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1959-03-20 第31回国会 参議院 社会労働委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十四年三月二十日(金曜日)    午前十時四十四分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     久保  等君    理事            勝俣  稔君            柴田  栄君            木下 友敬君    委員            有馬 英二君            草葉 隆圓君            紅露 みつ君            斎藤  昇君            谷口弥三郎君            西田 信一君            横山 フク君            阿具根 登君            片岡 文重君            藤田藤太郎君            光村 甚助君            竹中 恒夫君   国務大臣    労 働 大 臣 倉石 忠雄君   政府委員    労働政務次官  生田 宏一君    労働省労働基準    局長      堀  秀夫君   事務局側    常任委員会専門    員       増本 甲吉君   公述人    全日本造船労働    組合中央執行委    員長      柳沢 錬造君    日本経営者団体    連盟専務理事  早川  勝君    明治大学教授  松岡 三郎君    日本経済新聞論    説委員     友光 正昭君    労働科学研究所    員       藤本  武君    国民経済研究協    会理事長    稲葉 秀三君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○最低賃金法案内閣提出、衆議院送  付)   —————————————
  2. 久保等

    委員長久保等君) ただいまから社会労働委員会公聴会を開会いたします。  本日は最低賃金法案審査のため公聴会を開き、公述人各位の御出席を願い、御意見を拝聴することとなっております。  この際、委員長といたしまして公述人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  公述人の方々には、お忙しいところ出席下さいまして、まことにありがとう存じました。  当委員会においては、目下本法案審査中でございますが、その参考に資するため、各位の御出席を願いまして御意見を拝聴いたすこととなりました。その資料等はあらかじめお手元に御送付申し上げておきました通りでございますが、時間の関係もございますので、重点的に御意見発表をお願いいたしまして、次に、各委員質疑にお答え願いたいと存じます。なお、発表の時間は一人二十分程度でお願いいたしたいと存じます。御了承をお願いいたします。  次に、委員各位にお諮りいたします。議事の進行上、午前中に御出席願っております公述人全部の意見発表が済んでから御質疑を願うことといたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 久保等

    委員長久保等君) 御異議ないと認めます。  それでは、公述人から順次御意見発表をお願いいたします。  最初に、全日本造船労働組合中央執行委員長の柳沢錬造君にお願いいたします。
  4. 柳沢錬造

    公述人(柳沢錬造君) まず最初に、最低賃金法国会で審議されておりますことに対して、労働者の一人として先生方に深く感謝申し上げたいと思います。それと同時に、私たち労働者のための最低賃金法というものが一日も早く成立することを心から望んでおります。  では、現在国会で審議されております最低賃金法について見解を申し述べますが、結論としては、政府案に対して反対でありまして、社会党の修正案というものを支持したいと思います。具体的には次の数点をあげて、これから申し述べてみたいと思いますが、まず第一には、最低賃金法というものは労働者保護立法であるということを明確にすべきであると考えます。戦後、労働基準法制定されまして、そこにはいろいろの労働条件が保障されておりますが、その中で最も重要なのは最低賃金であります。それが、労働基準法制定以来十余年を過ぎるにいまだ実現を見なかったのが、ここにやっと誕生しようとしておるのでありますが、そのよりどころというものはあくまでも労働基準法であり、その第一条の「労働条件は、労働者人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」であり、これこそがこの最低賃金法基本理念であるというふうに考えるものでございます。すなわちいかなる使用者といえども労働者人間として尊重し、人間尊厳というものを侵してはならない。人間らしい生活のできるようにすることで、過去にありましたような企業採算面からだけ見て賃金をきめていく。あるいは企業にとっては機械も人間も同じなんだ。そういうふうな考え方というものは許されなくなっているんだ。こういうふうに考えるものでございます。  さらに、労働立法一つとして、戦後生まれました労働組合法を見てみたいと思いますが、この法律によって側側の企業にとっては好ましくない状態も発生したと思いますが、わが国全体というものをながめたときに、近代的な労使関係の確立と、国の民主化のために非常に大きな役割を果しているということは、何人も否定し得ないところであると思います。しかもこの労働組合法では、労働者が自主的に何人にも干渉されずに労働組合を結成し、労働者地位向上に資してもよいと認められているのでありますが、それにもかかわらず、制定後十年を過ぎた現在でも私たち組織労働者が六百八十万というのに対して、約一千万近い未組織労働者というものが残されているということでございます。このことは、わが国労働者というものが、使用者に対してあらゆる面から従属した形に置かれていることを物語っているものである。それから見ましても、この最低賃金法というものが相当強く労働者保護立法であるということを制定の中に織り込んでいくことが必要であり、また、それがわが国産業復興に大きく寄与するのであるということを御理解いただけるのでないかと思っております。  第二点としましては、業者間協定を排除して、賃金労使対等立場できめるという、国際的にも国内的にも確立している基本原則というものを保持すべきであるというふうに考えるものであります。このことは、労働基準法でも、第二条で「労働条件は、労働者使用者が、対等立場において決定すべきものである。」というふうに明確に規定されておりまして、きわめて重要な点だと思います。しかるに、政府案を見てみますと、使用者のみが集まって協定を作る。使用者のみの意思によって申請されていく。そして最低賃金としてきめられていく。しかも、他の使用者からは異議申請ができるようになっているにもかかわらず、労働者側よりは、申請もできなければ異議の申し立てもできない。ただ一つ最低賃金審議会において、申請されたものについてのみ労働者側委員が発言する機会が与えられているにすぎません。このことは、全く一方的な手続であり、これこそ賃金に対する基本原則をくつがえすものでないかというふうに考えるものでございます。なお、昨年の十二月末現在での労働省調査を見ましても、過去二年有余の間に業者間協定が八十件、その対象事業所が五千九百四十八、対象労働者が五万六千九百人で、そこで協定されておる最低賃金はおおむね一日百六十円から百八十円の間であるということが発表されておりますが、この数字というものは、全体的にはきわめて微々たるものであり、それよりも重要なことは、このような業者間協定がどのような動機から作られているかということでございます。現在のような失業者の多いときでも、あまりにも労働条件が劣悪で求人をしても人が集まらないとか、最低賃金がないと輸出先の国から締め出されるとか、要するに、労働者人たるに値する生活ができるようにして上げたいということよりも、協定することによって使用者側がより多くの利益を受けるというところから出発しているというふうに感ずるのでございます。もし、真に労働者社会的、経済的地位向上というものを認め、人間尊厳を理解するほどに使用者考え方というものが進んでいますならば、現在のわが国に行われているようなストライキというものは、その大部分がなくなるものであるということを深く確信いたしております。  次に第三点でございますが、最低賃金決定方式でありますが、全産業一律方式と、業種別職種別地域別の両方式を採用すべきであるというふうに考えるものでございます。諸外国の例を見ましても、最低賃金のきめ方は千差万別であって、わが国にはわが国情に沿った方式があってもそれは差しつかえないというふうに考えます。ただ、わが国産業構造が複雑だから、あるいは大企業中小企業賃金格差が拡大しているからということで全産業一律方式がよくないという考え方は、当らないというふうに思うものでございます。といいますのは、中小企業の大部分労働組合もできておりませんし、最低賃金制も実施されておりません。ですから、諸外国のように、単に規模的に中小企業であるというだけでなくて、低賃金労働者を自由に使えるそのために大企業の下請的な中小企業、あるいはそのまた下請的な小企業が次々と発生していくところにわが国産業構造というものを必要以上に複雑にしているのじゃないかと思います。この際、このような中小企業過当競争というものを防止するためにも、また、局部的に、地域的に最低賃金をきめた場合に、この中小企業の公正な発展というものを阻害させていきますので、そういうことを防ぐためにも全産業一律の方式が必要になってくるのであります。そのことは、最近の学卒者初任給というものが全国的に平均化する傾向になってきたことを見てもおわかりになると思います。ともかく最低賃金決定方式は全産業一律と業種別職種別地域別と、最低賃金審議会でできるところからすみやかに決定していくというその方向が一番いいのじゃないかと考えております。  第四点には、最低賃金審議会を単なる諮問機関でなくて、権限をもっと強化すべきであるというふうに考えております。政府案では、最低賃金審議会は設置されるようになっておりますが、単なる諮問機関であって、労働大臣または都道府県労働基準局長諮問をしない限りは、最低賃金審議会からは何らの建議もできないのであります。このことは、現在の労働基準法でも第三十条では「賃金審議会は、必要であると認める場合においては、賃金に関する事項について行政官庁に建議することができる。」となっているものから見ても、はるかに後退しているものだというふうに考えております。三者構成による最低賃金審議会というものを、中央地方に設置し、この審議会労使委員対等立場最低賃金について話し合い、この審議会できめられたものを、行政官庁は尊重して、最低賃金として実施していくようになることが最も望ましい方式であるというふうに考えるのでございます。この政府案のような最低賃金法を世界の国々が知った場合に、わが国民主化というものは疑われ、国際的な権威というものが失墜することは明らかだというふうに思考いたしているものでございます。  最後に付言いたしておきたいことは、最近岸首相を初め、よく対決という言葉が使われておりますが、対決政治というものは議会政治の否認ではないかと考えております。もっと道義を基盤として何が正しいかで話し合い、戦後、労働組合法労働基準法と国際的にもりっぱな労働法を生み出したこの国会が、この最低賃金法についても前の二つの法律にまさるとも劣らないりっぱなものにしていただきたい。そして現在の私たち労働者のみならず、次の世代の人々も、ああ、あのときの三十一国会でりっぱな最低賃金法というものを制定してくれたといって感謝されるようになるとともに、このことがわが国がアジアの国々の信頼というものを増し、さらに国連の一員として国際社会の中で正しく進んでいくために最も必要なことであるというふうに確信いたしまして、そのようなりっぱな最低賃金法になることをお祈りいたしまして、私の見解を終りたいと思います。
  5. 久保等

    委員長久保等君) ありがとうございました。   —————————————
  6. 久保等

    委員長久保等君) 次に、日本経営者団体連盟専務理事早川勝者にお願いいたします。
  7. 早川勝

    公述人早川勝君) 私は意見を申し上げる前に、私のこの最低賃金法に対しまするところの立場と申しますか、そういったものがここ数年間にどういうふうになってきたかということを一言申し上げたいと存じます。  実は昭和二十何年でございましたか、初めてこの問題が取り上げられまして、中央賃金審議会が設置されまして、私はその第一回から二、三回委員をいたしました。そのときから最低賃金制度につきましては、時期尚早であるという考えを持っておりました。その根拠は、実は当時大へんなインフレーションの時期でございました。インフレーションの中では最低賃金制度を作ってみても、それが置き去りになってしまう、ついていけない、全く無意味であるというふうに思いました。その後、経済情勢が変化いたしまして、賃金の三原則とか、ドッジ・ラインのために変化いたしまして、デフレに突入いたしました。デフレーションのときには、やはり最低賃金というかんぬきをもって守っても、物価なり、賃金の下落は押えられない、押しとどめられないという意味でこれまた効果がないと思いました。従って、最低賃金インフレーションデフレーション進行の間にはこれは意味がない、あるいは効果がないと、こう思いました。また、中小企業の方面にこの最低賃金制度が至大の関係を持つわけでございまするが、日本産業構造が特別の仕組みになっておりまして、それは事実でございまするが、従って、中小企業についてのほんとう施策ができ上らないのに、こういうものを軽々に制度として設置いたしますならば、それはいわゆる角をためて牛を殺すということになるであろう、従って、中小企業のための諸施策が全き状態になるまではやはりこれは時期尚早であると思いました。もとよりこの最低賃金というそのことにつきまして、及び完全雇用ということにつきましても、これはすべての労働者の願いでありますのみならず、また、近代国家としてもこれは究極の理想であるということは私も是認いたします。しかし、それを制度として具体化するには、お星様を望むような遠い先のことばかり言っておっては具体化いたしません。実際の制度として、これを社会の中に実現させることが実業家たる者立場であると思います。従って、実際的にはそれがどうであるかということを考えますると、結論としては、私は時期尚早である、従って、最低賃金制度を設けることについては反対であるという立場を続けて参りました。しかし、両三年前からいろいろと社会の実際が変って参りまして、また、地方を回りましても、中小企業経営者の中には、やはりわれわれは何も好きこのんで低い賃金を払っているのではないのだ、できれば人並みと言わぬまでも、ますころ合いの賃金を払いたいのだ、しかし、それには払えるような中小企業実態をこしらえてもらいたいのだ、また、自分たちも作るからということでございます。たまたま一昨年の春ごろ労働問題懇談会の中から、この業者間協定というものが推奨すべき一つ最低賃金への足がかりであるというふうに取り上げられました。私はその当時、やはり委員をいたしておりましたが、この問題によって中小企業経営者が、とにもかくにも自分のところに働いている従業員との関係、その関係を近代化しようという考えになってきたということは一つの進歩であると、この基盤の上に立って中小企業も成り立ち、そして最低賃金への進み方をするということは新しい進み方である、こういうふうに私ども考えまして、これを取り上げることについて賛成したのであります。従って、私ども考え方は、最低賃金そのものについてはもとより反対するものではない、最低賃金制度というものを実現するためには非常に実情考えていかねばならない、そしてその制度の適用を受ける者がそれをある程度喜んで、あるいはある程度それによって一つの新しい前進を示そうという空気をうまくとらえて、それを発展さしていくのが私は一つ行き方でないかというふうに思うのであります。従って、一昨年の夏以来、諸政党におかれましても、この問題を正式にお取り上げになり、また、中央賃金審議会があらためて設定され、そしていよいよ国会においてこの問題をお取り上げいただいておりますることについては敬意を払うものであります。  さて、従って本日お尋ねを受けておりますところの最低賃金法案に関する意見でございまするが、これは私は、ただいま政府から提出になっておりまするところの法案に賛成の意見を持っております。その根本的な理由は、先ほど来申し上げましたように、問題点中小企業の面に多い、ほとんどがそうである。その中小企業の特徴から考えまして、一挙に、また機械的な、あるいはむちゃくちゃなと申しては失礼ですが、理想に走り過ぎるところのものをするよりも、実情で育っていくものを育てていく、こういう立場が私は最も望ましいことである。それを具体的に申しますと、この業者間協定に基くところの最賃制をまず取り上げて、それからここに法案にあげられておりますその他の三つの方式を兼ねて進めていくということが最も実際的であると考えるわけでございます。  それでこの問題につきまして、この業者間協定そのものにつきましていろいろの意見が出ていることは事実であります。しかし、私はそういう批判とか、いろいろな意見にもかかわらず、この業者間協定基礎とするやり方がまず手始めとして行われることがいいと思います事情をこれから申し上げてみたいと思います。その第一は、一律式でいくという行き方もあるでございましょう、それも一つ考え方であることとは思います。しかし、一律式で参りますると、現在の経済界中小企業実情から申しましてある線を引きますると——まあこれがむちゃくちゃに低い線でございますれば、それは引いて引けないことはございませんが、全く無意味でございましょう。さればといってよく言われておりまするところの、月額にして六千円だとか、八千円だとかいう線を一律に引きますると、そのために専業をいたしておりまする者が非常な影響を受けまして、その事業そのものが成り立たなくなりましたり、また、事業に従事している者が職を失うという状態に追い込まれることは、これは明らかでございます。相当の数になるであろうと思います。また、外国の例などを見ましても一律一体というのではございませんでして、やはりある職業とか、ある職業部分について、あるいは特別の事情のあるものについて、この最低賃金の法制を持っておる国も多々あるわけでございます。従って、一律でなければならぬというふうにも思いませんのです。また、この決定の仕方につきまして、業者間協定というものについては、使用者側が一方的にきめておるので、最賃制と言えないのではないかという意見もあることはありまするが、しかし、そういう根拠でございまするならば、実は労働協約によりまするものといい、この業者間協定によりますものといい、それがそのままが最低賃金になるのではなくて、そういうふうにして算出され、計算され、きまったものを、これを適当な手続、すなわち審議会によって、審議会意見を経て行政機関がそれをきめるという仕組みになっておるわけでございます。それで、その審議会には労使が同数で、対等条件でこれに発言をするということになっておりまするので、そこまで算出する算出の方法、算出基礎においては、業者間においてこれを取り扱うわけでございまするけれども、これを制度化する場合には、労使対等立場で参画しておるわけでございます。従って、これは一方的にきめたものとは申せないと思います。また、この政府案、すなわち業者間協定によりますると、何だか一方的に押さえつけられて非常に不安定だと言わぬばかりの印象があるかもわかりませんけれども、実はこれはそういう手続を経まして、そして、行政機関においてこれを決定しました以上は、任意に変更できないのでございます。そして、またほんとうにこれが必要があるというふうに判断されました場合には、改正をするという勧告も行政機関からなされるわけでございます。従って、計算をします、金額をはじき出すまでのところにつきましては、業者間の協定でいたしますにしても、もはやそれが最低賃金として制度化された場合には、任意に引き下げられるというふうなことはないわけでございます。ましてこの実情を見まするに、この業者間協定が一昨年の春ごろから取り上げられまして、漸次しり上りに各地でそれがふえて参りました。今も、前公述人からお話のありましたように、しり上りにふえてきております。そして、そのうちの多くは、現行の賃金の水準よりも結論として高くなっておるというふうな状態でございまするので、これによって労働者利益はむしろ増進しておるというふうに考えるわけでございます。  一体審議会というものが、それでは権限が弱くて、せっかく労使対等でそこへ入っておっても、単純な諮問機関ではだめではないかという意見もあるようでございまするけれども、それはその決定される内容と、それからそれを尊重するかせぬか、その当該責任機関がどういう態度をとるかということでございまして、たとえば、今回提出になっておりますこの法案は、中央賃金審議会という審議会結論を出しまして、その結論政府答申しまして、政府がそれを尊重してそのまま法案化したのでございます。この態度審議会意見を尊重されたものと思います。また、内容も、使用者側全員と、労働者の一部と、公益側全員が賛成してこしらえ上げられました意見、多数による妥当と思われる実際的な答申をしたわけであります。その答申を尊重することこそ民主的行き方だと思うのでございます。こういうふうに事実上されまするならば、ここにこの法律に書かれておりまする中央なり地方に設置される審議会もその機能を大いに果すことだろうと私は考えます。本来最低賃金制度は、労働組合というものの組織が十分になりまして、そうして使用者側との間に賃金に関する協約が国全体に行き届きますならば、もはや国としてのあるいは法律としての最低賃金制度なんかは要らぬものだと思います。その実例はスエーデンに見るのでございます。スエーデンは非常に社会保障も、また、労使体制も整備しておる国のように存じておりまするが、この国には、スエーデン使用者団体と、スエーデン労働組合との間に賃金協約が行き届いておりまして、ここの国には、最低賃金といった法律はないのでございます。従ってまた、ここの国はILO条約第二十六号を批准もしていないのであります。しかし、その実態は、すでに今申し上げました通りであります。で、労働組合組織が行き届いてなかったり、不十分でありましたり、あるいはそういう労使協約協定がどうしても及ばない場合、救済措置としてこういう制度が要るわけでございます。で、日本では、事実こういう制度が現状においては要ると思います。それは要りますが、ただ単に機械的にこれを観念だけで設定するということになりましては、先ほど申し上げましたように、企業そのものの存立を危うくするという実態がございます。で、私はこの企業をあずかっているというものの立場というものは、ただ単に、自分の利得とか金をもうけるとかいうだけではなくて、やはりその生産力増強でございますれば、生産力というものによって国家社会に貢献しているという立場だと思います。また、その立場は、単に自分一個だけではなくて、株主にも、そうして大ぜいの従業員にも非常に関係の深い立場を持っておるのが経営者と思うのでございます。その経営者として、ほんとう自分たちがこれによって労働者生活も見ていこうと、そうして自分たちもこれによって不公正な競争はしないといういわゆる労使関係なり、企業の近代化を考えていくことにだんだんとなってきておりまするこの中小企業実情を御認識下さいまして、この実情の上に立って、その実情を、範囲を広げるような方向に一つ御裁量願いたいと思います。  私の意見を終ります。
  8. 久保等

    委員長久保等君) ありがとうございました。   —————————————
  9. 久保等

    委員長久保等君) 次に、明治大学教授松岡三郎君にお願いいたします。
  10. 松岡三郎

    公述人(松岡三郎君) 私は法律家の立場で、今問題になっております政府案を検討してみたいと思います。私はこの問題については、政府のいろいろな委員をしておりませんし、それからまた、経営者や組合の見解を直接に聞いたこともございません。純粋な法律家の立場意見を述べてみたいと思います。ただ私、そういう立場から申し上げますと、この法律案は、非常にまあ世にも不思議な法律案だという印象を受けるのです。なぜかといいますと、最低賃金法は、労働者生活を保障するための法律でありますから、労働者がしのぎをけずって要求する形でかち取られたものなのです。しかるに今出されておる最低賃金法案という名前の法律案に対して、今、早川さんも言われましたが、とにかく経営者団体は賛成、労働者団体は反対、しかもただ反対だけじゃありません。総評の一部の人たちはストライキをしても反対というような形のものなのです。で、なぜそういうことになるか。これは諸外国の例でありますと、労働者は全面的に賛成、経営者は一部反対、しかしやむを得ず法律案を通すという形のものが、これが大体の手続面に現われる姿であります。にもかかわらず、こういう労働者が皆が反対しておるというのに、これが押し切られるということは、なぜだろうかというように私は第三者として非常な疑問を持ってくるのです。この点について、当局者の人たちのいろいろな考え方を聞いてみますと非常に純粋です。また、それだけではありません。この法律案ができるまでには、多くの人の知識あるいは肉体的なエネルギーが投下されておるのであります。この点について、ここまでできたことに対しては、私は非常な敬意を表したいのであります。しかし、この法律を議論する場合には、単なるこの法律をいかに解釈するかということが問題ではなくて、この法律案がこの現代に適用された場合に、どういう実害が生ずるかということが一番大切であります。あるいはどういうプラスになるかということが大切でありますが、この実害というものを取り除かなければ、この法律案にとうてい賛成する気がしないのです。もっとも、政府当局者がこの法案を出される提案理由についてはいろいろ聞きました。この問題についてはまた機会があればお聞きしたいと思いますが、積極的な理由、消極的な理由が二つあると思いますが、積極的な理由は、業者間協定を出したのは、今までの事例で、業者間協定労働者賃金を一割ないし二割引き上げた。だから、この点については労働者のためのものだ。多くの労働者がこれに反対しておるのは知らないから、実際は業者間協定によって労働者利益を受けておるのだというように説得をしようとしております。私、この点について、確かにこの問題について、一割あるいは二割あるいは一割五分というような数字の点についても、もっと科学的に検討してもらいたいのでありますが、ここで私議論したいのは、この業者間協定そのもののために一割から二割上ったのであろうかということなのです。もちろん業者間協定のために上ったのです。しかし、業者間協定が結ばれたむしろ背後の力がこういうものを賃上げを成功させたのではないかという疑問を持っております。この点について、各業者間協定に私の知っておる限りの情報を集めてみましたが、経営者の気持を率直に申し上げますと、業者間協定には非常な労働基準局あたりからの圧力があった。この点は圧力だけではありません。サービスもあったということです。どういうサービスかと言いますと、業者間協定を結ぶなら、これは新しいりっぱな労働力ができて能事の上る基礎になる。それからまた、請負親会社に対してたたき売りを防ぐというような場合に、親会社に対して話をつける。ある所では、さらにこれに賛成してくれ、その場合には金融方面を考えてやろう、これは非常にその真相ははっきりしませんが、そういうことも聞きました。今はどこへ行っても労働基準法違反だらけですから、中小企業が特にその基準法違反の秘密を持っておる。だからこれをやらないと、その基準法違反を摘発するぞとは言いません、とは言いませんが、中小企業者たちは、そういうような受け取り方をする。ですからこの場合に賃上げが成功したのは、今まで非常に賃金を搾取していたからか、もしくは今のような労働基準局のサービスのために支払いができるようになったためだというように私は受け取っております。ですから、業者間協定のためではなくて、労働基準当局の事実上の指導あっせんというものがこういうものを効果あらしめたので、業者間協定のために賃上げが確立したというのは、これは私は形式論か三百代言じゃないかという気がするのです。この点については、今私の意見を申し上げる前提として、むしろそういう印象を申し上げておきたいと思います。ですから、言ってみれば、業者間協定が大きな役割を果したのは労働基準当局のサービスとおどしのためではないかというような気がするのです。今度の法案が出ますと、もちろん労働基準当局のあっせんとか、そういう条項がありますが、今度の法案の柱というものは、今度できてしまえば、やはり最低賃金審議会その他の条項がありますから、実際上労働基準当局はそういうあっせん、サービスとおどしというものをやるかどうか問題だし、むしろ、私としては、それよりも正当な労働基準法の順守、実際上の指導ではなくて、順守の方面で指導していただきたいというふうに考えるのです。それからもう一つの消極的な理由は、社会党案になりますと、全国一律制というものに対して経済が混乱する、中小企業はやっていけないというような言葉ですが、この言葉は、私は法律家でありますからはっきりわかりませんが、一体そういうような形にするとどの程度経済が混乱し、どの程度中小企業がつぶれるか、あるいは中小企業がつぶれる場合に、それに対して政府当局が税金を免除するとか、あるいは金融を世話するとか、あるいはまた、失業者に対してはそのための予算、失業手当を考えるとか、そういうこと、あるいはまた、全国一律制の最低賃金にしますと、今度は労働基準局の実際上のあと押しでなくて、親会社のたたき売りというものを防止できる、そうすると、それについて中小企業が利点を得られるでしょう。あるいはまた、最低賃金制度がそのような形のものになりますと、りっぱな労働力を得られ、能率が上って生産力が上るというような形のプラス、そういうプラス、マイナスを科学的に検討して数字を出してもらいたい。単なる抽象的に経済が混乱するとか、中小企業がつぶれるという言葉で、ああそうですかと引き下ると、これはまったく抽象論になってしまうような気がします。労働基準法を作られたときに、多くの業者と私も会いましたが、労働基準法は何ら中小企業なんか問題にしないで、あるいは事業態勢を考えないで、一律八時間制とか、賃上げ一律に全事業に適用とか、たくさんの問題を一律、この一律が悪い。この一律をやると日本の経済が崩壊する。たとえば私鉄やなんか人件費が七〇%になって日本の経済が崩壊に瀕するということを言われたことがありますが、この労働基準法を使って企業がつぶれたということはない。ずっと前に税金で自殺した人はありますが、労働基準監督署のために死んだ人は聞かないと言って、前の労働基準審議会長の言われたことがありますが、この点やなんかも、どうも抽象論になるような気がするのです。当局者が相手の案を否定したり、自分の案を提出する場合は、特に事実上の証拠をあげて説明する政治的な義務があるように思いますが、この政治的な義務を履行しておりません。単なる経済は混乱する、中小企業がつぶれるという形だけのもので、この点は私のような法律家の目から見ると、もっと何とか説明してほしいというような気がしますが、しかし、この点、私の一番言いたいのは、この今の政府案が提案——これが法律になった場合にどういうような問題が起るかという、この点を私は申し上げてみたいと思うのです。この点についてたくさんのことがありますが、時間の関係上、三つぐらいに分けて考えてみたいと思いますが、第一に、この法律案が通過した後には、私が法律案の検討をやりますと、結論としては、この法律案が出ると、労働者賃金が上って、幸福になるとまあ言われるのですが、私にはこの法律案が出て、逆に労働者が犠牲になって、あるいは中は救われるかもしれませんが、小企業が犠牲になる可能性が十分にあるように思うのです。なぜかといいますと、この最低賃金法案のバックボーンは、何としても業者間協定です。その第九条に、業者間協定が出る場合に考えられることは、その業者の「当事者の全部の合意による申請があったとき」だから全部であります。一人でも反対するということであればこれは成り立たない。全部でありますと、一番小企業で線——小企業がうんと言わなければこれは業者間協定は成立しないのですから、支払い能力を考えますと、一番小規模のところにこのくさびを打たれるという形のものです。この場合考えられることは、一番貧しい小企業の負担能力だけ考えます。その場合には、労働者生活は全く考えられていないということなのです。で、この点が、最低賃金法の第九条というものが問題です。いや、そうじゃないのだ、その次に業者間協定の拡張適用がある。この十条というのは、拡張適用で、この拡張適用については、この小企業というものについては、負担能力をある程度度外視するという形が考えられるかといいますと、この点も十二条になりますと、異議の申し立てができる。だから結局は、小企業はこの異議の申し立てで最後まで救われるなら、結局は一番最後の小企業の負担能力だけ考えられて、労働者生活が何ら考えられないという形のものがここに出てくるわけです。いやその場合に、異議の申し立てばそんなにたやすくしないということであるならば、今度は小企業がつぶれるということを前提にします。そうすると、中企業が、どうもあの小企業はダンピングをやるから一つやっつけてやれということで、異議の申立権を事実上封鎖して、政治的に工作されますと、小企業がつぶれるわけです。小企業がつぶれるということになりますと、これを救うことは今の政府当局は考えているかというと、政府当局は何ら責任を負わない。あれは業者間協定で勝手にやっているのだから、われわれは知らない。その証拠には、予算関係でこの方の失業手当というものは考えられない。ここらあたり私は、たとえば労働協会法案が出されたときに公聴会に立ったのですが、十五億円で九千万円の予算です。この十五億円どころか一文も出さない。そして小企業はつぶれていくという姿を目をつぶっていくという形のものが出てくる。小企業一つ二つつぶれても問題にならない、勝手だという考え方政治家として許されるでしょうか。この点は私は許されないと思う。ですからこの点は、もし小企業を救うなら労働者生活は全く考えられない、そしてまた、労働者生活をある程度考えようとすると、小企業がつぶれるのだ、つぶれても政府当局は責任を負わないという形のものがここに出てくるわけです。いやそうじゃないのだ、今度はそれは十一条で労働協約の一般的拘束、これでいくんだということがその次に議論が出てくるかもしれませんが、この十一条というのは、「賃金の最低額に関する定」で最低額に関する定めをしている場合は非常に例としては少い。それで、これを拡張適用しますと、現実の問題として今申し上げたように、小企業がつぶれても、政府は責任を負わないか、もしくは労働者生活考えないという形のものが出てくるわけです。  で、一番最後に考えられるのが十六条です。これは最低賃金を権力をもって施行するという形のものが出てくるわけですが、これは「最低賃金決定することが困難又は不適当と認めるとき」に初めて出てくるので、これが出てくるのはなかなかで、むしろこの点は私初めに申し上げようと思ったのですが、この法律案を解釈してみると、一つ一つが何かうまいことになっているのです。たとえば、全事業を全国に統一するかということになると、いや統一をしない……。いや統一することも考えられている。たとえば第一条には「事業」と書いてあって、事業は全国事業というものを含む余地がある。労働者の参加を許さぬぞと言うと、最低賃金委員会の中に労働者委員があるじゃないか、一つ一つうまいことになって、これは頭のいい法律家が作られるとこういう形になるのですが、結果において、法社会学的に検討すると、今申し上げたような実害が出てくるのです。この点が私としては第一に……もう一度申し上げますと、労働者と小企業というものが、ひどい目にあう可能性があるし、それに対して政府が何ら責任を負わないという実害が第一に出てくるということを私は指摘したいのです。  それから第二は、これは今申し上げた業者間協定というものが、何といってもバックボーンになっているわけです。ですから、この業者間協定というものは、多くの人が言われましたように、経営者のきめたことが労働契約の内容になる、たとえばこの法案の第五条で、使用者がこの業者間協定に違反すると、その違反した者が一万円の罰金をとられるだけではなくて、この第二項で、それが労働契約の内容になってくるということです。使用者が一方的にきめたものが労働契約の内容になるというテクニックは、労働基準法の中には一カ所しかありません。有名な就業規則です。就業規則は労働基準法の八十九条で、使用者が一方的に作って、それから監督署に届け出てやる、これに違反すると無効になる、その就業規則は労働契約の内容になるという形のものなんです。労働基準法の第二条には、労働条件労使対等できめると書いてあるのですから、この点を操作するために、労働基準法九十条では、労働組合意見を聞くという形になっているのです。労働組合意見を聞くと、そこで団体交渉が始まる、そうすると結局は、就業規則を団体交渉できめるという労働基準法の第二条の誘いのために意見を聞くという形のものになっておるのです。この業者間協定については、何ら労働組合意見を聞くということもなくて、しかもこれは法律と同じように、一万円の罰金を課せられて、しかも契約の内容になるという形のものです。そうだとすると、これは労働条件労使対等できめるという労働法の根本原理に反すると思いますし、労働条件労使対等できめるということは、一口に言うと、団体交渉できめるということです。それは労働組合法の第一条に書いてあるのでありますが、その団体交渉方式というものも、これは全く採用していない、そうだとすると、ここでよくいうこの法律案に対して、一橋の吾妻教授や、それから京都大学の片岡教授や、大体政府委員になって一緒に仕事をやっていない一般中立の、そういう意味の中立の学者が圧倒的多数と言っていいほど反対しているのは、この点だというように私は考えていいのだと思います。この点についても、しかし三百代言流に言うならいろいろ言われます。いやそれはこれは最低賃金だから、基準法プラス最低賃金だから、賃金プラス・アルファで、努力で交渉してかちとればいいじゃないかと言われるのですが、元来そういうような議論をやるなら、労働法労働基準法も要らないです。今の市民社会においては、民法では契約の自由、対等でやって、ところが契約の自由も対等もないので、労働基準法最低賃金が必要になってくるのであります。この今の最低賃金がこの形で作られますと、現実の問題としては、これが最低ではなくて、一つの契約の内容に食い込んでくるというように私は心配するのです。だから、こういうことが心配なものですから、各国の法制を見ますと、最低賃金審議会、これはいろいろ名前がありますから、審議会というものが最低賃金内容決定するという形のものです。これはやはり今の審議会政府の単なる諮問機関であろうとなかろうと、これは賃金審議会が最後の決定権を持っている。この法律案を見ますと、決定権を持っておりません。業者間協定最低賃金制の場に出ますと、これはイエスかノーかと言うことのほかには、何ら権限がない、しかもこの場合に、たとえば最低賃金制がノーと言った場合に、政府がこれをイエスと言う可能性も十分にあるのです。第十五条で、この業者間協定をやる場合に、その意見を尊重しなければならないと書いてありますが、その意見を尊重するというときに、最低賃金審議会がノーと言った場合に、ノーと言ったのだが十分に意見を尊重してイエスというような形のものが、これはないとは限らない。いや、そういうのは力関係で、現実の政府を信用してもらいたい、今の労働大臣を信用してもらいたいということの、信用だけが最後の担保になるということは、これは法律としてはまずい法律なんです。ですから、よそのどの審議会を見ても、そのことがはっきり言われているのですが、たとえばイギリスのオー・カーン・フロイント教授なんかも、賃金審議会というものの決定が、実際上はこれが最低賃金内容を作るのだが、その場合に中立委員というものが、労使双方で討論すると、その討論が一つの団体交渉の過程で、その団体交渉を中立の委員がサービスする、その結果、最低賃金制が出てくるということは、この最低賃金方式というものは団体交渉なんだということをフロイント教授が盛んに力説をしております。これが大体の今の世界の常識になっているということを非常に力説しておりますが、このことについては、もっとあとから時間があればお話をしてみたいと思います。でいずれにしても、今私が申し上げましたこの案でいきますと、労働条件対等できめる、それを現実化したのは、団体交渉方式なんだが、その労働法の体系を根本から踏みにじる可能性が出てくる。三百代言流に言うならば一言々々納得できるのだが、それを社会学的に見るならこういう結論になるのじゃないかということを申し上げたいのですが、最後に、時間がありませんから、簡単に申し上げたいと思いますが、フロイント教授なんかが盛んに言っているのは、最低賃金制というのは団体交渉の補充だ、あるいは労働運動のステップになるものだ。ところが、今度の業者間協定は、そのステップを踏みにじる可能性もなきにしもあらずだというような気がするのです。なぜかと言いますと、今まで労働組合法の十八条というのがあります。これは有名な地域的の一般的拘束力です。これは今までの例は非常に少い。例は少いのですが、中小企業労働組合がいわゆる合同労組を作って、労働組合法十八条というものを利用して、これでもって運動をやろうとした姿があちらこちらに、これはちょうど業者間協定が起るような、それと同じ時期に現われました。ところが、今度業者間協定をやりますと、地域的、一般的拘束力を適用するにはいろいろなルートがある。使用者組合、あるいは労働委員会、あるいは県知事というルートがあるのでありますが、使用者の人が業者間協定を作っているのだから、これをもう適用する必要はないじゃないかということになりますと、労働組合法十八条をステップとした労働運動に対してくさびを打たれる可能性がある。もっとも、それに対した立案者がそうじゃない、読んでみたらわかるじゃないか、労働組合法十八条は適用しないと書いてない、だから、これは業者間協定と同じように二本建になるのだというような説明は、普通の法律技術屋から言いますと納得がいきますが、現実に労働運動の面から見ると、この点はむしろ労働運動のステップというものを踏みにじるのではないか。だから、一見非常に多くの労働者にとって幸福なプレゼントのように見えても、現実には労働者生活は何ら考えられないだけでなくて、労働者対等決定するという原則が踏みにじられる可能性があるだけではなくて、労働運動に対してくさびを打たれてくる、こういうような結果が法律社会学的に見ると心配なんです。こういう心配がなぜ出てくるかということが最後の問題でありますが、この心配をなくするためには、どうしても私は、最低賃金制の根本原則というものを考えなくてはならない。それは、第一は、やはり業者だけのことを考え労働者生活考えないという、そういう法律案の仕組みに対しては、再検討を要する。ですから、この意味では、業者の人が救わないなら、ほかの方法がたくさんあるでしよう。これは、技術的に言えば、今の予算案を見ればたくさんあるように、中小企業に対しては、何らかの補助とか、あるいは失業保障の対策もあるでしょう。何かの形で政府が責任を負うという形にして、やはり全国一律制、あるいは産業別、職業別の一律制というものは、やはり何らかの形で相当具体化するようにしなくてはなりません、この法律案においては、単なる一地域とか、あるいは一職業とか書いてあって、これは全国職業、全国地域を含むのだというような、そういう法律解釈では満足ができないだろうと思うし、それから第二に、対等原則、団体交渉方式というものの原則はやはり打ち立てられなければならないというように思うのです。それから第三番目には、労働組合法十八条というものの適用というもののパイプになるという方式がやはり必要ではないかと思います。私が今言いますと、いやそういうものは、世界はそうだけれども日本日本流でいくと、これは特殊な経済の事情があるというようなことが出てくるかもしれません。確かにそのことも考えなければなりませんが、私は今フロイント教授というものをあげましたが、フロイント教授というのは、今、世界の労働法学会の理事で、労働法に対する発言が非常に強い人でありますが、この人の本を翻訳したことがありますが、私に手紙をくれました。その中で、イギリスの制度はあまりそのままをまねをしてもよくないのだ、しかし、この点だけは、まねというのではなくて、各国がどうしても通さなくてはならない、それは何かというと、最低賃金制だということを書いております。この点は世界をこえてどこの国でも提携をしなければ、結局は世界の労働者が不幸になるだけではなくて、また、平和の基礎が失われるということを言っておりますが、この点は、日本流でやる場合と、世界並みでやらなければならぬ場合がありますが、この点はやはり世界の常識でやらなければならぬと思います。私は、結論的に言いますと、今のままですと反対です。今申し上げたような筋を通して、いい法律案になることを祈るわけです。時間がございませんから、この程度で終ります。
  11. 久保等

    委員長久保等君) ありがとうございました。   —————————————
  12. 久保等

    委員長久保等君) 次に、日本経済新聞論説委員の友光正昭君にお願いいたします。
  13. 友光正昭

    公述人(友光正昭君) 最低賃金法案に関する私の考え方をごく簡単に申し上げます。  結論を先に申し上げますと、私は現在提出されております最低賃金法案に、原則として賛成するものであります。その理由を申し述べます前に、最低賃金法案、あるいは最低賃金制度の対象になるべき中小企業、もう一歩進めて申しますと、零細企業の現状について簡単に考えてみたいと思います。大企業中小企業または零細企業との間にあらゆる面で非常に大きな格差があるということは、周知の通りであります。そうして、この大企業中小企業との格差が非常に大きいということが日本経済の一つの特色といいますか、弱点になっていることも、くどくど申し述べる必要がないと思います。日本経済の二重構造というふうな言葉で表わされておりますが、日本経済を今後発展させていく、あるいはよく言われます日本経済の体質を改善するという場合には、この中小企業の近代化ということが、これはぜひとも必要なことであります。それで、この最低賃金法案あるいは最低賃金制度のねらいの一つは、私はそこにあるものと解釈するものであります。もちろん、この最低賃金制度の第一の目的、あるいは直接の目的が低賃金労働者賃金を引き上げ、生活向上安定させるというところにあることは言うまでもないのでありますが、従来、率直に申しまして、とかく低賃金あるいは賃金切り下げという方法によって競争をするといった傾向のありました中小企業に対して、賃金切り下げあるいは低賃金ということでなく、経営の近代化によって競争をするというふうに仕向けていくということが、この最低賃金法あるいは最低賃金制度のいわば国民経済的目的とでも言うべきものではないかと思います。同時にまた、いわゆる金融その他の面において中小企業対策を強化して中小企業地位向上させることが必要であることもこれは申し上げるまでもないので、最低賃金制度もそのような総合的な中小企業対策というものが十分伴ったときに初めて十分な効果を示し得るものだろうと思います。しかし、現状においては、とにかく大企業中小企業あるいは零細企業との間に非常に大きな格差がある、これが事実であります。数字はもういつでも言われておることでありまして、少しくどいかもしれませんが、順序としましてちょっと数字について見ますと、まず賃金についてみますと、これは製造業でありますが、従業員千人以上の工場での賃金を一〇〇としました場合に、五百人から九十九人のところでは七九・一、それから百人から四百九十九人の工場では六四・八、五十人から九十九人のところは五三・五、十人から四十九人のところは四五・七、四人から九人という小工場では四〇というふうな統計が出ております。もちろんこの統計はとり方によっていろいろ違います。これと違う数字が出ている統計もありますが、一応役所の統計の一つではそういうふうに出ております。しかもこのような中小企業あるいは零細企業の数というものは非常に多いのでありまして、たとえば従業員三人以下の工場を小企業と申しますか、零細企業と申しますか、そういうのが工場の数では全体の五六・八%、半分以上を占めておる。従業員の数にして一〇%、四人から二十九人までの工場は工場数で三六・九%、従業員の数で三二%、三十人から九十九人の工場が工場数で四・九%、従業員数で一八・七%、それを三百人以下の規模にしますと、工場数で全体の九九・六%を占めております。三百人以上が〇・四%にすぎないのでありまして、それに対して従業員数も七三・六%、三百人以上が二六・四%というふうになって、非常に小企業あるいは零細企業というものが日本においては大きな比重を占めておる。ところで、この中小企業特に零細企業賃金は大企業と比べてなぜそのように安いか。一番小さいところは先ほど申しました統計では四割となっておりますが、どうして安いのか。これもまた一般に言いふらされていることでありますが、いわゆる労働生産性が低いというところに結局は帰着するだろうと思います。そこでまた、くどいようでありますが、前に述べました賃金格差に相当する生産性の格差というものを見ますと、従業員千人以上の工場における労働生産性を一〇〇としました場合、五人から九百九十九人の工場では九五・七、百人から四百九十九人のところは七二、五十人から九十九人までのところは五〇・九、十人から四十九人のところでは三六・九、四人から九人の工場では実に千人以上の工場の約四分の一の二七・五というふうな数字が出ております。この格差はいわゆる先進諸国に比べて非常に大きい。ここに日本の経済の一つの特徴があるのでありますが、そういうふうなことになっております。先ほど申しました賃金と生産性との格差を対照してみますと、従業員百人以下の小企業では生産性の格差の方が賃金の格差よりもむしろ小さい。逆に賃金の格差の方が大きい。つまり賃金は大企業に比較して安いのでありますが、生産性はその割合以上に低いということになっております。これを言葉をかえてみますと、賃金の絶対額からみますと、中小企業賃金は大企業より低いのでありますが、生産性との関連においてみますと、中小企業といいますか、小企業の方が今の統計でみますと、百人以下の企業の方が生産性との関連においてみますと、大企業よりもむしろいいというふうな結果になっているのであります。これをまた見方を変えまして、大企業中小企業とにおける分配率の面から見てみますと、これも中小企業の方が労働者分配率は大きいのであります。ちょうど前に述べました統計とぴったり合う統計が見つかりませんので、違う統計によりますと、従業員三百人以上の企業、これは大企業とは言えないだろうと思いますが、中小企業かもしれませんが、従業員数三百人以上の企業における労働者分配率を一〇〇といたしてみました場合、三百人以上の企業労働者分配率は五九・六%であります。それに対して従業員数二百人から二百九十九人までのところでは六二・六%、従業員数が百人から百九十九人のところでは六五・九%、それから従業員数五十人から九十九人のところでは六七・八%。それよりも小さいのは統計を持っておりませんので、そこでとめますが、五十人から九十九人まで、これは中小企業でも割合いい方かもしれませんが、そこで六七・八という分配率が一応統計の上で出ております。これに関する統計を他のものによって調べた場合にはもっと大きい開きがある。小さい企業では分配率八〇%という数字が出ているものも統計によってはあります。こういうふうに労働者分配率が小企業では大きくて、大企業では小さいということは、むろん大企業中小企業と資本の有機的構成が違うということによって当然ではありますが、とにかく大ざっぱに申しまして、中小企業では労働者賃金をしぼり取られているのだ、また、これを逆の面からの言い方をしますと、中小企業では賃金を上げようと思えば上げる余裕があるのだということが、必ずしも単純にうなずけない理由と見ていいだろうと思います。今あげました例をとりますと、たとえば従業員五十人から九十九人までの企業での労働者分配率をかりに一〇〇%とした場合、賃金はどうなるかと言いますと、三百人以上の企業は依然として八〇%にすぎない、三百人以上というのは大企業とは言えないから、最初にあげました統計に引き画して、千人以上の企業と比較してみますと、八〇%にも足りないということになるのであります。これはその分配率を一〇〇%とした場合でありますが、分配率を一〇〇%にするといったことはとうていこれは不可能なことでありまして、かりにこれを八〇%としますと、八〇%に上げてもやはり大企業との賃金の格差は四割近くある、小企業の方が六割余りにしかならないというふうな状態であります。  きわめて簡単でありますが、以上に申し述べましたような中小企業の現状を土台にして、この最低賃金法案について考えてみますと、第一に問題になっている全国全産業一律最低賃金ということであります。今申しましたような企業規模別、さらにつけ加えますならば、産業別の賃金格差が非常に大きいという日本の現状で、全国全産業一律の最低賃金決定できるかどうか、あるいは決定したらどうなるかということを具体的に考えました場合、現に最低賃金をどこにきめるかということを一応こう頭の中で考えました場合、まず、現に安い賃金を支払っている企業中小企業、あるいは零細企業にもあまり無理なく支払えるような線に一律最低賃金をきめたといたしましたならば、これはもう最低賃金法と言いますか、最低賃金制度効果がなくなる、それどころでなく、むしろ賃金の今でも低い中小企業や零細企業労働者の低賃金を、むしろくぎずけにするという逆効果、あるいは弊害のあることは、これはまあだれでも認めているところだろうと思います。それかと言って、逆に一律賃金を、たとえば八千円とか六千円とかいうふうな線に、いわばこの望ましい線にきめるというふうなことをどうかと考えてみますと、もちろん最低賃金制というのは、現在のこの低賃金を固定することを目的とするものではありませんので、それをだんだん引き上げていくというねらいを持つものでありますから、低目にきめるよりは高目にきめるということは当然でありましょうが、何分にもわが国のこの現状では最初に申しましたように、企業間の格差、特に賃金の格差というものは非常に大きい。いかに望ましい賃金であっても、これが先ほども申しましたように、分配率を一〇〇%にしたところで大企業には追いつかない、とても追いつかないといったような現状で、そうした最低賃金をきめますときには、これはもう現実に支払いができなくなる。その結果あるいは企業がつぶれることともなるでありましょうし、あるいはせっかくきめた最低賃金法案が現在の労働基準法みたいに穴だらけ——穴だらけと言いますか、守られないということになる。あるいはこの現在でもありますように、賃金不払いといったことで、何らかの形で労働者にしわが寄って、結局労働者自身にしわが寄ってくるというふうなことになる危険が非常に大きいのであります。分配率を一〇〇%にするといったことはこれはもうあり得ないことでありますが、それにしてもなお二割も、あるいは四割近くもの格差を余儀なくされるということによって、一律の最低賃金というものが非常に困難であるということが大体推察ができるのではないかと思います。また、その点がこの法案の第三条に最低賃金決定原則として、生計費とそれから類似の労働者賃金、それからもう一つ通常の事業の支払い能力ということを規定している理由ではないかと考えるのであります。支払い能力というものについてはむろんいろいろの見方、あるいは考え方がありますが、とにかく付加価値を全部労働者に回しても、それでもまだ及ばないというふうなのが現状であります。そしてその点からもこの一律賃金というものは実際問題として望ましいとしても、実際問題として無理ではないかと考えます。  そこで、一律方式が無理であるといたしますと、業種別職種別あるいは地域別といった方式になると思いますが、そこで第二の問題になっております最低賃金決定方法の一つとしての業者間協定、これについて私の考え方を申し述べますが、なるほど業者間協定基礎にして最低賃金決定するというのは確かにあまりいい格好のものではありません。私は差しつかえなかったら取り払ってもいいだろうと思います。ただ私の考えるのには、これも非常に業種別職種別地域別最低賃金をきめるとなりますとこれは実際問題として数も多くなる、複雑なものになるだろうと思います。それを全部行政官庁なりあるいは最低賃金審議会なりだけの責任によってきめるというよりは、業者間協定というものは一つ決定方法として入れておく、それによってこの最低賃金法あるいは最低賃金制度が円滑に実施することができるというふうな非常に便宜的な考え方であります。そういうものであるならばこの業者間協定というものを入れておいても——入れておいた方がいいのじゃないかというふうな点から、この業者間協定というものを、現在のこれまでの業者間協定の実行状況と成立状況といった点から見まして、多少の——多少のと申しますか、ある程度の利用価値はあるのじゃないかというふうに考えるのであります。その点から業者間協定最低賃金決定一つ方式として入れておいて差しつかえないのではないかと考えます。申すまでもなく、この業者間協定は、最低賃金決定一つの方法でありまして、これは運用の仕方によると思いますが、業者間協定だけがその中心になるというふうに見る見方もありますし、また、中小企業の一部には、業者間協定通り越して職権方式がすぐ最前線に出てくるのじゃないかというふうに心配している業者もいるくらいであります。この業者間協定をそういうふうに私流に見ますと、利用価値がある限り置いておいていいのじゃないか。としましても、その場合ILO条約なんかとの関係なんか、つまり最低賃金決定の根本原則というものに照らしてどうかと言いますと、これもやや三百代言と申しますか、あとからつけた理屈みたいには見られないこともありませんが、やはり業者間協定はそのまま最低賃金になるのではない、一度審議会を通過してそれからなるのだ、ことにこの法案の第十八条には、一度そういうふうにして業者間協定最低賃金審議会を通って行政官庁決定によって最低賃金となったあとは、その基礎となったこの業者間協定がかりになくなったり、変更されたりしても、最低賃金だけはそのまま効力は影響を及ぼされないのだという条項もありますし、そういう点から見まして、業者間協定というものを一つの方法として認めていいのではないかと思います。中央賃金審議会での答申にもそれを認めていることは申し上げるまでもないのであります。また、先ほども例が出ましたが、昨年までの八十件の業者間協定というものを見ますと、これはまあ最低賃金法案がすでに問題にはなっておりましたが、まだ法律のできない前に、むろんこれはその労働基準局あたりのあと押しと申しますか、しりをひっぱたいて作ったものではありましょうが、とにかくある程度の効果をあげている。これはむろんいろいろ、たとえば最低賃金の引き上げ方も、一〇%以下というものもありますし、三〇%以上というものもある。そういう大幅に引き上げたのは、今まで安過ぎたのだといえばそれまででありますが、とにかくある程度のこの利用価値はある。しかも今後この法律ができまして、最低賃金決定には職権方式というふうなものもできるということになりますと、これはまああるいは好まれないことかもしれませんけれども、かなりまあ圧力がきくというふうなことも考えられます。そういう意味で、業者間協定というものも今後利用する価値はかなりあるのではないかと思います。むしろ私が心配しますのは、この業者間協定なり、あるいはこれは業者間協定に限らないのでありますが、一度最低賃金決定された場合、これは決してその最低賃金をいつまでも続ける、くぎずけにしておくということは望ましくないのでありまして、賃金水準が上るにつれてこの決定された最低賃金というものも徐々に上げていかなくちゃならぬ。特にこの大企業との格差を狭めるという意味では、まあ賃金水準の上り方以上にあるいは上げていかなくちゃならないかもしれない。ところが、まあこれはどういうことになりますかわかりませんが、おそらく非常に多数の最低賃金というものが各地、各業種にできるだろうと思いますが、その新しく最低賃金を作ることに追われて、一度できた最低賃金がいつまでもほうりっぱなしになる。まあこれは非常にむずかしいところでありますが、かりに何らかの理由によって賃金水準が上っても、その一度決定された最低賃金というものがそのままくぎづけになる。これをどういうふうにして賃金水準の上昇その他に見合せて適用させていくかということが非常に大きな問題になるのじゃないか。これはこの法律、あるいは制度の運用上、行政官庁及びこの最低賃金審議会として、この最初最低賃金決定することにおとらず重要な問題になるのではないかとまあ思います。  その他こまかい点はいろいろありますが、時間の都合で、この全国一律、業者間協定と、二点だけにいたしまして、以上この中小企業の現状に即して最低賃金法案問題点について述べたのでありますが、この法案、あるいは制度、この政府の案は必ずしも理想的なものではない、今後漸進的に、また、場合によっては試行錯誤的に改めていかなければならないのではないかと考えます。ただ、今日までのこの業者間協定だけをとってみましても、それによって現実にある程度の、それが十分か不十分かは問題ありましょうが、ある程度の現実の利益を得た労働者がいる。しかもその労働者というものはある意味でまあ言ってみますると、今日の一円は明日の十円にも相当するといったふうないわゆる低賃金の人々でありますが、そういう人々がいるという事実に基いて、すみやかにこの法案を成立させて、最低賃金制度に一歩踏み出すということが必要なのではないかと思います。終ります。
  14. 久保等

    委員長久保等君) ありがとう存じました。  以上の公述人の方々に対する御質疑を願います。
  15. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 友光さんにお尋ねしたいのですけれども、友光さんのお話を聞きますると、いろいろの統計をお示しいただきましたが、結局、賃金決定方式では業者間協定はそうよいと思わない。できれば取った方がよい、こういうお説があったのですが、あとの方では、審議会行政官庁賃金をきめるのに、何にもないよりか便利だから、便宜的な面からこれを使ったらいいというようなお話がありました。この案自体は理想的なものとは考えない。順次改正を求めていくべきじゃないか。固定した賃金も、停滞しているのじやなしに、どんどん上げていくという努力がなされなければならないのじゃないかと、こういうお話があったのですが、そうして最後に、今の政府案は、業者間協定というものを四つの方式できめるわけですけれども業者間協定を含んだ最賃案というものを通すということによって、労使対等賃金をきめるという原則関係、そこらあたりがとういう工合になるのでございましょうか。時間がないのでちょっとお聞きしたい。
  16. 友光正昭

    公述人(友光正昭君) どことの関連ですか。
  17. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 業者間協定というものはよいとは思わないから、できれはない方がいいという御意見がありました。そういうことで、審議会または行政官庁賃金をきめるのに便利かもわからぬ、業者間協定というものが。そういうことをおっしゃいまして、理想案ではない。しかし、政府案を通して積み上げていくと言われたのですが、その業者間協定ということをよいとは思わないというところには、友光さんも、賃金というものは労使対等できめるという原則の上に立っておられると私は思うのですが、そうなると、今の法案で参りますとなかなかそう感じられないので、私は、労使対等賃金をきめるという概念は、どういう工合に、一番最後のお言葉からいって、どういう工合に理解したらよいか。
  18. 友光正昭

    公述人(友光正昭君) 協定が、労使対等できめるという原則に反するとは私は言ってないので、これは多少へ理屈的なきらいはあるかもしれませんけれども、やはり賃金審議会を通してきめるということは労使対等原則というものをくずしてない。ただ問題は、業者間協定にはいろいろ労働組合側その他から異議がありますから、こういうものをはずして、その法律あるいは制度の運用上差しつかえないものだったら、いろいろ疑義があるようなものは、はずした方がいいかもしれない。ただ現在では、業者間協定でも相当に、簡単に言えば、最低賃金を早くこれをいろいろな業種別地域別職種別にきめていかなくちゃならないというときに、この方式もある程度の利用価値というと語弊があるかもしれませんが、そういうものがあるから入れておいた方がいいのじゃないか、そういう意味で、これが完全に労使対等原則に反するものであるから望ましくないという意味でなくて、むしろいろいろごたごた、まあ簡単にいえばごたごたあるから、そのごたごたあるようなものは必要なかったらはずした方がいいのではないかというような意味であります。
  19. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 もう時間をとりますからあまりやりませんが、もう一つ伺いたいのですが、このILOの二十六号条約について勧告が二十八年に出ておりますけれども、この面からもお話が少しあったと思うのですけれども、二十六号条約を見ますと、あらゆる場合、あらゆる条件において労使対等立場といいますか、そういう立場賃金というものをきめていくという、工合にILOの条約はなっているのですけれども、今の御説明ですと審議会三者構成であるから、それでILOの条約について云々というお話があったのですけれども、ちょっとそこのところがよくわかりにくかったものですから、もう一度おっしゃっていただきたいと思うのです。私たちは業者間協定という労働者意見が入らない形のものが最賃の出発になるということでは、二十六号条約の精神がすなおに盛られているとはどうも考えにくいのですが、ちょっと友光さんの御意見を二十六号条約との関係一つ聞かせて下さい。
  20. 友光正昭

    公述人(友光正昭君) その点は見方はいろいろあることは知っております。私の考え方は、今まで政府といいますか、当局が発表していたような考え方あるいは解釈と同じであります。
  21. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 時間がありませんので問題点だけお開きしておきたいと思うのですが、早川さんにお尋ねをしたいのですが、市川さんのお説を聞いていますと、早川さんは最低賃金審議会の二十七年ごろの委員であった。インフレ、デフレ、それから中小企業保養育成の施策がない今、最低賃金をきめるのにはむしろ時期尚早である、こういう工合におっしゃいました。そこで最低賃金をきめるということの、まあ空気とはおっしゃいませんでしたけれども、そういう情勢の中では制度そのものはいいけれども、実際に即した最低賃金ということをおっしゃったのですが、中小企業対策というものはむろんこれは政府がやる、政府がやるといいますか、国会がいろいろの施策をきめて政府が行政を担当するわけですけれども中小企業関係についてそれではどういうところまで、どういう方法でやれば、実態に即して労働者生活が守れるという、そこらあたりの関係をもう一度御意見をお伺いしたい。
  22. 早川勝

    公述人早川勝君) 実は中小企業にまず最賃制度をしきますにつきましては、ほんとうはもっと広い範囲、広い分野から調査をし、検討する必要があると思うのです。それは何かと申しますと、農業労働問題がある、それから家内労働の現状及び家族労働の問題があります。非常に中小企業、零細企業のもう一つ下の段階のものが実は日本の中にあるわけでございます。それが一体どうなっているのかということを詳密に検討しまして、そして今のこの対象になっております部分に一体どのような形で、あるいはどのような内容最低賃金をしくかということ、そこまで出てくるのがほんとうだと思うのです。何となれば、ある線が出ましてそれでとてもやつていけぬという業者は家内労働あるいは家族労働に逃げ込んでしまうかもしれない。また、この非常にバツクグラウンドになっております農業労働というものの実態が低ければ、これとの間の不均衡ができて、日本の実際の国民所得の上で問題が起ると思うのです。ですから、それまでのほんとうの調査というものが必要だと思う。しかし、それをやっていればほんとうにどれだけ時間がかかるかわからないというふうにも私は考えますので、中小企業、特に零細企業の面を考えながら、そしてある特定家内工業の工賃だけを見て今度の法案というものに一応私どもも賛成しておるわけです。  さてお尋ねがございましたように、ほんとうはそれだけやりっぱなしでは中小企業というものはほんとうは目も当てられないと思うのです。従って、どうぞこれは、もう野党、与党を問わず、中小企業の育成強化というところに力を入れてやっていただきたいのです。それは自分たちのためだから政府に見てくれという考え方ではありません。中小企業としてはみずからこの近代化に踏み出したのですから、それもよく一つ考えになって、自分もやることはやりますから、一つ自分たちのやれないところを政治としてやっていただきたい。それはどういう点かというお尋ねでございますが、それはやはり具体的な項目からあげれば、金融と税制とそれから技術指導だと思います。そうして私ども中小企業のやはり組織化を考えるつもりです。中小企業がばらばらでどんなふうになっておるかわからぬでは、そういう政策がたとえ考えられましても、ざるに水を注ぐようなことになりますので、やはり中小企業産業別にも組織化を整備いたしまして、そういうものが政策として流れやすいように、また、いろいろとほんとうの改善をはかっていくについて、中小企業の関連しているところは全部一緒にいくように、あるいは大企業中小企業との間の組織の密接な方法も考えられましょうが、しかし、自分たちだけでやれぬという点は、金融と税制とそれから技術指導の問題だと思います。先ほど友光公述人からもお話がございましたように、非常に生産性がおくれていることも事実でございます。それから新しい段階に産業界なり経済界がだんだん入って参りまして、たとえば技術革新の問題も入って参ります。大企業だけが飛び離れてハイカラなことをやってもだめであります。やはりそれをささえる、あるいはそれの基盤になっている広い範囲の中小企業をやはりどんどん近代化することが必要だということを大企業自身も悟るようになりました。そういう立場に立っておりますので、今の特に申し上げるような点について一つお力を得たいと思います。
  23. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 そこで、経営者の代表としてもう一言お尋ねしておきたいのですが、日本経済の体質改善とか、基盤の強化とかいうことがよく言われるわけですが、集中しているのは、大企業を保護といいますか、育成というところに集中している。しかし、友光さんの統計を見ても、中小企業というものが三百人以下というのが非常に多い、そこには体質改善に対する手当、金融やそういうものばかりでなく、体質改善、要するに何といいますか、生産増強といいますか、そういう形のものはどういう工合にやったらいいとお考えになっておりますか、ちょっと税金とか金融は別にしまして、体質改善の中の中小企業の能率化をどういう工合におやりになったらいいか。
  24. 早川勝

    公述人早川勝君) 今まではいろいろなことがあったのですが、今後はやはり中小企業に合ったようなやはり機械化といいますか、技術を備えた人を養成して、そうしてそれによってなるべく機械を使っていく、こういう方向だろうと思います。それは単に中小企業でやれといってもできませんから、中小企業自身が組織を作り、また、大企業がそれを指導して、あるいは機械というものを中小企業の中にわざと大企業の機械を配置するような方式もございますし、そういうことで生産性を上げていく、こういう方向だろうと思います。そうして中小企業経営者は、実はもうほんとうに何というか、二十四時間勉強して、一生懸命に働いて、また、その責任は直接自分がかぶるわけですから大へんな努力はしておるのですけれども、今のように生産性が低いということは、実はやっぱり近代的な経営方法なり、近代的な経営設備ができていないからだと思います。
  25. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 問題は、そこで働いている労働者生活の問題になっていくわけです。だから、同じようにハンマーを持ち、ハンドルを持っている労働者が、企業の主体が大きくも、小さくも、同じような生活をしたいという意欲はこれは当然出てくるわけですから、そういうところに賃金格差があると工合が悪い。しかし、今の友光さんの統計には幾らか表われておりますけれども、私は、中小企業自身の努力もそれはむろんのことでございましょうけれども、これをもり立てていくという、日本の経済の中心になっている大企業政府がこれに対して育成、めんどうを見ないというのが根本の原因じゃないかと、私はそう思っているのです。中小企業の方々の努力、このことは非常に努力されていると思いますけれども、育成という問題や保護という問題が、大企業政府施策の中にそういうものがないという、それが一番大きな障害になるのじゃないかという感じを持っているのです。その点はどうですか。
  26. 早川勝

    公述人早川勝君) いや、政府は私どもの直接関係していることじゃございませんので申し上げかねますけれども、大企業は実は、今までといいますか、過去においては自分のことは自分でやつておればいいのだと、こういう考えであったことは事実でしょう。それから今度は、個々の経営単位、経済単位として見ますれば、大企業の方が安定性があったり、社会の信用があったりいたしますので、自然そこへ金が集まり、金融も楽であるということは事実でしょう。中小企業の方は一つ一つは非常に弱い立場でございますから、銀行家もなかなか信用をしないということもあって、小さいものほど苦しい目にあっているということは事実でしょう。そこで私ども考えるのはやはり組織化だと、こう考えております。組織化されれば、単に大企業は大企業で勝手にやるのだということじゃなくて、私どもは今提唱しているのですけれども、大企業中小企業日本産業経済全体を見ながら一つ相互に力を合せていこうと、こういう方向でやっているところでございます。大企業中小企業を圧迫しているというふうには私ども考えておりません。
  27. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 そこで私は、業者間の協定というのは、論議をしておりますと、アメリカのニュー・ディールといいますか、産業復興法の中に公正競争規約という問題が出てくるわけですけれども、あれは一九三三年から出発して三八年に公正基準法というもので、実質賃金を引き上げるための予備工作として行われた。それとあわせて再雇用協定という、大統領の指示によって、その雇用の拡大、それから低所得者に対する最低の保障という、こういう形で私は出発したものと理解をしている。そういうものがよく業者間協定でアメリカが例に出るわけですが、私はこれ以外に、これは私の、経済のしろうとの考えなんですけれども、要するに、需要供給の面からいって、国内の購買力というものが、生活水準が上るということが、今、操短や何かで持ち腐れをしている機械、それから貿易の問題だとか、こう考えてきますと、それから社会保障の面からも一つあると思いますけれども、要するに、国内需要の問題が非常に重要な問題になってくるわけですが、どうも印象としては企業の支払い能力というものがその中心になってきて、そこで働いている労働者意見や意欲というものが具体的な形で現われてこない。これは一つ裏返せば、経済の面からいうと、結局、経済の前進に大きなチェックをしているような感じがするわけです。だから、そういう点について、まあこれは非常に何ですけれども、御意見がありましたら承わりたい。
  28. 早川勝

    公述人早川勝君) 国内の消費購買力を刺戟していくということも一つ行き方ではございます。従って、賃金水準の問題が問題になり得ると思います。しかし、ちょっとわきのことになりますけれども日本立場は、国際経済の競争場裏においてやはりいい品物を安く作り上げるという任務がございまするし、その任務を達成しないことにはやっていけないだろうと思いますので、自然苦しい立場労使ともにあるかと思うのです。ただここで問題は、この最賃法はおそらくもっと高い、なるべく高い目にきめたらばというお考えがあってのお尋ねであったのだと思いますけれども、この最賃法というものの性格はこれよりか下に下げぬ。これよりちょっとやそっとの不景気が来てもこれよりは下げぬというところに意味があるだろうと思うのです。そういう下をささえる限界線を表わしたものだと思っておりますので、ですからまあ特に関係の多い中小企業経営者なぞもこれは作るけれども、そしてまた、それは絶対に守らなきゃいかぬけれども、あまり無理な線ではやっていけぬからという危惧は持っておるのです。  そこで、ちょっと業者間協定についてのお話でございましたから申し上げますが、労使対等できめないで、業者だけできめて、それが案外低いのではちょっと納得せぬだろうし、労働条件対等だから云々のお話もございましたのですが、これはやはり労使がきめる問題はこの基準という限界線の範囲の中で労使がそれぞれ対等立場で市民法とかあるいは団体法的にきめることでございまして、この最低限界をきめるそのことは、私は労使対等でなくても算出できるのじゃないかと思います。といいますのは、それでないと、経営者だけで勝手にきめて、労働者が気に入らなければよそへ行けばいいじゃないかということですが、それは少し冷やかなことになるわけですけれども、それでは労使対等でなくて、経営者だけできめて、その一線があるから労働者は勝手にせよということでは、ちょっと不対等だというお考えでございましょうけれども、これは法律的に申せば、労使関係の問題じゃなくて、公法上これより下げてはいかぬというかんぬきを下にはめるだけのことでございまして、労使間できめることはそのかんぬきの内側で適宜きめられるわけでございます。まあいわば経営者側がそういう業者の間で協会なり組合を作っている場合でありますから、なかなか労働者側からいうと、ほかの高い線を、それよりも上回った線がきめにくいかもしれませんけれども、ちょうど同じことが、大組合を私は知っておりますが、幾つかの大組合が現在ございまして、それが実は統一賃金を組合の中できめているのです。会社は統一賃金はいやですから、どうかしてそれより低い賃金をきめたいと思っても、なかなかそれが組合の力が強くて格差をつけられないという実情がございます。そういったことは、やはり労使間の問題として処理されることでございまして、まあ純法律的にきわめて冷酷に、冷やかに申し上げますれば、この最低賃金の額というものは、公法上——公けの法律上きめると、しかし、それをきめて、それを労使間がどういうふうにきめるかは、全く対等にきめる余地は残っておるのでございます。それはちょうど大企業において大組合が統一賃金をきめよう、これでいこうというときに経営者が困っているのと同じような状態でありますが、その場合でもやはり労使対等原則は失われていないのでありますから、私はその点は先ほど来お話ございましたけれども対等の余地は十分に残っておると、こう思うわけでございます。
  29. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 いや、まあここで議論をしても何ですから、私たちはそうも感じないのですが、柳沢さん、今の労使対等が残っておって、この法案からいって業者間協定へ出発している、今早川さんの御意見ですが、柳沢さんの御意見はどうですか、お伺いしたいと思います。
  30. 柳沢錬造

    公述人(柳沢錬造君) 先ほども申したのですが、約一千七百万からの労働者の中で、組織された労働者というのが約三八%しかない、その組織されておる私たち労働組合の中ですらも、経営者からのいろいろな圧力といいますか、労使対等立場がくずされそうな状態というものは絶えず行われておるわけです。そのことが非常に小さな未組織労働瀞の働いておる職場においては、労働組合すらも作ろうとしても作れない、労働組合は組合法に従って何ものにも干渉されずに、自主的に自分たちで作ることができるのですが、それをちょっとでもしようとするならばすぐその人たちは首を切られてしまう、いろいろのことでもって圧迫が加えられてしまう、そういうようなことからいまだに一千万も近い人たちが労働組合もない状態にあるのです。このこと一つを見ても労使対等立場に置かれておるかいないかということが、日本の全体の経営者側の置かれた状態と、私たち労働者の置かれた状態のバランスがとれないということが一つの証拠になると思うのです。それをもっと突っ込んでいろいろ申し上げますと多々ございますが、ただここでもって一つ先生方に御理解願いたいことは、大企業中小企業賃金格差が非常に開いておるけれども中小企業の方が実際には分配率も高いので、よけい金を支払っておるのだ、これ以上最低賃金の額を高くすることにしていくと、中小企業はつぶれてしまうじゃないかという御発言もあったのですが、ここで大事なことは、大企業においていろいろ仕事をしていく上において忙しくなってくると、臨時工とかあるいは社外工、外注というようなところに仕事を出したりやらせたりしております。本来ならば自分のところに常用されておる労働者よりも、臨時に雇うのでありますから、その臨時工の方が高い賃金が支払われてしかるべきなんです。ところが、逆に非常に安い賃金で、しかも長い期間雇われていく、その形というようなものが、今度、大企業自分企業の中でもって機械を使い、労働者を使っていくよりかも外注に出した方が採算が合うからだといって下請工場の力に仕事を外注に出してしまう、そしてさらにその下請の工場が受け取った中からそれをさらに一定の利益を差し引いて、それをまたその下の下請の工場の方に外注をさせていく、そういうふうな仕組みが非常に中小企業に数多くさせておるし、大企業中小企業との賃金の格差が開いていく要素になる。ですから、なるほど小企業においては賃金は分配率そのものからはそれなりに比率だけ見れば支払われておりますけれども、この日本産業構造全体が複雑だという、その複雑の根源がどこにあるか、そしてその根源を見ずして、産業構造だけが複雑だから、たとえば全産業はしかも率はよくないとか最低賃金制はよくないとかいうように判断されないのでは、やはり早計ではないか。そしてこのことは先ほどの御質問は、労使対等立場に立っておるだろうかという御質問から発展したのでありますが、当初も申し上げました通り労働組合一つを見ても、そういう状態になっておる、それをましてや最低賃金法では労働者からは何も発言をする余地もない、使用者だけが集まって協議をして協定を作り、そういうものを申請していくというと、こういうことから結果がどういうことになるかということは推して知るべきだと思います。でありますから、現状すらも労使対等立場に置かれていない、ましてや最低賃金法政府案のような状態ではとてもではないが、対等立場に立っての最低賃金のきめ方というものはほとんど不可能だ、そのように判断いたします。
  31. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 松岡先生は非常に詳しく述べられたのですが、この九条から始まってずっとこの関連性の問題でお話がありましたが、今この法案労使審議会というものがあるのだから、賃金をきめる対等立場があり得るという御批判が出ているのですが、そういう点で御意見がありましたら聞かして下さい。
  32. 松岡三郎

    公述人(松岡三郎君) 私、冷酷な法律解釈によりますと、業者間協定に違反をした場合には、それは労働契約の内容になるというのですから、人がきめたものが契約の内容になるというのですから、この点がすでに労使対等ではない。最初労使対等でないことからこういう法律が必要なのです。しかし、そういう要求で出てきた法律労使対等になっていないという、出発点も結論も間違っていると思うのです。今、最低賃金で、プラスアルファから労使対等できめればいいじゃないかという話ですが、それは大企業の場合で、小企業の場合にはそれできめられる。現に法律の第五条にそう書いてある。ですから最低賃金プラス・アルファの方はおっしゃる通りなんですが、一方的にきめられたのが労働契約の内容になるという、労働法の基本原理には反するだろう。それからもう一つ最低賃金審議会の中では労働者使用者とが対等で話せるということですが、確かにその審議会それ自体をとってみるとそうなのですが、元来、審議会権限というものが意見を述べるのですが、その意見もノーかイエスか、しかもそれに対して尊重しなくてはならぬという道徳的な規定が法律の規定の中に書いてあるのですが、この点もおそらく国会としては、尊重しますかといったら、これはほんとうに尊重しますとお答えになるに違いないのですが、これが現実に尊重したかどうかということになりますと、議論倒れになってしまいます。その意味で私は、たとえば今申し上げたイギリスの審議会にしても、審議会決定に対しては労働大臣はこれの内容を変更できません。もちろんその労働大臣としては、もう一度考えてくれとは言えますが、それ以上の何ものでもない。ところが、今度の日本の場合は、審議会はその逆なんです。逆の立場に立っているわけです。ですから、この最低賃金法の全体的な趣旨から言うと、労使対等という原理からはみ出ていることは明らかだろうと思います。ILOの条約の場合にも、それはいろいろな理屈は言えば幾らもありますが、一番大事なのは精神です。ILOの精神から言いますれば、労働者が参加するのも、意見について参加するのじゃなく、労働条件の形成について参加する。これはノーかイエスかということだけで、何も労働条件の形成についての参加という意味ではありません。ですから、やはりILOの精神、法律の精神から見ると考えなければいかぬ。  それからもう一つ最後にお話ししたいことは、最低賃金法の場合には、やはり私は普通の労働条件と違って中小企業だから賃金が安い、これは約束で安いということは当然だと思うのです。当然でないといってもそうならざるを得ないのですが、国家権力が最低賃金法で一律にきめていく場合に、この企業の場合はこれだけを人間らしいような生酒をしろ、他の場合はこれだけといって、国家権力が差別するということは、私はやはり憲法十四条のその法の平等の精神に反する。そのものでは、一通り言えば、あれには性別とかいろいろ書いてありますけれども、やはり国家権力はそういう差別をするということは許されないのじゃないかというふうに思うのです。もちろんその場合にもいろいろな条件がありましょうが、なるべくそういうように国家権力は最低一律という線になるべく合わしていく努力はすべきなのですが、この法案はその点の努力を回避しているように私には思えます。
  33. 光村甚助

    ○光村甚助君 友光さんの話の中で、数字をあげて言っておられましたが、中小企業ほど生産が少いのに、分配は、かえって率は多いのだ、だから仕方がないじゃないかというような御意見だったのですがね。そういうことになりますと、最低賃金なんというものは実際必要はなくなるので、あきらめ諭のようなことになるのですが、早川さんにその点をお伺いしたいのですがね。それだったら、最低賃金の必要はなくなるというお考えじゃないのでしょうか。
  34. 早川勝

    公述人早川勝君) 分配率という問題は友光さんがおっしゃった通りでございます。その原因は、大企業の方はやはり資本投資が多く、また、その技術革新等によるところの大量生産方式がとれますので、まあ経営者側の取り分も多いだろうと思うのです。従って、企業努力が多うございます。しかし、中小企業においてはそういうわけにはいかないので、割合的にいえば、むしろ労働者の方の取り分が多くなっているという、そういう率だけの話でございまして、だからといって、幾ら賃金が安くてもいいという理論にはならないと思うのでございます。ですから、やはりある程度の実情に合う線はきめるのが妥当でないか、こういうように考えております。
  35. 久保等

    委員長久保等君) 午前中の公述人に対する質疑は、この程度にいたしたいと思いますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  36. 久保等

    委員長久保等君) 御異議ないと認めます。公述人各位には、長時間にわたりまして貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしましてお礼を申し上げます。  しばらく休憩いたします。    午後零時五十二分休憩    —————・—————    午後二時十二分開会
  37. 久保等

    委員長久保等君) 午前に引き続き、最低賃金法案について、公述人の御意見を拝聴いたしたいと存じます。  公述人の方々にはお忙しいところ出席下さいましてまことにありがとう存じました。なお、時間の関係もございますので、お一人二十分程度で御意見を拝聴いたしたいと存じます。順次御意見発表をお願いいたしますが、まず労働科学研究所員の藤本武君にお願いをいたします。
  38. 藤本武

    公述人(藤本武君) 今度の法案について御意見を申し上げます。  今度の法案は、皆さんも御存じのように、業者間協定が中心になっておるところの最低賃金法案であるというように私は理解しておるわけであります。なぜかといいますと、四つの方式によって最低賃金がきめられるということになっておりますが、第三番目の地方労働協約の効力拡張、これは一般的拘束力ともいっておりますが、その事項につきましては、日本労働組合企業従業員組合でありますので、ほとんど実施されないという見通しが強いということが一つございます。それから第四の賃金審議会方式の問題につきましては、一、二、三の方式、つまり業者間協定だとか、あるいは地方労働協約の効力拡張というようなものが、不適当または困難な場合にのみ発動する、こういうことになっておりますので、一番目と二番目の業者間協定を中心に置きました最低賃金立法である、こういうように解釈するわけでありますが、で、そう解釈いたしますと、今度の法案は、私は本来の最低賃金立法としての性格を持っていないと、こういうように理解せざるを得ないのでございます。  で、その理由を申し上げますと、第一は、世界にこういう立法を持っておる国はございません。私、最低賃金立法のことで各国のことを調べておりますが、こういう例は全然ございません。ただ一つ、アメリカ合衆国で一九三三年に産業復興法というのができましたときに、業者の間で作ります、コードといっておりますが、そういうものを基準に置く最低賃金立法ができたことがございますが、しかし、その場合にも大統領令によります再雇用協定というようなものによりまして基準を与えられております。しかも、その基準たるやものすごく高い基準でありまして、そのときに世界で初めて週四十時間制と最低賃金四十セントという基準を再雇用協定で、一応基準として協定したわけであります。そういうのがしいて申しますと、業者間協定に当るのでありますが、しかし、これはまことに進んだ立法内容を持っておりまして、これを除いてしまいますと、業者間協定最低賃金立法の中に入れておる例はございません。これは大体断言してよろしいと思います。  それから第二に、ILO条約の基準に私は違反しておる、少くとも精神については確実に違反しておるというように言わざるを得ないと思うのであります。それでこの条約の第三条の二項に、この労使の加わった機関で協議するというように書かれておりますし、「関係ある使用者労働者は、当該国の法令又は規則に依り定めらるべき方法及範囲に於て、尚如何なる場合に於ても同一の員数に依り且同等の条件に於て、該制度の運用に之を参与せしむべし。」というように書かれておる基準から考えますと、今度の法律内容は、つまり業者間協定というものを自動的にこの審議会において受け入れざるを得ない。それの修正権はない。つまりイエスかノーかというだけの権限しか与えられておりませんので、修正権はないということになります。修正権がもし与えられたといたしますと、実は前もって業者間協定をする必要は全くないわけでございまして、この法案内容が実はこの逆になってしまうということになります。それで、そういう点で少くとも私はILO条約に違反しておるのじゃなかろうかというふうに思うのであります。  第三点は、これは労働保護立法の精神に反するというように思うのであります。で、最低賃金立法に限らず、労働者保護立法といいますのは、一般の業者だけにまかしておいたのでは、労働者の保護は十分にはかれないと、こういうところから立法というものは出ておるのであります。たとえば労働基準法におきましても、放置しておきますと、日本経営者労働者を幾らでも長時間働かす、それではまずいから国家が介入して最高の労働時間を設定すると、これは労働基準法の精神でございますが、これは労働基準法に限らず、各国の労働者保護立法最低賃金立法も全部その趣旨でございます。日本業者に限りまして、非常に高い労働者保護に徹しました最低賃金を作るという保証は私は全くない。むしろ外国に比べますと、労働条件をもっと悪くするような傾向が強いということは、国際的にも日本がソーシャル・ダンピングという批判を受けておるところからも明らかなことだと考えます。それで、そういう点から見ますと、業者だけがきめましたところの最低賃金法律上の最低賃金に持っていくというような今度の制度は、労働者保護立法の、あるいは展低賃金立法の精神に全く背反しておる、こういうように考えざるを得ないと思います。さらに私がおそれておりますのは、もし最低賃金につきまして、業者間協定というものが立法化されるといたしますと、今後労働時間についてもそういうことをやってもかまわないということになりかねないと思うのであります。そうでなくても、労働基準法を二つに分けまして、中小企業労働基準法を作ったらいいというような一部の意見があるように聞いておりますが、もしそういうふうになりますれば、中小企業労働者の労働時間につきましては、業者間協定を中心におきまして運営しよう、こういうような道が開かれるおそれが十分にございます。でありますから、大げさに言いますと、私は今度の最低賃金立法は、日本労働者保護立法一つの危機的現象を示すものではないか、つまり労働者保護立法が崩壊していく一つの橋頭堡が作られるのではなかろうか、こういう点で、私は非常に心配をするわけであります。もともとこの審議会方式といいますのは、労働組合のないところで、労働組合経営者の間の団体交渉にかわるものとして設けられておるというのが通常の形態でございます。ところが、業者間協定の場合でいきますと、審議会というものは団体交渉の場にはならない、少くとも団体交渉的な交渉の場にならないということで、私は審議会方式をとっていないというようにむしろ考えるべきではなかろうか、こういうように考えております。以上が一番重要な点でございます。つまり、最低賃金法と名づけられておりますが、本質的には最低賃金法としての性格を持っていないという点でございます。  第二点は、家内労働者の最低加工賃について規定がございますが、これはこれまでの労働基準法になかっな規定で、ただ一点進んだ点だろうと思うのでありますが、しかしながら、よく考えますと、さか立ちいたしております。それは、この最低加工賃は、関連家内労働だけに規定するというようになされておりますが、日本で一番低賃金で苦しんでおりますのは、家内労働者でございます。それを関連家内労働だけに限定いたしますと、工場労働と関連の薄いところの家内労働者は、いつまでも低賃金のままに放置されるというようなことになっておりますので、まことに私は不十分な内容であると、こういうように思うのであります。  それから、この中では全国画一制が否定されているのでありますが、私はやはり日本のような賃金格差の大きい国では、全産業画一というような最低賃金制の方が必要なんじゃなかろうか、こういうように考えております。外国で確かに全産業画一制をとっている国はさほど多くないのでございます。五つ程度ございますが、このない国をいろいろ調べてみますと、実は労働組合が非常に発達しておりまして、産業別の統一的な団体協約を主要産業でとっておって、その産業では低賃金労働者はほとんどいない、それでそれから抜けているところに対してのみ賃金審議会方式による最低賃金制を実施している、こういうような国が非常に多いのであります。しかも、そういうような国で全産業画一ということを労働組合の方で主張いたしませんのは、むしろそういうようなことをやりますと、かえって各産業別の展低賃金決定するのに拘束を受けやしないか、むしろ低くされやしないか、こういうような危惧の念が一方にあるようでございます。それでそういう点からいたしますと、日本の場合には、遺憾ながら産業別の統一的な団体協組で展低賃金をきめるという例がほとんどございませんし、従いまして、各産業に低賃金労働者がたくさんいる、つまり外国ではある産業には低賃金労働者は全然いないというのでありますが、日本の場合にはそうではなくて、あらゆる産業に低賃金労働者がいる。ただその低賃金労働者の割合が違うというだけでございます。ですから、そういう国におきましては、私は全国画一的な、全産業画一というのが正確でございますが、全産業画一的な制度が必要なんじゃなかろうか、こういうように思っております。  それからもう一つ、今度の内容を見ますと、審議会権限が非常に薄らいでいる。以前から、日本では審議会が相当無視される傾向がこれまでにも見られたわけでございますが、それがやはり同じような形でこの法案の中に現われておりまして、単なるお添えもの的な役割しか演じられないのじゃなかろうかというふうに考えます。イギリスの場合なんかは、賃金審議会が二回目の答申をいたしますと、いや応なしにそれが通る、つまり労働大臣はただ一回の拒否権しか持っていないというような慣例があるようでございますが、日本の場合にはそうではなくて、そういう慣例もくそも、大体最低賃金、前の賃金審議会でございますか、五四年に答申になりましたものもうやむやになってしまうような審議会でございますので、やはり法文の中にはっきり審議会権限を強めるということが必要なんじゃなかろうか、こういうように思います。  それから、結論といたしましてもう一つお話したいと思いますのは、今度の法案を審議する場合にぜひ強調したいと思いますのは、日本ではすでに最低賃金法があるということでございます。それは労働組合法の第十八条の規定と、それから労働基準法の四カ条でございますが、その中にすでに最低賃金制に関する規定があるのでございまして、ないところに何かを作るというのではない、しかも労働基準法の規定は、実は政府が当然実施すべき性格のものであるのを、今まで実施なさらなかった、こういうような次第なんであります。それでありますから、それにかわりまして今度の法案が成立いたしますと、日本最低賃金制が新しく前進したのじゃなくて、実は後退した、こういうことに客観的にはなるのであります。そういう点からいたしまして、私は今度の法案が、できますれば廃案になるようなことが必要であろうというように私は期待しているわけでございますが、私たちの属しております社会政策学会、それから労働法学会の有志が去年の四月でございましたか、今度の法案がこの前の国会提出されましたときに、あまりにもその内容がまずいというようなことで反対声明を出したのでございますが、中には御記憶の方もあろうかと思いますが、そのときには実は百六十八名の方が反対に署名をされまして、政府案を支持されました方はわずか二名でございます。それで、そういうように日本の良識ある社会政策あるいは労働法の専門家がこぞってこの法案はまずいといっているのでございます。それでございますから、御審議に当りましては、そういうような点を十分御検討の上、慎重に御審議いただきたい、こういうように思います。  私の公述を終ります。
  39. 久保等

    委員長久保等君) ありがとうございました。
  40. 久保等

    委員長久保等君) 次に、国民経済研究協会理事長稲葉秀三君にお願いいたします。
  41. 稲葉秀三

    公述人(稲葉秀三君) これから私の意見を申し上げさしていただきますが、その前に、実は私はきょう御出席になりました公述人と違いまして、多少違った立場に立っておりますので、あらかじめこの点について申し上げたいと思います。  実は、私はこの問題の一番初めのきっかけを作りました労働問題懇会の委員であり、またこの最低賃金法律化するに当りまして作られました中央賃金審議会委員、また特にその最後の原案を取りまとめまするというときの小委員長であったということであります。  それから第二に申し上げたい点は、私は、今、藤本さんからお話がございましたけれども、およそ制度決定は、まあ単に一つの分野だけをもとにして、そしてそれを大きくして、それで全部を決定してしまうというやり方は、必ずしも好ましくないという考え方に立っておるということであります。現に、中央賃金審議会でこの問題を取り扱うに当りましても、もとより将来の形として全国一律賃金は望ましい。また、労使がお互いに話し合いをつけて平和裏にこの最低賃金やあるいはその他をするということについても望ましい。だけれども、やはり支払い能力であるとか、日本中小企業の特殊性であるとか、あるいはさらに藤本さんも御指摘になりました日本産業の構造が、これだけ経済が発展をしたと申しましても、二重並びに三重の姿になっておる、こういったような現実を見きわめて、どのように一歩々々日本の経済を近代化していく、またその賃金を、その格差を縮めて上げていくと、こういったような問題も考慮をしていかなければならない。つまりただ単に、法律立場や、あるいは社会政策の立場だけではなくて、やはり支払い能力その他すべてのことを勘案をして、そしてこの日本の上で民主的に一歩前進をしていくにはどうしていかねばならないか、こういったようなことをしていかねばならないという考え方に立っております。それからまた、私が国会で皆様方の御審議をわずらわしたいという点も、いろいろ立場もありましょうけれども、そういったような点を一つ考えていただきたい。十分考慮して、そして結果をよりベターにすると、こういったような意味でぜひともこの問題を慎重に考えていただきたいという立場に立っているということであります。  まあ従いまして、私個人は、ここで公述人としてこの席に参りまして御意見を申し上げるということが、あるいは不適格な人間であるかもしれません。ですけれども、今日は一応小委員長立場とか、そのようなものを離れまして、純個人的にこの問題につきまして、今の前提の立場に立って結論的に申し上げると、私は結論的に今の政府案に賛成するものであります。  その点の事情について御報告申し上げますと、私たちが一番やはり苦労いたしておりまするのは、日本産業実情、あるいは零細企業中小企業、大企業を含んだすべてのあり方というものをどのように、この長きにわたりまして近代的また統一的な構造に持っていくかということが、そのような観点から考えました場合、確かにこのやり方は合理的なものであるとは言えませんけれども、まあ包括的に今後、その日本最低賃金制度を進めていくということにつきましては、私はこのようなあり方が、結果を考えればよりベターではないかと考えるという立場に立っております。  ただし、第二点として申し上げたい点は、この四つの方式の中で二つまでが業者間協定並びにその拡張解釈、拡張適用というものを土台にして成り立っているということであります。これが国際的に見ましても、また日本実情を見ましても、果して最低賃金に値するかどうかということにつきましては、率直に申しまして、私は問題が残っておると思います。ですけれども、まあそれにつきまして、果して一律的な形が望ましいのか、またそれに対する支払い能力があるのか、また業者の現実のいわゆる抵抗の割合、あるいは協力の割合がどうだと、このようなことを考えますと、私は、この最低業者間協定をそのまま是認をするものではないけれども、これを地方賃金審議会でいわゆるスクリーンをする、このような性格を持つならば、私は必ずしもこれが全部だめだというわけのものではない。あわせてその他の点につきましても、いろいろ苦労をいたしまして、そのほかの方式といたしまして、まあ労使協定の拡張適用の道を開くとか、また、いわゆる行政官庁がその賃金審議会の議を経て最低賃金を交付することができるとか、このようなことを考えますると、この四つの方式は確かに理想的なものであると言うことはできません。しかし、出発点としては、私は、現実でそのままほっておくよりは、結果はよりベターなものになるだろうということを確信をし、その限りにおきまして、このやり方を支持をいたしたいと考えるものであります。  で、いろいろ間に立ちまして苦労をいたしました場合において、私個人も何らかの形において賃金格差を解消する上の画一的——まあ画一的までいかなくても、産業別の最低賃金まで作り得ないか、こういったようなことにつきまして、いろいろ関係業者とお話し合いを進めたりしたのであります。しかし、現実に中小企業が確かに低い水準で、たとえば千人以上の企業と三十人以下の企業が大体同一労働に対して半分、あるいは半分以下になっておる、あるいは家内労働につきましては、それよりももっと悪くなっていると、こういう実情になっておる。しかも、その中小企業者の一般的なそれではもうけというものが、大企業に対して、じゃ低い賃金の上にまさっておるのかと申しますると、必ずしもそれはまさっているというわけにはいえない。ですから、関係中小企業者からは、私たちは、じゃ最低賃金に応じていきましょう、しかし、その前に、じゃ私たちが最低賃金を払える条件をですね、税制の面において、あるいは国の産業政策において、あるいは払えなかったという部門についてそれを国家保障をするとか、十分それに応じていける態勢を作って下さいと、このように言われましたとぎに、遺憾ながら私たちは直ちにそれに応じるという条件が作り得ない。まあ、従いましても、一ぺんに理想的な最低賃金ができるというのはまれであってやはりだんだんとですね、吟を経、いろいろな闘争、協力の過程を経てこういうものがりっぱなものにだんだん進んでいく。このように考えますと、私は今度の四つの方式は、確かに十分ではありませんけれども、新しい出発点を作る点におきまして意義があるということを申し上げたいのであります。  私は、その後ずっと日本の各産業を回りまして、全部ではございませんけれども……、まだ法律化しておりませんけれども業者間協定によってどの程度のプラスとマイナスがあるかということを調べて参りました。確かにこれが方式そのものからきておるとはいえませんけれども、その他の条件もありまして、まあマイナスの影響を与えているよりも、関係業者についてはプラスの影響を与えているという事実が確かにあるということは断言できると思います。また、現に私が通産省に頼まれまして、今、日本の繊維の総合対策をしております。この繊維の総合対策にも何とかこの最低賃金方式を取り上げてほしい、それから、さらに、いろいろ回りました各地域につきましても、業者労働者が何とかやはりこれを法制化してほしいと、こういったような声が相当強いということを発見するのであります。ですから、法律そのものが理想的でなければ実行できないということにするのか、一つのワクを作っておいて、法律以外のいろいろな努力というものをすることにおいて大きくしていくという道を開いていくのか、これが私は今後与えられたコースとしてきわめて重要な考え方であると言わざるを得ないのであります。私は、不完全ではございますけれども、この四つの方式が与えられて、そうしてやはり労働組合経営者のいわゆる協力あるいはその他の形が実を結んでいけば、だんだんと私は均一的ないわゆる一件方式に近づいていくようになり得ると、このように感じるわけであります。  それから、最後に、国際条約の点についてでございますけれども、私は藤木さんと意見を異にするのでありまして、やはり国際的にも、私は何も、一律方式でなければならない、労働委員会方式でなければならない、国際裁判所方式でなければならないといったようなことが規定をされているのではなくて、やはりその国その国の特殊事情によって認められるという限りにおきまして、業者間協定以外にこの二つの方式があると、またそれに対しまして、ほんとうに推進をするということの熱意が表明されれば、必ずしもこれは批准に値しないものであるということは言えないのではないかと思うのであります。  私の申し上げたい点は、どうか日本の現実を総体的にお考え下さいまして、そうして、より結果をプラスにすると、また、ただ単に法律だけではなくて、ほかの努力もすることによってこれを生かしていただきたいということを申し上げたいのであります。確かに、りっぱなものを作って、それに全部右にならえをしていくというやり方も、一つ方式であるだろうと思います。ですけれども労働基準法がりっぱなものができたからといって、それが必ずしも日本の経済の現実、産業の現実では効果的なものではないと、このように考えました場合において、やはり私は、今後民主主義的なルールによって産業の発展と、それからマイナスの労働者賃金を上げていくと、またあわせてそれを合理化、近代化の素地にするということになれば、私はこれの目的というものは達し得られるのではないかと、このように感じるわけであります。まあ、消極的な賛成だと言われればそれまででございますけれども、その意味におきまして、私はこの政府案を支持いたしたいと思います。
  42. 久保等

    委員長久保等君) ありがとうございました。  御質疑を願います。
  43. 阿具根登

    ○阿具根登君 稲葉先生にお尋ねいたしますが、冒頭に言われましたように、お立場がお立場でございますので、あるいは一番最初の私の質問にはお答え下さらないかもわかりませんけれども、一言だけお尋ねしておきたいと思いますが、賃金審議会にこの問題を諮問された場合に、大臣の方からは業者間協定を中心にして何かお話があったと、そういうことになりますと、当初から業者間協定というのが一つの構想であって、その構想によって賃金審議会ではいろいろ審議されたのではなかろうかと、こういうような考えを持ちますので、もしもお答えがこの場で願えれば、お答え願いたいと思います。  それから次にお伺いいたしたいと思いますのは、ただいま御説明下さった中で、たとえば、最低賃金というのが業者間協定でなくてきまった場合に払えなかった、その支払い能力のない業者政府が何かの形でそれを援助するか何かしなければならないではないかと、こういうお話でございましたが、それを今度は裏返しますと、それでは生活ができましょうができまいが、支払い能力の範囲内でなけらねば最低賃金ということはきめられないと、こういうことになって、これは御承知のように、これが四十年も前に論議されたときにも、生活費と、他産業との比較と、それから支払い能力が非常に問題になりまして、最低賃金というものと支払い能力というものはなかなか一致しないのだと、それで非常に問題になりまして、そのあとで、まあ結果的には、これは労働保護立法であるから、まず生活と再生産力ということで結論が出てきたものと思いますので、ただこの法律だけ見ました場合には、支払い能力というものが非常に強調されているために、労働者の最低生活、再生産力を養うという、その前にこういう企業の支払い能力というものが先に走っているような気がするわけであります。しかも、その業者が今度はきめるということになれば、支払い能力の範囲内できめると、これが一等最初に浮び上ってくると、そうしますと労働保護立法というのから遠ざかって、中小企業、零細企業保護立法とは考えられますけれども、しかしそれに働いている労働者生活を守ってやるというのとは少し遠くなるのではないかと、こういうような気がいたすのでございますが、先生の御見解をお伺いしたいと思うのであります。
  44. 稲葉秀三

    公述人(稲葉秀三君) まず第一の業者間協定の問題でございますけれども、確かに中央賃金審議会がその審議を開始するに当りまして、この業者間協定が初めから主題の一つに浮び上っていたという事実は、私は否定はいたしません。と申しますのは、詳しい日時その他は、労政局長から御説明になるかもしれませんし、またあとから皆様方にチェックをしていただきたいのでありますけれども、それに先だちまして、昭和三十二年の初めごろから、私の記憶にして間違いがなくんば、労働問題懇談会で、これは労働組合の代表者の方々、あるいは経営者の代表者の方々、それに学識経験者の方々が割合幅広く集まっておられる懇談会でございますけれども、その懇談会で業者間協定最低賃金の問題がもうすでに出ておったのです。そうして、業者間協定について、静岡県の清水の例とかその他をいろいろ検討して、これが進めるに値するかどうかといったことが検討されたり、それと同時に、それだけではいけないから、一つ労働問題懇談会としては、広く日本最低賃金法を法制化するということについて進んでいこうという決定が行われ、それを労働大臣も御了承になって、そのコースに従って、三十二年五月に労働大臣中央賃金審議会委員の委嘱を行なったと、そうして第一回の会議がたしか七月ごろに開かれまして、そうして十二月の末までかかって、どうするかということについていろいろ話し合いを進めたいと、その限りにおきまして、初めから一つの題目になっておったという事実は、どうも公平に見まして否定することができないと私は申し上げます。  それから、次に支払い能力の問題でございますけれども、実は私が関係をいたしました経過をずっと御報告申し上げますると、その間のニュアンスがおわかり下さると思いまするので、簡単にその大要を御報告申し上げますと、実は賃金審議会答申が行われるまでの間に非常に複雑微妙な経過があったということです。そうしてこれは現に、中小企業者は、必ずしもこういったような制度ができるということにあまり御賛成ではなかった。つまり、業者間協定ならよいという態度で、中小企業者が初めからこれに乗ってこられたというわけではなかった。もっとも、初めからちょっとニュアンスの相違がありまするので、簡単には言えません。そうして現にこういったようなものは、日本実情に合わないのだ、また現にわれわれの資本並びに収益その他はこうなっているのだ、だから支払い能力はないのだ、こういったようなことが行われた。また組合側は組合側で、こういったような制度は、とても法制化、国際的に看板になるような最低賃金法ではないのだといったようなことになった。それを何らかの形において調整をするという仕事がまあはっきり申せば、公益側の仕事で、最後の段階では、私がこれを取りまとめるといったようなことになったわけであります。そのときに、やはり御存じのように、支払い能力というのは、これは現実の問題であります。ですけれども、われわれは最後の段階まで、ではこれこれの最低賃金をきめますから、支払い得ないときは、では国が補償しますということは、どうもあまり好ましい形ではないだろう。むしろそういったような財源があるならば、失業対策とか、いろいろ別個にこれをすべきものであって、最低賃金をやるためにその業者に対して融資をするというのは、場合によっては、国際競争力とか、あるいは技術の改善とか、合理化というものをマイナスにする可能性があるということを一つ考えまして、その立場において段階的にやっていくという結論に、最後は到達せざるを得なかった。  いま一つ重要な問題は、そのように申しましても、やはりおれは支払い得ないからといって店じまいをする。しかし、店じまいをするけれども、実際は食べていかなければならぬから、もぐりでいろいろ企業していくといったような例がある。現に日本では相当家内労働で多くの生産活動が行われているという事実があります。そうして家内労働では、まあ東京の例から申しましても、うちで働けるのですが、一日内職をしてせいぜい百五十円とか、その程度の内職しかないといったようなものがざらにあります。そちらに打ち込まれる、そうするとそちらの方がかえって競争力を持つという形になる。だから、理想的な形としては、やはり家内工業法と家内労働法を先行せしめてほしいということは、はっきり申せば、藤本さんに御批判をこうむりましたけれども、大体公益委員側の一致した希望であったと思います。ところが、さて家内労働法を作り、それを実施していこうとなりますと、膨大な人員も要るし、組織も要る。さらに日本のように非常に複雑な企業ではもっともっとそれに対する検討、対処していかねばならぬ。現に労働基準法だって一年に明るみに出ただけでも四十何万件の違反があるといったようなことになっているへたな形でこれをやればえらいことになるといったようなことになる。そこで、それではやむを得ずという形で、関係最低賃金をしたときに、関連の家内工業の労賃を規制をする、このような形をとってほしいというところにわれわれの最後の結論が落ちついた。このような私の話は、あまりにもやりとり、現実から出たものでございますので、学者さんの御見解とは非常に違うという点は初めから申し上げている通りでございますけれども、大体このような形においてほぼ共通の場ができかけた、このように御了承になっていただきたいと思います。
  45. 阿具根登

    ○阿具根登君 稲葉先生、非常に御苦労下さいましたことは、いろいろなもので拝見いたしておりまして、感謝申し上げておるのでございますが、私どもが心配いたしますのは、たとえば、稲葉先生の言てっおられますように、これが理想ではないのだ、現実問題としてまずこれから出発するのだということを言っておいでのようでございますが、私はこれが業者に与える感じというものは、これが最高のものだと、こういうように業者は私は考えると思うのです。で、先ほどおっしゃいましたように、いろいろ現場を見て回られまして、相当現在でも業者間協定ができておる。大臣の報告では八十からできておるようでありますが、それを見てみましても、業者間で最低賃金というものが作れるならば、これはない方がいいかもしれない、業者から見れば。しかし、そういうのが作れるならば、これは早く作っておけば、労働者がわあわあ騒がぬで、非常に自分たちには有利になるから、この際少しくらいまあ利潤が少くとも協定しようじゃないかという気分が非常にあると思う。私は非常に業者の方がおそれられておったのは、組合がこれに介入することであったろうと思うのです。もう一つは、もうそんなものは一切作ってもらわない、これが一番よかったかもしれません。そういう点から見てみますと、これが第一歩であるという識者の方々の御意見ではございますけれども、実際それを担当しておる業者になれば、おそらくこれが最高のもので、賃金というものは自分たちが支払い能力の中で自分たちできめるのだと、こういう考え方になってしまうのじゃなかろうか。私は、こう心配いたしますのは、実際、最低賃金法なんというものは、私はほんとう日本のように、まあ外国もそうですけれども日本は特別ですが、失業者が多過ぎて、そして幾らでもいい仕事になれば、金になれば出ていかねばならないようなみじめなところがあるのであって、実際、人が人を使う場合に、人が人たる生活をさせなければできないという責任観念を持っておるならば、私は今時分にこういう問題が起りはしないと思うのですが、それよりも、まず利潤の方が人の人たる生活よりも先に走っておるから、私は生活もできないようなことで働かせる、だからこういう法律案を作らねばならない。ところが、先ほどおっしゃいましたように、それをまあ理想に少しでも近づければ、それでは支払い能力のないところはどうするかというようになりますが、いずれの場合にも法律を作る場合には、どこかにしわ寄せが来ておる。どこか、だれかが犠牲にあっておる。その犠牲を最小限度にとどめる、あるいはそれに対して政府があたたかい手を伸べてやっているけれども法律というものは、一方に都合がよいならば一方に悪いのが多いです。そういう場合に、働いておる人、使っておる人ということを考えます場合に、政府施策が足りないとはいえ、中小企業に対する金融等も相当これは考えておられる。ところが、中小企業に働いておる労働者に対しては何も考えておられない。とするならば、こういう法律でこそ今度は、その一番みじめな仕事で働いておられる方々に対するあたたかい法律であるとするならば、やはり一部の犠牲がかりにあったとしても、それは基準法を例にお出しになりましたように、基準法を守っておらないところもたくさんございますが、それに到達するように努力していただいておるものもあるのだと、こうするならば、もう一歩前進した方がより親切であり、より労働保護立法としての性格になるのじゃなかろうか、こういうように考えるのでございますが、どうでしょうか。
  46. 稲葉秀三

    公述人(稲葉秀三君) 確かにこの最低賃金法のきめ方につきましては、いろいろな段階があり得るのだという事実は、私は否定いたしません。そして、しかも理想的な形としては、この段階の上で一番高いところへいくような形になっていくということが望ましいということは、中央賃金審議会答申案でも書いてある通りなんであります。ところで、一つやはり一番最低の段階として問題になりますのが業者間協定で、しかも現実は、これは私がそういうことを申し上げるのはおかしいのですけれども、私はそれが真実だと思うので告白いたしますけれども、決してそれができました経過から見まして、労働者の福祉をはかるという配慮も全然なかったとは申しませんけれども業者間協定ができるということにつきましては、別個の現実的な理由があった。それは景気がよくなり過ぎて、一般的に労働者は余っておりますけれども、特殊な労働についてはなかなか集まりにくいといったような事態から、やはりやや高いところで一律賃金をきめようといったような、一つの募集の形として業者間協定ができつつあるという事実も私は否定いたしません。しかし、それをスクリーンをして、やはり組合の方とか経営者とかあるいは個々の労働組合に入っておられない労働者の力でだんだん積み上げていくという形は、これでもできるではないか。また、過渡的にあまりに高いものになったために反対運動が起って、そして結局取れない、ないといった形で自後的に賃金が上らないよりはまだよいではないか、このようなやはり現実的な配慮が私たちをして答申をせしめたのだ、このようにお考え願いたいと思うのであります。
  47. 阿具根登

    ○阿具根登君 どうもありがとうございました。いろいろお立場があるようでございますし、かえって私の考えばかり一言っても御迷惑をかけるかと思いますから……。  次は、藤本先生にお尋ねいたします。今の問題から考えてみまして、こういう業者間協定というのが中心になって最低賃金法というのができますならば、それを適用されるような中小企業労働者というものは、もう自分生活を守るために業者賃金をきめるというような熱意をなくしてしまうのではなかろうか。これによって自分たちは、業者がきめられたそのものが自分たち賃金であって、自分たちはこういう苦しい生活をしておる、こういう苦しい産業をしておるけれども自分たちの待遇を改善してくれというような、もう場がなくなってしまったのだというような考え方から、この業者のきめられた最低賃金にあえいでいかなければならないような、非常にみじめなことになりはしないか、こういう点について藤本先生の御意見をお伺いしたいのと、一つは私どもはちょうどこの法案を今審議の最中でございますので、一応お伺いを申し上げたいのは、たとえば、こういう業者間協定というのが、四十数カ国が最低賃金法をきめておるけれども、世界のどこの国にもこういう業者間できめたのを審議会が審議をして、大臣に答申して、大臣がきめるというようなところはどこにもないのだ。しかも、これは日本でこそ今始まっておるが、よその国は三十年前あるいは四十年前、一番早いのは十九世紀末ころからこれは論議され、きめられておるものであって、少しでもその中のいい方をとって第一歩を日本が今から踏み出すならばいいけれども、その当時各国がきめられておったのよりも、もっと以前の姿でこういう最低賃金法というものが出されておるように考えられるわけです。ところが、それに対しましては、いや、これはアメリカのりっぱな最低賃金法の中に業者間協定というのがありますよ。これ一本でいっておられるようでありますので、アメリカのその業者間協定というものについて、先ほど少しお触れいただきましたので、これに対して、もう少しアメリカの業者間協定というものは日本業者間協定とどういうように違っておるであろうか、そういう点を一つお伺い申し上げたいと思います。
  48. 藤本武

    公述人(藤本武君) 第一の問題でございますが、今度の業者間協定に基きます最低賃金制というのが実施されますと、労働者の方が非常にあきらめてまずくなりはしないか、そういうような問題についての御質問だと思いますが、これは労働者の方がどういうように受けますか、実は詳しく調べておりません。それからまた、この法律化というのはまだ実施されておりませんし、ほんとうに実施された後はどうなるかわかりかねますけれども、私は一番問題は業者間協定を今各地でおやりになっているそういう業者は、その多くは労働組合が結成されることを大てい反対されている方が多いという、私は問題点があると思う。それで、これは箱根の例として聞きましたのですが、木の細工ですかの業者協定しようと始まったときに、組合の関係者が押しかけたりして、それを地方労働協約に転嫁しよう、こういうような運動に発展しましたところ、業者の方が逃げてしまって、業者間協定が結ばれなくなってしまった、こういうような例を私は聞いているわけです。あるいは間違っているかもしれませんですが、そういう一例からわかりますことと、それから業者間協定が問題になりましたときに、経営者団体の方から、これは業者だけがきめるものであって、労働組合が介入してはいけないということをだいぶ強調された文書を発表になっております。そういう点から見まして、むしろ業者間協定というのは、労働組合との団体交渉、つまり外国ではこれが当りまえだと、こういうことになっておりますものを、否定する立場業者間協定というものは進められている。ここに私は問題があるじゃないかと思います。それで、むろんその当該労働者労働組合を作って、そして組織活動を行なっていくということは、当然生じてくると思いますけれども、そうした場合に、業者の方でそういう戦闘的といいますか、指導的な分子をすぐ首にする。こういうような形が一方で行われますといたしますれば、私は業者間協定がそのまま固定化されてしまう、こういう点でこれは非常に心配するわけであります。  第二点の、アメリカにおける業者間協定の問題でございますが、これは業者間協定という言葉よりはもっと広い意味でございまして、たとえば、鉄綱なら鉄綱、自動車なら自動車、これは大資本も含めまして、これらの産業経営者が集まりまして、そこで一つの申し合せをする、それをコードといっております。その中で最低賃金と最高労働時間はきめない、こういうことになっている。それから労働組合があります場合は、労働組合と団体交渉をする、こういうことを拒否していかぬということになっております。そういう法律産業復興法の一部でございますが、産業復興法というものができましたのは、例の一九二九年の大恐慌の後で、アメリカの失業者が千二百万とか千何百万というふうに多数生じましたので、その恐慌克服策の一つとして産業復興法が出ているのですが、でありますから、国内の購買力を高めるというような意図がその中に相当貫かれておった。それですから、非常にレベルの高い労働時間ないし最低賃金を大統領の権限において指示するということになった。それで、そのときの例をちょっと申し上げますと、一時間四十セントということが再雇用協定で基準として出されたわけであります。その後の団体協約あるいはコードによってきめられました最低賃金を見ますと、三十セントくらいから四十セントくらいでございます。綿紡の場合で申し上げますと、綿糸紡績業でございますが、南部の方は三十セントで、北部の方が三十二・五セントという最低賃金がきまっております。これはむろん一時間当りでございますが、その当時にこの南部の綿糸紡績業の全労働者のうち、実は八九%が三十セント未満だったのです。で、普通から申しますと、南部の綿業はほとんど壊滅状態になるだろう、こういうように予想されるのでございますが、その結果生まれましたのはほとんどの企業が崩壊しなかった。で、しかも一年後には三十セント未満の労働者は八九%から六%に減少しております。それで、四〇セント以上の労働者は以前にはほとんどいなかったのでございますが、二〇%ばかりこえております。こういうような実情に一年の間に変っていった。その後違憲判決が出まして、つまり産業復興法が憲法違反であるという最高裁の判決が下りましたために、産業復興法は残念ながら二年しか継続しなかった。そのあと、それにかわるものといたしまして一九三八年の公正労働基準法というのができたのです。これが二回改正を受けまして現在アメリカで綿紡としての最低賃金立法として存在しておるわけでありますが、そういうような経過を実はたどっておりまして、現在ありますアメリカの公正労働基準法は、実はもっと進歩的であった産業復興法の代用品であります。代用品としての役割でございまして、公正労働基準法よりか産業復興法の内容の方がもっと進んでおった。それは金額を比較すればわかります。一九三三年の再雇用協定で指示されましたのは一時間四十セントでございますが、公正労働基準法が一九三八年にきめましたのはすぐには二十五セントでございます。それから七年後にやっと四十セントに持っていくというように非常に微温的な規定でございます。そういうことから、しいて求めれば、アメリカの産業復興法は業者間協定的なんです。現在日本の、今国会に提案されております法案とは雲泥の差でございまして、比較というよりは、最低賃金立法では最高水準に近いようなものと比較するということになると思います。
  49. 阿具根登

    ○阿具根登君 ありがとうございました。  もう一つお伺いしたいと思いますのは、実は賃金というものを考える場合に、賃金というものは使う人と使われる人が了解し合って、話し合ってきめたのが賃金だと、こういうように考えておるわけなんです。賃金というものはそういう性格である、ところがこれを業者間できめてしまって、それが賃金ということになってくれば、賃金そのものの考え方がくずれてしまうのではなかろうか、こういうことが一つ。それから業者間は自分たちがきめたのが賃金であって、これに対して使われておる人がとやかく言うべきものでない、こういう考え方がこれによって非常に強く打ち出されてきて、労働者組織も持たないようなところの人たちは組織を持つことすらできないような結果になってくるのではないか、こういうのが一つ。それからもう一つは、現在八十からの業者間協定ができておるようでございますが、その金額を聞いてみますと、最高が六千何百円であったろうと思います。ところが、最低になると三千円そこそこのものもあるのでございます。そういたしますと、厚生省のものを見てみましても、生活保護を受けておる人で三千六百円でございます。生活保護を受けておる何も仕事がなくて、しなくて、そして自分の家で休んでおられる方々、お年寄りの方、あるいはそういう方を考えてみまして、お一人の方に三千六百円というのが出されておる。そういたしますと、業者間協定でそれよりも下の線が出てくれば、最低賃金というものは生活扶助を受けておられる方よりも安い金になってしまう、またそういうことはあり得ぬのだと、常識はずれたことを言うということになって参りますと、それでは実際常識ではどのくらいが最低賃金かというようになって参りますと、今業者でやっておられます三千円そこそこ、四千円内外のところは全部支払い能力がそれよりしかないのだということになります。それでは、その常識できめたならばその人たちは一体どうなるのだ、そういう非常に矛盾が出てくるのではなかろうか、こう思うわけなんですが、これに対して一つお教えを願いたいと思います。御迷惑でございますが、稲葉先生にお願いいたします。
  50. 稲葉秀三

    公述人(稲葉秀三君) 私は、藤本さんに対する質問だと思って……。
  51. 阿具根登

    ○阿具根登君 実際は、両方にお伺いしたいのですがね。
  52. 稲葉秀三

    公述人(稲葉秀三君) 私からお答えいたしますけれども、確かにそのような事態がないとは言えません。しかし、考えてみますと、確かに私が見聞いたしました限りにおきましては、労働組合の力が非常に薄いか、ほとんどないといったようなところで業者間協定が行われておるという事実は無視することができない。しかし、結果は、その前よりはよりプラスになっているという事実も無視することはできない。しかしそれが業者間協定からきたのか、先ほど言った人をたくさんとるといったようなことからきたのかその点については十分解釈の余地がある。そこで私が申し上げたいのは、先ほど言ったことと関連をするのですけれども、これだけ強い日本社会党や労働組合がありながら、どうして中小企業に対する労働組織というものを現実的に伸ばし得なかったのか、もし僕は伸ばし得たならば、このような不平等やなんかというものはもっとプラスになっておったと言わざるを得ないのであります。じゃ先ほど言ったように、業者間協定ができれば労働組合組織がマイナスになるのかというと、私は決してマイナスにはならないと思うのです。しかし、それ以上にもっと下層労働者の福祉をするための労働組合運動が大きくなる、現実的になるということが日本で大事であって、その点はおれの方はできぬから高いものだけ作れという形では、僕は健全な民主主義的な発達というのはできないのじゃないか、ますます賃金は格差がひどくなる、これが僕はやはり一番個人として心配していることです。
  53. 藤本武

    公述人(藤本武君) 二点あったと思いますが、第一点は、業者間協定ができますと、賃金というものは、労使の間で協定してきめるというような、そういう考え方が薄らぐのじゃないかというような御意見でございますが、私は確かにそういうことが強まっていくのじゃないかと思います。そうでなくても、この前いつでございましたか、NHKの討論会で経営者の方と、それから組合の方がいろいろ議論されておりましたように、そのときに経営者の方が不用意かどうか知りませんが、賃金というものは経営者がきめるものであるというようなことをおっしゃいまして、労働組合の代表の方が、とんでもない、賃金というものは労使の間の団体交渉できめるものだ、こういう反論をなすったことがございますが、外国では賃金というものは経営者がきめるものではなく、労働組合経営者の間で団体交渉によってきめるものだ、そういうような慣習が一般に認められております。それで、最低賃金制というものは、主として未組織労働者の場合には、団体交渉できめられないから、組合がないのですから。ですから、それにかわって賃金審議会なり、そういったところでやつていこう、こういうような考え方が実はILO条約、あの中にございます。これは一般的な考え方だと思いますが、そういう点からいたしますと、どうも業者間協定では逆行する方向が強まるのじゃないかと、こういうように懸念いたします。  それから第二点の、金額で三千円台があるというようなことをおっしゃったわけですが、確かに四千円前後の場合が相当多いように私も聞いております。四千円でも、この業者間協定ができ上る前に比べますと、その業者間協定できまりました最低賃金以下であった人は確かに若干上っておる。そういう数字につきまして、私は政府の方で御発表になっております数字はおそらく正確だろうと思いますけれども、しかし、ただ私は最初に受けましたときには、当該産業労働者が全体として、たとえば、二〇%上ったというような印象を最初に文面では受けた。一般の方もそういうようにお受け取りになっている方が多いのじゃないかと思います。つまり、最低賃金をきめた場合に、それ以下の人が一〇%上った、二〇%上ったというのじゃなくて、たとえば、金網業で最低賃金制ができたというと、これが労働者全体がそういう二〇%、三〇%上ったのじゃないかという錯覚を起す方があるのじゃないかと思います。しかしまた、一方、業者間協定ができました経過は三つか、四つの場合がございますが、私が調べましたところでは、むしろ賃金を上げないと労働者が募集できなかったという事態が起きておやりになっておる。従いまして業者間協定をお作りにならなかったとしても、私はその程度は上ったのじゃなかろうかと思います。また逆に考えますと、業者間協定というものが最低基準じゃなくて最高基準になる可能性を一方で持っておる。つまり、業者の間ではお互いに競争してせり上げていくと不利であるから、従って申し合せをして、たとえば、四千円という線で統一しよう、こういうような傾向が実は強いわけでございます。それで、その最低賃金が最高賃金にならないためにはいつでも労働組合が必要である、私はそういうように思っております。でありますから、業者間協定によりまして、ある意味では最低賃金は最高賃金になって、賃金を放置しておいたならばもっと上ったかもしれない、そういう場合さえ考えられる、こういうように思います。
  54. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 私は、稲葉さんにお聞きしたいのですけれども、今、稲葉さんの説をお聞きしますと、今の実情に即して今度の法案必ずしも理想とはしないけれども、それが結果的といいますか、経過的にベターになる、こういう御発言がございました。ところが、法案内容そのものは、今、論議されているように、経営者側は労働者側に介入したらいかぬというような格好が業者間に行われているということなんです。そういうことの経過の中で、今の業者間協定というものを中心にしたもので実際にILOとの関係の問題が出てくるわけであります。それからまた、ILOばかりではなしに、賃金そのものに対する世界常識的な、対等立場で働くものと使うものとが賃金をきめるという格好が出てくるわけでございます。この質疑は、だいぶ今ありましたから繰り返したくないと思いますけれども、問題は、私どもお聞きしたいのは、造詣の深い稲葉さんですから、問題は実情に即してという形の今の日本における付加価値、賃金、こういう関係があると報告されておる。事実、実際問題としてそういう現実を私たちはよく知っております。そこで、この賃金格差なるものがどうすれば外国並みに引き上げられることができるか、経済の政策が中心になると思いますけれども、そこらあたりの意見を聞かしていただきたい。
  55. 稲葉秀三

    公述人(稲葉秀三君) 三つの質問をいただきましたので、それについてお答えを申し上げたいと思います。まず、業者間協定の問題ですけれども、私が弁解がましいことを申し上げるのもおかしいのだけれども、次の点があるということだけは僕は指摘しておきたいと思うのです。先ほどもたびたび申し上げたのですけれども業者間協定がそのまま最低賃金になるということじゃないということです。最低賃金をするために、わざわざ労働組合、中立、経営者側の委員会地方中央とに作って、それをスクリーンする。確かに上げるということまでできるかできないかはわかりませんし、また私個人は、あとでそれに対する個人的な意見があるので申し上げたいと思いますけれども、ともかくスターリンするということはできるので、何も業者間協定だけが最低賃金じゃないということだけは、われわれがきめた責任をはっきりしておきたいと思います。と同時に、この方式労使協定のことについても言えるし、また今後もっと行政的に最低賃金をきめてだんだんと平準化していくという役割も占める、そういうことを考えて、よりベーターだと私は申し上げたのであるということ、それを何か一つのものだけが百パーセントであるかのようにいつも攻撃をされて、私個人がいつも反動である、稲葉さんは今まで社会党びいきだったけれども、このごろは自民党になったとまで悪口を言われるということは、まことに経済の実情その他から考えて遺憾に思います。  それから、藤本さんの御意見と私若干違いますけれども、いろいろの関係のことをやっておりますので、地方に行きますと、最低賃金を作るのがいいかどうかということについて、案外業者労働者が真剣に考慮しているという実情もあるわけです。私個人に、今度法律が通ったら、労使協定にしましょうか、業者間協定でやりましょうかと言われるときに、私は労使協定の方が望ましいのだということを言っております。その限りにおいては、若干進歩的だということはお認め願いたいと思うのです。現に三つばかりこの法律が通ることにおいて、労使協定をやろうといったような、割合大きな御相談も私個人は受けている、その点ではどうも藤本さんの感覚は一方的であるような印象を——私も一方的かもしれませんが、そのような感じを受けるのだということを申し上げます。それからもう一つ協定について全国一律方式と、それから各業者、職種その他を考慮するということであれば、これは僕は違うという意見です。だから、もしも日本の経済が、将来は均一化するにしても、ともかく当面はやはり各業者、職種、地域別にとっていってだんだん積み重ねていくということであれば、私個人としては賛成です。そしてそのために一つ賃金審議会決定をやや強いものにしようということであれば、私個人はそれで賛成です。しかし、どうもそれでは社会党の内部がおさまりそうにもない。いつでも全国一律八千円でなければならないということになるから、これは反対しているのであって、そのようなニュアンスの相違があるということも、私は個人的にこの際はっきり申し上げておきたいと思います。それから、ILO条約の点でございますけれども、これは業者間協定最低賃金であるという考え方に立てば、私は批准に値しないと思います。しかし、今言ったような四つの方式があり、業者間協定もスクリーンをするという限りにおきましては、私はそれは堂々と百パーセント、アメリカとかあるいはイギリス、フランス式なものとは言えませんけれども、批准をしていくことは違反だというふうにはならぬのだと了解いたします。それから第三に、日本の経済がどの程度大きくなり得るかという質問は、これは非常にむずかしい質問でありますけれども、私考えますのに、今の日本の経済は平均今まで二%ぐらい、実質的に十一年間、十二年間に成長しておりました。このような形がほぼもう十年ぐらい続いていくということになれば、私はもうだんだん一方では雇用がなかなか集まらない、一方ではだんだん産業が技術的に進歩をするという条件の上に、等質的な賃金というものにだんだん私は移り得るような経済的な基盤が作られる。しかし、今においても過渡的にはやや部分的な労働不足、技術不足というものはあり得るので、一つ労働組合が発達をしてくる、それからさらに経営者の自覚が高まっていくということと相待って、だんだんと私は賃金格差が解消していく条件日本の経済にある、このように確信をいたします。ただ、一ぺんにそのところまでいくのか、あるいは段階を置いていただくのがいいかということになりますと、まあ経済や産業のことの方を私はどちらかと申しますると重要視する限りにおいて、社会党さんもやや段階的にいくということをお認め願いたいと言わざるを得ないのであります。
  56. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 前段に稲葉さんのおっしゃったことについてはいろいろ意見があるのですけれども、まあ議論になりますからまたそれはなんですが、問題は私はあとの、一番最後の問題なんです。日本の経済成長率との関係——しかし現状の経済においても、日本の現状の経済のうちにおいても、たとえば、大企業と中企業企業という工合に、下請機構が、二段にも三段にも中小企業が搾取され、あわせて労働者が搾取されているという現実、これは私は非常にたくさんあると思う。そういう形の中から大企業、中企業と数で比例をとらえて付加価値の問題が、今出されている統計が的確かどうか知りませんけれども外国と比べて非常に問題になってくると思う。その今の、現状における経済の中における今の中小企業——むろん能率化の問題を含み、基盤の強化、体質改善という問題を含んでくると思いますけれども日本だけが特別に、資料として出されるのを見ると、そういう面では非常に段階がある。これが賃金格差という形の中に、反映をしてきている。たとえば、するといたしますれば、その付加価値と申しましょうか、そういうものを現状の経済の中で中小企業、零細企業関係をどういう工合にしたらよいかという点についてお話しを聞かしていただきたいと思うのです。
  57. 稲葉秀三

    公述人(稲葉秀三君) それもきわめてむずかしいお返事ですけれども、簡単に私の考えておる点を申し上げますと、第一点として付加価値率は、この間総評で出されました賃金白書の数字をそのまま私は是認するということはできません。たとえば利子の問題でありますとか、家族労働の問題でありますとか、現在は実は日本の資本があまりにも過小であるために利益がたくさん出て、そうしてそれが税金として召し上げられて、ある時期になるとがくんといくという、資本の摩滅が行われているという要素も一方にあるということを考えますと、やはり付加価値率についてはもっと根本的な検討が必要だと思います。しかし、第二点として申し上げますと、やはり日本の経済がここまで発展をしてきているという事実その他から考えまして、やはりアメリカや西ドイツやフランス、イギリスと比べまして、日本の方が付加価値率が高いんだ。裏から申しますると、つまり賃金や消費の伸びがあるべき姿から比べると低い。こういったような事実も肯定するにやぶさかではありません。しかし、言われているほど大幅なものであるかどうかということについては問題があります。それから第三点として、最近は御存じのように、国民所得とか、経済循環が、いろいろな計算が行われるようになりまして、全体の経済の動きが終戦直後、まあ私が経済復興計画その他をやったときよりも、非常に精微に経済の姿をとらえることができるわけであります。それによりますと、税金とそれから貯蓄を引きまして国民の個人所得の中から消費に向く力というものは、御存じのように日本では平均六%前後、毎年三千億円ずつ購買力が上っておるという姿になっておるわけです。ところが、その上り方がきわめてアンバランスであるというのが最近目立ってきた傾向であって、すでに厚生白書にも出ておりますように、上の方の上り方と下の方の上り方がどうも最近ややびっこになり出しておる。また同じ労働者につきましても、大企業の方と小企業の方がやはりびっこになりそうな形になりつつある。これがつまり、国民がともに民主的に再建し苦しむという状態のもとにおいては、戦前ほどではないけれども、これがだんだん積み重なっていくと、やはり好ましい姿でないという事実を、私は確認をするにやぶさかではない。  そこで、そういう全体的な事実に立脚して一体、どのように所得の配分をしたらよいのか、あるいは賃金のあり方を考えればよいのか、税制のあり方を考えればよいのか、あるいは企業の資本の使い方その他についてどのような勧奨をすればよいのかということが、今後日本として今までよりも徹底的に考えていかなければならぬ問題だ。そうすると、まず二重投資とか過当投資とか、そのように将来生産力化しないような生産力をやはりマイナスにして、そうしてそのものを、むしろ将来楽しみになるような道路とか港湾とかその他いろいろな開発に振り向けていくといったようなやり方が一つありましょう。第二に、企業のむだを徹底的に排除する方策が一つありましょう。第三に、これはあまり社会党さんからよいという御返事は承わっていないのですけれども、もっと生産性を高く考えて全体の生産性の配分をどうするか、それを個々の企業にどのように配分するかという問題がある。それから第四に企業の隷属関係ですね、下請あるいはその下請という形で二重、三重になっておるわけです。これをどのように改善をしていくか。つまり、大きな工場の労働者賃金が増大をしても、それの下請やまたその下請の賃金が増大をしないということは、やはり私は価額関係が一方的だということだと思います。それと同時に、やはり企業が一方的に自分の個別企業のことばかり考え過ぎておる、こういったようなことによるものだと思います。また私は日本労働組合もそのような情勢に目をつけて、いろいろな配分関係その他をやっていただきたい。それをやや抽象的に打ち出したのが——むしろ大組合が自分の賃上げをする前に関連産業や下請産業にもっと高い値段をつけてやる、そうしてそれによって労働賃金を上げてやるといったようなその配分運動までやっていただきたい。それが私のいわゆる——悪口を言う人は、大企業賃金ストップ論という形になるわけであります。そのようなやはり労使双方の運動が、こういう最低賃金制と相待って、よりともに苦しみともに楽しみながら将来日本をよくしていくという道に通ずるのではないかと思うのであります。
  58. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 そこで私は、その今のたとえば機械化、オートメーション化の水準というのを見てみますと、外国との間においては、大企業は同じような水準に私はなっておるところが多いと思う。それでいてその中小企業を——これは稲葉さんに言うのではないが、政府との関係でわれわれの質疑の問題なんでしようけれども中小企業や零細企業に対する保護育成という問題をしようとせずに、大企業外国並みの賃金を払わずして、そうして一端の理由というのが賃金格差がはなはだしいから上を押える、こういう格好になっておるということを、純粋な経済を研究されている稲葉さんの立場から見れば、私はいろいろの御意見があると思う。そこのところの問題が、賃金格差があるから頭から押えるだけじゃなしに、賃金格差で経済全体の上において政府自身が中小企業、零細企業を育成するというところにコントロールをとっていく。そういう形の中で問題が出てくるなら何だけれども、大きいところは勝手なことをやってもうけて——もうけるという表現は非常に利潤を上げて外国のオートメーション化の水準にまで達しておるところの賃金と、痛められておる中小企業賃金との格差が大きいから、上も抑える、そして下はつぶれほうだいという格好です。その結論がどうなるかというと、実情において最低賃金、それが業者間協定という概念ができていくなら、これは私はなかなか理解ができない問題になってこようと思うわけであります。だからまた、あまり時間が長くなりますからやめますけれども、そこら、大企業賃金というものを押えて、賃金格差が大きい、それで賃金を上げないというようなこの状態の中の根本的な問題が追及されなければならぬと、私はこう思うわけです。そういうものをほうっておいて——稲葉さんはそうじゃないかわかりませんけれども、ただ実情において賃金がうんと最低賃金だということになってくると、何かこう一連の今のような動きの中のものが、稲葉さんの裏の意見にあるような感じも、今御説明を受けてある程度わかりましたけれども、私はやはりそういう問題が重要な問題のポイントになってくる。そうすれば、行政のやり方といいますか、国の施策のやり方によって、働いても食えないようなものでなしに、国内の、たとえば、需要の問題も出てくるでしょうし、生産力に応じて国民生活の水準をどう上げて購買力を回転をするかという問題に反映してきましょう。そういう中から、私たちはやはり賃金がどうあるべきかという正常な外国並みの形で賃金をきめ、最低賃金をきめていくというところにまで発展していくところに、ただ法律論だけではなしに、経済と見合った議論というものをしていいのではないか、こういう工合に考えているわけです。何か御意見ありましたら……。
  59. 稲葉秀三

    公述人(稲葉秀三君) 私もやはり制度的な問題が日本にあって、それが障害になっているという事実はこれを認めるにやぶさかではございませんですけれども、私はこの最低賃金法がすべての資本主義を直していくというふうに、百パーセント効果的なものにしていかなければならないかということにつきましては、それは若干現実の場に入り過ぎたということもございまして、多少見解が違います。しかし、この政府原案といえどもそのようなことにつきましては、使い方によりましては、その賃金格差を縮め、日本産業中小企業を通じて近代化する一このようなことに道を通じるものであるということは、私はこれを保証いたしたいと思います。それと同町に、やはり日本が近代化する過程において、農業を一体どのようなことにしていくのか、零細産業をどうしていくのか、あるいは国民のその他の自由職業、たとえば今雇用は毎年七、八十万人ずつ増加をしておりますけれども、それが一番望ましい形の近代的工業に吸収されていくというよりも、ほかの形になっていく、このようなものをどのように直していくかという全体の経済政策、労働政策とがやはりここで立てられなければならないということを前提として私は賛成をするのでありまして、私たちも藤田さんほどのことではございませんけれども、そのような角度で現実的に仕切りをして、そうして中央賃金審議会で多数的な見解として政府の方に御答申を申し上げた、このようなものであるというふうに御理解を願いたいと思います。
  60. 久保等

    委員長久保等君) 公述人に対する質疑は、この程度にいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  61. 久保等

    委員長久保等君) 御異議ないと認めます。  公述人各位には、長時間にわたりまして貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございました。この機会に委員会を代表いたしまして一言厚くお礼を申し上げます。  本日は、これにて散会をいたします。    午後三時四十六分散会