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小沢(貞)
委員 私は
日本社会党を代表しまして、ただいま議題となりました
日本放送協会の昭和三十四
年度収支
予算、事業
計画及び資金
計画に対して反対の討論を行わんとするものであります。
反対せんとするおもなる理由は三つあります。
第一には、今度提案されました収支
予算、事業
計画及び資金
計画の中には、今まで月額六十七円であった
放送聴取料が一躍八十五円と、約三〇%の
値上げが計上されているということであります。
第二のおもなる理由は、先般われわれ社会党が言論、思想、学問等表現の自由
——この自由は憲法に保障された基本的人権でありますが、この自由を守るために身をもって反対した
放送法の改悪を、いよいよ具体的に
予算の裏づけをもって強行せんとするものにほかなりません。
第三の理由は、このたびの
値上げが
国民生活に与える階級性にあると存じます。
以下第一、第二、第二の理由について順を追うて簡単に
説明して、
委員各位の御賛成を得たいと存ずる次第であります。
まず最初に、
料金値上げについてであります。われわれもまた難聴地帯の解消、老朽設備の近代化、
番組の充実向上、報道取材網の拡充強化、
研究機関の整備、職員の待遇改善等々いずれも急を要するものと認めるにやぶさかでないのであります。しかし、これらの要求をただ安易に
料金の
値上げ、しかも大幅に三割も引き上げすることだけで行わんとすることには反対であります。NKHの総資産は約百億円と聞いておりますが、二十四
年度においては特別償却を含めて三十三
年度償却の三倍強に当る十四億円であり、三十四
年度以降五カ年
計画完遂の昭和三十七
年度までの四カ年周に特別償却二十三億円を含めて実に六十四億円の巨額であって、わずか四カ
年間に総資産の六四%を償却せんとしているわけであります。かかる償却が企業である他の民間会社、工場等に果してあるでありましょうか。
NHKが本年より急速四カ年
計画で技術のおくれ、設備の近代化を思い立たねばならない
情勢にあるとするならば、協会の経営陣の無
計画性を暴露せるものといわなければなりません。第一次五カ年
計画は昭和三十三
年度よりスタートしたのであります。
計画を立て、それを完遂するからには、それに伴う資金
計画、事業
計画があるはずであります。しかるに第一
年度である三十三
年度にその見通しを立てずして
計画を進め、第二
年度で行き詰まったというがごときは全く無
計画だったといわざるを得ません。それとも、昨年の衆議院選挙という政治的圧力に屈して、当初より
計画がそごを来たしたというならば、政治的に中立であるべき協会が一党一派の党利党略に屈したと称されても仕方がないわけであります。さらに今後の増収を
普及率の向上によって得んとする意欲が全然見当らないのであります。すなわち三十四
年度のみは
料金値上げによって、前
年度より事業
収入三十二億五千万円の増を見込んでおるのでありますが、三十五
年度以降三十七
年度までは
普及率の伸びを年々一%前後として、事業
収入の増はわずかに一億余円を見込んでおるにすぎません。年々一億円の増は、本
年度の収納
欠損額一億二千二百万円にも満たない額であります。これは協会が、
ラジオ普及に全然熱意がないか、または故意に
普及率の過小評価をし、事業
収入の増を隠蔽して
料金値上げの口実を作り出さんと
計画したものにほかなりません。そのいずれにしても協会の公共性を忘れ、独占企業の上にあぐらをかいているものといわざるを得ません。
次に
放送文化の中央集権化であります。先般の私の
質問に答えて、
会長の
答弁では、外遊の中で学んだ例を引用されて、よき地方新聞のあるところによき地方政治があると言われました。しかし、本
年度事業
計画、収支
予算に現われているものは、
教育放送、総合
放送を前
年度に比してそれぞれ二時間半と二時間増加させて、このための
予算増は実に十七億円に近いものがあるわけでございます。それにもかかわらず、ローカル
放送についての充実は具体的に何ら
計画されておらないのであります。私は民主政治の健全なる発達のためには、地方自治の
発展が基盤であるというように確信しております。新憲法もこのことのために、わざわざ一章を設けて、地方自治の
発展の健全化を願っているわけであります。しかるに最近の保守政党の
教育、文化
関係の諸施策は、この精神をじゅうりんして、ことごとく中央集権的な支配を強行せんとしているまことに憂うべき
状態であり、われわれの断じて許し得ざるところであります。たとえば最近における勤務評定、道徳
教育、社会
教育の改悪等々枚挙にいとまないほどでありますが、その中にあっても、今
国会においてわれわれの反対を押し切って本院を通過させた
放送法の改悪は、主として「公安及び善良な風俗を害さないこと。」という美名のもとに、
NHKに対し
放送の
番組編集を規制し、官僚による統制の道を開き、最も自由闊達であるべき
民間放送までもこれに準用せしめる等、言論、思想、表現の自由が著しく規制される憂いがきわめて濃厚であります。このようなときにこそ言論機関、特に
放送による批判的精神の高揚と、地方における政治、
教育、文化、産業経済、社会福祉等々多面にわたる
番組充実の強化によって、
放送文化の中央集権化と対決せねばならないわけであります。しかるに、先ほ
ども申し上げたごとく、われわれの念願とは逆に、中央による地方支配を思わせるがごとき、十七億に近い
予算増額によって、反動的政治、
教育文化の支配を策するがごときを思わせる
予算には断固として反対し、地域社会に密着した地方色豊かな
放送ができ得る具体的な
予算計上を要求せざるを得ないのであります。
最後には、このたびの
値上げのもたらす社会政策的影響についてであります。たびたび
委員会で論議せられたるごとく、いかほど巨費を投じて局の新設、増設、増力を行なって、
電波のカバレージは一〇〇%となろうとも、
放送文化の恵沢に浴し得ざる階層は、ついに救い得ざるものと思われるのであります。すなわち、最近は
普及率が逓減して、昭和三十四
年度の見通しは、三十一
年度の七十万件増加と比較して七分の一に激減さえ予想されているのであります。しかも、全
放送聴取料の一割一分に相当する十数億円の徴収費を注ぎ込んでいるにもかかわらず、収納不能による
欠損見込額一億二千余万円を計上せねばならないのが実情であります。このことは明らかに、
受信機の購入、聴取料、電気
料金の支払い能力のない階層が全
国民の一割から一割六、七分はあるということを雄弁に物語つています。すべての
国民は、健康にして文化的な生活を保障され、
放送法には「協会は、公共の福祉のために、あまねく
日本全国において受信できるように
放送を行うことを目的とする。」とうたわれています。しかるに、この事業
計画、収支
予算及び近く改訂を予定される
受信料免除基準には、この
国民的な崇高な目的を達成せんとする具体的な
予算計画の何ものをも見出すことができないのであります。これは直接
関係する
NHKの韓部はもとより、政府の態度においても全く同様であります。すなわち、
放送聴取料を
国民の所得
段階に応ずるような格差を付する意思のないこと、減免基準の拡大についても、さらに熱意のないこと、
受信機の
普及についての具体的な
措置が何らとられておらないこと等々であります。憲法や
放送法の目的とするところは、いかに貧しい階層にも
電波の恩恵を、空気や水と同じように吸い取らせるようにすることではないでしょうか。このたびの
値上げが、一律
値上げの
方針であるにもかかわらず、これらのことが全然考慮されていないのでありまして、これが反対の第三の理由であります。
何とぞ思いをこれらの階層に向けられて、この
予算事業
計画に反対し、
NHKをして組みかえ提案をせしめるよう念願いたしまして、反対討論を終りたいと存じます。(拍手)