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政府委員(
井上尚一君) お手元に配付してございます
特許法案要綱、それから
特許法施行法案要綱、
実用新案法案要綱、
実用新案法施行法案要綱、
意匠法案要綱、
意匠法施行法案要綱、この要綱につきまして、今般上程になりました
特許法案等の
内容の大綱につきまして御説明申し上げたいと存じます。
この資料に基きまして具体的に
内容に入ります前に、今般
法律改正案を上程するに相なりました経過について簡単に申し上げておきたいと存じます。
現在の
特許法は、
現行法は大正十年の制定の
法律ではございますが、明治十八年に
日本に
特許制度が創設に相なりまして以来、すでに七十余年を経過したわけでございます。
現行法の大正十年以来もうすでに四十年近い月日を経過しまして、この間
経済情勢の変遷、
社会事情等の変化の結果、
法律の
内容に根本的な再検討を加える必要がだんだん生じて参りましたので、昭和二十五年の十一月に政府に
工業所有権制度改正審議会を設けまして、
学識経験者、
産業界代表を網羅しまして、この
委員会に
法律改正に関する
重要点を諮問しました。その経緯につきましては、昨日の
提案理由の説明において御説明申し上げた
通りでございます。で、この
審議会で六年間慎重審議しました結果の答申に基きまして、なお、その後関係各方面の意見をもくみ入れつつ、今般の
法律案を作成した次第でございます。
特許制度は、申すまでもなく、新しい
発明をしたその
発明者に対しまして
特許権という特典を認めるわけでございますが、ここに条件がございまして、その
発明の
内容を公表する、その公表する代償といたしまして
特許権という
権利を認めるわけでございます。そうすることによって、一方では
発明者の保護を十分はかりつつ、他方その
発明の
内容を世に公表することによって、よりよき
発明の続いて生れますよう、それを奨励促進する、そういうねらいを持っているのがこの
特許制度であります。でございますからして、
特許法の
改正の要点につきまして、後ほどだんだん申して参りまするが、常に
発明者ないしは
権利者の
利益という問題と、それから
一般国民、すなわち
第三者の
利益というものとの両者の妥協、調和の上に
特許制度は立っているわけでございます。
今般の
法律改正の大きな
理由は、大体四つに分けて考えることができょうかと存じます。
第一は、
社会経済事情の変化に即応するための
改正ということが、一つの柱でございます。第二は、
発明者ないしは
権利者の
利益の保護を強化したという方向への
改正でございます。それから第三が、反対に
一般国民、言いかえれば、
第三者の
利益を考慮する見地から、むしろ
権利者に制約を加えると申しますか、そういう両者の調整を考えるというのが第三でございます。それから第四の
改正の
理由としましては、
制度の
簡素化、ないしは行政の改善ということを、長年の運用の経験を通じましてこれまで痛感して参りました。その改善の必要に応じたそういう
改正でございます。
次に、この
特許法案の要綱の第一に書いてございまする「
発明の新
規制判断の基準について
外国で頒布された
刊行物の記載も含めることとした。」これはただいま申しました第一の
社会経済事情の変化に即応するための
改正と申していいかと存じます。
特許を受けることができます
発明というものは、
新規なものでなければならないということは、
現行法も今度の新
法案も同様であるわけでございますが、その
新規というのは何をいうかという点について、今般は
改正を加えたわけでございます。と申しますのは、
現行法の第四条という規定がございますが、
発明が
新規でない場合としまして、その
発明が、
特許出願をする前に、すでに国内で公知または公用になっている場合、あるいはまた
刊行物に記載されている場合ということになっておるのでございますが、その地理的な
範囲は、いずれの場合も
日本国内ということに限定しております、が、今度の
改正案では、その
刊行物の記載という場合につきまして、それを
日本国内に限定しないで、
外国において頒布された
刊行物に記載になっているようなものにつきましても、これは
新規な
発明ではないと考えたわけでございます。でございまするから、
日本国内においては、
公知公用でないあるいは
日本国内で頒布された
刊行物にも書いてないというような場合でございましても、
特許出願前に
外国で頒布されている
刊行物に記載されている場合には、それは
新規な
発明とは言えない。従ってこれは特ましても、これに
特許権という
独占権を認めるということはむしろ適当でない、こういう
考え方が第一の
理由でございます。それから第二の
理由としましては、これは特に
原子力産業等のように
外国の
技術が非常に進歩していて、
日本の
技術がむしろおくれているような
産業分野において特にに痛感される問題としまして、
外国の文献にはもうすでに書いてあるけれども、
日本にはその文献、学会のリポートでございますとか、専門の雑誌でございますしか、そういうものに書いてあるものは、
外国ではそれが頒布された
刊行物に書いてあるのが、
日本にはその
刊行物が入ってきていないというだけの
理由でもって、同じ
発明につきまして
アイディアにつきまして、
外国人が
日本へ
出願してくれば、これは
日本ではそれが
特許になるということでは、
日本の
産業に対する圧迫にこれがなるわけでございますので、そういう点をも考慮しまして、今回は
新規性の判断の基準、
発明の
新規性というものを考える場合の基準といたしまして、国内における
公知公用ということと、それから
刊行物につきましては、
日本国内において頒布されたものに加うるに、
外国において頒布された
刊行物に記載されているような
アイディアについてもこれは
特許しないというのが第一の
改正でございます。
それから第二点について、次に申したいと存じますが、いわゆる
発明の
進歩性についての規定を
新規に設けたことでございます。これは、
特許を受けることができる
発明は
新規なものでなければならないということは、今、申し上げた
通りでございますが、非常に新しければ、新しいということだけでもって、この新しいという
理由によって
特許を認めていっていいかどうかという問題でございますが、
改正法案ではこの要件としまして、
特許を受けることができる
発明は、その
発明の属する
技術の分野における通常の
技術知識え有する者が、
特許出願前に公知になっていないという趣旨の規定を設けまして、普通これをわれわれは
発明の
考案力、すなわちインベンチィブ・ステップと称しているわけでございます。こういうような規定を設けました
理由は、新しいということ以外にプラス・アルファ、
技術的に前進がそこにある、従来の既存の
技術、従来の既存の
発明から何人も容易に考えつくというものは、かりに新しい
発明でございましても、これに
独占権としての
特許権を認めることはむしろ適当でない。第三井の見地という点から申しまして、これは妥当でないという
考え方で、要するに
特許を認める要件としまして
新規性ということと、同町にこれに加えまして
発明の
進歩性という要件を新たに認めたわけでございます。この三ページの最後にも書いてございまする
通りに、実は
審査基準の向上をはかっていく、そうして
技術水準の低いものに
発明を認めることを、できるだけこれをそういう場合を除いていくということが必要でございます。言いかえれば、
新規ではあるが、程度が低いそういう
発明に対して
特許を認めまするというと、あれでも
特許になるのかというわけで、ますます程度の低い
発明につきましても
特許出願を誘発することにへりまするし、これは結局
技術の進歩を目的とするところの
特許制度の本旨に沿わないわけでございます。この第二点は、一番最初に申しました
第三者の
利益といいますか、
一般国民的見地から考えましたもので、これはそういう
改正になるわけでございます。
それから次の第三でございますが、
原子核変換により製造される
物質の
発明を
特許しない
発明という中に
新規に加えたことでございます。
現行法では
特許しない
発明としまして、飲食。物でございますとか、あるいは医薬品でございますとか、そういうようなものを列挙しておりまする中に、この第三ページに書いてございまする
通りに、いわゆる
化学方法により製造すべき
物質というものを
特許しない事由として加えているわけでございます。この
現行法で
化学方法により製造すべき
物質というものに対して
特許を認めない
理由といいますのは、
物質自体に
特許を認めまするというと、この
物質を製造する
方法としまして、よりよい
方法、新しい
方法が
発明になりました場合においても、その
方法の
発明についての
権利というものは、
物質自体の
特許権によって制限をこうむるわけでございます。すなわちAならAという新
物質の
発明があったといたします。そしてこれに対してA1という
製造方法があった場合には、A2、A3という
方法が続いて
発明になりました場合、もし
物質自体、すなわちAという
物質自体に
特許を認めますというと、A2、A3という新らしい
方法の
発明をしたその
特許権者もAという
物質の
特許権者の承諾がなければ、その
方法を使って
A物質を製造することができないわけでございます。こうなりますというと、その
物質の
特許権者の力が強くなりまして、その結果、
方法自体の研究の意欲が阻害されるというようなことが考えられるわけであります。特に
日本で従来この
化学物質について
特許を認めなかった
理由としましては、
外国で新しい
物質が
発明になりまして、この
外国人が
日本で
物質特許をもし
日本に
出願しまして、
日本で
物質特許権者にこれがなりました場合に、
日本の
産業としまして非常な制約をこうむるということを考慮したわけでございます。この
化学方法により製造すべき
物質につきましては、将来の問題としましてこれに
特許を認めるべきでないかという
考え方は別途ございますが、今回の
法律改正案としましては、一応従来
通り、
化学方法により製造すべき
物質は
特許しないという、その
現行法の
考え方を一応踏襲したわけでございます。で、最近の
技術の進歩によりまして、
原子核分裂あるいは
原子核融合、そういう新しい
核変換の
方法によって製造される
物質、アイソトープのいろいろな新
物質がございますが、そういうものは必ずしもここに言いますところの
化学方法により製造すべき
物質ということには該当しないわけでございますので、
化学方法により製造すべき
物質について
特許を認めないという、同様の
理由をもって今般
原子核の変換により製造すべき
物質の
発明もこれを不
特許事由として加えたわけでございます。この第三点は先ほど申し上げましたいわゆる
社会経済事情の変化に即応するところの
改正ということに該当しようかと考えます。
次は第四の問題でございますが、密接な関係を有する二以上の
発明について、一
出願で
特許を受けることを認めたという点でございます。これは非常におわかりにくいかと存じますが、
製造方法について新らしい
発明を生むと同時に、その
製造方法を実行する必要上
製造装置の
発明が関連して生まれるわけでございます。ないしはまた、
基本発明がございます。そうすると、その
基本発明を改造した、いわゆる
改良発明というものがある。こういうような場合に、相互に密接な関係を有する二以上の
発明というものを、従来は、
現行法ではその一
発明、一
出願主義という原則を非常にきつく貫いて参りましたので、こういう複数の原則としましては、二以上の
発明はやはり複数の
出願をどうしても必要とするというのが従来の解釈であり、かつ運用であったわけでございますが、今般はこれを、二以上の
発明を一つの
特許出願に包含することができるという場合を相当拡大したわけでございます。
こういう拡大しました
理由としましては、三ページから四ページにまたがって書いてございまするように、第一には
出願人というものが自己の
基本発明を防護するために、独立していわゆる防護
特許出願する必要がなくなるという点でございます。すなわちAという
基本発明に関連しまして、Aという
発明をした人間はAについて
特許出願をするわけでございますが、A、Aというものが関連してその
改良発明というものが起き得る。そういう場合には従来は別々に
出願をする必要があったわけでございます。またAというその自分の
発明について
特許出願しますのに並行しまして、A、Aにつきましても防護の目的上別個の
出願、独立の
特許をとっておくことがどうしても必要であったわけでございますが、この二以上の
発明を一
出願でなし得るという道をここに設けることによりまして、そういう
防護特許を別に独立してとる必要はなくなる。もう一つ第二の
理由としまして、基本的な
発明思想が共通である複数の
発明を別々に
出願しなければならないことから生ずる
出願人の手数と経済的な負担が軽減される。それから第三番の
理由といたしまして、密接な関係を有する複数の
発明が一
特許権に包含されておるということの結果、
特許権につきましてその
特許権の譲渡、売買の問題あるいは
特許権につきまして実施を認める、いいかえれば、ライセンスを出してロイアリティをとって、これを他人に使わせるというような、
産業上利用し得る
技術というものは、
特許の数個の
発明が一体となって利用できるという場合が少くなくないわけでございます。こういうふうに数個の
発明が一
特許権に包含されるということによって、
特許権に関しましても取引がきわめて円滑、便宜になるという点があるわけでございます。それから最後に、
侵害の防止という点から申しましても、ある
産業上利用できる
技術というものが、一、二、三、四という数個の
特許権に分れておりまする場合には、
第三者がその
特許権侵害にならないように注意を加える場合におきましても、一々一、二、三、四という数個の
特許権の
権利、
範囲をはっきり処置する必要があるわけでございますから、そういう場合にもしこれが一本の
特許権にまとまっている場合には、これはそういう
権利の
侵害の防止という点からも非常にその
範囲が明確である。従って
侵害の防止に非常に役立つ、そういうふうに考えてよいかと存じます。それからこの第四の
改正は先ほど申しました
発明者ないしは
権利者の
利益の保護という
理由の
改正であると考えていいと思います。
それから第五としまして、
特許権の
効力は業としての
行為以外の
行為には及ばないこととした。これは非常に
法律技術的な問題でございますが、従来は
特許法上はその
特許権の
効力というものは業としての
行為以外にも及ぶというような
立法方法であったわけでございますが、
実用新案法につきましては、業としての
行為にその
実用新案権の
効力は限定するということは明文上設けられておったわけであります。しかしながら
特許権の
効力の
範囲というものは、いわゆる家庭で使う場合には
権利侵害として訴えてかかるというようなことは、
社会通念上と申しますか、
法律の常識の点から申しましても、これはいかにも行き過ぎであると、かように考えまして、今回は、はっきりと業としての
行為以外の
行為には
特許権の
効力というものは及ばないということをはっきりしたわけであります。
それから第六の問題は、
特許権の
範囲の
確認審判を解釈に
改正した点でございます。
現行法では
裁判所が
特許権の
権利侵害という
侵害の訴えがございました場合、まず決定を要する問題は、これは
権利侵害を構成するかどうか、言いかえれば、ある
行為が
権利者の
特許権の
範囲に入るかどうかという
権利の
範囲につきましての
技術的判断がまず先決問題となってくるわけでございます。それで
現行法ではこの
権利範囲の
確認審判という
制度をとって参りました。が、しかしながら、
特許庁でやって参りました
特許権の
技術的な
範囲を確認する、言いかえれば、ある
行為が
権利範囲の中に入れば、それは
権利侵害になるわけでございます。
権利範囲に入らないというふうにはっきりしますれば、それは
権利侵害にはならないというわけでございます。ですから
当事者間にとって、
権利範囲に入るか入らないかということは非常な重大問題でございまして、この点について
権利範囲の
確認審判というものをこれまで続けて参りましたが、従来は
権利範囲の
確認審判の審決の
効力というものにつきまして、
法律上非常に不明確な、あいまいな点がございました。言いかえれば、
権利範囲の
確認審判の審決が、等三者をも拘束するいわゆる対
世的効力を持つかどうかという点につきましては非常に不明瞭なまま運用が続けられておったわけでございます。この点につきましては、学者、あるいは
法制局等は国の法制としまして、そういう
法律的効力、そういう
法律上の性質がはっきりしない
制度を続けることは適当でない。その
法律的効力を明確にする必要があるというような強い考えで、結局道としましては、それは対
世的効力を有するものにまでこれを強めて参りますか、あるいは後退いたしまして、これを単なる
行政庁の判断ということに
法律上の性質を弱めたものとして認めていくかという、どちらかになるわけでございますが、この点につきましては、
裁判所当局ともいろいろ折衝を続けたわけでございますが、結局
特許庁のこの
確認審判の審決に対
世的効力を認めるという点につきましては、
裁判所側としてはあくまで反対でございましたので、われわれとしましては、ここに
行政庁の判断というものを意見として、そういうふうに性格を変えたわけでございます。で、そういう
法律上の性質が変りました結果、名称の確認を今般はこれを解釈といたした次第でございます。
次の第七点の点は、「国以外の者も公益上必要な場合は他人の
特許発明を実施できることとした。」、この五ページにも書いてございます
通り、
現行法におきましては、公益上必要な場合におきましては、国が
第三者の
特許につきましてこれを取り消したり、制限したりあるいは収用する、そういうようなことを認めて参りましたが、今回は、こういう公益上必要がございます場合には、これに一定の手順を踏んで、
行政実施と申しますか、公益上の
理由によってある
特許権の実施を請求する者があった場合には、
審議会の議を経て
特許庁長官においてこれを裁定する。
当事者間の協議が成立しない、また協議ができない場合には、
特許庁長官においてこれを裁定することができるというふうに
制度を設けたわけでございます。こうすることによりまして、結局取り消しとか、制限とか、収用とかいうことは必ずしも必要でなく、公益上必要がある場合には、ある一定の
特許発明の
内容の実施を認めるということによって、必要かつ十分である、かように考えたわけでございます。なお、従来は、そういうような公益上の
理由によって、
特許発明の
内容を使いますのは国だけでございましたが、今般は国以外にも普通の
事業会社にもそういう公益上必要な場合には、他人の
特許発明を実施ができるというふうにいたしたのでございます。
第八は、従来
特許権の
存続期間は
現行法と同様に、原則として
公告の日から十五年とするが、
出願日から二十年をこえることができないものとした。これは
特許出願がございますと、
特許庁で一応審査をいたします。審査の結果、
審査官が
特許を認めてよろしいと判断いたしました場合には、これを
公告いたします。
公告に対しまして、
一定期間、二カ月という期間に
異議申し立てがなければ、これが
権利になるわけでございます。ですから、
公告ということによりまして、一番最初に申しましたこの
発明内容が世に公表されるわけでございます。その
公告と同時に、いわゆる
権利につきましての仮保護の
効力が生ずるということに認められておるのでございます。その
特許権の
存続期間は、
日本におきましては十五年となっております。これは各国まちまちでございまして、十六年の国もあるあるいは十七年、十八年、各国の
制度よってその
存続期間は区々まちまちでございますし、また
起算点も、
出願日から計算する場合、
出願の
公告の目から計算する場合あるいはまた
権利として登録になった日から起算する場合そういうふうに分かれておりますが、
日本の場合には
出願公告の日から十五年という点は従来の
通りでございますが、今般の
改正はこの後段でございまして、
出願目から三十年をこえることができないものとしたという点であります。これは具体的な例を申しますと、
外国出願を例にとって申せば非常にはっきりするかと思いますが、
外国人の
出願がございまして、その
内容の審査の過程においてその
内容について照会をする、あるいは訂正を命ずる、そういう場合に
外国は遠隔でございますから、なかなかそれの回答がないというわけで、審査が非常に時間がおくれるわけでございます。そうしますと、今申しましたように、
出願公告の日から十五年ということになりますからして、もし
特許権になるということが確実な
発明の場合におきましては、
発明者あるいは
特許権者と申しましょうか、
発明者の方からいいますれば、
出願公告がおくれればおくれるほど、その日から将来に向って十五年ということになりますので、
権利の終期が先にずっと延びるわけでございます。そういう弊害がこれまでもございました。大体
発明といいますものは、ある
技術的な雰囲気と申しますか、ある時代の背景があって生まれるわけでありますからして、大体
出願日から何年というやり方でもよいわけでございますが、一応
出願公告から十五年という
制度をきめたといたしましても、
出願公告までに五年も六年もかかる、そういう場合にはその五年も六年もかかった
出願公告の日から先に、また十五年も
権利が続くということでは、一般の
産業あるいは
一般第三者を、
特許権によって非常に長い間制約するということになりますので、この間何らかの調整をどうしてもはかることが適当である、かように考えまして、
出願日から二十年をこえることはできないというふうにこれをかぶせたわけであります。
それから第九の
改正点は、
権利の
存続期間延長制度を廃止したことであります。この六ページに書いてございますが、
現行法では「
特許権ノ
存続期間ハ政令ノ定ムルトコロニヨリ三年以上十年以下ヲ
延長スルコトヲ得」となっているのでありますが、その延長が認められる要件といたしましては、
当該発明が重要なものである、あるいはその
発明によって相当な
利益を得ることができなかった、あるいは相当な
利益を得ることができなかったことについて正当な
理由があった、というようなことがその要件になっておりますが、実際の問題としまして、その相当な
利益を得ることができたかどうかという認定は、具体的には非常に困難な場合が多いわけでございます。また
発明が重要であればあるほど
第三者、
一般国民の見地から見ますれば、十五年という一定の期間経過したと同時に、それは終了することを
一般国民は期待しておるわけでございます。特に従来の経験に徴しましても、ある
権利がございまして、昭和十八年の三月一日に
公告になった、そういう
権利があったとしますと、これは昭和三十三年の二月一ぱいをもってその
権利が切れるわけでございますが、そうすると同業者ないしは
産業界におきましては、この
権利が切れることを前提としまして諸般の準備を進める場合がございますが、その場合におきまして、
権利満了の直前間近になりまして、これがまた三年とか五年とかずっと延びることになりますと、
第三者に不測の損害を与えることになるわけであります。こういうような点を考えまして、今回はこの
権利の
存続期間の延長
制度を廃止することにいたしました。なお
外国の立法例としましても、こういう
権利存続期間の延長
制度を設けておる国はございません。で、この第九は、今申しました点は先ほども申しました
一般国民的見地、
第三者の
利益を考慮した
改正と申していいかと存じます。
第十の
改正点は、
権利侵害に関する規定を新たに設けたことでございます。現行
特許法中には
権利侵害に関する規定はなく、一般法としての民法の規定が適用されているわけでありますが、財産権としましても、
特許権という性質から申しまして民法の規定だけでは十分でない、ということが従来痛感されて参りましたので、今般
特許法中に
権利侵害に関する規定を設けることにした次第でございます。この
内容について申しますれば、この六ページの後段の方に書いてございまするように、まず
権利侵害の場合につきましてのこの
行為について、差止請求権という
権利を
法律上明文をもって設けたわけであります。で
侵害行為の中止を請求する。そうしてまたその場合に、
侵害物の廃棄、
侵害行為に供した装置等の除却等をも請求することができるという
制度を、明文を設けたわけであります。次に損害額の推定、これは
特許権侵害の場合は、損害額の証明というものが非常に困難な場合が多いと思います。この今回の
改正案では、その損害額の推定につきましては、故意または過失によって
特許権侵害があった場合の損害賠償の請求につきましては、
侵害の
行為によって
侵害者が受けた
利益は、
権利者の側に生じた損害の額と推定する、こういう規定を設けました。それから軽過失による
侵害については、損害の賠償金をきめる場合に、軽過失であったという事実を十分しんしゃくすることができる、ということについて明文を設けました。これは
特許権の場合には
権利侵害になるかどうかということによって、従来でございまするとオール・オア・ナッシングと申しますか、非常に大きな金額が払われなければならないか、払わなくてもいいかというふうに、非常に大きく触れることになるのでございますが、
権利侵害は実際問題としまして非常な微妙な場合がございますので、従来の故意、過失というふうに、その重過失、軽過失の区別なく過失を一本にしてきめることは、工業所有権の
侵害の場合には適当でないと考えまして、こういうふうに軽過失の場合に、軽過失であったという事実をしんしゃくして損害額をきめることに
改正したわけでございます。
それから第十一の
改正点は
特許料の問題でございますが、現行
特許料の約二倍に値上げをしました。これは経済事情の変遷と申しますか、物価水準が高騰したその結果の
改正でございます。物価というものと
特許料金というものは、もちろん直接の関係はないわけでございますけれども、一般に物価水準が騰貴して参りますれば、それだけ
特許権の経済的使途というものも増大したと申していいわけであります。
特許料は、
特許権という特権について申せば特権料ということになります。この
特許料金を
改正する、その
改正するその程度でございますが、二十六年に実は
改正しました。今日までまだそう月日は経過していないわけでありますが、昭和九年—十一年の物価水準等と比べて勘案しますと、相当大幅な引き上げを必要とするわけでございますが、この物価水準
通りで参りますと、一
特許料の引き上げ額は三倍とかあるいは三倍以上というような金額になるわけでございますけれども、同時に
発明奨励、
発明が国の
産業に寄与しておるという事実等をいろいろ勘案しまして、むしろ二倍程度の
改正をきめる方が適当であると考えたわけでございます。
第十二が、無効審判請求についての除斥期間を大部分廃止した。これはわかりにくい表題でございますが、
現行法では
特許権の安定化という見地から、
特許の無効審判は、
権利設定の登録の日から五年を経過した後は請求することができない。すなわちかりに
権利に無効の原因がございましても、登録の日から五年という歳月が経過しました後は、もう無効審判を請求することができないということで、そういう
制度を設けております。これを除斥期間と称しております。この
理由は、いつまでも、
権利が、いつつぶされるかしれないというのでは不安である、不安定であるということで、
特許権の安定ということを考えまして、こういう除斥期間という
制度を設けたわけでございますけれども、同時に他面考えてみますると、その八ページの四行目から書いてございますように、こういう規定がございますと、これを悪用しまして、本来無効になるような
特許、例としまして、たとえば他人の
発明を盗んで
特許を取った、これはもちろんそういう
特許は無効になるべきものでございますが、そういうような場合において、
特許庁としましては、なかなかそれが盗まれた
発明であるというようなことは、発見することがむずかしいわけでございます。そういうような場合にこれをじっと五年間黙って持っておりまして、五年の経過と同時に
権利を振り回してかかるというような弊害もなかったわけではないわけであります。なおまた
特許権の尊重という意味から申しましても、いやしくも
権利に傷がある、無効になるような原因が内包されている
権利が、十五年間も
独占権として堂々濶歩するということでは、
第三者の見地から申しますれば、これは非常に迷惑千万な話でございます。ですから
権利者の見地から申しますれば、
現行法通りに除斥期間という
制度を設けまして、早く
特許権が安定化するという方が望ましいのは当然ではございますけれども、
一般第三者の見地ないしは同業者の見地から申しますれば、そういう無効の
理由があるような
権利は、これはいつになっても無効審判を請求することができる、これをつぶすことができるということでないと、ほんとうの真の意味における
特許権の尊重ということにはならないばかりでなく、かえって
第三者の
利益を大きく害する、そういうむしろ
第三者の
利益、
一般国民の見地という立場を強く考えまして、合同は除斥期間
制度を廃止することにしたわけでございます。
なお、ここに大部分廃止することにしたというのはどういう意味かと申しますと、一番最初に申しましたが、今後は
外国で頒布された
刊行物に記載されているような
発明、そういうような
発明に該当するものについては、
新規性がないとして
特許をしないことになったわけでありますが、こういうふうに
改正しました結果、
日本国内に入っています限りは
特許庁としましても知り得る状態にあるわけでございますが、ヨーロッパのある国のこういう文献に書いてあったということが、ずっと後日になってそれが発見されるような、そういうケースが多くあろうかと存じます。そういうような場合にはこれは
権利設定当時には、
日本国内としましては十分注意を加えましても、なおかつ知り得なかったという、そういう
理由になるわけでございまするので、そういう
外国において頒布された
刊行物に記載されているということを
理由にしましての無効審判の場合、この無効審判請求につきましてだけは、従来
通り五年という除斥期間を設けることにしまして、この
権利の安定化という要請に沿ったわけでございます。なおこの点につきましては、除斥期間という問題は、
外国の立法例中にもこの同様な例はないわけでございます。ただ、ドイツにおきましては、時除斥期間という
制度を設けまして、そうして一たん実施をしてみて、またこの
制度を廃止したといういきさつがございます。
次に第十三点としまして審判の審級を一審とした、これは「
現行法においては、
特許庁内における審判機構として審判及び抗告審判の二審級が設けられているが、
改正法案においてはこれを一審級とした。」いうまでもなく審判というのは一方では非常に厳格、慎重、正確を十分期するという要請がございますと同時に、他方迅速化ということの要請もあるわけでございます。今日までの長年の審判の二段階、二審級によりまする審判の運用の経験に徴しまして、この際むしろ
制度の
簡素化に重点を置いて考慮を加えたわけでございます。従来の二審級を一審級に今度は
改正することにいたした次第であります。
以上が
特許法案の
改正要綱について申し上げた次第でございますが、
特許法の施行
法案につきましては、きのうの
提案理由の説明の中にもかなり詳しく御説明申したことでございますし、また非常に
法律技術的な点でもございますので、これは省略したいと存じますが、ただ一、二を申しますれば、この本
法案の施行期日としましては、この新
法案の
内容の周知徹底を十分はかる必要と、政令、省令等の準備の時間等を考慮しまして、昭和三十五年の四月一日ということを施行期日に考えております。
なおまた旧法から新法への切りかえにつきましては、旧法の
権利は大体新法による
権利とみなすという
考え方をとったわけでございます。そうして
特許出願中というふうな係属の事件につきましては、新法施行後におきましても、なお旧法の例によるというような考えをとっているわけでございます。
それから次に、
実用新案法案と
意匠法案でございますが、これは大筋におきましては大体
特許法案と重複する部分が多いわけでございますので、
実用新案法案と
意匠法案についての特殊の点につきましてだけ申し上げてみたいと思います。
実用新案法案要綱というのがお手元にございますが、この
実用新案法案要綱の第一は、実用新案許可の対象を型から考案に
改正したという点でございます。これは従来は実用新案登録の対象は物品の形でありますとか、構造でありますとか、または組み合せの、そういう実用ある型ということになっているのでございますが、長年の運用の経験に徴しまして、やはり型というものと考案というものとを峻別することは、むずかしいと考えたわけであります。どういうふうな結果を生じて参ったかと申しますと、その二ページにございますように、従来は実用新案は型を対象とする、
特許は
発明というアイデアというものを対象とするということで、
特許と実用新案とを区別して参りましたが、実際Aという型とBという型との区別といいますか、違いを論ずる場合に、どうしてもその背後にあります
技術的効果に着目しなければならない。ですから型を考える場合には、どうしても
技術的効果ないしは作用に着目する必要があるということが、長年の運用の経験を通して明らかとなって参りましたことが第一の
理由であります。
もう一つの
改正の
理由は、二ページの六行目から書いてございますが、非常な不都合な面を生じて参りました。と申しますのは、同じものにつきまして
特許権と
実用新案権とが両立することになるわけでございます。そうなりますと、
発明者があるAならAという
発明をしまして、そうしてこれの
特許出願をいたすわけでございますが、Aというアイデアによりまして
第三者がAという型を考案する。こういう場合には、ただいま申し上げました型と、
技術思想としましての
発明とを区別して考えますれば、AはAという
発明につきましては
特許権になりますし、またAというものは型であるという
理由によって、これがまた
実用新案権になるわけでございます。そうなりますと、Aという
発明者、
特許権者としましてはその保護が十分でございませんので、どうしてもAという
発明者、
特許権者としましては、およそ考えられるA、Aというような型をみずから製造するつもりがなくても、そういう想定される型につきまして、実用新案の
出願を出しておく必要があるというわけで、そういう防衛の目的から出るところの実用新案の
出願というものが非常に数ふえたわけであります。そういう結果、
制度としましては、必ずしも有効適切な運用でないという結果になりまして、そういうような運用の経験を適しましての
理由から、今回は実用新案につきましても
権利の対象を型から考案に切りかえたわけでございます。
そうなりますと、二ページの最後から三ぺーにまたがって書いてございまするように、こうなれば
実用新案法は
特許法と質的に異ならないものになるではないか、そうなれば
実用新案法をむしろ廃止して
特許法一本にしてもよいのではないか、という意見が出てきたわけでございます。しかしながらこの点につきましていろいろ検討を加えました結果、やはり
特許法と
実用新案法とは並存する二本立にいくことが適当であるという結論に達しました。この
理由は、現在
実用新案法で対象となっておる程度のもの、そういう程度の低い考案が、
特許法一本にすることによりまして、それが
特許法の
範囲の中に入って参りますと、程度の低い考案に対しまして
特許権という強い
権利を認めることになる。これは
特許権というものの水準をそれだけ低下さすことになりますし、程度の低い
発明に、より強い保護を与えることは適当でないと考えられるわけであります。また実用新案というものは
日本の経済
産業構造の実情から申しまして、これは程度の低い実用的な考案というものは、やはりそれなりにこれまで効用を果して参ったわけでございまして、この
実用新案法というものをここに廃止することは、むしろ有害無益であると考えた次第でございます。結局
特許の
権利は十五年でございますが、
実用新案権は十年でございます。こういうふうに
権利の
存続期間が短いという反面、
出願につきましての手数料でありますとか、許可料でありますとか、こういうものを安くすることによっていわば簡易な考案、小
発明というものには小
発明に相応するような保護を認めていく、ということが適当であるという
理由で、
実用新案法を
改正の上存置することにいたしたわけでございます。
それから第二の
進歩性につきましては、先ほど
発明の
進歩性について申しました点と大体同趣旨でございますから、これを省略さしていただきたいと存じます。
次は第三の、「
特許出願と実用新案許可
出願との相互の間に先願、後顧の関係を審査することにした。」従来は先ほど申しましたように、
特許の対象は
発明という
技術思想である、実用新案の対象はその具体的な型であるということで、審査の序列もいわば二本立であったわけでございますが、先刻申しましたような
理由で、
実用新案法の対象の、考案という
技術士の効果、
技術的思想というものをやはり考える、そういうふうに
特許法と
実用新案法とはその対象において同質のものとなりましたので、従来と違って、先願、後願という関係も
特許出願、実用新案登録
出願、両方通じまして一つの序列の中においてこれを考えていくということになりました。従って従来のように同じアイデア、あるいはこれに基く型というものが一方で
特許権になり、また
第三者の方で
実用新案権をとるというふうな、並存両立するような関係は今度の先願、後顧の関係を一本でいくということによって、そういう弊害が是正されるわけでございます。
第四は
存続期間の問題でございますが、これは十年という点は従来
通りでございますが、ただその
起算点を従来は
権利の登録の日から十年となっておりましたのを、
出願公告の日から十年ということに変えました。これは先ほど申しました
特許制度の趣旨というものが、
技術の公表に対する代償であるという点でございます。すなわち
出願公告になったときから仮保護が生じる、そういう点で
権利の
存続期間を
公告の日から起算することを適当と考えたわけでございます。
実用新案法施行法案要綱につきましては
特許法の施行
法案と同趣旨でございますので、これは省略させていただきたいと存じます。
次に
意匠法案要綱につきまして簡単に申し上げてみたいと思います。
第一の意匠の
考案力につきましては、先ほど申しました
発明の
進歩性と大体同趣旨の考えでございますので、これは省略をいたしたいと思います。
第二の「販売、展示等の
行為を
新規性喪失の例外事由とした。」という点でございますが、意匠は考案すれば何でも意匠許可
出願をするというものでございませんで、実際上は販売あるいは展示、見本を配る、そういうことによりまして、売れ行きを打診してみて、初めて一般の需要に適合するようなものについて
権利をとろう、意匠登録の
出願をしようということになるのが普通でございます。しかしながら先ほど申しました
特許と同様に、意匠につきまして、意匠権の対象になります意匠考案というものは、
新規な意匠でなければいけないわけでございます。その
新規な意匠と申しますのは、
日本国内において公知または公用になっている、あるいは
刊行物に書いてあるというのは
新規でないという点も、大体
特許と同様でございます。で、考案しました場合に販売してみる、あるいは展示してみる、見本として頒布するという
行為を行いましてから後に意匠の
出願を出して参りましても、
新規かどうかという判断は
出願時を基準にして考えるわけでございますので、
出願時におきましては、もうすでに広く関係業界では知られている、すでに公知になっているというわけで、これは
新規性がないというわけで拒絶されるというのが従来の
法律でございました。こういうやり方では意匠というものの実情に合わない、
産業界の要請にこれはそぐわないということを考えまして、今般は意匠につきましては、意匠の許可
出願前に販売、展示、見本頒布というような
行為がございまして、そういう
行為によって当該意匠が公知になりましても、六カ月以内に
出願してくれば、この意匠はまだ
新規性を喪失しない、依然として
新規なものとして扱う、そういうふうに
改正いたしたわけでございます。
それから第三点は、意匠権の
存続期間を
出願の日から十五年としたことでございます。意匠権は従来は十年でございましたが、今般これを十五年に
改正しました。これは意匠と申しますと、着物の模様でございますとか、その他非常に流行を追って転々と変ります薄命の短かい意匠が一面ございますが、同時に他方におきまして、非常に長く続く意匠もあるわけでございまして、従来は十年でありましたが、
産業界の要望やらあるいは
外国の立法例なんかを考えましても、著作権に似たような場合もあり、あるいは商標権に似たような機能を発揮するような意匠の場合もございますので、そういう事情を考えまして、今度これを十五年と
改正したわけでございます。
これが
意匠法案の
改正の
内容の大綱でございます。
意匠法施行法案の要綱につきましては、さきほど申しました
特許法施行法案要綱とほとんど同趣旨でございますので、説明は省略したいと存じます。
以上たいへん雑な説明でございましたが、今回の
法律改正案の大綱について御説明申した次第でございます。
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