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参考人(藤岡三男君) 藤岡でございます。
政府は、
昭和二十八、九年に
石炭産業が
不況にさらされたとき、
中小炭鉱の買いつぶしによって切り抜けるべく、三十年八月、
石炭合理化法を制定いたしました。しかし、その後経済が好転するや、
石炭産業は一転して増産態勢をしき、三十二年十一月、経済
審議会エネルギー部会は、長期エネルギー計画として、
昭和五十年度の出炭規模を七千二百万トンとし、第一次の五カ年計画の最終年度である
昭和三十七年度の出炭目標を六千四百万トンと決定いたしました。これに基いて
政府、
石炭協会は、その初年度である
昭和三十三年度の出炭目標を五千六百万トンと決定したわけであります。
しかるに経済状態は再び
不況に突入し、
石炭産業は生産制限することをきめ、目標を五千三百五十万トンに
変更いたしました。これに対応して
政府は、
合理化法の一部を
改正して、未
開発炭田開発の
規定を加え、同法の有効期間を四十二年度まで延長し、四十二年度の出炭規模を六千九百万トンという基本計画を立てました。それが
不況の深化とともにこの計画を
変更して、百万トンの
買い上げワクを広げることによってこれを切り抜けようとしています。
このように見てくると、
政府の
石炭政策は、常にその時々の経済情勢に対応し、一貫性を欠いていることはもちろんでありますが、むしろ、
労働者側から見た場合、反国民的な大
企業追随の政策であるということを指摘することができると思います。聞くところによれば、本日、社会党から
法案が上程される予定であるそうでありますから、私どもはこの
法案を心から支持するものでありますが、若干炭労の見解を述べてみたいと思います。
まず第一に、
政府発表の長期計画と大手十八社の設備投資との関連について見ますと、長期計画は、三十二年度末の
労働者数二十九万七千人を四十二年度には二十二万三千人に減らし、能率は一四・六トンを二二・八トンに引き上げ、新規開発と合せて六千九百万トンの出炭をしようというものであります。これは言いかえると、一人当りの能率を倍近く引き上げるために、現在の
炭鉱労働者の四分の一を首切り、そのうちの三分の一足らずを新坑に吸収しようというものであります。一方、大手十八社の設備投資について見ますと、前回の
不況時には、二十八年下期の八十九億だったのが、三十年下期には四十五億円と半減しました。その後は毎期
増加し、現在の
不況下においてもますます増大を続けております。三十三年上期の設備投資総額は百四十四億円と、前回好況時のピークに比べて倍近くになっており、三十四年度計画はこれをさらに上回って、年間三百三十二億円という膨大な額に上っております。この計画は二百八十億に切り下げたと伝えられておりますが、依然として高額を示しております。
経営者は二十九年
不況時に投資を半減したのは、
政府の長期エネルギー政策が明確でなかったからで、長期計画が示されている現在は、
不況であっても、これに基いて計画、投資は推進し、コストの引き下げや
体質の改善をはからなければならないと言っております。
そこで、コストについて見たいと思います。能率は、二十五年上期一人一カ月当り八・八トンであったのが、一貫して上昇を示し、三十二年上期には十五・五トンと一・八倍弱に達しているにもかかわらず、公表資料によると、コストは能率とは
関係なく、炭価に合せて作られております。長期計画はこのような操作されたコストを基礎にして作成されたことが指摘されます。この長期計画と、昨年発表された同じ資本主義国であるフランスの
炭鉱試験協会、ソフレミンの勧告によりますと、現在の雇用量で年に五%
程度の
賃金引き上げを前提としてもできるという勧告とでは、雲泥の差があると思うわけであります。
私どもは、このような生産水準と投資計画の青写真で、独占資本本位の膨張政策であり、資本蓄積の規模と速度のみをきめ、十カ年間に七万人の首を切るという反国民的な見取図である長期計画に賛成することはできません。
第二に、
政府も
石炭経営者も
体質の改善をはかると言っておりますが、
炭鉱が立ちおくれている根本原因を追及しないで、どうして
体質改善ができるのかと言わざるを得ません。以下この点について指摘してみたいと思います。
まず、第一点として、
石炭鉱業は、明治以来国家財政と結びついて、戦前はそこから上った巨大な利潤を
炭鉱以外の財閥系
企業の近代的再編成に奉仕してきました。戦後は復金融資や見返り資金に依存して
発展をしてきました。これらの金が何に使われたかは、
石炭疑獄がよく
説明していると思います。
第二点は、豊富低廉な労働力、つまり戦前は囚人、戦時中は植民地、捕虜
労働者、戦後は都市、農村の失業
労働者等に依存して、好況期には労働力を無制限に投入し、
不況期には首切りということを
経営の基本方針としてきているわけであります。
第三点は、財閥系
炭鉱だけで豊饒な鉱区を独占し、差額地代を取得し、独占価格を維持している点であります。すなわち、
炭鉱独占は産業資本として、
労働者を搾取し、山地主として
中小鉱や租鉱
炭鉱から地代を受け取り、商業資本として市場を支配し、独占価格を維持してきたため、
炭鉱独占は
炭鉱の近代化を怠り、これが生産性の回復をおくらせている点であります。さらに最近の
傾向として指摘しなければならないのは、大手の租鉱
炭鉱の設置と
中小炭鉱の系列化であります。現在これらの
炭鉱の出炭の二五%は大手の価格で販売されておりますが、これは安い生産費で掘った
石炭を大手並みの価格で売りさばき、ぬれ手でアワの超過利潤を保証するものであります。
以上述べたように、
炭鉱独占は国家は依存し、鉱区の独占と低
賃金に寄生しているのでありますが、
政府は、この根本問題に手を触れないで、もっぱら小手先細工の
合理化計画を立て、独占資本を守るために、
中小炭鉱を国民の税金で買いつぶそうとしております。事実、
合理化法制定以来、好況期においては坑口の開設を認め、さらには坑口開設を伴わない
中小炭鉱の発生を黙認しておいて、一たん
不況の段階に至れば、
買い上げの
ワクをふやすというのは、これまでの好況期には雨後のタケノコのように
中小炭鉱がふえ、
不況のときはばたばたつぶれるという状態と何ら変りがなく、根本的な対策というわけには参りません。これではコスト低下や
体質改善を
目的とする長期計画は永遠に達成されないだろうと言わざるを得ないのであります。
第三に、生産制限と投資計画の関連について見ますと、現在一千一百万トンの
貯炭を前にして、
政府、
炭鉱独占は生産制限に大わらわです。このため古い山をつぶし、新しい山を作るという、スクラップ・アンド・ビルドの採用、首切り、帰休制あるいはまた操業短縮、配転、時間外抑制等を企図しているが、他方では長期計画に基く投資を続けようとしています。これは現在でさえ過剰能力であるのに、さらに追加投資をするのですから、矛盾の
解決どころか、一そう激化するだけであります。この点を百も
承知で、莫大な投資を続けようとするのは、一切の犠牲を
中小炭鉱と
炭鉱労働者あるいは国民に押しつけて、市場の安定をはかり、独占
競争の中で優位を占めようとする資本本位の盲
目的衝動にほかなりません。
次に、
政府は、
輸入エネルギーの節減、
石炭需要の
喚起等によって
不況の打開に努めると言っております。国内資源の
利用に重点を置かなければならないことは当然のことでありますが、戦後、日本資本主義の産業構成は、鉄鋼、電力、機械、合成化学等、重化学工業化しており、
石炭の増産は独占資本の方から強く要請されているのが実情であるにもかかわらず、みずからこの対策貧困をたな上げにして、
不況になると生産制限や
貯炭融資、また重油、外炭の抑制等、一時しのぎの対策をもって乗り切ろうとされることは理解できないところであります。
現在、
炭鉱地帯における状態は、さいぜん、もう原口さんからるる述べられましたので、ここで申し上げませんけれども、筑豊地方では十万人に上る
炭鉱労働者が失業のちまたにほうり出され、朝日新聞も報じているように、電灯もない暗い長屋で、野草か塩を副食に一日を過ごし、子供たちは学校へも行けずにいるのを放置していながら、さらに追い打ちをかけるように
労働者を首切ろうというのであるから、厚生白書が認めるように、失
業者が充満し、破壊的状態を呈することは火を見るよりも明らかであります。現に失業している
労働者の救済対策も講じられていないのに、
離職者に対しては
職業紹介その他の
方法を講ずる考えだと言っておられますが、口先で言うことが
解決策だと
政府は考えているのでしょうか。
以上、私は
合理化法及びそれに基く長期計画、さらに
提案されている百万トン
買い上げの
ワクを広げることにわたって反対
理由を申し述べて参りました。このことは、資本主義社会における当然の現象として起り得るものとして見のがすことはできません。なぜなれば、
政府あるいは
経営者の政策いかんによっては、この改善ができると思うからであります。私どもは、
石炭鉱業は国家の基幹産業であり、当然、国有国営にすべきだと主張するのでありますが、それかといって、一挙に私たちは今やれということも無理であることも知っております。しかし、それでも当面、いかに
炭鉱を近代化するかという観点に立って、以下、炭労の見解を述べてみたいと思います。
まず、第一に、
体質の改善は、鉱区の解放にあると思います。戦後、
炭鉱の若返り工事が叫ばれ、その根本的な手段として、縦坑の開さくが計画されましたが、工事は一向に進捗しないし、また、たとえ縦坑を掘っても、それが経済的効果を発揮しないのは、先に述べたように、鉱区の独占が逆に生産力の
発展を阻害しているからであります。たとえば三井、三菱の鉱区が隣接し、そこに二本の縦坑を建てるより、鉱区を統合して一本建てることがずっと効果を発揮することができるからであります。また、
不況のたびに高炭価と
中小鉱の問題が社会的に浮び上ってくるのも、鉱区との関連で問題にされない限り
解決の道はないと思います。昨年、
合理化法を
改正して、未
開発炭田の急速かつ計画的な開発を促進することを織り込みましたが、
政府はこのことには手をつけず、
中小炭鉱の切り捨てのみに狂奔しているのは本末転倒と言わざるを得ないと思います。
第二に、租鉱権の設定を禁止すきべだと考えます。大手は
中小鉱や租鉱
炭鉱を系列化していることを指摘しましたが、現在の租鉱
炭鉱は次のような例が多いのであります。大手で定年になった会社幹部が、租鉱権を設定して、大手
炭鉱に働く
労働者の子弟の優先採用等によって
経営しているのでありますが、もともと、同じ
経営であるにもかかわらず、租鉱
炭鉱ということで低
賃金を合法化して
経営しているのであります。これでは再三指摘したように、鉱区の独占と低
賃金に依存して近代化を怠るだけであります。
第三に、
中小炭鉱の協同化を促進し、融資、販売の安定を増大させるべきだと考えます。
中小炭鉱は、独占資本によって景気変動のクッションとして
利用されており、不安定な状態に置かれております。そのために
中小炭鉱の協同化を促進し、
政府の行政
措置として、
一定の市場を設定させ、その基礎に立って必要な金融
措置あるいはその他の助成策を確保しなければならないと考えます。
次に、
石炭の電力化あるいはガス化等を含めて、総合的なエネルギー対策について
政府の強力な政策が必要だと思います。それとあわせて
炭鉱労働者の労働対策が必要になってくることは論を待たないところであります。こうした面をもっと計画的に具体的に立てて、
石炭産業の安定をはかるとともに、国民生活の安定に向って進むべきものではないでしょうか。その場合、絶対必要なのは労使
関係の問題であると思います。これは
炭鉱の労使のみに限らず、一般的に言えることでありますが、
労働者の低
賃金をどうして
解決するかということであります。このことは国内的にも問題でありますけれども、当面の問題として、いや、将来の問題としても、これは国際的にも絶対必要なことであります。すなわち、ここに最低
賃金制の制定の必要が私は生まれてくると思います。特にこの場合、
炭鉱労働者の
賃金は、他の民間重要産業に比較して最下位であります。最も低い
賃金であります。このような状態は、社会制度の相違にかかわらず、世界いかなる国を回って見てもありません。どの国を見ても、
炭鉱労働者の
賃金は一番上の
賃金をもらっております。他国のこうした状態を見詰めながら、真剣に労使問題を
解決する考え方に立って、
経営者が処理することはもちろんでありますけれども、
政府としても、
経営者が処理されるような政策が必要ではないでしょうか。
以上、非常に簡単でございますけれども、以上をもって炭労の見解といたしたいと思います。なお、質問があれば、あとで質問に応じたく思います。