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説明員(
宮本一朗君) それでは
一覧表に基きまして、ごく簡単に御
説明申し上げます。
最初にお断わり申し上げておきます点は、ここにございますのは、きわめて簡単に未
批准の
障害になっております点を書いてあるのでございまして微細な点につきましては、まだそれぞれ議論を尽くさない点あるいは
資料に基いてはっきりしない点が多々あることでございます。
まず、
条約一般の性格について申し上げますならば、御
承知のように八十カ国という国情、民族、風習の違った国が集まっておりまして、しかも
公用語といたしましては英文と仏文になっております。従いましてこれの
言葉の上におきます
意味あるいはその
言葉の中に含まれました
解釈上の
意味の
関係につきましては、きわめて困難な点があることでございます。従いまして、
条約そのものの
意味を確定いたします
作業と、その
意味と
国内法との関連を確定いたします
作業とは非常に困難な点があることでございます。そういうふうな
前提のもとに、ただいまから申し上げる中心的な
批准の
障害ということの点をお聞き取り願いたいと存じます。
まず二ページから始めて参りますが、ここに掲げてありますのは、
労働時間の
関係を
最初にまとめております。これは前後十項ございます。で、この国際的な
全般的なことを申し上げますと、十項ございますうちで、二十以上の
批准国がございますのは第一
号条約、ただいま
官房長から例にとって
説明がありました第一
号条約だけでございまして、きわめて
各国におきまして低い
批准数しか持っておりません。特にいまだ発効しないというものが二件もございます。従いまして
労働時間の
関係から申しますならば、
ILO加盟国におきましてもきわめて
批准数の少い
条約の部類になろうかと思います。
まず第一に、第一
号条約でございますが、ただいま申し上げましたように、一週四十八時間、一日八時間、この
原則は
わが国の
法律においても認められておることでございますが、先ほど
官房長から御指摘申し上げましたように、わずかな時間
外労働、それから
労働時間の
延長ということについての
基準法の立て方と異なっておると、こういうことでございます。
それからその次に、商業及び事務所におきます
労働時間の
規制、これは工業的な
企業と相並びまして、やはり一日八時間、一週四十八時間の
原則でございます。この
原則におきましてはやはり
労働基準法の定める
通りでございますが、
工業的企業におきます時間
条約と同じ難点におきまして、
わが国の
法律上
批准でき得ないということになるわけでございます。
それから次の三十一号、これは
あとの方で四十六
号条約に吸収されておりますので、そのときに申し上げたいと思います。
それから以下約七つございますが、これは一般的な
労働時間の
規制ではございませんで、各
産業別におきますそれぞれの時間を
規制したものでございます。
まず
自動式板ガラス工場における時間の
制限に関する
条約でございますが、この
条約におきましては一週間を
平均して四十二時間ということに限定されておるわけでございますが、
日本の
労働基準法におきましては
産業全般にひっかかっておるものでございまして、各
産業別にそれぞれの
条件を緩和して事実上はやられておることではございますが、特に
法律をもって特殊な時間
制限をやっておるという実情がございませんので、そういう
意味から申しまして、
原則的に
産業別で時間を
制限をするというような
条約は
現行の
労働基準法のもとにおいては
批准でき得ないという
障害があるわけでございます。
それから炭鉱におきましても同様でございまして、これは一日の在坑時間を七時間四十五分ということになっておりますが、これがやはり
労働基準法の
関係で八時間、そこのところのわずか十五分というふうなことと、それから休日
労働の禁止というふうな非常に厳しいことをやっておるわけでございますが、この点は
現行の
法律に一致しない、かようなことでございます。
それから三ページに参りまして、四十七
号条約、これは御
承知のように一週四十時間ということを規定しておるわけでございまして、これは第一
号条約からさらに一歩進めまして、一週四十時間制ということでございます。これは先ほど申し上げました
わが国の
労働基準法の
原則から申しまして、とうてい
批准することができないかと思われます。なお、この四十時間
条約を
批准しておる国は
世界でわずか四ヵ国でございます。
それから
ガラスびん、それから
公共事業、
繊維工場、
路面運送、これだけの各
産業別の
労働時間につきましてそれぞれの時間
制限をやっております。あるいは四十二時間、あるいは四十時間といったようなことを持ち込んでおりますが、結局先ほど申し上げますように、
労働基準法の一週四十八時間、一日八時間、しかも
オーバータイムを厳格に
規制するというふうな
原則から参りまして、
批准でき得ない
状況でございます。従いまして
原則的な面においては、
趣旨は
わが国の
法律においても実現されておるわけでございますが、そういった
産業別というふうな
観点、あるいは
超過労働というふうな
観点からの制約があるということでございます。
それから四ページに参りまして、休日及び
休暇の
条約が三つございます。で、その三つの
条約も、共通して申し上げられますことは、
原則的には、たとえば四週を通じて四日というふうな、一週間が一日、四週を通じて四日というふうな
原則的なことは、
労働基準法においても認めておるところでございますが、それの四週間を通じて四日と申します場合におきましても、計算のいたし方なり、あるいは、たとえば
管理監督の職務にありますものの休日
休暇の
除外例と申しますか、特例と申しますか、そういったような点においてわずかにひっかかる
現行の
労働基準法の立て方になっておるわけでございます。従いまして、下に簡単に書いておきましたような
理由につきまして現在まで
批准に至らないということでございます。
それから、その次に
賃金関係の
法律が五つございます。この
最初の
最低賃金決定制度の創設に関する
条約、これは現在
政府といたしまして
国会に御審議をお願いしております
法律が通過いたしました暁には、この
条約の
趣旨を履行できるのではないかと考えております。従いまして
法案が成立いたしました暁には、この
条約は
批准の
手続をとり得るものと、かようにわれわれは考えております。
それから
あとに、
公契約における
労働条項、
公契約におきます
条約でございますが、これは現在
日本にはかような
法律がございません。で、こういうふうな立て方で、特殊な
産業部門の
賃金関係を
個々にやっていくかどうかというふうな
原則的なことにつきましてさらに根本的な問題はございますが、現在
わが国にはかような
法律はございませんので、この
条約の
趣旨を満たすということはできないわけでございます。
それから、
賃金の
保護に関する
条約でございますが、これも
条約の
趣旨と
労働基準法の
趣旨とはほとんど、先ほど
官房長が比喩的に申し上げましたが、これはまあ九九%
程度は実現できるのではないかとわれわれは考えておりますが、たとえば支払いの面におきます
現物給与の面でございますとか、それから
工場売店の
利用強制、かようなものをやはり
法律的な
制度として
わが国が持たなければならないというふうに
条約の
趣旨を理解いたしますならば、その点におきまして多少
欠陥があることになるわけでございます。従いまして、これもさような
意味から現在まで
批准に至っていないということでございます。
それから農業におきます
最低賃金制度の
決定に関する
条約、これは先ほど申し上げました一般的な
産業におきます
最低賃金決定制度ができますならば、これも現在
国会に提出いたしております
法案の中に含まれると
解釈いたされますので、これもあわせて
批准の
手続がとれるのではないか、かように考えております。
それからその次の百
号条約、
同一価値の
労働に対する男女の同一報酬に関する
条約でございますが、これも
原則といたしましては、
労働基準法に盛られております内容で差しつかえないとわれわれは考えております。ただ、この
同一価値を評定いたしますための特殊な
制度を法制的な
意味合いにおきまして持たなければならぬというふうな
解釈の
前提に立ちますならば、その点が
欠陥になるということでございます。この点は、なお、われわれとしては
検討を進めておるわけでございますが、現状におきましてはまだ
批准いたしておらない
状況でございます。
それからその次に、安全衛生
関係に五つばかりございます。これもやはり大体のところ
基準法の安全衛生規則、本法及び安全衛生規則に盛られております内容で大筋のところは実現されておるわけでございますが、それぞれの業態の中におきまして、わずかに、たとえば特定のものの禁止でございますとか、あるいは特定の物件に対する取扱いの違い、こういうような点で、現在の規定が積極的に規定されていないというふうな
状況でございまして、わずかな点でこれまた
批准でき得ない
状況になっておるわけでございます。
それから婦人
関係の
条約といたしましてやはり五つばかりございますが、この中で三つは
あとからできました
条約に吸収されておりまして、工業に使用される婦人の夜業に関する
条約と母性
保護に関する
条約が二つ残っております。これはやはり深夜業の禁止時間の計算、あるいはその時間の取り方が
わが国の
法律と立て方を異にしておるということが大きな未
批准の
理由でございます。それから母性
保護に関します
条約につきましては、産後における就業禁止
期間、育児時間、こういうものが具体的にかなり幅広く取られておるというようなことから、
わが国の
労働基準法から参りまして、その点を具備することができていないという
状況でございます。
それから児童年少者
関係の
条約でございますが、これが約十件ばかりございます。この中で、年少者の夜業に関する
条約、それから年令に関する
条約が
あとからできた
条約に吸収されておりまして、第五十九号の工業に使用し得る児童の最低年令の
条約でございますが、これも
原則といたしましての年令基準の取り方は、
わが国の
基準法で満足させられておるわけでございますが、危険有害業務に関する最低年令につきまして、多少その
部分的取扱いが異なっておると、かようなことでございます。
それから非工業的な労務におきます児童の最低年令、これにつきましては軽易
労働の取扱い方が
わが国の
法律と相異なっている、かようなところでございます。それから年少者の健康検査、これも年令の取り方によりまして多少範囲が違っておる、かようなことでございます。それから非工業的な面におきます年少者の健康検査、これもやはり年令の取り方によって違ってきておるということでございます。それから年少者の夜業に関する点、これも先ほどの女子と同じく深夜業の時間の取り方に違いがございまして、時間の取り方、区切り方、従って、就寝時間その他との関連におきます時間の長さ、これが違ってきておるわけでございます。
第九十号の工業に使用される年少者の夜業に関する
条約も同様の
趣旨のものでございます。
それから労使
関係のものといたしまして二つ掲げてございます。これは結社の自由及び団結権の擁護に関する
条約で、一般工業的
産業労働者と農業
労働者のものでございます。十一号と八十七号、これの内容につきましては、ただいま
労働問題懇談会その他のあたりにおいて論議がなされておりますので、その点はよく御
承知のことと存じます。
それから職業安定
関係におきましての
条約は、これは
あとの九十六号に吸収されておりますが、これは
批准いたしておりますので問題はございません。
それから、そのほかに社会保障
関係といたしまして、災害補償それから農業における
労働者の補償という
条約がございます。この
条約は
労働基準法の建前から申し上げますと、補償するということあるいは補償の内容という点におきましては、
原則的にはこれは満たしているわけでございますが、支払い
方法のやり方、これについて具体的にやはり
条約が違った立て方をいたしております。従いまして、実質的においてはさほどの相違はございませんが、そういう立て方の面から現在の
法律では工合が悪い、かようになっておるわけでございます。
それからその次の第四十四号の失業者に対する給付または手当の
条約でございますが、現在の
わが国の失業保険
制度のワク内に入って参ります
部分においては、大体においては大筋のところはこれでいけると思いますが、ただ一部的な失業者に対する給付という点につきまして特にいろいろ規定をいたしておりますが、その規定の
解釈と
わが国の現在の取扱いにつきまして、多少の疑義が残っているということでございます。
それから最後の統計
関係の
条約といたしましては、これはこの統計の
条約の要求しております項目の細部の点につきまして、
わが国が現在行なっております統計の項目と多少概念の違いがございますので、そういった点で厳密に
解釈いたしました場合には、これもやはり
条約の
条件を満たしていないのではないかということでございます。
大体ここに掲げておりますものについて簡単に御
説明申し上げた次第でございます。