○柏委員 私は本日藤山
外務大臣の御出席を機会に、この
安保条約の
改正は
日本の国の
防衛の問題をいろいろに変化させるであろう、そういうことがまた国の外におけるいろいろな国にいろいろな感じを持たしておる、そういうことに対して外務当局がどういうことを考えておられるかということをお聞きいたしたいと思います。それにつきまして私は二月の末から三週間ばかり、ベトナム民主共和国に行って参りました。ベトナム民主共和国がこれについてどう考えておるかというお話を参考に申し上げることもまた何かのお役に立つと思いますので、申し上げながら質問いたしたいと思います。
私が参りましたのは、
日本人の帰国者の出迎えの件でありました。ちょうどけさ五時に九人の人が門司に入港したのでございますが、私は昨日門司に参りまして準備万端を整えてゆうべの汽車で帰って、きょうのこの
委員会に出て参ったのでございますが、けさのラジオのニュースを聞きますと、九人のうちの一人は自殺をいたしております。入港前五時間を控えて、沖縄の人ですが自殺をいたしております。こういうような悲しむべき事実が起っておりますが、私がベトナムを出る前にベトナムの平和
委員会の人が
心配されたことがほんとうに実現したような気がして、非常に胸を打たれるものがございます。と申しますのは、ベトナムは今度の引き揚げに対しまして非常にあたたかい同情を与えまして、九人の人たちには全部背広の服を仕立てて着せて、しかもパリ仕立ての仕立屋が仮縫いを二度もしたようなりっぱな服を着せて、帽子もネクタイも靴もワイシャツも全部新調してやる。それからトランクまでりっぱなものをつけて出しまして、ハイフォンで乗船させるのを船の都合でフオンケで乗船させた。そのときにベトナムの人が言いますのは、皆さんを
日本にお送りするときに、せっかく表玄関のハイフォンから出したいと思ったが、それを裏玄関のフオンケから出すことは、自分たちの気持としてはなはだ相済まないという話でございました。なるほど一応の外交辞令のように思っておりましたが、しかし乗りました船が夕張丸でございまして、石炭船で、非常に古くて、しかも船足もおそく設備も悪くて、こんな船でお帰りすると、何か途中で悪いことがなければいいがと、ほんとうにそれほどまでに
心配しておりました。その
心配がとうとう実現してしまった。船足がおそいために、あらしのために途中で沖縄に寄ったのです。その自殺をした人は沖縄の人でございまして、沖縄に寄ったときに、偶然にも兄さんに会えて、いろいろな事情も聞いたようでございますが、しかしそれから何日かまたおくれまして、そういうおくれる間にいろいろな心境の変化も起ってきたと思いますが、ともかく入港前五時間で自殺してしまった。何か悪いことがなければいいがというベトナムの人の
心配がこんなところで実現したことは、私
どもはほんとうに残念だと思います。これもまた考えますと、
日本の引き揚げに対する熱意が不十分であった。何でも船を回しさえすればいい、ボロ船でもいいじゃないかということになってしまったのじゃないかと思います。そういうことを考えましても、私は国の外におる——ベトナム民主共和国と申しますと、皆さんどなたがお考えになっても、小国であるというお考えでございましょう。しかしながら小国といえ
ども、あの人たちのあたたかい同情というものは、
日本国民はひとしく受け取るべきであると思います。ことにあの人たちは
日本に対しては非常なる好意を持っております。
日本とは戦っておりません。十年の抗戦はフランスと戦ったのでございます。そのフランスと戦って、フランスを追っ払って自分の国を作って、今
日本とほんとうに手を握ってやっていきたい。手を握ってやっていきたいがゆえに、九人の
日本人の帰国には非常なる誠意を示しておるのであります。それにもかかわりませず、私が立つときには、ベトナム賠償の問題などは当分この
国会に出そうもないということでございましたが、帰りますと同時に、様子が変って、南ベトナムの賠償の問題も、どうやら藤山
外務大臣の手で進められている。また今ベトナムで問題になっております問題は、賠償の問題ではなくして
安保条約の
改定の問題でございましたが、
安保条約の
改定の問題は今のように国の
防衛力に
関係がある、あるいは
日米共同作戦がもっと拡大するのじゃないだろうか、こういう点が非常にベトナムを刺激しておりました。しかも南のゴ・ディンジェム政権は、彼らの軍事力は強大し、
アメリカと手を握ってやっておる。この実情が北ベトナムの人たちを非常に刺激しております。
安保条約が
改定されると、
日本もその線に乗ってベトナムに対する敵視的な立場が強くなるのじゃないか、せっかくできかけた貿易の問題も、今は三月十八日に協定が切れたままになっております。こういういろいろな点から言って、人道的な立場でこの問題を考える
意味においては、藤山
外務大臣の北朝鮮への帰国に対する力の入れ方、これなどは私はほんとうに敬服しなければならない人道主義的な一つの行き方であろうと思いますが、それと同じくベトナムの人たちも
日本人の帰国に対して非常な誠意を示しております。それにかかわらず、こういう問題を通じ、
安保条約がアジアの諸民族に非常な刺激を与えておる。南ベトナムへの賠償は平和的な南と北との統一を阻害しておる、こういう事実に直面いたしまして、私は
日本のアジアに対する
政策というものが曲りかどへ来ておると思う。藤山さんあるいは岸政権が、あくまでもアジアの諸民族を敵視するような
政策をとる限り、これからの事態はなかなか容易じゃないと思います。せっかく
日本に対して好意を持っておる国家をすら、敵に回すような状態になっていくとすれば、ここら辺でいろいろな問題を考え直さなければいけない。その
意味におきまして、一体
外務大臣の手元においては、この
安保条約の
改定を通じてアジアの諸民族がどう考えておるか、そういうような情報をどの程度までお持ちであるか、またそういうようなことに対して
外務大臣はどういう御所見を持っておられるか、そういう点を承わりたいと思います。