○
参考人(村瀬直養君) 私は村瀬でございます。ただいま
工業所有権制度の
改正の問題について御
審議でございまするが、これについて簡単に
意見を申し述べさしていただきたいと存じます。
工業所有権の
制度を全面的に
改正いたしますことは、終戦以来の懸案でありました。
政府はそのために先ほどからたびたび
説明がございましたように、各方面のしかるべき人を集めて、
工業所有権制度改正審議会というものを設置いたしました。その
審議会は慎重
審議の結果、
昭和三十一年の十二月に、通商産業大臣に対して一定の
答申をなしましたが、
政府の当局は、この
答申の趣旨を尊重して
法律案を作成せられたと存じております。もちろん
法律案作成の段階におきまして、
政府部内における調整の結果、多少
答申と異なる点を採用いたしたところもあるようでありまするが、
答申の趣旨とした主要な目的は、大体これを実現しておると存じておるのでございます。
今回の
工業所有権に関する四つの
法律案は、いろいろの点において、
現行の
法律の
内容を改めておりまするが、私はそのいずれも、大体において適当であると考えておるのでございます。以下、その重要な点について、簡単に
意見を申し述べまして、御
審議の御参考に供したいと存じます。
第一に、今度の
改正は、国際的の視野に立っておるのでございます。すなわち
改正案は、
出願前
外国で頒布された
刊行物に記載されておる
発明等は、独占権の対象としないとなしておりまするが、この点は、先ほど
丹羽さんからもお話がございましたが、国際的な
技術交流が盛んになって参りました現状におきまして、これは、適当な措置であると考えるのでございます。この趣旨によりまして、すでに、
外国では頒布せられておりまするが、国内では、まだ頒布されていない
外国文献に記載されているようなものについて、
特許が付与されるというような弊風は除かれたと考えるのでございます。
なお、
意匠法におきましては、
出願前
外国で頒布された
刊行物に記載せられた意匠のほかに、公然知られているものについては、意匠権を与えないこととしておりまするが、意匠は、
発明などと違って
刊行物に記載されないで世人に知られているということが多いのでありまするから、これも、意匠の実際にあった適切な措置であると考えるのでございます。
改正法案が、国際的視野に立っておりまする次の点は、
一つの
特許出願で二以上の
発明について
特許川瀬をすることができるようにしておることでございます。これも先ほどからお話がございましたのでございまするが、従来、
わが国におきましては、一
発明一
出願の原則を堅持しておりまして、その
例外は、ほとんど認められておりませんでした。今回の
改正におきましては、三十八条でございまするが、大幅にその
例外が認められることになりましたので、諸
外国において採用せられておりまする
特許請求
範囲の多数項という域川と実質的に同様な効果をあげることができまして、国際的に相互に
出願をするについて、非常な便益をもたらすことになりまして、これも適当な点であると存ずるのでございます。
第二に、今回の
改正案におきましては、最近における
科学技術の現状に即応するために、原子核変換の方法により製造せられたる物質の
発明については、
特許しないということになっておりますが、これは三十二条でございまするが、こういうことになっておりまするが、これも適当であると存ずるのであります。けだし、
わが国の原子力産業は、まだ発達の途上にあるのでありまするから、基本的な
発明でありまするところの原子核変換の方法によって製造せられたる物質に対して
特許を与えるということは、
わが国にとって好ましくない結果がもたらされると考えるからであります。
第三に、
改正案は、
特許権の
効力を、業としての
特許発明の実施に制限して、
特許にかかるものを、家庭的に使用しても、
特許権侵害にならないと
規定してありますが、これも適切であると存じます。家庭的な使用にまで、
特許権の
効力を及ぼすことは、多少行き過ぎで、また実際上において、その必要がないと思われるからであります。
第四に、
改正案は、
特許権の侵害についての民事訴訟について、
権利者のために第百条以降において神々の措置を講じておりまするが、これも実際上適切なものであると考えております。従来の
特許権侵害による損害賠償の請求に伴う民事訴訟において
不便でありましたのは、
特許権者の側において、侵害者に故意または過失があったかどうかということを立証しなければならない、また侵害によって
特許権者に幾ら損害があったかを立証すべきものとなっておりましたが、今回の
改正におきましては、侵害行為があったときには、一応過失が推定せられることになっております。また侵害者の受けた利益は、一応
特許権者の損害と推定せられております。また通常受けるべき実施料の額が、最低限度の損害とみなされておりまするので、これらの
不便は、除去せられることになると存じます。
また、
特許発明の実施のみに使用せられるものを、
特許権者以外の第三者が製造等をしたときには、これは、通常間接侵害と称せられておりまするが、従来
特許権侵害を幇助するものでありましても、
特許権侵害は成立しなかったのでありまするが、今度は、
特許権侵害として取り扱われることになりました。
特許権者を厚く保護するように実効をあげることができることと存じます。
第五に、
改正案は、
現行法の
特許権の
範囲についての
確認審判を、
特許庁のなす「
解釈」ということに改めました。これによって
確認審判の
審決について、従来存在しておりました疑義を取り除いたのでございます。
確認審判という大事な
制度について、その
審決が、裁判においてどんな
効力を有するかということが不明であるということは妥当ではありませんが、今回の
改正では、「
解釈」という文字が示します
通り、その
効力は、
法律的には、鑑定に類似したものであることを明らかにしたものでありまして、私は適当であると考えられるのでございます。また、これによって、従来の
確認審判の場合と異なりまして、迅速に、「
解釈」の結果が出されるようになりますれば、
特許事件の解決のみでなく、将来新しい
発明を企業化するために、大いに
意義があると存ずるのでございます。
この点は、先ほど木戸さんから、るる御
意見の陳述がありました。まことにごもっともな
意見と存じまするが、結局、その御
意見の要点は、新
法案に認めておりますところの「
解釈」のやり方を適当にする、あるいはこれを、何らかの形によって
制度化するというようなことによって、目的を達するのではないかと、かように考えまするので、この点について、御
審議の上において、御考慮を願いたいと存じます。
第六は、
改正法案は、
特許権の
存続期間の延長
制度を廃止しておりまするが、これも妥当であると存じます。この
制度は、
大正十年の
改正に当っても、
運用上適当でない場合が多く指摘せられまして、とかくの批判があったものでありまするが、今回廃止と決定せられたのでありまして適当であると存ずるのであります。
発明が、この世の中に与えた便益が大であるに比較して、利益を上げることができなかったという、そういう
発明者を救済するために、
存続期間の延長
制度が設けられておりまするが、そういうことによって
発明の奨励になるという
現行制度は、その趣旨においては、もっともではありますが、この
制度は具体的に公正妥当に運営することは非常に困難でありまするので、今回廃止と決定したことと存じます。
次に、
実用新案について申しますると、
実用新案の対象を型ということから、考案ということにしたことについては妥当であると存じます。また、型といいましても、結局は、
技術的な効果を中心として
判断することになりますと、
発明とほとんど変らないことになります。それにもかかわらず、型と
発明を区別する建前をとっておりまする
現行制度のもとにおきましては、全く同一の
技術的考案が、型として
実用新案の
出願をすれば、
実用新案権となり、
発明として
特許の
出願をすれば、
特許権となり、実際上、ふつごうを生じているのであります。今回の
改正におきまして、
実用新案権の対象と
特許権のそれとは、質的な差異ではなくて、程度の差になりましたことは、妥当であろうと考えるのでございます。
次に、
意匠法案について申し上げますると、
新規性の喪失の
例外の事由を——第四条の二項でありますが、
例外の事由を大巾に認めましたのは、意匠の特性に合致した措置として適当なものと存じます。
発明等と違って、意匠考案は、比較的簡単でありまするので、その考案について、全部
出願をするということは、大へん手数がかかることであり、むしろ売り出して、世人の好評を博したものについて、意匠権をとらした方が、意匠考案者の利益になるし、また、そうしたからといって、
発明等の場合と違って、弊害は見当らないからでございます。
最後は、
商標法案について申し上げますと、今回の
改正案は、商標権の財産的価値を高めようとしておりますのは、経済界の
実情に即するものと言わなければなりません。従来の商標法におきましては、商標権は、営業と分れては移転することができないし、また商標権者が、他人に
自分の
登録商標を使用させることも認めておりませんでした。商標というのは、
特定の出所を表示するものでありますから、これによって商品を買う一般公衆は、その商品が、
特定の出所から流出しているという信頼を持っている。その商標権を営業と分離して譲渡することを認めたりまたは他人に
登録商標を使用させることを許しますることは、商標に関する公衆の信頼を裏切ることになるから、
法律上禁止すべきであるというのが現在までの商標法の根本的な原則であったわけでございます。ところが経済の発展とともに次第に商標の経済的な価値が高まってき、従って一般の財産権と同様に自由に移転をしたりまたは他人に使用させたりする必要性が生じてきたのでございます。しからばこのような経済上の要求に応じた場合において、果して弊害があるかというのに、格別の弊害は認められないということで、今回の
法律案の採用ということになったと思われますが、私もこれが適当であるという考えでございます。けだし、今日のように大量の商品について数多くの商標が使用せられて市場にはんらんしておる状態におきましては、一般公衆は商標によって
特定の出所を知るということは比較的少い、むしろ多くの場合はその商標を付されてある商品が一定の品質を保持するものであれば、公衆の満足は充足せられ、そうしてその品質の保持は譲受人の努力によって十分に保障せられるものである、かように考えられますからでございます。従って商標権を営業と分離して移転を認めましても、右のような公衆の信頼を裏切ることにならないと存じます。他人に
登録商標の使用を認めますると、その商標を付した商品が複数の出所から流出することになりまして、公衆の商標に対する期待に反するのではないか、かような疑いがあるいはあるかもしれませんが、商標の使用を他人に許す場合には商標権者とその他人との間に密接な
関係があるのが通常でありまして、
法律の建前としては、その他人は商標権者と同様に取扱って差しつかえないと存ずるのであります。
以上の
理由によりまして、商標権の経済的価値を高める方向に
改正するということは適当であると考えておるのでございます。そのほか今回の
工業所有権に関する
法律案は
現行の諸
法律のいろいろな点を改めておりまするが、先ほど申し述べましたように、いずれも大体において妥当なものと認められますので、私は本
委員会においてこれを御可決なされますように念願するものでございます。
それから
最後に、先ほど
丹羽さん並びに斎藤さんから
審査の
促進の問題が述べられたのでございますが、これもきわめて重要なことでございます。
法律制度に面接
関係しない点が多いと存じまするが、お二人のお述べになりましたことについて、私も心からさようになることを念願するものでございます。
以上簡単でございますが。