○内村清次君 私は日本社会党を代表いたしまして、
首都高速道路公団法案に対して反対の討論をいたします。
本
法律案の審議の経過を見ますると、なお多くの疑問を残しておるということであります。従って十分な時間を持って審議に納得のいくまで審議する必要があると考えます。また去る二日本法案に対する参考人の意見を直接聞くことができず、きわめて遺憾に存ずる次第であります。
昨日本法案の
計画路線の
一部分を調査いたしましたのでありまするが、単に視察したというだけで詳細の
説明も聞くことができず、真の本法案を提出しなければならぬという点につきましては、私はまだ疑問を持っておる次第であります。
私はここで社会党が何ゆえに本法案に対して反対するかという根拠を明確にいたしておきたいと思います。
最近の
東京都における自動車交通量の激増は、
昭和三十三年十月の都の
資料、調査によりますると三十七万台に達するといわれております。
昭和十五年の五万八千台に比較いたしますると、三十余万台の急激な増加を示しております。一方人口はと申しますると
昭和二十五年が六百二十八万人であったものが、
昭和三十二年におきまして八百五十七万人ということになっております。なお今後この急増の傾向は続くことは事実と考えます。
ひるがえって戦後の
東京都並びに他の都市において、いち早く戦災都市の復興
事業は
政府の重要施策として取り上げられ、都市の復興と
整備に一くわを加え実施したはずでありますが、残念ながら都市の骨格ともいうべき樹路の
整備につきましては遅々として進まず、昨日視察いたしました場所においても、蛇が卵をのんだごとく、一部のきわめて少
部分の改良を施したままに頓挫して放置されておる実情はきわめて遺憾な点であります。
都市計画のあり方、都市の形態の把握ということは自治体として十分研究もしておると思いまするが、当初に
計画したものはその姿を消し、改訂に改訂を加え、
計画を
変更縮小して、蛇の卵をのんだ姿となって、現在ほとんど中座しておる事実、しかも
政府はここ一、二年のうちに諸産業の近代的発展のいき悩みにおいて
道路の持つ
機能がいかに重要なものかを認め、あわてて
道路の
整備を促進するのだという初めて政策として打ち出してきたのでありますが、現実の
道路及び街路というものはきわめて劣悪な
計画しかなく、一時の間に合せ的なものであって、一貫性がないといっても私は決して過言ではないと思います。
この
都市計画のあり方についてあまりにも無知であり、近代産業の育成基盤をなすところの自動車交通に対しまして
政府の基本的
計画の貧困は当然責任を感じなければならないと思います。この場当りの解決策として考案されたのがこの本法であるといっても私は決して過言ではないと思います。都市の持つ重要政策のうち、何といっても重点を置かなければならぬと考えるのは都市の交通の流れ、すなわち
道路交通政策であります。この政策は
経済政策の一部としての交通政策の体系においては、鉄道あるいは水運と並行して重要な地位を占めるものであって、わが国明治以来の交通政策を見るとき、鉄道と海運に重点が置かれ、
道路交通は最も看過してきたのではないかと思うのであります。
かかる政策は、日本の交通
経済の構造そのものの跛行性、さらには後進性を生み、最近のごとき慢性的な交通難の主要要因をなす結果となっておるのであります。
政府は真剣に
道路交通政策と取り組み、
計画ある政策を行わない限り、早晩自動車の交通
機能は麻痺状態となることは論を待たないのであります。日本の
道路の悪いことは現在に生じたものではなく、神武以来のものであって、封建制の時代においては時流に即してこれでよかったかもしれませんが、国民に対して公約したということで、具体性に欠けた
計画をもって国民に示したところでほんとうに理解できないのでありまして、選挙のあるときに公約を八方美人的にされるが現在まで何
一つ十分に完結されておらないのであります。国民を欺瞞するもまたはなはだしいといわなければならないのであります。まして本法案のごときは、都市の形態と都民の影響することは大きいのであります。本法案の
公団が行う全体
計画を見ましても
建設費は一千億に達する巨大な資金を要するのであり、六十九キロの
建設費が八百五十二億、その他
関連事業としての街路の拡幅のために要する
建設費が百八十四億円といっておるのであります。五カ年
計画においてみますると、この資金構成において、五十億の資本金のうち国と
東京都において二十五億円ずつ支出し、さらに都は七十九億の交付金を出すという予定となっておるのであります。
そこで私は、何ゆえに本法案に社会党が反対するか、その理由の論点を明確にいたしておきたいと存じます。
その第一点といたしまして、現在ある
日本道路公団の組織を拡充強化することによって何ゆえできないかという点であります。
日本道路公団の
設立の
趣旨は、自動車による財政的、
経済的交通力の発達につれて、わが国の生産力の発達、
経済の成長につれ、自動車交通力の増進がこれを一そう促進させるからにほかならなかったと考えます。
日本道路公団の
東京調査事務所の設置規程にありまするように、工事の施工
管理ということを明確に規定しております。かかる特殊
公団を並立することはないと思うのであります。
政府はしばしば
東京都の協力が心要であると強調しておりまするが、既設の
日本道路公団において、都が資金的に、技術的に、積極的に協力するならば、前
公団の機構を拡充強化することによって一向過誤はないと思うのであります。しかも
東京以外の他の大都市においても、自動車交通の行き詰まりは早晩くることは必至であります。かかる際に本
公団のごとき
設立を要望する声が起ってくることは必然であり、屋上屋を架するがごとき方策は、
道路交通の一貫的政策上きわめて不合理の事態を起すと私は信ずるものであります。
反対の第二点といたしましては、
計画がきわめて劣悪で、
道路交通政策上からみて一貫性に欠けるという点であります。諸産業の育成並びに発達の基盤をなすこの
道路事業とその
整備は、近代産業においては車の両輪をなすものであって、切っても切れない
関係を有することは万人の認めるところであります。自動車の発達は、今後自動車が急激に増加することは明瞭であります。
政府の
資料によりましても、
昭和四十年において
東京都の自動車台数は八十万台に達すると予測をしておりまするが、この高速度
道路が完成されるときには、もはや自動車道として
機能を果し得ないものではないかと危惧の念を抱かざるを得ないのであります。何となれば四車線の高速自動車
道路をもっていたしましても、ここを走行する自動車はその一部で総台数の二割程度に過ぎぬのではないか、このほとんどが一般
道路を走行することになれば、四十メートルの街路においても麻痺状態となり、さらには
計画と実施面において非常なズレがあるからであります。実施においては敏速でなければならないものが、遅々として進まず、五カ年
計画が十カ年にも十五カ年にも延長して、ついにはしり切れトンボというのが現在までの
政府のやり方であります。このよい例が昨日視察いたしました予定
路線の中に見られまする戦災復興
事業としての街路
事業であります。せっかく
都市計画として取り上げながら、十年もの今日において蛇が卵を飲んだように放置されておるという実情を見たときに、私は一そう不安と危惧の念を抱いているのであります。この街路
事業が完成されておったならば、現在の自動車交通の混雑は幾らか緩和されていたはずではないかと思います。
道路という
道路、街路という街路は
整備ということとは縁遠くして、旧態依然として掘り返しの連続に終始され、これが
道路交通に非常な支障を生じておるのが現在の実態であります。また、
道路交通の一番の眼目となるものは路面電車ではないかと考えます。自動車交通政策ということを真に考える場合、路面電車の問題、さらには横断舗道を地階に施設するという面、この他重要な点が存するのであります。この
資料にある
基本計画を見ましても、都の
既成市街地、すなわち区部に限られたきわめてこそくな小規模の
計画である。五年先の自動車交通の推計で足るというようなこそくな
計画こそ、各種交通
機能を麻痺に陥れ、かつ混乱せしむることになると考えるのであります。本
計画のごときは、
首都圏整備委員会の
決定した
整備計画に基くもののうち政令で定めるごとになっておりまするが、少くとも半径五十キロ程度の圏内について十分研究する必要があるのではないか。また
東京—横浜間においても緊急に必要があるのではないか。眼前だけのこそくな施策が将来において甚大なる禍根となることは明瞭であります。
反対の第三の理由として、
管理委員会の構成と
業務の
関係についての暗影であります。すなわち十三条の
管理委員会の
委員の欠格条項において「
公団の
役員又は職員」を掲げておるにかかわらず、
委員会の構成員のうちに
公団を代表する理事長を加え、十六条において議決権を付与しておることであります。
管理委員会においては
公団の
役員に対しては意見を聞くことになっておるのは当然といたしましても、議決権を与えておるという点には納得しがたいものがあります。何となれば、もし理事長たる者が地方
公共団体に縁の深い
関係を有する者が選ばれるといたしましたならば、この
管理委員会の
機能とその性格はきわめてあいまいとなるおそれがあるからであります。
委員会の
委員のうち二人は
公共団体の推挙する者であり、
公共団体の発言は一方的となるおそれを生じ、公正であるべきはずの
管理委員会が不明確な運用に陥るということであります。
公団の
業務の
内容が利権の伴う事務所、店舗、倉庫、その他政令で定める施設というものを
建設し、
管理することを明定いたしておりまするが、
管理委員会の運用あしき場合におきましては、利権に利権を生み、汚職に汚職を生ずる結果を招来いたしまして、世間怨嗟の的となり、営利企業と化して、公共性を欠くおそれがあるからであります。
また、反対の第四の理由といたしまして、この本法案によるかかる
公団の設置は結局公務員の養老施設ではないかという点であります。この
公団の
設立において、その大
部分の幹部は公務員の古手であると考えます。民間の優秀な技術者を受け入れるような機構になっておらないという点であります。従って、死せる獅子であり、進歩的な
事業であるにもかかわらず、後進あるいは停滞、敢行性となり、
事業の伸展は見られない。進歩性のないところには暗影のつきまとう結果となることは必然であります。
反対の第五の理由は、本法の
計画予定
路線につきまして利害
関係者の犠牲が非常に大きいということであります。その一例を二号線の
計画路線について申し上げますると、古川の上を利用すると称しながら、その犠牲となるものは三千戸に及ぶものがあります。この
地域は、
昭和十九年に強制疎開によって一斉に住宅を取り払われ、また戦後緑地指定によって建坪率の制限を受け、特に一ノ橋から赤羽橋に至る北岸は十数年間にわたる区画整理によって被害をこうむってやっと完了したところであります。かくのように、一般の宅地を利用する場合が全体の二割四分もあり、そのうち民有地を利用しなければならない場合が一割もあるということであります。これはほんの一例でありまするが、正当な補償について具体的に開陳されて、犠牲者を逓減する措置が、この
計画の根拠において裏づけがされておらないと考えます。ほんとうに
政府が犠牲者のことを考えるならば、地元民の意見を聴取して補償基準を定めることが必要であると思います。何の具体的な救済的対策の裏づけもなくして
計画を作成することは、
計画性が愚劣であるばかりでなく、さらに実施の面において非常なそごを生ずるという点であります。
以上、その一端でありまするが、基本的に不合理と矛盾とをはらんでおり、本法案にきわめて遺憾な点が多いからでございます。しからば、日本社会党は、現在の都市の
道路交通政策にかんがみまして、自動車交通を放置してよいと言っておるのではございません。もちろん、自動車
道路の必要は、合理的な
計画に基いて
整備するならば、納得づくで進めさせていくことができると存じております。その一例を申しますならば、何ゆえ現在の自動車交通の混乱の生ずるまで街路
事業を中座して放置してきたかということであります。自動車
道路を
建設しても、既存の街路、あるいは
道路を拡幅し
整備しなければ、自動車交通の緩和はできないのであります。本法案を持つ以前にかかる種の
事業の伸展こそ真に重要であるといわなくてはなりません。また、
計画に具体性のある、こそくなものでないところの
首都圏区域におけるところの
計画を作成してこそ、初めて自動車
道路としての、産業発達に寄与する面が多大であると思うのであります。従って、自動車交通の
道路整備について
計画の確立と合理的な処理を主張いたしまして、私は以上をもちまして反対の討論といたします。