○久保等君 私は、ただいま
議題となりました
最低賃金法案につきまして、委員会における
審議の
経過につきまして
中間報告を行わんといたすものでありますが、
先ほど来、特にこの
中間報告を求める
動議をめぐりましての
質疑の過程において、私自体きわめて理解できない多くの答弁を伺ったわけであります。すなわち、特に
中間報告を求める条件としての緊急性につきまして、いろいろ言われておりますように、
国会の
会期が五月二日まであるという事実、そうして、さらにまた、委員会の
運営につきましても、答弁者は、委員会における
運営に特に障害となるべき事実がなかったということも答弁の中で言われておるのであります。果してそれならば、いかなる
理由に基いてここに私が
中間報告をいたさなければならないのか、きわめて理解いたしかねるのであります。当委員会におきましては、今期
国会は、本
法案及び国民年金
法案等、きわめて重要なる
法案を審査するのでありまするから、当初から審査に万全を期するため、委員会の
運営等につきましては、委員長及び理事打合せ会の決定に基きまして、委員各位の御
協力を得て、案件の十分なる審査と委員会の円滑なる
運営に、特に努力をいたして参った次第であります。従いまして、委員会は今日まで常に平穏かつ円満に
運営せられて参りました。もし、多少の混乱があったといたしまするならば、それは、四月一日、社会党委員の熱心なる
質疑の途中、
自民党委員よりの
質疑打ち切りの動きから、委員会の
審議困難が考えられ、散会をいたしました事実が、ただ一度あるだけであります。この散会も、時間的には、すでに午後五時近いこと等を考慮して私のとった
措置であります。ところが、これを奇貨として、ただいま突如として委員長の
中間報告を求めるという手段をもって、委員会において審査中の
最低賃金法案を本
会議に取り上げ、その
成立を
強行せんとするがごときは、全く理解しがたいところであります。
国会の
会期が本日をもって終了するとか、あるいはまた、二、三日しかないというのであれば別でありまするが、
先ほども申し上げましたように、
会期は五月二日まであるのであります。かりに五月二日
会期一ぱいまで審査することが、諸般の事情から困難であるといたしましても、少くとも四月上旬一ぱい、ないしは中旬ぐらいまでは、
国会における
審議は十分続け得ると考えられる際に、かかる
暴挙に出でて、本
法案に対する委員会の審査を中断せしめることは、まことに遺憾のきわみと申すべきでありましょう。
しかしながら、私は本院の決定を尊重し、以下、公正に
報告せんとするものであります。
まず、本
法案の趣旨を説明いたします。
わが国の労働法制は、今次の大戦後、急速に整備せられまして、近代的労使関係の確立と産業の合理化を促進し、わが国
経済の長足なる復興に寄与したのであります。しかるに、
最低賃金に関する規定は、労働基準法の中に設けられながら、中小企業、零細企業の多いわが国
経済の複雑な構成等のために、いまだ実施せられていないのであります。しかしながら、
最低賃金制度の確立は、低
賃金労働者の労働条件の改善、大小企業間における
賃金格差の拡大防止に役立つのみでなく、中小企業の公正な競争を確保し、輸出産業の国際信用を維持向上せしめ、国民
経済の健全な発展をはかるため、きわめて緊要でありますので、
政府は、
さきに中央
賃金審議会に諮問し、その答申を尊重して、わが国の現状に即した
最低賃金制度を実施しようとするのが、本
法案提出の
理由であります。
次に、本
法案の
内容を簡単に御説明申し上げます。
第一に、
最低賃金は、業種別、職種別、または地域別に、その実情に即して決定することとし、全産業全国一律の方式を採用していません。
第二に、
最低賃金は、
労働者の生計費、類似の
労働者の
賃金及び通常の事業の
賃金支払い能力を考慮して定めることとし、使用者は定められた
最低賃金額以上の
賃金を支払わなければなりません。
第三に、
最低賃金の決定については四つの方式を設けてあります。すなわち、その第一は、
業者間協定に基き、当事者の申請により、
最低賃金審議会に諮問して決定するもの。その二は、
業者間協定による
最低賃金を、当事者たる使用者の申請により、
最低賃金審議会に諮問の上、一定の地域内の同種の
労働者及び使用者の全部に適用すべく決定するもの。その三は、労働協約による
最低賃金を、当事者たる労使双方の申請により、
最低賃金審議会に諮問の上、一定の地域内の同種の
労働者及び使用者の全部に適用すべく決定するもの。その四は、以上三つの方式によることが困難または不適当と認められる場合において、
最低賃金審議会の調査
審議を求め、その意見を尊重して、必要なる事業、職業または地域について
最低賃金を定めるものであります。
第四に、
最低賃金審議会は、中央及び各都道府県に置き、委員は労、使、公益各同数とし、ほかに特別委員として関係行政機関の職員を加え得ること、また、必要に応じて業種別、職種別の専門部会を置き得ることを規定しております。
第五に、前述の方式によって決定されました
最低賃金の有効な実施を確保するため、必要な限度におきまして、家内労働につきましても、行政官庁は
最低賃金審議会の調査
審議を求め、その意見を尊重して、最低工賃を決定し得るのであります。
最後に、本法の適用範囲を労働基準法及び船員法の適用あるもの全部とし、これが施行に関する主務大臣は、それぞれ労働大臣及び運輸大臣と規定するのほか、
最低賃金の決定について利害関係ある使用者の異議の申し出、本法違反に対する罰則、関係法令の規定の整備等を規定しているのであります。
本
法案は、すでに第二十八回
国会及び第三十回
国会にも提出されたのであります。両
国会とも、
会期末、
衆議院において原案通り可決され、本院に送付されたのでありますが、本委員会におきましては一度も
審議の機会なく、
審議未了に終ったものであります。本委員会におきましては、今回初めて
審議を開始いたしたのでありまするが、
本案の
重要性にかんがみまして、委員長及び理事打合せ会の決定に基き、慎重に
審議を進めることを決定いたした次第であります。
まず、三月十日、労働大臣より
本案の
提案理由説明を求めるとともに、引き続いて
質疑を行い、次いで十六日、十八日、十九日にも
質疑を行い、二十日には公聴会を開き、学識経験者四名及び労使の
代表各一名、合計六名より意見を聴取いたしましたほか、三月二十三日には京都におきまして、学識経験者四名、労使の
代表各三名、合計十名より意見を聴取して、
審議の参考といたしました。次いで、三月二十六日も
質疑を行うとともに、二十七日にも本
法案に対する
質疑を続行せんといたしましたが、労働大臣の事故により委員会は流会となりました。次いで、四月一日にも
質疑を行なったのであります。
以下、
質疑のおもなる点を御紹介いたしますると、まず、「今日四十九カ国の国が
最低賃金制を実施している。これらの国々の
最低賃金決定方式はどのような方法をとっているか」との
質疑に対して、
政府委員より、「
最低賃金制は、十九世紀末ニュージーランドとオーストラリアで初めて採用されて以来、各国においてそれぞれの沿革を経て採用せられ、発展したもので、
日本を除く
世界の主要七十八カ国のうち四十九カ国がこの法制を有している。しかし、この中で具体的に実施を見ていない国が四カ国ある。次に、その決定方法について見ると、それぞれの国の国情に応じて種々の方式が採用されているが、大体四つの方法に分けられる。第一は、
賃金委員会を設けて、これが決定するか、あるいは委員会の答申等に基いて行政機関が決定する方法。第二は、仲裁裁判所を設けて、その裁定もしくは決定等による方法。第三は、
法律で
最低賃金額を幾らであると直接規定する方法。第四に、団体協約の拡張適用による方法がある」との答弁がありました。
続いて、「今回
政府が提案された
最低賃金法案を見ると、
業者間協定がその骨子となっている。要するに、
労働者が
賃金決定に参加していないようなものを
最低賃金とする例はあるか」との質問に対して、
政府委員より、「本
法案の
業者間協定方式は、
業者間協定に基いて、当事者の申請により、労、使、中立の三者構成の
最低賃金審議会がこれを
審議し、その意見によって
政府が決定を行うから、第一の
賃金委員会方式である。
業者間協定の例としては、アメリカでニュー・ディール当時、
業者間できめたコードにより大統領が決定することとした例がある」との答弁がありました。
次に、「諸外国はわが国の
賃金事情に深い関心を持っている。過去においてわが国はソシアル・ダンピングの非難をこうむること、しばしばであった。今日
政府の
経済政策を見ると、中小企業や零細企業は保護されていない。この困難な状態に置かれた企業が、支払い能力の範囲で
業者間協定を作り、これが
最低賃金に発展すると、外国から再び同じ汚名をこうむるのではないか」との
質疑に対して、労働大臣より、「
日本の産業
政策として、当然、中小企業や零細企業の維持推進をはかり、
最低賃金制を実施してもやっていけるよもに、これらの企業を育成しなければならない。また、
賃金ベースの高低を比較するには、その国の国民所得や
経済の実態等をも考慮に加えるべきで、たとえばアメリカに比べ
日本が低
賃金であるからといって、概念的にソシアル・ダンピングだということは当らない。
最低賃金法案の
成立は、国際
貿易土
日本の信用を増すことになると思う」との答弁がありました。
次に、「家内工業
労働者の最低工賃についても、本
法案は
最低賃金のきまった関連産業だけについて規定を設けている。低所得者を守るという
最低賃金本来の意義が本
法案に十分盛られていないではないか」との質問に対して、労働大臣より、「
最低賃金を決定しても、関連する産業の家内工業について最低工賃を決定しなければ、画龍点睛を欠くことになるので本
法案にこれを規定した。家内労働については、本
法案の実施後引き続いて十分調査検討を行い、万全なものを考慮していきたい」との答弁がありました。
次に、「
政府は今回
最低賃金法案を提出したが、これをめぐっての情勢判断をいかに考えているか」との
質疑に対しましては、労働大臣より、「
賃金は基本的には労使話し合いで自主的にきめらるべきであり、
政府が干渉することはなるべく避けた方がよいと考えている。しかし、わが国の産業は、二重構造、三重構造といわれており、今日のような段階では
政府が配慮を加えねば救われないという面もある。また零細な企業では決定せられた
最低賃金の支払い能力があるかどうかという心配もある。中小企業、零細企業は
最低賃金を支払い得る能力を培養して保護育成しなければならない。
かくして
賃金格差を徐々に狭め、
労働者の生活環境をも改善するとともに、
日本の産業を維持し、そこに働く
労働者の労働条件をよくしていきたいと考えている」との答弁がありました。
次に、「
政府は
最低賃金審議会の意見を尊重すると言っているが、これには程度がいろいろある、
審議会は
労働者の意見が伝達される唯一の機会であるから、この
審議会の意見をもっと
権威あらしめるような方法は考えないか」との
質疑に対して、
政府委員より、「各国にはいろいろな立法例があり、
賃金審議会を決定機関とする例もある。しかし、大部分は諮問機関であると承知している。国の
政策に関連するような重要な問題は、その行政に
責任を持つ労働大臣、あるいは労働大臣の指揮を受ける都道府県の労働基準局長が決定する方が、わが国の行政の実情から見て妥当である。しかし、この
賃金審議会は、労使及び中立側の意見が反映する最も大きな場であるから、これから出た意見は文字通り尊重する」と答弁し、さらにイギリスの例を引いて、「イギリスの例を見ると、
最低賃金を決定する場合、
最低賃金委員会から意見が出された場合、一度は意見を付して差し戻すことができるが、同じ意見が再び出てきた場合には、これに従うことが
慣行になっている」との答弁がありました。
次に、「
最低賃金を決定する基準については何を基準にして考えているか」との質問に対して、
政府委員より、「
最低賃金を決定する場合には三つの基準を考えている。その第一は
労働者の生計費を、第二には、類似の
労働者の
賃金を、第三には通常の事業の支払い能力を考えている。この三つの要素を勘案して適当な
最低賃金をきめる」との答弁があり、さらに、生計費の決定については、「総理府の家計調査、厚生省の厚生行政基礎調査あるいは人事院において研究した標準生計費等を
審議会に提供して、これらの資料等を参考にして適当な意見をきめてもらう」との答弁がありました。
次に、「
日本の
賃金は、アメリカ、西欧と比較してみると、きわめて低
賃金である。為替換算比較で見ると、アメリカは
日本の九・一倍、イギリスは二・八倍、西独は二・二倍となっている。
政府は各国との
賃金差をどのように見ているか」との
質疑に対して、労働大臣より、「為替換算率のみで比較することはあまり意味がない。
賃金を比較するには国民所得の面からも見なければならない。
日本の国民所得は各国に比較して低位にある。一人当りの国民所得の比率を見ると、
賃金比率と大体同じである」との答弁があり、続いて
政府委員より、「実質
賃金の国際比較はきわめて困難であるが、アメリカの
労働者が一九五二年に、
賃金の国際比較を食糧購買力で換算した。それによると、アメリカは
日本の三・四倍であり、イギリスは一・八倍、西独は一・四倍となっている。」との答弁がありました。
次に、「
最低賃金とはいかなる意味のものであるか。国が
法律をもって強制する根本
理由はどこにあるか」との
質疑に対して、労働大臣より、「
最低賃金とは、国家機関が法的強制力をもって規制し、それ以下の
賃金では働かせてはならない
賃金である。
賃金は元来、労使が自由な
立場できめるのが原則であるが、これでは一部の人々が救われない。これを救うために
最低賃金をきめるものであって、その基礎となるものは生活費である。」こういう答弁がありました。
続いて、「
最低賃金の額はどの程度の額が適当であるか。
政府に一応の考えがあるであろうし、その額を示せ」との
質疑に対して、
政府委員より、「最低生活費についてもいろいろの基準がある。生活保護法による東京における独身男子の扶助額は三千五百十円であり、
昭和三十三年七月、人事院の出した給与勧告の資料では、東京における独身男子の標準生計費は、
昭和三十三年三月で七千五百六十円となっている。その他、総理府、厚生省等で計算された資料がある。また、わが国の
労働者の
賃金状態は、地域、職種により、いろいろ格差がある。これらの資料を
賃金審議会に提供して、
審議を願い、その意見を尊重して決定する」との答弁がありました。
次に、「
政府は
最低賃金法実施に当って、中小企業、零細企業に対して格別の援助を考えていない。社会党案の全国一律方式をとると、六千円で五百四億の費用を要すると批判している。また
業者は、
自分の支払い能力の範囲で協定
賃金をきめ、これが
最低賃金に発展する。このような、
政府も
業者も手をぬらさないでできる
最低賃金は、その価値なしと認めるが、
政府の考えはどうか」との
質疑に対して、労働大臣より、「
政府は、中小企業対策は困難であるが、あとう限り努力している。企業を保護育成して、この制度が実施できるよう指導している。支払い能力のない企業だけに特に世話をするということはできない。自由主義
経済の上に立っている現在、支払い能力の範囲から始め、漸進的に制度を進めていくことが実情に即している」との答弁がありました。
次に、「本
法案は、
最低賃金決定に四つの方法を採用しているが、
業者間協定によるもの以外は皆現行法で可能である。
業者間協定はできるべくしてできたものではないか。これ以外の救われない者をどうして救うか」との
質疑に対して、
政府委員より、「本
法案は、中央
賃金審議会の答申を尊重して策定したものであり、
業者間協定も労働問題懇談会の意見に基いて協定締結の援助を行なったもので、昨年一年間で八十件の実施を見、このほか実態調査中のものが現在七十件ある。この八十件も、
賃金は一〇ないし二〇%上昇している。次に、労働協約数の拡張は、労働組合法第十八条に規定されているが、この拡張を決定するのは労働委員会である。労働委員会より専門の
賃金審議会で
審議する方がより適当であり、また、拡張のもとになる労働協約が失効すれば、拡張された協約も無効となるので、これに安定性を保つためにも、新たに
法律で定めて
最低賃金制の運用を円滑にはかりたい。また、本
法案に定める四つの方法を適宜かみ合せていこうとする考え方が妥当だと思う」との答弁がありました。
次に、「ILOの二十六号条約及び
最低賃金決定に関する勧告の趣旨と本
法案の
最低賃金決定の方法とは、相いれない点があるではないか」との
質疑に対して、
政府委員より、「
賃金審議会は、三者構成であり、ここで
審議せられるから、ILO二十六号条約第三条第三項は満たしているものと考える。また、勧告の趣旨は完全に満たしているものとは思わないが、勧告は条約と異なって、各国の特殊性を認めているものであるから、本
法案は
最低賃金法として国際的にも通用するものと思っている」との答弁があり、また労働大臣より、「本
法案成立の後なるべく早期にILO二十六号条約は批准したい」との答弁がありました。
以上が委員会における
質疑のおもなる
内容であります。
次に、三月二十日の公聴会における各公述人の意見の概要を申し上げます。
まず、全
日本造船労働組合中央
執行委員長柳沢錬造公述人は、次のように述べました。
第一に、
最低賃金法は
労働者保護立法たることを明確にすべきである。労働基準法第一条において、労働条件は、
労働者が人たるに値する生活を営み得るものでなければならない旨を規定せられている。しかも、その労働条件のうちで、最も重要なものこそ、まさにこの
最低賃金なのである。第二に、
賃金は本来、労使対等の
立場できめるのが当然で、これは国際的な通念であり、原則である。しかるに、
政府案の主柱をなす
業者間協定方式を見ても、締結といい、申請といい、はては異議申請に至るまで、ことごとく使用者側の一方的な意見にゆだねられており、
労働者側の意見や主張は、わずかに
審議会において多少の発言を認められているにすぎない。いわんや、
業者間協定の動機としては、不当競争の防止、
貿易上の顧慮など、使用者側の利益の擁護を目的とするものが多いと認められるにおいてなおさらである。第三に、わが国の産業構造や
賃金格差の状況から見て、全国全産業一律方式は、わが国の実情にそぐわぬとの論をなす者もあるが、これは当を得ていない。中小企業には
労働者の組織も労働協約もほとんどなく、低
賃金で
労働者が使えるところから、大企業の下請、さらにその下請という仕組みとなり、ここに膨大な臨時工、社外工という低
賃金労働者群が
存在することとなる。企業の不当競争を防止し、公正な発展を期する上からも、一律方式は良策と言うべきであり、最近、学校卒
業者の初任給の全国的平均化の傾向も一律方式の可能性を裏書きしていると言えよう。この意味で、当面、全産業一律方式と、職種別、地域別方式との併用が好ましいと考える。第四に、
政府案においては、
審議会は単なる諮問機関にとどまっており、事を建議に限っても、労働基準法の規定よりも後退していると言える。
審議会を労使対等の決定機関とすべきである。結論として、
政府案に
反対し、社会党の修正案に
賛成するが、よりよい
最低賃金法の
成立を期待してやまない。
以上が柳沢公述人の意見であります。
次に、
日本経営者団体連盟専務理事の早川勝公述人の意見を御紹介いたします。
最低賃金制度の問題は、わが国において十数年前から論議せられているが、当時わが国の
経済界はインフレに次ぐデフレという戦後の混乱期であり、時期尚早と考えられた。その後、わが国の
経済の発展
正常化に伴い、二、三年前から社会の実情も変り、中小企
業者の間においても
最低賃金制度の意義を認める機運が生じてきた。しかしながら、本制度の実施に当って最も考慮を要する問題は、何といっても中小企業への影響であって、一挙に理想に走って中小企業の存立を危うくするがごときことは避くべきであり、まず
業者間協定を基礎とする方式により制度を創設し、次第に漸進的に進むことが賢明である。何となれば、第一に、全国全産業一律方式により六千円あるいは八千円の
最低賃金を規定すれば、中小企業への影響は甚大であり、ひいては従業員の失職という
事態を招くことは必定である。外国の例に徹しても、産業別、職業別等に応じて実施しているのが多い実情である。第二に、
業者間協定による決定方式においては、
業者のみの
意思によって
最低賃金が決定せられると非難されているが、
業者間協定がそのまま
最低賃金と決定せられるのではなく、
審議会において労使対等の審査討議を経た上で決定に至るのであり、しかも一たび決定せられた後にその基礎となった
業者間協定が改廃せられても、
最低賃金はそれに伴って改廃せられるものでなく、
業者間協定とこれを基礎として決定せられた
最低賃金とは、全く別個のものである。また、
業者間協定は使用者の都合のみを考慮すると非難されているが、これによって
労働者の利益も増進している実情であって、統計によれば、
昭和三十二年四月以来の協定締結件数は、しり上りにふえ、多くは協定締結前の
賃金よりも上昇を示している。第三に、本
法律案は、中央
賃金審議会において
労働者委員の一部を除いた過半数の委員の意見の一致による答申を尊重して、
政府が立案したということに注意すべきであると思う。要するに、大企業においては、今後関連する中小企業の基礎の強化をはかり、これに適合した機械化、技術者養成、生産性向上等の面においてこれに
協力すべきであり、政治の面においても、金融、税制、技術指導等にわたり、有効な中小企業対策を望みたい。また中小企業、零細企業と家内労働とは密接な関連を持つものであり、従って、ほんとうに
最低賃金制度の効果をあげるためには、家内労働、農業労働の実態を検討し、これについても全般的な援助並びに規制の立法を必要とするが、これは容易ではないので、当面の方策として
政府案の実施が適当だと考えると述べられました。
次に明治大学教授松岡
三郎公述人の意見を申し上げます。
最低賃金法は
労働者の生活を保障するための
法律であるのに、経営者団体が
賛成し、
労働者団体は
反対、しかもストライキに訴えてまで
反対している実情を考えると、世にも不思議な
法律案だという印象を受ける。この
法律案を提出した積極的な
理由として、
政府は、既成の
業者間協定が一割ないし二割の
賃金増加をもたらしたという事実をあげているが、これは、地方における労働基準局の
圧力と、
業者間協定に
賛成の場合は金融面を考えてやろう等々のサービスによるものであって、決して
業者間協定そのもののために賃上げがなされたのではないと思う。消極的な
理由としては、全国全産業一律方式の採用は
経済を混乱に導き、中小企業の倒産を引き起すと説明しているが、これは抽象論であって、それを裏づける客観的なデータがなければ納得できない。次に、本
法律案の
問題点の第一は、本
法律案により逆に小企業
労働者が犠牲となる危険性が強いことである。本
法律案第九条に基く
業者間協定は、当事者全部の合意による申請が条件となっているから、その中の最も小さい企業の負担能力が基準として考えられるわけであって、
労働者の生活は全く考えられていない。本
法律案第十条によって拡張適用がなされた場合も、不服があれば同第十二条によって小企業主は異議を申し立てることとなるから、結果は同じである。この場合、もし異議の申し立てを厳格にするとしたら、それがため経営困難に直面する小企業の保護について、
政府は何らの対策も立てていないという矛盾がある。
問題点の第二は、本
法律案第五条第二項において、
業者間協定に基く
最低賃金が労働契約の
内容となるという点である。使用者が一方的にきめることができる唯一の例は、労働基準法第八十九条による就業規則の場合だけであるが、その場合も、同第九十条に基き労働組合の意見を聞くこととしているのである。労働条件は労使対等できめるという労働基準法の根本原則に、本
法律案による
業者間協定は違反するものである。
問題点の第三は、中小企業の従業員が合同労組を作り、労働組合法第十八条に基く労働協約の拡張適用の運動を行う場合、本
法律案による
業者間協定によってその労働運動にくさびを打ち込まれる危険性がある。以上の
理由により本
法律案に
反対を表明されました。
次に、
日本経済新聞論説委員友光正昭公述人の意見を申し上げます。
中小企業、零細企業の現状は、数字が如実に示している。まず、規模別
賃金格差は、千人以上に比べた場合、五十人以下は四〇ないし四五%であるが、生産性の格差は二七ないし三七%となる。これは、
賃金はなるほど低いが、生産性はなお一そう低い。すなわち、分配率から見ると、相対的に中小企業の方が高いことを示している。これは資本の有機的構成の差に基くものであるが、また、中小企業において賃上げの可能性を必ずしも裏づけていないことになる。従って、かりに分配率を百。パーセントにしたとしても、なおかつ、
賃金は大企業の八割にすぎないことになる。この状態において全国全産業一律方式の
最低賃金を布いたとすればどうなるか。無理のない低い線に青めれば実効がないばかりでなく、低
賃金くぎづけの逆効果を生むし、また分配率をこえる線をきめれば無理なものとなることは、理想に過ぎた基準法が守られていないのと同断である。これすなわち、
法案第三条において、
賃金決定原則の一つに支払い能力を掲げていゆえんである。
政府案が
業者間協定を基礎とすることは、あまりよい格好のものではないが、ある程度の利用価値は
否定し得ないし、
審議会をも通過し、協定の運命いかんにかかわらず効力も存続することになっているから、一つの決定方式として入れてよいものと考える。ただ、一度決定された
賃金をくぎづけにしておくことは望ましくないから、徐々に
賃金水準に応じ、あるいはそれ以上に上げていくよう行政官庁や
審議会の配慮が望ましい。
政府案は必ずしも理想的なものではないが、
労働者にとって、今日の一円は明日の十円にまさることに思いをいたせば、今後、試行錯誤的に改めていくことを考えた上で、
政府案に
賛成するものであるとの意見が述べられました。
次に、労働科学研究所の藤本武公述人の意見を申し上げます。
業者間協定に基く
最低賃金の決定方式は
世界に例がない。類似した制度としてはただ一つ、一九三三年の米国の産業復興法に基くコードがあった。しかし、それは大統領の再雇用協定によって、
世界最初の週四十時間制と四十セントの
最低賃金という基準が与えられており、かつ労働組合との団体交渉を拒否できないこととしていた。これは、このあとを受けた一九三八年の公正労働基準法よりも高い基準でワクづけられていたものであって、とうてい本
法律案による
業者間協定とは比較できないものである。第二に、本
法律案はILOの精神に反していると思う。
ILO条約二十六号の第三条第一、項は労使対等の条件を規定している。この精神に立てば、
最低賃金審議会の権限を拡大し、少くとも修正権を与えなければならないと思う。第三に、本
法律案は労働保護立法の精神に全く背反するものである。万一、
最低賃金について
業者間協定が立法化されると、今後において労働時間についてもこのような協定がなされる危険があり、労働保護立法の危機的現象であると考える。以上の
理由により、本
法律案は
最低賃金立法の性格を持っていないと言わなければならない。諸外国で全国全産業一律方式を採用しているのは五カ国であるが、それ以外の国をよく研究してみると、一般的に言って、労働組合の力が強く、団体交渉によって
最低賃金を決定している例が多い。かかる実情にかんがみ、わが国の中小企業の現状をみるとき、全国全産業一律方式を採用することが必要だと思う。また
審議会なるものは従来
政府によって無視されてきたことが多く、本
法案においてもその危険性がある。以上の点において本
法律案に
反対する。昨年四月、社会
政策学会及び労働法学会で本
法律案に対する
反対声明を出したとき、百六十八名が
反対声明に署名し、
政府案を支持したのはわずかに二名であった。
良識ある専門家がこぞって
反対している事実をよく考慮してほしい。(
拍手)以上のような意見、希望が述べられたのであります。
次に、国民
経済研究協会理事長稲葉秀三公述人の意見を申し上げます。
最低賃金の将来のあり方としては、全国一律方式が望ましいが、現段階おいては、中小企業の支払い能力とか、産業構造の二重性、三重性とかの実情をよく考慮する必要がある。本
法案による
最低賃金決定の四つの方式のうち、二つまでが、
業者間協定と、その拡張適用の方式であることは、率直にいって問題が残っている。しかし、その決定に当って
最低賃金審議会に諮問することになっているから、現実的な第一歩として妥当なものであり、
ILO条約についても何とか批准できるものと思う。中央
賃金審議会の答申を手がけたものとして、若干その経緯を述べると、
業者間協定については、
昭和三十二年初めごろの労働問題懇談会ですでにその構想があり、中央
賃金審議会の当初から一つの題目になっていたことはいなめない。第一に、中小企業の支払い能力を検討した結果、段階的にやっていくという結論に達せざるを得なかった。そうでなければ、現に
日本で多くの生産活動がなされている家内労働に小企業を追い込む危険性があるからである。
〔副
議長退席、
議長着席〕
第二に、既成の
業者間協定が
労働者の福祉を全然考えていないわけではないが、求人難に対する一つの
措置から出発したことは認めるけれ
ども、その実績にかんがみ、かつ
業者間協定を積み上げていくことが実情に即するという現実的配慮から答申したものである、との意見が述べられました。
次に、京都においても本
法案に関して聴聞会を開いたのでありますが、御出席の各氏の意見は次のようなものでありました。
まず、関西経営者協会中小企業労働対策委員会会長竹中雄三君は、
最低賃金法の必要性は十分に認識している。本
法案は、われわれにとっても、また
労働者にとっても、必ずしも満足すべきものではないが、
最低賃金の芽ばえであるから必要と考えている。世間ではオール・オア・ナッシング、すなわち完全なものでなければ、ない方がよいと主張する向きもあるが、これでは困るので、一歩でもよくするということを考えなければならない。今日の中小企業がさらに発展し、成り立つことを願うなら、本制度は認めなければならない。また本制度を実施するに当っては、中小企業を育成するとともに、企業採算内でやれるような配慮が望ましい。次に、細部の点として、
最低賃金の定義並びにこれを年令、学歴、職種、経験等の面でも明確にすること。異議の申し立て期間三十日は六十日ぐらいに改めること。中小企業、零細企業では、
賃金は大づかみに月幾らときめ、家族手当、交通手当、時間外
賃金等の基準外
賃金も形式的に分けているので、これらは
最低賃金の基礎額に繰り入れること。第十条及び第十一条の規定に基く地域的に
最低賃金を拡張する場合は、告示のみでなく、当該地域の関係ある使用者に文書で通知すること。地方の労働基準局長が
最低賃金を決定する場合、全国的見地からみて調整の必要もあるので、労働大臣の認可の上実施すること等を要望する旨の意見が述べられました。
次に、京都大学教授岸本英太郎君は、ILO二十六号条約及び勧告の精神は、国際的
最低賃金に対する常識的考え方を採用したものである。今日、
日本の
最低賃金の決定方式は
世界で深い関心をもって見ている。しかるに、本
法案の
内容は
業者間協定を骨子としている。これは
労働者保護でなく
業者保護の
法律であり、
最低賃金法の名に値しないものである。次に、
業者間協定が
賃金審議会の
審議を経て、その意見により
最低賃金を決定する場合、
労働者の意見が経営者と同等の
立場で反映しているとは考えられない。このような
最低賃金の決定方法では、国際的に見て、ソシアル・ダンピングの疑惑を解消し得ないし、本
法案提案理由の目的を実現しないから、本
法案の
内容に
賛成できない。次に、オール・オア・ナッシングの傾向は
日本に強いが、現実の
日本の条件に適応することが必要である。全国一律方式は望ましいが、まず
業者別、職種別、地域別に実施することは必ずしも
否定すべきでない。
世界の
最低賃金法の歴史を見ても、漸次改善されている。最後に、本
法案についてどうしても承認できない点は、
賃金審議会が諮問機関であることである。これでは一度できた
最低賃金を改善することが困難である。この
審議会は諮問機関でなく決定機関とすべきである。これが決定機関となれば、本
法案は、実質的に
最低賃金制実施の方法が確保できるとともに、ILO二十六号条約の精神に沿うものであり、これの批准も可能である旨の意見が述べられました。
次に同志社大学講師田辺哲崖君は、わが国が
最低賃金制を実施することは、議論の段階でなく、どこからも異論はないはずである。ただ問題は、ただいま提案されている
最低賃金法案が適当であるかいなかの点にある。本
法案は
最低賃金の決定方式に四つの方法を採用し、このうち、主軸を
業者間協定に置いているが、この点が労働基準法及びILO二十六号条約との関連で問題となるであろう。しかし、現在の
日本の
経済の実情から見ると、
業者間協定方法も認めざるを得ないであろう。次に、
最低賃金審議会が本
法案では諮問機関となっているが、これを現在の労働委員会のごとく、場合によっては
最低賃金の決定のできるように強化すると、
業者間協定による
最低賃金が、
業者の一方的決定という非難を緩和するであろう。次に、全国一律方式については、これは理想ではあるが、現段階ではこれを採用できるほど機は熟していない。本
法案のごとく業種別、職種別、地域別に設けていく方法が賢明な方法であり、そして漸次拡大していく方がよい。次に、本
法案が実施された場合、順守されるためには、中小企業対策をあわせ考えなければならない。この対策を怠ると、
業者に悪用され、
労働者の保護となるより、中小企業の保護対策のみに終るおそれがある。中小企業の育成を忘れると、本
法案はない方がよいという結果になるのではないか。また、
法律順守のため罰則を設けることは適切でない。
法律が守られないのは、それだけの
理由がある。
法律も、尊重するだけの社会的、
経済的裏づけがないものは死文化する。中小企業が
法律を守れるように育成すると同時に、労使に対する啓蒙もまた重要である。法の実施が罰則に依存するようなことがあってはならない。本
法案については、
賃金審議会の機能を強化することを要望して
賛成するとの意見が述べられました。
次に、
日本労働組合総評
議会大阪地方評
議会組織部長中江平次郎君は、まず、本
法案は百害あって一利なしであり、廃案にすべきである。本
法案は、ILO二十六号条約及び勧告の精神もまた労働基準法の原則も無視している。また企業の支払い能力を一つの原則と考えているから、
最低賃金の目的である
労働者の生活の引き上げは実現できない。次に、
日本の中小企業の発展のためには低
賃金をなくさなければならない。中小零細企業に低
賃金をなくすために、まず全国一律八千円の
最低賃金制を実施するとともに、これに必要な施策をとることが必要である。
業者間協定による
最低賃金制を実施すると、現在の中小企業の弱点がそのまま残ってしまう。また、生産性も低
賃金であるから低いので、高
賃金になれば向上する。現在まで
業者間協定の実施された例を見ると、
賃金の上っているものは新規採用者のみであり、新規採用の結果、老齢者は解雇されており、
業者間協定は
労働者の利益となっていない。次に、
賃金審議会では
労働者の発言は無効であり、決定された
最低賃金が拡張適用される場合も、
業者のすべてを納得させるものであるから、
労働者の意見の反映は期待できず、また
異例の申し立ても認められていない。次に、第十一条は労働組合法の改悪である。本
法案は拡張適用の部分を
賃金に限定するとともに、労働委員会の決定を
賃金審議会の諮問にとどめている。
審議会では
労働者の発言はあまり効果は期待できず、
労働者側の提案も勧告程度になってしまう。また、家内
労働者の工賃についても関連あるものに限られている。
最低賃金は家内労働のすべてを含めたものでなければならない。家内労働を普通の
労働者より一段と下の額で定めることは
最低賃金制の効果を薄くするものである。結論的に言って、本
法案は
労働者の団結権を否認する点を含み、憲法、労働基準法の精神に反し、労働組合法を改悪するものであり、
労働者が地域的に
業者と統一協定を結ぶことを妨げ、低
賃金を固定化しようとするものであるから、これに
反対し、全国一律八千円の
最低賃金制を実施することを要望する旨の意見が述べられました。
次に、京都経営者協会副会長森下弘君は、最初に、本
法案に
賛成する。
日本の実情に適さない
最低賃金制が制定されたら重大な問題となる。
最低賃金法は社会
政策ではあるが、これを
経済政策と関連なしに実施することはできない。
日本の
経済の特徴は、大企業と中小企業との間に開きがある、つまり二重構造であり、異質の構造であることである。これを一元化、同質化するための合理化及び近代化が必要である。
日本の
経済の現状では、全国一律方式の
最低賃金制を採用すると中小企業は大きな被害を受ける。
ILO条約の中でも言われているように、それぞれの国の実情を考えて、国情に応じた方式をとることが妥当であり、一律方式は
暴挙である。次に、本
法案は
最低賃金決定に四つの方法を採用しているが、本法実施には常に
経済政策が並行して行われなければ実施が困難である。
業者間協定による
最低賃金は低
賃金化すると言われるが、三者構成の
審議会の意見が尊重される建前であるから、著しい低
賃金はチェックされるはずである。また、低
賃金であるとよい
労働者が得られないから、よい
労働者を求めるために
賃金は上昇せざるを得ない。関連家内労働の最低工賃の決定は、
最低賃金とつり合いのとれた工賃としなければ
最低賃金制の円滑な実施は期待できない。それで本
法案の考え方は妥当である。次に、
最低賃金の決定の主体は当局であるが、当局は
賃金審議会の意見を尊重するので、その
運営の面で
審議会の
良識に期待する。本
法案は理想のものとは言えないが、さらに一歩一歩よいものに近づく方向に進むべきである旨の意見が述べられました。
次に、
日本労働組合総評
議会京都地方評
議会副
議長西田修君は、本
法案は
最低賃金の決定基準について三つの基準を設けているが、生活
賃金を第一の決定基準としなければならない。本
法案のごとく三つを均等に考慮することは適当でない。特に
業者間協定は
労働者の参加を排除しているから、これは支払い能力が第一となり、生活
賃金とはならない。生活
賃金を第一とするとともに、
業者間協定にも
労働者を参加させるべきである。これは
ILO条約の精神でもある。次に、決定方法についてみると、
業者間協定によるものが主であり、これを現在推進している。現行労働基準法でも
最低賃金制は実施できたのにもかかわらず、
政府はその努力をしなかった。また労働協約の拡張は現行労働組合法に比して著しく後退している。労働委員会の決定が
賃金審議会の意見を聞くことになっている。これは拡張方式による実現を現在より困難とする。
業者間協定による場合は、使用者の合意による申請であるから、
労働者の意見は排除される。
賃金は労使同等の
立場で協議決定されたものでなければならない。このような
賃金決定方法は、労働基準法の精神に反するものであるから、
業者間協定による決定方法は削除すべきである。次に、業種別、職種別、地域別にきめると、
賃金格差は、はなはだしくなり、企業の近代化を求めるためには、全
労働者に全国一律方式をとることが望ましい。また、家内労働についても、関連のあるものについてのみ最低工賃を決定しようとすることは適当でない。結論として、生活
賃金を主として、使用者と同等の
立場から参加してこれを決定し、全国一律方式を採用する
最低賃金法の一日も早く実現することを強く要望する旨の意見が述べられました。
次に、立命館大学教授坂寄俊雄君は、まず、第三条において、
最低賃金は、生計費、類似の
労働者の
賃金及び支払い能力の三つを考慮してきめることとなっているが、本
法律案は、労働基準法の特殊規定と考えなければならないので、基準法の第一条の規定から離れて
賃金を決定することは矛盾であり、ひいては、憲法第二十五条の精神と違反する疑いがある。次に、第九条、第十条の規定する
業者間協定は、ILO二十六号条約及び勧告との関連及び憲法との関係において考えてみなければならない。個々の
労働者の
賃金を
業者間協定により一方的に決定していくことは、労働基準法の対等の原則にもとるとともに、労使関係が前近代的な形で残っていき、労働条件の決定に本質的に違反した結果となってくるのではないか。また、憲法第二十八条の精神を無視することになるのではないか。次に、第八条、
最低賃金適用除外の点で、「軽易な業務」は、基準法の除外規定の中にはなく、新設されたものである。単純な軽
労働者を
最低賃金から除外することは
最低賃金の精神に反する。
労働者をこのように分けて考えることは正しくないので、「軽易な業務」は削除すべきである。次に、第九条、
業者間協定に基く
最低賃金の場合、「全部の合意」という言葉がある。
業者間協定が法的拘束力を持たない場合は、一応の最低額が出ると思うが、
法律で規制する場合、全部の合意となると、最低額を引き下げる結果となる。次に、第十二条第五項において、異議の申し立てのあった場合、一定期間猶予し、または別段の金額を定めることができることになっているが、これは第五条第二項の
最低賃金の効力の規定を無効とすることになるのではないか。次に、現在、家内
労働者の分布は非常に拡大されているので、本
法案による最低工賃の規制方法では、ほとんど救済されない。現在六百万ないし八百万の家内
労働者の日々の生活を考えて、人道的処置を考えてほしい。次に、罰則関係について見ると、一万円以下の罰金刑となっているが、現行労働基準法第三十一条違反の罰則は、六カ月以下の懲役または五千円以下の罰金となっている。罰金一本で
法律順守を期待するためには、労働基準監督官の大幅な増員、予算の大幅な増額がぜひ必要である。以上の諸点が何らかの方法で解決されない限り、本
法案は適当でないと考える旨の意見が述べられました。
次に、京都府中小企業団体中央会会長堀宣一君は、結論として、本
法案は不備な点もあるので、
賛成しかねるが、全国一律方式を
強行されると、将来は不安であるので、中小企業に適当するよう、十分に検討して制定されることが必要である。また、
労働者に安定した
賃金を出すことは必要であり、
最低賃金制は国際的に信用を高める上に役立つものである。中小企業は過当競争があり、
労働者にそのしわ寄せが来る。
労働者に高
賃金を望むためには、
最低賃金制を布くこともやむを得ない。しかし、これと同時に中小企業対策が十分考慮されなければならない。大企業の
労働者は、退職すると直ちに退職金で仕事を始めるので、競争相手が常に増加することになり、中小零細企業をさらに圧迫する。次に、本
法案には罰則が設けてあるが、これは削除してほしい。事業を圧迫するような
法律であるなら、現在のように、ない方が安全である。われわれ中小零細企
業者は、全国一律方式のおそろしいものができるより、この程度のものから順次改善され、考慮の余地も将来できるであろうから、条件付に
賛成する旨の意見が述べられました。
次に、京都民間労働組合協
議会議長桜井敏雄君は、憲法の規定からも
最低賃金制の実施は必要であるが、今回提案された
最低賃金法案を見ると、その決定に当って、使用者に有利な
法律である。特定の産業、職業に適用され、業種別、職種別、地域別に定められることになり、ほとんど現行の
賃金通りに押えられる。しかも、
業者間協定が使用者に一方的にきめられることとなり、これは
最低賃金決定の理念に反する。
提案理由の中で、
最低賃金の確立は、労働条件を改善し、
賃金格差を防ぎ、公正競争を確保し、
労働者の質的向上をはかるものであると言っているが、これは中小零細企業にソシアル・ダンピングとの非難が
世界にあるので、この声をおさめるためのごまかしの
最低賃金制である。真に過当競争をなくし、健全な中小企業の発展のためには、全産業の一律方式が望ましい。また、
労働者の異議の申し立て、
賃金審議会の権限強化が必要である。
労働者が真に希望する
法律は、現在
政府の提案しているものではなく、
衆議院において提案された社会党修正案である。これを可決、決定してほしい旨の意見が述べられました。
次に、京都労働基準
審議会委員佐々木善一君は、
最低賃金法は
労働者保護の面から必ず必要であり、これによって労働条件を改善するとともに、中小企業にもよい結果となる。すなわち、
労働者の質の向上、過当競争の防止となり、輸出産業においては外国からの非難も防止できる。
最低賃金制は、本
法案の基本的考え方であるように、業種別、職種別、地域別に決定していく方が妥当である。全国一律方式は理想ではあるが、現在では困難であり、高過ぎるときは
業者がその負担にたえず、低きに過ぎるときは労働条件の改善とはならない。
業者間協定は、労働基準法、
ILO条約等の趣旨に違反すると言われているが、三者構成の
賃金審議会において
労働者の意見を相当反映すると考えられる。この例は、労働保険審査会にもあり、その
運営の結果から見ても、本
法案の方法で十分
労働者側の意見を反映せしめる機会があると考える、本
法案は理想的であるとは考えないが、低
賃金労働者保護に一歩前進するから
賛成する旨の意見が述べられました。
以上が公聴会及び地方聴聞会における意見の概要であります。
これまで委員会における
審議の状況を、つまびらかに御
報告申し上げて参りましたが、元来、社会労働委員会は、去る
昭和三十年、第二十二
国会におきまして、労働、厚生両委員会を合併して今日に至ったものであります。従って、当委員会における案件は、労働、厚生両省の所管全般にわたるものでありますから、常にきわめて多く、今期
国会におきましても、本日までに付託された
法律案は十五件、このうち審査を終えたものは六件であります。また、予備審査のために付託された
法律案は九件であります。また付託された
請願は四月一日現在で三百五十九件に上っております。なお、一般調査事件に関しましても、
ILO条約批准に関する問題のほか、労働、厚生の両行政の範囲にわたって調査すべき重要案件もまたきわめて多いのであります。以上のごとく、当委員会は、重要
法案、調査案件等数多くの審査をしなければならない
法案を付託されておりますので、委員各位の御
協力を得て今日まで円滑に審査して参ったのであります。本
法案につきましても、三月十日、
提案理由の説明を求めるとともに
質疑を開始し、今日まで、公聴会をも含めて七回の審査をいたしましたが、本
法案以外の案件もあわせ審査して参りましたので、本
法案に対する
質疑の時間は総計十一時間余りに過ぎないのであります。この
質疑にいたしましても、
政府より提出された資料に対する
質疑が主でありまして、あとは一部総括質問に入った程度であり、
法案の各条についてはほとんど
質疑が行われていないことはもちろん、質問通告のあった
自民党委員の
諸君からは、いまだ全然
質疑がなされていないのであります。また、社会党委員の
諸君の質問者も全員残っている状況であります。本
法案は、
衆議院より
政府の原案通り送付されたのでありますが、
さきに御紹介した公聴会等におきまする各公述人等の御意見でも明らかな通り、本
法律案
成立に
賛成される公益
代表の方々さえも、さらに検討し修正すべき多くの点を指摘されているのであります。また、
藤田藤太郎委員より委員長の手元に修正案が提出されておりますが、いまだその説明もなされる機会なく、従って、これに対する
質疑も全然なされておらない実情であります。
以上のごとく、本
法案に対しまして検討を行うとともに、必要により、さらに修正を加えるべき点も多々あるのであります。私、委員長といたしましては、問題となっている諸点を明らかにし、すみやかに結論を得なければならないと決心いたし、委員各位の御
協力を得て、鋭意
審議を進めて参りつつあるのでありまして、ただいまここに突如として
中間報告を求められるに至りましたことは、まことに遺憾のきわみであると思う次第であります。本院におきまして、社会労働委員会における問題として、すでに
昭和二十八年第十六回
国会におきまして、いわゆる
スト規制法制定の際に、次いで、同法施行後三年を
経過して同法の効力の延長をはかったとき、及び
昭和三十三年第十八回
国会におきまして
日本労働協会法の制定のときと、三たび
中間報告を求められた悪例が残されておりまするが、今回さらにこの悪例を重ねんとすることは、まことに忍び得ないところであります。
中間報告によって委員会の審査権を剥奪することは、本院が、みずからの手をもって
国会の
審議権を
放棄せしめることであり、(
拍手)
国会の
権威は全く地を払うに至るであろうことを心から憂うるものであります。国権の最高機関たる
国会において、本院の
良識ある行動を熱願してやみません。
国会法第五十六条の三は、委員会の審査中の案件に対して
中間報告を求め、さらに緊急を要すると認めたときといえ
ども、委員会の審査に期限を付して
審議することができる旨を規定いたしております。
国会の期限は本日をもって終了するものではないのであります。委員長といたしましては、本
法案を再び委員会に差し戻されるよう、各位、特に本院の多数党である自由民主党の
諸君の
良心に訴える次第であります。
委員会におきまして、再び本
法案を
審議する機会を得まするならば、委員各位の御
協力を得て、
審議を尽し、必要があれば修正をも加えて、十分結論を出し得るものと確信するものであります。私の
中間報告後、このような取扱いを行うことが、本院の
良識であり、本院の
権威を維持するゆえんでもあり、また、
世論の要望にこたえるものであろうことを信ずるものであります。
以上をもって
報告を終ります。(
拍手)