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1959-02-05 第31回国会 衆議院 法務委員会 第3号 公式Web版

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  1. 会議録情報

    昭和三十四年二月五日(木曜日)     午前十時三十二分開議  出席委員    委員長 小島 徹三君    理事 鍛冶 良作君 理事 小林かなえ君    理事 田中伊三次君 理事 福井 盛太君    理事 井伊 誠一君       綾部健太郎君    小澤佐重喜君       薄田 美朝君    辻  政信君       馬場 元治君    三田村武夫君       猪俣 浩三君    大貫 大八君       神近 市子君    田中幾三郎君  出席国務大臣         法 務 大 臣 愛知 揆一君  出席政府委員         警  視  監         (警察庁刑事局         長)      中川 董治君         検     事         (刑事局長)  竹内 壽平君         法務事務官         (矯正局長)  渡部 善信君         検     事         (保護局長)  福原 忠男君         法務事務官         (人権擁護局         長)      鈴木 才藏君  委員外出席者         警  視  長         (警察庁保安局         防犯課長)   町田  充君         検     事         (大臣官房司法         法制調査部長) 津田  實君         検     事         (人権擁護局調         査課長)    齋藤  巖君         最高裁判所事務         次長      内藤 頼博君         判     事         (最高裁判所事         務総局総務局総         務課長)    海部 安昌君         判     事         (最高裁判所事         務総局人事局         長)      守田  直君         判     事         (最高裁判所事          総局家庭局         長)      市川 四郎君         警 視 総 監 小倉  謙君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 昭和三十三年十二月三十一日  委員世耕弘一君辞任につき、その補欠として池  田勇人君が議長の指名で委員に選任された。     ――――――――――――― 昭和三十四年一月二十六日  裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内  閣提出第五三号)  下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の  一部を改正する法律案内閣提出第六五号)(  予) 二月四日  裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する  法律案内閣提出第一一九号)  検察官俸給等に関する法律等の一部を改正す  る法律案内閣提出第一二〇号) 昭和三十三年十二月二十五日  防府簡易裁判所及び防府区検察庁新庁舎建設促  進に関する請願小島徹三紹介)(第三一六  号) 昭和三十四年一月二十二日  占領軍による被害補償に関する請願松澤雄藏  君紹介)(第六一二号)  泥酔犯罪者に対する処罰法制定に関する請願(  柏正男紹介)(第六六二号) 同月三十日  占領軍による被害補償に関する請願中澤茂一  君紹介)(第八五三号)  同(原茂紹介)(第八五四号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 昭和三十三年十二月二十五日  講和条約発効前の占領軍事故による被害者補償  に関する陳情書  (第一三号)  最高裁判所裁判官国民審査法改正に関する陳  情書(第一  八号) 昭和三十四年一月二十七日  外国人登録事務委託費増額に関する陳情書  (第一六〇号) 二月四日  汚職摘発の公正に関する陳情書  (  第二七八号)  恩赦に関する陳情書  (第二八一号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内  閣提出第五三号)  下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の  一部を改正する法律案内閣提出第六五号)(  予)  裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する  法律案内閣提出第一一九号)  検察官俸給等に関する法律等の一部を改正す  る法律案内閣提出第一二〇号)  法務行政及び検察行政に関する件      ――――◇―――――
  2. 小島委員長(小島徹三)

    小島委員長 これより会議を開きます。  この際、国会法第七十二条の規定による最高裁判所長官またはその指定する代理者出席説明に関する件についてお諮りいたします。本会期中におきまして、本委員会審査または調査に関し、最高裁判所長官またはその指定する代理者から出席説明の要求がありましたときは、その承認に関する決定につきましては、その都度委員会に諮ることなく、その取扱いを委員長に御一任願つておきたいと存じますが、これに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 小島委員長(小島徹三)

    小島委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。     —————————————
  4. 小島委員長(小島徹三)

    小島委員長 次に、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律案裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案、及び検察官俸給等に関する法律等の一部を改正する法律案の四案を一括議題とし、各案について、提案理由説明を聴取することといたします。愛知法務大臣。     —————————————
  5. 愛知国務大臣(愛知揆一)

    愛知国務大臣 ただいま議題となりました法律案について、その提案理由を御説明申し上げたいと思います。  まず第一に、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案について、その趣旨説明いたします。  裁判の適正と迅速をはかり国民の信頼にこたえるためには、まず下級審ことに第一審の充実強化が必要であることは、異論のないところと存ずるのであります。しこうして、御承知通り、現在地方裁判所が第一審として取り扱う事件のうち、法律裁判官合議体で取り扱うことを必要とするいわゆる法定合議事件は例外的なものに限られ、その他の大部分事件につきましては一人の裁判官でこれを取り扱うか、合議体でこれを取り扱うかは、事案によって裁判所が定めることになっているのでありますが、裁判の適正という観点からいたしますれば、いわゆる法定合議事件以外の事件につきましても、複雑困難なものは、できる限りこれを合議体で取り扱うようにすることが望ましいことは申すまでもないことと存じます。しかるに、最近におきましては、民事刑事事件数増加裁判官の不足その他の事情から、本来合議体で取り扱うことが望ましいと思われるような複雑困難な事件をも、やむなく一人の裁判官で取り扱つている場合が少くない実情にあるのであります。  次に、訴訟の遅延は、司法に対する不信を招来し、ひいては種々の社会的な弊害を惹起するおそれがあるものとして、厳にこれを戒むべきことは申すまでもないところであり、訴訟の促進につきましては、かねてからその対策必要性が痛感され、多年にわたり、さまざまな角度から努力が重ねられて来たのでありますが、訴訟手続等の面における運営の改善のみによってその実をあげることはなかなか困難であると申すほかなく、今や民事刑事事件数増加は、限られた員数裁判官とつて、重圧となっているように見受けられるのであります。  以上のような実情にかんがみますとき、第一審における訴訟の適正迅速な処理をはかるためには、まず判事補を増員して、なるべく多くの事件合議体で取り扱うことができるようにするとともに、事件審理期間の短縮を期する必要があるのでありますが、さしあたり人員確保見通し等を考慮し、必要最少限度の範囲内で、判事補員数を二十人増加しようとするものであります。  以上が裁判所職員定員法の一部を改正する法律案趣旨であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決下さいますようお願いいたします。  次に、下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律案について、その趣旨説明いたします。  この法律案は、最近における市町村廃置分合等に伴い、簡易裁判所名称及び管轄区域等変更しようとするものであります。以下簡単に今回の改正要点を申し上げます。  第一は、簡易裁判所名称変更であります。すなわち簡易裁判所名称でその所在地の市町村名称を冠しているものは、市町村廃置分合またはその名称変更に伴い、これを改めるのを原則としているのでありますが、このたび静岡県磐田郡二俣町を天竜町とする名称変更及び天竜町を天竜市とする処分に伴い、二俣簡易裁判所名称天竜簡易裁判所変更するほか、二つ簡易裁判所名称変更しようとするものでありまして、いずれも地元住民の希望を考慮いたしたものであります。  第二は、簡易裁判所管轄区域変更であります。すなわち、土地の状況、交通の利便等にかんがみ、竹原簡易裁判所管轄に属する広島県豊田郡瀬戸田町の区域因島簡易裁判所管轄区域とするほか、二つ簡易裁判所管轄区域変更しようとするものでありまして、これらの管轄区域変更は、いずれも地元住民関係機関等の意見を十分参酌いたしたものであります。  第三は下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律別表整理であります。すなわち市町村廃置分合名称変更等に伴い、同法の別表第四表及び第五表について当然必要とされる整理を行おうとするものであります。  以上が下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律案趣旨であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決下さいますようお願いいたします。  第三に、裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律等の一部を改正する法律案について、その趣旨を便宜一括して説明いたします。 政府は、人事院勧告趣旨にかんがみ、一般政府職員給与改訂を行い、あわせて現行暫定手当一定の額を俸給に繰り入れる措置等を講ずることとし、今国会一般職職員給与に関する法律等の一部を改正する法律案を提出し、御審議を仰いでおりますことは、御承知通りでございます。この裁判官報酬及び検察官俸給に関する両法律案は、一般政府職員給与改訂に伴い、裁判官及び検察官報酬または俸給の号及びその月額等改正しようとするものであります。以下改正要点説明申し上げます。  まず第一に、一般政府職員については、初任給の引き上げ及びこれに伴う俸給月額改訂を行い、また一部の俸給表一等級について二つの号俸の新設を行うことといたしておりまするので、裁判官及び検察官につきましても、これに準じてその報酬または俸給の号及びその月額を改めようとするほか、判事について、判事一号の報酬月額をこえる特別の報酬月額の定めを設け、特別のものに限り、当分の間これを適用しようとするものであります。  この改正は、一般政府職員の場合と同様、昭和三十四年四月一日から施行されることとなっておるのであります。  第二に、一般政府職員の例に準じ、昭和三十四年十月一日から、判事判事補及び簡易裁判所判事並びに検事及び副検事について、現行暫定手当一定の額、すなわちいわゆる一級地に在勤する者に支給される額に相当する額を報酬または俸給の各月額に繰り入れる措置を講じようとするものであります。  第三に、他の特別職職員の例に準じ、最高裁判所長官最高裁判所判事及び高等裁判所長官並びに検事総長次長検事及び検事長については、諸般の事情にかんがみ、さきに述べました暫定手当一定の額を報酬または俸給の各月額に繰り入れる措置は、これを行わないこととなりましたので、昭和三十四年十月一日から、その暫定手当一定の額を報酬または俸給とみなし、恩給退職手当及び寒冷地手当等の額の計算の基礎としようとするものであります。  以上が裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律等の一部を改正する法律案趣旨でございます。  何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御可決下さいますようお願いいたします。
  6. 小島委員長(小島徹三)

    小島委員長 以上で裁判所職員定員法の一部を改正する法律案外三案の提案理由説明は終りました。  これより裁判所職員定員法の一部を改正する法律案議題とし、質疑に入ります。質疑の通告がありますからこれを許します。大貫大八君。
  7. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 まずこの定員を二十名増員するということについてお伺いいたします。現在下級裁判所裁判官相当数欠員があるようでございますが、この参考資料によりますと、大体現在百三十六名の欠員があるようであります。これに対して、大体その増員をする前に、補充に対してどういう対策があるか、それをまずお伺いいたしたいと思います。
  8. 守田最高裁判所説明員(守田直)

    守田最高裁判所説明員 私から説明いたします。  まず判事でありますが、判事は、本年の六月に判事補在職十年を経過しまして、判事資格を取得する者が約七十名ほどいるわけであります。それから欠は判事補でありますが、判事補は、本年四月に司法研修所修習を終えまして、判事補の任命可能の者が合計二百八十三名でありますが、そのうち九十二名ほど判事補を志望いたしておりますので、大体九十名程度採用し得るというふうに考えております。なおこの判事補欠員は二十名となっておりますが、実は判事補資格を持つた者のうち、相当数簡易判事の本官に切りかえられておりますので、その部分から判事になります者ができます関係で、大体九十名程度判事補新規採用いたしますと、大体欠員がなくなるという状況に相なります。その結果、簡易裁判所判事が相当欠員になってくるわけでありますが、これは、弁護士、それから弁護士連合会などに働きかけまして、大いに充員に努力する予定であります。  以上が大体の補充計画の概要であります。
  9. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 今の御答弁を聞いていますと、大へん楽観的な見方をしておるのですが、これは年々歳々この程度欠員がずっと続いておつたと思うのです。裁判所の方でも、法曹一元化の建前から、弁護士会の方なんかにも盛んに働きかけておるのですが、その補充がつかないというのが今までの状況だったと思うのです。急に本年度修習生から九十名採用見込みだというのですが、果してその通りいくのでしょうか。毎年修習生から判事補になる者は一体何名ぐらいありますか。最近の状況についてお知らせを願います。
  10. 守田最高裁判所説明員(守田直)

    守田最高裁判所説明員 それでは昭和三十一年から申し上げますと、昭和三十一年には、修習生二百十六名、そのうち判事補を志望した者が七十六名、そして判事補採用した者が七十三名であります。それから三十二年には、司法修習生二百六十七名のうち八十六名が判事補を志望いたしまして、七十七名を採用いたしております。それから昭和三十二年には、司法修習生二百五十六名、そのうち六十七名が判事補を志望いたしまして、六十五名採用いたしております。これが昨年までの経過でございます。ことしは司法修習生は従来より多く二百八十三名になっております。これは今度司法修習生修習の課程を終える人数でございます。
  11. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 その九十名というのは、すでに判事補を志願した者の数なんですか、それとも単なる見込みなんですか。
  12. 守田最高裁判所説明員(守田直)

    守田最高裁判所説明員 それは修習生の意向を調査いたしまして、そして志望すると言っておる人であります。だから根拠のない数字ではないのですが、それが後にまた二回試験がありますから、少しは狂うかもわかりませんが、大体判事補になりたいといって志望している人であります。
  13. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 それでは現在の判事で、本年度定年退職になる数並びに配置転換のために辞職する者は年々どのくらいになっているか、そういう者の数はどのくらい予定されるか。
  14. 守田最高裁判所説明員(守田直)

    守田最高裁判所説明員 本年の一月一日から十二月末日までの間に定年退職をする、そういう時期に到達している人は、判事及び簡易裁判所を含めまして六十名ほどおります。
  15. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 六十名ほどになるんですね。毎年任意退職といいますか、定年じやなくて、みずから退職する者が大体ここ二、三年の数でよろしいですから明確にして下さい。
  16. 守田最高裁判所説明員(守田直)

    守田最高裁判所説明員 昭和三十二年の数字がここに出しておりませんので、去年一年間の分で御容赦願いたいと思いますが、依願免官判事は九人、転官する者が三名、死亡が一名、それから簡易判事依願免官になるのが六名、転官が一名、死亡が三名、そういったような数字になっております。
  17. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 そういたしますと先ほどの御答弁で、本年度新規採用九十名、それから判事補から判事になる、これは実数においてはそう異動がないわけですが、とにかく九十名という補充欠員というものは大体埋まるという御答弁なんですが、これは定年退職というようなものと、それから任意退職ですか依願免退職を合計いたしますと、九十名採用しても、結局やはり欠員は同じように持続していくわけになるんじやありませんか。
  18. 守田最高裁判所説明員(守田直)

    守田最高裁判所説明員 この判事及び簡易判事が大量に欠員になりましたのは、実は昭和三十二年及び三年に十年の任期が参りまして、それで大量再任事態が生じたわけでありますが、そのときに任期終了でもはや再任を希望しないといったような人たちを合せますと、判事が六十七名、簡易判事が三十三名あったわけであります。この判事に大きな欠員ができましたのは実はこの再任関係であります。それから判事補から判事採用し得る人たち約七十名、これは司法研修所の第一期の修習生でありまして、それ以前は、戦争の関係その他で、判事補を志望する人は非常に少かったわけであります。ところが、司法研修所研修計画が緒につきまして、第一回として、大量に裁判官になることが結実したわけであります。それが七十名できるわけであります。従来は欠員補充というものはなかなかできなかったものが、初めて一気に七十名任用し得る事態を生じたものでありますから、それでこの補充で相当まかなうことができるというわけであります。そのほか、従来の実績から申しますと、検事からあるいは弁護士からそれぞれ転官または新規採用いたしますので、少くとも昭和三十五年になりますと、補充ができるのじゃないかというふうに考えております。ただ、三十四年度一ぱいでは、判事もやはり少しは欠員があるのは免れません。
  19. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 どうも御答弁の中で少し実情をごまかしておられるような気がするのですが、実際問題として、年々最高裁所自体弁護士会なんかにも相当強く働きかけて、こういうふうに判事欠員で困るから、弁護士の方からも志願をしてもらいたいということを働きかけておる。そのときの最高裁判所の言葉というものは、もっと悲観的なことをいっておるのであります。現に、今定年退職が今年だけでも六十名も予想される、それから十年の切りかえで転勤などの問題になって参りますと、これは転勤をさせてもなかなか承知をしない、そこでやめていくというような裁判官も相当多く予想されるわけなんであります。ですから、依然としてこういうふうな欠員がずっと続いていくと思うのです。私は、その定員をふやすこともけつこうだと思うのですけれども、まず欠員補充に対する対策というものを、もっとしつかりとつてもらわなければ、いけないのじゃないかと思うのです。最近、法曹一元化というような問題もしきりに叫ばれておりますけれども、そういう問題についての所見は一つどうでしょうか、それを伺いたい。
  20. 内藤最高裁判所説明員(内藤頼博)

    内藤最高裁判所説明員 私からお答えいたします。  大貫委員の仰せの通り、実は、裁判官欠員補充につきましては、基本的に相当困難な問題があるわけでございます。ただいま人事局長から御説明申し上げましたように、三十四年度におきましては、ともかくも終戦後司法修習生修習が本格的に始まりました最初判事補に任官した人が、十年たちまして、今度判事になる年限に達したわけであります。そのことが一つと、それから今度修習生を終ります人たちの中から判事補を希望する者が、ただいま申し上げましたように九十名出てきたということ、この二つが本年度における明るい見通しでございます。こういった状況は、本年の三十四年度最初といたしまして、今後そういう意味では相当明るい見通しが持ち得るのであります。それと、最初の任命から十年間の任期が参りましたのが、ただいま申し上げました通り、一昨年、昨年にわたったわけでありまして、このときの実員の減員が相当大きかったのであります。その時期も過ぎましたし、そういう三つの点から、ただいま人事局長から申し上げましたような若干明るい見通しがないことはないのであります。しかし、一方におきまして、今日の事件増加裁判官の過重な負担ということを考えますと、全くただいま大貫委員のおつしやいましたように、裁判官欠員補充ということは、もっともっと重要な問題として考えなければならぬのであります。これにはどうしても弁護士会の方の御協力を得まして、弁護士の優秀な方々にぜひ裁判官になっていただきたいということを私ども常に考えているわけでございます。これは裁判官欠員補充の問題ばかりではございません。戦後唱えられて参りまして今日も懸案になっております法曹一元化という司法の今後のあり方にも結びつきまして、私どもといたしましては、ぜひそういう弁護士会からの御援助を願いたいと常々思っているわけでございます。何分にもこれがなかなか結実いたしません。これは弁護士会の方でもいろいろ御努力は願つております。しかしながら、現実の問題としては、なかなか思うように実現して参らないのであります。これは、一つには裁判官報酬の額であるとか、あるいは裁判官の執務の実情、そういったふうな点から困難があるわけであります。しかし、これを困難としていつまでもほうつておいたのでは解決にならないので、私ども日本弁護士連合会方々ともしばしばお話をいたしまして、その困難の一つずつでも解決して、何とか弁護士会から相当数方々裁判官に迎える道を開きたいと思っているわけでございます。この点につきましては、今後とも一そう私ども努力を続けて参りたいというふうに存じております。
  21. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 その点についてもっと具体的にお尋ねいたしますが、弁護士から裁判官に任用する問題について、確かに報酬等の問題が相当隘路になっていると思います。もう一つ恩給に関する問題、そういうことが相当問題になっておると思うのです。そういうことについて、特に何か対策というものをお持ちでしょうか。
  22. 守田最高裁判所説明員(守田直)

    守田最高裁判所説明員 すでに三、四年前から、恩給関係当局、大蔵省その他に対しまして、恩給法を一部改正いたしまして、弁護士から任用された裁判官につきましては一任期すなわち十年で普通恩給が支給されるように考慮してもらいたいということにつきましてずいぶん折衝いたしましたけれども、また弁護士連合会の方からもそれぞれ関係当局に交渉いたされまして、その実現に努力をいたしましたが、ついに今日までその成果を見ないわけであります。なお、今回は共済組合法の一部を改正する方法で、公務員の非現業職員退職年金といったようなものが用意されつつあるやに承わりましたので、その点に関しましてもその改正に当り、弁護士から採用されました裁判官につきましては、一任期すなわち十年で年金が支給されるようにしてもらいたいというふうな申し入れをいたしております。この点まだ弁護士連合会の方からもそれぞれ交渉をなさつておられますが、今のところ見通しとしては非常に困難であります。と申しますのは、今度の共済組合方式によるところの退職年金は、一定掛金をかけまして行われる方法で、従来よりも国庫の負担金の割合というものは減少して、掛金で相当まかなうという形になっているやに承わつております。そうなりますと、弁護士から任用された裁判官につきましては、十年で退職年金が支給されるとしますと、結局他の職員掛金を食うというような関係もあつて、なかなかその点が実現されそうにない。私たちはそれを連合会とともに、その分については国庫で負担してもらいたいというふうに申し入れをしておつて、現に運動しつつあるというのが現状であります。
  23. 鍛冶委員(鍛冶良作)

    ○鍛冶委員 ちょっと関連して——今のお話、私今まで聞いておるのとちょっと違うのですが、弁護士から裁判官になれば十年で恩給をやる、こういうことでしたね。弁護士を何年やつておつても、なれば十年という意味ですか、そういうふうに聞えますが、これは大事なことです。
  24. 守田最高裁判所説明員(守田直)

    守田最高裁判所説明員 それはもちろん判事に任用される資格を有する弁護士判事に任用された人をいうわけであります。限定しています。
  25. 鍛冶委員(鍛冶良作)

    ○鍛冶委員 弁護士を十年やつておつて判事になって、その上で十年たつたら恩給をつける、こういうことでしよう。
  26. 守田最高裁判所説明員(守田直)

    守田最高裁判所説明員 そういうわけです。
  27. 鍛冶委員(鍛冶良作)

    ○鍛冶委員 聞いたところで、ただ弁護士からなれば十年でつける。——そこで私はついでですから申しますが、どうもまだわれわれの考えておる法曹一元化というものと、あなた方の考えておる法曹一元化というものと違うようです。われわれのいう法曹一元化というものは、司法試験が受かれば、修習生をやつて、修習生をやれば全部弁護士になる。弁護士になつた者から成績優秀と言つた方がいいでよう、十年たつたら判事になるし、五年にするか七年にするか議論はあるが、ある程度したら検事になる、そういうふうにしなければほんとうの法曹一元化でないとわれわれは考えておる。そういうことになれば、いやでも、そのとき法律できめて、それからあと全部弁護士になっていくのですから、司法修習を終えたときから数えていって、恩給の年限につけるということになって疑問はないと思うのだが、どうもあなた方はそうではない、引き抜いて特別にやろうという頭のようだから、私の考えが間違いならば訂正するが、もしそうでないならば、もっと研究してもらわなければならぬ。お願い申し上げます。
  28. 守田最高裁判所説明員(守田直)

    守田最高裁判所説明員 私がただいま申し上げましたのは、判事補制度をどうするかという根本問題が、この背後には横たわつておるわけであります。それにつきましては、非常に重要な問題でありまして、それぞれ考慮中でありますが、現在の段階において年金制度を考えるのに、過渡的にはどうすればいいかということで申し上げている次第であります。
  29. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 どうも今までの御説明では、今にわかに二十名の増員をするという理由が乏しいような気がする。その前にどうしても欠員補充ということがまず第一じゃないか、こういうふうに私は考える。先ほど特に法務大臣の御説明の中にも、増員の一つ理由としまして、たとえば本来合議で扱うことが望ましいと思われるような複雑、困難な事件も、やむなく一人の裁判官でやつておる場合が多い、これは、裁判官が足りないからそういうことになっておるというふうに御説明になっておるのです。ところが法務省で出された参考資料によりますと、たとえば横浜と神戸の場合を比較して、合議事件と単独の処理件数について見ますと、横浜の場合には合議でやつておるのが十件、ところが神戸の場合には二百八十四件も合議でやつておる。判事の数からいいますと、配置されておる判事が横浜では十八名、判事補が十名、神戸では判事が十六名、判事補が九名です。むしろ神戸の方が判事並びに判事補の定数が少い。それでも合議事件を二百八十四もやつており、横浜では十件しかやつておらぬ。これはやはりその裁判所の方針で非常に合議に回すことを好むところと、合議に回すべきようなものでも単独でやつてしまうというような、その裁判所の性格と申しますか、所長あたりの方針というものが多分に反映しておると思う。合議云々ということは、決して裁判官の不足から来る問題じゃないと思う。これはやはり裁判所長の方針に基くものだと思うのであります。一例がそういうわけであります。また、第一審の強化というような意味からも、むしろ人数をふやすというよりも、今の定員をいかにして埋めるか、これが先決問題じゃないかと思う。それを埋めてなおかつどうも御説明のような理由があれば、そのとき初めて増員すればよろしいのであつて、百三十六名もあるその欠員も埋めることができないで、増員をするということ自体が、どうも納得がいかないのです。どうでしよう、もっとわれわれを納得させる理由がないのですか。
  30. 内藤最高裁判所説明員(内藤頼博)

    内藤最高裁判所説明員 大貫委員の御質問まことにごもっともと存じます。先ほど人事局長から数字を申し上げましたように、三十四年度におきましてはただいまの判事補の増員二十名でございますが、この程度の充員はできるという数字を実は持っているわけでございます。先ほど申し上げましたように、修習生修習を終りました者が本年度相当数判事補に希望を出しておりますし、そういったような観点から判事補の増員二十名は私ども可能というふうに考えております。それによりまして、先ほど法務大臣の提案理由の中にございましたように、合議体増加、増強ということがある程度見通しが立てられるというふうに私ども考えておるわけでございます。
  31. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 今、神戸と横浜の例を私ははっきり指摘したのですが、それはどう思うのですか。
  32. 内藤最高裁判所説明員(内藤頼博)

    内藤最高裁判所説明員 今御指摘がございました横浜地方裁判所の合議の扱いが非常に少いということ、これはやはり裁判所における一つの性格ということがあるかとも存じます。しかし、これはまた一面にそうなる一つの要素が横浜あたりにはあるように私ども見ております。と申しますのは、特に横浜では比較的に刑事事件が多いので、どうしても裁判官の手が刑事事件の方におもにいっておりましたので、民事の合議事件が比較的どうしても少くなるという実情にあったわけでございます。しかしながら、横浜におきましても、昨年度からは民事部を一部増加いたしましたから、本年度に入りましてからは、おそらく横浜におきましても民事事件の合議件数ははるかにふえてくるんじゃないかというふうに私ども見通しております。これは横浜の今日までの特殊なそういう事情が背後にあるように私どもは見ております。おそらく今年からはそういった事情はなくなってくるというふうに、事件の数の上から考えておるわけでございます。
  33. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 そこで次にお尋ねしますが、判事補だけを増員して、何ゆえに書記官以下の書記官補あるいは事務官、これをどうして増員しなかったかという点でございます。これは裁判所も苦い経験をなめられたはずなのです。昨年全国の書記官の奉仕労働返上というようなことで、これが全国的な問題になつたのは、裁判所自体がもう御経験なさったと思います。あのような運動が起きましたのは、いろいろな問題がありまするけれども、結局は書記官以下の書記官補あるいは事務官にいたしましても、事務の負担が過重であるということも一つの重大な原因になっておつたことは申すまでもないと思うのです。そういたしますと、裁判が渋滞するから判事補をふやすというのであれば、当然これに付随して事務も多くなるわけなのです。その事務を担当する書記官以下の職員をなぜ増員されなかったか、この点を伺います。
  34. 内藤最高裁判所説明員(内藤頼博)

    内藤最高裁判所説明員 ただいまの大貫委員の御質問、まことにごもっともと存じます。私どもといたしましても、年々増加いたしております訴訟事件に対しまして、裁判官も書記官も非常な苦心をしてその事件の処理をはかつているわけでございまして、その忙しさはほんとうに非常なものであるという現状でございます。そういった意味で、どういたしましても、裁判官、書記官の増員ということが基本的に要請されていることは、まことに仰せの通りでございます。で、私どもといたしまして、判事補が増員されますことに見合いまして、書記官を増員するという問題があるわけでございますけれども、もっと基本的な問題としての職員の充実整備と申しますか、そういった面を取り上げて参らざるを得ないというふうに考えております。ただ三十四年度におきましては、実は私どもの方の要請もいろいろあったのではございますけれども、予算の面におきましては、書記官の増員は認められませんで、判事補二十名の増員にとどまつたわけでございます。判事補二十名の増員に見合う書記官の増員が必要ではないかという御意見でございますが、判事補と申しますのは御承知のように、大体合議体の一員として活動するものでございます。そのほか、合議体に加わることによりまして判事負担を若干軽くして、そうして訴訟の促進に役立つわけでありますけれども判事補の仕事は、何と申しましても、合議体の一員にあるということが原則でございます。従いまして、合議体の数が若干ふえる、今まで単独で扱つておりましたのが、合議体に切りかえられる数が若干ふえるわけでございますけれども、書記官の数といたしましては、合議体における開廷も、単独における開廷も、開廷の数としては変りがないわけでございます。そういう意味におきまして、私どもとしてははなはだ不本意な面があるのではございますけれども判事補の増員に見合う書記官の増員ということは、本年度はいたさないわけでございます。判事補というものが、ただいま申し上げましたように、主として合議体に加わるということから、書記官の立ち会いの数が増加するということが言い得ないことがその理由でございます。
  35. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 それは少し違うのじゃないかと思うのです。なるほど本年度採用する新しい判事補というのは、九十名になるかあるいは八十名か知りませんけれども、これは合議体の構成員になるのでしようけれども、やはりワクがふえますと、そのワク内であるいは簡易裁判所判事を兼務させるとか、当然単独の仕事がふえていくものだというふうに私どもは理解するのです。特に東京なんかの状況を見ますると、私の調査したところによりますと、墨田の簡易裁判所に交通事件が移管されましてからというものは、中野あるいは大森、渋谷、新宿、豊島、これらの簡易裁判所から書記官の引き抜きをやつているようです。これらの中野とか大森とか渋谷、新宿、豊島の裁判所へ行ってごらんになればよくわかる通り、書記官以下の職員の事務量というものは大へんなものです。それをさらに、今度は交通事件が墨田に統一されたからといって、人間を引き抜いてくる、そのあとを補充しないということになると、これはさらに加えて事務を多く負担させられるということになって、大へんな過重労働と申しますか、過重な仕事を負わされると思うのです。そういう現状を見ますと、判事補合議体の構成員だから事務量がふえないということで、書記官はふやさなくてもよろしいのだというのは、ちょっと納得ができないのです。どうしてもこれは、これだけの増員をするなら、その前に書記官をふやさなければならないのじゃないか。現に検察庁ではふやしておるじやありませんか。今、この国会の内閣委員会に付託されております行政機関職員定員法の一部を改正する法律案によりますと、検事の増員が三十四名、検察事務官が十四名、その他を合せて九十四名というのですから、これは検事以外の、検察事務官その他の職員相当数ふやしておる。裁判所だけが、判事補だけふやして書記官の増員を認められないというのは、どういうわけなのでしょうか。検察庁は現に、そういうふうに事務官も認められておるのです。
  36. 内藤最高裁判所説明員(内藤頼博)

    内藤最高裁判所説明員 ごもっともな御質問と思うのでございますけれども、検察庁の方は検事が指揮をいたしまして仕事をする関係がございまして、検事だけがふえたのでは検察庁の充実ということにはならない。つまり、検事が指揮するところの検察事務官というものが手足になければ、検事の仕事ができないのであろうと私存じております。しかしながら、裁判所の方は判事補がふえたから、すぐその指揮する手足が要るという関係にはございませんので、ただいまお話のように、法廷開廷の数がふえればそれに見合う書記官の数が必要なわけでございますけれども、先ほど申しましたように、これだけの増員ではおっしゃるような部がふえる、あるいは開廷の法廷がふえるということの期待までは私どもは持ってないのでございます。私どもとして、おっしゃるように、裁判職員の増員充実ということは日常考えているわけではございますけれども、なかなかそこが思うように参らないのが実情でございます。
  37. 辻(政)委員(辻政信)

    ○辻(政)委員 関連して——ただいまの大貫委員の質問は、私も全く同感であります。この法律案を見ておりまして、これは一体法務省の皆さんが大蔵省に負けた法律で、はなはだ不満足ながらお出しになつたものと思う。この提案理由説明を見ておると、こういう大きな提案理由を掲げながら、出された処置というものは、わずかに二十名の増員でこういう大きな根本問題が解決できるというような印象を受けるのですが、これはとてつもない法案です。私はまだ与党議員ですから社会党に同調するわけではないのですが、正しいものは正しいのですから……。  それで、この裁判渋滞の問題がいかに社会的な影響を及ぼしておるかという一つの例を御参考までに申し上げてみたい。大臣が述べられた提案理由の二ページのまん中に「訴訟の遅延は、司法に対する不信を招来し、ひいては種々の社会的な弊害を惹起するおそれがあるものとして、」こう述べておる。おそれがあるどころではない。現実は非常な不安を起しておる事実がある。これは皆さんも御承知通り。その一つの例を申し上げましょう。私は引揚委員も兼ねておりますが、昨年の国会から、引揚委員会において政府に猛省を促したことがある。戦争中に沈んだ軍艦陸奥のあの残骸が敗戦後十四年間、まだ瀬戸内海に眠つておる。この問題に関連をして、不正業者の刑事事件に対する分は東京の高裁で判決があった。しかし、それに関連をした民事訴訟が山口地方裁判所に提訴されましてから今日まで三年以上たつております。これは簡単な問題です。簡単な民事訴訟が三年以上放置されておるために、軍艦陸奥の国有財産が不正業者の手にあるのか、あるいは国有財産としての確認されたものなのかということがきまらないために、その艦の中に十四年間も、旧海軍の軍人の遺体が二百七十九体まだ眠つておる。しかもこれを引き揚げる権利を取得したのは、有名な悪徳商人です。西日本海運という幽霊会社を作つたその悪徳商人が、悪い弁護士と結託して、裁判所に働きかけたといううわさまで私は聞いておる。この問題については、厚生大臣から法務大臣に連絡をして、山口地裁の審議の促進を求めたはずです。大臣は聞かれたかどうか、それをまず承わりたい。
  38. 愛知国務大臣(愛知揆一)

    愛知国務大臣 今の厚生大臣からの法務大臣への申し入れというものは、私は承知しておりません。  それから、これはよけいなことかもしれませんが、念のために申し上げますが、裁判に係属になっておりますものは私の所管でございませんので、何とも申し上げかねるのです。裁判所の方から……。
  39. 内藤最高裁判所説明員(内藤頼博)

    内藤最高裁判所説明員 ただいまの山口地裁における事件のことは、実は私ども承知しておりません。おそらくこれは民事事件として係属しておるものだと存じますが、私の方で調べてまたお答え申し上げたいと思います。
  40. 辻(政)委員(辻政信)

    ○辻(政)委員 同じ政府の中におつて、厚生省とあなた方の連携がとれておらないということは、国会審議の過程において政府当局の答弁が無責任だということになる。これはたびたび言っておる。裁判所政府は別だといっても、連絡はあるはずだ。こういうばかなことが三年間許されておる。あれは国有財産です。西日本海運というインチキ会社を作つて、不正業者がその権利を取得しておる。そうして、その裁判が三年かかって解決できない。この法案によって、判事補二十名ふやしたからといって、裁判の渋滞がこれによって解決できるというようななまやさしいものじゃない。この法案は撤回してもう一ぺん出直してもらいたい。これだけやつたらわれわれの悩みがみな解消するような大臣の説明を聞いたから怒つておる。できる道理はない。裁判所のやり方が悪い。どう思われますか。
  41. 愛知国務大臣(愛知揆一)

    愛知国務大臣 ただいまのお話を伺いますと、お怒りになるのもごもっともと思います。しかし、どうも私からこういうことを申し上げるのは失礼だと思いますが、三権分立を確立しております現行制度のもとにおきましては、法務大臣といたしましては、具体的な事案について、裁判にかかっておりますものについては、何ら申す権限もございませんし、また言うべきじゃないと思うのであります。ただ事実上の連絡として、ただいまの引揚委員会においての御論議については、おそらく私の就任前のことと思いますが、事実上これについて裁判所側の注意を喚起するというようなことは、連絡としてやることがあるいは適当だと思いますが、もしそういうことが行われていなかったとすれば、お怒りになるのもまことにごもっともと思いますから、適当に善処いたしたいと思います。
  42. 辻(政)委員(辻政信)

    ○辻(政)委員 三権分立の原則をあなたから今お説教される必要はない。現に裁判所の人員を増加するということを言っておられる。私の言うのは、こういう実態にあるから、裁判所の手不足から、あるいはやり方が悪いから、こうなっておる。それを法務大臣は裁判所の人員増加を言っておられるが、もっと増してやらなければこれだけではできぬのじゃないか。その点についてどうですか。
  43. 愛知国務大臣(愛知揆一)

    愛知国務大臣 予算の関係その他におきましては御案内の通りでありまして、裁判所が直接に大蔵省その他と協議するということになっております。ただ法律案提案というようなときに、法律案自体としては、国会に御審議を求めるときには法務省から提案をするということになっていることは御承知通りであります。私といたしましては、その手順に従って御提案をいたし、御審議を願つておるわけであります。  そこで内容の問題に入るわけでございますが、私も二十人の増員をしたからといって、裁判の遅延その他がこれで完全に解消するものとは断じて思っておりません。しかし、先ほどもいろいろ大貫委員からもお話がございましたような実情でございますので、まずこの程度から始めていく。これは御案内のように累年定員増加はやつておるわけでございまして、かくして一歩ずっと申しますか、数歩ずつ前進をしてその実をあげて参りたい、こういうつもりでございますから、その点は御了承願いたいと思います。
  44. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 それでは、書記官については将来増員する御意思があるのですか、どうなのですか。その点をお伺いします。
  45. 内藤最高裁判所説明員(内藤頼博)

    内藤最高裁判所説明員 書記官についても今後どういう増員をすべきかというようなことは、すでに私どもが考えていることでございます。これは裁判官につきましても、書記官につきましても、あるいは家庭裁判所調査官につきましても同様のことが言えるわけでございますが、これにつきましては、私ども基本的な調査を一度いたしまして、そしてその方針を立てたいと思っております。と申しますのは、終戦後訴訟状況が、御承知通り、非常に変動いたしまして、ある種の事件が非常に増加いたしましたり、ある種の事件が非常に減りましたり、その波が激しかったのでありますが、ようやく終戦後十年余りを経まして、今日そういった状況が去りまして、一つの安定した現象を呈するようになりましたので、ここで基本的に調査をいたしまして、そういった定員のあり方について基本的な案を作りたいというふうに考えております。
  46. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 現にそんなことははっきりしているのじゃないですか。たとえば私の方の、これは裁判所から得た資料なのですけれども、たとえば東京だけの大森、渋谷、豊島、新宿、中野、この五つの簡易裁判所に対する取扱いの件数だけを見ましても、昭和二十八年と昨年度を対照してみますと、これは年々増加上昇して、御承知のようにふえていっています。少くとも昭和二十八年度と昨年度では、刑事事件なんかはどの裁判所でも二倍になっておる。取扱いの件数が二倍になっておれば、結局機械的に見れば、二倍の人員が要るということになるわけです。そう機械的にばかり見るわけにもいきますまいけれども、いずれにしろ年々歳歳非常にふえていっている。それに対して、これは先ほどから何回も言っていることなのですけれども欠員補充もしないで判事補だけをばく然と二十名だけふやし、書記官に対しては何の手当もしない、これがどうも納得いかぬ。もしこれだけの増員が必要であるという前提に立つならば、やはりもっと書記官以下、事務職員をふやすという方針を、裁判所あたりで確固たるものを作つていいのじゃないでしょうか、どうでしょうか。
  47. 内藤最高裁判所説明員(内藤頼博)

    内藤最高裁判所説明員 まことにごもっともで、事件増加に伴つてそういった手当が必要であることは申すまでもないことでございます。今度の判事補二十名の増員と申しますのも、先ほど法務大臣も申されましたように、これがほんとうの手当にはなっていないのでありますが、欠員補充の可能性その他と見合つた最小限度の、そういう意味の手当というふうに御承知願いたいと存じます。基本的にはどうしてももっと多くの裁判官、書記官が必要であることは、これはおそらく間違いないことでございましょうし、ただそれの順位をどうつけるかという基本的な問題があることは、先ほど申し上げた通りであります。十分に御意見を尊重いたしまして、私ども対策を講じたいと存じております。
  48. 大貫委員(大貫大八)

    大貫委員 あと二点だけ、現在判事定員と配置状況がどうなっておるか、これは今お答え願わなくてもよろしいし、また答えられないと思いますから、私昨日前もって要求をしておいたのですが、きょう間に合わなかったというお話を伺つたので、次会まででけつこうですから、下級裁判所職員配置定員規程の別表、これをお出し願いたい。もう一つ検察審査会事務局職員配置定員規程の別表、これをお出し願いたい。
  49. 小島委員長(小島徹三)

    小島委員長 他に御質疑はありませんか。——御質疑もないようですから、本案についての質疑は、これにて終了することにいたします。  これより討論に入る順序でありますが、討論の申し出もありませんので、直ちに採決いたします。  裁判所職員定員法の一部を改正する法律案に賛成の諸君の起立を求めます。     〔総員起立〕
  50. 小島委員長(小島徹三)

    小島委員長 起立総員。よって、本案は原案の通り可決いたしました。  ただいま可決せられました法律案委員会報告書の作成等につきましては委員長に御一任願いたいと存じます。御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  51. 小島委員長(小島徹三)

    小島委員長 異議なしと認め、そのように決しました。     —————————————
  52. 小島委員長(小島徹三)

    小島委員長 下級裁判所設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律案その他二案についての質疑は次会に譲ることとして、次に法務行政及び検察行政に関する件について、調査を進めます。  質疑の通告がありますので、順次これを許可いたします  三田村武夫君。
  53. 三田村委員(三田村武夫)

    ○三田村委員 時間の関係がありますので、ごく簡潔にお伺いいたしたいと思います。問題はここ十日間くらい、あるいは新聞でもラジオでもやかましく言われました例の荒川の通り事件でございます。本件に関しましては、一昨日ですか、参議院の法務委員会が現地調査をやつておられますが、問題は法務委員会に関する重要な部分もありますし、また世の不安を除くという検察、警察両当局の責任から申しましても、非常に重要な意味があると思うのであります。こういう点にかんがみまして、当委員会でも看過しがたい問題だと思いますので、ごく簡潔にその要点をお尋ねしてみたいと思います。法務大臣も警察庁も警視庁も、私の申し上げることをお聞き取りの上、御説明を願いたいと思います。  本件は、御承知のように、ここ十日間くらい、中央の各紙は言うまでもなく、全国の新聞紙上に大々的に報道されております。私昨晩ちょっと切り抜きをやつてみたんですが、各紙とも三面のほとんど大半を費してこの事件を報道いたしております。世上深刻な不安を与えておる、これはおおうことのできない事実であります。もちろん肉体的な被害もさることながら、一般善良な市民、国民に与える精神的被害というものは、尺度ではかることのできない深刻かつ重大なものがあるということを、私は考えるのであります。  そこで、まず第一に簡潔に御説明願いたいことは、事件の概要であります。これは新聞の報道を見ましても、必ずしも全部一致しておりません。いわゆる荒川事件と申しましても、それから蒲田に飛火し、また私は岐阜県ですが、岐阜県にも飛火している。同じような事件があるが、全国的な問題は別にいたしまして、まず当面問題の焦点になっておりますいわゆる荒川事件の概要を、一つ被害者の数、それから被害の程度、こういった点について、簡潔でけつこうでございますが、御説明願いたいと思います。根本的な対策についての、どう考えるかの材料にしてみたいと思います。
  54. 小倉説明員(小倉謙)

    ○小倉説明員 先般いわゆる通り事件という事件が発生しまして、都民に不安を来たしておりますことについては、まことに遺憾に存じますが、私どもといたしましては、できるだけすみやかにこれを解決いたしたいと思って、捜査を進めておるのであります。  その概況を申し上げますと、所轄の荒川署におきましては一月二十七日午後七時十五分ごろ、荒木田巡査派出所へ、山田とし子さん、十才、これが先ほどうちの近くで自転車にぶつけられて傷を負わされた、こういう事故の届出がありました。現場に行きまして調べますと、自転車にぶつけられたというような交通事故とは認められない点がありますので、本署に急報いたしまして、刑事課長外二名が、被害者が手当中の片岡病院に急行いたして調査をいたしたのであります。ちようどそのころ、隣接の尾久警察署におきましても、二十七日午後七時十五分ごろ、同じ時刻ですが、尾久町の同愛診療所から、ただいま手当中の高橋典子さんという十九才の者が、自転車に乗つた男から傷を受けた、こういうような通報を署の方に受けたのであります。そこで、両署ともほとんど同時刻ごろにそれぞれ署独自の緊急配備を行いまして、その後さらに両署共同の緊急配備等を行なつたのであります。そうしております間に、田辺喜子さんが同じ犯人と思われる者に傷害を受けまして、結局死亡いたしたという事実が判明いたしまして、直ちにさらに一そう広範囲な緊急配備をいたしまして、捜査に努めたのであります。その後荒川署に特別捜査本部を置きまして捜査を進めておりますが、ただいままでのところ、二十七日の被害は十件でございまして、ほとんどが後方から自転車でさつと来て突いていく、こういうような事案でございます。先ほど死亡された一名を申し上げましたが、そのほか重傷を負われた人がありますし、またその他の者は大体十日かあるいは二週間、中には一週間、あるいは衣類のみという被害もあるのであります。そして二十七日以前の被害は、現在まで判明いたしておりますのは十一件ございまして、その中には衣類のみの損傷というのが六件ほどございます。そのほかはやはり一週間あるいは四、五日というような被害でございます。  今回の事件のむずかしい点、先ほど申し上げましたように、ほとんどが後方から自転車でさつと来て突いていくということで、暗がりの中でありますので、人相その他の特徴というものは十分つかめておらないという点が一つ。それから犯人の遺留品などの証拠品のようなものが見当らない。それから被害者との直接な関係というようなことが、今回の事件につきましては、大体において考えられないような状況でございまして、こういうようなむずかしい点がございますので、捜査本部といたしましては、極力あらゆる資料を収集する。そして一般の協力もいただきまして、少しでもこの事件に関連のあるような事柄、あるいは参考になるような事柄は通報してもらう。これらの通報が数十件、また投書なども今日までに八十数通いただいておりますが、そういうような一般からの協力、並びに捜査陣が聞き込み得ましたすべての事柄を克明にじみちに検討して、捜査を進めておるというようなことでございまして、むずかしい事件ではありまするが、大体捜査としましては順調な進み方をいたしておると思うのであります。  そこで、今までに考えられました犯人の人相、服装等でありまするが、大体年令十五、六才から二十才ぐらいの間の中肉の男である。黒つぽいジャンパー、黒つぽいズボン、つばの短い作業帽をかぶつておる。厚い地の前かけをかけることもあるのでありまして、その点だけをいいますと、店員かあるいは小僧風の男ではないか。これははっきり断定はできませんが、そういうような点。それから自転車は、これも大した特徴はありませんが、荷台のついた中古の自転車である。こういうようなことを中心にしまして、さらに聞き込み等に努めておるのであります。現在のところ数十名の一応の疑いのある者が割り出されておりまするが、その数十名について、さらにその白黒を今後慎重に検討を進めていく、こういうような段階になっております。  それから、先ほどちょっとお話がありました蒲田の方の事件でありまするが、これは私の方の見るところでは荒川のいわゆる通り事件とは全然別個の事件であるように思うのであります。現在までに判明しておりますのは十四件、大部分がスカートを切られた、あるいはコートを切られた、こういうようなものでありまして、十四件でありますが、そのうち二件は男のものが切られておる。一件は相当日にちの前の事柄でありまして、それを除きますと大体十一件、その半数くらいが車内で切られておる。あとは駅の階段のところとかあるいはホームその他の構内で切られておる、こういうようなことであります。この蒲田の事件につきましても、その被害を受けた者についていろいろ人相等の検討を進めておりまして、捜査を進めておるのであります。  まず大体の概要を申し上げまして、あと御質問によってお答えをいたします。
  55. 三田村委員(三田村武夫)

    ○三田村委員 まだ捜査中の事件でありますから、捜査上支障を来たすようなことをお尋ねいたそうとは思いませんが、ただ率直に申しまして、何か割り切れないものを感ぜざるを得ないのです。御承知通り、新聞の記事を見てみましても、警察に不信の声がだんだん高まりつつあるように思います。もちろん捜査の行き過ぎは人権じゆうりんにもなり、厳に警戒をしなければならぬと思いますが、私も実は警察の第一線の仕事をしたこともあります。警視総監とか捜査課長とかをしたことはありませんけれども、第一線の仕事の経験はあるのです。それから、世上一般の常識から考えても、今総監が御説明になりましたようなことは、私はもっと端的にわかるような気がするのです。従来の犯罪捜査の実態から申しますと、証拠品とかいうようなものももちろんあることでありますが、同じ日に十件も被害がある、それから裏道のちょっといわゆる土地カンでなければわからないようなところをするする抜けている点を見ますと、大体対象範囲がしぼられてくるのであります。しかも、年令は十五、六才から二十前後、新聞を見ましても大体みなの人の見解がそういうふうになっておるようでございます。そうしますと、私はそう五日も一週間もわからない事件でないような気がする。端的に申しますと、どこかに欠陥がありはしないかというような気がしてしようがない。これは苦言を呈することになるかもわかりませんが、警察自身が何か緊張を欠いている、そういう気がしてしようがないのです。これは一般に与える被害とか脅威とかいうものは非常に大きいのです。新聞で伝えられる通り、夜になるとふろ屋もからになり、商店街もからだ。大きく新聞に写真入りで報道しておりましたが、そういうことも、われわれ平和な安全な生活を享受する上においてきわめて甚大であります。そのために警察があるのです。警察信頼するに足らずというような声が出ることは、非常に悲しむべきことだと私は思う。一体どこに欠陥があるのか。なぜこういう問題が続発し、かつ数日間も警察の手の届かないところでほしいままに行動をたくましゆうするかということを深刻にわれわれは考えざるを得ないのであります。何かそういう点について警察当局、警視庁当局にお考えになっている点がありましたら、この際お伺いしたいのでございます。  きょうは時間がございませんから簡潔にお尋ねするのでありますが、私は昭和三十年以来、毎国会、当委員会で青少年問題を審議の対象にしてきているのですが、毎年々々事件はふえるばかりであります。こういう手当をしたら、こういう処置をしたら——今の辻委員の発言ではありませんが、これは青少年犯罪の対策上必要であるという説明をつけてお出しになる。けれども毎年々々犯罪はふえるばかりです。これはわれわれ当委員会としても責任を感ぜざるを得ないのであります。何かこういう点について、警視総監並びに警察庁の中川刑事局長におかれてお気づきの点があったら、率直にこの機会にお伺いしたいと思います。
  56. 小倉説明員(小倉謙)

    ○小倉説明員 なぜこのような犯罪が起るかというようなことにつきましては、従来からいろいろいわれておつた少年問題その他いろいろあると思いますが、その点はあとで少し触れてみたいと思います。この事件の捜査に関します限りは、私は警察として何らか欠けるところがある、あるいは士気がゆるんでおるというようなことは、絶対にないものと考えておるのであります。先ほど申し上げましたように、いろいろむずかしい点はございますけれども、大体一応の容疑があると思われる者は数十人割り出しをいたしておるのであります。あの付近は非常に人口も多いし、黒つぽいジャンパーなり黒つぽいズボンといいましても、大部分の者がそういうような服装をしておるのであります。従いまして、相当多数の者について一人々々さらに検討を加えていくというためには、相当の時間を要するのであります。また相手が少年であるというふうに考えられますだけに、将来のこともよほど考えまして、捜査を慎重に進めていかなければならないというようなことも考えておりますので、ある程度時間がかかるということはやむを得ないことである。ただ気持といたしましては、すみやかに犯人が確定いたすことを希望しながら、じみちな捜査を抜け目のないように進めていく、こういうことで督励をいたしておるのであります。また一般の方方におかれましても、警察に対しまして非常に協力を寄せておられまして、多数の情報、投書等をいただいて御協力を願つておるのであります。  それから、ただいまお触れになりましたなぜそういうような事件が起るんだというようなことにつきましては少年犯罪が今日でも依然として少くならない。しかもその内容が暴行、傷害のような狂暴な内容のもの、また性的な内容のものがむしろふえておるということについて、これは警察としてもさらに対策を考えなければなりませんが、また一般のそれぞれ関係の向きの対策もさらに一段と進めていただかなければならないということで、青少年問題協議会その他の機会に常に私ども主張いたしておるのであります。たとえば、今回の事件に関連して、その一部のことになりますが、申し上げますと、今度の事件は、ああいうような薄暗い通りの上で行われたので、街路灯というようなことも私どもいろいろお願いをいたしておるのでありますが、防犯の上からも交通の上からも、もっと町を明るくするというようなことも必要じゃないか。ところが、街路灯も普通の家庭の電灯と同じ料金をとられ、同じ税金をとられておるのだそうでございます。こういうような点も、もしできることなら、街路灯あるいは門灯というようなものについては、もっと低廉な料金でつけ得るということにして、そういうような事案の起りそうな場所をもっと明るくするというようなことも一つ方法ではないか。それから、今回の事件に使われました凶器は、まだこれは犯人があがつてみなければわかりませんが、一応の推測では、飛び出しナイフではないかと私は思うのであります。飛び出しナイフにつきましては、先般いろいろ法令の改正もありまして、たしか刃渡り五・五センチ以上のものは禁止になつたように思いますが、しかしながら、五・五センチ以下のものにつきましては、やはり自由なんであります。これなども考えてみますと、なぜそれを認めておく必要があるのかどうか、私は疑問に思うのであります。そのような飛び出しナイフというようなものは、やはり全面的に禁止をしていただいた方がいいのじゃないかというようなことも考えられるのであります。そのほか、今回の事件にかんがみまして、私どもとしてさらにお願いしたいことは極力お願いをしていきたい、こういうように考えております。
  57. 中川(董)政府委員(中川董治)

    ○中川(董)政府委員 ただいま御質問の、警察の全国的角度から見た青少年問題対策でございますが、ただいま御指摘のように、大へん重要な、また警察としても特に力を注ぐべき問題でございますので、かねがね当委員会におきましての御審議状況に基きまして、警察におきましても十分検討を加えておるのであります。  その対策のあらましを申し上げますと、まずさしずめやつて参らなければならぬ事柄は、犯罪少年を含めて問題少年の早期発見ということをまず警察の分野で考えなければならぬというふうに思っておるのであります。それでわれわれ警察官といたしましては、各地に警察の組織がありますので、問題少年を早期に発見することを第一義といたします。そうして、発見いたした少年につきましては、成人の場合と異なりまして、警察の取扱いに粗漏がございますと、当該少年に及ぼす影響が重要でございますので、その取扱い方につきましては特別の工夫をいたして、問題少年が正しい方向にいくということを助長するような取扱いをやっていくということに心をいたすような立場をとつておるのであります。そういうことで、現在警察といたしましては、特別に力を注いでおるのでありますが、現在までもそういう方法を講ずることにつきまして、あるいは心理学あるいは社会学あるいは精神医学というような科学を利用して検討したつもりでございますけれども、さらに開拓する必要がございますので、ただいま当院で御審議になっておる明年度の予算案におきましても、政府が提出した法律案におきましても、そうしたもっとサイエンスを利用した方式を検討しようという方向を打ち立てまして、当院の御審議を願うように、予算案並びに法律案をお願いしておるような次第でございます。  以上が、警察がとりあえず講じようとする青少年問題対策でございますが、青少年問題は、御指摘がございましたように警察だけの分野では問題解明に相なりませんので、大きな社会問題と申しますか、教育の問題でもあり、社会教育の問題でもあり、国民生活全体の問題でもありますので、内閣におきましては青少年問題協議会を内閣に設置しておりまして、警察でわかる資料もそこに提供し、刑事事件あるいは補導によってわかる資料もそこに提供いたしまして、あるいは子供遊園地の問題、そういうレクリエーションの問題、学校教育の問題、更生保護の問題、各省各庁それぞれの分野に応じて、そこで対策の検討を進めていただく、こういうような方向で対策を立てていく。また現にその方向にいきつつあるという状況でありますので、御協力をお願いしたいと思います。
  58. 三田村委員(三田村武夫)

    ○三田村委員 他に質問者もあることでございますから、あと一、二点で私は質疑を終りますが、私はあれを持ってはいかぬ、これを持ってはいかぬ、およそ人を傷害する、殺傷するようなものは一切所持してはいかぬというように法律を厳にして問題を解決しようというのではないのであります。そうでなくて、もっとより根本的なことをわれわれは考えなければならぬ。端的にいえば、これはおとなの社会からきれいにすることが必要であるかもわかりません。われわれ自身も厳粛な反省を必要といたします。けれども、それだけではなくて、警察は警察、検察は検察としての任務がある。法務省は今度三十四年度予算の中で、新しく犯罪の司法検察行政研究のための機関をお作りになるようでございます。これはただ強制的な立場からだけでなくて、本質的なものにどう対処していくかということを掘り下げて、ぜひとも真剣に御検討願いたいと思うのであります。われわれももちろんやらなければなりませんが、そしてその結果、対策上こういう点が必要だ、こういう点はぜひとも真剣に考えてほしいということがあれば、内閣にも、また国会の方にも公然と堂々と御発言を願いたいと思うのであります。  法務大臣もおいでになりますから、一つ御所見を伺つておきたいのでありますが、青少年犯罪というものは、被害者ももちろん十分保護しなければなりませんが、肉体的、精神的に未成熟な者が何らかの衝動によって犯罪者の立場に置かれる、この将来を考えると、私は実際胸痛むものがあるのであります。これはほんとうに真剣に考えなければいかぬと思う。おとなの社会の反映であるならば、どういう点を改めなければならぬかということを、あるいは教育の面、あるいは社会全般の面において私は掘り下げて研究しなければならぬと思います。こういう事件はすぐまねるのです。私は先ほど岐阜の例を言いましたけれども、私は岐阜ですから岐阜の新聞が来ている。三十一日に、岐阜の盛り場ですが、夜やはり同じような事件が起つております。これは二日目で検挙になりましたが、十六才の少年であります。新聞の見出しを見ると、東京の事件をまねたらしい、こういうのです。まねてやる者は簡単ですが、やられる者はたまつたものではない。それによって一般に与える精神的被害というものは、また実に大きなものがあるのであります。これは私は単なる警察の機能とか、あるいは法制的立場ということだけでなくて、やはり警察自身が、真実愛情を持って、国民の中に踏み込んでいくということが基本でなければいけないと思います。法律をどれだけ作つて、およそ凶器になりそうなものを全部禁止しても、それでは問題は解決しないのであります。真実警察が国民の中にあたたかい愛情を持って踏み込んでいくという形になりませんと、問題は解決しないのであります。これはひとり警察だけでなくて、すべての治安全体についての問題でありますが、毎国会私は同じことを繰り返しております。しかし、毎日のように同じような事件が出てくる。どうぞ一つ十分御検討願いたいと思います。まず法務大臣の御意見を伺つておきたいと思います。
  59. 愛知国務大臣(愛知揆一)

    愛知国務大臣 私も全く御同感でございまして、特に昨年来、青少年問題については政府としてもあらゆる工夫をこらしているやさきに次々とこういう事件が起りますことは、まことに遺憾にたえない次第でございます。一々御説はごもっともと存ぜられるのであります。先ほども町を明るくするという問題がありましたが、結局社会を明るくするのにはどうしたらいいかという根本問題であると思います。その積極的な面は、主として青少年問題協議会で各方面の意見を徴して、対策をこらしているわけでございます。治安の当局といたしましては、先ほど来お話が出ておりますが、特に法務省といたしましても、犯罪特に青少年犯罪の予測、予防ということを重点にして考えたいと思いまして、御案内のように、法務総合研究所をわれわれとしては相当の意欲を持って発足をいたしたいと思っておりますが、これには、一口に申しますと、科学的な面と愛情という問題と、二つの面があると思うのでございまして、ただ単に犯罪科学という面だけではなくて、さらに進んで、先ほど申しましたような犯罪の予防はどうしたらいいか、さらにまた、一たん犯罪が起りました場合の捜査から行刑、あるいは事後の保護というような点に一貫した考え方を一つ確立したい。しかも、これは学理的な研究ではいけないのでありまして、実際面にこれが直ちに表われてこなければならない。われわれの省においての研究所も、そういう配意から、独立した研究機関というのでなくて、機構的にも、たとえば事務次官を所長にするということで、行政面と不離一体の科学的あるいは愛情というか心理学的な研究というものが、実際の上に直ちに反映してくるようなやり方でやりたいと考えておるわけであります。先ほど申しましたように、これには、私個人といたしましても、非常な意欲と熱情を傾けてやつて参りたいと思っておるわけであります。よくこういう問題のときに、口先だけの論議で終る傾向がございますが、一つ全省あげて熱心にやつて参りたいと思います。 それから、これは申すまでもございませんが、環境の改善という具体的な直接的な問題としては、ようやく今回風俗営業取締法の一部改正ができまして、懸案の深夜喫茶の取締りも非常に厳格に行われることになりました。さらにまたいわゆる虞犯少年に対する——これは法律だけではどうもならぬというお説がございますが、これもごもっともと思いますけれども、虞犯少年等の保護というような点についても、これはどうしても立法的な措置が必要ではないかと思います。これらにつきましては、追つて一つ審議をお願いすることにいたしたいと思います。
  60. 三田村委員(三田村武夫)

    ○三田村委員 昨晩も、ちょっと手元にあった週刊誌を開いてみますと、これは大阪の例ですが、「少女の敵、白昼の通り魔上、こういう見出しで、初めは昨年の八月、十才の女の子が暴行を受けた。それから続いて昨年の暮れまでに六件あった。十才、九才、それから十一才、十二才、十四才、大体そのくらいの年令ばかりです。これが最後の犯行はことしの一月の一日でありまして、三日の朝つかまつております。みないたいけな少女がけがをしている。十日間の傷害、あるいは一週間の傷害。これがもし最初の犯行のときにつかまつておれば、あとの五人は犠牲にならなくても済んだ。これは真剣にお考え願いたいと思う。ただ鏡子ちやん事件が世間に大きな話題を提供したというだけでなくて、なぜ私がこれを申し上げるか、私は非常に深刻な経験があるのです。昭和八年か九年と思いますが、南洋に旅行したことがあります。たまたまその船の中に、妙齢の女性が一人乗り合せておつた。どうも行動がおかしい。一等船室に乗つておつたのですが、何か飛び込み自殺でもしそうな傾向が見えて不審でたまらなかったので、私たち同船しておる者が十分注意していた。南洋までようやく無事に行きまして、南洋の警察に保護を依頼したのです。よくよく事情を聞いてみると、自殺に来たと言う。自殺を目的に家出して、樺太から北海道、とうとう南洋の果てまで行つた。理由を聞いてみると、小学校一年生のときといいますから、七才か八才でしよう、うちに出入りするぼんさんにいたずらされた。そのときは小さな子供だからどういうことかわからなかった、成長してようやく思春期に達したときに、あのときのことがどういうことかということが自分で気がついて、どうにも精神的苦痛にたえられなくて、自分は死を選んだと言います。今けがをした八つや十の少女は知らぬかもしれません。けれども、やがて成人したときに、心の中にどういう大きな傷を残していくかということを、われわれは真剣に考えたいと思う。政治の任務というものは国民に不安を与えないこと、特に生命身体の自由に対する不安を除くということなんです。常にわれわれは文化国家を唱え、民主主義を主張し、しかもわれわれのこの明るかるべき社会の中に、西も東もわからない、精神的肉体的に全く未成熟な、こういういたいけな子供が犠牲になることは考えなければいかぬと思う。ぜひ一つ真剣にお考え願いたいと思います。  いずれ私は対策については別の機会にゆつくり自分の資料も申し上げて御所見を伺いたいと思いますが、この機会に、警察当局に資料の提出をお願いしたい。こういった例は全国にたくさんあると思いますが、私が当委員会委員長をしているときに、大阪、名古屋の方を回って参りまして、第一線の警察責任者にほんとうにかんではき出すように言いましたが、何とも処置がないのだと言っております。何とも処置がないのだでは済まされない問題であります。どうぞ一つそういう関係の資料、何を二田村が求めているか、おわかりだと思いますが、ぜひとも至急に全国的なものを御調製の上、できるだけ早く当委員会に御提出願いたいのであります。  自余の質疑は他日に譲りまして、私の本日の質疑はこの程度にとどめます。
  61. 小島委員長(小島徹三)

    小島委員長 猪俣浩三君。
  62. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 私は、今三田村委員が質問されました犯罪少年の処遇に関する件、八項目につきまして質問書を提出しておりましたが、実はきょうは徳島市からはるばる多数の関係者が出て参りまして、徳島市の夫殺しに関しまする人権じゆうりん並びに誤判事件、これについてのお尋ねをやりたいと思いますので、犯罪少年に関する点につきましては簡単に質問いたします。  なお、この問題は、実は大きな問題でありまして、場合によりましてはこれは岸総理大臣の出席を要求いたしまして、そして根本的な対策をお尋ねしなければならぬ容易ならざる問題だと存じます。幸い自民党にも三田村氏のような非常に熱心な方がありますので、われわれ委員会といたしましても相談いたしまして、根本的対策をとくと御協議願いたい。それは犯罪少年の検挙、処罰、こういう方面からも、あるいは犯罪少年の境遇を改善する方面からも、結局官庁といたしますならば、家庭裁判所、法務省、厚生省、この三者が一体とならなければならぬわけでありますが、現在ははなはだばらばらでありまして、ほとんど統一がない状態じゃないかと存ずるのであります。そういうことに対しまする有機的な、統一的な機関をどういうふうにして作るかというようなことは、結局これは大きな国策の一つかと存じますので、次会になお私は根本的な質問をしたいと思いますが、なおここに法務大臣及び家庭裁判所の方がおいでになりますから私は申し上げたいのですが、ここに「グーリュック、犯罪予測法入門」という本があります。この著者はいずれも法務省の管轄の役人の人たちであります。そうして、こういうりつぱな意見を持っている人がすでにあるにかかわらず、これが実現できないということになると、政治の貧困だということになります。法務大臣は御多忙で、なかなか本を読む機会もないと存じまするが、一体家庭裁判所、あるいは保護、矯正局の方々、私はこの一節を読んでみまするから、よく聞いて、それに対する所見を承わりたいと存じます。  われわれの残念に思うのは、家庭裁判所も保護観察所も、R少年の非行性を矯正する何等の手をも打ちえないままに、今回の悲劇に至らしめてしまつたということであります。  このR少年と申しますのは天下の耳目を聳動いたしましたる小松川高等学校の女生徒惨殺事件に関する者であります。  家庭裁判所は、三〇年中に三回もR少年を審判する機会に恵まれながら、少年のうちに潜む根強い犯罪性向に気付かず、はじめの二回においては不処分すなわち放任の態度をとり、後の一回においては審判不開始すなわち審判を開いて見ようともしませんでした。これは、第三回目の事件が、最初の二回分の併合処理が行われた三〇年一二月二六日よりも恐らくは前に発生していたのであり、したがって、R少年が家裁の処分のあった日の四日後に再び検挙された事実を考えると、まことに不可解といわざるを得ません。このようにして、R少年の非行性はいよいよ常習化し、約二年後の三三年一月には、またもや図書館荒しの件で逮捕されました。この時には、さすがに家裁もR少年を保護観察処分にはしましたが、皮肉にも今回の殺人事件はまさにこの保護観察中に発生したのでありました。しかも驚くべきことに、保護観察官の眼には、R少年が犯罪性の少ない善良な少年に映つていたらしいのであります。R少年は保護観察の遵守事項をよく守り、定められた日には必ず保護観察所に出頭して近況を報告していたといわれ、頭もよく態度もおだやかであるところから、保護観察の成績は「良」と判定されていた。といわれています。かようにして、この世紀的な犯罪が行われております。  警察は、さきの御答弁でも、警職法の改正なんというようなことを云々言われましたが、そんなことでできますか。警職法の改正をして、そうして少年をひつ捕えても、家庭裁判所でも保護観察所でもこういう態度をとつておつて、それでそれが抑圧できるはずがない、抑制できるはずはないのであります。ですから、われわれは警職法の改正なんかよりも、こういう科学的なる根本対策を立つべきであるということで警職法に反対したのです。今、法務大臣の御説明によりますと、おくればせながら権威ある研究所ができるそうでありまして、これはぜひ実現していただきたいと存ずるのでありますが、一体こういう保護観察制度、これは、アメリカにおきましては、グリュック博士という夫妻が詳細なる犯罪予測法というものを研究され、これが日本にも導入されて、日本に当てはまるところのこういう科学づけが行われなければならぬはずであります。これは一、二の人が研究しているらしいのでありますが、まだ政府当局は全然こういう根拠に立っておらぬ。そこに、小松川のああいう惨劇が起るという原因がある。私はこの本を読みまして、この家庭裁判所の行動及び保護観察所の行動に対して、おざなりな役人的な、ただその場その場の事務を処理するような態度でやつておられることが、はなはだ痛切に感ぜられるのであります。こんなことでやつておつたのでは、犯罪少年に対する処置なんというものは、百年河清を待つよりもむずかしいことである。私が今読み上げましたこの本の著者は、一人は検事さんであるし、一人は刑務所の所長さんである。責任ある人の著書であります。しこうして、こういうふうに痛切に批判をせられておる。これに対して法務大臣の御所見並びに家庭裁判所、保護、矯正局の御所見を承わりたいと存じます。  一体保護観察なんというのはいかなる科学的測定をやつておられるのであるか、はなはだ疑問だと思うのです。アメリカにおきましては、八〇%の犯罪予測が的中しておると聞いているのでありますが、そういうことに対して一体どういう研究を積んでおるのであるか。一体どういう施策を考えておられるのであるか。犯罪ことに少年犯罪のごときは、法律で取り締ることばかりに頭を使つておつてはだめです。科学的にこの犯罪と戦わなければならぬのであります。そういうことに対しまする日本の法務当局、家庭裁判所の考え方が私はふに落ちない。これに対する御所見を承わりたい。
  63. 愛知国務大臣(愛知揆一)

    愛知国務大臣 私は猪俣委員からさようなお話を承わりまして、まことに喜びにたえないのであります。と申しますのは、ただいま御指摘になりました安倍君と樋口君が書きましたグリュックの犯罪予測の問題につきましては私個人としては、実はグリュック気違いといわれておるくらい私自身もこれに傾倒いたしておるわけでございます。昨年の六月に私が就任いたしましたときに、少年犯罪の問題が、いわゆる親殺しの少女の事件を初め、非常に世間の耳目を聳動しておる最中でございました。私は全然法務行政にしろうとでございましたが、かくのごとき事態に対して、従来の法務当局その他がどういう感覚を持っておつたかということについて、さつそく私なりの研究を始めました。たまたま中央青少年問題協議会におきまして、このグリュックさんの大きな著書がございますが、これは邦語に翻訳されております。しかし一般的の関心をまだ十分に得ておりませんでしたために、また非常に専門的なものでありましたために、あまり知る人がございません。幸いにしてこの著者でありまする安倍治夫検事がかつてグリュック氏の門下におりまして、教えを受けたことがございます。この安倍君の講義を私もよく聞きまして、私は結局これはこうしたような日本の実情においてこのグリュック説をまるのみにして、このメソッドをそのままやることがいいかどうかということは問題であると思いますが、かくのごとき科学的なやり方をやるのでなければ、青少年犯罪は根絶できないということに思い至りまして、こういうことを責任当局において積極的に取り上げるべきであるということから、ただいま別に御審議願つておりまする法務総合研究所というものの開設に思い至りまして、私の考えたほどのものにはなりませんでしたけれども、大体において大蔵当局その他の完全な理解のある同調を得まして、本年この予算が通りましたならば、早々にこの研究所をスタートすることにいたしております。これもとりあえずは十人の専門家で発足することになっておりますが、もちろんこうしたような著書を書き、意見を率直に申し述べておりまする者を中心として発足することにいたしております。  今御指摘のR少年の事件は、たまたま私どもがようやく熱心にこれを取り上げておつた、そのさ中に起つたことでありまして、私ももう実に残念に思いました。もう一年早く、あるいは二年早くこういったようなことがやられておつたならば、少くとも一たん警察の門をくぐり、あるいは観察所の門をくぐつたような者が再犯を起すということだけは防ぎ得るのではなかろうか。グリュックさんのように満五つなり四つなりのときから反社会性というものを科学的に診断をして、この世の中から犯罪をなくしてしまうという理想にはなかなかいき得ないにしても、少くとも一たん疑いを受けて収容せられた者についてだけでも、これが世の中へ出て犯罪をやらないようにしたい。このことについては、私といたしましては、ほんとうに情熱を傾けてやつて参りたいと思っております。警職法等の御意見につきましては、承わりおくことにしたいと思いますけれども、本件に関する限りは、私は全政府をあげてぜひとも実現をし、また効果を上げたいと思っておるのであります。これもよけいなことでございますが、グリュックさんとはすでに私自身としても文通をしておりまして、さらによき示唆を受けたいと思っております。  それからなお、盛岡の少年院に勤務しておりました館沢君という専門家がおりまして、この人はすでにわずかの事案でございますけれども、グリュック方式等によって日本の犯罪少年の研究をやつておりますが、これも非常に傾聴すべき意見を実証的に出しておりまして、その研究の結果はすでに国際刑事学会にも提出をいたしておりまして、世界的な研究の中にも参加をする糸口をすでにつけておるようなわけでございます。  これを要するに、冒頭に申し上げましたように、私は本日猪俣委員からグリュック問題のお説を伺いまして、全く私も愉快に存ずるわけでございます。大いに努力を新たにいたしたいと存じます。
  64. 市川最高裁判所説明員(市川四郎)

    ○市川最高裁判所説明員 猪俣委員から、家庭裁判所の立場でどういうふうに考えるかというお話がありましたので、ちょっと申し上げたいと存じます。  小松川高校事件につきまして猪俣委員から御指摘のありました事実につきましては、その通りでございますので、これについては何とも申し上げようがないのでございます。ただあの事件を契機として、今法務大臣からもお話がありましたように、できれば犯罪予測という面からできるだけの方法を講ずべきである、こういう考え方が非常に強くなって参つたことは間違いないのであります。家庭裁判所における少年事件は、大体調査官が主として事件調査に当つておりますが、その調査官が調査をいたしますについて、調査票というものを作つて、それによって調査をいたしておるのであります。実はグリュックさんの犯罪予測の方法につきましては、もうすでに数年前に、家庭局におきまして、そういう方法があるということを私ども知りまして、研究をいたし、その要点はこの調査票の中に織り込んで調査の際にこれを参考にする、こういう方法で進んで参つたのでありますけれども、まだまだ今までの調査票では十分な程度には参っておりませんでした。そういう点に気がつきましたので、最近調査票の全面的な改正を計画いたしまして、この四月ごろから新しい調査票の形式に従って調査を進めていきたい、こう考えておる次第でございます。  なお、先ほど法務大臣からお話のありました館沢調査官は、現在家庭局に参っておりまして、家庭局で引き続きグリュック方式による犯罪予測の面についても研究を進めていきたい、そして同時に調査官の調査の面におきましても、お話のありましたような面に十分活用できるような一つ方法を考えていきたい、こういう点で目下研究いたしておりますので、その点だけ申し添えましてお答えといたします。
  65. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 なお私は法務省の少年鑑別所関係の方に御答弁をいただきたい。  そこで、一緒に御答弁いただきたいのは、家庭裁判所の中に少年鑑別部というようなものがある。それと法務省の少年鑑別所というものとは一体どういう任務の違いがあるのかということ。及び今の館沢さんが、グリュックの犯罪予測の本を日本の風土に適するように研究せられたその論文も私は読んでみたのですが、一体こういう人たちに対して、政府がどれだけの援助をして研究させたか。ほんとうにいなかの家庭裁判所において、こつこつとこういう勉強をしている人に対して、法務省あるいは家庭裁判所が、この研究に一体どれだけ支援されたのであるか。あるいは指導、激励されたのであるか。私たちさえもう耳に入っているこの研究であります。いわんや所管の法務省なり家庭裁判所とつくにわかつているはずである。この票をもう数年早く確立せしめましたならば、小松川事件は起らなかったはずです。そういうことに対する科学的研究といいますか、これはもちろん大蔵省の理解も実に乏しいと思いますが、大体裁判所及び法務省あたりにおいて、ほんとうにこの少年犯罪をどうするかということに対する真摯なる熱意を欠いているのじゃないか。お役人仕事としてやつている。たまたま館沢さんのような奇特な人があつて、こつこつと自分の犠牲において研究しているというような状況では、私は相ならぬと思う。いかに三田村委員が心配しても、これではだめですよ。そして機構も実に乱雑過ぎる。有機的統一を欠いております。みんな勝手ななわ張りを設置して、そしてあつちだこっちだと判こを押すだけの任務である。こんなことで少年犯罪に対抗することができるものじやありません。宗教的信念と人類愛に燃えるところの殉教的な熱意がなければかなわないことであるが、しかし、一般の公務員にそれを要求する方が無理かも存じませんけれども、いやしくも法務省なりあるいは家庭裁判所なりの指導的立場にある人は、それだけの熱意を持って部下を激励してやつていただかぬと、日本の一番病患になりつつある少年対策は、とても樹立できないと思います。今法務大臣から、グリュックに対する研究が大いに進んでおられるような答弁で、先ほど私は、本を読まぬかもしれないと申し上げましたことは、ここでつつしんで訂正いたし、あらためて敬意を表します。そこで法務省の直接の係である少年鑑別所の係の方及び家庭裁判所の方に、今までの資料について、いま一度この観点から御答弁をいただき、あとは徳島事件に移りたいと存じます。これは根本的な問題でありますから、当法務委員会におきまして、この対策に対する徹底的な研究を進めたいと存じますので、その際になお詳しい質問を展開したいと存じます。私の方にも相当の資料が入っているわけでありますが、今の私の質問に対して御意見を承わりたいと思います。
  66. 市川最高裁判所説明員(市川四郎)

    ○市川最高裁判所説明員 ただいまの猪俣委員の御発言には、私どもも全面的に賛成いたします。どういう協力を研究者に対してしているか、こういうお尋ねでございましたけれども、その点につきましては、館沢君の業績というものは裁判所部内においてももちろん高く評価いたしまして、昨年の九月から特に六カ月間の研修期間を置きまして、館沢さんのグルュック方式の犯罪予測の研究を進めてもらつております。目下館沢さんは家庭局には籍を置いてありますけれども、そちらの方の研究に没頭しておられるわけであります。いずれその研究がまとまれば、また新しい角度から新しい研究が発表できるのではないか、こう感じております。  それから、立ちましたついでに、もう一つ猪俣委員がおつしやいました家庭裁判所の少年鑑別部——これはおそらく医務室のことではないかと思いますが、家庭裁判所に医務室があり、法務省の所管で少年鑑別所がある。こういうふうに二つのものが同じことをやつているのじゃないかというようなお話がございましたので、その点についてちょっと触れて申し上げたいと思います。家庭裁判所の医務室は昭和二十七年からできたのでありますが、これはもちろん少年事件についても応用いたしておりますけれども、できましたそもそもの発端は、家庭裁判所で取り扱つておりまする家庭事件、夫婦の問題とか親子の問題とかそういう家庭事件の面におきまして、最近科学的な処理、そういう面が非常に強く叫ばれましたし、同時にまた当事者の中に精神的な面あるいは肉体的な面、そういう面の問題からトラブルが発生しておる。そういうものもかなりありますので、そういう点の一つ対策として、各家庭裁判所に設けることになつたわけでございまして、現在全国の四十九カ所の家庭裁判所本庁には、全部置かれているわけであります。少年事件の取扱いだけに限定して申し上げますと、もちろんこれは法務省所管に属する少年鑑別所の鑑別に従って、家庭裁判所の保護事件は行われておるわけでございます。従いまして、そういう面では、家庭裁判所の医務室はむしろ補助的な立場において現在少年事件に参画しておる、こういう状態でございます。ただ、ここでちょっと申し上げたいことは、少年事件の中にもいわゆる身柄付で来る事件と、それから在宅のままで少年保護を受ける者と、この二種類があるわけでございますが、現在のところ大体全事件の一〇%内外が身柄事件で、その残りは大体在宅のままでやつております。ところが現在の少年鑑別所の余裕と申しますか処理能力と申しますか、そういう面からいうと、身柄付の事件について鑑別する、こういう程度で私はせい一ぱいではないかと考えておるのであります。そういたしますと、そのほかの在宅事件については、少年鑑別所まで出向かせてそこであらためて鑑別を受ける、こういうことがなかなかむずかしゆうございますので、そういう点から家庭裁判所にある医務室を利用して在宅者の鑑別に当らせる、こういう点の主たる役割を現在果しておるような状態でございます。一応御説明申し上げます。
  67. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 私は、この問題はいずれまた当委員会でもう少し掘り下げた研究をしていただいて、場合によっては岸総理に出席をしていただいて質問を続けたいと思いますが、今日は法務大臣もお急ぎのようでありますし、時間の関係もありますので、徳島事件に対しまして御質問したいと思います。  徳島事件と申しますのは、徳島市におきます三枝という電機商会を経営いたしております三枝亀三郎、この者が何者かに刺殺せられた。それが最初警察では外部から犯人が侵入して殺したのだという想定のもとに捜査をやつておりましたが、検察庁は見解を異にいたしまして、その犯行のあった九カ月後に至りまして、妻の富士茂子という者がこれを殺したのだというふうに起訴されました。これが一審、二審有罪になりまして、被告は終始否認し続けて参りましたが、高等裁判所で前審の維持の判決があり、あったら彼女はがぜん身心がともに疲れ果てまして、上告中のものを取り下げて、目下懲役十三年に処せられて服役中であります。しかるに、この事件にはほとんど物的証拠がありません。ただ、最もきめ手となりましたものは、当時その店に勤めておりました店員でありますところの西野清、阿部守良という両名の証言、これが決定的な断罪の証拠とされたのでございます。しかるに、今日になりまして、この西野清、阿部守良が、自分が裁判所なり検察庁で言うたことは全くのでたらめであつて、検事に強要されたためであるということを強調いたしまして、関係者が詳細なる調査要求書を法務省の人権擁護局長あてに提出したのであります。そこで法務局では相当熱心に御調査いただいたのでありまするが、私はその調査の概要をまず承わりたいと思うのです。この富士茂子が服役いたしました動機は実に哀れでありまして、もうどんなに裁判所で自分がやつたのじゃないと告白してもだめだ、一日も早く服役して自分が出てから真犯人をつかまえる、のみならず訴訟費用もかさんでしまつて、あとに残された子供の養育にも事欠くことが起るので、自分はもう争わぬで服役するということで、彼女は上告を取り下げたのであります。そういう経過でありますが、そこで私は人権擁護局長にお尋ねしたいことは、まず私が重点を置いてお答え願いたい点について申し上げ、その点以外のことで人権擁護局長としての調査の材料があったら御報告いただきたいと思います。  第一は、西野清という証人、これは先ほど申しましたように判決が決定的なきめ手として採用した証言であります。判決にこう書いてある。「上来説明のとほり本件犯行の決定的証拠は西野、阿部両証人の証言なることは論ずるまでもない。従って又両証人の証言の信憑性の如何こそ本件の結論を左右するものというも過言ではない。」というふうに判決の理由の中に表示しておりまするがごとく、この両人の証言というものによって、妻の富士茂子が殺人犯人とされたのであります。そこで、西野清という男は三枝商店の店員でありましたが、当時十七才、阿部守良という人物も同じ店員でありましたが、当時十六才であります。この十七才と十六才の二人の少年を、西野清は四十八日間留置いたしております。阿部守良は二十八日間留置いたしております。そうして、富士茂子が夫の亀三郎と格闘したことを見ておつたという証言をなしておる。そこで私は人権擁護局長に聞きたいのは、一体西野なり阿部が検事にどんな調べを受けておつたと人権擁護局に述べておるのであるか、つまり彼は今日、ありもしないことを述べたというが、しからばありもしないことを述べざるを得なかった状況がどういうふうな状況でそういう証言がなされたのであるか。そういう点を詳細に承わりたいと思うのであります。  なお、この事件の証人として、この西野なり阿部なりの証言を裏づけすべきものとして、阿部幸市——これは守良の兄でございます。これが自分の弟の守良から検察庁に証言したようなことを話されたというようなことを自白せしめられておるが、これもことごとく、検事はそれでなければ許してくれないので、守良が検事に言うたようなことを前もって自分は聞いたのであるというようなことを証言したのであるということを言っております。なおまた、石川幸男——これは西野清の友人であり、もと三枝商店の店員をやつた男でありますが、この男も検察庁に調べられました。やはり、西野が検察庁に言うたようなことを前もって自分は聞いておつたというような証言をせしめられておる。その次には、黒島テル子——これは犯罪の動機にも関するものであります。夫殺しの犯罪の動機は、黒島テル子という、もと三枝亀三郎と交友があり、現在もラジオ機械の販売をさせておるこの女と亀三郎とが情交関係があり、この黒島テル子を自分の家に引き入れて本妻として、茂子を追い出すのではないかというその嫉妬と不安から、ついに夫を殺したというふうに判決になっているのでありますが、この黒島テル子が一体どういう尋問を受けて、まるで心にもない供述をしたのであるか。この黒島テル子に対する検事の取調べの状況及び知らざることを答弁したという動機、これらは今日ことごとく、自分の署名捺印をもって全く無実の、知らざることを検事の強要によって供述したものであることを証明いたしておるのであります。おそらく法務局の調査に対しましても、その通り調査が出ておるはずだと存じます。  それで、概括して申しますと、この有罪判決のきめ手になりました証人、西野清、阿部守良、阿部幸市、石川幸男、黒島テル子、これらの人がどういう取調べを受けて、そうして、こういう供述をしたかということについての詳細な御報告をいただきたい。  なお、これは法務大臣に質問いたしますけれども検事に言うたことと違つたことを裁判官に言うと、直ちに検事はそれを呼び出して偽証罪でもっておどかして、また再び訂正さして、そうして二度、判事のところで、さっき言つたのは間違いました、今度のはほんとうですと言わしめられております。一体公判廷なり裁判官の前で証言したものが自分の調べと違うということで、その帰り道直ちにこれを引き捕え、そうしておどかしつけて、またもとの通り直させるということが、一体許さるべきことであるかどうか。しかし、こういうことは検察官によって相当行われている現状でありまして、その辺のことは法務局の調べに出ておると存じます。ですから、そういう点がありましたら、そういうことに対する詳細な御報告も願いたいと思うのであります。以上であります。  なお、つけ加えておきますが、法務大臣もよく聞いていただきたいのですが、この殺人犯人に対するきめ手はほとんど証人の証言でありますが、その証人がことごとく偽証であるということを申し立てています。だから、これはわが国の裁判例上珍しい事件じゃないか。ほとんど全部の証人が全部うそのことを申し立てたと言うて申し立てておることと、警察は外部侵入説をとつて捜索をしておった、九カ月もたつてから、富士茂子、つまり妻の犯行であるという認定を検事がやりまして、全部それに合せるように証人を作り上げた。及びこれは法務局からなお伺いますが、この西野清、阿部守良は、西野清は四十八日間、阿部守良は二十八日間留置されましたが、いかなる犯罪の名義で留置され、その処分はどうなつたのか、証言を得た後はもううやむやになっておるはずであります。そうして、そういう関係についてもお調べがあったと存じます。ここに実に私どもは不可解なる点があると思う。もし検事がかような証人を作り出すような、検事の頭にある抽象的な結論を描いて、それに合せるように証人を作り上げられたら、大へんなことだと思うのです。検事は人を殺人罪として絞首台に乗せる権限が発生いたします。私は奇怪千万な事件だと思います。これは新聞にも週刊雑誌にも相当やかましい問題と相なっておりますがゆえに、これに対してまず人権擁護局長の詳細なる調査の結果を伺いまして、なお法務大臣に御質問したいと存じます。
  68. 愛知国務大臣(愛知揆一)

    愛知国務大臣 最近、この事件はいろいろの意味合いにおきまして論議の対象になっておりまするので、私から一応今までの経過を概略申し上げまして、細部につきましては政府委員から説明させることにいたしたいと思います。  この西野清、阿部守良の両名に対する偽証の告訴は、昨年の十月三十一日に富士茂子から津田弁護士を代理人として高松高検に提出されたわけでございます。その告訴の事実の要旨は、西野、阿部の両名は、富士茂子にかかる殺人事件について、証人として宣誓をした上、二つの供述をしておるわけでございますが、その一つは、西野は、昭和二十九年十月二十二日徳島地方裁判所において、昭和三十二年九月三日高松高等裁判所において、富士茂子の命により、犯人が外部から侵入したごとく擬装するため、電灯線及び電話線を切断し、かつ犯行に供した刺身ぼうちようを投げ捨てたというような虚偽の証言をなし、第二に、阿部は、昭和二十九年十月二十二日、徳島地方裁判所において、また昭和三十二年七月三十日高松高等裁判所において、富士茂子の命によって篠原澄子からあいくちを持ち帰つた等虚偽の証言をなし、もって偽証した、こういう告訴事実が先ほど申しましたように昨年の十月三十一日に出たわけでございます。  その後の経過といたしましては、十月三十一日に高松高検においてこの告訴を受理した後、同庁から徳島地方検察庁に回送いたしまして、十一月四日に徳島地検においてこれを受理したわけでございます。もっとも本件の捜査につきましては、高松高等検察庁検事をして担当せしめることとし、鋭意捜査中でございますが、何分大部の記録でありますためその検討に時日を要して参りましたが、本年の一月末ごろから鋭意この取調べ等を行う予定であるという旨の報告を私としては受けておるわけでございます。  それから偽証の事実は明白であると思うがどうかというような趣旨のお尋ねがございましたが、ただいま申し上げました通り、偽証事件につきましては鋭意捜査中でございまするので、いずれ真相が判明すると思われますが、それまで私どもとしては何らかの意見を申し上げることができないのでございます。  それから次に、人権擁護局関係でお尋ねがございましたが、人権擁護局に対しましては、昨年の七月二十八日茂子の義理のおいであります渡辺倍夫から富士茂子は冤罪である、同人及び重要関係人阿部守良などに対して自白強要あるいは供述の強要があったということで、調査せられたいとの申告がございました。人権擁護局では八月中旬に係官を現地に派遣して調査をいたし、なお徳島地方法務局に指図をいたしまして、調査に当らせておるわけでございます。寃罪の申告については先ほど御指摘もございましたが、これは非常に特異な事案でございまして、この殺人事件が一審、二審とも有罪となっておりまするし、また本件上告中に被告人から上告を取り下げたために刑が確定しておるというような事情もございまするので、特に慎重調査検討中でございます。
  69. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 私が質問したことに対して、人権擁護局長の調査の概要を御報告願いたい。なお、この際申しますが、これは西野及び阿部を被告といたしまして名誉毀損並びに損害賠償の民事訴訟が提起されている。これは被告らがその事実を認めまして、判決が確定いたしておるのであります。ただこれは民事事件であります。そこで偽証の告訴をいたしましたのは、結局本人は刑が確定して服役いたしておりますが、現行法において再審の申請をいたしますには、証人が偽証罪でもって刑が確定しないといけませんので、そこで偽証罪の告訴をしておりますが、いまだに検察庁は何らの捜査を開始しておらないと聞いております。これはあとでまた大臣にお願いいたしますが、局長から私が先ほど申しまたような——これは民間じゃない、人権擁護局が国家機関としてお調べになつたんですから、相当権威あるものだと存じますが、この証人たちがどういう調べを受けたとなっておりますか、それを赤裸々に、率直にお答え願いたいと思います。
  70. 鈴木(才)政府委員(鈴木才藏)

    ○鈴木(才)政府委員 本件は非常に複雑な事件であります。今御質問の富士茂子は、内縁の夫でありますが、夫の殺人容疑で起訴され、そして一審、二審とも有罪、しかも懲役十三年ということで、非常に計画的な、悪質な犯罪のごとく認定されたのであります。その有罪認定の重要な証人となつた阿部、西野——事件当時は少年でございますが、この証言が最近うそであるということを、この証人となつた西野、阿部が申しております。今お尋ねのように、どういう理由で検察庁なりまた一審、二審の法廷においてうそを言つたか、まず検事があるいは無理な調べをしたのではないか、こういうふうな疑念が持たれるのであります。  今御指摘のように、まず阿部でございますが、阿部守良は昭和二十九年八月十日に逮捕状の請求が出ました。その容疑事実は銃砲刀剣等の所持取締り違反でありますが、八月十一日に令状が執行されまして、同年八月三十一日に刑事処分相当として家裁に送致されました。その後は九月一日から徳島の少年鑑別所に送致されておつたのであります。合計二十七日間この少年は拘置されておりました。その間における取調べというものは、結局は阿部守良が篠原という人から犯人といわれております富士茂子に頼まれて、いわゆるあいくちを持って帰つたかどうかという点の調べであります。その一点だけにつきまして、二十七日間この少年が身柄を拘束されながら調べられたのであります。この点にも少し問題があるように思うのでありますが、ただその取調べの過程におきまして、世間でいいます拷問的なことがあったかどうか、これは本人からもよく聞きますと、そのような肉体的な拷問あるいは暴行脅迫、なぐられるとかその他いろいろな拷問はなかったようであります。ただ一つの、論理的にと申しますか、つじつまの合わないところをどんどんと追及されまして、たとえば一例でありますが、阿部自身は全然篠原のところに行っていない、その篠原の家の様子も知らないのでありまして、最初は徹底的に否認をいたしておりましたが、阿部の申すのでは、私たちの調査でございますが、検事の方からあるいは検察事務官の方から、篠原の家はこういうふうにしてこう行って、そしてここにどういうものがあつてどうだ、そうだろう、そうだろうという質問で、とうとういつの間にか篠原の家の様子がすつかり頭の中に入り、そうしてだんだん、いや実は富士茂子に頼まれてあいくちをもらいにいった、そういうふうな供述になっておる、こう言っておるのであります。しかも、この阿部の逮捕あるいは勾留等の被疑事実と申しますのは、事件のありましたあの当時に刀剣を所持しておったという容疑事実でございますが、実際はただ阿部が、事件が起きまして警察官が参りましたときに、ここに短刀があるということを警官に教えただけの事実であります。その事実に基きまして、いわゆる刀剣等の所持容疑でずっと拘引、勾留をしておった。この点もやや冷静に考えますと、問題もあるようであります。ただ、今まで申しましたように、この阿部に対しては、いわゆるの拷問的なことはなかった、こういうことは認められるのであります。ただその少年に対する長期の勾留中におきまして、いろいろとそういうふうないわゆる誘導質問でございますか、本人の答えを質問の形で投げてやるといういわゆる誘導質問的なことによって一つの最後の調書ができたのである、こういうふうに阿部は述べておるのであります。  それから、なぜ法廷においてもほんとうのところを言わなかったかということでありますが、それは検事に、検察庁で申し述べたような事実を述べないと偽証でやられるというふうにおどかされた、そういうふうに言っております。何分にも当時阿部は十六でございましたが、十六、七の子供でございますので、われわれおとなが冷静に見たことではこうあるべきではないかというふうな論理では、当時の心理は解釈できないように思うのであります。ただ、現在におきましても、阿部はあくまでも検察庁において述べたこと、あるいは法廷で述べたことは全然にうそであり、自分は絶対に篠原の家から富士茂子に頼まれて短刀を持ってきてはいない。それからもう一つ阿部の証言の中には、富士茂子に頼まれまして、犯行直後、犯行に使用したと思われる刺身ぼうちようのようなものを川に投げた、証拠隠滅をはかるためでありましよう、そういうような供述もあるのでありますけれども、それも全然仮空のことである、こういうふうに述べておるのであります。われわれといたしましては、阿部の検察庁における、また一審、二審における証言がうそであり、また徳島法務局あるいはこちらから参りました人権擁護局調査官に対する答弁が真実であるかどうか、これはまだわれわれといたしましては、いずれかということをはっきりと認定しがたいのでありますが、とにかく今申しましたように、現在におきましては、阿部というものは検察庁あるいは法廷における証言はでたらめである、すなわち短刀を篠原から富士茂子に頼まれてもらつてきたという点と、犯行に使用したといわれる刺身ぼうちようを橋の上から川の中に投げ捨てた、この点も絶対うそであるということをはっきりと明言しておるのであります。  さらに西野でありますが、——失礼いたしました。今の刺身ぼうちようは阿部の件ではございません。西野でございます。訂正いたします。西野の証言の重点は、この亀三郎という人が殺されたその当時、富士茂子とその人とが格闘していたのを見た。それからまた犯行後、富士茂子に頼まれて屋上に上って電灯線あるいは電話線を切断した。それから先ほど阿部の件で申しましたが、この犯行に使用した刺身ぼうちようを徳島市内の両国橋から新町川に投げた、こういうふうな証言でありますが、これは全然うそである、自分は茂子と夫亀三郎がその事件当時格闘しているのを見たことはない、また茂子から頼まれて屋上に上って電灯線、電話線を切つたことはない、もちろん修繕したことはあるのでございますけれども、切つたことはない、それからまた、今申しましたように、富士茂子が犯行に使用したといわれる刺身ぼうちようを徳島市内の両国橋から新町川に投げ捨てたこともない、こういうふうにわれわれの調査官には申し述べておるのであります。もっともこの西野につきましては、最初私の方から調査に参りましたときには行方が知れなかったのでありますが、その後どういうものか大阪の方に所在がわかりまして、故郷の徳島に帰ってきたのであります。帰りました当時には、西野はあくまでも検察庁並びに法廷において述べた証言は正しいということを強く主張しておったのであります。そうして、この検察庁並びに法廷における証言はうそであるということを申しました阿部に対しまして、それは何かの間違いではないかということを強く主張しておったのであります。ところが徳島法務局でいろいろ調査をし、そうして同人からいろいろ聞いておりますうちに、実際は検察庁並びに法廷において述べたことは全部うそである、要するに先ほど申しましたような事実を全部否認をいたしたのであります。この西野につきましても、やはり相当長期の身柄拘禁がなされておりまして、昭和二十九年の七月の二十一日に徳島地検に逮捕されました。これはいわゆる罪名は電気及びガスに関する臨時措置に関する法律と、有線電気通信法二十一条違反の容疑で逮捕されました。それから同年の七月二十三日に勾留されまして、それが八月十一日まで延長されたのであります。それからさらに同年の八月十一日に徳島家裁に送致されまして、そうして八月十二日に徳島少年鑑別所に送致され、九月三日から保護観察に付されたのであります。この間、身柄の拘束されました期間が約四十五日であります。この間における調べも、結局は先ほど申しました、最初は西野もがんとして、電灯、電話線を切つたこと、それから富士茂子とその夫の亀三郎が格闘しているのを見たこと、あるいは富士茂子に頼まれてその刺身ぼうちようを捨てに行つたということは全然否認しておったのでありますが、この身柄拘禁後、だんだんとこの事実を認めるに至つたのであります。これなんかもやはり本人に言わせますと、そういわゆる肉体的な拷問というものもなかったようでありますが、この十七、八の子に対する取調べというものが、相当論理的な矛盾をつきつつ誘導していくような方法で、結局検事の言う通り認めざるを得なかったというふうな調査になっておるのであります。あるいはもう少し詳しく申すといいのでありますが、もし何でしたら、あとから実際にこの調査をいたしました私の方の齋藤調査課長にまたあと補足して説明していただいてもけつこうだと思うのであります。  それから阿部幸市の件であります。この阿部幸市の証言でありますが、これは大体こういうふうに法廷では述べておるのであります。この阿部幸市というのは、さっき申しました阿部守良の兄でありますが、二十八年の十二月六日ごろに守良とラジオを聞いておりますと、ちようど川口某逮捕というニュースが入つたのであります。それで、その守良は駅前からほうちようを預つてきたという話をした、また守良が釈放される朝、被告人が夫婦げんかをしていることを見たことがあると言つた、こういうふうな証言なのであります。これも相当富士茂子にとつては不利な証言のようであります。ところが、昭和三十三年の八月二十一日に徳島地方法務局の安友人権擁護課長に対する供述では、こういうふうに訂正しておるのであります。そのちようどラジオを聞いておつたとき、弟はただ犯人はだれかわからぬと言つたが、二十九年の八月十三、四日ごろ丹羽事務官から調べられ、弟が言つたので認めたと言うのであります。要するに、阿部守良がただラジオを聞いておるときには、犯人はだれかわからぬということだけを言っております。ところが、こういうふうに弟と対決させられて、弟がすでに認めておるからというので自分も認めたのだ、こういうふうに申しました。ただその後に高木判事のところで否認をいたしましたら、湯川主席検事に非常にしかられて、再び検事に調べられたのでまた認めた、それからまた裁判所に連れていかれましても、高木判事のところで今度はまた認めたのであります、その後やほり同じように法廷でも同じようなうそをついた、こういうふうに述べておるのであります。これなんかもいわゆる拷問的なこともなく、無理な取調べはなかったと私は思うのでありますが、またそのように観察されたのでありますけれども、結局弟がそういうふうに言っておるぞというので、自分も弟の言う通りだというふうに認めた、それから否定したところが検事の方からしかられたので、また同じようにもとの言を認めた、こういうふうな過程になっております。  それから石川の件でありますが、石川幸男、この人は大体このような証言を法廷でしております。これは石川幸男は元被告人方の店員であったのでありますが、昭和二十九年の四月三、四日ごろ、村の八幡祭に、いわゆるさっき申しました西野を招待いたしました。四月三日に西野がたずねてきた折に事件のことをいろいろと尋ねてみると、西野は被告人から頼まれて電線を切つたというふうなことを言い、またこういうことを自分が言つたことを他人に漏らしてはいけないと言つた、こういうふうな証言になっておるわけであります。ところが、これらの証言につきましては、こちらの調査につきましては、そのとき八幡祭のときでありましたが、西野と三枝事件についていろいろ話をしたけれども、それは先ほど申しましたような証言内容とも違いまして、その当時、川口という人が警察方面の被疑者になっておつたようでありますが、その川口というのは一体ほんとうにどういうのだろうかということをこの石川が尋ねたところ、西野は、それは違う、川口ではない、しかし誰が犯人か自分はわからない、こう言っておつた程度であります。ところが、なぜこのような証言をし、またそれと同様の検察庁の調書ができたかと申しますと、石川幸男の当局の調査官に対する答えでは、検察庁の村上検事に調べを受け、追及をされ、うそを言つた、また裁判所でもうそを言つた、こういうふうに述べておるのであります。どうしてこのようにうそを言うようになつたか、その過程につきまして、この石川につきましては、まだ十分な調査があるわけでございますが、詳しく御報告をする必要がございますれば、またあとで申し述べます。  その次は黒島テル子の件であります。この黒島テル子という人は、昭和二十九年の八月二十七日ごろ検察庁で取り調べを受けまして、テル子が悪い者になりまして、亀三郎との関係が深いものになれば茂子の罪は軽くなる、こういうふうに言われたというのでありますが、要するに黒島テル子が一つの悪い者になる。そうして亀三郎と深い関係にあるということを認めるならば、茂子の罪は軽くなる、これは茂子が嫉妬のためにやつたという動機の情状の点でありますが、そういうふうに言われたというのであります。それで非常にきびしく追及されて、やけ気味になって、亀三郎との関係が深いというように申し述べたというのであります。けれども、実際は一、二回泊つた、けれども肉体関係はなかった、出雲大社の招待旅行の計画があったことは知っておるけれども、亀三郎から誘われたことはないのだ、最近ではこのように述べておるのであります。これも必ずしも拷問的なことはないのでありますけれども、やはりあとから考えると、そういうふうに認めざるを得なくなつた、こういうふうに言うのであります。そうして現在黒島テル子は、亀三郎との関係があったなんてとんでもないと非常に憤慨をしておるのであります。  それからもう一つ重要な証人といたしまして篠原澄子というのがありますが、この篠原澄子というのは、結局一審、二審では富士茂子に頼まれて短刀を阿部に渡したという証言をしておる人であります。ところが、なぜこのような証言をしたかといいますと、当時妊娠かなんかでありまして、入院中だったのであります。それでいわゆる誘導的な質問と申しますか、こうであったろうと言われたので、その通りだと述べた、こういうふうに言っておるのであります。これもやはりそう別に拷問はございませんけれども、ただそういうふうな出産で入院中であり、病気中でありましたので、もうあまり深く追及されてもというのでそういうふうに述べた、こう言っておりました。実際三枝亀三郎とこの篠原とは全然関係がない、こういうふうに現在では述べておるのであります。  大体、西野、阿部、その兄の幸市、石川あるいは黒島、篠原、こういう人が検察庁あるいは法廷において述べたことが違うということを言つた理由でございますが、それは以上の通りであります。
  71. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 最後にあなたが説明された篠原澄子、これは阿部守良という三枝商店の店員に、三枝から短刀を貸してくれと言われて貸してやつたその証人なんでありますか。今あなたの説明では、ただ否認しているというようなことだけだけれども、篠原澄子は三枝なんという者の家も知らぬし、会つたこともないし、いわんやその番頭の阿部なんというのを全然知らない。しかるに阿部がお前のところから短刀を借りてきたと自白しているじゃないかと言って責め立てられて、病気中であるし、めんどうくさくなってそうだと言ってしまつたという事情じゃないのですか。全然知らぬと言っておる。阿部が言うたというので責められて、そういうふうに答えてしまつた。今非常に憤慨をしておるという実情を私の方は報告を受けておるのですが、あなたの方の調査はどう出ておりますか。同じ否認にしても、否認の言葉によって真実性というものが出てくるわけなんです。
  72. 鈴木(才)政府委員(鈴木才藏)

    ○鈴木(才)政府委員 各証人がどうして証言を翻したと申しますか、逆に検察庁あるいは法廷で自分の覚えもないことをどうして言つたかという理由につきましては、もう少し詳しく申し述べたらよくおわかりだと思うのであります。この点につきましては、私どもの方でも相当調査をいたしまして調書をとつております。ただいまの篠原さんの点につきましても、私が最後に少し触れましたように、自分は全然三枝とは関係がないということは、知らぬという意味でありまして、今おっしゃったような経過であります。
  73. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 それから先ほどおつしやいました石川幸男、これは元店員であつて、そして西野と知り合いであるわけです。これが一度検事に、西野はこう言っているというので認めておる。そして勾留の判事じゃないかと思うのですが、今あなたのおっしゃった高大判事の前に行って、それは知らぬ、そんな話をしたのじゃないと言っておる。そうすると、その帰りに、すぐ湯川という次席検事がつかまえて、平検事とおれは違うのだ、次席検事に対してお前は恥をかかせたというふうに言うて責め立てて、そうしてまたもう一度同じ判事のところに出頭させて、さっき言つたのは間違えましたというて訂正しておる。そういう事情について、もうちょっと説明して下さい。
  74. 鈴木(才)政府委員(鈴木才藏)

    ○鈴木(才)政府委員 阿部幸市でありますか。
  75. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 そうです。
  76. 鈴木(才)政府委員(鈴木才藏)

    ○鈴木(才)政府委員 何分にも相当膨大な記録がまだ整理されておりませんので、非常に時間を取りまして御迷惑でありますが、今の阿部幸市の件でございますけれども、私が先ほど申し述べましたよりあまり深い調査はできておりません。これは私たちだけの調査で、本人の供述を取つたのでございますけれども、あまりその点の詳しい調査はできておりません。ただ大体私の方で調査をいたしました点を、ちょっとその調書通り読んで見ますと、  昭和二十九年夏富士茂子が逮捕された日か、またはその翌日であったと思いますが、私は検察庁へ呼出され丹羽事務官から二時間程弟守良が私に事件のことを話した、と云うことについて取調べを受けましたが弟が兄さんに話をしたように思うと云つたので知らんことないだろうと、きつくきめつけられました私は始終知らん知らんと真実のことを云つていると「弟を連れてくるぞ」と云つて弟と対質されたのですがその際弟が「云つているように思う」と云うので私は実際は聞いていないのだが弟の云うとおり認めたのですすると次は湯川検事さんが出てきて湯川検事さんに連られて裁判所に行き高木判事さんと思いますが、法廷で色々の検察庁で私の認めたようなことを訊問されました。その時私はなにも弟から聞いていないと本当のことを答え、訊問が終つてから裁判所の玄関まで出てきたとき湯川検事さんは「法廷で次席検事に恥をかかした」と云つて叱り、そのまま検察庁へ連れて行かれ、今度は湯川検事さんから「弟から話を聞いたのであろうか」と再三責めたてられましたが聞いていないと真実のことを云いますと湯川検事さんは机をぶち叩き、靴で座板を踏み鳴らして「話を聞いたであろうか」と云い「云わんと帰えさんぞ、ぶち込むぞ」と脅されたので私も仕方なく検事の云うとおり認め拇印をしましたすると又裁判所へ連れて行かれ高木判事の前で右検察庁で仕方なく認めたとおりのことを申述べましたので今度はそのまま帰えしてくれました こういうふうに述べております。ただし、これはその通り真実であるかどうかは、私も保証はできませんが、この通り私の方の係官には述べておる。この調書の通りであります。
  77. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 いま一点。石川幸男の件について実際調査された方から、簡単でいいが、自白の動機をちょっと御説明願いたい。
  78. 齋藤説明員(齋藤巖)

    ○齋藤説明員 今人権擁護局長から御答弁になりましたのは、阿部幸市の関係でございますが、阿部幸市については、徳島地方法務局の安友人権擁護課長が、ただいまの調書を作成したものでございます。阿部幸市については、本人の供述書だけで、裁判所その他の調査はいたしておりません。本人の供述だけでございます。  石川幸男の件は、私が現地に参りまして、昨年の八月十二日に、本人に徳島地方法務局に来ていただきまして事情をお聞きしました。その後に九月十二日に安友課長も調査いたしております。それを総合いたしまして、先ほど人権擁護局長からお答えいたしましたように、第二審の裁判所、第六回の証言について明確に西野についての証言をいたしておるのであります。  繰り返して申しますると、昭和二十九年四月の三日ごろ、西野が石川方にたずねてきた。そのときにいろいろ事件の話が出て、一体事件はどうなつたのかというようなことから、西野は、自分は被告人から頼まれて偽証したものである、しかし、このことは絶対よそへわかつては困る、そのときそれを聞きました石川は、自分は冗談だと思った、こういうような証言をいたしておったのでありますけれども、先ほど申しましたように、私のところでは、これは全然うそを言つたんである、そのときの話は、川口という警察で逮捕した容疑者についての話し合いがあった、しかし、それについては、川口じゃないだろう、しかし自分はだれかわからぬ、そういうような話はあったけれども、しかし、西野が切断したという話はなかった、なぜそういうようなうそを言つたか、それは検察庁でいろいろ追及されてうそを言つた、さらに引き続き裁判所でもその点うそを言つた、こういうように石川幸男は述べておりました。ただ、その裏づけについて、まだ十分な調査をいたしておりませんが、一応石川幸男はそういうように申していたということを御報告いたします。
  79. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 いま一点。本件の事件については、警察は最初外部からある人間が入って刺殺したのだという想定をしておりましたが、警察がそういう想定をするについての相当の材料があったはずであります。それについて、じやこの富士茂子でなければ何人がやつたというふうに推定されるかというような事情について、人権擁護局では何かお聞きになつたことはございますか。あったとすれば、その概要をお知らせ願いたい。
  80. 齋藤説明員(齋藤巖)

    ○齋藤説明員 事件の概要は御承知のことだと思いますので省略さしていただきますが、御承知のように、本件は最初警察におきまして外部侵入者のなしたものである、こういう点から捜査して、やくざである中越明と川口算夫を容疑者として逮捕しまして、昭和二十九年の五月三日に送検いたしました。検察庁におきましては、これを嫌疑なしとして釈放いたしたのであります。犯人はもし外部侵入者であるとすれば——これは仮定の問題でございまして、どうかと思いますけれども、外部侵入者の犯行であると警察で認定いたしましたものを私ども調査しました臨検の資料といたしましたそれによれば、こういうことが考えられるわけでございます。一つは、被告人でありました茂子が、賊が工事場の裏から表の板の間のすき間を通つて表通りに出て西へ行つた姿を見た、こういう供述でございます。それからその戸が開いておつたかどうか、これはまたいろいろ争いがあるところでございますが、警察側の認定では、あいておつた、それを認める巡査は、両国橋の派出所の武内という巡査と、鑑識係の村上巡査、それから三枝皎、こういう者はこれはあいておつたということで、外部侵入説についての裏づけをいたしておるわけであります。しかし、これに対して、締つておつたと供述するものを裁判所の方で採用しておるわけでありますが、これはたくさんございますから、省略いたします。それから第三番目は、工事場の出入口の柱に人血と認められるものが一、二点付着しておった。これは実況見分調書に明らかにされております。ただ、これについて、第二審の判決では、当時混乱しておったのでいろいろな人の出入りが多かった、そういう関係から、これは外部の侵入者でなくてだれかほかの者がそこへあるいはつけたのかもしれない、このようなことで認定をしているようでございます。それからもう一つは、三枝佳子の供述でございまして、これは他の犯人を目撃しております。それから三枝茂子の供述、これらの点が、外部侵入者であったかと思われる警察側の資料になるものでございます。そういう関係から、もし外部侵入とすれば、川口あるいは中越ではないかと川口及び中越を検挙したわけでございます。さらにそれについて当時三枝方から逃走している者があったという辻及び酒井の両人の証言がございましたので、警察では今申しましたように、川口及び中越を容疑者として逮捕したということになるわけでございます。
  81. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 これはそういう名前を聞いたかどうかだけでよろしいのでございますが、あなたの調査のときに、森本義一及び岡沢ちえ子、こういう二人が、いずれも目下行方不明です。二人の名前を何人からかお聞きになつたことがあるかどうか、それをちょっとお尋ねいたします。
  82. 齋藤説明員(齋藤巖)

    ○齋藤説明員 お尋ねの方の名前は申告者の方からお聞きいたしました。現地へ行きまして他の方からも聞きました。これはいずれも伝聞でございます。
  83. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 人権擁護局としては即断はできませんでしようけれども、この森本義一、岡沢ちえ子なる者の何か調査をなされたことがありますか、ありませんか。
  84. 齋藤説明員(齋藤巖)

    ○齋藤説明員 それについては調査いたしておりません。
  85. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 それで大体わかりましたが、ちょっと法務大臣にお尋ねいたしまして終ります。もうちょっと質問したかったが、あまり時間がたちますので、皆さんに恨まれるといけませんから、これで切り上げたいと思います。  ただいま人権擁護局長の報告によりますと、この三枝亀三郎なる者を殺したのは妻富士茂子であるということの断定を下した決定的な証人は、西野清、当時十七才、阿部守良、当時十六才、この証人の証言であります。そしてこの証人の証言を裏づけるべく阿部幸市と石川幸男という者が調べられておるのでありまして、今お聞きの通り状況であります。そこで、この阿部守良ですが、これは銃砲刀剣類等所持取締法違反として逮捕されて、二十七日間勾留されている。人権擁護局長がお述べになつた通りであります。その銃砲刀剣類等所持取締法違反とは一体何であるかといったら、警察官が行つたときに、その家の中にあいくちがあった。ここにあいくちがありますといって警察官に届け出た。それが銃砲刀剣類等所持取締法違反、こういうふうにされて、そしてこの少年が二十七日間も勾留されている、こういう事情です。ある犯罪事実の証言を得るために、証人に何らかの罪名を着せて留置して調べる、これらは一体人権保護の観点から許さるべきことであるかどうか。証人ならば自由なる心証のもとに証言させなければならない。今日の刑事訴訟法においても、被告人の自白さえ、強迫せられたおそれがある場合には、これは無効になっている。いわんや証人の証言です。その証人の証言を得るために、これを逮捕して留置するということは何事でありますか。かようなことに対して、阿部守良及び西野清を、また犯罪といたしましても、逮捕しなければならない犯罪ではないのだ。一方は電線を切つたようなことでやられている。西野清は、有線電気通信法違反か何かで、電線を切つたということを勝手に検事が自白を強要しておいて、その想定のもとに彼らを逮捕した。そうして四十八日間この西野清は——今人権擁護局長の話によると四十五日間でありますが、勾留されておる。それは一体現在どうなっておるか。四十五日間も勾留し、二十七日間も勾留したこの事件は一体どうなっておるか。それは少年鑑別所の性格とも関係がありますが、少年鑑別所というのは、先ほど私が申しましたグリュックの犯罪予測法なんという科学的な捜査でなしに、体のいい少年の刑務所です。そこへ留置する一つの場所として利用されておる。彼らも少年鑑別所で留置されておる。そうしてそのねらいは、富士茂子なる女と夫たる三枝亀三郎とが格闘しておったことを見たという証言、あるいは篠原澄子という人からあいくちを借りてきたというような証言、それをさせるばかりにこれだけの長い間留置しておったということです。かようなことに対して、私は非常な人権じゆうりんの疑いがあると思う。これに対しては、法務大臣としての徹底的な御調査を願いたい。  なお、先ほど人権擁護局長の証言されましたように、阿部幸市証人に対して、検事の前でこういう話を阿部から聞いたと証言した、しかし今度は判事だということで、あれはうそであるという証言をした。そうすると、その証言が終るやいなや、これをつかまえて、おれに恥をかかせたというように、再び判事の前に出して証言させる。一体それが正しい証言じゃないと思ったら、なぜ法廷でこれに対して反問を繰り返し、その論理的矛盾をついて明らかにしないのですか。近ごろ検察官が、自己に不利な証言を法廷ですると、その人間をひそかにまた検事のところに呼び出しておいて、偽証の疑いでこれを強迫することが、日本の弁護士会連合会の昨年の人権擁護全国大会において、大きな問題の一つとして掲げられておるのであります。一体かようなことがひんぱんに行われましたら、わが国の検察行政、検察権の行使並びに裁判の真実性というものが根本的に破壊されると思うのであります。これに対する法務大臣の御所見を承わりたい。
  86. 愛知国務大臣(愛知揆一)

    愛知国務大臣 問題は二つあると思うのでありまして、この具体的な事件につきましては、冒頭で申し上げましたように、とにかく一審、二審で裁判の判決が確定され、本人が上告しておった途中においてこれを取り下げたというようなことでもありますが、同時に、ただいまいろいろとおあげになりましたようなことについても、いろいろと問題がありそうでもございますので、これらの点につきましては、ただいま猪俣委員は、大へん失礼な言い分でございますが、断定的にこうこうであるというふうにおっしゃっておるわけでございますが、それらの点については、人権擁護局といたしましても非常に異例な事案でございますだけに、慎重な上にも慎重に事態の解明に努めたいと考えるわけでございます。  それからもう一つは、一般的に、検察権がそういうふうに不当に行使されるような疑いがあるのではないかということ、もし、ただいまおあげになりましたようないろいろ一方的な行き過ぎがあると、これは私どもとしても非常に戒心をしなければならぬことであると存じます。この点は今後とも厳に留意をするようにいたしたいと思います。
  87. 猪俣委員(猪俣浩三)

    ○猪俣委員 私は法務大臣に要望しますことは、今人権擁護局長が——これは法務省の機関であります。そうして、一たん検事の前に述べたことを、判事の前で違うことを言つたら、その足で直ちに検事がまた調べ直す、かようなことが現に行われたかどうか、これを御調査願いたい。  それから黒島テル子でありますが、本人は、昭和二十九年の八月の二十六日ですか、午前十時から午後の十二時まで調べられまして、調べ室で卒倒しております。そうしてついに、自分は三枝亀三郎と特別ねんごろの関係があつて、そうして三枝との話し合いで、とにかく今の富士茂子を追い出して自分がそこに入り込むような約束があったという証言をさせられて、今泣いて憤慨をいたしておる実情であります。こういう朝の十時から午後の十二時まで連続、卒倒するまで婦人を取り調べた事実ありやいなや。人権擁護局でも、その点はあまり明白におつしやらぬのでありますが、これは検察庁それ自身で調べていただきたい。  それから現在、あなたがおっしゃるように、一審、二審が有罪になって、本人が上告を取り下げて服罪しておる。しかし本人は終始この事実を否認しておるのです。なぜ上告を取り下げたかと申しますと、先ほど申しましたように、裁判そのものに失望してしまつた。だめだという日本人特有のあきらめと、それに経費がかかって、自分のいないあとの子供たちに迷惑をかけるということで、彼女は服役しておるのですが、出たら必ずこのかたきを討つてみせると、今獄中で生活しておるという状態であります。そうして、警察の見込みと検察庁の見込みとは非常に違つておるという特異の事件、しかも、この被告らは、事件直後警察に言つたことはほんとうのことなんだ、それが九カ月もたつて、検察庁に行ってからこういうふうに曲げられてしまつたということを、全部が言っておるのです。これは非常に珍しい例だと思う。警察で相当拷問的な尋問をやつても、検事のところに行けばそれがまつすぐになるというのが普通の例であるにもかかわらず、これは逆です。その点に御留意になって、今偽証罪としてこの二人を告訴しているわけでありますから、この告訴事件が天下の大問題になっているとするならば、結論を出すのは相当かかるかもしれませんが、捜査だけは直ちに着手して——ことに明白なことで、民事事件ではすでに彼らは法廷で認めてしまつています。そうして今日、彼らはざんきにたえない態度でおるわけであります。そこで、みずから罪を着てもいたし方ないという心境にまで立ち至っている。ですから検察庁におきまして至急この事件を促進いたしまして、もし偽証であるならばそれぞれの処分をいたされまして、再審の道を開いていただくということが、今現に服役いたしております富士茂子に対する最も短かい手段ではないか。この再審の刑事訴訟法の規定についても、実はいろいろ質疑応答したいのですが、時間がありませんから、きょうはいたしませんけれども、今日はこの両名が偽証罪でもって有罪にならないと再審の道が開かれないという状態でありまして、上告中のものを女のあさはかな考えから取り下げてしまつたというところにこちらの致命的な失敗があるわけであります。事情さような次第でありますので、偽証罪の有無について、どうかあなたの方からも高松の高等検察庁を督励いたしまして、これだけ天下の問題になっておるのでありますから、早く疑惑の結末をつけるように一つ督促をしていただきたい。  これだけを要望いたしまして私の質問を終りますが、今の私の要望に対してあなたの御決意を承わりたい。
  88. 愛知国務大臣(愛知揆一)

    愛知国務大臣 御趣旨に沿うようにいたしたいと思います。
  89. 小島委員長(小島徹三)

    小島委員長 本日は、これにて散会いたします。     午後二時一分散会      ————◇—————