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1959-03-05 第31回国会 衆議院 法務委員会 第12号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十四年三月五日(木曜日)     午後二時十四分開議  出席委員    委員長 小島 徹三君    理事 鍛冶 良作君 理事 小林かなえ君    理事 田中伊三次君 理事 福井 盛太君    理事 村瀬 宣親君 理事 井伊 誠一君    理事 坂本 泰良君       天野 光晴君    綾部健太郎君       砂原  格君    高橋 禎一君       辻  政信君    馬場 元治君       三田村武夫君    猪俣 浩三君       大貫 大八君    田中幾三郎君       志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 愛知 揆一君  出席政府委員         検     事         (大臣官房司法         法制調査部長) 津田  實君  委員外出席者         最高裁判所事務         総長      横田 正俊君         最高裁判所事務         総局事務次長  内藤 頼博君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 三月五日  委員犬養健君及び薄田美朝君辞任につき、その  補欠として天野光晴君及び砂原格君が議長の指  名で委員に選任された。 同日  委員天野光晴君及び砂原格辞任につき、その  補欠として犬養健君及び薄田美朝君が議長の指  名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する  法律案内閣提出第一一九号)  検察官俸給等に関する法律等の一部を改正す  る法律案内閣提出第一二〇号)      ————◇—————
  2. 小島徹三

    小島委員長 これより会議を開きます。  裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律等の一部を改正する法律案一括議題といたします。  両案につきましては、去る二月二十六日質疑を終了いたしております。  この際、両案に対しまして、それぞれ自由民主党及び日本社会党共同提案にかかる附帯決議を付すべしとの動議が提出されておりますので、その趣旨弁明を聴取することにいたします。村瀬宣親君。
  3. 村瀬宣親

    村瀬委員 私は、裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案に対しまして、附帯決議を提案するものであります。  まず案文を朗読いたします。  一、裁判官職責は重大にして特別の権威を保持せねばならぬことは今更いうまでもない。   然るに、最近裁判官定員充足すら困難になりつつある現状は憂慮にたえない。   本法の運用は、最高裁判所の責任に於てなさるべきであるが、政府においても財政の許す範囲に於て、これを規制することなく万全を期するよう要望する。  二、裁判官報酬及び任用制度についてはそのことの重要性に鑑み政府根本的な検討を行うことを要望する。    右決議する。  以上であります。  次に、検察官俸給等に関する法律等の一部を改正する法律案について、附帯決議を付したいと存じます。  案文を朗読いたします。   検察官司法権発動を促す重大なる職責を有することに鑑みこれが処遇については充分考慮すべきものありと考えられる。  よつて政府は将来この点につき慎重なる配慮措置を講ずべきことを要望する。   右決議する。  以上であります。  簡単に両附帯決議案趣旨を弁明いたします。  裁判官職責がきわめて重大であり、日本憲法上の諸問題を考えましても、その報酬待遇処遇については、十分の配慮をせねばならないことは当然でございますが、特に本法案成立の暁には、財政の許す範囲内において、何ら規制をすることなく、万全の運用を期すべきであると存ずるのでございます。なお、裁判官報酬問題を論議する場合には、当然任用制度に及ばねば根本的の解決は困難でありまするので、事の重要性にかんがみ、政府はこれらの問題について根本的な検討を早急に行うよう要望する趣旨でございます。  次に、検察官俸給等に関する法律等一部改正法律案に対する附帯決議案趣旨は、従来検察官もその司法権発動を促す重大なる責務を有するものでございまして、特にその処遇、たとえば勤務場所あるいは住宅その他全般の処遇について十分考慮すべきものがあると考えられるのであります。この点につきましても、政府は慎重な配慮措置を早急に講ぜられたいというのであります。  以上が両附帯決議案趣旨でございます。
  4. 小島徹三

    小島委員長 この際、両附帯決議案につきましては、発言の通告がありますから、これを許します。鍛冶良作君。
  5. 鍛冶良作

    鍛冶委員 本法案につきましては、多年の懸案でありまして、今日なお重大なる議論の存し、かつその解決策が見出されておらないように感じますことは、まことに私は遺憾だと考えます。私も衆議院に席を有しましてから終始法務委員を勤めてきておりますが、この法案の出るたびごとに同様の議論の繰り返されることを、まことにどうも遺憾だと考えますので、それらの点にかんがみまして、この附帯決議案が出たのであろうと存じまするが、私もこの附帯決議案趣旨を明瞭にし、でき得るものならば、将来においてかような議論のないように、ここで解決策を見出しておきたい、かように考えまして質問をいたしたい、こう思うのであります。  そこで第一に、本法案で一番やかましく論ぜられますことは、裁判官地位及び報酬憲法上特に認められておるものであって、優位でなくてはならぬ、こういう考え方から、その優位とはどういうことか、こういうことで議論が出てきておるものだと思うのであります。憲法において、特に裁判官に限りこの規定を置きました以上は、やはり裁判官は優位な地位におらなくてはならぬ、また優位な地位におるものであるならば、それに相当した優位な報酬を与うべきものである、こういう精神からこの規定が置かれたものだと考えるのでありますが、まずこの点に対して、法務大臣及び最高裁事務総長の御見解を承わりたいと思います。
  6. 愛知揆一

    愛知国務大臣 ただいま御質疑の点につきましては、本法案審議に際しまして累次申し上げたつもりでございますが、これを憲法解釈論その他から申しますと、優位あるいは格差をつけるということが憲法規定しているところであるかどうかというところには、異論があるかと思いますけれども、私は前々から申しておりますように、できるだけ待遇を改善しなければならないということが私の根本的な考え方でございまして、この法案を提出するに際しましても、いろいろの御意見はございますが、累次申したように、従来の制度からいえば、優位という点を十分考えて、判事についての特号俸というものを設けたつもりでございますから、この考え方というものは、今後においてできるだけ御趣旨に沿うように、さらに努力を続けたいと思います。
  7. 横田正俊

    横田最高裁判所説明員 裁判官の優位の問題につきましては、私からも、また裁判所側から参りました者も申し上げましたように、憲法趣旨に従いまして優位でなければならぬということは、おっしゃる通りでございます。
  8. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは抽象論としてはほとんど問題はないことだと思いましたが、大前提としてこれを伺ったのであります。ただ、優位でなければならぬ、また優位である以上は、これに対する報酬も優位であらなければならぬ、これは当然のことでありますが、その優位であるべき地位に、もし万一優位にあらざる者がついておるとしても、ただ裁判官というがゆえに、ほかの者よりも優位な報酬を与えなければならぬという議論のように聞えることもありますが、私は、そういうものではなかろう、裁判官というものは優位なものである、そのかわり学識人格ともに優位な人がつき、しこうしてそういう優位な人がつくのであるから、優位なる待遇を与えなければいかぬ、こういうことがこの憲法根本精神であろうかと思いますが、この点はいかがでございますか。
  9. 愛知揆一

    愛知国務大臣 全く御同感でございます。
  10. 横田正俊

    横田最高裁判所説明員 私もその感を同じくするものでございますが、その点につきましては、現に裁判官の職を奉じております者はきわめて真剣に考えておりまして、その制度上の優位に値するように日夜非常に苦労をいたしておりますが、いろいろな制約がございますので、国民の皆様に十分御納得のいくような結果が出ておらないことは、みな日々心痛いたしておるところでございます。まさに形に沿った実を持ちますように、みな今後も十分に勉強して参りたいと考えております。
  11. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで私は、具体的に考えなければならぬ大問題があると思うのであります。私も現在、わが日本裁判官は優位な人がついておる、しこうして優位な待遇を与えるべきものである、かように考えますが、ただ、そう考えたからといって、世間がこれを認めてくれなくちゃ困る、また裁判官みずからも、われは優位であると思われましても、はたから見たら、何も優位なことはないじゃないか、おれと同じじゃないか、おれと同じであるにもかかわらず、憲法にこういう規定があるからといって、特に優位なる待遇に置かなければならぬのか、こういう考え方を持ったのでは、私はこの実現がはなはだ困難になりはせぬかと考えるのであります。従いまして、われわれは優位な人になってもらわなければならぬ、また優位に待遇せなけりゃならぬと言います以上は、世間から見て、なるほど裁判官は優位なものだ、また、ほかの者より優位なる待遇をもらっておるが、これは当然であるという、この客観的情勢、客観的の信念を与える制度がなくては、なかなか裁判官だけの優位を保持することは困難でないか、こう思いますが、これらの問題については、私は不肖ではありますが、何十年来この点を主張し、法務当局並びに最高裁判所におかれても十分御研究下さるように主張して参ったと思うのでありますが、どうも今のところではまだ、なるほど現在の裁判官はみんな特別優位だと認めるところまでいっておらないのじゃないか。ただし最高裁判所長官及び裁判官に至っては、これはもう何人も疑いません。特別優位にすべきものである。また優位であると認めておる。そういう制度があるにもかかわらず、それと異なる他の下級裁判所裁判官に対しては、なるほどとみんながみんな考えておらないのじゃないかと思います。これらは、私の見解と違えば別でありますが、もしそうであるならば、何ゆえに最高裁判所長官とか裁判官は特別優位であって国民は疑念を持たないが、下級裁判所に対してはこのように議論がいつも出るのか。この点に対して、最高裁判所においても常に研究しておられると思いますが、何か思い当るところはございませんか。
  12. 横田正俊

    横田最高裁判所説明員 先ほどは、現在裁判官を勤めております者の心がまえを申し上げたのでございますが、実はりっぱな裁判官をそろえますことは、やはり任用制度の問題、つまり質のいいりっぱな方をそろえ、その方が一生懸命裁判をして下さる、こういう体制に持っていかなければならないと思うわけでございます。この任用制度、従いまして、待遇もあるいは裁判所物的施設というようなものと相待ちまして、今おっしゃいましたような、国民の信頼するに足る裁判官、従って、適正迅速な裁判というものができて参るのだろうと思うわけでございます。その点につきましては、われわれもわれわれの先輩も、いろいろ検討はいたしておるわけでございますが、いまだはっきりした案を持っておらない、検討中だという状態でございます。
  13. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで、われわれは多年のわれわれの持論を出すのでありますが、この問題の解決は、われわれが多年主張しておりまする法曹一元を実現する以外にないと私は考える。しかしこれは、言葉の上では今まで賛成だ、賛成だと言うておられるんだが、いまだ具体的に表われておりませんし、果してどこまで御熱意があるのか、私は実は疑問を持っております。そこで、このたびこの機会に強く申し上げておきたいのは、私は法曹一元を実現すれば、今言うたような問題は解決する、それ以外に方法なしと心得まするが、最高裁並びに司法当局においてこれに御賛成かどうか。もしそうでないならば、ほかに、私が言うよりももっといい根本策があるならこの際聞かせてもらえばけっこうなんです。また、そうでないならば、法曹一元の実現に、一つ今までのようなことではなくて、本気に着手し、実現するように、御努力を願いたいと思うのですが、これは法務大臣並びに事務総長から御意見を伺いたいと思います。
  14. 愛知揆一

    愛知国務大臣 法曹一元化の問題につきましても、従来からきわめて御熱心な御主張を伺っておりまして、私どももこの考え方には原則的に賛成をいたし、また熱意をもって検討いたしているわけでございます。ただ、率直に申しまして、一元化ということは、この言葉意味にもいろいろの場合があるように思いますけれども、やはりただいまも御指摘になりましたように、待遇の問題が実際上の非常な隘路になっておるように思われるのであります。従来、たとえば弁護士勤務年限を恩給あるいは年金といったようなものと考え合せて適当に算入してはどうかというような、これは非常に具体的な問題でございますが、それらの一つ一つにつきましても、今回の本件についてのいろいろな論議の経過をたどりましても、私どもとしても非常に重大な問題として、積極的に熱意をもって検討いたして参りたいと思います。同時に、任用制度の問題が一番中心問題でございますから、この点についても、もちろん、ほんとうに、口先だけでなく、熱意をもって取り上げて参りたいと思っております。
  15. 横田正俊

    横田最高裁判所説明員 私も愛知法務大臣と全く考えを同じゅうするものであります。裁判官には、弁護士検事法律学教授等法律家の中から、最もすぐれた、尊敬に値すべき人を充てることが理想だと思います。現在のような制度をいろいろいじってみましても、結局あるところに限界があるのじゃないか。あるいは判事の数をふやすとかいろいろ言われておりまするが、やはり現在のような制度を維持して参りますと、そこに歩どまりと申しますか、限界がございますので、仰せのような法曹一元ということは、結局最後目標としてそこまでいかなければならないのじゃないかと考えております。もちろんここに至りますまでの過渡的な問題とか、いろいろ問題があるわけでございますが、それらの点を一つ一つ克服して参りまして、最後目標に達したいと考えておる次第でございます。
  16. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今、待遇の問題で、弁護士からなり手がないとおっしゃいましたが、現在の制度の上で入ってこいと言うからならない。かりに月二十万円の収入がある弁護士が選ばれて裁判官になったといたしましょう。その人が裁判官になったときには、それ以下のところで多少のところはがまんするかもしれませが、耐えられるものでもないし、承知するはずもない。ただ、行政官の中に一緒に入っておる者がそれよりも上にいくものだと、行政官よりも上に行くでいいが、これが特別の人が来たのだということになれば、特別のことをしてやらなければならぬのは当然であります。それは実現すべきものだと思うのです。それを現在の制度に膠着しておるから、それが実現できない。この点は一つ思い切って踏み切っていただきたいと思います。ただいま裁判官報酬等に関する法律案に対する附帯決議の第二として、政府根本的の対策を立てられたしというのは、われわれはそのように考えましたからで、今までのように研究の程度でなくて、踏み込んでやられる、私はこれがこういう問題を解決する根本だと思いますから、この点を強く要望いたしておきます。  次にお聞きしたいのは、この間からここでも問題になったし、また新聞にも出たのですが、この法案を出すについて、秘密協定があることはわれわれは知らないのですが、どういうものなのでしょうか。政府からでもよいですし、最高裁からでもよろしいから、一つここに示してもらいたい。
  17. 愛知揆一

    愛知国務大臣 これは秘密のものでも何でもございませんで、法案作成経過におきましても、御審議を願いました過程においても、るる申し上げた通りでございまして、これを法文の上に載せたいという意見も実は一部にあったのでありますけれども、それは不適当と考えましたので、運営基準として、気持の合いましたところを関係当局の間で文章にいたしまして取りきめたと申しますか、法案作成過程におけるところの一つのできごとというか、約束でございます。従って、これは法案の御審議を願いますときに別に内密にすべきものでもなんでもないと思いますので、まだお配りいたしてなかったとすれば、それはこちらの手落ちでございます。文章十分ごらんを願いたいと思います。
  18. 鍛冶良作

    鍛冶委員 何か写しがございましたら、見せていただけませんか。
  19. 津田實

    津田政府委員 それでは、便宜読み上げることといたします。   今般、裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案が第三十一回国会に提出されることとなったについては、同法による改正後の裁判官報酬等に関する法律第十五条に関し、左記のとおり協定する。    記  一 判事に関し、改正後の同法第十五条の「特別のもの」は、判事であつて判事号報酬を受けるに至つた時から引き続き相当の期間在職し、年令六十三年以上のものに限ること。  二 一に掲げる「相当の期間」は、二年とすること。  以上で、あと法案がついております。
  20. 鍛冶良作

    鍛冶委員 こういうものは、この法律のできない先にどういうわけで必要であったのですか。われわれ立法に関与する者としては、ちょっと合点かいかぬのです。どういういきさつで、どういう効果を表そうとするものですか。
  21. 愛知揆一

    愛知国務大臣 これは申し上げるまでもございませんが、関係するところが多い場合に、たとえば法案作成する場合におきましても、各省間においては通例こういうことが行われることが相当の事例あるわけでございまして、各省間の例で申しますならば、この法律案作成する場合に、それぞれの気持としてこういうことでやろうということで話し合った場合に、こういうふうな協定とか覚書をするということは、間々あることでございます。それは、具体的な法案の御審議の際に、こうこう、こういうことでこの法律案を作りましたということで、これはよく御審議の対象にもなるものでございます。ただ、今回の場合は、何しろ裁判所政府と別個の機構になっておりますから、異例なようにもお考えになるかと思いますけれども、これは裁判所との間に緊密に連携をして、裁判所との間にも十分の思想統一をしたいという考え方から、かような覚書作成いたしました。別に秘密であるとか、承知ならぬというような問題ではないと私は思います。
  22. 鍛冶良作

    鍛冶委員 法律ができた後においてその解釈を統一するとか、さらにこれを運用する上において関係官庁において基準をきめるというようなことはあり得ることだと思いますが、法律ができない前に、法案に表われておらない効力を発生することをこういうことできめられるということになると、われわれは何かわれわれの決議する以外のものが実際にできておるのだという感じを持ちますが、これは私のひがみでしょうか。できた後にやるなら、これはわれわれは言いません。できない前に、条文にはこう書いてあるが、この内容はこうであるとあなたの方ではきめられるとなると、われわれは何のためにここで決議をしておるのですか。それともう一つは、立法上大なる影響があるので、立法府のだれかと関係があったのですか、それともあなた方だけなんですか。三つ書いてあるが、この点はどういうことなんですか。
  23. 愛知揆一

    愛知国務大臣 これはただいま申し上げましたように、法案作成過程において、幸いにして法案法律として制定せられた場合に、こういうふうな運用でやりましょうということを話し合い、かつこれを書類にするということは、行政官庁の場合にも通例あることでございます。具体的に申しますと、たとえば給与の号俸一般公務員の場合等におきまして、やはり各省間の歩調を合せるというような必要がある場合には、法律の上にその運用基準まで精細に書くということができないような場合もたくさんございます。たとえば、国家公務員あるいは特別職国家公務員俸給表作成するというような場合においても、法案が成立いたしました場合には、こういう運営基準を話し合っておきましょうということは、法案の御審議を願う前に行政官庁間で話し合う、あるいはこれを書類にするということはあるのであります。  ただいま立法府としてのひがみであろうかというようなお話がございましたが、私ども気持は、決して立法府審議を拘束するというようなものでは万々ない、こういうふうに考えておるわけであります。従って、こういうふうなものを作ります場合に、立法府の方に積極的に御相談をするとか御参与願うとかいうことではないわけでございます。この場合におきましても、その例の通りにやりましたので、これはそこにあげられております三者間の話し合いということでございます。
  24. 鍛冶良作

    鍛冶委員 条文の上には何にもないですよ。何にもないものを、あると同様の効力が発生するわけですね。これによると。そうしてみると、われわれの知らぬうちに法律が曲げられておる——曲げられておると言うと悪いかもしれぬが、そこに何か加えられておるということになると思うのです。これができた後だったら、その運用の上であなた方がおやりになることは一向かまいません。こういうことは、できた後にやるべきものであって、できない前に、立法府の知らない、内容の変るようなことはいかぬと私は思いますが、この点はあまり議論しておってもいけません。今後おやりにならぬならよろしゅうございますが、これをたてにして、どうしてもおやりになるというならば、われわれとしても相当申し上げなければならぬ。この点を私としては十分御留意願いたいと思う。
  25. 猪俣浩三

    猪俣委員 関連して。——鍛冶君の質問と同趣旨でございますが、六十三才という年令の制限を置いて、そうして判事には特別号俸ということになっているわけです。実はあなたも御存じのように、最高裁判所長官までが同調いたしまして、今回の改正案裁判官優位の原則を破ったものだといって、これは天下の大問題となってきているわけです。正直に言いますと、われわれも大した問題でないと思ってやっているうちに、大きな問題になりました。特に良識のある、わが国の知識水準としては良識代弁者である裁判官が、最高裁判所長官までが奮起したということは、これは重大問題です。簡単な問題じゃないです。その原因はどこにあるかというと、結局六十三才というようなことでごまかして、そうして検事やその他の方面を納得させた。結局裁判官優位の原則がその点において破られておるということが判事のふんまんなところなんです。六十三才以上になれば、検事というものは存在しない。それまでは検事判事も同等だということになってしまう。検事が定年で存在しない後において判事特号だけあるということは、結局裁判官優位を認めたことにならぬというのが裁判官考え方なんです。ですから、さようなこの法案に対します議論の、裁判官優位を認めるかどうかという根本的な、中核的な思想に対しまして、そういう秘密協定でもないかもしれぬが、協定をしたいということは、あなたが今おっしゃったような行政官庁間にある、法の実施についてお互いに協定をするようなことと非常に意味が違う。また、あなたはそんなことと同じようにお考えになっていると、僕はこの法律を提出した動機について疑いを持たざるを得なくなる。われわれの附帯決議というものと全く精神が反対になるのです。ですから、今まで行われましたような法案成立過程において行政官庁間の申し合せとか協定なんという意味と、今回の裁判官優位を絶叫して裁判官を奮起させる原因になったこういうような協定というようなものとは意味が違うものであって、それについて法務大臣は反省しなければならぬ。また最高裁判所事務総長も反省しなければならぬと思う。それを何でもないようなことをおっしゃると、今、鍛冶君が言ったように、立法府としてははなはだ欺瞞されたような感じを受けるのであります。あなたがそういう感じで今後も言われますと、われわれが附帯決議をつけたことは何にも意味をなさぬことになるので、われわれがこの法案審議することもほとんどむだになるのです。六十三才以上は検事はなくなるじゃありませんか。それまでは判事と同等だということになってしまう。そこに問題がある。そういう重要問題を立法府に知らせずして、お互い同士、官庁間の申し合せみたいなことでやってしまうという慣例は、私は絶対いかぬと思う。これは国会に対します大いなる妨害になると思うのです。その意味において、鍛冶君の答弁とあわせて御答弁願いたい。
  26. 愛知揆一

    愛知国務大臣 今の御両者からの御質疑に対しましてあわせてお答えいたしたいと思いますが、まず第一に、こういったようなものの作り方等について、私が先ほど申しましたように、今回の場合は最高裁判所というところが当事者でありますために、事情は違っておりますが、行政官庁間であれば通例行われていることであるということを申し上げたわけでありますから、この点についてのやり方等については、十分反省をしなければならぬ点があると思います。  その次に、問題が私二つあると思いまして、特に申し上げたいと思いますのは、優位性がそこなわれているではないかという点でございます。これは前々から御審議の途中においても申し上げておりますように、従来でありますと、たとえば六十三才以上になったような判事の人にも最高俸か同じようになっておったものでありますから、そういうような点について何歩か前進する、優位ということを頭に置きながら関係方面とも折衝いたしまして、とにもかくにも一号上の特号俸を作ったという点においては、これは御批判はいろいろあると思います。私自身も十分とは思っておりませんけれども、そういうことでございますから、私は優位性というような点についてただいま御意見のありましたように、反対の考え方を持っているわけではないわけでございます。それから、この協定書の作り方の経過——私は立法府の御審議を制約するようなことは毛頭考えたわけではございませんが、ただいま承わりますようないろいろの御意見もございますので、これらの点についてはなお一そう慎重に扱わなければならなかったという意味で、私は率直に反省すべきところがあるということを申し上げたいと思うのでございます。ただ、この協定書を作ります場合にも、私どもとしては、十分の注意をいたしたつもりでございまして、これは私から申し上ぐべきことではございませんけれども、こういったようなものができたということについて、最高裁判所裁判官会議で御了承を願えたということを正式に確認いたしましてから、初めてその後の措置をとったような次第でございますから、この点は経過の問題であり、ただいまの御注意に対しましてのお答えとは別でございますが、この経過は明らかにいたしておきたいと思います。
  27. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは私どもも知らぬことは知らぬのですが、問題になった以上は、今申した通り、これを後におやりになることはかまいませんですが、これをもって効力のあるものとしてもらっては困るということを申し上げておきたいと思います。  なお、もう一つつけ加えて申し上げたいのは、われわれがきょう衆議院で附帯決議をつけて原案を認めて参議院に送りますが、衆議院における今までの経過から見ましても、私は日本の最高有識者と認められておる検事及び判事の間に、俸給のことでいかにも争いがあるがごとくはたからながめられますことは、まことに遺憾しごくであります。それゆえに、私は問題のないようにしようと思ってこういう立ち入ったようなことまで申し上げたのでありまして、この点十分お含みをいただいて、どうか参議院に行って同様の運動などのないように——これは参議院自身の議論ではないのです。あなたの方でそういうことのないように、できるだけお取り計らいをお願いしたい、これを一つ付言して私の質問を終るものであります。
  28. 小島徹三

    小島委員長 坂本泰良
  29. 坂本泰良

    ○坂本委員 私は、附帯決議をつけたわけですが、そのことについて申し上げる前に、先ほどからの関連についてお聞きしておきたいのは、さっきいろいろ言われましたが、六十三才以上の者に限るという申し合せがある以上は、これはやはり法案そのものに出さなければならぬと思うのです。そうしなければ、何のためにわれわれが法案審議して法律を作るかということになると思うのです。法案作成過程において、運用の面についての申し合せはいいと思うのであります。だから、法律ができましてから、この特号俸の者に対しては三名にしようとかあるいは五名にしようとか、そういうようなことはいろいろ財政上その他の面があろうと思いますが、法案審議の段階——法案作成するわれわれ立法府においては、これはやはり法律上明記していなければならぬと思う。六十三才以上の者に限るというような申し合せがあるのに、それを伏せて法律案を通過させるということは、将来の運用に全然反する法律案をここで作るということになるわけであります。従って、これが参議院に参りますと、いかに皆さん方が努力されても、やはり参議院は参議院としての独自の法案審議権がありますから、やはりこれは当然問題になると思うのです。従って、六十三才以上の者に限るなんという三者の申し合せは、この際破棄していただかなければ、この法案を通すと非常にそこに重要な問題が起ると思うのです。これはもう附帯法議の趣旨に沿うて、判こを押されている三者協定はこの際破棄してしまうというようなお考えはないかどうか、法務大臣並びに事務総長にお聞きしておきたい。
  30. 愛知揆一

    愛知国務大臣 これは何と申しましても国会で御審議をいただく法律案でございますから、国会の御審議の中に出ました御意見あるいは附帯決議——これはどういうふうになりますか私まだ伺っておりませんですけれども附帯決議等が出ました場合には、その御趣旨に従って私は善処すべきものと考えます。
  31. 坂本泰良

    ○坂本委員 そこでわれわれが長年——といっても私なんかは十年足らずですが、法案附帯決議をつけましても、実際政府がこれを実行したことはないわけです。実際ないのです。従って、この附帯決議は今申し上げましたように破棄するか、あるいはこの法案を六十三才以上の者に限るというふうに修正しなければ、これは一貫しないと思うのです。従いまして、三者協定のこの点はここに破棄して、附帯決議を尊重して、これを必ず実現するという御確信があるかどうか、その点を重ねてお聞きしておきたいと思います。
  32. 愛知揆一

    愛知国務大臣 いかなる附帯決議が付せられましょうとも、少くとも私どもの立場においては十分にこれを尊重して実行するということはわれわれの責任であると思いますから、そういう態度で善処いたしますから、御了承願いたいと思います。
  33. 横田正俊

    横田最高裁判所説明員 裁判所といたしましても、附帯決議の御趣旨を十分に尊重いたしたいと思います。
  34. 小島徹三

    小島委員長 これより討論に入ります。討論の通告がありますから、これを許します。大貫大八君。
  35. 大貫大八

    ○大貫委員 私は、本法案に対しまして、附帯決議精神を織り込めて、賛成の意を表すものであります。  ただ、討論に先立ちまして、先日も三田村委員から、裁判官よりの本委員会に対する要請書提出に関しまして非常に非難的な質問がありましたことに対しまして、私ども見解をまず当初に明らかにいたしておくつもりであります。  このような裁判官の要請ということは、私はむしろ正当かつ適法のものであると思うのでございます。何ら非難すべきものではない、こういうことであります。すなわち裁判官としては、個人としてその処遇に関して要望をなし得ることは、これは憲法第二十五条なりあるいは第二十八条等によって、基本的人権として当然保障されておるところであります。この基本的人権は、裁判官といえども国民として何ら例外をなすものではありません。また制度上から見ましても、法案の提案権を持たない裁判所が、その提案権を持つ法務省が裁判所の要望通りの提案がなされないという場合には、唯一の頼みとする国会に対して、特にその所管の法務委員会に要望するということは、これは当然のことでなければならぬのであります。従って、これらの要望というものが何ら非難さるべきものではなく、裁判官が個人としてまた公務員として当然な権利である、こう私は思うのであります。  そこで、本案に賛成することは、私はこの附帯決議によりまして、要するに三者協定なるものが無効になった、こういう趣旨において、つまり裁判官特号を設けたということが、裁判官憲法上の優位性を認めて、検察官との格差を設けたものと認めた上において賛成の意を表するものであります。本案が非常に問題を投げましたことは、裁判所、法務省、大蔵省の三者秘密協定なるものが暴露され、過去十年余にわたって確立されてきました新憲法下における司法権の完全独立と裁判官の優位性をくつがえして、旧時代に逆行し、民主主義の基礎をゆるがすほどきわめて重大な内容を持つからであります。法務大臣の答弁によれば、あたかも裁判官の優位性を認めるがような発言があったのであります。きょうもそういう発言がなされております。本案を提案する法務省の意思としては、最初は全くそのような精神がなかったということは、すでに秘密協定なるものが明らかになって明白であります。すなわち、裁判官には検察官にない特号を設けたというのでありまするけれども最高裁判所、法務省、大蔵省間に取りかわされた、本日明らかにされたいわゆる三者協定によりますと、裁判官特号は六十三才以上の者にのみ給するというのであります。ところが検察官の定年は六十三才、裁判官の定年は六十五才でありますから、特号は六十三才以上というワクをはめられますれば、事実上裁判官検察官には何らの格差もないことになることは明白であります。このような法律の通過前に法律を規制するがごと協定を結んだことは、私は問題であると思うのであります。大蔵省は別といたしまして、裁判所、法務省とも、法律運用については専門家であるはずであります。この専門家であるものが、事前に立法府を拘束するがごときこのような協定をなすということは、むしろ私は言語道断だと思う。憲法第八十条の趣旨からいいましても、このような憲法報酬を定めるとなっているこの裁判官報酬に対して、一片の協定をもって法律を制限するというがごときは、これは憲法違反にもなると思うのであります。この秘密協定ごときは、本法案を何ら拘束するものでないという解釈の上に、すなわち附帯決議の中にありまする「財政の許す範囲に於て、これを規制することなく」というこの意味は、このような秘密協定というものが本法案を何ら拘束するものでないということを明白にしておる、こういう理解の上において本法案賛成をするものであります。  以下裁判官憲法上の優位性をいささか明確にいたしてみたいと思うのであります。私は何も検察官の俸給を低くせよなどと言っておるのではありません。むしろ検察官の職務の重大性から見まして、一般公務員と同等以上の処遇をせよということには全然同感であります。しかし、裁判官に関しては、特に憲法上の地位の優位性を認めるがゆえに、検察官やその他一般職に比べて一段とその報酬の点においても高くしなければならぬというのであります。この裁判官憲法上の地位の優位性については、いろいろ反対説もあるようであります。しかし、新憲法下における司法制度は、裁判官の優位性まで認むるのでなければ、とうていこの憲法精神を理解することはできないのであります。新憲法においては、司法権が非常に強化され、民主主義下における三権分立の基礎を明確にしております。すなわち、旧憲法下においては、三権分立を建前としながらも、なお司法権は行政権に制約されるものが多かったのであります。ところが、新憲法では、司法権の独立を柱として、その権限が拡大され、みじんも行政権による規制を受くることなく、裁判制度を確立することによって民主主義の基盤を固めたのであります。第一に、違法な行政作用に対しても、司法的救済が与えられることになったのであります。旧憲法下においては、違法な行政作用に対しては、行政裁判所に出訴しなければならなかったのであります。従って、このような制度のもとにおいては、行政官庁みずからの行為をみずから裁判するのでありますから、行政官庁の自制と反省の作用をなすだけのことであって、その裁判の結果というのは、多くは人民の請求相立たずという結論が出ておったのが当時の実情でありました。新憲法では、行政裁判所を廃止し、違法な行政処分によって権利の侵害を受けた者もひとしく司法裁判所に出訴し、その違法処分の取消しを求むることができるようになったのであります。このことは、公務員の不法行為によって損害を受けた者が、国または公共団体に対し損害賠償の請求をなし得ることに相なったことと相待って、違法なる行政作用に対してすべて司法権による救済ができるようになったのであります。しかも憲法第七十六条第二項では、行政機関は終審として裁判を行うことができない旨を定めて、いかなる行政作用といえども司法権の監視から免るることができなことを明確にしておるのであります。  第二に、最高裁判所に違憲法令の審査権を与えたことであります。憲法第八十一条には「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」こう定めております。この条項の解釈についてはいろいろな問題を残しておりまするけれども、とにかく憲法第九十八条によって、憲法に違反する法令が無効であるということを現実に終局的に解釈決定する権限は、他の国家機関には全くないのであります。最高裁判所のみに与えられた権限であることが明白であります。  第三に、憲法第七十七条は、最高裁判所に規則制定権を認めたことであります。旧憲法当時におきましては、司法行政事務は、行政長官である司法大臣の管掌するところでありましたけれども、右憲法第七十七条において、最高裁判所は訴証に関する手続はもちろん、弁護士裁判所の内部規律及び司法事務処理に関して規則を定むる権限を付与されたのであります。つまり司法権運用に関しては、内部の行政事務に至るまで一切行政権の介入を受くることなく、最高裁判所が自律的に定むることができるようになったのであります。  以上のような憲法上の諸条項というのは、司法権の完全なる独立を明確にしておるのでありますが、この憲法精神というのは、当然に司法権運用する裁判官地位の保障と優位性を認めたものと解釈されるのが当然であります。従来、裁判官は、検察官とともに、司法官と呼ばれてきたのであります。しかし、検察官は、検事総長以下一体として法務大臣の指揮監督を受け、政府を代表して犯罪に対して訴追を行う国家機関であって、一般職と異なる特殊な職務は持っておりまするが、本質的には行政官であることに一点の疑いもありません。これに引きかえ、裁判官は、憲法第七十六条に明確にされておるように、その職務を行うについては、憲法及び法律に拘束さるるほかは何人の指揮監督も受くることなく、完全な独立を保障されておるのであります。すなわち、裁判官のみが司法権を行う司法官なのであります。この不覊独立の職務を行う裁判官に対して、その地位の保障と他の行政官に対する優位性を認むるものでなければ、憲法の認むる司法権の独立も画龍点睛を欠くことになるのであります。すなわち、裁判官が安んじてその職に奉じ、何者の圧迫にも抗して、自己の信念と良心に従ってのみ裁判をなし得る態勢が確立されなければならないのであって、それが新憲法を貫く裁判官の優位性の原則であると信ずるのであります。このことは、具体的には、憲法第七十六条第三項の職務を行うに当っての独立の保障であり、第七十八条の身分保障の問題であり、これと表裏の関係をなす第七十九条第六項及び第八十条第二項の報酬の問題であると思うのであります。多数の学説は、憲法第七十九条、第八十条の規定は、裁判官に対するその地位相当する生活をなし得る報酬を保障するとの規定であって、特に他の一般公務員より多く支給せよとの趣旨ではないと解しておるようでありますが、私はこのような解釈は皮相の解釈であると思うのであります。すなわち、この条項だけを抜き出して解釈いたしますれば、一応通説のような解釈も出るのでありますけれども、前述のように民主主義下における司法権の完全独立と裁判官地位保障などの憲法の底を流るる精神を総合して、各法条との関連において解釈すれば、一般公務員との格差を設けるべきであると解するのが至当であると思うのであります。  第一に、職務の内容からしても、裁判官検察官とはその重要度において格段の差があるのであります。たとえば、最近おびただしく誤判事件が伝えられております。かりにここに殺人の容疑者があって、検察官はこれを殺人罪として訴追し、裁判官はこれを有罪として認定し判決したとして、これがもし後日無実であったことが判明した場合を考えてみれば、裁判官検察官の職務の重要度が、おのずから明白になるのであります。すなわち、検察官がかりに誤まって訴追しましても、裁判官良識があれば、その誤まりを正すことができるのであります。しかし、一たび裁判官が誤まって判断をした場合、その裁判が確定すれば、その被告人に及ぼす被害は、検察官の誤まりなどとは比較にならぬほど重大であります。そのような場合、もちろん再審の道もありましょう。しかし、それによってこうむるその人の損害は、想像に絶するものがあります。たとえば、栃木県の美田村というところで四十五年間もひたむきに無実を叫び続ける吉田石松という老人がありますが、もしこの老人の叫ぶ通りに、ほんとうに無実であったとすれば、国はいかなる方法をもってしても、もはやこの老人に対して償う道が全然ないのであります。かつて静岡県二俣町において強盗殺人の容疑を受けて八年間も投獄されておった須藤満雄という青年は、ようやく無実の罪であることが判明して無罪が確定しました。最近では、同じく静岡県のいわゆる幸浦事件においても、十年ぶりでようやく無実の罪が晴れ、十年の牢獄より釈放された三人の人があります。これらの人々が無実の罪で八年なり十年なり獄につながれた苦痛に対しては、刑事補償法は一日わずか二百円ないし三百円の範囲内における金額の補償金を交付するにしかすぎないのであります。これらの不幸な人々の獄中において失われた青春は、再び帰ってくるものではないのであります。わずかばかりの金銭をもって補償できるものではありません。いわんや死刑の判決を受け執行されてしまったとするならば、全く回復することができないのでありまして、想像しても戦慄を感ずるものがあります。従って、裁判官の職務の重大性は、検察官と比較にならぬものがあります。もちろん、検察官といえども、職務上誤まってはならぬのであります。しかし、かりに誤まっても、救済ができるのであります。しかし、裁判官の犯したあやまちは、救済不能なほど深刻であります。私は、職務の性質上、検察官はむしろ年令的に若くともよいと思うのであります。むしろ若い方が犯罪の捜査や検挙などに十分な能率を上げることができると思います。多少の行き過ぎがあっても、裁判によって是正されるのであります。しかし、裁判官は、みじんの行き過ぎもあやまちも許さるべきではありません。従って、裁判官には相当年令と豊富な学識経験と高潔な人格など、人間としての最高度に修練された人物を要求されるのであります。このような職務の内容による重大性にかんがみて、裁判官の任用資格について、すでに検察官と異なる差等を設けたのであります。すなわち、同じく司法修習を終えても、検事にはすぐ任官できるが、判事には十年の判事補なり、検事なり弁護士なりの職務を行なったものでなければ、任用されないのであります。この方式にも、私自身、法律制度論としては若干の異見があるのであります。むしろ裁判官弁護士または検事を一定の期間在職した優秀な者より任用することにして、およそ法曹界に身を奉ずる者の最終の理想は、裁判官になるというくらいの優遇の道を講ずべきであると思うのであります。いずれにせよ、裁判官の任務の重要性から、任用資格を厳格にしておるのであります。  第二に、かように裁判官の職務の重要性の認識の上に立って、憲法第七十六条の職務に対する独立の保障と、第七十八条の身分保障が定められたのであります。まず裁判官の職務に対する独立を保障する直接の規定ごときは、旧憲法にはなかったのであります。ただ旧憲法五十七条に「司法権ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ」とあり、この条項をもって裁判官の職務の独立を定むるものと解したのであります。しかし、身分上の監督は司法大臣より受け、制度上から行政権が優位になった当時においては、往々にして裁判官の職務が行政権よりの圧迫を受けたことがあったのであります。民主主義政治のもとにおいては、このようなことがあってはならぬのであって、新憲法は特に「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。」と、裁判官の職務の独立を明確にしております。  次に、身分保障に関するこの条項は、旧憲法時代の身分保障とは、内容的にも異なっているのであります。すなわち、旧憲法第五十八条第(2)項には、「裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラルルコトナシ」と定め、第(3)項は、「懲戒ノ条規ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム」と規定しているのであります。しかし、懲戒の規定立法事項としただけであって、当時裁判官は、検事と同様、行政長官である司法大臣より身分上の指揮監督を受けておったのであり、懲戒も、結局は司法大臣の管理下にあったのであります。司法権の完全独立を建前とする新憲法では、この不合理が是正されて、第七十八条において、「裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。」との原則を樹立したのであります。そればかりでなく、任用に関しても、第八十条において、「最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命する」こととして、政府最高裁判所の指名に対し拒否することはできても、天下り人事はできないことを定めたのであります。  第三に、裁判官には、最高裁判所判事には国民審査、下級裁判所判事には十年の任期制を定めたのであります。これもまた、裁判官の職務が重要なるがゆえに、他の一般職にその例を見ない制度を設けたのであります。すなわち、これによって裁判官国民の信任の基礎の上に、または十年間の任期間安んじてその職務を行い得る保障がなされたのであります。  以上のごとく、裁判官の職務は重大なるがゆえに、身分上、職務上の保障が確保されているのであって、他の一般職に見られない憲法上の優位性が見られるのであります。この憲法上の優位性は、当然報酬にも適用されねばならぬのであります。かくのごと憲法精神の把握と解釈の上に、第二回国会以来、裁判官検察官との報酬の格差が設けられたものと見るべきであります。もちろん、沿革的には、当時最高裁判所長官の要請と、マッカーサー司令官の書簡等が直接の動機になったのは事実でありましょう。しかし、民主主義下、新憲法の司法制度として、司法権の独立と裁判官の優位性という根本的理念を承認することによって、裁判官検察官との報酬の格差を設けることが正当化されたものと信じます。従って、私は、裁判官検察官との報酬の格差を設けることがあくまで憲法の正当なる解釈と信じ、本法案は、不十分ながら、この精神に基いて、裁判官特号という格差を設けたものとの観点に立って、賛意を表する次第であります。(拍手)
  36. 小島徹三

    小島委員長 志賀義雄君。
  37. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 私は、両法案に反対であります。裁判官報酬等に関する法案について反対を表明すれば、当然検察官俸給等に関する法律改正案の反対の趣旨も明らかになります。  私は、本法案ほど不明朗な法案は最近ないものと思っております。本法案は、その計画の最初から官僚の小細工の連続であり、それは国民からももちろん、国会からも隠され、法案の仕上げに際して、法案の表面から隠された官僚間の秘密協定でその極点に達したのであります。しかも政府は、これが朝日新聞社説で暴露されるまでは、衆参両院における審議の中でも明らかにしなかったのであります。この秘密協定は、大蔵、法務官僚に、遺憾ながら最高裁までがまるめ込まれたか、ぐるになったか知りませんが、そのことが審議過程で明らかになっておるのであります。こういうことは、先ほど鍛冶委員からさえ質問がありました通り、明らかに立法権の制限であります。これは内閣と法務、大蔵官僚の圧力のもとに作られたれっきとした秘密協定でありまして、愛知法務大臣は、行政府の若干の慣例であると言われましたけれども、それすらも誤まりであり、まして行政府と独立の司法部の間にこういうことがやられるということは、絶対に許されるべきことではないのであります。しかもこれが、特に法律を忠実に守らなければならない法務省並びに裁判所が行なったということ、これはどうしても、国会も国民も納得のいくことではありません。しかも、私の質問に対して、法務大臣は、裁判官について明記されている憲法八十条の「相当額の報酬」ということについては、何度お尋ねしても、検事が格下げになっては気の毒だ、若干の絶対額は上っているからと言って、話を別にして、肝心のことには答弁されなかったのであります。問題は、単に報酬、俸給をめぐる判事検事のけんかではありません。懇談会では親しい友達だったせいか、検事正と裁判所長の間に多少やりとりかありましたけれども、そういうところに問題の本質があるのではありません。朝日新聞社説も言っておりますが、この問題の推移の中に、見え隠れに司法部の持っておる権限を軽視し、引き下らそうとする意向がある。最もおそれるのは、こうした問題を通じて裁判官地位が実質的に徐々に引き下げられ、ついには戦前の司法省の監督下にあった裁判所のように、裁判の職人化に追い込まれることである。現憲法がある以上、このようなことは断じてあってはならないと言っているのであります。法務大臣を初め、政府当局者の本法務委員会における説明と答弁は、憲法に保障された判事報酬に関する規定は、ここ数年実質的にもう変っておる、こう言われました。そのときに問題にすべきであったと言われました。それならば、今日そのことに気がついたならば、問題は、これを正すことにあるのであって、これを正すのではなく、今までやったのだから、判事検事は任用資格において同格であるという独断に基いて、この法律の性格にもう質的な変化をもたらそうとすることは大へんなことでありまして、しかもそういう説明しか与えられていないのであります。ことに、そこにおられます法務省の津田政府委員は、三田村委員質問に答えて、判事優位は観念論とまで極言しております。でありますから、東京新聞が、馬場法務次官の、いつまでも検事に冷飯を食わしておくわけにいかぬと言ったということまで報道されているのでありますが、私どもは、きょうも懇談会で言われた、憲法をアイデアというような検察官考え方、ここにも一つ検察ファッショの芽がある、こういうようにおそれるものであります。この政策に対して、東京地裁の判事諸君の決議を先頭に、大阪、仙台等全国の判事諸君が反対の意思表示を行なっておる。また、新聞も世論もこれに同情的なのは、むしろ当然と言わなければなりません。自民党の委員の中には、この判事決議が国会に提出されたことを声をはげまして叱っておられる方がありますが、私は、これは的はずれであると思います。三権分立の中で最も国民的な性格を持ち、憲法でも最高機関として規定され、予算の審議権、決定権を持つのは国会であります。判事検事報酬、俸給も、国会規則において、特別に法務委員会で審議することになっております。この法務委員会の法案審議過程において、判事諸君から決議に基く要望が出されたことは、むしろ当法務委員会の持っておる責任、また受けている信頼からいって当然のことと言わなければならないのであります。ただし、三田村委員が攻撃をされたその攻撃を許す一つの理由は、最高裁判所側にもあります。それは何だ。法務省、大蔵省の官僚に屈服したことであります。少しだらしがないです。(笑声)ここから、最高裁が全国の判事諸君の意見を統一し、司法の立場から国会に堂々と自己の意思を表明することをせず、最高裁横田事務総長は、この委員会で、判事諸君の反対決議を支持する態度をとりながら、こういう妥協をその前にしておられるのであります。本来ならば、田中最高裁長官を初め、最高裁裁判官会議、全国の判事諸君の司法の独立を守るという立場からの強い反対思見があるならば、それについてはっきり意思表示をすべきであったのに、いまだにそれをされておりません。そればかりではありません。このほかにも問題があるのですが、それはしばしば最高裁の責任者が、国民がいろいろと裁判について意見を述べる——これは、最高裁裁判官はみな適格審査を選挙のときに、同じように受けるのであります。国民はそういう権利を持っております。非常に不完全ではあるけれども、主権者であります。それが意見を述べることについて、これを雑音というようなことを言って、司法権の独立というものが、本来特に行政権並びに立法権に対してあるものを、まるで国民からの独立権のように考えるから、こういうときになって、自分が孤立しなければならない。そうして、うまいこと妥協に陥し込まれるという結果になるのであります。こういう点は、横田事務総長もよく田中長官以下、最高裁判事にお伝え願いたいと思うのであります。こういう量見だから、やられてしまうのですよ。  私は質疑の際にも触れましたが、法案審議の中で行われた愛知法務大臣の発言は、どうしてもここで再び取り上げなければなりません。それはこういうことです。裁判所は、大蔵省との予算折衝で、法律上は優位だが、事実上は非常に弱いから、予算、営繕関係は法務官僚にまかせた方が能率的である、この際抜本的に制度の上でも改善するように、これを勇気をもって提案するつもりである、こう言われている。そうしますと、きょう鍛冶委員、また猪俣、坂本委員からあなた少ししかられて、今後は反省しますと言われたこととこれはだいぶ矛盾してくるのであります。やはりあなたは本心まで改められなければだめですよ。(笑声)これこそ、この法案が何をねらい、この法案のあとに何がくるかを如実に示しておるものであります。これは戦後新しい憲法のもとで、せっかく国民がかちとった国家行政権力からの司法の独立を、再び戦前の司法省の監督下にあった裁判所に引き戻す第一歩になったのであります。内閣の一員である法務大臣が、大蔵省との予算折衝で最高裁は弱いから、その権限を官僚に引き渡せとは、一体これは何たる言いぐさでありますか。裁判所が予算事務の雑事——あなたは雑事と言われたが、雑事から解放され、それを法務官僚の手にゆだねた瞬間に、司法権の独立は失われ、憲法は自動的に改悪され、裁判所は法務官僚の、ひいては検察官のもとに完全に従属されてしまう。そして、警察のでっち上げたレールの上にすべて乗せられてしまうのであります。あなたは長い間大蔵省で秀才のほまれの高かった人だから、こういうことはちゃんと知っておられる。だからよけい問題なんです。私は重ねて、この法務大臣の発言こそ、この法案の真のねらいを示しておるものであり、司法権の独立という憲法上の大原則が根底からくつがえされることを指摘しなければならないのであります。  このことから、司法権の独立、司法と行政、司法と立法との関係について、当然ここでも論議が起ったのであります。立法、司法、行政の三権の分立の調和は、愛知法務大臣考えられるように、行政府の権限拡張によって行われてはならないのであります。これは戦前の傾向であり、またファッショ的傾向であります。司法にも積極的に予算、法案の提出権を認めて、その上で三権の調和をするのは、直接国民の選挙の結果によって構成された立法府、つまり国会が行えばよろしいので、それだからこそ、憲法第四十一条も、国会を国権の最高機関として宣言しており、また国会に裁判官裁判する裁判官訴追委員会、弾劾裁判所を設けることも規定されておるのであります。私はこれがまだブルジョア的であっても、民主主義的な国家の機構のあり方であると考えます。こういう点から、司法の持つ国家活動における独立性を認め、国家権力の統一的運用を保障するものは、国会が、憲法に基きかつ義務づけられている当然の機能を十分に果せばやれることでありまして、今度のように、秘密協定であらかじめ立法権を制限するようなことまでして、この法案の通過をはかろうということには、私ども絶対に賛成しないのであります。  そこで、私どもは本法案に反対いたしまして、判事諸君の決議を最も積極的に支持しております。判事諸君も、共産党だけが支持する結果になることには少しびっくりしておられるでしょうが、私どもは民主主義の原則に基いて当然のことをしておるのでありまして、私どもは、行政府の専制から国会を中心とした三権分立と司法権の独立の原則を守るのは、私どもとしてどうしてもこの際はっきりしておかなければならないことと思うのであります。このことは、憲法の民主的条項の徹底化の上からも非常に必要なことであります。共産党員である私が、本法案に強く反対しておるのは、この趣旨からであります。従って、ここに出ました附帯決議も、私どもから考えれば、どうも今までのところ、鉄道公安官の問題でも、よもやこれが労働争議の弾圧になるまいと思ってここを通してみたら、完全にそういうふうになったのと同じことで、私どもはやはりその危険を感じますので、この法案に反対することを表明する次第であります。
  38. 小島徹三

    小島委員長 これにて討論は終局いたしました。  これより裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律等の一部を改正する法律案を一括して採決いたします。両案に賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  39. 小島徹三

    小島委員長 起立多数。よって、両案はいずれも原案の通り可決されました。  次に、両案に対しそれぞれ附帯決議を付すべしとの動議につき採決いたします。本動議に賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  40. 小島徹三

    小島委員長 起立多数。よって両案に対しそれぞれ附帯決議を付することに決しました。  ただいま議決をいたしました法律案委員会報告書の作成等につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  41. 小島徹三

    小島委員長 御異議なしと認め、さように決しました。  本日はこれにて散会いたします。     午後三時三十九分散会