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政府委員(
井上尚一君) 無効
審判に対する除斥
期間の問題は、今御指摘の
通り、非常に重要な
問題点でございまして、われわれとしましても慎重研究をいたした結果でございます。この除斥
期間の廃止につきましては、反対
意見のあることも
承知しております。その反対
意見は、除斥
期間を廃止することによって、
特許権者が常にいつまでも無効
審判請求の
対象にこれがなるということには、
権利の不安定を生ずるということがその
理由のようでございます。確かにそういう
理由でもって、そういう
理由のゆえにこそ、従来、
現行法におきまして、この
制度が設けられたわけでございまして、ただいま、大正十年の
改正の場合に、除斥
期間が設けられた
理由は何かという御
質問に対しましては、やはり当時の
立法者としましては、
権利の安定化ということに重きを置いて
判断したものと
考える次第でございます。で、この問題につきましては、
島委員も御
承知のように、無効原因のある
特許というものは、本来
権利になるべからざる
権利であるということがいえるわけでございます。そういう
権利、本来
権利になるべからざるものが、一定
期間経過することによって完全な
権利として確定されるということが果してよいかという問題が残ります。
特許権という強力な独占権につきましては、これを何人も納得するような
内容のものでなければならないことは申すまでもないのでございまして、それゆえに
異議申し立て
制度あるいは無効
審判制度というものが設けられていますことは御
承知の
通りでございます。で、
権利者の立場から申しますれば、きずがあっても、無効の原因がそこにあっても、これが
権利として早く安定化するということが望ましいことはいうまでもないのでございますが、それはあくまでも
権利者の立場でありまして、
権利者以外の第三者すなわちその
特許権の存在によって、ある
技術を長く使用することができない、そういう制約をこうむる多くの第三者の立場から申しますれば、これは耐え得るところでないと思うわけでございまして、結局われわれとしまして、今回この除斥
期間廃止の結論に到達しましたのは、理論的には今申しましたように、どちらにもある
程度の
理由がそれぞれあるわけでございますが、今日まで長年の運用の経験を通しまして、むしろその弊害の面が強く痛感されたということに基くわけであります。
では、その弊害というのは具体的にどういう例があったかという御
質問でございますが、これは実は除斥
期間の
経過によって無効
審判請求ができなくなって、そしてその
権利を振り回されて第三者が広く迷惑したという事例でございますので、
特許庁に対する問題としては提起されないわけでございますので、われわれとしましては、その令部について正確につかんでいるわけではございませんが一例として申しますれば、ミキサーのハネに関するこれは
権利につきまして、やはり除斥
期間経過後になってく随所で使われて、同じ
技術的アイディアを使っておる業者に対しまして、
権利者がこれに
権利侵害として方々訴えて、非常に第三者に大きな波紋、影響があったという事例もございまするし、それからまた
実用新案の小さなこれは例でございますが、アイス最中というようなものにつきまして、やはり
権利者が除斥
期間経過後、自分の
権利が無効になるという心配がないという段階に至りまして、方々で用いられておりますアイス最中に対してこれを
権利侵害として訴えたというような実例もございまして、従来この除斥
期間制度によって
権利が安定化するというよい面と同時に、むしろ半面にそういう弊害が非常に多かったということは確かに事実でございます。
なお、この
制度の廃止に対しましての反対者の中には、多少と申しますか、誤解があるのではないかと懸念される点がございますので、これは
島委員に対するお答えではございませんが、ついでに申したいと存じますのは、無効
審判請求によって
権利が無効になりましても、当該事業はもちろん続けることができるわけでございまして、事業自体が中止になるというわけのものではなく、第三者に対して禁止するだけの効力、すなわち
権利の独占権というものがなくなるというだけの結果だということがその
一つ。
もう
一つは、現に
権利者になっていた者につきましては、
現行法のもとにおいてこれは設定された
権利でございすので、これにつきましては、新法
施行後におきましても、除斥
期間制度は従前
通り適用があるわけでございましてこの点念のために申し添えておくわけでございます。
それから、
外国文献の場合にのみ除斥
期間を例外的に残すのはどういう
理由かという御
質問でございますが、これは一口に申しますれば、国内における公知公用、国内における頒布された
刊行物に記載されているという場合は、
政府、民間を通じて、相当の注意をすれば、その
権利の設定を防止をすることができたであろうという場合でございます。これに反しまして、
外国で頒布された
刊行物に記載されている場合、すなわち
出願の当時には
日本に入ってきていないというケースにつきましては、これは関係者が相当注意を払いましても、なお、その無効原因を発見することができなかったであろうというような場合でございます。で、その国内の公知公用文献が出た場合は、何と申しますか、関係者の努力の可能の限界内でございますが、
外国において頒布せられた
刊行物の場合には、その可能の限界をこえているということが申せようかと存じますので、その場合に限りまして、むしろただいまの
権利の安定化、ひいてはその事業の安定化ということに考慮を加えまして例外的に除斥
期間を残すことがむしろ適当である、かように
考えた次第でございます。
なお、そういう結果、
外国人が有利になるではないかという御
質問でございますが、これは申すまでもなく、
特許法は無色でございまして内国人に不利、
外国人に有利というようなことは、われわれとしては
考えられない。
外国人にとって有利なような場合には内国人にも同様な場合が起き得るものである、かように
考えたいのでございます。
大へん簡単でございますが、以上をもって御
質問に対するお答えにいたしたいと思います。