆保険を実現するということはでき得ないと信ずるのであります。
ことに、国民健康保険について、わが党は同法成立に当って、財政困難な地方自治体の窮状を思い、国民健康保険の国庫負担三割を強く主張いたしたのでありましたが、わずか数億の差額であるにもかかわらず、
政府は、頑迷にこれを聞き入れず、かつ患者負担についても、わが党は、低所得者層のため全額国保負担とすべきであることを年来の主張といたしておったのでありますが、特にその際は、まげて初年度患者負担三割、次年度二割、次次年度一割、ついで全額国保負担へとの妥協的忠告も申し上げましたのでありますが、これまた残念ながらお聞き入れ願われず、今や低所得者層は、この国民健康保険からさえ締め出される運命に泣いておるのであります。また国民年金制度につきましては、わが国社会保障制度にとって、まさに画期的な前進でございます。たとえそれが選挙のための手段とはいいながら、
政府並びに自民党の諸君が、国民年金制度を実施することを社会的趨勢と認めるに至りましたことは、時勢を悟ったものとして幾分の進歩を遂げられた点をわれわれも認識するにやぶさかではありません。しかしなが国民年金は、社会保障である、この根本理念を
理解できずに、あくまでも保険方式を固執して、最低醵出期間、所得制限等幾多の制約を設け、これまた、低所得者層の加入を大きくはばんでおるのでありますが、申し上げるまでもなく国民健康保険といい、国民年金といい、これらは、いずれも低所得者層の人々を
考えずしては、存在理由の大半を失う制度であります。
政府の社会保障制度に対する
考え方は、依然として慈善事業的感覚の域を出ておりません。もし、不幸にして今後長く
岸内閣の、このような
政権が続くといたしまするならば、憲法二十五条に規定する健康で文化的な生活を全国民が享受できる日は、果していつの日ぞやと申し上げたいのであります。
次に、地方財政について若干触れてみたいと存じます。地方交付税率は一%引き上げられ、地方財政計画は一千十八億円の増ということになっております。歳出増加の五一%は、国のひもつき事業で占められ、地方単独事業の増額分は、わずかに一%程度しか残されておりません。
政府が取りつくろおうとしている点は、ただ大蔵省の窓口から見た地方財政計画のバランス・シートだけであり、地方自治をいかに育成するかという当然の課題すら、全く放棄されているのでありますから、地方自治体が、年々国の下請機関に転落しつつありますことも、けだしやむを得ないといわなければなりません。
第三の反対理由について申し上げます。それは、
政府の重大な憲法違反と欺瞞的性格についてであります。まず第一に、賠償問題をめぐっての
岸内閣にからまる汚職の疑いについてであります。現在の賠償協定は、
相手国が
日本の国内業者と任意に随意契約を結び、これを
日本政府が賠償計画に組み入れて認証を与えていくという仕組みであります。その間にあって、協定実施の交渉に当る
政府みずからが、随意契約のブローカー的行為をやり、利権あさりに介入したのじゃないかという疑いは、もはや拭うことのできない国民の大きな疑惑となっているのであります。本来ならば、
日本の賠償支払いは、東南アジア諸国家に対して、きわめて大きな経済的貢献をするものと存ずるのでありますし、一たび
国際間において取りきめられた以上、わが国は、誠実にこれが履行の
義務を負うべきことは論を待ちません。従いまして国民のこれに対する負担も、また非常なものでありますから、
政府としては、慎重な上にも慎重な
態度をもってこれが履行の
責任を果すべきでありましょう。
しかるに
岸内閣は、国民の負担を思わず、かえっていまわしい汚職の疑いをすら招いているということは、何としても許すことのできない不始末といわざるを得ません。今後、賠償支払いの継続される十年、二十年の長きにわたって、このような不祥事が許されるといたしますならば、賠償の支払いは、いよいよ
日本の政治を腐敗させ、
相手国をも毒することになりかねないとは、ただに私だけの杞憂にすぎぬでありましょうか。私は、善処を要望してやまないのです。
次に、防衛庁
関係について申し上げます。防衛庁費は百六十億円も増額されましたほかに、国庫債務負担行為百九十八億円、継続費六十八億円、繰越明許費約百億円を加えて、総額実に一千七百億円をこえる大規模をもって
自衛隊の増強をはかっているのでありますが、加えて
政府は、憲法は在日米軍の核兵器持ち込みを何ら制約できない旨を明らかにいたしたのであります。憲法学者の多数の反対を押し切って、このような決定をいたしたのであります。のみならず、先にわが党が提案いたしました非核武装宣言の決議についても、これを拒否したばかりでなく、防御用兵器の概念を次第に拡張して、核兵器所有の意図のあることを明確にいたし、さらに近く
日米安保条約を改定して
相互援助
条約にまで強化しようといたしておりますことは御
承知の
通りであります。このように憲法違反の明瞭である予算案に、われわれが賛成し得ないことも、また当然でございます。
次に、日中
国交回復について申し上げますならば、
中国側が、政治と経済とは分離できないと繰り返し説明しているのに対し、
岸首相は、従来
通り積み重ね方式をとると言明し、依然として日中
国交回復については、友情と誠意をもって交渉する意図の全くないことを明らかにいたしております。一方では、社会党の国民外交の努力を
無視し、かつ、
中国のめざましい経済発展にも、しいて目をつぶり、貿易の再開を切望する
日中両国民の要望を押えつけているのでありますが、このようなやり方は、まさに
日本の現下貿易経済と国民感情を知らざるもはなはだしきものと言わざるを得ません。
岸総理のすみやかなる反省と、隣邦友好への努力を切に要望してやまない次第であります。
最後に、一言申し上げたいのです。去る二月二十二日報道されました朝日新聞の
世論調査によりますれば、三十二年七月、
岸内閣は続いた方がよい、こういう答えは、四二%あったのであります。ところが、本年二月には、この四二%が、実に二六%と大幅に減少し、逆に三十二年七月、一七%でありました
岸内閣はかわれ、こういう答えが、僅々一年半足らずの間に、四二%にも激増いたしておるとのことであります。私は、この報道を拝見いたしましたとき、欺瞞と汚職、愛情なき
岸内閣に対する国民の怒りが、とうとうとして全国に巻き起っていることを直感せずにはいられませんでした。
日本の政治を明朗にし、生活文化の水準を高めますために、
岸総理の一日もすみやかなる善処を心から御要望申し上げまして、私の反対討論を終ります。(拍手)