○
中村(英)
委員 私は
日本社会党を代表し、ただいま上程されております
政府提出の
国民年金法案、社会党
提出の
国民年金法案、
国民年金法の施行及び
国民年金と他の
年金等との調整に関する
法律案の三
法案に対し、社会党二
法案について賛成、
政府原案について反対の意思を表明し、以下その理由を
政府案、社会党案の両
制度を比較しながら申し述べんとするものであります。
まず基本的な拠出年金について申し上げますと、第一に年金額及び給付要件についてであります。年金
制度の根幹となるべき老齢年金について両案を比較してみますと、社会党案は六十才開始、年最低八万四千円、
政府案は六十五才開始、年最高四万二千円であります。具体的な例で比較してみますると、六十四才でなくなられる人の例では、社会党案ではすでに四十二万円支給を受けているのに対し、
政府案ではゼロであります。六十七才でなくなられる人の例では、社会党案では最低の場合は八万四千円の八年分すなわち六十七万二千円支給を受けているのに対しまして、
政府案は最高四万二千円の三年分すなわち十二万六千円しか受けていない。二十五年しか保険料を納め得なかった人は七万二千円、十年内しか納め得なかった人は三万六千円というきわめて貧弱な金額であります。このように支給される金額において大きな差があることを明らかにいたしております。
国民年金すなわち
社会保障の根幹である所得保障につきましては、憲法第二十五条の精神で考えらるべきことは論を待たないところでありますが、
政府案はその第一条に憲法の精神をうたいながら、その内容は似て非なるものであります。月三千五百円が健康で文化的な
生活を保障するものであるとは、国民の了解と納得を得るものではないと存じます。ましてや、二十五年しか保険料を納めない人、これに
相当する人が一番多いと推定されますが、この
人たちの場合は月二千円、
生活保護の基準と同
程度であります。しかも右の金額は四十五年後に完成するのでありまして、今でさえ話にならない金額が四十五年後の目標とは情ない次第であります。社会党案の月最低七千円ももちろん十分とはいえませんが、健康で文化的な最低限度の
生活を維持できるものと信じます。
次に開始年令の問題であります。
政府案の六十五才はおそきに過ぎるのは当然で、社会党案のごとく六十才開始にすべきであります。
政府案は
社会保障の先進国中、一部に六十五才開始の国かあることに籍口いたしまして、現在のところわが国の国民老衰時期はこれらの国の国民よりはるかに早いのでありまして、拠出年金といえ
ども過渡的なものは短時日に効力を生ずるものでありますから、当然ごの要素を入れて六十才開始が適当であるのであります。また将来はわれわれ国民の老衰時期もおそくなるでありましょうし、
制度が完成する四十年、四十五年後には諸産業のオートメーショーン化が進み、
労働力必要度が滅って参りますから、生産に従事する人は生産年令にある健康な人だけで、その他の
人たちの労働時間も短縮される状態になり、六十才以上の人は生産の第一線から退き、十分な老齢年金によってゆうゆうと老後を楽しみ、全方を文化、政治、経済、教育に注いでいただかなければならない時代になると予測されるわけでありまして、これらの
意味で社会党案のごとく六十才開始が絡対に必要であり、
政府案の六十五才は不適当であると存じます。
次に
政府のとっておりまする完全積立方式と、社会党の積立方式と賦課方式の折半方式とを比較して申しますと、先に申しましたように年金額と開始年令の両要素で両案の内容を比較すると非常に大きな差があります。また後段に申し述べます無拠出年金におきましても大きな差があるのでありまして、そうなった理由の最大のものは、わが党と
政府との
国民年金に対する熱意の差、具体的には国庫負担の差でありますが、そのほかにこれと
関連のありますのが賦課方式を取り入れるかどうかという技術的な考え方の相違であります。
政府案のように拠出年金を国庫負担分までも完全積立方式をとれば、現在生産年令にある
人々が自分たちの老後その他に対して、自分たちの力で完全に準備しようということになります。一方現在の老人、母子家庭、障害者に支給する無拠出年金は、結局現在の生産年令にある
人々が負担することになって、現在の青壮年が二重負担になるわけでございます。ここに年金給付を高めることを困難にする要因があるのでありまして、このことに思いをいたし、現在の青壮年は、われわれの親たちに親孝行をする、だからわれわれの老後に自分たちも用意はするか、子供たちにも半分は親孝行をしてもらうという考え方で、一部すなわち国庫負担分だけ賦課方式に踏み切った社会党案はまことに適切であるというべきである。(
拍手)完全稿立方式に固執する
政府案はまことに近視眼的でありまして、厚生大臣の提案趣旨
説明によりますと、賦課方式をとる将来の国民に過度の負担を負わせるからと言っておられますが、完全積立方式では現在の国民が過度の不当な負担を負うことになるわけで、将来の国民が逐次親孝行の義務を負うことはまことに当然であります。しかも現在の
生活は苦しく、四、五十年の先の
生活は楽になっているということを考えれば、
政府案は心なき案であるといわねばなりません。(
拍手)
次に拠出年金の組み立てであります。一言にしていえばわが党案は
社会保障主義に徹し、
政府案は保険主義であることであります。わが党案は何回減免を受けましても、極端の場合には全期間免除の適用を受けましても、また年金税を払えなかった人でも、血
条件で六十才で他の人と同額の年金が支給されることになっております。
政府案は四十年間保険料を完納、あるいは免除と完納だけであった場合月三千五百円、二十五年の場合月二千円、十年の場合月一千円、十年未満の場合には年金もない、三年未満しか納入しない場合には、保険料までも返してもらえず、ボーダー・ラインの人が苦心して納めた金が仕合せな人に持っていかれるという内容であります。この
部分ば、年金
制度を通じて収奪が行われているという決定的な反動性が現われております。保険料の納め方の多い人が年金が多くて、納め方の少い人が年金が少いというのでは、現在の生命保険の年金支払い条項付生存保険を国営にして、国庫負担で
幾分合理的にしたということになるだけであります。これでは
社会保険で、
社会保障ではありません。保険料あるいは年金税を支払うことが困難な
人々ほど老齢その他の所得保障を必要とする度が高いのであり、この
人々を見殺しにする
政府案は断じて社会会保障の名に値しません。
次に、保険料あるいは年金税について同様のことがいえます。わが党は一般
国民年金では、均等割、所得割、資産割の
制度をとり、労働年金では標準報酬比例の年金税を徴収しておりますので、生滅の楽な人は多く負担し、
生活の困難な人は少ししか負担しなくてもよいことになっております。一般年金税月平均一人百六十六円になるわけですが、収入資産が少い人は九十円ぐらいになる。さらにボーダ・ラインには減額
制度があり、その上免除が明確に規定されております。
政府案は一律、すなわち収入の多寡によらないのは不合理といわねばなりません。この面より見ましても、わが党案は保障に徹し、
政府案はそうでないのであります。
以上は主として老齢年金について申し上げましたか、障害あるいは遺族給付は、両案とも老齢給付を基準としておりますので、基準の金額に大きな開きがあるととは申し上げるまでもありません。金額以外の点についても、わが党案は障害、遺族で即時支給開始であるのに、
政府案には保険料納入
条件がついております。また、
政府案は障害年金を内科障害に支給しないという無慈悲な内容であります。遺族給付につきましては、社会会党案は母子、父子、孤児、寡婦、鰥夫、すべてに支給する遺族年金であるのに反し、
政府案は父子、鰥夫には支給しないで母子、孤児、寡婦のみにしか支給しない乏しい内容であるのに、それを三つの名前に分けて、さも支給する
対象が多いように宣伝されている向きのあることはまことに卑怯千万といえましょう。母子より気の毒な孤児たちに母子の四分の一
程度の支給しかしないなと、その良識を疑わざるを得ません。
次に、
労働者年金についてであります。全国民に適用さるべき
国民年金制度から
労働者を除外した
政府案はその名に値しません。これを放置しておいても、別な
制度でその適切な改善をするというならまだしもでありますが、
政府の厚生年金改正に対する態度を見ますと、国庫負担は一割五分、給付水準
国民年金の二割増
程度では、
労働者を完全に無視した態度であるといわねばなりません。社会党案のごとく
国民年金制度の中に
労働者年金を設け、その定額
部分を一般
国民年金と同額にして、
労働者はもちろん、
労働者を農漁業者、あるいは
商工業者、自由業者、無職者とも完全通算ができるようにしたことはまさに適切なものであります。無理解な
人たちは、社会党の労働年金平均額年十四万三千円だけを見て、
労働者偏重政策だという人があるようてすが、
労働者年金の国庫負担は二割であり、一般
国民年金の八万四千円に対し換算すると三一割五分でありまして、将来賃金水準が上った場合、他の国民と同様大体五割
程度と相なります。この点、国の手当において全く同様であります。年金額の平均が多いのは、生産手段を持たない
労働者には年金の必要度の高いことと、低賃金ながら確実に毎月現金収入のある
労働者は自己の負担で年金を準備しやすい状態にあることにかんがみまして、その
人たちか国庫の余分の負担ではなしに、自分たちの負担で年金をふやすことになるような親切な、しかも合理的な配慮をしたわけでございます。農漁業、
商工業と自由業者あるいは無職の
人たちまでも自分たちの負担で年金を合理的に増加できるよう
政府の手により、よい
任意年金を売り出すことによって、
労働者以外の
人たちも同様の
希望を実現できることを明らかにいたしております。
さらに、
労働者の配偶者につきましては、わが党案は一般
国民年金に強制適用するわけでございますが、
政府案は
任意適用と相なっております。現在の家庭における主婦の状態から考えますと、
任意適用では実際に入り得ない主婦の方が多いのでありまして、その場合
労働者の配偶者だけが老齢年金から実際上ほうり出されることになるわけでありまして、
国民年金としては大きな欠陥であるといわねばなりません。主婦は老齢になっても老齢年金が必要でないという考え方は、里女同権の思想に反するものであり、断じて排撃しなくてはならぬと考えております。(
拍手)
次に、国庫負担の問題であります。
政府案とそれに対応するわが党案の一般
国民年金を比較してみますと、との点で大きな差がありますので、これが内容の差のついた大きな原因であります。
政府案は保険料の五割の国庫負担といっております。わが社会党案は保険料に対して申しますと十割国庫負担になっております。社会党案は給付の五割国原負担でありまして、
政府案は給付のみに対しては三分の一、すなわち三割三分三厘余の国庫負担になるわけでありまして、この点で大きな開きがあり、社会党案が適切であり、すぐれておるわけであります。
次に無拠出年金
制度について論を進めますと、社会党案の養老、母子、身体障害三年金に対応するものは、
政府案においては老齢援護、母子援護、障害援護の三年分であります。まず
政府案の老齢援護年金の給付は月千円、七十才開始であります。社会党案は六十才開始で、六十五才より倍額であり、六十五才以後の金額は年収十八万円までの世帯の老人月二千円、それ以上は月千円でありまして。給付に非常に大きな差があります。たとえば六十九才でなくなられる老人の場合、社会党案では十八万円あるいは九万円を支給されているのに対しまして、
政府案ではゼロであります。七十二才でなくなられる老人は、社会党では二十五万二千円あるいは十二万六千円を支給されているのに対しまして、
政府案はわずかに一律三万六千円であります。しかも、老夫婦とも七十才以上の場合おのおの二割五分減額、夫婦二人で一人半分しかもらえないという削減規定までついております。この例でいかに社会党案と
政府案の開きか大きいか一目瞭然たるものがあります。所得制限は、本人所得制限は両案ともに十三万円、世帯制限は、社会党案と三十六万、
政府案五十万でありまして、そのほかに
政府案にのみ配偶者所得制限というまことに不可解きわまる
制度があります。所得保障である年金は、本人の所得がある場合に支給しないことは、無拠出年金である以上やむを得ません。また無拠出年金に
政府が支出される金額に限度のある以上、
生活の楽な人にある
程度御遠慮願うこともまたやむを得ないことでありましょう。それゆえに、社会党案も
政府案もともに採用している本人世帯の両所得制限はいたし方ないものでありますが、配偶者所得制限というものは全く根拠のないものであります。
政府が老人に対する年金を実際上支給しないために考え出した苦肉の策であります。(
拍手)このため五十万世帯までもらえると喜ばされた農家の老人は、二十万までの世帯収入でももらえないことになります。世帯所得制限三十六万円と五十万円の差、これは
国民年金制度のすべてに社会党案より劣る
政府案の中で、ただ
一つだけ
政府案の方がよいと言いたいために無理に作った選挙
対策条項であります。(
拍手)
次に母子年金についてであります。
政府案は月一千円、年一万二千円、社会党案は月三千円、年三万六千円、第二子からの多子加算は
政府案月二百円、社会党案月六百円、所得制限は基本的にいえば、
政府案十三万円、社会党案十八万円、社会党案は二十才までの子供のある母子家庭に支給するのに対し、
政府案は十六才、しかも二十五才以上の子供のある者は支給しないことになっております。さらに社会党案は、祖母が孫を、姉か弟妹を養う準母子家庭にも支給するのに対し、
政府案は、このような母子家庭以上に気の毒な家庭には一文も支給しないという冷酷むざんなものであります。(
拍手)すべての面で社会党案は妥当であり、
政府案は内容の乏しいものであります。
次に身体障害者年金、障害援護年金についてであります。
政府案は一級月千五百円、二級以下はゼロ、社会党案は一級月四千円、二級月三千円、三級月二千円、家族加給は
政府案は皆無、社会党案は配偶者及び子供全部につきます。所得制限は基本的に
政府案十三万円、社会党案十八万円であります。
政府案は二級障害以下には一文も支給しないわけでありまして、さらに内科障害の場合には、一級でも支給しないというのであります。老齢援護年金で月収四万円の楽な暮しをし、親孝行する子供の孝養を受げている老人に年金を支給し、若い身空であすをも知れぬ生命を心配し、一文の所得も得る道もなしに家族を路頭に迷わすことを心配している内科の一級障害者に一文も支給しない、このようなアンバランスな配分は全く正気のさたとはいえません。(
拍手)
さらに驚くべきことは、
生活保護を受けている
人たちの問題であります。社会党案は無拠出年金と
生活保護を完全に全額併給をすることを
法律に明記してございますか、
政府案では援護年金が
生活保護法の収入認定に入ることになっておりますので、
生活保護を受けている老人、母子家庭、障害者には
政府の援護年金はゼロということになっております。一番
生活の苦しい、そして取得能力のないこれらの
人々に対する援護年金が支給されないようでは、年金は全く
意味がないと断ぜざるを得ません。(
拍手)
政府案
審議の過程において、わか党
委員の質問に対して、総理大臣、厚生大臣より、援護年金と同額の加算をするという明言があったことによって、
政府にも
幾分の良心が残っておることを知り得たわけでございます。それがほんとうに実行されるまでは、この点に関する
政府案批判を断じてやめるわけには参りません。(指手)
無拠出年金
制度を通じて言えることは、わが党が平年度約一千二百億円の支給に踏み切り、
政府が平年度約三百億
程度しか踏み切っていないことによる給付の差であります。さらにともに大小の差はあれ、限られた財源の中での配分に関し、わが党案は必要の度の多い人に厚みをかけ、
社会保障的に配分をしているのに対し、
政府案はそれのさかさまでありまして、自民党の得票のみをねらった選挙
対策的配分をしている点であります。
以上のごとく、拠出、無拠出のすべての点において、
政府案に対しわが党案がはるかにすぐれていることは、中央、地方の公聴会における公述によっても明らかであります。このすぐれた社会党案に対するごくわずかな批判は、実行が可能であろうかとの一部の人の
意見のみであります。私
ども社会党は、わが党案の実行に確信を持っております。初年度は半年分で六百六億円で、この財源はわが党のかねての主張である租税特別措置法の特例、減免税の改廃によって容易にできるわけであります。特別措置法のうち、農家の早場米供出、青色申告に対する特免、保険医の診療車価が安いことの代償としての特免など、大衆に対するものはそのまま存置いたしまして、資本蓄積の特別減免税を取りやめれば直ちに七百億の財源ができるわけであります。第二年度は自然増で数百億の新しい財源ができて千二百億は容易に支出できます。その後は経済拡大によって財政が膨張し、社会党の賦課方式による国庫負担がだんだんと増しても一向心配かないことは、社会党案が本
会議に上程された際、
政府の企画庁長官が明らかに認めたところでありまして、本
委員会の
審議の過程においても明らかに立証れたところであります。(
拍手)このように支出可能な見通しがあるのに、国庫支出をしない、
国民年金の名に値しない貧弱かつ不合理な
国民年金法案を
政府が出してきましたのは、真によき
国民年金を作ろうとの意図でなく、ほうはいたる世論に押されて、ただ表面を糊塗するだけのごまかしの態度であると断言してもあえて過言ではあるまいと思います。(
拍手)
最後に四条についてでありますが、
国民年金制度は将来における長期的給付であり、それは
政府の長期経済計画に見合ったものでなくてはならないのに、本
政府案はみずから立案した経済計画とは全く遊離したものであります。すなわち経済企画庁の計画では、経済成長率は
昭和三十一年より
昭和四十年までを年平均六・五%とし、消費、支出額の上昇を六・三%、国民一人当りの消費水準の上昇を五・五%と見ているのであり、さらに
昭和四十一年より
昭和五十年までを年平均四・五%の経済成長率を見ているのであります。
国民年金の額は一般国民
生活水準の上昇に見合うものでなければなりません。しかるに
政府案は拠出後四十五年の完成時、すなわち
昭和八十年においてやっと員千五百円と、年金額はわが国の
生活水準の上昇をわずか一%しか見ていないという結果になり、いかに経済が成長しても
社会保障政策は並行していかないという
政府の政策を端的に表現したものといわなければなりません。(
拍手)ことにインフレの問題、米国の
平価切り下げの問題、戦前戦後の
貨幣価値の
変動でひどい目にあっているだけに、この点については国民の協力が十分得られるかどうかはなはだ疑問であります。
以上申し上げましたような理由で、私は憲法第二十五条の精神を実現する豊富な内容を持ち、
制度のすみずみまで
社会保障的にりっぱに作り上げられている社会党案、しかし実行可能な社会党両案に対し全面的に賛成の意を表し、
国民年金という名に値しない貧弱な内容と、
社会保険的な、あるいは選挙年金ともいうべき不合理な組み立てをしている
政府案に反対の意を表明し、討論を終る次第でございます。(
拍手)