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1959-03-02 第31回国会 衆議院 予算委員会 第16号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十四年三月二日(月曜日)     午前十時四十九分開議  出席委員    委員長 楢橋  渡君    理事 植木庚子郎君 理事 小川 半次君    理事 重政 誠之君 理事 西村 直己君    理事 野田 卯一君 理事 井手 以誠君    理事 小平  忠君 理事 田中織之進君       井出一太郎君    内田 常雄君       小澤佐重喜君    大平 正芳君       岡本  茂君    加藤 高藏君       川崎 秀二君    上林山榮吉君       北澤 直吉君    久野 忠治君       小坂善太郎君    周東 英雄君       田中伊三次君    田村  元君       綱島 正興君    床次 徳二君       船田  中君    保利  茂君       水田三喜男君    八木 一郎君       山口六郎次君    山崎  巖君     早稻田柳右エ門君    淡谷 悠藏君       石村 英雄君    今澄  勇君       岡  良一君    岡田 春夫君       加藤 勘十君    北山 愛郎君       黒田 寿男君    小松  幹君       佐々木良作君    島上善五郎君       楯 兼次郎君    永井勝次郎君       成田 知巳君    西村 榮一君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         法 務 大 臣 愛知 揆一君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君         文 部 大 臣 橋本 龍伍君         厚 生 大 臣 坂田 道太君         農 林 大 臣 三浦 一雄君         通商産業大臣  高碕達之助君         運 輸 大 臣 永野  護君         郵 政 大 臣 寺尾  豊君         労 働 大 臣 倉石 忠雄君         建 設 大 臣 遠藤 三郎君         国 務 大 臣 青木  正君         国 務 大 臣 伊能繁次郎君         国 務 大 臣 世耕 弘一君  出席政府委員         内閣官房長官  赤城 宗徳君         内閣官房長官 松本 俊一君         内閣官房長官 鈴木 俊一君         法制局長官   林  修三君         総理府総務長官 松野 頼三君         総理府事務官         (経済企画庁調         整局長)    大堀  弘君         外務事務官         (条約局長)  高橋 通敏君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君         大蔵事務官         (銀行局長)  石田  正君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ――――――――――――― 三月二日  委員阿部五郎辞任につき、その補欠として永  井勝次郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員永井勝次郎辞任につき、その補欠として  阿部五郎君が議長指名委員に選任された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  昭和三十四年度一般会計予算  昭和三十四年度特別会計予算  昭和三十四年度政府関係機関予算      ――――◇―――――
  2. 楢橋渡

    楢橋委員長 これより会議を開きます。  昭和三十四年度一般会計予算昭和三十四年度特別会計予算昭和三十四年度政府関係機関予算、以上の三案を一括して議題といたします。  質疑を続行いたします。小川半次君。
  3. 小川半次

    小川(半)委員 私は、まず大蔵大臣予算根本問題、なかんずく補助金制度についてお尋ねしたいと思います。  私は毎年政府提出予算案予算書を見るたびに思いますことは、わが国予算にもう少し進歩の跡がほしいと思うことであります。そのことは何も予算内容そのものが新味に乏しいとか、新規予算が少いからというのではなく、予算性格というか、そのしきたりに対して、あきたらない感じを持つからでございます。たとえばわが国予算の中に補助金という費目がありますが、これは明治時代官尊民卑時代政府地方団体民間団体に金をくれてやる、すなわち権力を持った者が卑しい者、弱い者に施してやるというような思想から、この補助金という費目が作られたものであるといわれております。それは明治時代予算説明書を見れば、その思想が露骨に現われておるのであります。たとえば補助金を与えることにしたとか、はなはだしい場合は補助金を恵んでくれとの嘆願にこたえて下付云々というように、実に官尊民卑思想を現わした文字が散見されるのであります。その明治時代思想がそのまま現在の予算書に生きているということは、全くうかつなことといわねばならぬと思います。  予算国民のものであって政府のものではなく、施してやる、補助してやるという方式は改めなければならないと思うのであります。もちろん予算編成する者は、そのような意図でやっているものでないことはよくわかりますが、補助金という制度がある限り予算をもらう者は卑屈になり、予算作成者はつい優越感を持つのは人間の常でありまして、これでは民主的ではないと思うのであります。ことに地方財政に対する場合、補助金という性質は妥当ではなく、負担金あるいは分担金と改めるか、あるいはさらに一歩進めて予算内容根本的に改めて、地方財政が国から補助金をもらわなくても、自主的に維持できる方法が望ましいのであります。  このようにして補助金制度を縦横、あるいは掘り下げて検討してみればみるほど、このままのあり方では満足できないものがあるのであります。私は補助金という制度をとらずに、当然義務予算とすべきであると思います。そうした意味において、わが国予算中の補助金という費目は、将来改廃されなければならないものであると思うのでありますが、まずこの点を大蔵大臣からお示しを願いたいのであります。
  4. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 予算そのもの考え方は、小川委員のおっしゃる通り政府のものでもないし、一官僚のものでないこともよくわかっております。ただ補助金制度というものについていろいろな議論があることは、ただいまのお話にも出ておると思います。言葉が適当であるかどうかは別といたしまして、やはり政府予算を使います場合に、補助育成というか、育成強化というか、そういうような意味の金が出ていく、これはまあどういう名前を使うにいたしましても、そういう制度はどうもやむを得ないのじゃないかと思います。  しかしてこの補助金あり方といいますか、その名前にとらわれないでそういう意味予算使い方が過去においてもいろいろ問題になり、もらう側においていろいろ卑屈になるということもありましょうが、そういう意味でなしに果して十分に目的を達しておるかどうか。あるいはいろいろな問題を引き起しておらないか。本来の趣旨から見て問題がないはずにかかわらず問題を起しておるじゃないか、こういうようなことでこの制度あり方なり金額の増減というか、多寡についてもいろいろの議論があることは御指摘通りであります。しかしそういう意味でこの補助金等についての整理というか、もう少し国民の納得のいくような支出方法はないかということで、毎予算編成に際しましては、政府としてはいろいろ工夫をいたしておるのであります。特にただいま御指摘になりました地方財政というか、自治庁関係等予算についても論議はあると思います。しかしただいま申しますような考え方でいろいろ予算計上の際に工夫はいたしますものの、長い間のしきたりというか、積み上げの結果、今日のような状況になっておりますので、これは急激に変えるということは非常に困難です。やはり漸進的な行き方といいますか、整理というか、そういう方向で今御指摘になりましたような意味合いにこの問題と取り組んでいきたい、かように考えております。
  5. 小川半次

    小川(半)委員 私はこの補助金の中でも、特に民間団体補助金は形式を改めなければならないと思います。この民間団体補助金予算上不自然なものでありまして、ややもすれば不純な方面に流用されておりますし、あるいは汚職事件発火点となったりすることは過去の例にもよくあることであります。アメリカ予算書にも補助金と見られる文字は若干ありますけれどもイギリス予算書にはほとんど見られない制度であります。日本においても将来民間団体補助金制度に対しては改廃の大英断が必要ではないかと思うのであります。これは公共団体とは性質が違うのでございますから、この点もう一度お伺いしたいのでございます。
  6. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 先ほど申し上げましたように、それぞれの目的があって予算が計上されるのでございます。これを全部やめるか、全然新しいものを考えるとかいうことは、過去の経緯から見まして困難だと思います。問題は実行に当りまして非難が起らないように十分注意することだ、私どもはかように考えまして、万遺漏なきを期しておる次第でございます。
  7. 小川半次

    小川(半)委員 申し上げましたように、わが国予算補助金あるいは補助費的性格のある弊害として起ってくる問題は、猛烈なる陳情政治となって現われることであります。道路補助金をくれとか、あるいは何々の補助金を、あるいは起債をと、わが国官庁国会は明けても暮れても地方団体民間団体陳情者でひしめき合っておるのであります。特に予算編成期や現在のような審議期間に入りますと、院内の廊下も議員会館陳情者の洪水でありまして、知事市町村長やあるいは県会議員から村会議員に至るまで、予算の分け前をもらうために狂奔するのであります。そうした民間団体の中には、国会政府予算獲得のための係員が必ず数名いて、これらの者は予算ぶんどりのくろうとになっているといわれているほどであります。これは民間団体に限らず公共団体でも同じことであって、各府県競って東京出張事務所や寮を建設するし、地方銀行もまたこれにならって、交付金の受け入れを目当てに中央へ進出してビルを建築するし、最近は昔の大名気取り東京に下屋敷をかまえる知事が多くなったということであります。中には副知事東京常駐制を設けて、県庁には出なくてもよいことにして、もっぱら官庁国会折衝に当らせて、多額常駐費支出をきめたという県などもあるということであります。私は陳情政治は必ずしも悪いというのではありませんが、おのずから限度があると思います。陳情文書で十分であろうと思います。一ぺんでも多く陳情したものに予算をよけい与えるというわけでもないでしょうが、しかしこのままでは陳情したものは得をする、圧力を加えたものが勝ちだという誤まった風習となって陳情者がますますふえ、地方団体民間団体各種組合の本部も何もかも東京に集中して、官庁訪問国会陳情に明け暮れるということになり、国会官庁事務の妨げとなることは申すに及ばず、人口増加交通地獄東京が一そう混雑になるのでございます。この東京の今後の混雑ということについても、たしか分科会川崎秀二君も質問されたように聞いておりますが、私は果してこのままでよいのか、これからの東京はこのままでよいのか、これはやはり一つ陳情政治弊害があるのではないか、こういうことを考えるのでございますが、これは重要でございますから総理から御答弁願います。読いて自治庁長官もそれらの地方団体のこの陳情等に関する点につきましてもお答え願いたいと思います。
  8. 岸信介

    岸国務大臣 陳情ということは、要するに地方実情について中央の人々に十分その事情を認識せしめ、地方実情に最もかなったようにいろいろな行政が行われるようにという趣旨で本来行われるものでございますから、これをもって直ちに一切の陳情はいかぬというようには申し上げかねると思いますが、しかしお説のようにそれにはおのずから限度があり、節度を越えた陳情というようなものは、むしろ弊害をかもすいろいろな事態が起ってくる、その根本についてこれをどうしたらいいかという問題につきましては、先ほど来御議論がありましたように、本来地方公共団体財政的、自主的な基礎をできるだけ強固にして、中央にたよらなければならない部分を少くするということが根本でありましょう。また補助金等制度につきましても、根本的な改廃をするということももちろん必要であると思います。しかし、これにつきましてはいろいろな関係上一時にはできますまいが、その間においてはできるだけ平素から地方実情中央において十分に把握して、そういう陳情のために多額の旅費を使ったり、あるいは経費を乱費したりというようなことのないように、地方実情平素から把握して、そうしていろいろな交付金やその他の補助金配分等につきましても、陳情なくともこの地方実情に適するように行われるということを平素から心がけて、各般のことをやっていく必要がある、こう思います。
  9. 青木正

    青木国務大臣 陳情弊害、並びにこれに対する対策につきましては、ただいま総理から申し述べた通りでありますが、具体的の問題として、私ども、まあ陳情ということを――民主政治のもとにおきましてできるだけ地方事情を、また民意を知らなければならぬという意味におきまして、陳情を一概にいかぬというわけには参りませんが、しかし御指摘のように、度を過ぎた陳情につきましては非常な弊害を伴いますので、その陳情方法なりまたそのやり方について、私どもは常に地方公共団体等に対しても反省を促しておるのであります。つまり陳情いたすと申しましても、何も必ずしも上京しなくても、むしろあるいは文書で出していただいた方が――文書で出していただけば、関係局課に全部それを連絡いたしますので、かえって徹底するにはその方がいいのではないか、それからまたやむを得ず直接陳情に参るとしても、何も大ぜい来る必要はないのでありまして、かりにたくさん参るとしましても、実際陳情に来る人は一人か二人にすぎないのでありますから、そういう場合によけいな人は出ないで、できるだけ関係者だけで出ていただくというふうなことで、当面の問題はぜひともそういうむだのないように私どもも常に心がけ、また地方公共団体の自粛も促している次第であります。今後なお一そうそういう趣旨でやって参りたいと考えます。
  10. 小川半次

    小川(半)委員 次に経済調整資金の問題について大蔵大臣にお伺いいたします。  三十三年度に二百二十一億円というたな上げ資金を保有したことは適切な方法であったと思います。これは予算上変則的な制度でありますけれども日本のような経済の底の浅い国で、景気景気の影響によって敏感に響く、いわば波の多い日本経済を調節するためには、このようなたな上げ資金を持つことはむしろ必要であろうと思うのでございます。かつての日本経済は、これを一本の木でたとえてみますと、その経済の根は朝鮮、満州、台湾に広がり、その枝は遠く南洋に及んでおったのであります。この時代のように根の強い日本経済のときと、根のない底の浅い今日の日本経済との間に大きな差のあることは、申すまでもないことでありますが、しかし財政の組み方は、やはり昔の日本経済しきたりにとらわれ過ぎているように思うのであります。ただその中に三十三年度のごとくたな上げ資金を用意したということは変則的ではありますけれども経済調節の面のみならず、国民に与える精神的なゆとりの点においても大きな効果があったと思うのであります。私はこのような考えから、三十四年度にたな上げ資金を全部吐き出してしまったということは、実のところ惜しいような気がしてならないのでございますが、この点大蔵大臣はどう考えておられるかお答え願いたいと思います。
  11. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 御承知のように、三百二十一億円のたな上げ資金を作りました。このたな上げ資金目的なしにたな上げいたしたのではございません。すでに御承知のように、道路港湾整備、あるいは災害その他のためにこれだけの金をたな上げするということで、三十三年度予算はできたのでございます。三十四年度予算編成に際しまして、これを一般歳入に繰り入れて、これがたな上げ資金としての目的に沿うように、今回はこれを使ったのであります。使い方としては緊急な道路整備であるとか、港湾だとか、あるいは災害復旧科学技術振興その他等、それぞれ予定した通り目的に使ったのではございますが、ただいま言われるように、どうも惜しいじゃないか、確かにそういう見方もあると思います。しかし私どもは惜しいことは惜しいのでありますが、使い方は予定した目的に沿ってこれを使っているということを申し上げまして、御了承をお願いしたいと思います。
  12. 小川半次

    小川(半)委員 次に、昭和三十五年度における財源見通しについてお伺いしたいのであります。  この問題につきましては社会党の井手委員からも質問があったのでありますが、御答弁が薄弱でございましたので、私からもお尋ねしたいと思います。  勉強家井手君が指摘されたように、私も実は三十五年度予算編成するに当りまして最も苦心を要する点は、財源の確保をどうするかということだと思うのであります。まず第一にたな上げ資金がなくなったこと、第二には三十五年度において受け入れる剰余金が大幅に減少して、おそらく二百億円程度ではなかろうかといわれておるのであります。そこで私の計算によりますと、二十四年度はたな上げ資金二百二十一億円のうち五十億円は産投会計に繰り入れたのでありますから、残り百七十億円がまず穴があきます。次に三十四年度において受け入れる剰余金八百五億円のうち交付金等に百四十五億円、残り六百六十億円のうちの半分、すなわち三百三十億円を国債償還に充て、自由財源として二百三十億円が見込まれておりますことは御承知通りでございます。そういたしますと、大体三十五年度において受け入れる剰余金が二百億円程度、その半分は財政法によりまして国債償還に充てることになっているわけでありますから、自由財源としてはわずか百億円程度ということになります。二十四年度においての自由財源が三百三十億円あったのでありますから、差引三十五年度はこの剰余金の面におきましても二百三十億円程度財源不足を来たすわけであります。従いまして、さきに申し述べましたたな上げ資金百七十億円と合せますと、大体四百億円程度のものが三十五年度の財源において不足を来たすことになると思います。  一方、歳出の面におきましては、国民年金の平年度化に伴いまして二百億円の増加、旧軍人恩給の増が六十億円程度、その他年々増加を見ますところの義務教育費国庫負担金社会保険費防衛関係費等々、予算のおおむね一割程度増加を考えますと、大体一千四、五百億円程度歳出増加は免れないのではないかといわれておるのであります。しかしながらこれらの歳出増加に対しましては、私は一応二十四年度は下期以降において経済は非常に伸びて参り、景気は王向くものとの見通しを持っておりますから、これに伴って税収の伸びあるいは雑収入の伸びも当然考えられ、大体一千億円程度自然増収は期待できるのではないかと思うのでございます。  そこでこの四、五百億円の穴をどう埋めるか。世間の一部においては外為会計インベントリーを取りくずすのではないか、あるいは公債を発行するのではないか、あるいは新税の創設でもするのではないか等々、いろいろ心配する向きもありますので、大蔵大臣からこれらの見通しについて、これはきわめて重大でございますので、確信のあるところをこの際お示し願いたいのでございます。
  13. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 三十五年度の歳入歳出見積りを今日議論いたしますことは、数字的に申しまして困難である、これは大体御了承がいただけるかと思います。しかしただいまおあげになりましたような項目、これはもちろん三十四年度予算編成いたします際に問題になる数字でございます。歳入の面で剰余金が減るであろうとか、あるいは経済基盤強化資金を取りくずしてゼロになっているじゃないかというような問題であるとか、あるいはまた恩給年金その他のものが平年度化される、当然増のものでございます。そういうような点は、これは数字として三十五年度の剰余金幾らになるか、これはもう少し検討しなければならない問題でございますから、ただいまおあげになりましたように、二百億になるのかあるいは三百億に近いのか、その辺のところはもっと検討してみなければならないことでございますが、ともかく歳入の面で予定されるものが、剰余金などは相当減るであろうということは御指摘通りであります。同時にまた経済伸び等から見まして、税収入がふえるとか、あるいはこれまたたばこその他の問題も相当増収になるだろう、こういうことは今日予想のできることでございますが、その金額幾らになるかということをただいま申し上げることは非常に困難だと思います。従いまして数字はそういう意味でしばらく預からしていただきたいと思います。  しかして、三十五年度の予算がしからば非常に困難で、ただいま御指摘になりますように、公債を発行するようになるのじゃないか、あるいはインベントリーの取りくずしが必要になるのじゃないか、いろいろのことが一部でいわれておることも、私どもの耳にも入っております。私はもともとしろうと大蔵大臣といわれたものでございますが、三十四年度の予算編成に当りましては十分確信を持ちまして、三十五年度の予算編成に当って在来の考え方をくずさないでも三十五年度予算編成し得る、こういう見通しをつけた上で三十四年度予算を作ったのでございます。この点数字的には御説明をいたしませんが、御了承をいただきたいと思います。
  14. 小川半次

    小川(半)委員 ただいま申し上げたそういう心配もかなりございますので、政府においてはこうした心配のないように一つPRをしておく必要があると思います。  次に、最近わが国で新しい問題として注目を浴びておりまするところの金利政策についてお伺いしたいと思います。  日銀公定歩合は去る十九日から一厘引き下げられ、日歩一銭九厘となり、三十一年の超金融緩慢当時でも見られなかったところの日歩二銭の水準を下回って、国際水準に一歩近づいたのであります。しかし各国中央銀行公定歩合を見ますと、アメリカの年利二・五%を最低に、西ドイツでは二・七五%、イタリアでは三・五%、イギリス四%で、日本では今回一厘下げた現在の六・九三五%はまだ高率であります。  もちろんこれまでは公定歩合引き下げると直ちに景気を刺激するという意味もあって、容易に引き下げに踏み切れなかったものと思うのでございますが、今日はすでに一応設備能力にも余裕ができて参りまして、あらためて金を使わなくとも内外の需要増加に十分応じられ、金融はますますゆるんでくる傾向にありますから、私は今度の公定歩合引き下げを起点として、日本は新しい低金利時代に入ったと思うのでございます。その現われの一つが今回実施に決定した標準金利制度ではなかろうかと思うのでございますが、この点まず大蔵大臣の御所見を伺っておきたいのでございます。
  15. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 今回三次目の公定歩合引き下げを行いました。市中銀行もこれに追随していくということでございます。かねて政府が機会あるごとに申しておりますように、高金利である日本金利をして国際水準にさや寄せするというその方向に一歩進んだ、かように御了承いただきたいと思うのであります。  ただいま御指摘になりました標準金利の問題なども、そういう意味でやはり体系を整えるというその一つあり方として工夫されておるものでございます。しかし標準金利だけではなくて、やはり金利総体が下っていくことを、私どもとしては今後とも指導して参るつもりでございます。
  16. 小川半次

    小川(半)委員 標準金利はいわば市中貸出金利の代表というべき性質のものでありますから、今後の日銀公定歩合の上げ下げがあると、まずこの標準金利が追随し、そのほかの貸出金利については市中銀行が自主的に判断して引き下げに努力するということのようであり、つまり貸出金利の変更について市中銀行の自主的な判断の余地が広がったわけでありますが、私は、このことのみで、金融正常化には大して役に立たないのではないかと懸念するものでございます。  わが国市中銀行の貸出金利にはこれまでいろいろの種類がありました。安いのは日歩一銭四厘というのもありますが、高いのは日歩三銭四厘というのもあります。法律で定められた最高金利日歩二銭三厘であるのに、三銭四厘という、このように高い金利のあるのは、一体どういう理由によると思いますか。この点、大蔵大臣からお示し願いたいと思います。
  17. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 金利がいろいろまちまちだという点について、取り扱う機関の相違は別といたしましても、同一銀行で扱う場合でも、扱います目標というか目的によりまして、やはり信用度の厚薄があるわけでございます。そういう意味でこの市中金利はきまるのでございます。また同時に、総体から見まして資金の量が少いというような場合には、やはり高金利になるときもあるだろうから、需給の関係と扱います対象になるものの信用の厚薄あるいは利潤の厚薄、そういう点で自然に金利はきまってくる。その総体の資金量の方から申しますと、各種金融機関、これはまちまちでございますから、そういう意味で、相当高金利のものも出る、かように考えております。
  18. 小川半次

    小川(半)委員 大蔵大臣のおっしゃるように、信用の厚薄というものにもよりますが、日本金利が高いのはやはり臨時金利調整法という法律が災いしておると思います。私、今写しを持っておりますが、臨時金利調整法によりますと、次の金利はこの法律を適用しないときめられておる。こうして、一、返済期限一年以上の貸出、二、融資準則上の産業資金貸出優先順位表「丙」に属するものへの貸出、三、輸出前貸手形及び輸入決済手形以外の手形で、一件の金額百万円以下のものの割引並びに貸付、右の諸貸出は、法律による最高金利に縛られず、幾ら高い金利でも課せられるとある。こんな法律があるのです。幾ら高い金利でも課せられるという法律があるから、日本金利というものが国際水準までいかないのです。やはり私はこの法律が災いしているのではないかと思います。  このようなある一部のものには幾ら高い金利でも課せられる法律があって、どうして金利の正常化というものができるでしょうか。今回の第三次公定歩合引き下げは、私は金利の正常化が目的ではないだろうかと思っております。事実そうでなければならぬはずでございます。新しい金利時代とは、このような法律をなくすることが日本の低金利、要するに金融を正常化するところの方向でなければならない、私はこのように考えておるのですが、いかがでしょうか。
  19. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 その点は、非常に議論のあるところではなかろうかと思います。と申しますのは借りる身になってみますと、少々金利が高くても、ぜひとも必要だという場合もあると思います。しかし貸す方から申せば、借りる人の気持だけで金を貸すわけにもいかない。そういう意味で、標準金利制度というものを考えて、特に普通の常識で考えられるものについての金利の一定のあり方をきめていく。しかしそれ以外のものについてはある程度これは自由にまかして、借りる方と貸す方とで話がつくということが一つのまかされる範囲ではないか、こういうように私どもは思っております。従いまして、なるほど御議論なされば、そういう法律があるから非常に高い金利のものがあってけしからぬという議論もございますが、一面から申しますれば、やはり金融機関の経営と申しますか、信用確保の面から申しまして、ある程度のことは銀行には許してやらなければならぬだろうと思います。非常に抽象的に申しますと、非常に金利が安いのはインドなどが安いといわれているのでありますが、それでは非常にうまく貸し出しておるかと申しますと、必ずしも貸し出してはおらない、その結果いわゆる市中の金融ブローカーというか、そういう非常に高利の金が動いておるということがいわれております。そういうことなど考えてみますと、やはり適正なものは、一つの基準は示すが、同時に貸し方借り方の双方の話し合いによる金利というもの、金利制度も、これもあることが望ましいのではないか。それを全部とめてしまいまして、市中のいわゆる高利というような方向にいくことは望ましい金融の姿とは思いません。
  20. 小川半次

    小川(半)委員 市中銀行でも貸出金利をこころもち引き下げるようになってきたようでありますが、先ほども申し上げましたように、各国の中央銀行の公定歩合同様、各国の市中銀行の貸出金利日本市中銀行に比べてきわめて低いのでございます。日本市中銀行が貸出金利高のため企業の金利負担は非常に大きいのであります。毎月の金利が人件費の数倍という企業もかなりあるのであります。われわれは国際価格で商売しておるが、金利国際水準に近づけてほしい、こういうのが業者の声でございまして、われわれはしばしば聞くのでございます。海外との自由競争に打ち勝つ実力を養うためには、企業の金利負担を軽くして商品コストを安くしなければ、わが国の輸出には将来期待が持てなくなるのであります。市中銀行の貸出金は、昨年の八月現在で、普通銀行で五兆四千億円、信託、相互銀行その他合せますと九兆三千億円でありまして、年貸出利子ですが、この利率平均八分四厘七でありますから、これで計算してみますと膨大なる利子をかせいでいることになるのでございます。貸出金利が八分四厘七、預金利子が四分二厘二平均でありますから、大体わが国市中銀行は四分二厘五の利ざやをかせいでいるのでありまして、この利ざやかせぎも世界最高であります。  このようにして高額の利ざやを取っている関係上、日本市中銀行は自然経営が放漫となっております。むだな支出が多いのでございます。たとえてみますと、その一例を申し上げますれば、宣伝費でございます。この宣伝費をごらんなさい。新聞雑誌の広告はもちろん、正月がくればカレンダー、ポスター、さらに毎月々々数回新聞の折り込みがあります。時期々々にチャンスやヒントをとらえて宣伝戦をやる。たとえばただいまは皇太子殿下御成婚記念の預金大募集などと、大わらわになって宣伝しております。何の関係もない皇太子殿下を利用して利ざやかせぎをするとは、商魂たくましいとはいえ、いささかこれは欲ばり過ぎてはいないかと思うのであります。宣伝王国といわれているアメリカにおいてさえ、このような派手な銀行の宣伝はないように聞いております。イギリスの英蘭銀行のごときは宣伝などは全然やっていないということであります。  私はこういう点を大蔵省当局は十分注意して、かつ考えなければならぬと思うのでございますが、この点大蔵大臣からお考えをお答え願いたいのでございます。
  21. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 金利の問題から市中銀行の利ざやの点についての御意見でございます。私はこの機会にもう一つ金利の点で御指摘しておきたいと思いますことは、政府関係公庫その他の機関の金利、これは相当政策的な意味を持っておるせいもございますが、特に安いものがある。そういう事柄が市中金融との関係がどういうことになるか、また政府の作っております補助金、最初の御意見にもございますように、補助をするというような意味から金利を特に下げるというような政策が一部取り上げられておる、こういうこともやはり市中金利あり方について非常な影響を持つものである、この点を一点指摘しておきたいと思うのであります。  そこで利ざやの問題でございますが、御承知のようにただいまは預金金利も高いし、過去のような貸出金利の高い際は相当利ざやかせぎができたのじゃないかというようにも思われたかと思いますが、最近三回にわたって公定歩合引き下げ、そのつど市中金融の金利引き下げて参っております。いわゆる利ざやの幅は漸次小さく縮められておるという形でございます。私どもが銀行につきましていろいろ指示しておりますところのものは、不当な利ざやかせぎというような弊に陥らないように、また信用を過大に誇示するような過当競争にならないように、どこまでも落ちついた平静な金融であるということを指示しておるのでございます。過去二回の公定歩合引き下げにおきましては、銀行自身も経費の節約という点まで特にたえず気をつけておりますが、特にそこまでいかなくてもよかったろうと思いますけれども、今度は三度目の公定歩合引き下げに際しまして、預金金利がそのままになっておる現状から申しますと、よほど経費の節約についても意を用いないと、在来とはよほど内容が変ってくる、こういうふうに実は考えております。過去におきましても、経営が放漫に流れないようにそのつど注意はしておりますが、今後は一そう御指摘の点について私ども指示して参りたい、かように考えております。
  22. 小川半次

    小川(半)委員 今大蔵大臣は、預金利子の方もちょっと触れられたのでお尋ねしますが、この預金利子の方は、このまま据置となるのでございますか。あるいはこれも引き下げるのでございますか。これは預金者である多くの勤労者にも非常な影響がございますので、お尋ねしておきます。
  23. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 今日のところ、預金金利引き下げる考えはございません。むしろ先ほどお話にありました皇太子の御成婚記念の貯金奨励だとか、とにかく貯蓄を奨励すること、これは私どもの政策、政治の面から見ましても、また経済を健全に育成する上からも、これは絶対に必要なことだと思っておりますので、従前通りの力を注ぐつもりでおります。
  24. 小川半次

    小川(半)委員 正直に申しまして、大体政府はこれまで金融機関を甘やかし過ぎたきらいがあると思うのでございます。たとえば準備金制度でもこれは大蔵大臣、どうなっておりますか、これは二十三年から実行に移されるように法律的に措置されたものでございます。一定比率を日銀に強制的に預けるという制度でありますが、これが当分実行しないで、都市銀行と地方銀行の当事者が預金の一・五%を九月末までに預ければよろしいのであるというような妥協的な措置がとられたようでございます。私は直ちに強制措置を実行せよというのではございませんが、政府がこのような態度でありますから、日銀公定歩合が高く、従って一般の金融機関の貸出金利もなかなか下らないのではないかと思うのでございます。こういう意味において準備金制度はどうするのですか。これを発動する御意思があるのですか、どうですか、伺っておきたいと思います。
  25. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 ただいま小川さんも御意見を述べておられて十分御了承はいただいておるようでございますが、私ども金融機関の信用確保という意味におきまして、この預金準備制度も開いてございますから、これは必要によりましてはいつでも発動していくという考え方でございます。あるいはさらに預貸率等につきましても、特に私ども工夫いたしまして、この金融の信用度の拡大ということに一そうの努力をするつもりでございます。
  26. 小川半次

    小川(半)委員 次に企業の資本形成率のことで通産大臣にお尋ねしたいと思います。  私は国の経済を安定せしめ、通貨を安定せしめるには、資本の蓄積が先決問題であると思っております。三十四年度の二千四百億円の散布超過もその意味において効果的であると思っておるのであります。ところが私はことさらこのことを申し上げますの、国民一部の中に、このような資本蓄積に否定的な意見もあるからであります。現に本委員会におきましてもそのような意見が出たのでございます。もちろんわが国の資本形成率は、各国に比べまして必ずしも低いとは私は思っておらないのでございますが、日本のような資源に乏しく、また海外に定着した市場を持っていない日本経済は、資本蓄積がせめてもの経済をささえる太い柱になっておると思うのであります。しかるにこの資本蓄積に否定的な意見の現われる根拠はどこから生まれるものであるか、あるいは資本の蓄積よりも分配が先決であるという考えからきているものか、この点通産大臣はおわかりでありますれば、お答え願いたいと思います。
  27. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 生産に対する日本の資本蓄積率が、アメリカイギリスに対して非常に高いというのはこれは事実でございまして特に戦前におきましてもアメリカイギリスの資本蓄積率は、生産に対して八%から一〇%だった。それが日本は二〇%以上だ。これは多いじゃないか。特に戦後におきましてもアメリカイギリスは生産に対する資本の蓄積は一五%くらいでありますが、日本の方はこれが二七%になっておる、ドイツは二五%になっておる、こういうことは確かに蓄積が多いように見えますが、これは日本経済というものは、アメリカイギリスと違って、農村から、農業からだんだん工業に進展しなければならぬという建前にあることと、もう一つは特に戦後日本の施設がドイツと同様、非常な破壊を受けたわけでありますから、この意味におきましても、どうしても資本の蓄積をもっと強くしなければならぬ。そうして初めて資本の蓄積ができて、経済力の、推進力のもとになりますから、これはますます強くしていかなければならぬと思うわけでありますから、消費をふやすというよりも、まずもって資本の蓄積をするということが最も必要だと存じます。
  28. 小川半次

    小川(半)委員 大体私は、日本の場合はただいまの通産大臣の御意見が適切であると思います。分配が先か、資本が先かという議論になりますが、資本主義社会におきましてもあるいは社会主義社会におきましても、まず資本が構成され、次に労働が必要となり、そうして分配があるのであって、資本を蓄積して産業基盤を拡大し、輸出の増強に充てる、そうして国の繁栄によって社会保障が充実し、企業の繁栄に伴って分配も増大する、これが健全なる姿であると思うのでございます。古い社会主義理論を今でも金科玉条のごとくありがたがっている人々は、資本主義が大きく変りつつあることに気がつかないようでありますが、確かに資本主義は変りつつあるのでありまして、昔の中産階級は今日非常に大きく伸びておりますし、勤労者の生活も同様に伸びてきております。その証拠に、勤労者の預金が年々ふえ、また株券を手にする勤労者が非常に多くなってきております。いわば勤労者の貯蓄によって企業が動いているのであって、従って、一面において、今日の資本主義を支持しているのは、勤労者であると言うことができるのであります。もちろん、その反面、低所得者数の多いことも事実であります。であればこそ社会保障が必要であり、社会保障を充実さすためには、国の繁栄に待たなければならないのであります。  私は、以上のような趣旨で、企業の資本形成率が現在の水準にあることは、決して国民生活を低下せしめるものでない、このような考え方を持っておるのでございますが、これについてもう一度通産大臣から御答弁を願いたいと思います。
  29. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 ただいまの御意見は、全く同感でございます。
  30. 小川半次

    小川(半)委員 次に、労働大臣にお尋ねいたします。  労働大臣の諮問機関である労働問題懇談会において、ILO第八十七号条約、すなわち、結社の自由及び団結権の擁護に関する条約は批准すべきであると答申したことは、わが国の今後の労働組合ないし組合運動のあり方に対して、一つの転機をもたらすものとして、重視しなければならないことであると思います。政府では、同条約の批准に先だって、国内法を改正し、整備する必要があるから、今国会の会期中に批准することは時間的に無理であるとのことであります。政局を担当する責任の座にある政府としては、万全の準備をする必要上、これは当然やむを得ないことと思うのであります。  現在、わが国に公労法第四条第三項及び地公労法第五条第三項の規定のあるゆえんのものは、それぞれその規定を設けなければならない社会的必要性と、その存在価値に十分の意義を持っておるからであります。法律は、ただ漫然と生まれ、漫然と廃止されるものではなく、そのよって立つ根本と深い理由をきわめなければならないと思うのであります。  懇談会の答申は、この条約を批准するためには、公労法第四条第三項及び地方公労法第五条第三項の規定を廃止しなければならないと述べております。国鉄、電電、郵政などのいわゆる三公社五現業の公共企業体の労働組合では、これまでの規定に縛られて、その職員でなければその労組の組合員にも役員にもなれないことになっておるのでありますが、この規定は、組合は完全なる自由のもとにその代表者を選ぶ権利を有するというILOの精神に抵触する内容を有することになるかと思われるのであります。しかし、この規定は、公労法第十七条、すなわち争議行為禁止の規定に違反した者を、当局が同第十八条によって処分された役職員を、組合がそのままかかえておるときは、この規定によって法外組合として団体交渉を阻止することができる効果を持つものでありますが、万一この規定が全面的に廃止されるということになりますと、公共企業労組の闘争を野放図なものとし、第十七条の規定をじゅうりんする違反行為が続々と跡を断たなくなるおそれなしとしないのであります。  公共企業体は他の一般企業とは比較にならない重要な公共性を持っておるのでありまして、そこに従事するものは、まず公共の福祉を先決に考えるべきであって、公共の秩序が乱れやすい状態に置かれること、決してILOの精神に合致するものではないと私は思うのであります。この点、労働大臣はどのように考えておられますか、御所見を承わりたいのであります。
  31. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 小川さんの御指摘のように、公労法第四条第三項、地公労法第五条第三項が生まれて参りましたことにつきましては、それぞれ相当な理由があったわけであります。そこで、ILO八十七号条約を批准するとすればこの点が抵触すると思われるというのが、労働問題懇談会の答申であります。  そこで、政府は、基本的な労働政策の立場から、ILO八十七号条約は批准すべきものであるという態度を決定いたしますにつきましては、ただいま御指摘のように、公共企業体の事業というものは、一般民間産業の仕事と違うのでありまして、すべて国民に奉仕をするという立場に立って勤労に服するわけでありますから、民間産業とおのずから違った規範の範囲内において法的取扱いを受けるということは当然なことでもありますし、憲法の命ずるところまたは最高裁の判決等に見ましても、公共性を特段に保護するということは日本の法律でも各所にございますし、ILOの精神も――先般本席でもフィラデルフィア宣言等を論議されましたが、あれを見ましても、やはりILOの精神というものは――労使関係の正常なる運営、民主的な労使関係が遂行されるということを期待いたしておるのがILOの精神でありますから、ただ単に、公労法四条三項や地公労法五条三項を直すということだけで足りるというわけにはいかないのであります。従って、行政の責任を持っておる政府の立場といたしましては、この国民の期待をどのようにして満足させるかという諸般の法的、制度的な準備を整備いたしまして、そうして批准の手続に向いたい、このように考えているわけであります。
  32. 小川半次

    小川(半)委員 労働大臣の言われたように、言うまでもなく、公共企業体にあっては、その企業の運営が正常に行われるということが、労働組合の役員問題以前の問題として要請されねばならないものであると思います。懇談会の答申が、要は労使関係の安定と業務の正常な運営を確保するにあると言い、特に公共企業体の場合、事業の公共性にかんがみて、国内法規の順守、よき労働慣行の確立に努めることが肝要であると言っている点は、その意味において軽視されてはならない問題であると思います。  従って、この答申の後段の意味は社会党河野君の言われたように、単なる注意事項とか、あるいは薄弱な内容を持つというものではなく、答申の全体を一つのものとして尊重し、批准とあわせて整備及び国内法規を作るべきものであると思います。この点労働大臣のお考えを伺いたいと思うのであります。
  33. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 中山会長の答申に付属いたしまして、一年半にわたる研究の過程において行われました小委員会及び石井小委員会の結論等も付して答申をされております。私どもが諸般の準備を整備いたすという考え方の中には、この小委員会において論議されました問題、あるいはさらに最終的に石井小委員長の報告事項にありますような諸般の準備、すなわち自由にして民主的なる正常な労使関係が行われるということが大切なことである、それにはこういう事柄も多く考えられるであろうというふうなことをたくさん指摘してあります。そういう問題について十分な検討を遂げた上で、ILOの精神に沿うような労使関係が行われるように私どもは処置をいたして、そうして批准の手続をいたしたい、こういうふうに考えております。
  34. 小川半次

    小川(半)委員 わが国では民間労組においても従業員以外の者は組合員にも組合役員にもなれないことになっております。これは労働組合は企業内の組織であるとする企業別組合の考え方でありまして、これが今日までわが国の労使関係に適応していたことは否定できないのであります。ILO条約はこれに対して、一産業、一組合の産業別組合方式を導入するのではないかと思われるのでありますが、企業別組合の育った地盤が、不必要に混乱されないことが最も望ましいことであると私は思います。  いずれにしましても、ILO条約の批准によって、労働組合の立場は強化されるでありましょうが、そのことは決して与えられた権利を乱用してよいということではないのであって、このことが批准前の問題として考えなければならない重要課題であると思います。これは重要でございますから、この点労働大臣からもう一度御答弁を願いたいのでございます。
  35. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 御承知のように、労働組合法によりますれば、何人が労働組合を結成することも自由でありますが、公労法だけはそれを特別に制限しておるわけであります。そこで今お話のように、わが国は自然発生的に企業内組合という形で発生して参りました。御指摘のように、たとえば労働運動が早くから発達いたしましたイギリスなどは、洋服裁断師組合とかそういったような職業別、産業別組合組織の形で発達して参りましたものですから、そういう国々から見ますと、あるいは現在日本が慣習的に行なっております企業内組合というものは妙な形に見えるかもしれませんが、やはりイギリスあたりでも、一九三七、八年までは企業内組合のような形がたくさん残っておりました。先般日本に参りましたアメリカの労働法学者などの話、座談会などを聞きましても、やはり外国の労働学者などは、日本の企業内組合というものの基礎はそうしっかりしたものではなくて、だんだんとほかの方に転向するだろうというふうなことを言う者もありますが、御承知のように、日本の組合の発達は、やはりその組合の労働者が集まって組合を作るという長年の習慣が今日を来たしておるのであって、私どもといたしましては、それがにわかに形の変ったものになるとは考えられない状況であります。労働組合法では、御承知のようにいかなる者がどういう組合に参加しようとも自由であります。しかし御承知のように、日本の企業内組合は、その組合自身が持っておる規約の中で、自分たちの組合はその企業に従事している労働者をもって組織するというふうな規約を作っておりますので、従って日本ではユニオン・ショップという形が相当多く行われております。ILO八十七号条約を批准することによって、ある程度日本の労働組合の結成の形等にも影響あるかと思いますけれども、やはりその点は政府がどういう組合の形態が理想的であるかなどということについてあえて干渉する必要はありませんで、組合が組合員としての自意識で、やはり自分たちが利益であるという方向に持っていくことがよろしい。何にいたしましても正常な労働運動が行われる、そういうふうにできるだけ指導して参りたい、このように組合に対しては考えておるわけであります。
  36. 小川半次

    小川(半)委員 次に雇用についてお伺いしたいと思います。その前に数字に疑問がありますので、ただしておきたいと思うのでございます。  予算案によりますと、三十三年度は三十二年度に比べて所得税の増が五分で、雇用量は六十七万人の増となっております。三十四年度は三十三年度に比べて、所得税が二割五分も増となっておるのに、雇用量は七十四万人増でございます。これは何か間違いではないかと私は思うのですが、大体雇用量の増減は、民所得の増減と並行していることは、従来からの通例であり、常識であります。従来の予算書を見ましてもそういうことになっております。実際三十四年度の所得税が二割五分も伸び確信がありますならば、雇用量はもっと多くならなければならないはずであります。これは大蔵省か労働省かどちらかの計算違いではないかと思うのですが、間違いございませんか、大蔵省の方……。
  37. 世耕弘一

    世耕国務大臣 一応企画庁から御返答申し上げます。それは前々年のなべ底景気のときに、相当失業者が出ておったのでありますが、神武景気のときにもうけたのをば基礎にいたしまして、企業家は相当失業者をかかえておる、こういうようないきさつがございます。その点の数量に関しましては事務当局から御説明申し上げますが、その数字の食い違いが今お尋ねになった計算の基礎になって現われてくるのではないか。本来ならばもっとこの間の差が出てこなくてはならぬと思います。その点についての具体的なことは事務当局から答弁させます。
  38. 大堀弘

    ○大堀政府委員 御説明申し上げます。勤労所得税と国民所得の関係につきましては、先般主税局長から御説明申し上げましたように、多少所得と税のズレの関係がございます。私どもの見方からいたしますと、国民所得は三十四年度相当に伸びるわけでございます。その割合に雇用の増加はそれほどには伸びない、こういうふうに出ておるわけであります。それは雇用の増加率につきましては、一つは労働時間の関係と労働生産性の関係がございまして、三十三年度は労働生産性が低下し、また労働時間が短縮されたわけでございますが、三十四年度は逆に労働時間が伸びまして、また労働生産性が上って参りますので、雇用の増としましては、国民所得の伸びほどには雇用は増加しない、こういうふうに見ておるわけでございます。  もう少し常識的に申しますと、多少雇用の伸びは時期的に国民総生産の伸びとずれて参ります関係がございますので、三十三年度の経済が多少停滞いたしましたときの雇用の情勢というものが三十四年度に多少ずれ込みますので、生産の伸びほどには雇用は伸びない、こういうふうに考えております。
  39. 石原周夫

    ○石原政府委員 先般主税局長からお答えを大体申し上げたかと思うのでありますが、実は三十三年度の伸びを約二百億程度、現在の税収見込みに対しまして見ておるわけであります。従いましてお示しのように、二〇何%の伸びになるのでありますが、三百億という三十三年度の自然増収の見込みの上に乗っかった数字でございますから、それを差し引きますと、三百八十億程度になりまして、大体一割四、五分程度になります。これは今企画庁から申されました雇用の数字伸びに対しまして賃金が伸びておる。こういうことになっておりますので、パーセンテージがおっしゃいますような高いパーセンテージになりますのは、今申し上げましたような二十二年度の自然増収約二百億というものの上に乗っかっておるのだというふうに御了解いただきたいと思います。
  40. 小川半次

    小川(半)委員 いろいろ御答弁されましたが、これは私はもう一度詳しく計算していただきたいと思います。簡単なことなんです。五分の増のときに六十七万、二割五分のときに七十四万、こんな数字は出るはずがないのです。しかし私はしいて追及しようとは思いませんから、政府においてもよく再調査しておいていただきたいと思います。次に、私は、雇用を増大するためには、政府は思い切った対策を立てなければならぬと思っております。かつてドイツでは、雇用政策のために輸入を押えて、それだけの必要品を国内生産に充てたことがあります。私もこの政策の賛成論者でございます。現在わが国の場合でも、国内で生産される物と同様の物を外国から買っているものがかなりたくさんあるのでございます、まず、洋服地でございますが、私の着ているこの生地もそうかと思いますが、また大臣各位が着ておられる洋服地も、ほとんど輸入品かと思うのでございます。今わが国において、この洋服地の輸入を制限して国内生産に充てるといたしますと、毛織及び広幅の機業界におきまして約三万人の稼働人口が必要となってくるのでございます。また自動車の場合も同じことでありまして、日本には、せっかく自動車工業の優秀なる技術者が多いのであり、また労働者もあり余っておるのでございます。にもかかわらず、今なお毎年大量の外車が輸入されておるのであります。この輸入を押えて国産車に切りかえるといたしますと、自動車工業界に約一万人の労働者が必要となってくるのでございます。このようにいたしまして、一つ一つを検討してみますと、輸入を制限して国産品利用を行うことによって、直ちに二十万や三十万人の労働者が必要となってくるのでございます。もちろん、私は徹底的に輸入を禁じようというのではなく、技術や品質の参考のために、また外国との進歩の比較を見るために、最小限度の輸入はやむを得ないと思っております。政府において、このような思い切った政策を実行する御意思がございますか。またこれ以外に雇用増大の対策がありますなれば、お示し願いたいと思います。これは特に総理大臣から御答弁をお願いいたします。
  41. 岸信介

    岸国務大臣 雇用を増大することは、私ども予算編成の上におきましても非常な大きな目標として、常に頭に置かなければならぬ問題であると思います。その根本は、私どもが常に考えているように、日本経済を安定的に成長発展せしめ、その繁栄をもたらして、それによって全体の雇用量を増していくということに尽きると思うのであります。今おあげになりました国産奨励の問題につきましても、これも過去においてわれわれが努力をしてきたことであり、また今後においても力を入れるべきことであることは言うを待たぬと思います。あるいはまた今生産品の例をおあげになりましたが、国内資源の開発についても、外国から入れておる物を、できるだけ日本内地において、地下資源その他の開発によってまかなっていくということは、雇用量の増大に資することは言うを待たぬのでございます。こういう意味において、国産奨励も、あるいは国内資源の開発というようなことも考えて参らなければならぬと思います。  ただ御承知のように、今日の国際間の通商貿易の関係を見ますと、われわれが日本としてはどうしても輸出奨励、大いに輸出をやり、そうして海外市場において日本品を買ってもらわなければならぬ、その反面から申しまして、やはりそれぞれの国々から相当な物を輸入するということが必要になってくることは当然でございます。今おあげになりました自動車であるとか、あるいは毛織物の例もございますが、あるいはさらにたとえばウイスキーであるとか、あるいは香水であるとかいうふうなぜいたく品や、あるいは国内においてこれにかわる物が十分生産できておるじゃないか、それを輸入するのははなはだけしからぬというふうなお話が、従来もしばしばあります。しかしながら、フランスやあるいはイギリスとの通商関係を考えてみるというと、ある程度のものはこれを入れることが、日本品をこれらの国に輸出するところの必要条件になっておるというような点もございます。従いまして今おあげになりましたけれども、国産契励という見地に立って徹底した輸入制限や輸入をしない政策というものを徹底せしめることは、日本の立場としては困難であり、またその結果輸出ができなくなりますと、この方面において失業者を生ずることになるわけでありますから、この両方を見合して、結局日本経済を拡大し、繁栄せしめていくという一貫した政策をあらゆる面に遂行していくということが根本であろう、こう思います。
  42. 小川半次

    小川(半)委員 もちろん私は輸入全部を禁じてほしいという意図ではないのでございますが、やはりこの労働問題というものを優先的に考えていただきたいということを、特にお願い申し上げておきます。  重ねて総理に対してお尋ねいたします。青少年によき環境を作るために、競輪を廃止してはどうかという点をお尋ねしたいのでございます。もちろんこれは競艇の場合も同一の意味でございますが、ある中学校で、運動会のとき、走る選手に金をかけた生徒がいまして、社会問題となったことがあります。その原因や動機を調査したところ、子供たちにそのような動機を与えた社会的欠陥のあったことがわかったのであります。それはその中学校の近くに競輪場があって、そこから受ける賭博的悪習慣を子供たちが受けていることがわかったのであります。競輪が国民に与える悪影響は、子供のみならず、おとなの社会に対しても同様であることは申すまでもないことであります。しかもこの競輪に行く人たちの多くは、ほとんど低所得者が多く、辛うじて一家をささえている主人が競輪にこって勤務を怠り、あるいは家業を放棄し、そこからくる暗い話題や悲劇を、われわれはいやというほど聞かされてきておるのでございます。  もちろん競輪は地方公共団体財源の一部を補う役割は持っております。しかし、公共団体に幾ばくかの金の入る反面、多くの国民の家が傾き、あるいは、国民を泣かしめ、青少年の純真さが虫ばまれていく、そのことの方がどれだけ不幸なことであるかわからないと思うのであります。競輪が地方公共団体財源補充のため必要でありましたのは一時的のことでありまして、すでに戦後十数年、地方財政も弾力性を持つようになった現在では、もはやこれを廃止して、国民のため、とりわけ青少年のよき環境を作る意味で、これを廃止していただきたいと思うのであります。競輪は競馬と違って、人に金をかける行為であります。人間が人間に金をかける行為は罪悪であります。絶えず青少年のよき育成を訴えておられる岸総理の大英断をお願いいたすとともに、これについての御所見を伺いたいのであります。
  43. 岸信介

    岸国務大臣 青少年問題につきまして、特に青少年の生活環境というものを清浄なものにし、このために、社会におけるいろいろなことについて改善を加えるということは最も必要であると思います。この意味において、内閣に置きました青少年問題協議会におきまして、これらの問題を取り上げて検討をいたしております。特に今御指摘になりました競輪の問題でございますが、青少年に及ぼす面のみならず、社会的に及ぼしておる弊害は、御指摘のように、私も相当はなはだしいものがあると思います。これができましたのは、戦後の一時の経済、社会各方面における不安定なときにおける一つの所産として生まれたのでございますが、その後政府としてはこれが射幸的な――また健全な社会の風習の上から見まして弊害が多いということにかんがみて、新設は一切認めない、そして、これが以前よりも大きな規模において行われるというようなことにつきましては、これが抑制をして参っております。しかし、さらに進んでこれは廃止すべきものではないかという小川君の、御意見をもっての御質問でございましたが、御承知通り、私はこれの弊害につきましても相当大きく考えておりますから、その改善につきましては、いろいろ、数をふやさないと同時に、内容の改善につきましても、当局からいろいろな指示をし、弊害のできるだけ少いように努めております。ただ、これが行われましてから今日までの、あるいは地方公共団体への財政的の寄与の点や、あるいはその上りました金をもって工業の振興等に用いておりますこの事情から申しまして、今直ちに、一挙にして廃止するということにつきましては、なお検討を要すると思います。しかしながら、御指摘弊害の点につきましては、私も痛感をいたしておりますので、今申しましたような改善、内容等の検討につきましては、極力これに力を入れておりますが、しかし、どうしてもその弊害が除かれない、あるいは、さらに社会的な――地方公共団体につきましても、漸次財政の基礎も確立をしてきておりますけれども、さらに一般のそういう方面における進展を見るならば、根本的の問題として検討を要する問題である、かように考えます。
  44. 小川半次

    小川(半)委員 文部大臣にお尋ねいたします。  総理の御意思をただいま承わりましたが、文部大臣は特にこの青少年教育の直接の担当者として、競輪等のこうした賭博事業に対してどのように考えておられるか。本日の新聞で見ますと、文部省では少年のために文化センターを作ってよき環境を作りたいという方針でございますが、こういう青少年によき環境を作るためのものと、また賭博行為のこういう事業というものは矛盾するのでございますが、こういう点について文部大臣はどのように考えておられるか、お答え願いたいと思います。
  45. 橋本龍伍

    ○橋本国務大臣 ただいま小川委員からお話のございました競輪等の問題につきましては、教育上きわめて重大な問題と考えております。端的に申しまして、地方財政事情等もおありでありましょうが、これは何とかしてなるべく早い機会にやめる方向に努力をして参りたいと私は思います。従来から世界各国の中で日本は伝統的に賭博行為というものを非常にやかましく考えておりました。戦後になりましてから、復興のための財政関係の問題等につきまして、いろいろ賭博関係の問題が出て参りました。従来長いこと非常に賭博を厳格に考えて参りました日本の歴史的伝統から見ましても残念なことだと考えております。これは一つ地方財政等もいろいろ考えて参りまして、なるべく早い機会にこれを廃止するような方向で努力をして参りたいと思いまするし、現在残念ながら存在しております間には、なるべくこの弊害を避けまするように、十分留意をして参りたいと思います。
  46. 小川半次

    小川(半)委員 この点について自治庁長官のお考えを求めます。地方公共団体には、もちろん若干の財源はこれによって入るわけでございますが、しかし国民のふところからは出ていくのですから、国家全体から見れば何の効果もないのです。このことをよくお考え願うとともに、現在の青木長官のお考えを求めるものでございます。
  47. 青木正

    青木国務大臣 基本的な考え方といたしまして、私小川委員と全く同感であります。ただしかし急激にこれを廃止いたしますと、地方財政に急激な変化を与えますので、やはり将来の目標として、またできるだけ早い機会にそういうふうに持っていくべきものと考えるのでありますが、急激に廃止することにつきましては、いろいろ財政上の問題もあると思うのであります。そこで自治庁といたしましては、御承知のように、新しく施設を作ることとかあるいは開催回数、こういうものはふやすことを一切押えまして、まあ消極的態度をもって臨んでおるのでありまして、逐次その方向に行くように私たちも考えていきたいとかように思っております。
  48. 小川半次

    小川(半)委員 最後に総理大臣にお尋ねいたします。  皇太子殿下の御成婚式典が四月十日にきまったようであります。この日を政府では国民的祝日とする御方針のように承わっておりますが、これを行政的な祝日とするのか、法律としての祝日とするのかお尋ねしたいのでございます。行政的措置とするならば、官庁とか学校等は別として、会社、銀行等は休業するしないは任意でございます。しかし法律的休日といたしますれば、これは当然義務休日となりまして、そのことが銀行、会社等の小切手、約手の日限にも法律的関係が生じてくるのでございます。また裁判その他一切法律の関係が生じてくるのでございまして、もし法律的休日とするなれば、早くそのことを決定しなければならないと思うのでございます。この点をお伺いしておきます。
  49. 岸信介

    岸国務大臣 皇太子殿下御成婚の日を国民的にお祝いする意味において休日にしようということを閣議で申し合したのでございますが、今御指摘のようにただ行政的処置にするといろいろな点において支障もございますし、全国民がこぞってこれをお祝いするという気持に沿わない点もありますので、法律によってこれを休日とすることが適当であるという考えのもとに、実はわが党と社会党の国会対策等におきましても、これをお話をして、研究を願いまして、できれば議員提出の法案としてこれを提出しようというふうに話が進行しておると私は報告を受けております。従って法律的にこれがきまると思います。
  50. 楢橋渡

    楢橋委員長 午後一時三十分より再開することといたしまして、暫時休憩いたします。     午後零時二十一分休憩      ――――◇―――――     午後一時五十三分開議
  51. 楢橋渡

    楢橋委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  藤山外務大臣より発言を求められております。この際これを許します。  藤山外務大臣。
  52. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 金曜日の第一分科会の審査のときに当りまして、加藤勘十議員から、インドネシアの新聞紙その他国会等においていろいろ賠償問題について論議があったはずだが、それについて十分な通報が黄田大使から来ているかということでございましたので、まだ来ておりませんけれども、それをさっそく問い合せて通報させるようにいたしますというお答えを申し上げまして、当時予算委員会の総括質問のとき、もしくはそれに間に合わなければ外務委員会等に報告してもらいたいというお話でございました。金曜日の夕方のことでございましたので、土曜日の十時半にさっそく電報をいたしまして、御指摘のありましたビンタン・チモールを初めとしてその他の新聞紙上もしくはその他のいろいろな論議等にそういうことがあるか、特に加藤勘十議員から御質問のあった旨を書き添えまして、黄田大使に電報を打たしておりますが、まだ今日のこの時間までに来ておりませんので、この総括質問の時間にそれをお示しすることができませんことは遺憾でありますが、到着次第外務委員会の方に出すことにいたしたいと思っております。     ―――――――――――――
  53. 楢橋渡

    楢橋委員長 質疑を続行いたします。  黒田寿男君。
  54. 黒田寿男

    ○黒田委員 私は今日は主として岸総理大臣、場合によりましてはまた藤山外務大臣にも御質問申し上げたいと思います。  取り上げます問題は、現在外交及び国内問題として国民の最大の関心事となっておりますものの中から選びたいと思います。最初にまず日米安全保障条約の改定問題から始めまして、時間が許されましたならば別の問題も質問してみたいと思います。  安全保障条約の改定問題につきまして、一つどもに不可解なことがあるのであります。それは総理大臣がこの条約の改定の意思のあることを施政方針演説で明らかになさいましてから今日相当な期間が経過しておりますのにもかかわらず、この改定問題について最も重要な問題であると考えられます新条約の性格がどうもはっきりしない、新条約の性格いかんによりましては、私どもの考えからいえば、わが国の死命を制するような深刻な事態を生ずるおそれもありますし、また憲法との抵触を生ずる、こういう問題も起り得ると思います。それにもかかわらず、この最も大切な問題であります新条約の性格が明らかにされていない。きょうの私の質問は、今まで安保条約の問題に関しまして各委員会で多くの諸君が質疑されました各種の問題につきましては重複を避けまして、一切これには触れないことにいたします。ただ新条約の中心問題であります条約の性格の問題を中心といたしまして、国際連合憲章あるいは憲法、自衛隊法等との関連におきまして、むろん私どもの立場は憲法擁護という立場でございますが、そういう立場から質疑を進めて参りたいと思います。  本論に関する質疑を始めます前に、いま一つ不可解に考えられる問題がありますので、これについて御答弁願いたいと思います。性格の問題につきましては、またあとからお伺いいたします。  議院内閣制のもとでは、現内閣はもとよりそうでありますが、総理大臣初め各大臣の重要政策ないし重要問題に関する方針が与党である自民党の一致した方針と一致する、合致するというようなものでなければならぬと思うのであります。ところがわれわれに理解できませんことは、自民党におきましては安全保障条約の改定問題につきまして、まだ党内の意見が一致していないというように私どもには見受けられるのであります。それにもかかわらず、他方外務大臣はあるいは三月中には条約を締結するとか、あるいは四月中には締結できるだろうというようなことで、盛んに条約の締結の時期まで予想されたようなお話をなさっておるのであります。そこで私は岸総理大臣にお尋ねしたいと思うのでありますが、この安保条約の改定については与党の意見が一致するのを待って、その上で交渉を進める方針でありますか。それともかつて鳩山内閣におきまして日ソ交渉を進めたときの例のように、与党内に強硬な反対論がありましても、それとの調整を十分につけることなしに、あえて政府の方針に基いて条約締結に踏み切る、こういうことを鳩山内閣はやったのです。これについて総理大臣はどういう御方針を持っておいでになりますか、まずお考えを聞かしていただきたい。
  55. 岸信介

    岸国務大臣 現行安全保障条約を日米対等の形において、できるだけ不平等性をなくした形において改定をしたいということは、多年のわれわれの念願でありまして、その考え方はしばしば日米の首脳部の間においても話し合いをされまして、昨年御承知のように藤山外相がアメリカに参りまして、その根本考え方、すなわち日本憲法の範囲内において、しかも日米できるだけ対等な形において、この改定の問題を取り上げて結論を出そうという根本の話し合いができまして、自来いろいろ問題になる点等につきまして、日米事務当局の間にいろいろと検討いたして参っております。従ってこの問題についてもちろん各個の内容もしくは問題になる点等につきまして、党内におきましてもまだ十分な検討の済んでおらない、従って党の意見の十分にまとまっておらない点もあることは事実でございます。しかしながら政府としてはこの党内におけるところの意見もできるだけすみやかに調整をし、また同時に日米の交渉もできるだけすみやかにその結論を得るように進んで参りたいと思います。私は、この問題に関して党内において意見の大きな分裂があり、あるいは強い反対論があってそれを押し切って云々というような黒田委員のお話でございましたが、そういう事態の起らないように意見を調整して、その結論を得るように努力していきたい、こう思っております。
  56. 黒田寿男

    ○黒田委員 いま一つ、本論に入ります前に、これは警告的な意味を含めて、政府の方針をただしておきたいと思っておるわけであります。それは安保条約の改定の仕事を国会の閉会中にどんどんと進めたり、いわんや締結したりなどしないでほしいということであります。閉会中に交渉を進めますと、議員の最も重要な権利の一つでありますところの政府に対する質疑権を、事実上行使することができなくなる、これは民主主義の原則に反すると思います。また条約締結に関する行政府の悪意を許すということになるのであります。今私どもの見るところでは、特に条約の締結に急がなければならぬという客観的情勢もないようでありますし、また私ども社会党のように非常に強い反対論者もあることであります。そこで憲法第七十三条第三項の条約締結に関する国会のコントロールというような原則をも尊重するという意味から、閉会中に改定交渉を進めたり、いわんや閉会中に勝手に条約を締結して、あとから既成事実の承認を押しつける、こういうことのないように、十分議員の権利を尊重する建前で、交渉するならしていただきたい。私ども一番心配しておるのは、国会が閉会になってわれわれが地方へ出かけて行ったときに交渉の仕事を進められては困るということであります。これを一つ警告し、総理大臣の御方針を聞かしておいていただきたい。われわれはそういう懸念を持っておるということを申し上げておきたい。
  57. 岸信介

    岸国務大臣 この国会におきまして、安保条約の改定の問題につきましては、予算委員会あるいは外務委員会、その他のところにおきまして、相当に各種問題になる点等についての論議が行われて参っております。私どもは今黒田委員のおあげになり、御懸念されるように、国会の閉会中にこれを進めるのだというような方針を定めておるわけでは絶対にございません。すべてできるだけ早い機会に、日米の間の結論を得たいと努力をいたしておるわけでありまして、従って国会中におきましてもまたこの問題に関しての論議は、できるだけ尽していくべきである、こう思っております。相手方のあることでありますから、結論に到達する時期がいつになるかということはあらかじめわれわれが想定をすることは非常にむずかしいと思いますが、できるだけ早く、先ほど申しましたような党内の意見も調整し、またこの問題に関してのいろいろな国民等におきましても間違った考えに基いての懸念も行われるようなことの事態を避けるためにも、できるだけ早く結論を得て、そうして発表できるような事態に持っていきたい、こう考えておりますが、今申しますような御懸念のありますような点を意図してわれわれが交渉を考えておることは、絶対にないということを申し上げておきます。
  58. 黒田寿男

    ○黒田委員 これから私は条約の根本的な性格についてお尋ねしてみたいと思います。先ほどちょっと岸総理はこの問題にお触れになりましたけれども、どうもその程度では私どもにはっきりしない。その程度では、はっきりしなかったというところを私は問題にしておるのでありますから、そういう意味でお聞き願いたいと思うのであります。私はこの日米安全保障条約が、吉田元総理が締結して参られまして、この国会で承認のための審議をいたしましたときに、いろいろと吉田さんにも聞いてみた関係がございますが、あの当時私がいち早く指摘したのでありますが、この日米安全保障条約というものは、アメリカを当事国の一つとしております多くの相互防衛条約がございますけれども、そのうちのどのタイプにもはまらない、独特のものであったのであります。その独特のものというのはどこかといいますと、要するに相互防衛条項が欠けておる。その条項がなぜ欠けておるかと申しますと、要するにわが国に条約締結当時自衛力がなかった、こういうことになっておるのであります。わが国アメリカを防衛する能力も義務もない限り、むろんアメリカわが国を防衛してくれる義務を負担するわけはないので、これはバンデンバーグ決議で、私どもそう理解することができるのであります。ところが現在では自衛隊という自衛力がとにかくでき上っておるのであるから、バンデンバーグ決議の趣旨に従って相互防衛条約を締結する条件ができたように――私どもはそうは考えませんけれども、そういうふうに言いふらす人があります。また私ども懸念しますのは、どうも政府筋からも、何か今回の改定は平等、対等、双務的薪条約の締結であるかのような印象を与えるようなそのようなうわさがときどき伝えられるのであります。  それからもう一つ私の懸念を深めさしたのは、一昨日外務委員会におきまして岸総理が自民党の宇都宮君に対してなさいました答弁の中にあるのです。私はかねて安全保障条約の改定ということを政府が言っておいでになるが、これは普通の意味での改定であるか、それとも安保条約第四条に基く新条約の締結、そうして現条約の失効、こういう関係になるのかということを早くはっきりと知りたい、こう思っておったのであります。ところがこの機会なくして今日までになっておりましたが、一昨日この問題につきまして宇都宮君に対しまして外務委員会において総理大臣がお答えになっておるのを私は新聞で拝見したのでありますが、総理は新条約の締結である、行政協定も新たに締結することになる、こういうように答えられておるのであります。大体新聞で見たところではそれよりさらに深く突っ込んでの質問はなかったように読みましたが、私は総理大臣が新条約の締結だ、こういうようにお答えになりましたのを新聞で見て、これは容易ならぬことだと直感をしたのであります。なぜかと申しますと、私の考えでは改定か新条約かということは条約の性格問題に関連すると思う。その性格を形式の上に表わすのが、新条約締結という形をとるか、改定という形をとるかであって、性格に応じて別々の形式が出てくる。逆に言えば形式を見れば性格がどういうものになるかということもまた察知することができる、こういう関係にあるというように私は解釈しておりましたので、新条約だとおっしゃるので、これは性格の変更である、こういうことを私は、はっと感じた。条約の区域をどうするとか、事前協議事項をどうするとか、兵器の持ち込みについてどう改定をするかとか、期限をどうするかというような問題は、私は改定の範囲でできると思います。何も新条約を結ぶ必要はない。しかしたとえば安保条約の性格を片務的なものから対等平等な立場で双務的なものに変えるのだというようなことになって参りますと、条約の性格根本的に変更するものでありまして、部分的な修正をもあわせて同時に根本的な性格の変更にもなる。それが今回のいわゆる改定問題のねらいである、こういうように理解しなければならないと私には思われるのであります。  そこでこの点は、私は安全保障条約改定問題のうちで一番重要な問題であると思います。今までこの点政府の方でもはっきりとおっしゃっておりませんし、私はきょうが初めての質問でありますが、他の委員もいろいろ質問いたしましたけれども、どうもこの点がはっきりしない。一応構想を聞かしていただきたいと思う。構想と申しましても、何も先ほど申し上げましたように、きょう私は防衛区域をどうするかとか、期限をどうするかとか、そんな各論的なことは聞きません。根本的な性格についての構想だけをお示し願いたいと思うのでありまして、今私が申しましたような意味での性格の変更になるかどうか、それをはっきり言っていただきさえすれば、それで私は理解することができると思います。この点がどうも今まで長い間安保条約に関する論議が行われておりましたのにぼんやりしておった、これを一つ明らかにしていただきたい、こう思います。
  59. 岸信介

    岸国務大臣 私どもは現行の安全保障条約を全面的に改正し、形式として現在の安保条約を廃棄してこれにかわる新条約を締結するという形式をとりたいと思います。ただこれは御承知のように、法律におきましても全面改正と一部改正、いろいろな何がありますが、内容的に見て、実質がどういうふうに変るかということが、実質的の変更の議論の対象になると思いますが、形式から申しますと、新条約の締結という形式をとりたい、こう思っております。
  60. 黒田寿男

    ○黒田委員 これは相変らずわかったようなわからないようなお答えです。私の申しました言葉に答えていただけばいいわけです。新条約か改定かという問い方にしますと、ぼんやりした答えが出ますので、次のように質問してみますからそれに対してお答え下さればよい。従来片務的な条約だった。珍しい、世界に類例のないような、片務的な、もっと極端に言えば、屈辱的な、隷属的な条約であったのであります。それが対等平等な形で、しかも双務性を持った条約になるのであるかどうか、ここを私は聞いておるのであります。
  61. 岸信介

    岸国務大臣 新しい条約におきましては、私ども――ただいま現行の条約に対する御批判がありましたが、そういう立場からできるだけ対等な、また双務的なものにしたいと従来念願しておったのであります。もちろん日本憲法の範囲内ということが大前提となっておりますから、他のこういう憲法の制約を受けておらない国における双務対等性と同様な内容を持った双務対等性というものは、今度の新条約においてもできないことは言うを待たないのであります。そういう意味において、新条約で新しい形態をとりますけれども、実質的に見ますと、双務性というものが他の同種の条約のような完全な双務性になり得ないことは、日本憲法の範囲内という前提から当然そういうことになると思います。
  62. 黒田寿男

    ○黒田委員 まだそれだけでは、はっきりしないのです。双務的ではあるが憲法の制約のもとに置かれる、これはあとから詳しく説明いたしますが、私は憲法の制約がある限り、双務的な条約は締結することはできない、憲法違反の条約を締結しようと思えばこれは別問題であります。しかし憲法を尊重する限り、双務性の安全保障条約に改定することはできないのだというのが私の考えです。しかしこうなってきますと、双務というのは何か。双務にもいろいろあるという問題になるかもしれません、また、双務の解釈の仕方で問題が食い違ってくる。私が一番おそれておりますのは、日本の自衛隊の発動、安保条約の改定がなされて、自衛隊の出動が問題になり得ないということはないわけです。自衛隊が双務的な立場において出動するような、あるいはその他の形においても自衛隊が何か双務的な義務を負担させられるような、そういうものになるかどうか、そうなってくると私は憲法上の問題が起ってくる、そう思うわけです。これに対して一つ総理の御見解を聞かしていただきたいと思います。
  63. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどお答え申し上げましたように、憲法の範囲内においてすべてを考えるわけでありまして、安保条約の改定すなわち新条約の形式をとりましても、それによって自衛隊の性格というものに対しては、何ら根本的な変革をなすものでないと私どもは考え、またそうしなければならぬと思います。
  64. 黒田寿男

    ○黒田委員 ただいまの問題は非常に重要な問題であると思いますが、そこで私は、今私が質問しましたような趣旨をもっと詳しく聞くという意味でこれから質問を一つ一つ重ねて参りたいと思います。双務条約になっても自衛隊の性格は変らぬのだ、変えたら憲法違反になるのだ、これはそう言わざるを得ないと思う。ところが私どもが一番心配しておりますのは、ここで安全保障条約が改定される、自衛隊は今まで通り憲法の制約のもとで行動しなければならぬ、こういうことにはなる。けれどもそういう新しい事態のもとでは、故意かあるいは無意識にかいつの間にか自衛隊が変質してくるというようなことになりやすいのであります。それを私どもは非常に心配するわけであります。そこで私は一つ一つ順を追って質問してみたいと思うのであります。  私どもは自衛隊の制度それ自身が憲法違反だという解釈をとっております。しかしここでは、これについての憲法論はやりません。私どもは自衛のためといえども軍隊及びその他の戦力を持つことは禁ぜられておる、現在の憲法のもとでは禁ぜられておる、こういうのが私ども考え方であります。これが平和憲法に関する正しい解釈だと信じておりますけれども、これに対しまして保守党政府の方は、自衛のためならば軍隊及び戦力を持つことは認められる、こういう解釈のもとで自衛隊を作ったのであります。このように、私どもの目から見れば無理な解釈をして作った自衛隊でありますから、その自衛という観会はできるだけ厳密に、厳格に解釈して、いやしくも拡張解釈をしたり、ゆがめた解釈をするようなことは、断じて許されないと思うわけです。この問題が安全保障条約の改定の問題に関連して起ってきはしないか、こういうおそれが私どもにあるわけです。  そこで、わが国におきまして、自衛隊が自衛隊としてだけ存在しておるのでありますならば、自衛隊の憲法の制約からの逸脱ということが比較的に防ぎやすいのであります。ところがアメリカの軍隊が、すなわち単なる自衛力でない本来の軍隊が、日本に駐屯してきておりまして、自衛隊との接触を生じておる、このことによりまして、自衛隊について憲法違反の事態の惹起しやすい条件がここに発生するのであります。いわんや条約によりまして万一自衛隊がアメリカの軍隊との協力関係に置かれるということになって参りますと――これは私は今でも実情はそういうようになっておると思うのでありますが、そうすると自衛隊たることから逸脱して憲法違反の事態が発生する、そういうことになると私は思います。  そこでどういう場合に自衛隊の行動が憲法違反になるかということを、今安全保障条約の改定が企図されておりまする現在、あらためて一つ政府も私どもも、お互いに虚心たんかいに研究してみる必要があると思うわけでありまして、きょうは私はそういう気持で質問申し上げておるのであります。そういう研究の必要がございますし、それをやることによりまして、自衛隊を厳格に憲法の制約のもとに置くことができますように、私ども政府とともによく監視して、憲法擁護に努めなければならぬというのが私どもの考えであります。そこで私はこういう考えからこの際自衛隊とは何かということを一つ徹底的に考えてみる必要があると思います。  念のために申し添えておきますが、私どもは、さきに述べましたように、自衛隊そのものが違憲である、違憲の制度であるというように解釈しておるのであります。しかしここで私がこれから憲法違反、憲法違反と申しますのは、そういう意味ではないのであります。そういう意味議論は、もうずっと以前に議論済みで、ここでまたそんな論争をやっても水かけ論になるだけだと思う。そうでなくて、私がここで憲法違反だと申しますのは、自衛のためならば軍隊を持つことができる――これは政府の解釈でありますが、そういう自衛のための制度であるところの自衛隊も、自衛の範囲を越えた行動をすると、これは保守党的な憲法解釈のもとにおいてさえも、憲法の制約を破るということになりまして、すなわち違憲になる。これから違憲々々と申しますのは、そういう意味のことでありますから御理解おきを願いたいと思います。  そこで自衛隊のいかなる行動までが合憲的であり、いかなる部分から違憲になるかということを知りますためには、私は自衛隊と軍隊とを比較してみると一番よく理解しやすいと思います。私もいろいろと考えてみたのですが、これが一番わかりやすい方法になると思う。  そこで政府に質問しますが、一体自衛隊と軍隊とはどこが違うのであるか。抽象的でなく具体的に御答弁願いたいと思うのであります。ちょうど防衛庁長官がおいでになっておりますので、専門家でありますから、これは一つ防衛庁長官にお聞きしてみたいと思います。抽象的でなくて具体的に説明していただきたいと思います。
  65. 伊能繁次郎

    ○伊能国務大臣 お答え申し上げます。申し上げるまでもなく、自衛隊は自衛隊法によって規定せられておりますが、ただいま御指摘の具体的に自衛隊と軍隊との相違はいかんということに相なりますと、自衛隊は自衛の目的以外には使用することができないということで、戦時国際法上交戦権を持っておるとおらないところに本質的な違いがあるかと存ずる次第であります。
  66. 黒田寿男

    ○黒田委員 その程度では、はなはだ抽象的であって、少しもはっきりしない、私はそう考えます。その程度のことしかお答えになりませんから、それだけでは不明瞭であるということを証明いたしますために、私の方からこのような相違があるのではないかということについて、私が考えてみたことを申し上げてみて、そうしてそれに対して政府の御答弁をいただきたいと思います。  私は自衛隊はもちろん軍隊だと思います。国防の任務に当っておるのでありますし、その組織から見ましても、編成から見ましても、定員から見ましても、装備から見ましても、また訓練方法という点から見ましても、これはもうはっきりと軍隊であると言えます。警察力に比し、この方は防衛方であるから軍隊だということが言えるのであります。しかしただいまの防衛庁長官の御答弁だけでは私は非常に不満足でありまして、とうていそのくらいなことで自衛隊と軍隊との区別がわかったというようには私には考えられない。また自衛隊が軍隊化するというのは、どういう場合においてであるかということを問題として議論するときに、そういう御答弁ではどっちがどういうことやら、抽象的なことを聞かしていただいただけで、問題の本質をつかむことはできません。そこで御答弁が徹底いたしませんので、質問の方法を変えまして、私の方から一つ一つ問題をこまかく提出いたしまして、それに対してお答え願いたい、そういう方法でやってみたい、そう考えるのであります。  第一に私ども心配しておりますことは、自衛目的以外には自衛隊は出動しない、こういうことがはっきりと自衛隊法で定められておりましても、自衛ということの解釈次第では、自衛の範囲を逸脱して行動し、憲法違反を犯すということが容易に行える、これを心配するのであります。まだこの問題について国会で今まで十分に議論されておりませんから、きょうはその点に一つ触れてみたいと思います。私は自衛隊は自衛力であるということは厳密に解釈しなければ、憲法の制約を逸脱するという見方を持っておるのであります。われわれは、長い間の経験によりまして、政府の解釈次第で憲法や法律がいかに数多くじゅうりんされてきたかということことを、私ども身をもって痛感しております。そこでこの機会に安保条約の改定と関連いたしまして、自衛隊の違憲的使用の起り得る場合を予想してみまして、それを指摘して、それに対して政府の自衛権に関する解釈を聞き、また私も自分の見解を述べる、こういうふうにいたしましたら、多少問題が明らかになるのではなかろうかと思っております。  そこで第一に問題になりますのは、憲法第九条の二項では、前項の目的を達するため軍隊その他の戦力はこれを保持してはならない、こう明示されておるのでありますから、自衛隊は憲法でその保持を禁止されておる軍隊に該当するものではない、そういう解釈を保守党ではなさらなければならぬわけであります。これは当然のことでありましょう。根本的に私どもと解釈が違いますけれども、これが保守党的な解釈であると思います。そこで、保守党的な解釈から参りますと、自衛隊は憲法で禁止されておる軍隊ではないが、しかし一種の軍隊ではある、こういうことになるわけですね。ここが問題であります。普通の軍隊か、それとも一種の特別な軍隊か、この区別は、はっきりとあると思うのです。この区別を無視するようなことをやると違憲問題が起る。そういう心配がありますので、私はこれからそれを一つ一つあげていってみたいと思います。保守党的にいいますと、自衛隊は憲法で許されておる軍隊である、また同時に憲法の制約のもとに置かれておる軍隊である、こういうことになるのであります。しかし憲法の制約を受けた軍隊というだけでは何のことやらわからないのです。軍隊についての規定をちゃんと持っております憲法のもと――これはたとえばアメリカでもそうであります。アメリカだけではございません。日本国以外はどこの国の憲法も軍隊に関する規定を持っておる、こういう憲法のもとに存在しておる軍隊、こういう軍隊が一方に存在しているわけです。ところが、わが国の自衛隊は軍隊ではありますけれどもわが国の憲法には軍隊についての何らの規定もない。このような憲法は世界に類例がない。こういう憲法のもとに存在しておる自衛隊という一種の軍隊、そういう軍隊と、前にあげた普通の軍隊との間には違いがなければならぬ。私はそう思います。防衛庁長官のおっしゃいました程度の抽象的な差において自衛隊と軍隊との相違を考えているから、防衛庁がいつの間にか自衛隊を軍隊化するような間違いを起すことになりはせぬか、それを私は心配する。防衛庁長官はこの区別をもっとはっきり考えておられるべきであると私は思います。  そこで、要するに、外国の普通の意味の軍隊と、日本のように軍隊についての規定の全然ない憲法の制約のもとにある自衛隊という一種の軍隊との間に、どこに違いがあるのか、これをもう少し具体的に伺いたい。
  67. 林修三

    ○林(修)政府委員 この点は、先ほど実は防衛庁長官からお答えいたしましたことで、ごく端的にいえば尽きることと思うのでございます。御承知通りに、いわゆる自衛隊というものの性格が何かということでございますが、これは吉田内閣の当時にもいろいろ質疑応答があったことは、黒田先生よく御承知のことだと思いますが、いわゆる外部からの武力攻撃に対して、それに対抗する実力を持つというものを軍隊といえば、これも一種の軍隊かもしれない、しかし普通の外国の軍隊と違う点は、日本の憲法上そのあり方が自衛のために必要な限度に限られておるということにある、こういうふうに政府としては解釈しておるわけであります。  この点は二つの面があると思います。一つは自衛のために必要な限度という自衛力の限度において、一つはその自衛力の行使のやり方において、この二つにおいて限界がある、かように考えておるわけでありまして、この点が外国のいわゆる普通の軍隊との違いである。これをもっと端的にいえば、いわゆる交戦権のあるなしということになると思います。普通の軍隊であれは、たとえば戦争が起れば、その形勢によっては外国まで攻め込んでいって戦争をすることは、国際法上何ら禁止されておりません。しかし日本の自衛隊においてはそういうことは憲法上できない。こういうところに一番大きな差がある、かように考えております。
  68. 黒田寿男

    ○黒田委員 多少私の考えておりました点にお触れになっておるようであります。私もあとから林長官のお触れになった点についてもう一度触れてみたいと思います。抽象的に言うたのでは、わかったようなわからないようなことになりますので、私は一つ具体的に、われわれの目の前にある自衛隊と外国の軍隊を比較してみて、そしてわが国において起り得る問題を取り上げてみて、はっきりと自衛隊と軍隊との区別をつけておいていただきたいと思います。  先般岸総理大臣が、わが国は一切の核武装をしない、こう予算委員会で言明せられまして、私ども、はなはだ共鳴を感じたのであります。これからもぜひそういう態度でやっていただきたいと思います。ところで、わが国が核武装をすると申しますれば、もちろん自衛隊が核武装するということになるのであります。アメリカの軍隊もソ連の軍隊も核兵器で武装されておる。日本は核兵器を持たない、こういう総理大臣の御方針のもとでは、日本の自衛隊には核兵器での武装はさせない、こういうことになる。ここまではよくわかる。  そこで一つ、今まで質問されていなかった点を申してみたいと思いますのは、総理大臣が核兵器で自衛隊を武装しないとおっしゃいますのは、単なる政策上の見地からであるか、それとも政策上の見地、方針がどうあろうとも、それとは別に、これを超越して、憲法の上から見て核兵器は持てないのだ、こういう意味でおっしゃっておるのでありましょうか。今までただ核兵器は持たぬ持たぬということだけ承わりまして――それだけでも私どもは非常によかったことだとは思いますけれども、軍隊と自衛隊との違いということからいたしますと、具体的に考えてみますとここにも問題があるわけです。そこで、岸総理大臣が、日本の自衛隊は核武装しないとおっしゃるのは憲法の制約として言われるのであるか、単なる政策上の問題として言われるのであるか、この点を聞かせておいていただきたい。
  69. 岸信介

    岸国務大臣 核兵器という言葉の中に入ってくる兵器の種類というものは、御承知のように、いろいろ軍事科学の発達とともに変化してきておるわけであります。日本の持ちます自衛隊の性格については、先ほど来お話がありましたような趣旨から見まして、たとえば大型原水爆のごときものを持つことができないことは、これは憲法の制約上、どんなことがあってもできないものだと私は思っております。ただ核兵器の種類によっては、憲法上はこれを持てないという制約は受けておらないけれども、しかしながら日本の立場なり政策からいってこれを持たないという部分と、二つあると思うのであります。私が従来申し述べておる、一切の核武装はしない、自衛隊をそういうものにしないというのは、今申しましたような、憲法で制約を受けておる本来持てないというものを持たないのは当然でありますが、それ以外の、憲法では制約を受けておらないものについてもこれを持たないという意味を申しておるわけであります。
  70. 黒田寿男

    ○黒田委員 重要な問題だと思いますのでもう一度お聞きしてみたいと思います。  総理は、憲法のもとでは自衛隊が核武装することが禁じられておるのではない――もっとも核兵器の大きい、小さいというようなことをおっしゃいましたが、とにかく、要するに、わが国の憲法のもとでは核武装をするということは場合によっては違反にはならぬ、従って自衛隊が核武装するのも憲法違反にならぬ、こういうような御解釈でありましょうか。そういう解釈ではあるけれども自分は政策として持たないつもりだというだけのことでありましょうか。これは大へん重要な問題であります。岸総理大臣が長く日本内閣総理大臣であられるわけはない。やがて岸総理大臣が退陣されましたときに、別な総理大臣が出てきて、憲法では核兵器で武装することは禁止されていないのだ、核兵器を持たぬというのは岸君の政策であっただけなんだ、おれは方針が違うのだ、憲法違反にはならぬのだから核兵器は持つのだ、こういうことが起り得る可能性がある。憲法のもとでは核兵器を持つことが禁止されていない、従って自衛隊に核武装するということが憲法違反として禁止されていないのだ、ただ政策上自分は核兵器を持たせないと思っておるにすぎない、こういうことでありますか。これは非常に大切なことでありますから、お考えだけははっきり聞かせておいていただきたい。
  71. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどもお答え申し上げましたように、核兵器という範疇に属する兵器の種類も今日におきましては相当多くなっております。また将来の発達の前途を考えますと、いろいろなものが出てくるだろうと思います。これをことごとく、核兵器という名がつけば憲法に違反すると解釈することは、私は憲法の解釈としては行き過ぎであると思います。しかし現在、世界の平和を脅かしているような原水爆その他ああいう大型のものにつきまして、これが日本の憲法上自衛隊という、この自衛の意味における、また自衛の限度における行動をするところの実力部隊に対する装備としてそういうものが用いられるということは、憲法の精神に反すると私は解釈をいたしておりますが、今も申し上げましたように核兵器と名がつけば、すべて、いかなるものであっても憲法違反であるという解釈は、私はこの核兵器の発達の趨勢を考えまして、それは憲法解釈としては行き過ぎである、こう思っております。
  72. 黒田寿男

    ○黒田委員 そういう岸総理の御見解に対し私どもは反対であります。これは見解の相違ということになるわけでありますが、岸総理がそういう考えを持っておいでになるということを承わりましたことが、いろいろな意味におきまして、私ども今後の参考になると思います。見解は全然違う、こう申し上げておきます。  そうすると、軍隊と自衛隊とが核兵器が持てる、持てないということについてはあまり区別がつかぬ。自衛隊が核兵器を持っても憲法違反にならぬのだ。アメリカの軍隊は核兵器を持って憲法違反になりません。自衛隊も核兵器を持っても憲法違反にならぬということになりますと、核兵器が持てるか持てないかということにおいて、軍隊と自衛隊とは別に区別はない、こういうことになるだろうと思います。まあこれだけのことがわかったわけです。わかっただけで、今日は、これでよろしいと思います。  それからもう一つの区別がある。これは総理大臣の御答弁を承わる必要はありません。自衛隊は海外に出動することができない、しかしアメリカの軍隊も、外国のどの国の軍隊も、海外に出ても憲法違反にならないわけですが、そういうところにやはり自衛隊と軍隊との区別があるわけです。何ゆえに海外に出れば憲法違反になるかというこの理由は、もう私どももたびたび聞いておりますからここでは質問いたしません。こういう区別もある。私どもは専門家でありませず、理論家でもありませんから、日本に来ておる軍隊と自衛隊と比べてみて、どこがアメリカの軍隊などと日本の自衛隊と違うかということを考えてみて、議論しておるのでありますが、こういう一つの区別もある。  それからもう一つ、これについてはちょうど先ほど林長官がお触れになりました。私はその問題については実はずいぶん考えてみて、やっとこうではないかという結論に達したのですが、こういう区別が、またあると思います。これも私は具体的な例について申上げるのでありますけれどもアメリカの軍隊は先ほど申しましたように、海外へ出動するということによって憲法違反にはならぬ。わが国という海外ヘアメリカの軍隊が来ておるだけでなく、わが国を基地にしてまた極東の他の地域に飛び出しておる。わが国に来ておるのは防衛の目的においてだということになれば、外国防衛目的というものが軍隊にある。ただしこの防衛は自国を防衛するという自衛隊の防衛目的とは根本的に違い、アメリカが外国を武力をもって防衛する、そういう性格を持っておる。この外国を防衛し得るという軍隊の性格と――私は自衛隊の武力発動によって外国の防衛を援助することはできない、このようなことをすると憲法違反になる、こう考えておりますから、この自衛隊の性格、ここにも一つの相違がある。アメリカの軍隊が日本に来ているのを見ると、日本を防衛してやろうといって来ておるという性質を持っておって、日本の自衛隊には外国防衛目的はない。これが相違の一つである。  次に、ただいま林長官の触れられました問題、私もこれはどういうことを意味することになるのかとずいぶん考えてみて、やっとこうではないかという結論に達しましたその問題――軍隊の持っている他の一つ目的、それが日本の自衛隊にはない。それはどういうことであるかと申しますと、日本防衛の目的アメリカの軍隊が日本に来ておる、アメリカ軍隊にはこの面もありますけれども、ただそれだけでなくて、さらに極東の他の地域に飛んで行っておるというようなことを見ますと、これは日本防衛ではない。しかし侵略目的のために出ていくのでもないと法的には解釈しなければなりません。そうすると、外国を防衛するために外国に出ていくのでもなし、侵略のために外国へ出動するのでもない。それ以外の何らかの目的で外国へ出動できる権能を軍隊は持っておる。自衛隊は海外に出ることはできない。こういう区別がある。一体この区別は何かということですね。とにかくこの何かの区別が自衛隊と軍隊との間にあるが、何だろうかということについて、私もいろいろ考えてみて、先ほど林長官のおっしゃいましたそのことですが、私もそういう結論に到達したのであります。林長官のおっしゃいますように、とにかく普通の軍隊は、国際法の法規あるいは慣例によって禁じられておることをやらないというだけの条件さえ守れば――外国の軍隊が侵入してきた、これを今度はこっちがはね返す、自衛隊の場合は、急迫不正の侵害に対して自己を守るのですから、その押し返していくことに限界がある。けれども軍隊の場合にはその限界がなくて、とにかくどんどんと進んでいって、相手が降参しなければ相手の国までも行ける。そうなってくると、もうそれは自衛ではない。しかしまた侵略でもない。これを私は攻撃力というようなものと認めたらいいのじゃないかと思う。その攻撃力というものが日本の自衛隊にはないわけです。しかしこの攻撃力というものは、一歩誤まれば侵略力になる。これは非常にデリケートな能力ですが、とにかく攻撃能力、攻撃目的というものを与えられておる。ここにやはり自衛隊との間に根本的な違いがある。私はただいま外国の軍隊がわが国に来ておる、それを見て考えてみたことを申し上げたのである。  そこで、私の結論を申し上げてみますと、きわめて通俗な結論かもしれませんけれども、要するに軍隊というものはもちろん自衛目的を持っておる。それから今申しました攻撃目的を持ち得るものだ。それからまた他の国を防衛することもできる、こういう権利と目的をも持っておる。大体そういう三つの目的が軍隊にはあると思います。それから軍隊が出動する態様から見ると、むろん自国の領土内で行動することは当然ですが、海外への出動も軍隊には可能である。こういうように考えまして、自衛隊と比較してみて、私は自分自身を理解させるために数学の公式のようなものを作ってみた。そうすると、どうなるか。軍隊イコール自衛力プラス攻撃力プラス外国援助力、こういうことになる。自衛隊は自衛力しかない。ですから軍隊から自衛隊を差し引くと攻撃力と援助力が残る。だから自衛隊が攻撃力になったり援助力になることはできない。そうなると憲法の制約を逸脱することになる。そういう区別があるということが私にはわかった。攻撃目的ということについて林長官が両者の区別としてちょうどお触れになった、私もそういうふうに考えておりました。これは質問はいたしません。とにかくそういう区別がある。だから自衛隊は厳として自衛力であるという限界を守って、攻撃力や外国に対する武力防衛力としての行動はしてはならぬ、それをすれば憲法違反になるんだという結論のもとで、将来自衛隊の行動を監視しなければならぬ、憲法違反にならないように行動を監視しなければならぬ、こういうように考える。  それからもう一つ安全保障条約の問題に関連して、これはあるいは政府と私の意見とに相当の違いがあるかもわかりませんが、自衛力というものを厳重に私は解釈しなければならぬと考えまして、そのことについて一つ私の意見を申し上げまして、政府の御意見も聞いておきたいと思います。政府の意見と私どもの意見の違うところはその点が私どもの立場から見ると、政府考え方に危険が感じられる、こういうように考えられているわけであります。そういう気持を持ちながら質問するのでありますから、お答えを願いたいと思います。  自衛隊というものにつきましては、私は今申し上げました以外にまだ問題があると思う。それは相互防衛条約というようなものが締結される場合に起ってくる自衛隊に関する危険性の発生ということであります。先ほどから申しますように、自衛権の行使ということを少しでも拡張解釈するというようなことになって参りますと、名前は自衛隊でも自衛隊でないようなものに本質上なってしまう、転化してしまう、この点を私どもは極力戒心し、防止しなければならぬ、こういう点であります。今まで考えました自衛隊の限界以外に、もう一つ自衛隊について問題が起って参りますのは、今問題となっております安全保障条約の改定で、万一これが相互防衛条約というような形になって、韓国・アメリカあるいは韓国・台湾間の条約というような、要するに普通の意味の相互防衛条約というものになって参りますと、今後非常にむずかしい問題が起って参ります。そうでなくても、今日、自衛隊についてすでに問題は起っておる、こういうように考えます。  政府にちょっとお尋ねしたいと思いますが、国際連合憲章第五十一条の集団自衛権というものがあります。あの集団自衛と、日本の自衛隊と今日本に来ておりますアメリカの軍隊との関係について、これは藤山外務大臣でもよろしいからどういう関係になっておるのか伺いたい。
  73. 高橋通敏

    ○高橋(通)政府委員 お答え申し上げます。国連憲章第五十一条の個別的及び集団的自衛権に関する規定でございますが、これはいろいろ異論がある規定であろうかと、こういうふうに考えております。ただ現在の安保条約におきましては、やはり一般的ではございますが、この個別的または集団的自衛権に基いて云々ということがございますので、非常にばく然的でございますが、個別的または集団的自衛権に基いた一つの条約である、このように考えておる次第でございます。
  74. 黒田寿男

    ○黒田委員 私の今お尋ねしたのは抽象的な解釈論でなくて、日本の自衛隊とアメリカ日本駐留軍との間に、その憲章の条項を媒介して何らかの関係があると見られるかどうか、こういう問題であります。
  75. 林修三

    ○林(修)政府委員 現在の安全保障条約から申しますと、実は安全保障条約は御承知通りに、アメリカの軍隊が日本に駐留すること自身が書いてあるわけでございます。あるいはその駐留するアメリカの軍隊の行動の権限が書いてあるわけでございまして、日本の自衛隊のことは、一言も触れておらないのであります。現在の条約から申しまして、自衛隊と米駐留軍との間にどこにどうという関係はないわけであります。ただ、自衛隊は御承知通りに、自衛隊法あるいは憲法の規定から申しまして、厳格に日本の防衛のためのみに働き得るものでありまして、この点から申しますれば、国連憲章上何ら問題はないわけであります。ただアメリカの軍隊はもちろんこれも国連憲章に従うわけでありまして、日本におりますアメリカの軍隊も国連憲章の規定に従って動くということは、昨年の安保条約と国連憲章に関するあの交換文書でも明らかでございまして、その間に、しかし日本の自衛隊がアメリカの軍隊と条約上どういう関係を持つかとおっしゃる点につきましては、先ほど申しましたように、今の条約ではその点は何も書かれていないわけであります。
  76. 黒田寿男

    ○黒田委員 国連憲章第五十一条の集団的自衛の権利を日本の自衛隊は持っておるというようにお考えになりますかどうか。
  77. 林修三

    ○林(修)政府委員 国連憲章五十一条の個別的または集団的自衛という問題は、ここの規定の体裁からもはっきりいたしますように、いわゆる軍事行動をとった場合に、それが国際法的に違法でないということの規定だと思います。いわゆる個別的についてはこれははっきりしておると思います。集団的というのは、あるいろいろの牽連関係のある国を、守るというような、国を防衛することが国際法的に認められる、あるいは国連憲章の上で認められるという趣旨を規定したものだと思います。日本の自衛隊は、御承知通りに、現在の憲法及び自衛隊法から申せば、日本の自衛のみを目的としておる。もちろんそのためにアメリカの援助を得ることはあるわけでありますが、これは実は集団的自衛権の問題では私はないと思います。集団的自衛権の問題を云々される場面ではない。日本を守るためにアメリカの協力を得ること、まさに個別的自衛権の問題であると私ども思っております。現在の安全保障条約あるいは今後の条約においても、その問題が出てくることはなかろうと考えております。
  78. 黒田寿男

    ○黒田委員 国連憲章第五十一条は、むろん長官のおっしゃいますように義務ではなくて権利をきめてある。権利をきめてあるにすぎない。私のお尋ねしたいと思いますのは、権利ですから行使しようと思えばできるし、行使しなくてもいいのです。むろんそういう意味であることは言うまでもないことであります。アメリカとの間にわが国が義務を負担してはいないのでありますが、それは当然のことでありますが、問題は集団的自衛の権利を自衛隊は行使し得られるかどうか。自衛隊は権利としてそういう権利を行使できるかということです。
  79. 林修三

    ○林(修)政府委員 これは実は、厳格に申すと、問題を国際法的あるいは国内法的に分けて考えなければならない問題かと思います。サンフランシスコ平和条約第五条でございますか、あれにははっきりと、日本は個別的または集団的自衛の権利を持つことが認められるということが書いてございます。従いまして、国際法的には日本の個別的あるいは集団的自衛権が認められておるわけでございます。ただ先ほどから申し上げますように、日本の憲法あるいは日本の自衛隊法から申せば、今の自衛隊は日本自身の防衛のために動くということでございまして、他国の防衛のために動く、他国の領土に出て行って動くということは考えられない。そういう場面では、いわゆる他国、アメリカならアメリカ日本に駐留して、日本の防衛をやるということとは、だいぶ違った関係になると思います。
  80. 黒田寿男

    ○黒田委員 ただいまの御説明を承わって、私もう少し進んで承わりたいと思います。長官、普通の軍隊ならば集団的自衛権の発動をなし得る権利を持っている、ただし自衛隊は持っていないとおっしゃったのですか。ただ場所によれば持つのだけれども、場所によれば持たぬということですか、それをちょっと伺いたい。領土云々ということをおっしゃいましたように聞きましたから、外国に出てその集団安全保障や集団自衛権を行使するということはできないけれども、国内でならば、アメリカの軍隊に対してその防衛のために国連憲章第五十一条の権利によって日本の自衛隊は発動できるのだ。私はそうは言えないのだと思うのです。領土とおっしゃったから、私ここでちょっと疑問が生ずるわけです。
  81. 林修三

    ○林(修)政府委員 国際法的にいわゆる集団的自衛の権利という言葉の意味については、いろいろまだ解釈もあるようであります。で、平和条約で日本が集団的自衛の権利を持つことは認められておる。これはもちろん日本の憲法に違反しない範囲においては日本も持っていると思うわけです。ただそこで集団的自衛の中で一番問題になりますのは、いわゆる軍事行動の問題だと思うわけです。日本の憲法で九条から問題になりますのも、厳密な意味で軍事行動という面で出てくると思うのでございます。軍事行動につきまして、いわゆる海外派兵ができないということが従来いわれております。それと同じ意味でございますが、軍事行動をもって外国の領土へ出ていって戦う、あるいは外国の領土において外国を援助するために戦うことは、私たちできないと思っております。そういう集団的自衛権という言葉はそこまでも実は入って今まで用いられております。そういう意味の集団的自衛というものは日本の憲法から制約される。しかし集団的自衛という言葉をもう少し広く解釈すれば、軍事行動以外の面もいろいろございましょう。そういう面について、日本の憲法上禁止されておるということにはならないと思います。もう一つ日本の国内における問題でございますが、あるいは日本の国内と申しますか、日本国を防衛すること、これはまさに日本の個別的自衛権の発動でございまして、その発動をアメリカと協力してやるかどうかということは、憲法の問題は何にもない、かように考えております。
  82. 黒田寿男

    ○黒田委員 どうもいつも問題が少しずつ残されていくようです。第一にちょっとお尋ねしておきたいと思いますのは、日本が集団自衛権を持つということは平和条約で認められておる、なるほどそういうように書いてはあります。けれどもこの条約は一般の軍隊ということを予想した条約じゃないのでしょうか。平和条約で日本は集団自衛権を持っておると書いてありますが、日本が普通の軍隊を持っておれば、その軍隊にはその権利がある。けれども条約にそう書いてあっても、今日本にあるのは自衛隊ですから、平和条約に書いてあるから集団自衛権を持つのだという議論では、ちょっと私の質問に対してお答えいただくことにならぬと思います。平和条約にそう書いてあっても、日本の自衛隊の場合は、集団自衛権をも行使することができないのではないか。自分の個別的自衛権なら自分がやられたときに自分を守るのですけれども、集団自衛権は他国がやられたときに出動するという規定ですから、これは非常に危ない権利だと思うのです。そこで私はしつこく尋ねておるのです。平和条約には日本が集団自衛権を持つということが書いてあるから、直ちに日本の自衛隊も集団自衛権を持つということにはならぬのではないか。そこにやはり軍隊と自衛隊との区別が出てくるのではないか。これに答えていただけばよろしゅうございます。
  83. 林修三

    ○林(修)政府委員 実はその点も先ほどお答えしたつもりだったのでございますが、もちろん平和条約にありましても、日本の憲法あるいは自衛隊法の定めるところによって、自衛隊の任務はきまっておるわけでございます。現在の自衛隊法をごらんになれば、外部からの直接侵略及び間接侵略に対して日本を防衛するという任務しか持っておらないわけでございます。それ以上の任務を持っておりません。従いまして外国へ出ていってその外国を援助し、あるいは日本自衛のためといって外国へ出ていくということは、今の自衛隊ではできないことは明らかであります。集団的自衛という問題は、まだ国際法学者の間でもいろいろ議論のあるところのようでございまして、その幅についてはいろいろ問題がございますが、その中の国連憲章五十一条との関連で申せば、これはいわゆる外国がやられた場合に、その外国を軍事行動によって援助しても、国連憲章違反ではないというところでありまして、今の自衛隊はそういう任務を持っておらないわけでございます。自衛隊法からもございませんし、また憲法の規定からも日本は自国を守るという立場にあるわけでございます。そういうところまでは今の自衛隊はないのが当然でありますが、また自衛隊の性格はそうあるべきものだ、かように考えております。これは誤解があるといけませんからちょっと申し添えますが、日本の自国を防衛することを数国と共同してやるということは、日本にとっては集団的自衛権の問題ではございません。また日本の憲法違反という問題でもございません。他国にとってはあるいは集団的自衛権ということで説明しないといけないことがあるかもしれませんけれども日本自身の立場から申せば、どこかの国の援助を受けて日本を守るということは、これはまさに固有の自衛権、今の自衛隊の認められておる権利、あるいは今の憲法の認めている権利の範囲だと私は思っております。
  84. 黒田寿男

    ○黒田委員 だいぶ私と考えが近づいてきたと思うのでありますが、自衛隊は軍隊ならば持ち得るような集団自衛権を持たない。憲法の制約のもとで日本の自衛隊がそういう行動をすることは予想されていない、こうおっしゃいましたから、その点は解釈は私のと一致します。  もう一つだけ問題が残っておるのであります、さっきから外国々々ということをおっしゃいますが、外国に出て軍事援助をするということでなしに、日本の内地に駐屯しているアメリカの軍隊を日本の自衛隊が、武力をもって防衛のために、援助することができるかどうか、これを一つ聞かしていただきたい。
  85. 林修三

    ○林(修)政府委員 これは、日本の中におります駐留軍というのは、第一に日本を防衛する任務を持って来ているものと思います。多少副次的には現在の安保条約でも別な任務を持っておりますけれども、しかし日本における駐留米軍をごく抽象化して、これだけを外部から攻撃するということは観念の議論でございまして、あり得ないことだと実は思うわけであります。日本の国内にある米軍の基地なら基地に攻撃を加えるということは、まさに私は日本の領土領海に対する侵略なくしてはあり得ないことだと思います。その場合にはまさに日本の国土が侵されている、これを自衛隊が防衛するということは、憲法のこの問題ではないと私は思っております。
  86. 黒田寿男

    ○黒田委員 ちょっとそこでは私は見解を異にします。日本アメリカの軍隊が駐屯しておりさえしなければ、アメリカの基地に対するどこかの国からの攻撃はなかった、アメリカの軍隊がおるからそういう攻撃を受けたんだという場合には、これはアメリカの軍隊が日本の基地におって、その日本に存在しておるアメリカの基地が外国の軍隊から襲撃を受ければ、日本も同時に侵略――侵略と申しますかどうですか、とかく日本も危ない、このことは、事実の問題として間違いないことです。けれどもこの場合も厳格に解釈しなければならぬ。私は自衛隊の自衛力というものは厳格に解釈せぬと、日本の基地に来ておるアメリカの軍隊と平気で共同行動をとるようにいつの間にかなってしまうと思う。それを心配する。だからやはり日本に何らかの原因があって日本を目ざして外国の攻撃があった場合と、アメリカの基地を目ざして、日本には何の関係もない、何も日本を襲撃しようとは思わぬけれどもアメリカはけしからぬ、あいつをやれというので、たまたまその基地が日本にあるので日本の基地がやられたという場合は、これはアメリカがやられたんだ、それに対して日本の自衛隊が出ていくということも軍隊ではないのだからできぬというぐらいに、ちょっと常識から考えたらどうかと思われるかもしれませんが、そのくらいに厳格に考えないと、私はいつの間にか自衛隊と軍隊とがごっちゃにされてしまうと思います。日本の内地にアメリカの軍隊が来ておる。私が先ほど言いましたように、アメリカの軍隊が日本に来ていなければ自衛隊の軍隊化の危険は少い、またそれを防止しやすい。けれどもアメリカの軍隊が日本に来ておるから、自衛隊が自衛力以上のものとして逸脱行為をするおそれがあるのだ、そう私は言ったつもりであります。厳重に考えていただきたい。これは意見の相違ということで今日はとどめておきましょう。私は林長官のようには考えません。そういう厄介なことが起るから私どもアメリカの軍隊にいてもらいたくないのです。これは実際論です。抽象論でも何でもない。一番具体的な問題をわれわれは一番おそれている。アメリカ軍がやられる場合に日本がやられる、このときも自衛隊としてはアメリカ防衛援助としての行動はできない、こういうように私どもは言いたいと思います。  大体この問題はそれでとどめましょう。集団自衛権についてはまだいろいろ問題があると思います。大体林長官の御説のように、集団自衛権というものがあって外国からやられた場合に、日本がそれを防衛援助するために武力が発動できるのだという議論は、軍隊の場合なら問題ないと思うのですが、自衛隊の場合にはそこに限界があると思うのです。しかしこれは法制局長官と私と大体意見が同じようでありますから、この問題は私は意見が一致したものとしてこれ以上質問いたしません。  そうしますと、要するに相互防衛条約というものは、憲法の制約からむろん締結することができない。自衛隊ができておるのであるから、日本の状態が安全保障条約締結当時より変ったのだから、相互防衛条約を結んで、その相互防衛条約に基いて自衛隊が出動するというようなことが考えられるという意味での相互防衛条約には断じてならないように、私は希望したいと思う。そのことが心配でありましたからきょうこれだけのことを申し上げたのであります。  岸総理大臣の御答弁では、まだ何か割り切れぬものがありますから、私は警告を発したということにしておきましょう。万一相互援助というようなことで、私ども心配しておりますような自衛隊の出動が義務づけられるというようなことになって参りますと、これは大へんなことであります。これはわが国にとりまして、もしこういうことを政治家がやったとすれば、最大の罪悪を犯すということになる。これはいろいろ言われておりますような汚職どころの話ではないのです。これは大へんな政治的罪悪になると思いますので、どうかそういうことのないように特に希望し警告申し上げたいと思います。  そういう意味できょう私は、自衛力のことを少しやかましく言うてみましたけれども趣旨は相互防衛条約のもとで自衛力が乱用されるような事態に、安全保障条約の改定の過程を通じてならぬようにという私の気持から申し上げたのであります。その性格については私はやはり依然としてあいまいさがあると思います。しかしきょう私どもが申しました程度において、林長官のように御解釈になっていただけばやや私は安心することができる、こう申し上げておきます。  もう少し時間がいただけるようでありますから、次に私は方面をかえまして、日中の国交回復の問題について御質問申し上げてみたいと思います。  現在のように日本と中国との交流がほとんど全面的に閉ざされておるというようなことになって参りましたのには、いろいろ原因もございましょうが、率直に申しまして、この閉ざされた状態を打開することのできない最大の原因は、遠慮なく申し上げて、岸内閣が日中関係打開の方法論において決定的な誤まりを犯したところにある。それを具体的に言うとどういうことであるかと申しますと、対中国政策において政治問題と経済問題とを機械的に分離して、とりあえず経済問題の分野で、たとえば貿易問題で何らかの打開策を講じよう、政治問題では全然触れようとしないだけでなく、むしろ故意に避けるという態度をとっておられるように私には思えるわけです。この態度を根本的に改めて、政治問題と経済問題とをともに道をつけるというような方法論に転換されないと、幾ら岸内閣が近ごろ中国との貿易ということを言い出されましても――また閣僚の一部の方には、誠実に善意をもって貿易の再開を望んでおられる人もあります、そのことを私どもよく知っておりますけれども、しかしこの分離政策を改めない限りは、どんな小さい貿易の糸口ですら絶対につけ得られるものではないと思う。この問題について私は少し岸総理大臣にお伺いしたいと思います。  何ゆえに岸総理大臣は対中国政策において、政治と経済の政策を分離されるのであるか、何ゆえに中国政府との国交回復に向って進路を切りかえることをなさらないのであるか、今まで総理から承わったところによりますと、台湾政府に対する国際的信義の尊重というようなことが、相当大きな理由になっておるのではないかと私は思うわけであります。ほかにも理由があるかどうかわかりませんが、特に台湾に存在する政府に対する国際的信義ということを考えられて、今中国と国交回復に踏み切ることができない、こういうふうに言われておったと思うのでありますが、この点いかがでございましょうか、もう一度念のためにお聞きしておきたいと思います。
  87. 岸信介

    岸国務大臣 御指摘のように、日本は台湾にある中華民国政府との間に日華条約を結び、友好関係に立っております。しこうして現在中国は、いわゆる中国大陸の政府と台湾の政府とが相対峙しておる状況にあるのでありまして、私どもはこの中華民国政府との間に結ばれておるところの日華条約につきましては、これは国際条約としてこれを忠実に尊重し、お互いにその権利を行使していくということは、国際社会の一員としては当然やらなければならないいわゆる国際信義の問題であると思います。この中国問題を論ずるに当りまして、この現実の事態というものを全然無視して私どもが進むことのできないことは、これは国際社会の一員としてお互いが正当に結んだところの条約その他の関係に対して忠実であるべきだという原則から見ましても、そういう事態を調整し、整理された後において初めて根本的な解決ができるのでありまして、それまではわれわれはやはり従来とっておりましたような積み上げ方式によって、あるいは経済、貿易の問題あるいは文化の交流、その他理解を深め、友好親善の関係を深めるようなことを積み重ねていく必要があるのであって、それを離れて今日直ちに政治と経済が不可分であるから、貿易をしようと思えば、政治的承認の問題を不可分の関係として、解決しなければならぬというふうなことは、私は国際情勢の現実から見て不可能なことである、かように考えております。
  88. 黒田寿男

    ○黒田委員 きょうの私の質問は、なるべく政治論に広げないで進めたい。総理はただいま台湾と日本政府との間に日華条約が存在しておる、これを尊重しなければならぬ関係にある、この条約は誠実に順守しなければならぬ関係にあるとおっしゃいましたが、私はこの点に触れて岸総理大臣にお考え願いたいと思うことがある。きょうの日中国交問題は、窓口を広げて政治論に及ぶことはいたしません。この問題に限定して、私から見れば岸総理大臣に一大反省をしてもらわなければならぬ点がある、こう思うわけです。日華条約の尊重、この問題に限定いたしまして、果してそういう尊重に価する条約であるかどうかということを私は申し上げてみたい。今申しますように、むろん日本国民党台湾政府との関係は、日華条約で規定せられた関係である。台湾政府を尊重するということは、同時に日華条約を尊重する関係である、こういうふうにおっしゃいましたので、それを私はきょう問題にしたい。この日華条約なるものを尊重するということが、台湾政府を尊重するという基礎になっておりますから、今日日華条約はそういうものであるかどうか、今どういうものになっておるかということを――あまりこまかに議論はいたしませんが、台湾政権における一つの大きな政治的変動と照らし合せまして、日華平和条約が今どのような意味を持った条約になっておるか、これを申し上げて、御反省を求めたいと思う。  国民政府が現実には台湾及び膨湖諸島を支配しておるにすぎないのに、これを中国を代表する政府とみなして、この政府との間に日本と中国との平和条約としての日華条約を締結したのでありますが、そのためには、将来国民政府がその支配領域を中国大陸に向って拡大し、やがては大陸全体の支配権をも回復するであろうという希望といいますか、予想といいますか、仮定といいますか、そういうものがなければ、日華条約が日本と中国との平和条約には、私はなり得ないと思う。その反面には、中国大陸を支配しております中国政府が、遠からぬ将来に崩壊するという仮定が、裏面に置かれておるわけであります。この考え方を表わしておりますのが、日華条約に付属しております交換公文だと私は思う。私はきょうはあまりこまかいことは申し上げたくありませんが、これは非常に大切な交換公文でありますからごく短かい、重要な部分を読んでみます。次のような文句が交換公文にあるわけです。この日華条約の条項は中華民国政府の支配下に現にあるところに適用されるのだ――そのあとが大切なのであります。「又は今後入るすべての領域に適用がある」こういうことを書いてある。すなわち、国民政府は現在は台湾及び膨湖諸島を支配しておるにすぎない、日華条約の条項も、現在台湾及び膨湖諸島に適用があるにすぎないけれども、将来国民政府の支配領域が大陸に向って拡張せられるならば、拡張された領域に適用があるということになって、それによってこの国民政府を中国の正統政権として観念上で中国大陸の主権者と見て、この政府と、日中平和条約として締結したその条約が、ここに初めて――すなわち中国大陸の方へ国民党政権の支配領域が及んで、ここに初めて、文字通り、この条約が日中平和条約としての価値を持つようになるのである、こういう建前に置かれておったのであります。こういう交換公文のついておる条約なぞというものは、私は珍しいと思うのであります。非常に無理な条約であった。台湾と膨湖島しか支配していないものを、中国大陸との平和条約の相手として平和条約を結ぶということは非常に無理なのです。その無理なことをしたから、こういう交換公文をつけて、やがては中国大陸に対して台湾政府の支配力が伸びるのだ、そうすれば文字通り台湾、中国大陸を含んだ中国と日本との平和条約になるのだという含みが、あったと思うのです。それによって日華条約が日本と中国との平和条約としての本質を備えることになり、その本質を備えるために、すなわち、日本と中国との平和条約という本質を持っておるからこそ、尊重せらるべきだと言い得るためには、国民政府が台湾及び膨湖島以外に中国大陸に向って支配領域を拡大するというような、先ほど申しましたような希望的観測が現実のものとなるか、せめて現実のものとなる見込みがなければならない。その見込みが立たぬということが明らかになりましたならば、日華条約は、事実上だけでなく、観念の上からいっても、日中平和条約としての価値を失うことになると私は思う。従ってそのようになってしまった条約ならば、もはやこれを尊重する必要はない。これを尊重しないからといって、そのために国際信義に反することにはならない、私はこう思う。台湾政府の側における情勢の非常に大きな変化によって、私にそういう考えが特に強くするのであります。もう少し時間がございますから申し上げてみたい。  この日華条約の日中平和条約としての価値の存否を決定するような重大なできごとが起った。これは岸総理大臣に特に御認識願いたいと思うのでありますが、申すまでもなく、昨年夏に発生いたしました金門、馬和島事件であります。この金門、馬和島事件の結末をつけますために、昨年十月二十一日から二十三日まで、台北でダレス長官と蒋介石総統とが会談をいたしました。その会談の結果、国民政府が長い間の基本的国策としておりました武力による大陸反攻の政策を放棄するということが決定されたのであります。この両者の共同コミュニケでこのことが発表せられた。私どもこの発表を見て、私どもとしましても一つの感慨を催させられたのであります。武力を伴わない大陸反攻ということはこれは常識上あり得ないのでありますから、この共同コミュニケによって発表せられた決定によりまして、蒋介石の本土復帰、国民政府の支配領域の中国への拡大ということが決定的に実現不可能となった、国民政府地方政権化したということが、ここにはっきりとしたのであります。これは国民政府にとりましては実に致命的な重大な情勢の変化でありますが、この変化が昨年の十月二十日過ぎに起ったということを、私ども日本人としてもはっきりと認識しておかなければならぬと思います。この新事態を再びもとの状態に返すという見込みがないということは、この事態の変更がアメリカ側の強い説得によって生じたものであるということからもよくわかる。ダレス長官がこの決定を携えて十月二十四日ワシントンに帰りまして、直ちにアイゼンハワー大統領にこの報告をいたしましたところ、大統領も満足の意を表したという外電を私ども見ております。アメリカの議会も政府筋も報道機関も、大陸反攻放棄を歓迎したと報ぜられておるのであります。アメリカ以外の西欧諸国も、この冷厳な事実をありのままに受け取っておるということも、私ども諸種の報道によって知っておるのです。岸総理国民政府の側における事態のこのような重大な根本的な変化を率直にお認めになっておると思うのでありますが、念のためにお聞きしてみたいと思う。
  89. 岸信介

    岸国務大臣 昨年、金門、馬和島の問題、並びにその後においてダレス国務長官と蒋介石総統との間の話し合い、並びにそれが一つの大きな情勢の変化をもたらしておるという黒田委員の今の御説でございます。全くその通りの事態が御指摘のように起っております。しかしそれが直ちに日華条約をそれならば廃棄するとか、あるいはそれについての日本の国際的信義がこれでもって解消するという結論に、私はそれをもって直ちにするわけにはいかぬ、こう思います。
  90. 黒田寿男

    ○黒田委員 それに対する私の考えもありますけれども、これは述べないことにいたします。さきに引用いたしました日華条約の交換公文中に、日華条約の条項は今後国民政府の支配下に入るすべての領域に適用があるという文句は、右の重大な事態の変更によりまして完全に死文化してしまった、意味のない文句になってしまったのであります。具体的に言えば、この共同コミュニケ以後は、日華条約の条項は中国大陸へは適用せられぬものになってしまったというこの事実が明らかになったのであります。これは岸総理としてお認めになりますか、どうですか。
  91. 岸信介

    岸国務大臣 交換公文に盛られておる抽象的の言葉自体が直ちに死んだというわけにはいきません。ただ実際の見通しとして、あるいは一切の情勢として、将来いわゆる大陸が台湾政府の領土に帰するというこの希望といいますか、望みというものが、非常に困難になったということは、その通りだろうと思います。黒田委員 岸総理は困難になったとおっしゃいますけれども、私どもは決定的に不可能になったと思う。そこに認識の相違があります。そういう苦しい御解釈をなさらないで、はっきりと困難ではなく、不可能になったというようにお認めにならないと、私は日本の政治を誤まる、こう思うのです。  そこで次に少し進めてみますが、日華条約の条項の適用範囲は、交換公文に明記されております通り、現に国民政府の支配下にある領域、すなわち台湾及び膨湖諸島に適用せられるにすぎないものになったのであります。要するに、日華条約という、日本と中国との平和条約をきめたその条約の適用区域が、台湾と膨湖諸島に適用せられるものになってしまったというこの重大な事実を、私どもは認識しなければならぬ。ほかの条約なら私はこうしつこく申しません。日本と中国との平和条約という建前をとっている条約であるから、私はこの点については厳重に解釈しなければならぬと思うのであります。時間があまりございませんので、もう少し私は先へ進めながら、適当なところで御質問申し上げたいと思います。  そこで私どもが考えますが、適用地域のない条約というようなものは、ちょっと常識では考えられないと思います。中国大陸に適用せられないような日中平和条約というものが一体あり得ることでしょうか、私は今そういう問題が起ってきていると思う。私は中国大陸に適用せられないような日本と中国との平和条約というものはあり得ないと思う。そういうことに、今、現実になっておる。これを今私が申し上げておる。日華条約は共同コミュニケ以後はこの時期を画して、事態の重大な変化に伴いまして、条約の条項の適用範囲が台湾及び膨湖諸島に限定せられ、中国大陸へは適用せられないということが明確化したのでありまして、日本と中国との平和条約というものではあり得なくなったというのが私どもの考えであります。この点どうでありましょう。日本と中国との平和条約としての日華条約を私は問題にしておる、その他の台湾との条約を問題にしておるのではない。日本と中国との平和条約をいやしくも標榜しておる、その条約は、かつては蒋介石が大陸反攻というものに望みを持っておりましたときは現実には大陸を支配していなくても、やがて支配するかもわからないという、観念的にまだそういう考えを通用させる余地があったけれども、今や事実上も観念上もそういう考え方が適用されなくなって、繰り返して申しますように、日本と中国との平和条約としての日華条約が、台湾と膨湖島に適用せられるにすぎなくなったということが、交換公文によってはっきりしてきたのでありますから、この変化というものは率直にお認めにならなければならぬと思う。いかがでありましょうか。
  92. 岸信介

    岸国務大臣 私先ほどお答えを申し上げましたように、これは日華条約というものが成立の当時におきまして、日本と中国との間の平和条約たる性格を持っておる。そうしてその適用範囲につきましては、現実に管理権を持っておるところと、将来持つであろうと、こう希望される地域を両方含めて交換公文によって書かれておると思います。ただ観念上から申しますと、やはり観念上、その交換公文は生きておるのであると私は先ほど申し上げたのであります。実際の問題としまして、その現実性というものが非常になくなったということは言えるだろうけれども、これでもって当然変ったのだ、交換公文そのものの内容が当然変ったのだと、こう解釈することは、私は至当でないだろう、こう思っております。
  93. 黒田寿男

    ○黒田委員 私は交換公文の内容が変ったと言っておるのではなくて、交換公文に書いてあるようにならなかった。このことが非常に大きな事態の変化だ。その変化と、日華条約の適用区域が交換公文によれば――私はそれは生きておるものと思うが――交換公文によれば、台湾及び膨湖島に適用されるにすぎない条約にいわば成り下ってしまった。こう思う。むろん憲法第九十八条には条約を誠実に順守せよということが、われわれ国民に対して要請せられております。しかし憲法が誠実に順守すべき必要ありとしております条約は、その内容のよしあしは別といたしまして、少くとも中身のある条約、もっと具体的に言えば、適用の地域のあるような条約でなければならぬと思います。適用地域もないような条約を尊重しろと言ったって尊重しようがない、日本と中国との平和条約としては、日華条約が中国本土には適用せられぬもの、すなわち適用地域のないものとなってしまったのであります。すなわち中身のない無価値なものになった、平和条約としては無価値なものになってしまった、だから私はこういうものを尊重したり順守したりする必要はないと思う。こういうものを尊重すべき国際的信義があろうとは私は思わない。これは多少意見の相違になるかもしれませんが、本来ならば、冷静に考えますならば、私どもは中国本土の政府と日中平和条約は締結すべきであった、あそこで日本人は自分らとともに中国人の血を流したのであります。台湾は日本の領土である、日中の戦争において戦場になった地域ではないのです。だから中国本土の政府とこそ、冷静に公平に考えますならば、日本は日中平和条約を締結すべきであったのであります。それをダレスの――私はむしろ強請と言いたい。要請と言わずしてあえて強請と申したい、どうかつと言うか、とにかく非常な強い圧力であれをやれと言われたらしい。ダレスの強要によりまして、吉田首相が台湾政府と条約を結んで、事実上は台湾及び膨湖諸島にしか適用されない条約をわが国と中国との戦場でなかったところの台湾及び膨湖島にしか適用せられないその条約を――日本軍国主義が悲惨な戦場にした中国大陸には適用されないその条約を――あえて日中平和条約であると僭称して、この条約によって日本と台湾政府とは関係づけられたのでありますから、冷静、公平に見れば、このような条約に基く、関係は、われわれの目から見ますならば、日本と中国との外交の正しい道を歩んでおるとは私には言えない。共同コミュニケ以後、国民政府地方政権化したことはもはや明瞭となりました今日、そして日本が戦場にした中国には確固たる基礎を持った政府が存在しておる今日、日本政府は今や対中国政策を根本的に転換して、中国政府との国交回復に向って努力すべきであると思います。私はこれこそ総理大臣の言われる国際的信義に合致すると思うのであります。どうお考えになりますか、御感想を承わりたい。
  94. 岸信介

    岸国務大臣 日華条約は、当時中国を代表する正統政府として、日本との間に条約が結ばれたのであります。従いましてこれの解釈につきましては、私黒田委員と先ほど来意見を異にするのでありますけれども、しかし同時に中国大陸との交通が今のように杜絶しておるということは、お互いに望ましい状態でないことは言うを待たないのであります。これが打開につきましては、われわれはすでにしばしば言明しているような方針に基いて、これが関係を打開したいとは考えておりますが、日華条約の解釈につきましては先ほど来申し上げておるように、私は黒田委員とは考えを異にするということだけを申し添えておきます。
  95. 黒田寿男

    ○黒田委員 そうするとだいぶ見解が違います。しかし私は心から日本国民の一人として総理に勧告したいと思う。もう今日になれば、政治と経済の分離の政策を捨てて、政治と経済と歩調を合せて、中国との交流回復に努力さるべきときではないかと私は思います。むろん私どもも非常識漢ではございませんから、今すぐ中国政府と岸内閣と平和条約を締結せよ、そういうようなことは申しません。しかし少くとも中国との国交回復に向って努力するという方針に切りかえるべきだと私は思うのであります。もうその時期がきておる。いつまでもこだわらないで――台湾情勢の重大な変化を見て、それは総理からお考えになれば、蒋介石の身の上も気の毒でしょう。けれども、そういう人情の問題と国際の問題とは違うのであります。人情の問題はまた人情の問題として別に解決すべき策があると思います。私はこの際一大転換をされるよう要求したいと思います。  どうもしかし何ぼ申し上げましても、総理大臣は聞いていただけないので非常に残念なのです。私から言えば、少し悪口を言わしていただきたいと思うのです。今日のようになった日華条約を日本と中国との平和条約だなんて言っておるのは、砂糖の中身のない砂糖袋を持っきて、砂糖がある、砂糖があると言うのと私は同じだと思う。ビールを飲んでしまったあとのからびんを持ってきて、さあ一ぱいやろうと言う者があったら、私はばかでなくて気違いだ、そう思うのです。そう言われても仕方がない。ばかでもそんなことはしない。気違いでなければそんなことはしない。岸総理を気違いなどと言うのではありません。しかしもうそろそろここで中身のない日華条約を、中国と日本との平和条約だ、平和条約だ、尊重すべきだと言うて持ち歩くことだけはやめていただきたいと思います。それをあまり固執しておると、やはり世間は反共気違いと言うかもわかりませんから、そういうことにならないようにやっていただきたいと思います。(拍手)  これをもって私の質問を終ります。
  96. 楢橋渡

    楢橋委員長 小松幹君。
  97. 小松幹

    ○小松(幹)委員 予算委員会最後の総括質問でありますから、時間もおそくなりましたけれども、一応お尋ねする項目だけを先に申し上げておきます。  東南アジア開発構想についてお伺いします。金融政策についてお伺いします。それから為替管理の方法、外債を完了して帰りましたからその報告を受けたいと思います。国民年金の一部の問題について厚生大臣からお答えを願います。さらに運輸関係の三国間輸送の問題、全日空の予算の問題についてお伺いし、独禁法についてお伺いし、賠償方法の具体的な問題についてお伺いして終りたいと思います。  まず最初に、岸総理大臣にお伺いしますが、昨年あるいは一昨年来岸総理日本の宰相としてアジアの協調、東南アジアと日本との経済協力、そしてそこに大きな経済と外交とをマッチした岸構想なるものをお出しになった。しかもあなたは二回にわたって東南アジアに行かれ、アメリカにも行かれて、東南アジア開発構想の実現を期して予算化までいたしましたが、本年の予算には何も出ていない。そうして昨年予算化した五十億は、日本輸出入銀行の特別勘定の中に静かに眠っておるという情勢であって、今次の予算委員会を通して、あるいは本会議を通して、ただの一言もこの東南アジア開発構想のことについての具体化もなければ予算化もなされていない。このことについて一体岸総理はどういうお考えを持っておるのか、この当初の岸構想というものは、すでにほごになったという意味か、あるいはだめだからやめるというのか、その辺のところを明快に御答弁をお願いします。
  98. 岸信介

    岸国務大臣 東南アジア開発につきましては、すでに私も私の考えについて国会において申し述べ、あるいは関係諸国とも話し合いをしてきております。すなわち東南アジアの地域における開発を促進するために必要な資金を作ることと、それから技術的な援助を強化することの二つをできるだけ急速に実現すべきである。言うまでもなく東南アジアの問題につきましては、われわれが一つの計画を立ててこれを一方的に押しつけるとか、あるいは押し売りするという性質のものではございませんで、地元の国々の希望に応じて今申しました二つの面において協力をすることが私は望ましいと思います。そのためには資金の上においても一つの国際的な機構ができて、これに相当な資金をもって必要を充足するようにしたいというのが私の考えでございまして、従ってそういう機関ができた場合において、日本としても相当な日本の国力に応じた寄与をしたいという意味において、そういう趣旨をもって五十億という金を昨年の予算編成の場合に計上して、御指摘のように輸出入銀行に特別勘定として預け入れがされております。三十三年度中におきましては、そういうわれわれの期待するような具体的なプロジェクトが実現するに至りません関係上、そのまま輸出入銀行に預け入れられておることは御指摘通りであります。私はそういう考えを依然として持っておりますし、またそれについて関係国におきましての理解も、私がこれを提唱した当時から見ますと漸次深まってきております。従ってこれが実現については将来とも努力をしていく考えでおります。
  99. 小松幹

    ○小松(幹)委員 今の意見を聞いておりますと、私、政治は、意見を持っておるとか、あるいは考えであるというようなことでは、政治には役に立たない。岸総理は常に、そういう意見を持っております、考えを持っております――考えや意見は政治のうちに入らない。だれでもそういうアイデアは考える。構想は考えてくる。それを現実に具現していくことこそ今の政府の足取りでなくてはならぬ。その足取りが一つもない。アイデアはある、構想は持った。しかも昨年一年間予算はちゃんと用意した。しかし何もやっていないじゃないですか。何一つとしてやっていない。そんなら現実に何をやっておるか、あなたに率直にお伺いします。どういうようなことを今やっておりますか、そのことを具体的に聞きます。
  100. 岸信介

    岸国務大臣 二つの方向において努力をいたしております。一つはそういう国際的な基金の設置について関係国の間の理解を進めるということと、それからもう一つは、そういうものができた場合において、その資金によって協力を受けるであろうという具体的のプロジェクトについてのいろいろな調査研究を進めております。
  101. 小松幹

    ○小松(幹)委員 調査研究も何もしていないわけなんです。あなたはそういうふうにおっしゃいますけれども。それじゃ話を変えまして、あなたは日本だけでやるつもりか、最初からアメリカのドルを当てにしてやると、こういう考えですが、アメリカをやはり当てにしてやるのですか。日本だけでやるお考えですか。
  102. 岸信介

    岸国務大臣 私はこういう問題は、できるだけ広く同じ考えを持っておる各国の協力によってやることが望ましいと思います。たとえば世界銀行の構想であるとか、あるいはこれの資金を増すやり方や、あるいはまた国際連合においてやられておるところの基金の設定の問題や、あるいは別個にこれらを置くというような考え方におきまして、各国ができるだけ協力することが望ましいと思います。しかしながら日本自体ができ得る範囲、また日本自体においてやることが要望されるような問題については、日本自体の力に応じたものをやることにやぶさかではございません。現にそういう意味経済協力を各地において実現をいたしております。
  103. 小松幹

    ○小松(幹)委員 世界銀行の問題あるいは国際通貨基金の問題とか私はそういうことを言っているのじゃないのです。岸構想が出た五十億あるいは五十億をさらにふやす、そのことを具体的にどうやっているか。アメリカには確かに、あとで外務大臣にも尋ねますけれども行かれた。アメリカにはそれだけの交渉はしたが、肝心な東南アジ研の国に一体どういう交渉を持ち、どういう具体策を提示していたかという問題にかかる。それを何もやっていない。ここが問題なんですが、果してアメリカはこの岸構想に乗っかってきたかどうか、このことを外務大臣にお伺いしますが、あなたは昨年の九月十二日米国においてダレスとジロン国務次官に会って、この三者会談の結果、東南アジア開発について日米協力ができるというようなことを報告した。日本の新聞もこれを書き立てた。そうしてあなたは九月の十九日の国連総会においても、その演説の末尾でありますけれども、しまいに東南アジア開発の問題を訴えた。そこまではいい。果してダレスなりあるいはジロンなりアメリカの要路の者があなたの意見に賛成したのかどうか。新聞は当時賛成した、こう言っていましたが、賛成したのかどうか。
  104. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 岸構想を実現いたしますためには、やはり集団的な援助計画というものが必要なのであります。御承知のようにアメリカは原則として二国間の援助契約ということを割合に固執しております。しかし昨年中近東の問題が起りましたときに、御承知のように中近東に対する集団的な経済援助をいたすことに決定いたしました。また私がダレス長官に会いました前後におきまして、中南米に対して共同的な組織ができるならば援助計画をするという、集団的援助にもやぶさかでないということを当時言ったのであります。私もダレス長官に会いましたときに、アメリカは原則として二国間の援助以上に、この南米なりあるいは中近東なりの諸国の集団的な申し出に対してやっておる以上、何かアジアにもそういうことができるならば、従来と違った立場で話ができるのじゃないかということを申したのです。これはやはり岸構想の一つの結末をわれわれ考えておるから申したのでありますが、ダレス氏は、中近東もしくは南米に対するそうした集団的な援助計画をわれわれも持っているのだ。またそういう方向も、原則として二国間が好ましいと思うけれども、そういう方策もそれぞれの国がまとまっていくならばやってもよろしいという、若干政策の変更があるのだということを言っておりました。ジロン次官もそうであります。そういう意味におきましては、やはり私は集団的な援助計画というものは必ずしもまだ不可能だとは考えておりません。ただ問題は、東南アジアの各国の経済状態その他が、いろいろ中南米もしくは中近東方面とだいぶ事情も違いますので、各国との間で集団的にこれらのものを結成していくという方法については相当困難だと思われます。われわれとしては常時それらの問題について話し合いをしながら、可能な範囲内においてそういうことも考えていくべきであるという初めからの岸構想の考え方に従って、今日でもなお努力をいたしておるような次第でございます。
  105. 小松幹

    ○小松(幹)委員 今の外務大臣の答弁はあいまいで、ダレスが賛成したのやら賛成しないのやらわからないのですが、九月の二十七日に、外務大臣が会談をした直後でありますが、ダレスは米国極東評議委員会の演説の席上で、東南アジア等の開発については既存の、すでにあるところの経済開発機構によってやるのだ。既存のものといえばコロンボ・プランが現に存在しておる。池田元大臣がコロンボ会議に行ったときも、コロンボ会議の大方の空気は、東南アジアの開発の構想は、このコロンボ・プランによってやることが最もいいんだというような雰囲気があった。そういうことから考えたときに、あなたがあるいは岸さんがわざわざアメリカに行ってダレスに申し込んだけれども、実際のところはダレスはそういうことは考えていない。アメリカ日本と組んでアメリカが資本を出して、日本がその手先で東南アジアの開発をやるんだなんという考えはない。既存の開発構想によってやろうという考えははっきりしているわけです。それにもかかわらず外務大臣は今のようなことをおっしゃるが、一体どうなんですか、これはまだ見込みがあるのですか。
  106. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 アメリカ経済援助に当りまして、先ほど申し上げましたように二国間の援助をまず根本的に考えている、そうして集団的な援助というものを第三段に考えているということは先ほど申した通りであります。また同時に既存の諸機関というものをできるだけ活用していきたいということも、これまたアメリカとしても、他の国でもそういう考え方であります。従ってコロンボ・プランを充実していくという形において援助計画を拡大しようという考え方は当然これはある。同時に数年来問題になっておりました国連の後進国開発基金いわゆるエタップと申しておりますが、これに対してアメリカが賛成をすることになりましたのは、私はやはりアメリカの大きな態度の変化だと思います。でありますから、そういう意味におきましても、こうした大きな問題についてはやはりまだ相当の年月をかけて、われわれとしては努力をすべきであるというふうに考えておるわけであります。
  107. 小松幹

    ○小松(幹)委員 私は今コロンボ計画だけのことを言いましたが、その当時ダレスは開発借款基金いわゆるDLFの構想もすでに持っておる。同時にジロンは第二世界銀行の構想も持っておる。まだ第二世界銀行の構想ははっきりしませんけれども、もはやこの前国際通貨基金に佐藤大蔵大臣が行ったときには、第二次世界銀行の話が出ているはずです。あとで承わりますけれども……。そういうようにダレスは、日本が岸構想に基いて日本アメリカとあるいは東南アジアの国と資金を出し合って岸構想に基く開発計画を持っていっておるけれども、肝心なアメリカはすでにコロンボ計画があるじゃないか、開発借款基金DLFがあるじゃないか、さらに第二世界銀行の問題も出ておる――今未開発地の開発の問題という外務大臣が言ったことは、私は第二世界銀行の構想も入っていると思う。だからダレスはもう手一ぱい持っておる。その手一ぱい持っておるのに日本がそういう考えを持っていったからとして、それは私は何もならぬとはっきり申し上げます。  そこで私は、ここで総理にも申し上げておきますが、あなたのいわゆる岸構想は、まことに東南アジアに対する注目を引いただけの構想であって、事実においてはこれは考え方根本的に間違っておる。日本がかつての大東亜共栄圏の当時のような夢を見て、そうしてアジアの指導者である、アジアの中心、東南アジアは少くとも日本が開発してやるんだというようなおこがましい考え、しかもそれが実力があればいい。自分の資金を投げ出してでも後進地の開発をやるという自信があるならばいいが、自分は金がない、アメリカの、人のふんどしで相撲をとるような考え方を起して、いわゆる大東亜共栄圏当時のような夢を見て岸構想を出したから、結局は昔の甘い夢の上にしか立っていなかった。アメリカに行っても、口ではいろいろ外務大臣との取引もいいかげんな取引をやりましたけれども、実質は結局ダレスはその構想には全く乗ってこない。ここに私は岸構想はついに破れた、ただ五十億を積み上げて、非常ににぎやかな宣伝をしただけに終ったと考えるのでありますが、岸総理、あなたの夢はまだ消えずしていつまで続くか。そのうちにあなた自身がやめなければならぬときが来るじゃないですか。そのことを考えたときに、一体いつ実現するか、具体的にお願いします。
  108. 岸信介

    岸国務大臣 小松委員の御意見でありますが、私は東南アジア諸国を親しく見て、これらの地域において独立を完成するためには、どうしても経済基盤を強化していかなければならぬ、すなわち経済開発ということが非常な急務であるという考えから、しかも経済開発をしていく上から見ますと、資金と技術の点において非常に欠けておる、この二つを供給するにあらざれば、これらの地域におけるところの経済基盤を強化し、その独立を完成するわけにいかないという点に立脚して、その資金をできるだけ豊富にすること、及び技術的の援助をすることのできるようなことを考えなければならぬ、ただ口に東南アジアの開発ということを言っただけでは、これはなかなか実現するものでない、こう私は考えて、ああいう構想を発表し、またそれが実現について諸外国の理解と協力を得るように努力をしてきております。また今後も努力していくつもりでありますし、またその間において、日本の実力でできるところのものにつきましてはいろいろな点においてわれわれが経済協力をしていくことは、もちろん進めていかなければならぬと思います。また日本の力に余るようなものにつきましては、どうしても国際的な協力を必要とするわけであります。決して、小松委員のお話のように、かつての東亜共栄圏のような考えであるとか、あるいは日本がアジアの指導者であるというような思い上った考え方から言っているわけではないのでありまして、真にこれらの国々の国民が要望しておるところの、民族が要望しておるところの独立と繁栄を来たすための経済開発には、どうしても資金と技術が欠けておる、これを補うところの方法を立てない限りにおいては、これはできない、私はこういう見地に立っておりますから、従って、あらゆる面において、今後においても私は努力していくべきものだ、こう思っております。
  109. 小松幹

    ○小松(幹)委員 あなたは東南アジアの開発のために熱意を持っておる。その熱意は私も否定はいたしません。それから技術援助についても努力するということ、そのこともいい。ところが技術援助等については、コロンボ・プランによって日本も技術援助国になっておる。だから、それを通してやればできるはずなんだ。一体何をねらって岸構想が出たかというそもそものねらいなんです。ねらいにおいて抽象論ではないと私は思う。そこで私はこれを批判すれば二つの矛盾があると思う。いわゆる資金のない、俗的な言葉で言えば、柄にもない者がアメリカの資本を当てにして大きな構想を出したということの誤まり、それから今や世界の一つの動きは日本が一国だけで東南アジアの開発というようなことを考えること、そのことが誤まりである。世界銀行あり、第二世界銀行の構想も出ている、あるいは国際通貨基金の問題がある。国際的に通貨というものを安定したり、あるいは開発に協力していこうという一つ思想が、現われが出ているのにもかかわらず、あなたは昔の通りの考えで、あの満州時代と同じような、一歩も出ないところの考え方日本の力だけで何とかしてやろうというような考え、思い上った考え、頭が過去の頭から前進していない、こういうところから出発した構想の誤まりがきていると思う。率直に言って、あなたの構想はよって来たるところは善意である、そのことは私は認めますよ。悪意でそんなことを考えたのではない、善意だと思う。しかしながら、出された構想はまことに荒唐無稽にしかすぎなかった、こういうふうに私は批判するので、批判については別にお答えも要りません。  そこで、第二世界銀行の構想なんですが、大蔵大臣、あなたは行って話されたのですが、第二世界銀行の構想を一つ聞きたいのです。
  110. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 昨年インドに参りましたとき、一部の国において第二世銀の構想がございました。しかし先ほども外務大臣が別な問題でお話しになりましたように、現在ある在来の機構を強化するというような考え方はもちろんあるのでございます。そういう意味で世銀なりIMFの出資をいたしまして、ただいま第二世銀の問題は具体化しておりません。
  111. 小松幹

    ○小松(幹)委員 第二世界銀行の構想は確かにあのときに出たと思います。これについてもう少し内容をお聞きしたいのですが、一体どういう目的で、しかも開発の資金は低利長期だと言っているが、どのくらい低利で長期の考え方ですか、そういうことをもう少し詳しく聞きたい。
  112. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 御承知のように、国際金融機関としてはIMF並びに世銀、IFC、三つあるわけであります。世銀は大体限度に来たというところで、また後進国開発に対しては、世銀以外の機関が望ましいじゃないかというような話も出たわけでございます。しかし、実際には世銀やIMFやIFCでその機能は大体達せられたというところでございますので、今回この資金ワクを拡大するという意味で、出資、増資の計画を立てて、それでただいま進めているわけでございます。
  113. 小松幹

    ○小松(幹)委員 今大臣が言われた増資の計画など、いわゆる俗にいう世界銀行、第一の世界銀行の方でありまして、第二の世界銀行の構想というのは、最近、一月二十二日に、米国のジロン国務次官の演説の中に、第二世界銀行の構想について日本は非常に協力的であるというような発言をジロンがしておる。あなたはどういう約束をジロンとしたか、この点をお聞きした
  114. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 私は別にジロンとは会っておりませんし、約束はいたしておりません。第二世銀の話は、昨年のニューデリーの会議において、そういう構想を一部の人がしておりました。しかしながら、先ほども申しますように、世銀やIMFが出資増額いたしましたから、その意味で一応まかなえる状況になっております。第二世銀の構想そのものは今日の段階では固まってはおりません。
  115. 小松幹

    ○小松(幹)委員 第二世銀の構想は固まってはいないと思いますが、すでにその会議に出た構想の中では、世界銀行の問題とは別に、東南アジア等、いわゆる中近東等の後進地の開発のためには、年利二分くらいな金利で四十年間の先の支払いという格好の、ほんとうにもうくれてやる式の開発構想が出ているわけです。だから西ドイツの、日銀であったら総裁ですが、西ドイツの銀行の総裁あたりは、幾ら西ドイツが金があるといっても、そういうふうに四十年先に、しかも年利二分みたような金を出すような、そんな金は出せない、だから第二世界銀行には協力はなかなかできない、こういうふうにいわれている。第二世界銀行の構想というものは、共産圏が非常な低利な開発をやっておる、長期な開発をやっておるから、それに対抗する意味の開発計画として出てきた構想であると思う。そうなれば、いわゆる第二世銀の構想と今岸さんが出しておる岸構想とはマッチするのかしないのか。第二世銀の構想と岸構想とは一体になるものか、一体にならないものかをお伺いする、その辺どうなんです。
  116. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 ただいま小松さんも御承知のように、一部において第二世銀の設立をというような意見が出ていることはございますが、有力なメンバーである西ドイツのごとくこれに反対しておるものがある、こういうことでそれから具体化しておらないのでございます。そこで後進未開発国に対する経済援助の問題でございますが、ただいますでに昨年インドに対しまして特に世銀においても融資額を拡大いたし、また引き続いてインドに対しての融資ということが問題になっております。あるいはパキスタンであるとか、ビルマであるとかその他の国々に対しましても同様な問題が起きておる、これは御承知通りでございます。いわゆる世界的な問題といたしましては、IMFや世銀やIFC、こういうものがそういう役割をいたしておりますが、しかし限りある資金でございますし、また地域的には特殊性ももちろんあるのでございますから、そういう意味においていわゆる岸構想なるものも、もちろん現在もその構想のもとにおいての話は持っておるわけでございます。これが第二世銀と一緒かというお話でございますが、岸構想の開発基金なるものは、ある程度具体的に基金を用意いたしておりますが、これもしかし日本だけの問題じゃなくて相手方のあることでございますから、まだそこまでは進んではおりません。同時にまたこれは第二世銀の構想とは別なものである。これは御了承いただきたいと思います。
  117. 小松幹

    ○小松(幹)委員 第二世銀の構想は、ほんとうに後進地の開発の金利の非常に安い四十年以上の長期にわたる開発で、学校を建てたり、病院を建てたりするような非生産的なものに使うところの、文化施設等に使うところの費用になると思いますが、岸構想が出しておる五十億はそういうところに使うとするならば、これは岸構想を第二世銀に乗りかえてもいいわけだ。しかしそれでなくして何かそういう非生産的なものに使うのではなくて、生産的なものにコマーシャル・ベースに乗せていこうというならば、これは岸構想と第二世界銀行の構想ははるかに違ってくると思う。ここにいわゆる五十億の岸構想は根本考え方というものがはっきりしない。病院を建てたり、学校を建てたりするような費用、後進地を導いていく費用に使うのか、それとも生産を上げて見返りがどんどん日本に来るような、そういうような金に使おうとするのか、そこがはっきりしなかったところにも、私は岸構想の根本的な誤まりがあるのではないか。以上申し上げまして、次に参りたいと思います。  大蔵大臣にお願いしますが、私は今日ほど金融政策を積極的にタイミングを合せてやらなければならない時期はないと思う。あなたはいつでも金融正常化の意見を出しておる。なるほどその通りだと思う。現在の金融状態を見ますと、ことに緩和の状態にきております。本年度三十三年度も財政の散超を出しておる。二十四年度の今の予算案を出しておる状況を見ても、今の状態では散超を大きく出しておる。こういうような情勢であるし、また銀行方面もオーバー・ローンの解消が進んできて、貸し出し超過も減ってきておる。こういうときでございますし、また先般も公定歩合の第三次引き下げがありまして、経済の成長は非常に強い含みを持って活発な動きをしておるというように報告されておりますが、そういうときに当って金融の正常化を進めるというその考え方は私は確かに賛成であります。佐藤大蔵大臣の言われる通りにやってもらいたい。ところが静かに日本の金融の政策を顧みたときに、歴代の大蔵大臣、終戦後今日までの大蔵大臣の金融政策を見たときに、ほんとうの意味の金融政策はだれもやっていない。ただ資金ワクの調整あるいはそのときどきにおけるところの操作、こういうような金融操作とかあるいは資金の規制とかそういうものでほんろうされて終っておる。だから私から言わせれば金融政策というものは持ち合せがなかったと言っても過言ではない。しかしながら戦後あの荒廃の中から、ほとんどゼロから出発して今日までくる過程には、曲りなりにも私は金融の操作なりあるいは資金の規制というものが、今日の成長の陰に大きな役割を果しておることは認めざるを得ないわけであります。そういう意味でほんとうの金融政策というものはなかったけれども、戦後の復興には金融が非常な力を持ってきた。しかしながら今の日本経済は過去の惰性による金融政策でいくことは許されない。経済の成長なりあるいは産業基盤の強化等から考えて、今までやったような金融政策に終始することは許されない。こういうように考えるときに、第三次公定歩合引き下げを機に、ここに活眼を開いて金融政策を正常化のためにがっちりとやってもらわなければならないと思うが、佐藤大蔵大臣の御所見はどうなんですか。
  118. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 第三次公定歩合引き下げについて全面的に御賛成をいただきまして、まことにありがとうございます。確かに御指摘のごとく、今日こそ金融の正常化に一そうの力をいたすべきときである、かように考えておりまして、私どもいろいろ具体的な案も考え、また平素の指導監督にも意を用いておるわけであります。
  119. 小松幹

    ○小松(幹)委員 ここで私は金融政策を積極的に正常化を進めてもらうためには、はっきりしておかなければならないことがある。わが国の金融政策の指導のトップに立つものは一体たれか、その金融政策の責任者は一体たれかということをはっきりしておきたい。あるいは大蔵大臣というであろうし、あるいは日銀総裁だという考え方もある。そこで過去においては日銀総裁と大蔵大臣とがにらみっこしたことがある。今でもいろいろな問題があるが、今の場合に私は日本の金融政策の推進者であり、しかもその最大の責任者は大蔵大臣であると考えるが、その点についてどうなんですか。
  120. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 政治の責任は政府にあることは御指摘通りであります。ただ金融につきまして時に日銀が主体であるというような表現をいたしますが、金融については、政治からやはり離れて金融の中立性ということが特に叫ばれておることは御承知通りであります。中立性はやはり堅持させていいことのように思いますが、政治につながる限り、政治に関する責任は政府そのものにあると思います。よく承知いたしております。
  121. 小松幹

    ○小松(幹)委員 私は何も日銀の中立性を侵害しようとか、あるいは日銀のなわ張りを押えて、大蔵省でイニシアをとるべきだというようなことを言っておるのではなくして、少くとも金融正常化の巨歩をこの際積み上げていかなければならないというときに、その旗振り役はやはり政治が積極的にやらなければ、日銀なりあるいは市中銀行の金融にまかしておったのでは、のんべんだらりとしてやれない、こう思うからはっきりその責任者をあらかじめきめたいという気持で言っておるわけです。今度の公定歩合引き下げの様子を見ても、公定歩合第三次引き下げはこれはタイミングに合っていないと思う。すでにもう時期を失したと思う。だから今ごろいわゆる第三次引き下げをしたからといって、すぐに市中金利はなかなか下ろうとしない。むしろ思い切って一厘第四次引き下げをするか、あるいは今後は一厘でなくて二厘くらい下げるべきである。しかもその下げるときの日銀の政策委員会のもめごとというか、ぐずぐずした思い切りの悪い日銀政策委員会の姿を見たときに、こういう思い切りの悪いぐずぐずした金融指導で日本の金融を指導されたら、今の絶好のチャンスのときに金融正常化は不可能である、こういうふうに考える。この点について、やはりはっきりした明確な態度で日銀を指導し、あるいは市中銀行を指導するという気持がなければ、たった一つ公定歩合引き下げですら、あの政策委員会で何を言うたかわからないようなことで、しまいになしくずしにぽんと引き下げたというような、ああいう体たらくになる。引き下げたけれども、それならそれから先どうなるのかということになると、まことにまた寒々しい思いがする。よたよたして行ったり戻ったり、行ったり戻ったりするような金融政策あるいは金融の状態、こう考えたときに、やはり大臣の責任が大きいと私は考える。そこで大臣、あなたは金融正常化に対して賛成ですからいいのですが、その正常化の路線そうして最後の終着駅は一体どこへ持っていくか。ただ正常化、正常化と言うただけではつまらぬ。路線はどこか、終着駅はどこへ持っていくのか、そのことをお伺いしたい。
  122. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 金融問題でただいま一番方が入っておりますのは、金利政策の面であります。これは先ほど来、公定歩合の問題からお話ししておられることと、また私どもが指導しておるところでよく御了承をいただけるだろうと思います。金利政策の面におきましては、あらゆる機会にお話申し上げておりますように、国際金利水準にさや寄せする、いつもこの表現をいたしております。もちろん今回の金利引き下げ公定歩合引き下げは、どういう意味を持つかということでございますが、大きな方向から申せば、国際金利水準にさや寄せするということでございます。過去二回の公定歩合引き下げは、過去において特殊な政策から引き上げた、それを元へ返すという程度だったと思います。従いまして、そういうような意図がありますので、政策的にも非常に力が入っておったと思います。しかし、一応引き上げ前の状態に返ってきた金利でございますから、その次にさらに、これを引き下げるという場合におきましては――日銀の政策委員会の決定がぐずぐずしたというようなお話もございましたが、特に金融の情勢、あり方並びに今後の推移等について、十分の見きわめをする必要があったことは申すまでもないところであります。ことに、公定歩合を中心にしての金利あり方については、非常に議論の存するところでありまして、私は昨年も国会を通じてしばしば申し上げておりますが、日本くらい公定歩合の上下について議論の多い国は実はないようでございます。それほど非常に日本金利そのものが高いということもあるだろうと思いますが、また同時に、過去において、政策金利として操作されたということもあり、特に批判があるのだ、かようにも思います。今回の引き下げは、金融情勢に対応し、同時にまた将来の金融のあり方金利あり方等に対処する、この二つの意味を持っての引き下げでございます。市中金利がこれに追随しない、こういうような御批判でございましたが、幸いにいたしまして、市中の金利も全面的に今回の公定歩合引き下げに協力をいたしております。従いまして、今回は各金利について一厘方の引き下げが実現するということで、これは非常な進歩であるように思います。  先ほど来、一体金利政策だけでやることはないじゃないかというお話もございますが、金利政策の面から見ましても、今回標準金利制度についての考え方がほぼ固まって参るとかいうこと、あるいは標準金利以外のものにつきましても、比較的これに近いものについて、さらに五毛程度引き下げをする申し合せができたとか、金利体系はようやく整って参ったように思います。同時にまた、政府の三公庫等につきましても、政府も特にその金利引き下げに努力することにいたしておりまして、四月以降その準備も進めておる次第であります。問題は金利が下ることと同時に資金量が十分であること、同時にまた融資の対象、これは産業政策と密接に関連を持ちまして、国の産業政策を遂行するに役立つようにこの資金が使われることが望ましいのであります。金融そのものを扱っております金融機関そのものについては、業務の合理化、経営の合理化その他を特に指導いたしておりますから、一面に金融機関の信用も高まり、また金融機関の扱います資金そのものが国の産業政策にも対応し、同時にまた低金利で融資ができるということになりますならば、いわゆる経済の体質改善にも役立ち、同時にまた国際競争にもひけをとらないようにもなると考えるのであります。  かような意味において、金融機関のあり方、同時にまた金融の実行の面において、言いかえますならば融資の面において、それがどういうように使われるか、こういう点をも含めて、全体についての指導監督を一そう注意して参るつもりでございます。
  123. 小松幹

    ○小松(幹)委員 正常化の終着駅は金利だと思う。金利も、今大臣は国際金利にさや寄せをするという言葉を使いましたが、それは上品な言い方で、なるほど国際金利にさや寄せするというが、政策としては私はあくまで低金利政策でなければならぬ。今の日本金利水準から見たら、ここで打ち出すものは、あくまで低金利政策をかちっと打ち出していかなければ、国際金利にさや寄せするというようなあいまいな模糊としたような上品な言葉を使ったのではだめで、低金利政策に徹するという一事なんです。  なぜかなれば、今日まで日本の金融というものは、昔独占金融資本といわれたように、独占的な一つの金融資本体系を構成してきた。今、金融がこの思い上った独占金融の舞台からおりて、大衆の仲間になって、中小企業でもいい、あるいは普通の企業、こういう大衆の仲間の中に入ってきて、金融のサービスをするという気持にならなければ、独占資本になって、そしてチェックをして企業に融資をしてやるのだという形の金融では相ならぬ。そのためには、やはり低金利政策というものを遂行していく本然の金融機関のあるべき姿に返していかなければならぬ。さやがよけい取れて、第一、今一番きれいなビルディグンを建てて、きれいなところによって、でんとかまえておるのは金融家ではありませんか。一番国民の上にでんとかまえて、あぐらをかいておるのが金融です。それが大衆の中に飛び込んできて、金融のサービスをするといういわゆる金融事業に徹することです。金融資本にならないということなんです。金融資本から金融事業になっていく、そして生産手段にサービスしたり、あるいは産婆役になったりするということ、そこに徹するならば、私は低金利政策以外にはない、こういうように考えるのです。だから、あなたの言う低金利の考えよりももっと深い低金利政策を考えなければならぬと、こういうことを私は言っておるのであります。  さらに、あなたはそのほかに、金融の中のいわゆる内部指導を言っておりますが、その通りであります。最近、大蔵省の銀行局長名で基本通達か何か出ております。いわゆるオーバー・ローンの解消をやれとか、あるいは会社、銀行の内部の収支の比率を指定するとか、あるいはさらには、いわゆる全体的な指導を通達でやっております。通達の内容は、私はちょっとここではっきり読むわけにいきませんから読みませんけれども、そういうことをやって、いわゆる内部の指導をやっていくという。オーバー・ローンの解消ということもいいのですが、しかしそういう操作を通すだけではなくして、やはり最終的には低金利政策に徹してやる、そのことが、あなたがいつも言われるような企業の体質改善、まず銀行の体質改善にもなる。そうして企業の体質改善までいかなければならぬ、こういうふうに考えるわけです。低金利政策のことから入りましたからまずそこから行きますが、公定歩合の第四次引き下げぐらいな気持はないのかあるのか、どうです、それをはっきり伺いたい。
  124. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 先ほど来申しますように、日本では公定歩合の問題はなかなかやかましいのですが、一次、二次は特別な政策的な意味を持ちましたけれども、今回以後特に金融のあり方に意を用いて参っていかなければならぬと思っております。従いまして第三次引き下げをしたばかりでございますから、これは今日の金融情勢を一応見通してやっておることでございますから、それで御了承いただきたいと思います。
  125. 小松幹

    ○小松(幹)委員 金利体系の問題が問題なのです。先ほどあなたは、公定歩合引き下げをやったら市中銀行がなかなかよくついてきてうまくいっている、うまくいっているも何もない。今の金利体系がむちゃくちゃなんだ。あなたはうまいこと言うだけであって、標準金利だなんて言ったって、標準金利そのものがいいかげんじゃないですか。あれはむしろ標準金利なんて言ったって、実際問題、うまく体をかわしておるだけです。いわゆるいい企業に向って有利にしてやる。それじゃ悪い企業、今から立ち上ろうという企業にはそっぽを向いておるという、えこひいきをするような格好になって、結局今の金利政策はうまく肩をかわして――標準金利政策というものは、これは日銀から打ち出されておる。だから日銀のような指導にまかしておったのでは、今の標準金利なんというぬえ的なものが出てくる。考え方はいいんですよ。なるほど最低と最高にするのでなくして、そこに貸出先の実力によって差をつけていくというようなやり方をするのですから、それだったら実力のあるなしはだれが判断するかといったら、結局これは信用でしょう。その信用を考えたときに、今の場合これは市中金利引き下げにはならぬ。標準金利というものはもたもたするだけであって、ここに問題がある。やはり私は低金利政策を遂行するというならば、この標準金利政策というものは、あるいは一時的な一つの段階、ステップとしていいかもしれません。しかし本来的なものではないと思う。すでに最近の新聞論調を見ても、標準金利政策を監視する、市中銀行金利引き下げに対しては相当疑問を持っている向きもあるわけなんです。私は金利体系というものを根本的に是正しなければ、幾ら公定歩合が下らぬといったって――私があえて四次公定歩合引き下げをやれとわざと言うたのも、金利体系というものがはっきりしない、だからもたもたするから第三次の次に第四次はやるかといって、積極的に四次引き下げを言うたのも、金利体系というものがはっきりしていないということだ。だからやはり金利体系というものを、ここで根本的に是正するということが最も必要だ。先日あなたはこの予算委員会で、私の党の石村君の質問に答えて、コールがどうも下らぬ、コールが下らぬと盛んにコールの説明をしておりました。市中銀行がややこういうからコールが下らぬ。コールが下るような手を打っていないじゃないですか。手を打たぬでおいて、公定歩合をばんと上げたからコールが下らぬ。国会に来てまでコールのことを説明せんならぬようなことになる。コール・レートが下るような指導をなぜやらないかということです。それにはいわゆる金利体系の一貫した指導をやらないから、コールが下ってこない。たとえば政府の短期証券の金利というものを一体どう考えるか。政府の短期証券の金利というものを是正しないから、コールにかち合ってしまってコールが下らない。イコール・コールに流れる、この辺大臣どう考えるか、政府の短期証券の金利の問題です。
  126. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 きょう午前中、小川委員からも標準金利なり、銀行の金利あり方についてのお尋ねがございましたが、いろいろ金利は今のような規則ではいかぬのではないか。またそれに似通ったお尋ねをただいま伺うのでございますが、しかし金利をくぎづけにすることが果して金利政策そのものであるかどうか、これは一つ議論の存するところだと思います。いわゆる角をためて牛を殺すようなことがあってはならない。だから金融について一つ標準金利――標準金利という言葉が適当であるかどうかは疑問のあるところでございますが、最も信用のあるものについての扱い方を標準金利という表現をいたしておりますが、それを申し合せによって実施することになりますならば、一般金利に必ず好影響をもたらす、これはもう申し上げるまでもないところであります。従いましてこの金利あり方、先ほどもちょっと触れたのでございますが、いわゆる標準金利は一厘下げた、これに準ずるものを五毛下げた、この一事ですでにおわかりいただけると思います。でありますから、この金利そのものをくぎづけにするという政策が、金融の実際面から果していいのかどうか、これは十分考えていただきたいと思います。将来伸びていくような産業、先ほども申し上げた産業政策に対応するような金融そのものが行われなければならない。そういう場合においてこの金利が適正であるかどうか。ただいま政府の短期証券のお話も出ておりまするし、あるいはまたおそらく開銀その他の政府機関の融資金利率、これらの点もやはり念頭に置いて、金利全般のあり方一つ構想として描いていただきますならば、ただいま政府のやっていることは御了承がいただけると思います。
  127. 小松幹

    ○小松(幹)委員 金利をくぎづけにすること、何も私はくぎづけにするなんという論議をやっているのじゃない。第一、金利体系で、くぎづけでなくして固まらない金利というものはこれは金利体系がめちゃめちゃになって何もできないじゃないですか。ある一つの時期、経済区間に金利がきまるということはくぎづけじゃない。これをきめぬ限り出たとこ勝負の金利なんていったらいかれませんでしょう。あなたはくぎづけせぬと言うけれども金利をきめぬでから、一体いかれますか。それはコールかなんかがあれば違いますよ。けれども政府の短期証券の金利もきめぬで、出たとこ勝負でいかれる。やはりある期間はくぎづけでなければならぬ。だからそんなことを言ったって承知はできませんよ。
  128. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 あるいは少し言葉が不十分だからただいまのような議論が出るかと思いますが、やはり金融そのものは信用ということで、貸し手、借り手の間できまる部分があるということを申し上げたいのであります。この点は誤解のないように願いたいと思います。
  129. 小松幹

    ○小松(幹)委員 そこで私は預金金利の問題について触れたいと思いますが、やはり低金利政策を実行するという場合に、今の段階において預金金利引き下げるべきですよ。引き下げるべきだと私は思うのです。あなたは引き下げないとも言うたし、引き下げるようにも言うたし、どうなんですか。
  130. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 午前中小川委員からもお尋ねがありました。ただいまのところ預金金利を下げる考えはございませんということを申し上げた。どういう意味でただいまのように小松さんがおっしゃるのか私にはちょっと理解しかねるのですが、銀行が利ざやをかせぐということでいろいろな批判を受けているのですが、預金の金利は高く、今度は貸出金利が安くなりますので、いわゆる利ざやをかせぐ道が実はなくなっておる。今日預金金利を下げろという一面の理由は、だんだん融資金利が安くなると、高い預金金利は維持できないのじゃないかという、金融業者に対する御理解のようにも実は聞くのであります。しかし私どもは今日の情勢のもとにおいては、貯蓄を奨励すること、預金を奨励することは大きな国策の一つでもございますし、今回の公定歩合引き下げで銀行の経理状態が非常に悪化する、かようには考えておりません。従いまして、ただいまの段階においての預金金利引き下げというものは、私は考えるべきではない。むしろ銀行の経理の面ではもう少し経営の合理化なりその他効率的な方法によって、やはりその業績を維持していくように努力してもらいたい。これが政府なり大蔵省の実は本来の仕事でもございます。
  131. 小松幹

    ○小松(幹)委員 私が預金金利を下げよと言うのも、市中銀行の利ざやが心配だから、市中銀行のために預金金利を下げろなんて言っているのではございませんから、その辺お間違いにならないように、いいですか。  さっき言ったように、企業の体質改善までいくというのが一つの正常化の終着駅でしょう。それであるのに、預金金利というものが――私ここで具体的に言いましょうか。実際問題として、今度は四月一日からいわゆる一年ものの利子には税金がつくでしょう。しかし三カ月、六カ月ものというのは、この前これは課税をしておる。そこにもう一年ものと三カ月もの、六カ月ものの金利がすでに違うじゃありませんか。そうしたときに一年ものは存在価値がなくなるか、あるいは非常な不利になっておる。一年ものの預金金利は現実に不利になるか、あるいはもうやめてしまうかしなければならぬ。それから日歩の預金にしても、三十二年五月以前は日歩預金は普通の場合は六厘、通知預金の場合は七厘です。これは三十二年五月以前です。ところが今は何厘かというと、普通日歩預金で七厘、一厘高いのです。しかも通知預金は八厘、また一厘高い。昭和三十二年五月以前よりも今は高いのです。三十二年以前のときに安かった金利、今は高くなっておる。これは矛盾を感じませんか。預金金利は下げるべきです。そして預金金利を下げることによって、標準金利などはふっとんでしまうわけです。そして金利体系というものをすっきりした上に、あとの社債等の問題まで触れていかなければならぬと思うのです。そういうすっきりしたものを持たないで、あっちに引っかかり、こっちに引っかかり矛盾だらけでいくから悪い。その預金金利引き下げられないというのは――三十二年五月より高いのですよ。これは引き下げぬでもいいのですか。
  132. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 預金金利の総体的な話は先ほどお答えしたばかりでございますが、いわゆる貯蓄奨励と申しますか、資金を獲得するという意味において貯蓄は奨励すべきだ、こういう考え方であることははっきりいたしております。そしてただいま御指摘になりましたこの金利の相違は、申すまでもなく、これはよくおわかりをいただいておることだと思いますが、預金の長期性並びに安定性と申しますか、あまり浮動性のない、こういうものに対しても金利が高いことは、これは直ちに御理解のいくことだと思います。しかし今回は、ただいま問題になっております、御審議をいただいておりますものに預金金利に対する課税の問題がございます。この課税の問題は一面において貯蓄を奨励していながら、預金の金利に課税するとは一体どうだ、こういう、いかにも矛盾しておるかのような考え方があるかと思いますが、この点は、私ども税負担の公平という観点から見まして、そのままほうっておくわけにいかない。例の特別措置として免税にしておりましたものを、今回期限の到来に際して、わずかではございますが、やはり課税をする。これはやはり納税者の税の負担均衡ということを考えておるのであります。最近の貯蓄の状況を見ますと、非常に銀行預金が金額がふえております。昨年の増加などは、これは実は予想以上のものが集まっております。この点、勤労階級の方々の銀行利用が非常に高くなっておる。私はその意味において非常に喜んでおる次第であります。従いまして、融資金利をさらにさらに下げていくというような事態が起りました場合に、今の預金金利をそのまま持続しろと言われましても困難なときがあるかと思いますが、預金金利を下げなくても十分やっていけるということでございますので、融資貸付金利は下げる方向ではございますが、預金金利そのものについては今日さわらないでいるという状況でございます。
  133. 小松幹

    ○小松(幹)委員 大衆預金のために下げないということはまことにいいことなんですが、勤労者大衆は日歩預金なんて実際はしないのです。だからそういう点から考えた場合に、ここはやらない――やらないと言うと語弊があるかもしれませんけれども、実際問題として、預金体系として誤まり、矛盾を来たしておる。だから、最近でも日銀、大蔵省の当局の検討でも、預金金利は下げた方がいい、来月ごろから下げろという下打ち合せをしておる。あなたは今そんなことを言っているけれども、下の方は下げる打ち合せをしているのですよ。実際問題として矛盾しているのですから……。あなたは政治的答弁をやっておるかもしれませんが、実際問題として、預金金利はちぐはぐになっているのですから、調整しなければならぬということになるわけです。それは単に調整というわけではない。やはり低金利政策というものを一貫して筋を通すというところに、預金金利も調整して、下げるべきは下げる。それは必ずしも大衆の貯蓄の増強をはばむものではないと私は思うわけです。  その次に金融関係の体質改善というような問題は、これは銀行局長の先ほどの基本通達が出ておりますからいいが、流動費の三〇%というのはどこからはじいたパーセントか、ちょっと説明していただきたい。これは事務当局でもいい。
  134. 石田正

    ○石田政府委員 金融機関は、御承知通りに預金を預かりまして、それが、いついかなる場合におきましても払い出しができる状況にあらなければならないわけであります。また資産の中で、いつでも換価しやすいところの資金を相当持っておらなければならない、こういうことが言えるわけであります。戦後資金の需要が多いものでございますから、貸し出しの方に回る金が多くなりまして、自然支払い準備というものが率が低かったという状況が続いてきたのでございますが、先ほどからいろいろお話がございましたような工合に金融の正常化が進みますならば、支払い準備というものもだんだんとふやしていかなければならない。現在の状況から申しますと二〇%台でございますが、これもわれわれ当面三〇%を目標に引き上げをいたしたい、かように思っておる次第でございます
  135. 小松幹

    ○小松(幹)委員 その趣旨はわかっておるのです。三〇%という数字の押え方を質問したのですけれども、まあいいでしょう。  その次に、大臣にお伺いしたいのは、準備預金制度を活用するか、あるいはオープン・マーケット・オペレーション――公開市場操作ですか、こういうのは具体的にお考えがあるのですか。
  136. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 これは先ほど議論のありました公定歩合引き下げだとか、ただいま言われますようにオープンのオペレーションでありますとか、あるいは準備預金制度でありますとか、こういう制度は、金融情勢に合わして、いわゆる弾力的な運営をするところに、金融政策の実際があるように考えます。
  137. 小松幹

    ○小松(幹)委員 金融政策の最後ですが、社債発行の市場の育成ということがよくいわれているのですが、これは、私は、今の証券市場ですか、社債発行のワクを拡大する――電力債とかあるいは事業債に分けていろいろワクを設けておるが、そのワクの拡大をすることと、もう一つは市場の流通機構――証券市場ですか、そういうものを本質的に考えなければ、ただ社債発行の市場の育成だけの看板だけでは、正常化は進まないと思うが、これは流通機構までやるつもりかどうか。
  138. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 私どもは企業の使います資金のうち、長期資金についてはできるだけ社債によるか、あるいは株式発行によるか、そういう方向に変って、いわゆる借入金でまかなうことは、事業そのものから見まして、いろいろな問題を引き起すと実は考えておりますので、ただいま申し上げるように、社債の発行については特に意を用い、そういう意味の指導をいたしておるのであります。最近の状況等から見ましても、長期資金の社債に変っておるものが相当多額に上りつつある状況でありますし、あるいはまた増資計画も相当進みつつある。こういう事柄は、一時にやられますと、資金の面において非常に支障を来たしますので、これは工夫して適当に指導はいたすつもりでございます。同時にまた証券取引の実際のあり方等についていろいろ考えさせられる問題もございますが、今制度そのものを根本的にどうこうするという考えはまだございません。しかし今後の状況次第によりましては、さらに私ども工夫をこらさなければならない、かように考えております。
  139. 小松幹

    ○小松(幹)委員 企業の体質の改善ということが常に大臣の口から出て、私もその通り賛成ですが、そこに至る決意と具体的にやることとが、すぱっと筋を通して明確にいかない。口では幾ら題目を言っても終着駅には届かない。それを私は言いたかったのであります。同時にまた、日本経済の構造は二重構造とよくいわれます。あなたの企業のいわゆる体質改善をするという考えと別個に、二重構造のもう一つの農漁民、労働者の金融ということ、あるいは中小企業の金融というものを真剣に考えなければ、私は日本の場合の経済の二重構造の上に立っての金融というものは片手落ちになる、体質の改善は企業だけにとどまると思うのです。だから私が低金利政策を遂行しようというのは中小企業あるいは農漁民の、そうした一般の金融においても、しっかり考えていかなければ片手落ちになる。大体農漁民――あるいは中小企業はそうでもないですけれども、金融のワクからほとんど締め出されている。金融というものは大衆にではなくして、一部の業界にである、こういうふうに考えられる向きが多いわけであります。ですから金融というものを大衆の中にも浸透させるということになれば、やはり大衆の金融というものを考えなくてはならぬ。これはよその国ならいざ知らず、日本の場合には農漁民、労働者、中小企業のほんとうに低金利の金融を真剣に考えなくてはならない。このことについては大臣も賛成でありましょうが、これを実際にどういう形でやるのか、その意気込みとか構想というものがあれば承わりたい。
  140. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 御説の通り日本経済の体質改善におきまして、問題は幾つもございますが、ただいま御指摘になりました大企業と中小企業あるいは農漁村、そういう事業体のあり方について特に意を用いる。これはもう体質改善の面におきましても大きな問題でございます。今日まで中小企業や農漁業等につきましては、いわゆる政府三公庫というものを中心にして金融を実施いたしております。三公庫の金利の特に安いことは御承知通りでありますし、さらにまた政府自身もこれを引き下げる計画を持っておることは、すでに発表したところでございます。もちろん他面におきまして、大企業と中小企業との関連性というものにも十分の考慮を払い、大企業は中小企業を搾取するとか、あるいはこれを傘下に置いていじめるというようなことのないように、やはり相互に依存し合う面を強調して、全体としての育成強化の一そうの努力をいたすつもりでございます。
  141. 小松幹

    ○小松(幹)委員 金融政策はそれで終りまして、その次にやはり大蔵大臣に伺います。  欧州の通貨の交換性の回復がなされてきましたが、私はこれを違った角度からながめてみた場合に、これはとり方あるいは考え方というものはいろいろあると思います。一面からすればドルの御威光が下ったといえばおかしいが、西欧の通貨と肩を並べた。もう世界の通貨は、ほとんどドル・オールマイティであった。こう考えたところに各国の通貨が交換性を取り戻したということは、ドルの値打ちが下げられたというか、片一方が上ったというか、肩を並べたということになると考えるのですが、そうなった場合に、ここに当然考えられるのは、欧州各国の通貨が実質的に他国の通貨に依存するということから脱却して、自分の国の通貨はそこに金の裏づけを――全部裏づけるというわけにはいきませんかわりに、金の結びつきを深めて、そうして自国の通貨の安定なり自立をはかっていくという現われであると私は思うのです。いわゆる自国の通貨の自立性を確立しつつある。まだドルにそれほど匹敵はしませんから、完全とはいわれませんけれども、自立性を認められつつある。また自分で認めつつある。こういうように私は西欧通貨の交換性の回復性というものを見ます。  こういう見方をすれば、日本の通貨というものをひしと考えなくてはならぬ。日本の円はアメリカのドルにまるまる依存している。そうして他国の金融経済に左右されて、自国の経済基盤がゆさぶられるような結果になるのではないかと心配をする。これを言いかえたならば、通貨の交換性を回復したところは、金というものは幾分か持って、そこに自立性を持っている。ちょうど下着は着ても上着までいっておらぬ。金という下着だけはちゃんと通貨に持っている。ところが日本の場合には金の準備が一つもない。まるまる下着まではずしてしまって、ドルを着ている。こういうような格好に見える。こういう考え方に立った場合に、さて日本の場合、今の円の尊重なり、あるいは世界のこうした金への結びつきの動向に対して、あるいはアメリカのインフレ経済一つの情勢に対して、日本大蔵大臣はここで円というものに対してどうお考えになるか、あるいは金の保有ということをどういうように考えるか、一つお伺いいたしたい。
  142. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 最近欧州の通貨の交換性の回復がございました。これは御指摘通りの結果になっております。その見方は、他のポンドにしても、マルクにしても、リラにしても、フランにしても、大体ドルと肩を並べることになっている。こういうことが言えると思います。この影響は一面貿易の面にもすぐくるのではないかということで、いろいろ過去のこの委員会等においても、御指摘になりましたような議論があるのでございます。また日本の円についての円為替の導入というような話もぼつぼつ出ているという状況でございます。その際に金の保有ということが問題になってくる。今日金本位制というものを持っておるところはございませんけれども、その金があることがやはり通貨の価値を安定さすだろう、こういうことはだれも指摘するところであります。過去におきましてはドルそのものを持てば、金そのものを持つと同一の効果があったということでございますし、また今後もドル自身を持つことが金そのものを持つこととちっとも違わない、一〇〇%の交換性を持っておるドルでございますから、こういうことは言えると思いますが、やはり自国そのものの金保有量というものが、順次各国において大きくなっているという状況でございます。日本の場合におきましても、わずかずつではございますが、金保有量もふえつつあります。昨年はほとんど二%で非常に御心配をいただいたように思いますが、最近は八%あるいは一〇%に近くなりはしないかと思います。だんだん金の保有もふえていく、こういうことに相なろうと思います。しかし私はただいま申しますように、ドル自身を持っておることが、金自身を持つことと何ら変らない状況であるということだけを御指摘いたしておきまして、金そのものを非常に急いで持たなければならないというまでは心配いたしておりません。ただ御指摘になりますように、通貨価値が安定され、そうして外国の通貨の交換性を回復しておる今日、円自身においてもそういうような政策をとるべきではないかという御意向だと拝承いたしたのでございますが、確かに円自身もそういう方向でなければならないと思います。しかしこれはそれをやりますためには、やはりまず第一は非居住者の円資金をいかにするかというような問題から、あるいは為替の自由化というものがもう少し具体化していくとかいうことの準備行為が相当進んでいかないと、直ちに円為替導入というのはやや時期的には早いのじゃないか。しかし大体の傾向そのものから見まして、これをいつまでも在来のような形を守るということは望ましい姿ではない、かように考えております。
  143. 小松幹

    ○小松(幹)委員 私は何も金本位制を主張して金をたくさん持てというようなことを言っているのじゃないので、自立することが、自国の通貨の管理上やはり金の結びつきを考えねばならぬという意味で、金の保有を高めていかなければならぬ、そういうことを言っておるのと同時に、アメリカの――アメリカといったって、金は今相当あります。ありますけれども、今どんどんアメリカから金が流れ出ております。そうした場合に、だれかも言ったように、アメリカといっても金が無限にあるわけじゃない。だからいわゆるドルの平価切り下げというような問題も起る可能性も私はなきにしもあらず。同時にあなたが国際通貨基金に行ったときに、南アの連中は盛んに金の値上げということを問題にしておりました。金の価格が値上げになるということ、あるいはドルの平価切り下げというようなこと、それは今のところ通貨基金の専務である、名前は忘れましたが、その人がはっきり打ち切った。いわゆる金の値上げをしないと打ち切ったが、やはりアメリカにおいても平価切り下げが考えられるということになれば、日本の円を独立させていくという一つ方向として、金を保有する。そうして、今の現実の姿を見ると、現在わが国で法令上海外の取引に指定されておる通貨は、アメリカのドルとカナダのドル、英国のポンド、西ドイツのマルク、フランスのフラン、スイスのフラン、オランダのギルダー、スエーデンのクローネですか、この八種でありますが、肝心かなめの日本の円が海外取引に指定されていない。自分方の通貨を自分方の国で、日本で締め出しておる。円を自分で締め出しておるというようなことは、これは占領時代から続いた遺物である。やはり私は海外取引の通貨の中に、スエーデンやあるいはオランダや西ドイツ、スイスまでちゃんと入れておるならば、日本の円も入れるべきである。そうすることが漸次円の独立だ。これは占領時代の、何といいますか、今のはやり言葉でいえば、アメリカのドルに飼育された日本の円である。飼育というのがはやるが、飼いならされておるから、そういうことが平気で通っておる。やはり飼育されたのじゃつまらぬ、独立しなければならぬと思う。こういう意味で私は円の指定もやるべきだ。そうして先ほどあなたはまだ円為替の採用についてはちゅうちょされておりましたが、はっきりこの際お尋ねいたしますが、この際政府は円為替の採用に踏み切るべきである。こういうように私は思うのですが、その点はっきり明快にお答えを願いたい。
  144. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 円為替については、先ほどお答えした通りでございます。
  145. 小松幹

    ○小松(幹)委員 最後に、この問題の最後ですが、わが国の為替管理貿易制度ですか、これは昭和二十四年の末に制定された。これはアメリカの勧奨によって為替管理と貿易管理とがちゃんぽんになって為替管理の法律ができておりますが、当時の実情はやむを得なかったとしても、今日の実情から考えますときには、これは改訂すべきじゃないか、こういうふうに考えますが、この点についての御意見を伺いたい。
  146. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 現行法は、お話の通り三十四年に制定いたしたのでございます。実情もよほど変っておりますし、また手続も非常に煩瑣でございます。そういう意味政府がこれの改正にとりかかり、ただいま各方面の意見を伺っておりまして、成案を得つつある際でございます。最初はただ単に手続その他の簡素化が主体のようにも宣伝されましたが、実際問題といたしましては、最近外国の通貨の流通性というような点から見ましても、よほど内容的には工夫をこらして、わが国の貿易に資するようにいたしたいものだと思っております。
  147. 小松幹

    ○小松(幹)委員 この際為替管理と貿易管理とをはっきり分けて、そうして為替管理と外資法を取りくずして、外資の問題と為替と一緒にして、そうして貿易と為替とを切り離すというような構想はお持ち合せないかどうか。
  148. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 金と物とは別にするということは、古くはやっていたのでございますが、その後これが一元的に行われておる。いろいろ一長一失がございます。ただいま研究いたしておる点もそういうことをも含めて検討中でございます。
  149. 小松幹

    ○小松(幹)委員 それから外債発行がいよいよ成功したか、でき上ったか知りませんが、昨今帰りましたが、それについてお伺いします。発行条件、すなわち発行者利回り、それから応募者利回り、それから償還、そういうものを初めてでありますが、国会一つ報告を願いたいと思います。
  150. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 御承知のように、ようやく外債発行が本ぎまりいたしまして、二十四日に全部三千万ドルの発行を了したのでございます。  ただいまお尋ねになりますように、今回の外債発行、いろいろの問題がございましたが、結局日本よりわずか十日ばかり前に発行いたしましたデンマークの場合は、応募者利回りが五分七厘五毛でありましたが、日本の長期債の場合は五分七厘でございますので、この条件より以上のもので外債を発行することができました。一応私どどもとしては満足すべき状況ではないか、かように考えております。  そこでお尋ねの問題でございますが、長期債の発行は千五百万ドル、償還年限十五年、表面利率五分五厘、発行価額はただいま申しますように百ドルにつき九十八ドル、応募者利回りは五分七厘ということになっております。これを発行者利回りについてアメリカ式に計算してみますと、五分九厘八毛という程度になるのであります。日本式の複利計算だとやや高くなりまして、六分二厘四毛程度でないかと思います。  中期債がこれとは別に千五百万ドル発行されました。この千五百万ドルの内訳は、三百万ドルが三年ものであります。これは表面利率は四分五厘、発行価額は百ドルそのもの。そうしてさらに五百万ドル、四年もの、これは発行利率四分五厘、発行価額は九十九ドル十二セント。さらに七百万ドルの五年もの、これは表面利率四分五厘、発行価額は九十八ドル九十二セント、こういう金額で発行いたしたのであります。これを応募者利回りで見ますと、五年ものは四分七厘五毛となり、四年ものは四分七厘四毛、三年ものは四分五厘ということになるのでございます。これの発行者利回りは、アメリカ方式によりましても、また日本方式によりましても大体同じくらいの金額になりまして、この三つのものを一緒にいたしまして計算して、大体四分八厘六毛ということに相なるのでございます。  従いまして中期債が四分八厘六毛であり、長期債の方は六分前後の発行者利回りということになりますので、両者を平均いたしますと、私どもが一応がまんのできる金利になっております。
  151. 楢橋渡

    楢橋委員長 小松君、申し合せの時間がきていますので結論を急いで下さ
  152. 小松幹

    ○小松(幹)委員 外債の問題は初めてでありますからもう一つ聞いてみますが、今回の外債発行は世界銀行融資の抱き合せの成功であり、今後もこの布石が続く可能性は生まれたように考える。ことに世界銀行のブラック総裁は、この外債の調印の後、カクテル・パーティの席上において、今後日本は世界銀行の借款はしないで、こういう外債の方向を打ち出していきなさいと言われたというが、こうなれば世界銀行の借款というものから締め出されて、利回りの高い外債の方に走らねばならぬが、その辺のところはどうなんですか。
  153. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 今回の外債発行によりまして、いわゆる電源開発の四千万ドルが抱き合せであったことは御指摘通りであります。しかし同時に日本経済の持つ力というものは、外国市場においても十分に認識してくれた。その結果が、先ほど御説明いたしましたように、デンマークより以上に評価されておるということでありますし、引き続いての世銀からの借款計画については、従前の計画が示そう確認された姿でございます。今後の問題といたしまして、ただいま直ちに引き続いて外債発行の計画はございませんが、旧債の償還等も三、四年後には迫っております。私は、外国の市場にこの種の道が開けたということは、そういう意味において非常にわが国経済の発展に資するものだ、かように考えております。もちろん近く御審議をいただくことになっております補正予算の問題等もございますが、そういう意味におきまして、私どもは今後の発展に期待をかけておるような次第でございます。
  154. 小松幹

    ○小松(幹)委員 外債発行を将来やるかやらないかという一応のお見通しを聞きまして、それから厚生大臣に問いたいのですが、ちょっと一言……。
  155. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 ただいますぐやる考えはございません。ただいま言われますように世銀との関係で直ちにその必要があるかということでございますが、ただいまその計画は持っておりません。
  156. 小松幹

    ○小松(幹)委員 最後に厚生大臣に一言だけ聞いて終りたいと思います。  最初にやるべきものが最後になって非常に恐縮でありますが、政府国民に対する公約として国民年金制度実施に踏み切ったことは、まことにけっこうである。しかし現在政府から提出されておる法案は、まことに残念ながら羊頭狗肉であって、あめ玉年金の言葉の通り、まことに制度が示す本来の姿をしていない、公約が曲げられて、ここに、国民の前に出されてあると思うが、最近社会保障制度審議会の代表者が首相官邸を訪れて坂田厚生大臣に申し込んだ。いわゆる国民年金の低所得者層に対する配慮をしてくれ、具体的に申せば、生活扶助を受けておる者にもやれ、支給者の所得請求権はどうするのか、こういうようなことがありますから、その件について最近坂田厚生大臣がこの代表団の意見をいれ、あるいは世論の意見をいれて思いを変えられたか。あるいはそれに従って考え方を違えたか、その辺についてどこの委員会でもこれは聞いておりません。だからここで国民の前にはっきり厚生大臣の口を通して説明していただきた
  157. 坂田道太

    ○坂田国務大臣 お答えを申し上げます。  社会保障制度審議会の御答申がありまして、それに基きまして、われわれはそれを尊重いたしまして、今度の国民年金法案を提出いたした次第でございまして、今小松委員から御指摘になりました点につきましては、われわれ政府部内におきましても、特に低所得者層、ことに生活保護を受けておられる方に対して国民年金制度を打ち立てたのはよいけれども、しかしながら、それが生活保護を受けておられる方々に対して、この恩恵がいかないというようなことではならないということで実は努力をいたしました結果、この生活保護を受けておられる方に対しましても、老齢年金についても、あるいはまた母子年金につきましても、また障害年金につきましても、実質上この恩恵が受けられるようにいたすことに閣議の御了解を得たような次第でございます。その額等については、まだ今後努力をいたさなければなりませんし、まだ決定はいたしておりませんけれども、少くとも母子加算、障害加算、老齢加算ということは御了解をいただいたような次第でございます。
  158. 小松幹

    ○小松(幹)委員 実質上において加算をしていくということに了解を得た、額は未定だ、こういう御報告であります。  以上私は厚生大臣にそれを伺えたわけでありますが、最後に、独禁法は出すのか出さないのか、それを聞いておきたい。
  159. 松野頼三

    ○松野政府委員 お答えいたします。提案の準備をただいまいたしております。
  160. 楢橋渡

    楢橋委員長 永井勝次郎君より関連質疑の申し出があります。この際これを許します。永井勝次郎君。
  161. 永井勝次郎

    ○永井委員 先日私は第一予算分科会におきまして独禁法の改正案と三十四年度の予算編成とについてお尋ねをいたしました。私の質問に対しまして松野長官から答弁の留保がありました。その後私的にお話は承わったのでありますが、この際あらためて公式に一つ当時留保されました案件についての御答弁を承わりたいのであります。
  162. 松野頼三

    ○松野政府委員 お答えいたします。当時留保というわけでもございませんでしたが、独禁法を出すか出さないか目下準備中でございます。なぜ急いで出さないかということがおそらく保留中だったと思います。もちろん今日御承知のごとく経済の基本法でありますし、相当広範囲に各省にまたがる問題でありますから、念には念を入れまして連絡を密にして今日作業中であります。あらためて御答弁申し上げます。
  163. 永井勝次郎

    ○永井委員 目下提案について各省間と折衝中であるということであります。それならば運輸大臣にお伺いいたします。運輸大臣は独禁法の関係について所管の問題についてどういう取扱いをいたしておりますか、どういう相談に応じておりますか、伺いたいと思います。
  164. 永野護

    ○永野国務大臣 運輸省だけの所管事項につきましては、独禁法をゆるめるいろいろな法案を出しております。独禁法自体の改正につきましては、まだ具体的の相談はいたしておりません。
  165. 永井勝次郎

    ○永井委員 独禁法の改正案を出しますと、それに関連する運輸省の関係があるわけであります。どういうふうにお進めになっておるか。運輸省の関係だけでけっこうですから、具体的にお示しを願いたい。
  166. 永野護

    ○永野国務大臣 海運業の基盤強化につきまして、独禁法に縛られますと、海運の基盤を強化することが困難な場合がございますので、ある程度の自由競争を規制するような海運行政をいたしております。
  167. 永井勝次郎

    ○永井委員 そういたしますと、運輸省の組織及び定員法に関連のある問題があると思いますが、そういう関係の法案の御準備はどういう関係になっておるか伺いたいと思います。
  168. 永野護

    ○永野国務大臣 目下研究中でございます。まだ結論に達しておりません。
  169. 永井勝次郎

    ○永井委員 運輸大臣の方はまだ結論に達しておらない、こういうことが明らかになりました。  通産関係は、この関連においてどういうふうな事務的な進捗状態にあるのか伺いたいと思います。
  170. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 独禁法は制定以来、もうすでに相当の日にちを経ておりますので、これに対して一番の痛痒を感じたのが中小工業及び輸出産業、この二つであります。この二つは御承知のごとく中小企業団体法、輸出入取引法の改正によってできたのであります。あとの産業につきましても、物価を安定せしむるということのためには、これは絶対に必要だと私どもは信じております。中小工業が大企業の独占資本によって左右されることは困る、こういうふうな見方の意見が相当あったのでありますが、これは間違いでありまして、物価が安定すれば中小工業は安定するということの考えはごうも曲げることはできないわけであります。それにつきましては、いろいろ中小企業者からのお話がありましたけれども、私に関する範囲におきましては、私の意見が正しく通っております。
  171. 永井勝次郎

    ○永井委員 私が通産大臣にお伺いいたしておりますことは、独禁法の内容やその考え方についての問題ではなくて、先ほど総務長官から、提案の準備中で、各省との間に今折衝を進めておるということでありますから、その事務的折衝の状況がどうなっておるのか、このことを聞いているわけです。今度の改正によりますと、通産省はその窓口になるわけでありますし、通産省の組織法及び定員法等と関連して、いろいろな問題が立法化されなければならない関係が生じてくると思うのであります。そういう関係がどういうふうになっておるかということを伺っております。
  172. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 お説のごとく通産省は窓口であります。従いまして、別に予算措置を講ずる必要はございません。しかしながら各省との関係があるものですから、事務的の折衝は目下折衝中であります。
  173. 永井勝次郎

    ○永井委員 改正法は、どういう内容のものか私はわかりませんが、おそらく従来出された法案と大同小異のものではないかと思うのでありますが、そういうような関連において提案されるということになりますと、当時出された法案の第二十四条の三、第二十四条の四、これは不況カルテル、あるいは第二十四条の七、第二十四条の八、これは合理化カルテル、これらについての扱いの問題及び認可の申請、または第二十四条の十の一項の規定による届出は当該事業の主務大臣を経由しなければならないということになっており、従って、通産省の組織法と関連してくる問題あるいは権根と関係してくる問題でありますから、単に独禁法改正案一つぽっと出してこれでいいのだというわけにはいかないわけですから、その関係が一体どうなっておるか、事務的にどこまで進んでおるのか、こういうことを私は聞いておるのです。
  174. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 ただいまもお答え申し上げました通り、省内における事務的の折衝はすでに済んでおりまして、ほかの省との関係につきましては目下折衝中であります。
  175. 永井勝次郎

    ○永井委員 先日私第一分科会において、松野長官にいろいろ御質問をいたしました。ここに速記がございます。その速記によりますと、こういうふうに答弁しているのです。「内部で実はまだ決定をいたしておりません。ただ国会の審議の状況を見て、これはなかなかむずかしいのじゃないかというふうな考えを、今日関係省の中で持ちつつあることは事実でございます」こう言っておる。そのほかの場所につきましても、「私の心づもりは提案いたす方向で今日もおりますけれども、議会の状況によって、まだ出してよろしいというほど党内及び閣内でそろっておりません。」こういうふうに申しておる。そういたしますと、そういう当時の答弁と、ただいま伺いましても、関係各省の間の、今農林大臣はおりませんけれども、運輸大臣及び通産大臣との関係を伺いましただけでも、事務連絡及びこの問題を今後国会に提出するということの事務的折衝及び運びにおいては不十分な実態になっておるのではないか。おそらくこういうような状態ではそういう出したいという気持はとにかくとして、事務的及び政治的情勢は本国会に出せない事態があるのではないか、こう思うのであります。  岸総理にお伺いいたしたいわけでありますが、岸総理は、本会議におきまして、独禁法改正案は出したい、こういうふうに御答弁なさっておるのであります。従って、この法案をこの国会において提出すると当該長官は言っておるわけでありますが、岸内閣としては、党内及び閣内の取りまとめ、決定に対して、どのような現在運びになっておって、岸内閣としてどうするお考えであるか、これを伺いたい。
  176. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど総務長官からお答えを申し上げましたように、岸内閣といたしましても、この法案の重要性並びに案を得ますまでの経過から見まして、なるべく各般の準備を慎重に整えて本国会にできれば提案したいという考えのもとに、国会が開かれましてからずっと関係方面の検討を命じて検討中であるというのが現状でございます。従いまして、今日のところ、まだ結論を得ないところもございますので、直ちに出すということを明らかに申し上げることも、あるいは出さないということを申し上げることも、適当でないと思います。その準備を待って最後の決定をいたしたい、かように考えております。
  177. 永井勝次郎

    ○永井委員 そういたしますと、先日公取の予算の中には、独禁法改正を前提といたしまして予算が組まれておりまして、独禁法の改正に基いて定員十六名の増員予算、すなわち六百六十万円、その他事務費として三百五十万円がこれに組まれておるということが明らかにされたわけであります。さらに独禁法改正に伴って、一部の増設を考えておるということでありますが、一部の増設ということになりますと、独禁法第二十五条の第二項の修正を行わなければならない、こういう事態になっております。三十四年度の予算案は、現在の予定に従いますと、明日は上るというわけです。衆議院で明日この予算が決定されるという段階において、三十四年度の予算の基礎になっております法案が、総理のお話によると、まだ出すとも出さないともわかってない、こういうことになりますと、これは財政法の違反になることではございませんか。もし財政法の違反であるという事実が明らかでありますならば、また予算内容になっておりますこれらの見積りの基礎になっておりますこの法案の扱いが、閣内でまだきまっておらないということになりますと、この予算の額そのものは小さくとも、財政法の違法性という立場に立ちまして、これは重大な問題であると考えます。従いまして今の総理大臣の答弁によりまして、不明確である、まだ出すとも出さないともわかる段階でないということでありますならば、われわれはこの三十四年度の予算に対して、社会党としては重大な考えを持たなければならない段階であろうと思うわけでありまして、あらためて一つ承わりたいと思います。
  178. 岸信介

    岸国務大臣 内閣としては先ほど申し上げましたように、提案するという考えのもとに各種の準備を進めておる。しかるにまだ準備が最後の段階に到達いたしておりませんので、今日のところ明確にいつ提案するというようなことを申し上げることができない状態であるということを申し上げたのであります。政府としては提案するという考えのもとにあらゆる検討なり準備を進めておる、これが現状でございます。
  179. 永井勝次郎

    ○永井委員 予算は明日衆議院において議決しなければならないという時間的な条件にあるわけです。その予算審議において、予算の中に含まれてあるこの重要な法案が、今の段階においてまだ提出されるか提出されないかわからない、しかも私はきょうあすのうちにその法案が出せるか出せないかという切迫した問題としてお尋ねしたのではなくて、先ほど来、今国会中に出せるかというゆとりのある質問をいたしましたところ、それさえまだはっきりしないという、こういう答弁です。そうしますと、この国会で提案するかしないかが不明確である、まだわからないという段階において、しかも明日この予算を議決しなければならないという衆議院の段階におきましては、こういう条件の備わらない、また不明確な条件の中で、財政法の第十八条あるいは第十九条――ただ余ったらそれを処理すればいいじゃないかという問題とは違います。財政法に対する解釈の問題はいろいろございましょうけれども、少くも今の段階において、われわれがこの予算を扱うという以上は、この問題が明確でなければ、もし法案が出せないというならば、補正予算を出すべきである。もし出すというならば、明確にあすまでの期間にこれが衆議院で扱われないならば、われわれとしてはこの予算の扱いは不可能である、かように考えるわけであります。それに対する明確なお答えを一つ願いたい。
  180. 岸信介

    岸国務大臣 先ほど申し上げましたように、政府としてはこの国会に提案するという意図のもとに、あらゆる検討をいたして参っておるのでありまして、まだその結論に達しないから今日のところ明確に申し上げることはできないと言っておるのでございます。しかし過去の例を見ましても、衆議院段階において予算が議決されるまでに間に合わなくて、後に提案されたような場合も従来の例にあります。従いましてわれわれとしては、内閣としては、出す意図のもとに至急に検討を進めるようになお努力いたしたいと思います。
  181. 永井勝次郎

    ○永井委員 前例があるというならば、ここでその前例を例示していただきたい。先ほど来独禁法は今の段階において非常に重要であり、絶対必要だ、こら通産大臣は答弁されたのでありますが、これは皆さんが御承知のように、カルテルを結ぶということについて、これは自分の利益のために結ぶことはあっても、公共の福祉のためにカルテルを結ぶんだというようなばかげた話はない。そういうふうに言われておるのでありまして、この不況カルテル、合理化カルテル、あるいは貿易対策としてのカルテル、こういうようなものを結ぶ政府の提案に対しましては、農業団体関係が非常な反対をしておる。中小企業が非常に反対をしております。消費者大衆も非常に反対しております。こういうふうな非常に反撃の強い法案に対しまして、予算だけをこの国会でほおかぶりをして通しておいて、選挙を済ましてから次の臨時国会で法案を出そう――独禁法を改正して資本の強化のために奉仕しよう、こういう内容をもってこの予算を出し、この予算をほおかぶりして通しておいて、あとで法案を出そう、こういうような意図的なたくらみがこの中に隠されておるのではないか、こう思う。出すならば出すでこの予算に対してりっぱにこの国会に出すべきだと思う。選挙前に出して、堂々と消費者大衆の中で戦っていけばよろしい、農業団体に向っていけばよろしい、中小企業に向うがいい。お前ら踏み殺すぞという、こういうような法案を出して、堂々と戦えるなら戦えばいい。それを隠しておいて、予算だけこそっと通しておいて、臨時国会に回そうというようなことは、これは許されないことだと思います。もし具体的な事例があるなら、財政法に違反しないのだというならば、それを一つお示し願いたい。
  182. 佐藤榮作

    佐藤国務大臣 衆議院で予算案が議決されました後に予算に関する法律案が出ておる。これは毎年五、六件ないし七、八件あるのであります。三十三年度の例で、今法律を読み上げてみますが、こういうようなもりがございます。三十二年の予算は三月三日に衆議院で可決されたのでございますが、三月二十五日に新市町村建設促進法の一部を改正する法律・三月二十四日には下水道法、三月十五日には義務教育諸学校施設費国庫負担法、三月五日には工業用水道事業法、三月二十八日には石炭鉱業合理化臨時措置法の一部を改正する法律、四月七日失業保険法の一部を改正する法律、四月二日航空機工業振興法、三月十一日農林省設置法の一部を改正する法律、三月十三日運輸省設置法の一部を改正する法律、準備の都合で、言われますように予算案を通すまでに全部の法律案を出すというのはなかなか困難な場合があるのであります。この点は、悪例だという御意見もございますが、私ども努めて法律案を早く出すつもりではおります。しかし、今回の法律案のごとく非常な基本的な法律で各方面に関係がありますので、なかなか時間がかかることは、御了承いただきたいと思います。
  183. 永井勝次郎

    ○永井委員 現在示された例示の法案の一つ一つについてその経過及び結果についての記憶は現在ございませんから、私は呼び起すことはできません。調べなければその経過等はわからないのでありますが、おそらく予算に盛られた重要な法案について、出すか出さないか不明確なまま――出すということが決定していて時間的におくれたという、こういう事実は善意に了解事項として可能でありましょうけれども、出すか出さないかわからないというままにこの予算を通過させるということは財政法上許されない。これはどうです。未確定なものです。出すところの意思が決定していて、手続上おくれたというならばこれはわかるけれども、現在において、予算の通過の段階において、まだ出すか出さないかわからない、今国会に出すか出さないかわからないというままにこの予算の扱いは私は不可能ではないか、こう思うわけです。何か言うことがありましたら……。
  184. 松野頼三

    ○松野政府委員 ことに政府から予算の提案と同時に、今国会に提出する法案一覧表の中にも独禁法というのは明らかに出しております。同時に今日も、ただいま私から御答弁いたしましたように、提案いたすため目下成案中でございますので、意思ははっきり、議会の予算案と同時に法案提出の中に入れております。
  185. 永井勝次郎

    ○永井委員 それほどはっきりしているものなら、なぜ今までこれを、閣内、党内がまだまとまっておらないし、政治情勢としてはどうかわからないというような答弁をするのですか。また総理みずからも出すか出さないかわからない、こういうような答弁をするのですか。そういう不確定な条件のもとにおいては、われわれはこの予算は、金額はわずかであるけれども、扱い上は問題がある、違法性がある、こういうふうに考えるわけです。これが一つと、それから農林大臣がお見えになりましたから、農林大臣から独禁法の関係において農林省は非常な打撃を受けるわけですが、関連して、どういう打ち合せになっておるか、明確にしていただきた
  186. 三浦一雄

    ○三浦国務大臣 独禁法につきましては、まだ最終段階におきましても検討を続けております。
  187. 永井勝次郎

    ○永井委員 それじゃ大へん皆さんお急ぎのようであるから、私はこの扱いの違法性というものはあるという前提の上に立って、今後の予算の扱い方については党として相談すべきものと考えます。
  188. 楢橋渡

    楢橋委員長 これにて質疑は終局いたしました。  明日は午前十時より開会し、討論採決を行うことにいたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後五時四十三分散会