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1959-03-26 第31回国会 衆議院 商工委員会 第36号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十四年三月二十六日(木曜日)     午前十時四十五分開議  出席委員    委員長 長谷川四郎君    理事 小川 平二君 理事 小平 久雄君    理事 中村 幸八君 理事 田中 武夫君    理事 松平 忠久君       新井 京太君    岡部 得三君       岡本  茂君    坂田 英一君       始関 伊平君    關谷 勝利君       中井 一夫君    濱田 正信君       渡邊 本治君    板川 正吾君       内海  清君    大矢 省三君       小林 正美君    鈴木  一君       堂森 芳夫君    松前 重義君  出席政府委員         法制局事務官         (長官総務室主         幹)      吉國 一郎君         通商産業政務次         官       中川 俊思君         通商産業事務官         (大臣官房長) 齋藤 正年君         特許庁長官   井上 尚一君  委員外出席者         議     員 清瀬 一郎君         通商産業事務官         (特許庁総務部         長)      伊藤 繁樹君         通商産業事務官         (総務部工業所         有権制度改正調         査審議室長)  荒玉 義人君         専  門  員 越田 清七君     ————————————— 本日の会議に付した案件  特許法案内閣提出第一〇八号)(参議院送  付)  特許法施行法案内閣提出第一〇九号)(参議  院送付)  実用新案法案内閣提出第一〇号)(参議院送  付)  実用新案法施行法案内閣提出第一一一号)(  参議院送付)  意匠法案内閣提出第一一二号)(参議院送  付)  意匠法施行法案内閣提出第一一三号)(参議  院送付)  商標法案内閣提出第一五八号)(参議院送  付)  商標法施行法案内閣提出第一五九号)(参議  院送付)  特許法等施行に伴う関係法令整理に関する  法律案内閣提出第一六〇号)(参議院送付)  特許法等の一部を改正する法律案内閣提出第  一五七号)(参議院送付)      ————◇—————
  2. 長谷川四郎

    ○長谷川委員長 これより会議を開きます。  特許法案特許法施行法案実用新案法案実用新案法施行法案意匠法案意匠法施行法案商標法案商標法施行法案特許法等施行に伴う関係法令整理に関する法律案及び特許法等の一部を改正する法律案、以上十法案を一括して議題といたします。審査を進めます。質疑の通告がありますので、順次これを許可いたします。板川正吾君。
  3. 板川正吾

    板川委員 特許庁長官お尋ねをいたしますが、先日私が質問したときに、長官答弁の中で、特許庁出願処理七年計画、すなわち四十一年度における残存未処理件数実用新案特許においては一・二年分ある。私は、これは半年くらいまでに計画を縮めるべきではないか、こういう質問をしたのでありますが、そのときに長官答弁としては、パリ同盟条約によって優先権出願主義があるから、その期間は一年間というふうに認められておるから、従ってそれを半年間というようにあまり早くするようなことになって、もし許可をしてしまうと、あとで取り返されるおそれがある。そういうことがあるから、一年以上は当然だ、とこういう答弁でございました。この残存未処理件数の一・二年というのは、この統計からいって一・二年内で処理するということではないのですか。これは一・二年分たまっておるから、今提出をすれば一・二年後に初めてその審査着手する、こういうことになるわけでありますか、従って審査期間を入れるとこれが二年というふうになるかもしれません。ですが、とにかく長官答弁では、パリ同盟条約優先権出願主義の建前からいって、これは一・二年ぐらいがよいところであって、これを半年ぐらいに縮めてしまうと弊害がある、こういう答弁がございましたが、間違いありませんか。
  4. 井上尚一

    井上政府委員 お答え申し上げます。この出願処理書き方が非常に粗漏でございまして、誤解を与えておりますことを大へん恐縮に存じますが、一・二と書いてございますのは一年二カ月というつもりでございます。三と申しますのは三カ月というつもりでございますが、きわめて不親切な書き方になっておって恐縮でございます。ただいま御質問の点につきましては、出願から審査着手までの期間ではございませんで、われわれの計画としましては、審査終了までを一年二カ月というふうに計画として考えておるわけでございますが、この計画の作り方としましては、ここに書きましたように、必ずしもその点から申しまして、正確とは言いがたいかと存じますが、われわれの計画を作りました気持目標としましては、一年二カ月で着手でなくて、審査終了までの期間として、われわれは考えておるわけでございます。
  5. 板川正吾

    板川委員 そういうことになりますか、この計画によりますと、四十一年に十六万六千九百六十九件未処理件数が残る、一年間の処理能力が十四万四千六百七十件である、従って順序をとっていきますと、一年二カ月たたないと、この月に出されたものを審査着手できないということになるのじゃないですか。
  6. 井上尚一

    井上政府委員 未処理件数と書いてございますのは、審査着手しないものだけではございませんで、審査着手しましてもまだ審査の途中である、言いかえれば審査終了には至っていない、そういう件数がこの未処理件数という中に含まれているというふうに御了解願いたいと思います。
  7. 板川正吾

    板川委員 それで一・二年分というのはわかりましたが、同じ理由意匠商標に対して三カ月で処理をする、こういう計画書が出されております。パリ同盟条約の四条の丙に「意匠ハ雛形及製造標ハ商標ニ付テハ六月トス」こういうふうに同じ優先期間でも発明及び実用新案については十二カ月、意匠商標等においては六カ月というふうに同じ条項に書かれておりますが、そうしますと論旨が一貫しないのじゃないですか。特許関係では一・二年、これは一年の優先期間があるから一年以上たたないと許可したものをあとから発明があったということで取り消されることがある。そういうことがないように一年以上はやむを得ない、こういう御説明でありますから、その議論でいきますと、意匠商標についてはその議論が成り立たない、どういうわけでしょうか。
  8. 井上尚一

    井上政府委員 きわめてごもっともな御指摘の点と存じます。商標意匠につきまして優先権主張が六カ月になっておる。すなわち六カ月の遡及的効力が認められているという点から、特許実用新案と同様に考えていいのではないか。従って三カ月、三カ月と意匠商標について審査短縮目標を三カ月に置くということは、優先権主張との関係において、どう考えるかという御質問でございますが、この点につきましては、商標の方から申しますと、商標というものの事柄の性質上、外国人が使っている商標について、日本にも登録出願をするわけでございますけれども、これは優先権主張を伴わないのが普通でございます。すなわち通常出願としまして、わざわざ優先権主張という効力を随伴させないで出願してくるのが通常でございます。そういう関係で今申されましたような御懸念の点は商標についてはございません。  それから意匠につきましては先般お配りいたしました資料をごらん願いたいと存じますが、三十三年の意匠出願件数について申しましても、全体の一%に満たないというように、外国人日本に対しましての出願は非常に数が少いわけであります。二万七千百二十四件という三十三年におきまする意匠登録出願中、外国人出願が百七十六件でございます。この点意匠につきまして今御指摘優先権主張を伴って権利がくつがえされるという結果が、意匠についてはないではないかと存じますが、それよりは大多数の意匠について審査をむしろ早くするという要請の方が、一そう強く大きいと存じますので、われわれとしましては、意匠については審査期間目標としまして三カ月ぐらいまでには、ぜひ短縮へ持って参りたいと考えておる次第でございます。
  9. 板川正吾

    板川委員 そうすると意匠商標の場合は、三カ月ないし四カ月で登録処理をしても、あとでそういう心配は起らないということですか。
  10. 井上尚一

    井上政府委員 商標については全くないと申していいかと存じます。それから意匠につきましては、従来はほとんどなかったと思いますが、今後は理論的にはあり得るかと存じますけれども、そのきわめて数少く起る場合を前提としまして、意匠審査目標を六カ月というふうにおくらせることの影響と申しますか、実害の方が大きいと考えるわけでございます。
  11. 板川正吾

    板川委員 長官にそのことでもう一ぺんはっきりお伺いしたいのですが、特許実用新案で私どうもその点がわからないのですが、十六万六千九百六十九件、そのあとにたとえば一件提出したとしますね。その年度あと翌日一件提出したといたします。そうすると処理能力が一年間に十四万四千六百七十件ですか、これは手がけてあるのももちろんあります。しかし平均して大体十四万何がししか処理能力がないのですから、そうすると審査出願自の順序によって行うということになれば、やはり手をつけるのが一年二カ月後でなければ新しい出願に対して取り上げることができないのじゃないですか、現在は取り上げておるかもしれませんが、これから新しく十六万六千九百七十件目のものは一年二カ月たたないと取り上げることができないのじゃないですか。
  12. 伊藤繁樹

    伊藤説明員 数字になりますので私から御説明さしていただきます。この統計は御承知のように特許処理は非常に手続的にある時間的な経過をもって処理されるものでございますが、この統計最終処理段階で押えておるわけでございます。従いまして実際の考え方といたしましては、その着手は常にずれて観念されておるわけでございまして、これは最終処理段階で表わしておるものでございますから、従いましてただいま板川先生の御質問のように、このあとに一件提出されたものはその翌日即座に処理される、こういうふうに観念していただきたいと思います。
  13. 板川正吾

    板川委員 もう一つお伺いしたいのですが、長官はこの間の私の質問のときに、外国審査事情について答弁されました。そしてアメリカ等先進諸国でも大体日本と大差のない審査状況をを示しており、審査期間を要しておる、こういう説明をされました。ところが特許庁が三十四年三月二日付で資料を配付されております。そのあとで私これを見たのでありますが、この資料によりますと、「特許庁職員による外国特許庁視察報告の概要」という資料の三ページに載っておりますが、各国における審査処理はわが国に比べ大幅に短縮されており、出願から審査着手までの所要期間は平均六カ月、これは英国、八カ月、米国、西ドイツ、従って出願から審査終結まで一年内外というのが最近の実情である、こういう長官報告が出ておりますが、先日の長官答弁はどういうことになりますか。大体三年ぐらいかかるのが普通だ、こう言われておったのですが、どちらがほんとうですか。
  14. 井上尚一

    井上政府委員 先日お答え申しました私の気持は、三、四年前におきましては、日本各国とも同様な悩みを持っておって、審査の停滞、遅延というものは非常に顕著であった、その当時におきましては、日本外国との間にそう大きな違いはなかったが、各国がその後審査促進計画を作りまして、着々としてその計画具体化、実現を進めて参っておりますので、われわれとしましても、今後各国並みに追いつくか、あるいは各国との開きが大きくなるかは、そういう計画の樹立と実行の問題に一にかかっているということを申し上げたつもりでございますが、あるいは私の申し上げようが不正確であったかと存じますが、今御指摘になりました点の同じページの下の方でございますが、米国におきましては、一九五六年六月末には全部で未処理件数が二十二万二千件になっており、そして当時の状況からいえば、四年四カ月分の滞貨を意味しているというようなことがあるわけでございまして、結局先ほど申しましたように、三、四年前の状態においては、各国が同じ悩みを持っておったというようなつもりで私は申し上げたわけでございますが、最近の状況は、今御指摘のように、各国とも人員増加、あるいは事務能率化資料充実、そういうようなことに非常な努力を傾注して参りました関係上、着々と審査期間短縮を見ておるというのが、最近の実情のようでございます。そういうふうに御了解願いたいと思います。
  15. 板川正吾

    板川委員 私は最近の諸外国審理状況を、今後の計画と見合せて知りたかったからお伺いしたのでありまして、三、四年前のことを聞いたんじゃない。確かにこの報告でもございましたが、ただいま申したように、米国では五人年六月末には二十二万二千件もあった。これは審査官六百十人の処理能力に対しては四年四カ月分である。それから八カ年計画で、これを短縮するように人員を大幅に増員した、予算を大幅に上げてやった結果、最近は米国においては八カ月ぐらいで、とにかく着手できるようになった、こういうふうになっておるんですね。諸外国特許行政に対して非常に積極的で未処理件数を早く解決していく、こういう状態であるときに、今度こういう特許法などの関係法を改正して、料金も倍にして、とにかく四億一千万かのもうけをして、また参議院においては画期的な処理方針計画を立てる、こういう決定を受けた後、長官としてこういう諸外国に準じた画期的な処理方針というものを持たないのは、私はどうもその積極性が疑われるのですが、どういうことで今まで通り八年も七年もたたなければ短縮できないのですか。
  16. 井上尚一

    井上政府委員 最近の英米独等状況は、今申されました通りに、審査終結まで大体一年内外と申しますか、米国について申しますれば八カ月計画でございますれば一年三カ月ないし一年四カ月くらいという程度で審査終了を見ておる、かように考えてよいかと存じます。われわれとしましては、前から、一昨年でございますが、特許行政促進措置要綱というふうな要綱も決定しまして、自来着々審査審判を通じましての促進に努めて参った次第でございますが、われわれの努力が不十分でございまして、人員増加という点につきましても、特許庁希望通り人員の確保ができなかったという点につきましては申しわけなく存じております。現在ないし今後の問題としましては、今般この法律改正機会審査審判促進計画を新規に作りまして、先刻申されましたように、今後八カ年くいの計画でもって着々事態の改善に邁進して参りたい、かような考えでございます。  なお、この計画をもう少し短期に達成するということが必要ではないかという御指摘でございますが、われわれとしましては、実際問題としまして、人員増加あるいは審査官審判官の実力の涵養向上、それから審査審判に要しまするいろいろな環境の改善資料充実整備、そういうような問題を着実に改善して参りますには、やはり各国の例に徹しましても、こういう数カ年を要する計画というものは必要であると考える次第でございまして、本年度歳出予算の面では、われわれの要求を十分達成するには遠かったということは、われわれとしてはまことに残念に考えておる次第でございますけれども、来年度以降の問題としましては、今般の料金改訂関係十分大蔵当局の方で考慮願いまして、来年度以降は人的物的の行政能力拡充強化につきまして最善の努力を尽して参りたい、かように考えておる次第でございます。
  17. 板川正吾

    板川委員 来年度以降というと、来年度からこの法案改正実施ということになりますと、法案の成立は少し延ばして、来年でもいいじゃないか、とにかく予算充実を待たないと、この計画というのは何ら進まないじゃないかと思うのです。  そこで、特許行政根本的なあり方というんですか、特許庁が通産省にくっついておるということが、どうも特許行政が積極的にならない原因じゃないかという感じが私はいたします。発明奨励に関する政府の機関というのは、科学技術庁もありますが、科学技術庁特許庁の職務の分野といいますか、行政分野は現在どういうふうになっておるのですか。
  18. 井上尚一

    井上政府委員 言うまでもなく特許庁工業所有権制度施行実施に関する事務を担当しておるわけでございます。他方科学技術庁は、一そう広範な科学技術に関する行政を総合指導する官庁として存表しておるわけでございますが、特許庁との関連面について申しますれば、発明奨励に関する事項につきましては、従来特許庁でずっとこれを工業所有権制度施行の一環としまして、発明奨励に関する事務も担当して参りましたが、科学技術庁が設けられました機会に、この発明奨励に関する事務のみを、特許庁から科学技術庁に移管をした次第でございます。そのいわゆる奨励事務、すなわち発明実施家に対しましてのいろいろの補助金の交付でございますとか、あるいは表彰の問題、紫綬褒章の授与でございますとか、そういう褒章の問題でございますが、そういうような発明奨励に関しまする事務科学技術庁でこれを担当しておるが、もちろん実質的には特許庁と非常に関係の深い面が多いわけでございますので、われわれとしまして、これに全面的に裏づけと申しますか、実質的な協力をやっておるということはもちろんでございます。
  19. 板川正吾

    板川委員 特許庁行政あり方が、発明奨励して産業発展をはかるというように重点を置くのか、発明の結果産業行政的な考慮の上からこの特許行政があるのか、要するに特許行政重点発明奨励にはなくて、産業的な配慮から置かれておるように思うのです。ですから発明分野からいえば、産業といっても通商関係ばかりでなく、運輸も土木も農林も厚生も、すべて発明関係がありまするから、どうも特許庁行政というのは、内閣の直属における科学技術庁の方へ移管してやられる方が、どうも私は特許行政のためにいいのではないかと思うのですが、これに対して長官の見解いかがですか。次官でもけっこうです。
  20. 井上尚一

    井上政府委員 工業所有権に関しましてのこの制度というものは、申すまでもなく日本では特許実用新案意匠商標と四本の構成になっているわけでございます。これは世界各国大体共通の制度でございます。このうち意匠あるいは商標というような事項につきましては、これはむしろ科学技術には関係がないわけでございます。これは産業行政通商行政に特に非常に関係が深い分野であることは言うまでもないわけでございます。この特許庁事務分量、あるいは人的構成その他いろんな点から申しまして、あるいは法制関係等から申しましても、特許実用新案意匠商標が四本立てで、四位一体として運営して参りますことは、最も適当であるわけであります。そういう意味から、これは特許実用新案意匠商標を通じまして、こういう制度に対する施行の義務は、通商産業省において担当することが最も適当である、かように考えるわけでございます。なおまた外国の例としましても、工業所有権に関する事務、言いかえれば特許庁ないし特許局というものは、ドイツが司法省に属しています以外は、英、米、仏、伊等各国全部商務省または通商産業省に属しておるという点から申しましても、特許行政施行というものが、通商産業行政と密接不可分なものであるということは明らかであろうかと考える次第でございます。
  21. 板川正吾

    板川委員 そういう特許行政あり方等については、いずれ大臣が参りましたときに、また別の角度から質問したいと思います。  そこで私は本日は法案の八十三条からなる不実施の場合の取り消しの問題、この点と独禁法の関係を一点だけお尋ねをしたいと思います。  特許法八十三条から九十一条の間で、これは従来の現行法の四十一条、四十二条関係が変っておりますが、これはどういうふうに変ったんですか、変った根本というのを長官から簡単に説明願いたいと思います。
  22. 井上尚一

    井上政府委員 現行法の四十一条、四十三条は不実施の場合における強制実施規定でございまして、本法案の八十三条との違いでございますけれども、これは従来と比べまして、手続現行法では、特許庁長官利害関係人からの請求によってその実施権を認めるということができる、かように簡単になっておるわけでございますが、今度の改正法案では、順序としましてすぐに特許庁長官の方での行政処分を行うということよりは、やはり関係当事者間の協議に待つ、すなわちある特許発明実施を見ていない、不実施であるというような場合に、この特許発明実施を希望する者が別にあるという場合には、特許庁長官許可によりまして、その権利者に対しまして通常実施権を認めてもらうように協議をするというのが第八十二条の第一項の規定でございます。そして第二段としまして、協議ができない、または成立しないという場合に初めてその特許発明実施をしようとする者が、特許庁長官裁定を求めることができるというふうに、その順序を一応当事者間の協議という段階を通した方がよろしい、かように考えまして今回これを改めたわけでございます。もちろんこの長官裁定につきましては特許発明実施審議会意見の聴取を要する。そして八十五条の第二項としまして、その特許発明実施がなされていないことについて正当な理由があるというような場合には、特許庁長官裁定することができないというふうに、両当事者間の公正な利益というものを十分慎重に考慮に加えるというような点をここに規定した次第でございます。  もう一つの問題は、第四十一条の二項及び第四十二条にもございますが、その第四十一条の二項で特許取り消しを行うという制度が従来ございましたのを、新法案ではこれをやめることにいたした次第でございます。
  23. 板川正吾

    板川委員 結局この四十一条、四十二条と今度の八十三条から九十一条の間の差というのは、従来特許権取り消しをすることができたのを取り消しをしないということが変った根本じゃ、ないですか。
  24. 井上尚一

    井上政府委員 その点と、それからもう一つ今申しました手続について詳しくしたということでございます。
  25. 板川正吾

    板川委員 工業所有権制度改正審議会答申説明書がございますが、この審議会答申では「第四十一条の実施権の許与および特許取消の権限については、審判に属せしめるべきであるという意見は従来から一部の学者によって唱えられたところである(たとえば清瀬氏)」ということから説かれて、「現行法は許与または取消にあたっての手続規定が不十分と思われるので立法の際はそれらを整備すべきこととした。たとえば、最近の他の立法例においてみられる如く処分をしようとするときは、当事者および利害関係人の出頭を求めて公開による聴聞を行い、そこにおいて証拠を提示し、意見を述べる機会を与える、」こういうように答申案では特許取り消しに対しては手続を明確にしろという提案をされておるのです。ところがその手続はなるほど幾らかしたようでありますが、大事な取り消しを削除してしまった。なぜこの特許取り消しをこの改正案では削除したのですか、その根本的な考え方、これをお伺いしたい。
  26. 井上尚一

    井上政府委員 特許権は言うまでもなく新しい発明を通していわゆる産業技術発展ひいては社会進歩に寄与貢献するその代償報酬としまして与えられる特典でございます。そういう特典でございますので、特許権というものはできるだけ尊重保護されなければならない、かように考える次第でございます。従来特許法上この特許権につきましての取り消しという制度があったわけでございますけれども、四十条等でもあるわけでございますが、こういうふうな四十条等の、かりに公益的な必要に基く場合について考えましても、特許権が生まれました趣旨というものが、ただいま申しましたように、産業技術発展社会進歩にその新しい発明を通して寄与した、その功績に対する代償報酬である、かように考えますと特許権を尊重する必要がある。ですからこういう場合におきましても特許権取り消してこれを抹殺してしまうという必要は必ずしもないのでございます。必要な向きにその強制実施というようなことを認めまして、その特許発明の内容を実現する、実施使用を認めていくということでもって、必要にしてかつ十分であろう、かように考えた次第であります。そういうわけで従来のような考え方でなく、特許権尊重という考え方、もう一つは一般の利益擁護、そういう両者の調和点としまして、強制実施という制度でもって必要にしてかつ十分である、かように考えた次第でございます。
  27. 板川正吾

    板川委員 私も発明者なり特許権者がその特許権を正当に使用することについて文句を言うわけではないのです。しかし往々にしてその特許権を乱用する、それがかえって特許権制度の科学産業発展に寄与するという根本目的に相反するという事例があると思う。そこで取り消し制度現行法は認めておると思うのです。長官はよくパリ同盟条約について引用されておりますが、このパリ同盟条約の第五条によって不実施、不使用の制裁ということが規定をされております。五条の甲の二ですが、「各同盟国ハ特許ニ依リ与ヘラレタル独占権ノ行使ヨリ生ズルコトアルベキ濫用例ヘバ不実施ヲ防止スルニ必要ナル立法的措置ヲ執ルコトヲ得ベシ」、三として「右措置ハ強制実施ノ許与ガ右ノ濫用ヲ防止スルニ充分ナラザル場合二於テノミ特許ノ失権ニ付規定スルコトヲ得ベシ」、こういうように特許の失権をしてもよろしいという乱用防止の規定を設けてあるのですが、こういう特許権取り消しについてはパリ条約同盟国ではどういう傾向ですか。その傾向はやはり特許のこういう同盟条約の条文があるにかかわらず取り消し制度を廃していくという方向ですか、その点をお伺いします。
  28. 井上尚一

    井上政府委員 非常に重要な点につきましての御指摘でございますが、昨年十月にリスボンで開催になりました工業所有権保護同盟の条約改正会議におきましても、この点は議論になった点でございまして、世界の大勢は失権を認めない、取り消し制度をやめるという考え方でございます。もう少しでこの条約のこの部分が改正になるところでございましたけれども、少数国の反対によりまして従来通りこの規定は残ることになったわけでございますが、この制度自体につきましてはただいま申しましたように、大体世界の多数といいますか、大勢としましては、特許についての取り消し制度あるいは失権制度というものはむしろ行き過ぎであって、強制実施という方法でもって必要にしてかつ十分である、そういう考え方がほとんど支配的でございました。
  29. 板川正吾

    板川委員 このパリ同盟条約第五条も失権を原則としておるのじゃないのですね。それは強制実施で、しかもそれでも乱用防止が十分でない場合には、最後の手段として失権について規定することはよろしい。そうして次の第四項で「如何ナル場合ニ於テモ強制実施ノ許与ハ特許ヲ受ケタル日ヨリ起算シテ三年ノ経過前ニ於テハ之ヲ請求スルコトヲ得ザルベク且右強制実施特許権者が正当ナル弁明ヲ為サザル場合二於テノミ之ヲ許与スルコトヲ得ベシ特許ノ失権又ハ取消ノ訴ハ最初ノ強制実施ノ許与ヨリ起算シテ二年ノ経過前ニ於テハ之ヲ提起スルコトヲ得ザルベシ」というふうにありまして、最初から取り消しを大上段に振りかぶっていけということは言っていない。そうして世界各国でこの取り消し廃止の方向にあるというのですが、最もこういう事例については保守的だというイギリスにおきましては、一九四九年の特許法の改正で取り消し制度を新たに設けたという例もあります。それからカナダにしても、あるいはフランスにしても、西ドイツにしても、取り消し制度というものが独禁法との関係の見合いにおいてあると思うのですが、日本だけ取り消しをしないのは、私は現状からいって世界的な方向ではない、こう思うのですが、この点どうですか。
  30. 井上尚一

    井上政府委員 先刻申しました通り、先般十月のリスボンにおきましての条約改正会議では四十数カ国が出席して参った次第でございますけれども、この会議を通じましてこの点につきましての論議は、ただいま私から申し上げました通り、むしろこういう不実施の場合あるいは公益上の理由の場合につきましても強制実施ということでもって必要かつ十分である、取り消しとか失権とかまでいくことはむしろ妥当でないということは、少くとも最近のそういう会議におきましての多数の空気でございます。
  31. 板川正吾

    板川委員 そういう点ではどうもこの法律改正根本的なあり方といいますか、一部ではそういう声はあるが、まだ世界がそれに踏み切っていないというときに、日本だけが率先して踏み切ってしまう、またある一面においては従来の古い形を残しておる、こういう点がどうも今度の特許法の改正は、悪く言えば精神分裂的に、一面において世界各国の傾向がこうだからその改正方向をたどる、一面において従来の古い、日本の後進国的な保護的な面を残しておる、宙ぶらりんになっておるという批判を受けるのじゃないかと思うのですが、私は根本的には特許権取り消し考え方は、この答申案説明されておるように、手続規定を強化する程度でいいんじゃないか、あってもいいんじゃないか、こう思うのです。それはどうかというと、長官も御存じと思うのですが、最近大企業ではお互いに特許課というのを置いてありまして、そうして同業者、競争業者とお互いに内容を情報し合って、おれの方でこの特許権をかかえておって君の方を刺激しないから、向うもこっちの特許権を持っておる場合は、その特許権実施しない、お互いに協定をして価格の維持なりをはかっていこう、こういう場合があるのです。要するに特許権を持っておってそれを実施しない、こういうことで独禁法違反ということをやっておる者が多いと思うのですが、そういう者に対しては、私はやはり最終的にはこれを取り消すことができる法文があった方がいいのじゃないか、こう思うのですが、これに対して長官のお考えはいかがですか。
  32. 井上尚一

    井上政府委員 二点について申し上げたいと思います。最初に申されました点につきましては、世界の大勢がそうであるから追随して日本も失権制度取り消し制度をやめたという考え方ではございませんで、われわれとしましてわが国の特許法特許制度として考えました場合に、今申しましたような理由で、特許権というものが生まれた趣旨が、社会に貢献したその報酬として認められたものである、そういう点に着目しますれば、特許権というものは、あくまで尊重、保護される必要がある、そういうことを考えつつ、一方同時にその特許発明の内容の具現実施という点については世の中の要求があるわけでございますので、その両者の要請を二つながら満たす道としましては、強制実施を命ずるということでもって、必要にして十分その目的を達成し得る、かように考えたわけでございます。そういう見解に同調すると申しますか、世界各国も同じような考え方を最近だんだんとりつつあるという点を、傾向として申し上げた次第でございます。  それから次の問題といたしましては、最近の傾向としまして、私どもは特許発明の不実施による弊害が、産業界においてそう大きくなりつつあるというふうには考えていないわけでございます。もし今後そういうような事態があったとしましても、繰り返して申しますが、この発明の内容を実現する、その発明を利用させる、希望者に使わせるということでもって十分でございますので、そういう場合にはこの新法案の八十三条の規定の活用等によりまして、これに強制実施を命ずるということでもって十分一般の利益の要求するところに沿うて参りたいと考えておる次第でございます。
  33. 板川正吾

    板川委員 私、例をあげて申し上げたいと思いますが、この例が適切であるかどうかということはわかりませんが、たとえばずっと前に協和醗酵という会社で、味の素を作る新しい方式を特許をされました。ところが協和醗酵が特許権を持ったが、これによると非常に安く味の素ができて、味の素を高く作っておる従来の味の素の会社が困るということで、特許権を譲り受けてこの特許を使わない、こういうことで、国民には高い味の素を売りつけておる。こういうこともあるのでありますが、これは一つの例であると思う。こういうことが各会社間に行われておるということは、これは特許権の目的に反するのじゃないですか。こういうような場合、特許権実施しないときには——実際は宣言的な規定かもしれないと思うのです、取り消すというようなことは万々あるはずはないのでございますから。しかしそういう場合にはやっぱり最終的には取り消し制度があっていいのじゃないかと思うのですが、この点についてお考えはいかがですか。
  34. 井上尚一

    井上政府委員 今御指摘の会社につきましては、グルタミン酸ソーダの新しい製造に関する発明の問題であろうかと存じますが、この点につきましてはその特許権をめぐりまして関係の業者間に、ただいままだ紛争が係属中でございますから、今板川委員の申されましたような事情、すなわち安くグルタミン酸ソーダが作られる新しい方法が発明されたにもかかわらず、関係業者間の話し合いによってそれが用いられないで、高いグルタミン酸ソーダが供給されておって、一般公衆の利益を害しておるというような事実は、私はまだ聞いていないのでございまして、そういった事実はないと思います。しかしながら本件に限らず、もし今後の問題としまして、そういうふうな特許発明の不実施によって、より一そう大きな利益を害するような事態が生じました場合には、繰り返しになりまして恐縮でございますけれども、われわれとしてはすぐこれを取り消すとかいうことの必要はないわけでございまして、今申しましたそういう新しい方法の発明というものは、公表されることによって、すでに技術の研究上あるいは産業の発達上、有形無形の非常な利益を与えているわけでございます。その代償としての特許権でございますので、その特許権は一応尊重しながら、と同時に一般公益を害することのないようにということで、その当該特許権について強制実施を命じていく。そして希望者、その特許発明実施しようとする者につきまして、具体的ケースについて政府の命令で強制実施を命じていくということでもって、目的は達成し得る、かようにわれわれとしては考えておる次第でございます。
  35. 板川正吾

    板川委員 改正案考え方は、先ほど長官も言いましたが、とにかく通常実施権を与えます、こういうことになる。三年以上特許権を持って実施しないときは、新たに実施しようとする者が長官許可を受けて実施権の許諾協議をするのだ、協議がととのわないときは裁定を請求をする。長官は相手方に通知をして、それに対する答弁書を特許権者に出させる。そして審議会意見を聞いて、正当の理由がないときは、これは条件を定めて裁定を下す。通常実施権者が再びその実施をしないときは、職権によって裁定を取り消すことができる。裁定を取り消すと、特許権と専用実施権は残ると思うのですが、結局もとの権利者に権原は残っておるということになりますね。そういうことで、もしこの通常実施権を受けた者が、今度は権利を持っておる者に買収をされた場合は、実際は特許権実施しないでいく、こういう例があると思うのです。そういう場合はこの改正案では権利の乱用に対する罰則ということがないのです。だからそういう場合もあるから、とにかく最終的には現行法にもあるように、特許権取り消しをやはり残しておくべきではないか。そうでないと——発明家を保護することは当然でありますが、しかし独占の上にあぐらをかいて、発明の目的を果さない乱用者に対してはそうあるべきだと思うのです。  それでもう一つ次にお伺いしたいのは、最近外国からの日本国内における特許が非常に多くなっておるということは、長官もしばしば説明された通りでありますが、外国特許権者が、たとえば自分の国で特許をとっておる。しかしこれが将来日本産業の輸出上非常に競合になる。簡単にいえばカメラならカメラに対して特殊な発明をされた。それを日本が採用すると、アメリカ市場における西ドイツのカメラと、日本のカメラが競合してどうも工合が悪いということで、たとえば西ドイツのそういう関係者が日本に来て、これまた特許をとってしかも実施をしないでおる。こういうことがあり得ると思うのです。これは西ドイツの例ですからないかと思うのですが、最近各地でアメリカの資本がそういう技術提携や何かで日本に来て、そういうようなこともあり得ると思うのです。そういう日本特許権をとっておいて実施をしないでおる。そうして自分の利益をはかる、こういうことはあり得るのでありまして、こういうものに対してやはり最終的に取り消し制度があった方がいい、こう私は思うのですが、この点はいかがですか。
  36. 井上尚一

    井上政府委員 二つの点につきまして申し上げます。第一は裁定がありた後、その強制実施権を受けた者が実施をしないというような場合は、やはり権利者というものは最初の特許権者のみに帰えるのではないか、そういった弊害が生じた場合にはどうするかという御質問であったかと存じますが、やはりこの場合におきましてはこの八十三条の規定によりましての発動というものは、これは何回でももちろんできるわけでございますから、別の業者からまた要求がありました場合には、この規定によりまして強制実施を命ずるということができるわけでございます。  それから第二の問題といたしまして、最近外国人出願が非常に多い、そういう外国人出願があって権利が認められました場合に、日本では権利だけとっておいてこれを実施しない、そういう弊害があった場合にはどうするかということでございますが、こういう場合にはこの特許技術というものを日本関係業者に使わせることが、むしろ適当であるというふうに認められました場合には、関係業者からの要求によりまして、この法律できめられております手続順序を踏んで、日本関係業者に対しまして、その外国人が持っております、不実施状態にある特許権について強制実施を命ずるということでもって、そういう弊害は防止していくということが可能であろうと考えます。
  37. 板川正吾

    板川委員 それではその点について法文上、九十条を見ていただきたいのですが、「通常実施権の設定を受けた者が適当にその特許発明実施をしないときは、」こういうことがあります。現在の法律では四十一条の二項ですか、期間が定められております。ところがこの改正案では「通常実施権の設定を受けた者が適当にその特許発明実施をしないとき」といって、期間の制限がないのですが、これは二年でも一年でも三年でもいいのですか。この点を一つお伺いします。
  38. 井上尚一

    井上政府委員 法文上期間の制限の規定はございません。しかしながらこの場合につきましても九十条の第二項にございます通り審議会意見を聴取するとか、その他同様な手続規定を準用しておるわけでございますので、具体的場合について十分慎重に検討を加えまして、この九十条の規定の運用をやって参りたいと考えておる次第でございます。
  39. 板川正吾

    板川委員 期間がはっきりしないと、あとでそれが問題になって裁判等になるとやはり工合が悪いのじゃないですか。この点は明確にしておいた方がいいんじゃないでしょうか。
  40. 井上尚一

    井上政府委員 現行法の四十二条におきましても、期間の限定はないわけでございまして、ただいま申しましたようにこういうわざわざ強制実施を要求しながら、そうして通常実施権の設定を受けました者が、なおかつ適当に特許発明実施をしないというような不都合な場合に対しまして善処する道としましては、期間の限定を設けないで、具体的な場合々々につきまして、慎重公平に十分事情を勘案して、妥当な処置をとるということの方が、むしろ適当であろうと考えた次第でございます。
  41. 板川正吾

    板川委員 八十五条で特許発現実施審議会意見を聞かなければならぬというふうに出ておりますが、この審議会に対しては百十三条から規定してありますが、この委員は産業に関し学識経験のある者のうちから長官が任命するといいますが、この産業という考え方は、業者代表ということになりますか、それとも科栄技術等の学識経験者というものはこの中に含まれませんか。この点を一つ明らかにしていただきたい。
  42. 井上尚一

    井上政府委員 これは産業と申しましても非常に広い言い方でございますので、経営者のみならず、もちろん技術関係者も包含される、かようにわれわれは考えております。
  43. 板川正吾

    板川委員 次に、独禁法との関係にいきたいのですが、独禁法の百条を削除した。これを削除した原因は、この取り消し制度がなくなったから削除したということですか。
  44. 井上尚一

    井上政府委員 さようでございます。先刻申しましたような理由で、特許法取り消しという制度をなくしたわけでございます。それでこの独禁法百条の規定では、特許法取り消し制度ということを前提としまして、この規定が設けられているものとわれわれは考えておる次第でございまして、今般特許法上の制度がなくなりましたので、この独禁法百条というものを削ることが適当であると考えた次第であります。
  45. 板川正吾

    板川委員 そうしますと、独禁法百条第一項で「裁判所は、情状により、刑の言渡と同時に、左に掲げる宣告をすることができる。但し、——「但し」以下ですれ、「但し、第一号の宣言をするのは、その特許権又は特許発明実施権が、犯人に属している場合に限る。」違反行為に供せられた特許権特許又は特許発明実施権は取り消されるべき旨」、たとえば取り消し制度がよしんばこの法案が成立したとするならば、この「但し」以下「実施権は取り消されるべき旨」と、ここまでの削除でいいのじゃないですか。それを第二号まで一緒に削除しようというのはどういうお考えですか。
  46. 吉國一郎

    吉國政府委員 独占禁止法の改正につきましては、公正取引委員会からお答えを申し上げるべきでございますが、本日参っておりませんので、私内閣法制局といたしましてお答えを申し上げます。  これは法案審議の段階におきまして、担当の部局からの説明を徴しまして、私どもといたしましては、それで十分妥当な説明になると考えた点を申し上げるわけでございますが、独占禁止法の第百条の第一項第二号の制定の由来は、独占禁止法が制定せられました昭和二十二年当時におきましては、敗戦の結果、日本の経済が非常に萎靡沈滞いたしまして、財閥解体等によりまして、大企業というようなものはほとんどないような現状でございまして、従いまして政府との契約を一定の期間停止するということ、唯一の巨大な発注者である政府との契約停止ということは、企業に対する非常に大きな制裁としての意味を持っていたということでございましたが、その後経済が復興するに従いまして、単に政府との契約を停止するというのみでは、制裁としての意味があまりないということで、第二号の規定は現在では実質上空文に帰しているという説明でございます。従いまして、第一号を特許法の改正に伴いまして取り消し制度がなくなったことに順応して削ることに伴って、空文である第二号の規定も削るというのが所管当局の考え方でございまして、法制局といたしましてもこの説明を十分に了解できると考えまして、この案によって案をかためたわけでございます。
  47. 板川正吾

    板川委員 最近諸外国でも、独禁法と特許権の上に、特許権を乱用した独禁法違反というのが非常に多いのです。そういう点で、アメリカでもどこでも特許権を乱用した独禁法違反については非常に厳罰をもって臨む、そういうふうに法規がなっておるのであります。今この第二号はあまり適用がないし、空文化している、こういう御説明でしたが、しかしこれがあるから、そういう制限規定があるから今までやらないということであって、これが空文化しておるから廃止をするというなら、なぜ独禁法の改正案の中にこれがなかったのですか。独禁法の改正案を提案したときに私見てきたのですが、これにはこの第二号削除をしてない、そういう提案はしてないのです。それをここで特許法の改正で独禁法の改正まで一緒くたに改正していこうというのはどういうお考えですか。
  48. 吉國一郎

    吉國政府委員 独占禁止法の改正につきましては、昨年第三十国会に提案されましたのでも、また今回の国会に提案されようと試みられた案にも、第百条の規定が入っておりませんことは、今おっしゃいました通りでございます。この間の関係は、おそらく公正取引委員会といたしましては、かように考えたものと存じます。独占禁止法の本法の改正の点は、最近の経済事情に即応いたしまして、共同行為の禁止を若干緩和するという方向に重点を置きまして、その当面の問題を処理する改正案として案の内容をかためたわけでございます。この百条につきましては、第百条の第一項第一号は特許法の改正に伴って削除せられる、それに伴って、第二号が実質上今ほとんど意味をなさない規定になっておるので、その第一号だけを残すという改正ももちろん考えられないことはございませんけれども、実質上ほとんど意味をなさないので第百条全体を削除するという形に相なったものと考えております。
  49. 板川正吾

    板川委員 意味がなければ独禁法の改正案のときに論議したらいいと思うのです。ところが、関係法文だけ直すならば、同じでも趣旨一貫しているのですが、関係以外まで、空文化して必要がないからこの際削除してしまえ、こういうお考えなら、たとえば今度の弁理士法なんかでも空文化している条文がありますけれども、そういう点は直さないじゃないですか。どうせ空文化している条文を直すというなら、これに関係する一切のものをそういう方針で削除をしたらいいじゃないですか。それを独禁法だけ空文化しておるのだから削除しろ、こういうことはどうしてここだけそういうふうにお考えになるのですか。
  50. 吉國一郎

    吉國政府委員 独占禁止法の改正で、なぜ百条の改正をやらなかったかという点でございますが、独占禁止法の改正で第百条を改正するためには第二号のみを削るという改正しかおそらく企図できなかっただろうと存じます。この第百条の第一号が削られることが法制上適当である、と申しますことは、今度の特許法の改正によりまして先ほど特許庁長官が申しましたごとく、特許権そのものの取り消し制度が廃止せられたということに伴いまして第百条の一項第一号が削られるわけでございます。その際に第二号のみを残す改正もできないわけではございませんけれども、第二号のみを残すことにいたしますと、第百条全体の全文改正という形になりまして、その結果としても実質上現在ほとんど法制的に意味をなさない規定を残すために第百条の全文改正をやるよりも、実質上意味がないものであれば、百条の削除ということが法制上適当であるというふうに関係行政機関の方では考えたのであります。  それからついでに先ほどの諸外国立法例のことでございますが、この独占禁止法の中に特許権取り消し制度規定しておる国は、現在の例といたしまして、わずかにカナダがあるだけでございます。独占禁止法制としては最も世界的に完備しておるといわれておりますアメリカでも特許権取り消し制度はございません。なぜそういうことになっておるかと申しますと、独占禁止法でも第七条とか第八条の二、第二十条等にございます排除措置によりまして制裁としての——制裁と申しますか、独占禁止法違反の事態をなくなすための措置は十分にとれるということが一つございますのと、むしろ問題とするならば特許権よりももっと問題にすべき権利がある、たとえば株主権の行使を通じて私的独占をはかるというような事例も十分に考えられるのでありまして、そういう制度とのつり合い上も考えて、各国とも独占禁止法の中に特許権取り消しという制度を設けていないのではないかと私どもは考えております。
  51. 板川正吾

    板川委員 諸外国の例ですが、カナダの独禁法では三十条で取り消しをすることができるようになっておりますね。ところがアメリカではないと言いますが、しかし裁判所は特許権実施許諾の命令を出して、だれでも無料でそれを利用できる、こういう裁判所による指示なり判例なりというのがあるのですよ。だから結局アメリカだってあると同じでありますが、その点はいいとして、この特許権と独占禁止法の関係ですが、国際的にはたとえば抱き合せ契約というのがありますね。イーストマン・コダックのカラー・フィルムを、フィルムは売るが、一緒に現像までおれの会社でしなければ売らない、こういうことで特許権を利用して現像まで制約してしまう。これはたとえばアメリカでは独禁法の適用によってフィルムの販売と現像とは分離された、その結果現像が今までよりも安く、中小企業者の手によって早く行われるようになった、こういうこともあります。それから包括的特許実施契約といって、特許権通常実施権者と契約する場合、この特許権のほかに関係のないものまで一緒に一つ買ってもらいたい、こういうような契約がアメリカなんかではあるそうであります。これが日本との関係がないとは私言いませんが、それから拘束条件付契約といって特許権には関係ないけれども、これは特許権を譲るから、そのかわりこういうものはおれの方の言うことを聞きなさいというようなことがあって、いずれも独禁法の違反である、こういうことをアメリカではいわれておるのです。日本の独禁法は、アメリカの独禁法の系統を引いておると私は思うのですが、それから大企業相互で先ほど申しましたようにパテントを相互に利用し合う、お互いに使用しないことを約束したり、競争しないように協定をしたりすることも独禁法の違反であるということがあって、しかもこれは国際的に行われております。それでハバナ憲章では、国際反独占条項である第五章の四十六条で、国際的な特許権の乱用によるカルテル禁止を規定しておるのです。そういうように独占禁示法と特許権の乱用というものが非常に国際的にも問題になっておると思うのです。従って私はそういうような特許法を改正するときに独占禁止法まで、これは大して関係ないからといって一緒に行きがけの駄賃に改正をしていく、こういう態度は私はどうしても納得できないのであります。この点は参議院においては阿部委員が何か質問をされて、長官のすれ違い答弁によって、ちょっと首を曲げながら、どうもおかしいと言いながら腰かけて、それを打ち切ってしまったように思うのですが、この点私としても不勉強ですからいま少し勉強して——まあ行きがけの駄賃に独禁法まで改正するというのは、どうしても納得できませんから、その点は一つ御了承願いたいと思います。  以上で一応私の本日の質問は終ります。
  52. 長谷川四郎

    ○長谷川委員長 松前重義君。
  53. 松前重義

    ○松前委員 私はあまり独禁法について詳しくないのですけれども、少ししろうと質問をしてみます。  特許の手数料の値上げをすることによって、特許出願件数があまり多過ぎるから、その粗製乱造を防いでこれを選択して、いいものだけが特許出願されるようになる。特許庁はそれだけ楽になる、こういうふうな御説明があったのでありますが、私はこの特許手数料の値上げというものによって、必ずしもそういうふうにはならないと実は思うのです。たとえば大学の教授とかあるいは研究所の研究者、あるいは研究所でなくとも個人で細々とやっている発明発見等の出願に対して、相当な重税が課せられるということになると、これは貧乏人にはなかなか出願はできない。幾らいい着想があっても、またいい研究成果が生まれても貧乏人は出願できない、こういう結果になりまして、いわゆる財閥の経営する大会社の特許とか、あるいは豊かな財政状態特許出願、こういうものはどんどん出てくる。こういうふうにいたしまして、ますます国民全体の利益を阻害して少数の人の利益を擁護する、こういう結論に追い込まれるおそれがあると思うのでありますが、これに対して一つ特許庁の見解をまず伺いたい。
  54. 井上尚一

    井上政府委員 出願手数料の値上げは、出願の抑制を目的とするものではないかというような御趣旨のお言葉があったかと存じますが、われわれとしましては、現行の出願手数料が特許につきましては千円、実用新案については六百円、意匠については四百円というような額が、今日の現状のもとにおきまして独占権としましての特許権実用新案権、意匠権等を設定すべきかどうかという前提としての国の審査を要求する手数料としましては、決してこれは妥当でない、むしろある程度引き上げることが適当である、かように考えた次第でございます。なお結果としまして今松前委員が申されましたように、出願が大企業のみに集中して、中小企業、弱小企業者に非常な圧迫を与えるというようなことは、ただいま申しましたような手数料の金額等の点から申しまして、そういったことはわれわれはないものと考えている次第でございます。
  55. 松前重義

    ○松前委員 そういう御説明は御説明として一応承わっておきます。  その次には特許弁理士の手数料、これもだんだん値上げ値上げで最近は私鉄の料金までも値上げされ、すべてのものが値上げづくめの岸内閣の方向でありますが、また特許料というものが値上げされたといたしますれば、その出願に対する特許弁理士の手数料、この値上げ等に対してはどういう見通しをつけておられるのか、伺いたいと思います。
  56. 井上尚一

    井上政府委員 弁理士の今申されました手数料につきましては、弁理士会の会則で規定するということになっておるわけでございますが、この点につきましてはわれわれとしまして不当な値上りという結果にならないように、弁理士に対しましての通商産業大臣の監督権の運用によりまして、不当な値上げを見ることはないように十分努力を今後もしたいと考えております。
  57. 松前重義

    ○松前委員 不当な値上げというのはどういうことですか。抽象的でなく具体的にもう少し明確に言っていただきたい。
  58. 井上尚一

    井上政府委員 いろいろ同種の業務に関しましての手数料等との均衡等をも考える必要があるわけでございまして、そういういろいろな同種の手数料に関する金額を検討し、そしてまた従来の値上げの傾向、現状等をいろいろ勘案しまして、弁理士の手数料につきましても妥当なところに落ちつくようにわれわれとしましては指導したいと考えております。
  59. 松前重義

    ○松前委員 弁理士の手数料の値上げという問題について、値上げをするというような意図のもとに、今発言されておるようですが、そうですが。
  60. 井上尚一

    井上政府委員 特許庁としましては、そういうことを積極的に考える気持はございません。
  61. 松前重義

    ○松前委員 特許庁は弁理士の手数料を値上げしない方向への希望を持っておられるのですか、持っておられぬのですか。
  62. 井上尚一

    井上政府委員 手数料の金額の現状から申しまして、われわれとしましてはなるべくこれ以上に値上げにならないことを希望しておるわけでございます。
  63. 松前重義

    ○松前委員 特許出願料その他と特許庁における人件費あるいはその他の行政費は、これがもし特別会計でやられるとすれば収支はどのようになりますか。
  64. 井上尚一

    井上政府委員 特許庁の収入としましては特許料、登録料及びいろいろの出願手数料、その他弁理士試験の手数料、いろいろな項目があるわけでございますが、最近の数字を申しますれば、三十一年度、三十二年度、三十三年度を通じまして大体歳入と歳出が見合っている、やや歳入の方が上回っている、そういう状況でございます。金額にして申しますれば、三十三年度の、これはまだ見込みでございますが、歳出が四億四千五百万に対しまして歳入が四億七千万ぐらい、そういう数字になっております。
  65. 松前重義

    ○松前委員 そうすると値上げになった後には増収になりますね。それはどのくらい増収になり、どういうふうに使われる目的でありますか。ただ大蔵省に吸い上げられるだけでありますか。
  66. 井上尚一

    井上政府委員 今般特許料、登録料及びその他の出願手数料等が値上げになりますれば、相当大幅に収入増加になるわけでございまして、八億五千万円ぐらいというふうに、われわれとしては一応見積っているわけでございます。もっともこの点につきましては、いろいろ今後の実際の推移を見ませんと正確な予想はつかないわけでございますが、もしそういうような数字になりますれば、歳出に対しまして歳入の方が大幅に上回ることになります。私どもとしましてはむしろこういう数字は、歳入が多いのではなくて歳出が少きに失するのである、かように考える次第でございます。各国特許局の今の出願件数あるいは予算あるいは人員、そういった点をいろいろ比較研究しますと、日本特許庁は非常に審査官審判官等の人間も出願件数との比較におきまして少いわけでございます。そういう結果、最近の審査審判の停滞というような現象を生じているわけでございまして、この点につきましてはわれわれとしましては今後審査官審判官の大幅な増員、及び特許庁としましての環境、設備の改善審査審判に必要なる資料の整備充実、そういう方向にぜひ上回りました歳入分を投入しまして、全国民の要望でございます特許庁行政改善審査審判の迅速化という目的を達成しますようにわれわれとしましては最善の努力を払いたい、かように考えている次第でございます。
  67. 松前重義

    ○松前委員 何か審査官の定員を増す、それから内容の整備をはかるという方向に持っていくという話でありますが、来年度予算について具体的にそういう計画が盛られておりますか。
  68. 井上尚一

    井上政府委員 三十四年度予算としましては、実はわれわれとしましていろいろ努力したわけでございますが、まことに残念ながら、三十四年度におきましてはただいま申しましたように、多少人員増加は認められましたけれども、われわれの希望から申しますれば、はるかにまだ低いわけでございまして、三十四年度歳出予算の問題としてこれを確保することができませんでしたことを、大へん遺憾に存じておる次第でございます。
  69. 松前重義

    ○松前委員 そうすると、八億五千万円という予算は、多少は特許庁の内容充実に還元されてくるかもしれぬが、その大部分は大蔵省にサービスするということになる。そういう値上げをやるということは、結局先ほど来私が申しましたように、必ずしも特許出願をそれによって精選するわけにいかぬ。そういう現象は起らない。同時に、値上げをしたがゆえにこれをいたずらに一般会計に吸い上げられてしまう、こういうことになる。そして内容の充実もあまり思う通りにいかぬ。こういうところに、非常に前後矛盾した姿がこの法律には現われておると私は思うのでありますが、あなたはそういうふうに感じられませんか。これは政務次官いかがです。
  70. 中川俊思

    ○中川(俊)政府委員 八億五千万円というものが入ることが確定しておれば、また大蔵省も考えてくれるだろうと思うのです。しかしこれは先ほど来特許庁長官説明しております通り予算ではございません。これくらいの収入見込みだろうという想定のもとに、八億五千万円ということを言うたんだろうと思うのです。従って三十四年度特許料値上げの結果、特許庁で計算しております通り八億五千万円という収入が確実であるということになりますれば、大蔵省も来年度は相当考えるだろうと思います。今松前さん予算だとおっしゃったが、予算ではございません。
  71. 松前重義

    ○松前委員 大体税金その他の問題についての大蔵省の予算の編成のやり方というものは、やはり見込みをもってその年の予算をきめるよりほかにないので、それで自然増とかなんとかでもって、適当にそれを見積ることによって支出の方を決定してきておるやり方なんですね。だから従来よりも収入がふえるということがほんとうに目安のついたものであるならば、当然特許庁の内容充実のためにこれを使うことが最も大事な問題じゃないか、私はこう思うのです。ですから今一ぺんやってみぬとわからぬというような、そんなことじゃないのです。予算の編成というものはそんなものじゃない。大体見込みをつけてやっておりますから、その八億五千万円の見込みがついておるならば、なぜそれを特許庁の拡充のためにお使いにならぬか、もう一ぺん一つ答えて下さい。
  72. 中川俊思

    ○中川(俊)政府委員 それはその通りです。特許料は御本知の通り槽額に値上げしましたので、私どもも大体それだけの見込みはつけておりますが、実は正直に申しますと一縷の不安を持っております。今お話の通り普通の国民所得の点がどうであるからという、その見込みとはちょっと違うのじゃないかと思うのです。あるいは先ほど来松前さんの御心配になっておるように、一挙に倍額に値上げしたために、せっかく町の優秀な発明家でありながら、特許料があまり高いので出さないというような結果になることがあるかもしれないし、かつまた今まできわめてちゃちなものを出しておる面もかなりあったと思うのですが、そういうようなものも、特許料が非常に高くなるということになりますれば、特許料が高いから出さない、こういうような現象も現われてくるんじゃないかと思うのです。従って予算編成についての見込み額が、先ほど来松前さんがおっしゃったような点と必ずしも符合しておるとは、私はこの特許料については思わないのです。しかし一応そういう見込みをこちらは立てておるのですから、それについての努力はしたんですよ。したのだが、諸般の情勢上大蔵省がこれを認めなかった。こういう点については、先ほど来長官が答えております通り、まことに遺憾であった、力の足りなかったことは認めます。
  73. 板川正吾

    板川委員 関連して。これは八億六千万ですかの見込みがある。それは料金が上ったからしないという人も幾らかあるかもしれませんが、この見込みが八億六千万が七億八千万になるというように若干の差があっても、大体これに近い数字になることは予想できると思うのです。それで来年度についてはこの案通りに出発すれば、半年も過ぎていきますれば大体見込みが立って、これははっきりします。しかしわれわれきのう参考人を呼んで聞くと、発明奨励に関する最大な国家の施策というのは審査を早くしてもらいたい、これは三年も四年もかかるのじゃなくて、とにかく審査を早くしてもらいたいというのが、国家に要望する一番大きい発明奨励の方策だ、こう強調しておるのです。これは全くだと思うんですよ。だから来年の見込みがはっきりしてから、ころがっても損しないということになってから出すというのじゃなくて、まあそれは来年も出してもらいたいのですが、当面倍になって、倍近く——あるいは一・八倍か知らぬけれども、倍近く収入がなり、歳出の方はこれはもう計算通りですから、はっきりしている。そうしますとあんまりもうけ過ぎますから、ここでこのために補正予算なんということはあり得ないと思うのですが、たとえば予備費の中から二億なり二億五千万なりを使って、一つ急速に特許行政充実をはかれ、こういうことは私はあり得てもいいのじゃないかと思うのです。そういう点、金額がはっきりしない以上は出せないのだ、こういうのでは、私はどらも特許行政に対する熱意のほどがないと、こう見るのですが、この点についてどうお考えですか。もう少し一つはっきりしてもらいたいですな。
  74. 中川俊思

    ○中川(俊)政府委員 いろいろ御心配ですが、大蔵省がそう簡単になかなか人員をふやしてくれないんですよ。大体私ども考えることは、人員をふやすこともむろん必要でございますけれども、私は昨年内閣委員会におって、各省が設置法を出してきたのを見て不愉快に思ったのですが、いたずらに役人をぞろぞろふやしてそれで実績が上るかどうかということについて、実は疑念を持っておるのです。そういうことよりか、むしろ現在の機構をフルに使って、そうして特許庁の役人もうんと勉強するということに努力をせいと、大蔵省はこういうのです。そういうような意味から、人員も要求をしただけふやしてくれなかったのです。しかし御心配の点については私どもも、特許料を上げればこれだけ収入がえふるのだから、倍にしてくれてもいいじゃないか、四億四千万円が八億何千万円になるのだから、人員を倍にふやしてくれてともいいのじゃないかということまで主張をしたのでございますが、諸般の情勢上これができなかった、同時にわれわれの力が足りなかったということでございます。
  75. 板川正吾

    板川委員 次官、一つこれは知っておいていただいた方がいいと思うから言うのですが、アメリカでもこの八カ年計画を立てる前に、審査員の面会人を制限したり、それから休日等に出務さしてやるとか、努力をさしてやりなさい、こういうことでやったんですね。しかしそれではもう実効は大して上らないのです。これではいかぬということで、職員の海外出張の報告書ですか、この中にありますが、どうしてもこれは人数をふやさなければいかぬ、人数をふやして、しかも機械設備を充実して、そのために予算もとってやつたために、四年半も残っておるのが最近は八カ月くらいまで、わずか三年間ですかでなったんです。二年何カ月ですか、三年足らずで、そういうふうに急速に未処理件数を減らしてきたのです。ですから、大蔵省がそういうことでもう少し努力をしてみろといっても、これは限界がありますよ。それじゃもうできないということを一つ理解していただいて、大蔵省にそういうハッパをかけてもらいたい。私とももあした大蔵大臣に来てもらって、そういう実情を訴えてみたいと思いますから、次官の万からも鼻っ柱の強いところで、一つやってもらいたいんですよ。これは大蔵省に負けていたんじゃしようがないですから。
  76. 松前重義

    ○松前委員 私の言わんとするところは、関連質問で、大体私より以上に専門家としておやりになったので、私は答弁には満足はいたしませんで、今の板川さんと同じ考え方を持っております。審査官が少いとか、あるいは新規設備がないとかいうことは、もうだれもが認めておるところであって、あまりにも今はひどいです。当然やらなければならぬ。八億六千万円ですか、金額は八億でなくても、少くとも六、七億はここに回すというくらいの努力はしなければならないはずだと私は思う。  そこで問題は定員の問題でありますが、人数その他のことは別といたしまして、特許庁審査官その他の定員が通産省の本省の定員に食われておる。すなわち正当に特許庁に定員が配られてない、こういう現象がかつてあったのであります。現在もあるのではないかと私は見ておりますが、これはいかがでしょう。
  77. 井上尚一

    井上政府委員 そういう現象を生じましたのは、特許庁が最近数年間増員を続けて参りましたが、そのつどきわめて少数の人間を本省からのいわゆる配置転換ということによりまして、本省の人間を特許庁の方に回すというような措置を新人の採用と同時に並行して講じたわけでございます。そういう場合には直ちに本省の方から特許庁の方へ回すということができない事情が間々ございまして、しばらく従来の業務に従事さして、そうして向うの仕事の段落がつきましたところで、特許庁の方へ回すという過渡的な現象としまして、いわゆる定員貸しと申しますか、そういう状況はあったということは事実でございますが、現在ではたしか二名程度ということに事態は改善されておるわけでございます。
  78. 松前重義

    ○松前委員 現在二名でも、これは本省が特許庁の定員を食っているというようなことで、これはやはり通産省全体として、審査の敏速化をはかるとか、内容充実とかいうのに対してやはり熱心さが足りない、誠意がない、こういうふうにも考えられるのです。政務次官はこの問題をどう考えますか。
  79. 中川俊思

    ○中川(俊)政府委員 そういうことは今初耳で私は知らなかったのですが、もしそういうことがありといたしますならば、十分調査いたしまして善処いたします。
  80. 松前重義

    ○松前委員 審査の敏速化の問題でありますが、この審査を敏速にやるのには、私は特許庁審査官をもっとふやさなければならないし、その他の施設の充実あるいは内容の充実をしなければならぬことは申すまでもありません。けれどもそれだけでもまだ足りない、この広範な科学技術進歩の現段階におきまして、これはなかなかわずかの人間で、この広い科学の世界をマスターして、その資料をしかるべくコントロールしていくというようなことは、私は困難中の困難な仕事であると思う。そこで先ほど八億六千万円か五千万円か存じませんが、そういう剰余金というか、新しいこの増収がある。その使途その他も一応頭に入れながら考えられることは、たとえばアメリカにしてもどこの国にいたしましても、フォーラムという団体が方々にできておる。日本でも原子力のフォーラム、すなわち原子力産業会議ができておるし、また電子工学に対してもできておるし、工業に対してもできておるし、あらゆるところにこのような、工業会その他があります。これらの機関は、外国においては、ほんとうに科学的に資料を整備して、そうしてその方面においては、必ずそこに行けばわかる、どんなこまかいことでも世界じゅうの情報がわかる、こういうふうになっておって、これは民間の会社その他がそれぞれ団体を作ってやっております。また政府は、科学技術庁としては、科学技術情報センターを先日来作って、そうしてまだ整備はしてないかもしれぬけれども、整備する自的のもとに着々やっておる。そこで問題はこの特許庁とこれらとの関係であります。これらの諸機関を助成して、それらの広範な科学技術の各分野にわたってこの資料の整備をはからせ、それをうまく利用してしかるべく敏速化をここに達成する、こういうようなやり方は当然今考えられなければならないものであり、特許庁自体で小さくあそこに固まっておやりになっても、人数を倍にしても大したことはない、とても敏速化はできないと思う。もう少し民間のあらゆるそういう機関も動員し、これを利用し、あるいは政府機関としての科学技術情報センターもこれをよく利用して、そうしてともに手を取り合って科学特許行政充実をはかり、また特許の敏速化をはかる、こういうような基本的な政策、この政策を実行するのには、先ほどの八億何千万円を大蔵省はむしり取られたのでは、これはできません。そういうことを言えば、私は大蔵省は承知するだろうと思う。またそうしなければならぬ事態だ。外国ではどこでもやっております。どこに行ったってそういった資料はすぐ出してくる。ちゃんとカード式になってすぐ出てきます。そういうことにはお金が要るが、これには助成金を出せばいい。私はそういう基本的な特許に関する政策というものが、現在の通産省にないから、今のような何かちぐはぐな状態にあるのではないかと思うのですが、これに対しては政務次官はどういうような考え方を持っておりますか。
  81. 中川俊思

    ○中川(俊)政府委員 非常にいい意見を聞かせていただきました。実はそういうことについても、特許庁を中心としていろいろ予算要求の際に問題にならなかったことはなかったのであります。しかし暗いまだ至らず、予期の実績を上げることができなかったことははなはだ遺憾でございますが、今松前さんのおっしゃったようなことを体しまして、今後特許行政の迅速かつ効果的な運営をはかりたいと思います。
  82. 松前重義

    ○松前委員 要は通産省に所属する特許庁として小さく固まらないで、もう少し国家の各分野にわたって目を注いで、それらの協力と、そうして何も命令権があるとかないとか、そんなことはどうでもいい、とにかく協力、これによって特許行政というものを総合的に推進していく、こういう基本的な政策をおとりになるならば、私は八億何千万円のお金は、大蔵省を承知せしめることができると思う。またあした大蔵省を呼ぶそうでありますから、その辺のことをわれわれも要望しますが、この上とも一つこれは努力されなければいけないことだと実は思うのです。  それからその次は、従来特許庁のやっておりました審査の方針ではないだろうと思うんだが、審査の傾向として、外国人が出した特許は非常に広範な範囲に特許許可されておる。ところが、日本人の出したものは根掘り葉掘りやって、そうして許可されても非常に狭い、また拒否されるのが非常に多い。言いかえると、外国人に甘くして日本人に辛い。こういう傾向は、われわれは多年の間具体的に体験してきたのであります。ですから、私どもも、今はもう予備役であまり直接はやりませんけれども、昔直接やっておったころは、アメリカその他から出てきた特許に対しては特許防衛班というものを作って、片っ端から一つ残らず異議申し立てをやつたことがある。それはめんどうですけれども、とにかくやらないと特許庁は危なくてしょうがない。それでもあまりやっかいなものですから、しかるべき専門の問題はその専門の各省にこれを分割して、すなわち特許審査官なるものを兼務せしめて、そうしてそこでもって特許庁を助けたことがあります。こういうようなことで、外国特許というものが、まるで洪水のごとくわが国を占領しようとしている。これに対して何か私は、これは再軍備の問題その他にもひっかかりますけれども、もしも防衛というものを必要とする、国を防がなければならぬというならば、こういう平和的な防衛、これこそ私は防衛しなくちゃならぬ、産業防衛をしなくちゃならないと実は思うのです。自衛隊を作るよりも、この方がよほど先だろうと思うのです。そういう意味において、何か外国特許に対する具体的な対策、すなわち、私は何も不公平に、外国特許許可するなとは言わない。公正な立場において外国特許に対処する。そして、外国特許は非常によく許可される、許可される傾向というのは、やはり外国の事情がわからぬからだと実は思うのですが、これらに対して具体的な何らかの対策をお持ちであるかどうか伺いたいと思います。
  83. 井上尚一

    井上政府委員 外国人出願について特許になる場合に、その権利の範囲が広範である、かつまた権利になる率が非常に大きい、これに対して何か防衛の方法を講じる考えはないかという趣旨の御質問であったかと存じます。これは日本人の特許出願の歩どまりと申しますか、特許になります率が、これは全般を通じまして三五%くらいでございますが、外国人出願につきましてはこの率がはるかに高いことは、事実でございます。しかしながら、これは外国人出願に対する審査が甘いということでは決してございませんので、外国人がわざわざはるばる日本出願を出してきますものは、向うでも特許になる可能性が非常に多い、言いかえれば、いい発明につきまして、いわゆるフィルターにかけましたものを日本出願してくるという結果であろうかと考える次第でございますけれども、その意味からしまして、私どもとしましては、まず、日本におけるよい出願を、今後は逆にできるだけ多く外国特許出願するように、そういうことにつきまして補助金交付その他の道を最近数年講じて参りましたが、今後一そう日本人のよい発明に関しまする特許出願外国に対する進出、外国べの出願増加ということにつきまして、できるだけ努力をいたしたいと考えております。  それからもう一つの問題でございますが、外国人出願に対しましてこれを審査する場合には、何と申しましても、公知公用であるかないか、新規性がないではないかという判断に必要なる資料が必要でございますので、その資料等につきまして、われわれとしましては、外罰の人的協力あるいは資料面の協力をぜひ必要とする、かように考えておる実情でございまして、現に特許庁としましては、特許庁審査官の技術が必ずしも十分でないと認められまする分野につきまして、大学教授、それから官立試験研究機関の関係部長というような人たちを十数名、特許庁の兼官にお願いして、御協力を願っておるということでございます。それからなお、ついでに申しますが、電子工学関係では特に外国の方からの出願が非常に多いものでございますから、これにつきましては電電公社の方の数名のエキスパートを特許庁に出向を願って、特許庁審査に協力を願っているという実情でございます。  次にもう一つは、物的画としましては、先ほど御指摘のフォーラムを活用したらどうかというような御意見、これはまことにごもっともでございまして、われわれとしましても、従来、原子力関係特許等につきましては原子力産業会議の方面、あるいは電子工学関係につきましてはその方面の協議会、エレクトロニクス協議会等々とも幾たびか話し合ったことがございますが、なお、科学技術情報センターにつきましても、先年、別宮理事長ともこういった問題につきましてお話をいたしたわけでございますが、新理事長の丹羽理事長が幸い特許庁の顧問でもございまするので、特許庁科学技術情報センターとの連絡、提携の強化ということにつきましては、御指摘通り今後一そう努力をいたしたいと考えておる次第でございます。  なおまた、特許庁審査を一応通りますと、これが公告になるわけでございますが、この場合に異議申し立てという道がございますので、関係産業界は言うまでもなく、各試験研究機関のその道、その道のエキスパートの方々に、もっと公告になりました特許発明、特に外国人からの出願の分については注意を払ってもらいまして、そうして異議申し立ての制度を利用して、できるだけこれを資料に基いてつぶすというような方向に関心を持ってもらいますことを、われわれとしては希望しておる次第でございます。そういうような問題につきましても今後われわれとしまして、関係各方面と一そう連絡を緊密にしまして、今御指摘のように、不当に外国人出願が広く認められるようなことがないように、この点につきましては条約上の内外人平等の原則の範囲内の問題としまして、できるだけそういうような方向に善処したいと考えておる次第でございます。
  84. 松前重義

    ○松前委員 いろいろ御説明もございましたけれども、これは特許庁だけでなく、従来の通産省の活動の姿を見てみますと、非常にセクショナリズムな、狭い行動範囲であったと私は見るのです。ことに特許のごときは、これは何も通産行政の別動隊ではなくて、日本全体の問題でありますので、特に広い活動計画並びにこれらの組織を通じて旺盛な活動をなすっていただいて、そうしてこの特許行政をして畏まらしめないようにやっていただかなければならぬ、こういうふうに私は思うのであります。  そこで、今私は、外国人特許に対して寛大であって、日本人に対しては非常に峻厳であった。これは外国人のは非常に精選したものというか、これだけはとりたいというのを八方から攻め立てて特許庁攻略にやってきますから、陥落するんじゃないかと思うのであります。日本全は、いいかげんな思いつきを、出してみようというような工合で出してくる、そういうような傾向もあるかと思いまするけれども、あまりにも従来外国人の出した特許の範囲が広い。大体ちょっとした着想だけでも特許になっている。それは、真空管が初めできましたときでも、とにかくあの多極真空管というものは日本では作れなかった、作ればちゃんと特許料を払わなければならぬ、そういうことは日本自体にも前からあった、あったけれども、とにかく特許庁外国特許許可された以上は、どうにもならないというようなことで非常な外貨が海外に流出しておる。現在のところ日本から外国に出て参りまする特許その他に対する外貨は、この間の政府資料によりますと、大体二百十億円くらい出ておるようです。原力を除いた科学技術の研究費が二百十億円、しかもその特許料の海外に支払うやつは年々増大の一途をたどっております。ところが科学技術の研究費というものは据え置きであります。だからして結局日本が海外に支払う外貨というものは、すなわち頭脳資源に対する代償である、まことにわれわれとしてはふがいないきわみであると実は思うのであります。これは研究の問題とひっかかって参りまするけれども、とにもかくにもこういう状態である。同時にまた日本の外貨というものが少しなりとも黒字になっているというのですね。少しずつ最近は黒字らしい。その黒字はどこからきておるかというと、そういう頭脳資源はどんどん海外から買い入れているが、あと日本の労働者の低賃金その他の犠牲においてだんだんと黒字が出てきつつある、こういうような政治は私はまことにへんぱな行き方であると実は思うのです。けれどもその辺においてとにかく特許行政というものは、経済と密接な関係を持つものであって、特に外国人特許その他に対しては重大な関心を持ってこれに対する防衛策を講じてもらう、私は何も不公平にこれを拒否せいというのではありません。資料をできるだけ整えて、そうして理由が立つならばあまり広範な特許を与えないで、そうしてできるなら日本人と同じような立場においてこれを拒否する、こういうような行き方に対して特に留意をしてもらいたいと思います。  そこでただいま外国人に対する特許出願の問題が出ましたが、今度の改正案の「原子核変換の方法により製造されるべき物質」というものは、特許のなにから除外するというようなことが書いてあるようであります。これは一体どういうことでありますか。「原子核変換の方法により製造されるべき物質」というのは、原子力関係特許がたくさん日本に出ているからそれを防ぐためにお出しになったのか、それとも何かほかに意図があって、こういう条項をお設けになったのか、伺いたいと思うのであります。
  85. 井上尚一

    井上政府委員 今の「原子核変換の方法により製造されるべき物質の発明」というものは、不特許理由に加えました。その理由につきまして御説明申し上げます前に、恐縮でございますが、先ほど私申しませんでしたので、一点だけけ加えさしていただきたいと思うのであります。  これは今度の法律改正で、海外において頒布された刊行物に記載されている事項、これを新規性で、新規の発明でないものとして特許しないということ、従来は刊行物の範囲が国内だけに限っておりましたのを、今度は海外、外国において頒布された刊行物に記載されておる事項についても、これは特許にならないというふうに改正を加えました点も、先ほど御指摘外国人出願日本であまりにやすやすと特許になることを防止するという点に非常に寄与するかと考えるのであります。この点つけ加えておきたいと存じます。  今の「原子核変換の方法により製造されるべき物質」の問題でございますが、これは現行法で化学物質については特許をしないという、いわゆる「化学方法ニ依リ製造スヘキ物質」というものは不特許理由に加えられているわけでございます。この問題につきましてはいろいろ議論の存するところでございますが、それは別といたしまして、一応今度の改正案ではとりあえず、将来の問題は別としまして今般の問題としましては、化学物質の特許について従来の方針を踏襲しまして、これを不特許理由として残したわけでございます。原子力関係につきまして、特に「原子核変換の方法により製造されるべき物質」というものが、この「化学方法により製造されるべき物質」ということに該当するかどうかという点につきましては、松前委員の方が御専門でいらっしゃるわけでありますが、「化学方法により製造されるべき物質」ということには該当しないものがいろいろあるわけでございます。そういうようなものにつきまして、もしその物質自体に関する発明について特許出願がございました場合に、現行法のもとではこれの特許を認めざるを得ないということになるわけでございます。そういう問題は、これは化学物質について特許を認めないという方針とも矛盾をするわけでございますし、またのみならず今日の原子力政策という点から申しまして、また日本の原子力産業の現段階という点から申しましても、「原子核変換の方法により製造されるべき物質の発明」について、特許を認めるということは適当でないと考えますので、今般これを不特許事由に加えたわけであります。
  86. 松前重義

    ○松前委員 大体御説明で御趣旨はわかりました。しかし「原子核変換の方法により製造されるべき物質」という、この表現ですね、この表現によってまたこれを非常に広範にも解釈できるし、非常に狭くも解釈できます。これに対しては明確な学術的な説明をいただきたいと思います。これは書いたもので一ついただきたいと思います。何となれば、この物質の概念というものが、近代物理学において根底から変っておる。だからここで「原子核変換の方法により製造されるべき物質」というものの概念が、あなた方のお考えになっておる概念であるのか、どういうことをお考えになっておるか存じませんが、とにかく今までの考え方、これによっておるのか、それとも新しい物理学の立場、この点から考えられるのであるか、その辺については学術的な定義を一つここに書いたものによって与えていただき、また御説明をそれによって願いたいと思うのでありまして、それをここに要求しておきます。よろしゅうございますね。
  87. 井上尚一

    井上政府委員 承知いたしました。
  88. 松前重義

    ○松前委員 そこで最後にお尋ねしたいのは弁理士法の改正の問題であります。私は法律を読んだ程度で詳しいことは知りませんけれども、ただ概念的に申しますと、弁護士は無試験で弁理士になれる。それで特許なるものの内容は科学技術的なものである、しかし科学技術の立場、そういう勉強をしてきた人たちは、これは無試験ではなれない。これは片手落ちじゃないでしょうか。簡単に私は申しますけれども、あなた方は私よりずっと詳しく御存じでしょうから、御説明願いたいと思います。
  89. 井上尚一

    井上政府委員 弁理士業務の遂行上、技術的な知識と同時に、法律的な知識が必要でございますことは、ただいま申されました通りでございます。この点につきまして、弁護士は当然弁理士としての資格をも認められているわけでございますけれども、実際問題としましては、技術的な補佐というものが必要な場合もあるかと存じます。もちろん弁護士の中にも技術について非常に御勉強になっているという場合が多く、また最近特許関係の事件を扱われるという弁護士がだんだん数がふえつつある現状でございますので、一がいに弁護士の方は技術的知識が不十分であるというような言い方はできないものと私は存じます。そういうような関係で弁護士が弁理士としての資格を制度上認められるということは、必要に応じましてこれを助ける補佐的な人間がこの知識を補う、補完するというような方法によりまして、十分業務の遂行が可能であろうと存ずる次第でございます。そういう考えで、今日の制度制度として、決して不適当ではない、かように考えるわけでございます。
  90. 松前重義

    ○松前委員 弁護士の方が技術者の方を使って、技術者が補佐をするからそれでいいじゃないか、こうおっしゃるなら、今度は技術の出身の人が法律家を使って、そうしてそれを補佐させてやることもやっぱり認めらるべきじゃないでしょうかというのが私の大体の質問の要旨です。逆を一つ説明して下さい。どっちが主であるか。技術が主であるか、それとも法律が主であるか。
  91. 井上尚一

    井上政府委員 弁理士になります資格といたしまして弁理士の試験があるわけでございまして、そしてその試験科目の中には、法律と同時に技術関係の項目が多数ございますので、この点におきまして、技術関係のエキスパートが、これに加えて法律を御勉強になるということによって、弁理士になり得る道は大きく開かれているものと考える次第でございます。もちろん弁理士という業務の性質上、当然工業所有権関係の法規というものは、必須科目として加えられておるということは、言うまでもない次第でございます。
  92. 松前重義

    ○松前委員 私は試験のことを言っているのじゃありません。弁護士は無試験で弁理士になり得るという、そういう恩典を無条件に与える、なぜ弁理士試験を受けさせないか、そのことを私は言っているのです。なぜ同じようにお取扱いになりませんか。やはり法科万能でいらっしゃるのですかどうですか、こういうことです。
  93. 井上尚一

    井上政府委員 従来の日本制度といたしまして、弁護士の地位というものは、かなり社会的にも高いものとして認められているわけでございまして、弁護士法、弁理士法の関連、比較という点から申しまして、弁護士は当然に弁理士に比べて、何と申しますか、能力としまして、十分当然に弁理士になる程度の資格、実力を持っているもの、そういうふうな前提で、こういう法制が設けられたものである、かように考えております。
  94. 松前重義

    ○松前委員 どうもあなたにこういう見解を開くのは無理かもしれぬ。大臣がおられるなら一番いいのだが、まあとにかくこれは片手落ちですよ。だからもう少しやっぱり公平な弁理士法を作ってもらいたいと私らは思っております。かつて大学で特許法というやつの講義を聞いた人には、無試験で特許弁理士の資格が与えられたことがありますね。ところが弁護士は、別に技術のことも何も御存じない方でも、無試験でこれがとれる。昔の方がずっとその点においてはよかった。最近はそれがなくなったらしい。詳しいことはしりませんが、なくなったらしい。私がこういうことを言う理由を申し上げれば、われわれの同僚その他が海外から引き揚げてきて何かしたい、その人は非常に優秀な工学博士であって、りっぱな人であるが弁理士にはなれない。そうして弁理士になろうとすれば、後輩の昔は青二才であった諸君が試験官でおる前でやらなくてはならぬ、こういうことになる。まことにどうもお気の毒千万なことがあります。私はそれは何とかならぬかと思って、ずいぶん努力をしてきたけれども、どうもだめだ。しかし弁護士の方はこれはもうするするとやれる。まことにこれは矛盾ではないかということを、私は具体的にこういう問題にぶつかって感じておるのです。とにかくこの技術を中心にした、特許の問題を取り扱う特許弁理士なるものの資格については私はやっぱり技術を中心にして——法律なんていうものはこれはわけがないのです。覚えておらぬでも読めば大体わかる。日本語ですから読めばわかるですよ。だからして逆ならいいけれども、どうもそれが長い法科万能の伝統の中にこういう流れを作って、技術というものを織り込んである。そこに私は特許問題の基本的な科学技術政策の問題も、あるいは特許庁の問題等があると思うのです。優秀な人が入ってこないなどとおっしゃる。これは圧迫されたらなかなか入りゃしませんよ。そういうところに私は基本的な問題があると思うのですが、そういう根本論はきょうばいたしませんが、そこの、いわゆる法律をやった人、すなわち弁護士が無試験であるならば、何ゆえに無試験をもう少し技術の方にも拡大されないか、そっちをおやめなさいとは言いませんよ。もし片方の方の技術を学んだ人間に対する優遇というか、一つの待遇を与えるならば、これは一応両方公平な取扱いになるでしょう。けれどもそれができないというなら、なぜ全部弁理士試験を受けさせないか、私はそう思う。これはどういうふうにお考えですか。
  95. 井上尚一

    井上政府委員 御意見の点はきわめてごもっともな点があるかと存じます。私どもとしましては、弁理士法の全面改正の研究を、今後至急に進めて参りたい考えでございます。ちょうどいい機会でございますので、御意見の点は十分尊重しまして、われわれとしても研究したいと思います。
  96. 松前重義

    ○松前委員 これで私は終りますけれども、御質問を申し上げた結果として手数料の値上げ、その値上げされた分の行方というものが、必ずしも特許庁に還元されないで、どうも一般会計に吸い上げられる可能性がある。これに対しての政府努力は、私は何も特許庁長官努力とはいいません、それでなく政府全体の努力が足らない。同時にまたそれゆえに審査官の定員を増すとか、あるいは内容の充実をはかることが、三十四年度においても必ずしも満足でない。これを非常に遺憾に思うのであります。  それから次は、特許事務の迅速化というものに対して民間の諸機関の動員が足りない。それからまた科学技術情報センターのような政府機関の動員もまだ足りない。この点に対する何らかの具体的な対策を講じてもらいたい。特に、日本人の特許に対しては相当な資料が集まっておるかもしれませんけれども、外国人特許に対してはなかなか資料が集まらないから、この点については特に資料あるいは図書等に対してこの充実をはかってもらって、そうして公正な特許行政を確立してもらいたい。原子核変換の問題については、変換によって生ずる物質という問題については書いたものによって定義をちょうだいしたい。大体この程度でありまして、最後に特許弁理士法の改正を近き将来にやられるということでありますから、今の片手落ちを根本から是正して、そうして同じ日本人でありながら、そうへんぱな根性をもってこういう法律を作るべきじゃないと思うのでありますから、その点を特に留意して、特許法改正案を起草してもらいたい、こういうふうに思うのであります。  私の質問を終ります。
  97. 長谷川四郎

    ○長谷川委員長 本日はこれにて散会いたします。  次会は明日午前十時理事会、十時十五分より委員会を開会いたします。     午後一時十三分散会