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参考人(川島
清祐君)
日本ミシン協会専務理事、
日本ミシン輸出組合専務理事を兼務しております川島でございます。
本日、こういう機会を得させていただきましたことは、ミシン
業界といたしましては大
へん心から感謝いたす次第でございます。
一応本
法案の問題に触れます前提条件として、ミシン
業界の概況をごく簡単に、今までの成り立ちを申し上げたいと思います。
大体ミシン界としまして三つの特色がございまして、もちろんいろいろな面もございましょうが、一つは非常に戦後急速に伸びた
業界であります。それからアッセンブル・システムが一応
生産形態の中核をなしております関係上、中小企業がやはり大部分を占めている、それから
輸出が非常に大きなウエートを全体のうちに占めておる、この三つが一応三つの特色として
考えられるわけでございまして、これを具体的に申しますと、
輸出に関しましては、戦前は
昭和十五年が
生産、
輸出の最高でございましたが、年間十五万台の
生産、家庭ミシンを主にしまして、工業ミシンもございますが、大体家庭ミシンが大多数を占めております。そのうち
輸出が一万台という数でございます。ところが昨年三十三年の
調査によりますと、
生産が二百二十八万、それからそのうち
輸出が百七十三万という数字でございまして、圧倒的に戦後急速に伸びたという姿になっております。この数字はここ数年続いております。大体の数字でございますが、金額にいたしますと、約四千七百万ドル、百七、八十億円に当りますか、現在の
機械輸出としましては、造船に次ぎまして、最近ずっと二位を占めております。で、その
輸出先も
——国内の問題に今触れませんが、
輸出先も大体
アメリカ合衆国で六割近くを
輸出しておりまして、もちろん向うで黒人が使っておるわけでなく、黒人も白人も全
アメリカ人がこれを使っておるわけでございます。あと四割ないし、その年によって違いますが、五割ぐ
らいは
アメリカ以外の全
世界に
——中南米、東南アジア、ヨーロッパ、アフリカの全
世界にわたって
輸出しておりまして、従って結局全
世界に
輸出されているというのが現状でございます。問題は先ほど申し上げました特色の一つとして、戦後急速に伸びましたということは、
生産形態が非常に標準図面というものを最初作りまして、
部品工業が統一されて発達したというために、非常に容易に小資本で戦後できて、そのために
需要に対して直ちに受け入れるという態勢が大
へん早かった。ということは逆に申しますと、いわゆる販売体制という面におけるおくれがどうしてもあった。作る方が非常に早く行きましたために、その売り方という面におきましては、ミシンというのはいわゆる耐久消費財でございますから、本来ならば売り方も同時に
考えた売られ方があってしかるべきでありましょうが、それがあとになった。まず作って
バイヤーが来て、どんどんそれを売ってゆくという姿勢で急速に伸びたけれ
ども、反面、かつ大きな問題をそこに内蔵しておったわけです。そこでもう一つは、当然中小企業というのは非常に試験研究とか、あるいは
海外のサービスとか、あるいはそういう
宣伝調査ということは、合体になって一つになれば非常に大きな力になりますけれ
ども、個々別々にはそういうことはなかなかでき得ないものでして、むしろ
生産して早く売られてゆけばいいという面がどうしても主体になるということでありましたために、当然そういう面で非常に大きなおくれも同時にあったわけです。従って非常に残念でございますけれ
ども、たとえば
アメリカに売られています。かりに年間約八、九十万台のうち、いわゆる当然
——電気
メーカーさんも、ほかの
メーカーさんもそうですが、
自己ブランドで売らるべき
製品でありながら、それが非常に少い、つまり向うの指定ブランドによって売られる。このブランドの問題は、
アメリカでも一流の百貨店でも、その百貨居のブランドを指定されて売られているという
アメリカの実態もございますから、いろいろ問題もございますが、一応そういう
状態であるということであります。結局、従って私もこの関係を十年く
らいいたしておりますが、ほとんど七、八年前以後は当然そこに起る
過当競争と申しますか、そういう問題への対策に終始している。つまり今から五年く
らい前に、
アメリカで
日本ミシンのダンピングの疑いの問題が出まして、向うから
調査官が見えて
調査しに来た。幸い関係者の非常な御努力で、これはダンピングでないという、一応断定かどうかわかりませんが、従ってその措置がとられなかったという問題があり、またそれに引き続いて国内で通産省でミシンの
アメリカヘの
輸出停止という非常措置もとられた。これはやはり
過当競争による問題を内蔵しまして、
価格がかりにある時期に一台ヘッドだけで二十二ドルしたものが十四ドル、十三ドルというふうに、急速に
数量は伸びるけれ
ども価格が下るものですから、結果において非常な憂うべき
状態になったということもあったわけでございます。それでこれに関しまして、私も先ほど申しました
輸出組合に関係しておりますが、
輸出組合は設立は五年前でございますけれ
ども、直ちにまず
価格協定それから
生産メーカーとのいわゆる協約による出荷
数量協定というのをいたしまして、この問題の対策にまず入っていったわけであります。その後二年ぐ
らいおくれまして、いわゆる調整組合、現在の
工業組合もできまして、やはり
輸出組合の行なっておりました出荷
数量調整を行いまして、それから販売ルートの規制あるいは国内の売り渡し
価格の調整、そういう問題を非常に努力して参ったわけでございますが、問題点として常にそこにあるのはいわゆる
過当競争による
価格対策の問題がほとんど毒になっておりまして、結局あまり
価格対策が主体になりますと、
最後は
価格というもののいわゆるチェックや違反というものも当然問題になります。しかしかりに
輸出組合にいたしましても、
工業組合にいたしましても、執行
機関である
理事会が、それぞれの利害関係の深い
メーカーなり、
商社なりでございますから、そういうふうに摘発してもなかなか実施できないという非常にむずかしい問題があり、結局、
最後には出荷
数量調整に頼っていく、あまり出荷
数量調整をやりますと、結局
輸出振興でなく、いつの間にか
価格に拘泥して
輸出抑圧になってしまうという、非常にジレンマに陥っているのが現状でございます。そこで一つの例といたしましては、後に触れたいと思いますけれ
ども、私が三年前に
アメリカに参りまして、シカゴのいわゆる向うの大きなシャス、モンコーリーワードなどの
日本の三越みたいな店、全米に千軒ぐ
らい持っている大きな百貨店の重役さんに集まってもらって、ミシンの問題について腹蔵なく話し合ったときに、「われわれは
日本ミシンは昔はブリキでつないであるという極端な話も聞いたけれ
ども、一応
最低の
品質はある程度安心できるようになった」という話がありまして、これから百貨店としては買いたいというような話がありましたので、それではぜひ買ってほしいと言ったところ、
価格はちっとも下げる必要はないけれ
ども、
数量を
保証してくれ、自分の方はかりに全米に千軒の店を持っているとすると、
日本ミシンを入れた、ところがたちまちあと
輸出調整をしているため、あとが続かなくなってしまうと、非常に店の信用にかかわるということが一つ。それから次に、そういう数壁調整上の限界をそこで示されたと同時に、
アメリカの場合は、いろいろツートン・カラーとか、何カラーとか、好みも違い、家庭に置いてきれいだというようなことも一つの必要な面で、デザインであるとか、好みとか、そういうものをもっとよく研究してくれと、いろいろ
注文がございました。ところが、それが決してうそでなくて、一昨年の秋ごろから本格的にそういう百貨店の
日本ミシンの買付が始まった。これは
日本ミシンというものは今まで向うの南部の黒人なんかが使っている錯覚すら持っていたわれわれにとっては、非常にプラスになった。同時に大きな危険も出てきた。と申しますのは、こちらはおのおの分散しておりますが、向うのかりにそういう大きな百貨店が、毎月もし
アメリカに六万、七万を
輸出しているうち、三万、四万と占めて参りますと、向うが非常に力を持ち、
価格を下げるのみでなくして、全部買わなくなったら急にほかに売れといっても、とても売れません。そこに大きな危険性を内蔵いたします。一応そういう意味で、
日本ミシンが大きな百貨店に出られるように信用を非常に得たのは、これはやはり先ほど申し上げましたような原因があったわけであります。そういうわけで、非常に話は前後いたしますが、先ほど申し上げました
日本ミシンの持つ三つの特色が非常な長所であると同時に、一つの大きな欠点となった。同時に
価格政策の限界に来てしまったという点が大きな問題であります。それで
輸出組合といたしましても、もちろん無理をいたしまして、
アメリカに一名駐在員を置きまして非常に大きな効果をあげております。後にちょっと触れますが、大きな問題になったシンガーの特許問題のときなど、たった一名の駐在員の
存在が、
日本ミシンの
アメリカヘの
輸出のため大きなプラスになったということは、現在身をもって感じているわけでございます。そういうふうにいろいろ前後いたしましたが、これを今
国際的な
競争国のミシンという観点から見ますと、
皆さんも御承知のシンガー、これは非常に大きな
生産力を持っております。資本金も一億ドルという大きなものです。ところが大体
輸出と
生産は、
日本の全体の
輸出、
生産と似たり寄ったりということで、
輸出におきましては、
日本の方がむしろ大きいということでございます。あとホワイト、フリーという
アメリカのミシン
会社がありますが、
日本ミシンの進出のため
生産面でつぶれてしまいまして、
日本ミシンの販売
会社に転向した。これは非常に変った
状態で、
反対するよりも、それが
アメリカ人の経済についての
考え方の一つかもしれませんが、むしろ
メーカーとしては
日本ミシンとは太刀打ちできない、しかし
日本ミシンを販売する方がけっこうもうかるから、そちらの方に転向したということで、
生産はほとんど
アメリカではシンガーだけでございます。ほかにはドイツのパフ、イタリアのネッキ、そういうのは非常に
製品を研究しておりまして、この大きなウエートを占めておりますシンガー、パフ、ネッキなどの大きな特徴は自国ブランドで売っている。しかもアフター・サービスの
機関はニューヨークなどの目抜きの所に持っている。シンガーは全
世界に持っている。パフは東南アジアやインドに進出の場合は、やはりそういう進出の仕方でやっておりますために、だんだん
日本のミシンというものは押されて参り、東南アジアでは非常に押されて参りました。シンガー、パフ、ネッキの
競争国のミシンは、徹底的な、一貫した
宣伝、サービスの仕方で、それから販売ルートを持ってやっております。それに対しまして、
日本のミシンは安い、何といっても安いということで、安い割合に
品質がいいということが、残念ながら、ミシンばかりじゃないと思いますが、これが実態でございます。もちろんミシンの種類は、いわゆる家庭用ミシンには丸型、角型、ジグザク型と非常に種類がございまして、いいミシンもたくさんございますが、非常に大きなウエートを占めている一般のミシンは、安く、その割合に
品質がいいということで売れているという現状でございます。あと中共ミシンというものが最近出て参りましたが、これはまだ
品質は非常に落ちております。値段は中共のことでございますから、
採算を度外視して出して来ます。これは現在
数量は非常に少いが、将来は一つの問題点になるかと思います。もう一つ、インドのウシャで作っているミシンが最近出て参りました。
日本ミシンは、販売とか
宣伝、サービスの完備したミシンと、今申した
品質は少し落ちるが非常に安いミシンとの両方の間にはさまれてきたという
状態で、今までみたいに作れば売れるという時代は過ぎ去ったという現状でございます。
以上が大体ミシン
業界の一応簡単なアウト・ラインでございます。
本日の軽
機械の
輸出の
振興に関する
法律に関係いたしましては、まず
登録制の問題といたしまして、いわゆる
品質の
向上、それはどなたも御
反対はないわけです。ただ
品質という意味もいろいろございます。先ほど申しました一応の
品質というものは、
最低線ではある程度守られている。ところがなかなか検査
協会が全部いちいち見るわけでございません。ある程度
バイヤーに売られたもののうち、そのうちに何パーセントかはもうだめなものがある、それだけ安く買っておくという習慣がずっと続いておりまして、非常に
品質がよくなった、高級品は非常に
品質がいいのですが、一般品が必ずしも実態がよくなったためにクレームがこなくなったというのではなくて、初めからある程度見込んだためにクレームがこないというような
状態もあるわけでございまして、全く安心していいとうほどの実態になっていない、つまり
一定の資格ある
メーカーによる良心ある
製作ということは、依然としてミシン
業界でも大切なものでございまして、その問題は現在は民主的に実施をいたしていただきたいということを申し上げるにとどめたいと思います。
それから
登録停止でございますが、これはなかなか大きな問題でございます。だんだん
過当競争が、現在は別として、もっと激しくなります場合には、当然
価格は上から押えられる。そうすると、
品質の方で、たとえばアーム、ベットの肉の厚さを何ミリを何ミリに減らすとかして、
メーカーとしては安くしようとする、そうすると、当然実態としては、
品質が落ちて参ります。従ってそういう実態が起きた場合には、現在の中小企業
団体法の新規
設備制限というものは、一種の極端な
言葉で言えば、ドリル一本と一部屋あればできるという
業界でございます場合には、技術的には困難でございまして、もしそういう事態に至った場合には、やはりこの
法律によるしかないのじゃないかということが、われわれは一応常識的には
考え得るのでございます。
それから次に、
事業協会でありますが、この
事業協会の仕事といたしまして、いわゆる
調査、
宣伝、サービスといろいろございます。それから
品質の改善、これは今まで私がミシン
業界の実態を申し述べました中に大体尽きると思いますけれ
ども、それからもう一つは、やはり一番
最後に特にお願いしたいと思いますのは、
資金による裏づけも、当然それによって仕事の
内容いかんが非常に変ると思いますけれ
ども、一応先ほどの、いろいろとミシン
業界の実態から申しますと、当然もっと
海外調査、あるいは
品質の維持ということは重要になってくるのじゃないかと思います。それでたとえば電気
製品の
メーカーさんが、国内であれだけ非常に努力しておられることは、耐久消費材として当然でありますが、ミシンは
海外へ参りますと、残念ながらそういう
状態は、シンガー、ドイツのパフだけを見て、
日本のミシンというものは、どこのミシンだかわからないような名前がついておるというのが実態で、国内では
機械工業
輸出中第二位を占めるといばっておりますけれ
ども、少くとも現在、やむを得なかったと申しましても、実態はさようでありまして、今後いつまでもこのような
状態は、もう
世界の経済の、ミシンの競争から申しましても許されない
状態ではないかということを思いますと、当然このような
事業協会の仕事は直ちにやっていただきたいと思います。先ほどちょっと
輸出組合で、ニューヨークに一人駐在員を出しておりますと申しましたが、実はシンガーが一月の十五日に
アメリカの関税
委員会に
日本ミシンの問題で輸入
停止——ジグザグ・ミシンの輸入・
停止という問題で提訴した問題がございます。これは現在お互いにこの問題で関税
委員会中心にあれしておりますが、その
内容は、
日本ミシンのジグザグの特許の問題で触れておるということで、それに該当し、あるいはそれの可能性のあるものは全部一応
停止してくれというのがシンガーの提訴の
内容であります。こちらといたしましては
アメリカに非常なウエートを占めておりますだけに、ほかのミシンに関係いたしましても大
へんですし、さらにいろいろな点で、シンガーといたしましては、これだけ
日本ミシンに押された以上、あらゆる手を尽してくるのではないかということで、向うの専門の弁護士、弁理士を雇いまして、現在これに対して係争中でございますが、この特許問題一つ
考えましても、ミシンに関する特許は、聞きますところによりますと、
アメリカで一万件もある、これにはいろいろ
需要製、あるいは重要性じゃないものもございましょうと思いますが、おそらく特許問題だけでも一つ一つ、さらにシンガーが今三つの特許ができておりますが、やり出しますと、こちらは中小企業が主体になっておりますから、あまりそういう特許を詳しく調べていない。そうしますと、非常に危険を感じまして、いろいろそういう問題がまだこちらが負けていないにかかわらず、
輸出を
停止しようとしたり、いろいろな問題が出て参りまして、特許一つ
考えましても、そういう実態でございまして、これは当然こういう団体が特許の問題にも触れて、国内で
海外の特許に触れない、そういう問題で
輸出停止を食わないというような
調査も当然必要ではないか、これは特許一つ例を出しましても、そういうような実情でございます。
私一人であまり時間を過ぎてはあれでございますから、
最後にいわゆる
買い取り行為でございますが、将来
価格の安定、あるいは不況対策として、こういうものがミシンの場合は当然
考えられてくるのではないか、たとえば現在
工業組合で一つの
考え方としましては、共同受注、
買い取り行為ということをいろいろお互いにやるのですけれ
ども、たとえば民主的に一票一票は非常にけっこうでございますけれ
ども、非常に利害錯綜するために肝心なところにいくと、そのままストップしてしまう。それからたとい金額にいたしましても、
工業組合は個人
保証ですから、非常にお互いの危険性を重んじまして、ここに限界がございます。
工業組合としての仕事の面もございますが、そこに限界があるということで、現在一年前から出しては引っ込め出しては引っ込め、結局
振興法ができたら、その方でやろうじゃないかというような
状態になっております。
以上が大体申し上げたい全貌でございまして、従いまして、
業界といたしましては、今後の
要望は別といたしまして、大勢としては賛成でございます。ただ
要望といたしましては、当然民主的にぜひ運営していただきたいことはもちろんでございますが、民主的という意味は非常にばく然としておりまして、それでは関係利害
メーカーが全部入って、全部の意思を通すのが民主的かと申しますと、必ずしもそうとは言えないのであります。団体の性格上、あまり
メーカーに偏しても、あるいは
商社に偏してもいけないので、双方のことを知った方に当然運営していただきたいという
考えは持っております。
それからこの中に
部品関係がちょっと
登録の関係で出ておりますけれ
ども、やはりミシンの場合には、
完成品と
部品とそれぞれの役割の限界はございますけれ
ども、やはり
生産面から申しますと、
部品が中核をなしております。その点で、将来この
部品部門の点でさらに大きな御配慮があるとありがたいと思います。なお、これができました暁には、当然いろいろなこういう
事業はミシン関係の各中小企業を
中心とする
メーカーの
負担金の納付によって運営されると思いますが、何と申しましても、非常に中小企業を
中心としておりますだけに、なかなかその点でつ
らいわけでございまして、将来こういう点で、
政府におかれましても、十分
資金的
援助もいただければ、それに乗って、一そうこの
協会の
発展が期せられ、それこそ確実な安心したコンスタントな
輸出業界ということになり得るのではないかと思っております。よろしくどうぞお願いいたします。