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永岡光治君 ただいま
議題となりました
防衛庁設置法の一部を
改正する
法律案及び
自衛隊法の一部を
改正する
法律案につきまして、院議をもって
中間報告を求められましたので、まことに心の進まない思いのまま、
内閣委員会における今日までの
審議の経過を御
報告申し上げます。
御
報告申し上げます前に、一言皆さんに申し上げたいのでありますが、本
内閣委員会に今
国会中に付託されました案件は三十四件に及んでおります。三十四件のうち、去る四月二十八日までに二十六件成立いたしまして、八件の
法案を残しておるのでありますが、そのうち三件は参議院議員の議員立法の
法律案であるわけでございます。従いまして、残されたのは五件にすぎないのでありますが、この間におきまして、特にただいま
議題となっておりまするこの二
法案は、衆議院より送付されましたのは、三月二十七日でございます。三月二十七日でございます。そうして
伊能防衛庁長官より本
法律案の
説明を受けましたのは、三月三十一日でございました。御承知の通り、四月九日から二十六日までは自然休会に入っているのであります。四月二十八日、すなわち一昨々日、初めて本
法律案の
審議に入ったのでありまして、その
審議の時間もわずかに三時間十分という
内容であります。内訳は、総括的な問題としての
岸総理に対する質問が二時間三十二分でありました。その他一般問題わずかに三十八分という、きわめて短かい
審議の時間に相なっているわけであります。しかるところ、本
法律案は、砂川事件に対する東京地方裁判所の判決で憲法違反の判決が下されていることは、皆さん御承知の通りであります。きわめて重大なる
法律案でありまするので、わが委員会といたしましては、十分これは
審議を尽すべきものと考えておったのでありますが、昨夜突然に、本
法律案を本
会議において
中間報告を求めるということに相なりましたことは、
委員長としてきわめて遺憾に存じておる次第であります。(
拍手)
これから
審議の経過の御
報告を申し上げますが、最初に、
防衛庁設置法の一部を
改正する
法律案の
改正の要点を申し上げますると、この
法律案は、政府が、現下の情勢に対処し、国力に応じて
防衛力を整備する必要があると認め、
防衛庁の職員の現在の定員二十四万二千七百十七人を二十五万四千七百九十九人に改め、結局一万二千八十
二人を増加いたそうとするものであります。この一万二千八十二人の増加分
のうち、八千八百三十三人が自衛官でありまして、残りの三千二百四十九人が自衛官以外の職員であります。自衛官の増加分は、海上自衛官については二千二百二十六人でありまして、艦艇の増加に伴い必要とされる要員並びに航空部門の増強及び後方関係の充実等のために充てられるものであり、また、航空自衛官の増員は六千六百人でありまして、航空団の増設並びに航空管制、教育、補給、整備等の部門の拡充のために充てられるものであります。
次に、
自衛隊法の一部を
改正する
法律案の
改正の要点を申し上げますと、第一に、陸上自衛隊における指揮隷属の関係を整理し、隊務遂行の効率化をはかるため、新たに東北、東部、中部の三方面隊を増置いたしまして、全国に五方面隊を配置し、管区隊及び混成団は、すべてこれらの方面隊の隷属部隊とするとともに、従来これらの部隊の長に認められていた補給処等の機関に対する指揮監督権を方面総監に認めることとし、また、航空自衛隊における操縦教育の一体的
運営をはかり、その能率を増進するため、航空団と飛行教育団とをもって編成される飛行教育集団を新たに設置することとするほか、航空
防衛力の整備をはかるため、中部航空方面隊の隷下部隊として新たに航空団一が増置されることとなっております。なお、十混成団本部、第三航空団司令部及び管制教育団司令部の所在地等の変更がなされております。第二に、自衛隊における診療に従事する隊員の当該専門技術に関する訓練または看護に従事する隊員の養成は、自衛隊の病院において行うこととするのが適当であるとの
理由で、これらの訓練または養成を自衛隊の病院において行うことといたしております。
本二
法案は、冒頭申し上げましたように、去る一月三十一日、
内閣委員会に予備付託となりまして、三月二十七日、衆議院において原案通り可決せられて本院に送付せられたものでありまして、
内閣委員会は、三月三十一日、
伊能防衛庁長官より本二
法案の提案
理由の
説明を聴取いたしまして、四月二十八日、岸内閣総理大臣、
伊能防衛庁長官その他関係政府委員の出席を求めまして、本二
法案の
審議に入ったのであります。
この
審議の状況を御
報告申し上げますと、
法案審議の過程におきまして問題の中心となりましたおもなる点は次のごとくであります。第一は自衛隊と憲法との関係の問題、第二は
防衛力増強と長期
防衛計画との関係の問題、第三は自衛力増強と国庫負担力との関係の問題、第四は核兵器に関する問題、第五は日米安全保障条約に関する問題等、以上五点でありまして、
審議された点はいわば
防衛の基本問題のみにとどまったものでありまして、しかも、これらの基本問題の
審議さえも、きわめて概括的かつ大ざっぱな
審議にとどまったものであるということを、まずもって申し上げておきたいと思うのであります。
さて第一は、自衛隊と憲法との関係であります。この際、現在の自衛隊の沿革を顧みますると、
昭和二十七年八月、当時の警察予備隊及び海上警備隊が統合されて保安庁が創設され、その下に保安隊と警備隊とに分れておったのでありますが、
昭和二十九年六月、この保安庁が
防衛庁に改められ、その下に現在の陸海空の三自衛隊が創設されて今日に至っておるのであります。この間、自衛力の増強は毎年行われ、本
改正の結果、自衛隊の勢力は、陸上十七万、艦艇十一万四千五百七十六トン、航空機千六十四機となるのであります。この自衛隊の勢力は、明らかに憲法第九条の禁止する戦力に該当するものでありまして、自衛隊の存在は憲法違反でありますが、歴代内閣においては、憲法を拡張解釈いたしまして、この憲法の解釈の上に立って
防衛力を増強して参ったのであります。すなわち、
昭和二十四、五年以降の吉田内閣においては、「自衛権は憲法の否定するものではなく、自衛のため戦力に至らない範囲の自衛力を持つことは違憲ではない。戦力とは近代戦争を有効的確に遂行し得る力である」といい、鳩山内閣では、「自衛のため必要最小限度の
防衛力または戦力を持っても違憲ではない」といい、現在の岸内閣においては、自衛のため最小限度の実力を持つことは違憲ではない」との解釈をとっております。しかしながら、終戦当初の憲法議会当時における憲法論議を顧みれば、いかにこれらが誤まった憲法解釈であるかがわかると思うのであります。
すなわち、終戦当初の憲法議会の当時における吉田内閣の憲法解釈は、「一切の軍備と自衛権の発動としての戦争も認めない」といい、自衛権も否定されているという答弁さえもなして
いるのであります。たとえば、貴族院特別委員会において高柳賢三議員が、「日本国がある国から侵略を受けた場合でも、
改正案の原則というものは、これに対して武力抗争をしないということ、すなわち少くとも一時は侵略にまかせるということになると思うが」という質問に対し、金森国務大臣は、「場合によりますれば、そういうことになることは避けられぬということに考えております」と答弁し、さらに高柳議員が、「いわばガンジーの無抵抗主義によって侵略にまかせる。しかし、あとは世界の正義公平というものに信頼して、そういうことが是正されていく。こういうことがすなわち第九条の精神であるというふうに理解してよろしゅうございますか」という質問に対しまして、金森国務大臣は、「憲法第九条第二項は武力を持つことを禁止しておりますけれ
ども、武力以外の方法によってある程度
防衛して、損害の限度を少くするという余地は残っていると思います。第二項によって自衛戦争を行うべき力を全然奪われておりますからして、その形はできません。しかし、各人が自己を保全するということはもとより可能なことと思いますから、戦争以外の方法でのみ
防衛するのであります」と答弁をいたしておるのであります。また、衆議院本
会議において野坂参三議員が、「戦争には二つの性質のものがある。一つは正しくない不正の侵略戦争である。同時に、侵略された国が自国を守るための戦争は正しい戦争と言って差しつかえないと思う。一体、この憲法草案に戦争一般放棄という形でなしに、われわれはこれを侵略戦争の放棄とするのが最も的確ではないか」という質問に対してさえ、吉田総理は、「私は国家正当
防衛権による戦争は正当なりとせらるることを認むることが有害であると思うのであります。近年の戦争は多くは国家
防衛権の名において行われたることは顕著な事実であります。ゆえに、正当
防衛権を認むることがたまたま戦争を誘発するゆえんであると思うのであります。また、第九条の期するところは国際平和団体の樹立にあるのであります。それによってあらゆる侵略を目的とする戦争を防止しようとするのであります。しかしながら、正当
防衛による戦争がもしありとするならば、その
前提において、侵略を目的とする戦争を目的とした国があることを
前提としなければならぬのであります。ゆえに、国家の
防衛権による戦争を認むるということは、たまたま戦争を誘発する有害な考えであるのみならず、もし平和団体が樹立された場合におきましては、正当
防衛権を認むるということそれ自身が有害であると思うのであります」と答弁いたしております。
以上の憲法制定当初における
国会論議に照らしましても、憲法の趣旨は、自衛のためといえ
ども、いかなる自衛力もしくは武力をも禁止していることは明らかであります。過般の砂川事件に対する東京地方裁判所の判決は、憲法に対する正しい解釈の結果であり、私
どもは、この判決をなした伊達判事の、裁判官としてのすぐれた識見と時の権力におもねることなき卓越した勇気とに、満腔の敬意と信頼の念を禁じ得ないのであります。(
拍手)
本
改正二
法案は、言うまでもなく明らかに憲法違反のおそれきわめて濃厚である
法案であり、国家国民のためにきわめて重大であると考えますので、この点の
審議は最も慎重かつ懇切にいたすべきものであったと考えるものでありますが、さきに申し述べました通り、きわめて概括的な
質疑応答が行われたにとどまるのであります。すなわち、
この自衛隊と憲法との関係につきまして、ただいま申し述べました東京地方裁判所が、砂川事件の判決に際し、米軍のわが国への駐留は違憲であるとの解釈を下しておりますが、政府はかかる憲法解釈に対しいかように考えるかとの質問がなされましたが、この問に対し
岸総理は、「わが国が独立国として自衛権を有することは憲法の容認するところであり、この自衛権を裏づけるための必要最小限度の実力を保持することは憲法の禁止する戦力を保持することではなく、従って、当然違憲ではないというのが従来から政府がとっておる憲法解釈である。また、政府は、安保条約に基きわが国に駐留しておる米軍は憲法第九条第二項の禁止する戦力に入るものではないと考えており、東京地方裁判所の憲法解釈は承服しがたい」旨、所信を明らかにせられました。右に関連いたしまして八木委員から、政府が砂川事件に対する東京地裁の判決を最高裁に飛躍上告をした場合、米駐留軍の違憲論は別として、自衛隊に関する違憲論は最高裁もこれを支持することがあり得るのではないか、その場合に備えて、政府は今日より憲法
改正に全力を注ぐ必要があるのではないかとの問に対しまして、
岸総理より、「憲法
改正の問題については、すでに憲法調査会において検討中であり、その結論はいまだ出されておらないが、もし必要ありということになれば、これを
改正いたしたい。自衛隊の存在は違憲なりとの最高裁の判決があるとはとうてい考えられないが、もしさような判決がなされた場合は、政府としてもこれを尊重すべきと考える」との答弁がありました。
次に、憲法前文中における「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」という部分は、明らかに無防備宣言を意味するものであり、憲法第九条が自衛力をも禁止しているものと解釈すべきは、この前文の趣旨より見ても明らかではないか、との質問がなされましたのに対し、
岸総理より、「その前文の部分は、無防備宣言ではなく、平和主義の宣言を意味するものである。憲法第九条が自衛権及びこれを裏づける手段としての最小限度の力を保持することを認めておると解釈すべきことは、前文中の「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と缺乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」という部分の趣旨に照らしても明らかである」旨、所見が述べられました。なお、右の答弁に対しまして、
岸総理の指摘したその部分は、自衛力の保持を認めると言っているのではなく、単に自衛権も認めておるにすぎないではないかとの質問が重ねてなされたのに対し、
岸総理は、「自衛力なき自衛権というのは意味をなさぬ。当然、自衛力の保持を認める趣旨であると考える」と答弁しておるのであります。以上のごとくでありまして、単に
質疑応答を通じてこれまでの政府の憲法解釈が繰り返されたにとどまり、「原水爆兵器を持っておる他国の攻撃に対抗して
防衛を全うしようとする
防衛力が何ゆえに戦力とは言い得ないのか」という点についての何ら突っ込んだ
審議はなされておらないのであります。
第二は、
防衛力増強と長期
防衛計画との関係の問題であります。この問題につき、政府はわが国の
防衛力漸増の限界をどこに置いておるか。
防衛力整備の最終目標が達成されるのはいつの時期であるか。また、本年度の自衛隊の増強は、一貫した増強計画とは関連性のない、いわば場当りの増強のごとく見えるがどうか、との質問がなされましたが、前段の問に対し、「わが国
防衛力増強については、国防
会議において国防の基本方針と
防衛力整備計画を策定し、すでに
昭和三十五年度を最終年次とする第一次
防衛三カ年計画が実施されておるが、この第一次計画でもって
防衛力整備が完了するものではなく、これに引き続き、その後における
防衛力整備目標を策定すべく、目下国防
会議において検討中であり、その研究は相当進展をしておるが、将来は数の目標よりも質の改善に重点を置きたい」旨、後段の問に対しましては、「本年度における増強は、
防衛三カ年計画の中間年次として、三カ年計画の整備目標の線に沿って行われたものである」旨、
岸総理並びに
伊能防衛庁長官より答弁がありました。なお、右に関連して、「政府はいずれの国を仮想敵国と考えて
防衛計画を立てておるのであるか。仮想敵国を想定し、その国の軍備を研究することなくしては、結局、時代に即し得ない
防衛体制となるばかりで、これでは国の
防衛は全うできないではないか」との質問がなされたのに対しまして、
岸総理より、「現在の新憲法下におけるわが国の
防衛体制は、旧憲法時代において、世界の列強に伍し、特定の仮想敵国を想定して軍備の競争をしておった時代とは根本的に
相違し、現在は、他国の侵略に備え、自衛のための必要最小限度の実力を保持せんとするものであり、従って、
防衛の基本方針の策定も仮想敵国を想定した上で決定したものではない。しかし、世界の軍事科学、兵器の発達に対応し、終始これを研究することを怠るべきではないと考える」との答弁がありました。なおまた、「政府はわが国の安全保障方式をいずこに求むべきと考えておるか。世界の二大陣営の中にあり、しかも軍事科学の著しく発達しつつある今日、わが国のとるべき道は、中立的立場から非
核武装を
主張し、国の安全を、武装にではなく、集団安全保障体制に求むべき時期に到達しておるのではないか」という質問に対しまして、
岸総理は、「理想としては、国連を中心とした世界の集団安全保障体制、国際警察軍による安全保障のごときが最も望ましく、かかる機運を醸成すべく政府としても努力する必要があるが、しかし、現段階においては、かかる段階に至るまでにはなお相当の距離ありと考える。今日の国際情勢下において、わが国一国だけの力によって安全保障を実現する確信なき以上は、米国との提携のもとにおける安全保障体制に依存せざるを得ないと考える」との所信を述べられたのであります。この
防衛力増強と
防衛計画の問題につきましても、原子時代に突入し、軍事科学の日々急速に進展しておる今日、政府の
防衛計画が果して実際に役立つものであるかどうか。いかなる世界の情勢分析のもとに
防衛計画を考えておるのであるかどうか。その
防衛計画と本年度における増強とは具体的にいかなる関連があるのか、また、政府が相当進展しておると言っておる第二次
防衛整備計画とは一体いかなるものであるのか。また、
防衛計画と長期経済計画との関係いかん等の重要問題については、何ら突き進んで
審議はなされておらないのであります。
第三は、自衛力増強と国庫負担力との関係の問題であります。すなわち、「政府は、わが国
防衛費増大の許される限度をどの程度に目途を置いておるのであるか。
防衛費の増加傾向に比べ社会保障費が軽視されておる点は不都合ではないか」との質問がなされましたが、
岸総理より、「現在、わが国
防衛費の国民所得に対する比率は二%以下であるが、これをどの程度にいたすべきかは、国際情勢の変化ともにらみ合せ、わが国の国力、国情に応じ、自衛力を漸増いたすべきであり、ただ、いかなる比率にすべきかを数字の上できめることは困難である。社会保障費の増加については、近代国家として当然十分に考慮すべき問題であると考える」旨、答弁がありました。なお、右に関連して、「過般ドレーパー軍事使節団の来日により、米国の対日軍事援助は将来漸減の方向に向うのではないか」との質問に対しまして、
伊能防衛庁長官より、「日米間の折衝の結果、当面の問題としては特段の減少はない見込みである」との答弁がありました。この問題につきましても、私
どもが真に聞きたい点は、国民大衆のインド並みの飢餓状態、わが国総人口の一二・四%、二百四十六万世帯の極貧困者、九百万人の失業者、三百万人の結核患者、二百三十万戸の住宅不足等々、悲惨きわまる国民生活の現状や、常に恐慌に陥らんとするわが国経済の現状と、将来における対日軍事援助費削減の趨勢の中において、政府は、いかにして
防衛力を増強し得る成算があるのか。また、それをなし得ても、国民生活を守るという、これこそ真の意味での国防が、果していかにして達成されるものであるのかという点について、政府の成算を具体的に承わりたかったのであります。
第四は、核兵器に関する問題でありまして、この問題に関しましては、
岸総理との間に
質疑応答がかわされた結果、次の諸点が確認せられたのであります。すなわち、その第一点は、原子力基本法が禁止しておる以上、いかなる小型核兵器といえ
どもこれを合法上所持することはできないという点。その第二点は、政府は、たとえ自衛のためといえ
ども、米駐留軍の核兵器の持ち込みは絶対これを拒否するという点。その第三点は、原子力基本法が禁止している以上、軍事目的で原子力の開発をいたすことは許されないという点。第四点は、政府は原子力基本法を厳守せよとの日本学術
会議の決議は尊重するという点。以上四点が確認せられたのであります。
しかしながら、右の点につきさらに付言いたしますならば、核兵器の問題につきましては、重大な点で政府にたださなければならない問題が残されておるのでありまして、
その第一は、今
国会における「敵基地攻撃と自衛権」についての政府の統一
見解に関する点でありまして、この政府の統一
見解をまず読み上げますと、「誘導弾等による攻撃を受けてこれを防御する手段がほかに全然ないというような場合、敵基地をたたくことも自衛権の範囲に入るということは、独立国として自衛権を持つ以上、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨ではあるまい。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに他に全然方法がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくということは、法理的には自衛の範囲に含まれており、また可能であると私
どもは考えております。しかし、このような事態は、今日においては現実の問題として起りがたいのでありまして、こういう仮定の事態を想定して、その危険があるからといって、平生から他国を攻撃するというような攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っておるということは、憲法の趣旨とするところではない。かように、この二つの観念は別個の問題で、決して矛盾するものではない。かように私
どもは考えております」と言っております。この答弁は要するに、「せっぱ詰まって他に手段のないときは、敵基地をたたいても違憲ではない。しかし、これは仮定の事態を想定した議論であるから、こういう仮定の事態に備えて平生から攻撃的兵器を持つことは違憲だ」と言っておるわけであります。そこで、問題の第
一点は、平生から仮定の場合に備えて攻撃的兵器を持つことは違憲だと言っておるのであるから、平生からでなく、政府のいう仮定の場合が起きたときは、攻撃的兵器、たとえば核兵器、原水爆をも用いても違憲ではないといっておるのかどうか。文章の上から解釈すれば理論上そう解釈せざるを得ない。この点はきわめて重大でありまして、政府は、仮定の場合であると言っておりますが、仮定の事態が現実に起きた場合は、直ちに「核兵器、原水爆を用いても違憲ではない」という仮定の場合の理論が現実化するわけでありまして、あとになって言い抜けができることになりまするから、この点を今日の段階において明確にいたしたかったのであります。第二点は、右の政府の統一的
見解は、単に憲法論にとどまるものか、政策論をもこの中に含むものであるかどうかという点でありまして、もし、「座して死滅を待つよりは敵基地をたたくことができる。そのような仮定の場合に攻撃的兵器を用いることができる」という点が政策論でもあるとしたならば、
岸総理が参議院
内閣委員会において藤田前
委員長の質問に対しまして、「核兵器は持たないということを明らかにしておりますから、その持たないために敗れるということでありましても、それはやむを得ない」という答弁をいたしておりますが、この政策論と矛盾することになるが、この点どうかということをただしておきたかったのであります。第三点は、政府の統一的
見解におきましては、さきに申しました通り、「他に方法なき場合、座して死滅を待つよりは敵基地をたたいても違憲ではない」という場合は、仮定の場合を想定してのことであるから、かかる仮定の場合に備えて平常から核装備をすることは憲法の趣旨ではないと申しております。私
どもは、平常の場合であれ、仮定の場合であれ、いかなる場合であっても核兵器を所持したり用いたりすることはもちろん違憲であると考えておりますが、もし政府のいうごとく、「仮定の場合であるがゆえに、これを想定して、これに備えて核装備をすることが憲法の趣旨とするところでない」という論法をもってするならば、政府が核兵器の攻撃を想定して、これに備えて原子力の研究を行なっておるという現状をいかに
説明するのであろうか。
伊能防衛庁長官は、衆議院の岡議員の質問に答えて、「将来の事態についてはなかなか予想いたしかねるのでございますが、当面の問題としては、御指摘のような核兵器における攻撃を受けるかもしれないという想定のもとに原子力の研究をいたしております」と答えております。事柄は同じように仮定の場合に対する準備である。そうとするならば、政府は、「他に方法なきときは、座して死滅を待つよりは敵基地をたたくことは違憲でない」と言っておられるくらいでありまするから、このような仮定の場合についても核兵器を用いることはもとより、この仮定の場合に備えて平常からも核装備をしても違憲ではないというふうに、首尾一貫した論法をなぜ用いようとはなさらぬのであるか。
第四点は、
岸総理は、「いろいろな科学の発達の前途を考えてみますると、核兵器と名前がつけばいかなるものも憲法違反であるとすることは行き過ぎである」と言っておられますが、これは、現在の時点における憲法論の中に将来の問題を織りまぜてしまい、問題をあいまいにされていると思うのであります。問題は、現在の時点において小型核兵器といえ
どもおよそ核兵器が違憲かどうかということであって、将来のことを問題にしているのではないのであります。これらの諸点についても十分
審議がなされておらないことは、きわめて遺憾に存ずる次第であります。
次に、
審議された問題の第五は、日米安全保障条約に関する問題であります。
その第一点は、日米安保条約改定交渉の見通しいかんという点でありまして、この点に関する
質疑に対しまして、
岸総理より、「相手国のあることなので明確には断言できないが、政府としては、安保条約と行政協定の両方について対米交渉を進めるつもりであり、その妥結は、条約、協定ともほぼ同時に行われることになると思う。また、これらの批准のための
国会提出は、早ければ参議院選挙後の臨時
国会、おそくとも本年暮の通常
国会には間に合わせられると思う」との所見が明らかにせられました。
その第二点は、在日米軍は日本領土内で
核武装を行わないと条約上明記することについて、政府は米国側に対して申し入れをしたことがあるかどうか、との質問に対しまして、
岸総理より、「申し入れたことはない。装備については事前協議をするという条項を入れることが適当であると考えている。条約の上に明記せずとも目的を達しさえすればそれでよいと考える」との答弁がありました。
その第三点は、改定安保条約の中にバンデンバーグ決議の趣旨から相互
防衛義務的な条項を入れないと、米国側はこれを容認しないと思うがどうかまた、相互
防衛義務的条項を明記するということになると、憲法違反になるのではないかとの質問がなされましたが、この問いに対しまして
岸総理より、「バンデンバーグ決議の趣旨は条約中に成文化することになると思う。違憲になるかどうかは規定の
内容いかんによる。当然憲法の範囲内で行うことにいたしたい」との答弁がありました。なお右に関連して、行政協定の改定に当って、施設、労務、調達、出入国など大幅に改定すべきではないかとの質問に対しましては、「現行行政協定には取扱い上不都合な点も多いので、日米対等の関係において、わが国の自主独立の立場を明確にいたしたい」旨、
岸総理より答弁がありました。その第四点は 自衛隊の行動範囲はこの範囲となるか。また政府は、沖縄、小笠原の施政権返還の要求はしたかどうかとの質問に対しまして、
岸総理より、「自衛隊の行動範囲は施政権の及ぶ範囲であり、従って沖縄、小笠原は自衛隊の行動範囲外である。しかし、この問題と切り離して、これら諸島の施政権返還については、政府は依然として強い要求を持っている」との答弁がありました。
この日米安保条約の問題につきましても、ぜひともお伺いいたしたい点が数点ございましたが、その一つを申し上げますと、改定安保条約には、米駐留軍に対する他国からの攻撃は、わが国はこれを侵略とみなして、自衛隊はこれを援助するということを安保条約の文面にうたうということがいわれております。一体、かかる事柄を条約の文面に明文化する以上は、自衛隊が米軍を援助することは当然の義務ではないはずであります。岸首相は、「日本にあるアメリカ軍に対する攻撃があった場合、その
理由のいかんを問わず侵略とみなす。侵略であるから自衛隊がこれに対して
防衛をするということは当然であります。」このように言っております。
岸総理の言うごとく、当然の義務でありますならば、当然の事柄をなぜ条約の文面にうたう必要があるのでありましょうか。もし、当然の義務でなく、条約の文面に成文化しなければならぬというのでありますれば、自衛隊のこの行動は、
自衛隊法に基くものではなく、安保条約に基くということになるのであります。しからば、
自衛隊法を
改正して自衛隊の米軍援助規定を設けなければ筋が通らぬと思うのであります。
岸総理は「核兵器の持ち込みは絶対拒否する」と言っておりますが、このことさえ条約に明文化していないのではないか。一方では核兵器が持ち込まれても違憲ではないと言っているくらいでありますから、安保条約に明文化せぬ以上、絶対拒否し得る法的根拠はないわけであります。このように、核兵器を持ち込まれる危険がきわめて大であるにもかかわらず、この方はほうっておいて、当然の義務であると言っておる米軍援助の方は条約に明文化するというのは、一体筋が通らぬのではないでしょうか。もし
岸総理が、その言明のごとくに、ほんとうに核兵器の持ち込みを拒否するということでありますれば、自衛隊の米軍援助という当然の義務さえ条約に明文化する以上、法的根拠がなく、かつ持ち込まれる危険性きわめて大である核兵器につきましては、持ち込み禁止条項を当然条約の文面に盛るよう努力すべきではないか。この点をしかと
岸総理に承わりたく存じておった次第であります。
以上、当委員会における大体の
審議の状況を申し上げましたが、当委員会は、四月二十八日の委員会において初めて、主として
岸総理より
防衛に関する基本問題についての所見を聴取した程度でありまして、
委員長の私といたしましては、本二
法案の
重要性にかんがみまして、
防衛庁長官等に対し、また十分
審議を尽されなかった
防衛の基本問題はもとより、本二
法案の具体的
内容につきましても、さらに
質疑を進め必要があると考えておりまして、四月三十日の委員会よりその予定をいたしておりましたところ、本日突如として本二
法案につき
中間報告を求められるに至りましたことは、まことに遺憾であると言わなければなりません。「その通り」と呼ぶ者あり)しかしながら、
中間報告を求められることは、すでに院議で決定されたことでありまするので、私はこの院議を尊重いたしまして、
防衛二
法案について以上の通り
中間報告をいたす次第であります。(
拍手)
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